真夏の夜はハンター達だけのもの

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2016/08/30 09:00
完成日
2016/09/12 20:21

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ウィクトーリア家が所有するプライベートビーチの近くにある貸別荘の大広間で、ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)はとある書類を見て喜びから震えていた。
「やったわ! この別荘の近くで花火大会が行われることが決定したわよ!」
「良かったですね。ルサリィお嬢様」
 メイドのフェイト・アルテミス(kz0134)も、笑顔でパチパチと手を叩く。

 ――というのも、昨年よりこの地域では、ウィクトーリア家のような貴族や資産家達が次々と別荘を建てるようになった。
 舗道が作られたことにより交通量が増えたおかげで、建物が続々と増えているのだ。
 ところが避暑地と言うには、まだいろいろと足りないものが多い。周囲を山に囲まれており、海があるのは良いのだが、店や季節のイベントなどがほとんど無い為、若い人々にはあまりウケがよろしくない。
 その為、ルサリィはこの地域に店を作ったり、イベントを起こそうと考えた。
 その一つに、夏に行われる花火大会があったのだ。
 この地域に住む人々を説得して、何とか行えることになった。

「でも今年は花火だけなのよね。お祭りみたいに出店も出したかったんだけど、ちょっとそこまで手が回らなかったわ」
「充分ではありませんか? 別荘やコテージに泊まりに来ている方は、静かな中でゆっくりと見られますし」
 それにプライベートビーチからも、花火はよく見えるだろう。
「来年はお祭りを行えるように、努力するわ。さて、別荘とコテージに泊りがてら、花火大会を見られる人達に声をかけに行きましょう」
「はい」

リプレイ本文

 露天風呂に入った後、キャミソールとホットパンツ姿になった黒の夢(ka0187)はコテージのベランダに移動する。
「お風呂上がりに飲む冷やしアメは美味しいのな♪ ……でもどこからか人の気配がするのなー。もうすぐ打ち上げ花火がはじまることだし、そっちに視線が向くといいんだけど……」
 そして、打ち上げ花火が夜空に咲く。
「おおっ! 綺麗なの……」
「あのっ、魔女様! わたし、ペケッテ・テトラ(ka6440)を弟子にしてください!」
「……ほえ?」
 突然、木の影からペケッテが出てきてベランダの階段を上り、黒の夢の正面に立って深々と頭を下げる。
 ようやく視線の主を見ることができた黒の夢は、しゃがみ込んで視線を合わす。
「随分と可愛らしい魔女さんなのな♪ 確かに魔女をしていたこともあるけれど、でも今の我輩は魔術師なの」
「存じています! わたし、『【闘祭】ポートレイト・黒の夢』を持っていまして、ずっと話しかけようと思っていました!」
 ペケッテが自慢げにポートレイトを見せると、黒の夢の表情が少しだけ強張る。
(我輩の知らぬところで顔が売れているのな……)
「本当は魔女らしくスマートに話しかけようとしましたが、なかなか上手くいかず……。お恥ずかしい限りです」
「……まあここへ到着してからずっと視線を感じていたから、いつ話しかけてきてくれるんだろうと思ってはいたのな。でもぺケちゃんのクラスは、我輩と同じ魔術師なの?」
「いえ、わたしは符術師ですが……。それでも魔女様に弟子入りすべく、こういった格好をしまして、家も出てきました!」
「一番最後の言葉で、責任が両肩にズシッときたのな……」
 しかしペケッテは純粋な憧れの眼差しで、黒の夢を見つめている。
(このまま断ったら、きっと泣き出してしまうのな。それは我輩も困るし、悲しませたくはないのな~。ここはやっぱり話をよく聞いて、今後のことを冷静に決めさせることが人生の先輩としてやるべきことなのな!)
 そう決めた黒の夢は、ペケッテににっこり微笑みかけた。
「それじゃあぺケちゃんのことを、我輩に教えてくれる? 今夜の我輩は一人でコテージに泊まっているから、良かったら一緒に過ごそうなのな」
「魔女様っ……! ありがとうございますぅ!」
 感激したペケッテは勢いよく抱き着き、黒の夢はうっかり後ろに倒れるところだった。


