ゲスト
(ka0000)
ハロウィーン・ナイトメア
マスター:水

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/31 12:00
- 完成日
- 2016/11/03 01:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●宿屋に集まった冒険者たち
自由都市同盟にも秋が訪れ、真夏の過酷な猛暑が嘘のように思えるほど肌寒い日々を迎えた住民達はハロウィーンに向けての準備に追われ、また見栄を良くするために冒険者たちでないと設営できない仕掛けなどを準備するためにハンターズソサエティには設営関係の依頼がそこそこ寄せられていた。
そのうちの一つを受注し、依頼人から割り当てられた宿屋の部屋で羽を伸ばす冒険者たち。緊急では使わない貴重品を宿屋の金庫に預け、厳重に施錠されたのを見届けた冒険者たちは各々食事や入浴など思い思いの時間を過ごし、翌日に備えて英気を養っていた。
そんな時、宿屋の談話室から、こんな怪談が他の宿泊客達の間でまことしやかにささやかれていた。
「俺も小耳に挟んだ話なんだけどよ、毎年この時期になると、おっかない夢を見るそうだ。地面には菓子をねだる亡霊の子供、廊下をさまよう首無し騎士、これらを掻い潜って金庫を破り、自分の金を手にして宿を出るまで目が覚めないらしいんだ」
「それ、例えば騎士にぶった切られたらどうなるんだ?」
冷汗を流しながら話を聞いていた男は、その怪談を楽しそうに話すひょうひょうとした男の次を待っていたが、どうも恐怖感をあおりたいらしく、随分とじらしてくる。
散々じらして、ようやくその口を開いた。
「病院送りさ、誰がどうやっても起きないそうだ。俺ら商人が見ちまったら最後、頑張って何とかするしかねぇな」
「マジかよ! 眠れなくなっちまうじゃねえか」
「なんてな! 所詮噂話だ。真に受けんなよ、むしろそこまでマジに捉えるのお前が初めてだぜ」
「なんだとぉ~……このっ!」
話を聞かされてすっかり震え上がってしまった男は、ひょうひょうとした男に笑いながらじゃれつくように肩を掴んだ。その様子は、喧嘩というよりは童心に帰ってはしゃいでいるだけで、誰も仲裁に入らなかった。
その周りにいた他の宿泊客や受付のボーイも、より具体的な恐怖の対象である雑魔が居る以上、彼の話は与太話以外の何物でもなく、ちょっとした退屈しのぎで面白い話を聞かせてもらった程度にしか思わなかった。
●悪夢の宿屋
ところが、その与太話だと思われていた怪談は現実のものとなり襲い掛かる。奇妙な事に冒険者達以外誰も宿泊客が居らず、ベッドの両隣には真っ白な見覚えのない子供が眠っていたのだ。
寒さの原因はこれかと目が覚めた冒険者たち、彼らは就寝前に談話室で聞かされた怪談を思い出し、急いでベッドに掛けていた装備を整え、金庫へと目指そうとする。
そこへ首無しの騎士がドアを派手に壊して部屋へと押し入ってきた、更にその音で子供たちが次々と目覚め部屋へ殺到し、無邪気な声でお菓子をねだるような囁きが冒険者たちの聴覚を襲い始める。
何とかして金庫を破り、自分が預けた貴重品を持って宿屋を脱出する。与太話だと思われていたこの悪夢から目覚めるにはそれしか道は残されていなかった。
自由都市同盟にも秋が訪れ、真夏の過酷な猛暑が嘘のように思えるほど肌寒い日々を迎えた住民達はハロウィーンに向けての準備に追われ、また見栄を良くするために冒険者たちでないと設営できない仕掛けなどを準備するためにハンターズソサエティには設営関係の依頼がそこそこ寄せられていた。
