ゲスト
(ka0000)
ドラゴンとお散歩
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/11/23 22:00
- 完成日
- 2016/11/29 15:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ドラゴン。
勇壮な姿に強大な力。
長い時を生き、知性を得、精霊に至ると言われる幻獣の中の幻獣は、古くからあまたの人々に神聖視されてきた。
そのためこれまた古くから支配階級が、自己の権威づけに利用してきた。剣、および魔法による討伐という形で、
しかし世が進んでくるに従いドラゴン退治は、徐々に下火になっていった。いろいろ理由は考えられるが、まず第一に、武功だけで尊敬されることがなくなったからだろう。
といって、ドラゴンを権威づけに利用する風が止んだわけではない。
その文化はしっかり継承されている。『飼育』という穏便な形で。
●
「待て待て待てストップ、ストップ、ストーップううう!!」
ハーネスを持つカチャが叫ぶ。
ポニーほどの大きさがあるドラゴンは一向気にせず驀進する。飛び込み台を蹴って、プールの中へ躍り込む。
悲鳴と一緒に、ばっしゃあああんと高い水柱が上がる。
優雅な東屋でそれを見ている優雅な中年夫婦は優雅に茶を飲み優雅なほほ笑みを交わしあう。
「あらあら、あんなにはしゃいじゃって」
「外へ散歩に行けるのがよっぽどうれしいんだなあ」
彼らの背後にはカチャと同じくドラゴンに引きずり回され、悲鳴を上げるハンターたちの姿。
あるものは思い切り体当たりされ、あるものは巨大な顎で甘噛みされ、あるものは尻尾の連打を受け……しかしドラゴンたちに害意があるわけではない。単にじゃれているだけなのだ。一般人が巻き込まれたら命の危険もあるじゃれ方ではあるが。
このドラゴンたちは皆卵の時に捕獲され、ペットとして飼われている個体である。
仮にもドラゴンを飼うことなんて出来るのかと言われれば、出来ると答えよう。十分な強度の檻と大量の餌と好きに動き回れるだけの敷地があれば。そして、大勢の屈強な飼育係がいれば。
そんな条件を揃えることが可能なのかと言われれば、可能なのだと答えよう。金持ちに出来ないことなどこの世には、ごく僅かしか存在しないのだ。
しかしドラゴンはどこまでも大きくなる。いつか養い切れなくなる。その時は?
心配無用、野生に返してしまえばいいのである。
無責任だと言われれば、そうかもしれないと答えよう。飼っている当人たちが、『野生の状態で孵化したドラゴンは、その大半が餌が取れなかったり、あるいは他の動物の餌になったりして、死んでいるのだ。たいていの獣に負けないほどの体格に育ててから野に放つほうが、親切というものではあるまいか?』と言い出すことを承知の上で。
閑話休題。
とにもかくにもドラゴンは子供といえども強大だ。普通の人間が気軽に扱える代物ではない。
まして設備の整った飼育施設内から出し、外出させるとなると……これはもう、ハンターにしかやり通せない仕事である。
リプレイ本文
● 初めまして
ドラゴンは9匹。全てに体の色と同じ名前がついている。
レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、インディゴ、バイオレット、ホワイト、ブラック。まるで絵の具箱のような賑わい。
柄永 和沙(ka6481)は目の前にいるバイオレットに、レトリーバーの姿を重ねる。
(……ジローを思い出すなぁ。アイツも小っちゃい頃は全然言う事聞かなかったっけ……)
今も実家にいるはずだが、元気だろうか。そんなことを思いながら手を差し出す。
バイオレットは匂いを嗅ぎ嘗めた。ばたんばたん尻尾を振った。
和沙は続けて、背中を優しく撫でてやる。
「今日はよろしくね。広い場所に連れて行ってあげるからたくさん遊ぼうね」
チマキマル(ka4372)は、ちょっとがっかり。お目当てにしていたスケルトンドラゴンがいなかったので。
とはいえ、担当となったブラックも悪くない。9匹の中では、最もお行儀がいい。自分のことを怖がらない。撫でても威嚇したりしない。
