狙撃手に狙われた町

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/13 15:00
完成日
2016/10/20 19:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境の山間の町フーディンではフルディン族の新族長就任式がしめやかに行われていた。
「汝を次代族長と成す」
 前族長のヴィブが厳かに告げ、長男のフルディンの頭に儀礼冠を被せた。
「おめでとう兄上!」
「おめでとう兄様!」
 次男のヴィオル、長女のスズリ、そして多くのフルディン族が祝の言葉と共に拍手を送った。
(遂に僕が族長に……)
 フェグルの胸に深い感慨が沸き起こる。
 幼い頃から病弱で身体が弱く、族長になる事は無理だろうと諦めた事もあった。
 それでも一族の者として務めを果たせるよう出来る限りの努力は欠かしてこなかった。
 それらは無駄ではなかった。
 それらが報われ、活かす時が来たのだ。
 ヴィブの前に跪いていた身を起こし、一族の方を向く。
 皆が新族長の言葉を待っていた。
「僕は……ごふっ」
 変な咳が出た。
 何かが喉の奥から込み上げてくる。
 耐えきれずに吐き出たそれは手を真っ赤に染めた。
 血だ。
「ごほっ!」
 再び咳が出た。
 更に血が溢れる。
(これは……)
 フェグルには見慣れたものだが、これほど大量に吐いたことは今までない。
「兄様!」
「フェグル!」
「兄上ー!」
(何故、こんなタイミングで……)
 会場が騒然となる中、フェグルの意識は急速に遠のいていったのだった。
 
 倒れたフェグルはすぐ病院に運ばれた。
 診察の結果、病が急速に悪化している事が判明する。
 持って3年。
 早くて半年。
 それがフェグルに告げられた余命だった。
「3年から半年……たったそれだけなのか」
 ヴィブは息子の余命の短さに愕然とした。
「兄上が……死ぬ?」
「嘘よ! 兄様が死んでしまうなんて……そんなの嘘ぉー!!」
 弟のヴィオルは呆然となり、妹のスズリは泣き崩れた。

 翌日、ヴィブはヴィオルとスズリ、そして部族の有力者を集めた。
 もちろん次期族長をフェグルに任せるかどうか話し合うためだ。
 だが話し合う前から今のフェグルに族長が務まらないのは誰の目にも明らかである。
「ヴィオル、お前が次期族長だ。よいな」
 だからヴィブがそう告げても誰も異を唱えなかった。
 唱えられなかったというのが正しいだろう。
「……はい」
 ヴィオルは胸の内で複雑な思いを抱きながらも受けた。
 受けるしかなかった。



 そんな騒動のあったフールディンの町から東に5km程離れた場所にも鉱山の町『デル』がある。
 デルはフルディン族が難民部族が暮らすために作った町だ。
 辺境では少数部族が町や土地を歪虚に奪われる事が往々にしてあった。
 フルディン族はそんな少数部族のためにデルの町を作って受け入れた。
 そして住む場所を与える代わりに労働力を要求したのである
 フルディン族は労働力を得られ、難民は住処と働き口と賃金を得られる。
 両者はそうして良好な関係を築き、問題なく暮らしていた。

 しかしデルの町で最近、人が無差別に殺される事件が起きていた。
 町を歩いている女性。
 鉱山で働いている男性。
 井戸で水を汲んでいる老婆。
 追いかけっこをしている男の子。
 場所、年齢、性別は様々であったが、どこからともかく狙撃され、殺されたのだ。
 町は恐怖に包まれ、町長はすぐに自警団の団長の『葛葉次郎』に対処を命じた。
 次郎は44歳の元ハンターだ。
 リアルブルーからの転移者で、転移直後に歪虚に襲われ、訳の分からぬまま戦い、傷つき、死にそうになっていたところをアリサという女性に救われる。
 それからはハンターとして暮らし、後に命の恩人であるアリサと結婚。
 子供は残念ながらできなかったが、妻を溺愛している次郎は幸せだった。
 そして余生を過ごせる程の蓄えが出来たのでハンターを引退し、妻と静かに暮らしていた。
 だが、ハンターの頃からの旧友であるフルディン族の族長ヴィブから、ぜひ団長にと請われ、妻と共に転居。
 この町を作る際には周辺に生息していたゴブリンや歪虚をほぼ1人で退治しており、今でもハンターとしての力は衰えていない古強者である。
 そのため住人の皆に頼りにされており、今回も次郎が何とかしてくれると期待されていた。

