王都第七街区 商人襲撃事件

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/31 07:30
完成日
2016/09/09 05:02

みんなの思い出

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オープニング

 王都の難民街。通称『第七街区』──
 第六外壁南門近くの一角を『委任』された『地域の実力者』の一人、ドニ・ドゥブレーは、かの地に塞を構えた賭場の主に過ぎなかった。
 黒大公べリアルの王都襲撃に際し、生きる為に人々の避難と復興の指揮を執らざるを得なかった彼は、いつの間にか地域の『自警団』長として皆に認知されていた。そして、とある事件をきっかけに、非道の『実力者』、ノエル・ネトルシップの『シマ』の3分の1を奪う形となった彼は…… 望むと望まざるに関わらず、第七街区の『政治』の表舞台に立つ一人となった。
 「どうしてこうなった」と深々と嘆息しながら…… ドニは、ノエルから奪った『王都第七城壁・第十一建築現場の委託監督権』──王都が難民たちの経済的自立を目的として始めた公共事業。ノエルが監督権を持っていた時は、作業員の給金の半分以上がピンハネされていた──を使って、労働環境の健全化と作業の効率化を進めると、王都の復興担当官の一人、ルパート・J・グローヴァーを通じて、『王都第七街区・上水道整備計画』をぶち上げた。
 金が動けば、人も動く。
 第七街区に貨幣経済の萌芽を見出し、真っ先に動いたのは第五・第六街区の商人たちだった。王都における商売上の利権の多くは既に老舗の大商人らに握られており、新興商人たちは未だ既得権益に侵されていない新たなフロンティアを求めていたのだ。
 両者の思惑は一致した。ドニは言葉巧みに商人たちへ投資を迫った。商人たちはリスクを分散する為、複数の商人による連合を組んで共同出資を行った。
 集まる金は、連合に参加する商家の数が増えるにつれ膨大な量となった。そのほぼ全てをドニは土木・建築作業へと注ぎ込んだ。作業員たちに金が回ると、彼らを客とする酒場や飲食店が方々に開店し始めた。その家族に金が回ると、生活に必要な食料品や一般雑貨を扱う店もでき始めた。
 ドニが治める地域は難民街の括りを超えて発展し始めていた。それを目の当たりにした周辺の『実力者』たちの中には自ら望んでドニの傘下に収まる者まで現れ、事業規模はますます大きくなった。

 ドニがやろうとしていることは、復興と言うより『街づくり』とでも呼ぶべきものだった。
 彼が進める街づくりの、道路や水道といった設備の規格は、全て王都のそれと同一の設計がなされていた。
 いずれ第七街区も王都の一部となり、自分たちも王都の民となる── それが第七街区に生きる難民たちの、希望だと知っていたからだ。


