ゲスト
(ka0000)
【猫譚】サチコは祭を楽しみたい!
マスター:御影堂
オープニング
●
「何だか、楽しげな雰囲気ですわね!」
ガンナ・エントラータにたどり着いたサチコは、周囲から聞こえる音楽に気分が高ぶっていた。道行く街人に話を聞けば、なんでも音楽祭が催されることになったらしい。
「音楽祭!」
楽しげな名前に心躍るサチコは、意気揚々と街の中を進んでいく。
準備中とはいえ、噂を聞きつけた出店が軒を連ねる。方々からは祭で開催される大会に向けて、練習中であろう音楽が聞こえていた。楽しげな音楽に鼻孔をくすぐる肉や甘味の匂いに、サチコはすっかり虜になっていた。
「素晴らしいですわ! わくわくしますわ!」
「サチコ様、あまりはしゃいでは疲れてしまいますよ」
従者のタロが後ろから声をかけるも、サチコのうきうきウォッチングは止まらない。
広場で立ち止まったサチコは、手を叩いて声を上げた。
「そうですわ!」
「……聞きましょう」
嫌な予感を全身に覚えつつ、タロはサチコの言葉を待つ。
少し間を置いてサチコは告げる。
「私も音楽大会に出場します!」
予想通りの回答に、タロは一つため息を吐くのだった。
●
「サチコ様が音楽……」
ジロは宿屋でこの話を聞き、笑いをこらえていた。
「何がおかしいのですわ!?」
「だって、サチコ様……ピアノのレッスンも逃げ出してたじゃないですか」
「そ、それは……目的もなく弾かされるのが嫌だったのですわ。それに……ピアノは、こう、指が……」
指をもじもじさせながら、サチコは反論する。
「まぁ、この準備期間中にサチコ様ができそうな楽器が見つかるかもしれません」
「そうだといいんですがね」
タロとジロとの会話にサチコは三角座りをしながら、ひたすら相槌を打っていた。
「……曲はどうしましょう」
「リアルブルーの! リアルブルーっぽいの!」
「じゃあ、それも探しますか」
情報収集でよさそうな曲を探してくるしかない。
タロとジロが滞在日数を宿に告げている間、サチコは街人が配っていたイベントスケジュールなるものを眺めていた。
「……」
現在分かってる出店のリスト、花火大会のお知らせ、楽器博覧会等など……再びサチコの気分が高まっていく。頬が楽しさに緩んでいた。
「サチコ様、とりあえず宿には長期滞在を……っと」
「やりたいことが多すぎますわ!」
「……さようで」
タロとジロはそれぞれ別の方向を見る。
サチコは意気揚々とイベントスケジュールに印を付けていくのだった。
●
1、出店リスト
ソーセージ系からガンナ・エントラータで獲れた魚介まで食事には困らないのですわ。甘いものも多くありますし……リアルブルーでおなじみのものもあると聞きます。
楽しみですわ!
2、花火大会
花火というものが、どういうものか存じませんけれど……きっとキレイな花を咲かすのでしょうね。規模は小さいらしいですけれど、私、気になりますわ!
3、楽器博覧会
王国で馴染みのある楽器から、東方の楽器まで様々な楽器が持ち寄られるらしいですわ。私にも弾ける楽器があるとよいのですが……。
あ、演目も考えないといけませんわね!
