ゲスト
(ka0000)
彼等と配達
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/13 22:00
- 完成日
- 2016/10/22 02:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
宝飾工房コンフォート、エーレンフリート様、モニカ・フィオリーノ様
拝啓……いや、ここは前略か。
前略
いつもお世話に
……仕事の手紙では無いんだったな。
突然のお手紙を失礼致します。
……突然、では無いだろうがなぁ。
前略
突然のお手紙を失礼致します。
今月の朔の晩、ユリア・エーレンフリート様が永眠致しました。
形見にとお預かりしている品がございますので、ご都合の付きます折に、お受け取り頂ければ幸いと存じ上げます。
シオは書きかけの手紙を握り潰して屑籠へ投じる。
急ぎの報せだ、文面に拘っている時間は無いはずだ。
それでもユリアを案じていたモニカに、せめて、ほんの少しでも。
●
シオはフマーレで民間の警邏組織に所属している。
歪虚絡みの事件に関わり、酷く衰弱したユリアはその詰め所の受付を手伝いながら静かに過ごしていた。
以前は喫茶店の店長を務めていたユリアの、唯一の血縁らしい祖父のエーレンフリートはヴァリオスに住んでいるが、歳の為か体調を崩しがちだった。
喫茶店でウェイトレスをしていたモニカは彼の看病の為に、事件後、ユリアをシオ達に托すようにしてヴァリオスに向かった。
漸く書き終えた手紙を握って郵便局へ、間に合うならば今日の内にでも届けて貰わなければならない。
しかし、そこは酷くごった返して、取り合っても貰えないようだ。
「何があったんだ」
その中には街道を警備している者の姿もある。顔見知りの彼にシオが尋ねると、彼は顔を顰めて言った。
この前、街道で死んでいた女がいた。
どうやらそれはゴブリンではなく、雑魔の仕業らしい。
二足歩行の獣、それこそ、ゴブリンのような形をしたのが何匹か。
更にもう1匹、鳥のような形をして、その翼で飛ぶらしいのが、ゴブリンを指揮している。
「……それを見たってここの職員の1人殺されて、もう1人が逃げ帰ってきたらしい。2人とも、街を越えて運ぶのを生業にしていたんだとさ。馬車と手紙と、あと死体も、道に残ったままだとよ」
敵の姿に仲間の骸、荷台から零れた手紙。それだけ伝えて彼は気絶したという。酷い怪我だったらしい。
爪に割かれた様な背が爛れ、骨を砕かれ穴の空いた肩から腕がだらりと垂れ下がり、曲がった脚にはお座なりの添え木を括り付けていた。その有様はよく生きて逃げ延びたと思える程に。
街道の入り口からそれ程距離が無かった事が幸いしただろう彼は逃げ延びて助かったが、もう1人は身体を2つに食いちぎられていたという。
「あんたも手紙かい? フマーレの中なら、もう少ししたら受付が再開するそうだから……」
シオは首を横に振った。
●
郵便局の男性が保護されて数時間、彼から聞き出した情報と共に、オフィスに依頼が掲示された。
『街道にて郵便物を回収し、ヴァリオスへ届けて下さい』
依頼を受け、詳細を聞いたハンター達が街道へ向かうと、既に用意された馬車の傍らにシオが思い詰めた表情で佇んでいた。
「連れて行ってくれ。馬車なら動かせる、馬を扱うのは得意な方だ」
唸るような声でそう言うとハンター達を真っ直ぐに見詰めた。
宝飾工房コンフォート、エーレンフリート様、モニカ・フィオリーノ様
拝啓……いや、ここは前略か。
前略
いつもお世話に
……仕事の手紙では無いんだったな。
突然のお手紙を失礼致します。
……突然、では無いだろうがなぁ。
前略
突然のお手紙を失礼致します。
今月の朔の晩、ユリア・エーレンフリート様が永眠致しました。
形見にとお預かりしている品がございますので、ご都合の付きます折に、お受け取り頂ければ幸いと存じ上げます。
シオは書きかけの手紙を握り潰して屑籠へ投じる。
急ぎの報せだ、文面に拘っている時間は無いはずだ。
それでもユリアを案じていたモニカに、せめて、ほんの少しでも。
●
シオはフマーレで民間の警邏組織に所属している。
歪虚絡みの事件に関わり、酷く衰弱したユリアはその詰め所の受付を手伝いながら静かに過ごしていた。
