ゲスト
(ka0000)
ゴブリン温泉
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/27 12:00
- 完成日
- 2014/09/30 00:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●温泉露天風呂
ある山にある村があった。
その村には良質な温泉が近くにある。
村からちょっと山を登った所に、温泉露天風呂があるのだ。
遡る事、十数年前、村に現れた転移者が、貧しい山間の村の為に、温泉を見つけて整備したものだった。
「村長! また、温泉にゴブリンが出ました!」
血相を変えて村人が村長のもとに走ってくる。
「もう……ダメかもしれんの……」
村長がぐったりとする。
温泉はこの村にとって大事な存在だ。
露天風呂を訪れる観光客から得られる金銭は、この村の大事な収入源となっている。
「観光客が来なければ、村は潰れてしまう……」
村長の周りにいた村人達は悲観そうな表情を浮かべた。
「討伐隊がしっかりやってくれさえいれば!」
村人の誰かがそんな事を吐き捨てた。
●事件の発端
温泉露天風呂にゴブリンが現れたのは夏頃の事だった。
温泉に浸かっている無防備な人間を襲ってくるのだ。
幸いな事に怪我人はいなかったが、食べ物や物を盗まれた。
と、更に問題なのはここからだ。
温泉露天風呂の周囲は見晴らしがよい為、武装した兵士達が討伐に向かうと、ゴブリン共は山の中に一目散に逃げてしまうのだ。
兵士達はゴブリンを追いかけて山の中には入らなかった。
山の中は足場が悪く、思わぬ怪我や事故になる可能性があったからだ。
兵士達が去った後、観光客が来ると襲ってくる。
が、兵士達が来ると山の中に、ゴブリン共は逃げてしまう。
これの繰り返しだった。
●村人達の懐事情
しまいには、ゴブリンが出て危険な温泉という評判になってしまった。
猿ならまだしも、ゴブリンである。
こうして、客足は遠のいていく一方になってしまったのだ。
「ハンターにお願いしましょう!」
村人が提案した。
「しかし……我が村の蓄えはわずか……満足に報酬がだせないかもしれん」
申し訳なさそうに村長が口を開いた。
集まった村人一同も下を向くばかりだ。
観光客が戻ってこれば、蓄えもできるのだが……。
その時、一人の村人が顔を上げた。
「そうだ。報酬が少ない代わりに、ゆっくり温泉に入ってもらおう!」
その言葉に全員が顔を上げる。
「それはいい! あの温泉は良い湯だからな!」
ハンター達に、ゴブリン共を退治してもらい、同時に温泉で疲れもとってもらおう。
そうすれば、村の持ち出しも少なくて済むかもしれない。
さっそく、村長は依頼文を書き始めたのであった。
ある山にある村があった。
その村には良質な温泉が近くにある。
村からちょっと山を登った所に、温泉露天風呂があるのだ。
遡る事、十数年前、村に現れた転移者が、貧しい山間の村の為に、温泉を見つけて整備したものだった。
「村長! また、温泉にゴブリンが出ました!」
血相を変えて村人が村長のもとに走ってくる。
「もう……ダメかもしれんの……」
村長がぐったりとする。
温泉はこの村にとって大事な存在だ。
露天風呂を訪れる観光客から得られる金銭は、この村の大事な収入源となっている。
「観光客が来なければ、村は潰れてしまう……」
村長の周りにいた村人達は悲観そうな表情を浮かべた。
「討伐隊がしっかりやってくれさえいれば!」
村人の誰かがそんな事を吐き捨てた。
●事件の発端
温泉露天風呂にゴブリンが現れたのは夏頃の事だった。
温泉に浸かっている無防備な人間を襲ってくるのだ。
幸いな事に怪我人はいなかったが、食べ物や物を盗まれた。
と、更に問題なのはここからだ。
温泉露天風呂の周囲は見晴らしがよい為、武装した兵士達が討伐に向かうと、ゴブリン共は山の中に一目散に逃げてしまうのだ。
兵士達はゴブリンを追いかけて山の中には入らなかった。
山の中は足場が悪く、思わぬ怪我や事故になる可能性があったからだ。
兵士達が去った後、観光客が来ると襲ってくる。
が、兵士達が来ると山の中に、ゴブリン共は逃げてしまう。
これの繰り返しだった。
●村人達の懐事情
しまいには、ゴブリンが出て危険な温泉という評判になってしまった。
猿ならまだしも、ゴブリンである。
こうして、客足は遠のいていく一方になってしまったのだ。
「ハンターにお願いしましょう!」
村人が提案した。
「しかし……我が村の蓄えはわずか……満足に報酬がだせないかもしれん」
申し訳なさそうに村長が口を開いた。
集まった村人一同も下を向くばかりだ。
観光客が戻ってこれば、蓄えもできるのだが……。
その時、一人の村人が顔を上げた。
「そうだ。報酬が少ない代わりに、ゆっくり温泉に入ってもらおう!」
その言葉に全員が顔を上げる。
「それはいい! あの温泉は良い湯だからな!」
ハンター達に、ゴブリン共を退治してもらい、同時に温泉で疲れもとってもらおう。
そうすれば、村の持ち出しも少なくて済むかもしれない。
さっそく、村長は依頼文を書き始めたのであった。
リプレイ本文
●注意事項
温泉やお風呂場等、マナーを守って入りましょう!