「何だか、楽しげな雰囲気ですわね!」
ガンナ・エントラータにたどり着いたサチコは、周囲から聞こえる音楽に気分が高ぶっていた。道行く街人に話を聞けば、なんでも音楽祭が催されることになったらしい。
「音楽祭!」
楽しげな名前に心躍るサチコは、意気揚々と街の中を進んでいく。
準備中とはいえ、噂を聞きつけた出店が軒を連ねる。方々からは祭で開催される大会に向けて、練習中であろう音楽が聞こえていた。楽しげな音楽に鼻孔をくすぐる肉や甘味の匂いに、サチコはすっかり虜になっていた。
「素晴らしいですわ! わくわくしますわ!」
「サチコ様、あまりはしゃいでは疲れてしまいますよ」
従者のタロが後ろから声をかけるも、サチコのうきうきウォッチングは止まらない。
広場で立ち止まったサチコは、手を叩いて声を上げた。
「そうですわ!」
「……聞きましょう」
嫌な予感を全身に覚えつつ、タロはサチコの言葉を待つ。
少し間を置いてサチコは告げる。
「私も音楽大会に出場します!」
予想通りの回答に、タロは一つため息を吐くのだった。
●
「サチコ様が音楽……」
ジロは宿屋でこの話を聞き、笑いをこらえていた。
「何がおかしいのですわ!?」
「だって、サチコ様……ピアノのレッスンも逃げ出してたじゃないですか」
「そ、それは……目的もなく弾かされるのが嫌だったのですわ。それに……ピアノは、こう、指が……」
指をもじもじさせながら、サチコは反論する。
「まぁ、この準備期間中にサチコ様ができそうな楽器が見つかるかもしれません」
「そうだといいんですがね」
タロとジロとの会話にサチコは三角座りをしながら、ひたすら相槌を打っていた。
「……曲はどうしましょう」
「リアルブルーの! リアルブルーっぽいの!」
「じゃあ、それも探しますか」
情報収集でよさそうな曲を探してくるしかない。
タロとジロが滞在日数を宿に告げている間、サチコは街人が配っていたイベントスケジュールなるものを眺めていた。
「……」
現在分かってる出店のリスト、花火大会のお知らせ、楽器博覧会等など……再びサチコの気分が高まっていく。頬が楽しさに緩んでいた。
「サチコ様、とりあえず宿には長期滞在を……っと」
「やりたいことが多すぎますわ!」
「……さようで」
タロとジロはそれぞれ別の方向を見る。
サチコは意気揚々とイベントスケジュールに印を付けていくのだった。
●
1、出店リスト
ソーセージ系からガンナ・エントラータで獲れた魚介まで食事には困らないのですわ。甘いものも多くありますし……リアルブルーでおなじみのものもあると聞きます。
楽しみですわ!
2、花火大会
花火というものが、どういうものか存じませんけれど……きっとキレイな花を咲かすのでしょうね。規模は小さいらしいですけれど、私、気になりますわ!
3、楽器博覧会
王国で馴染みのある楽器から、東方の楽器まで様々な楽器が持ち寄られるらしいですわ。私にも弾ける楽器があるとよいのですが……。
あ、演目も考えないといけませんわね!
リプレイ本文
●
音楽祭に沸くガンナ・エントラータ、その広場の一つにサチコとハンターたちが集まっていた。
「ヤッホー、サチコ! 音楽大会に出るんだって?」
天竜寺 舞(ka0377)は手を振りながら、サチコに声をかける。サチコがドヤッとした顔で頷くと、
「どんな楽器がいいかな」と思案する。
舞の隣では、マシュマロ・ホイップ(ka6506)が辺りを見渡しながら興奮を押さえきれないでいた。
「お祭りだ―っ!」
芳醇な食べ物の香り、人々の喧騒、どこかからか流れてくる音楽……。
「マシュ、お祭り大好き! いっぱい楽しもっと!」
「同じ阿呆なら踊らにゃ損損、ってな」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)はガイドマップを片手に、弾む声で告げる。ヴォーイの隣では、無料で配られていたマップとノワ(ka3572)がにらめっこしていた。
「掘り出し物の鉱石……あるかなぁ」
「そういう店もあるのかね」
横から骸香(ka6223)がガイドを覗き込む。ほとんどの店は飲食系であったが、お面や石屋といったものも見て取れる。
「祭は店巡りがいいんだよねぇ」
「出店もいいけどー」
夢路 まよい(ka1328)は何かを探すように周囲を見渡す。サチコが、なんですの、と問うと振り返って説明する。
「音楽祭って、たしか王女様がユグディラの女王様とお話をして、開くことになったって聞いたんだけど……」
「確か、そうですわね」
