ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】ブリと婆の神還しの儀
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/07 19:00
- 完成日
- 2016/10/15 13:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
うっすら鼠色の空に黒ずんだ海。今にも嵐が来そうな空の元、ブリジッタは人生初の海の散歩を終えて人魚の島の中へ足を踏み入れていた。
「大丈夫かしら?」
「な、なんとか、大丈夫……なのよっ」
銀の髪を持つ可愛らしい人魚――アラの背に掴まって辺りを見回す。
ここは暗黒界域にある人魚島の1つ。ドーナツ状の島の中央に居住区を携えるそこもまた、先日ブリジッタが発見した地下神殿に似た様相をしていた。
「まったくの無関係、って訳ではなさそうなのよ……」
呟くブリジッタに微笑みを返し、アラは海面を滑るように泳いで移動する。
「あの一番大きな建物がおばあさまの家よ」
居住区のほとんどは海に沈んでおり、彼女が家と言った建物もまた海に沈んでいる。その入り口を一瞬だけ潜って潜り抜けると、ブリジッタは驚いたように目を見開いた。
「『神還しの儀』よ」
天井と壁を使って描かれた不思議な絵。
満天の星空の元、複数の人魚が何かをするように空を見上げている。その中央には棺のようなものがあり遠くには荒れる海の絵も……。
「私たちの島では仲間が亡くなると神還しの儀を行うの。亡くなった人たちが真っ直ぐに神様の元へ行けますように……どうかまた神様の元から私たちの元へ戻ってきますように、って」
祈りを込めて島の人魚すべてで歌を歌い死者を弔う。それは海底神殿に『蒼黒の闇』が訪れる前から行われていたこと。
「蒼黒の闇が海底神殿に住み始めてから神還しの儀はよく行われているの。今日もその儀式をするのよ」
「……黒の魚人が倒されたからなのよ?」
「そうね。でもそれはあなたのせいではないわ。あなたは――ううん、あなたたちは黒の魚人の武器を集めてくれたもの。生前にも使っていたであろう大事な半身なのよ?」
柔らかく笑ってブリジッタを部屋の一角に上げ、アラは手近な箇所へ腰を下ろした。美しい緑の鱗の尾を上げて海面の上へ腰を下ろす彼女を見て思う。
「良い体してるのよ……」
「え?!」
慌てて胸の前で腕をクロスさせるアラにブリジッタは興味津々と目を向ける。そうして他愛のない会話を繰り広げること僅か、家の持ち主が返ってきた。
「ふぉふぉ、なんとも賑やかなこと」
穏やかな表情で姿を現したのは白髪の人魚と――
「お帰りなさい、おばあさま。そちらの方は?」
「お初にお目にかかるぞ。わらわはハンターズソサエティ代表にしてみんなの総長、ナディア・ドラゴネッティじゃ!」
ゴシックロリータのスカートの裾をつまんで頭を下げるのは、いま自己紹介した通りの人物ナディアだ。
彼女は驚いたように目を見開くブリジッタにウインクして続ける。
「報告の通り友好的な者たちじゃな。わらわが訪れても驚くどころか快く受け入れてくれるとはの」
人魚に話をつけてくる。そう言ってハンターズソサエティを飛び出したナディアには話を聞く目標があった。それはかねてよりマメに報告のあったブリジッタと関わっている人魚だ。
「他の者も人魚と接触はしておるが、おぬしらほど人類に友好的な人魚はおらぬ。よって話を聞きに来たのじゃが……すごい光景じゃな」
ブリジッタが足を踏み入れた時と同じように天井を見上げるナディア。彼女は壁画に描かれる人魚をなぞるように視線を巡らせると、ある地点で動きを止めた。
「……あれはなんじゃ?」
「蒼黒の闇ね」
「今は海底神殿にいるのよさ。てーか、ほんとーにソサエティ総長なのよ?」
「なんじゃ、疑っておるのかの?」
「ワカメからそれとなく聞いてはいたのよ。条件も確かに一致してるしなによりロリババアなのは間違いないのよさ……」
「ろり、ばばあ?」
なんじゃそれは。そう首を傾げるナディアにブリジッタは尚も呟く。
「最近身近に多いのよ。流石にかぶりすぎだと思ってるのよ」
「ふっ。かぶったとしてそれがなんじゃ! わらわは常に輝きを絶やさぬ超絶スター! つまりいくらかぶろうが問題ないのじゃっ!!」
「ふふ、面白い女の子ね♪」
「おおー、いくらでも褒めてよいぞ! とと、そうじゃった。のう、アラと申したか……おぬしらが蒼黒の闇と呼ぶその影。もしかするとわらわたちが倒そうとしておる輩かもしれぬぞ」
「なんと!」
声を上げたのは白髪の人魚サラハだ。
「陸のヒトが蒼黒の闇を葬ると……そう言いなさんだ?」
「うむ。わらわたちはこの影をグラン・アルキトゥスと呼んでおる。今はそのグラン・アルキトゥスの攻略法を探しておるところじゃな」
「まあ、目の付け所は悪くないのよ」
とはいえ、ここにあるのはあくまで伝承の類だ。ブリジッタも更なる情報を求めて島の中までやってきたが、壁画以外の情報はないと考えていいだろう。