 そんな『ドニ・ドゥブレー地区』の一角で、第六街区の商人から派遣された馬車が何者かに襲撃された。
 襲撃者は複数人。御者は惨殺され、積み荷は全て破却された。荷台にはその商人が第七街区で開店する予定だった、雑貨屋の建築資材が乗せられていた。
「私は連合から脱退する。第七街区は未だまっとうな商業活動が行えるような治安状況にないようだ」
 ドニの遺留も功を奏さず、その商人は第七街区から手を引いた。……殺された御者は、第七街区の店長に収まるはずだった、商人の息子の一人だった。
「おい。まさかとは思うが…… うちの『シマ』の連中がやったことじゃあないだろうな?」
「とんでもない! うちの『シマ』の連中は皆、今は景気がいいはずです。強盗の挙句、殺人なんて…… ましてや、建築資材を積んだ馬車なんぞ襲ったところで、得なんぞなんもありゃしません」
 不機嫌な表情を隠そうともせず尋ねるドニに、側近のアンドルー・バッセルが答えた。
 ドニは反論しなかった。初めから本気で住人たちを疑っていたわけではない。問答を行うことにより、自身の考えを纏め上げる── 普段からドニが行う、思考の整理術だった。
「……ノエルが手下を送り込んで、犯行を行った可能性は?」
 アンドルーが逆に問う。ドニ・ドゥブレー地区──ドニが統制する地区の通称だ──に隣接する『実力者』たちの中で、ノエル・ネトルシップだけは未だドニの傘下に収まらず、独自の『領地経営』を続けていた。ノエルは自領に作り上げた花街を一大収入源にまで育て上げ、今も阿漕なシノギを続けているらしい。
 商人の馬車が襲われたのは、ドニ地区の中でも最も南門に近い地域──最も治安の良い地区だった。そんな所で護衛のない馬車が襲われたとなれば、ドニの統治能力に疑問符がつく。ノエルが取り得る『嫌がらせ』の手段としては最高だ。
「今、こちらから抗争を仕掛けられないことを知っていやがるからな…… 今、抗争になんてなれば、連合からの投資が滞る。頭の良いやり口だが……」
「ええ。問題は馬車が襲われた場所です。最も南門に近い場所──つまり、ノエル地区から見れば最も遠い、ドニ地区の最深部です。ノエルの手下らの面は皆、割れています。そんな奥まった場所で襲撃をした連中をのうのうとノエル地区に帰すほど、部下たちもバカじゃねぇ」
 頷き、ドニは沈思する。そこへ、部下の一人が来客を告げた。
 連合に出資した第五街区の商人──新興商人たちの中では比較的大きな資本を誇る、ノーサム商会のオーナーだった。
「ノーサム商会は決して連合を脱退しません。そのことをドニ閣下にお伝えしに参りました。商会は今後も閣下を支え続けます。……たとえどのような事態が起ころうとも、です」
 閣下はよしてくれ、と呻きながら、ドニがデスクを立つ。
 部屋を出しな、ドニはアンドルーに地区内の見回りを強化するよう指示を出した。

 にも拘らず、襲撃は続いた。
 朝靄の中を進む馬車の御者が、通行止めの看板に小首を傾げる。
(はて。昨日まではこの様な看板はなかったが……)
 そうして迂回した先は、人気のない地区だった。上水道整備計画の為、立ち退きが行われたエリアであったが、御者は知る由もない。
 薄気味悪さに御者が首を竦めた瞬間。その頭上を掠めるように飛来した矢が後ろの馬車に突き立った。サッと血の気が引いた御者は…… 靄の向こうから染み出す複数の人影に悲鳴を上げて、荷も何もかも捨てて逃げ出した。
 朝靄に紛れる形で、御者は無事に逃げおおせた。だが、馬車は行方不明になった。馬も荷も共々、忽然と消え失せた。
「聞いたか? ノーサム商会の馬車が襲われたらしいぞ。御者は無事だったが馬車は馬ごと奪われたとか」
「トマスの所の馬車もやられた。護衛を雇う費用をケチったらしい」
 ……襲撃は続いた。護衛を雇った馬車は賊に襲われることはなく。だが、護衛を雇えばコストが掛かり、商人たちの中には第七街区での商売を控える者たちも出始めた。