 次郎は団員を山の各所に配備した。
 これで犯行自体が行われなくなる事も期待したが、狙撃は行われた。
 次郎は弾丸を撃たれた角度から相手の位置を割り出し、急行した。
 だがこの町は作られて間もなく、町の周囲の開拓はあまり進んでいないため木が生い茂って深い森になっている。
 どうしても現場に着くには時間が掛かってしまう。
 そして到着した現場にあったのは、返り討ちにあって惨殺された団員の死体だった。
 団員の傷跡から犯人はかなりの剣の腕前の持ち主だろうと推測できた。
 少なくとも非覚醒者では相手にならないだろう。
 これでは団員に山を見張らせても犠牲者が増えるだけだ。

 自警団員まで殺されたと知れると、住民達は家から出る事を恐れ、街中には人気が絶えた。
 鉱山に足を運ぶだけでも命懸けとなり、鉱夫の足も鉱山から遠のき、鉱物性マテリアルの発掘も滞り始める。
 事態を憂慮した町長は、犯行が主に昼間だけだった事を理由に鉱山の作業は夜に行う事とした。
 だがそうすると今度は夜道に鉱山に向かう途中、明かりを狙って撃たれ、また死者が出た。
 そうなるともう働く鉱夫はいなくなり、鉱山は完全に止まった。

「情けない! 古強者と煽てられておきながらこの様だ……」
 次郎は自宅で自らの力のなさを嘆いていた。
「ジロー、1人で悩まないで、あなたはよくやってるわ」
 妻のアリサが次郎の肩にそっと手を添え、次郎も自分の手を重ねる。
 手から妻の気遣いと優しさが伝わり、心が少し落ち着いた。
「犯人は町の人間を数人殺しただけで鉱山の機能を完全に止めた。おそらくこれが狙いだろう」
「でも、鉱山を止めてどうするつもりなのかしら?」
「どこか別の採掘場業者の仕業か。もしくは……歪虚か」
「歪虚!?」
「可能性がない訳じゃない。とにかく相手が何者だろうと排除する事に変わりはない」
「どうするつもりなの?」
「ハンターの手も借りるしかないな。ハンターオフィスに行ってくるよ」
「そうね」
「……すまない」
 次郎は不意に沈痛な面持ちで妻に詫びた。
「何を謝ってるの?」
「自分がこの町に来る事を承諾したため、君をこんな血生臭い事に巻き込んでしまった。やはりあのまま静かに暮らしていればよかった」
「何言ってるの。私この町気に入ってるわよ。住人はみんな良い人だし。食べ物は美味しいし。だからあなたは自分の役割を全うする事を考えて」
「ありがとう。もし君に危害が及ぶような事があっても俺が必ず守る」
「うん。お願いね。私のナイト様」
「あぁ、俺の命は君のためにある」
「それ、出会った時からずっと言ってるわね」
「あの頃からずっと君を愛しているからな。もし世界中を敵に回す事になったとしても、必ず君を守るよ」
 次郎は結婚して20年以上経っても妻への愛が変わらぬ男だった。

リプレイ本文

「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
「葛葉次郎だ。危険な任務によく来てくれた。よろしく頼む」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が何時もの挨拶を次郎と交わし、他の者達もそれぞれ挨拶する。
「危険な任務だろうと殺し屋が相手なら私の出番だ」
 相手が殺し屋と聞いて来た不動シオン(ka5395)は、どちらが殺しのプロにふさわしいか雌雄を決するつもりでいた。
「スナイパーとは、厄介な相手に目を付けられたものですね。ところで次郎さんはリアルブルー出身者のようですが、以前の職業は何ですか?」
「ジムのインストラククターだった。身体を鍛えていたおかげで転移時には命拾いしたよ」
 水城もなか(ka3532)に尋ねられた次郎は自分の過去を少し語った。
 それから各配置を相談し、エルバッハが北、もなかが北東、保・はじめ(ka5800)が東、シオンが南、柊 真司(ka0705)が西、レオナルド・テイナー(ka4157)が南西に向かう。
 そして老人に扮した次郎が町を徘徊し、敵の出現を静かに待った。