 別荘の一階の部屋のベランダには、布張りの二人掛け用のガーデンベンチが置かれてある。
 ガーデンベンチの隅の方にシャルア・レイセンファード(ka4359)が座り、彼女の膝の上にノーマン・コモンズ(ka0251)が頭をのせていた。
「コモンズさんっ、打ち上げ花火がはじまりました! うわぁ、とっても綺麗で素敵です♪ 打ち上げ花火を見るのは楽しいですね!」
 いつもはのんびりマイペースなシャルアが、珍しく眼を輝かせながらはしゃいでいる姿を間近で見ているノーマンは思わず微笑む。
「シャルアさんはここへ来てから、ずっと興奮しぱなっしですね。先程、露天風呂から上がった時にははしゃぎ過ぎて、のぼせてしまいましたしねぇ」
「あうぅっ、すみません。露天風呂がとても気持ち良かったものですから、つい……。あたし、うるさいですか?」
「いえいえ、見ているだけでも面白いですよ」
 クスクスと笑いながら、ノーマンは手を伸ばしてシャルアの頬に触れた。
「だけど何でシャルアさんはこの依頼に、僕を誘ったんですか? 僕の面白くもない生い立ちはこの間、話して聞かせたのに……。それでも僕とこんな風に過ごすことを望むなんて、どうかしているんじゃないですか?」
 皮肉なようで自虐的な言葉を語るノーマンの顔に、花火によって光と影が交互に現れる。それが彼の本心と偽りのように見えて、シャルアは軽く首を傾げながら少し考え込む。
「……あたしは物事を深く考えるのは苦手で、毎日楽しく過ごせれば良いという考えの持ち主です。だからコモンズさんをこの依頼に誘ったのも、一緒に楽しみたかった――ただそれだけなんですよ。特に深い理由がなくて、コモンズさんは残念ですか?」
 真剣な表情を浮かべるシャルアに、至近距離で見つめられたノーマンはつい戸惑う。
「えーっとぉ……。――いや、逆に気持ちが楽になりましたね。そちらの方が、僕も良いです」
 ノーマンの柔らかな笑みを見て、シャルアは嬉しそうに笑った。
「それなら覚悟してくださいね? これからもコモンズさんをいろんな所に連れて行って、たくさんのことを経験して、いーっぱい楽しんでもらいますから!」
「それは確かに覚悟が必要ですね。でもシャルアさんと過ごすのは悪くないですし、楽しい思い出を一緒に積み重ねていきましょう」
「はい♪」

 
 浴衣に着替えた十色 エニア(ka0370)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)は、別荘の中庭にある二人掛け用のガーデンベンチに座りながら打ち上げ花火を見上げていた。
 しかしふとシェリルは周辺を見回して、誰もいないことを確認してから口を開く。
「ねぇ、エニア……。――のこと、好きなの?」
「……はい?」
 突然、恋の話を振られて、エニアの眼が点になる。
「私は……、優しいエニアには幸せになってほしいと思っているから……。告白するのは……とっても勇気が必要だけど……、ちゃんと伝えた方が良いと思う……。私、応援する……!」
 シェリルに一気に語られて、エニアは体勢を崩して思わずベンチから落ちそうになった。
「とっとりあえずシェリルさん、落ち着こうね? まあ告白は……次に彼女に会えた時に、言おうと思っているんだよ。ちゃんと考えてはいるから、わたしは大丈夫! シェリルさんの方こそ、どうなのかな? 片思い、しているんだよね? 前に一緒にいるところを見た時、随分と良い感じだったよ。わたしが手伝える範囲で、シェリルさんの恋を応援したいな!」
「私……? でもあの人と私は身分が違い過ぎるし……、会いたい時に会えるわけじゃないから……。それに私は元々リアルブルーの人間、……いつ向こうの世界に帰るか、分からないし……。……そう言えば、エニアもリアルブルーから来たんだよね? どんな風に……過ごしていたの?」
 そこで二人の表情から、明るさが消える。
「……わたしの家族は両親と、双子の妹だよ。二卵性だけど顔は似ているから、もし会えれば分かると思う。こっちの世界に来た時のことはまあ……、シェリルさんのような若い女の子に語って聞かせる内容じゃないんだけど……。強制的にこっちの世界に連れられてきたけど、今は割と幸せと言える日々を過ごしているよ。シェリルさんとこうやって、浴衣姿で打ち上げ花火を見ながら、恋の話をしているしね」
「そう……。私は両親と一緒にこっちの世界に来たんだけど……、二人はもう……」
「そっか……。過去は現在の自分を形作るのに必要な出来事だけど、未来はある程度は自分の意志で選べるからね。これからはこうして、楽しい思い出を作っていこうよ」
「……うん。そうだね」
 そして二人は同時に、美しい火の花が咲く夜空を見上げた。