そのうちの一つを受注し、依頼人から割り当てられた宿屋の部屋で羽を伸ばす冒険者たち。緊急では使わない貴重品を宿屋の金庫に預け、厳重に施錠されたのを見届けた冒険者たちは各々食事や入浴など思い思いの時間を過ごし、翌日に備えて英気を養っていた。
そんな時、宿屋の談話室から、こんな怪談が他の宿泊客達の間でまことしやかにささやかれていた。
「俺も小耳に挟んだ話なんだけどよ、毎年この時期になると、おっかない夢を見るそうだ。地面には菓子をねだる亡霊の子供、廊下をさまよう首無し騎士、これらを掻い潜って金庫を破り、自分の金を手にして宿を出るまで目が覚めないらしいんだ」
「それ、例えば騎士にぶった切られたらどうなるんだ?」
冷汗を流しながら話を聞いていた男は、その怪談を楽しそうに話すひょうひょうとした男の次を待っていたが、どうも恐怖感をあおりたいらしく、随分とじらしてくる。
散々じらして、ようやくその口を開いた。
「病院送りさ、誰がどうやっても起きないそうだ。俺ら商人が見ちまったら最後、頑張って何とかするしかねぇな」
「マジかよ! 眠れなくなっちまうじゃねえか」
「なんてな! 所詮噂話だ。真に受けんなよ、むしろそこまでマジに捉えるのお前が初めてだぜ」
「なんだとぉ~……このっ!」
話を聞かされてすっかり震え上がってしまった男は、ひょうひょうとした男に笑いながらじゃれつくように肩を掴んだ。その様子は、喧嘩というよりは童心に帰ってはしゃいでいるだけで、誰も仲裁に入らなかった。
その周りにいた他の宿泊客や受付のボーイも、より具体的な恐怖の対象である雑魔が居る以上、彼の話は与太話以外の何物でもなく、ちょっとした退屈しのぎで面白い話を聞かせてもらった程度にしか思わなかった。
●悪夢の宿屋
ところが、その与太話だと思われていた怪談は現実のものとなり襲い掛かる。奇妙な事に冒険者達以外誰も宿泊客が居らず、ベッドの両隣には真っ白な見覚えのない子供が眠っていたのだ。
寒さの原因はこれかと目が覚めた冒険者たち、彼らは就寝前に談話室で聞かされた怪談を思い出し、急いでベッドに掛けていた装備を整え、金庫へと目指そうとする。
そこへ首無しの騎士がドアを派手に壊して部屋へと押し入ってきた、更にその音で子供たちが次々と目覚め部屋へ殺到し、無邪気な声でお菓子をねだるような囁きが冒険者たちの聴覚を襲い始める。
何とかして金庫を破り、自分が預けた貴重品を持って宿屋を脱出する。与太話だと思われていたこの悪夢から目覚めるにはそれしか道は残されていなかった。
リプレイ本文
●微睡の中で
酔っぱらいの怖い与太話を聞いてしまった日の深夜、深く布団を被っているのに寒気を感じたミュオ(ka1308)は、より深く布団を被る為に寝返りを打った時の事だった。
あまりの寒気に思わず目を開けてしまった彼の隣には真っ白な、明らか生気を感じない子供が可愛い寝息を立てて眠っていたのだ。なんという事か、これが生きている子供であればどれほど愛らしい事か。
布団が不自然に盛り上がっている上に、ミュオはうっかりそれに触れてしまい、触れた手が通り抜けてしまう瞬間を目の当たりにした為にそのまま放心してしまったのだ。
次に目を覚ましたのはエルバッハ・リオン(ka2434)。彼女もまた妙な寒気を感じて上体を起こしてみようと試みるが、全ての感覚が鈍く感じ、これは夢の中なのだと意識するようになる。
眠っているのに目を覚ましたとはこれいかに、エルバッハはそう思いながら夢の中に襲い掛かってくる歪虚の可能性を感じ、ベッドに備え付けられてあった装備収納用の麻袋から愛用の装備一式を取り出し警戒する。
