狼雑魔討伐依頼

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2016/11/03 19:00
完成日
2016/11/09 06:26

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●噂
 傲慢の歪虚が占拠しているイスルダ島に近い王国西部や、大峡谷に近い王国北部と比べると、王国の東部は平和で穏やかである。
 もちろん、全くもって安全とも言い切れない。野盗が出る事もあれば、雑魔だって出たりする。
 また、凶暴な野生生物は非覚醒者から見れば十分に脅威の存在だ。
「……本当に、この一帯の狼を駆除してくれるのですか?」
 信じらないといった雰囲気で村長が聞き返した。
「えぇ、もちろんです。風の噂で王国東部で雑魔と化した狼が暴れている所があると聞きました。雑魔化する前に退治する事をお勧めしますよ」
「うーむ」
 考え込む村長。
 事の発端は、一つの噂だった。

 ――王国東部で雑魔化した狼が出没している――

 真偽のほどは分からない。
 ただ、行商から聞いた話だと、教会やハンター達が介入しているという。
 そんな情報が村長の耳に入ったと同時に、ある傭兵団が村にやって来たのだ。
 彼らは言った。

 ――報酬さえ出してくれれば、一帯の狼を根こそぎ退治しましょう――

 費用は安くはない。
 だが、もし、狼が雑魔化し、街道が封鎖されれば、この小さい村はたちまち困窮してしまう。
 あるいは――考えたくはないが――村が襲われて被害者が出るのかもしれない。
「……分かりました。報酬をお支払いしますので、狼退治をお願いします」
「賢明な判断ですよ」
 にっこりと傭兵団の団長は微笑んだ。
 屈強な傭兵共を束ねているのは、歴戦の戦士のような男ではなく、風でも吹けば飛んでしまいそうな優男だった。

●ビジネス
 傭兵団による狼退治は翌日から始まった。
 一帯の地形の入念な調査、狼の種類と数の確認、必要な罠の準備、追撃の為の馬の手配。
 いずれも慣れすぎている。慣れすぎて逆に怖い所があった。
「待って下さい!」
 1人の村人が傭兵団を止めに入ったのは、いよいよ狼退治が始まる前日だった。
「なんでしょうか?」
 団長である優男が微笑を浮かべたまま村人と対峙した。
「この一帯の狼は人を襲ったりはしない。テリトリーに入った人間を監視しているだけで、こちらから危害を与えない限り、襲っては来ない」
「だとしても、これはビジネスですからねぇ」
 両方を竦める団長。
「ビジネス?」
「そう。貴方も噂で聞いたでしょう。雑魔と化した狼が暴れていると。だから、危険な存在になる前に排除しなければならないのです。村は安全を、私達はその対価を」
 大げさな身振りで説明する団長に村人は怪訝な顔を浮かべた。
「その噂ってのは、あんたらが振り撒いているのじゃ?」
「まさか、そんな事、有り得ませんよ。私達も、噂を聞いて、わざわざ王国東部に足を運んだのですから」
 胡散臭い雰囲気を感じた村人だったが、それ以上は追求できなかった。
 面倒な村人を黙らせる事ができて上機嫌になった団長は周囲に集まっている村人に宣言する。
「では、こうしましょう。私達が信用できないという村人もいらっしゃるようですので……報酬は半額で構いませんよ」
「なん……だと……」
 ざわめく村人達。
 傭兵団を止めた村人は驚いた表情を浮かべていた。
「そんな事すれば、あんたらは実質的に、ただ働きじゃないですか」
「ビジネスは信頼が大事です。また、村でなにかあったら、その時もまた、私達をお呼び下さい」
 優雅に頭を下げる優男。
 村人達は拍手喝采を向けたのであった。ややしてから、優男は片手を高く挙げた。
「つきましては、皆様にお願いがあります。明日から狼退治が始まりますが、万が一でも討ち漏らした狼が人を襲う事も考えられます。数日は村から出ないようにお願いします」
 その言葉を村人らは快諾したのであった。