 浴衣姿のザレム・アズール(ka0878)とアシェール(ka2983)は、手を繋ぎながら山の中を歩いている。
「空には花火、地上では蛍を見られるなんて、夏ならではの楽しみだな」
「そうですね。花火のおかげで足元が明るくて助かります。それにしても山と海が近いと、夜はちょっと肌寒いですね」
 アシェールは少し身震いすると、ザレムの腕にしがみつく。
「上着を持ってこれば良かったか?」
「いえいえ。こうやってザレムさんの体温を感じていれば、あったかいですから。浴衣、とても良く似合っていますよ」
「あっありがとう……。アシェールも良く似合っている」
 くっつきながら二人は、蛍が生息している川へ到着した。
「わあっ、たくさんの蛍が光っていますね! 川の上をアクティブスキルのウォーターウォークで歩いて、近付いてみましょうか?」
「それは止めといた方がいい。蛍がああやって光るのは、子を成す為だ。蛍は成虫になってから一・二週間ほどの寿命しかないのだし、オスが必死にメスを探しているのを邪魔するのは野暮というものだ」
「あっ、そうでしたね。来年も蛍を見る為には、余計なことはしない方が良さそうです」
 前へ出かけたアシェールは、一歩後ろに下がって戻る。
「ここへ来る前にウィクトーリア家の使用人から聞いたんだが、この近くに人間でも飲める山水が出ているらしい。蛍を見ながら、そちらへ行ってみようか?」
「はい。ここは蛍が数多く生息できるぐらい綺麗な山水が出ているようですし、楽しみです」
 アシェールがまたザレムの腕にしがみつくと、二人は再び歩き出した。
「虫や鳥、動物のオスってメスにモテる為に、光ったり派手に見せたり強さをアピールしたりと努力を惜しまないところは好感が持てますよね」
「にっ人間の男もモテる為に努力をしている者がいるが……、アシェールはそういう男が良いのか?」
「うふふ♪ 努力をする人は素敵だと思いますが、たった一人の本命にしか見せない一面を持つ男性も素敵だと思います。クールなように見えて、実はロマンチストな男性も良いですね」
 顔を上げて間近でにっこりと微笑むアシェールを見て、ザレムは顔が熱くなっていくのを感じる。
「そっそうか……」
「ええ。ですからわたくしも男性にとって魅力的な女性になるように、頑張らなければなりませんね!」


 コテージに泊まることにしたクウ(ka3730)とアルバ・ソル(ka4189)は露天風呂に入った後、互いに浴衣に着替えた。
 ガラス戸を開けて、打ち上げ花火が見られるように外へ向けた二人掛け用のソファー椅子には、アルバを膝枕しているクウがいる。
「色とりどりの打ち上げ花火がキレイね! ……でもこうやってアルバと二人っきりでコテージに泊まるなんて、ちょっと前までは考えられなかったかも」
「そうだな。僕も子供の頃のようにクウに膝枕してもらえるなんて、夢にも思っていなかった」
 二人は至近距離で微笑み合うと、何となく視線を花火へ向けてしまう。この夏、幼馴染みから恋人になった二人は、どこかぎこちなさがあった。
「なっ何かまだちょっと、緊張するね。関係がいきなり変わって、まだ落ち着かないのかも」
「僕もだ。クウを大切に思う気持ちは昔から変わらないと思うんだが、そこへ恋愛感情が絡むと……何とも気恥ずかしい」
「私だってそうだけど……、でもやっぱり恋人になった証は欲しいな……。もっとアルバを近くに感じられるように……」
「クウ……」
 アルバは上半身を起こすと、クウの頬に両手をそえながら唇にキスをする。
「んっ……。キス、か……。はじめてだったけど……、うん、恋人らしいね。何だか余計に暑くなっちゃったけど」
 クウは顔を赤く染めながら、手で自分を扇ぐ。
「僕もはじめてのキスだ。……今までよりもっと、クウのことが愛おしく感じられる」
 そう言いながらアルバはクウを、優しく抱き締める。
「クウは僕の恋人になってから、随分と魅力的になった。一時でも眼を離したくないと思えるぐらいに」
「なっ何だよ、それ。それを言うならアルバだって……、何だか頼もしくなってきた、かな?」
 恋人になってからというもの、元気娘だったクウには女性らしいお淑やかさが出てきており、穏やかな性格をしていたアルバは情熱的になってきたのだ。
 二人の変化は周囲の人々を驚かせており、恋愛感情というものがどれほど強い効力を持つのかを示した。
「それはきっと、クウのせいだろう。これから恋人として過ごすうちに、またお互いに変わっていくさ」
「変わってしまうのは、ちょっと怖い気がするけど……。でもアルバの為なら私、女らしくなるよ!」
「ああ。僕も頼りがいのある男なる。ゆっくりと恋人らしくなっていこう」


