ゲスト
(ka0000)
【月機】 戦の車は戦の傀儡
マスター:桐咲鈴華

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/25 07:30
- 完成日
- 2016/10/03 06:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
歪虚忍び寄る『おばけクルミの里』。
ついにコーリアスが包囲の輪を縮め、決戦に向けて動き出す。
ユキウサギ達は月天神法で結界を形成。里への侵入を阻む。
月天神法の消滅は、コーリアスが目的とするツキウサギの危機に繋がる。コーリアスの好きにさせれば、人類の敗北はまた一歩近づく。それは決して許してはならない。
ハンター達の死力を尽くした防衛戦が――今、開始される。
●
「ふふ、気づいてくれたようだね。そうでなくては面白くない」
高台にひっそりと立つコーリアスは不適に笑う。『対戦相手』が脆弱では張り合いがないと言わんばかりに、ハンター達の抵抗を愉しんでいるようだった。戦局が難しければ難しいほど、それを覆す一手は棋士にとっては快感にも等しい。ゲームの盤面を眺め、コーリアスはただ愉悦の笑みを浮かべる。
「さて、ならばそろそろ私も隠し玉を出すとしよう。この一手は果たして、君たちにとっては付け入る一手となるか、はたまた、この一手が君たちへの王手となるか」
コーリアスが手を挙げると、彼の背後から汽笛の音が鳴り響く。音は天を劈き、車両の動き出す音が少しずつ大きくなっていく。
「さあ、愉しませてくれたまえよ。こんなにも面白い拾いものをしたのだ。懸命に抗ってくれたまえ」
●
「……なんてことを……」
エフィーリア・タロッキ(kz0077)は歯噛みする。彼女は月天神法を形成する結界地点のうちの一つにて、遠くであがる汽笛の音を聞く。
前回、ハンター達が持ち帰った写真をロレント・フェイタリ(kz0111)が解析した結果、その解析結果の一つに、『何かを改造した跡』のようなものを発見した。それを運び出した跡と思しき轍、残存していた細かな断片の一つを、解析を手伝っていたエフィーリアが点と点を線で結ぶ。その結果、驚くべき事実が発覚したのだった。
「……『The Chariot』が、コーリアスによって改造されていた……」
エフィーリアが歯を食い縛りながら言う。
彼女の追う歪虚郡『アルカナ』。その内の一体である『The Chariot』は機械の体を持つ列車型の歪虚だ。かのコーリアスがそれに改造を施し、手勢の一つとして加えているということが先の調査で判明したのだった。
「……好きにはさせません、決して」
遠くであがる黒い煙を目に、エフィーリアはぐっと拳を握り締める。彼女は『アルカナ』を討滅する為の力がある。ただでさえ悲しい運命を持つ歪虚が、コーリアスの傀儡にされている状況を黙って見ている事などできはしない。
「……頼みましたよ、皆様」
エフィーリアがアルカナ討伐の鍵を握っている。その鍵穴を創り出すのは、遥か先にてChariotを迎え撃つハンター達にかかっているのだった。
●
「ポッポーーーーッ!!」
戦車は疾走る。ただただ、眼前のものをなぎ倒して走る。
その直線状に在るのは月天神法の陣、そしておばけクルミの里。
戦車は何も語らない。
戦の車は、ただ戦の為だけに。蹂躙の為だけに存在するのだから。
歪虚忍び寄る『おばけクルミの里』。
ついにコーリアスが包囲の輪を縮め、決戦に向けて動き出す。
ユキウサギ達は月天神法で結界を形成。里への侵入を阻む。
月天神法の消滅は、コーリアスが目的とするツキウサギの危機に繋がる。コーリアスの好きにさせれば、人類の敗北はまた一歩近づく。それは決して許してはならない。
ハンター達の死力を尽くした防衛戦が――今、開始される。
●
「ふふ、気づいてくれたようだね。そうでなくては面白くない」
高台にひっそりと立つコーリアスは不適に笑う。『対戦相手』が脆弱では張り合いがないと言わんばかりに、ハンター達の抵抗を愉しんでいるようだった。戦局が難しければ難しいほど、それを覆す一手は棋士にとっては快感にも等しい。ゲームの盤面を眺め、コーリアスはただ愉悦の笑みを浮かべる。
「さて、ならばそろそろ私も隠し玉を出すとしよう。この一手は果たして、君たちにとっては付け入る一手となるか、はたまた、この一手が君たちへの王手となるか」
コーリアスが手を挙げると、彼の背後から汽笛の音が鳴り響く。音は天を劈き、車両の動き出す音が少しずつ大きくなっていく。
「さあ、愉しませてくれたまえよ。こんなにも面白い拾いものをしたのだ。懸命に抗ってくれたまえ」
●
「……なんてことを……」
エフィーリア・タロッキ(kz0077)は歯噛みする。彼女は月天神法を形成する結界地点のうちの一つにて、遠くであがる汽笛の音を聞く。
前回、ハンター達が持ち帰った写真をロレント・フェイタリ(kz0111)が解析した結果、その解析結果の一つに、『何かを改造した跡』のようなものを発見した。それを運び出した跡と思しき轍、残存していた細かな断片の一つを、解析を手伝っていたエフィーリアが点と点を線で結ぶ。その結果、驚くべき事実が発覚したのだった。
「……『The Chariot』が、コーリアスによって改造されていた……」
エフィーリアが歯を食い縛りながら言う。
彼女の追う歪虚郡『アルカナ』。その内の一体である『The Chariot』は機械の体を持つ列車型の歪虚だ。かのコーリアスがそれに改造を施し、手勢の一つとして加えているということが先の調査で判明したのだった。
「……好きにはさせません、決して」
遠くであがる黒い煙を目に、エフィーリアはぐっと拳を握り締める。彼女は『アルカナ』を討滅する為の力がある。ただでさえ悲しい運命を持つ歪虚が、コーリアスの傀儡にされている状況を黙って見ている事などできはしない。
「……頼みましたよ、皆様」
エフィーリアがアルカナ討伐の鍵を握っている。その鍵穴を創り出すのは、遥か先にてChariotを迎え撃つハンター達にかかっているのだった。
●
「ポッポーーーーッ!!」
戦車は疾走る。ただただ、眼前のものをなぎ倒して走る。
その直線状に在るのは月天神法の陣、そしておばけクルミの里。
戦車は何も語らない。
戦の車は、ただ戦の為だけに。蹂躙の為だけに存在するのだから。
リプレイ本文
●独白
自分には戦いしかなかった。
剣を振るって鉄を裂き、撃鉄を鳴らして肉を貫き、火を放って骨をも焦がす。
意のままに暴威を振るい、命じられるままに脅威を翳す。切り開き、蹂躙し、征服する事が、自分の存在意義だった。