その音に気づいたザレム・アズール(ka0878)もまた、何か来るかもしれないという本能的な予感から、同じように地面へ伏せて置いていた魔道大剣ブルトガングやその他の装備を整えていた時の事だった。
突然、本当に突然、ドアが吹き飛ばされ壁に大穴を開けながら大きな図体をした首無し騎士がづかづかと大きな足音を鳴らしながら客室へと入ってきたではないか。
その音で反射的に上体を起こしたのは央崎 遥華(ka5644)と星野 ハナ(ka5852)の二人だった。起き上がる二人のタイミングはピッタリだったが、その反応は正反対といっても良いほど違っている。
びっくりしすぎてぎゃーと叫ぶのはハナだったが、きょとんとしたまま呆然と虚空を眺めているのは遥華の方だった。その遥華は自分の隣に可愛らしい子供が自分の体温で暖を取って眠っていた様子だったが、首無し騎士の乱入によりうっすらと目を覚ましてしまう。
「……ほぇ? この子は別の部屋のお客様でしょうか?」
それが幽霊だと知ったのは、客室を出た後の事、現在は寝ぼけ眼で状況の整理もついていない。
ザレムやエルバが突然やってきた首無し騎士の様子を伺っていたが、やはり自分達に襲い掛かってきたため、応戦に移る。そんな中、ハナは装備を整えざまにタロットをシャッフルしはじめる。
「まさか噂が本当になるなんてぇ……」
噂をしっかり聞いていたハナは万が一が起きてしまった時の事を想像してか、少しか弱い声をあげながらタロットを三枚引く。
おそらく気持ちを前向きにする為のゲン担ぎ行為なのだろう。しかし、せめて夢の中でぐらい滅多に見ないようないい結果を見てみたいものだった。
「戦車と悪魔の逆位置に月の正位置……ぎゃ~!」
●首無しパレード
「怪談話を実体験することになるとは最悪ですね」
夢の中でもしっかり覚醒出来る事が解ると、エルバッハはそう愚痴をこぼしながら胸元に薔薇の花を模した紋章を浮かべ、足元へウィンドスラッシュを放つ。
硬質な音を響かせ、衝撃を感じたのか、一瞬だけよろめく。そしてエルバッハの存在に気づいた首無し騎士はそちらへ向かおうとした所、間髪入れずに今度は瞳を深紅に染めたザレムが大剣を用いた強烈な斬撃を放つ。
金属同士がぶつかり合う音が室内に響き渡り、その音を聞きつけた無数の青白い子供達が集まってくる。
「な、なんだこれは!」
突然の介入者に戸惑うザレムだったが、そんな彼を余所に皆が口々にトリックオアトリートと叫び続ける。どうやらお菓子が欲しいだけで特に危害を加えてこないらしい。
一方の首無し騎士はというと、あれだけの斬撃を足で受けておきながら未だふらふらと、今度はザレムめがけて歩いてくる。その大きな歩幅で出来た隙間へ、今度はハナがベッドから飛び出しざまにスライディングし、その股下を潜り抜けていく。
「そしてっ!」
スタイリッシュに部屋から出ると、その瞳を蒼く輝かせ、水中に居るような髪の靡かせ方をしながら、振り向きざまに膝裏を蹴りつける。
エルバッハやザレムの攻撃でいくらかバランスを崩していたが、この一撃がトドメとなり、前のめりに倒れていく。が、同時に固い物を蹴った衝撃で少し足を痺れさせてしまう。
「びぃぃぃん……っていうかもしかして人数分のデュラハンですぅ? この狭い宿屋に5体とかありえないですぅ!」
「そもそもこの宿屋自体が狭いだろ、そう何体も居てたまるか」
ハナの動揺を尻目に、ザレムはそう突っ込み、そのままエルバッハと共に幽霊の子供達をかき分けるように部屋を脱してフロントへと向かう。
「デュラハン? 初めて見た!」
