ゲスト
(ka0000)
鉄槌の魔人
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/09/16 15:00
- 完成日
- 2016/09/21 21:47
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「……ジョットも殺られた」
ぼそりと少年がいった。輝くばかりの美少年だ。すると鷲鼻の老人がふうむと唸った。
「あのジョットがのう」
ジョットとは彼らの仲間の吸血鬼のことで、飛空能力をもっていた。人間ごときには負けぬはずである。
が、そのジョットは先日ハンターたちによって斃された。無論、彼らはハンターたちのことは知らなかったが。
「二人となると、これは偶然ではないのう」
「よほどの腕利きが自警団にいるのかしら?」
優美な女が首を捻った。彼女たちはこれまで幾つかの街を潰してきた。その街にも自警団はあったが、たいして強い者はいなかった。
「そんこたあ、どうでもいい」
けけけ、とその男は笑った。
「要するにマティスとジョットも人間ごときに殺られるほど弱かったってことだ。俺なら」
「僕がいくよ」
可愛らしい顔立ちの少年が立ち上がった。その肩にはとてつもない大きさの鉄槌を担いでいる。手にはジャラリと鎖をさげていた。
「マティスとジョットを斃した者に興味があるからね。アルフォンスはみんな消し炭にしちゃだろ」
明るく少年は笑った。そして――。
約一時間の後、少年の姿は街にあった。
場所はゾンネンシュトラール帝国辺境。中規模の大きさをもっている。
その街にはいまだ破壊の爪痕が残されていた。マティスとジョットにより破壊されたのだ。
少年の姿を見とめ、ぎくりとして街の者たちは足をとめた。
当然だ。少年が肩に担いでいるのはとてつもなく大きな鉄槌であったから。人間には保持しえようもないほど大きな鉄槌を。
刹那、少年が鉄槌を振った。まるで棒きれを扱っているかのような無造作な一撃。それだけで立ちすくんでいた男の身が粉砕された。
「きゃあ」
悲鳴をあげて女が逃げた。すると少年の手から鎖が飛んだ。女に巻き付け、引きずり戻す。そして、鉄槌で粉砕。呆気ない殺戮であった。
「簡単に潰れちゃうんだよな」
くすくすと少年は笑った。
幼い頃、フレディという名の彼は死んだ。戦争に巻きこれたのである。
そのため、吸血鬼として蘇った彼の概念に人間というカテゴリーはない。人も昆虫も同じであった。昆虫を解体する子供の残虐性のみを肥大させた怪物と少年は化していたのだ。
「早くマティスたちを斃した奴らが出てこないかなあ。それまでは退屈だから」
少年は殺戮を再開した。
「……ジョットも殺られた」
ぼそりと少年がいった。輝くばかりの美少年だ。すると鷲鼻の老人がふうむと唸った。
「あのジョットがのう」
ジョットとは彼らの仲間の吸血鬼のことで、飛空能力をもっていた。人間ごときには負けぬはずである。
が、そのジョットは先日ハンターたちによって斃された。無論、彼らはハンターたちのことは知らなかったが。
「二人となると、これは偶然ではないのう」
「よほどの腕利きが自警団にいるのかしら?」
優美な女が首を捻った。彼女たちはこれまで幾つかの街を潰してきた。その街にも自警団はあったが、たいして強い者はいなかった。
「そんこたあ、どうでもいい」
けけけ、とその男は笑った。
「要するにマティスとジョットも人間ごときに殺られるほど弱かったってことだ。俺なら」
「僕がいくよ」
可愛らしい顔立ちの少年が立ち上がった。その肩にはとてつもない大きさの鉄槌を担いでいる。手にはジャラリと鎖をさげていた。
「マティスとジョットを斃した者に興味があるからね。アルフォンスはみんな消し炭にしちゃだろ」
明るく少年は笑った。そして――。
約一時間の後、少年の姿は街にあった。
場所はゾンネンシュトラール帝国辺境。中規模の大きさをもっている。
その街にはいまだ破壊の爪痕が残されていた。マティスとジョットにより破壊されたのだ。
少年の姿を見とめ、ぎくりとして街の者たちは足をとめた。
当然だ。少年が肩に担いでいるのはとてつもなく大きな鉄槌であったから。人間には保持しえようもないほど大きな鉄槌を。
