ゲスト
(ka0000)
決別のドワーフ兄弟
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/23 12:00
- 完成日
- 2016/11/30 06:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
アルナス湖から流れるアルナス川の河口付近の山間にある鉱山町『フールディン』。
町で暮らすフルディン族の鉱夫達は新族長のフェグルによる鉄の増産計画で過酷な労働を強いられていた。
しかし。
『鉄の増産によってフルディン族の生活はより良くなる』
皆その言葉を信じて働き、新坑道も完成した。
だが労働環境は改善せず、日々の暮らしも変わらない。
そんな状況に住民達は日々不満を増大させていた。
「フェグルは何を考えておるのか……」
前族長でフェグルの父であるヴィブは住人の不満に対して頭を悩ませていた。
そろそろフェグルが目に見える成果を出すか緩和策を行わないと大問題に発展しかねないからだ。
その時、ドアがノックされた。
「あの……旦那様。おられますか?」
ドアを開けると、家で長らく家政婦兼乳母を勤めているマームが深刻そうな表情で立っていた。
「どうしたマーム?」
「少しお話が……」
「そうか。入りなさい」
「お話しすべきかどうかずいぶんと迷ったのですが……」
部屋に入ったマームはしばらく躊躇った後、重い口を開いた。
「フェグル様は、その……歪虚と通じておられるかもしれません」
「何を馬鹿な! 何を根拠にそんな事を?」
思ってもいない事を言われ、ヴィブは声を荒げた。
「フェグル様がまだ病気で伏せってらした頃、わたくしが夜半にフェグル様に薬をお持ちした時、扉越しでしたが聞いてしまったんです。『分かった。僕を歪虚にしてくれ』とハッキリおっしゃっているのを……」
「なんだと……」
「鍵穴から室内を覗くと、フェグル様が何か影のような物と話しているのが見えました。そしてその影がフェグル様の胸を穿って……」
マームがその時の光景を思い出したのか身震いする。
「そして翌日からフェグル様は健康で力強くなられました」
「そんな、馬鹿な……」
ヴィブは否定したが、声に力がない。
「わたくしも嘘だと信じたいです。ですが……」
「……」
室内に重苦しい沈黙が流れる。
「……よく伝えてくれたマーム。この事はワシに任せてくれ」
翌日、ヴィブはフェグルを訪ねた。
しかし日が落ちてもヴィブは家に帰ってこなかった。
更に翌日、今度はヴィオルがフェグルを訪ねた。
「兄上、父上が昨日から戻らないのだが、何か知らないか?」
「父さんなら旅に出たよ」
「旅?」
「あぁ、族長を僕に譲って身軽になったから、あちこちを回って来ると言っていたよ」
嘘だと分かった。
なぜならヴィオルは父からマームの話を聞いていたからだ。
そして自分が戻らなければフェグルは歪虚である可能性が高いと言っていた。
だから確信した。
兄は歪虚なのだと。
そんな確信などしたくはなかったというのに……。
「……そうですか」
眩暈のする思いを抱えてヴィオルは執務室を後にした。
(どうしてこんな事に……)
自分達の降り注いだ災厄を呪いながら。
その夜、ヴィオルは頭を抱えて悩みこんだ。
歪虚となったフェグルが何を企んでいるかは分からないが、それが町の住人にとって良い事である訳がない。
一刻も早く対処しなければならない。
しかしフェグルが歪虚だという確証はないし証拠もない。
(どうやって証明すればいいのだ? そもそも何故歪虚となった者が町で暮らせているのだ?)
歪虚は常に負のマテリアルで周囲を汚染し続けるため、共にいれば自然と気づけるはずなのである。
(何か理由があるはずだ……)
懊悩するヴィオルの脳裏にクズリ石のネックレスを首に掛けたフェグルの出で立ちが浮かぶ。
(あれか!)
龍鉱石と同じ効果のあるクズリ石で負のマテリアルが周囲に漏れるのを防いでいたのなら辻褄は合った。
翌日、ヴィオルは再びフェグルを訪ねた。
「兄上、今日は剣の稽古をつけていただきたく参上しました」
「剣の稽古?」
「という名目で、前回兄上に負けたのが悔しくてリベンジしたいのです」
「正直なヤツだな。まぁいいだろう」
フェグルは苦笑しながら執務椅子から腰を上げた。
「では町外れの訓練場まで行きましょう」
ヴィオルが促すと、フェグルは全身鎧を着込んだ5人のドワーフを連れてついて来た。
「その者達は?」
「私の近衛だ」
(全身鎧を着た兵など我が軍にいただろうか?)
疑念を抱いたヴィオルは密かに近衛の者達を観察する。
すると全員クズリ石のネックレスを身に着けている事に気づいた。
(まさかこの者達も!?)
戦慄したヴィオルが息を呑む。
「どうしたヴィオル?」
「い、いえ、兄上との稽古を前に緊張しただけです」
嘘や隠し事が得意ではないヴィオルはそう言って何とか誤魔化した。
訓練場に着くと、ここに来るまでの間に自分達を見かけた住人達の口伝で噂を聞きつけたか、それなりの数の観衆が集まっていた。
(あまり集まられると困るのだがな……)
もしフェグルが本当に歪虚だった場合、ここにいる住人達は危険に晒される可能性があった。
一応、確実に信頼できる部下も連れてきているが、その数は少ない。
フェグルが歪虚だと証明できたとしても、フルディン族の私設軍の兵をすぐに族長であるフェグルに反攻させる事は難しいからだ。
そのため足りない分の人員はハンターを雇って補っていた。
ヴィオルとフェグルが木剣を手に、訓練場の中央に立つ。
「いくぞヴィオル」
フェグルが上段から鋭く打ち込んできた。
ヴィオルは剣を掲げて受けたが、やはり重い。
細身のフェグルが打ち出すのは異常とも思える重さだ。
だが前回とは違い、フェグルの剣の重さと速さは分かっている。
どうにか捌き、互角に打ち合えた。
そして鍔迫り合いの形に持ち込む。
木剣を挟んで眼前間近に精悍な兄の顔がある。
歪虚などとは到底思えない。
(どうか……間違いであってくれ!)