その時、起きたてで呆けていた遥華はその音で我に返り、子供に取り囲まれながらもそれを文字通り突き抜けるように通り抜いてザレム達の後を追う。が、その直後、あと一人メンツが足りていない事に、遥華はこの時気づいた。
「ミュオくん! 大丈夫?」
「あのすみません、びっくりして腰が抜けたので、少しだけ手を貸してもらえないでしょうか? たぶん立てれば後は大丈夫だと思うので……わふぅ」
遥華に手を貸してもらいながら、何とか部屋から脱出するのだが、そのミュオの顔は顔面蒼白、とても一人で行動できそうな様子ではなかった為、遥華はミュオを連れて部屋から出るついでにアースウォールで大きく壊れた部分も含めた入り口を完全に塞いだ。
●フロントサルベージ
「やっぱこれはあの酔っぱらいの言っていた噂話と一緒だ。とにかくフロントから金庫の鍵を探し出すんだ!」
そう言いながら階段を駆け下りたザレムは、フロントに併設されている談話室のテーブルやソファーを片っ端から引っ張り、客室とフロントを結ぶ廊下への道を塞ぐ。
遥華のアースウォールを破ろうとする音がフロントにまで響き、子供達のお菓子をねだる声がひっきりなしに響き渡る。ミュオは完全にパニックになり、両耳を塞いで子供達から逃げ回っていた。
今は兎に角時間が惜しい、そう思ったミュオ以外のメンバーはフロントカウンターを中心に金庫の鍵を探し始める。
「ちょっと暗すぎますね、これで明かりを」
よく目を凝らさなければぶつかってしまう事に気づいた遥華は、リトルファイアを唱え小さなランタンの代わりに辺りを照らし始める。ハナもライト代わりの指輪を用いて辺りを照らし、宿台帳やカウンター近くをくまなく探る。
エルバッハもフロントの引き出しを片っ端から開けている中、ある程度の目星をつけていたザレムの予想が的中し、金色に輝く鍵を見つける。
金庫室はフロントの直ぐ後ろ、この鍵を使えばすぐにでも開く算段だったが、ガラスが割れるような派手な音と共に地響きがするほどの勢いで走ってくると、ザレムの作ったバリケードに体当たりしたのか、その一部が崩壊する。
鍵をハナに渡したザレムはそのままバリケードの方へ飛んでいき、その援護にエルバッハも駆けつけた。
「ハナ! 遥華! 鍵と金庫を頼む!」
「私的には金庫で二人きりの吊り橋ラブロマンス展開が良かったのですがぁ……、吊り橋効果って案外将来性無いらしいので、素直に従うことにしますぅ」
ハナはこんな状況だからこそか、そんな冗談を言いつつ、わかりやすい金庫の鍵穴に鍵を差し込み開錠する。その手には無数の子供の手が捕まれなんとも不気味な状況だったが、それも直ぐに別の方へ興味が向かれていく。
「みんなー。こういう時はTrick or Treatって言うんだよー。お菓子をもらったら解散!」
数多の子供達を見て何か思うところがあったのか、遥華はわざと注目を集めるようにふるまい、子供達を自分のもとへ寄せ集める。
しかし、ただ無秩序に集まるだけの子供達、順番も何もない状況でただお菓子が貰えるとだけしか思っていない子供達を叱りつける様な大声がフロントへ木霊した。
「整列!」
その一言に、辺りが静まり返り、子供達のお菓子をねだる声も静まり、規則正しく並び始めた。辺りが静まり返ったことで少しだけ勇気を持てるようになったのか、ミュオはふと、これが自分の目指す理想の姿なのだろうかと思うようになる。
否、断じて違う。そう自分を奮い立たせ立ち止まり、バリケードを壊そうとする首無し騎士へ対峙する。
「みなさん、僕が時間を稼ぎます! みなさんは急いで金庫に向かってください!」
ミュオは壊れたバリケードからわずかに覗く首無し騎士の体の一部に向かって踏込み、強撃を放つ。
