ゲスト
(ka0000)
狂狼
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~9人
- サポート
- 0~9人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/02 22:00
- 完成日
- 2016/11/16 01:08
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
モイシュパト。ゾンネンシュトラール帝国南部の街だ。
突如、轟音が響き渡った。同時に血煙りも。
石畳の街路の只中。拳銃を手にした三人の若者の姿があった。轟音は銃声であったのだ。
「一度人間を撃ってみたかった」
硝煙を立ちのぼらせた拳銃を目の前にかざし、若者がいった。狂犬の目をしている。名はアンドレといった。
「何人殺れるかな」
ニヤリとし、別の若者いった。そして立ちすくんている女を無造作に撃った。これは名をゴードンという。
鮮血をしぶかせ、女は倒れた。背に幼児を背負っている。
「ふふん。良いものがいる」
三人めの若者――リヒャルトが幼児をくるんでいる衣をつかんだ。幼児ごと手にぶらりと下げる。
「さて。何人殺せるか。勝負といこうか」
薄笑いを浮かべつつ、リヒャルトは拳銃を動かした。左手には幼児がぶら下げられたままだ。
リヒャルトは老人を拳銃でポイントした。恐怖に足をもつれさせ、老人は上手く走ることができないようだ。無造作にリヒャルトはトリガーをひいた。
ひぃ、と。悲鳴をあげて老人は倒れた。するとリヒャルトは可笑しそうに笑った。
「ひぃ、だとよ。絞め殺される鶏みたいに鳴きやがったぜ」
「次はどんな声で鳴きやがるんだ?」
獲物を求め、血走った目でアンドレが辺りを見回した。と――。
次の瞬間、はじかれたようにアンドレが振り返った。その背に灼熱の殺気が吹きつけられたからだ。
殺気の主を見とめ、アンドレが問うた。
「なんだ、お前は?」
「ハンター」
殺気の主はこたえた。
モイシュパト。ゾンネンシュトラール帝国南部の街だ。
突如、轟音が響き渡った。同時に血煙りも。
石畳の街路の只中。拳銃を手にした三人の若者の姿があった。轟音は銃声であったのだ。
「一度人間を撃ってみたかった」
硝煙を立ちのぼらせた拳銃を目の前にかざし、若者がいった。狂犬の目をしている。名はアンドレといった。
「何人殺れるかな」
ニヤリとし、別の若者いった。そして立ちすくんている女を無造作に撃った。これは名をゴードンという。
鮮血をしぶかせ、女は倒れた。背に幼児を背負っている。
「ふふん。良いものがいる」
三人めの若者――リヒャルトが幼児をくるんでいる衣をつかんだ。幼児ごと手にぶらりと下げる。
「さて。何人殺せるか。勝負といこうか」
薄笑いを浮かべつつ、リヒャルトは拳銃を動かした。左手には幼児がぶら下げられたままだ。
リヒャルトは老人を拳銃でポイントした。恐怖に足をもつれさせ、老人は上手く走ることができないようだ。無造作にリヒャルトはトリガーをひいた。
ひぃ、と。悲鳴をあげて老人は倒れた。するとリヒャルトは可笑しそうに笑った。
「ひぃ、だとよ。絞め殺される鶏みたいに鳴きやがったぜ」
「次はどんな声で鳴きやがるんだ?」
獲物を求め、血走った目でアンドレが辺りを見回した。と――。
次の瞬間、はじかれたようにアンドレが振り返った。その背に灼熱の殺気が吹きつけられたからだ。
殺気の主を見とめ、アンドレが問うた。
「なんだ、お前は?」
「ハンター」
殺気の主はこたえた。
リプレイ本文
●
絹を裂くような悲鳴がした。
カフェの中。はじかれたように立ち上がった男女は九人いた。
「何だ?」
彼らは通りを見た。通行人が走っている。何かから逃げているようだ。
九人は通りに走り出た。そして、見た。凄惨な地獄絵図を。
九人から凄まじい殺気が迸りでた。
殺気の主を見とめ、アンドレが問うた。
「なんだ、お前は?」
「ハンター」
殺気の主の一人はこたえた。
小柄で華奢の少女。水着に似た革鎧をまとっている。真紅の瞳には怒りの炎が燃えていた。
