智者は災禍とともに笑う

マスター:植田誠

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/06 09:00
完成日
2016/11/19 14:12

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「あの男が捕まったそうだ」
「ズィルバーさんのことだから『もぐりこんだ』が正解かもしれませんよ?」
 軽く咳き込みながらも魔導アーマーの整備を終わらせ立ち上がるハルト・ウェーバー。
 その後ろにはフリッツ・バウアーが立っていた。
「それを、わざわざ知らせに来てくれたんですか? 案外優しいんですね」
「馬鹿を言うな。ゾンビ共の積み込みを確認しに来ただけだ」
「そういうことにしておきますよ」
 そういうと、ハルトは魔導アーマーに乗り込んだ。
 この魔導アーマーはハルト専用にチューンした機体だ。腕が無いのが特徴であり、腕の代わりに大型の魔導機械……ボックスに針が複数突き刺してあるようなデザインのものが接続されている。
 背部には多数の小型魔導機械収納ボックスが。この小型魔導機械とはハルトが設計し、開発した浮遊砲台型魔導機械。しかも、ハンター達との戦闘経験を踏まえ役割ごとに数を増やし、大幅に強化も行っている。
「この腕部の代わりに接続した魔導機械で操作を行うということか?」
「正確には操作の補助ですね。これがなくても僕が直接操作できます。けど、あれば精度は10割増しです。今度ここの剣機にも実装してみるつもりですよ」
 説明していたハルト。声を張り上げていたために咳き込みながらも、アーマーをコンテナに積み込む。あとは剣機に乗って出発するだけだ。
「それじゃ行ってきます。ズィルバーさんを迎えに行かないといけませんから」
「あの男にそれほどの価値があると?」
「少なくともあなたよりはずっと価値がある人ですよ」
 この時初めて、ハルトの目つきが怒気をはらんだものになる。
「……あの人は言ったんです。僕はすごいって。褒めてくれたんです。だから、僕はあの人のために戦います。あの人と一緒に、先輩を見返してやるんですよ」
 ハルトは契約者だ。まだ完全に歪虚となっているわけではない。だが、こうして咳き込んでいるのは徐々に歪虚……つまりは死に近くなっているということに等しい。それでもここにとどまっているのは歪虚の技術を取得するため。そして、それが何よりズィルバーに頼まれたことっだったからだ。
「なら、さっさと行くことだ」
「言われなくても」
 こうして、ハルトは剣機に乗って飛び立っていった。多数のゾンビも連れて。
「……そろそろ、か」
 フリッツは静かにつぶやいた。
 誰も聞くことが無いその言葉。それが何を意味するのか、わかるものも無論いなかった。


 錬金術師組合の支部。その廊下をクロウが歩いていく。
 この先には今回捕まった錬金術教導団の重要人物がいる。本来は軍に拘束してもらいたいところなのだが、鹵獲した魔導アーマーの解析などを行うことを考えると支部に置いた方が取り調べなどにも都合が良い、ということらしい。そういうわけで、帝国兵監視のもと支部の一室に監禁している形になる。
「本人はあくまでブレーン的存在であり、盟主はホルスト・プレスブルクだと言っています。加えて自分を奪還するためにわざわざ教導団が動くこともないだろうとも」
「ふーん……どうだかな」
 そういわれてクロウは考える。
 ホルストが盟主なら、錬金術教導団という組織を立ち上げる必要はないように思える。が、それなら何の旗のもと人を集めるのか……そう考えたとき錬金術というものはちょうどよい代物にも思える。
 ホルストは金集めがうまい。そこで、自ら集めた金を研究費として無尽蔵に使わせてくれる、となればそれに協力しようという研究者がいてもおかしくはない。
 それに、錬金術を使って自分たちの力を認めさせようという連中も集められる。無論、錬金術師組合や錬魔院に対し反抗しようと集まった人間もいるだろう。
(例えば、ハルトのように……)
「そういえばクロウさん、資料は確認していただけましたか?」
「あぁ。といっても読んだ限りじゃよくわかんねぇな。やっぱ実物を見ないと……」
「いや、アーマーだけじゃなくて教導団員に関する方は? これから会うんですよ?」
「え、あ、いや……今確認するって」
 ハハハと笑いながら、クロウは慌てて資料をめくる。そこには捕らえた人物に関する情報が書かれている。尤も、その情報は名前と身体的特徴など非常に少なかったが。
「名前は……ズィルバー?」
 その名前をつぶやいた時、クロウの声色が変わった。それとともに、歩く足が速くなる。
「……クロウさん? いったいどうしたんですか!?」
 もはや走り出していたクロウ。その身は一つの部屋で止まる。
 ドアを開ける。カギは……かかっていない。
「て、てめぇ……!」
 そこには倒れた男……ズィルバーを監視していた帝国兵数人。そして、ズィルバー・ヴァルトフォーゲルの姿。
「やぁ、久しぶりだねクロウ。息災だったかな?」
 そうズィルバーが挨拶するのと、警報が鳴り響くのはほぼ同時だった。