●雑魔
「上手くいきましたね、旦那」
 一人の傭兵が団長に声をかけた。
 狼退治は順調である。ついでに言うと、“もう一つの”ビジネスも順調だった。
「罠にかかるのは狼だけではないという事だ」
「狸、狐、兎、鹿と豊かな一帯ですよここは。熊は居ないですが」
「肝心の狼共はどうだ?」
 そもそも狼退治なのだ。
 狼は絶対に根こそぎ全滅させておかなければならない。
「大方全滅させましたが、頭の良い狼が居るようで群れを率いてます。罠にも掛からず追いかけても逃げます」
「まったく、君らの脳みそは畜生以下か?」
 傭兵のベシベシと頭を叩く団長。
「まだ“処理前”の狼を使え。奴は必ず私達の動きを見ているはずだからな」
 こうして、狼の群れを誘き出す作戦が開始された。
 “処理前”の狼を残酷な方法で痛み付け……その叫び声を響かせるのだ。

 傷つき瀕死の狼を、1人の歪虚が抱きかかえていた。
 助かる術はない。仲間を助ける為か、それとも、別の理由があったのかはともかく、この狼らは、人間共が待ち構える所へ飛び込んだのだ。
 結果――多くの狼は死に絶え、生き残って逃亡した狼はいずれも深い傷を負っていた。数日もすれば全滅するだろう。
「身勝手ナ、ニンゲン共メ」
 歪虚は怒りの声を上げた。
 胴体や四肢は人のそれに近いが、腰周りや二の腕から先、脛から先は犬であった。
 ふわふわの黄土色の頭髪からは犬耳が飛び出ている。
「ヲ前達ノ怒リ、ブツケタイナラ、力ヲアゲル」
 歪虚から負のマテリアルが発せられた。


 ――後日、ハンターオフィスに一つの依頼が、王国東部の小さい村から出された。
 それは、狼退治を受け持った傭兵団の行方を探ると共に、目撃された狼の雑魔を退治する依頼だった――。

リプレイ本文

●開始
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が威勢良く、村の中心で符を掲げて宣言している。
「忍法とカードの力を駆使して、狼雑魔をやっつけちゃいます!」
 集まった村人らの中から、パチパチとまばらな拍手。
 大半の村人らは危険に備えて家の中に篭っていた。
 ハンター達は村長や警戒に当たる村人らから傭兵団の情報を集め終わり、いよいよ、探索へと向かう所だ。
「傭兵団はどこに行ったのかなー?」
 と、連絡用のトランシーバーの調子を確認しながらメイム(ka2290)は疑問の声をあげた。
 狼退治に出掛けたまま戻ってこない傭兵団。雑魔を討伐するだけではなく、その調査もハンター達は任されているからだ。
「雑魔化した狼ですか……動物が雑魔化して暴れるという話は、珍しい訳ではありませんが……前後の動きが引っ掛かりますね」
 聖剣を手にして真剣な眼差しを遠くに見える林に向けているのはヴァルナ=エリゴス(ka2651)だった。
 王国東部のある地方では狼雑魔が出没しているという噂がある。狼退治を行うという事であれば、雑魔が出現していると予想し対策はしていそうだが……。
「多分、事実を利用した扇動と便乗商売でしょう……」
 守原 有希弥(ka0562)が淡々とそんな言葉を口にした。
 傭兵団はビジネスと言っていたので、便乗商売は間違いないだろう。
「報酬は仕事を保証する対価だ。多少の割引なら、信用の為と言うのは判る。しかし、半額ともなれば……その補填が出来る収入を、この一帯で見込んでるんじゃねえのか?」
 鋭く推理したのは龍崎・カズマ(ka0178)だ。
 彼の言う通り、傭兵団の動きは怪しいの一言だ。場合によっては命懸けの仕事の報酬を、半額にする事なのだろうか。
 どこかで補填が得られるような仕組みを作っていた可能性は高い。村人らを引き篭らせていたという情報もある。冷静に考えれば、傭兵団に『別の目的』があると言っているようなものだ。
「俺がリアルブルーで相手にしていた、海賊ってのも、この手の傾向が強かったな」
 ラジェンドラ(ka6353)が転移前の事を思い出しながら言う。
 どこの世界にも悪巧みを考えている者は居るものだ。傭兵団も善人面しているが、話を聞くと不審な点が多い。
「相手に気づかれずに悪さをする。された方が気付かないほどにな」
 どんな結末が待っているのか、その真相を知る為にハンター達は村を出発した。