「ハンターだと?」
男達は顔を見合わせた。そして楽しそうにくつくつと笑った。
「初めて見た、噂に聞くハンターとやら」
「ほほう。いろいろいる。小娘やおかしな風体の奴も」
「ハンター斬り心地、女の抱き心地、確かめてみるかのう」
男達はいった。そしてハンターとこたえた少女に目をすえると、名を訊いた。
「サクラ・エルフリード(ka2598)」
少女――サクラは冷たい声音でこたえた。
「人として最低ですね……。その子を離しなさい……。神がまだあなた達を見捨ててないうちに……」
「神?」
薄笑いをうかべ、アンドレたちはサクラの全身を舐め回すように見た。その視線に含まれた劣情に気づき、サクラの顔が怒色に染まった。
「何を見ているのですか……。汚らわしい目で見るなら、その目……潰しますよ……」
「潰す、か。やれるものなら、やってみろよ」
「間がいいのか悪いのか……装備品の手入れの帰りにこんな事件に出くわすとはな……が、出くわしてしまったものはしょうがないし、出くわしてなくても駆けつけただろうから結果は同じか」
サクラの傍らの男が肩をすくめてみせた。異様な風体の若者だ。大きん三角形の兜をかぶっており、顔は見えなかった。名をNo.0(ka4640)というのだが、無論本当の名ではない。
辺境の川辺に流れ着いていた彼が纏っていたボロ布には『No.0」の文字が記されていた故だ。その理由は記憶をなくしたために彼にはわからなかった。
「人を捕まえないとちゃんと打てないんだ? だっさ」
もう一人。女が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
二十歳すぎの外見。大きな瞳の美しい娘だ。が、人間ではなかった。鬼だ。
「なんだと?」
ぎろりとリヒャルトが娘――猪川 來鬼(ka6539)を睨みつけた。そして眉をひそめた。來鬼の胸元に異様なものを見出したからだ。手の平位の大きさの血の様に赤い石の様なものが埋め込まれていた。
「なんだ、お前。化物か?」
ゴードンがニンマリと笑った。
「裸にむいてみようぜ。あそこにも石が埋め込まれてるかどうか確かめてやる」
「命を奪わなければいいんだな……? そうか……なら、ああいった外道は心身共に地獄に落すまでだ。無論、これ以上の被害は出さずに、な」
他者には聞こえぬようにNo.0は独語した。同じ時、來鬼は憐憫のため息を零している。
「悲鳴……って人質とらないと出せないのぉ?」
來鬼は思う。人質を取らないと攻撃出来ない彼らをとても可愛そうな子であると。そして、また、こうも。殺さずに捕まえるのなら、殺してと言って来るまで痛めつけたら悲鳴は聞けるかと。ボロボロにして殺して晒してあげたらどんだけ面白いのかと。
アンドレたちよりもなお恐ろしい少女がここに、いた。
●
「こういった輩がいつの時代も現れるのは残念でならない……。めて、大事にならない様に抑えなければ」
一人の男が何事かと走っている人々の前に立ちはだかった。
生真面目そうな若者。が、そのブラウンの瞳には熱い炎が燃え上がっている。
ロニ・カルディス(ka0551)。ハンターだ。
「ここから先は危ない。非難するんだ。うん?」
ロニは気づいた。走る人々の中に苦しそうに歩いた者がまじっている。知った顔だ。ハンターで、名は確か――。
「ザレム・アズール(ka0878)。どうした?」
ロニは呼びかけた。
ザレムは先の大規模作戦で強力な敵と戦い傷を負ったいる。その養生のために彼はこの街に来ていたのだ。とても動けるように状態ではなかった。
「避難させるんだ」
ザレムはこたえた。全身を覆う包帯が痛々しい。
「馬鹿な」
ロニは顔色を変えた。
「おまえは大怪我を負っている。下手に動けば死ぬぞ」
「大人しく寝てなんか居られないさ。俺は少なくともハンターであるし、覚醒者だ。一般人の避難誘導くらいは力になれるさ」
「好きにするさ」
冷たく男がいった。血色の瞳をもつ冷徹な雰囲気の若者だ。
名はオルタニア(ka6436)。ハンターである。
