ゲスト
(ka0000)
【HW】光の夢
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/31 09:00
- 完成日
- 2016/11/16 01:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
Hallo! ようこそWhite Rabbitの夢芝居屋へ!
あたしゃ夢の案内人の白兎ですよ。
あぁ、時計なんて持ってないし、遅刻もしてませんけどね!
ここではあなたのみたい夢を見せてあげます。
どんな夢がお望みですか?
明るい夢? 楽しい夢? まだ見ぬ夢?
何だっていいんですよ、あなたのお望みの夢を叶えてあげましょう!
……
…………
……………………
あぁ、そうそう。一つだけ条件があるのを忘れていました。
『この夢では“光”がキーワードです』
あなたが見るのは闇夜に輝く一等星?
それとも、真昼の太陽の下の物語?
それとも……只管に眩しくて眩しくて何も見えない白い闇……?
ウシャシャシャシャ。
さぁ、あたしに見せて下さい。
あなたが見る『光の夢』を。
ウシャシャシャシャ。
……ただし、夢を見て、現実に帰ったときに
「嗚呼!! もっと夢の中にいたかった!! 夢の中に帰りたい!!」
……なんて、現実に絶望することになっても、あたしゃなぁんの責任も取りませんからね!
ウシャシャシャシャ。
ウシャシャシャシャ。
ウシャシャシャシャシャシャ。
――あぁ、これは夢だ。
あなたはふとした瞬間にそれに気付いた。
だって、この光景は知っている。この先の顛末も、知っている。
それは変えられない過去。
それは繰り返し見る同じ夢。
現実とは違う、不確かなセカイ。
起きたとき、夢を見ていたことを覚えていられるだろうか?
真っ白な空間で、あなたは手を伸ばす。
――あぁ、これは夢だ。
あたしゃ夢の案内人の白兎ですよ。
あぁ、時計なんて持ってないし、遅刻もしてませんけどね!
ここではあなたのみたい夢を見せてあげます。
どんな夢がお望みですか?
明るい夢? 楽しい夢? まだ見ぬ夢?
何だっていいんですよ、あなたのお望みの夢を叶えてあげましょう!
……
…………
……………………
あぁ、そうそう。一つだけ条件があるのを忘れていました。
『この夢では“光”がキーワードです』
あなたが見るのは闇夜に輝く一等星?
それとも、真昼の太陽の下の物語?
それとも……只管に眩しくて眩しくて何も見えない白い闇……?
ウシャシャシャシャ。
さぁ、あたしに見せて下さい。
あなたが見る『光の夢』を。
ウシャシャシャシャ。
……ただし、夢を見て、現実に帰ったときに
「嗚呼!! もっと夢の中にいたかった!! 夢の中に帰りたい!!」
……なんて、現実に絶望することになっても、あたしゃなぁんの責任も取りませんからね!
ウシャシャシャシャ。
ウシャシャシャシャ。
ウシャシャシャシャシャシャ。
――あぁ、これは夢だ。
あなたはふとした瞬間にそれに気付いた。
だって、この光景は知っている。この先の顛末も、知っている。
それは変えられない過去。
それは繰り返し見る同じ夢。
現実とは違う、不確かなセカイ。
起きたとき、夢を見ていたことを覚えていられるだろうか?
真っ白な空間で、あなたは手を伸ばす。
――あぁ、これは夢だ。
リプレイ本文
●真昼の星 真昼の月
父様のコレクションの着ぐるみに埋もれて日溜まりで微睡む。
そっと母様が毛布を掛けに来てくれるのを知っているから、私、エステル・クレティエ(ka3783)は母さまの腕の中に飛び込んだ。
兄様達が下の私達に譲ってくれてたの知ってたけど、譲られる方も気を遣うのよ?
でもこれは夢だから。
紛れもない私の小さい頃の記憶。
とても幸せな……今だって幸せだけど。
でも、だから、いいでしょう? 独り占めしたって。
「ねぇ母さま ひざまくらして?」
驚いたように目を丸くした母さまがふわりと微笑った気配がした。
でもその顔は影になって見えない。
瓜二つだと言われ続けた顔。
左右違う瞳の色は同じ碧と青だけど、母さまと私は左右の色が逆で、鏡写しのようだねって。
「母さま、母さま」
その膝に甘えて頬を寄せる。
影の向こう、母さまの顔は、ちゃんと私と同じ?
よく見ようと顔を上げたけれど、ザァッとモノクロの砂嵐が母さまの顔を隠す。
“私”は母さまと同じでいる?
同じ顔、同じ薬草師で魔術師で……
私はどこまで母さまと同じになれる?
私はどこまで母さまと同じじゃなきゃいけないんだろう。
知ってるわ。
母さまは凄い人でも無い。ただ、懸命に生きているひとりの人。
同じじゃなきゃいけない、なんて。そんな事、ある筈ないのも知っているのに……
私は“私”?
わたしは、だれ?
