【空の研究】戦艦白雲

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/14 12:00
完成日
2016/09/22 18:26

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 アメリアは、東の空に浮かぶ見事な入道雲を眺めて目を細めた。もっとも、その目は深く被せられた墨染のフードによって隠されており、本当に目を細めたのかどうかは彼女以外に知る者がなかったわけだが。
 そろそろ、夏が終わる。この入道雲も、このあたりで見納めになるだろうと思われた。
(つまり、これが今年最後のチャンス、というわけですねーえ)
 アメリアは、内心でため息をついた。本当は、こんなにギリギリになるつもりではなかったのだが。どうにも、決行に踏み切れない理由があった。
(おそらくは向こうも、しびれをきらしてくる頃でしょう……。充分な準備とは言えませんが、小細工もできますしそろそろ私も隙を見せて差し上げますかねーえ……)
 アメリアは空を見上げていた姿勢からゆっくりと俯いて、今度は地面を見た。草木が活力をあふれさせるはずの季節だというのに、その地は乾いて白茶けた土がむき出しになっていた。決して美しいとは言えない荒れた大地だが、この上に「何かを描く」となれば、草木が生え揃わぬ状態はむしろ好ましい。
「ふーむ」
 アメリアは細く巻き上げた用紙を取り出すと、その場で広げてわざとらしく唸ってみせた。
「私だけでの解読は、無理そうですねーえ。今年は、諦めるしかない、か……」
「諦めて貰っては、困るな」
 独り言のはずのセリフに返事を寄越す者がいたかと思うと、アメリアはぐるりと取り囲まれた。男が、三人。いずれも大きなナイフを持っている。
「アメリア・マティーナ殿とお見受け致します。あなたが研究しておられる魔法について、少々お話をお伺いしたい」
 アメリアの真後ろに立った男がそう言った。
「ナイフを突きつけられてお話を伺いたい、と言われても友好的に話す気にはなれませんがねーえ」
「まあそう仰らず」
「あなた方ですよねーえ、ここしばらく私をつけまわしていたのは」
「お気づきでしたか」
「ええ。あのつけまわしていた間に、いくらでも話しかける機会はあったと思うのですがねーえ」
「そうでもありませんよ。あなたはお一人で旅をしているわりには、常に人に囲まれていましたからね」
 もちろん、それはわざとである。おかしな男たちにつけられていると気付いていてわざわざ一人になるような危ない真似をできるほどアメリアは豪胆でもなければ愚かでもなかった。そのうち諦めて行くかと思ったのだが、そう上手くはいかず、仕方なく、隙を見せてやったというわけだ。
「つまり、そもそも友好的に話すつもりはない、ということですねーえ?」
「ええ、その通りです。察しがよくて助かりますよ。我らと共に来ていただきましょう」