「ごめんなさい。たぶん私たちの島に攻略方法と呼べるものがあるとは思えないわ。それに私たちはこれから神還しの儀をするから……お話はそのあとでも良いかしら?」
「神還しの儀?」
なんじゃそれは。再び首を傾げるナディアに、先ほどブリジッタへ為されたのと同じ説明が繰り広げられる。そしてすべての話を聞き終えると、ナディアは改めて壁画を見上げた。
「あたしはハンターたちと神還しの儀に参加するのよ。あたしたちの歓迎会もしてくれるって言うし、まあいい機会だと思うのよさ」
「ありがとう、ブリジッタ♪ あなたたちはわたしたちにとって命の恩人ですもの、いてくれると嬉しいわ。よければ総長さんもどうかしら?」
可愛らしく微笑むアラにナディアは「ふむ」と思案する。
(この壁画が神還しの儀のものであるのなら、グラン・アルキトゥスが描かれておるのは……)
チラリとブリジッタを見ると、彼女も同じことを思っていたのだろう。
小生意気に頷く姿にナディアの心が決まった。
「わらわも参加させてもらおうかの。神還しの儀に不足があればわしも手伝うでな。遠慮なく言ってくれて良いぞ!」
そう言うと、ナディアはどんっと小さな胸を叩いて笑った。
「大丈夫かしら?」
「な、なんとか、大丈夫……なのよっ」
銀の髪を持つ可愛らしい人魚――アラの背に掴まって辺りを見回す。
ここは暗黒界域にある人魚島の1つ。ドーナツ状の島の中央に居住区を携えるそこもまた、先日ブリジッタが発見した地下神殿に似た様相をしていた。
「まったくの無関係、って訳ではなさそうなのよ……」
呟くブリジッタに微笑みを返し、アラは海面を滑るように泳いで移動する。
「あの一番大きな建物がおばあさまの家よ」
居住区のほとんどは海に沈んでおり、彼女が家と言った建物もまた海に沈んでいる。その入り口を一瞬だけ潜って潜り抜けると、ブリジッタは驚いたように目を見開いた。
「『神還しの儀』よ」
天井と壁を使って描かれた不思議な絵。
満天の星空の元、複数の人魚が何かをするように空を見上げている。その中央には棺のようなものがあり遠くには荒れる海の絵も……。
「私たちの島では仲間が亡くなると神還しの儀を行うの。亡くなった人たちが真っ直ぐに神様の元へ行けますように……どうかまた神様の元から私たちの元へ戻ってきますように、って」
祈りを込めて島の人魚すべてで歌を歌い死者を弔う。それは海底神殿に『蒼黒の闇』が訪れる前から行われていたこと。
「蒼黒の闇が海底神殿に住み始めてから神還しの儀はよく行われているの。今日もその儀式をするのよ」
「……黒の魚人が倒されたからなのよ?」
「そうね。でもそれはあなたのせいではないわ。あなたは――ううん、あなたたちは黒の魚人の武器を集めてくれたもの。生前にも使っていたであろう大事な半身なのよ?」
柔らかく笑ってブリジッタを部屋の一角に上げ、アラは手近な箇所へ腰を下ろした。美しい緑の鱗の尾を上げて海面の上へ腰を下ろす彼女を見て思う。
「良い体してるのよ……」
「え?!」
慌てて胸の前で腕をクロスさせるアラにブリジッタは興味津々と目を向ける。そうして他愛のない会話を繰り広げること僅か、家の持ち主が返ってきた。
「ふぉふぉ、なんとも賑やかなこと」
穏やかな表情で姿を現したのは白髪の人魚と――
「お帰りなさい、おばあさま。そちらの方は?」
「お初にお目にかかるぞ。わらわはハンターズソサエティ代表にしてみんなの総長、ナディア・ドラゴネッティじゃ!」
ゴシックロリータのスカートの裾をつまんで頭を下げるのは、いま自己紹介した通りの人物ナディアだ。
彼女は驚いたように目を見開くブリジッタにウインクして続ける。
「報告の通り友好的な者たちじゃな。わらわが訪れても驚くどころか快く受け入れてくれるとはの」
人魚に話をつけてくる。そう言ってハンターズソサエティを飛び出したナディアには話を聞く目標があった。それはかねてよりマメに報告のあったブリジッタと関わっている人魚だ。
「他の者も人魚と接触はしておるが、おぬしらほど人類に友好的な人魚はおらぬ。よって話を聞きに来たのじゃが……すごい光景じゃな」
ブリジッタが足を踏み入れた時と同じように天井を見上げるナディア。彼女は壁画に描かれる人魚をなぞるように視線を巡らせると、ある地点で動きを止めた。
「……あれはなんじゃ?」
「蒼黒の闇ね」
「今は海底神殿にいるのよさ。てーか、ほんとーにソサエティ総長なのよ?」
「なんじゃ、疑っておるのかの?」
「ワカメからそれとなく聞いてはいたのよ。条件も確かに一致してるしなによりロリババアなのは間違いないのよさ……」
「ろり、ばばあ?」
なんじゃそれは。そう首を傾げるナディアにブリジッタは尚も呟く。
「最近身近に多いのよ。流石にかぶりすぎだと思ってるのよ」
「ふっ。かぶったとしてそれがなんじゃ! わらわは常に輝きを絶やさぬ超絶スター! つまりいくらかぶろうが問題ないのじゃっ!!」
「ふふ、面白い女の子ね♪」
「おおー、いくらでも褒めてよいぞ! とと、そうじゃった。のう、アラと申したか……おぬしらが蒼黒の闇と呼ぶその影。もしかするとわらわたちが倒そうとしておる輩かもしれぬぞ」
「なんと!」