「人手が足りない……」
 ムスッとした表情で、ドニが不機嫌に呟いた。
 ドニは部下を使いにやった。事態を解決してくれる、ハンターたちを雇う為に。

リプレイ本文

「すごーい……! もうここまで復興が進んでいるなんて……!」
 王都第六城壁南門近辺、第七街区ドゥブレー地区──
 『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーらと該当区域を回りながら…… 松瀬 柚子(ka4625)は街を見渡し、感嘆の声を上げた。
 その声に、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)も同意する。少なくともこの辺りでは、難民街にありがちなテントやバラックは既に無い。人々の服装も比較的清潔で、何よりその表情が絶望に沈んでいない。
「黒大公べリアルの王都襲撃からもう二年近く経つからな…… 先のテスカ教団の乱でも、北西門側と違って殆ど被害を受けていない」
「ふーむふむふむ…… でも、そんな場所を荒らそうとする、空気の読めないお馬鹿さんがいる、と」
「難民街の整備をしてほしくない、或いは、ドニに手柄を立てさせたくない何者かの手による犯行か……」
 柚子の言葉に頷きつつ、顎鬚を扱くエリミネーター(ka5158)。確かに被害者にとっては痛ましい話であるのだが…… 警官時代、ダウンタウンではありふれていた類の事件ではある。
「きなくせえし、血なまぐさい話だな……」
 若き聖導士・クルス(ka3922)が眉をひそめる。
 ブラウ(ka4809)も無言で怒っていた。その理由は誰にも告げず、ただその両目に烈火の如き怒りを静かに燻らせている……
「何とか止めさせねえと…… こんなことで死ぬ人間がいるなんて、あっちゃいけないだろ」
「偉い!」
 クルスの言葉に、破壊修道女・シレークス(ka0752)がその背をばぁん! と叩いた。咳き込むクルスをよそに、堅気に手を出しやがって……! とその拳をギュッと握る。
「ねぇ。商人の護衛を町で提供……もしくは、雇う費用を補助できない? 新興商人ばかりじゃコスト重いでしょ?」
「はっはっはっ。……うちはな、柚子の嬢ちゃん。人手も足りねぇが金もねぇんだ」
「……。ドニの親分も苦労してやがりますねぇ…… 他人事じゃねーですし、手伝ってあげやがるです。正規の料金で!」
 ほろりと零した涙を拭いながら、シレークス。エヴァンスも苦笑しながらドニへ請け負った。
「なに、気にすんな。こういう依頼は傭兵にとっちゃ日常茶飯事みたいなもんさ。……それに、俺個人としてもちょいと見過ごせない状況だからな。どんな手を使ってでも、事件の終わりを見せてやるよ」

 やがて、一行は街中を抜け…… 立ち退きが決まって無人と化した一角へと歩を進めた。
 それまでひたすら手元のノートに何かを描き続けていたJ・D(ka3351)がより一層手を動かし始める。
 彼が描いているのは地図だった。行政区画外の第七街区にまともな地図など一つもなかった。だから、自分で作ることにした。……過去2件の襲撃は、このような立ち退き予定区画で起きていたからだ。
「……道は? 抜かりねぇか?」
「うん、覚えた。……けど、もう少しこの周辺も確認しときたいかな?」
 J・Dと柚子のやり取りに、ん? と小首を傾げるドニ。そこへヴィルマ・ネーベル(ka2549)が歩み寄って、頼みがある、とドニに告げた。
「襲撃された馬車とその積み荷の詳細を知りたいのじゃ。それと同系統の馬車と積み荷を我らの為に用意して欲しいのじゃが……」
「構わんが…… いったい、なぜ?」
 訝しむドニにJ・Dが答えた。自分たちが囮になって、直接奴らを釣り出すのだ、と。
「実際に会ってみりゃ、どういった手合いかわかるだろう。奴らに直接、お話を聞かせてもらおうってェわけさ」
「単純な賊であれば隠れ家ごと一網打尽にしてやりゃあいい話だが……」
「こういうのは根っこから絶たねーと」
 そうニヤリと笑い合う、エリミネーター、J・D、シレークス。
 ヴィルマは改めてドニに向き直ると、内部犯行の可能性もあるので、今回の依頼についてはドニ以外には内密にしておくよう釘を刺した。
「美しい所にはドロドロした欲望がつきもの…… さて、今回の件、裏で糸引く強欲者は誰かのぅ」


 それから数日掛かりでハンターたちは準備を始めた。
 『街の外から来た新興商人』という触れ込みで、番頭風の衣装を着たクルスが連合商人たちの会合へ挨拶回りに顔を出す。
「いやあ、あの辺りもまだまだ治安が悪いみたいでねぇ。コストが嵩んで仕方がないよ」
 腰を据えて商売をする気がないなら、あそこには手を出さない方がいい── 新参の商人として第七街区の状況を聞いたクルスに、親切めいた牽制の言葉。どうやら連合に属する商人たちには、増え続ける商売敵を煙たがる気持ちがあるようだ……