動物好きなのに動物との相性が悪い彼としては、そこが一番うれしい。
「やはり私みたいに食べ物の名前がいいよな……カズノコマル……カマボコマル……よし、今日だけお前はダテマキマルだ」
アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)の担当はグリーン。
「鱗ぴかぴか、ラッカー塗りたてみたいにゃん、グリーンちゃん」
と言いながら手を伸ばし、撫で撫で。
グリーンはコブ角の生えた頭でルシフィールを突いた。攻撃――ではない。ルシフィールが角の際を撫でてやったら落ち着いたので。単に、ここも掻けと言っていただけだ。
経過を見守っていた天竜寺 舞(ka0377)は安堵し、担当するホワイトに向き直った。
「じゃあ、今日はよろしく!」
続けてチマキマル同様、今思いついた名前で呼ぶ。
「ドラ五郎おいで! よーしよしよし、よーしよしよし!」
もみくちゃにされて、ホワイトことドラ五郎はうれしそう。人の腕以上の太さがある尻尾をびゅんびゅん振る。
「ははは、こいつ~♪」
華麗に連打を避けまくる舞。
それを見つめるのは羊谷 めい(ka0669)。
(あんな風に暴れだしたらどうしましょう……)
不安げに担当のオレンジを見上げると、気のせいかほかのドラゴンより間延び――もといのんびりした顔。
(……子どものドラゴンさんだし、そんなに、こわくないです、ね。ちょっと、かわいい……です)
ひとまず声かけ。後にボディタッチ。
「え、えと、はじめまして、オレンジ、さん」
フーン、と暖かい鼻息。
嫌がってないみたいなので、そのまま撫でてみる。
座布団みたいな舌が出てきて、顔をべーろべろ。
レナード=クーク(ka6613)は皆の行動を参考に、インディゴと向かい合う。
「ドラゴンさんとお散歩なんて、初めてやわぁ。今日は一緒に、思いっ切り楽しむやんね! なあ、インディゴ!」
声をかけてから(やっぱりちょっと怖いので)そーっと頭を撫でる。
インディゴが後足で立った。
前足をレナードの胸目がけてどーん。
「わわ!?」
よろめくところ追いかけてさらにどん。どんどんどん。
「う゛っ。ちょ。ぐえっ」
どうも、遊べと言いたいらしい。
「や、やっぱり凄く元気な子なんやなぁ。でもちょっと落ちついぐふっ」
ジルボ(ka1732)の担当であるブルーは尻尾を右に左に。前足を地面につけ尻を上げ構えの姿勢。見るからにうずうずが止まらない様子。
(この図体で子供……もう嫌な予感しかしねえな)
先刻プールからはい上がってきたカチャが、新しいジャージに着替え戻ってきた。
また落とされるのは御免だと思っているのか、プールから離れたところで担当のレッドを呼ぶ。
「レッド、出てきなさい! 今からお散歩に行きますよ!」
ばしゃばしゃやっていたレッドがプールから出てきた。
一目散にカチャのところへ行き、たてがみを揺らしてブルブルブル。
「なんでこっちに来て水切りするんですかー!」
怒るカチャ。
そこにリナリス・リーカノア(ka5126)が、担当のイエローを引き連れ登場。
「今回も一緒だねー♪」
抱き着いてくる相手に、諦め気味な眼差しを向けるカチャ。
「そうみたいですね……さっきから姿が見えませんでしたけど、どこに行ってたんですか?」
「ああ、飼育係の人達と話してたの。世話をするんだったらさ、やっぱり普段から接してる人から色々聞いておいた方がいいじゃない。とりあえずー……」
と言いながらリナリスは、イエローの喉下に手を入れる。途端にイエロー、リナリスの腕をガブリ。
「……ここ急に触るのはNGね。びっくりしちゃうみたいだよ」
「あのー、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。ママに鋼鉄の処女に入れられるのに比べれば全然♪ あ、そうそう、カチャの担当してるレッドについて、とても参考になりそうな情報を得たよ」
「えっ、本当ですか? 何ですかそれは! 教えてください!」
「うん、いいよ。レッドはね、水遊びがすごく好きなんだって♪」
「それもう知ってます」