戦いは良い。相手を打ち負かした時、自分が相手よりも強いのだということを実感出来る。戦いの場において相手より優れた存在である事を証明する手立ては、相手を征することに他ならない。そうして自分という個が成り立った。
そう、自分には戦いしかなかった。
だから、 自分は誰かの剣でいい。自分は誰かの銃でいい。自分は誰かの魔法でいい。
何かの理想の為に。何かの信念の為に、何かの願いの為に。
その障害を除く為に振るわれる”力”でいい。
●迫りくる機甲特急
『ポッポーッ!』
遠くから、空を劈く汽笛の音が聞こえる。それは怒号のようでもあり、咆哮のようでもあり、鬨のようでもあった。『戦車(The Cariot)』。アルカナと呼ばれる歪虚の一体であり、
鋼鉄の車両を持つ暴走列車だ。同じく歪虚『コーリアス』によって改造されており、月天神法の陣の一つへ狙いを定め、平野の中を突き進んでいた。
そんな鋼鉄の車両の両翼から、何者かが姿を現す。馬の蹄を打ち鳴らし、接近していくのはハンター達だ。その内の一人は『戦車』の姿を見ると、にやりと笑みを顔に浮かべた。
「……よぉ、久しぶりだな、暴走列車!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は相棒のゴースロン”セラフ”に乗り、徐々に近づいてゆく『戦車』の鉄の身体に言葉を投げかける。
「俺は狙った獲物は逃さねぇ……今日はあの時のような断片じゃねえ、確実にその”首”、討ち取ってやるぜぇ!」
彼が『戦車』と相対するのは二度目だ。強力な敵が相手であるほど、エヴァンスの闘志は熱く滾り、燃え上がる。眼前で汽笛を鳴らし、車輪を回しながら走る『戦車』に追従していく。
「うーわ、ひっさびさに見たけどまだ生きてたのか。ふーん……」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)もまた、相棒のゴースロン”ホットドッグ”を駆り、エヴァンスの横に並走するような形で『戦車』に接敵していく。彼女も同じく以前に一度、『戦車』と相対したハンターの一人だ。今回の『戦車』の様相は以前の者と打って変わっている事をなんとなく察したが、彼女自身はどうでもよさそうな目で眼前の敵を見据えている。
『戦車』の反応は早かった。4号車に搭載されている機銃が二人の方を向き、一斉に掃射する。機銃の銃口がこちらを向いたのを素早く察知した二人は、すぐさま手綱を振るい回避行動を取る。
「こっちを向け、戦車! 私が相手だ!」
すぐさまそこへ駆けつけたのは鞍馬 真(ka5819)だ。体内のマテリアルを活性化させてオーラを纏う彼に対し、『戦車』の機銃はすかさず彼に狙いを変えて機銃を打ち込む。銃弾の嵐を真は駿馬を駆り、かいくぐって行く。
「鋼鉄の身体にあの武器の数か……生身で戦うには、なかなか無茶ない相手だな……!」
だが真も一人ではない。後に続くは夜桜 奏音(ka5754)。ゴースロンに跨り、爆走する列車に並走する。
「あれが『戦車』ですか。聞いていたとおり厄介なものが陣に向かっていますね」
奏音は馬上で符を展開し、一閃するように上空へと投射する。符は雷撃へと姿を変え、奔る『戦車』の装甲へと打ち付ける。
「情報通り……機械の身体にはよく通ります」
『戦車』は重装甲を持つが故に堅牢なる守りを誇るが、その分鉄を多量に含む身体を持つが故に、風属性の攻撃に対して脆弱性を見せる事を理解していた。
「なら……これを喰らえ!」
真もまた、拳銃「鳴鵺」を射撃した。風切り音と共に弾丸が空を切り、風雷の力を伴って機銃の一つを破壊する。結果として弾幕の一つに穴が開き、そこを狙ってオフロード魔導バイクを走らせるグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が強襲を仕掛ける。
「……グリムバルドだ。戦士と呼ぶには拙い剣捌きだが、挑ませてもらうぜ、『戦車』!」
グリムバルドは魔剣「カールスナウト」を抜き放ち、『戦車』の4号車両へと接近。バイクに跨りながら強引に半身を振るい、穿つように斬撃を叩き込む。車両の外壁の一部分ごと、更に機銃の一つを抉り取った。
「よしっ、これで……っ!?」
抉り取った筈の砲門から新たにアサルトライフルが構えられ、外にいたグリムバルドを射撃したのだ。咄嗟に攻性防壁を張り、至近距離から衝撃でアサルトライフルを吹き飛ばす。
「中に……あれは、コーリアスのゴーレムか! 事前情報通り、機銃を操縦しているようだな……!」
魔剣によって翻すように銃弾を弾きながら距離を取るグリムバルド。コーリアス製のゴーレムが内部にて『戦車』の各機関の操縦を行っている事前情報を得ており、それによりあらゆる武装の精度が向上しているようだ。
「やっぱ好き勝手やらせるわけにはいかねえな! 打ち合わせ通り俺に続けよ、メオ!」
「ほいさー」
グリムバルド、真、奏音が後尾車両を攻撃している間、回り込むように先行したエヴァンス、及びメオが一号車へと接近する。
「大物を仕留めるにゃまず足から……喰らいやがれ!」
騎乗して接近。馬の速度を自身の膂力に乗せて横合いからぶつかるように大剣を叩き込む。狙いは車輪。横方向にまっすぐ連なる車輪をまとめて強引に薙ぎ払う。
「だらぁぁぁぁぁっ!!」
ガギギギギ!! と車輪に絡むように剣戟の音が響き渡る。
「別に恨みはないんだけど、そのまま走られるとどうやら困ってしまうようだからねぇ」
エヴァンスと同じタイミングで車両に接近。
「止めさせてもらうよー……っと!」
エヴァンスの攻撃に合わせるように、彼の狙った箇所と同じ所を戦斧で薙ぎ払う。続けざまに攻撃を受け、車輪も無視できないダメージが蓄積されていく。
しかし一号車両も黙ってやられてはいない。装着された砲門が二人の方を向き、砲弾を打ち込んで爆撃する。上手く手綱を操って直撃を回避するが、爆風と爆音で体勢が揺さぶられる。
「ちぃっ、射角の懐に潜り込むぞメオ!」
「ほいさー」
「一発でもあぶねえぞ、気を抜くなよ!」
「ほいさー」
「さっき狙った車輪を狙う! 合わせろよ!」
「ほいさー」
「掛け声雑だなオイ!?」
気の抜けたメオの相槌にツッコミを入れるエヴァンスだったが、そんなやり取りにも関わらず的確な連携で敵の攻撃を掻い潜りながら、執拗に左側面の車輪を傷つけてゆく。
流石に足を狙われては『戦車』も黙ってはいない。砲門全てをエヴァンス、メオに向けて、機動力を削がれる事に対して全力で対処を試みる。しかしそれ故に、ナタナエル(ka3884)が逆方向から接近するのに気づけなかった。
「注意が疎かだ」
ナタナエルはバイクを乗り捨て、跳躍。リヤンワイヤーを煙突に絡ませ、自身の身体を引っ張って一号車に張り付いた。
(『彼』ということは、元は人なのか?)
