ゲスト
(ka0000)
【猫譚】クルセイダーのゆぐでぃら!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/29 22:00
- 完成日
- 2016/10/04 20:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●これまでのあらすじ
ハンターが学校の臨時教師として教えたり歪虚退治してるよ。
以上!
●にゃーん
具沢山ビーフシチューの深皿と、焼きたてパン山盛りのバスケットが、清潔なテーブルクロスの上に人数分並べられていた。
それを食べるのは8歳児から12歳のクルセイダーの卵たちだ。
皆、短期間で一人前になるための高密度教育を受けている。
だから気力体力の回復のため毎食必死に食事をしているはずなのに、今日は何故か皆大人しかった。
「どうかしましたか?」
教師が不審に思って食堂の中に入る。
食事時くらいは自由にさせてやりたいが、虐めや体調不良の可能性があるなら放置できない。
「い、いえ」
「なんでもないですっ」
これ以上ないほど挙動不審だった。
なんとなく顔色もよくない気がする。
怒った顔にならないよう気をつけてじっと見つめると、年少組でやんちゃな少女が部屋の隅をちらちら心配そうに見始めた。
にゃー。
観葉植物の陰から可愛らしい鳴き声が聞こえる。
小さな猫尻尾が機嫌よさげに揺れていた。
「皆さん」
教師が授業中の顔になる。
子供たちが弾かれたように背を伸ばす。
教師は3つの問題点を指摘する。
1つ目。衛生面。
2つ目。飼い主の責任。食べ物と寝床と糞尿処理は、ここの生徒の立場では無理だ。
「3つ目は私達教師に相談しなかったことです」
子猫を優しく捕獲し指先でくすぐる。
子猫の体から力が抜け、幸せそうな寝息が微かに聞こえた。
「里親が見つかるまでなら面倒を見るくらいします。さあ皆さん、午後は外での演習です。猫ちゃんにいいところを見せてくださいね」
はい、と元気な返事が20人分返ってくる。
これで終われば、いい話だったかもしれない。
●にゃーんにゃーん
「ほーれほれ」
猫じゃらし片手に緩んだ笑みを浮かべているのは、今年まで一線で戦っていた元騎士だ。
傷を負い片足の機能が低下したのを機に退職。この地の開拓事業に身一つで参加した、気合いの入った男のはずだった。
少し痩せた猫が手を伸ばす。
わざと速度を遅くしてやり、猫じゃらしで猫パンチを受けてやる。
「先輩、俺にも代わってくださいよ」
「私にも……」
黙っていれば残虐非道の現役強盗団に見える連中が、仕事を忘れる勢いで猫の相手をしていた。
●にゃーんにゃーん!
「良いところに目をつけましたね」
聖堂教会司祭、イコニア・カーナボン(kz0040)が顔に出さずに感動していた。
目の前にいるのは初めての直属部下だ。
12という年齢の割には体も鍛えられている。
記憶力も思考の速度も素晴らしい。鍛えれば鍛えるほど伸びるのが見ていて非常に楽しい。
「祈りを含む陽気を正マテリアルにして使うのが法術です」
教会幹部から身も蓋もない理屈を聞いてしまい、12歳の助祭が顔をひきつらせた。
「メモは駄目です。聖堂教会の秘技に属する情報ですから」
正確にはイコニアが属する派閥の秘技の一部だ。
外に漏れて技術が広まると社会全体のマテリアル消費量が増えかねないので、自力で気付いた者も多くの場合口には出さない。
「学校の東に軽度の歪虚汚染領域がありますよね? あの程度なら密度の低い正マテリアルで浄化可能です」
「司祭単独で可能なのでしょうか」
助祭は前のめりに質問する。
「今の体調だと難しいかもしれません」
イコニアの顔はかなり悪い。大物を祓おうとして危険なほど消耗してしまったからだ。
「そうですね。確かウンドーカイ? とブンカサイ? でしたか。30人ほどの催しで盛り上がれば自然に浄化が完了するはずです」
そんなに簡単なの!? と助祭は叫びそうになってしまった。
「ところで」
イコニアがほんの少しだけ目を細めた。
年が3つくらいしか違わないはずのに、教師たちよりずっと底知れない色をしている。
「注意散漫ですね。私の教え方が拙かったのでしょうか」
助祭は言い訳をしようとして己の口が動かないことに気付く。
懐に入れたままのねこじゃらしが、妙に遠くに感じられた。
●めー
ハンターオフィス本部に新たな依頼票が現れた。
3Dディスプレイの半分には報酬と成功条件が、もう半分には昨日撮影された動画が再生されている。
羊だ。
羊にしか見えないものが南にある学校に向かおうとして、護衛の傭兵や妙に体格の良い開拓者に撃破されている。
ただ、人間側の数が妙に少なく動きも拙い。
まるで何かに気を取られているようだ。
『これで安全にゃ』
『愛想の良い猫を連れていって人間の世話になる作戦、大成功にゃっ』
画面の隅で、人間へ通訳されない言葉で2体のユグディラが騒いでいた。
●依頼票
クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保を依頼します
教職員(2割が猫に攻略され中
校長。司教。教師としては有能。リアルブルーに詳しくない
守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当。最近は守備兵としての活動が中心
教師5名(初等教育1、医師1、薬師1、看護1、他1)
植物園管理人2名
司書1名。専門書の管理は問題なし。漫画の管理に悩んでいるようです
開拓部門(5割が猫に…
農業技術者3名
元戦士団と元騎士団の入植者12名
在校生(9割以上が猫に…
2年生。10~12歳覚醒者計12人。読み書き可能、専門書読解は難しい。戦闘力は初心者ハンター未満。戦闘慣れしています
1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。基本的な読み書き可能。戦闘力は非覚醒者新米兵士級
滞在者
助祭2。司祭1
校舎
教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
武器庫 アサルトライフル30丁・各種白兵武器・皮鎧金属鎧
宿舎
5人部屋10
厨房
見張り台
木製。古い
周辺状況
校舎南側の農地復旧作業がはじまっています
●付属地図(1文字縦横1キロメートル)
abcdefgh
あ平平平道平平□□ □=未探索地域。危険。縦横各1キロメートル
い□平平道平平川□ 平=平地。低い木や放棄された畑や小屋があります。やや安全。演習場扱い
う□平平学平平川川 学=学校が中心に建っています。緑豊か。安全
え□平平作作平汚□ 川=川があります
お□平平平平平□□ 汚=微量の歪虚汚染有り。砂が多い。超微速で汚染度上昇中
か□□□平□□□□ 道=荒野。砂利道が北に向かっています。安全
き□□□□□□□□ 作=元農地。今年冬小麦を植えることを目指し作業中。dえ種蒔可。eえ草刈中
・元薬草園
eい。薬草が少し自生。専門家2人が復旧作業中。傷薬の原料の在庫有
・要修理な用水路
dお~eえ~gえ~gう
・隣領開拓村
北西数キロ
●ふーっ!
