ゲスト
(ka0000)
【郷祭】蚤の市改め、楽座開催中
マスター:龍河流

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/16 22:00
- 完成日
- 2016/12/01 04:24
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
農業振興地域ジェオルジの村長祭りこと郷祭も、そろそろ終わろうかというある日のこと。
今日も今日とて、とある一角でリアルブルー渡りの拡声器から、賑やかな呼び込みの声が流れていた。すでに一週間以上、一日数回はだいたい同じ内容が流れてくる。
『本日もお天気に恵まれましたジェオルジの、新名物になりたい郷祭楽市会場はこちらです。
誰でも気軽に、楽しく参加出来る市場を合言葉に、ジェオルジ各地とそれ以外から集まった人とお店が、ここでしか手に入らない品物などをだいたいお安めに販売していま~す。
美味しいものが食べられるお店、可愛い服や飾りがあるお店、色んなお得がありますので、皆様ぜひお立ち寄りください』
前回春の郷祭で蚤の市やらフリーマーケットと銘打っていた簡易市場が、正式名称を『楽市』として、規模も拡大しながら開催中なのである。
ジェオルジの住人もそれ以外もまったく問わず、売りたい人、買いたい人、食べ歩きしたい人などなど、絶賛参加中らしい。
●郷祭、楽市開催のお知らせ
・会場はジェオルジ中央部の広場です
・指定された区画にて、参加者が用意した商品の売買を行うことが出来ます。飲食店の設置も可能です
・出店期間は祭り中のおおよそ2週間、参加費用として1000Gが必要です
開催期間中の収益は出店者当人のものになりますが、赤字になっても主催者は関知しません
・出店区画は5メートル四方と10メートル四方(どちらも平地)の二種類のうち、必要な広さを指定してください
・店舗は、期間終了後に平地に戻せるなら、仮店舗等の建設は自由です
必要な方には、天幕・机等の貸し出しがあります
・他の地域にある店舗の関係者が出店する場合、その支店として看板を掛けても構いません
・性風俗産業と公序良俗に反するものは参加不可
今日も今日とて、とある一角でリアルブルー渡りの拡声器から、賑やかな呼び込みの声が流れていた。すでに一週間以上、一日数回はだいたい同じ内容が流れてくる。
『本日もお天気に恵まれましたジェオルジの、新名物になりたい郷祭楽市会場はこちらです。
誰でも気軽に、楽しく参加出来る市場を合言葉に、ジェオルジ各地とそれ以外から集まった人とお店が、ここでしか手に入らない品物などをだいたいお安めに販売していま~す。
美味しいものが食べられるお店、可愛い服や飾りがあるお店、色んなお得がありますので、皆様ぜひお立ち寄りください』
前回春の郷祭で蚤の市やらフリーマーケットと銘打っていた簡易市場が、正式名称を『楽市』として、規模も拡大しながら開催中なのである。
ジェオルジの住人もそれ以外もまったく問わず、売りたい人、買いたい人、食べ歩きしたい人などなど、絶賛参加中らしい。
●郷祭、楽市開催のお知らせ
・会場はジェオルジ中央部の広場です
・指定された区画にて、参加者が用意した商品の売買を行うことが出来ます。飲食店の設置も可能です
・出店期間は祭り中のおおよそ2週間、参加費用として1000Gが必要です
開催期間中の収益は出店者当人のものになりますが、赤字になっても主催者は関知しません
・出店区画は5メートル四方と10メートル四方(どちらも平地)の二種類のうち、必要な広さを指定してください
・店舗は、期間終了後に平地に戻せるなら、仮店舗等の建設は自由です
必要な方には、天幕・机等の貸し出しがあります
・他の地域にある店舗の関係者が出店する場合、その支店として看板を掛けても構いません
・性風俗産業と公序良俗に反するものは参加不可
リプレイ本文
●楽市会場、入口
ジェオルジ郷祭の一角、随分と広く場所を取って、楽市が行われていた。
「はて、楽座だか楽市だか……まっ、蚤の市に変わりはなかろうて」
入り口にどんと立てられた案内図には楽座と書かれ、手にした地図には楽市と書かれているのを目にした婆 (ka6451) が不思議そうにしたが、それもわずかの間のこと。
「そんなことより、買い物しようかの。さ、ベコ、歩け」
看板には楽市と書いた紙を手にした実行委員が張り付いたが、婆はそんなことには目も止めず、牛を引いて歩き出した。
目の前を赤鬼にひかれた牛なる珍しいものが通り過ぎ、ついふらふらとそちらに歩き出しかけた遠藤・恵 (ka3940)は、がしっと手を掴まれて連れを振り返った。
「こんなとこではぐれたら、大変だよ」
それでなくても地図がちゃんと読めないんだからと、玉兎 小夜 (ka6009)は捕まえた手に自分の肘を掴ませた。野原に作った露天市、風通りが良すぎるきらいもあるからくっついて歩くのに不思議なことはない。
「ほ、方向音痴と地図が読めないのは、別なんだけど……」
恵は小夜の決め付けに反論を試みようとしたが、自分でも色々思い当たることがあるらしい。結局、素直に腕を組んで歩き出した。
●お買い物? それとも食べ歩き?
ある程度は種別分けされているとはいえ、楽市会場には雑多な店が並んでいた。野菜を山と積んだ端っこに古着が並んでいたり、飲食店の端で装飾品を商っていたり。
見るだけでも十分に面白いのだが、アシェ-ル (ka2983)は溜息ばかりだ。理由は簡単、懐が寂しいから。
「お洋服も素敵なのがいっぱい……」
少々子供向きのようではあったが、可愛らしい柄の散りばめられたブラウスやリアルブルー風のジャンパースカートなど、着てみたい物はたくさんある。服に限らず、あれもこれも珍しいし、居並ぶ食品関係の店は何処も美味しそうだ。
しかし、アシェ-ルは散財するには手持ちがあまりに心許なかった。同年代の女の子に比べたら結構お金持ちかもしれないが、ハンターは何かと物入りなのである。
しかし、そろそろ昼時。流石に歩き回るのにも疲れたし、軽食でも買って、所々ある休憩場所で食べようかと辺りを見回していると、
「ちょっと、座っていかない? 今ならサクラ役割引きしてあげるわよ」
なにやら珍しい店構えの向こうから、時々依頼でも一緒になるマリィア・バルデス (ka5848) にウィンクを投げられた。
「サクラ役?」
「女の子も食べてる店だと思えば、お客が増えるってことよ」
一人で店を切り盛りしているらしいマリィアがアシェ-ルを招いたのは、屋台というらしい移動式店舗のベンチだった。それとは別に椅子と卓を並べてあるが、そちらはおおむね男性陣が陽気に酒を飲んでいる。
お品書きを示されて、成程肉料理と酒がメインのお店かと納得したアシェ-ルは……アルコール以外の飲み物を探して、お品書きの文字を追い始めた。
早い時間から呑み助達に占拠されかけている店で、マリィアはそこそこ忙しくしていた。料理の大半は煮込みや仕込みには手が掛かるものだが、その分注文されてからの手間は少ない。酒はどんとピッチャーで出して、手酌でやってもらう方式だ。
無料のメニューもあるので、呑み助達には大層好評だが、彼らはすぐ根っこが生える。つまりは客の回転が悪い。マリィアにとって計算外だったのは、料理の注文が案外少ないことだった。しゃべって飲んで、また飲んでいる。
「あ、芋煮は無料よ。遠慮せずに、美味しそうに食べてちょうだい」
それで、カップルや家族連れにも足を止めてもらおうと、ちょうど通りかかったのを幸いにアシェ-ルに声を掛けたのである。どうせ買い物三昧したくて、財布と相談しているだろうから、お昼ご飯と引き換えにサクラをしてもらおうという彼女の読みは、さほど間違ってもいない。
椅子が足りないから、これを使ってみてくださいと、実行委員がどこからか引っ張ってきた屋台の造りを、物珍しそうに眺めているアシェ-ルの姿に興味を惹かれている通りすがりも多い。
そう思っていたら、今度は少年がやって来た。
「あ、やっぱりアシェ-ルさんでしたか。えぇと、お隣、よろしいですか?」
どうやらアシェ-ルの知り合いらしい。丁寧な物腰で、了解を得てから屋台のベンチに隣り合わせて座る姿に、マリィアは『これだ!』と天啓を得ていた。
秋空の下、お祭り特有の喧騒の中をそぞろ歩くのを最初は一人で楽しんでいたユキヤ・S・ディールス (ka0382) は、途中から二人連れになっていた。ハンター仲間で友人のアシェ-ルが一人でいたので、挨拶がてらに少し相談に乗ってもらおうとしたのが始まりだ。
結局、昼食を取った店の店主の助言を入れて、買い物に付き合ってもらっている。
「お土産なのに値が張るものは向こうも気を使うでしょうし、装飾品だと好みもあるのでどうしたものかと」
「たくさんあっても嬉しいもの……おリボンとか、あっ」
ユキヤも午前中に一人で装飾品を見て回ったのだが、どうにもこれというものに巡り合えないでいた。友人だから女性向けでも指輪や高価なものは駄目。更に店の一つで、肌に触れない物がいいと言われたもので、ハードルが高くなったと困惑していたのだが、成程『たくさんあってもいい』は気付かなかった。
幾つかあるものを、使う時に選んでもらうのもいいのかもしれない。後は、相手が普段着けている物を思い出して、少し雰囲気が違うものを探してみるとか。