以前は喫茶店の店長を務めていたユリアの、唯一の血縁らしい祖父のエーレンフリートはヴァリオスに住んでいるが、歳の為か体調を崩しがちだった。
喫茶店でウェイトレスをしていたモニカは彼の看病の為に、事件後、ユリアをシオ達に托すようにしてヴァリオスに向かった。
漸く書き終えた手紙を握って郵便局へ、間に合うならば今日の内にでも届けて貰わなければならない。
しかし、そこは酷くごった返して、取り合っても貰えないようだ。
「何があったんだ」
その中には街道を警備している者の姿もある。顔見知りの彼にシオが尋ねると、彼は顔を顰めて言った。
この前、街道で死んでいた女がいた。
どうやらそれはゴブリンではなく、雑魔の仕業らしい。
二足歩行の獣、それこそ、ゴブリンのような形をしたのが何匹か。
更にもう1匹、鳥のような形をして、その翼で飛ぶらしいのが、ゴブリンを指揮している。
「……それを見たってここの職員の1人殺されて、もう1人が逃げ帰ってきたらしい。2人とも、街を越えて運ぶのを生業にしていたんだとさ。馬車と手紙と、あと死体も、道に残ったままだとよ」
敵の姿に仲間の骸、荷台から零れた手紙。それだけ伝えて彼は気絶したという。酷い怪我だったらしい。
爪に割かれた様な背が爛れ、骨を砕かれ穴の空いた肩から腕がだらりと垂れ下がり、曲がった脚にはお座なりの添え木を括り付けていた。その有様はよく生きて逃げ延びたと思える程に。
街道の入り口からそれ程距離が無かった事が幸いしただろう彼は逃げ延びて助かったが、もう1人は身体を2つに食いちぎられていたという。
「あんたも手紙かい? フマーレの中なら、もう少ししたら受付が再開するそうだから……」
シオは首を横に振った。
●
郵便局の男性が保護されて数時間、彼から聞き出した情報と共に、オフィスに依頼が掲示された。
『街道にて郵便物を回収し、ヴァリオスへ届けて下さい』
依頼を受け、詳細を聞いたハンター達が街道へ向かうと、既に用意された馬車の傍らにシオが思い詰めた表情で佇んでいた。
「連れて行ってくれ。馬車なら動かせる、馬を扱うのは得意な方だ」
唸るような声でそう言うとハンター達を真っ直ぐに見詰めた。
リプレイ本文
●
ザレム・アズール(ka0878)が魔導バイクのスタンドを立てて馬車へ視線を向けた。
眉間に皺を刻みながら、頬を震わせるシオの顔を見る。
その様子に放っては置けないと肩を竦めた。
榊 兵庫(ka0010)とディーナ・フェルミ(ka5843)も一旦は馬を下りて彼の様子を見る。
ハンター達の接近に、シオは硬く握った手を震わせた。
「私たちは自分たちで馬車の操縦はできるの」
ディーナが清廉な紫の瞳でじっとシオを見詰めた。唇を結び目を伏せる彼はどこか怯えたようにも見える。
シオさん、とディーナが呼ぶと、強張った顔を向けた。
「貴方がどうしてもヴァリオスに行きたいなら勿論守るし連れていくの。ただ運びたい物があるだけなら一緒に運ぶのは構わないの。貴方は行きたいの、運びたいの、どちらなの?」
シオの息が掠れた。碌な支度もせずに飛び出した、街中の警邏の装いは、ハンター達の武装に比して酷く脆く見える。銃も彼等程には扱えず、街道に屯していると聞く雑魔にはとても敵わないだろう。
行けば、足手纏いになる。
「1番大事なのは決めることなの。貴方の覚悟と選択を尊重するの」
ふわりとディーナが微笑んだ。
「――俺は、行きたい」
顔を上げてシオが答えると、馬車に繋いだ馬を撫でていたイヴ・フランボワーズ(ka6504)が振り返った。
「急ぎの用なのかい? わざわざ危険を冒すなんて余程のことだよ」
兜の隙間から微かに覗く緑の瞳が訝しむ。
シオの手が彼の胸元へ、上着の内に忍ばせる一通の手紙に触れる。
「……顔に書いてあるよ」
サドルに凭れてザレムが口角を上げた。
最初から。一緒に来たい、と。そう言いたげな顔をしていた。
「戦いでは荷台に隠れると約束してくれるなら」
来るか。
差し伸べられた手にシオは確りと頷いた。
ちょっと待ってて下さいと、出発の支度を整えるハンター達から離れ、ディーナは病院へ向かった。
この前の迷子さんの時以来ですね、と小宮・千秋(ka6272)がシオに声を掛けた。
シオは会釈を返しながら、ザレムとカリアナ・ノート(ka3733)にも視線を向けた。
あの子の母親を殺したらしい敵が、まだ街道を妨げている。
暗い顔のシオに小宮は連れた動物たちを抱えてにっこりと笑む。