●潜むハンター達
暗闇に乗じ、5人のハンターが、温泉露天風呂脇の小屋の中へ潜り込んだ。
男性更衣室にただ一人、不知火陽炎(ka0460)がいた。
(ここからが、本番ですね。上手にできればいいのですが)
幸運な事に夜空は暗かった。必要なら匍匐してでも小屋に辿りつくつもりではいた。
潜んでいるのがバレないように極力、光源も使わない。
壁一面に設置された木製の棚。その一番下の所の棚板を外し、スペースを二つ作った。
一つには榊から預かった槍を隠し、もう一つに身体を潜める。
「準備完了です」
魔導短伝話で女子更衣室にいるハンターに報告を入れた。
「不知火さんは準備ができたみたいだね」
魔導短伝話で連絡を受けたのを、女子更衣室に潜む全員に、静かに告げたのは、アイビス・グラス(ka2477)だ。
「ゴブリン達を倒して村の人達を安心させないとね」
彼女の台詞に頷きが聞こえる。
「あとは、ここの温泉は以前から興味あったしね」
またもや、頷きが聞こえた。
無事にゴブリン達を討伐できたら、貸切で露天風呂を借りられるのだ。そうそう機会がある事じゃない。
「温泉を狙うとは言語道断です」
静かに、それでも、力強く言ったのはリーリア・バックフィード(ka0873)であった。
「人々の潤いであり心の休息である温泉! それを狙い邪魔をするなど許しません。鬼畜の所業に相応しい末路を用意します」
小屋の中は真っ暗なので、見えないのだが、きっと、このご令嬢は、高貴な身振りをしていた事だろう。
村人から情報を貰う時も、礼儀正しく訊ねていた様子だった。
「村の存亡を護る為に、そして、温泉を堪能する為に、私達は一肌脱いで……もとい、水着を着ましょうか」
持参した水着を楽しみにしながら、棚に置く。
とりあえずは、ゴブリン退治からだ。
「にしても、暑いですわね。早く温泉に入りたいです」
温泉が近いのか、小屋の中は夜でも冷える事なく暑かった。
これが、涼しかったら、きっと、寝落ちしていたかもしれないと、ミウ・ミャスカ(ka0421)は思う。
眠気に耐える様に、あくびをかみ殺しながら、ウトウトとしてしまう。
「温泉で悪さするなんて悪いゴブリンだね。温泉の後に寝るのは、とても気持ちいいのに……」
早く倒して温泉でほっこりしたいなと言葉を続けながら、お気に入りの水着を、更衣室の棚に隠す。
またあくびがでた。合図が来るまで、眠気との戦いは続きそうだ。
「確認し忘れはないかしら?」
そう呟いたのは、結城 藤乃(ka1904)だ。
依頼主の村で自分達が、村人から得た情報を再確認する。
地形やゴブリンの進退路、小屋の間取り等。
他には、報告にあがっている以外のゴブリンがいないかどうか、面白半分で村人がここに近付いていないか。
色々と思案に更けながら、ゴブリンを警戒し、部屋の隅で神経を研ぎ澄ませながら潜伏をする。
夜空がわずかにだが、朝に向かって明るくなってきた。
●褌とゴブリンと
朝日が眩しい中、榊 兵庫(ka0010)が独り、露天風呂へ向かって歩いている。
「収入源を奪われては村にとっては死活問題だし、な」
そんな風に呟いて、ふと、視界の中に、湧水が溢れだしている場所を見つけた。
いくつか、飲み物の瓶が置かれている。ご丁寧な事に、仲間達の名前まで書いてある。
「風呂上がりには、いいことだな」
湧水からもう少し歩いた所に、更衣室の小屋がある。
ゴブリン達を逃がさない為に、十分に練った作戦通り、きっと、仲間達は上手に潜伏しているのだろう。
彼は男子更衣室の中に入った。その直前、見上げた先の木々が不自然に揺れるのを見逃しはしなかった。
「榊さん、槍はその棚下の一番下です」
どこからか、小さい声がした。更衣室の中に隠れている不知火だろう。
