ゲスト
(ka0000)
【月機】月を覆う糸
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/25 09:00
- 完成日
- 2016/10/03 06:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●月天神法
歪虚忍び寄る『おばけクルミの里』。
ついにコーリアスが包囲の輪を縮め、決戦に向けて動き出す。
ユキウサギ達は月天神法で結界を形成。里への侵入を阻む。
月天神法の消滅は、コーリアスが目的とするツキウサギの危機に繋がる。コーリアスの好きにさせれば、人類の敗北はまた一歩近づく。それは決して許してはならない。
ハンター達の死力を尽くした防衛戦が――今、開始される。
●月を覆う糸
「やれやれ。ご主人にも困ったものだ」
腕を組み、考え込む甲鬼 蛮蔵。
決して楽観できる状況ではないはずなのだが、コーリアスはそれでも『楽しめればいい』と言い切る。
――まあ、それが蛮蔵の主人たる所以なのだが。
しかし、ご主人に何かあってからでは遅い。あのお方をお守りするのが自分の使命なれば――。
「……アラクネ達よ、目標はあの結界の破壊。それ以外には構うな。……往け!」
蛮蔵の鋭い声。それに応えるように、銀色に輝く歪虚が、滑るように走り出す。
森へと消えて行くそれを見送ると、蛮蔵は踵を返して館へと向かう。
そう。自分の使命を果たす為に……。
「……ユキウサギさん達が結界を張ってくれてますけど、それだけじゃダメですよね」
「……そうだな。根本解決を図らねば……。……テトのお陰でコーリアスの拠点が判明している。……別動隊で、直接打って出る手筈になっている」
「ふむ。なるほどな。その別動隊が動いている間、他の部隊は『おばけクルミの里』を守る訳か」
「コーリアスも黙ってやられるつもりはないでしょう。きっと配下を送って来るわ」
「そうなのです! しかーし! 吾輩の指揮と皆の力があれば、歪虚なんてけちょんけちょんにやっつけられるでありますよ!」
バタルトゥ・オイマト(kz0023)の言葉に、うんうんと頷くハンター達。
錫杖をふりふり威張っているチューダ(kz0173)をまるっとスルーして、今後の作戦を立てる。
そこに、別のハンターが駆け込んできた。
「ちょっと! 大変! 何か変なのがここに近づいて来てる!」
「何だって……?!」
「言ってるそばからお出ましのようですね。一体どんな感じですか?」
「下半身が蜘蛛で、上半身が女のヒトの機械っぽいやつなの。銀色で……私も見たの初めて」
「何それ……。歪虚なの……?」
「……確か、テトからの調査報告でそんな感じの兵器がいるってのが上がってきてなかったか?」
「あ、そういえば……!」
「コーリアスの兵器の在庫ってこと……? 厄介ね……」
「ユキウサギさん達の結界がある以上、コーリアスは里に手出しが出来ません。恐らく狙いは結界ですね……」
「……迎撃するしかないな。皆、準備を急げ!」
ハンターの声に応えて、バタバタと装備を整えるハンター達。
バタルトゥも己の武器を持ち、立ち上がる。
「……俺も出よう。不覚を取って迷惑をかけた……。その分くらいは返した……」
「さあ! 行くのです! 我が精鋭達! 吾輩が全軍の指揮を……って何するでありますかーーー!!?」
チューダの甲高い声でかき消されるバタルトゥの言葉。
ハンター達は頷き合うと、幻獣王を樹に括り付けた。
木々の間を滑るように進む蜘蛛女達。
時折、白い糸を吐き出して――。
月天神法で守られた里。それを覆わんとする糸を断ち切る為に、ハンター達は立ち上がった。
歪虚忍び寄る『おばけクルミの里』。
ついにコーリアスが包囲の輪を縮め、決戦に向けて動き出す。
ユキウサギ達は月天神法で結界を形成。里への侵入を阻む。
月天神法の消滅は、コーリアスが目的とするツキウサギの危機に繋がる。コーリアスの好きにさせれば、人類の敗北はまた一歩近づく。それは決して許してはならない。
ハンター達の死力を尽くした防衛戦が――今、開始される。
●月を覆う糸
「やれやれ。ご主人にも困ったものだ」
腕を組み、考え込む甲鬼 蛮蔵。
決して楽観できる状況ではないはずなのだが、コーリアスはそれでも『楽しめればいい』と言い切る。
――まあ、それが蛮蔵の主人たる所以なのだが。
しかし、ご主人に何かあってからでは遅い。あのお方をお守りするのが自分の使命なれば――。
「……アラクネ達よ、目標はあの結界の破壊。それ以外には構うな。……往け!」
蛮蔵の鋭い声。それに応えるように、銀色に輝く歪虚が、滑るように走り出す。
森へと消えて行くそれを見送ると、蛮蔵は踵を返して館へと向かう。
そう。自分の使命を果たす為に……。
「……ユキウサギさん達が結界を張ってくれてますけど、それだけじゃダメですよね」
「……そうだな。根本解決を図らねば……。……テトのお陰でコーリアスの拠点が判明している。……別動隊で、直接打って出る手筈になっている」
「ふむ。なるほどな。その別動隊が動いている間、他の部隊は『おばけクルミの里』を守る訳か」
「コーリアスも黙ってやられるつもりはないでしょう。きっと配下を送って来るわ」
「そうなのです! しかーし! 吾輩の指揮と皆の力があれば、歪虚なんてけちょんけちょんにやっつけられるでありますよ!」
バタルトゥ・オイマト(kz0023)の言葉に、うんうんと頷くハンター達。
錫杖をふりふり威張っているチューダ(kz0173)をまるっとスルーして、今後の作戦を立てる。
そこに、別のハンターが駆け込んできた。