ヴィオルは万感の願いを込めて腕を伸ばし、フェグルのクズリ石のネックレスを掴んで引き千切った。
「なに!?」
そして驚くフェグルを体当りして跳ね飛ばし、距離を取る。
「それが狙いだったのかヴィオル。お前にしては知恵を使ったな。それとも父さんに吹き込まれていたのか?」
怒気を纏って睨んでくるフェグルからは負のマテリアルが漂っていた。
生を否定し、全てを滅ぼす禍々しい気配が。
「兄上……」
ヴィオルは愕然とした。
信じたくなかった。
だが厳然たる事実を目の前にしては信じるしかなかった。
「どうして歪虚などに……」
ヴィオルが悲痛な面持ちで尋ねる。
「ヴィオル……健康な身体で生まれたお前に私の気持ちは分からない」
フェグルはそう言い捨てると指笛を鳴らした。
「ヴィオルを捕らえろ!」
そして後ろに控えていた近衛に命じる。
「兄上っ!!」
この瞬間、ヴィオルは自分と兄の運命が完全に分かたれたのだとハッキリ知覚させられた。
「皆逃げろ!! この者達は歪虚だ! 兵は住人を守れ!」
ヴィオルは周囲の者達に警告すると、短剣を抜いて兄だった者に突きつけた。
町で暮らすフルディン族の鉱夫達は新族長のフェグルによる鉄の増産計画で過酷な労働を強いられていた。
しかし。
『鉄の増産によってフルディン族の生活はより良くなる』
皆その言葉を信じて働き、新坑道も完成した。
だが労働環境は改善せず、日々の暮らしも変わらない。
そんな状況に住民達は日々不満を増大させていた。
「フェグルは何を考えておるのか……」
前族長でフェグルの父であるヴィブは住人の不満に対して頭を悩ませていた。
そろそろフェグルが目に見える成果を出すか緩和策を行わないと大問題に発展しかねないからだ。
その時、ドアがノックされた。
「あの……旦那様。おられますか?」
ドアを開けると、家で長らく家政婦兼乳母を勤めているマームが深刻そうな表情で立っていた。
「どうしたマーム?」
「少しお話が……」
「そうか。入りなさい」
「お話しすべきかどうかずいぶんと迷ったのですが……」
部屋に入ったマームはしばらく躊躇った後、重い口を開いた。
「フェグル様は、その……歪虚と通じておられるかもしれません」
「何を馬鹿な! 何を根拠にそんな事を?」
思ってもいない事を言われ、ヴィブは声を荒げた。
「フェグル様がまだ病気で伏せってらした頃、わたくしが夜半にフェグル様に薬をお持ちした時、扉越しでしたが聞いてしまったんです。『分かった。僕を歪虚にしてくれ』とハッキリおっしゃっているのを……」
「なんだと……」
「鍵穴から室内を覗くと、フェグル様が何か影のような物と話しているのが見えました。そしてその影がフェグル様の胸を穿って……」
マームがその時の光景を思い出したのか身震いする。
「そして翌日からフェグル様は健康で力強くなられました」
「そんな、馬鹿な……」
ヴィブは否定したが、声に力がない。
「わたくしも嘘だと信じたいです。ですが……」
「……」
室内に重苦しい沈黙が流れる。
「……よく伝えてくれたマーム。この事はワシに任せてくれ」
翌日、ヴィブはフェグルを訪ねた。
しかし日が落ちてもヴィブは家に帰ってこなかった。
更に翌日、今度はヴィオルがフェグルを訪ねた。
「兄上、父上が昨日から戻らないのだが、何か知らないか?」
「父さんなら旅に出たよ」
「旅?」
「あぁ、族長を僕に譲って身軽になったから、あちこちを回って来ると言っていたよ」
嘘だと分かった。
なぜならヴィオルは父からマームの話を聞いていたからだ。
そして自分が戻らなければフェグルは歪虚である可能性が高いと言っていた。
だから確信した。
兄は歪虚なのだと。
そんな確信などしたくはなかったというのに……。
「……そうですか」
眩暈のする思いを抱えてヴィオルは執務室を後にした。
(どうしてこんな事に……)
自分達の降り注いだ災厄を呪いながら。
その夜、ヴィオルは頭を抱えて悩みこんだ。
歪虚となったフェグルが何を企んでいるかは分からないが、それが町の住人にとって良い事である訳がない。
一刻も早く対処しなければならない。
しかしフェグルが歪虚だという確証はないし証拠もない。
(どうやって証明すればいいのだ? そもそも何故歪虚となった者が町で暮らせているのだ?)
歪虚は常に負のマテリアルで周囲を汚染し続けるため、共にいれば自然と気づけるはずなのである。
(何か理由があるはずだ……)
懊悩するヴィオルの脳裏にクズリ石のネックレスを首に掛けたフェグルの出で立ちが浮かぶ。
(あれか!)
龍鉱石と同じ効果のあるクズリ石で負のマテリアルが周囲に漏れるのを防いでいたのなら辻褄は合った。
翌日、ヴィオルは再びフェグルを訪ねた。
「兄上、今日は剣の稽古をつけていただきたく参上しました」
「剣の稽古?」
「という名目で、前回兄上に負けたのが悔しくてリベンジしたいのです」
「正直なヤツだな。まぁいいだろう」
フェグルは苦笑しながら執務椅子から腰を上げた。
「では町外れの訓練場まで行きましょう」
ヴィオルが促すと、フェグルは全身鎧を着込んだ5人のドワーフを連れてついて来た。
「その者達は?」
「私の近衛だ」
(全身鎧を着た兵など我が軍にいただろうか?)