刹那、少年が鉄槌を振った。まるで棒きれを扱っているかのような無造作な一撃。それだけで立ちすくんでいた男の身が粉砕された。
「きゃあ」
悲鳴をあげて女が逃げた。すると少年の手から鎖が飛んだ。女に巻き付け、引きずり戻す。そして、鉄槌で粉砕。呆気ない殺戮であった。
「簡単に潰れちゃうんだよな」
くすくすと少年は笑った。
幼い頃、フレディという名の彼は死んだ。戦争に巻きこれたのである。
そのため、吸血鬼として蘇った彼の概念に人間というカテゴリーはない。人も昆虫も同じであった。昆虫を解体する子供の残虐性のみを肥大させた怪物と少年は化していたのだ。
「早くマティスたちを斃した奴らが出てこないかなあ。それまでは退屈だから」
少年は殺戮を再開した。
リプレイ本文
●
「……なんだ? 何か既視感を感じるが……気のせいか?」
ゾンネンシュトラール帝国辺境。街に続く道をゆく八人の男女のうち、一人の女が口を開いた。
穏やかな雰囲気をもつ美しい娘だ。手足は細いが、覗く胸元はむっちりしている。
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。ハンターであった。
辺りは昏い。深く立ち込めた灰色の雲が連なる山々の峰を覆い、空と地の境界を曖昧にぼかしている。どこかで雷が鳴った。光も見せない遠雷を背後に感じながら、アデリシアは得心したかのようにうなずいた。
彼女は思い出したのであった。その街の名を。以前、アデリシアはその街において巨人の吸血鬼と戦ったことがあったのだ。
「怪力、蝙蝠の次は鉄槌か。まったく一体あと何人いるんだか……」
二十歳ほどの男がごちた。柊 真司(ka0705)。良く光る金色の瞳をもつこの若者もまたハンターであった。
「あと何人、とは? 知っているのか、その吸血鬼どもを」
男が問うた。多分三十半ばほどであろうが、良くわからない。骨に皮をはりつけたように痩せており、その目には透徹した理知の光があった。
男の名はチマキマル(ka4372)というのだが、興味津々たる目を真司にむけた。彼は暴食系の歪虚専門のハンターであり、暴食系歪虚に対して強い思い入れがあったのだ。
「ああ」
真司はこたえた。
街を襲った二度の災厄。その張本人である二体の吸血鬼と彼は戦ったのであった。
「ほう。すでに二体もの暴食系歪虚が……」
チマキマルの目が爛と光った。好奇の光である。
「何か理由でもあるのか……」
「退屈なんじゃないのかな」
こたえたのは秀麗な顔立ちの娘であった。が、人間ではない。額からは角がぬらりと生えていた。鬼である。名は骸香(ka6223)といった。
「退屈?」
黒髪をツインテールにした可愛らしい少女が首を傾げた。これは名を遠藤・恵(ka3940)というのだが、骸香のいう退屈とい言葉の意味が良くわからない。
「そう、退屈。もしかするとあいつらに深い理由なんかないのかもしれないよ。単に退屈だから殺す。退屈で暴れるのは分かるんだよなぁ」
羨ましげに骸香はいった。破壊衝動のままに暴れることのできる吸血鬼のことが羨ましくさえ思う骸香である。
すると恵はびくりと身を強ばらせた。凄絶の殺気を感得した故だ。それは彼女の傍らをゆく少女の身から発せられていた。
右腕を肩から指の先まで赤い包帯で覆った少女の名は玉兎 小夜(ka6009)。恵の友人であった。
●
鮮血にまみれた石畳に立つ少年が、ハンターに気づき槌を掲げた。
可愛らしい顔をした少年だ。手からじゃらりと鎖をさげていた。
「話には聞いていましたが、それ以上にろくなもんじゃなさそうですね」
恵は息をひいた。まるで爆撃をうけたかのように辺りの建物は崩れ、石畳は陥没している。ミンチ状の肉塊は粉砕された街の者たちであろう。
うう、と神秘的な雰囲気をもった美少女の口から嘆きの声がもれた。アリア・セリウス(ka6424)である。
「なんて……」
惨状を見回し、アリアは言葉を見失った。なんという惨たらしい光景であろうか。
この殺された人々にも思いと、明日があったはずである。帰る家があり、ただいまと声をかけ、笑い合い、おやすみと口づけをかわすという当たり前の日常が。