「嫉妬するなとは言わぬ。だが子供を怯えさせてはいかんよ」
校長兼司教が注意をすると、イコニアの目が見開かれ足が止まった。
「漏れてました?」
やべっ、と顔に出るイコニア。
鍛えればその分筋肉がつく部下が心底羨ましい、外見年齢15歳であった。
ハンターが学校の臨時教師として教えたり歪虚退治してるよ。
以上!
●にゃーん
具沢山ビーフシチューの深皿と、焼きたてパン山盛りのバスケットが、清潔なテーブルクロスの上に人数分並べられていた。
それを食べるのは8歳児から12歳のクルセイダーの卵たちだ。
皆、短期間で一人前になるための高密度教育を受けている。
だから気力体力の回復のため毎食必死に食事をしているはずなのに、今日は何故か皆大人しかった。
「どうかしましたか?」
教師が不審に思って食堂の中に入る。
食事時くらいは自由にさせてやりたいが、虐めや体調不良の可能性があるなら放置できない。
「い、いえ」
「なんでもないですっ」
これ以上ないほど挙動不審だった。
なんとなく顔色もよくない気がする。
怒った顔にならないよう気をつけてじっと見つめると、年少組でやんちゃな少女が部屋の隅をちらちら心配そうに見始めた。
にゃー。
観葉植物の陰から可愛らしい鳴き声が聞こえる。
小さな猫尻尾が機嫌よさげに揺れていた。
「皆さん」
教師が授業中の顔になる。
子供たちが弾かれたように背を伸ばす。
教師は3つの問題点を指摘する。
1つ目。衛生面。
2つ目。飼い主の責任。食べ物と寝床と糞尿処理は、ここの生徒の立場では無理だ。
「3つ目は私達教師に相談しなかったことです」
子猫を優しく捕獲し指先でくすぐる。
子猫の体から力が抜け、幸せそうな寝息が微かに聞こえた。
「里親が見つかるまでなら面倒を見るくらいします。さあ皆さん、午後は外での演習です。猫ちゃんにいいところを見せてくださいね」
はい、と元気な返事が20人分返ってくる。
これで終われば、いい話だったかもしれない。
●にゃーんにゃーん
「ほーれほれ」
猫じゃらし片手に緩んだ笑みを浮かべているのは、今年まで一線で戦っていた元騎士だ。
傷を負い片足の機能が低下したのを機に退職。この地の開拓事業に身一つで参加した、気合いの入った男のはずだった。
少し痩せた猫が手を伸ばす。
わざと速度を遅くしてやり、猫じゃらしで猫パンチを受けてやる。
「先輩、俺にも代わってくださいよ」
「私にも……」
黙っていれば残虐非道の現役強盗団に見える連中が、仕事を忘れる勢いで猫の相手をしていた。
●にゃーんにゃーん!