 アメリアが連れてこられたのはあの荒れた大地を見下ろすことのできる、高台の小屋であった。もっとも、アメリアは窓からは遠ざけられ、最奥の部屋の石壁を背にした椅子に縛り付けられた状態であるために外の様子はうかがえなかったが。
「手荒な真似をして申し訳ない」
「申し訳ないとは思っていないようですがねーえ」
 アメリアは皮肉げに唇を歪めた。
「こいつ! 調子に乗りやがって!」
「アニキ、少々痛めつけてやりましょうよ!」
 それまで一言も発しなかった残り二人の男がナイフをアメリアに向けた。
「やめろ。傷つけるのが目的ではない」
 アニキ、と呼ばれたメガネの男が冷静な声で諌めた。リーダー格であるらしい彼はアメリアの正面へ進み出ると、形ばかりの笑顔を作った。
「粗野な奴らで申し訳ありません。あなたがこちらの要求を飲んでくだされば、すぐに解放いたしますよ」
「そもそも順序が逆なのではないですかねーえ。要求を拒んだ場合にのみ、拘束したらいいではないですか。私はその要求自体を知らないのですから、飲むも飲まないも返答のしようがありませんがねーえ」
「わかりきったことでしょう。正面から要求して飲んでもらえるとは思えない内容だからですよ」
 男はハア、とため息をついた。
「あなたは数々の、空に関する魔法を研究しておられる。だが、それをどこに売り渡すでもなければ公表するわけでもなく、自らの手元に置いていらっしゃる」
「別に、隠しているわけでもありませんがねーえ」
「そうでしょうね。しかし、危険な魔法については、意図的に隠しておられるのではないですか?」
「……つまり、あなた方が知りたいのは、そういった魔法について、だと?」
「ええ。……『戦艦白雲』」
(やはり)
「そういう名前の魔法を、ご存じですね?」
 アメリアがここ数日、使うに使えなかった魔法であった。
「ご存知ですが、ねーえ……」
 アメリアは慎重に言葉を選んだ。
(おそらくこの者たち、戦艦白雲がどういう魔法なのか知らない……)
「それを是非、我らに教えていただきたい」
「知ったらどうするのです」
「それはあなたに関係がない」
「随分と勝手なことを仰いますねーえ」
 アメリアとメガネの男は、アメリアのフードごしに睨み合った。メガネの男の背後には、ナイフをむき身にしたままの男が二人、控えている。アメリアは、はーっとため息をついた。
「お教えするしか、ないようですねーえ。……しかしながら、すぐには無理です」
「この期に及んで勿体ぶりますか」
「そういうことではありません。この魔法は、まだ研究が終わっていないのですよーお。つい最近、この魔法に関する最後の手掛かりたる文書を手に入れました。これを読み解けば魔法は使えるはずですが……、私一人では読み解けません」
 アメリアは、早口にならないように気を付けながら説明をした。
「ハンターオフィスに、その文書を届けてください。私の研究を、手伝ってくれている者たちがそこにいます」
(まあ、本当はいないんですけどねーえ……。なんとか上手いこと、こちらの状況をくみ取って欲しいところですねーえ)

リプレイ本文

 戦艦白雲。
 勇壮なその名前に惹かれて集まったハンターたちはしかし、一様に首を傾げることとなった。
 依頼者の名前はアメリア・マティーナ。だが……。
「この文書、本当にアメリアさんの依頼?」
 マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が呟くと、雨を告げる鳥(ka6258)とザレム・アズール(ka0878)も、ハンターオフィスに届けられた文書「V」を眺めて頷いた。
「アメリア・マティーナ。空の探究者が残す謎にしては安易に過ぎる」
「うん、あからさまな暗号文だな」
 ザレムが二枚の文書を並べ、指でVの字になぞるのを、神代 誠一(ka2086)が読み上げた。
「直径5m白い円荒野に描き待て……ですね」
「こんなの、わざわざ暗号にしなくても直接指示してくれたらいいことだよな」
「つまり、それができない状況にあるということだよね」
 ザレムとマチルダがそう言い合っていると、ハンターオフィスの職員に話を聞きに行っていたジルボ(ka1732)が口を挟んだ。
「依頼を持ってきたのは、男だったそうだぜ。代理だ、とかなんとか言ってたらしい。こりゃなんかありそうだな」
「マティーナさんが、その謎の男の仲間に捕まっている、ということでしょうかー」
 小宮・千秋(ka6272)がのんびりとした口調で核心をついた。
 魔法に関する文書を暗号にしているということは、その男たちに伏せておきたいのはまさしくそれ、ということになり、男たちの目的が魔法であることは明らかだった。
「耳聡い連中というのはどこにでもいるものだが……今回もお帰り願おうか」
 ロニ・カルディス(ka0551)が眼光鋭くそう言うと、一同は力強く頷いた。