声を上げたのは白髪の人魚サラハだ。
「陸のヒトが蒼黒の闇を葬ると……そう言いなさんだ?」
「うむ。わらわたちはこの影をグラン・アルキトゥスと呼んでおる。今はそのグラン・アルキトゥスの攻略法を探しておるところじゃな」
「まあ、目の付け所は悪くないのよ」
とはいえ、ここにあるのはあくまで伝承の類だ。ブリジッタも更なる情報を求めて島の中までやってきたが、壁画以外の情報はないと考えていいだろう。
「ごめんなさい。たぶん私たちの島に攻略方法と呼べるものがあるとは思えないわ。それに私たちはこれから神還しの儀をするから……お話はそのあとでも良いかしら?」
「神還しの儀?」
なんじゃそれは。再び首を傾げるナディアに、先ほどブリジッタへ為されたのと同じ説明が繰り広げられる。そしてすべての話を聞き終えると、ナディアは改めて壁画を見上げた。
「あたしはハンターたちと神還しの儀に参加するのよ。あたしたちの歓迎会もしてくれるって言うし、まあいい機会だと思うのよさ」
「ありがとう、ブリジッタ♪ あなたたちはわたしたちにとって命の恩人ですもの、いてくれると嬉しいわ。よければ総長さんもどうかしら?」
可愛らしく微笑むアラにナディアは「ふむ」と思案する。
(この壁画が神還しの儀のものであるのなら、グラン・アルキトゥスが描かれておるのは……)
チラリとブリジッタを見ると、彼女も同じことを思っていたのだろう。
小生意気に頷く姿にナディアの心が決まった。
「わらわも参加させてもらおうかの。神還しの儀に不足があればわしも手伝うでな。遠慮なく言ってくれて良いぞ!」
そう言うと、ナディアはどんっと小さな胸を叩いて笑った。
リプレイ本文
満天の星空と人魚、中央に描かれた棺。そして遠くに見える荒れた海と蒼黒の闇――
神還しの儀の姿を描いた壁画を前に、火椎 帝(ka5027)は感心したように目を細めて息を吐いた。
「実際に見ると大きいなぁ……」
決して華やかではない、寧ろ質素な印象を受ける絵だが何故か圧倒されてしまう。
それはきっと、壁画の大きさ故なのだろう。
壁画の前に立って首を巡らせなければ全容を確認できない。しかも何処か神秘的なそれは、儀式に対して神聖な意識を持たずにはいられない印象を与えてくる。
「こんなにも綺麗なのに本当にタブーがないのか? それこそ掟の1つや2つありそうだけどな」
零す声には感心と戸惑いが浮かんでいる。
それもその筈、彼らは到着して直ぐにサラハへこんな問いを投げかけていたのだ。
――儀式に参加するにあたって、何かタブーなどはあるだろうか。
問いを掛けたのはGacrux(ka2726)だ。
彼は仲間の中でもひと際、儀式に注意を払っているように思える。そんな彼の言葉に返されたのが、
「『死者を還すのに想いの違いはなかろう。タブーなどというものは無きに等しい』、か……そこからして意識が違うような気もするけど、亡くなった人を弔う気持ちは同じってことか?」
それならわからなくもない。そう首を傾げる帝の元に水音が響いてくる。
視線を向けると、儀式の手伝いに向かっていた瀬崎・統夜(ka5046)が泳いで戻ってくるのが見えた。
「儀式の棺が用意できた。運ぶのを手伝ってくれ」
「よし! ようやく男手が必要そうな仕事が回ってきたな!」
拳を作る帝に肩を竦め、統夜の目もなんとなしに壁画へ向かう。
そんな彼が興味を持ったのは中央の棺だ。歌う人魚たちに囲まれた棺の中には何が入っているのか。遺骸なのか、それとも遺品なのか……。
「答え、わかったのか?」
海に入りながら問いかける帝に統夜の首が動く。
「ああ。何も入っていない。入っているのは死者の魂らしい」
棺には本来、個人の遺骸を納めるらしい。だが今回はそれがない。だから中には死者の魂だけを入れて流すのだという。
「『また神様の元から私たちの元へ戻ってきますように』か……」
亡くなった者の魂は神還しの儀を行う事で天に還るのだという。もし天に還れない魂があればそれは不浄の気へと変わり、世界に混沌を招く。そしてその考えはサラハが知る限り彼女の一族に伝わるものなのだという。
「おーい、こっちだ! もう少し進むと足場があるからそこから登ってきてくれ!」
暫く泳ぎ進めると、倉庫のような建物が見えた。
その前では守原 有希遥(ka4729)が2人を手招くように手を振っている。そんな彼に泳ぎを早くして、2人は急ぎ彼の元へ向かう。
有希遥は神還しの儀式のタブーを聞いた後、積極的に儀式の手伝いを行っていた。その根底にあるのは礼節を守るという意識だ。
死者を冥府へ送る儀式が無事完了するのが第一と考える彼からすれば、礼節を守った上でこちらの言い分を聞いてもらうのが筋だと思っている。その気持ちはこの島へ足を踏み入れた者には同様にある訳だが。
「儀式に関して何か聞けたか? こっちは歌を止めないこと、ってのがあったけど」
そう零すのは帝だ。
濡れた髪をかき上げながら建物に上がった彼は、並ぶ棺を見て何とも言えない表情になる。
例え中に遺骸がなくとも死者の魂を入れることに変わりはないのだ。つまりこの棺は死者そのものということになる。
