ゲスト
(ka0000)
炎魔アルフォンス
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/25 19:00
- 完成日
- 2016/11/05 17:38
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「……ハンター」
鷲鼻の老人がいった。血色にぬめ光る目は魔性のものだ。
「聞いたことがあるわ」
優美な女がうなずいた。この女の目もまた赤光を放っている。
どれほど前のことだろうか。近くの街を吸血鬼が襲った。すでに三体。その三体はハンターたちに斃されたのであるが、彼女たちは残る吸血鬼たちなのであった。
「フレディたちを殺ったのは、そのハンターなの?」
女の目に殺意がよぎった。そうだ、と老人はこたえた。
「間違いない。奴らはハンターと名乗っておった」
「なんでもいいじゃねえか」
にたりと男が笑った。狂犬の目つきをしたその男もまた吸血鬼であった。
「俺たちのゲームを邪魔しやがるんなら、そのハンターって奴もぶつ殺すだけだ」
「お前に殺ることができるのか?」
嘲笑ったのは美貌の少年であった。
「何っ。俺が人間ごときに負けるってのか?」
男の腕が炎に包まれた。魔法の炎だ。男は炎を操ることが可能なのだった。
「こいつでハンターを焼き殺してやるよ」
「アルフォンス!」
女が呼び止めた。が、アルフォンスと呼ばれた吸血鬼の足はとまらない。そして――。
●
異変は突如起こった。石畳をゆく女の身体が炎に包まれたのだ。
場所は場所はゾンネンシュトラール帝国辺境の街。中規模の大きさをもっている。三体の吸血鬼より破壊された街であった。
悲鳴をあげて人々が逃げ出した。すると男が叫んだ。アルフォンスである。
「ハンターを呼べ!」
アルフォンスは哄笑をあげると、逃げ惑う人々を見回した。そして告げた。
「ハンターが来るまで街の奴らを燃やしてやる」
アルフォンスの手から炎が迸りでた。魔法の炎だ。炎は逃げ遅れた小さな女の子を包み込み、その身体を焼き焦がしはじめた。
「……ハンター」
鷲鼻の老人がいった。血色にぬめ光る目は魔性のものだ。
「聞いたことがあるわ」
優美な女がうなずいた。この女の目もまた赤光を放っている。
どれほど前のことだろうか。近くの街を吸血鬼が襲った。すでに三体。その三体はハンターたちに斃されたのであるが、彼女たちは残る吸血鬼たちなのであった。
「フレディたちを殺ったのは、そのハンターなの?」
女の目に殺意がよぎった。そうだ、と老人はこたえた。
「間違いない。奴らはハンターと名乗っておった」
「なんでもいいじゃねえか」
にたりと男が笑った。狂犬の目つきをしたその男もまた吸血鬼であった。
「俺たちのゲームを邪魔しやがるんなら、そのハンターって奴もぶつ殺すだけだ」
「お前に殺ることができるのか?」
嘲笑ったのは美貌の少年であった。
「何っ。俺が人間ごときに負けるってのか?」
男の腕が炎に包まれた。魔法の炎だ。男は炎を操ることが可能なのだった。
「こいつでハンターを焼き殺してやるよ」
「アルフォンス!」
女が呼び止めた。が、アルフォンスと呼ばれた吸血鬼の足はとまらない。そして――。
●
異変は突如起こった。石畳をゆく女の身体が炎に包まれたのだ。
場所は場所はゾンネンシュトラール帝国辺境の街。中規模の大きさをもっている。三体の吸血鬼より破壊された街であった。
悲鳴をあげて人々が逃げ出した。すると男が叫んだ。アルフォンスである。
「ハンターを呼べ!」
アルフォンスは哄笑をあげると、逃げ惑う人々を見回した。そして告げた。
「ハンターが来るまで街の奴らを燃やしてやる」
アルフォンスの手から炎が迸りでた。魔法の炎だ。炎は逃げ遅れた小さな女の子を包み込み、その身体を焼き焦がしはじめた。
リプレイ本文
●
時刻はすでに夜。が、街を包んでいるのは真闇ではなかった。
夜空と街は赤黒く染まっていた。炎に灼かれているのだ。
「吸血鬼の火遊び」
漂う焦げ臭い臭気に顔をしかめつつ、クオン・サガラ(ka0018)は飄然と呟いた。