 浴衣を着た七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)は手を繋いでプライベートビーチを目指しながら歩き、打ち上げ花火を見ている。
「夜の海って、昼間とはまた違った一面を見せるから不思議よね。いつもなら暗くてちょっと怖いんだけど、今日は花火がよく見える良いスポットだわ」
「プライベートビーチに建てられた海の家、まだ残っていて良かったね。あそこのベランダ席からなら、ゆっくり見られるし」
 海の家はハンター達の為に建てられたものだが、すぐに解体はされずに今も残っていた。ベランダ席は解放されていて、夜でも自由に座ることが可能だ。
 二人は到着すると、ベランダに置かれたイスを二つ並べて座る。
「プライベートビーチに他の人がいなくて、何だかラッキーね。それぞれ別の場所で過ごしているようだし」
「ボク達も泊まる別荘で見るか、プライベートビーチで見るか、迷ったものね」
 真夕と紅葉は座りながらも手を繋いでおり、花火を見て喜びの表情を浮かべた。
「ビーチから見る打ち上げ花火も綺麗ね!」
「うんっ……! とっても色鮮やかで素敵……」
 しかしふと真夕は何かイタズラを思い付いたように、隣にいる紅葉を見る。
「ねぇ、紅葉。髪を結んでいるリボン、解けかけているわよ?」
「えっ? ホント?」
 驚いて真夕の顔を見た紅葉に、軽くキスをした。
「……へっ?」
「ふふっ、大成功♪ 大好きよ、可愛い紅葉。これからもずっと一緒にいましょうね! 約束よ!」
 満足げな真夕は、眼を丸くしている紅葉をギュッと抱き締める。
 ようやく真夕の作戦に引っかかったことに気付いた紅葉は、ぷぅっと頬を膨らます。
「せっかくのんびりまったりと、二人っきりの時間を過ごそうと思っていたのに……。はあ……、まあ良いよ。真夕だしね。それに……真夕の浴衣姿を見られて嬉しいし、こうやって一緒に打ち上げ花火を見ることができて楽しいから……。今日の依頼に誘ってくれて、ありがとうね。……あっ、真夕。浴衣の帯、少し緩んでいるよ?」
「えっ? うそっ!」
「うん、ウソ」
 少しだけ体を離した真夕の唇に、今度は紅葉からキスをする。
「やられっぱなしは性に合わないの。お返しだよ、ボクの素敵な恋人さん」
「……アララ。見事にやられちゃったわ」
 二人は額をくっつけながら、間近で笑い合った。