「良いところに目をつけましたね」
聖堂教会司祭、イコニア・カーナボン(kz0040)が顔に出さずに感動していた。
目の前にいるのは初めての直属部下だ。
12という年齢の割には体も鍛えられている。
記憶力も思考の速度も素晴らしい。鍛えれば鍛えるほど伸びるのが見ていて非常に楽しい。
「祈りを含む陽気を正マテリアルにして使うのが法術です」
教会幹部から身も蓋もない理屈を聞いてしまい、12歳の助祭が顔をひきつらせた。
「メモは駄目です。聖堂教会の秘技に属する情報ですから」
正確にはイコニアが属する派閥の秘技の一部だ。
外に漏れて技術が広まると社会全体のマテリアル消費量が増えかねないので、自力で気付いた者も多くの場合口には出さない。
「学校の東に軽度の歪虚汚染領域がありますよね? あの程度なら密度の低い正マテリアルで浄化可能です」
「司祭単独で可能なのでしょうか」
助祭は前のめりに質問する。
「今の体調だと難しいかもしれません」
イコニアの顔はかなり悪い。大物を祓おうとして危険なほど消耗してしまったからだ。
「そうですね。確かウンドーカイ? とブンカサイ? でしたか。30人ほどの催しで盛り上がれば自然に浄化が完了するはずです」
そんなに簡単なの!? と助祭は叫びそうになってしまった。
「ところで」
イコニアがほんの少しだけ目を細めた。
年が3つくらいしか違わないはずのに、教師たちよりずっと底知れない色をしている。
「注意散漫ですね。私の教え方が拙かったのでしょうか」
助祭は言い訳をしようとして己の口が動かないことに気付く。
懐に入れたままのねこじゃらしが、妙に遠くに感じられた。
●めー
ハンターオフィス本部に新たな依頼票が現れた。
3Dディスプレイの半分には報酬と成功条件が、もう半分には昨日撮影された動画が再生されている。
羊だ。
羊にしか見えないものが南にある学校に向かおうとして、護衛の傭兵や妙に体格の良い開拓者に撃破されている。
ただ、人間側の数が妙に少なく動きも拙い。
まるで何かに気を取られているようだ。
『これで安全にゃ』
『愛想の良い猫を連れていって人間の世話になる作戦、大成功にゃっ』
画面の隅で、人間へ通訳されない言葉で2体のユグディラが騒いでいた。
●依頼票
クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保を依頼します
教職員(2割が猫に攻略され中
校長。司教。教師としては有能。リアルブルーに詳しくない
守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当。最近は守備兵としての活動が中心
教師5名(初等教育1、医師1、薬師1、看護1、他1)
植物園管理人2名
司書1名。専門書の管理は問題なし。漫画の管理に悩んでいるようです
開拓部門(5割が猫に…
農業技術者3名
元戦士団と元騎士団の入植者12名
在校生(9割以上が猫に…
2年生。10~12歳覚醒者計12人。読み書き可能、専門書読解は難しい。戦闘力は初心者ハンター未満。戦闘慣れしています
1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。基本的な読み書き可能。戦闘力は非覚醒者新米兵士級
滞在者
助祭2。司祭1
校舎
教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
武器庫 アサルトライフル30丁・各種白兵武器・皮鎧金属鎧
宿舎
5人部屋10
厨房
見張り台
木製。古い
周辺状況
校舎南側の農地復旧作業がはじまっています
●付属地図(1文字縦横1キロメートル)
abcdefgh
あ平平平道平平□□ □=未探索地域。危険。縦横各1キロメートル
い□平平道平平川□ 平=平地。低い木や放棄された畑や小屋があります。やや安全。演習場扱い
う□平平学平平川川 学=学校が中心に建っています。緑豊か。安全
え□平平作作平汚□ 川=川があります
お□平平平平平□□ 汚=微量の歪虚汚染有り。砂が多い。超微速で汚染度上昇中
か□□□平□□□□ 道=荒野。砂利道が北に向かっています。安全
き□□□□□□□□ 作=元農地。今年冬小麦を植えることを目指し作業中。dえ種蒔可。eえ草刈中
・元薬草園
eい。薬草が少し自生。専門家2人が復旧作業中。傷薬の原料の在庫有
・要修理な用水路
dお~eえ~gえ~gう
・隣領開拓村
北西数キロ
●ふーっ!
「嫉妬するなとは言わぬ。だが子供を怯えさせてはいかんよ」
校長兼司教が注意をすると、イコニアの目が見開かれ足が止まった。
「漏れてました?」
やべっ、と顔に出るイコニア。
鍛えればその分筋肉がつく部下が心底羨ましい、外見年齢15歳であった。
リプレイ本文
●
「可愛いのは認めてあげる」
セリス・アルマーズ(ka1079)の声が響く。
猫は全身から力を抜いて完全服従の姿勢に移行。
教官も生徒も迫力にあてられて動きが止まっている。
「だからといって、サボりを許容するほど 私は甘くないわよ?」
張り付けたような笑顔が怖い。
人間たちの顔に冷や汗が浮かび、猫は白目を剥いて意識を失った。
大重量の甲冑を着て猫並の身軽さで歩くセリスを見ればそうもなる。
騎乗したロニ・カルディス(ka0551)が近づいて来る。
猫、教官、生徒、セリスからなる混沌を目視した上で無視をして、教官の前で馬を下り端的に用件を告げた。
「羊型歪虚の排除が滞っている。今から準備を行い可及的速やかに戦闘を仕掛けるように」
校長の署名入り許可書を教官に示し、ロニは自分たちだけで班分けから作戦立案および戦闘まで行うよう生徒たちに告げた。
右往左往が始まった。
武器防具を取りに行く者、偵察に行く者、戦闘に備えてトイレに向かう者。混乱するだけで何もできない生徒も数人いる。
今はこんな彼等だが普段はもっとずっとしっかりしている。今も時間の余裕があれば普段通りに動けたはずだ。
だからこそロニは今回の演習を企て校長も許可を出した。苛酷な状況でも普段通りに行動出来てようやく一人前なのだから。
「久しぶりに来たが、様変わりしたな」
ロニが子供に聞こえない音量でつぶやいた。
学校周辺から歪虚の気配は薄れ、わずかではあるが再開発が始まり、実用的な銃器や魔導トラックまで持ち込まれている。
ただし変わらないこともある。
「出発します!」
「装備の確認が足りない。やり直せ。最初からではない、必要なことのみを速やかにだ」
ロニが指摘と指導を行う。
指揮官役に納まった2年生を叱咤し演習の内容を微修正させる。
生徒たちは結局十数分かかってようやく現地への移動を開始した。
「つーわけで、魔導トラックの指揮はジョンに任せる。一応、現地にはいるが魔導トラックには同乗しないし、手も口も出すつもりもないからそのつもりで」
柊 真司(ka0705)が砕けた口調で指示すると、12歳児な助祭がうげっとうめいて情けない顔になる。
「無茶苦茶言いますね。俺いま来たばかりですよ」
運転席から飛び降り荷台に飛び上がる。
「俺達ハンターを除くと指揮系統の一番上はお前になるのかな? しっかりやってみせろ」
「分かってます!」
作業服のまま荷台から草を落としていく。
「在校生! 俺は2分以内に合流するから誰がトラックに乗り込むか決めておけ。指示出しで最低1人は寄越せよ」
指揮権を得た後現状把握に時間をかけるより、在校生の指揮下に入って時間を節約することを選択したようだ。
直前まで農作業に使われていたトラックが急発進する。
真司は魔導バイクを緩やかに加速させ、学校生徒の戦いを後ろから見守った。
戦場に到着する。
メェメェ五月蠅い。
飼われた羊より体格も劣り速度もないのに、生きとし生けるもの全てに向ける殺意は他の歪虚と変わらなかった。
アサルトライフルの銃口が揺れる。
長時間の実弾射撃訓練を何度も繰り返した生徒たちが、殺気に負けて新兵未満の逃げ腰になる。
『さぁ日頃の訓練の成果、見せて頂戴』
借り物のトランシーバーから白金 綾瀬(ka0774)の声が届いた。
「はいっ」
顔は緊張で強ばったまま。けれど銃口の揺れが消えていた。これまでまともに息が出来いほど緊張していたことにようやく気づく。
めぇっ。
羊型雑魔が横一列で走り出した。
「射撃開始。3発撃ったら距離をとれ。先輩は援護を!」
命令を受け最初に動いたのは魔導トラックだ。
高加速で斜め横へ前進し、急停止した上で機銃を敵の予想進路上に向ける。
めぇぇぇっ!