 文書や依頼の異常さから状況を推理し、ハンターたちは行動プランを立てた。
「アメリアが、代理だと言って依頼を持ってきた男たちに捕まっているとして、だ。どうやってその犯人たちに接触するかが問題だろう」
 ロニが言うと、全員が頷く。ロニも頷き返して、言葉を続けた。
「基本方針としては、犯人たちをアメリアごと誘き出し救出を行うのが良いだろう」
「そうだね。アメリアさんが知っていることと合わせないと魔法は使えない、と言って連れてきてもらうのがいいかな」
 マチルダがそう同意した。
「全員が犯人の目の前に居並ぶよりは、不測の事態に対応するための要員がいた方が良い。幌馬車を調達して何人か、そこに隠れていてはどうかと思うが」
 ロニのその提案に、全員が同意した。かくして、ハンターたちはまず幌馬車と円を描くための白い粉の調達と、情報収集を行うこととした。
「アメリアらしき人物の目撃情報は結構あったが、男たちの方はさっぱりだな」
 ジルボが小麦粉の袋を抱えながらそう報告すると、幌馬車の借用に成功したらしい誠一とロニも頷いた。
「よほど用心深く行動していたのか、はたまたアメリアさんが目立ってしまったが故に男たちのことなど誰も覚えていないのか……」
 誠一が苦笑しつつ言う。聞き込みの結果は誰も彼も同じようなものだったらしく、今ひとつ浮かない顔で集まってきた。ザレムが石灰の袋を持って合流したところで目的の品物はすべて手に入ったため、ハンターたちはひとまず移動を開始することとした。幌馬車に乗り込み、マチルダの提案で御者を交代で務めることに決めると、千秋が元気よく挙手をして最初の御者に名乗りを上げた。
「ではアメリアさんを救出に参りましょー」
 千秋は滑らかに幌馬車を出発させた。馬車の操り方は、思いのほか上手い。ガタゴト揺れる馬車の中で、鳥が思い出すように呟いた。
「アメリアは警戒していた。自身の噂をし、先回りするかのような動きをする三人組を」
「星祭りの時のことだね」
 マチルダが頷いて同意する。そして、事情を知らないハンターたちに、アメリアのことを調べているらしい三人組がいたこと、しかし彼らを見つけることはできず、アメリアにも接触はなかったことなどを説明した。
「たぶんそのときの奴らと同じなんだろうな」
 ザレムはそう言いながら、千秋と交代するべく御者台へ近付いた。
「荒野へ到着するまでに段取りを決めておいた方がいいですよね」
 誠一が言った。身を隠す役割や円を描く役割などは決めておいた方が良い。話し合いの結果、ロニと千秋のふたりが幌馬車に身を隠すこととなり、円は誠一とザレムが主導となって描くことに決まった。
「任せてください。円は描き慣れてますから」
 元々は数学教師である誠一の言葉には安心感があった。
「とにかく、荒地へ着いたら白い円を描いて犯人たちを待ち、アメリアさんを伴って出てきたら魔法を発動させる。そこから犯人捕縛、かな」
 マチルダが行動の流れを整理したところで、馬車が動きを止めた。
「到着、だな」
 ジルボがニヤリと笑って、固めた拳をバシ、と鳴らした。