戦場の匂い。それをクオンは知っている。ナンバーゼロというコードネームで呼ばれ、連合宙軍に出向していた民間の宇宙飛行士であったからだ。あの赤黒い炎の中で、今まさに人命が消えようとしている。
「炎を苦にしない吸血鬼ですか……」
クオンはわずかに表情を引き締めた。火中の戦闘は時をかけるわけにはいかない。時間との競争になりそうであった。
「くっ」
柊 真司(ka0705)という名の若者が、その金色の瞳に怒りの炎を燃え上がらせた。
「俺達と戦いなら直接来ればいいのに、わざわざ街の人を襲いやがって……頭にくるぜ」
忌々しげに真司は吐き捨てた。
無理もない。彼を含めた八人のハンターのうち、今回の吸血鬼事件のすべてに関わっているのは真司のみであったからだ。今回の吸血鬼の挑戦状は彼に叩きつけられたものといってよい。
「まずは吸血鬼の居所だが」
龍崎・カズマ(ka0178)が、その鋭い目を遠くにむけた。火の手はそこかしこにあがっており、吸血鬼の居所を特定するのは困難そうである。
が、やらなければならない。無辜の民の命はカズマたちの双肩にかかっているのだから。
八人のハンターたちは駆け出した。すると逃げてくる人々に出会った。
その中の一人。恐怖に顔をゆがめた女を冷然た風貌の若者が呼びとめた。
「待ってくれ。聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
女が足をとめた。
「なんだい、聞きたいことって。街は今、大変なんだよ」
「それはわかっている。炎を使う歪虚が現れたんだろ。そいつはどこにいる?」
「あっちだけど」
背後を指差し、女は問うた。
「そんなことを聞いてどうするんだい。あんたら、何者なの?」
「俺の名はザレム・アズール(ka0878)。ハンターだ」
「ハンターだって」
女の顔色が変わった。ザレムを睨みつける。
「ハンター……そうか。あんたらがハンターか。あんたらのせいで」
「私たちの?」
二人の女が顔を見合わせた。
一人は二十歳ほど。金髪蒼瞳の優雅な身ごなしの娘だ。
もう一人は二十代後半。どこなく気だるげで、とんでもなく美しい娘であった。
アメリア・フォーサイス(ka4111)とアルスレーテ・フュラー(ka6148)。ともにハンターであった。
「そう。あんたらのせいだ。あの化物はハンターを探してた」
女はハンターたちを責めた。
が、これはお門違いというものである。ハンターがいるので吸血鬼が襲ってきたのではない。吸血鬼を斃すためにハンターが雇われたのだから。
が、えてして被害者というものは自分勝手な獲物を求める。己の憂さを晴らすため、責任を追求する対象が必要なのだった。
「……必ず吸血鬼は斃す」
苦しげに告げると、その冷徹そうな若者は女が指し示した方にむかって駆け出した。
鞍馬 真(ka5819)。闇を狩る者であった。
●
「あれか」
街の北部辺り。紅蓮の炎に黒々と浮かぶ影があった。
足をとめたのは無頼の気風を漂わせた娘だ。
神薙玲那(ka6173)。八人めのハンターだ。
「大の男が街のど真ん中で火遊びとは大人げねーな」
この場合において、むしろ玲那は嬉しげに笑った。吸血鬼と戦えることが楽しくてたまらぬらしい。格式ばったことが嫌いなため退魔師である実家から出奔した彼女らしいといえば、いえる。
「ああもう、燃えてばっかで暑苦しい。燃えるのは恋心だけで十分だってば……」
鬱陶しそうにアルスレーテがごちた。そして哄笑をあげる人影を睨みつけた。
「あの炎を出す暑苦しいバカを何とかすればいいのよね? 汗かいてダイエットになるのはいいんだけど、限度があるからね。さっさと消え――あっ」
アルスレーテの口から慌てた声がもれた。玲那の眼前、展開した魔法陣から突如漆黒の塊が噴出したからだ。
「ぬっ」
影の弾丸ともいうべき塊に撃たれ、黒影は振り向いた。陰になり、その顔はよく見えない。が、血色の目のみ赤く光っていた。
「あぁん、お前吸血鬼なん? じゃあ話が早ぇ。あたしは化け物退治が大好きなんだ、勝負しようぜ!」
「来たかよ、ハンター」
ニンマリと影は笑ったようだった。