「ジュゲ(略)……ルンルン忍法分身の術!」
 豪勢な二つの胸丘を揺らしながらルンルンが符術を行使すると、るんるんと丸文字で書かれた式神が飛んでいく。
 草原や岩場の捜索と違って、森の中は、なかなか骨が折れていた。
「カズマさん、どうかなー」
 メイムの声が森の中に響く。
 連携しながら効率よく探索を続けていたが、傭兵団の拠点っぽいのは見つける事ができなかった。
 だが、それ以外の重要な発見はあった。
「捕縛の罠が、多すぎないか?」
 罠に掛かってしまったハスキーを助けてやり、周囲を見渡す。
 森の中なので、罠の存在が分かりにくいが、相当な数が仕掛けてあるようだ。
「狼だけを狙った罠ではないしな」
 小さい罠もあれば、大掛かりな罠もある。
 狼だけを狙っているのであれば、不要な事をしないのがセオリーのはず。
「あぁ! もふらちゃん! ……って、あれー!?」
 傭兵団の設置した罠にかかったルンルンのペット。
 慌てたルンルンが別の罠にかかり――逆さの状態で釣り上げられる。豊かなたわわが跳ねる。
「今、助けるからねー」
 自分もああはならないようにと気をつけながら救助に向かうメイム。
 その様子を眺めながらカズマはふと、思った。
「……狼を理由にした『密猟』が目的だった……か?」


 魔導短伝話からのノイズを確認し、有希弥は電源を付けたままで周囲を確認する。
「伝話の雑音は鳴子代わり……のつもりでしたが……」
 負のマテリアルに影響していないのか、そもそも、周囲に影響になる存在がないのか、無反応な伝話だった。
 傭兵団が残した罠だけではなく、生活の跡がないかもハンター達は探していた。
「罠の設置されている位置と、他の場所との行き来のし易さが分かれば……」
 ヴァルナが地図を確認しながら印をつけていく。
 村人らの話しを聞いて沼、そして、林と探索を続けていたが、未だ拠点らしいものは見つけられなかった。
「生活する為には、水辺から遠くない所が妥当だとは思います」
 有希弥の推理にヴァルナも頷いた。
 拠点の作るのであれば、それなりの広さや水場の確保は重要だ。
「テントや資材を運ぶのにも馬は必要だ。足跡等その辺りを意識しておこう」
 ラジェンドラが地面を注視していた。
 拠点を維持するには多くの資材が必要だ。とてもじゃないが人力では運べない。
 となると、馬車や馬を使っていた可能性は高い――。
「この跡は……」
 林の落ち葉の中、不自然な跡をヴァルナは見つけた。
 獣道にしては踏み固められているというか、人為的な踏み込みの跡がレールのように先へと続いている。
「荷車の類かもしれませんね」
 跡に直接、手を触れながら有希弥は呟く。
「この先には河原があったはずだな」
 地図を確認してラジェンドラが考えながら言った。