● お散歩
皆で固まって行くと場所を取るし、ドラゴン同士のハーネスが絡まりそう。
かといって一人一人離れていると突発事態に対処しづらそう。
というわけでハンターたちは、4つの組に分かれた。お互いの距離を取りながら、目的地に向かうこととする。
しかしそれでも物事スムーズにはいかない。
「止まれストップ停止タンマフリーズんぎゃーっ!」
レッドが道をそれ、カチャごといばらの茂みに突っ込んだ。
それを追おうとするブルーをジルボは、全身の筋力を総動員して押さえる。
「ブルー待て! 違う違う、馬鹿そっちじゃねえええええ!」
リナリスはハーネスを手に巻いて短くし、イエローに密着。尻尾の付け根付近をくすぐるように撫でさする。
「落ち着いて、落ち着いてー……気持ちイイでしょ?」
ぐいぐいハーネスを引っ張っていたイエローが静かになった。うっとり目を細め体をゆらゆらさせる。
さすが拷問官の娘、早くも相手の『ツボ』を探り当てたようだ。
――そんな騒がしい一行の後方には、チマキマル、和沙の組。
騒動に浮足立ちそうなバイオレットを牽制するため、和沙は、ハーネスを思いっきり引っ張った。
「こら、走らないよ。まだ遊んでいい場所じゃないからね」
と叱ってから、付け加える。
「野原に着いたら、思い切り走らせてあげるから」
チマキマルもブラックを落ち着かせるため、色々なものを見せ、注意を引く。
「ダテマキマル、これがカマキリだ。季節柄死んでいる――そしてこれがカタツムリ――季節柄冬眠中」
――そこからさらに離れて後方。
「うう~ん……」
めいは困っていた。オレンジが道の端に寄り、動かなくなってしまったので。
前を歩いていたレナードが、インディゴの前足どつき攻撃を受けながら引き返してくる。
「メイちゃん、どないしたん?」
「それが、よく分からないんです……」
おやつをあげたら動いてくれるだろうか。そう思い懐から、ナッツを取り出しかけるめい。
その時オレンジが翼を一杯に広げ伸びをした。
と、妙な匂いが。
「……うんちでしたか」
「こらまたでかいなー」
そこに最後の組、ルシフィル&グリーンと舞&ホワイトが追いついてきた。
「今日はいい天気にゃぁ。お空、きれいなの♪」
「ははは、元気だなあホワイトは……あれ、二人ともどうしたの?」
「それが、オレンジが大きい方やってもうてー」
「あ、本当にゃ。でも心配いらないにゃ。あたし、おっきなゴミ袋持って来てるにゃ♪」
はるか前方から、ジルボの叫び声。
「だあっ! ブルー、道のど真ん中でやらかすなー!」
● 野原
広い場所に来たバイオレットは体をぶるぶるっと震わせ、待ってましたとばかり走りだす。
和沙もそれについて走りだす。
「こう見えて元陸部だから走りには自信あるんだぞー」
ブラックとチマキマルも、走る。レナードのインディゴも、つられて猛ダッシュ。
「……んえっ!? まま、待ってドラゴンさんストップ! いやストップはせえへんでも良い、けど……! けど! あんまり速すぎると、目が回ってしまってあかんで……!!」
ジルボは先端を布に包んだ鏃を使い、取ってこい遊びをやることにした。これなら自分は動かずにすむと思って。
「ほーら、とってこーい」
だが彼の認識は甘かった。
ブルーは鏃を追い越し爆走。そのまま戻ってこない。
「えっ!? おい、待て、止まれー!」
ハーネスを放したことを激しく後悔し、追うジルボ。ブルーは追いかけっこを存分に楽しむ。彼がよれよれになるまで。
ドラゴンが駆け回ることでいたるところに生えている草の穂から、白い綿毛が飛び散る。
めいのオレンジは飛んできた綿毛にパクリと噛み付いた。手ごたえがないことを訝しがって、長い首を曲げる。
舞のホワイトは翼をばたつかせ、花あぶを追いかける。何かが飛んでいる姿は、彼らの『飛ぶ』という本能を刺激するものらしい。
(……いい機会だから、一度はドラゴンに乗ってみたいな)
ハーネスをしっかり握り併走していた舞は、ホワイトが花あぶを見失い、足を止めるのを待った。
背中を何度も撫で落ち着かせてから、ひょいと跨がってみる。馬に乗るときのように、どうどうどう、と首をさすりながら。
首を後ろに回し、舞を見るホワイト。