「今回もお仕事頑張りますよー」
ハンターとして、選択肢は1つなのだからと、細めた青い瞳がきらきらと、懐いたマルチーズが答えるように小さく鳴いた。
「その子達を連れて行くなら、荷台は譲った方が良いかな。心得はあるけれど、私は彼等のような馬を連れていないから」
助手席に座らせてもらうよ、とイヴが荷車に繋ぐ馬のせなを撫でる。
小宮はマルチーズと黒猫を荷台に座らせ、カリアナは馬を借りに向かった。
急な重傷患者に慌てる病院に駆け込むと、寝かされたベッドの傍らに傷を縫う医師の姿があった。
青い顔をした郵便局員は痛みに呻きながら、目を開ける様子も無い。
「ヒールは万能じゃないの。ただ傷を塞ぐだけで完治するほど人の身体は簡単じゃないの……」
効果的に使うには診断が必要だと、体中に施された処置の跡を見る。それを施した上で癒やしたのだから、もう大丈夫。あとは安静にと、少しずつ呼吸を穏やかにする彼の額を拭った。
彼が譫言の様に誰かの名前を呼ぶ。
医師がそれは殺されたもう1人の名前だと言った。フマーレに家族のいる人だと、叶うならば迎えに行ってあげたいと。
「遅くなってごめんなさいなの」
ディーナが戻った頃、カリアナが馬を引いて合流した。
「中には大切な郵便物もあるだろう。きちんと回収の上で届けなくてはなるまいな」
出発の支度を終えたハンター達を見回しながら榊が告げる。
葉を赤く染める樹の並んだ街道を、その陰った道を見据える。
「最善を尽くすこととしよう」
鐙を踏み込むように、戦場向けに鍛えられた馬の横腹を蹴り走らせる。
シオが馬車を進ませると、ハンター達もその周りを囲むように街道へ出る。
●
遭遇したのは街からそれ程離れていない辺りだと聞いた通り、それ程進まぬうちに敵の影が窺えた。
何れの射程にも入っていないが、敵もこちらの存在には気付いていない。
ザレムがシオにトランシーバーを渡してバイクを前進させる。
榊も馬を前に進ませ、ハンター達を振り返りながら、自身が前に出て戦う事を伝えた。
ディーナも馬を馬車に寄せ、小宮が2匹を抱えて荷台から下りる。
イヴはシオを残して助手席を下り、白いグリップに手を掛けた。
「シオ君、君は待っているんだよ」
頷いて、シオは手綱を握り締める。ディーナに合わせた歩みで、徐に敵との距離を詰めていった。
シオの手の中でトランシーバーがザレムの声を伝えた。
捉えた、引き付ける。
端的な言葉に、カリアナは手綱を手放して馬を下り、両手で大鎌を構える。
被害の状況を見ると、バイクのモーター音を立てて接近、雑魔を散らかった手紙や、壊れた馬車、横倒しになった馬から離すように誘うターンでタイヤが土煙を上げる。
深紅に染めた瞳が折れた車輪の影に倒れている亡骸を見付けた。
この場所を、これ以上荒らさせない。
こちらだと声を立てて誘いながら、仲間との合流を図り、バイクを駆る背に黒い皮膜の翼を羽ばたかせた。
モーター音に紛れて、濁った鳥の声を聞く。
ザレムに棍棒を向けて飛び出した、淀んだ靄を纏うゴブリンを、黒い翼の大柄な鳥がその鳴き声と羽ばたきで諫めている。
ゴブリンの様子を覗いながら、ザレムは携えた霊験の柄に触れた。
雑魔の中に鳥の形をしたものがいる。空へ視線を向けたカリアナが、ゴブリンへの指示のためその姿を露見させた黒翼の雑魔を見た。
小柄な丈を優に超える不気味な意匠の大鎌、柄とハンドルを握り空気を刈る様に取り回すと、銀の流線に鮮やかな宝玉の色が瞬く。
狙い澄ました様に放たれた水の礫が雑魔の翼に辺り、羽を辺りに舞い散らせる。
ぎ、と濁った硝子を掻くような不快な声が響いた。
その声にシオが思わず顔を顰め崩れそうになりながら、手綱を握って暴れる馬を留まらせる。
「音は防げないけれど、大丈夫、ここまでは近付かせないの」
純白の銃を握り、祈るのは斃す力ではなく癒やす力、守る力。
銀の髪を靡かせて、紫の双眸は静かに戦場を見詰める。
カリアナが間合いを量るように下がり、ディーナがシオを守る壁を作った。
状況に頷く榊の全身に赤い線が浮かび上がった。兜から覗く頬に、袖の捲れた腕に、その赤い線は次第に濃く、血の滲みまで再現する過去の傷跡。
マテリアルに呼応して浮かんだ戦傷を纏い、振るうのは十字の穂先を持つ長柄。棍棒を擡げる雑魔に向かって走りながら、その身体が炎の幻影を浮かばせる。
「こっちだ」
鋭い声が響く。