羊雑魔が最高速に到達する。
ハンターなら数匹まとめて食い止めることも可能だろうが、小柄で骨も肉もまだ薄い生徒たちでは厳しい。
弾丸の雨が2方向から羊を襲う。
命中率は好意的に見て八割、雑魔の回避能力は低くなく実質命中率は6割だ。
つまり4割が体液をまき散らして荒野に倒れた。
「根性見せなさい」
後ろからセリスの言葉が耳に届く。
重い足音が3人分駆け足の速度で近づき、アサルトライフル持ちの生徒たちを追い越した。
子供用板金鎧が3つ、生き残りの羊に真正面からぶつかった。
実質授業参観なセリスが天を仰いだ。
重装甲路線の子供は体力はついてもまだまだ視野が狭いようだ。重装甲で無傷だが回避も防御もろくにできていない。
指揮官が必死に指示を出してアサルトライフル持ちを移動させる。
敵との距離を最低限確保した生徒たちは、仲間に当てないよう慎重に狙って再度引き金を引いた。
羊型歪虚の体液が舞う。
獰猛に動く雑魔に板金鎧装備者が押され、極少数のライフル持ちに羊足が当たって苦痛の吐息が漏れた。
ロニは一息で駆けつけられる距離で戦場全体を把握し記録している。
生徒の判断、技術、体力の全てに改善すべき点がある。
これは戦闘後にみっちり教え込んでやる予定だ。
また、しっかり賞賛もしてやるつもりだ。現時点でも並の雑魔程度相手なら十分勝てる。さらに強い相手ならロニのディヴァインウィルがなければ2、3人死にそうだが。
「持って来たメモでは足りないな」
褒めることも諭すことも非常に多く、それがとても楽しい。
口元が緩みそうになるのを気合を入れて我慢して、ロニは生徒たちに気づかれないよう静かにヒーリングスフィアを使った。
●
「返せる範囲でお金を借りる、商人を領地開発に巻き込む、一定の安全を確保してから投資を求める。3つのうちどれが良いと思う?」
エルバッハ・リオン(ka2434)は単刀直入にイコニア・カーナボン(kz0040)にたずねた。
「個人的には1番目でお」
「後はソナさんにお願いします。私は開拓部門の援護に出ます」
エルバッハはイコニアに最後まで言わせず会議室の外へ出て行った。
今開拓を進めれば植え付け可能な冬小麦が増える。
借りるのも巻き込のも投資募集も楽になる。なので1秒でも時間が惜しい。
「とりあえず融資の件だな」
真司が咳払いをする。
「受けるか断るか、受けるにしても色々意見が出たんだが校長が良く分かってないみたいでな」
綺麗に整った議事録と金庫の中身の一覧表、そして要約すれば助けてとしか書いていない校長直筆の依頼票をイコニアへ差し出す。
「助かります」
現状把握ができていないよー、と少女司祭が内心頭を抱えているのが気配で分かった。
「読む時間をください」
ソナ(ka1352)に目礼する。
真司にも目礼しようとして、既に真司が資料室に向かったのに気づいた。
「入っちゃ駄目ですよ」
ソナが入り口で猫を押し止める。
「ここだけ時間の流れが速くなっていそうな状況ですね」
猫を袖にして戻るとイコニアが資料を読み終えていた。
「この前は融資の商人さんの調査をありがとうございました」
「こちらこそお礼を言わせてください」
ソナより深く頭を下げ、派閥幹部として感謝を口にした。
「転入希望者も多いですし、新課程の予定もあるので、諸々の件を含めてご相談したいのです」
ソナ自身は相談のつもりだったのにイコニアは別の意味で受け取った。
「では私の権限で集められる資金を集めておきます。
戻って来た真司から羊皮紙を受け取り書き始める
派閥幹部の筆跡を真似た各種許可証だ。事後承諾の当てがあっても法的には全て真っ黒である。
「こちらも生徒数増やすなら、新宿舎がほしいかなと思うので、建てるなら準備を急がないと受け入れに間に合わないですし」
ソナは流れに任せることにした。イコニアもうなずいて4枚目にとりかかる。
「融資の事も早めにお返事できるように……」
「交渉人を常駐させることができれば商人相手でも比較的安全に資金を引き出せるのですけど、人材が足りないのです」
人材候補に目を向ける。
12歳児なマティ助祭が、知恵熱を出してぐったりしていた。
「これで今年は大丈夫です」
融資や借り入れに関する書類が完成し、ソナと校長経由で関係各所に送られることになる。
この月、真っ黒司祭の言う通り低利の借金とそこそこの寄付金が集まった。
なお、これでイコニアの金銭的なコネは全滅である。
早めに手を打っておかないと資金不足で学校閉鎖という展開もあり得る。
●
「預かっていて」
綾瀬の声は苦渋に満ちていた。
小柄な猫が綾瀬の腕から肩に抜け出し、ジャンプ。
既に子猫で手一杯のイコニアの肩に着地しだらんとした。
「セリス」
「ええ」
妙齢の女性2人が建材に手を伸ばす。
頑丈な分非常に重い木材が、まるで軽さなどないかのように組み上げられていく。
建物が妙に大きい。予定より倍以上の体積がありそうだ。
「問題ないわ」
綾瀬が工事を続行する。定住希望の猫を収容するだけでは足りない。
世話する人間のための空間も必要なので当然のように大型化は必然だった
「持って来ました!」
大きな荷物が運ばれてくる。
猫の寝床にトイレ用のあれこれに猫じゃらし以下の各種アイテムが山盛りだ。
どうやら猫にも現状が分かったようで、期待の視線が完成度7割の猫小屋に向けられていた。
「ふふっ」
次回以降猫に構い倒すことを考え、綾瀬の顔に自然に笑みが浮かぶ。
ふにゃーっ!