リボンは少し違うかなと思いつつ、ユキヤは先程通った時には気付かなかった、東方風の喫茶店の端に並べられた硝子玉の付いた飾りに目を留めていた。
●和喫茶「千鳥」
本来は東方風と称するべきかもしれないが、どこの誰に聞いたものだか、鎬鬼 (ka5760) が『こういうのは和喫茶と言うべき』と主張したので、看板には『和喫茶千鳥』と墨書きされている。どうもリアルブルーでは、そういう言い方があるのだとか。
まあ、「千鳥」に居るのは全員が鬼。一見して分かるのもそうでないのも混じっているが、東方出身なのは長閑な農業地域の住人でもなんとなく分かるだろう。
そんなわけで、服装も向こうで来ていた物に皆で揃え、接客担当の鎬鬼は前掛けを着けていた。エプロンではなく、前掛け。風華 (ka5778)に念押しされたので、そういうことにしておく。
「さあさ、東方風の甘いもの、団子に汁粉だよ。小腹がすいたらおにぎりもある。心づくしの品々、ぜひそこのお二人さんも堪能してってくれよな!」
お団子がお勧めと、午前中から呼び込みをしていたおかげで、前を通る人に合わせて言うことも変えられるようになっていた。その姿を彼の保護者を自認する風華や、同じく接客担当の美風に微笑ましく見守られているのだが……残念、今回の二人連れは食べる方は他所で済ませてしまったらしい。
それならそれで、後で団子が余って自分の口に入るかもと考えながら、鎬鬼は装飾品を商う風華の前に小さな椅子を持って行ってやった。
彼の午前中の経験では、男女の二人連れの買い物は、品定めが長い。案の定、すでに女性は置かれた品を穴が開くほど眺めていた。
そんな女性と、双方友人間の親しみを持っているだけと、鎬鬼とは違って一目で看破した風華の担当は、皆で作った蜻蛉玉の装飾品販売だった。これを単なる硝子玉と言ってはいけない。
「蜻蛉玉は、二つは同じ模様が作れない物なのですよ。手に取ってご覧になると、よく分かります」
複雑にも単純にも見える模様は、一つずつ違う。それを組紐に通して根付にしたものや、簪に加工したものを中心に、東方では珍しくない装飾品を並べてある。幾つかは、蜻蛉玉をそのままころんと布の上に。
途中、問われたので根付の使い方を教え、組紐の結び方も実演する。あまり手慣れた口上は出来ないので、風華の目標は丁寧に分かりやすくだ。
そのおかげか、一つを買い求めていった二人連れを見送ろうとしたら、美風がひょこっとやって来た。
「あのっ、お茶を飲んでいかれませんか!」
「あら、すみません。美風ちゃん、こちらはお食事済ませたばかりなのですって」
ちょうどお客が少し引けて、ゆっくり座れると誘いに来た美風が頭を下げようとするのを慌てて止めて立ち去った二人連れが、すぐそこで別の二人連れと行き合って足を止めた。
「わっ、ほんとに面白いビーズダヨ」
「ねえねえ、パティちゃん、先にお団子食べよう、お団子だよお団子!」
美風がハンターオフィスで見たことがある人達かなぁと思っていると、女の子二人連れはすごい早足でこちらに向かって来て、美風と風華が挨拶をする間もなく、二人で語り合っている。
三人いなくてもかしましいので、一応衝立で囲ってある調理場からマシロビ (ka5721) と一青 蒼牙 (ka6105)も顔を覗かせたが、すぐに中に戻っていった。
何故なら。
「あのぅ、お茶も飲まれますか?」
先程のこともあって、少し遠慮がちに尋ねた美風に一言。
「はい! お団子は三皿欲しいのです。全部違う味で!」
「ディーナちゃん、お団子食べたいって朝から言ってたカラ、良かったヨネ」
「まだお昼もちょっとしか食べていないので、あの汁物も味わっていきましょうか」
見た目に相違した食いしん坊がやって来たと、すぐに判明したからだ。
鎬鬼と美風も休んでいる場合ではないぞと、気合を入れ直している。
和喫茶「千鳥」を来襲したのは、ディーナ・フェルミ (ka5843) とパトリシア=K=ポラリス (ka5996) の二人組だった。彼女達の目的は、色々だ。
「は~、これ、ラウラちゃんにもご馳走してあげたいです」
「そうネ、一緒に来れたら良かったケド」
まずは食道楽。いや、本当は買い物が先だったが、ここに来てみたらお祭り限定の料理やお菓子に、ジェオルジ各村の名産品が二人を誘惑してきたのだ。リアルブルーのメニューも散見するし、ここのように東方メニューも楽しめる。
そんなわけで、年頃の女性ながらも成長期は脱していないパティとディーナは、『多かったら半分こにしようね』を合言葉に、気になるお店を制覇しながら、もう一つの目的の買い物の為にも色々な店を見て回っているところだった。
「えっと、何を買うんでしたっけ?」
「うちのリーリーちゃんのホルにアクセサリーを何か欲しいですネ。後はァ」
二人の目的は、まずペットの猫や騎獣のリーリーに首輪や飾りになるものを、お揃いで。
それぞれの猫とリーリーがお揃いでもいいし、お互いの同種の相棒がお揃いでもきっと楽しい。
だが、それだけでいいものか。
「ルーナさまへの貢ぎ物も必要だと思うの」
「それを言ったら、ルビーちゃんやラウラちゃんにだってヨ」
ルーナ様って、こんな年頃の女の子に呼ばれるのは誰だろうと、給仕二人に休憩を取らせて、団子を運んできた蒼牙が怪訝そうにしているのも気付かず、二人はお土産談義を繰り広げ始めた。
ついでに。
「この豚汁もください」
「おにぎりの具は何でショウ?」
まだまだ食い気も忘れてはいなかった。
一息つけるかと思ったら、ばたばたと団子におにぎり、豚汁の後に汁粉とあんみつと注文が立て続き、調理場は結局忙しかった。
「ええとぉ、豚汁は今出したので、次はあんみつとお団子、違う、お汁粉ぉ」
ちょっと気を抜いたところに怒涛の注文で、マシロビが調理場であたふたしている。それで昼食のおにぎりをほおばっていた美風は腰を浮かしかけたが、即座に『立って食べるのは行儀が悪い』とたしなめられる。
「手が足りなかったら、手伝うぞ」
仕方なく座り直した美風の横で、おにぎりを三口で食べ終えた鎬鬼が声を掛けたが、白玉を作り始めたマシロビの耳には入らない。それでいて、少し余計に作った白玉団子を二人の方へ寄越してくれるのだ。
よって、美風の仕事はその白玉に鎬鬼がたくさんあんこを掛けないように、ちょっとだけ盛って渡すこと。なにしろ小豆を煮るのに、昨日から苦労したのだから、お客さん優先である。
でも、少しくらいは残って、皆で食べられたらいいなぁと思う美風は、今回使うあんこは本当にちょっぴりにした。
給仕組が昼休憩を済ませ、風華の前から商品が幾つかかき消えた後。
ようやく休憩に入ったマシロビは、燃え尽きかけていた。
「ほれ、あったかいものを腹に入れて、元気出せよ」
そろそろおやつ時の客が入るはずと、その後の夕方にお持ち帰り用で出すおにぎり用の塩鮭を焼きつつ、蒼牙が座り込んだマシロビの世話を焼いている。こちらは利き手に菜箸とお玉の二つを持って、反対の手に豚汁の椀、口の端には団子の串と行儀の悪いことこの上なく、器用にあれこれをこなしている。
「蒼牙様は、元気ですねぇ」
「そりゃ、俺は夜中に何度も起きて、下拵えせずに寝てたし。その分働くから、休んでなって」
こっそりやっていたのがばれていたとはとマシロビは慌てたが、現在睡魔の強襲を受けている。渡された豚汁椀に顔を突っ込みそうな具合では、慌てるのも一瞬で長続きしない。
「眠気覚ましに良いものって、何かありませんでしたか」
眠さのあまりに目が据わって来たマシロビが、少し寝ればいいのにやる気を見せたので、蒼牙はそう言えばと通りが一つ向こうの店を思い出した。
「珍しいお茶があったから、買ってくるか?」
かくんと首を動かしたマシロビが頷いたのか、それとも寝落ちしたのか。豚汁椀だけはきっちり持っているので、蒼牙は気にせずにちょっとお出掛けすることにした。
●メイ店
お祭りには珍しい食べ物が多いので、食べ歩きに素晴らしい。だがネヴェ・アヴァランシェ (ka3331) は食道楽より、飲む方が好きだった。種族はドワーフとくれば酒好きと思われそうだが、そもそも飲酒してよい年齢ではないので、お茶やジュースの類である。
しかし、飲み物を前面に出した店と言うのはなかなか少ないと、まだまだ試し足りない気持ちで歩いていたら、横を走り抜けていく鬼がいる。
「あのお茶屋、こっちの通りだったか」
ようやく探し当てたと言いたげに鬼が足を留めたのがお茶屋とあらば、当然ネヴェも立ち寄るしかない。
「いらっしゃいませ~」
テーブルクロスを掛けた長卓に幾つか椅子を並べ、座面にはふかふかの毛糸で編まれたクッションが置いてある。売り子をしているのはネヴェよりもう少し年上の少女で、お茶も彼女が淹れてくれるらしい。
これなら少し休んでいくには良さそうだし、もっと人がいても良かろうにと思ったネヴェだが、お品書きを見て納得した。
『お昼下がりの眠気払いに一口で十分・アデラ茶』
「これ、一つ」
よいしょと椅子に伸び上がって座り、にこにことこちらを見るマリル(メリル) (ka3294) に頼んだネヴェは、先程の鬼がもういないことに気付いた。どうやらこのお茶は持ち帰りが出来るらしい。
茶葉で貰えると、家まで持ち帰るのが簡単でいいなと思いつつ、ネヴェは出てきたとんでもない色の飲み物を臆せず飲み込み……
