【歪型】無限ライフルが竜を招く

マスター:馬車猪

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/11 15:00
完成日
2016/09/14 16:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 脅威に抵抗するにはどうすればよいか。
 まずは相手を知らなくては話にならない。
 たとえそれがVOIDであっても。

            対VOID戦初期に書かれた遺書


●歪虚の欠片
 CAM奪還ゲームから始まった一連の攻防で、複数のCAMが歪虚に奪われその一部が奪還された。
 ある機体は修理されて前線に送られ、ある機体は部品取りに使われその生涯を終えた。
 残ったのは安全を確認できなかった極少数の部品のみ。
 そして、この極少数がきっかけにろくでもない騒動が始まろうとしていた。
「凄いぞこれは!」
 研究者達が歓声をあげる。
 実験開始から13分が経過した。
 弾倉はとっくに空のはずなのに、V型30mmアサルトライフルの射撃が未だに継続中だ。
「これを配備すればVOIDなどっ」
 1つのパーツを組み込むだけで市販武器が残弾無限の超兵器に変貌する。
 楽しすぎて頭がどうにかなりそうだ。
「所長、ロッソからです。大至急所長を出せと」
 事務員が淡々とした口調で受話器を差し出した。
「ちっ、はいはいこちら……何? 聖堂教会?」
 不機嫌さを隠しもせずに受話器を受け取り、言葉を交わすたびに所長の顔色が悪くなっていく。
「馬鹿な」
 ちらりと別のモニターを見る。
 厳重に鍵をかけてたはずの正門が丁度吹き飛ぶところだった。
 全身鎧にメイス装備の集団が研究所に押し入って来る。
 現代的建造物と武装宗教勢力の組み合わせは非常にシュールだ。
「警備員は」
「全員捕縛されていま……いえ一部警備員が襲撃者を先導しています!」
 そうしたくなる気持ちは分かるけど、というつぶやきは所長の耳に届かない。
「全ゲートを封鎖しろ。最悪でもV兵器は奴らに渡すな!」
「間に合いませんっ」
 研究所の壁がメイスに乱打される。
 襲撃者が皆無言なので非常に怖い。
「所長!」
「ええいCAMを出せ!」
「違います。そこからどかないと危なっ」
 所長の背後の壁にひびが入って崩れ落ち、小さな欠片が所長の頭頂を掠めて髪を薄くする。
「聖堂教会から参りました」
 聖職者が残骸を踏み越え研究所の中枢へ踏み込む。
 浮かべた笑みは表情は明らかに作り笑いで、目は控えめに表現して大量殺人者風だ。
「事情、聞かせてもらいますね?」
 虚言イコール死であることを確信し、歪虚装備研究班一同は全員そろって降伏した。

●聖堂教会の意見
「でーすーかーらー」
 イコニア・カーナボン(kz0040)が全力で執務机をぶったたいた。
 ぱちーん、と良い音がして手が時間差で赤くなり碧の瞳に涙が浮かぶ。
「何も研究するなって言ってるんじゃないんです」
 ディスプレイはV型30mmアサルトライフルを写し続けている。
 射撃は止まり、見るからに清浄な雰囲気を漂わせる縄で雁字搦めにされていた。
「やるなら安全にと言ってるんです!」
 ふしゅー、とイコニアの口から正のマテリアルが漏れている。
 実験材料にしたいなと所長が考えた瞬間、イコニアの瞳に殺気が滲んだ。
 慌てて所長が反論する。
「いやしかしだね司祭さん。審問官だったかね? 熱心なエクラ教徒に知られると妨害どころかテ」
「こんなザル警備なら審問官じゃなくても怒って殴り込みます!」
 ばちーん、と叩いてまた涙目になる。
「歪虚CAMからはぎ取った部品を使っているのになんですかこの薄い警備は」
 護衛も研究者も既に傷一つない。
 一部に怪我した者がいたがヒールで治療済みだ。ただし髪は除く。
「歪虚が現れたり歪虚汚染が発生したら何も出来ずに全滅ですよ全滅! どうせ死ぬなら死ぬ前に情報を渡せる手筈を整えてください」
「いや死にたくは……」
 碧の瞳がぎろりと動く。
「サルヴァトーレ・ロッソの主砲の前で実験するとか、歪虚ごと吹き飛ばせる爆薬を身につけて実験するなら私たちも文句は言いません」
 そんな危険な真似出来るかと言いかけた所長の目の前に、ロッソに繋がりっぱなしの受話器が差し出された。
『すまない艦長に気づかれた。これ以上は援護できない』
「梯子を外す気か!」
 所長が抗議したときには、わざとわしい着信拒否の音声が受話器から聞こえていた。
「聖堂教会とロッソで話がまとまるまでこの施設は封鎖します」
 いいですねとイコニアが言い終わる前に、神経を逆なでする警報が響き渡る。
 強力な歪虚を感知したのだ。
 V型アサルトライフルが明滅する。
 純白の紐が数秒で腐れ落ち、弾倉部分に小さな鱗が浮かびあがって広がっていく。
 鱗の範囲が拡大する。
 放置されていたデュミナス1機分の部品が薄い鱗に覆われ尽くし、V型アサルトライフルに引き寄せられた。
「素晴らしい反応だ」
 所長は、全く懲りていなかった。