固い鎧に弾かれた彼はそのまま尻餅をつくが、直ぐに立ち上がる。だが首無し騎士の方は少しよろけるだけで進行を食い止めることはできず、結局バリケードは破壊されてしまう。
「寧ろこの状況なら都合いいですね!」
バリケードを破り、進行してきた先にはエルバッハが放つウィンドスラッシュが待ち構えていた、転倒までは行かないが、進行を食い止めるには十分だ。
その一方で、一縷の勇気を跳ね返されてしまったミュオはというと……。
「うわあああああんやっぱり無理です怖いものは怖いんですうううううううあー! ああー! 聞こえません! お菓子をねだる子供の声なんて聞こえません! サラウンドで合唱なんてぜんぜん聞こえませんー!」
限界を迎えてしまったのか、泣き叫びながら全力疾走で耳も塞ぎながら入り口付近を逃げ回り始めた。
そして無数といえる子供達の幽霊も、遥華が幾らか制御しているとはいえ、無秩序な者もまだ居る。そういった子供達に邪魔されないよう、ザレムは持っていたクッキーを首無し騎士へ向けて放り投げた。
「エルバッハ! 金庫が開いた! 貴重品を取りに行くぞ!」
「解りました!」
お菓子をねだる子供ごと、ウィンドスラッシュで足止めするエルバッハは、ザレムからの報告を聞いて直ぐに踵を返して金庫へと向かう。
子供の整列をさせていた遥華も、逃げまどっているミュオの分の貴重品を回収したのち、カウンターに置かれていた籠へ一掴みした飴を入れ、ハロウィーンカードを添えてその場を走り去る。
「ミュオくん! これ!」
「あっ、あっ、ありがどうございまずぅぅぅぅ!」
恐怖でパニックになっていたミュオへ、遥華から貴重品を渡され一際大きな泣き声を上げつつ、開かれた扉へと全力疾走していき、その後を追うように遥華も夜の闇へと走り抜けていく。
「もう用はない、さっさと出ようぜ!」
「そうですね。早く朝を迎えましょう」
「全く、とんでもない目に遭いましたぁ……、でもこれで一件落着ですね」
噂話によれば、もうこれ以降は何も起きず、そのまま朝を迎える手はずだ。終わりが見えてか安堵した様子で宿屋を脱出し、遅い足で追いかけてくる首無し騎士を尻目に夜の闇へと消えていった。
●翌朝
ひどい夢を見ていたとはいえ、ミュオを除いてあの夢に出てきた子供達の事が気になった四人は、ハナの提案でフロントにお菓子の詰め合わせを置いておくことにしたのだ。
お祭りの設営に向かう直前に、町の人々から貰ったお菓子の一部を詰め合わせ、それをフロントへと置いて行ったのだ。これなら夢の中の子供達も喜んでくれるだろう。そう思いながら五人はお祭りの設営へと向かっていった。
その後、ハロウィーンの夜になるとフロントに子供の亡霊が見えるようになり、楽しそうに供えられたお菓子を食べている現場に遭遇するという怪談が生まれるのはまた別のお話。
酔っぱらいの怖い与太話を聞いてしまった日の深夜、深く布団を被っているのに寒気を感じたミュオ(ka1308)は、より深く布団を被る為に寝返りを打った時の事だった。
あまりの寒気に思わず目を開けてしまった彼の隣には真っ白な、明らか生気を感じない子供が可愛い寝息を立てて眠っていたのだ。なんという事か、これが生きている子供であればどれほど愛らしい事か。
布団が不自然に盛り上がっている上に、ミュオはうっかりそれに触れてしまい、触れた手が通り抜けてしまう瞬間を目の当たりにした為にそのまま放心してしまったのだ。
次に目を覚ましたのはエルバッハ・リオン(ka2434)。彼女もまた妙な寒気を感じて上体を起こしてみようと試みるが、全ての感覚が鈍く感じ、これは夢の中なのだと意識するようになる。