次の瞬間だ。闇を切り裂く閃光が走った。咄嗟に跳び退ろうとしたが間に合わず、閃光は玲那の脇腹を撃ち、燃え上がった。熱風が吹き荒れ、火の粉に照らされた闇の中に一瞬、異形の姿が浮かんだ。
「呼んだのはお前だろう?」
カズマがいうと、ケケケ、異形は笑った。
「そうだ。お前らを皆殺しにするためにな」
「望み通り相手してやるよ、吸血鬼風情が。お前も前の三人と同じ場所に送ってやる」
「ほう」
異形の目がぎらりと光った。
「やはりマティスたちを殺ったのはお前らかよ」
「そうだ。確かに俺たちが殺したな」
ザレムはこたえた。そして今度は問うた。
「吸血鬼。名前を聞いても良いか?」
「ああ。教えてやる。俺の名はアルフォンスだ」
「アルフォンス……か。――何故、こんなことをする?」
ザレムはさらに問うた。歪虚が人間を殺す場合、マテリアルを奪うという理由が多い。が、アルフォンスを含めた四人の吸血鬼の虐殺ぶりは、その理由だけではないような気が彼にはしていた。
「何故、だと?」
ケケケとアルフォンスは哄笑をあげた。
「吸血鬼が人間を殺すのに理由があるかよ。いや」
アルフォンスはニンマリと笑うと、
「あるさ。俺たちが街の奴らを殺す理由が。――それはゲームだ」
「ゲーム、ですって」
アルスレーテが眉をひそめた。
「ゲームってどういうことなの?」
「誰が、どれだけ多くの人間を殺すかっていうゲームさ。まあ、同じ殺すなら楽しみがある方がいいからな。まあ、今のところは全員お前らに殺られちまったから失格だが――俺は違うぜ。まずはお前たちを殺る。それから街の奴らを血祭りだ」
「……そんなことのために」
やや離れた建物の屋根の上。ルーナマーレ――スナイパーライフルでアルフォンスをポイントしたアメリアが唇を噛みしめた。
刹那である。再びアルフォンスは炎を放った。空を灼きつつ紅蓮の炎が疾り――空ではじかり、散った。石畳で無数の炎塊がはねる。
「――やるじゃねえか」
アルフォンスがニヤリとした。
彼は見たのだ。ザレムが盾――セラフィム・アッシュで炎を防いだ様を。
セラフィム・アッシュはグラズヘイム王国騎士団御用達のブランド『グラズヘイム・シュバリエ』の名工が、古都アークエルスの魔術師と共同開発を行ったという、新たな魔法鍛冶ライン発の逸品であった。火属性を持っており、アルフォンスの炎を防ぎ得たのも当然といえた。
「確か以前もこの辺りでしたね。つくづく縁のある……。被害に遭われている方には申し訳ないですけど、少し楽しみな私もいる事に罪悪感を感じます」
己を戒める言葉をつぶやきつつ、しかしアメリアの目と指は機械の精密さで敵の姿をとらえ、攻撃の機会を窺っていた。
「ここがあなたにとっての、人生の行き止まりだったという事で。いえ、歪虚だともう死んでますね……。もう一度死んでもらうということで」
伏した姿勢でアメリアはトリガーをひいた。
銃声が夜気を叩き、マズルフラッシュが闇を砕いた。撃ちだされた熱弾がアルフォンスにぶち込まれる。さすがの吸血鬼も躱すことは不可能だ。
アルフォンスの額が爆ぜた。通常人ならば即死である。が、アルフォンスは通常人ではない。
頭蓋を半壊させながらもアルフォンスは跳び退った。次々にアメリアは弾丸を放つが、吸血鬼の機動力をふるうアルフォンスを捉えることは難しい。
すると回避の過程でアルフォンスは炎を放った。今度はアメリアが狙撃される番である。
慌ててアメリアは立ち上がった。が、遅い。屋根が爆発したように砕け、燃え上がった。爆風にアメリアの身体がはねとばされる。屋根を転がり、落下。石畳に叩きつけられた。
●
「アメリア!」
アルスレーテとカズマが駆け出した。アメリアの元へ。
アメリアは石畳の上に転がっていた。カズマが抱き起こすと息を吐いた。生きているのだ。
「私に任せて」
アルスレーテがいうと、カズマはアメリアを石畳においた。
「わかった。俺は逃げ遅れた人を避難させる」
告げると、カズマは駆け出した。彼には応急手当の技術がある。きっと助けられる命があるはずだ。
「アメリア」
アルスレーテから光がのびた。彼女の体内で練り上げられたマテリアルである。