「ゴブリンが、俺の方に来た時は頼む」
さすがに、囮役が大きい槍を持って温泉に入るわけにはいかない。
露天風呂で戦闘になったら、不知火から槍を受け取る作戦なのだ。
褌一丁になり、短剣を包んだタオルと桶を持って、温泉側の戸を開ける。
ゴツゴツした岩場の中に、露天風呂があった。黄土色に濁った湯は濃く、かけ湯をしようと湯の中に入れた桶の先が見えなくなる程だ。
かけ湯をしてから湯の中に身体を沈めた。
「これは、良い湯だな」
ヌルっとするわけではないが、ただの水を沸かしたお湯とは違う肌触りに、榊がそんな感想を呟く。
筋肉痛や冷え性に効果がある……らしいが、湯の感じから、それが嘘ではなさそうだと思った。
その時、山の方から、なにかの叫び声がした。
薄い湯煙の中を、ゴブリン達が現れる。
榊は、ゴブリンを引き付ける為、一般人を装うと、わざと驚いた表情を浮かべた。
わざとらしい表情だが、ゴブリンには分からないようだ。
3匹のうち、2匹が近寄ってきたが、見張りの為か、山に近い所で1匹が残っている。
2匹のゴブリンはこん棒の様な物を振り回しながら、榊に襲いかかってきた。
が、守りに徹している榊には掠りもしない。わざとらしく当たってもいいかと思うぐらいだ。
「番頭!」
榊の合図と共に、不知火が魔導短伝話で戦闘開始を通達すると、素早い動きで、身を隠していた場所から抜け出し、榊の槍を掴んで小屋から飛び出した。
一方女子更衣室から真っ先に飛び出したのは、リーリアだった。
ゴブリンの動きをよく観察……しようとした視界の中に、プリプリとした榊のなにかが視界に入る。
(なんて、水着なのです!)
リアルブルーの水着なのだろう。だが、今は気にしている場合ではない。
2匹の背後に廻ろうと、ごつごつした岩場の中でも、安定した場所を選びながら、疾走する。
「絶対に逃がしませんから安心して下さい。貴方達が行くべき道は、片道切符の地獄です」
ゴブリンの動きを牽制する為に、武器を薙ぎ払う。
なんとしてでも、ゴブリンを逃がさないつもりだ。
リーリアと少し距離を離し、アイビスも走る。山への退路を塞ぐつもりなのだ。
(お風呂場で走っちゃいけないって言われていたっけ)
ふと、幼い頃に怒られた事を思い出す。
それが、一瞬、アイビスの意識を動かした。薄い湯煙の中、山に近い所に3匹目のゴブリンがいる事を見つけたのだ。
とっさに、背後で銃を構えているであろう仲間の射線上から外れながら、手裏剣を投げる。
「投擲攻撃はあまり好きじゃないんだけど、四の五をいう訳には行かないのよ……ねっ!」
距離があるので、当たらないだろう。だが、当てるのが目的ではない。
その方向に、ゴブリンがいると知らせる事が大事と判断したからだ。
そして、そのアイビスの判断は正しかった。小屋の近くで銃を構えていた結城は、彼女の動きを見過ごさなかったから。
視覚と感覚を集中させ、狙い定め、放った一撃は、湯煙の中というのに、ゴブリンの急所を正確に射抜く。
ゴブリンは一瞬硬直したかと思うと、バタリと倒れた。
「温泉は癒される所なんだよ?」
褌一丁の榊とゴブリンの間に立ち、ミウが、そう言いながら、赤い刀身の刀を振り上げ、ゴブリンに睨みつける。
睨みつけらたゴブリンは逃げる事も忘れ、恐怖に慄く。
「榊さん!」
不知火が槍を投げ渡した。
そして、拳銃を構えると前衛の援護にまわる。
これで、ゴブリンの注意はミウに向けられているはずだろうからと、榊は敵の死角から攻撃しようと移動した。
不知火の援護の下、ミウが大きく刀を振りぬき、榊がゴブリンの死角から鋭く突く。
大小の岩を踏み台にしてリーリアが立体的な機動から、もう1匹の逃げようとするゴブリンに槍を突きを繰り出した。
ゴブリンは避ける事もできず、貫かれる。トドメとばかり、アイビスが放った手裏剣が突き刺る。