眠っているのに目を覚ましたとはこれいかに、エルバッハはそう思いながら夢の中に襲い掛かってくる歪虚の可能性を感じ、ベッドに備え付けられてあった装備収納用の麻袋から愛用の装備一式を取り出し警戒する。
その音に気づいたザレム・アズール(ka0878)もまた、何か来るかもしれないという本能的な予感から、同じように地面へ伏せて置いていた魔道大剣ブルトガングやその他の装備を整えていた時の事だった。
突然、本当に突然、ドアが吹き飛ばされ壁に大穴を開けながら大きな図体をした首無し騎士がづかづかと大きな足音を鳴らしながら客室へと入ってきたではないか。
その音で反射的に上体を起こしたのは央崎 遥華(ka5644)と星野 ハナ(ka5852)の二人だった。起き上がる二人のタイミングはピッタリだったが、その反応は正反対といっても良いほど違っている。
びっくりしすぎてぎゃーと叫ぶのはハナだったが、きょとんとしたまま呆然と虚空を眺めているのは遥華の方だった。その遥華は自分の隣に可愛らしい子供が自分の体温で暖を取って眠っていた様子だったが、首無し騎士の乱入によりうっすらと目を覚ましてしまう。
「……ほぇ? この子は別の部屋のお客様でしょうか?」
それが幽霊だと知ったのは、客室を出た後の事、現在は寝ぼけ眼で状況の整理もついていない。
ザレムやエルバが突然やってきた首無し騎士の様子を伺っていたが、やはり自分達に襲い掛かってきたため、応戦に移る。そんな中、ハナは装備を整えざまにタロットをシャッフルしはじめる。
「まさか噂が本当になるなんてぇ……」
噂をしっかり聞いていたハナは万が一が起きてしまった時の事を想像してか、少しか弱い声をあげながらタロットを三枚引く。
おそらく気持ちを前向きにする為のゲン担ぎ行為なのだろう。しかし、せめて夢の中でぐらい滅多に見ないようないい結果を見てみたいものだった。
「戦車と悪魔の逆位置に月の正位置……ぎゃ~!」
●首無しパレード
「怪談話を実体験することになるとは最悪ですね」
夢の中でもしっかり覚醒出来る事が解ると、エルバッハはそう愚痴をこぼしながら胸元に薔薇の花を模した紋章を浮かべ、足元へウィンドスラッシュを放つ。
硬質な音を響かせ、衝撃を感じたのか、一瞬だけよろめく。そしてエルバッハの存在に気づいた首無し騎士はそちらへ向かおうとした所、間髪入れずに今度は瞳を深紅に染めたザレムが大剣を用いた強烈な斬撃を放つ。
金属同士がぶつかり合う音が室内に響き渡り、その音を聞きつけた無数の青白い子供達が集まってくる。
「な、なんだこれは!」
突然の介入者に戸惑うザレムだったが、そんな彼を余所に皆が口々にトリックオアトリートと叫び続ける。どうやらお菓子が欲しいだけで特に危害を加えてこないらしい。
一方の首無し騎士はというと、あれだけの斬撃を足で受けておきながら未だふらふらと、今度はザレムめがけて歩いてくる。その大きな歩幅で出来た隙間へ、今度はハナがベッドから飛び出しざまにスライディングし、その股下を潜り抜けていく。
「そしてっ!」
スタイリッシュに部屋から出ると、その瞳を蒼く輝かせ、水中に居るような髪の靡かせ方をしながら、振り向きざまに膝裏を蹴りつける。
エルバッハやザレムの攻撃でいくらかバランスを崩していたが、この一撃がトドメとなり、前のめりに倒れていく。が、同時に固い物を蹴った衝撃で少し足を痺れさせてしまう。
「びぃぃぃん……っていうかもしかして人数分のデュラハンですぅ? この狭い宿屋に5体とかありえないですぅ!」
「そもそもこの宿屋自体が狭いだろ、そう何体も居てたまるか」
ハナの動揺を尻目に、ザレムはそう突っ込み、そのままエルバッハと共に幽霊の子供達をかき分けるように部屋を脱してフロントへと向かう。