舞は彼の鼻面を軽く叩き、意気揚々ハーネスを引いた。
「ハイヨーシルバー!」
その途端ホワイトが後足で立ち上がり、仰向けに倒れた。
転落した上下敷きにされた舞は、古典的な悲鳴を上げる。
「ギャフン!」
しかしそこはハンター、普通人とは鍛え方が違う。すぐ起き上がる。ニヤリと笑う余裕も見せる。
「このじゃじゃ馬め」
そこにルシフィールが、グリーンを連れてやってきた。
「マイちゃん、大丈夫にゃ~?」
「あ、大丈夫大丈夫。このくらいは想定内だよ――おっ、すごいねグリーン。リフティング?」
「うん。毬を投げて遊んであげてたら、自然とこれを覚えたにゃん」
器用に鼻で手鞠を弄ぶグリーンに、ルシフィールは鼻高々。
そこでホワイトが――自分も遊んでみたいと思ったか――グリーンの毬を横から、さっと咥え取った。
グリーンが怒りホワイトの前足をがぶり。ホワイトが逆襲でグリーンの耳をがぶり。たちまち始まる大乱闘。
「ふにゃ! グリーン、駄目にゃ! ドラ五郎ちゃんから離れるにゃ!」
グリーンを押さえにかかるものの押さえ切れず、振り回されるルシフィール。
力技は、やはり舞の専売特許。
「こらドラ五郎!」
2匹引き剥がしたところで大見えを切り、怖い顔で双方に。
「めっ!」
ところで草原には川が流れている。その先に、紅葉も盛りの木々に囲まれた大きな池がある。
池のほとりではハーネスの先を木の幹に繋がれたレッドとイエローが、ギャアギャア騒いでいる。
その傍らに、カチャとリナリス。
「びしょ濡れになるんだし服濡らさない様に水着に着替えよ♪ ねーカチャ♪」
スクール水着を差し出されたカチャは、即座に言った。
「今11月ですよ?」
「それもう知ってる」
事もなげに返すリナリスは白のマイクロビキニ。鳥肌が立ちそうないで立ちだ。
「いやいやいや知ってるなら分かるでしょ!? 寒いでしょ!?」
「寒さ? 冬に裸で締めだされるのに比べたら♪ さあ、着替えよっ!」
言うなりリナリスはカチャを茂みに引きずり込み以下略。
● 休憩~帰還
和沙とチマキマルは、ドラゴンを川に連れてきた。
2匹とも走り回って喉が渇いていたのだろう、ごくごく水を飲む。
それが落ち着いてからチマキマルは川床の石をめくり、ブラックに講釈を垂れる。
「ダテマキマル、これがカニだ」
ハーネスを握り近くの石に腰掛ける和沙は、ふと想い人について考えた。
「……一緒に来れたら楽しかったろうなぁ」
呟きバイオレットの背を撫でたところ、池の方角から騒ぎの音。
チマキマルと顔を見合わせそちらへ向かってみれば、カチャとリナリスとドラゴンたちが寒中水泳をしていた。
「さむいっ! さーむーい!」
「大丈夫、色んなところを揉めばあったかくなるよ!」
「ふぎゃああ!」
そこに、めいとレナードがやってきた。
「ひゃー、元気やなあ」
インディゴは水を飲み始めたが、オレンジは違う。水遊びに参加したい組。
「えと、わたしは水浴びはしなくて、大丈夫ですよ……? ひええ、ひっぱられたら、ころんじゃいますようっ」
寒中水泳にもう一人追加。
続けてブルーと、それにさんざ駆けまわらされたジルボが来た。
「いや、休憩の時ぐらいゆっくりさせてくれ……おっ?」
肌も露に冷水と戯れる娘たちの姿を見て、ちょっと元気が出るジルボ。もうひと遊びしてやるかと靴を脱ぎ、グリーンと浅瀬に入る。
舞とルシフィールが最後に来た。舞は龍笛、ルシフィールはオカリナを吹いている。
ドラゴンたちは耳をひくひくさせ、聞き入る。大人しく水辺に降りてきて、ごくごく水を飲む。
ルシフィールは持ってきた手ぬぐいを水に浸して絞り、グリーンの体を拭いてやった。
舞も彼女から手ぬぐいを一枚借りて、体をこすってやる。
一通りそれが終わったところで岸辺に引き上げ。
河原にフンを集めて始末。
「汚物は消毒だー♪」
湖畔に漏られた袋に向けてリナリスが、ファィアーボールを炸裂。
廃棄物処理しながら焚き火。一石二鳥。
「ついでにお芋焼くってどうかな、カチャ?」
「止めてください食べる気になれません」
さて、おやつ。人にはナッツとクッキー、パン。ドラゴンたちにはローストチキンと干し肉。