1人褌姿とはいえ、残り全員完全武装のハンター5人だ。ゴブリン2匹では勝負にすらならない。
案の定、あっという間に、ゴブリン達は岩場を汚す肉塊へと変わったのだった。
●温泉露天風呂
ササっと、戦闘の後始末をして、榊と不知火から先に温泉に入る。
温泉から見える景色は、絶景の一言だ。背後の山以外、広がる草原と依頼主の村が眼下に見えた。
確かに、これでは、武装した兵士が温泉を目指してきたら、ゴブリン達は逃げてしまうだろう。
背後の山の木々は少しではあったが、紅葉している。それもまた、情緒があって、とても良い。
「……囮になっている間は、ゆっくり温泉を味わうゆとりもなかったから、な。問題が片付いたのだし、ゆったりと余禄を楽しませて貰う事としよう」
榊が、絶景を楽しみながら、満足そうな表情を浮かべる。
ハンター推奨の温泉と大々的に宣伝してもバチは当たるまいとも思う。
「それにしても、この独特の匂いが、温泉の雰囲気ですね」
不知火が大きく深呼吸をする。
確かに、温泉独特の匂いが鼻についた。
「汚い屋敷の悪臭だと、気が滅入るが、こういう場で、この匂いは気にはならないな」
「あれは、酷かったですね……」
異臭漂う屋敷を片付けたのも、振り返れば、笑い話だ。
それなりに湯を堪能した榊と不知火が、一足先に村へと帰る道を歩いていく姿を確認し、ビキニ姿のアイビスが小屋の戸を開けた。
「不埒な事したら手裏剣の的にするつもりだったのに」
「アイビスさん、その台詞では、むしろ、手裏剣を投げたかった様にしか聞こえないですわよ」
黒のビキニにパレオ姿のリーリアが苦笑を浮かべる。
「お気に入りの水着、また着られて嬉しいな」
ミウが嬉しそうな表情でウキウキしている。その姿は、白を基調としたフリルスカート付きのワンピース水着姿だった。
「露天風呂なんて、何時以来かしらね」
ビキニ姿の結城も小屋から出てきた。
村から水着を貸し出すともいう話もあったが、全員、持参してきたようだ。
「みんな、気合いが入っているみたいね」
「レディーとしての嗜みですわ」
アイビスの台詞に、優雅な身振りと表情をするリーリア。そして、黒いビキニとは対照的な白いワンピース水着姿のミウに視線を変える。
「ミウさんも、フリルがとっても可愛いですわ」
褒められて、えへへと笑顔を見せるミウ。
アイビスが先にお湯に入り、
「やっぱり、温泉っていいよね~♪」
と、笑顔で言いながら、突然、湯を蹴りあげ、3人に湯を浴びせる。
「やるわね……」
結城がスッと桶を手に持って、風呂に入ると、豪快にお湯をぶちまた。
あっという間にリーリアとミウの水着がビショビショになる。
「やったわね~」
「わたしも~」
途端、激しいお湯かけの戦いが始まった。
楽しそうな歓声が辺りに響き渡る。
その喧騒は村に向かっていた榊と不知火にも聞こえた。
「なんだか、凄く盛り上がっていますね」
「女三人寄ればなんたらというぐらいだしな」
顎に手をやりながら、頷く榊。
「あ。ミネラルウォーター忘れていました」
不知火が、小屋に至る前の湧水で冷やしていた飲み物を思い出した。
「そういえば、喉が渇いたな」
「取りにいきますか」
2人は来た道を引き返すのだった。
お湯かけが過ぎ、リーリアのパレオを奪い合うという謎のゲームで温泉を走り回ったり、誰が上手に泳げるかと競泳が始まったり、雄大な景色に向かって大声で叫ぶ等、彼女らは、貸切露天風呂を十分に堪能した。
「楽しかった~。また来ようかな……」
「あ、温泉卵とかあります?」
ミウとリーリアが並んで湯に浸かって、そんな感想をついた。
散々に遊んだからか、ぐったりしている。
「そうですわ。飲み物を……」