「お客様、大丈夫ですかぁ?」
気付いた時には、椅子から転げ落ちていた。
祭りの浮き立つような雰囲気は、どこで体験してもいいものだ。特に郷祭は飲食店や食料品が目白押しで、自分の趣味にも色々と役立つことが多い。なかなか手に入らなさそうな調味料と食材を中心に幾らか買い物をして、味を確かめに買い食いもしていたザレム・アズール (ka0878) は、昼下がりの眠さと戦っていた。
こういう時には目が覚める飲み物と、鼻を利かせて歩き回ることしばらく。
「いいねえ、濃いのを飲ませてもらおう」
彼が足を留めたのは、なぜか兎の着ぐるみが呼び込みをしている『お気楽亭』。香りと看板によれば、珈琲専門店である。
カウンター風に置かれた長卓と丸卓が一つの簡素な造りだが、道具と豆は色々と揃えてあるのをザレムは見て取っていた。
「さて、何を淹れてもらおうかな」
「豆の引き方、淹れ方のご注文も受けております」
着ぐるみの頭が重いのか、左右にゆらゆらしているうさぎがお品書き代わりの薄い木の板を差し出した。声からすると若いお嬢さんのようだが、なにしろ着ぐるみである。
うさぎさんはさておき、ザレムが目を落としたお品書きには色々と見慣れない名前が並んでいた。いや、幾つかは知っているが、銘柄として見るのは珍しい。
「これ、名前に意味があるんだっけ?」
「本当は、リアルブルーの産地の名前なんだそうだ。ま、本格的に向こうのを揃えるのは無理だから、味が似ている物をそれらしくね」
郷祭にはリアルブルー人も相当混じっているので、足を留めるきっかけにでもなればいい。性別不肖のギャルソンは、試飲も出来ると小さなカップを取り出した。それなら一通り試飲させてもらって、気に入った物を買うことにするとザレムが応えると慣れた手付きで豆を少量ずつ牽き始めた。
お湯を沸かすのも口の細い薬缶で、道具立てからこだわっているなぁとザレムが楽しんで眺めていたら、横合いからひょいとうさぎの手が出てきた。何かと思えば、クッキーが乗った小皿を差し出している。
「お茶請けです。お客様のは甘さ控えめにしてみました」
甘いのもありますよと教えてくれたやはりふらふらしがちなうさぎが、ギャルソンを『姉様』と呼んだけれど、ザレムの耳には入っていない。
彼の興味はギャルソンとうさぎの姉妹より珈琲本体にあるので、豆を眺める方が忙しいのだ。
産地に焙煎方法、牽き方に道具の仕入れ先と、もちろん味まで。あまりに細かいことを訊いて来るので同業者かと勘ぐったお客は、単なる趣味人だったらしい。味にもうるさそうだが、その描写は的確で、また美味しそうに飲むから、ルーン・ルン (ka6243) とルーネ・ルナ (ka6244) 姉妹の珈琲店には、引き寄せられるように人が集い始めていた。
なにしろこだわりの豆を、丁寧に焙煎して、お客の好みの淹れ方をするのだ。たまに家族連れがうさぎさんにひかれてやってくるが、珈琲が飲めない子供には牛乳もある。
更にルーネのクッキーは無料と言うのも相まって、趣味人が豆を二種類ばかり買い込んで席を立ってからも、ルーンは休む暇なく接客に当たっていた。
しかし。
「レティ、少し手が空いてきたから、よそを覗いて来るといい」
妹がお客達の会話から漏れ聞くあちらこちらの評判を、気にしているのは見逃さない。
ちょうど牛乳が切れたので、買い出しを頼む形で送り出した。
予想外だったのは、妹がうさぎのままで出掛けてしまったことだ。
●謎の夢ミルク
自家製ミルクの販売店員シグリッド=リンドベリ (ka0248)には、今朝から不思議にも思っていることがあった。
「うち、乳の出る動物……いたっけ?」
仮にも自家製を謳うなら、自宅や厩舎にそれらしい動物がいるべきだが、生憎と彼には覚えがない。彼が飼っているのは、本日招き猫として頑張っているシェーラさんとわんこだけだ。
一緒に来ているレイ=フォルゲノフ (ka0183) と黒の夢 (ka0187)も、それらしい動物は飼っていないはず……と、 妙にむちむちした牛着ぐるみのアンノウンと、エルフにしては筋肉質の腕で繊細な造りの焼き菓子の入った籠を手にしたレイとを見やったが、答えは分からない。
ついでに、いつの間にか牛の隣にうさぎがいるのも謎だった。
「こら、なにしてんねん。お客さんやぞ」
「こちら、搾りたてなので数量限定なのですな~」
アンノウンと話していたのは、どうやらお客だったらしい。きっとどこかのお店の人だと彼は納得したが、実は自身もレイに『これぞ勇者というものや!』とびっみょーな色形の布製武器防具を持たされているシグも、牛さんうさぎさんと並んで違和感はない。
それはそれとして、うさぎさんは謎の夢ミルクをお買い上げである。声から察するに妙齢の女性だが、牛さんアンノウンと並んでいると寄ってくるのは子供ばかり。当然シグのところにもやってくる。
そうした子供のうち、悪戯をする子は上手くあしらい、買い物に来た子にはお菓子の入った紙袋に可愛いリボンを結んでやる。
その間にも、あんのうんとうさぎさんとは夢ミルクが何の乳かを話し込んでいるらしい。絶対に教えないのは、よほど貴重な動物なのだろうか。
レイが牛うさぎ問答に『やっぱやめときゃよかったかな』と呟くので、シグは少々不安になったが、
「あのぅ……」
新たなお客さんに、元気な笑顔を向けようとしてちょっと固まった。リアルブルーから転移して来て、色々な服装の人に出会ったが、着物を目深に被ってくる人にお目に掛かるのは初めてかもしれない。
シグはどうやら、かつぎや衣被という言葉は知らないようだ。
やっぱり、味が違う。
「これは山羊の乳だったか?」
「もちろん美味しいですけど、夢ミルクとは味が違いますね~」
なにやら奇妙な格好をした、しかし楽市の中ではあまり目立たない巨漢の青年ゼルド (ka6476) と連れの女性シルク・メイプルリーフ (ka5963) 。手を繋いで割と親しげだが、恋人と言うには他人行儀な雰囲気の二人が飲んでいるのは、目の前で絞ってくれるという近くの農家の山羊の乳だ。
いかにも郷祭らしいと飲んでみたが、楽市で最初に飲んだ夢ミルクとは味が随分違う。あれは牛乳ともなんだか違っていたし、不思議で仕方がない。なんて会話が弾んでいるが、二人の視線は全く合っていない。
なぜかと言えば、次に食べるべきものをお互いに探しているからだ。たまにはのんびりしようと、知人友人が店を出す楽市に来てみたが、なにしろここには誘惑が多過ぎる。
「肉はさっき食べたから、違うものがいいな」
「お野菜も美味しいものが色々ありましたね。他に珍しいものはないでしょうか」
せっかくだから、ここでしか食べられない物を見付けて、食べて、それから締めは薫り高い珈琲にしよう。そこまでは二人の計画はまとまっているのだが……
「あ、今度は目先を変えて向こうの店に行ってみましょう。さ、ゼルドさん、いいですか?」
人波でうっかりはぐれないようにと、手を繋ぐのは当然とばかりに差し出してくるシルクに、ゼルドはせっかくなので記念になるようなお土産も見てみようとは言い出せないでいる。
楽市限定、どこそこ名産、ついでに季節の甘味なんて宣伝文句の店は、一通り制覇したかもしれない。
どこからどう見ても元気少年と落ち着き払った保護者のお姉さんの二人連れ、時音 ざくろ (ka1250) とソティス=アストライア (ka6538) は、両手に大量の荷物を提げていた。荷物の大半は持ち帰りが出来る甘味中心の食べ物で、どちらかと言えばソティスの好物だ。ざくろも嫌いではないが、恋人が食べているところを見ている方が楽しい。
だが、幾ら好きでも。
「これは買い過ぎだと思うぞ」
二人掛かりで運ぶのがやっとの量になって来た荷物に、ソティスがそういうのも無理はない。言われたざくろも、深く頷いた。少しは散財を反省しているかと言えば、
「そうなんだ。これだと手も繋げやしない」
失敗したと、ソティスの言い分とは違う方向で反省しきりである。挙句に、まだ買い物がし足りないと言い始めた。
すでに、二人とも両手いっぱいであるにもかかわらずだ。強いていうなら、確かに二人とも、特にソティスはまだまだ持てる重さには余裕があるが……これ以上、何を買いたいというのだろうか。
疑問と言うより、大丈夫だろうかと心配そうな表情が珍しくも露わな恋人の様子には気付かず、ざくろは買い足りない物にまず『皆へのお土産』をあげた。今まで買ったのは、どうやらソティスの為の物と言うことらしい。
これは喜んでいいのか、それとも少しは注意すべきかと、ソティスが少し悩んでいると続きがあった。
「あと、やっぱりさっき見たあの若葉色のワンピース、リボンが可愛かったし買いたいよね!」
「ちょっと待て!」
甘いもの好きで、ついついデートだからと勧めるざくろにご馳走になり続けて申し訳なく思っていたら、ここぞとばかりに服を贈られた。ソティスが普段はまず着ないフリルたっぷりの服だ。帰ったら着て見せる約束もした。
うっかり甘いものに釣られたと、考えるだけで恥ずかしい。よって、そんな何枚も必要ないとの彼女の主張は、ざくろの耳には届いていない。ならばとソティスが咄嗟に考えたのは、ざくろの男の子回路を刺激しそうな寄り道だ。
ぜひとも遠回りして、その間にあの服が売れていてくれたらいい。
●実演販売中?
