ゲスト
(ka0000)
【夜煌】蒼天の宴
マスター:とりる

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/26 22:00
- 完成日
- 2014/10/28 11:57
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「無事終わったね……」
「ええ……。この儀式に立ち会えたことを誇りに思います」
辺境の草原。夜煌祭儀式の会場近くにて、朝の風に吹かれつつ感慨深そうにしている二人の少女の姿があった。
二人の風貌は褐色の肌、水色の髪、金色の瞳……と、どこか神秘的。
彼女達はマギア砦東南の海辺に住まうネレイド族という辺境部族である。
一人は若きネレイド族族長、ミサキ・ネレイド。もう一人は族長の近衛隊隊長、ヴァイン・ネレイド。
夜煌祭は辺境を挙げてのお祭り。ゆえにネレイド族も族長とその近衛隊が参加していた。
儀式の夜が明け、その後は――
「さて、次はお楽しみの宴会だね!」
ミサキがはしゃぐように笑顔で言った。
夜煌祭の締め。儀式後は正のマテリアルの活性化させるために大規模な宴会が開かれる。
儀式会場の隣接する宴会会場では既に他の辺境部族やドワーフ達、同盟商人達が準備を進めていた。
「ふふ。羽目を外してはいけませんよ?」
「外さないよぉ! ひどいなあ。それならアリサに言ってよ」
「確かに。……このような機会は滅多にありませんし、存分に楽しんでください」
「うん! ヴァインも、ね♪」
「ははは……まあ、程々には」
満面の笑みを浮かべるミサキにヴァインは微苦笑。
「ところでアリサとリリレルとミリレルは?」
名前が出たアリサ、リリレル、ミリレルは彼女らと同じくネレイド族であり、近衛隊の隊員である。
「宴会の準備を手伝っているようですね」
「ふむり。それなら私達も手伝いに行こう!」
「宴会は昼間からですし、ミサキ様は仮眠をなされては?」
「皆が働いてるのに族長の私が寝てるわけにはいかないでしょ。ほら、行こう!」
ヴァインの手を取り、ミサキは仲間の元へ駆け出す。
「了解です。……宴会、楽しみですね」
「やっぱりヴァインも楽しみにしてたんじゃん」
ミサキは悪戯っぽく笑う。
「……そ、それは……数十年ぶりと聞きますし……私も少し興奮を覚えてしまいます……」
クールビューティー系のヴァインが頬を染めて恥じらう様に、ミサキはニヤニヤするのだった。
「ええ……。この儀式に立ち会えたことを誇りに思います」
辺境の草原。夜煌祭儀式の会場近くにて、朝の風に吹かれつつ感慨深そうにしている二人の少女の姿があった。
二人の風貌は褐色の肌、水色の髪、金色の瞳……と、どこか神秘的。
彼女達はマギア砦東南の海辺に住まうネレイド族という辺境部族である。
一人は若きネレイド族族長、ミサキ・ネレイド。もう一人は族長の近衛隊隊長、ヴァイン・ネレイド。
夜煌祭は辺境を挙げてのお祭り。ゆえにネレイド族も族長とその近衛隊が参加していた。
儀式の夜が明け、その後は――
「さて、次はお楽しみの宴会だね!」
ミサキがはしゃぐように笑顔で言った。
夜煌祭の締め。儀式後は正のマテリアルの活性化させるために大規模な宴会が開かれる。
儀式会場の隣接する宴会会場では既に他の辺境部族やドワーフ達、同盟商人達が準備を進めていた。
「ふふ。羽目を外してはいけませんよ?」
「外さないよぉ! ひどいなあ。それならアリサに言ってよ」
「確かに。……このような機会は滅多にありませんし、存分に楽しんでください」
「うん! ヴァインも、ね♪」
「ははは……まあ、程々には」
満面の笑みを浮かべるミサキにヴァインは微苦笑。
「ところでアリサとリリレルとミリレルは?」
名前が出たアリサ、リリレル、ミリレルは彼女らと同じくネレイド族であり、近衛隊の隊員である。
「宴会の準備を手伝っているようですね」
「ふむり。それなら私達も手伝いに行こう!」
「宴会は昼間からですし、ミサキ様は仮眠をなされては?」
「皆が働いてるのに族長の私が寝てるわけにはいかないでしょ。ほら、行こう!」
ヴァインの手を取り、ミサキは仲間の元へ駆け出す。
「了解です。……宴会、楽しみですね」
「やっぱりヴァインも楽しみにしてたんじゃん」
ミサキは悪戯っぽく笑う。
「……そ、それは……数十年ぶりと聞きますし……私も少し興奮を覚えてしまいます……」
クールビューティー系のヴァインが頬を染めて恥じらう様に、ミサキはニヤニヤするのだった。
リプレイ本文
●肉まみれ
用意された食べ物を一通り確認して、一つ息をはいたNon=Bee(ka1604)。
「あら、つまみに御煎餅が無いじゃないの。まぁいいわ、今日は楽しみましょ」
誰にともなくウインクを飛ばし、飲み仲間を探そうと気に入った酒瓶を抱えて歩き出す。
(折角なら新しい出会いもいいわねぇ)
「塩があれば事足りますね」
上泉 澪(ka0518)が肉や野菜を切り分ける。豪快な切り口は意図したもの。
調味料と呼べるものは塩ぐらい、それも必要最低限なのだ。素材の味をそのまま、ほんの少し塩が盛り上げてくれればそれでいいだろうと思う。特に肉が多いから、焼き加減にさえ気をつければいい肴になるだろう。
「折角ですしお酒でも呑みましょうか」
食材にざっと塩を振る。後は各自で焼けばいい。支度を終えた澪は酒の物色に向かった。
「わいわいがやがやな、宴会……!」
大勢が集まるだけでもエテ(ka1888)には物珍しい。ハンターになった今でもまだ、毎日が発見の嵐。
(宴会の食べ物は、ちょっと胃にもたれそうですが!)
迷いながら皿に手にとり、料理の前に向かっていく。そこには予想していた以上の肉、肉、肉。ときどき野菜と魚。
「お肉がいっぱい!」
視界と頭を肉が占めた。
「肉食系エルフになってみせますとも!」
少しばかり混乱しているのかもしれなかった。
「ほい、肉。次は……玉葱だな、ほい」
ぽんぽんと、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の持つ更に食べ物が乗せられていく。一つ食べたら次、それが終わったらまた別のもの。ほんの少しだけ手を止めて、空になることがない皿と弟を見比べた。
(こんなに食べたら太っちゃうのに)
けれど給仕に真剣なティー・W・カルブンクルス(ka0506)の様子を前に逆らえるわけがない。わざわざ持参してくれた自家製タレの効果と、楽しそうな弟の様子も重なって、どれも美味しく食べてしまった。
見覚えのある後ろ姿をみつけ、神代 誠一(ka2086)は少女の肩に手をかけ呼びかける。やっと見つけた希望の光に安堵が勝っていた。
「あぁよかった、無事だったんですね……!」
「ふぇ? 僕……?」
少女の顔が記憶と違い、間違いを悟る。目いっぱいに食べ物を頬ばっている銀 桃花(ka1507)の顔に、自然と視線がそれより下、彼女の持つ皿の中身へと移った。
(多い……です、ね)
今この状態でも多いが、桃花は今まさに咀嚼している。つまりもっと盛られていたということだ。
(ハッ! イケメンの前でめっちゃ肉頬張っちゃったんですけど!)