「虫ではないの、心があるの。想いがあって、明日と願うものがあるのが人なの」
アリアは吸血鬼に目をむけた。が、血まみれの少年は屈託なく笑っている。まるで楽しい遊びでもしていたかのように。
アリアは自身の身が震えていることに気づいた。
「……ああ、私は怒っているのね。こんな殺戮、絶対に許せないのだと」
その時だ。吸血鬼――フレディが口を開いた。
「なんだい、あんたらは?」
「ハンターだよ」
八人めのハンターがこたえた。十代半ばの可憐な少女である。名をキーラ・ハスピーナ(ka6427)といった。
「君は?」
「フレディ」
少年がこたえた。そして、ハンター、と口の中でつぶやいた。
聞いたことがある。強い人間であるという噂を。
「……そうか。あんたらがマティスやジョットを殺ったのか。どうりで」
「というところをみると」
真司が足を踏み出した。
「お前、マティスやジョットと同じ類のようだな……お前の目的はなんだ?」
「あんたらだよ」
フレディはこたえた。
「うちたち?」
骸香が眉をひそめた。ハンターが目的とはどういうことであろう。
「そう」
うなずくと、フレディはふふふと朗らかに笑った。
「マティスとジョットを斃した奴の顔を見てみたくなってね。街の奴らを殺したらきっと来ると思ってさ」
「……酷い話だよね。私達と戦いたいなら、最初から呼び出してくれればいいのに」
キーラが哀しげに目を伏せた。なんという無意味な殺戮であろう。それを平然と成す眼前の少年はやはり人間ではあり得なかった。
「……ヘロルドよりも反吐が出るね。時間つぶしなんて」
小夜は吐き捨てた。ヘロルドというのは、かつて彼女が斃した吸血鬼である。
「アイツは食事のための殺しだったから、首刎ねで許したけど、お前は駄目」
小夜は独語した。すると雪のように白い垂れた耳が彼女の側頭部両側に、そして同色の毛玉のような尻尾が腰部下部に現出した。覚醒したのである。
この時、小夜は決断していた。フレディという吸血鬼、微塵に砕いてやろうと。
「なら、どうするんだい?」
小夜の声が聞こえるはずはないのに、フレディが彼女に笑みをむけた。興味津々たる笑みだ。
「相手してやるよ」
真司がいった。
「相手? 遊んでくれるの?」
「そうだ、吸血鬼!」
真司が叫んだ。
刹那である。アデリシアの眼前に光が集約、それは杭と変じてフレディめがけて飛んだ。
「おっと」
フレディが跳んだ。人間を超える速さで。アデリシアの信念の結実たる光の杭は空しく流れすぎた。
「やるねえ」
フレディの手から鎖が唸りをあげて飛んだ。弾丸と同速のそれは、さすがのアデリシアも躱しきれない。あっ、と呻くアデリシアの首に鎖が巻き付いた。
●
ぐい、とフレディが鎖をひいた。まるで子猫のように軽々とアデリシアが引き寄せられる。
刹那である。アデリシアを追って――いや、追い抜いてアリアが馳せた。
「斬魂葬鬼――想いの鋭さを知りなさい」
アリアが抜剣した。針のように仕上げられた刀身を持つレイピア――スティンガーである。物質強化の魔法により、より鋭さを増した剣先をアリアは突き出した。一条の光芒と化した剣はフレディの胸めがけて疾り――キイィンと澄んだ音を発して、スティンガーの刃は跳ね返された。フレディが盾のようにかまえた巨大な鉄槌によって。
「さすがは」
アリアは呻いた。常人ならば避けるこのできない鋭い刺突である。それを躱し得たのは吸血鬼としての尋常ならざる反射神経の仕業であろう。
「吸血鬼のくせに、やるね」
小柄の体躯からは想像もつかない、剛胆な一撃を小夜は見舞った。山風をも蹴散らす剣風が辺りに鳴り、防ぐいとまも与えずフレディの腕を祢々切丸――怪しい雰囲気の巨大刀で打つ。硬く澄んだ音を残しながら敵の後背に抜けた小夜はさらなる一撃を加えようと回転し、吹き飛んだ。鎖を巻きつけたままのアデリシアを叩きつけたのである。規格外の怪力であった。
「ははははは」
楽しそうに笑いながらフレディは倒れた小夜に迫った。切られた腕は裂けてはいるが、いまだ鉄槌は扱えるようである。小夜めがけて鉄槌を振り下ろした。
「くっ」
咄嗟に小夜は祢々切丸で受けた。ものすごい衝撃に彼女の腕が悲鳴をあげる。