湧水で冷やしていた飲み物を思い出す。温泉に入りながら優雅に飲みたいと思っていたのだ。
「私が取ってこようか?」
アイビスが声をかける。
彼女はまだまだ元気なようだ。
「ありがとう。お願いするわ」
返事の代わりに笑顔で手を挙げて、温泉から出ていくアイビス。
隣にいるミウがウトウトとしてきた。
眠くなってきたのだろう。
こっくりこっくりとするが、その度に、顔が温泉について「んむぁ!?」とビックリしている。
「仕方ないわね。ほら、もっと、こっちに」
ミウの肩に手を回した。
成すがままに、リーリアに寄りかかり、静かに寝息を立てるミウ。
「……ふぅ、良い湯です」
ミウの眠気が伝染したのか、リーリアもウトウトし始めた。
「まさかとは思ったけど、覗きに戻ってきたのね!」
アイビスが湧水が湧き出る場所で、榊と不知火に背後から声をかけた。
彼らはちょうど、喉の渇きを癒していただけなのだが……。
振り返った彼らの目には、手裏剣を構えたアイビスの怒りの表情が映っていた。
「ご、誤解です!」
「待て、話せばわかる」
後ずさる2人。
「……問答無用!」
悲鳴が辺りに響きわたったのは言うまでもない。
結城は温泉に浸かりながら、景色をただ眺めていた。
ウィスキーが入ったグラスを手にしている。
「今回は別行動だけれど、ちゃんとやれてるのかしら……」
ふと、雇い主の青年を思い出す。
その姿が、リアルブルーでの歪虚襲来時に、一緒に出撃した若い上官と重なった。
真っ直ぐで、諦めが悪くて……。
「……似てるのよねぇ」
あの時からどの位経ったのだろう。
眼の前で起こった信じられない悲劇が、明確な感覚として蘇った。
かき消す様に、ウィスキーを一気に飲み干す。
そうする事で、辛い記憶を沈めたと思ったら、代わりに雇い主の青年の事を、またもや思い出す。
夏に受けた依頼で、浜辺で起こったちょっとしたアクシデントと、唇が触れ合いそうな程に近い青年の顔を。
「らしくないわね……」
急に火照ったのは、飲みほしたウィスキーのせいだと決めつける。
濁り湯を承知で、湯の中に沈む結城であった。
おしまい。
温泉やお風呂場等、マナーを守って入りましょう!
●潜むハンター達
暗闇に乗じ、5人のハンターが、温泉露天風呂脇の小屋の中へ潜り込んだ。
男性更衣室にただ一人、不知火陽炎(ka0460)がいた。
(ここからが、本番ですね。上手にできればいいのですが)
幸運な事に夜空は暗かった。必要なら匍匐してでも小屋に辿りつくつもりではいた。
潜んでいるのがバレないように極力、光源も使わない。
壁一面に設置された木製の棚。その一番下の所の棚板を外し、スペースを二つ作った。
一つには榊から預かった槍を隠し、もう一つに身体を潜める。
「準備完了です」
魔導短伝話で女子更衣室にいるハンターに報告を入れた。
「不知火さんは準備ができたみたいだね」
魔導短伝話で連絡を受けたのを、女子更衣室に潜む全員に、静かに告げたのは、アイビス・グラス(ka2477)だ。
「ゴブリン達を倒して村の人達を安心させないとね」
彼女の台詞に頷きが聞こえる。
「あとは、ここの温泉は以前から興味あったしね」
またもや、頷きが聞こえた。
無事にゴブリン達を討伐できたら、貸切で露天風呂を借りられるのだ。そうそう機会がある事じゃない。
「温泉を狙うとは言語道断です」
静かに、それでも、力強く言ったのはリーリア・バックフィード(ka0873)であった。
「人々の潤いであり心の休息である温泉! それを狙い邪魔をするなど許しません。鬼畜の所業に相応しい末路を用意します」
小屋の中は真っ暗なので、見えないのだが、きっと、このご令嬢は、高貴な身振りをしていた事だろう。
村人から情報を貰う時も、礼儀正しく訊ねていた様子だった。