慌てて口の中の肉を飲み込む。それが落ち着いてから改めて、互いに自己紹介をすることになった。
「すみません、人を探してまして……生徒なんですが。ああ、俺は神代誠一といいます」
「僕は銀 桃花っていうの」
互いにリアルブルー出身者、教師と学生と言う類似点もあり会話も打ち解けたものになる。
「せーちゃん先生って呼んでいい?」
どうぞ、と微笑まれ桃花にも笑顔が浮かぶ。
「先生みたいな男前さんが担任だったら、俄然勉強頑張っちゃうんだけどなー♪ 探してる生徒さん、出先で見かけたら教えるね! 会えるといいねっ」
須藤 要(ka0167)は人の波に流されてこの場所にやってきた。
「まあ、いっか」
丁度空腹を感じ始めていたところだし、と端の方に陣取る。ほどよく焼けた肉と野菜を皿に盛って腰かけて、ぼんやりと周囲を眺めた。
(昼から酒が飲めるとあって、やっぱ大人の人多いな)
ほんの少し肩身が狭い気がして、思考を切り替える。
例えばこの宴会の理由。悪いものを払うためにこうした宴会を行うのだとか。
(最初聞いた時は驚いけど、英気を養うって意味ではこういうのもありなのかもしれないな)
桃花が一心に食べる様子に、誠一は目を和ませる。
(微笑ましいですねえ……)
栗鼠みたいだ。木の実やビスケットがあったらつい手招きして餌付けしたくなってしまう。
「急いで食べると喉に詰まらせますよ」
教師の目線だからなのか、本来の自分は後にして他人を優先する性分のせいなのか。飲み物を取って来て世話をする。
「飲み物ありがと! お肉おいしー、すきなのー♪」
本当に幸せそうに食べる桃花。
(ああ、だからその量……)
その誠一の視線に気づいた桃花が慌てだす。
「や、やだなー僕一人で食べる訳ないでしょっ! よ、よかったらどうぞ?!」
頬張った顔を見られた恥ずかしさがよみがえってきて、誤魔化そうと桃花は鬼盛り皿ををずずいと誠一に差し出した。その様子にくすくすと笑い、誠一の目に少しだけ意地悪な光が宿る。
「いえ、俺はこれで。そんなに腹も減ってませんしね?」
その手に持っているのは酒入りのコップなのだった。
●誘い会い
ザレム・アズール(ka0878)は抱えている疑問と提案を投げかける相手を探していた。
(マテリアル活性化の原理がわかればいいのだが)
事前に聞いていた特徴を元に見回せし、褐色、水色、金色の神秘的なコントラストを持った数名の少女達をみつける。彼女達は同じ色彩で集まっているおかげで見つけやすかった。
「教えて欲しいことがあるんだ」
失礼が無いよう丁寧に呼びかけ、自己紹介もした後にそう切り出した。
波に飲まれぬ程度に会場を彷徨うヴォルテール=アルカナ(ka2937)。自身の持つ杯は、この場の空気を楽しむための小道具だ。
酔うために来たわけではないから、呑み仲間を求める声にも笑顔であたりさわりのない言葉を返し足を進めた。
(店で慣れてる……けれど)
肩を抱いて引き寄せて、酌をねだる酔っ払いをどうすべきか。イオ・アル・レサート(ka0392)は営業用笑顔を浮かべて思案していた。
「ここに居たのか」
声の主の瞳に案じる気配が見えたから、イオはヴォルテールの手を取ると決めた。酔っ払いの腕を振り払い、初対面の男の腕に自分の腕を絡めて親密そうに体を寄せる。
「ごめんなさい。エスコートは彼に頼んでたの。また誘って、ね?」
酔っ払いの背を見送り、小さく息をつくイオ。
「酒は飲まれると大変だな」
抑えておくのが一番だと、苦く笑うヴォルテール。
「ありがと、お兄さん。貴方が飲まれずに助けてくれて良かった」
感謝の気持ちは頬に軽く、言葉に添える軽い口付け。
(……これは)
酔っ払いの去った方を見る。未練がましくこちらを見ていた男と目があった。
「ここは人目が多い、エスコートさせて貰おう」
約束だからなと小さく片目を瞑る。酔っ払いを改めて攪乱するために。
もっと世間を見ておいで。保護者に外に出されるのもこれで何度目だろう。落ち着ける場所を確保しなければとシュネー・シュヴァルツ(ka0352)はふらふらと会場を彷徨っていた。
「宴会、それはつまりメシ、酒、そして女ぁぁぁ!!」
夜じゃない分高ぶりきれない感情も込めて、天に向かって宣言するキー=フェイス(ka0791)。
「そこのおねえちゃん、この後暇なら一緒に飲まないか? 夜の二次会までずっと、仕事に疲れたあんたを癒す心づもりだぜ?」
給仕の女の子に声をかけ、労いと書いてナンパと読む行為は常識らしい。
ビターン!
勢いよく倒れたキーとシュネーの目があった。
「ちーす」
頬に赤く手の跡が残っているせいで、格好つけてもしまらない。
「引きこもりって聞いてた割にゃ、ちゃんとこういう場にも出れるんだな」
久しぶり、元気してたか? 気楽に答えられるようにと気を回すキー。
「……出された、です」
保護者の都合だということを簡潔に答える。
(悪い人じゃないけど……)
気のいい人なのだ、気さくに話しかけてくれて、話題もふってくれるいい人なのだ。シュネー自身、助かっている。
「こういう宴会なら、いっそそれっぽいドレスでも来てくりゃ……」
目の前のシュネーが着飾った様子を想像しようと頭から順に見つめ、ある一点でキーの視線が止まる。
「いや、ボリュームが足りねえか」
(これは、無理……!)
右腕の拳をキーに直撃させてしまうのは仕方ないと思う。失礼な話をしたのはキーなのだから許してくれるとは思うけれど。反射的に手を出してしまったことは少し、ほんの少しだけ申し訳ないかな、とも思う。
「……失礼ですし」
無表情で指摘する。人間、本気になると表情も抜け落ちると言うものだ。
「粗雑だぜ……」
頬だけでなく、顎にも真っ青な痣が増えたキーはしばらくその場に倒れたままだった。
会話を聞いていた周囲の者達は、自業自得だとしばらく彼を放置していたせいである。
「……お酒は苦手?」
隅で咳込んでいた要に酒のグラスを差し出し、要の顔を覗き込む。戸惑うような視線にほんの少しだけ、イオは過去の自分を重ねた。だから声をかけたくなったのかもしれない。
「ああそれとも……リアルブルーの子かしら。だから?」
イオの確認に要が頷く。
(美味しいのかな)
自分と年頃が近い子が杯を傾ける様子も見ている。ほんの少しだけ舌にのせてみるくらいならいいだろうかと要は杯に口を付けた。
ゲホゲホゲホッ! 熱い!
喉を焼く感覚に驚き咳込む。
「……俺は、もうしばらく先でいいや」
今いるのはクリムゾンウエストだけれど。すべてを居場所に染めたくたっていいのだから。
「大丈夫か? タイミングは自分で選べばいいさ」
要の背を軽くさするヴォルテール、要やイオの皿に目をつけた。
「何か食べるか? 酒以外にも色々とあるし」
率先して世話を焼くのは癖のようなもの。イオは女性で要は年下。動くのは自分であるべきだ。要は少し緊張していたようで、ヴォルテールの皿の減りを意識しようと気を付けてくれていたようだが。
「いや、俺も食べてるよ。大丈夫。慣れない酒を口にしたんだ、目上の好意は受け取っておくといい」
「あらぁ、なにしけた顔しているのよ、楽しんでるぅ?」
隣に座りながらNonが声をかければ、シュネーが肩をびくりとさせた。
「このお酒美味しいわよ、一緒にどぉかしら?」
「え……あの私未成年……」
すみません、には驚いてしまったことと誘いに乗れない二つの意味を込める。改めてNonの顔を見て、シュネーはその美貌にも驚いた。
(綺麗な人……)
お酒は無理だけれど、話ならばと隣に腰かける。
「未成年? 損してるわねぇ」
じゃあ酒の肴にお話ししましょ? 楽しく呑めるなら、相手が飲めなくても気にしないNon。
リアルブルーの飲酒規制を守っているのだと気づきなるほどねと頷いた。
「若いうちはもっとはっちゃけなさいよ。悪くないわよ? でもまあ、飲めるようになったらまた飲みましょ」
その時を楽しみにしてるわね。
「……また、はい」
約束が嬉しくなったのは、Nonの美貌にあてられたからだろうか。シュネーは素直に頷いた。
マテリアルの活性化は結果として活性化したという結果論からくるものであって、原理がはっきりとわかっているものではないようだ。すくなくともネレイド族のミサキたちは原理や、効率化については考えたことが無いようだった。
「代わりといってはなんだけど」
ザレムが伝えたかったもう一つの事。このような宴会の恒例化については他の族長達にも相談を持ち掛けてみると約束してくれた。総意がどうなるか次第だろうが、伝えられただけでも進歩だ。
(皆あんなに楽しそうじゃないか……)
経済効果や交流の面で利点もあるからと事務的な言い方はしたけれど、ザレム自身、この場の空気を楽しんでいた。
(この宴会を楽しめばいいんだよね……?)