●復活の歪虚CAM
 聖堂戦士団が実験室へ突入した時には手遅れだった。
 鱗付きデュミナスが立ち上がり、銃口まで鱗で覆われた銃を重装クルセイダーたちに向けた。
「構え!」
 非常識な厚さの盾が壁をつくる。
 30ミリ弾が次々着弾するが、少し揺れる程度で全然崩れない。
「装填動作が始まると同時に突撃する」
 だが、銃撃は10分経っても終わらなかった。
「よろしくお願いします」
 ハンターオフィスへの連絡を終え、少女司祭は疲れた息を吐いた。
 仕事中に緊急連絡を受けここまで急行してきたので装備も部下も借り物だ。
 だから、戦場での指揮権は戦士団で責任だけとらされるという損な立場に置かれている。
 本人的には、絶対に前に出るなと聖堂戦士団に言われたのが最大の損だが。
「所長! 予備のCAMがっ」
 建物が激しく揺れる。
 研究員が外部のカメラを操作し大型ディスプレイにつなぐ。
 魔導型デュミナスが不格好に立ち止まり、非覚醒者らしい研究員が必死の形相で飛び降り逃げ出す場面が映し出された。
 スラスターが発光する。
 以前見たときより数倍は光が強い。
「V型スラスター試験機もだとぅ!」
 所長は、データがとれて非常に嬉しそうだった。

●ブリーフィング
 あなたは僻地の研究所へ急行中だ。
『現場の聖堂戦士団はスキルを使い尽くして後退、現在は格納庫の1つに立てこもっています。
 複数の中継器を介しているせいか、通信機から聞こえるハンターオフィス職員の声は終始ひび割れている。
『現地では歪虚CAMの残骸を使った実験が行われていました。万一に備えてCAMも配備されていたようですが』
 全機乗っ取られたらしい。
『今新しい情報が入りました。元の歪虚CAMの製作者はガルドブルムです。あの戦闘狂の』
 つまり、搦め手は未登載でも単純に強い確率が高い。
『自律行動可能な歪虚CAMを放置すれば被害が拡大するのは確実です。1機も逃がさず撃破してください』
 遙か高空から、竜がはばたく音が聞こえた気がした。