兄様。
兄様だって、あんなに憧れた父様と同じ道を諦めて外へ出たのに。
道。
私の道を照らすひかりは何かしら。
きっとそれは、ささやかで優しいひかり。
だから私が見ている道は、決めた筈の道は時に真昼の強い光に滲んで見えにくくて。
真昼の星は見えないの。
どれほど見つめても、探しても、そこにあるのだとしても。
それでも光は温かくて。
光そのものは直接見られないけれど、光に照らされた世界は見える。
日溜まりのぬくもりと匂いを胸一杯に吸い込んで。
目を閉じて、母さまの膝のあたたかさを感じて身を委ねる。
目を開けたらまた頑張れるように。
「だから、目が覚めるまで、こうしていてね、母さま」
――あらあら、甘えん坊さんね
母さまの優しい声。優しく頭を撫でるやわらかな手のひら。
小さな子どものふりをして、甘えたまま。
私は眠りに就いた。
●満天
本当は夢なんて見たくない。
だって「玉兎 小夜(ka6009)」にとっての夢は前の自分と向き合うもの。
怖いもの。恐ろしいもの。
でも、今日の夢は違うみたい。
何もない闇。
何もないからこそ、落ち着く。
真っ暗で何もなくて、まるで私みたい。
怖くないのならいい。
膝を抱いて、目を閉じる。
ぼんやりとした気配に目を開けると、私の回りに光の玉がいっぱいいた。
最初に見えたのは青色の光。
そっと近付くとその光は一層輝いた。
私を導いてくれていつまでもずっと強く光を放って輝いてくれる。
南十字星みたいな強い光。
次に私の近くを漂ってたのは灰色の光。
ふわりふわりと手が届きそうで届かない所を漂っている。
ちょっとくすんじゃって、けどだからこそ暖かい光。
よりそってくれてるけど見てたらとっても悲しくなる光。
少し離れたところには消え入りそうな紫色の光。
さみしそうで、だけど激しくなくてどこか落ち着かせてくれる光。
近付いたら離れていきそうだから、そっと見守る。
ずっといてほしいんだけどどこか儚い光。
最後はその反対隣に漂っている茶色の光。
とっても暖かくて、手を伸ばして握りたくなる光。
そっと触れても逃げず、すっぽりと腕の中に収まった。
何時までも抱えていたい優しい光。
そのほかにも鋭い光を放ってたり妖しく揺らめいてたり滲むように静かに輝いてたり。
いっぱいいっぱい私の周りを漂って、徐々に上に向かってとんでいった。
闇に浮かんでも光達は私に強くその存在感を示して存在しつづけてくれてる。
この闇は、いつの間にか満天の星空みたいだった。
うん。これはきっと、夢。
私の本当の夢はもっと血に塗れた悲しいものだったはず。
だけど、この何もなかったはずの闇に優しい光たちがいっぱい浮かんでる。
夢を見るようになって、初めて心地よくて泣きそうになる。
いつも見る怖い夢とは違う、あたたかくていとおしい夢。
だからこそ、起きたら忘れてしまうような夢だとおもう。
なら、私はまた泣いていいかな。
安心させるために戦うって決めたけど。
約束を守るために負けないって決めたけど。
心配かけないために強くなるって決めたけど。
一緒にいるために守り続けるって決めたけど。
夢の中なら、“私”のために泣いていいよね?
「う、ぁ……」
私はきっと何もないし、何物でもない。
けど、私をみんなが覚えててくれるから私は“私”
そんな感謝で溢れそうになっちゃう幸せな夢。
「ぁぁぁぁぁ……っ!」
溢れる涙は暖かくて優しくて、子どもみたいに大きな声を上げて泣いた。
しょっぱいはずの涙は甘くて、あぁ夢なんだなぁって思ったら少し笑えた。
大丈夫、大丈夫。
これは夢だから!
起きたら、きっと忘れているから。
起きたら、いつもの“私”に戻るから。
起きたら忘れてまた馬鹿をやるんだよ!
飛んで跳ねて歪虚の首を刎ねて駆けるんだ!
●桜舞う、桜散る
「はいはいさっさと座る。最後の学級通信配るぞ! ……あ。これ数学プリントだ。ちょっと取りに戻るから待っててくれ」
「ちょっとー、神代センセー、最後ぐらいびしっと決めてよねー」
どっと笑いに包まれる教室を飛び出し、神代 誠一(ka2086)は慌てて職員室へと取って返す。
「一年間有り難うございました!」
「先生のクラスで良かったです」
「あぁ、俺も楽しかったよ。お前ら無茶苦茶すぎて、すっげー大変だったけどな!」
笑う誠一にクラス委員長の旭丘と東海から差し出されたのはクラス全員の寄せ書きと花束。
「え? 何だよ……有り難うな」
思わぬサプライズに誠一は一瞬言葉を失った後、滲んできた涙を生徒達から隠す為に背を向けた。
「えー? 何何? 先生泣いちゃった? 感激しちゃった???」
「うっせ! 目にゴミが入っただけだ……察しろ!」
誠一の叫びに生徒達が笑って、そして一部の生徒がもらい泣きして鼻を啜った。
チャイムが鳴る。
快晴の空の下、校庭へと飛び出して行く生徒達に誠一も続いた。
「せーちゃん写真撮ろー!」
「滝、先生を付けなさい」
「ハイハイ、じゃーいくよー。ハイ、チーズ」
電子シャッター音の後、画面を見た滝が笑った。
「うわっ、ウケル。せーちゃん先生、目半分閉じちゃってるじゃん」
「はぁ?! ちょっ、もう一回もう一回」
「もー仕方ないなぁ。いくよー、ハイ、チーズ」
「先生女子に囲まれてめっちゃ鼻の下伸ばしてんの」
「何だ、豊川羨ましいか」
「はぁ? 全然そんなことねーし」