疑念を抱いたヴィオルは密かに近衛の者達を観察する。
すると全員クズリ石のネックレスを身に着けている事に気づいた。
(まさかこの者達も!?)
戦慄したヴィオルが息を呑む。
「どうしたヴィオル?」
「い、いえ、兄上との稽古を前に緊張しただけです」
嘘や隠し事が得意ではないヴィオルはそう言って何とか誤魔化した。
訓練場に着くと、ここに来るまでの間に自分達を見かけた住人達の口伝で噂を聞きつけたか、それなりの数の観衆が集まっていた。
(あまり集まられると困るのだがな……)
もしフェグルが本当に歪虚だった場合、ここにいる住人達は危険に晒される可能性があった。
一応、確実に信頼できる部下も連れてきているが、その数は少ない。
フェグルが歪虚だと証明できたとしても、フルディン族の私設軍の兵をすぐに族長であるフェグルに反攻させる事は難しいからだ。
そのため足りない分の人員はハンターを雇って補っていた。
ヴィオルとフェグルが木剣を手に、訓練場の中央に立つ。
「いくぞヴィオル」
フェグルが上段から鋭く打ち込んできた。
ヴィオルは剣を掲げて受けたが、やはり重い。
細身のフェグルが打ち出すのは異常とも思える重さだ。
だが前回とは違い、フェグルの剣の重さと速さは分かっている。
どうにか捌き、互角に打ち合えた。
そして鍔迫り合いの形に持ち込む。
木剣を挟んで眼前間近に精悍な兄の顔がある。
歪虚などとは到底思えない。
(どうか……間違いであってくれ!)
ヴィオルは万感の願いを込めて腕を伸ばし、フェグルのクズリ石のネックレスを掴んで引き千切った。
「なに!?」
そして驚くフェグルを体当りして跳ね飛ばし、距離を取る。
「それが狙いだったのかヴィオル。お前にしては知恵を使ったな。それとも父さんに吹き込まれていたのか?」
怒気を纏って睨んでくるフェグルからは負のマテリアルが漂っていた。
生を否定し、全てを滅ぼす禍々しい気配が。
「兄上……」
ヴィオルは愕然とした。
信じたくなかった。
だが厳然たる事実を目の前にしては信じるしかなかった。
「どうして歪虚などに……」
ヴィオルが悲痛な面持ちで尋ねる。
「ヴィオル……健康な身体で生まれたお前に私の気持ちは分からない」
フェグルはそう言い捨てると指笛を鳴らした。
「ヴィオルを捕らえろ!」
そして後ろに控えていた近衛に命じる。
「兄上っ!!」
この瞬間、ヴィオルは自分と兄の運命が完全に分かたれたのだとハッキリ知覚させられた。
「皆逃げろ!! この者達は歪虚だ! 兵は住人を守れ!」
ヴィオルは周囲の者達に警告すると、短剣を抜いて兄だった者に突きつけた。
リプレイ本文
ヴィオルの警告を聞いても観戦していた住人達は不思議そうな顔をして戸惑うだけで逃げようとはしなかった。
住人達は歪虚は人ならざる姿をした物しか知らず、目の前の近衛兵やフェグルを歪虚と関連づける事ができなかったからだ。
保・はじめ(ka5800)は覚醒変化して青白い肌と牙と角を晒した。
「わっ! 何この人?」
「……鬼?」
鬼を見た事のない住人が驚いて保に注目する。
「僕は覚醒者でハンターです。ここに歪虚が迫ってきているんで早く逃げて下さい」
保は混乱防止のためにやや嘘を交えつつ避難を促した。
「は、はい!」
すると住人達は指示された方に逃げて始めてくれる。
それを見届けた保は符を抜いて結界を張り、フェグルと近衛兵達を『生命感知』で視た。
フェグルと近衛からは通常の生命とは違う負の生体反応が感じられる。
「フェグルさんも近衛の兵士も全員歪虚です!」
それを聞いたコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は胸を突かれた。
(また家族の命を歪虚に奪われた犠牲者が……)
コーネリアも妹の命を歪虚を奪われた者だからだ。
(今のヴィオルの心境はかつての私と同じだろう。いや、兄が歪虚化している分私以上かもしれない)
ヴィオルの心情を思うと心が痛んだ。
(だが歪虚になった以上、二度と元には戻らない。救いたければ滅するしかない。同情している暇などないし、感傷が入る余地は皆無。事が大きくなる前に容赦なく葬る!)