「はい、どうぞ♪」
等分にしたため行き渡る量は少なかったが、ドラゴンは特に不満そうではなかった。
ジルボはハーモニカを取り出し子守歌を奏で、ブルーの体を撫でてやる。
「……ガキの頃、竜使いの御伽話をよく聞かされたな」
さて、日が傾く前に帰らなければ。
レナードは名残惜しげに、インディゴの体を叩く。
「いつか大きくなったら、また何処かで会えるとええねぇ」
めいもほお擦り。
「大変でした……でも楽しかった、です。えへへ……」
和沙はバイオレットのたてがみに、野原で見つけた野菊を刺してやった。
「今日はありがとう。また機会があったら遊ぼうね。次はもっといい場所を探しておくから、楽しみにしててね」
チマキマルはブラックに、記念品の贈呈。
「ああ、そうだ。これを……」
彼が金色の腕輪を出したとたん、ドラゴン全員の目つきが変わった。
「「「ウガアーッ!」」」
腕輪へ一斉に殺到し、大ゲンカ勃発。
光り物収集独占の本能は、何よりも強いものだった。
ハンターたちは事態の収拾に、さんざ苦労した。
● 後日
自由都市同盟に有力者から、ドラゴンたちの写真を添えた提案があった。
『うちの子たちを同盟のマスコットにどうだろう』という。
同盟は、前向きに検討中との返答である。
ドラゴンは9匹。全てに体の色と同じ名前がついている。
レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、インディゴ、バイオレット、ホワイト、ブラック。まるで絵の具箱のような賑わい。
柄永 和沙(ka6481)は目の前にいるバイオレットに、レトリーバーの姿を重ねる。
(……ジローを思い出すなぁ。アイツも小っちゃい頃は全然言う事聞かなかったっけ……)
今も実家にいるはずだが、元気だろうか。そんなことを思いながら手を差し出す。
バイオレットは匂いを嗅ぎ嘗めた。ばたんばたん尻尾を振った。
和沙は続けて、背中を優しく撫でてやる。
「今日はよろしくね。広い場所に連れて行ってあげるからたくさん遊ぼうね」
チマキマル(ka4372)は、ちょっとがっかり。お目当てにしていたスケルトンドラゴンがいなかったので。
とはいえ、担当となったブラックも悪くない。9匹の中では、最もお行儀がいい。自分のことを怖がらない。撫でても威嚇したりしない。
動物好きなのに動物との相性が悪い彼としては、そこが一番うれしい。
「やはり私みたいに食べ物の名前がいいよな……カズノコマル……カマボコマル……よし、今日だけお前はダテマキマルだ」
アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)の担当はグリーン。
「鱗ぴかぴか、ラッカー塗りたてみたいにゃん、グリーンちゃん」
と言いながら手を伸ばし、撫で撫で。
グリーンはコブ角の生えた頭でルシフィールを突いた。攻撃――ではない。ルシフィールが角の際を撫でてやったら落ち着いたので。単に、ここも掻けと言っていただけだ。
経過を見守っていた天竜寺 舞(ka0377)は安堵し、担当するホワイトに向き直った。
「じゃあ、今日はよろしく!」
続けてチマキマル同様、今思いついた名前で呼ぶ。
「ドラ五郎おいで! よーしよしよし、よーしよしよし!」
もみくちゃにされて、ホワイトことドラ五郎はうれしそう。人の腕以上の太さがある尻尾をびゅんびゅん振る。
「ははは、こいつ~♪」
華麗に連打を避けまくる舞。
それを見つめるのは羊谷 めい(ka0669)。
(あんな風に暴れだしたらどうしましょう……)
不安げに担当のオレンジを見上げると、気のせいかほかのドラゴンより間延び――もといのんびりした顔。
(……子どものドラゴンさんだし、そんなに、こわくないです、ね。ちょっと、かわいい……です)
ひとまず声かけ。後にボディタッチ。
「え、えと、はじめまして、オレンジ、さん」
フーン、と暖かい鼻息。
嫌がってないみたいなので、そのまま撫でてみる。
座布団みたいな舌が出てきて、顔をべーろべろ。
レナード=クーク(ka6613)は皆の行動を参考に、インディゴと向かい合う。