東方風の屋台で、酒を飲みながら、肴をつまむ。
「っかー、極楽だねぇ」
先程、ようやっとこれはという代物を見付けて買った茶碗を早速活用して、婆はご機嫌だった。昔のように飲兵衛の本領発揮とはいかないが、ちびちびやるのも楽しいものだ。
それに、目の前ではなにやら珍しいものが繰り広げられていて、まったく飽きない。
「おぬし、こんななまくらを使っていたら怪我をするぞ。研ぎ代? そこの料理の代金を頼む」
昼間はきちんと店構えをして、生活用品から凝った刀剣の類まで刃物中心に商っていたレーヴェ・W・マルバス (ka0276) が、マリィアの店の端に椅子を持ち込んで、鍛冶仕事をやっている。
もちろん理由はあって、彼女の隣で屋台販売という珍しい店を出していた明王院 蔵人 (ka5737) の、その屋台が見本扱いで使用されていた店がここだからだ。明王院が実際の使用状態を見たいという客を連れて行くのに、くっついて来たのである。
レーヴェの傍らにある機動式の照明には、しっかりと値札が付いている。こちらは三割程度が彼女の作で、基本はこれまた明王院と反対隣だったヴァージル・シャーマン (ka6585) が作ったものだ。持ち手などは使い勝手が良く出来ていたが、見た目がいささか武骨だったので、レーヴェが風除け覆いに飾り細工を追加した。
ハンターが作った起動装置の割に、楽市の客層を鑑みてか生活用品が主流のヴァージルだったが、飾り細工を施すことまでは浮かばなかったのだろう。レーヴェの仕事ぶりや明王院の屋台の活用され方を見て勉強するのだと、三人の中では早仕舞いをして追いかけてきたはず……だったが、こちらも店の端で臨時修理工房を開催している。
多分、開催している。
「待て待て、この造りは初めて見るぞ。全部掃除するから、だからばらさせてくれ」
起動装置ではないが、機械式の吊り上げ装置が壊れたと、楽市に出店していた店から頼られたはずのヴァージルは、その機械部分の造りを手持ちの紙に写し始めていた。
「ここは少し違うぞ。釘を使わないでいいように、角の合わせに工夫があるんだ」
「釘を打つと、そこから傷むからのう」
明王院にレーヴェも加わって、ここは直せ、こっちは改良だとやり始めたところに、持ち主がここが不便だなんとかしてくれと口を挟み、その辺りは店か工房か怪しくなってきた。
木材部分の不具合は明王院が手を入れて、金属部分の反りはレーヴェが調整、一式書き留めたヴァージルが他の部分を綺麗に掃除して、三人掛かりで組み立て直す。
「お、吊り具がすんなり動くようになったね」
「それはそうだが…なんかすっきりしないな」
「持ち主の背丈と引き綱の高さがあっていないからだろう。上の鎖を少し縮めてみるか」
鎖と聞いて、ひょいと台に乗って準備万端のレーヴェを、ヴァージルが補助してまた直しを加える。それを見ながら、明王院は屋台にはどういった部分が転用出来るか、また持ち主に合わせて調整が可能かといった説明を始めている。
この調子だと、レーヴェとヴァージルは夕飯代を払ってもらい、明王院は細かい調整可能と示したことで、屋台が一台売れそうだ。
しかし、実はもう数名の応援が彼らにはいたのである。
「屋台って、こうやって二人で並んで座るから、距離が縮まるわよぅ」
「ほっほっ、他の客が来れば詰めねばならんしな」
お客毎に細かいところまで気を配ってすごいなぁと、通りすがりのはずがすっかり屋台のベンチに腰を落ち着けて見学していたざくろとソティスが、マリィアと婆によって『屋台でくっついて座るカップル』に仕立て上げられていたりする。
不思議な味のミルクを飲んで、どうもそこから風向きが変わった気がする。
数量限定の夢ミルクが売り切れて、そのままぞろぞろと皆が流れたのはうさぎさんのお気楽亭。最後のお客と言うことで、なんだか一緒になった桜憐りるか (ka3748)は初対面ばかりの状況に緊張していたが、周りは大して気にしていない。
「コーヒーは、遅くに飲む、と眠れなくなるから良くないと、父が……」
「でしたら、ホットミルクはいかがです?」
普通の牛乳ですとうさぎを脱いだルーネが言う間に、ルーンが小ぶりの鍋に牛乳を注いでいる。
そう言えば自分のところの商品は、結局何だったのかとシグがアンノウンに尋ねようとしたら、
「食べ過ぎじゃないのか、相変わらずだなここは」
「今日はつまみ食いする暇もなかったのでありゅ」
レイがアンノウンのおなかを摘まんでいた。この二人は時々こういうことをするので分からない。
うっかり目にしたりるかなど、真っ赤になっている。シグも助け船が出せるほど女性慣れしておらず、はてさてどうなることかと思われた時。
「おや、また来たね」
「ちゃんとお客を連れてきたよ」
こんばんはとやや遠慮がちにザレムの後ろにくっついて来たのは、アシェ-ルとユキヤだ。どうも艶っぽい女性陣に囲まれて緊張気味のりるかには、親しみやすそうな同年代の登場である。これはシグも同じく。
「何か、お買い物はされ、ました?」
「あんまり可愛くて、一つだけ」
美味しいもの談を始めた青年達の間で、女の子勢はのんびり買い物話に花を咲かせている。
そろそろ楽市も終了時間のはずだが、和喫茶千鳥は全く閉店できずにいた。
鎬鬼は空腹で目が据わってきたし、美風も先程足元がふらついた。風華が給仕に回って、多分これで最後になるはずのお客達の相手をしている。
「いや、ほんとにすまん。つい懐かしくなって」
「それは分かります。どうしても向こうのものが食べたくなる時はありますものね」
二つくらい向こうの通りの珈琲喫茶がまだ大混雑だとかで、空くのを待って一巡りしていたはずのゼルドとシルクが千鳥に足を留めたのだ。正確には、ゼルドが同族の商う東方料理につい気を惹かれたというべきだろう。
シルクはあんみつを珍しげに眺めて、どこから食べようか迷っている風だが、ゼルドはおにぎりと豚汁をがっつり食べている。この後に珈琲の予定だったとは思えないが、故郷の味はまた別腹か。
「ここのお茶も美味しいですね」
抹茶の味に最初は首を傾げたシルクも、すっかり気に入った様子であんみつと交互に口に運んでいる。
と、そこに駆け込んできた影がある。
「まだやってたのー」
「口直しするんダヨ」
「げっ、食欲魔人」
鎬鬼が呟いた相手は、ディーナとパティだった。二人は彼と美風が楽しみにしていたみたらし団子の最後の一皿を、ぺろりと食べてしまった相手である。それは美味しそうに食べてくれたが、彼らの口に入らない事実に変わりはなく。
その二人がまた来たと、眠気と疲れが吹き飛んだ鎬鬼と美風だったが、
「あのネ、すごいお茶を飲んだんダヨ」
「眠気が飛ぶどころか、倒れるかと思ったの」
「あー、あのお茶を飲んだ奴が他にもいたか」
食欲魔人達のことより、蒼牙が両手の盆に山盛りにしてきたおにぎりや料理に目を奪われた。後ろには、マシロビが豚汁の鍋を抱えて来ている。
「もうこれで終わりなので、よろしければ皆さんと一緒に召し上がりましょうかって」
わぁと歓声を上げた給仕組を行儀良く座らせて、風華は先にお客の四人に料理などを取り分けていた。
「確かに眠さは吹き飛びましたけれど……あのお茶はしばらくいいです」
マシロビが誰にともなく口にして、飲んだことがある全員に頷かれたそのお茶の作り手はその頃。
「なんの乳か分からないミルクに、こちらは珈琲。東西の甘味に料理、持ち帰り可能な品物は一通り仕入れてきた。この中に、アデラ茶に合うものはあるだろうか」
あまりの不味さへの探求心に火が点いたネヴェと、アデラ茶でお茶会をするためのお茶請け探しに勤しんでいた。
その筈だったが。
「このお団子とクッキー、すごくおっいしー! ね、これもっと買いに行きましょうっ」
マリルからなぜかメリルに名前が変わったお茶制作者はネヴェを引き摺って、点在するハンター経営の店に突撃を始めていた。
ほんのちょっと、油断しただけだ。
楽市を歩いて歩いて歩き回り、古着を売る店を見るや、片端から目当ての品があるかを尋ねて、小夜が目的の品物を見付けたのは昼を回ってかなりしてからだった。
可愛い可愛い恵の為に、暖かくて丈夫で軽いコートを一枚。本当は何枚でも買ってあげたいところだけれど、恵は一人しかいないのでぐっと我慢。幾つか吟味した中で、一番似合うのを贈ったら、恵がとても喜んでくれたので小夜も満足だったのだ。
歩き回って疲れたろうから、飲み物を買ってくる間、少し待っていてね。