母なるミゼリア。まるで幼子を抱いた母親のようにアルスレーテは対象者の傷を癒すことができるのだった。
「……狂犬めが」
冷たく吐き捨てる真が駆け、吸血鬼へと押し迫った。駆けつけ様に抜刀。残像を生じさせる神速の一太刀を見舞った。
得物はオートMURAMASA。柄に特殊モーターを搭載し、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増さしめるという代物た。さらにはマテリアルで威力を増してある。さしものアルフォンスもただではすまない。
「ぎゃあ」
反射的にアルフォンスは炎を放った。咄嗟に真は横に跳んだ。が、躱しきれない。真の身が炎に包まれた。
「ひゃっはは。ざまあみやがれ。うっ」
アルフォンスの背に光の弾丸が撃ち込まれた。着弾の衝撃にアルフォンスがたたらを踏む。
「やろう」
はじかれたようにアルフォンスが振り向いた。その憎悪の視線の先、玲那がニヤリと笑ってみせた。
「後ろはおるすだったようだな。真っ直ぐにしか飛ばせねーのかよ? そういうの三流っていうんだぜ?」
「こっちにもいるぞ」
流れる煙に目が痛むが、構うことなく真司はベンティスカ――雪の精霊の加護を受けた、白銀の銃身を持つ魔導拳銃を手にした。アルフォンスをポイント。撃つ。
着弾の衝撃に、わずかにアルフォンスはよろめいた。が、まだだ。
「なるほど。確かにしぶといですね」
クオンもまたベンティスカのトリガーをひいた。するとアルフォンスは飛鳥のように跳び退った。一気に十数メートルの距離を。まさに魔性の跳躍力であった。クオンの放った弾丸が空しく闇を流れすぎていく。
「てめえら、調子のってんじゃねえぞ。人間の分際で」
アルフォンスの手から灼熱の炎が迸りでた。咄嗟に玲那が跳び退り、躱す。
「馬鹿が。真っ直ぐにしか飛ばせねーのはの三流だっていっただろうが」
玲那が嘲笑った。が、すぐにその笑みは凍りついた。続けざまに炎が疾ってきたからだ。さすがにこれは避け得ない。炎に玲那が包まれた。
「ぎゃはははは。炎を撃ちまくってやるぜ。てめえらに防ぐことができかよ」
炎を噴出しつつ、アルフォンスは哄笑をあげた。
●
怪我を癒したアメリアは再びルーナマーレをかまえた。が、魔性の機動力で不規則に動くアルフォンスを狙撃することは困難だ。
「それでも狙い撃つ」
アメリアはトリガーをひいた。空を裂いてとんだ弾丸はしかしアルフォンスの足をえぐるにとどまっている。が、アルフォンス傷つけたことは確かだ。それで動きを止める敵でもないが、隙を作るのは十分だった。
影に潜み横手より飛び出したカズマの剣撃は防がれることもなく、完璧な太刀筋のままにアルフォンスに深手を負わせた。肩口からみぞおちまで裂かれ、アルフォンスがかすれた嗚咽を漏らす。
身を捻り、アルフォンスは腕を振るった。それは最も近くにいたクオンへと向けられた。業火を纏わせた拳が腹にめりこみ、彼の体躯を火に包む。途端に、生きたまま肉が焼かれる嫌な臭気が辺りに漂った。意識が遠退きそうになる苦痛を、クオンは唇を噛みしめこらえる。
淡い光が闇を切り裂いた。優しく暖かい光が。
アルスレーテか放った光は魔炎を払拭し、焼け爛れたクオンの肌を炭化の跡も無く、奇麗に治癒していく。
その時だ。傷を癒したしたミヤコが先端部に様々な機械への接続端子が付いた銀色の杖を掲げた。機杖、エレクトロンだ。
杖の先から光の球が撃ち出された。光球は輝きながら宙を馳せ、アルフォンスーの首筋に撃ち込まれた。鮮やかに白い長髪の流線を残し玲那が後退り、すかさずそこへ真が立った。ざん、と地を足で掴み、腰を落とすと両の腕に力をこめる。並ならぬマテリアルが彼の体内を駆け巡る。夜気を震わすほどの咆哮と共に真は斬撃を放った。
のけぞるアルフォンスの肌に亀裂が走る。しぶいた黒血が闇をさらに黒々と染めた。かろうじて踏みとどまるが、ハンターの追撃は終わらない。
「ひっ」
アルフォンスの目に怯えの光がよぎった。辺りに視線をはしらせる。
人質を探している。