ナタナエルは以前から『アルカナ』の歪虚に出会っていて、アルカナが元は人間だということを知っている。しかし、クリムゾンウェストでは見ないような戦闘兵器の形状から、かつてどのような姿だったのかに想いを馳せる。
(かつては、リアルブルー出身者か、この形を再現しようとした研究者か、戦に耽る騎士だったか……何にせよ)
『ポッポーッ!』
『戦車』は上に飛び乗られた為に、汽笛を鳴らして蛇行運転をし、ナタナエルを振り落とそうとする。ナタナエルは風を伴ったレイピアを車体に突き刺し、ワイヤーを武装に絡ませて振り落とされるのを堪えていた。
「お前はもう『英雄』などではなく、ただの歪虚の駒だ」
ナタナエルは一号車の上に常に張り付く。動力部分たる一号車は『戦車』にとっての重要な部位だ。それ故に対処を強いられ、エヴァンスとメオを狙っていた砲門はそちらを向く。結果として側面側の対処が遅れ、車輪にはダメージが確実に蓄積されていき、ガタガタと不自然な音をたてながら運行していく。
「ほれほれエヴァンスちゃん、チャンス到来って奴だよー」
「わかってるさ、いくぞ!」
「ほいさー」
爆撃にはリロードの為の隙がある。何度も砲撃を受けたエヴァンスとメオは、砲撃を回避しつつその隙を狙って強襲を仕掛ける。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」
エヴァンスが吼え、獰猛に突撃する。その琥珀色の瞳が捉えるのは、何度も攻撃していた一号車の車輪、その亀裂の入った部分だ。琥珀色のマテリアルが彼の背後に浮かび上がり、その様相は竜が口を広げ、食らいつくかのような錯覚を覚える。
メオもまたそれに続き、戦斧を振りかぶりながら同じ箇所に強襲を仕掛ける。まさに、”竜が如く”一撃と、燃え盛る赤い炎の幻影を纏う一撃が同時に繰り出され、その交差点たる車輪部分は物凄い衝撃音を立てて破壊される。
「よっしゃぁ!」
「うわかってぇ……手ぇしびれたー」
車輪の一部が破壊され、ガコガコガコガコとバランスの悪い音を立てながらも、なお邁進する『戦車』。しかし車輪部分が不安定になり、目に見えてスピードが減少し、揺れが大きくなる。
「今だ……切り開く!」
その機会の訪れを察知し、3人のハンターが新たに『戦車』に急速接近する。アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がゴースロン"グレース"に跨って接敵し、鞍から『戦車』へと跳躍する。
「ふ……っ!」
マテリアルを身体に巡らせ、一時的に重力を横向きにし、爆走する『戦車』の車体の壁を地面のように走る。そんな彼女を撃ち落とすべく、機銃が横を向き、アルトに狙いを定める。
「させないよ!」
アルトの方を向いた機銃を横合いから鋭く刺突したのはリューリ・ハルマ(ka0502)だ。風の精霊の力を伴ったレイピアによる刺突は機銃を深く穿ち、破壊する。彼女の狙いは四号車の一点、先程グリムバルドが抉った亀裂だ。
「――――”踏鳴”!」
車体を踏みつけてその地点に跳び、鋭き速度を刀に乗せてその亀裂に一閃する。砲門の穴を中心に斬撃跡は広がり、その奥にいるゴーレムごと車体に人が通れる程の穴を開ける。
「よしっ、潜入箇所が開いた、行くぞ……!」
「ユキウサギさんも、中から攻撃をお願いします」
アルト、そしてリューリはその亀裂から車両内部へと突入する。近くに接近していた奏音も、同行して貰っていたユキウサギにお願いする。ユキウサギはびしっと敬礼をすると、アルトとリューリに続いて中へと入り込む。車両内部では多数のゴーレムが待ち構えており、侵入者の2人に銃口を向ける。
「もー! こんなに大勢入り込んで! そんな悪い奴らには……」
リューリは拳を構えると、手近なゴーレムの懐に飛び込み、ラッシュをかける。両手から繰り出される連続攻撃は、拳が命中する度に法術陣が展開され、怒涛の衝撃がゴーレムを粉々に粉砕する。
「ぐーぱんち! しちゃうからね!」
ゴーレムが粉砕されると同時に、入れ替わるようにアルトが踏み込む。一歩踏み込んだだけにも関わらず、踏みしめた足はアルトの身体を跳ね飛ばすかのように加速させる。
「ゴミに用はない……道を開けろ!」
刹那、突風のように吹き抜けたアルトはすれ違い様に斬撃を繰り出し、多数のゴーレムを一度に両断し、切り伏せていく。
リューリ、そしてアルトは車両内部を駆け抜けていく。道中にはコーリアスの配置したゴーレムが多数配備されており、それらを打ち倒し、切り伏せながら一号車両へと進んでいく。
しかし、全てが順調に進む訳ではなかった。3号車への到達前、一際強度の高いゴーレムが立ちふさがる。アルト、リューリの攻撃で即座に撃破する事が出来ない。ユキウサギが杵をぶんまわし、遠心力をつけて攻撃するも、その一撃を受け止めた相手は巨大なチェーンソーを振りかざしてくる。
「そうはさせない」
突如として虚空から声が響き、死角から忍び寄ったナタナエルがワイヤーによりその腕を拘束する。一号車の車輪破壊後、天井伝いに四号車の亀裂へと走ったナタナエルは、2人の後に続くように速やかに潜入していたのだった。腕を絡め取られ動けなくなったゴーレムの動力部に狙いを定め、ヴァーチカル・ウィンドを的確に刺突してゴーレムを沈黙させる。
「まだ先は続く、行こう」
「ああ、ありがとう」
「ガンガンいこう!」
ナタナエル、アルト、リューリ、そしてユキウサギは3号車両へと進むと、その瞬間ガクン! と車体が大きく振動する。車内にいる3人は事態の把握ができなかったが、外にいた真がトランシーバーによって連絡をする。
「聞こえるか、奴の3号車からジェットウイングが展開された! 飛行するぞ!」
『戦車』は3号車の側面から巨大なウイングを変形展開させ、エンジンを放出する。『戦車』の長く巨大な車体が浮き上がり、一時的に飛行。その翼に搭載されたミサイルが、4号車の機銃が、一号車の砲門が、周囲一帯の大地ごとハンター達を絨毯爆撃していく。
「ちぃっ、生身で戦うには、なかなか無茶な相手だな……!」
常にヘイトを引く真には多数のミサイルが迫る。馬を左右に振り、爆撃を回避しては拳銃でミサイルの信管を撃ち抜いて起爆させる。
「……あと少し……」
そんな中、奏音は冷静に状況を見ていた。『戦車』の空中からの爆撃は雷の符を放って迎撃しつつ、何かを計測するように先を見据え、そしてカチリとそれらが噛み合う。奏音は足元から吹き上がる風に乗るように馬を奔らせ、燐光を纏いながら口伝符でグリムバルドへと言葉を伝える。
「――今です、左翼を狙ってください!」
「了解だぜ!」
グリムバルドは剣を持つが故に、上空の『戦車』には届かない。しかし、周囲の平野は少しずつ森に変わる。大きく盛り上がった坂道に差し掛かった所で、グリムバルドはライディングファイトによってバイクエンジンをフルスロットルに引き上げる。
「突き進むのはアンタだけの特技じゃないぜ! 跳べ、バルバムーシュ!!」
局地的な超加速によって坂道をジャンプ台のように跳び、ほんの一瞬だけ高度が『戦車』と同じになる。その加速力を剣へと籠め、渾身の一振りで翼に一撃を加える。
「今です!」
それと同時に奏音も雷撃を同じ箇所に命中させる。『戦車』の巨体を飛ばす為に無理な設計をされているウイングにはさほど耐久性はなく、強烈な一撃を集中された翼はあっさりと破壊され、空中にいた『戦車』は落下する。そこは地面――に偽装されていた、泥の拘束結界だ。
それは奏音が、接敵前に予め設置していた地縛符だ。不可視の結界は範囲内に踏み込んだ対象の足元を泥状に固めて移動を阻害する。『戦車』ほどのパワーと質量のある歪虚を押しとどめる事は本来不可能だが、空中から落下したタイミングで地面が泥濘んだ為にバランスを崩し、横転した上で押し固められてしまった。
「結界にかかりました、今が好機です!」
奏音の声が響き渡る。『戦車』は車輪を回しながらすぐさま起き上がろうとするが、横転した上に拘束されては流石に簡単には起き上がれない。
「よっしゃ、動力部だ! 一号車を破壊すれば完全撃破だぜ!」
「でもあれすっげー硬そうだぜエヴァンスちゃん」