 コテージの中で、二人掛け用のソファー椅子で眠っていた華彩 惺樹(ka5124)は、打ち上げ花火の音でふと目が覚める。
「おはようございます、兄さん。随分とぐっすり眠っていらっしゃいましたね」
 妹の華彩 あやめ(ka5125)が顔を覗き込みながらクスクスと笑う姿を見て、兄はようやく眠る前のことを思い出す。
「……ああ。コテージに泊まるのははじめてだが、あまりの居心地の良さに眠ってしまった……。露天風呂に入った後ということもあるが……、気が緩んで随分と眠り込んでいたようだな」
「お疲れでしたのでしょう。今回は緊張する依頼ではありませんから、ゆっくりできて良かったですね」
 上半身を起こした惺樹は、夏掛け用の毛布がかかっていたことに気付く。
「あやめがかけてくれたのか……。ありがとう」
「そのぐらいは当然です。眼が覚めたのでしたら、そろそろ山へ行きませんか?」
「ああ、そうだな」
 二人は一度部屋へ行くと浴衣に着替えて、コテージから出て歩き出す。
「あやめの浴衣姿、とても可憐だ。良く似合っているぞ」
「ありがとうございます。兄さんもその浴衣、似合っていますよ」
「そうか。しかしあやめ、夜道は危険だ。おぶろうか? それとも手を繋いで……」
「もう、兄さんったら。私だってハンターなんですし、そこまで子供ではありませんよ。そろそろ年相応の扱いをしてください」
「うっ!?」
 あやめに一歩距離を取られて、惺樹の顔色が悪くなる。
「……夜の闇の中でも分かるほど、青ざめないでくださいよ。ああホラ、あの光は蛍ではありませんか?」
 あやめが兄の気をそらすように、蛍の光が飛び交う川の方面を指さす。
「本当だ。綺麗な光景だが、あやめと一緒だとより一層感動的だな」
「ふふっ、そうですか。でも本当に美しくも幻想的な光景ですね。今回はご一緒できませんでしたが、来年は姉さんと一緒に見に来られるといいですね」
「来年は三人で――か。そうだな。家族でこの光景を一緒に見て、美しい思い出として記憶することができるのならば幸せだ」
「はい! 夏の蛍以外にも、秋には紅葉、冬には雪景色、春には桜と、季節を感じられる景色を三人一緒に見たいですね。きっと楽しい思い出になりますよ」
 あやめが両手で惺樹の片手を握ってきたので、兄は妹へ微笑みかけた。
「ああ、ずっと一緒だ」


 露天風呂から上がったエルバッハ・リオン(ka2434)は一人で別荘の部屋に入ると、着ているミニ浴衣の合わせ目を緩めて部屋に置いてあったうちわで胸元を扇ぐ。
「ふう……。流石に同業者しかいないとはいえ、はしたない姿は見せられませんからねぇ。しかし成長し続ける胸を押さえ付けるのは、いろんな意味できつかったです」
 体から湯気を上げながらエルバッハはベランダに出て、一人掛け用のイスに座る。
「打ち上げ花火はもうはじまっていましたか。こうやって一人で見るのもある意味、贅沢かもしれませんね」
 エルバッハは色とりどりの花火が夜空に次々と上がっては消えていく光景を、しばらくは静かに見続けていた。
 だがふと、打ち上げ花火についての情報を思い出す。
「……確かリアルブルーからの転移者の方から聞いたことがありましたが、打ち上げ花火を見たら『たーまーやー、かーぎーやー』と掛け声を出すんでしたっけ。普段なら恥ずかしくてできませんが、別荘にはあまり人がいないようですし、たまには私も弾けましょう!」
 イスから立ち上がったエルバッハは、大きく息を吸い込んだ。
「すぅ……たーまーやー! かーぎーやーっ!」


 持参した浴衣を身に付けたマルカ・アニチキン(ka2542)は、少々ぐったりしながら別荘の廊下を歩いている。
「ちょっ……ちょっと気を抜き過ぎました、……かね?」
 先程まで露天風呂に入っていたのだが気持ち良さについウトウトしてしまい、ドボンッと沈んでしまう。運良く同業者達が一緒に入っていたので、すぐに救出してもらった。
「露天風呂に入る前に……、はしゃぎ過ぎたのもアレでしたかね~」
 マルカはこの別荘へ到着した時、普段よりもテンションが高かったのだ。
「ハンターという職業柄、命がけの仕事ばかりしてきましたが、まさか別荘・露天風呂・打ち上げ花火がセットになっている依頼に参加できるとは……! 何て幸運なんでしょう!」
 だが興奮状態は長くは続かず、露天風呂に入った直後には体力の限界がきてしまった。
 そして現在、フラフラしながらも部屋へ入り、マルカはそのままベランダに出てイスに座る。
「打ち上げ花火、素敵ですねぇ。……ああ、そういえば持ってきた『書物・本当にあったかも? 怖い話』は、後でルサリィ様に差し上げましょう。夏の夜に読むには、ピッタリですしね♪」