羽ばたきの指示でザレムへの接近を留まっていた雑魔達が、淀んだ目でその炎を見る。
雑魔の狙いが全て榊に移るのを見て、ザレムはライフルの銃口を上に向ける。
「空なら味方に遠慮も要らん」
だろう、と紅の目が榊を見る。榊は口角を上げ、敵が振りかぶった棍棒に備えて槍を構えた。
崩れる刀の意匠を施した銃床を支え、銃の内部に組み込まれる精密な仕掛けにマテリアルが巡る。
高まるマテリアルを御して羽ばたく雑魔に照星を据える。
引鉄に捕らわれずに放たれる術式陣が、無数の氷柱を一直線にその翼に向かって走らせる。
茂みを割き、木を割って至る氷に貫かれた羽が砕け、その回りへと氷を広げる。
羽ばたく度に凍った羽を散らしながら、雑魔は木の影に潜んだ。
「ペットさん達には荷が重いかも知れませんが、カラスさんのお相手を手伝って頂きますよー」
潜んだ鳥の雑魔に小宮は小さな動物たちが探し当てることを祈りながら放す。
答える様に鳴いた2匹は茂みへと飛び込んでいった。
「わたくしはゴブリンさんのお相手をさせて頂きまーす」
マテリアルを込めて旋棍を構える。
軽い牽制に続けて、全身のマテリアルを込めた一撃を放つ。空間を貫くように突き付けた拳はその威力の多くを硬い被毛に吸収されながらも、雑魔の身体をぐらりと揺らした。
踏み止まったそれはぺたりと踏み締めるように前進し、その得物を、棍棒と鋭い牙を小宮に向けた。
「……普通のゴブリンとは違う様だね」
小宮の攻撃を見てイヴが呟いた。
ハンターとしては駆け出しだがゴブリンには覚えが有る。
あの攻撃を防いでしまうようなことは無いはずだ。一気に切り崩そう。
肩越しに振り返るディーナは、静かにシオを守っている。時間を掛けたくは無い。
剣を抜き、巡るマテリアルを感じながら呼吸を整える。地面を蹴って斬り掛かる一閃が、敵の向けた得物を避けて腕の被毛を刈る。薄い傷から血では無い黒くどろりと濁った雫が滲んだ。
吠えるように牙を剥いた雑魔の振るった重い得物が顔の横を掠めていく
兜越しにも重い衝撃に眩み、頬に当たったらしいそれに口の中を切っていた。
錆の味に噎せながら、すぐに体勢を整えて、銀の刃を敵に向けた。
小宮に反撃する雑魔の手が小柄な身体の喉へ向けて振り下ろされる。
「ほいほーい、っと」
籠手と旋棍に受け留め、その衝撃に飛び退くが傷は無く、直ぐさま攻撃に構えを転じる。
先程の一撃とも合わせて、雑魔の脚がふらつき始めていた。
小宮とイヴが相手取る他、2匹の雑魔が榊に近付く。その炎の幻影に惹かれるようにふらふらと。
潜んでいる鳥は、それを妨げる声を発さない。
間合いに入る雑魔に向けて突き付ける槍の柄を跳ね上げて、構え直すその穂先は頭上に。切っ先を雑魔の腹へと突き立てるように膂力の限り振り下ろした。
「――隠れた鳥は任せる」
引き抜く刃に纏ったくろい雫を払い、ざわめいた木陰を一瞥する。自身に牙を剥いているもう1匹の雑魔へと狙いを定めた。
「隠れてないででてきなさいよ! じれったいわ!」
カリアナが大鎌を持ち替えて火球を放つ。爆ぜた火球は辺りを焼くように衝撃を広げて消えた。
短慮に見せて器用に仲間を避けた炎に炙り出されたように枝が揺れた。
そこだなと、ザレムが狙いを付ける。
「ザレム、一機撃破……ってな」
鳥の声が止むと、シオが溜息を吐いた。
不可視の壁の中からでも戦うハンター達の姿は見える。
鮮やかな光りが、刃の鳴る音が鳴り止まない。
ゴブリンの形の雑魔が動きを変えた。ディーナがシオを片腕で制して引鉄に指を掛けて唇を結ぶ。
馬車に向かおうとした雑魔は至る前に倒されたようだ。
小宮は戻ってきた2匹を抱き上げ、イヴは頬をさすりながらマテリアルで傷を癒やす。
崩れていく屍から槍を引き抜いた榊と、大鎌を下ろしたカリアナも戻って来る。
銃を仕舞ったザレムもバイクに跨がり合流を待つ。
土塊になった雑魔の屍が溶ける様に消えた後、壊れた馬車と倒れた馬と、食い千切られた亡骸はそこに転がされていた。
腹に傷を負った馬の足下に藻掻いていた跡が窺えたが、既に身体は冷たく、傍らの亡骸のように食われる所だったと察せられた。間に合わなかったかと項垂れる。
落ちていた袋と、散らかっていた手紙を全て荷台に積み、馬の骸は道の隅に寄せる。
帰りに街に運ぶかと、隠した茂みを一瞥して榊が呟いた。
「……野晒しにしておくわけにはいかぬからな」
聞こえたらしく頷いたディーナは、毛布を広げ局員らしい亡骸を包む。