コーネリアは背負っていたアサルトライフル「フロガピレイン」を掴んで構えた。
「あの頃と……」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)の脳裏には自分の両親が堕ちて自分を殺そうとした時の光景が蘇っていた。
「アルマ!」
ミリア・エインズワース(ka1287)がアルマの背中を叩く。
それで意識がハッキリした。
「大丈夫か?」
「……はい。なんともないです」
本当になんともなくなっており、妻の顔が頼もしく見える。
「なら行くぞ。調査や手心なんか関係ない。今この状況を最速で片づける」
「はい、ミリア!」
ミリアはヴィオルの元に向かって駆け出していった。
2人の友人であるジョージ・ユニクス(ka0442)もミリアと並んで走り出す。
「家族を裏切って堕落者堕ち……だからこそ赦せない、よ」
ジョージの目には怒りが渦巻いていた。
堕落者に堕ちた父への復讐心が全ての中心にあったジョージだが、今は護る為の強さを考え始めていたからだ。
クオン・サガラ(ka0018)も敵を狙いやすい位置取りをするため移動を始める。
(フェグルさんが自らの意志で堕落者となったのなら、それは人間への反逆であり、基本的には討伐すべきモノなので……何とかします)
フェグルは腕を掲げ、向かってくるミリアとジョージに掌を向けた。
すると2人の周囲が青白い雲に包まれる。
「これは!」
「スリープクラウド!」
2人は咄嗟に意識を強く持って集中する。
だが意識を寸断するような強烈な眠気には抗えず、その場に倒れ伏した。
「兄……上……」
ヴィオルも雲に巻き込まれて昏倒した
倒れた3人に5人の近衛が群がってくる。
「マズイ!」
雲に巻き込まれたが何とか抵抗できたサガラは3人に向かって駆け出した。
「ミリア! ジョージ君!」
アルマは叫びながら『狂蒼極』を発動。左胸に蒼い炎の幻影が燃え上がる。
それと同時に『紺碧の流星』も発動。目の前に光でできた三角形が出現する。
狙いはフェグルと3人に迫る近衛の最前列の2人。
青い光が流星のごとく走り、近衛の1人を貫いた。
その一撃で近衛は塵と化す。
だがフェグルともう1人の近衛には避けられた。
「やらせるものか!」
コーネリアは近衛達の中心にアサルトライフルを向けて『威嚇射撃』で弾幕を張る。
猛烈な銃撃で3人の近衛の足が止まったが、アルマの魔法を避けた近衛は弾幕を抜け、ミリアとジョーシに迫り、ハルバードを構えた。
「間に合えー!」
サガラは2人と近衛の間に割って入ると突き出されたハルバードを魔杖「スキールニル」で受け止めた。
だが勢いを殺しきれずに押され、刃の先がサガラの胸に突き刺さる。
「ぐぅ……」
サガラは歯を食いしばって刃を押しとどめながら足で何とか2人を蹴って眠りから覚ます。
近衛は2人が起きた事に気づき、一旦サガラから距離を取った。
「すまない」
「不覚を取った」
2人は謝罪しながら状況を確認する。
するとミリアは倒れているヴィオルに気づいた。
「いえ。それよりコイツ、アルマさんの魔法もコーネリアさんの弾も避けました。たぶん保さんの言ってた甲冑歪虚です」
「ジョージ、そいつは任せた。僕はヴィオルを助けに行く」
「任された!」
ジョージは聖剣「アスカロン」で甲冑歪虚に斬りかかり、ミリアはヴィオルの元に走った。
「どうやら一番厄介なのは君のようですね」
フェグルは掌をアルマに向けると『ブリザード』を発動。
アルマを中心に冷気の嵐が吹き荒れ、近くにいたコーネリアと保も巻き込まれた。
急激に冷やされた身体は凍傷にかかり、全身を刺すような痛みに襲われる。
更に急な体温低下で体力もごっそり奪われた。
「……耐えたか」
3人とも酷いダメージを受けたが何とか立っており、まだ戦う事もできる状態だった。
ただしコーネリアは『氷結』により身体が凍りついており、普段通りには戦えそうにない。
「人間を捨てるなど無様だな。歪虚化してまで貴様は何を望む?」
コーネリアは時間稼ぎの意味も込めて知りたかった事をフェグルに尋ねた。
時間さえかければレジストで『氷結』から回復できるからだ。
「僕の望みは昔からたった1つです。それを叶えるために僕は歪虚と取引したのですよ」
「その望みとは何だ?」
「アナタに教えるような事ではありませんよ」
「フェグルさん。ヴィオルさんをどうするおつもりですー?」
今度はアルマが尋ねた。
「私の正体を知られてしまいましたからね。然るべき場所に行ってもらいますよ」
「僕の両親、今のあなたと同じなんです。……堕ちて、僕を殺そうとしたですよー」
「そうだったのですか……」
フェグルは嘘か誠か同情の目を向けてきた。
「あなたも同じことをする……いえ。した、です? それなら、僕は黙っているわけにはいかないです」
「私を殺しますか? ですが僕はまだ死ぬ訳にはいきません」
(堕ちて家族を殺すならば、何としても止めなければならない。何より……)
先程ミリアとジョージが倒れた光景が目に浮かぶ。
あれがもし眠ったのではなく攻撃魔法よって命を奪われた光景だったら。
もし眠っているところを刃で貫かれて殺されていたら。
もしそれらが現実になったなら、アルマは腹の底から湧き上がる激しい殺意を抑える事はできないだろう。
「ね、フェグルさん。僕、知ってます。覚えました。――僕の大事な人達にひどい事する悪いのは、全部先に僕が燃やし(殺し)ちゃえばいいんですよね?」
それに近い殺意を抱きながらアルマはフェグルに向かって駆け出した。
このまま固まっていたら3人共々殺られてしまうからだ。
コーネリアと保もそれは分かっており、それぞれ一定の距離を取る。
「まずは数を減らす」
保は符を抜くと『風雷陣』を発動。残っている近衛3人を狙って稲妻を放った。
それと同時にサガラも近衛3人に『デルタレイ』を放つ。
異なる角度から放たれてきた攻撃に近衛達は対処しきれず、稲妻を浴びながら光に撃ち抜かれた。
そこにミリアが『心の刃』を発動させながら突進。
「どりゃあぁーー!!」
『薙ぎ払い』で3人まとめて文字通り薙ぎ払った。
斬魔刀「祢々切丸」の巨大な刃は近衛の鎧を断ち、肉を裂き、負のマテリアルを潰し、3人まとめて消滅させる。
その頃ジョージは甲冑歪虚と剣戟を繰り広げていた。