特に連れもなく、酒を飲むでもないルーエル・ゼクシディア(ka2473)は仲間が居たらいいなと思いながら空いた席を探す。
「お隣、良いですか?」
そうして座ったのは、ザレムが族長達も交えて盛り上がっている輪の中だった。
それぞれの出身地やその特徴の話から始まり、今食べている肉が誰が調達してきたものか等の捕り物の様子や獲物の話。最近あった大規模な歪虚討伐の事等、ルーエル自身が様々に用意してきていたように、話題は尽きない。
「僕も参加したよ、只管雑魔を退治してただけで、特に目立ったことはしてないけれど」
ルーエル自身も尋ねられ答えるが、皆の狩りの成果ほどの事はしていないよと奥ゆかしい返事。
「目立つことがすべてじゃありませんよ」
ヴァインが微笑む。目立つと確かに達成感はあるのは勿論だけれど、大勢が参加したこと、力を結集して作戦を遂行したことに意味があるのだから、と。
「でもわかるなあ、カッコいいよね、止めを刺した人とかさ!」
「でも、ミサキさんは族長だからあまり前に出て戦うと周りが心配するんじゃ……?」
ルーエルが疑問に感じて突っ込めば、もっと言ってやってくださいとヴァインが何度もうなずく様子が見えた。
●光に溢れ
(無事、夜煌祭の祈り手の大役は果たせたようですね……)
大切な二人が儀式本番で力を尽くしてきていた。そんな彼らの後を引き継いで自分も何かできないだろうかと、一人Uisca Amhran(ka0754)は宴会にと足を運ぶ。
彼女が大事に抱えているのは、その時二人が分けてもらった聖火を、更にたいまつに分けて借り受けてきたものだ。
「それじゃキーくん、よろしくっすよ!」
次の瞬間、飛び上がった柴犬は樽の上にしっかりと立っていた。四本の足を上手に使い、尻尾もバランスをとるのに利用しながら樽の上に乗ったままのキー君。観客からも拍手が贈られ、フューリ(ka0660)も相棒冥利に尽きるというものである。
「今度は僕がやってみるっす」
入れ替わりに飛び乗る。
「って、うぉっとっとぉ?」
右にぐらり、左にぐらぐら。すぐに樽から落ちてしまう。
「あーぁ、ダメみたいっす」
演出は上々、観客からは楽しげな笑い声が上がった。
「それじゃ一曲、耳を借りるぜ?」
満足のいく量を飲食いしてから、持参の楽器を構えて爪弾き出すティー。前奏からノリの良い調はクリムゾンウエストの者なら誰でも知っている一曲だ。聞けば自然と体が動くような、踊りの曲としても知られている。
気付いた者から立ち上がり、調に乗ってステップを踏む。
『踊りませんか?』
スケッチブックの字を見せながら、エヴァがルーエルに手を出しだす。それは偶然近くに居ただけなのだけれど。ティーから射殺さんばかりの視線が注がれる。しかし演奏には少しの乱れも起きていないから、それに気づいているのは姉のエヴァだけだ。
(いつになったら姉離れするのかしら、ね)
放っておけばずっとこのままだろうけれど。あくまでも笑顔で頬を引き上げて、弟に気付かないふりのまま踊ることにした。
(こんな空気も悪くないですね)
仕事を請ける時以外は、静かに暮らしている澪にとって宴会そのものが久しい。賑やかさを厭うわけではないけれど、こうして時折触れるくらいが性に合っている。
さきほどまで杯を交わしていた輪から一人離れ、賑やかさの残る場を振り返り眺めた。
「……風向きも、丁度良いですね」
賑やかな空気を柔らかくする足しになればいい。持ってきていたオカリナを手に、メロディを奏ではじめる。
軽快なテンポの調を一音いちおんゆっくりと。それだけでも耳に心地よいものになった。
一通り踊りを楽しんだエヴァが、スケッチブックを片手にびしりと指で指してくる。絵を描くから動くなということらしい。演奏だけは続けたまま、描きやすいように姿勢を定めるティーはエヴァの画家としての視線に混じる感情を読み取っていた。
(大きくなったな、ってところか? ……姉貴も、な)
しみじみと見つめてくる姉の視線がこそばゆい。保護者としての視線だとわかっているのに、思わずティーはその視線を正面から受け止めずに、逸らしてしまった。
(姉貴はもうちょっと肉ついた方が良いんじゃないかな)
そう思って、さっきはせっせと食べさせてみたけれど。エヴァはもう小さな守るべき女の子というだけではなくなっているのだと気付いてしまった。一人でもやっていける女性なのだと気づいてしまったのだ。
だからといって、姉離れする気なんて毛頭ないのだけれど。
楽しそうで賑やかな会場の空気から一歩引いた位置。眺めるくらいがちょうどよかった。
「こういう雰囲気はな、結構好きなんだ……あんまり、縁がないけどな」
目を細めてヴォルテールが呟く。
「私も好きよ。明るい場所の、こういう空気も」
くすりと笑うのは小さな自嘲が籠もっているから。ここに自分がいて、初対面の誰かとこうして普通の話をすること。それが貴重なのだと気づいたのかもしれない。
観客が離れてから、そっとお尻をさするフューリ。態度に出さなかったのはさすがである。
くぅーん
「心配してくれるっすか、ありがとうっすよー」
嬉しくなってわしゃわしゃと撫でくりまわす。キー君も更に身を寄せてきた。
「やっぱりキーくんはすごいっすねー、あんな難しいこと出来るなんて! うりゃうりゃうりゃっ! このまま撫でくりまくってやるっす!」
褒めながら手触りを堪能、しばらく至福の時を過ごすフューリ。
「そしたら肉を食べに行くっすよ。軽い運動もしたし焼きたてだし、いつも以上に美味いっすよ!」
わうっ!
「大精霊の御名において、この紅き大地に住まうすべての者へマテリアルが再び満ち溢れんことを祈らん」
コトホギの言葉を歌いながらUiscaは宴会場をゆっくりと巡る。聖火を皆で分け与えれば一年、心豊かに暮らせるという言い伝え。それを聞いて、この宴会に参加している皆にも幸せのおすそ分けをしようと思ったのだ。
(祈り手として、歌い手として……まだ、できることがあるならば……)
儀式本番は無事に終わっている。けれど、未来の為に少しずつでも助けになれることがあるならば、それがどんなに些細な事であっても行動したい。そう思ってこの場を歩いているUiscaは聖火の輝きも重なって、この青空の下清浄な雰囲気を周囲に振りまいていくのだった。
●酒瓶の山
彼女達は出会うべくして出会った。青空の下、酒瓶が無償で提供され、料理も格式ばったものではない上に肴に都合がいいものばかりと来ている。宴会場で出会ったうわばみ達は、互いに好きな酒瓶を抱え焼いた肉を適度に盛った皿を持ち、各所の人の輪で乾杯と返杯を繰り返しながら、いい案配の席はないかと会場を彷徨っているところだった。
行動の似ている彼女達は、視線と頷きだけでやり取りを終える。近くにあったテーブルを共に確保して、にやりと笑顔を交わした。
「雅華と言うよ、きみは?」
「シャルラッハ。シャルとでも呼んでくれ」
滝川雅華(ka0416)が名乗りシャルラッハ・グルート(ka0508)が答える。簡潔なのは早く先に進みたいからだ。
目配せだけで通じ、互いに一押しの酒瓶を注ぎあう。それだけで互いの嗜好が知れた。既に呑んでいたからこそ通じ合いやすかったのだ(単に酔っぱらっていたからそう思っただけかもしれないが)。
しかし酒の力は世界の境界を越える。彼女たちはそれを体現していた。
「どれだけ飲んでる?」
この後もイケるか、と短く尋ねるのはシャルラッハ。
「注がれるだけ飲んでた、シャルもだろう?」
いちいち数えてなんかいないと言う雅華に、ぶはっとシャルラッハが噴き出す。
「違いねぇな!」
これはいい相手を見つけた……互いに、そう思った。
「「そろそろ回るのも飽きてきたところだったんだ」」
期せずして声が重なる。
「そいじゃまー、やるか?」
互いに杯を掲げ、彼女達の間では第二ステージのゴングが鳴った。
「皆、大規模お疲れ様ー!」
前日から酒盛りが続いているアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は既に酔っ払って、気分はいつも以上に高まっている。
「ねー皆、皆で乾杯シヨー!」
言いながらも酌をして回り、楽しく呑もうと笑顔を振りまく。乾杯は何度しても楽しい。声を揃えて、盃を交わして、一緒に過ごしている証は何度でもしたくなる。
「いえーい!」
ノリよい合いの手はフレデリク・リンドバーグ(ka2490)。お酒が飲めないわけではないがあまり得意でもない自覚があるため、ソフトドリンクを手に乾杯に乗じる。
(無礼講というやつですね!)