「デュラハン? 初めて見た!」
その時、起きたてで呆けていた遥華はその音で我に返り、子供に取り囲まれながらもそれを文字通り突き抜けるように通り抜いてザレム達の後を追う。が、その直後、あと一人メンツが足りていない事に、遥華はこの時気づいた。
「ミュオくん! 大丈夫?」
「あのすみません、びっくりして腰が抜けたので、少しだけ手を貸してもらえないでしょうか? たぶん立てれば後は大丈夫だと思うので……わふぅ」
遥華に手を貸してもらいながら、何とか部屋から脱出するのだが、そのミュオの顔は顔面蒼白、とても一人で行動できそうな様子ではなかった為、遥華はミュオを連れて部屋から出るついでにアースウォールで大きく壊れた部分も含めた入り口を完全に塞いだ。
●フロントサルベージ
「やっぱこれはあの酔っぱらいの言っていた噂話と一緒だ。とにかくフロントから金庫の鍵を探し出すんだ!」
そう言いながら階段を駆け下りたザレムは、フロントに併設されている談話室のテーブルやソファーを片っ端から引っ張り、客室とフロントを結ぶ廊下への道を塞ぐ。
遥華のアースウォールを破ろうとする音がフロントにまで響き、子供達のお菓子をねだる声がひっきりなしに響き渡る。ミュオは完全にパニックになり、両耳を塞いで子供達から逃げ回っていた。
今は兎に角時間が惜しい、そう思ったミュオ以外のメンバーはフロントカウンターを中心に金庫の鍵を探し始める。
「ちょっと暗すぎますね、これで明かりを」
よく目を凝らさなければぶつかってしまう事に気づいた遥華は、リトルファイアを唱え小さなランタンの代わりに辺りを照らし始める。ハナもライト代わりの指輪を用いて辺りを照らし、宿台帳やカウンター近くをくまなく探る。
エルバッハもフロントの引き出しを片っ端から開けている中、ある程度の目星をつけていたザレムの予想が的中し、金色に輝く鍵を見つける。
金庫室はフロントの直ぐ後ろ、この鍵を使えばすぐにでも開く算段だったが、ガラスが割れるような派手な音と共に地響きがするほどの勢いで走ってくると、ザレムの作ったバリケードに体当たりしたのか、その一部が崩壊する。
鍵をハナに渡したザレムはそのままバリケードの方へ飛んでいき、その援護にエルバッハも駆けつけた。
「ハナ! 遥華! 鍵と金庫を頼む!」
「私的には金庫で二人きりの吊り橋ラブロマンス展開が良かったのですがぁ……、吊り橋効果って案外将来性無いらしいので、素直に従うことにしますぅ」
ハナはこんな状況だからこそか、そんな冗談を言いつつ、わかりやすい金庫の鍵穴に鍵を差し込み開錠する。その手には無数の子供の手が捕まれなんとも不気味な状況だったが、それも直ぐに別の方へ興味が向かれていく。
「みんなー。こういう時はTrick or Treatって言うんだよー。お菓子をもらったら解散!」
数多の子供達を見て何か思うところがあったのか、遥華はわざと注目を集めるようにふるまい、子供達を自分のもとへ寄せ集める。
しかし、ただ無秩序に集まるだけの子供達、順番も何もない状況でただお菓子が貰えるとだけしか思っていない子供達を叱りつける様な大声がフロントへ木霊した。
「整列!」
その一言に、辺りが静まり返り、子供達のお菓子をねだる声も静まり、規則正しく並び始めた。辺りが静まり返ったことで少しだけ勇気を持てるようになったのか、ミュオはふと、これが自分の目指す理想の姿なのだろうかと思うようになる。
否、断じて違う。そう自分を奮い立たせ立ち止まり、バリケードを壊そうとする首無し騎士へ対峙する。