彼の瞼に手を添えて閉じながら、祈りを捧げた。
「……フマーレに家族がいると聞いたの。連れて帰ってあげたいの」
乗ってきた馬に毛布に包んだ亡骸を乗せ、手綱を取って来た道を振り返る。
ハンター達は頷き、シオもここまでの礼を告げた。
●
ディーナと分かれ、ハンター達とシオはヴァリオスを目指す。
「……人間さんをお食べになる雑魔さんは、いつ見聞きしても恐ろしいものですよー」
疲れたらしい2匹を膝で休ませながら小宮がしみじみと呟く。
顔は笑みを崩さないが、腕に感じた衝撃も、凄惨な屍の記憶もまだ消えない。
「この先はだいじょうぶかしら……」
心配だわ、と見回しながら馬を急かしてカリアナがぽつりと零した。
「結局君は何故ヴァリオスへ?」
シオの隣でイヴが尋ねた。
馬を走らせながらシオは暫く言い淀んだ。
榊も一瞥を向けたが強いる気は無いと視線を前に戻す。
長い沈黙の後、手紙を届けるためだと答えた。
彼の躊躇と表情にそれが真意では無いと察しながら、イヴは手綱を掴んだ。
「まあ深くは聞かないよ」
暫く代わろうと言って馬を操る。
長い街道を走り抜けてヴァリオスに到着した。ハンター達と見知らぬ男を見て彼是と尋ねる局員達に説明し、シオはぐったりと疲れた顔でハンター達に礼を告げた。
帰るか、と榊は来たばかりの街道を見る。馬の亡骸や壊れた馬車も置き去りにしてきたから。
街へ連れて帰ってやらないとな、と空を仰ぐ。
「そうだな。さて報酬を貰って帰ろう」
イヴはまだ局員との話しに戻るシオを見る。深くは聞かないと言ったからねと口許で微笑んで。
ザレムは荷台に残っていた手紙を拾って局員に渡し、全て終えたらしいシオに労いの言葉を掛けた。
「あの迷子のペルと、眠ってしまっていた女性はどうしてる?」
小宮も気になるらしく顔を向けた。あの雑魔が迷子の母親を襲ったと、迷子を連れて歩き回った時間を思い出す。
「……ペルは俺たちのところに、メンバーが交代で世話をしてます。近くどこかの孤児院にお願いするとは思いますが。――彼女は、亡くなりました。あの日の少し後に」
あの日の迷子に愛着が湧いているのだろう、シオの顔が僅かに綻ぶ。
その表情が消えて、硬い声が告げた。
シオが上着の内ポケットから一通の手紙を取り出した。黒い縁の封筒には覚えの有る宛先が書かれていた。
「届けに来たのは、彼女の訃報です」
ザレムは瞠った青い瞳を伏せて唇を噛んだ。
一度でも出会い無事を願った人の死にすぐには冷静な言葉が返せなくなる。
ただ黙って、祈るように目を閉じていた。
「――あの日まで、ずっと感謝していたみたいです。喫茶店の頃のとか、俺の知らない話しばかりでしたけど……」
振り返るがカリアナの姿は見当たらない、聞こえていると信じながら、シオは彼女の思い出話を語る。
シオの向かった手紙の宛先の近くにも店は有る。
大きくて有名な店では無いけれど、ひっそりと長く続いているような、素朴な店が並んでいる。
ペルに土産をと微笑んだザレムの言葉を思い出させるような、色取り取りに甘い飴を売っている店も。
ザレム・アズール(ka0878)が魔導バイクのスタンドを立てて馬車へ視線を向けた。
眉間に皺を刻みながら、頬を震わせるシオの顔を見る。
その様子に放っては置けないと肩を竦めた。
榊 兵庫(ka0010)とディーナ・フェルミ(ka5843)も一旦は馬を下りて彼の様子を見る。
ハンター達の接近に、シオは硬く握った手を震わせた。
「私たちは自分たちで馬車の操縦はできるの」
ディーナが清廉な紫の瞳でじっとシオを見詰めた。唇を結び目を伏せる彼はどこか怯えたようにも見える。
シオさん、とディーナが呼ぶと、強張った顔を向けた。
「貴方がどうしてもヴァリオスに行きたいなら勿論守るし連れていくの。ただ運びたい物があるだけなら一緒に運ぶのは構わないの。貴方は行きたいの、運びたいの、どちらなの?」
シオの息が掠れた。碌な支度もせずに飛び出した、街中の警邏の装いは、ハンター達の武装に比して酷く脆く見える。銃も彼等程には扱えず、街道に屯していると聞く雑魔にはとても敵わないだろう。
行けば、足手纏いになる。
「1番大事なのは決めることなの。貴方の覚悟と選択を尊重するの」
ふわりとディーナが微笑んだ。
「――俺は、行きたい」
顔を上げてシオが答えると、馬車に繋いだ馬を撫でていたイヴ・フランボワーズ(ka6504)が振り返った。