「ったっく、おもいなぁ!」
「ご主人様から離れて!」
恵が弓をかまえた。七色に輝く弓身を持つ細身のロングボウで、名を虹の弓という。
鉄槌を狙って恵は矢を放った。硬い音ともに鉄槌がゆらぐ。その機を逃さず、小夜は鉄槌をはねのけた。
「くっ」
小夜とアデリシアが跳躍。フレディから距離をとった。
「こっちだ」
チマキマルが叫んだ。戦場からやや離れた街角。ハンターのおかげで戦域は広くないので、このあたりなら安全だ。ここからさらに離れることができれば戦いが終わるまでは安全だろう。
「急いで」
老人に手を貸し骸香が駆けてきた。路上で気を失っていた老人である。怪我はたいしたことはないようだ。
「キーラは?」
「こっちにはいないのかい?」
チマキマルにむかって骸が問い返した。チマキマルが首を振る。
その頃、キーラは二人からやや離れたところにいた。瓦礫に埋もれた女性を見つけたのである。
もしかすると生きているかもしれない。
キーラは瓦礫に手をかけた。
●
「……なるほどね」
フレディはうなずいた。理解できたのだ。なぜマティスたちが殺られたのかが。
彼の鉄槌を女が受け止めた。そんなことのできる人間はいなかったに。これならいっぱい遊べそうだ。
鎖を掴むと、フレディはそれをもっとも近くにいた真司へ向け撃ち放った。咄嗟に真司は障壁を展開した。紫電が散り、鎖がはじき返される。
「へえ」
感心したようにフレディが唸った。障壁の魔法を見るのは初めてあったのだ。
真司はふふんと笑った。
「そんなものでやられるかよ」
「なら」
フレディが魔性の速さで真司に迫った。信じられぬ速さに戸惑いつつ、しかし真司は再び障壁を展開した。するとフレディもまたもう一度鎖を放った。
「それが効かないことはわかっているはずだ」
真司は叫んだ。直後である。紫電を散らせ、鎖がはじかれた。同時に障壁が消滅。ぬっと真司の眼前にフレディが現出した。
「今度はだめだよ」
フレディが真司に鉄槌をぶち込んだ。まるで爆発に巻き込まれたように真司が吹き飛ぶ。地に叩きつけられた時、すでに真司の意識は消し飛んでいた。
「まずは一匹、と」
フレディはニタリと笑った。
「柊さん」
アデリシアが真司に駆け寄った。身体の様子を探り、息をひく。肉がひしゃげ、骨が砕かれている。恐るべき吸血鬼の破壊力であった。が――。
想像ほどではない。アデリシアは思った。
破壊された街の様子からみるに、真司の肉体は粉砕されていてもおかしくはない。それなのに、何故だ?
真司の肉体を魔法で癒すアデリシアの視線がフレディの腕の傷でとまった。小夜によってつけられたものだ。
「……なるほど。そういうことですか」
アデリシアはいった。一気に勝負を決めると。
「へえ」
フレディがハンターを見回した。ハンターたちまた身構えて見返す。彼らのこめかみに流れる血脈すら聞こえるほどの緊張と静寂。それを打ち破ったのは、チマキマルであった。
「さあ、滅びてもらおうか」
チマキマルの眼前の空間で明滅する魔法陣から氷の矢が噴出した。さしものフレディも躱すことはできない。矢が吸血鬼を貫いた。
「うーん」
キーラが瓦礫を持ち上げようとした。が、重くて持ち上げることはできない。
石畳に血が広がった。がれきの下敷きになっている女性は怪我をしているのだ。治療は可能だが、助け出さないことには再び肉体は傷を負ってしまう。
再びキーラは力を込めた。救いたい。その想いが白髪的な力をキーラに与えた。
ドカリッ。
瓦礫が動いた。
●
一瞬動きをとめたフレディめがけ、迅雷の速さで迫った者があった。骸香だ。
フレディの死角に回り込むと、骸香は脚をはねあげた。鉈のような蹴りをフレディの背に叩き込む。
同時にアデリシアは再び信念の結実たる光の杭を放った。閃光が空を裂き、それはフレディの足の筋肉も裂いた。
「くそっ」
吼えると、フレディは鎖を撃ち放った。が、それは空ではじかれた。恵の放った矢によって。
「ご主人様♪」
「わかってる」
小夜が肉薄した。額前に掲げた腕をしならせ、上段に鉄槌を備えたフレディの虚をつき素早く横に回り込み、斬りつける。乾いた剣戟の音は軽い響きを持つが、それは人が相手ならば致命的な一撃であることを、敵の胴からしぶいた黒血が教えていた。