ハルバードをシールド「セラフィム・アッシュ」で防ぎ、聖剣で斬りかかるがハルバードの柄で弾かれる。
甲冑歪虚は後ろに退がりつつハルバードで突いてくる。
ジョージは聖剣で受け流しつつ1歩踏み込んでハルバードの間合いに内に入り『迎賓の帝剣』を発動。
心臓の辺りを狙って聖剣を鎧に突き刺した。
確かな手応えを感じたが、甲冑歪虚は構わずハルバードを掲げ持ち、ジョージの背中に刃を突き立ててくる。
ジョージは『鎧受け』を発動し、刃が当たる直前に全身甲冑「ファーヴニル」の最も硬い部分で受けて弾いた。
『!?』
甲冑歪虚が動揺したのが伝わってくる。
「先祖伝来のファーヴニルはその程度の刃じゃ貫けない!」
ジョージは『心の刃』を発動させつつ、まだ刺さったままの聖剣に力込めて振り抜く。
聖剣の刃は甲冑歪虚の身体を引き裂いて脇腹から抜けた。
ジョージはそこから聖剣の刃を返し、先程斬った箇所を斬り上げる。
「滅びろー!」
傷跡を再び刃が走り、鎧と肉を断って脇の下を抜ける。
身体を両断された甲冑歪虚は塵となって霧散していった。
アルマは駆けながらフェグルに『紺碧の流星』を放つ。
だがフェグルは避けて再び『ブリザード』を放ってきた。
アルマは身を投げ出すように跳び、地面で受け身を取って前転。辛くも猛吹雪から逃れる。
しかし次は避けられる自信はないし、後1撃でも喰らえば耐えられないだろう。
フェグルの掌がアルマに向けられる。
だがフェグルに冷気を纏った弾丸が飛来してきた。
『凍結』から回復したコーネリアが『フローズンパニッシャー』を放ったのだ。
フェグルは身を反らしてギリギリ避けた。
しかしその隙を逃さずミリアがフェグルに突進する。
フェグルはアルマに向けていた掌をミリアに向け直して『ブリザード』を放つ。
ミリアは極寒に晒され、凍てつく寒さに身体が悲鳴を上げる。
「この程度で僕を止められるものかっ!」
だがミリアは構わず斬魔刀でフェグルを叩っ斬った。
フェグルは木剣を掲げて受ける。
しかし木剣で斬魔刀とミリアの膂力を受け止めきれる訳がなく、木刀はたやすく両断され、身体も斬り裂かれる。
「今だアルマ!」
ミリアの声に応じてアルマが『紺碧の流星』を放つ。
飛来した青い流星の光はフェグルの身体を撃ち抜き、胸に伽藍の空洞を開けた。
「僕は……まだ死ぬ訳には……。――を守るため……」
フェグルが何か呟きながら胸の穴を抑えてよろめく。
「悪いが人間も歪虚も関係ない。アンタにゃ倒される理由がある」
ミリアがフェグルを睥睨して告げる
フェグルは少し淋しげな、それでいて何かを諦めたような表情になり、その場に倒れ伏した。
そしてその体は手足の先から塵と化し始める。
目を覚ましたヴィオルが目にしたのは塵となり始めている兄の姿だった。
「兄上!」
ヴィオルはフェグルに駆け寄り、その身を抱き起こす。
フェグルの手足はもう完全に塵と化していた。
「どうしてなのですか兄上……。歪虚となってこんな死に様を晒す事が兄上の望みだったのですかっ!?」
必死の形相で尋ねてくるヴィオルに、フェグルは何故かどこか満足そうな笑みを浮かべた。
「ヴィオル……僕にできるのはここまでだ」
「それはどういう意味で……」
「フルディン族を頼む」
それがフェグルの最後の言葉となった。
フェグルの身体は完全に塵と化し、風に吹かれてヴィオルの腕の中から散ってゆく。
「あ……あにうえぇーーーー!!」
足から力が抜けたのかヴィオルはその場に膝をつき、口から絶叫が放ち、瞳から滂沱の涙を溢れさせた。
ハンター達も沈痛な面持ちでヴィオルを見る。
「こんな事を言っても何の慰めにもならないでしょうが……。堕ちた者は人の姿をしているとはいっても見かけ通りではなく、人とは限りなく遠い代物……」
そうしてサガラがヴィオルに話しかけている最中、空から何かの羽音が聞こえてきた。
見上げると、3匹のワイバーンが飛来して来るのが見える。
「ワイバーン!」
「フェグルの指笛はこれを呼ぶためのものか」
身構えるハンター達にワイバーンは足で掴んでいた何かを落としてきた。
コーネリアがアサルトライフルを構えて落下物に狙いを定める。
「誰の許しを得て私の頭上を飛んでいる? 無礼者が!」
そして『高加速射撃』を発動し、最大射程を伸ばして発砲。銃弾に撃ち抜かれた落下物が爆発する。
「爆弾ですかー」
「撃ち落とせアルマ」
アルマは爆弾が『紺碧の流星』の射程に入ると流星の光で撃ち抜いて爆散させる。
爆弾はまだ2個残っていたが、地面に落ちる前にコーネリアが撃ち抜いて処理し、空一面が爆発の煙に包まれた。
その煙を突き抜けてワイバーンが強襲してくる。
保はタイミングを見計らって符を放ち、降下中のワイバーンの周囲に結界を張ると『五色光符陣』を発動。
結果内に満ちた光がワイバーンの身体と目を焼く。
身体が焼け爛れて目の眩んだワイバーンはてんでバラバラに乱れ飛び始めた。
「翼をもぎ取って玩具にしてやる!」
コーネリアはアサルトライフルの銃底を肩に当てて銃身を固定すると体の向きを変えてワイバーンをスコープに収め続けて銃を乱射。
銃弾で被膜と腕をズタズタにされたワイバーンは揚力を失って落下し、地面に激突する。
そこにミリアとジョージが駆けつけてトドメを刺した。
「ちょっと、あまり動かないでくださいよ」
サガラが慎重に狙いすまして『ファイアスローワー』を放つ。
本当は2~3匹巻き込みたかったが、当たったのは1匹だけだった。
保は確実に数を減らすため、その1匹に『風雷陣』を放ってトドメを刺す。
「逃げた観客の方に行かれたら厄介ですからね」
残りの1匹もアルマの『紺碧の流星』に撃ち抜かれて絶命した。
ワイバーンを倒し終えたハンター達はしばらく周囲や上空を警戒していたが、もう敵が現れる様子はなかった。
なので改めてヴィオルに目を向ける。
ヴィオルは泣き止んではいたが、無表情でフェグルが消えた場所に座り込んでいた。
「あんな形で家族を失ったんだ。無理もない……」
コーネリアには今のヴィオルの気持ちが痛いほど分かった。
しかし誰も掛ける言葉がなく、ハンター達にはヴィオルが自らの足で立ち上がるまで見守る事しかできなかった。
(それにしてもあっさり堕落者にしたものです。彼の場合は歪虚化してからが本番だったという事でしょうか?)