「急ぎの用なのかい? わざわざ危険を冒すなんて余程のことだよ」
兜の隙間から微かに覗く緑の瞳が訝しむ。
シオの手が彼の胸元へ、上着の内に忍ばせる一通の手紙に触れる。
「……顔に書いてあるよ」
サドルに凭れてザレムが口角を上げた。
最初から。一緒に来たい、と。そう言いたげな顔をしていた。
「戦いでは荷台に隠れると約束してくれるなら」
来るか。
差し伸べられた手にシオは確りと頷いた。
ちょっと待ってて下さいと、出発の支度を整えるハンター達から離れ、ディーナは病院へ向かった。
この前の迷子さんの時以来ですね、と小宮・千秋(ka6272)がシオに声を掛けた。
シオは会釈を返しながら、ザレムとカリアナ・ノート(ka3733)にも視線を向けた。
あの子の母親を殺したらしい敵が、まだ街道を妨げている。
暗い顔のシオに小宮は連れた動物たちを抱えてにっこりと笑む。
「今回もお仕事頑張りますよー」
ハンターとして、選択肢は1つなのだからと、細めた青い瞳がきらきらと、懐いたマルチーズが答えるように小さく鳴いた。
「その子達を連れて行くなら、荷台は譲った方が良いかな。心得はあるけれど、私は彼等のような馬を連れていないから」
助手席に座らせてもらうよ、とイヴが荷車に繋ぐ馬のせなを撫でる。
小宮はマルチーズと黒猫を荷台に座らせ、カリアナは馬を借りに向かった。
急な重傷患者に慌てる病院に駆け込むと、寝かされたベッドの傍らに傷を縫う医師の姿があった。
青い顔をした郵便局員は痛みに呻きながら、目を開ける様子も無い。
「ヒールは万能じゃないの。ただ傷を塞ぐだけで完治するほど人の身体は簡単じゃないの……」
効果的に使うには診断が必要だと、体中に施された処置の跡を見る。それを施した上で癒やしたのだから、もう大丈夫。あとは安静にと、少しずつ呼吸を穏やかにする彼の額を拭った。
彼が譫言の様に誰かの名前を呼ぶ。
医師がそれは殺されたもう1人の名前だと言った。フマーレに家族のいる人だと、叶うならば迎えに行ってあげたいと。
「遅くなってごめんなさいなの」
ディーナが戻った頃、カリアナが馬を引いて合流した。
「中には大切な郵便物もあるだろう。きちんと回収の上で届けなくてはなるまいな」
出発の支度を終えたハンター達を見回しながら榊が告げる。
葉を赤く染める樹の並んだ街道を、その陰った道を見据える。
「最善を尽くすこととしよう」
鐙を踏み込むように、戦場向けに鍛えられた馬の横腹を蹴り走らせる。
シオが馬車を進ませると、ハンター達もその周りを囲むように街道へ出る。
●
遭遇したのは街からそれ程離れていない辺りだと聞いた通り、それ程進まぬうちに敵の影が窺えた。
何れの射程にも入っていないが、敵もこちらの存在には気付いていない。
ザレムがシオにトランシーバーを渡してバイクを前進させる。
榊も馬を前に進ませ、ハンター達を振り返りながら、自身が前に出て戦う事を伝えた。
ディーナも馬を馬車に寄せ、小宮が2匹を抱えて荷台から下りる。
イヴはシオを残して助手席を下り、白いグリップに手を掛けた。
「シオ君、君は待っているんだよ」
頷いて、シオは手綱を握り締める。ディーナに合わせた歩みで、徐に敵との距離を詰めていった。
シオの手の中でトランシーバーがザレムの声を伝えた。
捉えた、引き付ける。
端的な言葉に、カリアナは手綱を手放して馬を下り、両手で大鎌を構える。
被害の状況を見ると、バイクのモーター音を立てて接近、雑魔を散らかった手紙や、壊れた馬車、横倒しになった馬から離すように誘うターンでタイヤが土煙を上げる。
深紅に染めた瞳が折れた車輪の影に倒れている亡骸を見付けた。
この場所を、これ以上荒らさせない。
こちらだと声を立てて誘いながら、仲間との合流を図り、バイクを駆る背に黒い皮膜の翼を羽ばたかせた。
モーター音に紛れて、濁った鳥の声を聞く。
ザレムに棍棒を向けて飛び出した、淀んだ靄を纏うゴブリンを、黒い翼の大柄な鳥がその鳴き声と羽ばたきで諫めている。
ゴブリンの様子を覗いながら、ザレムは携えた霊験の柄に触れた。
雑魔の中に鳥の形をしたものがいる。空へ視線を向けたカリアナが、ゴブリンへの指示のためその姿を露見させた黒翼の雑魔を見た。
小柄な丈を優に超える不気味な意匠の大鎌、柄とハンドルを握り空気を刈る様に取り回すと、銀の流線に鮮やかな宝玉の色が瞬く。