比較的体格の良い猫が数匹、誰よりも速く気づいて逃げ出した。
「居着くつもりならこれを付けるのよ」
セリスは鈴と名札の付いた首輪を掲げて見せている。
「ブラシも初めてちょうだい。ノラがあちこちに居たら不衛生よ。……開拓担当と訓練教官は仕事に戻りなさい」
大人たちが肩を落として去って行く。
ちらちら振り返る様が非常に鬱陶しい。
「最近ネズミは見かけた?」
子供たちは素直にはいと答える。
「良かったわね仕事が出来て」
猫1匹1匹に視線をあわせてそう言うと、雄雌老幼を問わず全ての猫が腹を見せて降伏の意を示した。
「良い心がけね」
セリスはにこりと微笑む。
猫は大好きだが飼うなら話は別だ。
糞尿の処理や建物への害を防ぐためにも、最初に立場を分からせる必要が有る。
「1匹ずつきなさい」
首輪を1つつけるたびに、鈴の音が綺麗に響いた。
「猫の世話はグループ分けして当番制よ。飽きたら手を抜くなんて許さないからしっかりしなさい」
セリスが激励する。
子供たちは真剣な顔で勢いよくうなずいて、班分けのためのじゃんけんを始めるのだった。
●
エルバッハを乗せた馬がぱかぱか歩いている。
軽度歪虚汚染領域からの帰りだ。
実際に目で見て肌で感じてよく分かった。
あの場所をハンターだけで浄化するのは効率が悪い。
鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん、だ。
「エルフの旦那ー!」
百数十メートル先で開拓民が手を振っている。
手には鎌、近くには風もないのに揺れる草むら。
多分雑魔か何かが潜んでいるのだろう。
エルバッハは馬を駆けさせ短時間で近づき、猫がいるかもしれないのに良いのかと尋ねた。
男たちは言われて気づいて顔を青くする。
猫がいる可能性は低いとはいえ皆無ではない。しかし慎重に確かめると作業が遅れる。
ただでさえ猫の襲撃で遅れているので非常にまずい。
「どうすればっ」
男の腹が唐突に鳴った。
赤面する。そして学校の方向から流れてくる香りに気づく。
みゃーっ!
ユグディラが飛び出し10秒遅れで羊雑魔が現れ、草ごとファイアボールで吹き飛ばされた。
猫にしか見えない謎生物は校舎へ一直線に進む。
エルバッハはこの後も開拓者に同行して支援を行い、草刈り完了済み領域を大きく広げたそうだ。
「暫く見ないうちに凄い事になってるわね」
ルシェン・グライシス(ka5745)は学校の入り口を離れることができない。
資金に余裕が出来たことを知った校長が新宿舎の建設を許可。
街道を通じて大量の資材が荷馬車で運び込まれ、便乗して若手のクルセイダーや薬師も集まり出したのだ。
「お疲れ様。詳しい説明は休んだ後で……元気ね」
優しく微笑む。
15歳程度に見える少年は顔を赤くして、浮ついた足取りで割当てられた部屋へ向かう。
「熱心なのは良いことだけど」
甘い吐息だけで少年を翻弄する、本人に責のない罪作りな女性だ。
「最初は王国で一般的な医療を中心に学ぶことになるわ。復習するならその分野を頑張りなさい」
ふぁい、と本人が10年後思い出せば大赤面間違い無しの返事があった。
「これで5人目。基礎的な訓練は必要なさそうだけど」
非覚醒者も混じっているが皆最低限の体力は有り、医療の基礎知識も身につけている。
「年齢が違うのよね」
在校生の最年長は12、先程の少年は15、6。
人間関係が拗れないよう、注意をした方がいいかもしれない。
「待機中ならつきあわない?」
建物の中からリーラ・ウルズアイ(ka4343)がやって来る。
聞き手には大型のフライパン。
蓋と本体の微かな隙間から、強烈に食欲を刺激する香りが漂ってきていた。
「いいわね」
2人は大型建材に布を広げて机と椅子にする。
そして蓋をとる。
程よく塩気が抜けた魚の干物にチーズが絡んでいた。
つけあわせのツナとナッツも実によい感じだ。
「新しい宿舎もいいけど、今使ってる施設の保守も考えておかないとね」
リーラは小皿に取り分けながら現状を報告する。
丁寧に使われているとはいえ危険な場所にある戦闘訓練有りの学校校舎だ。見回ると深刻ではない要補修カ所がいくつも見つかった。
「料理の前に校長には報告したけど」
小型スプーンで掬ってぱくり。
猫が食べても大丈夫に味付けしてあるのでやや薄味だ。
が、適温のワインに素晴らしくあいそうだ。
「ここの校長先生は大規模な学校運営に向いていないみたいね
既に処理能力が限界に見える。
その推測は正しかった。補修に関する全てが次回以降参加するハンターに丸投げされることになる。
「仕事がまた増えるわね……あら」