「今日ぐらい素直になれよなー」
軽く脳天にチョップを入れた後、いがぐり頭をガシガシと撫で回す。
「いてっ! ちょ、やめろって、セットが崩れるっ!」
「この頭のどこにセットした跡が!?」
「あ、いたいた、神代先生」
笑い合っていた中、呼ばれて振り返れば、隣の担任である岡崎が困り顔で神代に耳打ちをした。
「は!?」
誠一は報せにみるみる目を見開いて、豊川を解放すると直ぐ様走り出した。
向かった先は駐車場。朝愛車を駐めた場所には見た事の無い斬新なデザインの車が駐まっている。
「え。嘘だろ、誰だよ俺の新車勝手にデコった奴!! あああこれ絵具か!?」
誠一は自分の叫び声で目が覚めた。
「……はは、夢、か」
最後に受け持った生徒達。出られなかった卒業式。彼らは元気だろうか。今頃希望通りの進路を歩めているだろうか。
くしゃりと前髪を握り込み、ふと横を見れば生徒達との楽しげなクラス写真をぼやけた視界が捉え、視線を隣に移せば小隊仲間との写真が並んでいる。
小さく苦笑を零す。カーテンの隙間から覗く外はまだ暗い。
誠一は目尻の涙を枕に押しつけると、布団を被り直して硬く目を瞑って祈る。
――俺は、案外こっちで上手くやれているから、どうか、お前らも笑っていますように。
●知識の泉
気がつけば天も地もない明るくも無く、かといって暗くも無い空間を漂っていた。
風に吹かれ、波にもまれ、落ちたり、上がったり。
『何故、何も見えないのでしょうか』
そうして漂う内に生まれた疑問から、自分が肉体を持つ成人男性であり、天央 観智(ka0896)であることを思い出す。
思い出したとき、目の前で扉が開いたように唐突に明るくなり、思わず観智は目を瞑った。
そろりと開いたそこには見覚えがあった。
「此処は……?! あの時の『知識の泉』?! また、来れたのでしょうか? 精霊……精霊は、何処でしょうかね?」
その場には見覚えがあった。ハンターになる過程で精霊と契約する際に訪れた『知識の泉』。
周囲を見回すと、自分の背後に契約した精霊がいた。
普段、覚醒時に見る薄ぼんやりとした幻では無い、実体を伴っている。
『……』
精霊の声が聞こえた。その岩に染み入るような言葉は観智の耳には聞き取れない音階と言語だったが、それでも迷子の子供が、ようやく探し続けていた母親の姿を見たときのように観智は心の底から安堵した笑みを浮かべた。
「色々と……危ない目にも何度か遭いましたし、色々と雑事も多い……ですけれどね。それでも、あの契約から僕は……色々と、知識と言いますか……理も追えていますし、まだまだ解らない事も多い……ですけれど、それは……愉しみでもありますしね。今……と言いますか、それに至る基盤とも言える物が出来た……とも言えますからね。『ありがとう御座います』と、ずっと……直接逢って、言いたかったんですよ? 姿は、幻影として……よく見ていましたけれど、中々……意思疎通出来る事は、無かった……ですからね」
観智の言葉に精霊は表情一つ変えること無く、頷くとまた何事か唇を小さく動かし音を紡ぐ。
無音の世界にはその音しか無い。いや、音と言うよりそれは光の帯のようにも感じる。もしくはしゃぼん玉が浮いて漂い、消える。その一連を光の文字で示すように。
それでも精霊が何を言っているのか、理解出来る。それが観智にはたまらなく嬉しくて、らしくもなく歓声を上げたいような、泣きたいような笑いたいような、溢れる感情の嵐と『知りたい』という根幹の飢餓に襲われ、うまく言葉を紡げない。
『……』
精霊は観智が泉から溢れ出る知識全てを得たがっている事を知っていた。だから、好きなだけ見ていけばいいと言ってくれた。
だが、“持ち出しは厳禁”だと付け加えられた。ここで得た知識を目覚めたときには覚えていないだろうと。
その言葉に愕然としながらも、観智はそれでも、たとえこの瞬間だけでも理の深淵に触れる事が出来るなら、了承して泉に触れた。
横にいてくれる精霊のお陰か、あの時のような奔流にもみくちゃにされることも無く観智は知識の大海へと身を沈めた。
整然と連なる因果律。精霊と語り合いながら知れど手繰れど底の無い知識の海を泳ぎ、全身で世界の理を知る。
楽しくて嬉しくて精霊に、契約をしたあの時のように手を伸ばし――
「……あれ?」
観智はベッドの上で目覚めた。
伸ばされた手は虚空を彷徨い、胸の上に力なく落ちた。
「ああ……『夢』でしたか? まぁ……ちょっと、残念でもありますけれど……予行練習が出来たと思えば、悪くは無い……ですね」
観智は小さく笑うとカーテンを開けた。
――あぁ。世界は今日も美しい。
●白日夢
天は青く高く、白い雲が穏やかに流れていく。
アリア・セリウス(ka6424)はイェジド特有のふかふかとした毛並みを丁寧にブラッシングしていく。
「気持ちいい? コーディリア」
問えばコーディリアは大きな欠伸でそれに答える。
それをみてアリアも静かに微笑む。
抜けた毛が秋風に乗って飛んで行くのを見送って、アリアはブラシを鞄にしまうと、すっかり寝息を立てているコーディリアにそっともたれ掛かった。
……ずっと昔、こんな事をよくしていたような……
秋の陽気とコーディリアの寝息に誘われうとうとと微睡み始めた。
――これは夢(ねがい)? それとも、過去(いのり)?