そんな存在に手を伸ばす彼に有希遥が答える。
「神還しの儀の絵に何故怨敵たる存在が描かれているのか。ってのは聞いたよ」
「その答えは?」
ほう? そう目を向ける統夜に有希遥の目が下がる。
「蒼黒の闇が多くの仲間を葬るようになったから、らしい」
「つまり書き足されたのは事実な訳か」
零す声に無言の頷きが返る。
蒼黒の闇が現れるようになる前から描かれていた壁画。そこに追加された忌むべき存在。やはり儀式とグラン・アルキトゥスは無関係ではないようだ。
3人は神妙な面持ちで棺を持ち上げると、儀式が行われると指定された場所へ移動を開始した。
●儀式を知るために
儀式は居住区の祭壇で行われる。
祭壇は住居の遺跡に囲まれる形で、表面上は何もない泉のように見える。しかし実際に潜ってみると違う。
「うわあ、お花がたくさん沈んでるね! こんなにたくさんのお花をどうやって探してくるの?」
天竜寺 詩(ka0396)にとって単純な疑問だった。
島自体は遺跡で出来ている上に、目立った多くの植物はない。辛うじて花が存在して良そうなのは居住区に入る時に潜ったドーム状の島だが、そこで花を摘むには陸へ上がる必要がある。
「ザウルたち魚人にお願いするのよ」
儀式用にヴェールを被ったアラが、傍でハンターたちの様子を監視していたザウルを見る。
その姿を見てふと以前から思っていたことを思い出した。
「そういえば、どうして女性は人魚で男性は魚人なのかな?」
「?」「?」
アラとザウルの目がきょとんと瞬かれる。それに詩も目を瞬くと別方面から答えが返ってきた。
「『どうして』ってのはないんじゃないか? 人魚は人魚、魚人は魚人。俺たちに性別があるように『そうだからそう』なんだと思うぞ」
苦笑とも微笑とも取れる笑みを浮かべて立っていたのは、改めて壁画を調査しに行っていた央崎 枢(ka5153)だ。
「俺が初めにした質問を覚えてるか?」
「確か『人魚たちは普段どうやって暮らしているんだ?』だっけ?」
頷く枢に詩は「なるほど」と目を瞬く。
神還しの儀でのタブーを聞いた時に一緒に聞いた言葉だ。
その時返ってきたのが「海で暮らしているわ」という言葉だった。つまりそういうことなのだ。
人が生まれた時から陸で暮らしているように、人魚たちは生まれた時から海で暮らしている。その生活に疑問は持っていないし、彼女たちからすれば特に変わった生活もしていない。
それは詩が掛けた問いにも言える。それこそ何故海で暮らしているの? そう聞いたのと同じことなのだ。
「そっか。だからお葬式もこうした儀式で行うんだね。でもやっぱり不思議だな」
儀式の準備を手伝ってきて思うのは自分たちが行う葬儀との違いだ。
海に沈められた花々。沈んだ遺跡に祀られた複数の上半身だけの石像。そして石像同様に集まった複数の人魚たち。
「魚人は儀式の対象からは外れるんでしょうか」
そう疑問を提示したのは、ナディアと共に少し離れた位置で魔導カメラを構えていたGacruxだ。
「外れる、というのとは少し違うわ。でも歌を歌うのは人魚の仕事よ。魚人は儀式の間人魚を守るお役目があるわ。今回はハンターさんたちもそのお役目ね♪」
「歌姫を守るナイトという訳じゃな!」
うむ! そう腕を組むナディアは、祭壇を臨める段差に腰を下ろして足を揺らしている最中だ。
先ほどまで他の面々同様に壁画の調査を行っていたが、儀式が始まるというのでGacruxに同行してもらいこの場へ到着していた。
「人魚の歌声は見事なものだと聞いておるでな、実はそれだけでも楽しみにしておるんじゃ。お主はどうじゃ?」
「俺、ですか? 俺は……そうですね。聞いた事がない以上興味はあります。先程見た壁画にも興味を惹かれました」
儀式を窺うように描かれた蒼黒の闇。まるで死者を狙うような位置の絵に疑問を持たないはずはない。
「もしかしたらあの絵の下に本来別の絵が描かれていた可能性もあるのではないか。そう思う程には」
でもその可能性はない。
実際に絵を削れないか交渉して却下された際、サラハに疑問をぶつけたのだ。その時に彼女はハッキリと否定した。
そしてその否定が確かなものであることをGacruxの目も確認している。
「波の上に書き足した事を隠す気がない時点で秘密があるとは思えない。それに書き足した事も重要ですが、書き足された位置も重要だと俺は思っています」
「そうじゃな。儀式と蒼黒の闇の間に描かれた波は巨大じゃった。まるで波が双方を分断する役割を担っていると思う程にの」
そこまで言ってニンマリ笑ったナディアにGacruxの眉が寄る。そして、
「……先日、兄君の神官殿にお会いしましたよ。好感が持てる方でした。下界の汚れを知らぬと申しますか……数百年も生きる者……エルフとも違う存在。あなた方は人間なのですか? 何故、龍の巫女に選ばれたのですか?」
別れるまでには聞こうと思っていたこと。そのタイミングが今であると判断して問いかける。
「何故とは不思議なことを聞くのう。わらわが巫女に選ばれたのは偶然じゃ」
「偶然?」