保はフェグルを堕落者にした張本人だろう甲冑歪虚の事に考えを巡らせた。
(前族長が行方不明だそうですし、その体も歪虚に使われている可能性がありますね。厄介な事です……。
そして今回の甲冑は今までと形状が違いましたし、復活もしませんでした。本体の正体もまだ謎ですし、復活の条件とも何か関係があるのでしょうか……)
情報は増えてきたが確証を得られるものはまだ少ない。
確かなのは、歪虚はフェグルを失ったとしてもこの町への干渉を止める事はないだろうという事だけだった。
住人達は歪虚は人ならざる姿をした物しか知らず、目の前の近衛兵やフェグルを歪虚と関連づける事ができなかったからだ。
保・はじめ(ka5800)は覚醒変化して青白い肌と牙と角を晒した。
「わっ! 何この人?」
「……鬼?」
鬼を見た事のない住人が驚いて保に注目する。
「僕は覚醒者でハンターです。ここに歪虚が迫ってきているんで早く逃げて下さい」
保は混乱防止のためにやや嘘を交えつつ避難を促した。
「は、はい!」
すると住人達は指示された方に逃げて始めてくれる。
それを見届けた保は符を抜いて結界を張り、フェグルと近衛兵達を『生命感知』で視た。
フェグルと近衛からは通常の生命とは違う負の生体反応が感じられる。
「フェグルさんも近衛の兵士も全員歪虚です!」
それを聞いたコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は胸を突かれた。
(また家族の命を歪虚に奪われた犠牲者が……)
コーネリアも妹の命を歪虚を奪われた者だからだ。
(今のヴィオルの心境はかつての私と同じだろう。いや、兄が歪虚化している分私以上かもしれない)
ヴィオルの心情を思うと心が痛んだ。
(だが歪虚になった以上、二度と元には戻らない。救いたければ滅するしかない。同情している暇などないし、感傷が入る余地は皆無。事が大きくなる前に容赦なく葬る!)
コーネリアは背負っていたアサルトライフル「フロガピレイン」を掴んで構えた。
「あの頃と……」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)の脳裏には自分の両親が堕ちて自分を殺そうとした時の光景が蘇っていた。
「アルマ!」
ミリア・エインズワース(ka1287)がアルマの背中を叩く。
それで意識がハッキリした。
「大丈夫か?」
「……はい。なんともないです」
本当になんともなくなっており、妻の顔が頼もしく見える。
「なら行くぞ。調査や手心なんか関係ない。今この状況を最速で片づける」
「はい、ミリア!」
ミリアはヴィオルの元に向かって駆け出していった。
2人の友人であるジョージ・ユニクス(ka0442)もミリアと並んで走り出す。
「家族を裏切って堕落者堕ち……だからこそ赦せない、よ」
ジョージの目には怒りが渦巻いていた。
堕落者に堕ちた父への復讐心が全ての中心にあったジョージだが、今は護る為の強さを考え始めていたからだ。
クオン・サガラ(ka0018)も敵を狙いやすい位置取りをするため移動を始める。
(フェグルさんが自らの意志で堕落者となったのなら、それは人間への反逆であり、基本的には討伐すべきモノなので……何とかします)
フェグルは腕を掲げ、向かってくるミリアとジョージに掌を向けた。
すると2人の周囲が青白い雲に包まれる。
「これは!」
「スリープクラウド!」
2人は咄嗟に意識を強く持って集中する。
だが意識を寸断するような強烈な眠気には抗えず、その場に倒れ伏した。
「兄……上……」
ヴィオルも雲に巻き込まれて昏倒した
倒れた3人に5人の近衛が群がってくる。
「マズイ!」
雲に巻き込まれたが何とか抵抗できたサガラは3人に向かって駆け出した。
「ミリア! ジョージ君!」
アルマは叫びながら『狂蒼極』を発動。左胸に蒼い炎の幻影が燃え上がる。
それと同時に『紺碧の流星』も発動。目の前に光でできた三角形が出現する。
狙いはフェグルと3人に迫る近衛の最前列の2人。
青い光が流星のごとく走り、近衛の1人を貫いた。
その一撃で近衛は塵と化す。
だがフェグルともう1人の近衛には避けられた。
「やらせるものか!」
コーネリアは近衛達の中心にアサルトライフルを向けて『威嚇射撃』で弾幕を張る。
猛烈な銃撃で3人の近衛の足が止まったが、アルマの魔法を避けた近衛は弾幕を抜け、ミリアとジョーシに迫り、ハルバードを構えた。
「間に合えー!」
サガラは2人と近衛の間に割って入ると突き出されたハルバードを魔杖「スキールニル」で受け止めた。
だが勢いを殺しきれずに押され、刃の先がサガラの胸に突き刺さる。
「ぐぅ……」
サガラは歯を食いしばって刃を押しとどめながら足で何とか2人を蹴って眠りから覚ます。
近衛は2人が起きた事に気づき、一旦サガラから距離を取った。
「すまない」
「不覚を取った」
2人は謝罪しながら状況を確認する。
するとミリアは倒れているヴィオルに気づいた。
「いえ。それよりコイツ、アルマさんの魔法もコーネリアさんの弾も避けました。たぶん保さんの言ってた甲冑歪虚です」
「ジョージ、そいつは任せた。僕はヴィオルを助けに行く」
「任された!」
ジョージは聖剣「アスカロン」で甲冑歪虚に斬りかかり、ミリアはヴィオルの元に走った。