「どうした? ぼうっとして」
「え?」
兄様の声に私はハッと顔を上げた。
手元でティーカップがソーサーと当たって音を立てる。
「ごめんなさい、何のお話でした?」
「お前はどこかおっとりしたところがあるからなぁ」
兄様は呆れたように微笑むと、誇りと剣についての話しだと教えてくれた。
そうだ、私は何をぼうっとしていたのだろう。
「弱くていい。……誰かの心を包み、守れる歌であれと。その為に剣より心を磨こう。何時も暖かい声で歌えるように」
(……そうね、何時も笑顔で優しい言葉を諳んじて並べれば、どんな絶望をも払える筈)
兄様の言葉に私は頷くと、横にいた姉様が静かに口を開いた。
「強くありましょう。誰かの憧れであるために。目指す光を剣に灯せば、道を踏み外して落ちる人なんていない。誰かの心の中の月光……誰かの強さでありたいもの」
(……そうよ、素敵な自分であれば、胸を張って誰かを引っ張っていける)
憧れて追いつきたい人がいるように、憧れて追いかけて欲しい人がいる……それは、きっと素敵な事。
「ま、アリアには憧れて追いかけられたい恋心なんて解らないか」
姉様の言葉に私は肯定の苦笑を返して、少し冷めた紅茶を一口飲んだ。
足元で大型犬が寝そべって、食べ物を強請ってくる。
「太るわよ」といいながらお菓子をあげると、それを見咎めた母様にお小言を貰う。
素直にごめんなさいと告げると、母様得意料理のジャガイモのスープが置かれて……だから私はジヤガイモが好きなんだと思い出す。
「誰かの理想なや夢、明日を守る為の力こそ、強さだ。……失ったお前なら、私達のその矜持、受け継いでくれると信じている」
父様が私の目を見て優しく笑って言った。
そう、夢を喪わせない為に……
こんな幸せを喪ったのだろうと朧げに覚えている。
ぐにゃり、と視界が揺らいだ。
これは過去?
それともただの妄想?
解らない、けれど。
「……今の幸せこそを喪いたくないの。そう、皆のいった、矜持や理想、夢を歌いたい」
今という幸せ(ヒカリ)の夢の続きを、追いかけたいから。
「さようなら、過去の残照たち」
別れを告げると、父様も母様も姉様も兄様も伏せていた犬までもが私に微笑んでくれた。
頬に当たる濡れた感触に、アリアはぼんやりと目を開けた。
もう陽は随分傾いて、街並みは橙色に染まりつつあった。
頬に当たっていたのがコーディリアの鼻先だったと気付いて、アリアは「起こしてくれて有り難う」とコーディリアを撫でた。
――あれは夢(ねがい)? それとも、過去(いのり)?
わからない。
それでも、幸せな光に満ちた光景の先で、確かに受け継いだものがある。
「さぁ、帰ろうか」
アリアの言葉にコーディリアは立ち上がると全身を大きく震う。
そして夕焼けに沈む街へとアリアとコーディリアはゆっくりと歩き始めた。
●きらきら星
「ふぇ?」
マシュマロ・ホイップ(ka6506)が眩しさを覚えて目覚めた場所、そこはキラキラと光る金平糖の海だった。
「すごい! 全部金平糖だ!!」
瞳を輝かせて、両手ですくい上げる。
カラカラ、シャラシャラと落ちる甘い星々にマシュマロのやわらかなほっぺたはピンクの色を濃くしていく。
「いつもおいしくお菓子を食べてくれてありがとう。君みたいな子は、私達の光だよ」
星がしゃべっている見たいなキラキラした音に振り返ると、そこには一際大きな金色の金平糖の姿があった。
「マシュ、金平糖と初めて話しちゃった! 金平糖さん、こんぺいとーさんは、どうしてそんなに美味しいの? よかったら、マシュと一緒にお話ししませんかっ」
「あぁ、もちろんだとも」
小さな蝶ネクタイを締めた紳士な金平糖はマシュマロの申し出を快諾すると、マシュマロを連れて金平糖の海を歩き始めた。
最初は金平糖を砕かないようにとそっと歩いていたマシュマロだったが、すぐにそのコツを掴んで、紳士な金平糖と楽しくおしゃべりをしながら金平糖の海を散歩する。
「マシュはね、クッキーも、アイスも、キャンディーもみんな好き!」
「そうかそうか。そんなに沢山のお菓子を好きでいてくれてありがとう」
「うぅん。お礼を言うのはマシュの方なの。辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、楽しい時も、お菓子があればみんな笑顔になるの。それってとっても素敵な魔法だと思うの。だから、ありがとうございます!」
ぺこんと頭をさげたマシュマロを見て、紳士な金平糖は「ほっほっほ」と朗らかに笑った。
「君は本当に良い子だね。良い子には、ご褒美をあげよう」
両手を出すように言われて、マシュマロは素直に両手をお皿のようにして差し出した。
すると、コロンコロンと金色に輝く金平糖が手のひらの中に躍った。
「……えっ。金平糖さん、これマシュにくれるの? マシュ、金色の金平糖って初めて。ありがとう、大事にするねっ」
マシュマロは早速それを口へと頬張った。
きゅぅっとほっぺたが落ちそうな甘みが口の中いっぱいに広がって、その美味しさにほっぺたが落ちないように頬を押さえながら、ぎゅぅっと両目を瞑った。
ぱちり、と音がしそうな勢いでマシュマロは目覚めた。
「……なんか、すっごい甘くて楽しい夢を見てた気がするの」
そして何故だか、すごーく金平糖が食べたい気分になったマシュマロはいきつけのお菓子屋さんに行くことにした。
ちょっとだけお寝坊したけれど、今日はなんだか、とってもいい気持ちで、いつもよりお菓子が美味しく感じそうな気がする。
「あ。そうだ。新しいお菓子が売られていたら、お母さんたちに送ってあげようっと」
焼きたてのクッキーの良い香りが漂うお菓子屋さんの扉を開けた。
――お菓子のみなさん。いつもありがとなのっ!