 荒野、と呼ぶにふさわしく、大地は乾いていた。しかし、穏やかに流れてくる空気はどこか湿り気を帯びている。
「さー、到着っと」
 ザレムが周囲を警戒しつつ、しかし警戒心を伺わせない笑顔で御者台から降りた。続いて、幌馬車の中からマチルダ、鳥、ジルボ、誠一がぞろぞろと出てくる。降りたあとの幌馬車をわざとらしく振り返るような愚行は、誰一人として取らなかった。
「では、始めましょうか」
 誠一の合図で、白い円を描く作業にとりかかる。ザレムが鉄パイプを地面に突き立て、ジルボが支えた。そこに、ロープをくくりつける。
「えーと、直径5mだから、半径は2.5mだよな」
 ザレムが鉄パイプの根元にくくりつけたロープの端を、誠一がぴん、と引っ張って確かめる。
「うん、いい感じですね。では、こちら側にも……」
 誠一が棒きれをロープにくくり、それを持ってゆっくりと歩き始めた。鉄パイプを中心にして歩くと、棒切れが乾いた地面に線を引いていく。ロープがぴんと張り続けていることが重要なので、ザレムもジルボを手伝って鉄パイプを支え、真っ直ぐになるように気を付けた。小麦粉の袋を持ったマチルダと、石灰の袋を持った鳥が、誠一の引いた線の上に丁寧に粉を落としていく。線が白く染まり、見事な『白い円』が出来上がった。
「うん、上出来ですね」
 誠一が満足そうに頷く。
 ことのほか早く作業が済んでしまい、手持ち無沙汰になりかけた五人だったが、荒野を踏みしめる足音に気が付き、もっともらしい会話を展開した。
「これで準備は万端だね。でも、あとはアメリアさんが……」
 マチルダがそう言うと、ザレムがそうそう、と後を引き継いだ。
「そうなんだよなあ。アメリアがいないと発動の仕上げができないぞ」
「早く来てもらわねえと。ここまでの好条件が整うことはまずないからな、ラッキーだよな。逃したくないな」
 ジルボも調子を合わせた。鳥はただ静かに頷いているが、彼女の雰囲気はその無言によってこれまでの発言の信憑性を高めているようだった。
 幌馬車の中では、ロニが息をひそめ、やってくる者たちを注意深く観察している。千秋はすぐにでもその者たちへ殴りかかりたい気持ちをぐっと押さえていた。
「……準備はできたのですか?」
 そこへ、足音の持ち主がおもむろに五人に声をかけた。驚いたふりをして声のした方を向くと、メガネをかけた男が姿を現した。彼の背後には、両手を前で縛られた格好のアメリアがおり、その後ろにふたり、恰幅の良い男が立っている。
ハンターたちは思わず息を飲むが、鳥がひとり、冷静に言葉を発した。
「私は問う。あなた方は誰であるのかと」
「はじめまして、皆さん。我々は、アメリア殿に協力していただいて『戦艦白雲』を拝見することになっております」
「協力していただいて、ねえ……」
 痛々しく縛られたアメリアの手に視線を送りながら、誠一が引きつった頬で言う。
「ええ。まあ、この際隠す理由もありませんから正直に参りますか。アメリア殿を人質に取っています。全員、武器を渡してください。そして、おとなしく魔法を発動させてください」
 メガネの男の開き直った発言に合わせて、アメリアの背後に立った男がナイフをちらつかせた。とにかく彼女の身の安全が第一だと、五人は黙って武器を差し出す。最初に五人に声をかけに来た男が回収し、まとめて脇に置いた。
幌馬車に注意が向いてはマズイ、と思ったザレムがジルボに目配せをして男たちに話しかけた。
「アメリアを人質に取ったのは褒められないけど、この魔法を見られるなんて運がいいですね」
「羨ましいねえ! 俺だって初めて見るって言うのによぉ」
 すかさずジルボが調子を合わせる。
「この魔法が成功したら、すごい力を得られるんです」
「そうそう。なんてったって、戦艦だからな。あんた、この戦艦の力で何をしたいと思う?」
 テンポのいいザレムとジルボの会話に、大柄な男ふたりの表情が和らいでいくのがわかった。マチルダは好機と見て、鳥と誠一に目配せすると、白い円から完全に外に出て立ち位置を調整する。
「それはあなた方には関係ないでしょう」
 メガネをかけた男がぴしゃりと言い放ち、大柄な男たちから笑顔が消えた。
「アメリア殿がいなければ、と仰っていましたね」
「そうですねーえ。最後の呪文は、私しか知りませんからねーえ」
 いつも通りの口調でアメリアが答える。
「魔法の効果を得るには、円の中へ入る必要がある。そう研究結果が出ている」
 鳥が円の外からアメリアに声をかけると、アメリアは大きく頷いた。
「その通りですねーえ。よく研究を続けていてくれましたねーえ。ということですから、皆さん、どうぞ円の中へ」
 アメリアが三人の男たちを促すと、大柄な男二人はすぐに円の中へ足を踏み入れた。メガネの男だけは少々警戒する様子を見せ、自らのナイフを取り出してアメリアの首元につきつけた。幌馬車の幌が、僅かに揺らぐ。まだ出て来るべきではない、と知らせるため、誠一が静かに首を横に振った。
「本当に円の中で良いのですね」
「ええ」
「ではなぜ貴女の仲間たちは入らないのです」
「戦艦白雲は強力な魔法。円の外からの協力が不可欠です。そう警戒しないでください。私は円の中へ入りますよーお」
 メガネの男はようやく、アメリアにナイフを突きつけたまま、ふたりで円の中へ入った。アメリアはナイフに怯えることもなく、円の中心に立つと、真上の空を見上げた。
「いけそうですねーえ。では、始めますよーお」
 五人は祈りのポーズを取った。もちろん、ただのポーズである。アメリアは両腕を大きく広げ、上を向いたまま詠唱を始めた。
『集え、白くおおらかなる者たちよ
集いておおいなる力となれ
進め、雄大な空の覇者として!』
 アメリアが、唱え終ると。
 穏やかであった空の様子が変わった。どんどん日が陰っていくように思われた。
「日が……? いや、違う! 雲が、集まって来てるのか!」
 思わず叫んでしまったのはジルボだが、誰も聞いてはいなかった。そんな言葉すら耳に入らぬほど、目の前の空の様子は圧巻であった。
 大小の雲が集まり、どんどん一つの雲になっていく。留まるところを知らぬように肥大してゆき、円に向かって進んできた。その姿はまるで。
「戦艦……」
 誰かが、そう呟いた。
「おおお……、素晴らしい……!」
 感嘆の声を上げたのは、メガネの男である。いつの間にかアメリアの首からナイフを外し、うっとりと空を見上げていた。
「素晴らしい……、アメリア殿、この戦艦で、攻撃するには……?」
「攻撃? そんなことはできませんよーお」
「……何!?」
 メガネの男が驚いた声を上げた途端。幌馬車から、満を持して千秋とロニが飛び出した。千秋が男たちの正面へ躍り出て視線を集中させる。
「ほいほーい、身勝手な方たちからお勉強料を頂きますよー!」
 ロニはそのすきに、アメリアの肩を後ろから支えて円の外へと導いた。
「こっちへ!」
「ああ、ありがとうございます」
 素早く手の拘束を外してやると、さらに男たちから距離を取ってディヴァインウィルを使用した。
 大きな雲……戦艦白雲が作り出した薄暗い視界の中で混乱しつつも、男たちはナイフで切りかかろうとして来る。
「おっと、そうはさせねえ」
 ジルボがすかさず、袖口に隠し持っていたダーツで男たちの足元を牽制し、ザレムのデルタレイも、大柄な男たちの足付近へと炸裂した。しかし、どちらも命中には至らない。薄暗い視界の所為であった。
 アメリアに安全な対策を施したロニが、取り上げられた武器を取り返すと、男たちは目に見えてひるんだ。
「マチルダさん、レインさん、今ですよー!」
 千秋の合図で、マチルダと鳥が詠唱をする。
「空翔る 白雲が業 然示さね」
「眠れる雲よ。今こそこの地に降り立ち、彼の者たちを誘わん」
 ふたりの澄んだ声によって発動したスリープクラウドが、三人の男たちを包み、深い眠りに落とした。