リプレイ本文

●黒竜の影
 嫌な予感はしない。
 危険な敵だとの確信があった。
 敵との距離が500メートルを切った時点で戦闘用の走りに切り替える。
 シールド2枚装備、つまり効率の悪い装備の歪虚CAMが2機に、アサルトライフルのみ装備の非常に効率の悪い壮美の歪虚CAMが1機。
 実質人質の者達がいなければ1対1でも勝てる自信があった。
「あの銃って皆が、ガルドブルムの歪虚CAMから回収したっていう……?」
 しかしルーファス(ka5250)の中に油断は無い。
 心に忍び寄る不安を振り払うため気合いを入れる必要があるほどだ。
「あいつが回収に来るのかな……何が起きるとしても見届けなきゃ……」
 災厄の十三魔ガルドブルム。
 ハンターが経験を積み装備も強化された現在では、歪虚王などのとんでもない存在とは異なり戦力さえ揃えれば対抗可能な相手だ。
「っ」
 体が震える。
 ここクリムゾンウェストでは戦力すなわち人間。戦いを好み滅ぶまで戦い続ける戦狂いと戦えば、きっと多くの被害が出る。
 回復不能な大怪我を負う人もいるかもしれない。戦死者だって出るかもしれない。
「でも、僕はお父さんや皆の仲間だから」
 操縦桿を握りしめる。
 HMDの脳波読み取りとFCSを調節する。
 これ以上の準備は無理と確信できる水準の準備を整える。
「皆が戦ってきたあいつを恐れるわけにはいかない」
 シールド2枚装備の歪虚CAMがこちらを見た。
 機械の融通の利かなさと、ある意味純粋で周囲の迷惑を顧みない戦狂いが最悪な形で組み合わさった、畜生未満の竜の劣化版だ。
「あいつのCAMを止めて、好き勝手にはさせないっ!」
 停止から補助脚展開と200mm4連カノン砲で狙いをつけるまでかかった時間はわずかに5秒。
「ファントムハウル――起動。竜やその眷属が相手でも、僕は怯まないっ!」
 直径20センチに達する砲弾4つが、躱しようのない軌道で歪虚CAMに迫った。
 ルーファスは、直撃の0コンマ2秒前にシールド防御が成功したのを確かに見た。
 そして、十分に整備されたシールドがひしゃげて装甲にぶつかり火花が散るのも正確に捉えた。
 出発前に友が激励してくれたときのマテリアルが初弾に載っていたのかもしれない。
 高速で思考する頭の隅でそんなことを考えながら、ルーファスは回避と防御のためのコンボを入力し終えていた。
 歪虚CAMの腰の脇が連続で発光する。
 ガトリングガンが正常に作動し正確に10発の弾をルーファス機に向ける。
 今回射撃戦に特化させている分回避と防御のための動きが鈍い。
 機体が不規則に振動してHMDに複数のエラー表示が浮かぶ。
「お願い、お姉ちゃん」
 彼はパートナーを信じて苛烈な射撃戦を継続した。
「行くよルーファス、これ以上の被害が出る前に確実に仕留めるよ」
 当たれば数発で大破確実な砲弾が、何発もマーゴット(ka5022)の機体ぎりぎりを飛んでいく。