普段から共に過ごすことの多い友人同士とはいえ、まだあまり素を見せてはいないのだ。今日はどれだけその距離を詰められるのか、少しばかりの緊張と期待も交じっている。
(楽しめれば、それが一番です……!)
「それじゃ、早速かんぱーい!!」
ジュード・エアハート(ka0410)が乾杯の音頭をとった。酒を飲む前から場に酔っているのか、動きもいつもよりアクティブだ。
「フューリ君、エテさん、ソフィアさんのんでるー!?」
そんな状態でお酒を飲むものだから、いつもよりも酔いは早く、気分も高まる。アルヴィンの酌をうけたり、自分も返したりとテンポよく飲んでいき、ふと振り向けば、驚きの光景がジュードの視界に入った。
(夜煌祭に立ち会えたのは僥倖だ)
今なお部族の教えを大切にしているエアルドフリス(ka1856)としては、辺境の祭事に関われることは故郷の空気に近づけるような気がして感慨深いものがある。
「漂い出るな! 人に絡むな! 少しは大人しくできんのかね?」
アルヴィンを引き留めたのとは逆の手が無意識に自身の額に向かう。
「……フレデリクも手伝ってくれ」
これは自分一人では対処しきれないと、早々に見切りをつける。
「あっはい! 頑張りますね!」
頼ってもらえたことが嬉しくて、ぴょんと跳ねるように頷くフレデリクだった。
「君も一緒に遊ばナイ?」
笑顔で頼んで出してもらったその手に、用意していたコインを乗せるアルヴィン。そのままハンカチを被せて、1・2・3、ハイ!
「ほら、こんなところにコンニチハ☆」
気付くとコインはアルヴィンの帽子から転がり出てきていた。
多少酔っていても出来るくらいには簡単な手品で周囲の笑顔も、偶然居合わせた一人で過ごす誰かも。どんどん巻き込んでいくのだ。
「アルヴィンちゃんは手品出来るの、すごいわぁ!」
掛け値なしで褒め称えるNonにあわせ、周囲の者達もアルヴィンをもてはやす。
「立派ねぇ、手先が器用な男性って素敵!」
これはご褒美よと、飲み比べた中でも気に入った、お勧めのウィスキーをアルヴィンの杯に注いだ。
「ありガトーっ☆」
もらった拍手には、ウインクと一緒に答えるのが礼儀☆
「上手ジャナイケド僕も唄おうカナ? ルールーは唄わナイ?」
かくりと首を傾げて尋ねるアルヴィン。
「唄わんと言ってるだろう、部族の歌は見世物じゃあない」
いいじゃナイ-聞きたいナーと繰り返す酔っ払いに、エアルドフリスはハリセンで一撃を食らわせた。
「ルディ先生、お久しぶりですー」
見知った顔の集まりに顔を出せば、すでに出来上がっている者への対応で追われる顔が見て取れて。いつも通りらしいと以前に聞いてはいるから、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は素面とわかるエアルドフリスに声をかけた。
「先日はどうもですよー。またルディ先生の薬屋さんに顔出しますからっ」
その時はまた相談に乗ってくださいね、と笑顔を向ける。実年齢も教えている相手だからお酒も片手に、素に近い態度で接することができるので気楽な相手だと思う。
「あ、初めましてさんのこんにちわっ、よろしくですっ」
大勢で来てるんですねと、後方で盛り上がっている面々にも声をかけた。
エアルドフリスが女性と仲好さげに話している状況に、驚いたジュードは咄嗟に浮かんだ言葉をそのまま叫んだ。
「エアさんが浮気したぁぁぁぁぁぁ!」
この場合、誰と誰が交際しているという前提なのか、深く突っ込むのは野暮である。ともかくジュードは衝動的に行動した。そう、ヒステリックな彼女ポジションとして!
「ハリセンなんか捨ててかかってこ」
既に掴みかかっている。「なんてこった、とんだ伏兵だ」
客に挨拶をされただけで絡まれるとは思っていなかったエアルドフリスのハリセンにはキレがない。友として可愛がる相手だからこそ対応が甘くなってしまうのだ。無下にもできずされるがままにしたところ、べったりと抱き付かれる始末。誤解の広がりそうな言葉ばかり聞こえた気がするが、それを気にするのも面倒になってくる。無の境地とも言えばいいだろうか。
「うー、エアさんのあほー……あほー……大好きー……」
俺のエアさん(親友)なのにー彼女とかーそしたら俺(親友として)構ってもらえなくなるじゃんかーもー……などと一方的にエアルドフリスの腕やら首やらぎゅうぎゅう掴んだ挙句、最後には涙目のまま抱き付くのだった。
「……どうしてこうなった」
懐に入れた相手には優しい、そういう事ではないだろうか。
「兎に角酒だ酒酒ぇ! 酒を持って来いやぁ!」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が張り上げた声が響き、ロイ・I・グリーヴ(ka1819)が眉間にしわを寄せた。
(偶には羽目を外してみようか、と思っていたはずなのだが)
宴会の輪に溶け込む努力もしてはいたのだが、この兄の存在が気になって今一つ羽を伸ばしている気分になり切れない。
昼間から酒宴なんてロイの学んできた常識にはなかったが、それでマテリアルが活性化されるなら悪いことではないのだろうし、何より参加している皆が楽しそうに過ごしているのを確認して、自分もいつもより少しだけ酒を過ぎているくらいなのだが。
(だから響くのだろうか?)
「ジャック兄さん、そんなに呑んで大丈夫か」
「オラァ! ジャック様が酒をご所望だずぅお!」
ジャックもすでにろれつが回り切っていない。しかし声が響くせいで眉をしかめてしまう、自然と怒っているような顔になってしまった。
「うぉいうぉいい、ロイくぅんよぉ、ずぅえんずぅえん飲めてないんじゃねえのお?」
弟の声に振り返ったジャックだが、こちらも既に酔っ払いだ。何時もなら不機嫌な顔だとわかる弟の顔を、別の理由に取ってしまっていた。
「……分かった勝負しようじゃあないかジャック」
しかしロイの対抗心に火をつけて、そのまま兄弟は飲み比べをはじめる。不安な空気しかしない。
勢い良く煽るロイに合わせ、ジャックも次々に酒瓶をあけていく。いつも飲んでいるものとは味も度数も違う酒を無計画に飲む。しかも種類が多いため自然とちゃんぽんにもなってしまう。酔いが回る速度も自然と上がるというものだ。
(なんだかしりゃねぇが最っ高に気分がいいずぇ……)
飲み続けながらジャックの脳内では全く関係のない思考がぐるぐると回っていた。
(今なら女とだってマトモに話せる……はず……)
酒の力を借りなければ女性に声をかけられないという事実を直視できていない。
(大丈夫だ俺、俺様はやれば出来る男だ、出来る出来る、頑張れ俺、がんば……ごめんやっぱたぶんムリ!!)