「そいつも覚醒者。自身の始末くらいできるよ。それよりも」
オルタニアは振り向いた。三人の暴漢たちを見やる。
「やれやれ……ちょいと訳が分からないが彼らは何がしたいのだか…な。私のように愛を語る訳じゃあないようだし、その真意というのが気になってしまうね。まぁ、その辺は一度分からせてからじっくり聞けば良いかな……。とは言え……」
オルタニアの紅瞳がきらりと光った。殺意の冷たい光だ。
「許せる範囲を遥かに超えてしまっているのだよな。………業が深いな、愚か過ぎて……笑えてしまうね」
オルタニアは周囲の人々をあらためて眺めた。
「不意打ちといきたいのだが、私の得物もあるし、何よりも周りが気になってしまうね」
オルタニアはひっ掴んだ武器に視線をおとした。
ザンナスクーレ。全長百八十センチメートルにも及ぶ白銀の戦斧であった。竜の牙から作られたという刃を持っている。
「一般人……それも非力な者ばかりだらけだ、彼らが巻き込まれるのは不本意。愛を語るには相手がおかしいしね……避難誘導しようか」
オルタニアはぼそりと呟いた。
●
「三人、か」
値踏みするようにアンドレは三人のハンターを見た。
アンドレは口をゆがめた。
「なかなかに使うようだが、しょせんは女。それに奇妙な兜をかぶった変人。人を殺すとはどのようなものか、どのような心地がするのかわかるまい」
「なめるなよ」
兜の内からNo.0のくぐもった声が流れ出た。
「お前などよりよほど俺たちの方が場数を踏んでる。撃つなら撃て。斬りかかってくるならいつでも来い」
No.0はいった。すると來鬼が挑発するようにふふんと笑った。
「撃てないの? 撃ってみたかったんでしょ? 人質でないと撃てないヘタレのかなぁ」
その來鬼の言葉が終わらぬうち、アンドレは動いた。拳銃をかまえ、撃つ。
ほぼ同時。No.0もまた動いていた。來鬼の前に立ちはだかる。
「あっ」
アンドレの口から愕然たる呻きが発せられた。彼は見たのだ。放った弾丸がNo.0に命中する寸前に弾き返されたのを。
「な、なんだ、今のは?」
「魔法だ」
No.0がこたえた。
そう、魔法。No.0は魔法の障壁を展開し、銃弾をはじいたのであった。
「くそっ」
ゴードンもまた銃を撃った。リヒャルトも。
No.0は再び障壁を展開し、ゴードンが放った銃弾をはじいた。が、リヒャルトのそれははじきえなかった。さすがに瞬間的に魔法を発動させることは不可能であったのだ。
弾丸がNo.0の腹に叩き込まれた。着弾の衝撃にNo.0はよろけ、膝をつく。
「やりましたね」
サクラがリヒャルトを睨みつけた。その全身から凄絶の殺気が立ち上る。が、すぐにその殺気が凍結した。リヒャルトが赤子に銃口を押し付けたからだ。
「動くなよ。動いたら、このガキを殺す」
「……卑怯者」
サクラは唇を悔しげに噛み締めた。
その時だ。アンドレとゴードンがトリガーをひいた。弾丸を撃ち込まれたサクラと來鬼が後退る。鮮血が二人の衣服を赤く染めた。
●
ザレムが足をとめた。銃声が聞こえたからだ。
「……始まったか」
「急げ」
ロニがいった。ともかく一般人の避難を終えなければならない。被害をなくすため。そして、さらなる人質をださないため。
「待ってろ。もうすぐいくからな」
振り向き、オルタニアは笑った。恐い笑みであった。
リヒャルトは哄笑をあげた。
「ぎゃははは。これが噂に聞くハンターか。たいしたことはないな。ただの木偶人形だ」
「いってくれるね」
來鬼が目をあげた。が、動くことはできない。すると再び銃声がした。激痛に、今度こそサクラと來鬼は倒れた。
「はっははは。お前もだ。魔法など使うなよ。使えばガキは殺す」
リヒャルトが銃を撃った。銃弾をぶち込まれたNo.0もまた倒れる。さしものハンターも二発の銃弾をうけたのだ。ただではすまなかった。
「さあて。野郎だけは始末するか」
リヒャルトはじろりとサクラを見た。血筋のからみついた目に劣情のねばい光をうかべて。
リヒャルトは銃口を倒れたNo.0の頭にむけた。トリガーにかけた指に力を込め――。
指がぴたりととまった。
自らとめたのではない。動かないのだ。