「ちょっと! 大変! 何か変なのがここに近づいて来てる!」
「何だって……?!」
「言ってるそばからお出ましのようですね。一体どんな感じですか?」
「下半身が蜘蛛で、上半身が女のヒトの機械っぽいやつなの。銀色で……私も見たの初めて」
「何それ……。歪虚なの……?」
「……確か、テトからの調査報告でそんな感じの兵器がいるってのが上がってきてなかったか?」
「あ、そういえば……!」
「コーリアスの兵器の在庫ってこと……? 厄介ね……」
「ユキウサギさん達の結界がある以上、コーリアスは里に手出しが出来ません。恐らく狙いは結界ですね……」
「……迎撃するしかないな。皆、準備を急げ!」
ハンターの声に応えて、バタバタと装備を整えるハンター達。
バタルトゥも己の武器を持ち、立ち上がる。
「……俺も出よう。不覚を取って迷惑をかけた……。その分くらいは返した……」
「さあ! 行くのです! 我が精鋭達! 吾輩が全軍の指揮を……って何するでありますかーーー!!?」
チューダの甲高い声でかき消されるバタルトゥの言葉。
ハンター達は頷き合うと、幻獣王を樹に括り付けた。
木々の間を滑るように進む蜘蛛女達。
時折、白い糸を吐き出して――。
月天神法で守られた里。それを覆わんとする糸を断ち切る為に、ハンター達は立ち上がった。
リプレイ本文
木々に覆われたおばけクルミの里。
ユキウサギ達が住まうそこから、何だか賑やかな音が聞こえてくる。
あれが月天神法――。
随分可愛らしい結界なのな……と呟いて、黒の夢(ka0187)は小首を傾げる。
「んー。蜘蛛は1匹居たら500匹というやつなのなー。あれ? 1000匹だっけ?」
「ええっ!? そんなにいるのだ!?」
「さすがにそんなにいない、と思うよ」
「そ、そうだよねー」
「うん。蜘蛛は蜘蛛でも、機械みたいだし……」
彼女の言葉を真に受けて仰け反るネフィリア・レインフォード(ka0444)に、アーシェ(ka6089)が冷静にツッコむ。
その横で、ゴンザレス=T=アルマ(ka2575)がバタルトゥ・オイマト(kz0023)を穴が開くほど――アルマは狼の被り物をしているので、目線の動きは分かりにくい筈なのだが、それでも分かるくらいには見つめていた。
「……どうかしたか?」
「――嗚呼……イヤ、何デモナイ……」
バタルトゥの問いかけ、首を振るアルマ。
――似ている。
我が主は、まだあの男を忘れてはいないのか――。
ちょっと色々思い出しかけたけど。
まあ、似てるけど違うようだし問題ない!
サクッと切り替えたアルマは流れるようにバタルトゥの臀部に手を伸ばす。
「……何をしている」
「何ッテ挨拶ダロ」
「あーっ! アルマ、ずるいのな! 吾輩もやるのな!!」
「黒の夢様、叱ラナイノカ!?」
「何でなのな? あ、でもバターちゃん恥ずかしがりだから程々になのな!」
続く2人のやり取り。そうしている間もバタルトゥの眉間の皺が深くなって……アワアワとエステル・ソル(ka3983)が割り込む。
「そういうのはダメです! ご挨拶はお辞儀するです!」
「バタルトゥさん、相変わらずモテるんだね……」
苦笑しつつ、エステルを手伝うイスフェリア(ka2088)。ようやく解放されたバタルトゥがため息をつく。
「大丈夫です?」
「ああ。しかし、こんなことになって皆には迷惑をかけたな……」
「バタルトゥさんのせいじゃないです。気にしないでほしいです」
「そうよ。好きでこうなった訳じゃないんだしあまり気負いすぎないでね。……と言っても難しいかもしれないけど」
エステルの言葉に頷くイスフェリア。
誰かが危ない目に遭ったら助けに行くのは当然のこと。
いざ自分が助けられる立場になると申し訳なく感じてしまうのは、彼らしいのかもしれないけれど……。
驚いたように見開かれるエステルの瞳。目線がバタルトゥの身体に向けられているのに気づいて、雲雀(ka6084)が覗き込む。
「エステル、どうしました? 大丈夫ですか?」
「……傷だらけで怖がらせたか?」
「違うです! ちょっとびっくりしたですけど……沢山怪我したですね」
「バタルトゥも色々守ってきたってことだと思うよ」
「はいです。わたくしもおばけクルミの里を守るです!」
「張り切ってるですね! 雲雀も負けてはいないのですよ!」
紅媛=アルザード(ka6122)の呟きにこくりと頷くエステル。
張り切る彼女に、雲雀もぐっと握り拳を作る。
「2人とも張り切るのはいいけど気を付けるんだよ」
「はいです! あ、バタルトゥさんもう傷は痛くないです?」
「……古い傷だからな、大丈夫だ」
「バターちゃん、子供には優しいのなー。大人の女子にもそれくらい優しくすればいいのな」
エステルに受け応えるバタルトゥをじっと見つめる黒の夢。
ネフィリアが、仲間達に静かにするようにと口の前に指を立ててジェスチャーをする。
「……目標、来たのだ! 何か身体ギラギラしてるし白いの吐いてるのだ」
「蜘蛛の糸、厄介、だね。でも、手筈通りに……頑張ろう」
頷く総員。
アーシェの声を合図に、仲間達が動き出す――。
「バタルトゥさん、蜘蛛を一匹お願いしたいです」
「……了解した」
「ネフィリア、出るぞ!」
「了解なのだ! って、樹に何か白いのがある……。あれに触れないように気をつけて進むのだ!」
エステルの声に、バタルトゥが木々の間に目を走らせながら頷く。
黒い毛並みのイェジドに跨る紅媛。ネフィリアも己のイェジドに指示を飛ばしながら、風のような速さで前に進む。
迫る銀色の蜘蛛。
最前線の紅媛とネフィリアが2体の蜘蛛を引きつける役目だ。
まずは1体沈めれば、数から言っても楽になるはず……!