 かくして、不自然な跡を追ったハンター達が遭遇したのは、全滅した傭兵団の拠点だった――。


 全員が合流するのを待ってから、ハンター達は傭兵団の拠点へと踏み入った。
 雑魔が居る可能性が高いからだ。
「酷い……確かに、怪しい人達だったみたいだけど……絶対に許さないんだからっ!」
 ルンルンが怒った表情で無残に破壊されたテントをみつめていた。
 逃げ遅れたのか、戦った末の結果なのか、拠点のあちこちに傭兵団と思われる遺体が転がっていた。腐敗が始まり、一帯は悪臭に包まれている。
「執拗に痛めつけられているみたいー」
「相当な恨みがあったという訳でしょうか? 食べられた様な感じはしませんね」
 無残な遺体の一つを確認したメイムとヴァルナが、そんな言葉を発した。
 その時だった。一際大きいテントの脇から狼の形をした雑魔――いや、狼だったものが雑魔化した存在が現われた。数は4体……。
「この様子じゃあ、こいつらにやられたか。狼雑魔対策に狼退治をしに来て、狼雑魔にやられるとは世話がないな」
 愛用の槍を構えるラジェンドラだが、積極的に前衛には出ずに、機導術の構えを取る。
 有希弥が横に並び、弓を構えた。
「お前らを殺さねば止められん、未熟を許せ!」
 雑魔化している以上は放置する訳にはいかない。状況的に、この雑魔らが拠点を襲ったのだろう。
 矢を番えて意識を集中させる。王国東部に出現しているという狼雑魔は、多彩な能力と、聖堂教会の戦士団を苦戦させている実力があるらしいとの噂だ。
「私も前に出ますね」
「あたしもー」
 遺体を確認していた二人も武器を其々に構えた。
 対峙する狼雑魔とハンター達。
 一瞬の間の後、ルンルンが符術を行使すると、雑魔らも一斉に駆け出した。
 そのうち2体ほどが急に動きを止める。符術により、足が止められたのだ。もがく雑魔に対し、ラジェンドラが機導術を放った。
 光の筋が伸びて、雑魔らを貫いていく。
「一気に片をつけます」
 マテリアルを込めた大剣を、大きく踏み込みながら突き出すヴァルナ。
 追撃するように有希弥が放った矢が駆ける。それでも、生き残った雑魔が向かって来る所を、メイムが槍で受け止める。
 経験豊富な歴戦のハンターも多い為か、戦闘は優勢だ。
 更なる追撃の為に、次の矢を番えようと矢筒に手を伸ばした有希弥は、視界の隅に入った存在に対し、咄嗟に反応した。
「背後からですか!?」
 篭手を装備していたのは幸いだった。
 そうでなければ、首を庇った腕は喰いちぎられていただろう。
 壊滅した拠点の残骸を上手く利用されたのだろう。雑魔が背後から2体現われたのだ。
「狼の狩りらしいな」
 ラジェンドラが槍を構えた。
 習性が残っているのだろうか、それとも偶然なのだろうか、ハンター達は包囲される事になった。ハンター達の注意と向きがバラバラになった隙を雑魔らは見逃さない。
 飛びかかるように距離を詰めて牙や爪を立てる狼雑魔。
「狼さん達、本気ですー」
 完全に守勢に回ったメイムの一言。ヴァルナも前線で雑魔を抑えている。
「ルンルン忍法五星花! 舞うは……って、近いです!」
 狼雑魔に押し倒されるルンルン。
 もふもふが気持ちい良いが、堪能している場合ではない。首元に伸びた牙を辛うじてディーラーシールドで防ぐ。
 馬乗りになった狼が突如として吹き飛んだ。顔を見上げたルンルンの視界の中に、前衛から一気に駆けつけたカズマの姿が映る。
「……人を恨むよな……他者の糧に成るならまだ判る。村に危害を加えたなら理解もする……」
 だが、人の身勝手な心配毎や金儲けで、この狼達は、自分も親兄弟も殺されたのだ。
「お前達は悪くねぇよ、悪ぃのは……」
 言葉は続かなかったのか、聞き取れなかったのか。
 だが、後に続く言葉をハンター達は、それぞれ、胸の中で呟いた。
 カズマは柄だけの剣を正面に構えた。マテリアルを込めて、刀身を発生させる。
「……全力で、恨みと憎しみをぶつけて来い。俺も生を賭けて戦おう」
 この狼達にだって、当たり前の未来があったのかもしれない。
 ここには、今、ハンター達しか居ない。ならば、全力で彼らを受け止めるしかない。
 背後からの奇襲に、若干慌てたハンター達だったが、カズマの覚悟に、お互い顔を見合わせて頷いた。
 不幸な狼達を救えるのは、自分達しかいないのだから。


 包囲されたが、結局は、力量の差が物を言った。
 出現した雑魔を全て倒したハンター達は傭兵団の拠点内を捜索する。生存者の探索……というよりかは、密猟の証拠を探す為でもある。
「……村に、どの程度、お伝えするかですね」
 有希弥が深刻そうな表情で口にした。
 拠点を調査すると、密猟の証拠がどんどんと出てきたのだ。
 これらを村人に説明したら、彼らはどんな反応を示すのだろうか。自然との良い関係を築き直してくれるのだろうか。
「狼さん達が怒るのも分かります」
 密猟の餌食となった動物達の処理後を確認して、ルンルンは憤慨していた。
「雑魔がすでに沸いている可能性だってあるのに、それの対策を怠っていたか……」
 拠点の惨状を改めて見渡してラジェンドラは言った。
 だが、そこまで言って、別の可能性に考えた――ここまで用意周到に準備と行動できるのだが、自らの命に関わる事を怠るとは思えない。
「こういう事が、負のマテリアルを集めるだろうに……因果が巡ってきたんだろうな」
 川が近い河原を拠点に選んだのは、生活する為のものだけはなく、『処理』や『加工』の為でもあったようだ。
 そこに拠点を漁っていたカズマが戻ってきた。
 両手に何かを抱えている――密猟の証拠となる毛皮……ではなく、子供の狼だった。
「可愛いですね」
 愛しむようにヴァルナが一匹の狼を抱えた。
 衰弱しているようではあるが、命には別状は無さそうである。
「狼だけはなく、この一帯のあらゆる動物を猟していたようですね」
「取り尽くしちゃったら、その後、困ると思うのです」
 有希弥の言葉の後にルンルンが続いた。
 密猟で根こそぎしていく。今回、雑魔が出現していなければ、村人らが密猟の事実を知る事になる前に傭兵団は立ち去っていただろう。
 雑魔化した狼の1体の死体は消え去らず、残っていた。雑魔化した時のタイミングや経過によっては、稀に死体が残る場合もあるのだ。その1体を前に、メイムがいつになく神妙な顔で膝ま付いていた。
「英霊の環に乗せて……その声を、届け給え」
 循環を護る銀灰色の雌熊の姿の英霊のメイムと痛いを包み込むように見えた。
 霊闘士の奥義である。祖霊の力で死体に残された思念などを読み取ったり、聞き取る事ができるのだ。
「これ、は……」
 傭兵団に追い立てられる光景が浮かんだ。