横からのびた手が上部のスライドを引っ張って後退させ、そのまま押えてスライドを固定してしまったからだ。
「なにっ」
愕然とするリヒャルトの眼前、手の主がふふんと鼻を鳴らした。
十八歳の少女。が、若年に似合わぬふてぶてしさを備えている。
アニス・テスタロッサ(ka0141)。ハンターであった。
「撃たせるかよ、アホ。テメェ等よりゃ遥かにこの玩具の扱いは慣れてんだ」
アニスはリヒャルトの足にオートマチック拳銃――アレニスカの銃口をむけた。何の躊躇いもなく撃つ。
「ぎゃあ」
激痛にリヒャルトは悲鳴をあげた。その時、すでに彼の拳銃はアニスの手に移っている。
「本当は眉間にぶち込みたかったんだけどよぉ……。よかったな、射殺許可が下りてなくて」
アニスは口の端をゆがめた。
その時だ。世界が白く燃え上がった。強烈な白光が閃いたのだ。
「あっ」
「うっ」
アンドレとリヒャルトが目をおさえた。強烈な光に目が眩んだのだ。
光の正体は魔法であった。発動させたのは目を極星のごとく蒼く輝やかせ、ゆらりと髪を逆立てた娘である。
星野 ハナ(ka5852)。ハンターだ。
「ほほう」
感心したような声が発せられた。
老婆である。が、老人のもつ弱々しいところはまるでなかった。むしろ精気が充溢している。
婆(ka6451)。鬼のハンターであった。その手は拳銃を弄んでいる。ゴードンから奪い取ったものだ。
「なんじゃ? りぼるばぁとおぉとまちっくっちゅうたか? それでは撃ち方が違うらしいのう。どうすりゃあえんかのう?」
「くそっ」
アンドレが婆に銃口をむけた。ハナが叫ぶ。
「ケンちゃん、シバちゃん。攪乱ヨロですぅ」
二匹の犬がアンドレに飛びかかった。からくもアンドレは躱したが、その手の拳銃ははじきとばされた。
●
「くそっ」
アンドレたちが抜剣した。婆とアニスに襲いかかる。
「やるかの」
婆がかまえた。刹那だ。
「動くな」
絶叫が響き渡った。ぴたりとハンターの動きがとまる。彼らは見た。眼前に上げられたリヒャルトの手ががっしと赤子を掴んでいるのを。
「やってくれたな。この傷の礼はさせてもらうぞ」
リヒャルトがいった。するとアンドレたちの剣が閃いた。鮮血をしぶかせて倒れるアニスと婆。ハナがぎらとリヒャルトを睨み据えた。
「どこまでも卑怯ですねぇ。ブッコロしちゃまずいらしいですけどぉ、やっぱりブッコロしてあげた方が本当は親切ですよねぇ……」
「ぬかせ。次は貴様を殺す」
リヒャルトはニヤリとした。そして赤子の首に刃の切っ先を突きつけた。
「動くなよ。貴様たちが動けば、この赤子の首と胴は泣き別れとなるぞ」
「くっ」
ハナが悔しげに唇を噛んだ。
刹那だ。三つの影が地から跳ね上がった。サクラ、No.0、來鬼の三人である。彼らはサクラの魔法によりひそかに傷を癒していたのだった。
來鬼が獣並みの速度でリヒャルトに迫った。赤子を掴んだ腕を蹴り上げる。
衝撃に赤子がリヒャルトのてからはなれて、とんだ。地に落ちる寸前、空を飛翔するように跳んだ影が抱きとめた。ザレムである。
「間にあったようだな」
「人質がいなくなれば遠慮は無用ですね……」
サクラが冷たく笑った。
「避難も完了しているようですし、神は見捨てたようですね……あなた達を……。殺すなとは言われているので命の保証はしてあげます……。ですので安心して捕まってください……。まあ、命の保証しかしませんけど……。特に私以外の人は……」
「ほざけ」
リヒャルトがサクラに襲いかかった。その眼前に立ちはだかったのはオルタニアだ。
「本物の狂人っていうのを教えてあげよう。私だって、無駄にハンターやっているわけじゃあ……ないんだよ……くふふ」
凄絶に笑うオルタニアのザンナスクーレが翻った。豪風が赤く染まる。
「ああっ」
苦鳴をあげてリヒャルトは倒れた。
●
ゴードンにむかったのはNo.0であった。
「死ぬのは怖くない……か。なら、まずは痛みから思い出させてやろう」
「痛い思いをするのはどっちだ」
ゴードンが剣をかまえた。が――。
あっ、とゴードンが呻いた。No.0の眼前の空間に異変が起こっている。光でできた三角形が現出したのだ。