「所詮は試しだ、駄目なら次を狙えばいい、いくぞ!」
「ほいさー」
エヴァンス、メオは動きの止まった一号車を狙う。メオは炎を纏うかのようにマテリアルを放出し、戦斧を振って一号車の外壁を狙うが、僅かな切り傷をつけるのがやっとだった。
「え、なにこれやべぇ。くっそ硬くね?」
想像上の強度を誇る外壁部分は攻撃を繰り返してもびくともしない。エヴァンスもまた先程の一閃をもって斬りつけるが、車輪を破壊したようにダメージを通らせる事はできなかった。ほどなくして二号車からジェットつきハンマーが展開され、接近する二人に向けて加速したハンマーが飛んでいく。
「ちぃ、やっぱ上手くはいかねえか! 下がるぞメオ!」
「ほいさー。や、あれ危ねえよ。たかし丸たすけてー」
速度と質量の伴うハンマーは接近時は脅威と判断したエヴァンスは憂いなく距離を取り、射程距離外へ離脱する。しかし外の5人と内部の3人(と一匹)の怒濤の攻撃により、『戦車』の装甲は少しずつ、削られていくのだった。
「コーリアスに改造……か。あの改造は臨んだものか不本意なのか……ね」
距離は離れ、『月天神法』の陣内。待機していた十色 エニア(ka0370)は遠くで戦う『戦車』と仲間たちに想いを馳せていた。エニアはエフィーリア・タロッキ(kz0077)を愛馬スロウの後ろ側に乗せ、前線で戦うハンター達の連絡を受けて秘術行使の為にエフィーリアを送り届ける役目を担っていたのだった。
「あ、あの……エニア様……」
「ふふ、ここまで密着すれば流石に意識しちゃうね」
エニアは前回、エフィーリアと手を繋いで戦った。その時は幾分かマシだったが、今は馬に二人乗りだ。エニアの後ろにエフィーリアが抱きつく形の安定姿勢になっており、身体が密着している為、エフィーリアは必要な事とは思いつつも顔を朱に染めてしまう。
「それよりさ、その『様』ってつけるの、やめてみない?」
「え、あ、はい?」
「イスカさんのことだって呼び捨てにしてたでしょ。わたしも呼び名変えてみるから……ね、どう?」
その言葉にエフィーリアは益々赤面する。
「……それを貴方に言われますか……」
「え、なに?」
蚊ほどに小さな声を口の中でもごもごと呟くエフィーリアの声はエニアに届かなかった。というより、身体を密着させているせいで逸る鼓動の音にかき消されてしまったという方が正しいか。
「……なんでもありません。そ、それでは……エニア……と」
「う、うん。それじゃ、わたしもエフィーリア、って呼ぶね」
呼び捨てにされると、存外照れくさいのか、エニアも同じく頬を掻きながら、たどたどしくその名を呼ぶ。ほどなくして、奏音から口伝符を通じて連絡が入る。
『エニアさん、エフィーリアさん、『戦車』の拘束に成功しました』
「っと、こうしてる場合じゃなかったね、それじゃいくよ、エフィーリア」
「……はい」
顔を引き締め、手綱を打って戦場へと駆けるスロウと、それに跨るエニアとエフィーリア。振り落とされまいとしがみつくエフィーリアの手に、力がこもる。
「……そういえばさ、聞いてなかったんだけど、秘術の行使になにか、代償はないの? どこか身体を悪くはしていない?」
「ええ、大丈夫です。今のところ目に見えて身体に不調はありません」
そっか、と短く応え、森の中を突き進むエニア。前々からその事を心配していたエニアにとって、エフィーリアに異常が出ていない事は喜ばしい事だ。意識を戦場へと戻し、木々の間を抜け、地を跳び、二人を乗せた馬は戦場へと突き進んでいく。
「……見えた!」
ほどなくして『戦車』が見えてくる。エニアは翅のようなオーラを展開し、片手で横合いにヴァナディースを振るい、魔法を収束させる。
「前にいるのなら……一直線で!」
『戦車』の正面から突撃するエニアはライトニングボルトを放ち、その車両部分を一直線に貫く。車両内外からの対処に追われていた『戦車』は、突然前方の森の中から現れたエニアの一撃を為す術もなく受けてしまう。そしてその攻撃により、『戦車』は一瞬怯む。ダメージの蓄積による活動限界が近づいてきたタイミングを見計らい、エニアはエフィーリアを乗せて接近する。
「エフィーリア!」
「はい……!」
エフィーリアはエニアの馬から飛び降り、真正面にて横転する『戦車』に手を翳す。
「7番目の使徒……真なる姿をここに!―――『アテュ・コンシェンス』!」
エフィーリアの手から、光が放たれ、『戦車』の巨体を包み込んだ。
●行間
光の中で、ハンター達は見る。
生涯を戦いに費やした、一人の男がいた。剣を持ち、時に銃を、時に杖を持つ傭兵がいた。
己を磨き、鍛錬し、そして眼前の敵を打ち倒す。一人、二人……十人、百人と、数え切れない敵を、倒して、倒して、倒してきた男がいた。
磨き上げた力は、ただ『戦いに勝つ為』というシンプルなもの。
闘争の為、抗争の為、戦争の為、男はただひたすらに力を重ねていった。
それ故に男には、それ以外に何もなかった。
『戦い』を、手段ではなく目的とした男に、戦いによって得るものは何もなかった。
だから男は、強い理念に憧憬していた。
戦いの中にしか目的を見いだせない男は、戦いの先に目的を持つ隣人を尊重した。
故に誓う。自分はその為の”力”になると。
戦いの先を見据える者の為に、戦う為に生きてきた自分の力を貸すと。
そうして彼は、ただひたすらにその者の為に力を振るい、邁進してきた。
そしてその日――――戦うしかなかった男が、負け、そして死んだ。
男は慟哭した。負けた己に存在価値などないと。
戦うしかなかった男は、その瞬間、全てを失ったのだ。
だから、男は。
『もう二度と負けない力』を求め。
唆される甘言に、容易く誘われてしまったのだった。
●”負けられない”戦い
『ポッポーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』
一際大きな汽笛が放たれ、『戦車』の車輪は更に加速する。三号車は急速変形され、装備されていない筈のロボットアームが出現。横転した『戦車』が地面にアームをつき、起き上がろうとする。
「――『戦車』の核は引きずり出しました! 全力で対処してください!」
「任せて!」
その言葉に一番に反応したエニアは、そのロボットアームめがけて吹雪の魔術を叩きつける。狙うはその関節。高い耐久性を持つアームを破壊するのは難しくとも、関節部分が少しでも凍結すれば動きが鈍くなる。ロボットアームは精密な動きをする故に車体の修理を行えるが、その精密動作が少しでも弱まれば修復は大きく遅らせられる。
「よっしゃ、あとは中の奴らに託すぞ、メオ! 2号車両の動きを止めるぞ!」
「ほいさー」
「最後までそんな調子だよなお前!」
エヴァンスとメオが二号車両に接近。先程のハンマーの他、巨大なチェーンソーアームも出現し、より苛烈な連続攻撃を繰り出してくる『戦車』。叩きつけられるハンマーに対し、エヴァンスは強引にマテリアルを収束し、咆哮とともに剣を振り上げる。
「だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
気迫と共に切り上げられた剣にマテリアルが迸り、竜が天に昇るが如く一撃がハンマーを吹き飛ばした。
「ぽっぽーはさ、改造されちゃって強くなったけどさ、嬉しい? ぽっぽーって返事してみ」
『戦車』は絶えず汽笛を鳴らし、狂ったように武装を次々出現させてハンター達を振り払うように動く。
「おいおい駄々っ子かよー。ムキになりすぎじゃね? そんなに負けたくないの?」
メオは『戦車』に無関心だ。だからこそその様子がシンプルに映る。今の『戦車』は、何かに怯えるかのようにただひたすらに武装を振り回すように見えた。今光の中でハンター達が見たものが『彼』の正体であるのならば、彼は何よりも『敗北』と『停止』を恐れていることがわかるからだ。
車両内部。エヴァンスとメオが外部で近接武装をひきつけているお陰で、3人はより素早く内部を突き進む。
(『こいつ』は、私に似ている……)
アルトはその道中、『戦車』の事を考える。己を磨き、目的のため障害をなぎ倒す。敵の戦力を学習し、突き進むこの歪虚は、アルトの在り方とよく似ていた。