「おや、別荘の中庭にガーデンベンチを発見! せっかくだから、あそこから打ち上げ花火を見ようかな」
 露天風呂上りの央崎 遥華(ka5644)は白い生地に青い楓模様の浴衣を着ており、うちわを片手にベンチに座った。
「別荘の部屋で今日は一人でお泊り♪ たまにはこうやって羽を伸ばすのも良いわね」
 打ち上げ花火を嬉しそうに見ていた遥華の耳に、風にのって仲間達の楽しそうな話声が聞こえてくる。
「……今回は私一人の参加だけど、まあたまにはいいわよね。打ち上げ花火は、何もこの依頼でしか見られないってことはないし」
 頭の中に親しい仲間の姿が思い浮かび、遥華は思わず暗い表情になりかけた。
 しかし別荘の方向から「たーまーやー!」と声が聞こえてきて、意識がそれる。
「そういえば、打ち上げ花火にはかけ声があるんだったわね。次に打ち上げ花火を見る時にはきっと仲間と一緒だろうし、その時の為にかけ声の練習をしようかな?」
 少しの間考えた後、遥華は花火が打ち上がった空へ顔を向けた。
「たったーまーや……」
 照れながらも、遥華はかけ声の練習をはじめる。 


 露天風呂から上がった冷泉 雅緋(ka5949)は別荘の部屋からベランダに出て、大輪の火の花が次々と浮かぶ夜空を見上げる。
「ふふっ、特等席から打ち上げ花火を見られるなんて、良い気分だねぇ」
 上機嫌で微笑みながら、一人掛け用のイスに座った。
「女性ハンター達は露天風呂に入った時までは一緒だったけれど、打ち上げ花火がはじまる前に出る人が多かったから、残ったあたしは割とゆっくり入れて良かったよ。若い人達は時間に追われるのも青春なんだろうね」
 打ち上げ花火がはじまる時間は前もって聞いていたので、別荘以外で見る人達は少し慌てて露天風呂から出て行ったのだ。
「露天風呂にゆっくり入って汗を流してサッパリした体と心で、一人で過ごすことは良い息抜きだよ。それにしても打ち上げ花火を集中して見るなんて、子供の頃以来だろうねぇ。……まっ、いつ見ても綺麗なんだけどさ」
 雅緋は幼い頃に『誰か』と見た打ち上げ花火を思い出して、つい遠い目をしてしまう。
「……あたしもいつか一人で過ごした思い出じゃなくて、誰かと一緒に過ごす思い出を作る気が起きるのかねぇ。まあ今はなかなか想像ができないけれど、いつかはそうなれれば良いね」

 
「ふはぁ~。露天風呂に入りながらの打ち上げ花火見物って最高ね! 夏しかできないことだわ」
 月・芙舞(ka6049)はたった一人で露天風呂に入っている。しかし彼女の周囲を二体の桜型妖精・アリスが飛び回っていた。
 芙舞の顔が真っ赤になっているのを見た一体のアリスが別荘へ行き、ウィクトーリア家の使用人から冷やしアメが入ったコップを受け取る。そして露天風呂へと戻り、芙舞へコップを渡す。
「ありがと。……んーっ、露天風呂に入りながら飲む冷やしアメは格別ね! 流石にこういう風に花火見物をする人はいないから、気兼ねなく手足を伸ばせるわ♪」
 芙舞はコップを床に置くと、思いっきり手足を伸ばす。
 先程まで他の女性ハンター達も一緒に露天風呂に入っていたのだが、打ち上げ花火がはじまると続々と出て行った。一人残った芙舞にとって、露天風呂は貸し切り状態となる。
「流石に打ち上げ花火が上がっている間は、男性も女性も露天風呂には来ないだろうしね。それまでは私の貸し切りよ♪ こんな贅沢、滅多にないから幸せね!」
 芙舞は大はしゃぎをしているが、アリス達はそんな彼女がのぼせて倒れないか、ハラハラしながら見守った。