それまでは薄手の上着だった恵を自分の羽織で抱えるようにして歩いていたが、もう一人でも大丈夫と少しだけ目を離したら……
「あれほど、一人で行ったら駄目って言ったのに」
極度の方向音痴なのに、今ひとつ自覚が薄い恵は何処に行っていたものか。小夜が探し当てるのに二時間も掛かってしまった。もう日が暮れそうで、見付からなかったらどうしようと慌てていたものだから、恵に対してなのに小夜も少し口調がきつめ。
「ごめんなさい……びっくりさせたくて」
そんな悪戯をどうしてと、小夜が不審に思ったのは一瞬だ。もう一度ごめんねと繰り返しながら、差し出されたのは揃いの装飾品。
「どうしたの、これ」
「待ってる間に、これをお揃いで買ったって言ってた子達がいて」
コートと羽織はお揃いにならないから、自分が何かあげようと、意を決して一人で訊いた店を探しに出向き、見事に迷子になったのだ。
「これお勧めなの。も一度お店の前に出たら、鬼とエルフのカップルも買ってたし」
だから一緒に着けようと力説する恵の額を、小夜はつんと人差し指で突いて……
それから、恋しい相手を抱きしめた。
ジェオルジ郷祭の一角、随分と広く場所を取って、楽市が行われていた。
「はて、楽座だか楽市だか……まっ、蚤の市に変わりはなかろうて」
入り口にどんと立てられた案内図には楽座と書かれ、手にした地図には楽市と書かれているのを目にした婆 (ka6451) が不思議そうにしたが、それもわずかの間のこと。
「そんなことより、買い物しようかの。さ、ベコ、歩け」
看板には楽市と書いた紙を手にした実行委員が張り付いたが、婆はそんなことには目も止めず、牛を引いて歩き出した。
目の前を赤鬼にひかれた牛なる珍しいものが通り過ぎ、ついふらふらとそちらに歩き出しかけた遠藤・恵 (ka3940)は、がしっと手を掴まれて連れを振り返った。
「こんなとこではぐれたら、大変だよ」
それでなくても地図がちゃんと読めないんだからと、玉兎 小夜 (ka6009)は捕まえた手に自分の肘を掴ませた。野原に作った露天市、風通りが良すぎるきらいもあるからくっついて歩くのに不思議なことはない。
「ほ、方向音痴と地図が読めないのは、別なんだけど……」
恵は小夜の決め付けに反論を試みようとしたが、自分でも色々思い当たることがあるらしい。結局、素直に腕を組んで歩き出した。
●お買い物? それとも食べ歩き?
ある程度は種別分けされているとはいえ、楽市会場には雑多な店が並んでいた。野菜を山と積んだ端っこに古着が並んでいたり、飲食店の端で装飾品を商っていたり。
見るだけでも十分に面白いのだが、アシェ-ル (ka2983)は溜息ばかりだ。理由は簡単、懐が寂しいから。
「お洋服も素敵なのがいっぱい……」
少々子供向きのようではあったが、可愛らしい柄の散りばめられたブラウスやリアルブルー風のジャンパースカートなど、着てみたい物はたくさんある。服に限らず、あれもこれも珍しいし、居並ぶ食品関係の店は何処も美味しそうだ。
しかし、アシェ-ルは散財するには手持ちがあまりに心許なかった。同年代の女の子に比べたら結構お金持ちかもしれないが、ハンターは何かと物入りなのである。
しかし、そろそろ昼時。流石に歩き回るのにも疲れたし、軽食でも買って、所々ある休憩場所で食べようかと辺りを見回していると、
「ちょっと、座っていかない? 今ならサクラ役割引きしてあげるわよ」
なにやら珍しい店構えの向こうから、時々依頼でも一緒になるマリィア・バルデス (ka5848) にウィンクを投げられた。
「サクラ役?」
「女の子も食べてる店だと思えば、お客が増えるってことよ」
一人で店を切り盛りしているらしいマリィアがアシェ-ルを招いたのは、屋台というらしい移動式店舗のベンチだった。それとは別に椅子と卓を並べてあるが、そちらはおおむね男性陣が陽気に酒を飲んでいる。
お品書きを示されて、成程肉料理と酒がメインのお店かと納得したアシェ-ルは……アルコール以外の飲み物を探して、お品書きの文字を追い始めた。
早い時間から呑み助達に占拠されかけている店で、マリィアはそこそこ忙しくしていた。料理の大半は煮込みや仕込みには手が掛かるものだが、その分注文されてからの手間は少ない。酒はどんとピッチャーで出して、手酌でやってもらう方式だ。
無料のメニューもあるので、呑み助達には大層好評だが、彼らはすぐ根っこが生える。つまりは客の回転が悪い。マリィアにとって計算外だったのは、料理の注文が案外少ないことだった。しゃべって飲んで、また飲んでいる。
「あ、芋煮は無料よ。遠慮せずに、美味しそうに食べてちょうだい」
それで、カップルや家族連れにも足を止めてもらおうと、ちょうど通りかかったのを幸いにアシェ-ルに声を掛けたのである。どうせ買い物三昧したくて、財布と相談しているだろうから、お昼ご飯と引き換えにサクラをしてもらおうという彼女の読みは、さほど間違ってもいない。
椅子が足りないから、これを使ってみてくださいと、実行委員がどこからか引っ張ってきた屋台の造りを、物珍しそうに眺めているアシェ-ルの姿に興味を惹かれている通りすがりも多い。
そう思っていたら、今度は少年がやって来た。
「あ、やっぱりアシェ-ルさんでしたか。えぇと、お隣、よろしいですか?」
どうやらアシェ-ルの知り合いらしい。丁寧な物腰で、了解を得てから屋台のベンチに隣り合わせて座る姿に、マリィアは『これだ!』と天啓を得ていた。
秋空の下、お祭り特有の喧騒の中をそぞろ歩くのを最初は一人で楽しんでいたユキヤ・S・ディールス (ka0382) は、途中から二人連れになっていた。ハンター仲間で友人のアシェ-ルが一人でいたので、挨拶がてらに少し相談に乗ってもらおうとしたのが始まりだ。
結局、昼食を取った店の店主の助言を入れて、買い物に付き合ってもらっている。
「お土産なのに値が張るものは向こうも気を使うでしょうし、装飾品だと好みもあるのでどうしたものかと」
「たくさんあっても嬉しいもの……おリボンとか、あっ」
ユキヤも午前中に一人で装飾品を見て回ったのだが、どうにもこれというものに巡り合えないでいた。友人だから女性向けでも指輪や高価なものは駄目。更に店の一つで、肌に触れない物がいいと言われたもので、ハードルが高くなったと困惑していたのだが、成程『たくさんあってもいい』は気付かなかった。
幾つかあるものを、使う時に選んでもらうのもいいのかもしれない。後は、相手が普段着けている物を思い出して、少し雰囲気が違うものを探してみるとか。
リボンは少し違うかなと思いつつ、ユキヤは先程通った時には気付かなかった、東方風の喫茶店の端に並べられた硝子玉の付いた飾りに目を留めていた。
●和喫茶「千鳥」
本来は東方風と称するべきかもしれないが、どこの誰に聞いたものだか、鎬鬼 (ka5760) が『こういうのは和喫茶と言うべき』と主張したので、看板には『和喫茶千鳥』と墨書きされている。どうもリアルブルーでは、そういう言い方があるのだとか。
まあ、「千鳥」に居るのは全員が鬼。一見して分かるのもそうでないのも混じっているが、東方出身なのは長閑な農業地域の住人でもなんとなく分かるだろう。
そんなわけで、服装も向こうで来ていた物に皆で揃え、接客担当の鎬鬼は前掛けを着けていた。エプロンではなく、前掛け。風華 (ka5778)に念押しされたので、そういうことにしておく。
「さあさ、東方風の甘いもの、団子に汁粉だよ。小腹がすいたらおにぎりもある。心づくしの品々、ぜひそこのお二人さんも堪能してってくれよな!」
お団子がお勧めと、午前中から呼び込みをしていたおかげで、前を通る人に合わせて言うことも変えられるようになっていた。その姿を彼の保護者を自認する風華や、同じく接客担当の美風に微笑ましく見守られているのだが……残念、今回の二人連れは食べる方は他所で済ませてしまったらしい。
それならそれで、後で団子が余って自分の口に入るかもと考えながら、鎬鬼は装飾品を商う風華の前に小さな椅子を持って行ってやった。
彼の午前中の経験では、男女の二人連れの買い物は、品定めが長い。案の定、すでに女性は置かれた品を穴が開くほど眺めていた。
そんな女性と、双方友人間の親しみを持っているだけと、鎬鬼とは違って一目で看破した風華の担当は、皆で作った蜻蛉玉の装飾品販売だった。これを単なる硝子玉と言ってはいけない。