狙い澄ました様に放たれた水の礫が雑魔の翼に辺り、羽を辺りに舞い散らせる。
ぎ、と濁った硝子を掻くような不快な声が響いた。
その声にシオが思わず顔を顰め崩れそうになりながら、手綱を握って暴れる馬を留まらせる。
「音は防げないけれど、大丈夫、ここまでは近付かせないの」
純白の銃を握り、祈るのは斃す力ではなく癒やす力、守る力。
銀の髪を靡かせて、紫の双眸は静かに戦場を見詰める。
カリアナが間合いを量るように下がり、ディーナがシオを守る壁を作った。
状況に頷く榊の全身に赤い線が浮かび上がった。兜から覗く頬に、袖の捲れた腕に、その赤い線は次第に濃く、血の滲みまで再現する過去の傷跡。
マテリアルに呼応して浮かんだ戦傷を纏い、振るうのは十字の穂先を持つ長柄。棍棒を擡げる雑魔に向かって走りながら、その身体が炎の幻影を浮かばせる。
「こっちだ」
鋭い声が響く。
羽ばたきの指示でザレムへの接近を留まっていた雑魔達が、淀んだ目でその炎を見る。
雑魔の狙いが全て榊に移るのを見て、ザレムはライフルの銃口を上に向ける。
「空なら味方に遠慮も要らん」
だろう、と紅の目が榊を見る。榊は口角を上げ、敵が振りかぶった棍棒に備えて槍を構えた。
崩れる刀の意匠を施した銃床を支え、銃の内部に組み込まれる精密な仕掛けにマテリアルが巡る。
高まるマテリアルを御して羽ばたく雑魔に照星を据える。
引鉄に捕らわれずに放たれる術式陣が、無数の氷柱を一直線にその翼に向かって走らせる。
茂みを割き、木を割って至る氷に貫かれた羽が砕け、その回りへと氷を広げる。
羽ばたく度に凍った羽を散らしながら、雑魔は木の影に潜んだ。
「ペットさん達には荷が重いかも知れませんが、カラスさんのお相手を手伝って頂きますよー」
潜んだ鳥の雑魔に小宮は小さな動物たちが探し当てることを祈りながら放す。
答える様に鳴いた2匹は茂みへと飛び込んでいった。
「わたくしはゴブリンさんのお相手をさせて頂きまーす」
マテリアルを込めて旋棍を構える。
軽い牽制に続けて、全身のマテリアルを込めた一撃を放つ。空間を貫くように突き付けた拳はその威力の多くを硬い被毛に吸収されながらも、雑魔の身体をぐらりと揺らした。
踏み止まったそれはぺたりと踏み締めるように前進し、その得物を、棍棒と鋭い牙を小宮に向けた。
「……普通のゴブリンとは違う様だね」
小宮の攻撃を見てイヴが呟いた。
ハンターとしては駆け出しだがゴブリンには覚えが有る。
あの攻撃を防いでしまうようなことは無いはずだ。一気に切り崩そう。
肩越しに振り返るディーナは、静かにシオを守っている。時間を掛けたくは無い。
剣を抜き、巡るマテリアルを感じながら呼吸を整える。地面を蹴って斬り掛かる一閃が、敵の向けた得物を避けて腕の被毛を刈る。薄い傷から血では無い黒くどろりと濁った雫が滲んだ。
吠えるように牙を剥いた雑魔の振るった重い得物が顔の横を掠めていく
兜越しにも重い衝撃に眩み、頬に当たったらしいそれに口の中を切っていた。
錆の味に噎せながら、すぐに体勢を整えて、銀の刃を敵に向けた。
小宮に反撃する雑魔の手が小柄な身体の喉へ向けて振り下ろされる。
「ほいほーい、っと」
籠手と旋棍に受け留め、その衝撃に飛び退くが傷は無く、直ぐさま攻撃に構えを転じる。
先程の一撃とも合わせて、雑魔の脚がふらつき始めていた。
小宮とイヴが相手取る他、2匹の雑魔が榊に近付く。その炎の幻影に惹かれるようにふらふらと。
潜んでいる鳥は、それを妨げる声を発さない。
間合いに入る雑魔に向けて突き付ける槍の柄を跳ね上げて、構え直すその穂先は頭上に。切っ先を雑魔の腹へと突き立てるように膂力の限り振り下ろした。
「――隠れた鳥は任せる」
引き抜く刃に纏ったくろい雫を払い、ざわめいた木陰を一瞥する。自身に牙を剥いているもう1匹の雑魔へと狙いを定めた。
「隠れてないででてきなさいよ! じれったいわ!」
カリアナが大鎌を持ち替えて火球を放つ。爆ぜた火球は辺りを焼くように衝撃を広げて消えた。
短慮に見せて器用に仲間を避けた炎に炙り出されたように枝が揺れた。
そこだなと、ザレムが狙いを付ける。
「ザレム、一機撃破……ってな」
鳥の声が止むと、シオが溜息を吐いた。
不可視の壁の中からでも戦うハンター達の姿は見える。
鮮やかな光りが、刃の鳴る音が鳴り止まない。
ゴブリンの形の雑魔が動きを変えた。ディーナがシオを片腕で制して引鉄に指を掛けて唇を結ぶ。