 熟練兵でも作戦の変更を願いたくなる状況だが彼女に動揺は無い。
 今回のパートナーは大事な大事な弟だ。
 心の強さはよく知っているし、魔導型デュミナスの整備も操縦訓練も頑張ってきたことを目で見て知っている。
 だから白兵戦装備のみの機体で敵に突撃することなんてなんでもない。
 歪虚CAMの動きに変化があった。
 攻撃の合間に後退して射撃のための距離を保とうとしている。
 頭部が向きを変える。強大な攻撃力を持つルーファス機ではなく、接触されれば足止めされる可能性のあるマーゴット機をより警戒し始めたようだ。
 歪虚CAMは安定した足取りでの後退を続けつつ銃口をマーゴットに向けた。
 途端に20センチ弾には及ばなくても十分強力な弾が降り注ぐ。
 しかし既にマーゴット機のアクティブスラスターが発動している。
 女性的なフォルムの機体がスラスターの後押しを受けさらに前進し、降り注ぐ弾幕の横数センチを走り抜けた。
「敵装甲表面は健在。プランB」
 魔導鈎で動きを封じるのは諦める。
 切れ味鋭い斬魔刀を片手に構えスラスターを停止。跳躍によるステップに切り替えることでフェイントを実行。
 シールドを躱して滑らかな装甲に刀を突き入れ押し込んだ。
 傷ついた歪虚CAMが飛んだ。
 アクティブスラスターではあり得ない速度と飛距離だ。
 ルーファスの正確無比な砲撃も射程外の敵には当たらない。
 もっとも、ルーファス機がほんの少し前進すれば再び射程に収まる程度の飛距離でしか無い。
 マーゴットは全力走行で歪虚CAMを追わせる。
 回避に失敗した30ミリ弾を斬魔刀で受けて被害を押さえ、スラスターに奇妙な光が灯った歪虚を冷静に観察した。
 気配が弱まっている。
 20センチ弾や斬魔刀の直撃で酷い見た目になってはいるがそれ以上に負のマテリアルが弱まっている。
「通信機はあってもよかったか……」
 近づけば感じ取れるがルーファスの位置からでは難しい。
 スラスターの光が増す。
 歪虚CAMが存在する力をすり減らして後退を続け、対照的にマーゴットは速度を落として全する経路を塞ぐ位置へ陣取った。
 マーゴットの紅瞳が無感情に歪虚CAMを移す。
 歪虚はルーファスの攻撃から逃れて安堵して、その数秒後肝心なことに気づいて元来た道を戻りだす。
 他の2機の歪虚が押されて大破寸前だ。このままでは己の力を振るうことも命ある者に害を撒くこともできない。
「やっと捉えた」
 斜め前へ進む。
 貴婦人を思わせる優雅さで間合いを計り、戦乙女の名に恥じぬ速度でBrunnhildeが切り込んだ。
 シールドが待ち受けるが構わない。
「確実にここで仕留めるっ!!」
 速度と自重と切っ先に過不足無く伝えて腕ごとシールドを弾き、がら空きの胸部と貫き脇まで切り裂く。
 残骸が地面で跳ねて鈍く大きな音を立てた。