「まだだよ」
振り返りざま、小夜は刃をフレディの首めがけて疾らせた。が、その一撃は空をうった。フレディが身を沈めたのだ。
フレディは横薙ぎに鉄槌を振った。まるで大型トラックに激突されたように小夜の身が吹き飛ぶ。
「戦の倣いよ、吸血鬼。戦場で血を求めた以上、その対価に命を貰うわ」
さらなる攻撃の振り返る間も、アリアは与えるつもりはない。冷たくフレディを見据えたまま一気に間合いに踏み込むと、彼女は鉄をも穿つ強靭な刺突を喉元に叩き込んだ。鈍く硬い衝撃に腕が痺れるが、構わずアリアはスティンガーで貫いた。
黒血を噴きつつ石畳に転げながらも、フレディは不安定な体勢のまま鎖を空へと撃ち上げた。不規則な放物線を成し地に落ちてきた鎖は、一瞬反応に遅れたアリアの頭部をしたたかに打った。
「う……ぁ」
眩む視界に足がもつれ、打たれたアリアの頭から、鼻から、血が溢れだした。抗えず意識が暗転していく。が、次の瞬間、彼女の意識は明瞭に立ち直っていた。耳に届いたのは、キーラの祈りを捧げる声だ。
「間にあったようですね」
「こいつで終いだ」
治癒された真司が跳んだ。重力を無視した飛翔。はしる鎖をくぐりぬけ、真司はフレディに肉薄した。
「他の二人同様こいつで真っ二つにしてやるよ」
いまだ体勢の整わぬフレディめがけ、真司は柄に特殊装置を搭載した日本刀で斬りつけた。
MURASAMEブレイド。軍で試作された特殊な刀で、刃の先端から微量なレーザーを放射して切れ味を増し、敵を切り裂くという代物だ。
ニンマリとフレディは笑った。そして巨大な鉄槌を眼前でかまえた。
「馬鹿が」
「馬鹿は貴様だ」
巨大化したMURASAMEブレイドが鉄槌の柄ごとフレディを両断した。
MURASAMEブレイドの大きさは本来人間には扱えぬものである。が、恐るべきことに真司の戦闘技術はそれを可能としていたのだった。
●
「お疲れ様でした、ご主人様♪」
恵が小夜に抱きついた。すると小夜の臨戦態勢はようやく解けた。恵の頭を優しく撫でる。と――。
突然、小夜の手がとまった。訝しげに恵が小夜を見つめる。
「どうかしたの?」
「いや……」
小夜は振り向いた。誰かに見られているような気がしたのだ。
「気のせいよ」
「そうだね」
小夜はうなずいた。
細い影が建物の屋根を飛び移っていた。人とは思えぬ跳躍力である。
怪我人を助けているハンターたちをちらりと見やり、影はクククと笑った。
「ようやくわかったぞ。敵の正体が」
「……なんだ? 何か既視感を感じるが……気のせいか?」
ゾンネンシュトラール帝国辺境。街に続く道をゆく八人の男女のうち、一人の女が口を開いた。
穏やかな雰囲気をもつ美しい娘だ。手足は細いが、覗く胸元はむっちりしている。
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。ハンターであった。
辺りは昏い。深く立ち込めた灰色の雲が連なる山々の峰を覆い、空と地の境界を曖昧にぼかしている。どこかで雷が鳴った。光も見せない遠雷を背後に感じながら、アデリシアは得心したかのようにうなずいた。
彼女は思い出したのであった。その街の名を。以前、アデリシアはその街において巨人の吸血鬼と戦ったことがあったのだ。
「怪力、蝙蝠の次は鉄槌か。まったく一体あと何人いるんだか……」
二十歳ほどの男がごちた。柊 真司(ka0705)。良く光る金色の瞳をもつこの若者もまたハンターであった。
「あと何人、とは? 知っているのか、その吸血鬼どもを」
男が問うた。多分三十半ばほどであろうが、良くわからない。骨に皮をはりつけたように痩せており、その目には透徹した理知の光があった。
男の名はチマキマル(ka4372)というのだが、興味津々たる目を真司にむけた。彼は暴食系の歪虚専門のハンターであり、暴食系歪虚に対して強い思い入れがあったのだ。
「ああ」
真司はこたえた。
街を襲った二度の災厄。その張本人である二体の吸血鬼と彼は戦ったのであった。
「ほう。すでに二体もの暴食系歪虚が……」
チマキマルの目が爛と光った。好奇の光である。
「何か理由でもあるのか……」