 警報が鳴り響いた時、剣機は上空からコンテナを4つ投下。4つはすべて、1階横に設けられた演習場に落着。内部からは魔導アーマーが1機。それにゾンビの群れが沸いてきた。
 支部自体は研究に関する秘匿性を維持するために街からはやや離れた位置に建てられている。そのためすぐに街までゾンビが移動していくということはない。そういう意味ではここに落ちてきたのは良かった。
 そうなると重要なのは内部研究員たちの安全確保だ。
 クロウとともに支部にやってきたハンターたちはそれぞれ行動を開始した。

リプレイ本文


「襲撃? こういうときは監視対象がフリーになっていることが多いが……」
「クロウが行っているはずだけど?」
「……けど、用心に越したことはない」
「そうね。下はお願い。あたし達は上を見てくるわ」
 リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)、ドロテア・フレーベ(ka4126)は3階へ上がっていく。
「あの捕虜が絡んでんのか?」
 走り出す二人を見て呟きながらもボルディア・コンフラムス(ka0796)は奥義の発動準備。
「やーねぇゾロゾロゾロゾロとぉ。ったく、面倒ったらねぇなおい」
「ぶつくさ言うなって。いくぞ」
 そういってボルディアが窓を指し示す。
「……マジ?」
「階段使って降りる時間が勿体ねぇだろ?」
「……おっさん、死ぬんじゃねぇの?」
 ため息をつきながら、鵤(ka3319)は術式【壊身】を使用。防御力を高める。
「あら、そんなこと言いつつやる気じゃないの」
 ロベリア・李(ka4206)は苦笑しつつ、その視線をトミヲに向ける。
「仕方ない、私もいくか……トミヲ、あんたの魔法、頼りにしてるからね!」
「りょ、了解だよ。大船に乗ったつもりでっていうかなんていうか……」
 最後の方はごにょごにょ言ってるだけになってしまいよく聞き取れなかった。だが、とにかく任せて大丈夫だろう。例によって挙動不審ではあるが、すでに水流崎トミヲ(ka4852)は魔力を練り始めている。エクステンドキャストを使用しているのだ。やるべきことはきちんとこなす。十分頼りになる実力者だ。
「私は屋内から支援に回ります」
 日下 菜摘(ka0881)はそういって階段に向かう。支部の内部には当然研究員たちがいる。だが、その戦闘経験はハンターたちより多いはずもなく、誰かがフォローしてやる必要があるだろう。
「でしたら、魔導アーマーに重要そうな部位があれば、外して確保出来たらしておくようにお願いしてもらえますか?」
「アーマーのですか? わかりました、状況を見ながら指示します」
 菜摘の背にマッシュ・アクラシス(ka0771)が声をかける。そのマッシュは2階にとどまるつもりだ。
「それにしても、タイミングのよろしいことで。彼ら、何らかの通信手段でも……」
 マッシュは切り札たるトミヲを守るためにその場にとどまっている。
 独り言のようにつぶやくその疑問。その答えを持っているものはこの場にはいない。
(内通者の存在も、一応考慮しておかないとね……)
 魔力を練りながら、トミヲは頭の隅でそんなことを考えていた。


