• 神森

【神森】森の襲撃者と偽りの守護者

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/17 12:00
完成日
2016/11/26 02:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●アネリの塔
「――以上が死神からの報告だ。ハンターを量産型浄化の器と接触させて殲滅させる。当初の目的は達成した訳だが……何でハンターと量産型を接触させたんだ?」
 率直な疑問を口にして、マイラーは報告書から顔を上げた。
 ここは第十師団副師団長の執務室だ。デスクには処理しきれない書類が山のように重ねられ、その1枚を手元に部屋の主が唸った。
「簡潔に言うならエルフハイムの現状を知ってもらいたかった、かのう」
「ふん、そんなのは方便だろ。死神が言うには今回よりも前に量産型はハンターと接触している。そもそもジュリを同行させた理由はなんだ? あいつは第三階層の囚人であって高難易度の討伐には」
「今回はジュリが適任なんじゃよ」
「……適任。それはエルフだからか?」
 顔を上げこちらを見るマンゴルトに眉を顰める。
 マイラーとジュリはほぼ同期だ。今までゼナイドやマンゴルトの無理難題を一緒に乗り越えてきた過去があるだけに気になる存在なのだろう。
 彼は手にしていた書類とは別の書類を引き上げると、その全てを重なる書類の一番上に添えた。そこにマンゴルトの視線が落ちる。
「先程、帝国周辺に不穏な影を確認したと各地に派遣している死神から報告が入ってきている。これは偶然か?」
 不確かな情報で言えば、エルフハイム周辺でも不穏な影が動き始めているとも聞いている。つまり――
「この動き、師団長は見抜いていたんだろ?」
「……それに関しては頭を縦に振らん訳にはいかんのう」
 言って頭を抱えたマンゴルトにマイラーの表情が一瞬だけ崩れた。
 呆れのような、同情のような表情を見せる彼に、マンゴルトの口から盛大な溜息が漏れる。その上でマイラーを見直すと、彼はなんとも言い難い表情で肩を竦めた。
「ゼナイドがあの状態では隠し通せんか……」
「……旦那はもう少しあのお転婆の手綱を握るべきだ。でないとその内、執務室で書類に溺れて死ぬ事になるぞ」
「それは……嫌じゃな……」
 そう今一度溜息を零すと、マンゴルトは皺くちゃの顔に更に皺をたたえて頭を抱えたのだった。