「退屈なんじゃないのかな」
こたえたのは秀麗な顔立ちの娘であった。が、人間ではない。額からは角がぬらりと生えていた。鬼である。名は骸香(ka6223)といった。
「退屈?」
黒髪をツインテールにした可愛らしい少女が首を傾げた。これは名を遠藤・恵(ka3940)というのだが、骸香のいう退屈とい言葉の意味が良くわからない。
「そう、退屈。もしかするとあいつらに深い理由なんかないのかもしれないよ。単に退屈だから殺す。退屈で暴れるのは分かるんだよなぁ」
羨ましげに骸香はいった。破壊衝動のままに暴れることのできる吸血鬼のことが羨ましくさえ思う骸香である。
すると恵はびくりと身を強ばらせた。凄絶の殺気を感得した故だ。それは彼女の傍らをゆく少女の身から発せられていた。
右腕を肩から指の先まで赤い包帯で覆った少女の名は玉兎 小夜(ka6009)。恵の友人であった。
●
鮮血にまみれた石畳に立つ少年が、ハンターに気づき槌を掲げた。
可愛らしい顔をした少年だ。手からじゃらりと鎖をさげていた。
「話には聞いていましたが、それ以上にろくなもんじゃなさそうですね」
恵は息をひいた。まるで爆撃をうけたかのように辺りの建物は崩れ、石畳は陥没している。ミンチ状の肉塊は粉砕された街の者たちであろう。
うう、と神秘的な雰囲気をもった美少女の口から嘆きの声がもれた。アリア・セリウス(ka6424)である。
「なんて……」
惨状を見回し、アリアは言葉を見失った。なんという惨たらしい光景であろうか。
この殺された人々にも思いと、明日があったはずである。帰る家があり、ただいまと声をかけ、笑い合い、おやすみと口づけをかわすという当たり前の日常が。
「虫ではないの、心があるの。想いがあって、明日と願うものがあるのが人なの」
アリアは吸血鬼に目をむけた。が、血まみれの少年は屈託なく笑っている。まるで楽しい遊びでもしていたかのように。
アリアは自身の身が震えていることに気づいた。
「……ああ、私は怒っているのね。こんな殺戮、絶対に許せないのだと」
その時だ。吸血鬼――フレディが口を開いた。
「なんだい、あんたらは?」
「ハンターだよ」
八人めのハンターがこたえた。十代半ばの可憐な少女である。名をキーラ・ハスピーナ(ka6427)といった。
「君は?」
「フレディ」
少年がこたえた。そして、ハンター、と口の中でつぶやいた。
聞いたことがある。強い人間であるという噂を。
「……そうか。あんたらがマティスやジョットを殺ったのか。どうりで」
「というところをみると」
真司が足を踏み出した。
「お前、マティスやジョットと同じ類のようだな……お前の目的はなんだ?」
「あんたらだよ」
フレディはこたえた。
「うちたち?」
骸香が眉をひそめた。ハンターが目的とはどういうことであろう。
「そう」
うなずくと、フレディはふふふと朗らかに笑った。
「マティスとジョットを斃した奴の顔を見てみたくなってね。街の奴らを殺したらきっと来ると思ってさ」
「……酷い話だよね。私達と戦いたいなら、最初から呼び出してくれればいいのに」
キーラが哀しげに目を伏せた。なんという無意味な殺戮であろう。それを平然と成す眼前の少年はやはり人間ではあり得なかった。
「……ヘロルドよりも反吐が出るね。時間つぶしなんて」
小夜は吐き捨てた。ヘロルドというのは、かつて彼女が斃した吸血鬼である。
「アイツは食事のための殺しだったから、首刎ねで許したけど、お前は駄目」
小夜は独語した。すると雪のように白い垂れた耳が彼女の側頭部両側に、そして同色の毛玉のような尻尾が腰部下部に現出した。覚醒したのである。
この時、小夜は決断していた。フレディという吸血鬼、微塵に砕いてやろうと。
「なら、どうするんだい?」
小夜の声が聞こえるはずはないのに、フレディが彼女に笑みをむけた。興味津々たる笑みだ。
「相手してやるよ」
真司がいった。
「相手? 遊んでくれるの?」
「そうだ、吸血鬼!」
真司が叫んだ。
刹那である。アデリシアの眼前に光が集約、それは杭と変じてフレディめがけて飛んだ。
「おっと」
フレディが跳んだ。人間を超える速さで。アデリシアの信念の結実たる光の杭は空しく流れすぎた。