 露天風呂からコテージへ向かう婆(ka6451)は、ウィクトーリア家の使用人に用意して貰った洋酒の瓶とコップ、つまみ皿をのせたお盆を持ちながら歩いている。
「グラズヘイム王国といえば、やはり洋酒じゃのう。貝やエビなどの海鮮物のつまみも美味そうなのじゃ」
 思いのほか高級なものを用意してもらい、上機嫌な婆はコテージには入らず回ってベランダへ行く。ベランダには小さなテーブルとイスがセットになって置かれており、一人で酒を飲むには充分だ。
「ヤレヤレ。こうしてゆっくりと打ち上げ花火を見るなんて、何十年ぶりかのぅ。露天風呂も久し振りに入ることができたのじゃし、まさに命の洗濯よ」
 コップに酒をそそぎ入れて、ゆっくりと飲む。
「くぅ~! 打ち上げ花火を見ながら飲む酒は、特に美味く感じるのじゃ!」
 そこでふと、山から冷たい風が流れてくるのを感じた。
「……と言っても、季節は巡るもの。もうすぐ秋の季節がやってくるのじゃ」
 婆は少しだけ切なそうな笑みを浮かべると、新たにコップに酒をそそぎ入れて打ち上げ花火へ向かって上げる。
「夏さんや、また来年会おう。楽しみにしておるからの」