●エルフハイム近郊の森
 薄暗く、時折木漏れ日が落ちるだけの森の中を、ソウルイーターのエゴと第十師団の囚人兵ジュリ、そしてハンター達は歩いていた。
「……シロ。なんでシロが死神に……?」
「その名前は君に名乗った偽りの名前なのだよ。ボクは白の死神と呼ばれる事もあるのだけれど、正しくはゼナイド様直属の隠密部隊、ソウルイーターのエゴ。以前君と接触したのは君がとても面白い存在だったからなのだよ」
 第十師団に送られた直後、ジュリは姐御と呼んで慕うタングラムをゼナイドから馬鹿にされ「ばばあ」と呼んで最下層に落とされた事がある。
 戦闘要員として十分に使い物になる人材をたった一言で最下層に落とした事も踏まえ、エゴは酷くジュリに興味を持った。
「ボクは自分にないものを持っている者が好きだ。君はボクの興味を惹くには十分な存在で、君はボクの隣に立つにも十分な存在でもあるのさよ」
「……意味がわからないッス」
「ああ、それで構わない。今はそれで構わないのだよ」
 フッと笑んでエゴの足が止まった。
「ハンターの諸君も足を止めるのだよ。ここから先はエルフハイムの領域。足を踏み入れた直後、術者に君達の存在がばれてしまうのだよ」
 ボクはそれでバレて量産型を仕向けられた。と笑顔で語ったエゴに「絶対わざとだ」と誰かが零す。それを否定も肯定もせずに笑って受け流すと、彼女は白銀の髪を揺らして180度回転した。
 元来た道をじっと見つめて思案すること僅か。少しだけ口角を釣り上げた彼女にジュリが首を傾げる。
「どうしたッスか?」
「……いや。説明せずとも直ぐにわかるのだよ。それよりもハンターの諸君にお願いしたい。エルフハイムの結界を解く手伝いをして欲しいのだよ」
「それならあれッスよ」
 不意に指差された森の中。誰もが目を凝らすが何も見えないその場所をジュリはじっと見詰めている。その様子に目を細め、エゴが何か言おうとした時だ。
「……諸君。結界に踏み込まないよう気を付けて回避行動を取るのだよ。ああ、ボクの攻撃も避けるように」
 言うや否や身の丈以上の大鎌を振り下ろしたエゴにジュリの目が見開かれるのだが、驚くのは早かったようだ。
 森の奥から響く銃声と襲い来る弾丸。一方向からではなく多方面から降り注ぐそれをエゴは的確な動作で叩きとしてゆく。
「……凄いッス」
 素直に感嘆の声を零すジュリ。そしてその声が聞こえたかのように満足そうに笑うエゴだったが、不意に彼女の腕が止まった。
「ああ、やはり来てしまったのだね」
 声と同時に納まった銃撃にエゴの頭が垂れる。
「形ばかりの礼はいりませんわ。それよりも報告を」
「現状を報告するのであれば、突然の敵襲を第十師団師団長自らが一掃してソウルイーターと接触。帰還後にマンゴルト様から熱烈なお叱りを受ける予定……と、こんな感じで良いだろうか?」
「暫く見ない間に無能になりましたのね。わたくしが聞きたいのはエルフハイムの結界の件ですわ」
 今、帝国第十師団師団長と言っただろうか。だとすればこの声の主は――
「ゼナイド様?!」
「一応お忍びですの。もう少し静かにしていただけませんこと?」
 思わず声を上げたジュリに溜息と共にゼナイド(kz0052)が姿を現す。が、その姿を見て再びジュリが声を上げた。
「誰ッスか!?」
 失礼にも程があるが仕方がない。ゼナイドの今の服装は普段の以上に布のある服と大人し目な仮面だ。しかも武器は巨大な剣1本。
 あまりに普通すぎる彼女の服装に驚くジュリを他所に、エゴは手にしていた鎌をそのままに肩を竦めると現状の報告を始めた。
「とは言え、詳細な報告はないのだよ。結界の件はジュリが何とかしてくれそうだからね」
「ジュリが?」
「ふぇ!? あ、姐御からは浄化の楔の話を……その、エルフハイムの結界を解くには浄化の楔を壊せば良いって。あっしはその方法を聞いているだけッス」
「聞いているだけって……あのチンクシャエルフ……こんな重要な情報をこの娘にッ」
 怒りに拳を握り締めたゼナイド。そんな彼女にエゴが囁く。
「ご歓談は後程だ。今の騒動で雑魚が集まって来たのだよ」
「ふん、雑魚の一掃はハンターに任せますわ」
「ではゼナイド様はボクと一緒に結界の守護をお願いするのだよ。敵と味方の双方が結界に入らないようにする監視は必要だ」
「……仕方ありませんわね。言っておきますけど、攻撃も通したら駄目ですわよ。いざとなればその身で護りなさい」
「御意に」
 にっこり笑ったエゴに満足げに頷き返すゼナイド。その2人の遣り取りを見ていたジュリの元に一矢が飛んでくる。それを皮切りに姿を現したのは帝国兵の服を着たナニかだ。
「さあ、ハンター諸君。今ばかりはエルフハイムの偽りの守護者となろう」