●
おやおや。皆さんお目覚めのようでおはようございます。
今日の夢見は如何でしたでしょうか? お気に召していただけましたですかねぇ?
えぇえぇ、またお逢いする機会もありましょう。
その時にはまたこのWhite Rabbitの夢芝居屋をどうぞご贔屓に。
それでは、また逢う日まで、ごきげんようさようなら。
父様のコレクションの着ぐるみに埋もれて日溜まりで微睡む。
そっと母様が毛布を掛けに来てくれるのを知っているから、私、エステル・クレティエ(ka3783)は母さまの腕の中に飛び込んだ。
兄様達が下の私達に譲ってくれてたの知ってたけど、譲られる方も気を遣うのよ?
でもこれは夢だから。
紛れもない私の小さい頃の記憶。
とても幸せな……今だって幸せだけど。
でも、だから、いいでしょう? 独り占めしたって。
「ねぇ母さま ひざまくらして?」
驚いたように目を丸くした母さまがふわりと微笑った気配がした。
でもその顔は影になって見えない。
瓜二つだと言われ続けた顔。
左右違う瞳の色は同じ碧と青だけど、母さまと私は左右の色が逆で、鏡写しのようだねって。
「母さま、母さま」
その膝に甘えて頬を寄せる。
影の向こう、母さまの顔は、ちゃんと私と同じ?
よく見ようと顔を上げたけれど、ザァッとモノクロの砂嵐が母さまの顔を隠す。
“私”は母さまと同じでいる?
同じ顔、同じ薬草師で魔術師で……
私はどこまで母さまと同じになれる?
私はどこまで母さまと同じじゃなきゃいけないんだろう。
知ってるわ。
母さまは凄い人でも無い。ただ、懸命に生きているひとりの人。
同じじゃなきゃいけない、なんて。そんな事、ある筈ないのも知っているのに……
私は“私”?
わたしは、だれ?
兄様。
兄様だって、あんなに憧れた父様と同じ道を諦めて外へ出たのに。
道。
私の道を照らすひかりは何かしら。
きっとそれは、ささやかで優しいひかり。
だから私が見ている道は、決めた筈の道は時に真昼の強い光に滲んで見えにくくて。
真昼の星は見えないの。
どれほど見つめても、探しても、そこにあるのだとしても。
それでも光は温かくて。
光そのものは直接見られないけれど、光に照らされた世界は見える。
日溜まりのぬくもりと匂いを胸一杯に吸い込んで。
目を閉じて、母さまの膝のあたたかさを感じて身を委ねる。
目を開けたらまた頑張れるように。
「だから、目が覚めるまで、こうしていてね、母さま」
――あらあら、甘えん坊さんね
母さまの優しい声。優しく頭を撫でるやわらかな手のひら。
小さな子どものふりをして、甘えたまま。
私は眠りに就いた。
●満天
本当は夢なんて見たくない。
だって「玉兎 小夜(ka6009)」にとっての夢は前の自分と向き合うもの。
怖いもの。恐ろしいもの。
でも、今日の夢は違うみたい。
何もない闇。
何もないからこそ、落ち着く。
真っ暗で何もなくて、まるで私みたい。
怖くないのならいい。
膝を抱いて、目を閉じる。
ぼんやりとした気配に目を開けると、私の回りに光の玉がいっぱいいた。
最初に見えたのは青色の光。
そっと近付くとその光は一層輝いた。
私を導いてくれていつまでもずっと強く光を放って輝いてくれる。
南十字星みたいな強い光。
次に私の近くを漂ってたのは灰色の光。
ふわりふわりと手が届きそうで届かない所を漂っている。
ちょっとくすんじゃって、けどだからこそ暖かい光。
よりそってくれてるけど見てたらとっても悲しくなる光。
少し離れたところには消え入りそうな紫色の光。
さみしそうで、だけど激しくなくてどこか落ち着かせてくれる光。
近付いたら離れていきそうだから、そっと見守る。
ずっといてほしいんだけどどこか儚い光。
最後はその反対隣に漂っている茶色の光。
とっても暖かくて、手を伸ばして握りたくなる光。
そっと触れても逃げず、すっぽりと腕の中に収まった。
何時までも抱えていたい優しい光。
そのほかにも鋭い光を放ってたり妖しく揺らめいてたり滲むように静かに輝いてたり。
いっぱいいっぱい私の周りを漂って、徐々に上に向かってとんでいった。
闇に浮かんでも光達は私に強くその存在感を示して存在しつづけてくれてる。
この闇は、いつの間にか満天の星空みたいだった。
うん。これはきっと、夢。
私の本当の夢はもっと血に塗れた悲しいものだったはず。
だけど、この何もなかったはずの闇に優しい光たちがいっぱい浮かんでる。
夢を見るようになって、初めて心地よくて泣きそうになる。
いつも見る怖い夢とは違う、あたたかくていとおしい夢。
だからこそ、起きたら忘れてしまうような夢だとおもう。
なら、私はまた泣いていいかな。
安心させるために戦うって決めたけど。
約束を守るために負けないって決めたけど。
心配かけないために強くなるって決めたけど。
一緒にいるために守り続けるって決めたけど。
夢の中なら、“私”のために泣いていいよね?