●無限ライフルの理想と現実
 弾数無制限のフルオート射撃は反動が凄まじい。
 両腕で押さえても銃口は安定せず、30ミリ弾が無意味に広範囲にばらまかれた。
「リロード不要ですか」
 夕凪 沙良(ka5139)の紅瞳に呆れの感情が浮かぶ。
 技術的には凄いのだろうが、その凄さが戦力や脅威に繋がるかと問われると無言で首を横に振らざるを得ない。
 味方機が敵前衛と交戦を開始する。
 魔導型デュミナス4機対歪虚CAM2機の戦いは、攻撃力に勝る味方と防御力に勝る歪虚による長期戦に発展する気配があった。
 歪虚CAM2機がいきなり飛んだ。
 大型のブースターを装備しているわけでもないのに50メートルは飛んでいる。
「……なんだか、可哀想なのな……ああまでして動いてるの見てると――」
 黒の夢(ka0187)が心の中で嘆息する。
 敵機がひと飛びするたびに負の気配が弱まっている。
 おそらく10度飛べば無傷でも消滅するはずだ。
 軽く頭を振って意識を切り替え、高機動歪虚CAMと奇妙なライフル装備歪虚CAMの意識の向きを探る。
 敵機と味方の距離が縮まる。敵機の意識が目の前のハンター機にのみ集中する。
 黒の夢が舌呼で小さな音をたてた。
 金瞳の黒イェジドが主を乗せたまま地を這うように進み、汚れるのも厭わず瓦礫の山に飛び込み敵機の死角を進む。
 敵後衛である無限アサルトライフル装備機は大量ばらまきでは当たらないと判断し、前衛と戦うハンター機狙いに切り替えようとした。
 砲身が摩耗するまで連射可能な銃口が、偶然ではあるが大型倉庫に向いてしまう。
「そっちを狙われてると一寸ばかり都合が悪いんですよ、こっちを見てくれませんかね?」
 沙良の両手両足が高速かつ別々に動く。
 グリップレバー2つと左右ペダルは残像が見えそうだ。
 コンボ入力を廃した結果の高速入力である。
 これがコンボ入力より優れた入力かどうかは賛否が分かれるところだが、少なくとも沙良にとっては慣れ親しんだ操作法だ。
「そう……いい子ね……暫くは手加減してあげますよ」
 わざと狙いを甘くする。その上で、射線上に元プレハブがある位置から射撃を加える。
 ガトリングガン以上の密度の弾幕が、残骸だけを砕いて残りも明後日の方向に消えた。
 歪虚CAMが90度向きを返る。
 弱いと判断した相手を優先的に狙うという至極真っ当な行動だ。沙良の手のひらの上の行動ともいうが。
 黒イェジドが全力疾走する。
 強烈な踏み込みで音が発生する。障害物が邪魔で歪虚の目が向いていないし足音も銃声でかき消される。
 弾痕だらけの扉の前で急停止、主をその場に下ろしてその場に伏せた。
「生きてる?」
 黒の夢が扉をノックする。
 30ミリの穴の向こうから、安堵の吐息と押さえた歓声が微かに聞こえた。
「ハンターですな? 我々は今外の状況が分かりません。指示に従い」
 黒い夢が指を立てて艶のある唇に当てる。
「う、む」
 己の分厚い手で口を押さえる聖堂戦士の顔が、薄暗がりでも分かるほど赤くなっていた。
「スカー、いいこ。少しでも皆の力になって来て」
 撫でられたイェジドは戦闘への期待となにより主からの期待を感じて興奮する。
 するりと駆け出し30ミリの爆撃跡へ進入。途中で方向を変えてから、わざと音を立てて飛び出した。
「護衛対象、無傷で連れ出すの、無理。あなた達、流れ弾に備えて」
 ヒーリングポーションを30ミリの穴を通して手渡しした後、黒の夢は自らは中に入らず魔導カメラを構えへ歪虚CAMに向けた。
 高機動歪虚CAM2機はハンター機4機に押されて北へ押しやられ、非常識な銃を持つ歪虚CAMもイェジドと沙良機に翻弄され全能力の4分の1すら発揮できていない。
 シャッターを連続で切る。
 研究者や軍人にとっては貴重な情報が集まってはいくものの、実際に戦う面々にとってはよくない展開だ。
「人質入り倉庫ごと撃たれたら非覚醒者は死亡確実ね」
 沙良は作戦を早めることを決断する。
 わざと銃撃を外すのを続けながら機会を待つ。
 歪虚CAMは活発に跳び回るイェジドに惑わされ、大型建造物に使えば大災厄を招けたはずのアサルトライフルをイェジドに向けてしまった。
「その隙……逃しませんよ!」
 発砲直後の大型銃を構えたままスラスターに火を入れる。
 敵との距離が数秒で6メートルを切る。
 罠にかけられたと気づいて無限ライフルが沙良機を向く。
 しかし距離が近すぎ沙良機が半歩動くだけで命中率が0になる。
 この歪虚に近距離用の武器はない。沙良機が脇を通り過ぎる。
 歪虚は慌てて離れようとして、反転した沙良機が再装填済み銃口を向けているのに気づく。
「獣の決断力と忍耐を持たず」
 高速の重い弾が歪虚CAMの装甲に穴を開ける。
「敵の文化や思想から行動を予測する知性も持たない」
 再度のスラスターで接近。歪虚の銃口から大量の弾が吐き出される。
 最初の接近と全く同じなら全弾命中もあり得ただろうが、数十度向きを変えていたので既に大破していたプレハブが完全な残骸になるだけで終わった。
「これでは百戦しても結果は同じです」
 銃撃を組み込んだ接近と離脱を繰り返す。
 歪虚は沙良の狙いと沙良機の動きを読めないまま当たらぬ攻撃を繰り返し、繰り返すたびに動きが単純になり回避行動も甘くなる。
 沙良機が迫る。
 これまでとは異なり銃ではなく斬機刀を構え、離脱は行わず正面から距離4メートルまで近づいた。
「これは私の得意なコンバットパターンの一つなんですよ」
 歪虚CAMの頭部から胸部まで刃がめり込み、内側から火があがった。