馬車に向かおうとした雑魔は至る前に倒されたようだ。
小宮は戻ってきた2匹を抱き上げ、イヴは頬をさすりながらマテリアルで傷を癒やす。
崩れていく屍から槍を引き抜いた榊と、大鎌を下ろしたカリアナも戻って来る。
銃を仕舞ったザレムもバイクに跨がり合流を待つ。
土塊になった雑魔の屍が溶ける様に消えた後、壊れた馬車と倒れた馬と、食い千切られた亡骸はそこに転がされていた。
腹に傷を負った馬の足下に藻掻いていた跡が窺えたが、既に身体は冷たく、傍らの亡骸のように食われる所だったと察せられた。間に合わなかったかと項垂れる。
落ちていた袋と、散らかっていた手紙を全て荷台に積み、馬の骸は道の隅に寄せる。
帰りに街に運ぶかと、隠した茂みを一瞥して榊が呟いた。
「……野晒しにしておくわけにはいかぬからな」
聞こえたらしく頷いたディーナは、毛布を広げ局員らしい亡骸を包む。
彼の瞼に手を添えて閉じながら、祈りを捧げた。
「……フマーレに家族がいると聞いたの。連れて帰ってあげたいの」
乗ってきた馬に毛布に包んだ亡骸を乗せ、手綱を取って来た道を振り返る。
ハンター達は頷き、シオもここまでの礼を告げた。
●
ディーナと分かれ、ハンター達とシオはヴァリオスを目指す。
「……人間さんをお食べになる雑魔さんは、いつ見聞きしても恐ろしいものですよー」
疲れたらしい2匹を膝で休ませながら小宮がしみじみと呟く。
顔は笑みを崩さないが、腕に感じた衝撃も、凄惨な屍の記憶もまだ消えない。
「この先はだいじょうぶかしら……」
心配だわ、と見回しながら馬を急かしてカリアナがぽつりと零した。
「結局君は何故ヴァリオスへ?」
シオの隣でイヴが尋ねた。
馬を走らせながらシオは暫く言い淀んだ。
榊も一瞥を向けたが強いる気は無いと視線を前に戻す。
長い沈黙の後、手紙を届けるためだと答えた。
彼の躊躇と表情にそれが真意では無いと察しながら、イヴは手綱を掴んだ。
「まあ深くは聞かないよ」
暫く代わろうと言って馬を操る。
長い街道を走り抜けてヴァリオスに到着した。ハンター達と見知らぬ男を見て彼是と尋ねる局員達に説明し、シオはぐったりと疲れた顔でハンター達に礼を告げた。
帰るか、と榊は来たばかりの街道を見る。馬の亡骸や壊れた馬車も置き去りにしてきたから。
街へ連れて帰ってやらないとな、と空を仰ぐ。
「そうだな。さて報酬を貰って帰ろう」
イヴはまだ局員との話しに戻るシオを見る。深くは聞かないと言ったからねと口許で微笑んで。
ザレムは荷台に残っていた手紙を拾って局員に渡し、全て終えたらしいシオに労いの言葉を掛けた。
「あの迷子のペルと、眠ってしまっていた女性はどうしてる?」
小宮も気になるらしく顔を向けた。あの雑魔が迷子の母親を襲ったと、迷子を連れて歩き回った時間を思い出す。
「……ペルは俺たちのところに、メンバーが交代で世話をしてます。近くどこかの孤児院にお願いするとは思いますが。――彼女は、亡くなりました。あの日の少し後に」
あの日の迷子に愛着が湧いているのだろう、シオの顔が僅かに綻ぶ。
その表情が消えて、硬い声が告げた。
シオが上着の内ポケットから一通の手紙を取り出した。黒い縁の封筒には覚えの有る宛先が書かれていた。
「届けに来たのは、彼女の訃報です」
ザレムは瞠った青い瞳を伏せて唇を噛んだ。
一度でも出会い無事を願った人の死にすぐには冷静な言葉が返せなくなる。
ただ黙って、祈るように目を閉じていた。
「――あの日まで、ずっと感謝していたみたいです。喫茶店の頃のとか、俺の知らない話しばかりでしたけど……」
振り返るがカリアナの姿は見当たらない、聞こえていると信じながら、シオは彼女の思い出話を語る。
シオの向かった手紙の宛先の近くにも店は有る。
大きくて有名な店では無いけれど、ひっそりと長く続いているような、素朴な店が並んでいる。
ペルに土産をと微笑んだザレムの言葉を思い出させるような、色取り取りに甘い飴を売っている店も。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/12 00:29:44 |
|
![]() |
相談・ヴァリオスへ運ぶもの? ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/10/13 22:06:16 |