「う、ぁ……」
私はきっと何もないし、何物でもない。
けど、私をみんなが覚えててくれるから私は“私”
そんな感謝で溢れそうになっちゃう幸せな夢。
「ぁぁぁぁぁ……っ!」
溢れる涙は暖かくて優しくて、子どもみたいに大きな声を上げて泣いた。
しょっぱいはずの涙は甘くて、あぁ夢なんだなぁって思ったら少し笑えた。
大丈夫、大丈夫。
これは夢だから!
起きたら、きっと忘れているから。
起きたら、いつもの“私”に戻るから。
起きたら忘れてまた馬鹿をやるんだよ!
飛んで跳ねて歪虚の首を刎ねて駆けるんだ!
●桜舞う、桜散る
「はいはいさっさと座る。最後の学級通信配るぞ! ……あ。これ数学プリントだ。ちょっと取りに戻るから待っててくれ」
「ちょっとー、神代センセー、最後ぐらいびしっと決めてよねー」
どっと笑いに包まれる教室を飛び出し、神代 誠一(ka2086)は慌てて職員室へと取って返す。
「一年間有り難うございました!」
「先生のクラスで良かったです」
「あぁ、俺も楽しかったよ。お前ら無茶苦茶すぎて、すっげー大変だったけどな!」
笑う誠一にクラス委員長の旭丘と東海から差し出されたのはクラス全員の寄せ書きと花束。
「え? 何だよ……有り難うな」
思わぬサプライズに誠一は一瞬言葉を失った後、滲んできた涙を生徒達から隠す為に背を向けた。
「えー? 何何? 先生泣いちゃった? 感激しちゃった???」
「うっせ! 目にゴミが入っただけだ……察しろ!」
誠一の叫びに生徒達が笑って、そして一部の生徒がもらい泣きして鼻を啜った。
チャイムが鳴る。
快晴の空の下、校庭へと飛び出して行く生徒達に誠一も続いた。
「せーちゃん写真撮ろー!」
「滝、先生を付けなさい」
「ハイハイ、じゃーいくよー。ハイ、チーズ」
電子シャッター音の後、画面を見た滝が笑った。
「うわっ、ウケル。せーちゃん先生、目半分閉じちゃってるじゃん」
「はぁ?! ちょっ、もう一回もう一回」
「もー仕方ないなぁ。いくよー、ハイ、チーズ」
「先生女子に囲まれてめっちゃ鼻の下伸ばしてんの」
「何だ、豊川羨ましいか」
「はぁ? 全然そんなことねーし」
「今日ぐらい素直になれよなー」
軽く脳天にチョップを入れた後、いがぐり頭をガシガシと撫で回す。
「いてっ! ちょ、やめろって、セットが崩れるっ!」
「この頭のどこにセットした跡が!?」
「あ、いたいた、神代先生」
笑い合っていた中、呼ばれて振り返れば、隣の担任である岡崎が困り顔で神代に耳打ちをした。
「は!?」
誠一は報せにみるみる目を見開いて、豊川を解放すると直ぐ様走り出した。
向かった先は駐車場。朝愛車を駐めた場所には見た事の無い斬新なデザインの車が駐まっている。
「え。嘘だろ、誰だよ俺の新車勝手にデコった奴!! あああこれ絵具か!?」
誠一は自分の叫び声で目が覚めた。
「……はは、夢、か」
最後に受け持った生徒達。出られなかった卒業式。彼らは元気だろうか。今頃希望通りの進路を歩めているだろうか。
くしゃりと前髪を握り込み、ふと横を見れば生徒達との楽しげなクラス写真をぼやけた視界が捉え、視線を隣に移せば小隊仲間との写真が並んでいる。
小さく苦笑を零す。カーテンの隙間から覗く外はまだ暗い。
誠一は目尻の涙を枕に押しつけると、布団を被り直して硬く目を瞑って祈る。
――俺は、案外こっちで上手くやれているから、どうか、お前らも笑っていますように。
●知識の泉
気がつけば天も地もない明るくも無く、かといって暗くも無い空間を漂っていた。
風に吹かれ、波にもまれ、落ちたり、上がったり。
『何故、何も見えないのでしょうか』
そうして漂う内に生まれた疑問から、自分が肉体を持つ成人男性であり、天央 観智(ka0896)であることを思い出す。
思い出したとき、目の前で扉が開いたように唐突に明るくなり、思わず観智は目を瞑った。
そろりと開いたそこには見覚えがあった。
「此処は……?! あの時の『知識の泉』?! また、来れたのでしょうか? 精霊……精霊は、何処でしょうかね?」
その場には見覚えがあった。ハンターになる過程で精霊と契約する際に訪れた『知識の泉』。
周囲を見回すと、自分の背後に契約した精霊がいた。
普段、覚醒時に見る薄ぼんやりとした幻では無い、実体を伴っている。
『……』
精霊の声が聞こえた。その岩に染み入るような言葉は観智の耳には聞き取れない音階と言語だったが、それでも迷子の子供が、ようやく探し続けていた母親の姿を見たときのように観智は心の底から安堵した笑みを浮かべた。