「どうやら一番厄介なのは君のようですね」
フェグルは掌をアルマに向けると『ブリザード』を発動。
アルマを中心に冷気の嵐が吹き荒れ、近くにいたコーネリアと保も巻き込まれた。
急激に冷やされた身体は凍傷にかかり、全身を刺すような痛みに襲われる。
更に急な体温低下で体力もごっそり奪われた。
「……耐えたか」
3人とも酷いダメージを受けたが何とか立っており、まだ戦う事もできる状態だった。
ただしコーネリアは『氷結』により身体が凍りついており、普段通りには戦えそうにない。
「人間を捨てるなど無様だな。歪虚化してまで貴様は何を望む?」
コーネリアは時間稼ぎの意味も込めて知りたかった事をフェグルに尋ねた。
時間さえかければレジストで『氷結』から回復できるからだ。
「僕の望みは昔からたった1つです。それを叶えるために僕は歪虚と取引したのですよ」
「その望みとは何だ?」
「アナタに教えるような事ではありませんよ」
「フェグルさん。ヴィオルさんをどうするおつもりですー?」
今度はアルマが尋ねた。
「私の正体を知られてしまいましたからね。然るべき場所に行ってもらいますよ」
「僕の両親、今のあなたと同じなんです。……堕ちて、僕を殺そうとしたですよー」
「そうだったのですか……」
フェグルは嘘か誠か同情の目を向けてきた。
「あなたも同じことをする……いえ。した、です? それなら、僕は黙っているわけにはいかないです」
「私を殺しますか? ですが僕はまだ死ぬ訳にはいきません」
(堕ちて家族を殺すならば、何としても止めなければならない。何より……)
先程ミリアとジョージが倒れた光景が目に浮かぶ。
あれがもし眠ったのではなく攻撃魔法よって命を奪われた光景だったら。
もし眠っているところを刃で貫かれて殺されていたら。
もしそれらが現実になったなら、アルマは腹の底から湧き上がる激しい殺意を抑える事はできないだろう。
「ね、フェグルさん。僕、知ってます。覚えました。――僕の大事な人達にひどい事する悪いのは、全部先に僕が燃やし(殺し)ちゃえばいいんですよね?」
それに近い殺意を抱きながらアルマはフェグルに向かって駆け出した。
このまま固まっていたら3人共々殺られてしまうからだ。
コーネリアと保もそれは分かっており、それぞれ一定の距離を取る。
「まずは数を減らす」
保は符を抜くと『風雷陣』を発動。残っている近衛3人を狙って稲妻を放った。
それと同時にサガラも近衛3人に『デルタレイ』を放つ。
異なる角度から放たれてきた攻撃に近衛達は対処しきれず、稲妻を浴びながら光に撃ち抜かれた。
そこにミリアが『心の刃』を発動させながら突進。
「どりゃあぁーー!!」
『薙ぎ払い』で3人まとめて文字通り薙ぎ払った。
斬魔刀「祢々切丸」の巨大な刃は近衛の鎧を断ち、肉を裂き、負のマテリアルを潰し、3人まとめて消滅させる。
その頃ジョージは甲冑歪虚と剣戟を繰り広げていた。
ハルバードをシールド「セラフィム・アッシュ」で防ぎ、聖剣で斬りかかるがハルバードの柄で弾かれる。
甲冑歪虚は後ろに退がりつつハルバードで突いてくる。
ジョージは聖剣で受け流しつつ1歩踏み込んでハルバードの間合いに内に入り『迎賓の帝剣』を発動。
心臓の辺りを狙って聖剣を鎧に突き刺した。
確かな手応えを感じたが、甲冑歪虚は構わずハルバードを掲げ持ち、ジョージの背中に刃を突き立ててくる。
ジョージは『鎧受け』を発動し、刃が当たる直前に全身甲冑「ファーヴニル」の最も硬い部分で受けて弾いた。
『!?』
甲冑歪虚が動揺したのが伝わってくる。
「先祖伝来のファーヴニルはその程度の刃じゃ貫けない!」
ジョージは『心の刃』を発動させつつ、まだ刺さったままの聖剣に力込めて振り抜く。
聖剣の刃は甲冑歪虚の身体を引き裂いて脇腹から抜けた。
ジョージはそこから聖剣の刃を返し、先程斬った箇所を斬り上げる。
「滅びろー!」
傷跡を再び刃が走り、鎧と肉を断って脇の下を抜ける。
身体を両断された甲冑歪虚は塵となって霧散していった。
アルマは駆けながらフェグルに『紺碧の流星』を放つ。
だがフェグルは避けて再び『ブリザード』を放ってきた。
アルマは身を投げ出すように跳び、地面で受け身を取って前転。辛くも猛吹雪から逃れる。
しかし次は避けられる自信はないし、後1撃でも喰らえば耐えられないだろう。
フェグルの掌がアルマに向けられる。
だがフェグルに冷気を纏った弾丸が飛来してきた。
『凍結』から回復したコーネリアが『フローズンパニッシャー』を放ったのだ。
フェグルは身を反らしてギリギリ避けた。
しかしその隙を逃さずミリアがフェグルに突進する。
フェグルはアルマに向けていた掌をミリアに向け直して『ブリザード』を放つ。
ミリアは極寒に晒され、凍てつく寒さに身体が悲鳴を上げる。
「この程度で僕を止められるものかっ!」
だがミリアは構わず斬魔刀でフェグルを叩っ斬った。
フェグルは木剣を掲げて受ける。
しかし木剣で斬魔刀とミリアの膂力を受け止めきれる訳がなく、木刀はたやすく両断され、身体も斬り裂かれる。
「今だアルマ!」
ミリアの声に応じてアルマが『紺碧の流星』を放つ。
飛来した青い流星の光はフェグルの身体を撃ち抜き、胸に伽藍の空洞を開けた。