 虫が飛び、鳥が囀る森の中で刻々と時が過ぎてゆく。
 今日はもう現れないのではないか?
 そう思う程の時間が流れた時、パンと乾いた発砲音が森に木霊した。
(来た!)
 ハンター達が一斉に目と耳に意識を集中する。
 音は町の南東の方から聞こえた。
 町に目を向けると次郎が倒れている。
「次郎さん! 大丈夫ですか?」
 もなかが慌ててトランシーバーで次郎に呼びかける。
『撃たれたフリをしただけだ。それより敵は町の西南西150m程だ。探してくれ』
 次郎との通話を聞いたハンター達は一斉に索敵を開始。

(囮役の次郎の頑張りを無駄にしないように、さっさと狙撃手を見つけないと……)
 真司は軍用双眼鏡を使って探したが、距離が遠いせいかなかなか見つからない。

 エルバッハは双眼鏡と共に『鋭敏視覚』も使い、森林迷彩で着て潜んでいた木の上から探す。
(敵の目的は分かりませんが、これ以上好きにさせるわけにはいきません。絶対に見つけて、凶行を止めなければ……)

 距離が一番近いと思われる保は、草藪を斬り払い視界の妨げになる枝なども斬って作った陣地から『鋭敏視覚』を駆使して敵を探していた。
 その際、奇襲を警戒して『加護符』を自身に施す。
(……いた!)
 そして保は草叢に潜んで狙撃銃を構えている甲冑を発見した。
(あれはまさか?)
 見覚えのあるシルエットだったが、今はその事よりも報告を優先する。

 保から位置を聞いたハンター達は行動を開始。
「さぁ……狩りの時間だ」
 レオナルドが潜んでいた茂みから出る。
 エルは敵に気づかれないよう気をつけつつ出来る限り速く移動を始めた。
 もなかは『隠の徒』で気配を消したまま慎重に近づいてゆく。
 シオンは撃たれないように身を低くしながらも全力疾走する。
 真司は『ジェットブーツ』も駆使しながら全力で森を駆け抜ける。
 そして次郎も身を起こし現場に向かおうとした。
 しかしその直後、再びパンと発砲音が鳴り、次郎の身体が跳ねた。
「今のは?」
 発砲音を聞いた真司は訝しんで足を止めた。
 なぜなら音は東側ではなく西側でしたからだ。
『南西150m。どうやら敵は2人いたらしい……』
 トランシーバーから次郎の苦しげな声がする。
 どうやら今度は演技ではなく本当に撃たれたようだ。
「くそ!」
 真司は再び双眼鏡を取り出して索敵する。
 レオナルドも足を止め、『鋭敏視覚』で敵を探した。
(狙撃っていうからには木の上にでもいるのかしらぁん? 上を見上げて……耳を澄ませて……草の動きを見て……)
 すると木の上に妙な草の塊を見つけた。
 よく見ると、それはギリースーツを着た人だと分かった。
「いたわ。木の上で草の塊みたいな格好してる。オバカねぇ。あれで隠れてるつもりかしら」
 ローブの裾に隠したトランシーバーに小声で告げると、身を潜めてジリジリと近づいてゆく。
(そろりそろりと……ん、んーまるで泥棒ネ☆)