 五人でコテージに泊まることにしたアズル=フェルメール(ka4823)、ジン=T=インペリアル(ka4904)、セレニテス・ローシェ(ka4911)、シュシュシレリア(ka4959)、リージェ・アダマス(ka5352)はそれぞれ浴衣姿になり、庭で打ち上げ花火を見上げていた。
 盲目のアズルはベランダに置かれたイスに座っており、隣には狛犬のラシャが大人しくお座りをしている。
「私の眼に花火は映らないけれど、音と振動でどれだけ凄いのかは感じ取れるわ。だからみんなと一緒にこの依頼に参加できて、本当に良かったと心から思えるの。ラシャはどうかしら? 打ち上げ花火、怖くない?」
 ラシャはしかし喜んでいるようで、何度も高い声で吠えた。
「ははっ、普通の犬だったら打ち上げ花火は怖がるもんなんやけどな。……って、うわっ!? 俺に対しては本気で吠えてるな!」
「ラシャは普通の犬ではないのだから、からかわれたら怒るのは当然よ。噛み付かれないだけ、マシだと思いなさいね」
 アズルがラシャの頭を優しく撫でると、ようやく落ち着く。
 そこへセレニテス、シュシュシレリア、リージェがやって来た。
「ジンは一言余計なのよ。なのに肝心なことは言わないんだから。せっかくアズルにこの依頼の事を教えてもらって参加できたんだから、せめて打ち上げ花火のことぐらい教えれば良いのに。あのね、アズル。私は打ち上げ花火を見るのは生まれて初めてだから上手く説明できないと思うんだけど、例えるならスッゴク大きなお花がキラキラ輝きながら夜空に浮かんだり消えたりしてね……」
「そうね。打ち上げ花火は色とりどりの火の花が、夜空に咲き誇るのが美しいわ。でも地上にいるわたし達の鼓膜や体に届くほどの振動を与えてきて、儚いながらも力強さを感じるわね。打ち上げ花火は久し振りに見たけれど、いくつになっても素敵だわ。それに今夜はみんなでお泊り会をするし、とても楽しい夜を過ごしているわね」
「ええ、本当にね。特に大勢の人達が一緒に楽しめる打ち上げ花火を、こうしてみんなと見ることができて幸せよ。――ちなみにアズル、先の丸い細い棒を用意してもらったから、あなたの手のひらに花火の形を描いて教えたいと思うんだけど……」
「気持ちはありがたいけれど、それは遠慮しとくわ。まだ眼が見えていた頃に花も火も見たことがあるから、みんなの説明で何となく理解できたしね」
 アズルは両の手のひらを顔の前で振って、遠慮を表す。
「……って、アラ? ジンの気配が近くにないような気がするんだけど……」
 ふとジンの存在を感じられなくなったアズルは、周囲を探る。
 三人の女性も花火を説明している間にいつの間にかジンがいなくなっていたことに、今ようやく気付いた。
「おーいっ! 面白いモン、貰ってきたで!」
 すると別荘の方向から、ジンが大荷物を持って戻って来る。小さなビニールプールに空気を入れて膨らませると、外の水道から水を入れて、更にその中に何かを大量に入れた。
「みんな、こっちに来て遊ぼうや」
 四人は不思議そうな顔をしながらも、手招きをするジンの所へ行く。
 セレニテスはビニールプールの中を見て、眼を丸くした。
「わあっ! ジン、この色とりどりの小さいのはなぁに? とっても可愛い♪」
「金魚のオモチャや。本当は本物の生きた金魚すくいをしようと思ったんだが……、ラシャがうっかり狩りの本能を目覚めさせるととんでもないことになりそうやし、何より生き物を持ち帰るのは大変だしな」
 シュシュシレリアは冷静に想像してみて、大きなため息を吐く。
「まあ確かに生きた金魚を家まで持ち帰るのは大変だわ。かと言って、まさかコテージや別荘に置いていくわけにはいかないしね。オモチャの金魚なら持ち帰るのは楽だし、お部屋に飾ったらステキよ」
「それにコレならアズルも楽しめるわ。ラシャも本物の金魚じゃないから、あんまり興味はなさそうだし。早速やってみましょうよ」
 リージェに視線を向けられて、ジンは頷いて見せる。
「それじゃあこれからすくいアミと、取った金魚のオモチャを入れる容器を配るで。金魚のオモチャは乾かした後、ビニール袋に入れて持って帰るんや」
 アズルもジンからアミと容器を受け取り、説明を受けながらやってみた。笑顔で楽しんでいたアズルはしかし、突然何かを思い付いたように不安そうな表情をジンへ向ける。
「あの……ジン、この金魚すくいセット、どこから持ってきたのかしら?」
「ああ、打ち上げ花火だけじゃあ物足りないと思ってな。別荘へ行って、ウィクトーリア家の使用人達に『何か遊べるもんはないか?』と言ったら貰ったんや。来年の夏には祭りを行いたいと思っておるらしいから、コレらはその為の資料というか準備品だったらしいで。ルサリィのお嬢さんはもう充分らしいから、好きにしてええって」
 ジンもオモチャの金魚すくいを真剣な表情でやりながらも、しっかりと答えた。
「そっそれなら良いわ。……ああ、ラシャ、前足を入れちゃダメよ」
 アズルはラシャが少しそわそわしながら前足をビニールプールに入れていることを水音で気付き、止めようとした。
「良いじゃない、アズル。ラシャも遊びたいんじゃないのかな?」
 セレニテスの言葉を理解したらしく、ラシャは甘えた声を上げる。
 するとシュシュシレリアは余っていた容器を、ラシャの前に置く。
「はい、ラシャ。取った金魚はここに入れるのよ」
「ふふっ、ラシャも余達と一緒に遊びたかったのよね。でもなかなか難しいから、集中して取るのよ」
 リージェの言葉が嬉しかったらしく、ラシャは喜んで高く吠える。
 こうして五人と一匹の狛犬は、打ち上げ花火をバックにオモチャの金魚すくいを楽しんだ。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • まめしの伝道者
    ノーマン・コモンズ(ka0251
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 疾く強きケモノ
    クウ(ka3730
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • 想い伝う花を手に
    シャルア・レイセンファード(ka4359
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 屈強犬のブリーダー
    アズル=フェルメール(ka4823
    エルフ|31才|男性|霊闘士

  • ジン=T=インペリアル(ka4904
    エルフ|18才|男性|舞刀士

  • セレニテス・ローシェ(ka4911
    人間(紅)|15才|女性|聖導士

  • シュシュシレリア(ka4959
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • この力は愛しき者の為に
    華彩 惺樹(ka5124
    人間(紅)|21才|男性|舞刀士
  • また、逢えるように
    華彩 あやめ(ka5125
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 一生を貴方と共に
    雪継・紅葉(ka5188
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 花宝石
    リージェ・アダマス(ka5352
    人間(紅)|19才|女性|機導師
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師
  • 静かに過ごす星の夜
    冷泉 雅緋(ka5949
    人間(蒼)|28才|女性|聖導士
  • アリス達と過ごす夏の夜
    月・芙舞(ka6049
    人間(蒼)|28才|女性|符術師
  • 慎重なる小さき魔女
    ペケッテ・テトラ(ka6440
    人間(紅)|11才|女性|符術師
  • 婆の拳
    婆(ka6451
    鬼|73才|女性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/29 23:10:35