ギリギリまで近づき、イェジドの背から立ち塞がるように飛び降りたネフィリア。
――だが、そのタイミングを蜘蛛も見逃さず――彼女に向けて、白い糸を吐き出す。
「この蜘蛛共! これ以上前には進ませない……うわあっ!?」
着地したところを蜘蛛の糸に絡めとられ、よろけるネフィリア。
――んもう! カッコよく着地して決め台詞言おうと思ってたのに……!!
足はがっちり固定されていてすぐには動けそうにない。
蜘蛛もそれを理解しているのか、進路を変えることなく接近してきている。
うう。失敗した……! いや、諦めるには早いのだ……!
「こうなったら作戦変更なのだあ! とっておき出しちゃうのだ! うおおお!! 大地よ!! 我が心に応えよ!!」
ネフィリアの腹の底から溢れる声。彼女を中心に大地が大きく揺れて……蜘蛛が動きを止める。
「ネフィリア、大丈夫か!?」
「大丈夫! 紅媛君、今のうちにそいつやっちゃってなのだ!」
「了解! 行け! 白夜!」
「イェジド! 食らいつくのだ!!」
「ウオオオオ!!」
ネフィリアと紅媛の号令はほぼ同時。
響く狼の咆哮。
離れたところから、一気に距離を詰める2体のイェジド。
黒と白、陰陽のような身体が弾丸のように疾り、動けなくなった蜘蛛の足に食らいつく。
「……貰った!」
疾風となって突き進む紅媛。
半身の姿勢から、一気に青い大太刀を振り下ろす――!
感じた手ごたえ。
腹部を貫かれた銀色の蜘蛛は、ギギギ……と奇妙な音を立てて動きを止めた。
「わー。アーシェ君ありがと!」
「いいよ……。困ったときはお互い様、だよ」
鞭を振るい、ネフィリアの足を開放するアーシェ。
その金色の瞳が、5体の蜘蛛を映す。
皆が同じ方角に背を向けてたら、里の場所気づかれてしまうと思っていたが……。
それ以前に蜘蛛は、ハンター達を見てすらいない。
斃された仲間を気にする様子もなく、ただただまっすぐに、里を目指している。
「蜘蛛達、里の方角、正確にわかるのかな……?」
「……多分ね。里の方角が設定されててもおかしくないよ」
「あ、そっか。機械、だもんね……」
アーシェに頷くイスフェリア。
彼女も色々蜘蛛対策は考えて来たけれど……落とし穴を掘るような時間もなかったし、自分達の居場所を偽装しようにも、蜘蛛はそもそもハンター達に興味を示していない。
邪魔をして来るから応戦するだけで、蜘蛛達にとって、自分達はその辺に立っている木々と変わらないのだろう。
彼女たちの目的はハンターとの戦闘ではなく、ユキウサギ達が発動させた月天神法を破ること。
それだけをただ、プログラムされて、動いている――。
「小細工なしで、足止めした方がよさそう、だね」
「そうだね。何かやってもスルーされる気がするよ」
「よし! そうと決まればバチコーンとぶん殴るのだ!! イェジド、行くのだ!」
言うなり駆け出すネフィリア。
それを先んじて走るイェジド。
それに、アーシェとイスフェリアも続く。
その頃、大きな身体の男女が2人……アルマと黒の夢が木々の隙間からひょっこり顔を覗かせて、蜘蛛の様子を伺っていた。
「んー。前に会った子とはちょっと違うみたいだけど、お腹が弱点みたいなのな。どこを狙うかはアルマに任せるけど、動けなくする方を優先するのな」
「我ガ主ノ仰セノママニ」
黒き魔女に傅く狼男。林の中で見るそれは、何だか幻想的でもあったけれど……。
次の瞬間、アルマの雰囲気がガラリと変わった。
「――クソ虫共。我ガ主ノゴ所望ダ。精々踊リヤガレ……!」
続く銃声。身を低くし、蜘蛛の動きを予測して……狙いを定めたライフルからの銃弾を避けることは難しく。
次々と打ち込まれる銃撃に、蜘蛛の足の1つが歪み、穴があく。
「ム。足1本無クシタクライジャ止マランカ……」
「いいのな。射程範囲に入ったら吾輩も撃つのな。そのまま続けるのな!」
「畏マリマシタ、ト……!」
頭上から聞こえる黒の夢の声。蜘蛛を見据えたままにアルマは頷き――。
足を1本失くしつつも進み続ける銀色の蜘蛛。
それに更なる銃撃が重なる。
ハンター達優勢で進んでいる戦況。
だが、蜘蛛達もただやられているだけではなかった。
8本の腕を持つ蜘蛛。6本の足で移動を続けながら、2本を上に上げ――。
キイイイィイィイィイィイ――!!!