「だったら、ユグディラとか見に来てないのかなー」
まよい自身もネコミミをつけていた。よほど、会いたいのか、ネコミミが気に入ったのか……。
「来てるかもね」
舞もまよいに釣られてふらりと周囲を見渡していた。
んー、と唸りを上げて、まよいは手をもみながら、続けて言う。
「見つけたらもふもふするのになー」
「音楽祭ですかー。にぎやかでいいですね」
「今は準備の祭らしいね。人間は大変だー」
サチコを取り囲む一群から少しだけ距離を置いて、遠藤・恵(ka3940)と玉兎 小夜(ka6009)が立っていた。一枚のガイドを二人で見て辺りを見渡す。ふと、サチコたちの会話が途切れた瞬間を見計らって、恵は「挨拶してくるね」と動いた。
「遠藤・恵でっす。向こうにいるのが、玉兎小夜です。宜しくお願いしますね!」
「よろしくお願いしますわ」
サチコが恵に合わせて、頭を下げる。すると、「じゃあ、私も!」とノワが手を上げた。
「はじめまして、ノワです!」
「……とと、私もご挨拶です」
ノワに続いて、マシュも皆を見渡す。
「ワルサーさん、みなさん、マシュっていいます。今日は一日ご一緒しますっ」
そういって頭を下げたマシュは、顔をあげると箱を一つ取り出した。
「あ、これどうぞですっ」
「これは、チョコですの」
「お近づきの印ですっ!」
もぐもぐとサチコがカカオの香りと甘みに舌鼓を打っていると、舞が手を打ち鳴らした。
「さて……それじゃ、楽器も見つつ、お祭りを楽しもうか!」
●
「りんごあめとかー、わたあめとかー」
出店と人々の間をかいくぐりながら、マシュは夢見心地な表情で呟いていく。サチコが、「りんごあめ、わたあめ」とマシュの言葉を繰り返していると、
「おぉ!」
ノワが声を上げて、大いに反応を示した。
「あんずあめやりんごあめは、リアルブルーのお祭りには定番と聞いてます」
食べてみたいです、と夢見る顔で告げる。
「まるでルビーやルベライトのようにキラキラして、美しい赤色らしくて……それでいて、甘くて美味しいなんて……とても気になります!」
「私も気になりますわ!」
甘いものに走りそうな少女たちの横で骸香がポツリと、
「お腹すいた」と呟く。
「まずは腹ごしらえだ!」
ヴォーイがすかさずマップを見直していると、腕が引っ張られた。まよいがマップを横から奪う勢いで覗き込む。
「リアルブルー仕込みの食べ物なら、あれ、ないかな?」
「あれ?」とサチコが聞くと、まよいは笑顔で告げた。
「たこ焼き!」
一つの出店の前に、サチコたちは集っていた。
「これが噂のたこ焼きかぁ!」
ひときわテンション高めのヴォーイが率先して、たこ焼きを一舟買い上げる。
その後方では、小夜が手にしていたイカ焼きを振りながら、
「たこ焼きだ。たこ焼きがあるよ!」
隣りにいる恵に話しかけていた。テンションが上りすぎて、イカ焼きを落としそうになるとそっと手を添えて、
「ふふ」と笑みを浮かべるのだった。
「あ、ごめん」
イカ焼きのない手は、恵が迷子にならないよう握っていた。もし、落として恵の服を汚してしまったらと考えて、小夜は冷静さを保つ。
それでもイカ焼きを全力で食べる小夜の姿に、恵は愛しさを覚えるのだった。
「あっ、食べる前には胃に優しいお薬を!」
慌ててノワが手製の錠剤を皆に手渡す、大人は二錠、子供は一錠。ふと見れば、骸香が手に焼きそばを複数持ってきていた。
「これも美味しいよ? 食べるぅ?」
怪しげに錠剤を見ていたが、骸香の姿で頷き合う。そして、錠剤を飲むのだった。胃が強くなった気がしつつ、たこ焼きと焼きそばに舌鼓を打ちながら歩きだす。
「タコっていうと、うねうねの脚がいっぱいあるでっかい歪虚を思いだしちゃうね。あれでたこ焼き作ったらどれだけでっかいのが出来るかな?」
まよいがふと、そんな話を出すとマシュが盛大に首を横に振った。
「うぅ、魚も食べられないのに、そんな歪虚……食べられるわけないですよ」
ちなみにマシュはタコなしをもらっていた。リアルブルー由来の出店以外では、やはり魚が多い。
フィッシュバーガーを探していた舞は、サンドウィッチを見つけていた。ムニエルが使われたサンドは、塩っ気とハーブ味が強い。
「これは、これで」とサチコと分け合う。
カルパッチョに煮物とある中で、舞は鯛の焼き物に目をつけた。頭付きの鯛をしげしげと長め、サチコにめでたいときには鯛を食べる話をする。
「そうそう、サチコは鯛の鯛って知ってる?」
首を振るサチコを前に、舞は鯛の身をきれいに削いでいく。やがて、鯛の形をした骨が二つ出てきた。