ぐるぐると回りすぎた思考は勝手にぐにゃりとへたれてしまった。
「勝った、か……ふふ、ふはは……!」
蹲り行動を停止したジャックの横では、同じく真っ赤な顔のロイがふらついた足取りで、らしくない高笑いをあげていた。
ふぁ~あ……
「眠くなってキタネ、寝たら怒られるカナァ」
遊び倒したアルヴィンの大きな欠伸。目元も軽くこすりながら、親の機嫌を伺うように周囲をちらりと見回して。
「ンー、でもオヤスミナサーイ」
おかわりどうぞ、と注がれた飲み物を確認しないままに口をつける。たくさんのおしゃべりで喉が渇いていたせいで、フレデリクは勢いよく嚥下した。
「あれ?」
喉を通り過ぎた後、体が熱くなってきたような。
「このジュース……なんだかアルコールのような?」
(ま、いいっかぁー)
ふわふわな気分になって、そのままコップの中身を飲み続ける。
「うぃーっく! いい気分だなあー!」
既に寝てしまっているアルヴィンの横に寝転がってみたり、フューリとキー君にまとわりついたり。あっさりと酔っぱらいの仲間入りを果たしたのだった。
「また会ったときはよろしくですよっ」
知己を増やすのも目的だからと、人の輪を転々とするソフィア。酌をしたり、返杯を受けたり。外見で未成年なのではと尋ねてくる相手には、耳打ちで本当の年を教えて驚かせる。その反応も楽しみの一つであったりする。
かなりの数杯を重ねているが、うわばみのソフィアにはどうということもない。一通り巡った後は、女子会と書いて飲み比べと読む集まりに混ざってお酒を存分に堪能することになる。
「おーぅ雅華ァ、お仲間が来るようだぜー?」
「本当、第三試合にでもする? シャルもまだ寝てないだろうな」
既にだいぶ酒に飲まれかけていたはずの二人だが、新たな参加者の気配にある種の覚醒状態へと移行しようとしていた。まだまだ飲める範囲内、むしろさっきまで飲んでいた分はもうどこかに行ってしまったとでもいうように。
ソフィアが増えて、女子会はまだ続くようである。
「「「マテリアル活性化の宴会に、乾杯ー!」」」
宴会場全体が落ち着いていく頃合いになっても、彼女達の宴は続いた。
「酔っ払いさんってとっても、手のかかる人種なんですねぇ……」
騒がしくしていた色々を思い出しこぼすのはエテ。倒れ込んだ者達の介抱にあたっているのだ。
何かあった時の為にと身に着けていた応急手当の知識が活かせた事に安堵していた。いつも新しいものに気をとられることが多いけれど、そういった経験が実になっていることはエテにとって一つの自信にもなるからだ。
他にも、儀式や宴会の準備で奔走していたらしい部族の者達の介抱も手伝う。
「儀式の終了で、緊張の糸が切れるのは部族もハンターも同じ、なんですね」
(代筆:石田まきば)
用意された食べ物を一通り確認して、一つ息をはいたNon=Bee(ka1604)。
「あら、つまみに御煎餅が無いじゃないの。まぁいいわ、今日は楽しみましょ」
誰にともなくウインクを飛ばし、飲み仲間を探そうと気に入った酒瓶を抱えて歩き出す。
(折角なら新しい出会いもいいわねぇ)
「塩があれば事足りますね」
上泉 澪(ka0518)が肉や野菜を切り分ける。豪快な切り口は意図したもの。
調味料と呼べるものは塩ぐらい、それも必要最低限なのだ。素材の味をそのまま、ほんの少し塩が盛り上げてくれればそれでいいだろうと思う。特に肉が多いから、焼き加減にさえ気をつければいい肴になるだろう。
「折角ですしお酒でも呑みましょうか」
食材にざっと塩を振る。後は各自で焼けばいい。支度を終えた澪は酒の物色に向かった。
「わいわいがやがやな、宴会……!」
大勢が集まるだけでもエテ(ka1888)には物珍しい。ハンターになった今でもまだ、毎日が発見の嵐。
(宴会の食べ物は、ちょっと胃にもたれそうですが!)
迷いながら皿に手にとり、料理の前に向かっていく。そこには予想していた以上の肉、肉、肉。ときどき野菜と魚。
「お肉がいっぱい!」
視界と頭を肉が占めた。
「肉食系エルフになってみせますとも!」
少しばかり混乱しているのかもしれなかった。
「ほい、肉。次は……玉葱だな、ほい」
ぽんぽんと、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の持つ更に食べ物が乗せられていく。一つ食べたら次、それが終わったらまた別のもの。ほんの少しだけ手を止めて、空になることがない皿と弟を見比べた。
(こんなに食べたら太っちゃうのに)
けれど給仕に真剣なティー・W・カルブンクルス(ka0506)の様子を前に逆らえるわけがない。わざわざ持参してくれた自家製タレの効果と、楽しそうな弟の様子も重なって、どれも美味しく食べてしまった。
見覚えのある後ろ姿をみつけ、神代 誠一(ka2086)は少女の肩に手をかけ呼びかける。やっと見つけた希望の光に安堵が勝っていた。
「あぁよかった、無事だったんですね……!」
「ふぇ? 僕……?」
少女の顔が記憶と違い、間違いを悟る。目いっぱいに食べ物を頬ばっている銀 桃花(ka1507)の顔に、自然と視線がそれより下、彼女の持つ皿の中身へと移った。
(多い……です、ね)
今この状態でも多いが、桃花は今まさに咀嚼している。つまりもっと盛られていたということだ。
(ハッ! イケメンの前でめっちゃ肉頬張っちゃったんですけど!)
慌てて口の中の肉を飲み込む。それが落ち着いてから改めて、互いに自己紹介をすることになった。
「すみません、人を探してまして……生徒なんですが。ああ、俺は神代誠一といいます」
「僕は銀 桃花っていうの」
互いにリアルブルー出身者、教師と学生と言う類似点もあり会話も打ち解けたものになる。
「せーちゃん先生って呼んでいい?」
どうぞ、と微笑まれ桃花にも笑顔が浮かぶ。
「先生みたいな男前さんが担任だったら、俄然勉強頑張っちゃうんだけどなー♪ 探してる生徒さん、出先で見かけたら教えるね! 会えるといいねっ」
須藤 要(ka0167)は人の波に流されてこの場所にやってきた。
「まあ、いっか」
丁度空腹を感じ始めていたところだし、と端の方に陣取る。ほどよく焼けた肉と野菜を皿に盛って腰かけて、ぼんやりと周囲を眺めた。
(昼から酒が飲めるとあって、やっぱ大人の人多いな)
ほんの少し肩身が狭い気がして、思考を切り替える。
例えばこの宴会の理由。悪いものを払うためにこうした宴会を行うのだとか。
(最初聞いた時は驚いけど、英気を養うって意味ではこういうのもありなのかもしれないな)
桃花が一心に食べる様子に、誠一は目を和ませる。
(微笑ましいですねえ……)
栗鼠みたいだ。木の実やビスケットがあったらつい手招きして餌付けしたくなってしまう。
「急いで食べると喉に詰まらせますよ」
教師の目線だからなのか、本来の自分は後にして他人を優先する性分のせいなのか。飲み物を取って来て世話をする。
「飲み物ありがと! お肉おいしー、すきなのー♪」
本当に幸せそうに食べる桃花。
(ああ、だからその量……)
その誠一の視線に気づいた桃花が慌てだす。
「や、やだなー僕一人で食べる訳ないでしょっ! よ、よかったらどうぞ?!」
頬張った顔を見られた恥ずかしさがよみがえってきて、誤魔化そうと桃花は鬼盛り皿ををずずいと誠一に差し出した。その様子にくすくすと笑い、誠一の目に少しだけ意地悪な光が宿る。
「いえ、俺はこれで。そんなに腹も減ってませんしね?」
その手に持っているのは酒入りのコップなのだった。
●誘い会い
ザレム・アズール(ka0878)は抱えている疑問と提案を投げかける相手を探していた。
(マテリアル活性化の原理がわかればいいのだが)
事前に聞いていた特徴を元に見回せし、褐色、水色、金色の神秘的なコントラストを持った数名の少女達をみつける。彼女達は同じ色彩で集まっているおかげで見つけやすかった。
「教えて欲しいことがあるんだ」
失礼が無いよう丁寧に呼びかけ、自己紹介もした後にそう切り出した。
波に飲まれぬ程度に会場を彷徨うヴォルテール=アルカナ(ka2937)。自身の持つ杯は、この場の空気を楽しむための小道具だ。
酔うために来たわけではないから、呑み仲間を求める声にも笑顔であたりさわりのない言葉を返し足を進めた。
(店で慣れてる……けれど)
肩を抱いて引き寄せて、酌をねだる酔っ払いをどうすべきか。イオ・アル・レサート(ka0392)は営業用笑顔を浮かべて思案していた。
「ここに居たのか」
声の主の瞳に案じる気配が見えたから、イオはヴォルテールの手を取ると決めた。酔っ払いの腕を振り払い、初対面の男の腕に自分の腕を絡めて親密そうに体を寄せる。
「ごめんなさい。エスコートは彼に頼んでたの。また誘って、ね?」
酔っ払いの背を見送り、小さく息をつくイオ。
「酒は飲まれると大変だな」
抑えておくのが一番だと、苦く笑うヴォルテール。
「ありがと、お兄さん。貴方が飲まれずに助けてくれて良かった」
感謝の気持ちは頬に軽く、言葉に添える軽い口付け。
(……これは)
酔っ払いの去った方を見る。未練がましくこちらを見ていた男と目があった。
「ここは人目が多い、エスコートさせて貰おう」
約束だからなと小さく片目を瞑る。酔っ払いを改めて攪乱するために。
もっと世間を見ておいで。保護者に外に出されるのもこれで何度目だろう。落ち着ける場所を確保しなければとシュネー・シュヴァルツ(ka0352)はふらふらと会場を彷徨っていた。
「宴会、それはつまりメシ、酒、そして女ぁぁぁ!!」
夜じゃない分高ぶりきれない感情も込めて、天に向かって宣言するキー=フェイス(ka0791)。
「そこのおねえちゃん、この後暇なら一緒に飲まないか? 夜の二次会までずっと、仕事に疲れたあんたを癒す心づもりだぜ?」
給仕の女の子に声をかけ、労いと書いてナンパと読む行為は常識らしい。
ビターン!