 商人風の馬車を誂え、適当な木箱や樽を積み。女商人風の格好をしたヴィルマと『番頭』クルスを御者台に、使用人然としたJ・Dを荷台に乗せ、街へと繰り出す。
「さ、最近、この辺り…… とても物騒らしいから怖いね…… 無事に荷物を運べると良いんだけど……」
 手綱を握るクルスの横で、ヴィルマが外套の合わせ目をギュッと握って怯えた表情をして見せる。
 そんな彼女らの乗る馬車を、街路一本隔てた場所から。汚れたマントにフード姿の難民風の何者かが2人、チラチラ視線を振りつつ、並走する……

 初日は何も起こらなかった。
 二日目は別の道、別の時間帯を通った他の商人が襲われた。
 収穫なく『倉庫』に戻った馬車の荷台で、荷物の木箱がカタカタ音を立て……
 やがて、持ち上げられた蓋の下から、ぷはぁッ! と息を吐きながらシレークスが姿を現した。
「あぁ~…… 志願したとは言え、窮屈ったらありゃしねーです…… 暑いし、暑いし、あっついし……」
 温い水を呷りながら、げんなりと零すシレークス。同様に潜んでいたブラウもまた、ふぅ、と息を吐きつつ外に出る。
 荷の中に潜んでいること──それが彼女らの役割だった。荷物ごと馬車を強奪させ、アジトを探り出すのが目的だったが…… 不用意に音が鳴らぬよう、箱の中の隙間に毛布や布切れを詰め込んだのがまずかった。締め切られた荷の中で顔を出すこともできず…… とにかく作戦中は灼熱地獄でじっと耐えているしかない。
「……ブラウもすまねーですね。汗くせーでしょう?」
「汗の匂いは嫌いじゃないわ。生きてるって感じがするもの」