そうと気づいたザレムは幅広で長大な蒼緑色の刀身を持つ巨大なサーベル――ゴーム・グラスをかざして踏込んだ。炎を切り裂きながら疾った昏海色の大剣は、アルフォンスの左腕を文字通り粉砕。インパクトの反動をばねに、ザレムは後ろへと身を反らせた。
瞬間、クオンは魔法を発動させた。マテリアルによって構築された術式陣が前方に展開。出現した無数の氷柱がアルフォンスめがけて飛んだ。
咄嗟にアルフォンスは炎を放出した。が、全ての氷柱を溶かすことは不可能だ。幾本かの氷柱がアルフォンスの身に叩きつけられた。
身体を凍てつかせたアルフォンスの口から断末魔とでも言うべき雄叫びが発せられた。同時に地獄の業火にも似た炎を放つ。
それは仲間を傷を癒そうとしていたアルスレーテに迫った。が――。
ザレムの前で炎は散った。盾によって。
侮れない一撃に腕を焼かれ、取り落としそうになる盾を、ザレムは必死で支えた。あたりに立ち込める、恐るべき熱気。誰もが血と汗にまみれ、吐き気をもよおすほど濃密な戦意と、緊張が充満している。 だが、その時はとうとうやって来た。真司が馳せる。その手の試作光斬刀――MURASAMEブレイドが瞬間的にとてつもなく巨大化した。
煌く刃が豪風とともに宙に閃く。流星の如く振り下ろされた刃が吸血鬼の頭部を両断した。人外の声で悲鳴を上げ、仰臥した吸血鬼は、数歩後退ると、乾いた音を立ててバラバラに崩れ落ちていった。
「……どうやら終わったようだな」
玲那がほっと息をついた。するとカズマが首を振った。
「まだだ」
カズマは顎をしゃくってみせた。まだ炎が街を焼いている。助けるべき者が残っているのだ。
いきかけて真が足をとめた。はじかれたように振り返る。
視線が、あった。刺すような視線が。
「……まだ終わりじゃない」
ぼそりと真は呟いた。
時刻はすでに夜。が、街を包んでいるのは真闇ではなかった。
夜空と街は赤黒く染まっていた。炎に灼かれているのだ。
「吸血鬼の火遊び」
漂う焦げ臭い臭気に顔をしかめつつ、クオン・サガラ(ka0018)は飄然と呟いた。
戦場の匂い。それをクオンは知っている。ナンバーゼロというコードネームで呼ばれ、連合宙軍に出向していた民間の宇宙飛行士であったからだ。あの赤黒い炎の中で、今まさに人命が消えようとしている。
「炎を苦にしない吸血鬼ですか……」
クオンはわずかに表情を引き締めた。火中の戦闘は時をかけるわけにはいかない。時間との競争になりそうであった。
「くっ」
柊 真司(ka0705)という名の若者が、その金色の瞳に怒りの炎を燃え上がらせた。
「俺達と戦いなら直接来ればいいのに、わざわざ街の人を襲いやがって……頭にくるぜ」
忌々しげに真司は吐き捨てた。
無理もない。彼を含めた八人のハンターのうち、今回の吸血鬼事件のすべてに関わっているのは真司のみであったからだ。今回の吸血鬼の挑戦状は彼に叩きつけられたものといってよい。
「まずは吸血鬼の居所だが」
龍崎・カズマ(ka0178)が、その鋭い目を遠くにむけた。火の手はそこかしこにあがっており、吸血鬼の居所を特定するのは困難そうである。
が、やらなければならない。無辜の民の命はカズマたちの双肩にかかっているのだから。
八人のハンターたちは駆け出した。すると逃げてくる人々に出会った。
その中の一人。恐怖に顔をゆがめた女を冷然た風貌の若者が呼びとめた。
「待ってくれ。聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
女が足をとめた。
「なんだい、聞きたいことって。街は今、大変なんだよ」
「それはわかっている。炎を使う歪虚が現れたんだろ。そいつはどこにいる?」
「あっちだけど」
背後を指差し、女は問うた。
「そんなことを聞いてどうするんだい。あんたら、何者なの?」
「俺の名はザレム・アズール(ka0878)。ハンターだ」
「ハンターだって」
女の顔色が変わった。ザレムを睨みつける。
「ハンター……そうか。あんたらがハンターか。あんたらのせいで」
「私たちの?」
二人の女が顔を見合わせた。
一人は二十歳ほど。金髪蒼瞳の優雅な身ごなしの娘だ。
もう一人は二十代後半。どこなく気だるげで、とんでもなく美しい娘であった。