木々を揺らすような爆音。耳障りなその音に、エステルと雲雀が思わず耳に手を当てる。
「な、何て酷い音ですか……! こんな大きな音出してユキウサギさんがビックリしたらどうするですか……!!」
「えーー!? エステル何か言ったのですーー!?」
「ひばりちゃん!! あの音を止めるです!!!!」
「了解なのです! アルザード家がメイド、雲雀! いざ参るのです!!」
負けないくらい大きな声を出す2人。雲雀が小さな身体に似つかわしい斧を振り上げ、蜘蛛に接近しようとして……キュッと音がしそうなくらい急に立ち止まった。
見ると、怪音波を出しているのは1匹で、他の蜘蛛はハンター達を足止めするつもりなのだろう。地面に向けてせっせと糸を輩出している。
雲雀は地上を高速で駆ける動物霊の力を力を借りていた為寸でのところで止まれたが……糸に危うく足を取られるところだった。
「ぐぬぬ……! 蜘蛛のくせに生意気なのです!」
これでは上手く近づけない。唇を噛む雲雀。
次の瞬間。彼女の視界を過ぎる光。
光の杭と、色とりどりの宝石が、怪音を出していた脚部装甲を打ち砕く――!
「んもう……! うるさい!!」
「歌うならもうちょっと上手に歌ってほしいのな~」
顔を顰めるイスフェリアに、のんびりと呟く黒の夢。
その背後で、アルマが重そうなライフルを軽々と操る。
「A-ha! 糸ノ出ル穴モ塞イデヤロウ――鉛玉デナ」
嗤う狼男。銃弾が、糸を排出する装甲を次々と撃ち抜いて行く。
じわりじわりと、薄皮を剥いでいくように続くハンター達の攻撃。
攻撃手段を少しづつ削られた蜘蛛達も動きを変え、ハンター達を直接払い除ける行動に出る。
その結果、戦況も乱戦気味になり……味方を撃たぬようには配慮しているが、事前に決めた班で動くというのはなかなか難しい状況になっていた。
「うがああ! これじゃ近づけないのだ!!」
新たな糸はもう出ることはないが、それでも地面に張り巡らされた糸が消える訳ではない。
頭を抱えるネフィリアの腕を、アーシェがくいくいと引っ張る。
「お? アーシェ君、どした?」
「ネフィリア、こっち。蜘蛛、来るよ」
彼女が指差す方向。それは里の方角で……。しばし考えていたネフィリアはぽんと手を打つ。
「あっ。そっか! 蜘蛛は里に向かってるのだ……!」
「うん。絶対また移動する。先回り、できる」
頷き合う2人。地面の蜘蛛の糸を避け、里の方角へと回り込む。
そしてエステルは地面に向けて炎の矢を撃ち、必死で蜘蛛が残した糸を打ち消していた。
この蜘蛛の糸1つが仲間の足を取って、大きな怪我につながるかもしれない。
部位破壊はイスフェリアと黒の夢、アルマが頑張ってくれている。
自分にできることを、1つづつやるのだ……!
「大丈夫か、エステル」
「私が一緒ですから大丈夫に決まってるのです」
イェジドの背に乗り走り寄る紅媛。ずっとエステルの傍で、蜘蛛の攻撃を抑えていた雲雀も顔を上げる。
「あ、紅媛ちゃん。ひばりちゃんもちょっとお願いがあるです」
「事と次第によるな」
「エステルのお願いなら聞くのですよ!!」
従姉と従者の反応の違いにエステルは噴き出しそうになるも、すぐに真顔に戻る。
「あの、紅媛ちゃんはわたくしを蜘蛛の前まで連れてってほしいです。その間ひばりちゃんは蜘蛛さんを引きつけてくださいです」
「白夜がいれば出来そうだが……何か考えがあるんだな?」
こくりと頷くエステル。その真剣な目を見て、紅媛も頷く。
「分かった。引き受けよう。雲雀もいいか?」
「いつでも大丈夫なのです!」
「よし。しっかり捕まってろ!」
「わあああ! 待ってなのです!」
エステルを抱えてイェジドを駆る紅媛。その後を、雲雀が慌てて走って行く。
「黒の夢さん、3体目の怪音兵器潰したよ!」
「うん。そのまま射撃……と思ったけど、イスフェリアちゃんは回復に回った方がよさそうなのな」
「ごめんなさい! ヒーリングスフィア、さっきので最後……!」
「おわー。待ったなしなのな!」
申し訳なさそうなイスフェリアに眉根を寄せる黒の夢。
彼女たちの目線の先では、ネフィリアとアーシェ、バタルトゥ……そしてイェジド達が近づいては離れ、離れては近づきを繰り返して……。
仲間達は傷つき、消耗が激しくなっている。
早く終わらせなければ……!
鞭をしならせ、足を狙うアーシェ。一瞬早く、蜘蛛の長い脚に薙ぎ払われて身体が傾ぐ。
「……っ!!」
「アーシェ君、大丈夫なのだ!?」
「大丈夫! ネフィリア、攻撃……!」
「あいあいさー!! ロケットパンチなのだー!」
アーシェの攻撃で生まれた隙。そこに容赦なく打ち込まれるネフィリアの拳。
主に続き、イェジドが鋭い爪を振り下ろす。
さすがに二身一体の攻撃には耐えられなかったのか。ぐにゃり、と蜘蛛の足がおかしな方向に曲がったのを見て、アーシェが頷く。
――確実なダメージにならなくても、次の攻撃の隙が生まれればいい。
これを繰り返せば、いつかは終わる……!