「ドラゴンさんとお散歩なんて、初めてやわぁ。今日は一緒に、思いっ切り楽しむやんね! なあ、インディゴ!」
声をかけてから(やっぱりちょっと怖いので)そーっと頭を撫でる。
インディゴが後足で立った。
前足をレナードの胸目がけてどーん。
「わわ!?」
よろめくところ追いかけてさらにどん。どんどんどん。
「う゛っ。ちょ。ぐえっ」
どうも、遊べと言いたいらしい。
「や、やっぱり凄く元気な子なんやなぁ。でもちょっと落ちついぐふっ」
ジルボ(ka1732)の担当であるブルーは尻尾を右に左に。前足を地面につけ尻を上げ構えの姿勢。見るからにうずうずが止まらない様子。
(この図体で子供……もう嫌な予感しかしねえな)
先刻プールからはい上がってきたカチャが、新しいジャージに着替え戻ってきた。
また落とされるのは御免だと思っているのか、プールから離れたところで担当のレッドを呼ぶ。
「レッド、出てきなさい! 今からお散歩に行きますよ!」
ばしゃばしゃやっていたレッドがプールから出てきた。
一目散にカチャのところへ行き、たてがみを揺らしてブルブルブル。
「なんでこっちに来て水切りするんですかー!」
怒るカチャ。
そこにリナリス・リーカノア(ka5126)が、担当のイエローを引き連れ登場。
「今回も一緒だねー♪」
抱き着いてくる相手に、諦め気味な眼差しを向けるカチャ。
「そうみたいですね……さっきから姿が見えませんでしたけど、どこに行ってたんですか?」
「ああ、飼育係の人達と話してたの。世話をするんだったらさ、やっぱり普段から接してる人から色々聞いておいた方がいいじゃない。とりあえずー……」
と言いながらリナリスは、イエローの喉下に手を入れる。途端にイエロー、リナリスの腕をガブリ。
「……ここ急に触るのはNGね。びっくりしちゃうみたいだよ」
「あのー、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。ママに鋼鉄の処女に入れられるのに比べれば全然♪ あ、そうそう、カチャの担当してるレッドについて、とても参考になりそうな情報を得たよ」
「えっ、本当ですか? 何ですかそれは! 教えてください!」
「うん、いいよ。レッドはね、水遊びがすごく好きなんだって♪」
「それもう知ってます」
● お散歩
皆で固まって行くと場所を取るし、ドラゴン同士のハーネスが絡まりそう。
かといって一人一人離れていると突発事態に対処しづらそう。
というわけでハンターたちは、4つの組に分かれた。お互いの距離を取りながら、目的地に向かうこととする。
しかしそれでも物事スムーズにはいかない。
「止まれストップ停止タンマフリーズんぎゃーっ!」
レッドが道をそれ、カチャごといばらの茂みに突っ込んだ。
それを追おうとするブルーをジルボは、全身の筋力を総動員して押さえる。
「ブルー待て! 違う違う、馬鹿そっちじゃねえええええ!」
リナリスはハーネスを手に巻いて短くし、イエローに密着。尻尾の付け根付近をくすぐるように撫でさする。
「落ち着いて、落ち着いてー……気持ちイイでしょ?」
ぐいぐいハーネスを引っ張っていたイエローが静かになった。うっとり目を細め体をゆらゆらさせる。
さすが拷問官の娘、早くも相手の『ツボ』を探り当てたようだ。
――そんな騒がしい一行の後方には、チマキマル、和沙の組。
騒動に浮足立ちそうなバイオレットを牽制するため、和沙は、ハーネスを思いっきり引っ張った。
「こら、走らないよ。まだ遊んでいい場所じゃないからね」
と叱ってから、付け加える。
「野原に着いたら、思い切り走らせてあげるから」
チマキマルもブラックを落ち着かせるため、色々なものを見せ、注意を引く。
「ダテマキマル、これがカマキリだ。季節柄死んでいる――そしてこれがカタツムリ――季節柄冬眠中」
――そこからさらに離れて後方。
「うう~ん……」
めいは困っていた。オレンジが道の端に寄り、動かなくなってしまったので。
前を歩いていたレナードが、インディゴの前足どつき攻撃を受けながら引き返してくる。
「メイちゃん、どないしたん?」
「それが、よく分からないんです……」