 多くの仲間が傷つき、倒れていく。そして――意識が遠のく中、人の形をした犬のような存在が現われた。

 意識はそこで途切れる。
 複雑な表情で、次は傭兵団の団長と思われる人物に再び奥義を使用した。
 団長の死の直前……最もその記憶に焼きついた情景は、狼雑魔に追い立てられ、四肢からジワジワと噛み食われていく地獄のような光景だった。
「不必要で、冒涜的な殺生をしたね~」
 因果となってそれが、団長自身に向いた最後だったら、皮肉としか言い様がない。
 不機嫌な雰囲気で奥義を解除し、メイムは大きくため息をついた。
 夕日をみつめながら、ラジェンドラは過去の事件の事を思い出していた。
「前の馬雑魔の事を思い出すな……犬の毛に、変な足跡があったか……心当たりのある奴はいないか」
 ルンルンもヴァルナも有希弥も首を横に振る中、メイムが顔を上げた。
「雑魔化した狼の記憶に人型の犬のような姿が見えたかなー」
「それは、茶色だったか?」
 メイムの言葉に尋ねたのはカズマだった。
 一行の視線はカズマとメイムに集まる。
「色と言われると、そんな雰囲気だったかなー」
「犬娘みたいの、か?」
「そうだけどー。カズマさん、分かるのー?」
 あぁと短く応えた彼は、静かに息を吐いた。
「同一かどうか分からないが、ネオピアという名の歪虚だろう。傲慢に属する角折の歪虚、ネル・ベルの従者だ」
「ネル・ベル……ですか?」
「傲慢の歪虚か……」
 聞いた事が無いようで有希弥は首を傾げ、ラジェンドラは険しい表情を浮かべた。
「あのイケメンの歪虚ですね! ズールといい、そのネオピアといい、嫌な所を突いてくるのです」
 ハッとしたようにルンルンがポンと手を叩いた。
「ズール……そうですか、あの歪虚は、ネル・ベルの配下だったのですね」
 嫌な記憶を思い出し、ヴァルナが静かに言った。
 ルンルンの言葉ではないが、歪虚ネル・ベルのやり方は人の悪、社会の悪を突いてくるようだ。
 そして、それらは、どこの世界でも起こり得るのだ。
「また、同じような事件が起こるのでしょうか?」
 心配そうに有希弥が言った。
 その答えは誰からも発せられなかった――。


 ハンター達の調査により、傭兵団の拠点の発見し密猟していた事実を突き止めた。また、雑魔化した狼は全て倒した。
 拠点で救出した狼の子供達は、村で保護される事になった。悲惨な末路を辿った罪なき動物達と、再び、共存できる生活が過ごせるように。


 おしまい。


●時間遡り、依頼が出される頃
 犬娘な歪虚ネオピアは、傭兵団の行く末を見届け終わった。
 身勝手な人間が居る限り、不幸の連鎖は止まらない。
「ヤハリ、人間ハ根絶ヤシニ。出ナイト、マタ、奪ワレル」
 大きな咆哮と共に、ネオピアは幻獣イェジドを思わすような巨大な犬の姿に変える。
 そして、西の方角へと向けて駆け出した。

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  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • タホ郷に新たな血を
    メイムka2290

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 渾身一撃
    守原 有希弥(ka0562
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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アイコン 相談卓
ラジェンドラ(ka6353
人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/11/03 17:14:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/03 14:31:34