だが、決定的に違うところがある。彼は誰かに振るわれる『力』であり、『道具』で良かったのだ。己を磨く所はアルトと同じであっても、アルトには『己』という確固とした信念がある。コーリアスの道具という存在を『彼』は受け入れている事を知ると、アルトはやや残念そうに息を吐く。
「……残念だ。似ている者に巡り会えたと思ったのだがな。……だが」
だが、それでも、アルトはの技はより冴えを見せる。立ちふさがるゴーレムを寸断し、切り伏せ、奥へと突き進む。
「それでも尚、『そうありたい』と力を磨き続けたなら……お前もまた、『戦士』だ。それがお前の『信念』だと言うのなら……私は、敬意を持ってお前と対峙する」
全ての近接武装が外へとひきつけられた訳ではない。時折内部を狙って飛んでくるチェーンソーはアルトを襲うが、アルトの高速の剣がチェーンソーを到達前にバラバラに斬り裂く。
「最期の戦いだ。……同じ戦士ならば、悔いを残すなよ」
やがて二号車両の最奥に到達した3人の前に硬い扉で閉ざされた一号車両への道があった。中からの破滅を拒む『戦車』にとっての、最後の防壁。アルトは刀を振るい、ナタナエルはレイピアを、ユキウサギは杵をぶんぶん振って扉を狙うが、破壊には至らない。
リューリは考える。この歪虚の在り方を。
「あなたもかつては、英雄だって呼ばれてたんだよ」
リューリは言葉を投げかける。全てを拒絶する『扉』の、その奥へと。
「あなたは確かに、誰かの力でありたいと願っていたのかもしれないし、その力になれなかった事は怖かったのかもしれない。だけど」
リューリは拳を握りしめる。プロミネント・グリムはそれに呼応するかのように魔導回路が光り、法術陣が展開される。
「だけど、それだけであなたの全てが消え去った訳じゃないよ。……”負ける”のは、怖いし、”失う”のは、もっと怖い、だけど、それでもあなたの事を案じてた友達が……私達に力を貸してくれたんだよ」
『戦車』は応えない。彼に言葉などない。リューリはかつて、何もできない自分を鏡の中に見た。敗北し、失う事の辛を彼女はよく知っている。だからこそ、敗北し、全てを失った『戦車』と同じものを感じていた。
「だから、安心して! あなたは、敗けてもいいんだ。それを繋いでくれる誰かがいる。それは、貴方が貴方でいたから成し遂げられたことなんだ!」
『扉』が軋む。3人の攻撃だけではない。リューリの呼びかけに反応するかのように、拒絶の『扉』は、その堅牢さを残っていくように見えた。
「……怖い思いは、ぐーぱんち! 私が……私達が、貰っていってあげる!!」
リューリは床を蹴る。一直線に、その扉へと拳を叩き込んだ。
『扉』は、音を立ててひしゃげ、そして……。
●『戦車』の終焉
男は何も言わなかった。
機械の身体を失い、生身の身体を取り戻した彼には、もはや『蹂躙』する力も、『勝利』する力もない。
もはや完全に停止してしまった男は、もっとも男が恐れていた状態になってしまった。
「ね、誰かが継いでくれるのは……安心するでしょ?」
それでも、男は満足していた。
リューリの言葉に、小さく笑みで返してみせた。
男は消えていく。光の粒子となって、少しずつ天へと昇っていく。
戦う為に生まれた男は、戦いに破れ、そして……”何か”を遺して、消えていった。
「……楽しかった、またな」
『戦い』の中に生きた男を、アルトは敬意と共に見送ったのだった。
自分には戦いしかなかった。
剣を振るって鉄を裂き、撃鉄を鳴らして肉を貫き、火を放って骨をも焦がす。
意のままに暴威を振るい、命じられるままに脅威を翳す。切り開き、蹂躙し、征服する事が、自分の存在意義だった。
戦いは良い。相手を打ち負かした時、自分が相手よりも強いのだということを実感出来る。戦いの場において相手より優れた存在である事を証明する手立ては、相手を征することに他ならない。そうして自分という個が成り立った。
そう、自分には戦いしかなかった。
だから、 自分は誰かの剣でいい。自分は誰かの銃でいい。自分は誰かの魔法でいい。
何かの理想の為に。何かの信念の為に、何かの願いの為に。
その障害を除く為に振るわれる”力”でいい。
●迫りくる機甲特急
『ポッポーッ!』
遠くから、空を劈く汽笛の音が聞こえる。それは怒号のようでもあり、咆哮のようでもあり、鬨のようでもあった。『戦車(The Cariot)』。アルカナと呼ばれる歪虚の一体であり、
鋼鉄の車両を持つ暴走列車だ。同じく歪虚『コーリアス』によって改造されており、月天神法の陣の一つへ狙いを定め、平野の中を突き進んでいた。
そんな鋼鉄の車両の両翼から、何者かが姿を現す。馬の蹄を打ち鳴らし、接近していくのはハンター達だ。その内の一人は『戦車』の姿を見ると、にやりと笑みを顔に浮かべた。
「……よぉ、久しぶりだな、暴走列車!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は相棒のゴースロン”セラフ”に乗り、徐々に近づいてゆく『戦車』の鉄の身体に言葉を投げかける。
「俺は狙った獲物は逃さねぇ……今日はあの時のような断片じゃねえ、確実にその”首”、討ち取ってやるぜぇ!」
彼が『戦車』と相対するのは二度目だ。強力な敵が相手であるほど、エヴァンスの闘志は熱く滾り、燃え上がる。眼前で汽笛を鳴らし、車輪を回しながら走る『戦車』に追従していく。
「うーわ、ひっさびさに見たけどまだ生きてたのか。ふーん……」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)もまた、相棒のゴースロン”ホットドッグ”を駆り、エヴァンスの横に並走するような形で『戦車』に接敵していく。彼女も同じく以前に一度、『戦車』と相対したハンターの一人だ。今回の『戦車』の様相は以前の者と打って変わっている事をなんとなく察したが、彼女自身はどうでもよさそうな目で眼前の敵を見据えている。
『戦車』の反応は早かった。4号車に搭載されている機銃が二人の方を向き、一斉に掃射する。機銃の銃口がこちらを向いたのを素早く察知した二人は、すぐさま手綱を振るい回避行動を取る。
「こっちを向け、戦車! 私が相手だ!」
すぐさまそこへ駆けつけたのは鞍馬 真(ka5819)だ。体内のマテリアルを活性化させてオーラを纏う彼に対し、『戦車』の機銃はすかさず彼に狙いを変えて機銃を打ち込む。銃弾の嵐を真は駿馬を駆り、かいくぐって行く。
「鋼鉄の身体にあの武器の数か……生身で戦うには、なかなか無茶ない相手だな……!」
だが真も一人ではない。後に続くは夜桜 奏音(ka5754)。ゴースロンに跨り、爆走する列車に並走する。
「あれが『戦車』ですか。聞いていたとおり厄介なものが陣に向かっていますね」
奏音は馬上で符を展開し、一閃するように上空へと投射する。符は雷撃へと姿を変え、奔る『戦車』の装甲へと打ち付ける。
「情報通り……機械の身体にはよく通ります」
『戦車』は重装甲を持つが故に堅牢なる守りを誇るが、その分鉄を多量に含む身体を持つが故に、風属性の攻撃に対して脆弱性を見せる事を理解していた。
「なら……これを喰らえ!」
真もまた、拳銃「鳴鵺」を射撃した。風切り音と共に弾丸が空を切り、風雷の力を伴って機銃の一つを破壊する。結果として弾幕の一つに穴が開き、そこを狙ってオフロード魔導バイクを走らせるグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が強襲を仕掛ける。
「……グリムバルドだ。戦士と呼ぶには拙い剣捌きだが、挑ませてもらうぜ、『戦車』!」
グリムバルドは魔剣「カールスナウト」を抜き放ち、『戦車』の4号車両へと接近。バイクに跨りながら強引に半身を振るい、穿つように斬撃を叩き込む。車両の外壁の一部分ごと、更に機銃の一つを抉り取った。
「よしっ、これで……っ!?」
抉り取った筈の砲門から新たにアサルトライフルが構えられ、外にいたグリムバルドを射撃したのだ。咄嗟に攻性防壁を張り、至近距離から衝撃でアサルトライフルを吹き飛ばす。