「これが鯛の鯛、縁起物なんだよ。えーと、この水借りていい?」
きれいに洗い終わると、一つをサチコに手渡す。
「はい、これプレゼント」
嬉しそうなサチコを横目に、舞は笑みを浮かべる。その隣では、りんごあめにかぶりつきながらノワが、骨といえば、と口を開く。
「リアルブルーには、翡翠のような骨を持つ魚がいるらしいですね」
「いろんなお魚がいるんだね」
と、まよいは舞とサチコと三人で鯛を平らげていた。小休止とベンチに腰掛けていると、マシュが唐突に声を上げた。
「あれ! あれ、すごいです!」
興奮気味に指差すのは、飴職人の屋台だった。熱い飴を練り上げて、見事に形を作っていく。
「ユグディラ作ってくれよぉ」
ヴォーイがリクエストを出すと、職人はニッと笑って猫の形に作り上げていく。見事な造形美とほのかな甘い香りに、全員の顔が綻ぶ。
楽しんでいる様子のサチコに、骸香はすっと告げる。
「祭りって歩くだけでも楽しいんだよ。なんだろう空気感かな?」
サチコの視線が骸香に向くと、ケラケラと笑い声を上げた。
「それに食い物が美味しいでしょ? 食べなきゃ損」
そして、新たな魚を骸香は持ってくるのだった。
少し遠巻きに、恵と小夜もショーの様子を見ていた。
「すごいですね」
「解体ショーもあったし、大賑わいだね。肉より魚の方が好きだから、大歓迎だ」
「そうなのですか」
「兎、肉好きだと思われてるけど、魚のほうが好きだよ!」
今、二人の手に握られているのは魚ではなく南国果実を使ったゼリーである。それぞれ別の果実を用いてあり、恵は黄色、小夜は赤い色のゼリーを手にしていた。
「はい、あーん」
「……あーん」
「おいしい?」
「美味しいよ。恵さんが食べさせてくれるから、なおさら」
お互いのゼリーの味を比べながら、しかも、食べ合いっ子をしていた。二人の様子を見せつけられるゼリー屋の主人が、世を儚んだというが、それはまた、別のお話。
●
楽器博覧会が行われている広場は、ガンナ・エントラータの中でも音楽がひときわ響いていた。
「ところでサチコはどういう曲が演りたいの?」
目移りしまくるサチコに、舞がそっと問いかける。唸り声をあげながら、考えるサチコはとりあえず、
「リアルブルーっぽいのですわ!」と答える。
リアルブルーの歌かぁ、と隣でまよいが復唱する。
「私は、あんまり流行りのお歌とかは聴いたことがなかったんだよね」
「そうなんですの?」
「『パパ』に教えてもらった子供向けのお歌が、少し歌えるだけなの。だから、私もちょっと楽しみ」
演目もさることながら、何を弾くのかが問題でもある。いまだ、サチコやマシュは視線が定まらないでいた。
「俺としちゃあ、サチコさまは打楽器系が似合うんじゃねーかと思う訳よ」
そう主張するのは、ヴォーイである。かといって、和太鼓は勇壮さと響きはいいけれど、演奏している感じではない。
「小鼓は?」
すかさず、舞がどこからか鼓を持ってきてサチコに手渡す。舞自身も一つ持って、お手本を見せる。
「よーーっ」という掛け声とともに、ぽんっと軽い音が響く。掛け声が重要だと説き伏せ、
「さぁ、実際に叩いてみよう」と促す。
サチコも恥ずかしがりながら掛け声をして、軽い音を叩き出す。
「演奏って感じじゃないですわ」
「本来は紐で調整できるんだけど、難しいしねぇ」
「かといって、木琴鉄筋はありきたり……っと」
ヴォーイが目をつけたのはスティールパンだった。磨かれた金属の美しさ、独特の音が特徴的だ。
「ど……どこをどう叩けば……」
「物は試しで一回やってみましょうよ」
マシュがサチコの背中を押し、パンの前に座らせる。ゆっくりとバチを手にして、タンタンと叩いてみる。
「叩く位置で音が変わるんだぜ」
ヴォーイもどこがどの音かはわかっていないが、適当に叩いてみる。音楽っぽい何かが流れる中、
ピョオオオ~……とスッポ抜けるような音が響いた。
「尺八かな?」
「珍しいものもあるんだねぇ」
舞と骸香が音に反応して振り返れば、小夜が吹いたばかりの尺八を睨みつけていた。
「……おっちゃん、これ返すよ」
東方から流れてきた面白そうな楽器……ということだったが、間の抜けた音しか出なかった。心なしか、思いっきり吹いたら疲れた気もする。
「吹奏楽は体力使いますからね」
「そうなの?」
えぇ、と恵は頷く。
「私も身体動かすのは好きなんですけどね。元チアリーディング部でしたし」
吹奏楽の話も、そのツテで聞いたらしい。
「これでもエースだったんですよー」