リプレイ本文

(双方共に踊らされてる、でもそこに一石を投じる為にエゴさんが動き……私達は巻き込まれたってわけですか、ね?)
 エルフハイム近くの森に潜んだ松瀬 柚子(ka4625)は、そう思案しながら目的を達する為に奥へと進む。
 彼女の目的は敵の位置や数を確認して仲間に伝える事だ。
(また銃声……本当にどれだけの数がいるんだろう)
 エルフハイムの戦い方は気分が悪い。真実が暴けるのであればエゴに手を貸すのも悪くはない。そう思っている。
「見え――……っ、何、これ……」
 思わず口にした声を押える。
 彼女が目にしたのは森に潜む帝国兵の制服を着た存在だ。
 異臭を漂わせ、無心に進軍するその数はザッと見ても10は越えている。彼女に見えている部分だけでこれだけ。
「早く知らせないとっ」
 急ぎ踵を返そうとした柚子の体が傾いた。
 それと同時に、彼女の腕が迅速な矢によって射抜かれ後方に吹き飛ぶ。これを見た烏丸 涼子 (ka5728)が叫んだ。
「松瀬さんッ!!」
 聞こえた声に慌てて苦痛の表情を覗かせる。だがそれ以上にやることがある。
 柚子は近くの木を蹴り上げて後方に飛ぶと無線機を取り出した。
「報告ですよーぅ! 敵の数は見えるだけで12! 位置は全部……――油断大敵、ですよ!」
 柚子は心配そうに視線を注ぐ涼子に笑って見せると、マテリアルのオーラを纏って走り出した。
「松瀬さん、待って!」
 身軽な動作で木々を抜けた彼女は新たな敵を探しに向かってしまった。残された涼子は沈んだ表情で自らの手を握り締める。
「……そうね。止まってる暇はないわ」
 これから始まるのは守る為の戦い。余計な迷いは命取りになる。
 それは柚子の言葉からも明白だった。


 結界の直ぐ傍で防衛の為にアースウォールを設置したミィナ・アレグトーリア(ka0317)は、ジュリの行動に思わず声を上げた。
「何してるのん! ジュリさんには解除に専念して欲しいのん!」
「解除? 今ッスか?」
 聞こえた言葉に思わず目を見開く。その姿に「あぁ」とエゴが呟いた。
「どうやら思い違いをしているようだから訂正しておくのだよ。ジュリの結界解除は歪虚を全て倒した後で行うのだよ」
 エルフハイムの結界は侵入を拒む結界ではない。敵を感知して術者が対応する為の結界だ。だからこそゼナイドとエゴは一矢さえ通さぬ覚悟で結界の前に立った。
「君の壁が他の者にも構築出来て複数形成できたなら良かったのだけれど。まあ、1つでも守りにはなるのだよ」
「そんな……」
 声を失うミィナに鎌を構え直したエゴが言う。
「敵だ」
「!?」
 何が。そう問うよりも先に一矢が飛んできた。
 アースウォールを叩き地面に落ちた矢は、森の奥から飛んできた。しかもそれを追うように敵の姿も見える。
「何で、ここまで……」
『報告ですよーぅ! 敵の数は見えるだけで12! 位置は全部……――油断大敵、ですよ!』
 疑問を解決したトランシーバーからの通信に目を見開く。
 だが驚いている暇はない。目前にまで迫った敵に杖を構えてマテリアルを集約させる。そして前方の敵を見据えると直線を駆ける雷撃を放った。
 時を同じく。この通信を聞いた水流崎トミヲ(ka4852)は、驚きと共に見に迫る危険を感じて飛び退いていた。
 重い体を器用に転がして回避したのは鋭い剣の一撃だ。
「ライトを設置する暇も与えてくれないのかよ! っていうかこの臭い!」
 間近で見ると敵の異常さがありありと分かる。
 服こそ来ているが中身は人間なんかじゃない。異臭を漂わせ、眼球ですら真面に前を向いていない異形、そうこれはゾンビ――剣機系の歪虚だ。
「こんな時に剣機っぽいのがニーハオしてんじゃないよもぉぉぉ!」
 落ちたLEDライトは敵の位置を味方に指示し易いように皆で用意したものだ。その証拠に他の個所でも灯りが見える。だがその数は当初予定していたものより少ない。つまりトミヲ以外も敵に接近された可能性があるという事だ。
「へぇ、やっぱ歪虚か。いやー人間しては結構硬いし油臭いと思ったんだよ」
 火の点いた葉巻を咥えてトミヲの前に立ったリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は、手早く刀を抜き取ると敵の天辺から振り下ろした。
 飛び散る肉片に濃くなる腐臭。目の前で崩れ落ちる敵に一瞥を加え、リカルドは更に奥へと目を移す。
「ウエットワークと言うか裏仕事と言うか、何というか帝国絡みはこういう仕事が多いな、金払いは良い――いや、久々に吹かしてはみたけど、そこまで美味くねえな」
「だよね! そうだよね!!」
 どう考えても割に合わない仕事だ。
 先の量産型浄化の器の時も合わせれば、かなり理不尽な戦況に立たされていると言っても過言ではない。それでも引き受けた以上は全うしなければ。
「前回やりあった様な奴じゃない分、思いっきり叩き込める」
 言うや否や飛び出すリカルドにトミヲも杖を構える。そうしてチラリと後方を見ると、エゴと共に結界に飛んでくる矢を叩き落とすゼナイドの姿が見えた。
(……ゼナイド君が自ら動く事が、重大さを予感させる。まさか浄化術で……帝国に害を為すつもりなのか、エルフハイムは)
 思い至った経由は簡単ではない。
 機導師の使う浄化術が何処から来たのか。その答えは「エルフハイム」。
 時を同じくして増えた器の存在。となればこの2つは連動していると考えて良い。それこそ彼ら――エルフハイムの勝利の為に。
「子供たちを犠牲にして、それで手に入れる勝利になんの意味があるんだ。なんでこんな……っ」
 杖に集めた炎を前方に押し出す。怒りとも悲しともつかない炎は歪虚の侵攻を足止める。それでも数は減らない。
 更に増える気配を見せる敵。これにトミヲは改めて杖を構え直し、敵対の意思を示した。