 もっとも、自分が好む匂いは、むしろ──
 ──三日目、途上。物音に、荷の中のブラウの思考がそこで止まる。

 馬車は立ち退き予定区画に入っていた。陽は既に沈み、夕闇が急速に天を覆いつつある時分だった。
 無人の街に、人がいた。
 音もなく行く手に飛び出して来た、マント姿の男が2人。目を見開き、腰を浮かしかけたヴィルマとクルスの2人に、構えた弩の矢を一切の躊躇なく放って来た。
「きゃああああ……!」
 悲鳴を上げるヴィルマを抱えて、御者台から飛び降りるクルス。帽子を片手で押さえたJ・Dが続き、急ぎ馬車を捨ててその場を離れようとする。
 だが、3人の足はすぐに止まった。脇道の先からもマント姿の男が2人、逃げ道を塞ぐ様に現れたからだ。
「馬車と荷を捨ててもお目こぼしはなしか……」
 やるしかねぇ、とJ・Dが呟いた。そうだな、とクルスが返した。──馬車だけ持ち帰ってくれれば楽だったのに、と異口同音に呟く2人。瞬間、白刃を手に襲い掛かって来る男たちに対してクルスが己の意思を見えざる壁と化して展開。その接近を押し留める。
「っ!? スキルだと!?」
「……おとなしくしてくれねえかな。殺すつもりはねえからよ」
 驚愕する男たちを、更なる驚愕が襲う。ばぁん! と蓋を宙に舞わせた木箱の中から、鉄球をぶんぶん振り回しながらシレークスが飛び出て来たからだ。
「おう、てめぇら、懺悔の準備は出来ていやがりますか。わたくしは慈悲深いので骨の1、2本で勘弁してやがりますよ!」
 汗塗れでカソックをぴっちり身体に張り付かせたシレークスが、涼し気に風を受けながら実に良い笑顔で男たちに見栄を切る。
「罠だ。ハンターどもだ」
 瞬間、男たちは四方へ散った。一瞬、目をぱちくりしながら、「ま、待ちやがるです!」とシレークスが叫ぶ。
 間髪入れず、ひっそりと箱から抜け出していたブラウが飛び出し、男たちの一人に襲い掛かった。荷台の上から降り落ちながら、手にした銀華の短剣を男の肩口へと振り下ろし。悲鳴を上げて振り返る男に淡々と歩み寄りながら、もう一方の手に握った回転式拳銃で無造作に敵の脚を撃つ。
「殺すな。捕らえろ!」
 叫びつつ、手の中に生み出した光の杭を逃げる男らに投擲するクルス。マントを掴むふりして隠していた指輪を掲げ、ヴィルマが青白い霧の幻影を投げかけて。口笛を吹くように小洒落た動きでリボルバーを引き抜いたJ・Dが、逃げる男たちの足元へ向けてサングラス越しに威嚇射撃を実行する。
 その攻撃が及ばぬ南側へと逃げた男2人を、だが、馬車上のシレークスは見逃さなかった。ヴェルマから投げ渡された無線機へ「そっちに行きやがりました!」と叫ぶ。
 追撃もなく、逃走の成功を確信していた男たちは、だが、宵闇に包まれた無人の街に響き渡った銃声に思わず足を止めた。
「フリーズ! 動いたら遠慮なくこいつをぶっ放すぞ!」
「……もう、1発ぶっ放した後だけどな」
 汚れたマントにフードを被った2人の男が、そのフードを後ろに落とす。
 それは、両手で黒い自動拳銃を──警官時代からの愛銃を構えたエリミネーターと、鞘を手にしたエヴァンスだった。街路一本隔てて馬車を追走していたのは彼らだったのだ。先行し、立ち退き予定区画で不自然に多数の人影を見かけて、襲撃を警戒するよう馬車組に警告していたのも彼らである。
 即座に行動に出る襲撃者たち。銃撃を躱してエリミネーターへと迫る男へ、抜刀したエヴァンスが立ち塞がる。切り結ぶ直前、殆ど予備動作のない動きで苦無を投擲するエヴァンス。男は構わず腕で受けた。だが、刃は通らない。腕に巻いた布切れの下に、金属製の防具を仕込んでいる。
「装備と反応が良い。こいつらただの強盗じゃないぞ」
「マジか」
 切り結ぶエヴァンスと男とをスクリーンにしながら、もう一人の男がエリミネーターに迫る。
 エリミネーターは距離を取りつつ、斜め前の壁に銃を放った。2人を躱して飛び出して来た男が思わぬ方向からの跳弾に被弾し、怯んだところへ、逆に肉薄したエリミネーターが腕と襟首を掴んで地面へと投げ落とす。
 その光景に気が逸れた男を、エヴァンスは鍔迫り合いから一気に押し弾いた。刃の打ち合う音と同時に彼我の間に散る火花── 力任せの攻撃から一転、エヴァンスは流れる様な挙動で刀を振るい、男の手の甲を峰で強かに打ち据える。
 赤黒く晴れた手を押さえ、背を向け逃げ出す襲撃者。エヴァンスは追わなかった。エリミネーターと視線を交わして頷き合い……そのエリミネーターが適当に銃声を鳴り響かせつつ、シェパードのマックスに「追え」と短く指示を出す……