「うむ、偶然じゃ。多くの巫女たちの中で偶然にもわらわの力が他の者よりも秀でていた。それだけの事じゃな。我らに他の生き方はなかったし、理由を考えたこともない。それはアズラエルも同じじゃろう。つまりは詩の質問と同じじゃ」
それだけの……。そんな理由で。
目と耳で押さえる限りナディアが嘘を言っているようには見えない。だとするなら本当に実力が故の結果だったのだろうか。
そう思考を動かしたところで賑やかな声が響いてきた。
「だーかーらー、大丈夫だって言ってるのよさ!」
「いや、何かあってからじゃ遅いんだって! 会話1つが相手の逆鱗に触れる危険もある訳だし、異文化交流は油断禁物! 俺は護衛……いや、性格的にトラブルに巻き込まれそうだなーとか、そんなこと思ってなッ?!」
ドゴッ、と小気味いい音が響いた。その理由はレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)の腹に叩き込まれた拳だ。
覚醒者ではないブリジッタの拳なのでそこまで強力ではないのだが、失言を理解したレオーネは先の言葉を飲み込む他ない。それでもフォローせずにいられないのは乙女心ならぬ男心だろうか。
「ほ、ほら、目的は同じ魔導アーマー開発者、だし?」
「今は魔導アーマーは関係ないのよさ」
「関係なくはないだろ。だってナディアが魔導アーマー研究のためって言ってたんだろ? だから」
なるほど。と腕を組んだブリジッタにホッと息を吐く。どうやら話を聞いてくれる気になったらしい。
「ナディアはブリを動かすためのハッパだって言ってたけど、儀式を見ることでインスピレーションが生まれることがあるかもしれないとも言ってたんだ。それは俺にだって言えることだと思うし、一緒にいればその可能性は高くなるかもしれない!」
「一緒にいていんすぴれーしょんが高まるかどうかは別問題なのよ。でもまあ、仕方ないから一緒に儀式を見るのよさ」
言って儀式が見易そうな建物に上り始めるブリジッタを下から見守るレオーネ。そんな2人の姿を微笑ましく見つめていたアラに沙織(ka5977)が声をかけてきた。
「儀式で歌う歌を私にも教えてもらってよろしいでしょうか?」
壁画が1枚絵かどうか。他にも同様の絵がないか。それらの確認を準備の合間に確認していた沙織は、兼ねてより思っていたことを願い出た。
CAMを動かすこと以外は、CAMの構造説明とか整備の仕方位しかとりえがない。そう思っている彼女が出来る精一杯の気持ちの示し方。
そんな彼女に微笑みかけ、それでもアラは首を横に振った。
「ありがとう! でもこの歌は人魚にしか歌えないの。あななたちの不思議な力と同じね!」
「私たちの力と同じ……」
この言葉は傍を離れていたGacruxたちにも届いていた。そして儀式の準備も終盤に差し掛かろうとした時、帝と有希遥、統夜たちが棺を持って合流してくる。
彼らは丁寧な仕草で棺を手渡すと各々の思う場所で儀式を静観する事にした。
●神還しの儀
泉に沈められた棺とそれを囲む人魚たち。
祈りを込めて紡ぎだすのは言葉を持たない不思議な歌だった。
「これが人魚の歌……これは想定外だな」
枢は人魚の歌の歌詞に何か意味が込められていると思っていた。しかし聞こえてきたのは意味の分からない音だ。
「どの音を拾っても言葉にならない。となると俺の読みも外れたか……」
当初彼は竜の巣の遺跡で見た壁画を元に考えていた。この地にある壁画にも何かメッセージがあると。
しかし目の前で歌われている歌は未だ何の変化も見せない。場合によってはグラン・アルキトゥスは別世界からの存在として認識されており、その存在を元の世界に還す意味もあるのだと推測していた。
「……最悪、海底神殿にゲートがあって儀式がゲートの力を強める、ってのは期待してたんだが……」
期待外れも甚だしい。そう結論付けようとした時だ。
「島の外に高度のマテリアル反応がある!」
「まさか――」
Gacruxの声でハンターたちが儀式を邪魔しないように急いで移動する。そうして儀式が終わり切る前に外海を臨める場所へ立った彼らが目にしたものは、
「きれい……」
「これが儀式の効果なのか……」
「総長、これは」
詩の感想から始まり、帝の声、そしてGacruxの声が届く。
それを耳にしたナディアは確かな手応えを得たらしく、深く神妙に頷くと密かに拳を握り締めた。
「これじゃ。これこそが対グラン・アルキトゥスへの秘策じゃ」
彼らの眼前に広がるのは波1つ立たない海だ。
泡のような光の粒を纏った海は強力なマテリアルの力で海の動きを引き留めているようだった。
それはまるで海の動きだけが静止したような景色。
「そうか、これが壁画の波……蒼黒の闇が放った波を押し留める力を持った歌。蒼黒の闇が波の外にいたのは、儀式の間は近付くことが出来なかったからなのか」
グラン・アルキトゥスは潮の流れを操作する力を持つ。そのせいで先日の戦いではまともに近づくこともできなかった。
元々有希遥は、今回の儀式を何かの波を超えて押し返すものだと想像していた。きっと考え過ぎの勘違いで終わると思っていたが、大凡の考えはあっていたようだ。
そんな彼に頷きながらナディアは未だ儀式が行われている島の中央を振り返る。