「ちょーっちマズイかねぇ?」
 無線から聞こえる声は敵の位置を一応は知らせている。設置されたLEDライトも辛うじてだが役目を果たしている。
 だが如何にも敵の数が多い。結果、戦闘区域が広域に渡って補いきれない隙間が出来ているように感じる。
「長期戦になるとおっさんの体力がもつかどうか……」
 当初はこの三つ巴の状況を楽しんでいた鵤(ka3319)だったが、戦況が動くにつれて僅かに声音が変化し始めている。とは言え、零す言葉は余裕を感じさせるものが多く、それを耳にする鞍馬 真(ka5819)は、怪我の為に役に立てない自身を責め過ぎずに済んでいた。
「前方、新手が来るぞ」
「あいよー」
 言いながら目を凝らして見付けたのは弓を引いて狙いを定める存在だ。その後方にも敵らしき姿が見える。
「あの位なら届くかねぇ」
 目算で出した距離。それを脳裏に描いて片腕を前に押し出すと、光の三角形を生み出して飛ばした。3つの光は森を抜け、真っ直ぐに敵と定めた存在に向かう。
「これは見事な腕前ですね」
 感心した声を零したのは照準を合わるべくライフルを構えた音桐 奏(ka2951)だ。彼は視界に映る歪虚の内、2体が頭を貫かれて倒れたのを目撃していた。
 ある程度離れた距離で頭を狙うのは至難の業だ。それはこうして銃を扱う彼だからこそ良くわかる。
「徐々に灯りが増えてきましたね。これならそろそろ……」
 直感視で捉えた灯りは味方が灯したLEDライトだ。番号を振り分けて設置したそれは今後の戦況を左右する大事なもの。
 当初の予定では初めから使用する予定だったが、初動を向こうに取られた事で上手く機能させる事が出来なかった。だが戦いが進み、灯りが増えた今なら。
「光源2番付近に敵が集中。5番に弓兵在り――」
 次々と無線を通じて情報を提供してゆく奏。そしてこの流れを結界傍で見ていたエゴは「ふむ」と零し、微かに笑んだ。