「村の存亡を護る為に、そして、温泉を堪能する為に、私達は一肌脱いで……もとい、水着を着ましょうか」
持参した水着を楽しみにしながら、棚に置く。
とりあえずは、ゴブリン退治からだ。
「にしても、暑いですわね。早く温泉に入りたいです」
温泉が近いのか、小屋の中は夜でも冷える事なく暑かった。
これが、涼しかったら、きっと、寝落ちしていたかもしれないと、ミウ・ミャスカ(ka0421)は思う。
眠気に耐える様に、あくびをかみ殺しながら、ウトウトとしてしまう。
「温泉で悪さするなんて悪いゴブリンだね。温泉の後に寝るのは、とても気持ちいいのに……」
早く倒して温泉でほっこりしたいなと言葉を続けながら、お気に入りの水着を、更衣室の棚に隠す。
またあくびがでた。合図が来るまで、眠気との戦いは続きそうだ。
「確認し忘れはないかしら?」
そう呟いたのは、結城 藤乃(ka1904)だ。
依頼主の村で自分達が、村人から得た情報を再確認する。
地形やゴブリンの進退路、小屋の間取り等。
他には、報告にあがっている以外のゴブリンがいないかどうか、面白半分で村人がここに近付いていないか。
色々と思案に更けながら、ゴブリンを警戒し、部屋の隅で神経を研ぎ澄ませながら潜伏をする。
夜空がわずかにだが、朝に向かって明るくなってきた。
●褌とゴブリンと
朝日が眩しい中、榊 兵庫(ka0010)が独り、露天風呂へ向かって歩いている。
「収入源を奪われては村にとっては死活問題だし、な」
そんな風に呟いて、ふと、視界の中に、湧水が溢れだしている場所を見つけた。
いくつか、飲み物の瓶が置かれている。ご丁寧な事に、仲間達の名前まで書いてある。
「風呂上がりには、いいことだな」
湧水からもう少し歩いた所に、更衣室の小屋がある。
ゴブリン達を逃がさない為に、十分に練った作戦通り、きっと、仲間達は上手に潜伏しているのだろう。
彼は男子更衣室の中に入った。その直前、見上げた先の木々が不自然に揺れるのを見逃しはしなかった。
「榊さん、槍はその棚下の一番下です」
どこからか、小さい声がした。更衣室の中に隠れている不知火だろう。
「ゴブリンが、俺の方に来た時は頼む」
さすがに、囮役が大きい槍を持って温泉に入るわけにはいかない。
露天風呂で戦闘になったら、不知火から槍を受け取る作戦なのだ。
褌一丁になり、短剣を包んだタオルと桶を持って、温泉側の戸を開ける。
ゴツゴツした岩場の中に、露天風呂があった。黄土色に濁った湯は濃く、かけ湯をしようと湯の中に入れた桶の先が見えなくなる程だ。
かけ湯をしてから湯の中に身体を沈めた。
「これは、良い湯だな」
ヌルっとするわけではないが、ただの水を沸かしたお湯とは違う肌触りに、榊がそんな感想を呟く。
筋肉痛や冷え性に効果がある……らしいが、湯の感じから、それが嘘ではなさそうだと思った。
その時、山の方から、なにかの叫び声がした。
薄い湯煙の中を、ゴブリン達が現れる。
榊は、ゴブリンを引き付ける為、一般人を装うと、わざと驚いた表情を浮かべた。
わざとらしい表情だが、ゴブリンには分からないようだ。
3匹のうち、2匹が近寄ってきたが、見張りの為か、山に近い所で1匹が残っている。
2匹のゴブリンはこん棒の様な物を振り回しながら、榊に襲いかかってきた。
が、守りに徹している榊には掠りもしない。わざとらしく当たってもいいかと思うぐらいだ。
「番頭!」
榊の合図と共に、不知火が魔導短伝話で戦闘開始を通達すると、素早い動きで、身を隠していた場所から抜け出し、榊の槍を掴んで小屋から飛び出した。
一方女子更衣室から真っ先に飛び出したのは、リーリアだった。
ゴブリンの動きをよく観察……しようとした視界の中に、プリプリとした榊のなにかが視界に入る。
(なんて、水着なのです!)