「色々と……危ない目にも何度か遭いましたし、色々と雑事も多い……ですけれどね。それでも、あの契約から僕は……色々と、知識と言いますか……理も追えていますし、まだまだ解らない事も多い……ですけれど、それは……愉しみでもありますしね。今……と言いますか、それに至る基盤とも言える物が出来た……とも言えますからね。『ありがとう御座います』と、ずっと……直接逢って、言いたかったんですよ? 姿は、幻影として……よく見ていましたけれど、中々……意思疎通出来る事は、無かった……ですからね」
観智の言葉に精霊は表情一つ変えること無く、頷くとまた何事か唇を小さく動かし音を紡ぐ。
無音の世界にはその音しか無い。いや、音と言うよりそれは光の帯のようにも感じる。もしくはしゃぼん玉が浮いて漂い、消える。その一連を光の文字で示すように。
それでも精霊が何を言っているのか、理解出来る。それが観智にはたまらなく嬉しくて、らしくもなく歓声を上げたいような、泣きたいような笑いたいような、溢れる感情の嵐と『知りたい』という根幹の飢餓に襲われ、うまく言葉を紡げない。
『……』
精霊は観智が泉から溢れ出る知識全てを得たがっている事を知っていた。だから、好きなだけ見ていけばいいと言ってくれた。
だが、“持ち出しは厳禁”だと付け加えられた。ここで得た知識を目覚めたときには覚えていないだろうと。
その言葉に愕然としながらも、観智はそれでも、たとえこの瞬間だけでも理の深淵に触れる事が出来るなら、了承して泉に触れた。
横にいてくれる精霊のお陰か、あの時のような奔流にもみくちゃにされることも無く観智は知識の大海へと身を沈めた。
整然と連なる因果律。精霊と語り合いながら知れど手繰れど底の無い知識の海を泳ぎ、全身で世界の理を知る。
楽しくて嬉しくて精霊に、契約をしたあの時のように手を伸ばし――
「……あれ?」
観智はベッドの上で目覚めた。
伸ばされた手は虚空を彷徨い、胸の上に力なく落ちた。
「ああ……『夢』でしたか? まぁ……ちょっと、残念でもありますけれど……予行練習が出来たと思えば、悪くは無い……ですね」
観智は小さく笑うとカーテンを開けた。
――あぁ。世界は今日も美しい。
●白日夢
天は青く高く、白い雲が穏やかに流れていく。
アリア・セリウス(ka6424)はイェジド特有のふかふかとした毛並みを丁寧にブラッシングしていく。
「気持ちいい? コーディリア」
問えばコーディリアは大きな欠伸でそれに答える。
それをみてアリアも静かに微笑む。
抜けた毛が秋風に乗って飛んで行くのを見送って、アリアはブラシを鞄にしまうと、すっかり寝息を立てているコーディリアにそっともたれ掛かった。
……ずっと昔、こんな事をよくしていたような……
秋の陽気とコーディリアの寝息に誘われうとうとと微睡み始めた。
――これは夢(ねがい)? それとも、過去(いのり)?
「どうした? ぼうっとして」
「え?」
兄様の声に私はハッと顔を上げた。
手元でティーカップがソーサーと当たって音を立てる。
「ごめんなさい、何のお話でした?」
「お前はどこかおっとりしたところがあるからなぁ」
兄様は呆れたように微笑むと、誇りと剣についての話しだと教えてくれた。
そうだ、私は何をぼうっとしていたのだろう。
「弱くていい。……誰かの心を包み、守れる歌であれと。その為に剣より心を磨こう。何時も暖かい声で歌えるように」
(……そうね、何時も笑顔で優しい言葉を諳んじて並べれば、どんな絶望をも払える筈)
兄様の言葉に私は頷くと、横にいた姉様が静かに口を開いた。
「強くありましょう。誰かの憧れであるために。目指す光を剣に灯せば、道を踏み外して落ちる人なんていない。誰かの心の中の月光……誰かの強さでありたいもの」
(……そうよ、素敵な自分であれば、胸を張って誰かを引っ張っていける)
憧れて追いつきたい人がいるように、憧れて追いかけて欲しい人がいる……それは、きっと素敵な事。
「ま、アリアには憧れて追いかけられたい恋心なんて解らないか」
姉様の言葉に私は肯定の苦笑を返して、少し冷めた紅茶を一口飲んだ。
足元で大型犬が寝そべって、食べ物を強請ってくる。
「太るわよ」といいながらお菓子をあげると、それを見咎めた母様にお小言を貰う。
素直にごめんなさいと告げると、母様得意料理のジャガイモのスープが置かれて……だから私はジヤガイモが好きなんだと思い出す。
「誰かの理想なや夢、明日を守る為の力こそ、強さだ。……失ったお前なら、私達のその矜持、受け継いでくれると信じている」
父様が私の目を見て優しく笑って言った。
そう、夢を喪わせない為に……
こんな幸せを喪ったのだろうと朧げに覚えている。
ぐにゃり、と視界が揺らいだ。
これは過去?