つらつらと述べられる恵の昔語りに、小夜は静かに相槌を打つ。一番の楽器は恵の声かもしれないな、等と思う小夜であった。
「ここは大きな楽器、思い切ってパイプオルガンなどどうでしょう!」
急に提案をしてきたのは、ノワだった。そして、
「あ、でも、扱いやすさを重視するなら太鼓やマラカスも……マラカスって楽器でしたっけ」
話題を切り替えたのもノワだった。マラカスをシャラシャラ振っていると、ヴォーイがさっきのパンを持ってきた。
「何人かで演奏したり、他の楽器と合わせるのもいいかもな!」
そういいながら、どこかから持ってきた「ネコをふんじゃった」の楽譜を開く。ユグディラと絡みがある音楽祭で、この選択。
「練習、練習♪」
「できてきたら、本番はこんな感じで……」
そういいながら、舞が某三代目怪盗のテーマを三味線で奏でる。リアルブルー出身の数人が、思わず振り返る、あれだ。
「何だか、男の浪漫を感じるぜ」
「この曲、いいですわね!」
ヴォーイやサチコといったクリムゾンウェスト組にも好評だった。だが、三味線の合間に挟まるマラカスの音……。
「実際にやるなら、楽器に合わせてアレンジしたいですね」
マシュやノワを交えて、方向性や楽器を改めて探っていく。結局、アニメっぽい=リアルブルーっぽいアレンジを加えた曲を演奏することが決まった。
「楽器は和楽器系でそろえますわ!」
おぉ、と声をあげたのはまよいだ。
「どんなものになるか、楽しみだね~」
「ワルサーさんはチャレンジ精神があるんですねー」
そして、マシュが感心したように頷くのだった。
●
「たーまやー」
「た、たーまやー」
腹の底に響くドンという音が鳴るたび、舞が率先して声を上げる。見よう見まねでマシュも声を上げていく。
「かぎやー」
「かーぎやー……ですわ」
次第にその声は、サチコたちから全く知らない人々にも伝染していく。舞曰く、「リアルブルーの伝統」はガンナ・エントラータに一つの流行になるのだった。
「綺麗ですね。鉱石が輝いているようです」
「それに、音がドンとかぱちぱちとか楽しいです!」
ノワとマシュは、それぞれ途中で買ったりんご飴やあんず飴を食べながら花火を鑑賞していた。骸香もまた追加の焼きそばをサチコと分けながら食べている。
そこから少し離れて、恵と小夜が花火を見上げていた。
「小さめとは聞いてたけど、立派なもんじゃない」
線香花火程度のものを想像していたらしい。夜空を彩る花火をしげしげと見つめ、ぽつりと小夜は呟く。
「花火か……ま、今まで花火をちゃんと見れなかったからね」
「そうですね」
「私が私になってから、初めての花火だけど、いろいろあったなぁ」
10ヶ月程度なのにね、と恵と小夜は視線を交わす。ドンとひときわ大きな花火が夜空を照らす。ゆっくりと、恵の手を引き寄せてしっかりと掴む。
「ずっと、一緒にいられると嬉しいです」
「いろいろあったし、ベストルート……とはいえないけど」
再び花火の音が声を掻き消す。周りでは、たまややかぎやと声が上がっていた。その声に紛れるように、けれど、恵には届くように小夜は告げる。
「うん、ハッピールートなんじゃないかな」
そして、空を見上げる。
花火はまだ、終わりそうにない。
「この花火が終わったら、猛特訓だね」
舞にそんなことを言われ、サチコは「え」と素で聞き返していた。すかさず、まよいが「どんな音楽になるんだろうね」と畳み掛ける。
「私も楽しみです!」
追い打ちとばかりに、マシュが天然にいい笑顔でサチコを見つめた。
「が、がんばりますわ~!」
花火に拳を突き上げて、サチコはハイテンションに宣言をかます。その様子をヴォーイやノワ、骸香が笑みを浮かべて眺めているのだった。
音楽祭に沸くガンナ・エントラータ、その広場の一つにサチコとハンターたちが集まっていた。
「ヤッホー、サチコ! 音楽大会に出るんだって?」
天竜寺 舞(ka0377)は手を振りながら、サチコに声をかける。サチコがドヤッとした顔で頷くと、
「どんな楽器がいいかな」と思案する。
舞の隣では、マシュマロ・ホイップ(ka6506)が辺りを見渡しながら興奮を押さえきれないでいた。
「お祭りだ―っ!」
芳醇な食べ物の香り、人々の喧騒、どこかからか流れてくる音楽……。
「マシュ、お祭り大好き! いっぱい楽しもっと!」
「同じ阿呆なら踊らにゃ損損、ってな」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)はガイドマップを片手に、弾む声で告げる。ヴォーイの隣では、無料で配られていたマップとノワ(ka3572)がにらめっこしていた。