足に狙いを定めて双剣を振るうバタルトゥもまた、身体から血が滲んでいた。
「スカー! お願い! バターちゃんを守るのな!」
「グォ!!」
主の声に応え、蜘蛛とバタルトゥの間に割って入るイェジド。
――主の命だ。これを傷つけることは許さない……!
狼の、そんな声が聞こえて来そうで、バタルトゥは苦笑する。
「……俺は大丈夫だ。それより蜘蛛を……」
「グォ!!」
言い終わる前に、蜘蛛に食らいつくスカー。
ネフィリアのイェジドもまた、再び蜘蛛にとびかかり――。
「皆さん! 下がってくださいです!!」
「ふおおおお、なのです! 気合を入れるのです!!」
見えてきた黒いイェジド。紅媛を乗せて駆け――そこに聞こえてきたエステルの声。雲雀が叫びながら駆け込んできて、蜘蛛が微かに反応する。
その瞬間、総員が即座に反応して、身を翻す。
「大地の精霊さん、お願いです。壁をつくって下さいです!」
エステルの可愛らしい詠唱。出現した土の壁。
それは1匹を持ち上げ、残りの蜘蛛は壁に激突して縺れ合う。
「エステル、雲雀、よくやった! 総員畳みかけろ!」
「好機は逃がさないよ……!」
「おらおらおらおらフルボッコなのだーーー!!」
紅媛の号令。もつれあってもがく蜘蛛の腹を破る勢いで打ち込むアーシェとネフィリア。
「オ祈リノ時間ハ終ワッタカ? ――テメェら全員木端微塵だ、クソ虫共が」
「飛んで火に入るなんとやら、である。……おやすみなさい」
そして、壁に持ち上げられた1匹の腹を執拗に攻撃するアルマ。
黒の夢が放つ水球が蜘蛛に吸い込まれると、バチバチと嫌な音を立てて蜘蛛が停止し……。
――林に、ようやく静寂が訪れた。
その後、きっちりと蜘蛛が塵に還るまで破壊したハンター達。
他に蜘蛛がいないことも確認して……ようやく、一息つくことが出来た。
「ちょっと怪我したけど、無事に終わって良かったね」
「うん。コーリアスの兵器、手強かったけど……里を守れて、良かった」
「そうかなぁ? いい運動になったのだ!」
「……とかいって、真っ先に蜘蛛の糸に引っかかっただろうに」
「あっ、アレは……!」
紅媛のツッコミにアワアワと慌てるネフィリア。
イスフェリアとアーシェが顔を見合わせてくすくすと笑う。
その横で、黒の夢がバタルトゥの身体を確かめるようにぺたぺたと触っていた。
「バターちゃん、怪我大丈夫なのな?」
「……ああ、大したことはない。俺より、構った方がいい相手がいるんじゃないのか」
「黒の夢様……」
「くぅーん」
バタルトゥの目線の先。そこには、大きな狼が2匹、捨てられた子犬のような目をして主を見つめていた。
「こんなことしてる場合じゃないのです! ツキウサギさん達の踊りを手伝いに行くです!!」
「あっ。エステル! もう月天神法発動してるからお手伝いの必要ないと思うのですー!」
ぱたぱたと走り出したエステルを追いかける雲雀。
仲間達も頷き合うと、おばけクルミの里へ向かって歩き出した。
ユキウサギ達が住まうそこから、何だか賑やかな音が聞こえてくる。
あれが月天神法――。
随分可愛らしい結界なのな……と呟いて、黒の夢(ka0187)は小首を傾げる。
「んー。蜘蛛は1匹居たら500匹というやつなのなー。あれ? 1000匹だっけ?」
「ええっ!? そんなにいるのだ!?」
「さすがにそんなにいない、と思うよ」
「そ、そうだよねー」
「うん。蜘蛛は蜘蛛でも、機械みたいだし……」
彼女の言葉を真に受けて仰け反るネフィリア・レインフォード(ka0444)に、アーシェ(ka6089)が冷静にツッコむ。
その横で、ゴンザレス=T=アルマ(ka2575)がバタルトゥ・オイマト(kz0023)を穴が開くほど――アルマは狼の被り物をしているので、目線の動きは分かりにくい筈なのだが、それでも分かるくらいには見つめていた。
「……どうかしたか?」
「――嗚呼……イヤ、何デモナイ……」
バタルトゥの問いかけ、首を振るアルマ。
――似ている。
我が主は、まだあの男を忘れてはいないのか――。
ちょっと色々思い出しかけたけど。
まあ、似てるけど違うようだし問題ない!