「中に……あれは、コーリアスのゴーレムか! 事前情報通り、機銃を操縦しているようだな……!」
魔剣によって翻すように銃弾を弾きながら距離を取るグリムバルド。コーリアス製のゴーレムが内部にて『戦車』の各機関の操縦を行っている事前情報を得ており、それによりあらゆる武装の精度が向上しているようだ。
「やっぱ好き勝手やらせるわけにはいかねえな! 打ち合わせ通り俺に続けよ、メオ!」
「ほいさー」
グリムバルド、真、奏音が後尾車両を攻撃している間、回り込むように先行したエヴァンス、及びメオが一号車へと接近する。
「大物を仕留めるにゃまず足から……喰らいやがれ!」
騎乗して接近。馬の速度を自身の膂力に乗せて横合いからぶつかるように大剣を叩き込む。狙いは車輪。横方向にまっすぐ連なる車輪をまとめて強引に薙ぎ払う。
「だらぁぁぁぁぁっ!!」
ガギギギギ!! と車輪に絡むように剣戟の音が響き渡る。
「別に恨みはないんだけど、そのまま走られるとどうやら困ってしまうようだからねぇ」
エヴァンスと同じタイミングで車両に接近。
「止めさせてもらうよー……っと!」
エヴァンスの攻撃に合わせるように、彼の狙った箇所と同じ所を戦斧で薙ぎ払う。続けざまに攻撃を受け、車輪も無視できないダメージが蓄積されていく。
しかし一号車両も黙ってやられてはいない。装着された砲門が二人の方を向き、砲弾を打ち込んで爆撃する。上手く手綱を操って直撃を回避するが、爆風と爆音で体勢が揺さぶられる。
「ちぃっ、射角の懐に潜り込むぞメオ!」
「ほいさー」
「一発でもあぶねえぞ、気を抜くなよ!」
「ほいさー」
「さっき狙った車輪を狙う! 合わせろよ!」
「ほいさー」
「掛け声雑だなオイ!?」
気の抜けたメオの相槌にツッコミを入れるエヴァンスだったが、そんなやり取りにも関わらず的確な連携で敵の攻撃を掻い潜りながら、執拗に左側面の車輪を傷つけてゆく。
流石に足を狙われては『戦車』も黙ってはいない。砲門全てをエヴァンス、メオに向けて、機動力を削がれる事に対して全力で対処を試みる。しかしそれ故に、ナタナエル(ka3884)が逆方向から接近するのに気づけなかった。
「注意が疎かだ」
ナタナエルはバイクを乗り捨て、跳躍。リヤンワイヤーを煙突に絡ませ、自身の身体を引っ張って一号車に張り付いた。
(『彼』ということは、元は人なのか?)
ナタナエルは以前から『アルカナ』の歪虚に出会っていて、アルカナが元は人間だということを知っている。しかし、クリムゾンウェストでは見ないような戦闘兵器の形状から、かつてどのような姿だったのかに想いを馳せる。
(かつては、リアルブルー出身者か、この形を再現しようとした研究者か、戦に耽る騎士だったか……何にせよ)
『ポッポーッ!』
『戦車』は上に飛び乗られた為に、汽笛を鳴らして蛇行運転をし、ナタナエルを振り落とそうとする。ナタナエルは風を伴ったレイピアを車体に突き刺し、ワイヤーを武装に絡ませて振り落とされるのを堪えていた。
「お前はもう『英雄』などではなく、ただの歪虚の駒だ」
ナタナエルは一号車の上に常に張り付く。動力部分たる一号車は『戦車』にとっての重要な部位だ。それ故に対処を強いられ、エヴァンスとメオを狙っていた砲門はそちらを向く。結果として側面側の対処が遅れ、車輪にはダメージが確実に蓄積されていき、ガタガタと不自然な音をたてながら運行していく。
「ほれほれエヴァンスちゃん、チャンス到来って奴だよー」
「わかってるさ、いくぞ!」
「ほいさー」
爆撃にはリロードの為の隙がある。何度も砲撃を受けたエヴァンスとメオは、砲撃を回避しつつその隙を狙って強襲を仕掛ける。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」
エヴァンスが吼え、獰猛に突撃する。その琥珀色の瞳が捉えるのは、何度も攻撃していた一号車の車輪、その亀裂の入った部分だ。琥珀色のマテリアルが彼の背後に浮かび上がり、その様相は竜が口を広げ、食らいつくかのような錯覚を覚える。
メオもまたそれに続き、戦斧を振りかぶりながら同じ箇所に強襲を仕掛ける。まさに、”竜が如く”一撃と、燃え盛る赤い炎の幻影を纏う一撃が同時に繰り出され、その交差点たる車輪部分は物凄い衝撃音を立てて破壊される。
「よっしゃぁ!」
「うわかってぇ……手ぇしびれたー」
車輪の一部が破壊され、ガコガコガコガコとバランスの悪い音を立てながらも、なお邁進する『戦車』。しかし車輪部分が不安定になり、目に見えてスピードが減少し、揺れが大きくなる。
「今だ……切り開く!」
その機会の訪れを察知し、3人のハンターが新たに『戦車』に急速接近する。アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がゴースロン"グレース"に跨って接敵し、鞍から『戦車』へと跳躍する。
「ふ……っ!」
マテリアルを身体に巡らせ、一時的に重力を横向きにし、爆走する『戦車』の車体の壁を地面のように走る。そんな彼女を撃ち落とすべく、機銃が横を向き、アルトに狙いを定める。
「させないよ!」
アルトの方を向いた機銃を横合いから鋭く刺突したのはリューリ・ハルマ(ka0502)だ。風の精霊の力を伴ったレイピアによる刺突は機銃を深く穿ち、破壊する。彼女の狙いは四号車の一点、先程グリムバルドが抉った亀裂だ。
「――――”踏鳴”!」
車体を踏みつけてその地点に跳び、鋭き速度を刀に乗せてその亀裂に一閃する。砲門の穴を中心に斬撃跡は広がり、その奥にいるゴーレムごと車体に人が通れる程の穴を開ける。
「よしっ、潜入箇所が開いた、行くぞ……!」
「ユキウサギさんも、中から攻撃をお願いします」
アルト、そしてリューリはその亀裂から車両内部へと突入する。近くに接近していた奏音も、同行して貰っていたユキウサギにお願いする。ユキウサギはびしっと敬礼をすると、アルトとリューリに続いて中へと入り込む。車両内部では多数のゴーレムが待ち構えており、侵入者の2人に銃口を向ける。
「もー! こんなに大勢入り込んで! そんな悪い奴らには……」
リューリは拳を構えると、手近なゴーレムの懐に飛び込み、ラッシュをかける。両手から繰り出される連続攻撃は、拳が命中する度に法術陣が展開され、怒涛の衝撃がゴーレムを粉々に粉砕する。
「ぐーぱんち! しちゃうからね!」
ゴーレムが粉砕されると同時に、入れ替わるようにアルトが踏み込む。一歩踏み込んだだけにも関わらず、踏みしめた足はアルトの身体を跳ね飛ばすかのように加速させる。
「ゴミに用はない……道を開けろ!」
刹那、突風のように吹き抜けたアルトはすれ違い様に斬撃を繰り出し、多数のゴーレムを一度に両断し、切り伏せていく。
リューリ、そしてアルトは車両内部を駆け抜けていく。道中にはコーリアスの配置したゴーレムが多数配備されており、それらを打ち倒し、切り伏せながら一号車両へと進んでいく。
しかし、全てが順調に進む訳ではなかった。3号車への到達前、一際強度の高いゴーレムが立ちふさがる。アルト、リューリの攻撃で即座に撃破する事が出来ない。ユキウサギが杵をぶんまわし、遠心力をつけて攻撃するも、その一撃を受け止めた相手は巨大なチェーンソーを振りかざしてくる。
「そうはさせない」
突如として虚空から声が響き、死角から忍び寄ったナタナエルがワイヤーによりその腕を拘束する。一号車の車輪破壊後、天井伝いに四号車の亀裂へと走ったナタナエルは、2人の後に続くように速やかに潜入していたのだった。腕を絡め取られ動けなくなったゴーレムの動力部に狙いを定め、ヴァーチカル・ウィンドを的確に刺突してゴーレムを沈黙させる。
「まだ先は続く、行こう」
「ああ、ありがとう」
「ガンガンいこう!」
ナタナエル、アルト、リューリ、そしてユキウサギは3号車両へと進むと、その瞬間ガクン! と車体が大きく振動する。車内にいる3人は事態の把握ができなかったが、外にいた真がトランシーバーによって連絡をする。
「聞こえるか、奴の3号車からジェットウイングが展開された! 飛行するぞ!」