「やるねえ」
フレディの手から鎖が唸りをあげて飛んだ。弾丸と同速のそれは、さすがのアデリシアも躱しきれない。あっ、と呻くアデリシアの首に鎖が巻き付いた。
●
ぐい、とフレディが鎖をひいた。まるで子猫のように軽々とアデリシアが引き寄せられる。
刹那である。アデリシアを追って――いや、追い抜いてアリアが馳せた。
「斬魂葬鬼――想いの鋭さを知りなさい」
アリアが抜剣した。針のように仕上げられた刀身を持つレイピア――スティンガーである。物質強化の魔法により、より鋭さを増した剣先をアリアは突き出した。一条の光芒と化した剣はフレディの胸めがけて疾り――キイィンと澄んだ音を発して、スティンガーの刃は跳ね返された。フレディが盾のようにかまえた巨大な鉄槌によって。
「さすがは」
アリアは呻いた。常人ならば避けるこのできない鋭い刺突である。それを躱し得たのは吸血鬼としての尋常ならざる反射神経の仕業であろう。
「吸血鬼のくせに、やるね」
小柄の体躯からは想像もつかない、剛胆な一撃を小夜は見舞った。山風をも蹴散らす剣風が辺りに鳴り、防ぐいとまも与えずフレディの腕を祢々切丸――怪しい雰囲気の巨大刀で打つ。硬く澄んだ音を残しながら敵の後背に抜けた小夜はさらなる一撃を加えようと回転し、吹き飛んだ。鎖を巻きつけたままのアデリシアを叩きつけたのである。規格外の怪力であった。
「ははははは」
楽しそうに笑いながらフレディは倒れた小夜に迫った。切られた腕は裂けてはいるが、いまだ鉄槌は扱えるようである。小夜めがけて鉄槌を振り下ろした。
「くっ」
咄嗟に小夜は祢々切丸で受けた。ものすごい衝撃に彼女の腕が悲鳴をあげる。
「ったっく、おもいなぁ!」
「ご主人様から離れて!」
恵が弓をかまえた。七色に輝く弓身を持つ細身のロングボウで、名を虹の弓という。
鉄槌を狙って恵は矢を放った。硬い音ともに鉄槌がゆらぐ。その機を逃さず、小夜は鉄槌をはねのけた。
「くっ」
小夜とアデリシアが跳躍。フレディから距離をとった。
「こっちだ」
チマキマルが叫んだ。戦場からやや離れた街角。ハンターのおかげで戦域は広くないので、このあたりなら安全だ。ここからさらに離れることができれば戦いが終わるまでは安全だろう。
「急いで」
老人に手を貸し骸香が駆けてきた。路上で気を失っていた老人である。怪我はたいしたことはないようだ。
「キーラは?」
「こっちにはいないのかい?」
チマキマルにむかって骸が問い返した。チマキマルが首を振る。
その頃、キーラは二人からやや離れたところにいた。瓦礫に埋もれた女性を見つけたのである。
もしかすると生きているかもしれない。
キーラは瓦礫に手をかけた。
●
「……なるほどね」
フレディはうなずいた。理解できたのだ。なぜマティスたちが殺られたのかが。
彼の鉄槌を女が受け止めた。そんなことのできる人間はいなかったに。これならいっぱい遊べそうだ。
鎖を掴むと、フレディはそれをもっとも近くにいた真司へ向け撃ち放った。咄嗟に真司は障壁を展開した。紫電が散り、鎖がはじき返される。
「へえ」
感心したようにフレディが唸った。障壁の魔法を見るのは初めてあったのだ。
真司はふふんと笑った。
「そんなものでやられるかよ」
「なら」
フレディが魔性の速さで真司に迫った。信じられぬ速さに戸惑いつつ、しかし真司は再び障壁を展開した。するとフレディもまたもう一度鎖を放った。
「それが効かないことはわかっているはずだ」
真司は叫んだ。直後である。紫電を散らせ、鎖がはじかれた。同時に障壁が消滅。ぬっと真司の眼前にフレディが現出した。
「今度はだめだよ」
フレディが真司に鉄槌をぶち込んだ。まるで爆発に巻き込まれたように真司が吹き飛ぶ。地に叩きつけられた時、すでに真司の意識は消し飛んでいた。
「まずは一匹、と」
フレディはニタリと笑った。
「柊さん」
アデリシアが真司に駆け寄った。身体の様子を探り、息をひく。肉がひしゃげ、骨が砕かれている。恐るべき吸血鬼の破壊力であった。が――。
想像ほどではない。アデリシアは思った。
破壊された街の様子からみるに、真司の肉体は粉砕されていてもおかしくはない。それなのに、何故だ?