「蜻蛉玉は、二つは同じ模様が作れない物なのですよ。手に取ってご覧になると、よく分かります」
複雑にも単純にも見える模様は、一つずつ違う。それを組紐に通して根付にしたものや、簪に加工したものを中心に、東方では珍しくない装飾品を並べてある。幾つかは、蜻蛉玉をそのままころんと布の上に。
途中、問われたので根付の使い方を教え、組紐の結び方も実演する。あまり手慣れた口上は出来ないので、風華の目標は丁寧に分かりやすくだ。
そのおかげか、一つを買い求めていった二人連れを見送ろうとしたら、美風がひょこっとやって来た。
「あのっ、お茶を飲んでいかれませんか!」
「あら、すみません。美風ちゃん、こちらはお食事済ませたばかりなのですって」
ちょうどお客が少し引けて、ゆっくり座れると誘いに来た美風が頭を下げようとするのを慌てて止めて立ち去った二人連れが、すぐそこで別の二人連れと行き合って足を止めた。
「わっ、ほんとに面白いビーズダヨ」
「ねえねえ、パティちゃん、先にお団子食べよう、お団子だよお団子!」
美風がハンターオフィスで見たことがある人達かなぁと思っていると、女の子二人連れはすごい早足でこちらに向かって来て、美風と風華が挨拶をする間もなく、二人で語り合っている。
三人いなくてもかしましいので、一応衝立で囲ってある調理場からマシロビ (ka5721) と一青 蒼牙 (ka6105)も顔を覗かせたが、すぐに中に戻っていった。
何故なら。
「あのぅ、お茶も飲まれますか?」
先程のこともあって、少し遠慮がちに尋ねた美風に一言。
「はい! お団子は三皿欲しいのです。全部違う味で!」
「ディーナちゃん、お団子食べたいって朝から言ってたカラ、良かったヨネ」
「まだお昼もちょっとしか食べていないので、あの汁物も味わっていきましょうか」
見た目に相違した食いしん坊がやって来たと、すぐに判明したからだ。
鎬鬼と美風も休んでいる場合ではないぞと、気合を入れ直している。
和喫茶「千鳥」を来襲したのは、ディーナ・フェルミ (ka5843) とパトリシア=K=ポラリス (ka5996) の二人組だった。彼女達の目的は、色々だ。
「は~、これ、ラウラちゃんにもご馳走してあげたいです」
「そうネ、一緒に来れたら良かったケド」
まずは食道楽。いや、本当は買い物が先だったが、ここに来てみたらお祭り限定の料理やお菓子に、ジェオルジ各村の名産品が二人を誘惑してきたのだ。リアルブルーのメニューも散見するし、ここのように東方メニューも楽しめる。
そんなわけで、年頃の女性ながらも成長期は脱していないパティとディーナは、『多かったら半分こにしようね』を合言葉に、気になるお店を制覇しながら、もう一つの目的の買い物の為にも色々な店を見て回っているところだった。
「えっと、何を買うんでしたっけ?」
「うちのリーリーちゃんのホルにアクセサリーを何か欲しいですネ。後はァ」
二人の目的は、まずペットの猫や騎獣のリーリーに首輪や飾りになるものを、お揃いで。
それぞれの猫とリーリーがお揃いでもいいし、お互いの同種の相棒がお揃いでもきっと楽しい。
だが、それだけでいいものか。
「ルーナさまへの貢ぎ物も必要だと思うの」
「それを言ったら、ルビーちゃんやラウラちゃんにだってヨ」
ルーナ様って、こんな年頃の女の子に呼ばれるのは誰だろうと、給仕二人に休憩を取らせて、団子を運んできた蒼牙が怪訝そうにしているのも気付かず、二人はお土産談義を繰り広げ始めた。
ついでに。
「この豚汁もください」
「おにぎりの具は何でショウ?」
まだまだ食い気も忘れてはいなかった。
一息つけるかと思ったら、ばたばたと団子におにぎり、豚汁の後に汁粉とあんみつと注文が立て続き、調理場は結局忙しかった。
「ええとぉ、豚汁は今出したので、次はあんみつとお団子、違う、お汁粉ぉ」
ちょっと気を抜いたところに怒涛の注文で、マシロビが調理場であたふたしている。それで昼食のおにぎりをほおばっていた美風は腰を浮かしかけたが、即座に『立って食べるのは行儀が悪い』とたしなめられる。
「手が足りなかったら、手伝うぞ」
仕方なく座り直した美風の横で、おにぎりを三口で食べ終えた鎬鬼が声を掛けたが、白玉を作り始めたマシロビの耳には入らない。それでいて、少し余計に作った白玉団子を二人の方へ寄越してくれるのだ。
よって、美風の仕事はその白玉に鎬鬼がたくさんあんこを掛けないように、ちょっとだけ盛って渡すこと。なにしろ小豆を煮るのに、昨日から苦労したのだから、お客さん優先である。
でも、少しくらいは残って、皆で食べられたらいいなぁと思う美風は、今回使うあんこは本当にちょっぴりにした。
給仕組が昼休憩を済ませ、風華の前から商品が幾つかかき消えた後。
ようやく休憩に入ったマシロビは、燃え尽きかけていた。
「ほれ、あったかいものを腹に入れて、元気出せよ」
そろそろおやつ時の客が入るはずと、その後の夕方にお持ち帰り用で出すおにぎり用の塩鮭を焼きつつ、蒼牙が座り込んだマシロビの世話を焼いている。こちらは利き手に菜箸とお玉の二つを持って、反対の手に豚汁の椀、口の端には団子の串と行儀の悪いことこの上なく、器用にあれこれをこなしている。
「蒼牙様は、元気ですねぇ」
「そりゃ、俺は夜中に何度も起きて、下拵えせずに寝てたし。その分働くから、休んでなって」
こっそりやっていたのがばれていたとはとマシロビは慌てたが、現在睡魔の強襲を受けている。渡された豚汁椀に顔を突っ込みそうな具合では、慌てるのも一瞬で長続きしない。
「眠気覚ましに良いものって、何かありませんでしたか」
眠さのあまりに目が据わって来たマシロビが、少し寝ればいいのにやる気を見せたので、蒼牙はそう言えばと通りが一つ向こうの店を思い出した。
「珍しいお茶があったから、買ってくるか?」
かくんと首を動かしたマシロビが頷いたのか、それとも寝落ちしたのか。豚汁椀だけはきっちり持っているので、蒼牙は気にせずにちょっとお出掛けすることにした。
●メイ店
お祭りには珍しい食べ物が多いので、食べ歩きに素晴らしい。だがネヴェ・アヴァランシェ (ka3331) は食道楽より、飲む方が好きだった。種族はドワーフとくれば酒好きと思われそうだが、そもそも飲酒してよい年齢ではないので、お茶やジュースの類である。
しかし、飲み物を前面に出した店と言うのはなかなか少ないと、まだまだ試し足りない気持ちで歩いていたら、横を走り抜けていく鬼がいる。
「あのお茶屋、こっちの通りだったか」
ようやく探し当てたと言いたげに鬼が足を留めたのがお茶屋とあらば、当然ネヴェも立ち寄るしかない。
「いらっしゃいませ~」
テーブルクロスを掛けた長卓に幾つか椅子を並べ、座面にはふかふかの毛糸で編まれたクッションが置いてある。売り子をしているのはネヴェよりもう少し年上の少女で、お茶も彼女が淹れてくれるらしい。
これなら少し休んでいくには良さそうだし、もっと人がいても良かろうにと思ったネヴェだが、お品書きを見て納得した。
『お昼下がりの眠気払いに一口で十分・アデラ茶』
「これ、一つ」
よいしょと椅子に伸び上がって座り、にこにことこちらを見るマリル(メリル) (ka3294) に頼んだネヴェは、先程の鬼がもういないことに気付いた。どうやらこのお茶は持ち帰りが出来るらしい。
茶葉で貰えると、家まで持ち帰るのが簡単でいいなと思いつつ、ネヴェは出てきたとんでもない色の飲み物を臆せず飲み込み……
「お客様、大丈夫ですかぁ?」
気付いた時には、椅子から転げ落ちていた。
祭りの浮き立つような雰囲気は、どこで体験してもいいものだ。特に郷祭は飲食店や食料品が目白押しで、自分の趣味にも色々と役立つことが多い。なかなか手に入らなさそうな調味料と食材を中心に幾らか買い物をして、味を確かめに買い食いもしていたザレム・アズール (ka0878) は、昼下がりの眠さと戦っていた。
こういう時には目が覚める飲み物と、鼻を利かせて歩き回ることしばらく。
「いいねえ、濃いのを飲ませてもらおう」
彼が足を留めたのは、なぜか兎の着ぐるみが呼び込みをしている『お気楽亭』。香りと看板によれば、珈琲専門店である。
カウンター風に置かれた長卓と丸卓が一つの簡素な造りだが、道具と豆は色々と揃えてあるのをザレムは見て取っていた。
「さて、何を淹れてもらおうかな」