それともただの妄想?
解らない、けれど。
「……今の幸せこそを喪いたくないの。そう、皆のいった、矜持や理想、夢を歌いたい」
今という幸せ(ヒカリ)の夢の続きを、追いかけたいから。
「さようなら、過去の残照たち」
別れを告げると、父様も母様も姉様も兄様も伏せていた犬までもが私に微笑んでくれた。
頬に当たる濡れた感触に、アリアはぼんやりと目を開けた。
もう陽は随分傾いて、街並みは橙色に染まりつつあった。
頬に当たっていたのがコーディリアの鼻先だったと気付いて、アリアは「起こしてくれて有り難う」とコーディリアを撫でた。
――あれは夢(ねがい)? それとも、過去(いのり)?
わからない。
それでも、幸せな光に満ちた光景の先で、確かに受け継いだものがある。
「さぁ、帰ろうか」
アリアの言葉にコーディリアは立ち上がると全身を大きく震う。
そして夕焼けに沈む街へとアリアとコーディリアはゆっくりと歩き始めた。
●きらきら星
「ふぇ?」
マシュマロ・ホイップ(ka6506)が眩しさを覚えて目覚めた場所、そこはキラキラと光る金平糖の海だった。
「すごい! 全部金平糖だ!!」
瞳を輝かせて、両手ですくい上げる。
カラカラ、シャラシャラと落ちる甘い星々にマシュマロのやわらかなほっぺたはピンクの色を濃くしていく。
「いつもおいしくお菓子を食べてくれてありがとう。君みたいな子は、私達の光だよ」
星がしゃべっている見たいなキラキラした音に振り返ると、そこには一際大きな金色の金平糖の姿があった。
「マシュ、金平糖と初めて話しちゃった! 金平糖さん、こんぺいとーさんは、どうしてそんなに美味しいの? よかったら、マシュと一緒にお話ししませんかっ」
「あぁ、もちろんだとも」
小さな蝶ネクタイを締めた紳士な金平糖はマシュマロの申し出を快諾すると、マシュマロを連れて金平糖の海を歩き始めた。
最初は金平糖を砕かないようにとそっと歩いていたマシュマロだったが、すぐにそのコツを掴んで、紳士な金平糖と楽しくおしゃべりをしながら金平糖の海を散歩する。
「マシュはね、クッキーも、アイスも、キャンディーもみんな好き!」
「そうかそうか。そんなに沢山のお菓子を好きでいてくれてありがとう」
「うぅん。お礼を言うのはマシュの方なの。辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、楽しい時も、お菓子があればみんな笑顔になるの。それってとっても素敵な魔法だと思うの。だから、ありがとうございます!」
ぺこんと頭をさげたマシュマロを見て、紳士な金平糖は「ほっほっほ」と朗らかに笑った。
「君は本当に良い子だね。良い子には、ご褒美をあげよう」
両手を出すように言われて、マシュマロは素直に両手をお皿のようにして差し出した。
すると、コロンコロンと金色に輝く金平糖が手のひらの中に躍った。
「……えっ。金平糖さん、これマシュにくれるの? マシュ、金色の金平糖って初めて。ありがとう、大事にするねっ」
マシュマロは早速それを口へと頬張った。
きゅぅっとほっぺたが落ちそうな甘みが口の中いっぱいに広がって、その美味しさにほっぺたが落ちないように頬を押さえながら、ぎゅぅっと両目を瞑った。
ぱちり、と音がしそうな勢いでマシュマロは目覚めた。
「……なんか、すっごい甘くて楽しい夢を見てた気がするの」
そして何故だか、すごーく金平糖が食べたい気分になったマシュマロはいきつけのお菓子屋さんに行くことにした。
ちょっとだけお寝坊したけれど、今日はなんだか、とってもいい気持ちで、いつもよりお菓子が美味しく感じそうな気がする。
「あ。そうだ。新しいお菓子が売られていたら、お母さんたちに送ってあげようっと」
焼きたてのクッキーの良い香りが漂うお菓子屋さんの扉を開けた。
――お菓子のみなさん。いつもありがとなのっ!
●
おやおや。皆さんお目覚めのようでおはようございます。
今日の夢見は如何でしたでしょうか? お気に召していただけましたですかねぇ?
えぇえぇ、またお逢いする機会もありましょう。
その時にはまたこのWhite Rabbitの夢芝居屋をどうぞご贔屓に。
それでは、また逢う日まで、ごきげんようさようなら。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/26 22:34:19 |
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ひかりの、ゆめ マシュマロ・ホイップ(ka6506) 鬼|12才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 |