「掘り出し物の鉱石……あるかなぁ」
「そういう店もあるのかね」
横から骸香(ka6223)がガイドを覗き込む。ほとんどの店は飲食系であったが、お面や石屋といったものも見て取れる。
「祭は店巡りがいいんだよねぇ」
「出店もいいけどー」
夢路 まよい(ka1328)は何かを探すように周囲を見渡す。サチコが、なんですの、と問うと振り返って説明する。
「音楽祭って、たしか王女様がユグディラの女王様とお話をして、開くことになったって聞いたんだけど……」
「確か、そうですわね」
「だったら、ユグディラとか見に来てないのかなー」
まよい自身もネコミミをつけていた。よほど、会いたいのか、ネコミミが気に入ったのか……。
「来てるかもね」
舞もまよいに釣られてふらりと周囲を見渡していた。
んー、と唸りを上げて、まよいは手をもみながら、続けて言う。
「見つけたらもふもふするのになー」
「音楽祭ですかー。にぎやかでいいですね」
「今は準備の祭らしいね。人間は大変だー」
サチコを取り囲む一群から少しだけ距離を置いて、遠藤・恵(ka3940)と玉兎 小夜(ka6009)が立っていた。一枚のガイドを二人で見て辺りを見渡す。ふと、サチコたちの会話が途切れた瞬間を見計らって、恵は「挨拶してくるね」と動いた。
「遠藤・恵でっす。向こうにいるのが、玉兎小夜です。宜しくお願いしますね!」
「よろしくお願いしますわ」
サチコが恵に合わせて、頭を下げる。すると、「じゃあ、私も!」とノワが手を上げた。
「はじめまして、ノワです!」
「……とと、私もご挨拶です」
ノワに続いて、マシュも皆を見渡す。
「ワルサーさん、みなさん、マシュっていいます。今日は一日ご一緒しますっ」
そういって頭を下げたマシュは、顔をあげると箱を一つ取り出した。
「あ、これどうぞですっ」
「これは、チョコですの」
「お近づきの印ですっ!」
もぐもぐとサチコがカカオの香りと甘みに舌鼓を打っていると、舞が手を打ち鳴らした。
「さて……それじゃ、楽器も見つつ、お祭りを楽しもうか!」
●
「りんごあめとかー、わたあめとかー」
出店と人々の間をかいくぐりながら、マシュは夢見心地な表情で呟いていく。サチコが、「りんごあめ、わたあめ」とマシュの言葉を繰り返していると、
「おぉ!」
ノワが声を上げて、大いに反応を示した。
「あんずあめやりんごあめは、リアルブルーのお祭りには定番と聞いてます」
食べてみたいです、と夢見る顔で告げる。
「まるでルビーやルベライトのようにキラキラして、美しい赤色らしくて……それでいて、甘くて美味しいなんて……とても気になります!」
「私も気になりますわ!」
甘いものに走りそうな少女たちの横で骸香がポツリと、
「お腹すいた」と呟く。
「まずは腹ごしらえだ!」
ヴォーイがすかさずマップを見直していると、腕が引っ張られた。まよいがマップを横から奪う勢いで覗き込む。
「リアルブルー仕込みの食べ物なら、あれ、ないかな?」
「あれ?」とサチコが聞くと、まよいは笑顔で告げた。
「たこ焼き!」
一つの出店の前に、サチコたちは集っていた。
「これが噂のたこ焼きかぁ!」
ひときわテンション高めのヴォーイが率先して、たこ焼きを一舟買い上げる。
その後方では、小夜が手にしていたイカ焼きを振りながら、
「たこ焼きだ。たこ焼きがあるよ!」
隣りにいる恵に話しかけていた。テンションが上りすぎて、イカ焼きを落としそうになるとそっと手を添えて、
「ふふ」と笑みを浮かべるのだった。
「あ、ごめん」
イカ焼きのない手は、恵が迷子にならないよう握っていた。もし、落として恵の服を汚してしまったらと考えて、小夜は冷静さを保つ。
それでもイカ焼きを全力で食べる小夜の姿に、恵は愛しさを覚えるのだった。
「あっ、食べる前には胃に優しいお薬を!」
慌ててノワが手製の錠剤を皆に手渡す、大人は二錠、子供は一錠。ふと見れば、骸香が手に焼きそばを複数持ってきていた。
「これも美味しいよ? 食べるぅ?」
怪しげに錠剤を見ていたが、骸香の姿で頷き合う。そして、錠剤を飲むのだった。胃が強くなった気がしつつ、たこ焼きと焼きそばに舌鼓を打ちながら歩きだす。
「タコっていうと、うねうねの脚がいっぱいあるでっかい歪虚を思いだしちゃうね。あれでたこ焼き作ったらどれだけでっかいのが出来るかな?」
まよいがふと、そんな話を出すとマシュが盛大に首を横に振った。
「うぅ、魚も食べられないのに、そんな歪虚……食べられるわけないですよ」