「お主たちに重ねてお願いじゃ。この後の宴会で人魚と魚人の心をつかむんじゃ。グラン・アルキトゥス討伐には彼らの力が必要じゃからの」
そう言葉を零した彼女に全員の足が再び島の中央へと向いた。
儀式が終了した後、波は再び元の形を取り戻した。
グラン・アルキトゥスが発生させる荒波が止まるのは、儀式の歌を歌っている間だけ。そして歌は人魚しか歌うことが出来ない。
その確証を宴会の最中に魚人のザウルから聞いた統夜は、酒の余韻が残るその中でナディアに報告していた。
「力を貸してもらうしかないのぅ。グラン・アルキトゥスを倒す為に……彼女らの聖域を取り戻す為に」
神還しの儀の姿を描いた壁画を前に、火椎 帝(ka5027)は感心したように目を細めて息を吐いた。
「実際に見ると大きいなぁ……」
決して華やかではない、寧ろ質素な印象を受ける絵だが何故か圧倒されてしまう。
それはきっと、壁画の大きさ故なのだろう。
壁画の前に立って首を巡らせなければ全容を確認できない。しかも何処か神秘的なそれは、儀式に対して神聖な意識を持たずにはいられない印象を与えてくる。
「こんなにも綺麗なのに本当にタブーがないのか? それこそ掟の1つや2つありそうだけどな」
零す声には感心と戸惑いが浮かんでいる。
それもその筈、彼らは到着して直ぐにサラハへこんな問いを投げかけていたのだ。
――儀式に参加するにあたって、何かタブーなどはあるだろうか。
問いを掛けたのはGacrux(ka2726)だ。
彼は仲間の中でもひと際、儀式に注意を払っているように思える。そんな彼の言葉に返されたのが、
「『死者を還すのに想いの違いはなかろう。タブーなどというものは無きに等しい』、か……そこからして意識が違うような気もするけど、亡くなった人を弔う気持ちは同じってことか?」
それならわからなくもない。そう首を傾げる帝の元に水音が響いてくる。
視線を向けると、儀式の手伝いに向かっていた瀬崎・統夜(ka5046)が泳いで戻ってくるのが見えた。
「儀式の棺が用意できた。運ぶのを手伝ってくれ」
「よし! ようやく男手が必要そうな仕事が回ってきたな!」
拳を作る帝に肩を竦め、統夜の目もなんとなしに壁画へ向かう。
そんな彼が興味を持ったのは中央の棺だ。歌う人魚たちに囲まれた棺の中には何が入っているのか。遺骸なのか、それとも遺品なのか……。
「答え、わかったのか?」
海に入りながら問いかける帝に統夜の首が動く。
「ああ。何も入っていない。入っているのは死者の魂らしい」
棺には本来、個人の遺骸を納めるらしい。だが今回はそれがない。だから中には死者の魂だけを入れて流すのだという。
「『また神様の元から私たちの元へ戻ってきますように』か……」
亡くなった者の魂は神還しの儀を行う事で天に還るのだという。もし天に還れない魂があればそれは不浄の気へと変わり、世界に混沌を招く。そしてその考えはサラハが知る限り彼女の一族に伝わるものなのだという。
「おーい、こっちだ! もう少し進むと足場があるからそこから登ってきてくれ!」
暫く泳ぎ進めると、倉庫のような建物が見えた。
その前では守原 有希遥(ka4729)が2人を手招くように手を振っている。そんな彼に泳ぎを早くして、2人は急ぎ彼の元へ向かう。
有希遥は神還しの儀式のタブーを聞いた後、積極的に儀式の手伝いを行っていた。その根底にあるのは礼節を守るという意識だ。
死者を冥府へ送る儀式が無事完了するのが第一と考える彼からすれば、礼節を守った上でこちらの言い分を聞いてもらうのが筋だと思っている。その気持ちはこの島へ足を踏み入れた者には同様にある訳だが。
「儀式に関して何か聞けたか? こっちは歌を止めないこと、ってのがあったけど」
そう零すのは帝だ。
濡れた髪をかき上げながら建物に上がった彼は、並ぶ棺を見て何とも言えない表情になる。
例え中に遺骸がなくとも死者の魂を入れることに変わりはないのだ。つまりこの棺は死者そのものということになる。
そんな存在に手を伸ばす彼に有希遥が答える。
「神還しの儀の絵に何故怨敵たる存在が描かれているのか。ってのは聞いたよ」
「その答えは?」
ほう? そう目を向ける統夜に有希遥の目が下がる。
「蒼黒の闇が多くの仲間を葬るようになったから、らしい」
「つまり書き足されたのは事実な訳か」
零す声に無言の頷きが返る。
蒼黒の闇が現れるようになる前から描かれていた壁画。そこに追加された忌むべき存在。やはり儀式とグラン・アルキトゥスは無関係ではないようだ。
3人は神妙な面持ちで棺を持ち上げると、儀式が行われると指定された場所へ移動を開始した。
●儀式を知るために
儀式は居住区の祭壇で行われる。
祭壇は住居の遺跡に囲まれる形で、表面上は何もない泉のように見える。しかし実際に潜ってみると違う。
「うわあ、お花がたくさん沈んでるね! こんなにたくさんのお花をどうやって探してくるの?」
天竜寺 詩(ka0396)にとって単純な疑問だった。
島自体は遺跡で出来ている上に、目立った多くの植物はない。辛うじて花が存在して良そうなのは居住区に入る時に潜ったドーム状の島だが、そこで花を摘むには陸へ上がる必要がある。