アメリア・フォーサイス(ka4111)とアルスレーテ・フュラー(ka6148)。ともにハンターであった。
「そう。あんたらのせいだ。あの化物はハンターを探してた」
女はハンターたちを責めた。
が、これはお門違いというものである。ハンターがいるので吸血鬼が襲ってきたのではない。吸血鬼を斃すためにハンターが雇われたのだから。
が、えてして被害者というものは自分勝手な獲物を求める。己の憂さを晴らすため、責任を追求する対象が必要なのだった。
「……必ず吸血鬼は斃す」
苦しげに告げると、その冷徹そうな若者は女が指し示した方にむかって駆け出した。
鞍馬 真(ka5819)。闇を狩る者であった。
●
「あれか」
街の北部辺り。紅蓮の炎に黒々と浮かぶ影があった。
足をとめたのは無頼の気風を漂わせた娘だ。
神薙玲那(ka6173)。八人めのハンターだ。
「大の男が街のど真ん中で火遊びとは大人げねーな」
この場合において、むしろ玲那は嬉しげに笑った。吸血鬼と戦えることが楽しくてたまらぬらしい。格式ばったことが嫌いなため退魔師である実家から出奔した彼女らしいといえば、いえる。
「ああもう、燃えてばっかで暑苦しい。燃えるのは恋心だけで十分だってば……」
鬱陶しそうにアルスレーテがごちた。そして哄笑をあげる人影を睨みつけた。
「あの炎を出す暑苦しいバカを何とかすればいいのよね? 汗かいてダイエットになるのはいいんだけど、限度があるからね。さっさと消え――あっ」
アルスレーテの口から慌てた声がもれた。玲那の眼前、展開した魔法陣から突如漆黒の塊が噴出したからだ。
「ぬっ」
影の弾丸ともいうべき塊に撃たれ、黒影は振り向いた。陰になり、その顔はよく見えない。が、血色の目のみ赤く光っていた。
「あぁん、お前吸血鬼なん? じゃあ話が早ぇ。あたしは化け物退治が大好きなんだ、勝負しようぜ!」
「来たかよ、ハンター」
ニンマリと影は笑ったようだった。
次の瞬間だ。闇を切り裂く閃光が走った。咄嗟に跳び退ろうとしたが間に合わず、閃光は玲那の脇腹を撃ち、燃え上がった。熱風が吹き荒れ、火の粉に照らされた闇の中に一瞬、異形の姿が浮かんだ。
「呼んだのはお前だろう?」
カズマがいうと、ケケケ、異形は笑った。
「そうだ。お前らを皆殺しにするためにな」
「望み通り相手してやるよ、吸血鬼風情が。お前も前の三人と同じ場所に送ってやる」
「ほう」
異形の目がぎらりと光った。
「やはりマティスたちを殺ったのはお前らかよ」
「そうだ。確かに俺たちが殺したな」
ザレムはこたえた。そして今度は問うた。
「吸血鬼。名前を聞いても良いか?」
「ああ。教えてやる。俺の名はアルフォンスだ」
「アルフォンス……か。――何故、こんなことをする?」
ザレムはさらに問うた。歪虚が人間を殺す場合、マテリアルを奪うという理由が多い。が、アルフォンスを含めた四人の吸血鬼の虐殺ぶりは、その理由だけではないような気が彼にはしていた。
「何故、だと?」
ケケケとアルフォンスは哄笑をあげた。
「吸血鬼が人間を殺すのに理由があるかよ。いや」
アルフォンスはニンマリと笑うと、
「あるさ。俺たちが街の奴らを殺す理由が。――それはゲームだ」
「ゲーム、ですって」
アルスレーテが眉をひそめた。
「ゲームってどういうことなの?」
「誰が、どれだけ多くの人間を殺すかっていうゲームさ。まあ、同じ殺すなら楽しみがある方がいいからな。まあ、今のところは全員お前らに殺られちまったから失格だが――俺は違うぜ。まずはお前たちを殺る。それから街の奴らを血祭りだ」
「……そんなことのために」
やや離れた建物の屋根の上。ルーナマーレ――スナイパーライフルでアルフォンスをポイントしたアメリアが唇を噛みしめた。
刹那である。再びアルフォンスは炎を放った。空を灼きつつ紅蓮の炎が疾り――空ではじかり、散った。石畳で無数の炎塊がはねる。
「――やるじゃねえか」
アルフォンスがニヤリとした。
彼は見たのだ。ザレムが盾――セラフィム・アッシュで炎を防いだ様を。