勢いよく倒れたキーとシュネーの目があった。
「ちーす」
頬に赤く手の跡が残っているせいで、格好つけてもしまらない。
「引きこもりって聞いてた割にゃ、ちゃんとこういう場にも出れるんだな」
久しぶり、元気してたか? 気楽に答えられるようにと気を回すキー。
「……出された、です」
保護者の都合だということを簡潔に答える。
(悪い人じゃないけど……)
気のいい人なのだ、気さくに話しかけてくれて、話題もふってくれるいい人なのだ。シュネー自身、助かっている。
「こういう宴会なら、いっそそれっぽいドレスでも来てくりゃ……」
目の前のシュネーが着飾った様子を想像しようと頭から順に見つめ、ある一点でキーの視線が止まる。
「いや、ボリュームが足りねえか」
(これは、無理……!)
右腕の拳をキーに直撃させてしまうのは仕方ないと思う。失礼な話をしたのはキーなのだから許してくれるとは思うけれど。反射的に手を出してしまったことは少し、ほんの少しだけ申し訳ないかな、とも思う。
「……失礼ですし」
無表情で指摘する。人間、本気になると表情も抜け落ちると言うものだ。
「粗雑だぜ……」
頬だけでなく、顎にも真っ青な痣が増えたキーはしばらくその場に倒れたままだった。
会話を聞いていた周囲の者達は、自業自得だとしばらく彼を放置していたせいである。
「……お酒は苦手?」
隅で咳込んでいた要に酒のグラスを差し出し、要の顔を覗き込む。戸惑うような視線にほんの少しだけ、イオは過去の自分を重ねた。だから声をかけたくなったのかもしれない。
「ああそれとも……リアルブルーの子かしら。だから?」
イオの確認に要が頷く。
(美味しいのかな)
自分と年頃が近い子が杯を傾ける様子も見ている。ほんの少しだけ舌にのせてみるくらいならいいだろうかと要は杯に口を付けた。
ゲホゲホゲホッ! 熱い!
喉を焼く感覚に驚き咳込む。
「……俺は、もうしばらく先でいいや」
今いるのはクリムゾンウエストだけれど。すべてを居場所に染めたくたっていいのだから。
「大丈夫か? タイミングは自分で選べばいいさ」
要の背を軽くさするヴォルテール、要やイオの皿に目をつけた。
「何か食べるか? 酒以外にも色々とあるし」
率先して世話を焼くのは癖のようなもの。イオは女性で要は年下。動くのは自分であるべきだ。要は少し緊張していたようで、ヴォルテールの皿の減りを意識しようと気を付けてくれていたようだが。
「いや、俺も食べてるよ。大丈夫。慣れない酒を口にしたんだ、目上の好意は受け取っておくといい」
「あらぁ、なにしけた顔しているのよ、楽しんでるぅ?」
隣に座りながらNonが声をかければ、シュネーが肩をびくりとさせた。
「このお酒美味しいわよ、一緒にどぉかしら?」
「え……あの私未成年……」
すみません、には驚いてしまったことと誘いに乗れない二つの意味を込める。改めてNonの顔を見て、シュネーはその美貌にも驚いた。
(綺麗な人……)
お酒は無理だけれど、話ならばと隣に腰かける。
「未成年? 損してるわねぇ」
じゃあ酒の肴にお話ししましょ? 楽しく呑めるなら、相手が飲めなくても気にしないNon。
リアルブルーの飲酒規制を守っているのだと気づきなるほどねと頷いた。
「若いうちはもっとはっちゃけなさいよ。悪くないわよ? でもまあ、飲めるようになったらまた飲みましょ」
その時を楽しみにしてるわね。
「……また、はい」
約束が嬉しくなったのは、Nonの美貌にあてられたからだろうか。シュネーは素直に頷いた。
マテリアルの活性化は結果として活性化したという結果論からくるものであって、原理がはっきりとわかっているものではないようだ。すくなくともネレイド族のミサキたちは原理や、効率化については考えたことが無いようだった。
「代わりといってはなんだけど」
ザレムが伝えたかったもう一つの事。このような宴会の恒例化については他の族長達にも相談を持ち掛けてみると約束してくれた。総意がどうなるか次第だろうが、伝えられただけでも進歩だ。
(皆あんなに楽しそうじゃないか……)
経済効果や交流の面で利点もあるからと事務的な言い方はしたけれど、ザレム自身、この場の空気を楽しんでいた。
(この宴会を楽しめばいいんだよね……?)