ルシェンが屈んで猫に見える何かを抱き上げた。
『あれはわたちが食べるのにゃー』
リーラ謹製の豪華おつまみを凝視している。
『離すのにゃっ』
人間に通じない言葉でにゃーにゃー抗議するが口だけだ。
「首輪を受け入れないのに残っているなんて、悪い子ね」
複数種類の櫛を取り出し艶やかに微笑む。
片方の指先で猫をくすぐり脱力させて、櫛を使って毛と肌に絶妙かつ種類の異なる刺激を加えていく。
『あっ……あっあっ』
『ニャン子っ、今助ける……ごくり』
リーラが差し出した小皿に目が釘付けにだ。
ふらふらー、と寄ってきたところでスリープクラウドが発動。
既に意識のない1匹と同じように意識を失った。
2匹は時間をかけてもてなされた。
食と色々な快楽と同時に苦手意識を植え付けられ、首輪に馴染まない少数の猫と共に北に旅立つことになる。
「可愛いのは認めてあげる」
セリス・アルマーズ(ka1079)の声が響く。
猫は全身から力を抜いて完全服従の姿勢に移行。
教官も生徒も迫力にあてられて動きが止まっている。
「だからといって、サボりを許容するほど 私は甘くないわよ?」
張り付けたような笑顔が怖い。
人間たちの顔に冷や汗が浮かび、猫は白目を剥いて意識を失った。
大重量の甲冑を着て猫並の身軽さで歩くセリスを見ればそうもなる。
騎乗したロニ・カルディス(ka0551)が近づいて来る。
猫、教官、生徒、セリスからなる混沌を目視した上で無視をして、教官の前で馬を下り端的に用件を告げた。
「羊型歪虚の排除が滞っている。今から準備を行い可及的速やかに戦闘を仕掛けるように」
校長の署名入り許可書を教官に示し、ロニは自分たちだけで班分けから作戦立案および戦闘まで行うよう生徒たちに告げた。
右往左往が始まった。
武器防具を取りに行く者、偵察に行く者、戦闘に備えてトイレに向かう者。混乱するだけで何もできない生徒も数人いる。
今はこんな彼等だが普段はもっとずっとしっかりしている。今も時間の余裕があれば普段通りに動けたはずだ。
だからこそロニは今回の演習を企て校長も許可を出した。苛酷な状況でも普段通りに行動出来てようやく一人前なのだから。
「久しぶりに来たが、様変わりしたな」
ロニが子供に聞こえない音量でつぶやいた。
学校周辺から歪虚の気配は薄れ、わずかではあるが再開発が始まり、実用的な銃器や魔導トラックまで持ち込まれている。
ただし変わらないこともある。
「出発します!」
「装備の確認が足りない。やり直せ。最初からではない、必要なことのみを速やかにだ」
ロニが指摘と指導を行う。
指揮官役に納まった2年生を叱咤し演習の内容を微修正させる。
生徒たちは結局十数分かかってようやく現地への移動を開始した。
「つーわけで、魔導トラックの指揮はジョンに任せる。一応、現地にはいるが魔導トラックには同乗しないし、手も口も出すつもりもないからそのつもりで」
柊 真司(ka0705)が砕けた口調で指示すると、12歳児な助祭がうげっとうめいて情けない顔になる。
「無茶苦茶言いますね。俺いま来たばかりですよ」
運転席から飛び降り荷台に飛び上がる。
「俺達ハンターを除くと指揮系統の一番上はお前になるのかな? しっかりやってみせろ」
「分かってます!」
作業服のまま荷台から草を落としていく。
「在校生! 俺は2分以内に合流するから誰がトラックに乗り込むか決めておけ。指示出しで最低1人は寄越せよ」
指揮権を得た後現状把握に時間をかけるより、在校生の指揮下に入って時間を節約することを選択したようだ。
直前まで農作業に使われていたトラックが急発進する。
真司は魔導バイクを緩やかに加速させ、学校生徒の戦いを後ろから見守った。
戦場に到着する。
メェメェ五月蠅い。
飼われた羊より体格も劣り速度もないのに、生きとし生けるもの全てに向ける殺意は他の歪虚と変わらなかった。
アサルトライフルの銃口が揺れる。
長時間の実弾射撃訓練を何度も繰り返した生徒たちが、殺気に負けて新兵未満の逃げ腰になる。
『さぁ日頃の訓練の成果、見せて頂戴』
借り物のトランシーバーから白金 綾瀬(ka0774)の声が届いた。
「はいっ」
顔は緊張で強ばったまま。けれど銃口の揺れが消えていた。これまでまともに息が出来いほど緊張していたことにようやく気づく。
めぇっ。
羊型雑魔が横一列で走り出した。
「射撃開始。3発撃ったら距離をとれ。先輩は援護を!」
命令を受け最初に動いたのは魔導トラックだ。
高加速で斜め横へ前進し、急停止した上で機銃を敵の予想進路上に向ける。
めぇぇぇっ!