セラフィム・アッシュはグラズヘイム王国騎士団御用達のブランド『グラズヘイム・シュバリエ』の名工が、古都アークエルスの魔術師と共同開発を行ったという、新たな魔法鍛冶ライン発の逸品であった。火属性を持っており、アルフォンスの炎を防ぎ得たのも当然といえた。
「確か以前もこの辺りでしたね。つくづく縁のある……。被害に遭われている方には申し訳ないですけど、少し楽しみな私もいる事に罪悪感を感じます」
己を戒める言葉をつぶやきつつ、しかしアメリアの目と指は機械の精密さで敵の姿をとらえ、攻撃の機会を窺っていた。
「ここがあなたにとっての、人生の行き止まりだったという事で。いえ、歪虚だともう死んでますね……。もう一度死んでもらうということで」
伏した姿勢でアメリアはトリガーをひいた。
銃声が夜気を叩き、マズルフラッシュが闇を砕いた。撃ちだされた熱弾がアルフォンスにぶち込まれる。さすがの吸血鬼も躱すことは不可能だ。
アルフォンスの額が爆ぜた。通常人ならば即死である。が、アルフォンスは通常人ではない。
頭蓋を半壊させながらもアルフォンスは跳び退った。次々にアメリアは弾丸を放つが、吸血鬼の機動力をふるうアルフォンスを捉えることは難しい。
すると回避の過程でアルフォンスは炎を放った。今度はアメリアが狙撃される番である。
慌ててアメリアは立ち上がった。が、遅い。屋根が爆発したように砕け、燃え上がった。爆風にアメリアの身体がはねとばされる。屋根を転がり、落下。石畳に叩きつけられた。
●
「アメリア!」
アルスレーテとカズマが駆け出した。アメリアの元へ。
アメリアは石畳の上に転がっていた。カズマが抱き起こすと息を吐いた。生きているのだ。
「私に任せて」
アルスレーテがいうと、カズマはアメリアを石畳においた。
「わかった。俺は逃げ遅れた人を避難させる」
告げると、カズマは駆け出した。彼には応急手当の技術がある。きっと助けられる命があるはずだ。
「アメリア」
アルスレーテから光がのびた。彼女の体内で練り上げられたマテリアルである。
母なるミゼリア。まるで幼子を抱いた母親のようにアルスレーテは対象者の傷を癒すことができるのだった。
「……狂犬めが」
冷たく吐き捨てる真が駆け、吸血鬼へと押し迫った。駆けつけ様に抜刀。残像を生じさせる神速の一太刀を見舞った。
得物はオートMURAMASA。柄に特殊モーターを搭載し、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増さしめるという代物た。さらにはマテリアルで威力を増してある。さしものアルフォンスもただではすまない。
「ぎゃあ」
反射的にアルフォンスは炎を放った。咄嗟に真は横に跳んだ。が、躱しきれない。真の身が炎に包まれた。
「ひゃっはは。ざまあみやがれ。うっ」
アルフォンスの背に光の弾丸が撃ち込まれた。着弾の衝撃にアルフォンスがたたらを踏む。
「やろう」
はじかれたようにアルフォンスが振り向いた。その憎悪の視線の先、玲那がニヤリと笑ってみせた。
「後ろはおるすだったようだな。真っ直ぐにしか飛ばせねーのかよ? そういうの三流っていうんだぜ?」
「こっちにもいるぞ」
流れる煙に目が痛むが、構うことなく真司はベンティスカ――雪の精霊の加護を受けた、白銀の銃身を持つ魔導拳銃を手にした。アルフォンスをポイント。撃つ。
着弾の衝撃に、わずかにアルフォンスはよろめいた。が、まだだ。
「なるほど。確かにしぶといですね」
クオンもまたベンティスカのトリガーをひいた。するとアルフォンスは飛鳥のように跳び退った。一気に十数メートルの距離を。まさに魔性の跳躍力であった。クオンの放った弾丸が空しく闇を流れすぎていく。
「てめえら、調子のってんじゃねえぞ。人間の分際で」
アルフォンスの手から灼熱の炎が迸りでた。咄嗟に玲那が跳び退り、躱す。
「馬鹿が。真っ直ぐにしか飛ばせねーのはの三流だっていっただろうが」
玲那が嘲笑った。が、すぐにその笑みは凍りついた。続けざまに炎が疾ってきたからだ。さすがにこれは避け得ない。炎に玲那が包まれた。
「ぎゃはははは。炎を撃ちまくってやるぜ。てめえらに防ぐことができかよ」
炎を噴出しつつ、アルフォンスは哄笑をあげた。