特に連れもなく、酒を飲むでもないルーエル・ゼクシディア(ka2473)は仲間が居たらいいなと思いながら空いた席を探す。
「お隣、良いですか?」
そうして座ったのは、ザレムが族長達も交えて盛り上がっている輪の中だった。
それぞれの出身地やその特徴の話から始まり、今食べている肉が誰が調達してきたものか等の捕り物の様子や獲物の話。最近あった大規模な歪虚討伐の事等、ルーエル自身が様々に用意してきていたように、話題は尽きない。
「僕も参加したよ、只管雑魔を退治してただけで、特に目立ったことはしてないけれど」
ルーエル自身も尋ねられ答えるが、皆の狩りの成果ほどの事はしていないよと奥ゆかしい返事。
「目立つことがすべてじゃありませんよ」
ヴァインが微笑む。目立つと確かに達成感はあるのは勿論だけれど、大勢が参加したこと、力を結集して作戦を遂行したことに意味があるのだから、と。
「でもわかるなあ、カッコいいよね、止めを刺した人とかさ!」
「でも、ミサキさんは族長だからあまり前に出て戦うと周りが心配するんじゃ……?」
ルーエルが疑問に感じて突っ込めば、もっと言ってやってくださいとヴァインが何度もうなずく様子が見えた。
●光に溢れ
(無事、夜煌祭の祈り手の大役は果たせたようですね……)
大切な二人が儀式本番で力を尽くしてきていた。そんな彼らの後を引き継いで自分も何かできないだろうかと、一人Uisca Amhran(ka0754)は宴会にと足を運ぶ。
彼女が大事に抱えているのは、その時二人が分けてもらった聖火を、更にたいまつに分けて借り受けてきたものだ。
「それじゃキーくん、よろしくっすよ!」
次の瞬間、飛び上がった柴犬は樽の上にしっかりと立っていた。四本の足を上手に使い、尻尾もバランスをとるのに利用しながら樽の上に乗ったままのキー君。観客からも拍手が贈られ、フューリ(ka0660)も相棒冥利に尽きるというものである。
「今度は僕がやってみるっす」
入れ替わりに飛び乗る。
「って、うぉっとっとぉ?」
右にぐらり、左にぐらぐら。すぐに樽から落ちてしまう。
「あーぁ、ダメみたいっす」
演出は上々、観客からは楽しげな笑い声が上がった。
「それじゃ一曲、耳を借りるぜ?」
満足のいく量を飲食いしてから、持参の楽器を構えて爪弾き出すティー。前奏からノリの良い調はクリムゾンウエストの者なら誰でも知っている一曲だ。聞けば自然と体が動くような、踊りの曲としても知られている。
気付いた者から立ち上がり、調に乗ってステップを踏む。
『踊りませんか?』
スケッチブックの字を見せながら、エヴァがルーエルに手を出しだす。それは偶然近くに居ただけなのだけれど。ティーから射殺さんばかりの視線が注がれる。しかし演奏には少しの乱れも起きていないから、それに気づいているのは姉のエヴァだけだ。
(いつになったら姉離れするのかしら、ね)
放っておけばずっとこのままだろうけれど。あくまでも笑顔で頬を引き上げて、弟に気付かないふりのまま踊ることにした。
(こんな空気も悪くないですね)
仕事を請ける時以外は、静かに暮らしている澪にとって宴会そのものが久しい。賑やかさを厭うわけではないけれど、こうして時折触れるくらいが性に合っている。
さきほどまで杯を交わしていた輪から一人離れ、賑やかさの残る場を振り返り眺めた。
「……風向きも、丁度良いですね」
賑やかな空気を柔らかくする足しになればいい。持ってきていたオカリナを手に、メロディを奏ではじめる。
軽快なテンポの調を一音いちおんゆっくりと。それだけでも耳に心地よいものになった。
一通り踊りを楽しんだエヴァが、スケッチブックを片手にびしりと指で指してくる。絵を描くから動くなということらしい。演奏だけは続けたまま、描きやすいように姿勢を定めるティーはエヴァの画家としての視線に混じる感情を読み取っていた。
(大きくなったな、ってところか? ……姉貴も、な)
しみじみと見つめてくる姉の視線がこそばゆい。保護者としての視線だとわかっているのに、思わずティーはその視線を正面から受け止めずに、逸らしてしまった。
(姉貴はもうちょっと肉ついた方が良いんじゃないかな)
そう思って、さっきはせっせと食べさせてみたけれど。エヴァはもう小さな守るべき女の子というだけではなくなっているのだと気付いてしまった。一人でもやっていける女性なのだと気づいてしまったのだ。
だからといって、姉離れする気なんて毛頭ないのだけれど。
楽しそうで賑やかな会場の空気から一歩引いた位置。眺めるくらいがちょうどよかった。
「こういう雰囲気はな、結構好きなんだ……あんまり、縁がないけどな」
目を細めてヴォルテールが呟く。
「私も好きよ。明るい場所の、こういう空気も」
くすりと笑うのは小さな自嘲が籠もっているから。ここに自分がいて、初対面の誰かとこうして普通の話をすること。それが貴重なのだと気づいたのかもしれない。
観客が離れてから、そっとお尻をさするフューリ。態度に出さなかったのはさすがである。
くぅーん
「心配してくれるっすか、ありがとうっすよー」
嬉しくなってわしゃわしゃと撫でくりまわす。キー君も更に身を寄せてきた。
「やっぱりキーくんはすごいっすねー、あんな難しいこと出来るなんて! うりゃうりゃうりゃっ! このまま撫でくりまくってやるっす!」
褒めながら手触りを堪能、しばらく至福の時を過ごすフューリ。
「そしたら肉を食べに行くっすよ。軽い運動もしたし焼きたてだし、いつも以上に美味いっすよ!」
わうっ!
「大精霊の御名において、この紅き大地に住まうすべての者へマテリアルが再び満ち溢れんことを祈らん」
コトホギの言葉を歌いながらUiscaは宴会場をゆっくりと巡る。聖火を皆で分け与えれば一年、心豊かに暮らせるという言い伝え。それを聞いて、この宴会に参加している皆にも幸せのおすそ分けをしようと思ったのだ。
(祈り手として、歌い手として……まだ、できることがあるならば……)
儀式本番は無事に終わっている。けれど、未来の為に少しずつでも助けになれることがあるならば、それがどんなに些細な事であっても行動したい。そう思ってこの場を歩いているUiscaは聖火の輝きも重なって、この青空の下清浄な雰囲気を周囲に振りまいていくのだった。
●酒瓶の山
彼女達は出会うべくして出会った。青空の下、酒瓶が無償で提供され、料理も格式ばったものではない上に肴に都合がいいものばかりと来ている。宴会場で出会ったうわばみ達は、互いに好きな酒瓶を抱え焼いた肉を適度に盛った皿を持ち、各所の人の輪で乾杯と返杯を繰り返しながら、いい案配の席はないかと会場を彷徨っているところだった。
行動の似ている彼女達は、視線と頷きだけでやり取りを終える。近くにあったテーブルを共に確保して、にやりと笑顔を交わした。
「雅華と言うよ、きみは?」
「シャルラッハ。シャルとでも呼んでくれ」
滝川雅華(ka0416)が名乗りシャルラッハ・グルート(ka0508)が答える。簡潔なのは早く先に進みたいからだ。
目配せだけで通じ、互いに一押しの酒瓶を注ぎあう。それだけで互いの嗜好が知れた。既に呑んでいたからこそ通じ合いやすかったのだ(単に酔っぱらっていたからそう思っただけかもしれないが)。
しかし酒の力は世界の境界を越える。彼女たちはそれを体現していた。
「どれだけ飲んでる?」
この後もイケるか、と短く尋ねるのはシャルラッハ。
「注がれるだけ飲んでた、シャルもだろう?」
いちいち数えてなんかいないと言う雅華に、ぶはっとシャルラッハが噴き出す。
「違いねぇな!」
これはいい相手を見つけた……互いに、そう思った。
「「そろそろ回るのも飽きてきたところだったんだ」」
期せずして声が重なる。
「そいじゃまー、やるか?」
互いに杯を掲げ、彼女達の間では第二ステージのゴングが鳴った。
「皆、大規模お疲れ様ー!」
前日から酒盛りが続いているアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は既に酔っ払って、気分はいつも以上に高まっている。
「ねー皆、皆で乾杯シヨー!」
言いながらも酌をして回り、楽しく呑もうと笑顔を振りまく。乾杯は何度しても楽しい。声を揃えて、盃を交わして、一緒に過ごしている証は何度でもしたくなる。
「いえーい!」
ノリよい合いの手はフレデリク・リンドバーグ(ka2490)。お酒が飲めないわけではないがあまり得意でもない自覚があるため、ソフトドリンクを手に乾杯に乗じる。
(無礼講というやつですね!)
普段から共に過ごすことの多い友人同士とはいえ、まだあまり素を見せてはいないのだ。今日はどれだけその距離を詰められるのか、少しばかりの緊張と期待も交じっている。
(楽しめれば、それが一番です……!)
「それじゃ、早速かんぱーい!!」
ジュード・エアハート(ka0410)が乾杯の音頭をとった。酒を飲む前から場に酔っているのか、動きもいつもよりアクティブだ。
「フューリ君、エテさん、ソフィアさんのんでるー!?」
そんな状態でお酒を飲むものだから、いつもよりも酔いは早く、気分も高まる。アルヴィンの酌をうけたり、自分も返したりとテンポよく飲んでいき、ふと振り向けば、驚きの光景がジュードの視界に入った。
(夜煌祭に立ち会えたのは僥倖だ)
今なお部族の教えを大切にしているエアルドフリス(ka1856)としては、辺境の祭事に関われることは故郷の空気に近づけるような気がして感慨深いものがある。
「漂い出るな! 人に絡むな! 少しは大人しくできんのかね?」
アルヴィンを引き留めたのとは逆の手が無意識に自身の額に向かう。
「……フレデリクも手伝ってくれ」
これは自分一人では対処しきれないと、早々に見切りをつける。
「あっはい! 頑張りますね!」
頼ってもらえたことが嬉しくて、ぴょんと跳ねるように頷くフレデリクだった。
「君も一緒に遊ばナイ?」
笑顔で頼んで出してもらったその手に、用意していたコインを乗せるアルヴィン。そのままハンカチを被せて、1・2・3、ハイ!