サクッと切り替えたアルマは流れるようにバタルトゥの臀部に手を伸ばす。
「……何をしている」
「何ッテ挨拶ダロ」
「あーっ! アルマ、ずるいのな! 吾輩もやるのな!!」
「黒の夢様、叱ラナイノカ!?」
「何でなのな? あ、でもバターちゃん恥ずかしがりだから程々になのな!」
続く2人のやり取り。そうしている間もバタルトゥの眉間の皺が深くなって……アワアワとエステル・ソル(ka3983)が割り込む。
「そういうのはダメです! ご挨拶はお辞儀するです!」
「バタルトゥさん、相変わらずモテるんだね……」
苦笑しつつ、エステルを手伝うイスフェリア(ka2088)。ようやく解放されたバタルトゥがため息をつく。
「大丈夫です?」
「ああ。しかし、こんなことになって皆には迷惑をかけたな……」
「バタルトゥさんのせいじゃないです。気にしないでほしいです」
「そうよ。好きでこうなった訳じゃないんだしあまり気負いすぎないでね。……と言っても難しいかもしれないけど」
エステルの言葉に頷くイスフェリア。
誰かが危ない目に遭ったら助けに行くのは当然のこと。
いざ自分が助けられる立場になると申し訳なく感じてしまうのは、彼らしいのかもしれないけれど……。
驚いたように見開かれるエステルの瞳。目線がバタルトゥの身体に向けられているのに気づいて、雲雀(ka6084)が覗き込む。
「エステル、どうしました? 大丈夫ですか?」
「……傷だらけで怖がらせたか?」
「違うです! ちょっとびっくりしたですけど……沢山怪我したですね」
「バタルトゥも色々守ってきたってことだと思うよ」
「はいです。わたくしもおばけクルミの里を守るです!」
「張り切ってるですね! 雲雀も負けてはいないのですよ!」
紅媛=アルザード(ka6122)の呟きにこくりと頷くエステル。
張り切る彼女に、雲雀もぐっと握り拳を作る。
「2人とも張り切るのはいいけど気を付けるんだよ」
「はいです! あ、バタルトゥさんもう傷は痛くないです?」
「……古い傷だからな、大丈夫だ」
「バターちゃん、子供には優しいのなー。大人の女子にもそれくらい優しくすればいいのな」
エステルに受け応えるバタルトゥをじっと見つめる黒の夢。
ネフィリアが、仲間達に静かにするようにと口の前に指を立ててジェスチャーをする。
「……目標、来たのだ! 何か身体ギラギラしてるし白いの吐いてるのだ」
「蜘蛛の糸、厄介、だね。でも、手筈通りに……頑張ろう」
頷く総員。
アーシェの声を合図に、仲間達が動き出す――。
「バタルトゥさん、蜘蛛を一匹お願いしたいです」
「……了解した」
「ネフィリア、出るぞ!」
「了解なのだ! って、樹に何か白いのがある……。あれに触れないように気をつけて進むのだ!」
エステルの声に、バタルトゥが木々の間に目を走らせながら頷く。
黒い毛並みのイェジドに跨る紅媛。ネフィリアも己のイェジドに指示を飛ばしながら、風のような速さで前に進む。
迫る銀色の蜘蛛。
最前線の紅媛とネフィリアが2体の蜘蛛を引きつける役目だ。
まずは1体沈めれば、数から言っても楽になるはず……!
ギリギリまで近づき、イェジドの背から立ち塞がるように飛び降りたネフィリア。
――だが、そのタイミングを蜘蛛も見逃さず――彼女に向けて、白い糸を吐き出す。
「この蜘蛛共! これ以上前には進ませない……うわあっ!?」
着地したところを蜘蛛の糸に絡めとられ、よろけるネフィリア。
――んもう! カッコよく着地して決め台詞言おうと思ってたのに……!!
足はがっちり固定されていてすぐには動けそうにない。
蜘蛛もそれを理解しているのか、進路を変えることなく接近してきている。
うう。失敗した……! いや、諦めるには早いのだ……!
「こうなったら作戦変更なのだあ! とっておき出しちゃうのだ! うおおお!! 大地よ!! 我が心に応えよ!!」
ネフィリアの腹の底から溢れる声。彼女を中心に大地が大きく揺れて……蜘蛛が動きを止める。
「ネフィリア、大丈夫か!?」
「大丈夫! 紅媛君、今のうちにそいつやっちゃってなのだ!」
「了解! 行け! 白夜!」
「イェジド! 食らいつくのだ!!」
「ウオオオオ!!」
ネフィリアと紅媛の号令はほぼ同時。
響く狼の咆哮。
離れたところから、一気に距離を詰める2体のイェジド。
黒と白、陰陽のような身体が弾丸のように疾り、動けなくなった蜘蛛の足に食らいつく。
「……貰った!」
疾風となって突き進む紅媛。
半身の姿勢から、一気に青い大太刀を振り下ろす――!