「な、何だ?」
「魔法だ」
No.0が告げた。
その瞬間である。三角形の頂点一つ一つから光が迸りでた。
反射的にゴードンは剣でなぎ払った。が、魔法で編み出された破壊光線を斬ることができえようはずもない。光がゴードンの脇腹を貫いた。
「覚えておけ。それが痛みというものだ」
倒れたゴードンを見下ろし、冷たくNo.0はいった。
アンドレは背を返した。逃げるつもりだ。
「ぬっ」
突如、アンドレがたたらを踏んだ。その脚を光の杭が貫いたと見とめえた者がいたか、どうか。
それは断罪の杭であった。放ったのはロニだ。
「逃がすものかよ」
「黙れ」
再びアンドレが走り出した。
その時だ。銃声が轟いた。
「くあっ」
アンドレが崩折れた。その足から鮮血がしぶいている。
「ほっほほ。まぐれ当たりというものじゃの」
硝煙の立ち上る銃口を覗き込み、婆がくつくつと笑った。
「おい」
アニスがリヒャルトの口に拳銃の銃口を突っ込んだ。
「なあ、どんな気分だ? テメェ等クソどもに撃たれた連中はその痛みを感じることも出来なかったわけだが」
「虫けらが死んだところでどうということもなかろう」
「……やっぱ殺るか?」
トリガーにかけた指にアニスは力を込め――指をとめた。
「……なんてな、殺るわけねーだろ。テメェ等みてーなクズに堕ちたかねーや。でもな、今度同じような真似しやがったら……撃たれたことに気づく間も無くあの世に送ってやるよ。幸せな死に方だろ?」
声もなく、リヒャルトは項垂れた。
絹を裂くような悲鳴がした。
カフェの中。はじかれたように立ち上がった男女は九人いた。
「何だ?」
彼らは通りを見た。通行人が走っている。何かから逃げているようだ。
九人は通りに走り出た。そして、見た。凄惨な地獄絵図を。
九人から凄まじい殺気が迸りでた。
殺気の主を見とめ、アンドレが問うた。
「なんだ、お前は?」
「ハンター」
殺気の主の一人はこたえた。
小柄で華奢の少女。水着に似た革鎧をまとっている。真紅の瞳には怒りの炎が燃えていた。
「ハンターだと?」
男達は顔を見合わせた。そして楽しそうにくつくつと笑った。
「初めて見た、噂に聞くハンターとやら」
「ほほう。いろいろいる。小娘やおかしな風体の奴も」
「ハンター斬り心地、女の抱き心地、確かめてみるかのう」
男達はいった。そしてハンターとこたえた少女に目をすえると、名を訊いた。
「サクラ・エルフリード(ka2598)」
少女――サクラは冷たい声音でこたえた。
「人として最低ですね……。その子を離しなさい……。神がまだあなた達を見捨ててないうちに……」
「神?」
薄笑いをうかべ、アンドレたちはサクラの全身を舐め回すように見た。その視線に含まれた劣情に気づき、サクラの顔が怒色に染まった。
「何を見ているのですか……。汚らわしい目で見るなら、その目……潰しますよ……」
「潰す、か。やれるものなら、やってみろよ」
「間がいいのか悪いのか……装備品の手入れの帰りにこんな事件に出くわすとはな……が、出くわしてしまったものはしょうがないし、出くわしてなくても駆けつけただろうから結果は同じか」
サクラの傍らの男が肩をすくめてみせた。異様な風体の若者だ。大きん三角形の兜をかぶっており、顔は見えなかった。名をNo.0(ka4640)というのだが、無論本当の名ではない。
辺境の川辺に流れ着いていた彼が纏っていたボロ布には『No.0」の文字が記されていた故だ。その理由は記憶をなくしたために彼にはわからなかった。
「人を捕まえないとちゃんと打てないんだ? だっさ」
もう一人。女が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
二十歳すぎの外見。大きな瞳の美しい娘だ。が、人間ではなかった。鬼だ。
「なんだと?」
ぎろりとリヒャルトが娘――猪川 來鬼(ka6539)を睨みつけた。そして眉をひそめた。來鬼の胸元に異様なものを見出したからだ。手の平位の大きさの血の様に赤い石の様なものが埋め込まれていた。