「豆の引き方、淹れ方のご注文も受けております」
着ぐるみの頭が重いのか、左右にゆらゆらしているうさぎがお品書き代わりの薄い木の板を差し出した。声からすると若いお嬢さんのようだが、なにしろ着ぐるみである。
うさぎさんはさておき、ザレムが目を落としたお品書きには色々と見慣れない名前が並んでいた。いや、幾つかは知っているが、銘柄として見るのは珍しい。
「これ、名前に意味があるんだっけ?」
「本当は、リアルブルーの産地の名前なんだそうだ。ま、本格的に向こうのを揃えるのは無理だから、味が似ている物をそれらしくね」
郷祭にはリアルブルー人も相当混じっているので、足を留めるきっかけにでもなればいい。性別不肖のギャルソンは、試飲も出来ると小さなカップを取り出した。それなら一通り試飲させてもらって、気に入った物を買うことにするとザレムが応えると慣れた手付きで豆を少量ずつ牽き始めた。
お湯を沸かすのも口の細い薬缶で、道具立てからこだわっているなぁとザレムが楽しんで眺めていたら、横合いからひょいとうさぎの手が出てきた。何かと思えば、クッキーが乗った小皿を差し出している。
「お茶請けです。お客様のは甘さ控えめにしてみました」
甘いのもありますよと教えてくれたやはりふらふらしがちなうさぎが、ギャルソンを『姉様』と呼んだけれど、ザレムの耳には入っていない。
彼の興味はギャルソンとうさぎの姉妹より珈琲本体にあるので、豆を眺める方が忙しいのだ。
産地に焙煎方法、牽き方に道具の仕入れ先と、もちろん味まで。あまりに細かいことを訊いて来るので同業者かと勘ぐったお客は、単なる趣味人だったらしい。味にもうるさそうだが、その描写は的確で、また美味しそうに飲むから、ルーン・ルン (ka6243) とルーネ・ルナ (ka6244) 姉妹の珈琲店には、引き寄せられるように人が集い始めていた。
なにしろこだわりの豆を、丁寧に焙煎して、お客の好みの淹れ方をするのだ。たまに家族連れがうさぎさんにひかれてやってくるが、珈琲が飲めない子供には牛乳もある。
更にルーネのクッキーは無料と言うのも相まって、趣味人が豆を二種類ばかり買い込んで席を立ってからも、ルーンは休む暇なく接客に当たっていた。
しかし。
「レティ、少し手が空いてきたから、よそを覗いて来るといい」
妹がお客達の会話から漏れ聞くあちらこちらの評判を、気にしているのは見逃さない。
ちょうど牛乳が切れたので、買い出しを頼む形で送り出した。
予想外だったのは、妹がうさぎのままで出掛けてしまったことだ。
●謎の夢ミルク
自家製ミルクの販売店員シグリッド=リンドベリ (ka0248)には、今朝から不思議にも思っていることがあった。
「うち、乳の出る動物……いたっけ?」
仮にも自家製を謳うなら、自宅や厩舎にそれらしい動物がいるべきだが、生憎と彼には覚えがない。彼が飼っているのは、本日招き猫として頑張っているシェーラさんとわんこだけだ。
一緒に来ているレイ=フォルゲノフ (ka0183) と黒の夢 (ka0187)も、それらしい動物は飼っていないはず……と、 妙にむちむちした牛着ぐるみのアンノウンと、エルフにしては筋肉質の腕で繊細な造りの焼き菓子の入った籠を手にしたレイとを見やったが、答えは分からない。
ついでに、いつの間にか牛の隣にうさぎがいるのも謎だった。
「こら、なにしてんねん。お客さんやぞ」
「こちら、搾りたてなので数量限定なのですな~」
アンノウンと話していたのは、どうやらお客だったらしい。きっとどこかのお店の人だと彼は納得したが、実は自身もレイに『これぞ勇者というものや!』とびっみょーな色形の布製武器防具を持たされているシグも、牛さんうさぎさんと並んで違和感はない。
それはそれとして、うさぎさんは謎の夢ミルクをお買い上げである。声から察するに妙齢の女性だが、牛さんアンノウンと並んでいると寄ってくるのは子供ばかり。当然シグのところにもやってくる。
そうした子供のうち、悪戯をする子は上手くあしらい、買い物に来た子にはお菓子の入った紙袋に可愛いリボンを結んでやる。
その間にも、あんのうんとうさぎさんとは夢ミルクが何の乳かを話し込んでいるらしい。絶対に教えないのは、よほど貴重な動物なのだろうか。
レイが牛うさぎ問答に『やっぱやめときゃよかったかな』と呟くので、シグは少々不安になったが、
「あのぅ……」
新たなお客さんに、元気な笑顔を向けようとしてちょっと固まった。リアルブルーから転移して来て、色々な服装の人に出会ったが、着物を目深に被ってくる人にお目に掛かるのは初めてかもしれない。
シグはどうやら、かつぎや衣被という言葉は知らないようだ。
やっぱり、味が違う。
「これは山羊の乳だったか?」
「もちろん美味しいですけど、夢ミルクとは味が違いますね~」
なにやら奇妙な格好をした、しかし楽市の中ではあまり目立たない巨漢の青年ゼルド (ka6476) と連れの女性シルク・メイプルリーフ (ka5963) 。手を繋いで割と親しげだが、恋人と言うには他人行儀な雰囲気の二人が飲んでいるのは、目の前で絞ってくれるという近くの農家の山羊の乳だ。
いかにも郷祭らしいと飲んでみたが、楽市で最初に飲んだ夢ミルクとは味が随分違う。あれは牛乳ともなんだか違っていたし、不思議で仕方がない。なんて会話が弾んでいるが、二人の視線は全く合っていない。
なぜかと言えば、次に食べるべきものをお互いに探しているからだ。たまにはのんびりしようと、知人友人が店を出す楽市に来てみたが、なにしろここには誘惑が多過ぎる。
「肉はさっき食べたから、違うものがいいな」
「お野菜も美味しいものが色々ありましたね。他に珍しいものはないでしょうか」
せっかくだから、ここでしか食べられない物を見付けて、食べて、それから締めは薫り高い珈琲にしよう。そこまでは二人の計画はまとまっているのだが……
「あ、今度は目先を変えて向こうの店に行ってみましょう。さ、ゼルドさん、いいですか?」
人波でうっかりはぐれないようにと、手を繋ぐのは当然とばかりに差し出してくるシルクに、ゼルドはせっかくなので記念になるようなお土産も見てみようとは言い出せないでいる。
楽市限定、どこそこ名産、ついでに季節の甘味なんて宣伝文句の店は、一通り制覇したかもしれない。
どこからどう見ても元気少年と落ち着き払った保護者のお姉さんの二人連れ、時音 ざくろ (ka1250) とソティス=アストライア (ka6538) は、両手に大量の荷物を提げていた。荷物の大半は持ち帰りが出来る甘味中心の食べ物で、どちらかと言えばソティスの好物だ。ざくろも嫌いではないが、恋人が食べているところを見ている方が楽しい。
だが、幾ら好きでも。
「これは買い過ぎだと思うぞ」
二人掛かりで運ぶのがやっとの量になって来た荷物に、ソティスがそういうのも無理はない。言われたざくろも、深く頷いた。少しは散財を反省しているかと言えば、
「そうなんだ。これだと手も繋げやしない」
失敗したと、ソティスの言い分とは違う方向で反省しきりである。挙句に、まだ買い物がし足りないと言い始めた。
すでに、二人とも両手いっぱいであるにもかかわらずだ。強いていうなら、確かに二人とも、特にソティスはまだまだ持てる重さには余裕があるが……これ以上、何を買いたいというのだろうか。
疑問と言うより、大丈夫だろうかと心配そうな表情が珍しくも露わな恋人の様子には気付かず、ざくろは買い足りない物にまず『皆へのお土産』をあげた。今まで買ったのは、どうやらソティスの為の物と言うことらしい。
これは喜んでいいのか、それとも少しは注意すべきかと、ソティスが少し悩んでいると続きがあった。
「あと、やっぱりさっき見たあの若葉色のワンピース、リボンが可愛かったし買いたいよね!」
「ちょっと待て!」
甘いもの好きで、ついついデートだからと勧めるざくろにご馳走になり続けて申し訳なく思っていたら、ここぞとばかりに服を贈られた。ソティスが普段はまず着ないフリルたっぷりの服だ。帰ったら着て見せる約束もした。
うっかり甘いものに釣られたと、考えるだけで恥ずかしい。よって、そんな何枚も必要ないとの彼女の主張は、ざくろの耳には届いていない。ならばとソティスが咄嗟に考えたのは、ざくろの男の子回路を刺激しそうな寄り道だ。
ぜひとも遠回りして、その間にあの服が売れていてくれたらいい。
●実演販売中?