 一方、東側でも再び発砲音が鳴る。
 狙われたのは、身を低くしていたとはいえ草叢を全力移動して目立っていたシオンだ。
 放たれた銃弾はシオンの左肩を貫通。
「くっ」
 痛みで顔を歪ませつつも、今の狙撃で敵の位置をほぼ掴んだシオンは牽制射撃を行いながら更に接近。
 甲冑姿の敵が見えると試作振動刀を抜き、『刺突一閃』で突きを放つ。
 しかし敵は身の丈ほどの大きな盾を翳してブロックする。
 そして狙撃銃を剣に持ち替えて斬りかかってきた。
 シオンは刀で受け流して反撃するが再び盾でブロックされる。
 刀で斬り、払い、凪ぎ、受ける。
 森に剣戟が響き、数合斬りあったが、相手の防御が厚くてなかなか攻撃が通らない。
「なんて硬い守りだ……」
 シオンが攻めあぐねていると、不意に草叢からもなかが飛び出してきた。
 本当は『隠の徒』で背後に回り込んで奇襲したかったのだが、剣戟を聞いてもう戦闘が始まっていると分かると急いだ方がよいと考え、『ランアウト』で急行してきたのだ。
「やあぁー!!」
 もなかはジエロダガーを腰だめに構えて『アサルトディフェンス』を発動すると、進路上の草や枝を蹴散らしながら体当りする勢いで突進する。
 だがそれも盾で阻まれた。
 ガキンと金属のぶつかり合う音が鳴っただけで、盾には傷一つ付いていない。
「えっ!?」
 あまりにも硬い手応えに戸惑うもなかに甲冑の敵は盾を振るって叩きつけた。
「キャア!!」
 シールドバッシュを喰らったもなかは吹っ飛ぶ。
 だがその直後、空中をほとばしった稲妻が甲冑を貫いた。
 保の放った『風雷陣』だ。
 保は甲冑の敵がかつて自分が相対した者と同じであれば高い防御力を有しているだろうと考えた。
 だからじっと木陰に潜み、盾の防御を突破できる機会を伺っていたのだ。
 稲妻の直撃を喰らった敵は大ダメージを受けているようだが、まだ立っている。
 しかしその隙を逃さず、シオンが刀を振り上げ『閃火爆砕』を発動。
 大上段から振り下ろされた超振動する刃は甲冑の左肩に食い込み、そのまま一気に両断。
 盾が左腕ごと地面に落ちる。
「今度こそ!」
 もなかは受け身を取って体勢を立て直すと『ランアウト』と『アサルトディフェンス』を発動。
 再びダガーを構えて突進した。
 敵は剣で防ごうとしたが、もなかは防御を掻い潜って刃を突き立てる。
 確かな手応え。
 今度は甲冑に深々と突き刺さっている。
 もなか一撃で敵がよろめく。
「どんな硬い鎧も所詮はモノ。形ある限りいずれ壊れる時が来る。今がその時だ!」
 シオンが刀を薙ぎ払って首を飛ばすと、敵は塵となって消えていった。
「どうやら歪虚だったらしいな」
 敵の散り様を見届けたシオンは刀を鞘に戻した。
「あたし、次郎さんが心配なので町に戻りますね」
 敵を倒せて安心したのか、もなかは『ランアウト』で走り出した。

「次郎さーん!」
「ん? どうしてここに?」
 次郎は戻ってきたもなかを見て不思議そうに尋ねる。
「次郎さんを守りに来たんです。民間人を守るは元軍人として正当なものですからお気遣いなく。あなたの安全は命を懸けて補償いたしますよ」
「この様で言っても説得力はないが、君達は護衛で雇ったのではないのだがな……」
 次郎は負傷した身の自分に苦笑する。
 その時、町の南東から戦闘音が響いてきた。
「え! 敵はもう倒したはずなのに……」
 もなかは驚きの眼差しで東の森を見た。