「どんな事情があるか知らねぇが! 捕虜は返さねぇし、テメェも返すつもりは無ェ!」
 ボルディアが着地する。現界せしものを使用しているボルディアのその姿は、さながら巨人のようだ。その様子は理性あるものにとってはさぞ恐怖だろう。尤も、ゾンビたちにとってはデカい敵にしか見えないかもしれないが。
 それに続くようにロベリアと鵤も着地。
「距離があるから、思ったより安全だったわね」
 階段を使用しないで飛び降りる。敵の武装が銃主体であるのを考えるとリスキーな選択だったようにも見える。だが、その選択をすぐに取ったのは正しかった。敵が射程に入る前に戦闘態勢を取ることができたからだ。
「けど、危ないのはこれからだからねぇ……頼むよ」
「DTの嘆きを知りなぁっ!」
 さらに、進んでくるゾンビたちの行く手を阻むようにトミヲがグラビティフォールを使用。路傍の花を踏みつけるかの如くその圧倒的魔力……DT力かもしれないが、それがゾンビたちを押しつぶす。
(もっと待てばより多くの敵を巻き込めたかもしれないかな)
 だが、敵の移動速度と味方の射程を考えればここが最良のタイミングだろう。味方は比較的近距離での戦闘が得意だ。その敵はというと、まだまだかなりの数が残っている。
「やれやれ、敵の多いこと……」」
「やればいいんでしょ、やれば……クロウに貸しが増えるわね」
 鵤は陽炎:射、ロベリアはFT/M2を使用。共にファイアスローワーを基にした機導術だ。ゾンビに対して効果的な範囲攻撃で殲滅を図る。
「さぁ、まずはテメェからか!?」
 両翼からの支援を受け、ボルディアは大斧を振り上げ前進。そのまま正面の敵を両断する。
「なんだ、この程度か?」
 あっさり倒されたゾンビにやや拍子抜けした感じのボルディア。だが、敵の真価は攻撃にある。
 射程に入ると同時に銃撃してくるゾンビたちそのほとんどはボルディアへと向かう。幻影により巨大化したボルディアはやはり目立つのだろう。
(まぁ、お陰で支部の中にいる研究員たちに目が向かない。こっちとしては大助かりなんだけどねぇ……)
 心中で鵤がつぶやく。これだけの攻撃を受けたらさしものボルディアもただでは……
「この程度じゃ足ンねぇなあ。俺を倒してェならこの10倍連れてきやがれェ!」
 いや、まだ余裕がありそうだ。鎧の厚みがある部分で受ける、あるいは斧で受けるなどしてダメージを軽減しているようだ。 
 さらに、受けた傷はスキル紅火血によって徐々に癒されていく。
「あの様子なら、余裕は十分ありそうですね……非戦闘員の方、避難急いでください!」
 その様子を見ながら、菜摘は研究員たちに指示を出していく。さらに、戦える機導師を集め、駐機場入り口に待機させる。
「皆さんには、万が一あの3人を突破したゾンビがいたら攻撃をお願いします」
 菜摘の言葉にどこか不安そうな表情を浮かべる機導師たち。だが、落ち着いた表情を浮かべながら菜摘が続ける。
「安心してください。私がレクイエムで敵の動きを抑えます。あなたたちに攻撃を加えさせはしません」
 そう言って機導師たちを鼓舞する菜摘。尤も……
(突破してきても精々1、2体でしょうね)
 そう菜摘は予測した。上からの攻撃も合わせてゾンビたちの数はどんどん減っていたからだ。
「効果はあったようですね。そのまま続けてお願いします」
「了解だよ……グラビティ、フォール!!」
 トミヲは、味方を範囲に巻き込まないような位置を狙いそのまま魔法による援護を行う。マッシュも一緒に矢を放ち下の援護を行っていた。だが……
「さて、向こうも黙ってはいませんか」
 窓から乗り出していたマッシュはその体を戻す。魔導アーマーから飛来した浮遊砲の接近を確認したからだ。
「水流崎さんはそのまま援護をお願いします」
 マッシュはサーベルと銃を抜きながらトミヲに告げる。
(浮遊砲……高度な通信技術を要する兵器……やはり電波増幅の発展型が使われているのでしょうか……)
 とはいえ、マッシュは門外漢だ。詳しいことは専門家に任せるべきだろう。
「考えすぎならいいのですが、今は迎撃を……」
 そういってマッシュは銃口を浮遊砲に向けた。