 崩れては作られる土壁。それを再構築したミィナは、疲労の色濃く息を吐き出して頬を伝う血を服の袖で拭った。
「……っ、まだ来るのん?」
 ジュリも応戦してくれているが、何故か彼女の周りにばかり敵が来る。
 その結果、擦り傷だけでなく深い傷も負ってしまった。
「誰かが来てくれるまで……それまで、頑張るんよ!」
 救援は要請してある。あとは彼女が言ったように誰かが来るまで持ち堪えればいい。そう意気込んだ彼女の元に、最大の危機が訪れた。
「――」
 槍を手に突き進む歪虚が2体。後方には弓兵の姿も見える。
 矢を射る動きに合わせて突進してきた敵は結界に飛び込もうと突っ込んでくる。それに彼女の足が飛んだ。
 体当たりをして敵1体を吹き飛ばしたのだ。だが残り2体は結界へ迫っている。
「ヴォイドさんは通っちゃダメなんよー!」
 敵を下敷きしたまま杖を掲げたが、胴に鋭い痛みが走った。それが敵の突いた槍だと気付いたが狙いは揺るがない。
「止まっ、ぅ……ッ」
 放った氷の嵐が2体の歪虚の動きを止める。
 しかし貫いた槍は消えない。痛みに目の前が真っ白になるが、頑張って振り払おうと腕を動かしたその時だ。
「よく頑張ったな」
 葉巻を吐き捨ててミィナを刺す敵を斬り払ったリカルドは、彼女を引っ張って自身の後方にやった。その上で足元に転がる敵を蹴り上げ、左右に刃を握って地を蹴る。
「やっぱり良いな。前回やりあった様な奴じゃない分、思いっきり叩き込める。慣れているとは言え、やっぱり子供型を殺るのは精神に来るからね、こういうタイプは楽でいいや」
 獣のように喰らい付いた胴を引き裂き、腐臭を舞わせて地に落とす。そして2体目に喰らい付いたところで別方向から銃弾が飛んできた。
「……まだ居たか」
 何度目の攻撃だろう。リカルドが銃弾や矢を受けるのはコレが初めてではない。既に彼もボロボロ。これ以上戦闘が続けば倒れる可能性すらある。
 それでも喰らい付いた敵を切り裂いて次に狙いを定める。その姿に後方で息を切らせていたミィナも立ち上がった。
「まだ大丈夫なのん」
「別に良いが、俺より前に出るなよ」
 そう言うとリカルドは自信を射った敵目掛けて走り出した。


「こっちですよッ! 私を見ろぉッ!!」
 腕を垂らして血臭を放ちながら駆けまわる柚子。
 敵の背後や側面から攻撃を仕掛け、自身に向かうよう仕向け続ける彼女の身体もボロボロだ。
(あともう少し……もう少し倒せば終わる)
 地面を蹴り、木を蹴って背面を取るべく動く。しかし、踏み出した足が木の皮に取られて滑った。
 突然引っくり返った視界に判断が追い付かない。そして地面に転がり落ちる瞬間、彼女が今まで攻撃し続けていた敵の攻撃が迫った。
 鮮血が舞い、頬が汚れる。脚から響く衝撃と、抉るような動き。そこまで来て、自分がどれだけ酷い傷を負わされているのか気付いた。
「――」
「彼女から離れて!」
 視界に飛び込んで来たのは闇色の髪――
(烏丸さん……?)
 彼女は柚子を発見するや否や、即座に構えて敵の間合いに飛び込むと凄まじい勢いで爪を叩き込んだ。
「はぁああっ! せいっ!」
 吹き飛ばされる形で沈んだ敵。それを見止めて息を吐いた涼子が柚子を振り返る。その表情は蒼白と言っても過言ではない。
「貴女を救助できる距離を保っているつもりだったけど、間に合わなかったわね……」
 涼子はそう言うと柚子の身体を優しく抱き上げた。