ちなみにマシュはタコなしをもらっていた。リアルブルー由来の出店以外では、やはり魚が多い。
フィッシュバーガーを探していた舞は、サンドウィッチを見つけていた。ムニエルが使われたサンドは、塩っ気とハーブ味が強い。
「これは、これで」とサチコと分け合う。
カルパッチョに煮物とある中で、舞は鯛の焼き物に目をつけた。頭付きの鯛をしげしげと長め、サチコにめでたいときには鯛を食べる話をする。
「そうそう、サチコは鯛の鯛って知ってる?」
首を振るサチコを前に、舞は鯛の身をきれいに削いでいく。やがて、鯛の形をした骨が二つ出てきた。
「これが鯛の鯛、縁起物なんだよ。えーと、この水借りていい?」
きれいに洗い終わると、一つをサチコに手渡す。
「はい、これプレゼント」
嬉しそうなサチコを横目に、舞は笑みを浮かべる。その隣では、りんごあめにかぶりつきながらノワが、骨といえば、と口を開く。
「リアルブルーには、翡翠のような骨を持つ魚がいるらしいですね」
「いろんなお魚がいるんだね」
と、まよいは舞とサチコと三人で鯛を平らげていた。小休止とベンチに腰掛けていると、マシュが唐突に声を上げた。
「あれ! あれ、すごいです!」
興奮気味に指差すのは、飴職人の屋台だった。熱い飴を練り上げて、見事に形を作っていく。
「ユグディラ作ってくれよぉ」
ヴォーイがリクエストを出すと、職人はニッと笑って猫の形に作り上げていく。見事な造形美とほのかな甘い香りに、全員の顔が綻ぶ。
楽しんでいる様子のサチコに、骸香はすっと告げる。
「祭りって歩くだけでも楽しいんだよ。なんだろう空気感かな?」
サチコの視線が骸香に向くと、ケラケラと笑い声を上げた。
「それに食い物が美味しいでしょ? 食べなきゃ損」
そして、新たな魚を骸香は持ってくるのだった。
少し遠巻きに、恵と小夜もショーの様子を見ていた。
「すごいですね」
「解体ショーもあったし、大賑わいだね。肉より魚の方が好きだから、大歓迎だ」
「そうなのですか」
「兎、肉好きだと思われてるけど、魚のほうが好きだよ!」
今、二人の手に握られているのは魚ではなく南国果実を使ったゼリーである。それぞれ別の果実を用いてあり、恵は黄色、小夜は赤い色のゼリーを手にしていた。
「はい、あーん」
「……あーん」
「おいしい?」
「美味しいよ。恵さんが食べさせてくれるから、なおさら」
お互いのゼリーの味を比べながら、しかも、食べ合いっ子をしていた。二人の様子を見せつけられるゼリー屋の主人が、世を儚んだというが、それはまた、別のお話。
●
楽器博覧会が行われている広場は、ガンナ・エントラータの中でも音楽がひときわ響いていた。
「ところでサチコはどういう曲が演りたいの?」
目移りしまくるサチコに、舞がそっと問いかける。唸り声をあげながら、考えるサチコはとりあえず、
「リアルブルーっぽいのですわ!」と答える。
リアルブルーの歌かぁ、と隣でまよいが復唱する。
「私は、あんまり流行りのお歌とかは聴いたことがなかったんだよね」
「そうなんですの?」
「『パパ』に教えてもらった子供向けのお歌が、少し歌えるだけなの。だから、私もちょっと楽しみ」
演目もさることながら、何を弾くのかが問題でもある。いまだ、サチコやマシュは視線が定まらないでいた。
「俺としちゃあ、サチコさまは打楽器系が似合うんじゃねーかと思う訳よ」
そう主張するのは、ヴォーイである。かといって、和太鼓は勇壮さと響きはいいけれど、演奏している感じではない。
「小鼓は?」
すかさず、舞がどこからか鼓を持ってきてサチコに手渡す。舞自身も一つ持って、お手本を見せる。
「よーーっ」という掛け声とともに、ぽんっと軽い音が響く。掛け声が重要だと説き伏せ、
「さぁ、実際に叩いてみよう」と促す。
サチコも恥ずかしがりながら掛け声をして、軽い音を叩き出す。
「演奏って感じじゃないですわ」
「本来は紐で調整できるんだけど、難しいしねぇ」
「かといって、木琴鉄筋はありきたり……っと」
ヴォーイが目をつけたのはスティールパンだった。磨かれた金属の美しさ、独特の音が特徴的だ。
「ど……どこをどう叩けば……」
「物は試しで一回やってみましょうよ」
マシュがサチコの背中を押し、パンの前に座らせる。ゆっくりとバチを手にして、タンタンと叩いてみる。
「叩く位置で音が変わるんだぜ」
ヴォーイもどこがどの音かはわかっていないが、適当に叩いてみる。音楽っぽい何かが流れる中、
ピョオオオ~……とスッポ抜けるような音が響いた。
「尺八かな?」
「珍しいものもあるんだねぇ」