おやつをあげたら動いてくれるだろうか。そう思い懐から、ナッツを取り出しかけるめい。
その時オレンジが翼を一杯に広げ伸びをした。
と、妙な匂いが。
「……うんちでしたか」
「こらまたでかいなー」
そこに最後の組、ルシフィル&グリーンと舞&ホワイトが追いついてきた。
「今日はいい天気にゃぁ。お空、きれいなの♪」
「ははは、元気だなあホワイトは……あれ、二人ともどうしたの?」
「それが、オレンジが大きい方やってもうてー」
「あ、本当にゃ。でも心配いらないにゃ。あたし、おっきなゴミ袋持って来てるにゃ♪」
はるか前方から、ジルボの叫び声。
「だあっ! ブルー、道のど真ん中でやらかすなー!」
● 野原
広い場所に来たバイオレットは体をぶるぶるっと震わせ、待ってましたとばかり走りだす。
和沙もそれについて走りだす。
「こう見えて元陸部だから走りには自信あるんだぞー」
ブラックとチマキマルも、走る。レナードのインディゴも、つられて猛ダッシュ。
「……んえっ!? まま、待ってドラゴンさんストップ! いやストップはせえへんでも良い、けど……! けど! あんまり速すぎると、目が回ってしまってあかんで……!!」
ジルボは先端を布に包んだ鏃を使い、取ってこい遊びをやることにした。これなら自分は動かずにすむと思って。
「ほーら、とってこーい」
だが彼の認識は甘かった。
ブルーは鏃を追い越し爆走。そのまま戻ってこない。
「えっ!? おい、待て、止まれー!」
ハーネスを放したことを激しく後悔し、追うジルボ。ブルーは追いかけっこを存分に楽しむ。彼がよれよれになるまで。
ドラゴンが駆け回ることでいたるところに生えている草の穂から、白い綿毛が飛び散る。
めいのオレンジは飛んできた綿毛にパクリと噛み付いた。手ごたえがないことを訝しがって、長い首を曲げる。
舞のホワイトは翼をばたつかせ、花あぶを追いかける。何かが飛んでいる姿は、彼らの『飛ぶ』という本能を刺激するものらしい。
(……いい機会だから、一度はドラゴンに乗ってみたいな)
ハーネスをしっかり握り併走していた舞は、ホワイトが花あぶを見失い、足を止めるのを待った。
背中を何度も撫で落ち着かせてから、ひょいと跨がってみる。馬に乗るときのように、どうどうどう、と首をさすりながら。
首を後ろに回し、舞を見るホワイト。
舞は彼の鼻面を軽く叩き、意気揚々ハーネスを引いた。
「ハイヨーシルバー!」
その途端ホワイトが後足で立ち上がり、仰向けに倒れた。
転落した上下敷きにされた舞は、古典的な悲鳴を上げる。
「ギャフン!」
しかしそこはハンター、普通人とは鍛え方が違う。すぐ起き上がる。ニヤリと笑う余裕も見せる。
「このじゃじゃ馬め」
そこにルシフィールが、グリーンを連れてやってきた。
「マイちゃん、大丈夫にゃ~?」
「あ、大丈夫大丈夫。このくらいは想定内だよ――おっ、すごいねグリーン。リフティング?」
「うん。毬を投げて遊んであげてたら、自然とこれを覚えたにゃん」
器用に鼻で手鞠を弄ぶグリーンに、ルシフィールは鼻高々。
そこでホワイトが――自分も遊んでみたいと思ったか――グリーンの毬を横から、さっと咥え取った。
グリーンが怒りホワイトの前足をがぶり。ホワイトが逆襲でグリーンの耳をがぶり。たちまち始まる大乱闘。
「ふにゃ! グリーン、駄目にゃ! ドラ五郎ちゃんから離れるにゃ!」
グリーンを押さえにかかるものの押さえ切れず、振り回されるルシフィール。
力技は、やはり舞の専売特許。
「こらドラ五郎!」
2匹引き剥がしたところで大見えを切り、怖い顔で双方に。
「めっ!」
ところで草原には川が流れている。その先に、紅葉も盛りの木々に囲まれた大きな池がある。
池のほとりではハーネスの先を木の幹に繋がれたレッドとイエローが、ギャアギャア騒いでいる。
その傍らに、カチャとリナリス。
「びしょ濡れになるんだし服濡らさない様に水着に着替えよ♪ ねーカチャ♪」
スクール水着を差し出されたカチャは、即座に言った。
「今11月ですよ?」
「それもう知ってる」
事もなげに返すリナリスは白のマイクロビキニ。鳥肌が立ちそうないで立ちだ。
「いやいやいや知ってるなら分かるでしょ!? 寒いでしょ!?」