「ザウルたち魚人にお願いするのよ」
儀式用にヴェールを被ったアラが、傍でハンターたちの様子を監視していたザウルを見る。
その姿を見てふと以前から思っていたことを思い出した。
「そういえば、どうして女性は人魚で男性は魚人なのかな?」
「?」「?」
アラとザウルの目がきょとんと瞬かれる。それに詩も目を瞬くと別方面から答えが返ってきた。
「『どうして』ってのはないんじゃないか? 人魚は人魚、魚人は魚人。俺たちに性別があるように『そうだからそう』なんだと思うぞ」
苦笑とも微笑とも取れる笑みを浮かべて立っていたのは、改めて壁画を調査しに行っていた央崎 枢(ka5153)だ。
「俺が初めにした質問を覚えてるか?」
「確か『人魚たちは普段どうやって暮らしているんだ?』だっけ?」
頷く枢に詩は「なるほど」と目を瞬く。
神還しの儀でのタブーを聞いた時に一緒に聞いた言葉だ。
その時返ってきたのが「海で暮らしているわ」という言葉だった。つまりそういうことなのだ。
人が生まれた時から陸で暮らしているように、人魚たちは生まれた時から海で暮らしている。その生活に疑問は持っていないし、彼女たちからすれば特に変わった生活もしていない。
それは詩が掛けた問いにも言える。それこそ何故海で暮らしているの? そう聞いたのと同じことなのだ。
「そっか。だからお葬式もこうした儀式で行うんだね。でもやっぱり不思議だな」
儀式の準備を手伝ってきて思うのは自分たちが行う葬儀との違いだ。
海に沈められた花々。沈んだ遺跡に祀られた複数の上半身だけの石像。そして石像同様に集まった複数の人魚たち。
「魚人は儀式の対象からは外れるんでしょうか」
そう疑問を提示したのは、ナディアと共に少し離れた位置で魔導カメラを構えていたGacruxだ。
「外れる、というのとは少し違うわ。でも歌を歌うのは人魚の仕事よ。魚人は儀式の間人魚を守るお役目があるわ。今回はハンターさんたちもそのお役目ね♪」
「歌姫を守るナイトという訳じゃな!」
うむ! そう腕を組むナディアは、祭壇を臨める段差に腰を下ろして足を揺らしている最中だ。
先ほどまで他の面々同様に壁画の調査を行っていたが、儀式が始まるというのでGacruxに同行してもらいこの場へ到着していた。
「人魚の歌声は見事なものだと聞いておるでな、実はそれだけでも楽しみにしておるんじゃ。お主はどうじゃ?」
「俺、ですか? 俺は……そうですね。聞いた事がない以上興味はあります。先程見た壁画にも興味を惹かれました」
儀式を窺うように描かれた蒼黒の闇。まるで死者を狙うような位置の絵に疑問を持たないはずはない。
「もしかしたらあの絵の下に本来別の絵が描かれていた可能性もあるのではないか。そう思う程には」
でもその可能性はない。
実際に絵を削れないか交渉して却下された際、サラハに疑問をぶつけたのだ。その時に彼女はハッキリと否定した。
そしてその否定が確かなものであることをGacruxの目も確認している。
「波の上に書き足した事を隠す気がない時点で秘密があるとは思えない。それに書き足した事も重要ですが、書き足された位置も重要だと俺は思っています」
「そうじゃな。儀式と蒼黒の闇の間に描かれた波は巨大じゃった。まるで波が双方を分断する役割を担っていると思う程にの」
そこまで言ってニンマリ笑ったナディアにGacruxの眉が寄る。そして、
「……先日、兄君の神官殿にお会いしましたよ。好感が持てる方でした。下界の汚れを知らぬと申しますか……数百年も生きる者……エルフとも違う存在。あなた方は人間なのですか? 何故、龍の巫女に選ばれたのですか?」
別れるまでには聞こうと思っていたこと。そのタイミングが今であると判断して問いかける。
「何故とは不思議なことを聞くのう。わらわが巫女に選ばれたのは偶然じゃ」
「偶然?」
「うむ、偶然じゃ。多くの巫女たちの中で偶然にもわらわの力が他の者よりも秀でていた。それだけの事じゃな。我らに他の生き方はなかったし、理由を考えたこともない。それはアズラエルも同じじゃろう。つまりは詩の質問と同じじゃ」
それだけの……。そんな理由で。
目と耳で押さえる限りナディアが嘘を言っているようには見えない。だとするなら本当に実力が故の結果だったのだろうか。
そう思考を動かしたところで賑やかな声が響いてきた。
「だーかーらー、大丈夫だって言ってるのよさ!」
「いや、何かあってからじゃ遅いんだって! 会話1つが相手の逆鱗に触れる危険もある訳だし、異文化交流は油断禁物! 俺は護衛……いや、性格的にトラブルに巻き込まれそうだなーとか、そんなこと思ってなッ?!」
ドゴッ、と小気味いい音が響いた。その理由はレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)の腹に叩き込まれた拳だ。
覚醒者ではないブリジッタの拳なのでそこまで強力ではないのだが、失言を理解したレオーネは先の言葉を飲み込む他ない。それでもフォローせずにいられないのは乙女心ならぬ男心だろうか。
「ほ、ほら、目的は同じ魔導アーマー開発者、だし?」