「はあ、はあ、はあ……」
 深手を負っている体に長期戦は厳しすぎた。
 敵の数は当初の報告からかなり増えた。きっと20を下らない敵がここに押し寄せていたのだろう。それだけ相手が本気で結界を越えようとしていたのだろうが、それと同じく彼の仲間も本気だった。
「……音が、減ってる……もう、少し、か……」
 牽制や誘導の為に携帯していた拳銃。それを握り締めて周囲を見回す。
 はじめこそ木の上にいたが、奏が状況を把握してからは出来る限り敵を誘導するよう動くように方向返還した。結果、予定よりも怪我を負ってしまったが致し方ない。
「行こう……」
 駆け出し、仲間の元を目指す。が、一瞬にして足元が掬われた。
 前転の如く地面を転がり、背中を木に強打して動きを止める。そうして目を開いて見止めたのは槍を手にする歪虚だ。
「っ、たく……こっち、だ……!」
 立ち上がった瞬間に転びそうになるが必死に堪え走り出した。
 向かうのは仲間がいる場所だ。そして居場所を知らせるように拳銃を放つと、奏の耳がそれを捉えた。
「光源7番で応戦中。援護をお願いします」
 無線に声を飛ばしてライフルを構える。視線は銃声が聞こえた先。ライトの灯りの位置からして真がいる場所だ。
(遠いですね。もう少し)
 高加速射撃を使用してもギリギリ届くか如何かと言ったところか。もう少し近付かなければ弾が届く可能性は低い。そう思案している彼の視界を何かが過った。
「そのまま動かないで」
 頬を焼くような炎に「成程」と目を瞬く。そうして意識を集中させると、一瞬の隙を突いて引き金を引いた。
「当たったみたいだね」
 良かった。そう零したのは他の皆同様に傷を負うトミヲだ。
 彼は焼いたばかりの歪虚に視線を向けると、今まで自分がいた場所に視線を注ぐ。
「あれは……」
「あ、ボクも手伝うから、零れたらよろしくね!」
 遠くに見えるのは鵤だ。彼は敵が進軍してきている奥に向けて腕を掲げ、トミヲもそんな彼に習って杖を構えている。
「おっさんこれでラストなんで、よろしく」
 鵤を起点に扇状に放たれた炎。広範囲に渡って広がってゆく炎にトミヲが息を吸う。そして自らも集めたマテリアルを開放すると紫の光を伴う重力波を放った。
 炎を吸うように収束してゆく光。
 大きく揺れる木々にゼナイドが僅かに眉を寄せたが、これが戦い終結への決め手となった。
 崩れ落ちた歪虚と静まり返った森。結界の前でエゴとゼナイドが武器を下ろしたことが、何よりの証拠だった。


 柚子の止血を行っていたミィナと、結界解除に動き始めたジュリ。それらを視界に留めながら、奏はゼナイドに質問した。
「こちらにいらっしゃった真意を聞かせていただけますか?」
「真意? そんなものありませんわ。来たかったから来た。それだけですわよ」
 サラリと髪を掻き流して答えたゼナイドは、解除に成功したというジュリに頷きを反す。そして傍でエゴに土下座するトミヲの提案である「ぱっと見で元通りに見えるようにしておく」よう指示をした。
「――で、なんなのかな、それは?」
「スミマセンでしたぁ!!」
 頭を地面に擦り付けて謝罪するトミヲにエゴは何処か楽しそうだ。
「子供達のことで動転してたんだ。君は、正しかった。悪い言葉を投げて、ゴメン……!」
「さて、何の事だろう。ボクには覚えがないのだけれど……その姿勢、踏んで良いってことかな?」
「いや、ダメだろ」
 思わず呟いたリカルドに、エゴは「そうかい?」と首を傾げ結界を振り返った。
「まあ良いか。それよりも、ここからが本番なのだよ。さあ、行こう。エルフハイムの中へ」

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MVP一覧

重体一覧

  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子ka4625

参加者一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 志の黒
    音桐 奏(ka2951
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子(ka4625
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

  • 烏丸 涼子 (ka5728
    人間(蒼)|26才|女性|格闘士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 第十師団長への質問所
音桐 奏(ka2951
人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/11/15 23:49:57
アイコン 作戦相談所
音桐 奏(ka2951
人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/11/17 03:54:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/13 00:28:37