「まずいわね……」
 3階に上がったリカルドとドロテア。
 上がりきって廊下に出たとき、その視界にはドアの前にいる知らない男の姿があった。
(あれがズィルバー? 逃げようとしてるの?)
「ふざけるな!」
 同時にクロウの怒声。部屋の中から聞こえてくる。普通は捕虜を逃がさないようにドアの前に立つはず。だが、そうしていないのは中に入る必要があったから。
(帝国兵が中にいたはず……負傷している? そして、それを守ろうとしている……)
 状況を見ながら、短い時間でドロテアの思考が進む。
 その耳に銃声が響いた。リカルドが発砲したのだ。
「やっぱり逃げ出してたか」
 問答無用。さらに連射してズィルバーの動きを止めようとする。
「おっと、ここまでだね。また会おう!」
 ズィルバーはそのまま窓を蹴破り飛び出す。
「っ……やっぱり外部と呼応して……!」
 ドロテアも追おうとするが、思いのほかズィルバーは遠くまで飛んでいる。ジェットブーツだ。そのままハルトの乗る魔導アーマー方面まで飛んでいく。
「ちっ……程々に楽したいんだけどねぇ」
 リカルドは身を乗り出しさらに発砲。頭部、次いで胴部と狙い撃つ……だが、当たらない。リカルドの腕が問題なわけではない。射程の外まで逃れられてしまった。
「ジェットブーツ……厄介だな、まったく」
 近接戦での立ち回りは他を圧倒するリカルド。すでにいくつもの戦闘パターンを思い浮かべ、さらにそれを実行する能力も持っていた。だが、逃れられてはどうしようもない。
(……追うか?)
 飛び降りて追跡することも出来なくはないだろう。だが、地上ではゾンビとの戦闘が継続している。結局それに巻き込まれ追うことはできないだろう。
「くそったれが!」
 その横で、クロウが窓のふちに足をかけていた。こちらは追うつもりだ。
「待ってクロウ!」
 そのクロウをドロテアが止める。
「中に負傷者がいるんじゃないの? そっちが先なんじゃないの!?」
「……あぁ。そうだな。確かにそうだ……」
 どこか悔し気な表情を浮かべるクロウ。だが、ドロテアの言葉を聞くぐらいの理性はきちんと持っていたようだ。
「どうする?」
「下まで連れていきましょう。菜摘君に診てもらった方が早いと思うの」
「了解した」
 リカルドが一人を抱え先行。それに倣い、ドロテアとクロウも一人ずつ抱えて階下へと向かった。
「あなたと外のあれ、やっぱり関係があるの?」
「外の……ハルトか。あれは俺の後輩だ。元、な……」
「元後輩、ね……それじゃあの男は……」
 その問いに対して、クロウは無言だった。


「今の……」
「そちらでも見えたということは、目の錯覚ではありませんか」
 下りてきたズィルバーを確認したトミヲとマッシュ。だが攻撃を仕掛けようとすると敵の浮遊砲が邪魔をする。
「邪魔ですね……狙えますか、水流崎さん?」
「ん……ごめん。間合いの外だ」
 浮遊砲からの光線を躱しながらもマッシュは攻撃。浮力を失いその場に落ちる。その間トミヲがズィルバーを攻撃しようとするが、射程が遠い。
「……っ! 失礼、水流崎さん!」
 言葉と同時に、トミヲを庇うマッシュ。爆発音が響いたのはその時だ。小さな爆発だが、多少マッシュがダメージを負う。
「だ、大丈夫かい!?」
「ええ……さしずめ、証拠隠滅といったところですか」
 見ると、浮遊砲が粉々に砕け散っていた。
 ズィルバーが逃げたという連絡が上から来たのはこのタイミング。それは1階で戦っている仲間にも伝えられる。
「怪我人の方も了解しました……すいません、どなたか救護室に行って治療道具を持ってきてください」
「ここで治療を?」
「あなたたちに攻撃を加えさせないと約束しましたから、リカルドさんかドロテアさんが変わってくれるまでは私がここを守ります」
 そう告げる菜摘。その視線はさらに前線、ゾンビたちと戦う3人に向けられた。
「おらぁっ!」
 ボルディアがまたゾンビを一体たたき切る。紅火血のお陰で受けたダメージはすぐ回復する。継戦力は非常に高い。
「大丈夫か、そっちは!?」
 一方、敵の方もこちらを半包囲する形で動いている。ボルディアの両側につく形だった鵤とロベリアが敵の攻撃に晒されていた。
 ただ、壊身による防御力強化が功を奏し、鵤の方は思いのほかダメージは少ない。一方ロベリアはかなり大きなダメージを受けているようだ。
「まったく……とことん本業にさせてくれないわね!」
 それでもロベリアはFT/M2を使用してなんとかゾンビを攻撃、撃破する。
「粗方片付いたみたいだねぇ。それじゃ、ハルト君を追う……のは、無理か」
 呟く鵤。みると魔導アーマーは支部から離れ始めていた。足あたりにはしがみついているズィルバーの姿も見える。
「ちっ……とにかく、残りを始末しちまおう」
 それから一分も経たずゾンビは撃破されたが、アーマーの姿は見えなくなっていた。