「ほら、こんなところにコンニチハ☆」
気付くとコインはアルヴィンの帽子から転がり出てきていた。
多少酔っていても出来るくらいには簡単な手品で周囲の笑顔も、偶然居合わせた一人で過ごす誰かも。どんどん巻き込んでいくのだ。
「アルヴィンちゃんは手品出来るの、すごいわぁ!」
掛け値なしで褒め称えるNonにあわせ、周囲の者達もアルヴィンをもてはやす。
「立派ねぇ、手先が器用な男性って素敵!」
これはご褒美よと、飲み比べた中でも気に入った、お勧めのウィスキーをアルヴィンの杯に注いだ。
「ありガトーっ☆」
もらった拍手には、ウインクと一緒に答えるのが礼儀☆
「上手ジャナイケド僕も唄おうカナ? ルールーは唄わナイ?」
かくりと首を傾げて尋ねるアルヴィン。
「唄わんと言ってるだろう、部族の歌は見世物じゃあない」
いいじゃナイ-聞きたいナーと繰り返す酔っ払いに、エアルドフリスはハリセンで一撃を食らわせた。
「ルディ先生、お久しぶりですー」
見知った顔の集まりに顔を出せば、すでに出来上がっている者への対応で追われる顔が見て取れて。いつも通りらしいと以前に聞いてはいるから、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は素面とわかるエアルドフリスに声をかけた。
「先日はどうもですよー。またルディ先生の薬屋さんに顔出しますからっ」
その時はまた相談に乗ってくださいね、と笑顔を向ける。実年齢も教えている相手だからお酒も片手に、素に近い態度で接することができるので気楽な相手だと思う。
「あ、初めましてさんのこんにちわっ、よろしくですっ」
大勢で来てるんですねと、後方で盛り上がっている面々にも声をかけた。
エアルドフリスが女性と仲好さげに話している状況に、驚いたジュードは咄嗟に浮かんだ言葉をそのまま叫んだ。
「エアさんが浮気したぁぁぁぁぁぁ!」
この場合、誰と誰が交際しているという前提なのか、深く突っ込むのは野暮である。ともかくジュードは衝動的に行動した。そう、ヒステリックな彼女ポジションとして!
「ハリセンなんか捨ててかかってこ」
既に掴みかかっている。「なんてこった、とんだ伏兵だ」
客に挨拶をされただけで絡まれるとは思っていなかったエアルドフリスのハリセンにはキレがない。友として可愛がる相手だからこそ対応が甘くなってしまうのだ。無下にもできずされるがままにしたところ、べったりと抱き付かれる始末。誤解の広がりそうな言葉ばかり聞こえた気がするが、それを気にするのも面倒になってくる。無の境地とも言えばいいだろうか。
「うー、エアさんのあほー……あほー……大好きー……」
俺のエアさん(親友)なのにー彼女とかーそしたら俺(親友として)構ってもらえなくなるじゃんかーもー……などと一方的にエアルドフリスの腕やら首やらぎゅうぎゅう掴んだ挙句、最後には涙目のまま抱き付くのだった。
「……どうしてこうなった」
懐に入れた相手には優しい、そういう事ではないだろうか。
「兎に角酒だ酒酒ぇ! 酒を持って来いやぁ!」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が張り上げた声が響き、ロイ・I・グリーヴ(ka1819)が眉間にしわを寄せた。
(偶には羽目を外してみようか、と思っていたはずなのだが)
宴会の輪に溶け込む努力もしてはいたのだが、この兄の存在が気になって今一つ羽を伸ばしている気分になり切れない。
昼間から酒宴なんてロイの学んできた常識にはなかったが、それでマテリアルが活性化されるなら悪いことではないのだろうし、何より参加している皆が楽しそうに過ごしているのを確認して、自分もいつもより少しだけ酒を過ぎているくらいなのだが。
(だから響くのだろうか?)
「ジャック兄さん、そんなに呑んで大丈夫か」
「オラァ! ジャック様が酒をご所望だずぅお!」
ジャックもすでにろれつが回り切っていない。しかし声が響くせいで眉をしかめてしまう、自然と怒っているような顔になってしまった。
「うぉいうぉいい、ロイくぅんよぉ、ずぅえんずぅえん飲めてないんじゃねえのお?」
弟の声に振り返ったジャックだが、こちらも既に酔っ払いだ。何時もなら不機嫌な顔だとわかる弟の顔を、別の理由に取ってしまっていた。
「……分かった勝負しようじゃあないかジャック」
しかしロイの対抗心に火をつけて、そのまま兄弟は飲み比べをはじめる。不安な空気しかしない。
勢い良く煽るロイに合わせ、ジャックも次々に酒瓶をあけていく。いつも飲んでいるものとは味も度数も違う酒を無計画に飲む。しかも種類が多いため自然とちゃんぽんにもなってしまう。酔いが回る速度も自然と上がるというものだ。
(なんだかしりゃねぇが最っ高に気分がいいずぇ……)
飲み続けながらジャックの脳内では全く関係のない思考がぐるぐると回っていた。
(今なら女とだってマトモに話せる……はず……)
酒の力を借りなければ女性に声をかけられないという事実を直視できていない。
(大丈夫だ俺、俺様はやれば出来る男だ、出来る出来る、頑張れ俺、がんば……ごめんやっぱたぶんムリ!!)
ぐるぐると回りすぎた思考は勝手にぐにゃりとへたれてしまった。
「勝った、か……ふふ、ふはは……!」
蹲り行動を停止したジャックの横では、同じく真っ赤な顔のロイがふらついた足取りで、らしくない高笑いをあげていた。
ふぁ~あ……
「眠くなってキタネ、寝たら怒られるカナァ」
遊び倒したアルヴィンの大きな欠伸。目元も軽くこすりながら、親の機嫌を伺うように周囲をちらりと見回して。
「ンー、でもオヤスミナサーイ」
おかわりどうぞ、と注がれた飲み物を確認しないままに口をつける。たくさんのおしゃべりで喉が渇いていたせいで、フレデリクは勢いよく嚥下した。
「あれ?」
喉を通り過ぎた後、体が熱くなってきたような。
「このジュース……なんだかアルコールのような?」
(ま、いいっかぁー)
ふわふわな気分になって、そのままコップの中身を飲み続ける。
「うぃーっく! いい気分だなあー!」
既に寝てしまっているアルヴィンの横に寝転がってみたり、フューリとキー君にまとわりついたり。あっさりと酔っぱらいの仲間入りを果たしたのだった。
「また会ったときはよろしくですよっ」
知己を増やすのも目的だからと、人の輪を転々とするソフィア。酌をしたり、返杯を受けたり。外見で未成年なのではと尋ねてくる相手には、耳打ちで本当の年を教えて驚かせる。その反応も楽しみの一つであったりする。
かなりの数杯を重ねているが、うわばみのソフィアにはどうということもない。一通り巡った後は、女子会と書いて飲み比べと読む集まりに混ざってお酒を存分に堪能することになる。
「おーぅ雅華ァ、お仲間が来るようだぜー?」
「本当、第三試合にでもする? シャルもまだ寝てないだろうな」
既にだいぶ酒に飲まれかけていたはずの二人だが、新たな参加者の気配にある種の覚醒状態へと移行しようとしていた。まだまだ飲める範囲内、むしろさっきまで飲んでいた分はもうどこかに行ってしまったとでもいうように。
ソフィアが増えて、女子会はまだ続くようである。
「「「マテリアル活性化の宴会に、乾杯ー!」」」
宴会場全体が落ち着いていく頃合いになっても、彼女達の宴は続いた。
「酔っ払いさんってとっても、手のかかる人種なんですねぇ……」
騒がしくしていた色々を思い出しこぼすのはエテ。倒れ込んだ者達の介抱にあたっているのだ。
何かあった時の為にと身に着けていた応急手当の知識が活かせた事に安堵していた。いつも新しいものに気をとられることが多いけれど、そういった経験が実になっていることはエテにとって一つの自信にもなるからだ。
他にも、儀式や宴会の準備で奔走していたらしい部族の者達の介抱も手伝う。
「儀式の終了で、緊張の糸が切れるのは部族もハンターも同じ、なんですね」
(代筆:石田まきば)
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/26 11:18:07 |
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宴会ダヨ!集マレー☆ アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/26 20:16:54 |