真司の肉体を魔法で癒すアデリシアの視線がフレディの腕の傷でとまった。小夜によってつけられたものだ。
「……なるほど。そういうことですか」
アデリシアはいった。一気に勝負を決めると。
「へえ」
フレディがハンターを見回した。ハンターたちまた身構えて見返す。彼らのこめかみに流れる血脈すら聞こえるほどの緊張と静寂。それを打ち破ったのは、チマキマルであった。
「さあ、滅びてもらおうか」
チマキマルの眼前の空間で明滅する魔法陣から氷の矢が噴出した。さしものフレディも躱すことはできない。矢が吸血鬼を貫いた。
「うーん」
キーラが瓦礫を持ち上げようとした。が、重くて持ち上げることはできない。
石畳に血が広がった。がれきの下敷きになっている女性は怪我をしているのだ。治療は可能だが、助け出さないことには再び肉体は傷を負ってしまう。
再びキーラは力を込めた。救いたい。その想いが白髪的な力をキーラに与えた。
ドカリッ。
瓦礫が動いた。
●
一瞬動きをとめたフレディめがけ、迅雷の速さで迫った者があった。骸香だ。
フレディの死角に回り込むと、骸香は脚をはねあげた。鉈のような蹴りをフレディの背に叩き込む。
同時にアデリシアは再び信念の結実たる光の杭を放った。閃光が空を裂き、それはフレディの足の筋肉も裂いた。
「くそっ」
吼えると、フレディは鎖を撃ち放った。が、それは空ではじかれた。恵の放った矢によって。
「ご主人様♪」
「わかってる」
小夜が肉薄した。額前に掲げた腕をしならせ、上段に鉄槌を備えたフレディの虚をつき素早く横に回り込み、斬りつける。乾いた剣戟の音は軽い響きを持つが、それは人が相手ならば致命的な一撃であることを、敵の胴からしぶいた黒血が教えていた。
「まだだよ」
振り返りざま、小夜は刃をフレディの首めがけて疾らせた。が、その一撃は空をうった。フレディが身を沈めたのだ。
フレディは横薙ぎに鉄槌を振った。まるで大型トラックに激突されたように小夜の身が吹き飛ぶ。
「戦の倣いよ、吸血鬼。戦場で血を求めた以上、その対価に命を貰うわ」
さらなる攻撃の振り返る間も、アリアは与えるつもりはない。冷たくフレディを見据えたまま一気に間合いに踏み込むと、彼女は鉄をも穿つ強靭な刺突を喉元に叩き込んだ。鈍く硬い衝撃に腕が痺れるが、構わずアリアはスティンガーで貫いた。
黒血を噴きつつ石畳に転げながらも、フレディは不安定な体勢のまま鎖を空へと撃ち上げた。不規則な放物線を成し地に落ちてきた鎖は、一瞬反応に遅れたアリアの頭部をしたたかに打った。
「う……ぁ」
眩む視界に足がもつれ、打たれたアリアの頭から、鼻から、血が溢れだした。抗えず意識が暗転していく。が、次の瞬間、彼女の意識は明瞭に立ち直っていた。耳に届いたのは、キーラの祈りを捧げる声だ。
「間にあったようですね」
「こいつで終いだ」
治癒された真司が跳んだ。重力を無視した飛翔。はしる鎖をくぐりぬけ、真司はフレディに肉薄した。
「他の二人同様こいつで真っ二つにしてやるよ」
いまだ体勢の整わぬフレディめがけ、真司は柄に特殊装置を搭載した日本刀で斬りつけた。
MURASAMEブレイド。軍で試作された特殊な刀で、刃の先端から微量なレーザーを放射して切れ味を増し、敵を切り裂くという代物だ。
ニンマリとフレディは笑った。そして巨大な鉄槌を眼前でかまえた。
「馬鹿が」
「馬鹿は貴様だ」
巨大化したMURASAMEブレイドが鉄槌の柄ごとフレディを両断した。
MURASAMEブレイドの大きさは本来人間には扱えぬものである。が、恐るべきことに真司の戦闘技術はそれを可能としていたのだった。
●
「お疲れ様でした、ご主人様♪」
恵が小夜に抱きついた。すると小夜の臨戦態勢はようやく解けた。恵の頭を優しく撫でる。と――。
突然、小夜の手がとまった。訝しげに恵が小夜を見つめる。
「どうかしたの?」
「いや……」
小夜は振り向いた。誰かに見られているような気がしたのだ。
「気のせいよ」
「そうだね」
小夜はうなずいた。
細い影が建物の屋根を飛び移っていた。人とは思えぬ跳躍力である。
怪我人を助けているハンターたちをちらりと見やり、影はクククと笑った。
「ようやくわかったぞ。敵の正体が」
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/14 12:05:29 |
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作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/09/16 06:57:33 |