「助かったよ、ハルト」
 ズィルバーは片手で腹部を抑えている。リカルドの銃撃が命中してたようだ。
「いえ、ズィルバーさんの為なら……もう少し行けば魔導トラックが待機していますから我慢してください」
「あぁ……できれば急いでくれると助かるな」
 そういいつつ、ズィルバーは咳き込むハルトを見ていた。
(クロウはきっと追ってくるだろうな……タイミングとしてはこの辺りか……)
「ズィルバーさん。敵が追ってきたら僕が迎撃します。こっちの手の内もほとんど見せずに済みましたから、十分撃退できると思いますから」
「あ、あぁそうだね。頼むよ、その時は」
 痛みに顔をしかめながら、ズィルバーは答えた。


「……とりあえず、応急処置としてはこんなところで大丈夫でしょう」
「そうか。それは何より……」
 菜摘の元に届けられた3人の帝国兵はヒールを使用されるとともに応急処置を施される。とりあえず命に別状はなさそうだ。
 魔導アーマーは演習場をそのままつき進み、壁を壊して離脱していったようだ。
 だが……リカルドは周囲を見回す。ハンターたちの活躍により支部への被害はガラスが何枚か割れた程度。ほぼ無傷と言っていい。
「その支部内に関してだけどさ。もう一回内部調査を……」
「いや、その必要はねぇよ」
 トミヲの言葉を遮りクロウが言った。
「どうして?」
「多分、内部の人間の仕業じゃない。外部の人間だ……あの野郎が『金の力さ』と言っていた。多分そういうことだろう」
 問いかけるロベリアに、クロウはそう答えた。金の力……錬金術教導団は高い資金力を持つ。それを背景になんらかの工作を行ったのだろうという推理だ。
「そんなことより、早く後を追わないといけねぇ」
「ん? 帝国軍に追撃要請はしたんですよね」
 マッシュの言う通り、要請はしているが、クロウはそれでも追うといった。
「追うのはいいさ。逃げられっぱなしってわけにはいかねぇしな」
「でも、ちょっと焦りすぎよねクロウ」
 同意するボルディアに続いてドロテアが言う。
「あの男、口論してたみたいよね。一体……貴方の何なのよ?」
「そうね……クロウ、あんたへの貸しも増えてるんだし、話してもらいたいわね」
「みんな気になってるみたいだね。話してみるとすっきりすることもあると思うよ、うん」
 ロベリアに続く形で、トミヲがポンとクロウの肩を叩く。30cm近い身長差のせいでちょっとカッコがつかないが……それでも、思うところがあったようだ。クロウがハァ、と息をつく。
「まぁ、確かに……どうやらあいつも教導団の高い位置にはいそうだしな……」
 意を決したように、クロウが語りだした。
「簡潔に言うと……あいつは俺の『兄』だ」
 それを聞いて、鵤がため息をつく。また面倒な話が増えそうだと。

 ――次回に続く。

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796

重体一覧

参加者一覧

  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 軌跡を辿った今に笑む
    ロベリア・李(ka4206
    人間(蒼)|38才|女性|機導師
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 支部防衛作戦(相談卓)
ロベリア・李(ka4206
人間(リアルブルー)|38才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/11/06 05:20:15
アイコン クロウに質問!
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/11/04 06:00:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/02 22:34:10