「なんだ、お前。化物か?」
ゴードンがニンマリと笑った。
「裸にむいてみようぜ。あそこにも石が埋め込まれてるかどうか確かめてやる」
「命を奪わなければいいんだな……? そうか……なら、ああいった外道は心身共に地獄に落すまでだ。無論、これ以上の被害は出さずに、な」
他者には聞こえぬようにNo.0は独語した。同じ時、來鬼は憐憫のため息を零している。
「悲鳴……って人質とらないと出せないのぉ?」
來鬼は思う。人質を取らないと攻撃出来ない彼らをとても可愛そうな子であると。そして、また、こうも。殺さずに捕まえるのなら、殺してと言って来るまで痛めつけたら悲鳴は聞けるかと。ボロボロにして殺して晒してあげたらどんだけ面白いのかと。
アンドレたちよりもなお恐ろしい少女がここに、いた。
●
「こういった輩がいつの時代も現れるのは残念でならない……。めて、大事にならない様に抑えなければ」
一人の男が何事かと走っている人々の前に立ちはだかった。
生真面目そうな若者。が、そのブラウンの瞳には熱い炎が燃え上がっている。
ロニ・カルディス(ka0551)。ハンターだ。
「ここから先は危ない。非難するんだ。うん?」
ロニは気づいた。走る人々の中に苦しそうに歩いた者がまじっている。知った顔だ。ハンターで、名は確か――。
「ザレム・アズール(ka0878)。どうした?」
ロニは呼びかけた。
ザレムは先の大規模作戦で強力な敵と戦い傷を負ったいる。その養生のために彼はこの街に来ていたのだ。とても動けるように状態ではなかった。
「避難させるんだ」
ザレムはこたえた。全身を覆う包帯が痛々しい。
「馬鹿な」
ロニは顔色を変えた。
「おまえは大怪我を負っている。下手に動けば死ぬぞ」
「大人しく寝てなんか居られないさ。俺は少なくともハンターであるし、覚醒者だ。一般人の避難誘導くらいは力になれるさ」
「好きにするさ」
冷たく男がいった。血色の瞳をもつ冷徹な雰囲気の若者だ。
名はオルタニア(ka6436)。ハンターである。
「そいつも覚醒者。自身の始末くらいできるよ。それよりも」
オルタニアは振り向いた。三人の暴漢たちを見やる。
「やれやれ……ちょいと訳が分からないが彼らは何がしたいのだか…な。私のように愛を語る訳じゃあないようだし、その真意というのが気になってしまうね。まぁ、その辺は一度分からせてからじっくり聞けば良いかな……。とは言え……」
オルタニアの紅瞳がきらりと光った。殺意の冷たい光だ。
「許せる範囲を遥かに超えてしまっているのだよな。………業が深いな、愚か過ぎて……笑えてしまうね」
オルタニアは周囲の人々をあらためて眺めた。
「不意打ちといきたいのだが、私の得物もあるし、何よりも周りが気になってしまうね」
オルタニアはひっ掴んだ武器に視線をおとした。
ザンナスクーレ。全長百八十センチメートルにも及ぶ白銀の戦斧であった。竜の牙から作られたという刃を持っている。
「一般人……それも非力な者ばかりだらけだ、彼らが巻き込まれるのは不本意。愛を語るには相手がおかしいしね……避難誘導しようか」
オルタニアはぼそりと呟いた。
●
「三人、か」
値踏みするようにアンドレは三人のハンターを見た。
アンドレは口をゆがめた。
「なかなかに使うようだが、しょせんは女。それに奇妙な兜をかぶった変人。人を殺すとはどのようなものか、どのような心地がするのかわかるまい」
「なめるなよ」
兜の内からNo.0のくぐもった声が流れ出た。
「お前などよりよほど俺たちの方が場数を踏んでる。撃つなら撃て。斬りかかってくるならいつでも来い」
No.0はいった。すると來鬼が挑発するようにふふんと笑った。
「撃てないの? 撃ってみたかったんでしょ? 人質でないと撃てないヘタレのかなぁ」
その來鬼の言葉が終わらぬうち、アンドレは動いた。拳銃をかまえ、撃つ。
ほぼ同時。No.0もまた動いていた。來鬼の前に立ちはだかる。
「あっ」
アンドレの口から愕然たる呻きが発せられた。彼は見たのだ。放った弾丸がNo.0に命中する寸前に弾き返されたのを。
「な、なんだ、今のは?」