「寒さ? 冬に裸で締めだされるのに比べたら♪ さあ、着替えよっ!」
言うなりリナリスはカチャを茂みに引きずり込み以下略。
● 休憩~帰還
和沙とチマキマルは、ドラゴンを川に連れてきた。
2匹とも走り回って喉が渇いていたのだろう、ごくごく水を飲む。
それが落ち着いてからチマキマルは川床の石をめくり、ブラックに講釈を垂れる。
「ダテマキマル、これがカニだ」
ハーネスを握り近くの石に腰掛ける和沙は、ふと想い人について考えた。
「……一緒に来れたら楽しかったろうなぁ」
呟きバイオレットの背を撫でたところ、池の方角から騒ぎの音。
チマキマルと顔を見合わせそちらへ向かってみれば、カチャとリナリスとドラゴンたちが寒中水泳をしていた。
「さむいっ! さーむーい!」
「大丈夫、色んなところを揉めばあったかくなるよ!」
「ふぎゃああ!」
そこに、めいとレナードがやってきた。
「ひゃー、元気やなあ」
インディゴは水を飲み始めたが、オレンジは違う。水遊びに参加したい組。
「えと、わたしは水浴びはしなくて、大丈夫ですよ……? ひええ、ひっぱられたら、ころんじゃいますようっ」
寒中水泳にもう一人追加。
続けてブルーと、それにさんざ駆けまわらされたジルボが来た。
「いや、休憩の時ぐらいゆっくりさせてくれ……おっ?」
肌も露に冷水と戯れる娘たちの姿を見て、ちょっと元気が出るジルボ。もうひと遊びしてやるかと靴を脱ぎ、グリーンと浅瀬に入る。
舞とルシフィールが最後に来た。舞は龍笛、ルシフィールはオカリナを吹いている。
ドラゴンたちは耳をひくひくさせ、聞き入る。大人しく水辺に降りてきて、ごくごく水を飲む。
ルシフィールは持ってきた手ぬぐいを水に浸して絞り、グリーンの体を拭いてやった。
舞も彼女から手ぬぐいを一枚借りて、体をこすってやる。
一通りそれが終わったところで岸辺に引き上げ。
河原にフンを集めて始末。
「汚物は消毒だー♪」
湖畔に漏られた袋に向けてリナリスが、ファィアーボールを炸裂。
廃棄物処理しながら焚き火。一石二鳥。
「ついでにお芋焼くってどうかな、カチャ?」
「止めてください食べる気になれません」
さて、おやつ。人にはナッツとクッキー、パン。ドラゴンたちにはローストチキンと干し肉。
「はい、どうぞ♪」
等分にしたため行き渡る量は少なかったが、ドラゴンは特に不満そうではなかった。
ジルボはハーモニカを取り出し子守歌を奏で、ブルーの体を撫でてやる。
「……ガキの頃、竜使いの御伽話をよく聞かされたな」
さて、日が傾く前に帰らなければ。
レナードは名残惜しげに、インディゴの体を叩く。
「いつか大きくなったら、また何処かで会えるとええねぇ」
めいもほお擦り。
「大変でした……でも楽しかった、です。えへへ……」
和沙はバイオレットのたてがみに、野原で見つけた野菊を刺してやった。
「今日はありがとう。また機会があったら遊ぼうね。次はもっといい場所を探しておくから、楽しみにしててね」
チマキマルはブラックに、記念品の贈呈。
「ああ、そうだ。これを……」
彼が金色の腕輪を出したとたん、ドラゴン全員の目つきが変わった。
「「「ウガアーッ!」」」
腕輪へ一斉に殺到し、大ゲンカ勃発。
光り物収集独占の本能は、何よりも強いものだった。
ハンターたちは事態の収拾に、さんざ苦労した。
● 後日
自由都市同盟に有力者から、ドラゴンたちの写真を添えた提案があった。
『うちの子たちを同盟のマスコットにどうだろう』という。
同盟は、前向きに検討中との返答である。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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散歩のバイト(ドラゴン編) ジルボ(ka1732) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/11/23 20:55:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/21 23:25:37 |