 その頃、シオンは不意に背後から現れた甲冑歪虚に剣で斬られていた。
「なに!?」
 シオンは振り向きざまに鞘に戻していた刀で居合い斬りをしたが、盾で阻まれた。
「もう1人いたのか」
「いえ、恐らく違います。サイズが違うので確信が持てなかったのですが、その不死身っぷり……以前に倒した甲冑の歪虚ですね」
 保はシオンの言葉を否定し、確信を持って敵に尋ねた。
『……』
 敵は答えなかったが保は続ける。
「不特定多数の人々の生活を直接的に脅かすやり口は貴方の流儀とは違う気がするんですけどね。目を付けた相手の歪虚化と、その過程で生じる感情の揺れ動きを好んでいるものと思っていましたが」
『ほぅ、数回相対した程度でそこまで理解するとは』
 すると甲冑からくぐもってはいるが、感心した声音が響いてくる。
 そんな最中、そこに遠くにいたため到着の遅れたエルバッハが姿を見せた。
「今回の事が流儀でないのなら、その目的は何なのですか?」
『数人の狙撃手で町を制圧できるかの実験と訓練。それと今後障害になりそうな敵の排除が目的だ』
 意外にも敵はエルバッハの質問に素直に答えた。
「そうですか。ならば貴方を倒せばその目的も潰えるという事ですね」
 エルバッハは不意打ち気味に『ウインドスラッシュ』を放つ。
 甲冑歪虚は咄嗟に盾で防いだが、その間にシオンは死角に回り込み、保は符を投げた。
 そしてシオンの『閃火爆砕』と保の『風雷陣』が同時に放たれる。
 『閃火爆砕』辛くも盾で防いだが『風雷陣』は命中。
「トドメです!」
 更にエルバッハが再び放った『ウインドスラッシュ』が甲冑を切り刻み、甲冑歪虚は塵と化して消えた。
「終わりましたね」
 エルバッハが一瞬気を抜く。
「いえ、まだです!」
「後ろだ!」
「え?」
 振り返ると今倒したはずの甲冑歪虚が少し離れた場所にいて、拳銃を放っていた。
 咄嗟に回避しようとしたが間に合わず、銃弾がエルバッハの身体を抉る。
「くぅ!」
 エルバッハはすぐに『ウインドスラッシュ』で反撃したが盾で防がれた。
 そして不意に甲冑歪虚の周りに煙幕が焚かれた。
 保はすぐ煙幕を中心に『五色光符陣』で結界を展開して攻撃。
 しかし見えていない敵への攻撃は勘頼りになるため当たったかどうかは分からない。
 そして煙幕が晴れた後、そこに甲冑歪虚の姿はなかった。