「僕は……まだ死ぬ訳には……。――を守るため……」
フェグルが何か呟きながら胸の穴を抑えてよろめく。
「悪いが人間も歪虚も関係ない。アンタにゃ倒される理由がある」
ミリアがフェグルを睥睨して告げる
フェグルは少し淋しげな、それでいて何かを諦めたような表情になり、その場に倒れ伏した。
そしてその体は手足の先から塵と化し始める。
目を覚ましたヴィオルが目にしたのは塵となり始めている兄の姿だった。
「兄上!」
ヴィオルはフェグルに駆け寄り、その身を抱き起こす。
フェグルの手足はもう完全に塵と化していた。
「どうしてなのですか兄上……。歪虚となってこんな死に様を晒す事が兄上の望みだったのですかっ!?」
必死の形相で尋ねてくるヴィオルに、フェグルは何故かどこか満足そうな笑みを浮かべた。
「ヴィオル……僕にできるのはここまでだ」
「それはどういう意味で……」
「フルディン族を頼む」
それがフェグルの最後の言葉となった。
フェグルの身体は完全に塵と化し、風に吹かれてヴィオルの腕の中から散ってゆく。
「あ……あにうえぇーーーー!!」
足から力が抜けたのかヴィオルはその場に膝をつき、口から絶叫が放ち、瞳から滂沱の涙を溢れさせた。
ハンター達も沈痛な面持ちでヴィオルを見る。
「こんな事を言っても何の慰めにもならないでしょうが……。堕ちた者は人の姿をしているとはいっても見かけ通りではなく、人とは限りなく遠い代物……」
そうしてサガラがヴィオルに話しかけている最中、空から何かの羽音が聞こえてきた。
見上げると、3匹のワイバーンが飛来して来るのが見える。
「ワイバーン!」
「フェグルの指笛はこれを呼ぶためのものか」
身構えるハンター達にワイバーンは足で掴んでいた何かを落としてきた。
コーネリアがアサルトライフルを構えて落下物に狙いを定める。
「誰の許しを得て私の頭上を飛んでいる? 無礼者が!」
そして『高加速射撃』を発動し、最大射程を伸ばして発砲。銃弾に撃ち抜かれた落下物が爆発する。
「爆弾ですかー」
「撃ち落とせアルマ」
アルマは爆弾が『紺碧の流星』の射程に入ると流星の光で撃ち抜いて爆散させる。
爆弾はまだ2個残っていたが、地面に落ちる前にコーネリアが撃ち抜いて処理し、空一面が爆発の煙に包まれた。
その煙を突き抜けてワイバーンが強襲してくる。
保はタイミングを見計らって符を放ち、降下中のワイバーンの周囲に結界を張ると『五色光符陣』を発動。
結果内に満ちた光がワイバーンの身体と目を焼く。
身体が焼け爛れて目の眩んだワイバーンはてんでバラバラに乱れ飛び始めた。
「翼をもぎ取って玩具にしてやる!」
コーネリアはアサルトライフルの銃底を肩に当てて銃身を固定すると体の向きを変えてワイバーンをスコープに収め続けて銃を乱射。
銃弾で被膜と腕をズタズタにされたワイバーンは揚力を失って落下し、地面に激突する。
そこにミリアとジョージが駆けつけてトドメを刺した。
「ちょっと、あまり動かないでくださいよ」
サガラが慎重に狙いすまして『ファイアスローワー』を放つ。
本当は2~3匹巻き込みたかったが、当たったのは1匹だけだった。
保は確実に数を減らすため、その1匹に『風雷陣』を放ってトドメを刺す。
「逃げた観客の方に行かれたら厄介ですからね」
残りの1匹もアルマの『紺碧の流星』に撃ち抜かれて絶命した。
ワイバーンを倒し終えたハンター達はしばらく周囲や上空を警戒していたが、もう敵が現れる様子はなかった。
なので改めてヴィオルに目を向ける。
ヴィオルは泣き止んではいたが、無表情でフェグルが消えた場所に座り込んでいた。
「あんな形で家族を失ったんだ。無理もない……」
コーネリアには今のヴィオルの気持ちが痛いほど分かった。
しかし誰も掛ける言葉がなく、ハンター達にはヴィオルが自らの足で立ち上がるまで見守る事しかできなかった。
(それにしてもあっさり堕落者にしたものです。彼の場合は歪虚化してからが本番だったという事でしょうか?)
保はフェグルを堕落者にした張本人だろう甲冑歪虚の事に考えを巡らせた。
(前族長が行方不明だそうですし、その体も歪虚に使われている可能性がありますね。厄介な事です……。
そして今回の甲冑は今までと形状が違いましたし、復活もしませんでした。本体の正体もまだ謎ですし、復活の条件とも何か関係があるのでしょうか……)
情報は増えてきたが確証を得られるものはまだ少ない。
確かなのは、歪虚はフェグルを失ったとしてもこの町への干渉を止める事はないだろうという事だけだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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打倒!偽兵士 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561) 人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/11/23 00:15:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/19 17:38:36 |