●歪虚CAM
「何処にでもマッドサイエンティストみたいなのは居るもんだがどうすっかねえ」
 敵は歪虚だ。
 高位のものは大地を汚染し、宇宙から人類を追い出すレベルの超戦力共だ。
「初のCAM戦闘でまた強そうなのが……きっちり倒せりゃあ良いんだが」
 魔導型デュミナス、Jack・The・Ripperが兵士の動きで敵との間合いを詰める。
 即反撃できるよう腕には銃を、敵に自らの動きを悟らせないよう遮蔽物で視線を遮り静かに接近。
 黒い機体は陰に隠れ、髑髏型の頭部が粘着く光を受けて鈍く輝いた。
「運がねえなあ俺は」
 元一般人ということになっているリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)がぼやいた。
 軍歴がないのは事実。本格CAMを扱ったのはこれが始めなのも事実。今回搭乗する前は説明受けただけだったのも事実ではある。
「仕事はきっちりやるが……」
 生死の境に慣れた心身が予感という形でリカルドに警告する。
 予め機体に組み込まれた動作に介入する。
 予備の得物をいつでも抜ける位置へ移動させ、遮蔽物の端から半身と銃口を出し大量の弾を撃ち出した。
 1秒遅れで同数の弾が返ってくる。動きを変えなければ直撃コースだ。
 脚部近くの小石が砕けて砂埃が発生し、一部の弾がリカルド機の下半身へ命中、残りの弾は壊れた建材を元建材のゴミに変える。
「さて、教科書通りの戦い方だがうまくいくかね」
 引き金を引くたびに少しずつ位置をずらす。
 双方派手に撃って派手に当たっている。
 歪虚CAM側も被弾がやや多いがどちらも致命傷には遠い。
「大味な大砲だなこりゃ。この距離で部位狙って撃てないのかよ」
 小破した機体の中でリカルドが平然としている。
 お高い装甲で守られたコクピットなど、彼にとってはあくびが出るほど安全な場所だ。緊張する訳がない。
 関節部等を狙った場合の命中率低下が激しいことに気付く余裕も、普通に撃つのが一番効率のよいことに気づく余裕もあった。
 対する歪虚CAMはリカルドよりずっと素人に見え、リカルド機が無傷に近いと誤断し一旦後退を始めてしまった。
「多少威力は上がっても拘束具を着て戦ってるようなもんだな」
 生身で同サイズならとっくに決着がついている時間が過ぎている。
 しかし魔導型デュミナスはブースターでも使わない限り遅くはないが速くもなく、リカルドが得意とする近接戦闘に持ち込むのが物理的に困難だ。
「俺が押さえつけてるうちに片付けろよ?」
「応、スラスター全開。一気に突っ込むぜ!」
 柊 真司(ka0705)の機体が障害物など知ったことかと全力走行。
 ガトリングガン装備まで数メートルの距離にまで到達していた。
 スラスターが不自然な強さで発光する。
 異様な推力を得て100メートル近く飛行し着地して、今度は真司機に狙いを変えて一方的に鉛玉を浴びせようとした。
 過去のリアルブルーの常識では被弾確実な弾幕が迫る。
「また整備士から文句を言われるな」
 弾幕視認前に先行入力が終了していた。
 粉塵チップと走行時の砂塵が入り交じり真司機の動きが見づらくなる。
 薄手のシールドが揺れて真司機のシルエットを誤魔化す。
 30ミリ弾が1つも当たらず……否、3桁近い弾のうちたった1発だけが真司の中心に命中した。
 HMDにエラー表示はない。
 ノーダメージだ。
「了解、攻撃を続行してくれ。こっちは押している」
 真司は味方機複数と連結通話したトランシーバーに語りかけている。
 視線を一瞬横に向けて機体の状態を確認する。
 敵弾は追加フレームに当たって弾かれたらしい。
「援護が必要なら呼んでくれ」
 戦闘に伴う衝撃で頻繁に途切れてもトランシーバーの存在は大きい。
 味方機複数と繋がって居るので普段の倍は有用だ。
 敵味方の位置と行動を五感で捉えて目当ての1機に近づいたとき、真司の耳に重要な情報が届く
『飛行1度で1割と推測』
 その推測を元に敵の気配を感じてみると、予ダメージより1割分敵の気配が減っている。
 また一瞬別方向へ意識を向ける。
 思わず笑ってしまった。
「イェジドと魔導型デュミナス1機で完封可能か」
 無限に撃てる銃があれば使いようによっては危険な敵になるはずだった。
 しかし実際は潜在力の1パーセントも活かせていない。
「どんな相手でも」
 スラスター強化型歪虚CAMが足を止めて発砲。
 当たりかけた数発を装甲の厚い部分で受けつつ一気に前進。
「油断はしない」
 ほぼ密着した状態でパイルバンカーを起動する。
 薄い鱗の浮いた装甲が、濡れた紙のように押し破られた。
 スラスターが崩壊しながら輝く。
 歪虚CAMの脚部に無理な力がかかってひび割れる。歪虚は強引すぎる加速で機体をずらして杭が核を撃ち抜くのを回避する。
 そして切り裂き魔の刃が届く。
 試作型スラスターライフルの弾が5発右脚に当たって根元からべきりと折れた。
「自重で体勢が崩れてくれれば良いんだがなあ……」
 スラスターが燃え尽きる直前のロウソクの如く光る。
 歪虚が片足とスラスターで辛うじて機体を安定させる。
「じゃあな」
 杭が再度打ち出され、歪虚CAMの存在を支える部位が砕かれた。