●
怪我を癒したアメリアは再びルーナマーレをかまえた。が、魔性の機動力で不規則に動くアルフォンスを狙撃することは困難だ。
「それでも狙い撃つ」
アメリアはトリガーをひいた。空を裂いてとんだ弾丸はしかしアルフォンスの足をえぐるにとどまっている。が、アルフォンス傷つけたことは確かだ。それで動きを止める敵でもないが、隙を作るのは十分だった。
影に潜み横手より飛び出したカズマの剣撃は防がれることもなく、完璧な太刀筋のままにアルフォンスに深手を負わせた。肩口からみぞおちまで裂かれ、アルフォンスがかすれた嗚咽を漏らす。
身を捻り、アルフォンスは腕を振るった。それは最も近くにいたクオンへと向けられた。業火を纏わせた拳が腹にめりこみ、彼の体躯を火に包む。途端に、生きたまま肉が焼かれる嫌な臭気が辺りに漂った。意識が遠退きそうになる苦痛を、クオンは唇を噛みしめこらえる。
淡い光が闇を切り裂いた。優しく暖かい光が。
アルスレーテか放った光は魔炎を払拭し、焼け爛れたクオンの肌を炭化の跡も無く、奇麗に治癒していく。
その時だ。傷を癒したしたミヤコが先端部に様々な機械への接続端子が付いた銀色の杖を掲げた。機杖、エレクトロンだ。
杖の先から光の球が撃ち出された。光球は輝きながら宙を馳せ、アルフォンスーの首筋に撃ち込まれた。鮮やかに白い長髪の流線を残し玲那が後退り、すかさずそこへ真が立った。ざん、と地を足で掴み、腰を落とすと両の腕に力をこめる。並ならぬマテリアルが彼の体内を駆け巡る。夜気を震わすほどの咆哮と共に真は斬撃を放った。
のけぞるアルフォンスの肌に亀裂が走る。しぶいた黒血が闇をさらに黒々と染めた。かろうじて踏みとどまるが、ハンターの追撃は終わらない。
「ひっ」
アルフォンスの目に怯えの光がよぎった。辺りに視線をはしらせる。
人質を探している。
そうと気づいたザレムは幅広で長大な蒼緑色の刀身を持つ巨大なサーベル――ゴーム・グラスをかざして踏込んだ。炎を切り裂きながら疾った昏海色の大剣は、アルフォンスの左腕を文字通り粉砕。インパクトの反動をばねに、ザレムは後ろへと身を反らせた。
瞬間、クオンは魔法を発動させた。マテリアルによって構築された術式陣が前方に展開。出現した無数の氷柱がアルフォンスめがけて飛んだ。
咄嗟にアルフォンスは炎を放出した。が、全ての氷柱を溶かすことは不可能だ。幾本かの氷柱がアルフォンスの身に叩きつけられた。
身体を凍てつかせたアルフォンスの口から断末魔とでも言うべき雄叫びが発せられた。同時に地獄の業火にも似た炎を放つ。
それは仲間を傷を癒そうとしていたアルスレーテに迫った。が――。
ザレムの前で炎は散った。盾によって。
侮れない一撃に腕を焼かれ、取り落としそうになる盾を、ザレムは必死で支えた。あたりに立ち込める、恐るべき熱気。誰もが血と汗にまみれ、吐き気をもよおすほど濃密な戦意と、緊張が充満している。 だが、その時はとうとうやって来た。真司が馳せる。その手の試作光斬刀――MURASAMEブレイドが瞬間的にとてつもなく巨大化した。
煌く刃が豪風とともに宙に閃く。流星の如く振り下ろされた刃が吸血鬼の頭部を両断した。人外の声で悲鳴を上げ、仰臥した吸血鬼は、数歩後退ると、乾いた音を立ててバラバラに崩れ落ちていった。
「……どうやら終わったようだな」
玲那がほっと息をついた。するとカズマが首を振った。
「まだだ」
カズマは顎をしゃくってみせた。まだ炎が街を焼いている。助けるべき者が残っているのだ。
いきかけて真が足をとめた。はじかれたように振り返る。
視線が、あった。刺すような視線が。
「……まだ終わりじゃない」
ぼそりと真は呟いた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/23 10:22:26 |
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相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/10/25 05:09:23 |