舞と骸香が音に反応して振り返れば、小夜が吹いたばかりの尺八を睨みつけていた。
「……おっちゃん、これ返すよ」
東方から流れてきた面白そうな楽器……ということだったが、間の抜けた音しか出なかった。心なしか、思いっきり吹いたら疲れた気もする。
「吹奏楽は体力使いますからね」
「そうなの?」
えぇ、と恵は頷く。
「私も身体動かすのは好きなんですけどね。元チアリーディング部でしたし」
吹奏楽の話も、そのツテで聞いたらしい。
「これでもエースだったんですよー」
つらつらと述べられる恵の昔語りに、小夜は静かに相槌を打つ。一番の楽器は恵の声かもしれないな、等と思う小夜であった。
「ここは大きな楽器、思い切ってパイプオルガンなどどうでしょう!」
急に提案をしてきたのは、ノワだった。そして、
「あ、でも、扱いやすさを重視するなら太鼓やマラカスも……マラカスって楽器でしたっけ」
話題を切り替えたのもノワだった。マラカスをシャラシャラ振っていると、ヴォーイがさっきのパンを持ってきた。
「何人かで演奏したり、他の楽器と合わせるのもいいかもな!」
そういいながら、どこかから持ってきた「ネコをふんじゃった」の楽譜を開く。ユグディラと絡みがある音楽祭で、この選択。
「練習、練習♪」
「できてきたら、本番はこんな感じで……」
そういいながら、舞が某三代目怪盗のテーマを三味線で奏でる。リアルブルー出身の数人が、思わず振り返る、あれだ。
「何だか、男の浪漫を感じるぜ」
「この曲、いいですわね!」
ヴォーイやサチコといったクリムゾンウェスト組にも好評だった。だが、三味線の合間に挟まるマラカスの音……。
「実際にやるなら、楽器に合わせてアレンジしたいですね」
マシュやノワを交えて、方向性や楽器を改めて探っていく。結局、アニメっぽい=リアルブルーっぽいアレンジを加えた曲を演奏することが決まった。
「楽器は和楽器系でそろえますわ!」
おぉ、と声をあげたのはまよいだ。
「どんなものになるか、楽しみだね~」
「ワルサーさんはチャレンジ精神があるんですねー」
そして、マシュが感心したように頷くのだった。
●
「たーまやー」
「た、たーまやー」
腹の底に響くドンという音が鳴るたび、舞が率先して声を上げる。見よう見まねでマシュも声を上げていく。
「かぎやー」
「かーぎやー……ですわ」
次第にその声は、サチコたちから全く知らない人々にも伝染していく。舞曰く、「リアルブルーの伝統」はガンナ・エントラータに一つの流行になるのだった。
「綺麗ですね。鉱石が輝いているようです」
「それに、音がドンとかぱちぱちとか楽しいです!」
ノワとマシュは、それぞれ途中で買ったりんご飴やあんず飴を食べながら花火を鑑賞していた。骸香もまた追加の焼きそばをサチコと分けながら食べている。
そこから少し離れて、恵と小夜が花火を見上げていた。
「小さめとは聞いてたけど、立派なもんじゃない」
線香花火程度のものを想像していたらしい。夜空を彩る花火をしげしげと見つめ、ぽつりと小夜は呟く。
「花火か……ま、今まで花火をちゃんと見れなかったからね」
「そうですね」
「私が私になってから、初めての花火だけど、いろいろあったなぁ」
10ヶ月程度なのにね、と恵と小夜は視線を交わす。ドンとひときわ大きな花火が夜空を照らす。ゆっくりと、恵の手を引き寄せてしっかりと掴む。
「ずっと、一緒にいられると嬉しいです」
「いろいろあったし、ベストルート……とはいえないけど」
再び花火の音が声を掻き消す。周りでは、たまややかぎやと声が上がっていた。その声に紛れるように、けれど、恵には届くように小夜は告げる。
「うん、ハッピールートなんじゃないかな」
そして、空を見上げる。
花火はまだ、終わりそうにない。
「この花火が終わったら、猛特訓だね」
舞にそんなことを言われ、サチコは「え」と素で聞き返していた。すかさず、まよいが「どんな音楽になるんだろうね」と畳み掛ける。
「私も楽しみです!」
追い打ちとばかりに、マシュが天然にいい笑顔でサチコを見つめた。
「が、がんばりますわ~!」
花火に拳を突き上げて、サチコはハイテンションに宣言をかます。その様子をヴォーイやノワ、骸香が笑みを浮かべて眺めているのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/19 08:43:55 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/10/21 22:58:44 |