リアルブルーの水着なのだろう。だが、今は気にしている場合ではない。
2匹の背後に廻ろうと、ごつごつした岩場の中でも、安定した場所を選びながら、疾走する。
「絶対に逃がしませんから安心して下さい。貴方達が行くべき道は、片道切符の地獄です」
ゴブリンの動きを牽制する為に、武器を薙ぎ払う。
なんとしてでも、ゴブリンを逃がさないつもりだ。
リーリアと少し距離を離し、アイビスも走る。山への退路を塞ぐつもりなのだ。
(お風呂場で走っちゃいけないって言われていたっけ)
ふと、幼い頃に怒られた事を思い出す。
それが、一瞬、アイビスの意識を動かした。薄い湯煙の中、山に近い所に3匹目のゴブリンがいる事を見つけたのだ。
とっさに、背後で銃を構えているであろう仲間の射線上から外れながら、手裏剣を投げる。
「投擲攻撃はあまり好きじゃないんだけど、四の五をいう訳には行かないのよ……ねっ!」
距離があるので、当たらないだろう。だが、当てるのが目的ではない。
その方向に、ゴブリンがいると知らせる事が大事と判断したからだ。
そして、そのアイビスの判断は正しかった。小屋の近くで銃を構えていた結城は、彼女の動きを見過ごさなかったから。
視覚と感覚を集中させ、狙い定め、放った一撃は、湯煙の中というのに、ゴブリンの急所を正確に射抜く。
ゴブリンは一瞬硬直したかと思うと、バタリと倒れた。
「温泉は癒される所なんだよ?」
褌一丁の榊とゴブリンの間に立ち、ミウが、そう言いながら、赤い刀身の刀を振り上げ、ゴブリンに睨みつける。
睨みつけらたゴブリンは逃げる事も忘れ、恐怖に慄く。
「榊さん!」
不知火が槍を投げ渡した。
そして、拳銃を構えると前衛の援護にまわる。
これで、ゴブリンの注意はミウに向けられているはずだろうからと、榊は敵の死角から攻撃しようと移動した。
不知火の援護の下、ミウが大きく刀を振りぬき、榊がゴブリンの死角から鋭く突く。
大小の岩を踏み台にしてリーリアが立体的な機動から、もう1匹の逃げようとするゴブリンに槍を突きを繰り出した。
ゴブリンは避ける事もできず、貫かれる。トドメとばかり、アイビスが放った手裏剣が突き刺る。
1人褌姿とはいえ、残り全員完全武装のハンター5人だ。ゴブリン2匹では勝負にすらならない。
案の定、あっという間に、ゴブリン達は岩場を汚す肉塊へと変わったのだった。
●温泉露天風呂
ササっと、戦闘の後始末をして、榊と不知火から先に温泉に入る。
温泉から見える景色は、絶景の一言だ。背後の山以外、広がる草原と依頼主の村が眼下に見えた。
確かに、これでは、武装した兵士が温泉を目指してきたら、ゴブリン達は逃げてしまうだろう。
背後の山の木々は少しではあったが、紅葉している。それもまた、情緒があって、とても良い。
「……囮になっている間は、ゆっくり温泉を味わうゆとりもなかったから、な。問題が片付いたのだし、ゆったりと余禄を楽しませて貰う事としよう」
榊が、絶景を楽しみながら、満足そうな表情を浮かべる。
ハンター推奨の温泉と大々的に宣伝してもバチは当たるまいとも思う。
「それにしても、この独特の匂いが、温泉の雰囲気ですね」
不知火が大きく深呼吸をする。
確かに、温泉独特の匂いが鼻についた。
「汚い屋敷の悪臭だと、気が滅入るが、こういう場で、この匂いは気にはならないな」
「あれは、酷かったですね……」
異臭漂う屋敷を片付けたのも、振り返れば、笑い話だ。
それなりに湯を堪能した榊と不知火が、一足先に村へと帰る道を歩いていく姿を確認し、ビキニ姿のアイビスが小屋の戸を開けた。
「不埒な事したら手裏剣の的にするつもりだったのに」
「アイビスさん、その台詞では、むしろ、手裏剣を投げたかった様にしか聞こえないですわよ」
黒のビキニにパレオ姿のリーリアが苦笑を浮かべる。
「お気に入りの水着、また着られて嬉しいな」
ミウが嬉しそうな表情でウキウキしている。その姿は、白を基調としたフリルスカート付きのワンピース水着姿だった。
「露天風呂なんて、何時以来かしらね」
ビキニ姿の結城も小屋から出てきた。
村から水着を貸し出すともいう話もあったが、全員、持参してきたようだ。
「みんな、気合いが入っているみたいね」
「レディーとしての嗜みですわ」
アイビスの台詞に、優雅な身振りと表情をするリーリア。そして、黒いビキニとは対照的な白いワンピース水着姿のミウに視線を変える。