感じた手ごたえ。
腹部を貫かれた銀色の蜘蛛は、ギギギ……と奇妙な音を立てて動きを止めた。
「わー。アーシェ君ありがと!」
「いいよ……。困ったときはお互い様、だよ」
鞭を振るい、ネフィリアの足を開放するアーシェ。
その金色の瞳が、5体の蜘蛛を映す。
皆が同じ方角に背を向けてたら、里の場所気づかれてしまうと思っていたが……。
それ以前に蜘蛛は、ハンター達を見てすらいない。
斃された仲間を気にする様子もなく、ただただまっすぐに、里を目指している。
「蜘蛛達、里の方角、正確にわかるのかな……?」
「……多分ね。里の方角が設定されててもおかしくないよ」
「あ、そっか。機械、だもんね……」
アーシェに頷くイスフェリア。
彼女も色々蜘蛛対策は考えて来たけれど……落とし穴を掘るような時間もなかったし、自分達の居場所を偽装しようにも、蜘蛛はそもそもハンター達に興味を示していない。
邪魔をして来るから応戦するだけで、蜘蛛達にとって、自分達はその辺に立っている木々と変わらないのだろう。
彼女たちの目的はハンターとの戦闘ではなく、ユキウサギ達が発動させた月天神法を破ること。
それだけをただ、プログラムされて、動いている――。
「小細工なしで、足止めした方がよさそう、だね」
「そうだね。何かやってもスルーされる気がするよ」
「よし! そうと決まればバチコーンとぶん殴るのだ!! イェジド、行くのだ!」
言うなり駆け出すネフィリア。
それを先んじて走るイェジド。
それに、アーシェとイスフェリアも続く。
その頃、大きな身体の男女が2人……アルマと黒の夢が木々の隙間からひょっこり顔を覗かせて、蜘蛛の様子を伺っていた。
「んー。前に会った子とはちょっと違うみたいだけど、お腹が弱点みたいなのな。どこを狙うかはアルマに任せるけど、動けなくする方を優先するのな」
「我ガ主ノ仰セノママニ」
黒き魔女に傅く狼男。林の中で見るそれは、何だか幻想的でもあったけれど……。
次の瞬間、アルマの雰囲気がガラリと変わった。
「――クソ虫共。我ガ主ノゴ所望ダ。精々踊リヤガレ……!」
続く銃声。身を低くし、蜘蛛の動きを予測して……狙いを定めたライフルからの銃弾を避けることは難しく。
次々と打ち込まれる銃撃に、蜘蛛の足の1つが歪み、穴があく。
「ム。足1本無クシタクライジャ止マランカ……」
「いいのな。射程範囲に入ったら吾輩も撃つのな。そのまま続けるのな!」
「畏マリマシタ、ト……!」
頭上から聞こえる黒の夢の声。蜘蛛を見据えたままにアルマは頷き――。
足を1本失くしつつも進み続ける銀色の蜘蛛。
それに更なる銃撃が重なる。
ハンター達優勢で進んでいる戦況。
だが、蜘蛛達もただやられているだけではなかった。
8本の腕を持つ蜘蛛。6本の足で移動を続けながら、2本を上に上げ――。
キイイイィイィイィイィイ――!!!
木々を揺らすような爆音。耳障りなその音に、エステルと雲雀が思わず耳に手を当てる。
「な、何て酷い音ですか……! こんな大きな音出してユキウサギさんがビックリしたらどうするですか……!!」
「えーー!? エステル何か言ったのですーー!?」
「ひばりちゃん!! あの音を止めるです!!!!」
「了解なのです! アルザード家がメイド、雲雀! いざ参るのです!!」
負けないくらい大きな声を出す2人。雲雀が小さな身体に似つかわしい斧を振り上げ、蜘蛛に接近しようとして……キュッと音がしそうなくらい急に立ち止まった。
見ると、怪音波を出しているのは1匹で、他の蜘蛛はハンター達を足止めするつもりなのだろう。地面に向けてせっせと糸を輩出している。
雲雀は地上を高速で駆ける動物霊の力を力を借りていた為寸でのところで止まれたが……糸に危うく足を取られるところだった。
「ぐぬぬ……! 蜘蛛のくせに生意気なのです!」
これでは上手く近づけない。唇を噛む雲雀。
次の瞬間。彼女の視界を過ぎる光。
光の杭と、色とりどりの宝石が、怪音を出していた脚部装甲を打ち砕く――!
「んもう……! うるさい!!」
「歌うならもうちょっと上手に歌ってほしいのな~」
顔を顰めるイスフェリアに、のんびりと呟く黒の夢。
その背後で、アルマが重そうなライフルを軽々と操る。
「A-ha! 糸ノ出ル穴モ塞イデヤロウ――鉛玉デナ」
嗤う狼男。銃弾が、糸を排出する装甲を次々と撃ち抜いて行く。
じわりじわりと、薄皮を剥いでいくように続くハンター達の攻撃。
攻撃手段を少しづつ削られた蜘蛛達も動きを変え、ハンター達を直接払い除ける行動に出る。
その結果、戦況も乱戦気味になり……味方を撃たぬようには配慮しているが、事前に決めた班で動くというのはなかなか難しい状況になっていた。
「うがああ! これじゃ近づけないのだ!!」
新たな糸はもう出ることはないが、それでも地面に張り巡らされた糸が消える訳ではない。
頭を抱えるネフィリアの腕を、アーシェがくいくいと引っ張る。
「お? アーシェ君、どした?」
「ネフィリア、こっち。蜘蛛、来るよ」
彼女が指差す方向。それは里の方角で……。しばし考えていたネフィリアはぽんと手を打つ。
「あっ。そっか! 蜘蛛は里に向かってるのだ……!」
「うん。絶対また移動する。先回り、できる」
頷き合う2人。地面の蜘蛛の糸を避け、里の方角へと回り込む。
そしてエステルは地面に向けて炎の矢を撃ち、必死で蜘蛛が残した糸を打ち消していた。
この蜘蛛の糸1つが仲間の足を取って、大きな怪我につながるかもしれない。
部位破壊はイスフェリアと黒の夢、アルマが頑張ってくれている。
自分にできることを、1つづつやるのだ……!