 上手くいった、と胸をなでおろすマチルダに、アメリアが微笑みかけた。もっとも、いつも通り口元しか見えていないのだが。
「皆さん、来てくださってありがとうございました」
 深々と頭を下げるアメリアを、全員がホッとした表情で見守る。どこにも怪我はないようだ。
「しかし、壮観ですねえ、この『戦艦白雲』は。積乱雲を作り出して短時間の豪雨を引き起こす魔法、ですか?」
 誠一が巨大な雲の塊を見上げて感嘆する。アメリアはゆるく首をふって説明した。
「作り出すのではなく、雲を呼び集めるだけですよーお。戦艦白雲は、ただ、それだけの魔法です。豪雨を引き起こす力すら持ちません。……ですが、これだけの雲が集まってくれたとなると」
「降る、か?」
 ロニが尋ね、アメリアは頷く。
「はい。ああ、降り出しました」
「皆、馬車へ!」
 千秋が駆け出したのを合図に、皆、転がり込むように幌馬車へ乗り込んだ。もちろん、男たちは雨ざらし、である。
「あの男たち、何者なのか。魔術師教会のあぶれ者か」
 鳥が思案するが、アメリアは笑って否定した。
「魔術のマの字も知らぬ者たちのようですよ。おそらく、尋問したところで有益な情報は出てこないでしょう。……黒幕については少し、予想が付いてきましたがねーえ。きちんとわかってから、皆さんにお知らせしましょう」
「じゃ、あいつらあそこに放っておいていいってことだな」
 ザレムがニヤニヤと、ずぶ濡れになりながら眠りこけている三人を眺めた。いい気味だぜ、とジルボも笑う。
「それにしても、この幌馬車を用意していたのは本当に妙案でしたねーえ。おかげで助かりましたし、雨も防げました」
 アメリアは感心してそう言うと、提案者たるロニは特にそれについてコメントすることなく、帰りの御者役を申し出たのであった。



 ガタゴト揺れる、帰りの馬車の中で、アメリアはそっと考えていた。
(そろそろ本気で、こういう輩から魔法を守るための研究所の設立を、現実のものとしなければなりませんねーえ)

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
雨を告げる鳥(ka6258
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/09/14 07:22:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/13 18:41:51