『戦車』は3号車の側面から巨大なウイングを変形展開させ、エンジンを放出する。『戦車』の長く巨大な車体が浮き上がり、一時的に飛行。その翼に搭載されたミサイルが、4号車の機銃が、一号車の砲門が、周囲一帯の大地ごとハンター達を絨毯爆撃していく。
「ちぃっ、生身で戦うには、なかなか無茶な相手だな……!」
常にヘイトを引く真には多数のミサイルが迫る。馬を左右に振り、爆撃を回避しては拳銃でミサイルの信管を撃ち抜いて起爆させる。
「……あと少し……」
そんな中、奏音は冷静に状況を見ていた。『戦車』の空中からの爆撃は雷の符を放って迎撃しつつ、何かを計測するように先を見据え、そしてカチリとそれらが噛み合う。奏音は足元から吹き上がる風に乗るように馬を奔らせ、燐光を纏いながら口伝符でグリムバルドへと言葉を伝える。
「――今です、左翼を狙ってください!」
「了解だぜ!」
グリムバルドは剣を持つが故に、上空の『戦車』には届かない。しかし、周囲の平野は少しずつ森に変わる。大きく盛り上がった坂道に差し掛かった所で、グリムバルドはライディングファイトによってバイクエンジンをフルスロットルに引き上げる。
「突き進むのはアンタだけの特技じゃないぜ! 跳べ、バルバムーシュ!!」
局地的な超加速によって坂道をジャンプ台のように跳び、ほんの一瞬だけ高度が『戦車』と同じになる。その加速力を剣へと籠め、渾身の一振りで翼に一撃を加える。
「今です!」
それと同時に奏音も雷撃を同じ箇所に命中させる。『戦車』の巨体を飛ばす為に無理な設計をされているウイングにはさほど耐久性はなく、強烈な一撃を集中された翼はあっさりと破壊され、空中にいた『戦車』は落下する。そこは地面――に偽装されていた、泥の拘束結界だ。
それは奏音が、接敵前に予め設置していた地縛符だ。不可視の結界は範囲内に踏み込んだ対象の足元を泥状に固めて移動を阻害する。『戦車』ほどのパワーと質量のある歪虚を押しとどめる事は本来不可能だが、空中から落下したタイミングで地面が泥濘んだ為にバランスを崩し、横転した上で押し固められてしまった。
「結界にかかりました、今が好機です!」
奏音の声が響き渡る。『戦車』は車輪を回しながらすぐさま起き上がろうとするが、横転した上に拘束されては流石に簡単には起き上がれない。
「よっしゃ、動力部だ! 一号車を破壊すれば完全撃破だぜ!」
「でもあれすっげー硬そうだぜエヴァンスちゃん」
「所詮は試しだ、駄目なら次を狙えばいい、いくぞ!」
「ほいさー」
エヴァンス、メオは動きの止まった一号車を狙う。メオは炎を纏うかのようにマテリアルを放出し、戦斧を振って一号車の外壁を狙うが、僅かな切り傷をつけるのがやっとだった。
「え、なにこれやべぇ。くっそ硬くね?」
想像上の強度を誇る外壁部分は攻撃を繰り返してもびくともしない。エヴァンスもまた先程の一閃をもって斬りつけるが、車輪を破壊したようにダメージを通らせる事はできなかった。ほどなくして二号車からジェットつきハンマーが展開され、接近する二人に向けて加速したハンマーが飛んでいく。
「ちぃ、やっぱ上手くはいかねえか! 下がるぞメオ!」
「ほいさー。や、あれ危ねえよ。たかし丸たすけてー」
速度と質量の伴うハンマーは接近時は脅威と判断したエヴァンスは憂いなく距離を取り、射程距離外へ離脱する。しかし外の5人と内部の3人(と一匹)の怒濤の攻撃により、『戦車』の装甲は少しずつ、削られていくのだった。
「コーリアスに改造……か。あの改造は臨んだものか不本意なのか……ね」
距離は離れ、『月天神法』の陣内。待機していた十色 エニア(ka0370)は遠くで戦う『戦車』と仲間たちに想いを馳せていた。エニアはエフィーリア・タロッキ(kz0077)を愛馬スロウの後ろ側に乗せ、前線で戦うハンター達の連絡を受けて秘術行使の為にエフィーリアを送り届ける役目を担っていたのだった。
「あ、あの……エニア様……」
「ふふ、ここまで密着すれば流石に意識しちゃうね」
エニアは前回、エフィーリアと手を繋いで戦った。その時は幾分かマシだったが、今は馬に二人乗りだ。エニアの後ろにエフィーリアが抱きつく形の安定姿勢になっており、身体が密着している為、エフィーリアは必要な事とは思いつつも顔を朱に染めてしまう。
「それよりさ、その『様』ってつけるの、やめてみない?」
「え、あ、はい?」
「イスカさんのことだって呼び捨てにしてたでしょ。わたしも呼び名変えてみるから……ね、どう?」
その言葉にエフィーリアは益々赤面する。
「……それを貴方に言われますか……」
「え、なに?」
蚊ほどに小さな声を口の中でもごもごと呟くエフィーリアの声はエニアに届かなかった。というより、身体を密着させているせいで逸る鼓動の音にかき消されてしまったという方が正しいか。
「……なんでもありません。そ、それでは……エニア……と」
「う、うん。それじゃ、わたしもエフィーリア、って呼ぶね」
呼び捨てにされると、存外照れくさいのか、エニアも同じく頬を掻きながら、たどたどしくその名を呼ぶ。ほどなくして、奏音から口伝符を通じて連絡が入る。
『エニアさん、エフィーリアさん、『戦車』の拘束に成功しました』
「っと、こうしてる場合じゃなかったね、それじゃいくよ、エフィーリア」
「……はい」
顔を引き締め、手綱を打って戦場へと駆けるスロウと、それに跨るエニアとエフィーリア。振り落とされまいとしがみつくエフィーリアの手に、力がこもる。
「……そういえばさ、聞いてなかったんだけど、秘術の行使になにか、代償はないの? どこか身体を悪くはしていない?」
「ええ、大丈夫です。今のところ目に見えて身体に不調はありません」
そっか、と短く応え、森の中を突き進むエニア。前々からその事を心配していたエニアにとって、エフィーリアに異常が出ていない事は喜ばしい事だ。意識を戦場へと戻し、木々の間を抜け、地を跳び、二人を乗せた馬は戦場へと突き進んでいく。
「……見えた!」
ほどなくして『戦車』が見えてくる。エニアは翅のようなオーラを展開し、片手で横合いにヴァナディースを振るい、魔法を収束させる。
「前にいるのなら……一直線で!」
『戦車』の正面から突撃するエニアはライトニングボルトを放ち、その車両部分を一直線に貫く。車両内外からの対処に追われていた『戦車』は、突然前方の森の中から現れたエニアの一撃を為す術もなく受けてしまう。そしてその攻撃により、『戦車』は一瞬怯む。ダメージの蓄積による活動限界が近づいてきたタイミングを見計らい、エニアはエフィーリアを乗せて接近する。
「エフィーリア!」
「はい……!」
エフィーリアはエニアの馬から飛び降り、真正面にて横転する『戦車』に手を翳す。
「7番目の使徒……真なる姿をここに!―――『アテュ・コンシェンス』!」
エフィーリアの手から、光が放たれ、『戦車』の巨体を包み込んだ。
●行間
光の中で、ハンター達は見る。
生涯を戦いに費やした、一人の男がいた。剣を持ち、時に銃を、時に杖を持つ傭兵がいた。
己を磨き、鍛錬し、そして眼前の敵を打ち倒す。一人、二人……十人、百人と、数え切れない敵を、倒して、倒して、倒してきた男がいた。
磨き上げた力は、ただ『戦いに勝つ為』というシンプルなもの。
闘争の為、抗争の為、戦争の為、男はただひたすらに力を重ねていった。
それ故に男には、それ以外に何もなかった。
『戦い』を、手段ではなく目的とした男に、戦いによって得るものは何もなかった。
だから男は、強い理念に憧憬していた。
戦いの中にしか目的を見いだせない男は、戦いの先に目的を持つ隣人を尊重した。
故に誓う。自分はその為の”力”になると。
戦いの先を見据える者の為に、戦う為に生きてきた自分の力を貸すと。
そうして彼は、ただひたすらにその者の為に力を振るい、邁進してきた。
そしてその日――――戦うしかなかった男が、負け、そして死んだ。
男は慟哭した。負けた己に存在価値などないと。
戦うしかなかった男は、その瞬間、全てを失ったのだ。
だから、男は。
『もう二度と負けない力』を求め。
唆される甘言に、容易く誘われてしまったのだった。
●”負けられない”戦い
『ポッポーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』