東方風の屋台で、酒を飲みながら、肴をつまむ。
「っかー、極楽だねぇ」
先程、ようやっとこれはという代物を見付けて買った茶碗を早速活用して、婆はご機嫌だった。昔のように飲兵衛の本領発揮とはいかないが、ちびちびやるのも楽しいものだ。
それに、目の前ではなにやら珍しいものが繰り広げられていて、まったく飽きない。
「おぬし、こんななまくらを使っていたら怪我をするぞ。研ぎ代? そこの料理の代金を頼む」
昼間はきちんと店構えをして、生活用品から凝った刀剣の類まで刃物中心に商っていたレーヴェ・W・マルバス (ka0276) が、マリィアの店の端に椅子を持ち込んで、鍛冶仕事をやっている。
もちろん理由はあって、彼女の隣で屋台販売という珍しい店を出していた明王院 蔵人 (ka5737) の、その屋台が見本扱いで使用されていた店がここだからだ。明王院が実際の使用状態を見たいという客を連れて行くのに、くっついて来たのである。
レーヴェの傍らにある機動式の照明には、しっかりと値札が付いている。こちらは三割程度が彼女の作で、基本はこれまた明王院と反対隣だったヴァージル・シャーマン (ka6585) が作ったものだ。持ち手などは使い勝手が良く出来ていたが、見た目がいささか武骨だったので、レーヴェが風除け覆いに飾り細工を追加した。
ハンターが作った起動装置の割に、楽市の客層を鑑みてか生活用品が主流のヴァージルだったが、飾り細工を施すことまでは浮かばなかったのだろう。レーヴェの仕事ぶりや明王院の屋台の活用され方を見て勉強するのだと、三人の中では早仕舞いをして追いかけてきたはず……だったが、こちらも店の端で臨時修理工房を開催している。
多分、開催している。
「待て待て、この造りは初めて見るぞ。全部掃除するから、だからばらさせてくれ」
起動装置ではないが、機械式の吊り上げ装置が壊れたと、楽市に出店していた店から頼られたはずのヴァージルは、その機械部分の造りを手持ちの紙に写し始めていた。
「ここは少し違うぞ。釘を使わないでいいように、角の合わせに工夫があるんだ」
「釘を打つと、そこから傷むからのう」
明王院にレーヴェも加わって、ここは直せ、こっちは改良だとやり始めたところに、持ち主がここが不便だなんとかしてくれと口を挟み、その辺りは店か工房か怪しくなってきた。
木材部分の不具合は明王院が手を入れて、金属部分の反りはレーヴェが調整、一式書き留めたヴァージルが他の部分を綺麗に掃除して、三人掛かりで組み立て直す。
「お、吊り具がすんなり動くようになったね」
「それはそうだが…なんかすっきりしないな」
「持ち主の背丈と引き綱の高さがあっていないからだろう。上の鎖を少し縮めてみるか」
鎖と聞いて、ひょいと台に乗って準備万端のレーヴェを、ヴァージルが補助してまた直しを加える。それを見ながら、明王院は屋台にはどういった部分が転用出来るか、また持ち主に合わせて調整が可能かといった説明を始めている。
この調子だと、レーヴェとヴァージルは夕飯代を払ってもらい、明王院は細かい調整可能と示したことで、屋台が一台売れそうだ。
しかし、実はもう数名の応援が彼らにはいたのである。
「屋台って、こうやって二人で並んで座るから、距離が縮まるわよぅ」
「ほっほっ、他の客が来れば詰めねばならんしな」
お客毎に細かいところまで気を配ってすごいなぁと、通りすがりのはずがすっかり屋台のベンチに腰を落ち着けて見学していたざくろとソティスが、マリィアと婆によって『屋台でくっついて座るカップル』に仕立て上げられていたりする。
不思議な味のミルクを飲んで、どうもそこから風向きが変わった気がする。
数量限定の夢ミルクが売り切れて、そのままぞろぞろと皆が流れたのはうさぎさんのお気楽亭。最後のお客と言うことで、なんだか一緒になった桜憐りるか (ka3748)は初対面ばかりの状況に緊張していたが、周りは大して気にしていない。
「コーヒーは、遅くに飲む、と眠れなくなるから良くないと、父が……」
「でしたら、ホットミルクはいかがです?」
普通の牛乳ですとうさぎを脱いだルーネが言う間に、ルーンが小ぶりの鍋に牛乳を注いでいる。
そう言えば自分のところの商品は、結局何だったのかとシグがアンノウンに尋ねようとしたら、
「食べ過ぎじゃないのか、相変わらずだなここは」
「今日はつまみ食いする暇もなかったのでありゅ」
レイがアンノウンのおなかを摘まんでいた。この二人は時々こういうことをするので分からない。
うっかり目にしたりるかなど、真っ赤になっている。シグも助け船が出せるほど女性慣れしておらず、はてさてどうなることかと思われた時。
「おや、また来たね」
「ちゃんとお客を連れてきたよ」
こんばんはとやや遠慮がちにザレムの後ろにくっついて来たのは、アシェ-ルとユキヤだ。どうも艶っぽい女性陣に囲まれて緊張気味のりるかには、親しみやすそうな同年代の登場である。これはシグも同じく。
「何か、お買い物はされ、ました?」
「あんまり可愛くて、一つだけ」
美味しいもの談を始めた青年達の間で、女の子勢はのんびり買い物話に花を咲かせている。
そろそろ楽市も終了時間のはずだが、和喫茶千鳥は全く閉店できずにいた。
鎬鬼は空腹で目が据わってきたし、美風も先程足元がふらついた。風華が給仕に回って、多分これで最後になるはずのお客達の相手をしている。
「いや、ほんとにすまん。つい懐かしくなって」
「それは分かります。どうしても向こうのものが食べたくなる時はありますものね」
二つくらい向こうの通りの珈琲喫茶がまだ大混雑だとかで、空くのを待って一巡りしていたはずのゼルドとシルクが千鳥に足を留めたのだ。正確には、ゼルドが同族の商う東方料理につい気を惹かれたというべきだろう。
シルクはあんみつを珍しげに眺めて、どこから食べようか迷っている風だが、ゼルドはおにぎりと豚汁をがっつり食べている。この後に珈琲の予定だったとは思えないが、故郷の味はまた別腹か。
「ここのお茶も美味しいですね」
抹茶の味に最初は首を傾げたシルクも、すっかり気に入った様子であんみつと交互に口に運んでいる。
と、そこに駆け込んできた影がある。
「まだやってたのー」
「口直しするんダヨ」
「げっ、食欲魔人」
鎬鬼が呟いた相手は、ディーナとパティだった。二人は彼と美風が楽しみにしていたみたらし団子の最後の一皿を、ぺろりと食べてしまった相手である。それは美味しそうに食べてくれたが、彼らの口に入らない事実に変わりはなく。
その二人がまた来たと、眠気と疲れが吹き飛んだ鎬鬼と美風だったが、
「あのネ、すごいお茶を飲んだんダヨ」
「眠気が飛ぶどころか、倒れるかと思ったの」
「あー、あのお茶を飲んだ奴が他にもいたか」
食欲魔人達のことより、蒼牙が両手の盆に山盛りにしてきたおにぎりや料理に目を奪われた。後ろには、マシロビが豚汁の鍋を抱えて来ている。
「もうこれで終わりなので、よろしければ皆さんと一緒に召し上がりましょうかって」
わぁと歓声を上げた給仕組を行儀良く座らせて、風華は先にお客の四人に料理などを取り分けていた。
「確かに眠さは吹き飛びましたけれど……あのお茶はしばらくいいです」
マシロビが誰にともなく口にして、飲んだことがある全員に頷かれたそのお茶の作り手はその頃。
「なんの乳か分からないミルクに、こちらは珈琲。東西の甘味に料理、持ち帰り可能な品物は一通り仕入れてきた。この中に、アデラ茶に合うものはあるだろうか」
あまりの不味さへの探求心に火が点いたネヴェと、アデラ茶でお茶会をするためのお茶請け探しに勤しんでいた。
その筈だったが。
「このお団子とクッキー、すごくおっいしー! ね、これもっと買いに行きましょうっ」
マリルからなぜかメリルに名前が変わったお茶制作者はネヴェを引き摺って、点在するハンター経営の店に突撃を始めていた。
ほんのちょっと、油断しただけだ。
楽市を歩いて歩いて歩き回り、古着を売る店を見るや、片端から目当ての品があるかを尋ねて、小夜が目的の品物を見付けたのは昼を回ってかなりしてからだった。
可愛い可愛い恵の為に、暖かくて丈夫で軽いコートを一枚。本当は何枚でも買ってあげたいところだけれど、恵は一人しかいないのでぐっと我慢。幾つか吟味した中で、一番似合うのを贈ったら、恵がとても喜んでくれたので小夜も満足だったのだ。
歩き回って疲れたろうから、飲み物を買ってくる間、少し待っていてね。
それまでは薄手の上着だった恵を自分の羽織で抱えるようにして歩いていたが、もう一人でも大丈夫と少しだけ目を離したら……
「あれほど、一人で行ったら駄目って言ったのに」
極度の方向音痴なのに、今ひとつ自覚が薄い恵は何処に行っていたものか。小夜が探し当てるのに二時間も掛かってしまった。もう日が暮れそうで、見付からなかったらどうしようと慌てていたものだから、恵に対してなのに小夜も少し口調がきつめ。
「ごめんなさい……びっくりさせたくて」
そんな悪戯をどうしてと、小夜が不審に思ったのは一瞬だ。もう一度ごめんねと繰り返しながら、差し出されたのは揃いの装飾品。
「どうしたの、これ」
「待ってる間に、これをお揃いで買ったって言ってた子達がいて」
コートと羽織はお揃いにならないから、自分が何かあげようと、意を決して一人で訊いた店を探しに出向き、見事に迷子になったのだ。
「これお勧めなの。も一度お店の前に出たら、鬼とエルフのカップルも買ってたし」
だから一緒に着けようと力説する恵の額を、小夜はつんと人差し指で突いて……
それから、恋しい相手を抱きしめた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/16 18:36:38 |
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相談? ゼルド(ka6476) 鬼|20才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/11/15 19:27:07 |