「みなさん、僕が時間を稼ぎます! みなさんは急いで金庫に向かってください!」
ミュオは壊れたバリケードからわずかに覗く首無し騎士の体の一部に向かって踏込み、強撃を放つ。
固い鎧に弾かれた彼はそのまま尻餅をつくが、直ぐに立ち上がる。だが首無し騎士の方は少しよろけるだけで進行を食い止めることはできず、結局バリケードは破壊されてしまう。
「寧ろこの状況なら都合いいですね!」
バリケードを破り、進行してきた先にはエルバッハが放つウィンドスラッシュが待ち構えていた、転倒までは行かないが、進行を食い止めるには十分だ。
その一方で、一縷の勇気を跳ね返されてしまったミュオはというと……。
「うわあああああんやっぱり無理です怖いものは怖いんですうううううううあー! ああー! 聞こえません! お菓子をねだる子供の声なんて聞こえません! サラウンドで合唱なんてぜんぜん聞こえませんー!」
限界を迎えてしまったのか、泣き叫びながら全力疾走で耳も塞ぎながら入り口付近を逃げ回り始めた。
そして無数といえる子供達の幽霊も、遥華が幾らか制御しているとはいえ、無秩序な者もまだ居る。そういった子供達に邪魔されないよう、ザレムは持っていたクッキーを首無し騎士へ向けて放り投げた。
「エルバッハ! 金庫が開いた! 貴重品を取りに行くぞ!」
「解りました!」
お菓子をねだる子供ごと、ウィンドスラッシュで足止めするエルバッハは、ザレムからの報告を聞いて直ぐに踵を返して金庫へと向かう。
子供の整列をさせていた遥華も、逃げまどっているミュオの分の貴重品を回収したのち、カウンターに置かれていた籠へ一掴みした飴を入れ、ハロウィーンカードを添えてその場を走り去る。
「ミュオくん! これ!」
「あっ、あっ、ありがどうございまずぅぅぅぅ!」
恐怖でパニックになっていたミュオへ、遥華から貴重品を渡され一際大きな泣き声を上げつつ、開かれた扉へと全力疾走していき、その後を追うように遥華も夜の闇へと走り抜けていく。
「もう用はない、さっさと出ようぜ!」
「そうですね。早く朝を迎えましょう」
「全く、とんでもない目に遭いましたぁ……、でもこれで一件落着ですね」
噂話によれば、もうこれ以降は何も起きず、そのまま朝を迎える手はずだ。終わりが見えてか安堵した様子で宿屋を脱出し、遅い足で追いかけてくる首無し騎士を尻目に夜の闇へと消えていった。
●翌朝
ひどい夢を見ていたとはいえ、ミュオを除いてあの夢に出てきた子供達の事が気になった四人は、ハナの提案でフロントにお菓子の詰め合わせを置いておくことにしたのだ。
お祭りの設営に向かう直前に、町の人々から貰ったお菓子の一部を詰め合わせ、それをフロントへと置いて行ったのだ。これなら夢の中の子供達も喜んでくれるだろう。そう思いながら五人はお祭りの設営へと向かっていった。
その後、ハロウィーンの夜になるとフロントに子供の亡霊が見えるようになり、楽しそうに供えられたお菓子を食べている現場に遭遇するという怪談が生まれるのはまた別のお話。
依頼結果
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重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 央崎 遥華(ka5644) 人間(リアルブルー)|21才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/10/30 17:39:29 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/29 06:59:28 |