一際大きな汽笛が放たれ、『戦車』の車輪は更に加速する。三号車は急速変形され、装備されていない筈のロボットアームが出現。横転した『戦車』が地面にアームをつき、起き上がろうとする。
「――『戦車』の核は引きずり出しました! 全力で対処してください!」
「任せて!」
その言葉に一番に反応したエニアは、そのロボットアームめがけて吹雪の魔術を叩きつける。狙うはその関節。高い耐久性を持つアームを破壊するのは難しくとも、関節部分が少しでも凍結すれば動きが鈍くなる。ロボットアームは精密な動きをする故に車体の修理を行えるが、その精密動作が少しでも弱まれば修復は大きく遅らせられる。
「よっしゃ、あとは中の奴らに託すぞ、メオ! 2号車両の動きを止めるぞ!」
「ほいさー」
「最後までそんな調子だよなお前!」
エヴァンスとメオが二号車両に接近。先程のハンマーの他、巨大なチェーンソーアームも出現し、より苛烈な連続攻撃を繰り出してくる『戦車』。叩きつけられるハンマーに対し、エヴァンスは強引にマテリアルを収束し、咆哮とともに剣を振り上げる。
「だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
気迫と共に切り上げられた剣にマテリアルが迸り、竜が天に昇るが如く一撃がハンマーを吹き飛ばした。
「ぽっぽーはさ、改造されちゃって強くなったけどさ、嬉しい? ぽっぽーって返事してみ」
『戦車』は絶えず汽笛を鳴らし、狂ったように武装を次々出現させてハンター達を振り払うように動く。
「おいおい駄々っ子かよー。ムキになりすぎじゃね? そんなに負けたくないの?」
メオは『戦車』に無関心だ。だからこそその様子がシンプルに映る。今の『戦車』は、何かに怯えるかのようにただひたすらに武装を振り回すように見えた。今光の中でハンター達が見たものが『彼』の正体であるのならば、彼は何よりも『敗北』と『停止』を恐れていることがわかるからだ。
車両内部。エヴァンスとメオが外部で近接武装をひきつけているお陰で、3人はより素早く内部を突き進む。
(『こいつ』は、私に似ている……)
アルトはその道中、『戦車』の事を考える。己を磨き、目的のため障害をなぎ倒す。敵の戦力を学習し、突き進むこの歪虚は、アルトの在り方とよく似ていた。
だが、決定的に違うところがある。彼は誰かに振るわれる『力』であり、『道具』で良かったのだ。己を磨く所はアルトと同じであっても、アルトには『己』という確固とした信念がある。コーリアスの道具という存在を『彼』は受け入れている事を知ると、アルトはやや残念そうに息を吐く。
「……残念だ。似ている者に巡り会えたと思ったのだがな。……だが」
だが、それでも、アルトはの技はより冴えを見せる。立ちふさがるゴーレムを寸断し、切り伏せ、奥へと突き進む。
「それでも尚、『そうありたい』と力を磨き続けたなら……お前もまた、『戦士』だ。それがお前の『信念』だと言うのなら……私は、敬意を持ってお前と対峙する」
全ての近接武装が外へとひきつけられた訳ではない。時折内部を狙って飛んでくるチェーンソーはアルトを襲うが、アルトの高速の剣がチェーンソーを到達前にバラバラに斬り裂く。
「最期の戦いだ。……同じ戦士ならば、悔いを残すなよ」
やがて二号車両の最奥に到達した3人の前に硬い扉で閉ざされた一号車両への道があった。中からの破滅を拒む『戦車』にとっての、最後の防壁。アルトは刀を振るい、ナタナエルはレイピアを、ユキウサギは杵をぶんぶん振って扉を狙うが、破壊には至らない。
リューリは考える。この歪虚の在り方を。
「あなたもかつては、英雄だって呼ばれてたんだよ」
リューリは言葉を投げかける。全てを拒絶する『扉』の、その奥へと。
「あなたは確かに、誰かの力でありたいと願っていたのかもしれないし、その力になれなかった事は怖かったのかもしれない。だけど」
リューリは拳を握りしめる。プロミネント・グリムはそれに呼応するかのように魔導回路が光り、法術陣が展開される。
「だけど、それだけであなたの全てが消え去った訳じゃないよ。……”負ける”のは、怖いし、”失う”のは、もっと怖い、だけど、それでもあなたの事を案じてた友達が……私達に力を貸してくれたんだよ」
『戦車』は応えない。彼に言葉などない。リューリはかつて、何もできない自分を鏡の中に見た。敗北し、失う事の辛を彼女はよく知っている。だからこそ、敗北し、全てを失った『戦車』と同じものを感じていた。
「だから、安心して! あなたは、敗けてもいいんだ。それを繋いでくれる誰かがいる。それは、貴方が貴方でいたから成し遂げられたことなんだ!」
『扉』が軋む。3人の攻撃だけではない。リューリの呼びかけに反応するかのように、拒絶の『扉』は、その堅牢さを残っていくように見えた。
「……怖い思いは、ぐーぱんち! 私が……私達が、貰っていってあげる!!」
リューリは床を蹴る。一直線に、その扉へと拳を叩き込んだ。
『扉』は、音を立ててひしゃげ、そして……。
●『戦車』の終焉
男は何も言わなかった。
機械の身体を失い、生身の身体を取り戻した彼には、もはや『蹂躙』する力も、『勝利』する力もない。
もはや完全に停止してしまった男は、もっとも男が恐れていた状態になってしまった。
「ね、誰かが継いでくれるのは……安心するでしょ?」
それでも、男は満足していた。
リューリの言葉に、小さく笑みで返してみせた。
男は消えていく。光の粒子となって、少しずつ天へと昇っていく。
戦う為に生まれた男は、戦いに破れ、そして……”何か”を遺して、消えていった。
「……楽しかった、またな」
『戦い』の中に生きた男を、アルトは敬意と共に見送ったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
- 黒の夢(ka0187) → アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- Uisca=S=Amhran(ka0754) → 夜桜 奏音(ka5754)
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- ジルボ(ka1732) → 夜桜 奏音(ka5754)
- マルカ・アニチキン(ka2542) → エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
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- ミオレスカ(ka3496) → エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
- イレス・アーティーアート(ka4301) → リューリ・ハルマ(ka0502)
- アルマ・A・エインズワース(ka4901) → アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- 央崎 枢(ka5153) → エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
- エステル(ka5826) → アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/21 11:48:30 |
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列車破壊作戦 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/09/24 23:41:48 |
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エフィーリアさんに聞きたいこと アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/09/24 00:59:21 |