羊雑魔が最高速に到達する。
ハンターなら数匹まとめて食い止めることも可能だろうが、小柄で骨も肉もまだ薄い生徒たちでは厳しい。
弾丸の雨が2方向から羊を襲う。
命中率は好意的に見て八割、雑魔の回避能力は低くなく実質命中率は6割だ。
つまり4割が体液をまき散らして荒野に倒れた。
「根性見せなさい」
後ろからセリスの言葉が耳に届く。
重い足音が3人分駆け足の速度で近づき、アサルトライフル持ちの生徒たちを追い越した。
子供用板金鎧が3つ、生き残りの羊に真正面からぶつかった。
実質授業参観なセリスが天を仰いだ。
重装甲路線の子供は体力はついてもまだまだ視野が狭いようだ。重装甲で無傷だが回避も防御もろくにできていない。
指揮官が必死に指示を出してアサルトライフル持ちを移動させる。
敵との距離を最低限確保した生徒たちは、仲間に当てないよう慎重に狙って再度引き金を引いた。
羊型歪虚の体液が舞う。
獰猛に動く雑魔に板金鎧装備者が押され、極少数のライフル持ちに羊足が当たって苦痛の吐息が漏れた。
ロニは一息で駆けつけられる距離で戦場全体を把握し記録している。
生徒の判断、技術、体力の全てに改善すべき点がある。
これは戦闘後にみっちり教え込んでやる予定だ。
また、しっかり賞賛もしてやるつもりだ。現時点でも並の雑魔程度相手なら十分勝てる。さらに強い相手ならロニのディヴァインウィルがなければ2、3人死にそうだが。
「持って来たメモでは足りないな」
褒めることも諭すことも非常に多く、それがとても楽しい。
口元が緩みそうになるのを気合を入れて我慢して、ロニは生徒たちに気づかれないよう静かにヒーリングスフィアを使った。
●
「返せる範囲でお金を借りる、商人を領地開発に巻き込む、一定の安全を確保してから投資を求める。3つのうちどれが良いと思う?」
エルバッハ・リオン(ka2434)は単刀直入にイコニア・カーナボン(kz0040)にたずねた。
「個人的には1番目でお」
「後はソナさんにお願いします。私は開拓部門の援護に出ます」
エルバッハはイコニアに最後まで言わせず会議室の外へ出て行った。
今開拓を進めれば植え付け可能な冬小麦が増える。
借りるのも巻き込のも投資募集も楽になる。なので1秒でも時間が惜しい。
「とりあえず融資の件だな」
真司が咳払いをする。
「受けるか断るか、受けるにしても色々意見が出たんだが校長が良く分かってないみたいでな」
綺麗に整った議事録と金庫の中身の一覧表、そして要約すれば助けてとしか書いていない校長直筆の依頼票をイコニアへ差し出す。
「助かります」
現状把握ができていないよー、と少女司祭が内心頭を抱えているのが気配で分かった。
「読む時間をください」
ソナ(ka1352)に目礼する。
真司にも目礼しようとして、既に真司が資料室に向かったのに気づいた。
「入っちゃ駄目ですよ」
ソナが入り口で猫を押し止める。
「ここだけ時間の流れが速くなっていそうな状況ですね」
猫を袖にして戻るとイコニアが資料を読み終えていた。
「この前は融資の商人さんの調査をありがとうございました」
「こちらこそお礼を言わせてください」
ソナより深く頭を下げ、派閥幹部として感謝を口にした。
「転入希望者も多いですし、新課程の予定もあるので、諸々の件を含めてご相談したいのです」
ソナ自身は相談のつもりだったのにイコニアは別の意味で受け取った。
「では私の権限で集められる資金を集めておきます。
戻って来た真司から羊皮紙を受け取り書き始める
派閥幹部の筆跡を真似た各種許可証だ。事後承諾の当てがあっても法的には全て真っ黒である。
「こちらも生徒数増やすなら、新宿舎がほしいかなと思うので、建てるなら準備を急がないと受け入れに間に合わないですし」
ソナは流れに任せることにした。イコニアもうなずいて4枚目にとりかかる。
「融資の事も早めにお返事できるように……」
「交渉人を常駐させることができれば商人相手でも比較的安全に資金を引き出せるのですけど、人材が足りないのです」
人材候補に目を向ける。
12歳児なマティ助祭が、知恵熱を出してぐったりしていた。
「これで今年は大丈夫です」
融資や借り入れに関する書類が完成し、ソナと校長経由で関係各所に送られることになる。
この月、真っ黒司祭の言う通り低利の借金とそこそこの寄付金が集まった。
なお、これでイコニアの金銭的なコネは全滅である。
早めに手を打っておかないと資金不足で学校閉鎖という展開もあり得る。
●
「預かっていて」
綾瀬の声は苦渋に満ちていた。
小柄な猫が綾瀬の腕から肩に抜け出し、ジャンプ。
既に子猫で手一杯のイコニアの肩に着地しだらんとした。
「セリス」
「ええ」
妙齢の女性2人が建材に手を伸ばす。
頑丈な分非常に重い木材が、まるで軽さなどないかのように組み上げられていく。
建物が妙に大きい。予定より倍以上の体積がありそうだ。
「問題ないわ」
綾瀬が工事を続行する。定住希望の猫を収容するだけでは足りない。
世話する人間のための空間も必要なので当然のように大型化は必然だった
「持って来ました!」
大きな荷物が運ばれてくる。
猫の寝床にトイレ用のあれこれに猫じゃらし以下の各種アイテムが山盛りだ。
どうやら猫にも現状が分かったようで、期待の視線が完成度7割の猫小屋に向けられていた。
「ふふっ」
次回以降猫に構い倒すことを考え、綾瀬の顔に自然に笑みが浮かぶ。
ふにゃーっ!