「ミウさんも、フリルがとっても可愛いですわ」
褒められて、えへへと笑顔を見せるミウ。
アイビスが先にお湯に入り、
「やっぱり、温泉っていいよね~♪」
と、笑顔で言いながら、突然、湯を蹴りあげ、3人に湯を浴びせる。
「やるわね……」
結城がスッと桶を手に持って、風呂に入ると、豪快にお湯をぶちまた。
あっという間にリーリアとミウの水着がビショビショになる。
「やったわね~」
「わたしも~」
途端、激しいお湯かけの戦いが始まった。
楽しそうな歓声が辺りに響き渡る。
その喧騒は村に向かっていた榊と不知火にも聞こえた。
「なんだか、凄く盛り上がっていますね」
「女三人寄ればなんたらというぐらいだしな」
顎に手をやりながら、頷く榊。
「あ。ミネラルウォーター忘れていました」
不知火が、小屋に至る前の湧水で冷やしていた飲み物を思い出した。
「そういえば、喉が渇いたな」
「取りにいきますか」
2人は来た道を引き返すのだった。
お湯かけが過ぎ、リーリアのパレオを奪い合うという謎のゲームで温泉を走り回ったり、誰が上手に泳げるかと競泳が始まったり、雄大な景色に向かって大声で叫ぶ等、彼女らは、貸切露天風呂を十分に堪能した。
「楽しかった~。また来ようかな……」
「あ、温泉卵とかあります?」
ミウとリーリアが並んで湯に浸かって、そんな感想をついた。
散々に遊んだからか、ぐったりしている。
「そうですわ。飲み物を……」
湧水で冷やしていた飲み物を思い出す。温泉に入りながら優雅に飲みたいと思っていたのだ。
「私が取ってこようか?」
アイビスが声をかける。
彼女はまだまだ元気なようだ。
「ありがとう。お願いするわ」
返事の代わりに笑顔で手を挙げて、温泉から出ていくアイビス。
隣にいるミウがウトウトとしてきた。
眠くなってきたのだろう。
こっくりこっくりとするが、その度に、顔が温泉について「んむぁ!?」とビックリしている。
「仕方ないわね。ほら、もっと、こっちに」
ミウの肩に手を回した。
成すがままに、リーリアに寄りかかり、静かに寝息を立てるミウ。
「……ふぅ、良い湯です」
ミウの眠気が伝染したのか、リーリアもウトウトし始めた。
「まさかとは思ったけど、覗きに戻ってきたのね!」
アイビスが湧水が湧き出る場所で、榊と不知火に背後から声をかけた。
彼らはちょうど、喉の渇きを癒していただけなのだが……。
振り返った彼らの目には、手裏剣を構えたアイビスの怒りの表情が映っていた。
「ご、誤解です!」
「待て、話せばわかる」
後ずさる2人。
「……問答無用!」
悲鳴が辺りに響きわたったのは言うまでもない。
結城は温泉に浸かりながら、景色をただ眺めていた。
ウィスキーが入ったグラスを手にしている。
「今回は別行動だけれど、ちゃんとやれてるのかしら……」
ふと、雇い主の青年を思い出す。
その姿が、リアルブルーでの歪虚襲来時に、一緒に出撃した若い上官と重なった。
真っ直ぐで、諦めが悪くて……。
「……似てるのよねぇ」
あの時からどの位経ったのだろう。
眼の前で起こった信じられない悲劇が、明確な感覚として蘇った。
かき消す様に、ウィスキーを一気に飲み干す。
そうする事で、辛い記憶を沈めたと思ったら、代わりに雇い主の青年の事を、またもや思い出す。
夏に受けた依頼で、浜辺で起こったちょっとしたアクシデントと、唇が触れ合いそうな程に近い青年の顔を。
「らしくないわね……」
急に火照ったのは、飲みほしたウィスキーのせいだと決めつける。
濁り湯を承知で、湯の中に沈む結城であった。
おしまい。
依頼結果
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面白かった! | 6人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/22 18:38:03 |
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相談卓 リーリア・バックフィード(ka0873) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/09/27 11:49:40 |