「大丈夫か、エステル」
「私が一緒ですから大丈夫に決まってるのです」
イェジドの背に乗り走り寄る紅媛。ずっとエステルの傍で、蜘蛛の攻撃を抑えていた雲雀も顔を上げる。
「あ、紅媛ちゃん。ひばりちゃんもちょっとお願いがあるです」
「事と次第によるな」
「エステルのお願いなら聞くのですよ!!」
従姉と従者の反応の違いにエステルは噴き出しそうになるも、すぐに真顔に戻る。
「あの、紅媛ちゃんはわたくしを蜘蛛の前まで連れてってほしいです。その間ひばりちゃんは蜘蛛さんを引きつけてくださいです」
「白夜がいれば出来そうだが……何か考えがあるんだな?」
こくりと頷くエステル。その真剣な目を見て、紅媛も頷く。
「分かった。引き受けよう。雲雀もいいか?」
「いつでも大丈夫なのです!」
「よし。しっかり捕まってろ!」
「わあああ! 待ってなのです!」
エステルを抱えてイェジドを駆る紅媛。その後を、雲雀が慌てて走って行く。
「黒の夢さん、3体目の怪音兵器潰したよ!」
「うん。そのまま射撃……と思ったけど、イスフェリアちゃんは回復に回った方がよさそうなのな」
「ごめんなさい! ヒーリングスフィア、さっきので最後……!」
「おわー。待ったなしなのな!」
申し訳なさそうなイスフェリアに眉根を寄せる黒の夢。
彼女たちの目線の先では、ネフィリアとアーシェ、バタルトゥ……そしてイェジド達が近づいては離れ、離れては近づきを繰り返して……。
仲間達は傷つき、消耗が激しくなっている。
早く終わらせなければ……!
鞭をしならせ、足を狙うアーシェ。一瞬早く、蜘蛛の長い脚に薙ぎ払われて身体が傾ぐ。
「……っ!!」
「アーシェ君、大丈夫なのだ!?」
「大丈夫! ネフィリア、攻撃……!」
「あいあいさー!! ロケットパンチなのだー!」
アーシェの攻撃で生まれた隙。そこに容赦なく打ち込まれるネフィリアの拳。
主に続き、イェジドが鋭い爪を振り下ろす。
さすがに二身一体の攻撃には耐えられなかったのか。ぐにゃり、と蜘蛛の足がおかしな方向に曲がったのを見て、アーシェが頷く。
――確実なダメージにならなくても、次の攻撃の隙が生まれればいい。
これを繰り返せば、いつかは終わる……!
足に狙いを定めて双剣を振るうバタルトゥもまた、身体から血が滲んでいた。
「スカー! お願い! バターちゃんを守るのな!」
「グォ!!」
主の声に応え、蜘蛛とバタルトゥの間に割って入るイェジド。
――主の命だ。これを傷つけることは許さない……!
狼の、そんな声が聞こえて来そうで、バタルトゥは苦笑する。
「……俺は大丈夫だ。それより蜘蛛を……」
「グォ!!」
言い終わる前に、蜘蛛に食らいつくスカー。
ネフィリアのイェジドもまた、再び蜘蛛にとびかかり――。
「皆さん! 下がってくださいです!!」
「ふおおおお、なのです! 気合を入れるのです!!」
見えてきた黒いイェジド。紅媛を乗せて駆け――そこに聞こえてきたエステルの声。雲雀が叫びながら駆け込んできて、蜘蛛が微かに反応する。
その瞬間、総員が即座に反応して、身を翻す。
「大地の精霊さん、お願いです。壁をつくって下さいです!」
エステルの可愛らしい詠唱。出現した土の壁。
それは1匹を持ち上げ、残りの蜘蛛は壁に激突して縺れ合う。
「エステル、雲雀、よくやった! 総員畳みかけろ!」
「好機は逃がさないよ……!」
「おらおらおらおらフルボッコなのだーーー!!」
紅媛の号令。もつれあってもがく蜘蛛の腹を破る勢いで打ち込むアーシェとネフィリア。
「オ祈リノ時間ハ終ワッタカ? ――テメェら全員木端微塵だ、クソ虫共が」
「飛んで火に入るなんとやら、である。……おやすみなさい」
そして、壁に持ち上げられた1匹の腹を執拗に攻撃するアルマ。
黒の夢が放つ水球が蜘蛛に吸い込まれると、バチバチと嫌な音を立てて蜘蛛が停止し……。
――林に、ようやく静寂が訪れた。
その後、きっちりと蜘蛛が塵に還るまで破壊したハンター達。
他に蜘蛛がいないことも確認して……ようやく、一息つくことが出来た。
「ちょっと怪我したけど、無事に終わって良かったね」
「うん。コーリアスの兵器、手強かったけど……里を守れて、良かった」
「そうかなぁ? いい運動になったのだ!」
「……とかいって、真っ先に蜘蛛の糸に引っかかっただろうに」
「あっ、アレは……!」
紅媛のツッコミにアワアワと慌てるネフィリア。
イスフェリアとアーシェが顔を見合わせてくすくすと笑う。
その横で、黒の夢がバタルトゥの身体を確かめるようにぺたぺたと触っていた。
「バターちゃん、怪我大丈夫なのな?」
「……ああ、大したことはない。俺より、構った方がいい相手がいるんじゃないのか」
「黒の夢様……」
「くぅーん」
バタルトゥの目線の先。そこには、大きな狼が2匹、捨てられた子犬のような目をして主を見つめていた。
「こんなことしてる場合じゃないのです! ツキウサギさん達の踊りを手伝いに行くです!!」
「あっ。エステル! もう月天神法発動してるからお手伝いの必要ないと思うのですー!」
ぱたぱたと走り出したエステルを追いかける雲雀。
仲間達も頷き合うと、おばけクルミの里へ向かって歩き出した。
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【質問卓】 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/21 22:12:47 |
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【相談卓】vs 絡繰蜘蛛レディ 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/25 07:19:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/20 23:27:44 |