「魔法だ」
No.0がこたえた。
そう、魔法。No.0は魔法の障壁を展開し、銃弾をはじいたのであった。
「くそっ」
ゴードンもまた銃を撃った。リヒャルトも。
No.0は再び障壁を展開し、ゴードンが放った銃弾をはじいた。が、リヒャルトのそれははじきえなかった。さすがに瞬間的に魔法を発動させることは不可能であったのだ。
弾丸がNo.0の腹に叩き込まれた。着弾の衝撃にNo.0はよろけ、膝をつく。
「やりましたね」
サクラがリヒャルトを睨みつけた。その全身から凄絶の殺気が立ち上る。が、すぐにその殺気が凍結した。リヒャルトが赤子に銃口を押し付けたからだ。
「動くなよ。動いたら、このガキを殺す」
「……卑怯者」
サクラは唇を悔しげに噛み締めた。
その時だ。アンドレとゴードンがトリガーをひいた。弾丸を撃ち込まれたサクラと來鬼が後退る。鮮血が二人の衣服を赤く染めた。
●
ザレムが足をとめた。銃声が聞こえたからだ。
「……始まったか」
「急げ」
ロニがいった。ともかく一般人の避難を終えなければならない。被害をなくすため。そして、さらなる人質をださないため。
「待ってろ。もうすぐいくからな」
振り向き、オルタニアは笑った。恐い笑みであった。
リヒャルトは哄笑をあげた。
「ぎゃははは。これが噂に聞くハンターか。たいしたことはないな。ただの木偶人形だ」
「いってくれるね」
來鬼が目をあげた。が、動くことはできない。すると再び銃声がした。激痛に、今度こそサクラと來鬼は倒れた。
「はっははは。お前もだ。魔法など使うなよ。使えばガキは殺す」
リヒャルトが銃を撃った。銃弾をぶち込まれたNo.0もまた倒れる。さしものハンターも二発の銃弾をうけたのだ。ただではすまなかった。
「さあて。野郎だけは始末するか」
リヒャルトはじろりとサクラを見た。血筋のからみついた目に劣情のねばい光をうかべて。
リヒャルトは銃口を倒れたNo.0の頭にむけた。トリガーにかけた指に力を込め――。
指がぴたりととまった。
自らとめたのではない。動かないのだ。
横からのびた手が上部のスライドを引っ張って後退させ、そのまま押えてスライドを固定してしまったからだ。
「なにっ」
愕然とするリヒャルトの眼前、手の主がふふんと鼻を鳴らした。
十八歳の少女。が、若年に似合わぬふてぶてしさを備えている。
アニス・テスタロッサ(ka0141)。ハンターであった。
「撃たせるかよ、アホ。テメェ等よりゃ遥かにこの玩具の扱いは慣れてんだ」
アニスはリヒャルトの足にオートマチック拳銃――アレニスカの銃口をむけた。何の躊躇いもなく撃つ。
「ぎゃあ」
激痛にリヒャルトは悲鳴をあげた。その時、すでに彼の拳銃はアニスの手に移っている。
「本当は眉間にぶち込みたかったんだけどよぉ……。よかったな、射殺許可が下りてなくて」
アニスは口の端をゆがめた。
その時だ。世界が白く燃え上がった。強烈な白光が閃いたのだ。
「あっ」
「うっ」
アンドレとリヒャルトが目をおさえた。強烈な光に目が眩んだのだ。
光の正体は魔法であった。発動させたのは目を極星のごとく蒼く輝やかせ、ゆらりと髪を逆立てた娘である。
星野 ハナ(ka5852)。ハンターだ。
「ほほう」
感心したような声が発せられた。
老婆である。が、老人のもつ弱々しいところはまるでなかった。むしろ精気が充溢している。
婆(ka6451)。鬼のハンターであった。その手は拳銃を弄んでいる。ゴードンから奪い取ったものだ。
「なんじゃ? りぼるばぁとおぉとまちっくっちゅうたか? それでは撃ち方が違うらしいのう。どうすりゃあえんかのう?」
「くそっ」
アンドレが婆に銃口をむけた。ハナが叫ぶ。
「ケンちゃん、シバちゃん。攪乱ヨロですぅ」
二匹の犬がアンドレに飛びかかった。からくもアンドレは躱したが、その手の拳銃ははじきとばされた。
●
「くそっ」
アンドレたちが抜剣した。婆とアニスに襲いかかる。
「やるかの」
婆がかまえた。刹那だ。
「動くな」
絶叫が響き渡った。ぴたりとハンターの動きがとまる。彼らは見た。眼前に上げられたリヒャルトの手ががっしと赤子を掴んでいるのを。