比較的体格の良い猫が数匹、誰よりも速く気づいて逃げ出した。
「居着くつもりならこれを付けるのよ」
セリスは鈴と名札の付いた首輪を掲げて見せている。
「ブラシも初めてちょうだい。ノラがあちこちに居たら不衛生よ。……開拓担当と訓練教官は仕事に戻りなさい」
大人たちが肩を落として去って行く。
ちらちら振り返る様が非常に鬱陶しい。
「最近ネズミは見かけた?」
子供たちは素直にはいと答える。
「良かったわね仕事が出来て」
猫1匹1匹に視線をあわせてそう言うと、雄雌老幼を問わず全ての猫が腹を見せて降伏の意を示した。
「良い心がけね」
セリスはにこりと微笑む。
猫は大好きだが飼うなら話は別だ。
糞尿の処理や建物への害を防ぐためにも、最初に立場を分からせる必要が有る。
「1匹ずつきなさい」
首輪を1つつけるたびに、鈴の音が綺麗に響いた。
「猫の世話はグループ分けして当番制よ。飽きたら手を抜くなんて許さないからしっかりしなさい」
セリスが激励する。
子供たちは真剣な顔で勢いよくうなずいて、班分けのためのじゃんけんを始めるのだった。
●
エルバッハを乗せた馬がぱかぱか歩いている。
軽度歪虚汚染領域からの帰りだ。
実際に目で見て肌で感じてよく分かった。
あの場所をハンターだけで浄化するのは効率が悪い。
鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん、だ。
「エルフの旦那ー!」
百数十メートル先で開拓民が手を振っている。
手には鎌、近くには風もないのに揺れる草むら。
多分雑魔か何かが潜んでいるのだろう。
エルバッハは馬を駆けさせ短時間で近づき、猫がいるかもしれないのに良いのかと尋ねた。
男たちは言われて気づいて顔を青くする。
猫がいる可能性は低いとはいえ皆無ではない。しかし慎重に確かめると作業が遅れる。
ただでさえ猫の襲撃で遅れているので非常にまずい。
「どうすればっ」
男の腹が唐突に鳴った。
赤面する。そして学校の方向から流れてくる香りに気づく。
みゃーっ!
ユグディラが飛び出し10秒遅れで羊雑魔が現れ、草ごとファイアボールで吹き飛ばされた。
猫にしか見えない謎生物は校舎へ一直線に進む。
エルバッハはこの後も開拓者に同行して支援を行い、草刈り完了済み領域を大きく広げたそうだ。
「暫く見ないうちに凄い事になってるわね」
ルシェン・グライシス(ka5745)は学校の入り口を離れることができない。
資金に余裕が出来たことを知った校長が新宿舎の建設を許可。
街道を通じて大量の資材が荷馬車で運び込まれ、便乗して若手のクルセイダーや薬師も集まり出したのだ。
「お疲れ様。詳しい説明は休んだ後で……元気ね」
優しく微笑む。
15歳程度に見える少年は顔を赤くして、浮ついた足取りで割当てられた部屋へ向かう。
「熱心なのは良いことだけど」
甘い吐息だけで少年を翻弄する、本人に責のない罪作りな女性だ。
「最初は王国で一般的な医療を中心に学ぶことになるわ。復習するならその分野を頑張りなさい」
ふぁい、と本人が10年後思い出せば大赤面間違い無しの返事があった。
「これで5人目。基礎的な訓練は必要なさそうだけど」
非覚醒者も混じっているが皆最低限の体力は有り、医療の基礎知識も身につけている。
「年齢が違うのよね」
在校生の最年長は12、先程の少年は15、6。
人間関係が拗れないよう、注意をした方がいいかもしれない。
「待機中ならつきあわない?」
建物の中からリーラ・ウルズアイ(ka4343)がやって来る。
聞き手には大型のフライパン。
蓋と本体の微かな隙間から、強烈に食欲を刺激する香りが漂ってきていた。
「いいわね」
2人は大型建材に布を広げて机と椅子にする。
そして蓋をとる。
程よく塩気が抜けた魚の干物にチーズが絡んでいた。
つけあわせのツナとナッツも実によい感じだ。
「新しい宿舎もいいけど、今使ってる施設の保守も考えておかないとね」
リーラは小皿に取り分けながら現状を報告する。
丁寧に使われているとはいえ危険な場所にある戦闘訓練有りの学校校舎だ。見回ると深刻ではない要補修カ所がいくつも見つかった。
「料理の前に校長には報告したけど」
小型スプーンで掬ってぱくり。
猫が食べても大丈夫に味付けしてあるのでやや薄味だ。
が、適温のワインに素晴らしくあいそうだ。
「ここの校長先生は大規模な学校運営に向いていないみたいね
既に処理能力が限界に見える。
その推測は正しかった。補修に関する全てが次回以降参加するハンターに丸投げされることになる。
「仕事がまた増えるわね……あら」
ルシェンが屈んで猫に見える何かを抱き上げた。
『あれはわたちが食べるのにゃー』
リーラ謹製の豪華おつまみを凝視している。
『離すのにゃっ』
人間に通じない言葉でにゃーにゃー抗議するが口だけだ。
「首輪を受け入れないのに残っているなんて、悪い子ね」
複数種類の櫛を取り出し艶やかに微笑む。
片方の指先で猫をくすぐり脱力させて、櫛を使って毛と肌に絶妙かつ種類の異なる刺激を加えていく。
『あっ……あっあっ』
『ニャン子っ、今助ける……ごくり』
リーラが差し出した小皿に目が釘付けにだ。
ふらふらー、と寄ってきたところでスリープクラウドが発動。
既に意識のない1匹と同じように意識を失った。
2匹は時間をかけてもてなされた。
食と色々な快楽と同時に苦手意識を植え付けられ、首輪に馴染まない少数の猫と共に北に旅立つことになる。
依頼結果
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最終発言 2016/09/29 21:54:42 |
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最終発言 2016/09/27 12:45:44 |