 逃げ果せた襲撃者の数は4人。4人がハンターたちの手によって捕らえられた。
「お前たち、ただの強盗じゃあるめぇ。首謀者の名前は?」
「……」
 念のためもう1本光の杭を打ち込むクリスの横で、尋問するJ・Dに男たちは答えない。
「どのルートで雇われた? どういった指示を受けていた?」
 葉巻に火をつけつつしゃがみ込み、煙を吹きかけながら、エリミネーター。答えず、唾を吐き捨てる男の顔面に、ブラウが刀の柄を叩き込む。
「おいおい、殺さねーでくださいよ?」
「殺さない。活人剣にはこういった使い方もある」
 シレークスに答えながら、ブラウは何度も柄を叩きこんだ。
「……腕の一本でも切り落とそうか? 二度と襲う気が起こらぬよう、一人くらいなら処刑しても」
 ブラウの目は本気だった。
 彼女には、連中の目的とかどうでもよかった。ただ、『あの人』が大切にする王都で好き勝手しようとした──相応の報いは受けさせないと。
「待て」
 男たちがついに折れた。雇い主にそこまでの──報酬以上の義理はない。
 自分たちは、指示された無人区にアジトを構え、渡りをつける男から手紙を受け取り、指示された目標を襲っただけ。誰が首謀者かは知らない。が、報酬の支払いが滞ったことはない──
「……余計な手間をかけさせてくれるなよな」
 溜息を吐きながら、クルスが男たちの傷を癒した。シレークスは手伝うつもりはなかった。……が、結局は手伝った。このような卑怯者ども、ぶん殴りたいのは同じであったが。
「……まあいい。どうせ背後関係もすぐに分からぁ」
 そう言ってJ・Dは、すっかり日の落ちた空を見上げた。いや、正確には屋根の上を。
 そこには既に誰もいなかった。今頃──柚子は、逃げ果せたと思っている男たちを追跡しているはずだ。

 柚子は追っていた。逃げた男たちの一人を。『隠の徒』で気配を消して。無人区の屋根を渡りながら。
 男たちが足を止め、追手がないか見回す度に。屋根の上の柚子も足を止め、身を屈めてやり過ごす。
 月がないのはありがたかった──影が空や地面に落ちないから。ただ、空が暗くなるにつれて、周囲が見難くなるのは困った。
 それは男たちも同様だったのだろう。彼らは適当な空き家で一夜を明かし、空が白ばみ初めてから移動を再開した。
 屋根の上で一夜を明かした柚子も、また追跡を再開する。
 やがて、男たちは元集会所と思しき大きな建物へと辿り着いた。他の方向に逃げた男たちもそこで合流した。
(ビンゴ!)
 今度こそアジトと判断して、柚子は仲間たちに位置を連絡した。同様に男たちを追跡して来たマックスを撫でながら、(裏口を抑えとかないと)と……
 動きかけた瞬間、件の建物から炎が上がった。

 後はもう大騒ぎだった。
 野次馬たちが溢れかえる中、駆けつけて来たドニの手下たちが慌てて破壊消防を行う。

 焼け跡から死体は出なかった。
 追跡の糸は断ち切られた。


「俺はこれ以上、シマで商家が襲われることを許容しない。これは損得の話でなく、俺の面子の問題だ」
 ドニの事務所の応接室── 「分かるな?」と念押すドニに、呼びつけられたノーサム商会の人間は無言で頭を下げ、出ていった。
「此度の件、いかにもノエルが犯人と言わんばかりの状況じゃが、そこが逆に怪し過ぎるのじゃ。内部犯行でないのなら、商売の独占を目論む商人連合──特に、わざわざ『裏切りません』と言ってきたノーサム商会が怪しい」
 ヴィルマが言う。
 襲撃者はプロだった。少なくとも首謀者にはそのプロを雇えるだけの財力がある。
 焼け跡に馬車はなかった。売っぱらったか、返したか…… 或いは、御者が生き残ったのも偶然じゃないかもしれない。
「だが、証拠は何もない」
 小狡い真似を、と鼻を鳴らすシレークスに、ドニが溜息を零した。
「今の俺には、ああ言って牽制しておくくらいの事しか出来ん」

依頼結果

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参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 王国騎士団非常勤救護班
    クルス(ka3922
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子(ka4625
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 商人襲撃事件相談卓
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/08/31 02:06:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/27 16:13:06