「やってくれたな。この傷の礼はさせてもらうぞ」
リヒャルトがいった。するとアンドレたちの剣が閃いた。鮮血をしぶかせて倒れるアニスと婆。ハナがぎらとリヒャルトを睨み据えた。
「どこまでも卑怯ですねぇ。ブッコロしちゃまずいらしいですけどぉ、やっぱりブッコロしてあげた方が本当は親切ですよねぇ……」
「ぬかせ。次は貴様を殺す」
リヒャルトはニヤリとした。そして赤子の首に刃の切っ先を突きつけた。
「動くなよ。貴様たちが動けば、この赤子の首と胴は泣き別れとなるぞ」
「くっ」
ハナが悔しげに唇を噛んだ。
刹那だ。三つの影が地から跳ね上がった。サクラ、No.0、來鬼の三人である。彼らはサクラの魔法によりひそかに傷を癒していたのだった。
來鬼が獣並みの速度でリヒャルトに迫った。赤子を掴んだ腕を蹴り上げる。
衝撃に赤子がリヒャルトのてからはなれて、とんだ。地に落ちる寸前、空を飛翔するように跳んだ影が抱きとめた。ザレムである。
「間にあったようだな」
「人質がいなくなれば遠慮は無用ですね……」
サクラが冷たく笑った。
「避難も完了しているようですし、神は見捨てたようですね……あなた達を……。殺すなとは言われているので命の保証はしてあげます……。ですので安心して捕まってください……。まあ、命の保証しかしませんけど……。特に私以外の人は……」
「ほざけ」
リヒャルトがサクラに襲いかかった。その眼前に立ちはだかったのはオルタニアだ。
「本物の狂人っていうのを教えてあげよう。私だって、無駄にハンターやっているわけじゃあ……ないんだよ……くふふ」
凄絶に笑うオルタニアのザンナスクーレが翻った。豪風が赤く染まる。
「ああっ」
苦鳴をあげてリヒャルトは倒れた。
●
ゴードンにむかったのはNo.0であった。
「死ぬのは怖くない……か。なら、まずは痛みから思い出させてやろう」
「痛い思いをするのはどっちだ」
ゴードンが剣をかまえた。が――。
あっ、とゴードンが呻いた。No.0の眼前の空間に異変が起こっている。光でできた三角形が現出したのだ。
「な、何だ?」
「魔法だ」
No.0が告げた。
その瞬間である。三角形の頂点一つ一つから光が迸りでた。
反射的にゴードンは剣でなぎ払った。が、魔法で編み出された破壊光線を斬ることができえようはずもない。光がゴードンの脇腹を貫いた。
「覚えておけ。それが痛みというものだ」
倒れたゴードンを見下ろし、冷たくNo.0はいった。
アンドレは背を返した。逃げるつもりだ。
「ぬっ」
突如、アンドレがたたらを踏んだ。その脚を光の杭が貫いたと見とめえた者がいたか、どうか。
それは断罪の杭であった。放ったのはロニだ。
「逃がすものかよ」
「黙れ」
再びアンドレが走り出した。
その時だ。銃声が轟いた。
「くあっ」
アンドレが崩折れた。その足から鮮血がしぶいている。
「ほっほほ。まぐれ当たりというものじゃの」
硝煙の立ち上る銃口を覗き込み、婆がくつくつと笑った。
「おい」
アニスがリヒャルトの口に拳銃の銃口を突っ込んだ。
「なあ、どんな気分だ? テメェ等クソどもに撃たれた連中はその痛みを感じることも出来なかったわけだが」
「虫けらが死んだところでどうということもなかろう」
「……やっぱ殺るか?」
トリガーにかけた指にアニスは力を込め――指をとめた。
「……なんてな、殺るわけねーだろ。テメェ等みてーなクズに堕ちたかねーや。でもな、今度同じような真似しやがったら……撃たれたことに気づく間も無くあの世に送ってやるよ。幸せな死に方だろ?」
声もなく、リヒャルトは項垂れた。
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暴漢逮捕大作戦 No.0(ka4640) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/11/02 21:45:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/31 23:17:47 |