●近づく気配
 指を鳴らす音が奇妙なほどはっきりと聞こえた。
 土で出来た壁が消える。
 その壁は消えるまで無傷だったけれども、壁の横には土の壁に当たったとしか思えない変形をした30ミリ弾4つが転がっていた。
「戦い、終わったのな」
 黒の夢が倉庫の中に語りかける。
 人格はともかく能力だけは優れた研究者が死ななかったのはだいたい黒の夢のお陰だ。
 アースウォールによる防御も効果的だったが彼女のあげた戦果はその倍以上ある。
「えいっ、このっ、起きなさいっ」
「司祭殿気持ちは分かりますから起こすのは我々にお任せを。ふんっ」
 ばちーん、と人肌を叩く音が聞こえてうぎゃっと研究者の悲鳴が響く。
 悲鳴はすぐに焦り声に変わる。
「戦闘はっ」
「ええい離せ、貴重な記録を撮らせないつもりかっ」
 黒の夢が眠らせなければ数人飛び出していた可能性が非常に高かった。今も顔色が悪いのに目がぎらついているのがかなりホラーだ。
「『あの子達』、ようやく壊れることができたのな」
 戦場には歪虚CAM4機分の残骸が転がっている。
 それ目指して走る研究者と追う聖堂戦士団の追いかけっこが始まっていた。
「何処でもそうだけど、マッドはどこでもマッドなんだなあ、それにしても機体酔いがとんでもねえや」
 リカルドが大きく息を吐く。
 続いて真司が降りて、子猫を捕獲するようにしてイコニアを捕獲し、汗と埃と血で汚れた金髪をわしゃわしゃして撫でた。
「戦闘が終わったら殺気を引っ込めろ。疲れてるとこ悪いがあの残骸、浄化とかできるか?」
 黒の夢が振り返る。
 離れていく主の手を切なそうに見つめた後、スカーは騒いでいる小娘をじろりと睨んだ。
「はい!」
 目の前が一瞬だけ白く染まる。
 スカーの耳がぴんと立つ。
 戦闘後も薄く広がっていた負のマテリアルが完全に消えていた。
「司祭殿!」
 イコニアがいきなり倒れる。
「何が起こって」
「ヒールを……もう借り物のポーションもない!」
 歪虚CAM相手に生身で立ち向かえる連中が動揺している。
「スカー、ダーリンが来たら教えてね」
 イェジドは肩を落として周囲と上空へ対する警戒を開始する。
 黒の夢は壊れて転がるパーツを取り上げ、その奇妙な軽さに気付いた。
「歪虚の要素だけ消去? たぶん高度な浄化術だから……ああ」
 軽度の歪虚汚染を祓うつもりでガルドブルム謹製パーツを祓おうとしてしまい、技量と力が足りずに気力と体力を吸い取られたのだろう。
「ダーリンが作ったって聞いたけど……あの姿で細かい作業出来るのかなぁ」
 スタッフで残骸を掘ってみる。
 負のマテリアルを感じさせる重いパーツが、1機分の残骸の中に数個残っていた。
「うん」
 物理的に壊してこの場とガルドブルムの縁を絶つべきか、このまま残してガルドブルムの襲来を待つべきか。
 彼女が迷っている間に研究者によって別の機体からのパーツ回収が完了していた。

 イコニアは後方に送られ、残った聖堂戦士団が研究者の護衛と監視の任についた。
 この場を放棄するにせよ立て直すにせよ人手と機材は必要なのだが、ロッソと聖堂教会の話がまとまらずとりあえず技術者と機材の増援が決まる。
 現場に向かう魔導トラックに対し、黒いイェジドが牙を向きかねないレベルで警戒を露わにしていた。

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MVP一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢ka0187
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司ka0705

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スカー
    スカー(ka0187unit001
    ユニット|幻獣
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ジャック・ザ・リッパー
    Jack・The・Ripper(ka0356unit001
    ユニット|CAM
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ペネトレーター
    ペネトレーター(ka0705unit001
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