「今は魔導アーマーは関係ないのよさ」
「関係なくはないだろ。だってナディアが魔導アーマー研究のためって言ってたんだろ? だから」
なるほど。と腕を組んだブリジッタにホッと息を吐く。どうやら話を聞いてくれる気になったらしい。
「ナディアはブリを動かすためのハッパだって言ってたけど、儀式を見ることでインスピレーションが生まれることがあるかもしれないとも言ってたんだ。それは俺にだって言えることだと思うし、一緒にいればその可能性は高くなるかもしれない!」
「一緒にいていんすぴれーしょんが高まるかどうかは別問題なのよ。でもまあ、仕方ないから一緒に儀式を見るのよさ」
言って儀式が見易そうな建物に上り始めるブリジッタを下から見守るレオーネ。そんな2人の姿を微笑ましく見つめていたアラに沙織(ka5977)が声をかけてきた。
「儀式で歌う歌を私にも教えてもらってよろしいでしょうか?」
壁画が1枚絵かどうか。他にも同様の絵がないか。それらの確認を準備の合間に確認していた沙織は、兼ねてより思っていたことを願い出た。
CAMを動かすこと以外は、CAMの構造説明とか整備の仕方位しかとりえがない。そう思っている彼女が出来る精一杯の気持ちの示し方。
そんな彼女に微笑みかけ、それでもアラは首を横に振った。
「ありがとう! でもこの歌は人魚にしか歌えないの。あななたちの不思議な力と同じね!」
「私たちの力と同じ……」
この言葉は傍を離れていたGacruxたちにも届いていた。そして儀式の準備も終盤に差し掛かろうとした時、帝と有希遥、統夜たちが棺を持って合流してくる。
彼らは丁寧な仕草で棺を手渡すと各々の思う場所で儀式を静観する事にした。
●神還しの儀
泉に沈められた棺とそれを囲む人魚たち。
祈りを込めて紡ぎだすのは言葉を持たない不思議な歌だった。
「これが人魚の歌……これは想定外だな」
枢は人魚の歌の歌詞に何か意味が込められていると思っていた。しかし聞こえてきたのは意味の分からない音だ。
「どの音を拾っても言葉にならない。となると俺の読みも外れたか……」
当初彼は竜の巣の遺跡で見た壁画を元に考えていた。この地にある壁画にも何かメッセージがあると。
しかし目の前で歌われている歌は未だ何の変化も見せない。場合によってはグラン・アルキトゥスは別世界からの存在として認識されており、その存在を元の世界に還す意味もあるのだと推測していた。
「……最悪、海底神殿にゲートがあって儀式がゲートの力を強める、ってのは期待してたんだが……」
期待外れも甚だしい。そう結論付けようとした時だ。
「島の外に高度のマテリアル反応がある!」
「まさか――」
Gacruxの声でハンターたちが儀式を邪魔しないように急いで移動する。そうして儀式が終わり切る前に外海を臨める場所へ立った彼らが目にしたものは、
「きれい……」
「これが儀式の効果なのか……」
「総長、これは」
詩の感想から始まり、帝の声、そしてGacruxの声が届く。
それを耳にしたナディアは確かな手応えを得たらしく、深く神妙に頷くと密かに拳を握り締めた。
「これじゃ。これこそが対グラン・アルキトゥスへの秘策じゃ」
彼らの眼前に広がるのは波1つ立たない海だ。
泡のような光の粒を纏った海は強力なマテリアルの力で海の動きを引き留めているようだった。
それはまるで海の動きだけが静止したような景色。
「そうか、これが壁画の波……蒼黒の闇が放った波を押し留める力を持った歌。蒼黒の闇が波の外にいたのは、儀式の間は近付くことが出来なかったからなのか」
グラン・アルキトゥスは潮の流れを操作する力を持つ。そのせいで先日の戦いではまともに近づくこともできなかった。
元々有希遥は、今回の儀式を何かの波を超えて押し返すものだと想像していた。きっと考え過ぎの勘違いで終わると思っていたが、大凡の考えはあっていたようだ。
そんな彼に頷きながらナディアは未だ儀式が行われている島の中央を振り返る。
「お主たちに重ねてお願いじゃ。この後の宴会で人魚と魚人の心をつかむんじゃ。グラン・アルキトゥス討伐には彼らの力が必要じゃからの」
そう言葉を零した彼女に全員の足が再び島の中央へと向いた。
儀式が終了した後、波は再び元の形を取り戻した。
グラン・アルキトゥスが発生させる荒波が止まるのは、儀式の歌を歌っている間だけ。そして歌は人魚しか歌うことが出来ない。
その確証を宴会の最中に魚人のザウルから聞いた統夜は、酒の余韻が残るその中でナディアに報告していた。
「力を貸してもらうしかないのぅ。グラン・アルキトゥスを倒す為に……彼女らの聖域を取り戻す為に」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/06 00:54:19 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/10/07 13:27:40 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/10/07 14:08:36 |