 一方、真司はレオナルドに言われた地点を探っていた。
 すると確かに不自然な草の塊がある。
「見つけたぜスナイパー。随分好き勝手やってくれたな」
 すぐに草の塊を水中用アサルトライフルP5で撃つ。
 弾丸は草の塊を貫通。
 だが中の人には当たらなかったのか、草の塊は幹の裏に隠れ、そこから銃で反撃してきた。
 咄嗟に真司も木を背にすると着弾した幹が爆ぜた。
 真司は木を遮蔽にしながら反撃。今度は相手の幹が爆ぜる。
 そのまま銃撃の応酬になったが、互いの銃弾は木の幹を削るだけで1発も当たらない。
(こっちに気づいてないなんてオマヌケねぇ)
 しかし敵の注意が真司に向いている間にレオナルドが『ウィンドスラッシュ』を発動。
 敵の足元に突風が吹き、脚を斬り裂いた。
「!?」
 それでバランスを崩した敵が木から落下。
 その隙に真司が一気に間合いを詰め、銃を突きつける。
 敵も膝立ちで銃口を真司に向けた。
 その距離2m足らず。
 敵は木から落ちた時に頭巾が捲れたらしく、顔が顕になっていた。
(……子供?)
 おそらく15、6歳くらいの少年だ。
 しかも目と髪の色や顔立ちから、リアルブルーの自分の国と同じ出身のように思えた。
「アンタ……リアルブルーからの転移者か?」
 相手も同じ事を思っていたのか、そう尋ねられる。
「そうだ。元サルヴァトーレ・ロッソ所属のCAMパイロットだ」
「ならアンタはこの世で最も勘違い者のクソ野郎って事だな」
 少年の表情が侮蔑で歪み、声音に憎しみが滲む。
「なんだと」
 侮辱された真司は少年を睨みつけた。
「リアルブルー人に恨みでもあるの? ならボクはどっちの出身に見える?」
 遠巻きに事態を静観していたレオナルドが自分を指差す。
「あたしのおばあちゃん、リアルブルー人。ママは蒼と紅で紫な感じのハーフ。パパは……さぁ誰だろうね
 生まれも育ちもこっちなんだけど、そんなボクも嫌い? 憎い?」
「こっちの生まれなら勘違い野郎だがクソじゃねぇ。クソ野郎なのはリアルブルーから転移してきた覚醒者だ」
「何故リアルブルーの転移者を憎む? お前だってそうなんだろう」
「俺をお前らと一緒にすんなっ!!」
 真司の問いで少年が激高する。
「お前らがこっちの世界で孤高気取ってられんのは運良く覚醒者の素質があっただけだろうがっ!
 そんなただのラッキーマンが大精霊から借りただけの他人様の力でチヤホヤされてヌクヌク暮らしてやがって。
 それが勘違いのクソ野郎じゃなくて何だってんだ!!
 そんなクソ野郎はぶっ殺す。
 いや、クソ野郎だけじゃねぇ。
 このクソみたいな世界もぶっ壊してやるっ!!」
『おしゃべりはそこまでだ。退くぞ』
 不意に森の奥から甲冑歪虚が現れた。
(こいつ一体何処から? 今まで敵の気配なんてなかったぞ)
 不審に思いながらレオナルドは何時でも攻撃できるよう身構えた。
「クススの旦那。でもコイツら」
『お前はどうでもいいが狙撃銃は貴重だ。退け』
「チッ」
 少年は舌打ちすると煙幕を焚いた。
「逃がすか!」
 真司は魔導機械を掴むと煙幕ごと薙ぎ払うように『ファイアスローワー』を放った。
 すると甲冑歪虚が爆炎を浴びながら迫って斬りかかってくる。
「なに!?」
 虚を突かれた真司だが辛くも避けた。
「キャー強いー! 抱いて! ……なんてな」
 レオナルドがふざけたセリフを吐きながら『アイスボルト』を発射。
 氷の矢は盾で防がれたが、冷気が盾ごと甲冑を凍りつかせる。
「もう1発喰らえ!!」
 そこに真司が再び『ファイアスローワー』を放つ。
 盾で防げず直撃を喰らった甲冑歪虚の全身が炎に包まれ、やがて塵となって消えた。
「少年は?」
「逃げられちゃったみたい」
 まだ煙幕のけぶる森に少年の姿はもうなかった。


 戦闘後、真司は次郎に少年の特徴を話して心当たりがないか聞いてみた。
「すまないが心当たりはないし、恨まれる覚えもないな」
 レオナルドは町の住人に聞いてみたが、やはり心当たりはないという。
「町への攻撃は怨恨絡みじゃないって事かしら。それなら次があったらもっともっと愛し合えるかしらねぇん」
 もなかは拾った銃の薬莢を調べたが、おそらくリアルブルー製だろうという事くらいしか分からない。
 保は甲冑の中身を調べたかったが、歪虚は死ぬと持ち物ごと塵と化してしまう事がほとんどなので遺留品は残っていなかった。
「保さんは甲冑の敵の事を知っていたみたいですけど、アレはいったい何だったんですか?」
 エルバッハが不可解そうに尋ねる。
「自称不死身の歪虚です。死んでも復活するみたいですから、たぶん今回も死んでないでしょうね」
「不死身ですか、厄介な敵ですね」
「僕は歪虚に憑依する亡霊型だろうと思っています。なので魔法でトドメ刺せば倒せるかもしれません」
 保はその機会はすぐ来るような予感がしていた。

 ハンター達はしばらく町に滞在して警戒したが、敵は目的を達成したのか、もう狙撃手が現れる事はなかった。

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重体一覧

参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 狭間へ誘う灯火
    レオナルド・テイナー(ka4157
    人間(紅)|35才|男性|魔術師
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/11 21:24:08
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/10/13 05:07:33
アイコン 質問卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/10/10 15:53:08