ゲスト
(ka0000)
夢と希望の? 演劇鑑賞会
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/24 19:00
- 完成日
- 2016/11/28 06:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ヤマシナ学院、と呼ばれるその学校では、様々なイベントが催される。
そもそもリゼリオにあるヤマシナ学院といえば、一部では有名な学校だ――生徒の自主性を尊重し、リアルブルーにより近い形式でのカリキュラム作成などにも評価がある。
特に、先にも示した多種多様なイベントは、生徒の自主性矢感受性をのばす為の行事といって他ならず、最近着実に生徒数を増やしつつあるのだという。
そのヤマシナ学院から、ハンターオフィスに連絡があったのは、数日前。
『ハンターの皆さんに、お芝居をしていただけないでしょうか?』
●
なんでも学院長であるヤマシナ氏の意見では、演劇などを鑑賞することによって、生徒達の想像力を養う効果があるのだとか。
「でも、ハンターさんたちにお芝居って、それもまた急な話ですね?」
オペレーターの一人がそういうと、
「いや、リアルブルーでは結構こういう情操教育としての観劇会はあるからなぁ。ハンターの方が時間の拘束という意味での身動きもとれやすいし、人生経験なんかを含ませることもできるだろうし……逆に合ってるかも知れない」
リアルブルー出身の先輩格オペレーターが、そう言ってけろりと笑う。
「そう言えば……これ、題材は自由なんですかね?」
「特に指定はなかったな……でも折角なら、こっちからすこし、提示しておくか。院長にも、その旨はすぐに伝えるから」
そんなこんなで。
『ヤマシナ学院の演芸鑑賞会』にて役者募集。
題材は、『リアルブルーのおとぎ話』。
さあ、我こそと思う方。
是非是非、参加をお待ちしております。
ヤマシナ学院、と呼ばれるその学校では、様々なイベントが催される。
そもそもリゼリオにあるヤマシナ学院といえば、一部では有名な学校だ――生徒の自主性を尊重し、リアルブルーにより近い形式でのカリキュラム作成などにも評価がある。
特に、先にも示した多種多様なイベントは、生徒の自主性矢感受性をのばす為の行事といって他ならず、最近着実に生徒数を増やしつつあるのだという。
そのヤマシナ学院から、ハンターオフィスに連絡があったのは、数日前。
『ハンターの皆さんに、お芝居をしていただけないでしょうか?』
●
なんでも学院長であるヤマシナ氏の意見では、演劇などを鑑賞することによって、生徒達の想像力を養う効果があるのだとか。
「でも、ハンターさんたちにお芝居って、それもまた急な話ですね?」
オペレーターの一人がそういうと、
「いや、リアルブルーでは結構こういう情操教育としての観劇会はあるからなぁ。ハンターの方が時間の拘束という意味での身動きもとれやすいし、人生経験なんかを含ませることもできるだろうし……逆に合ってるかも知れない」
リアルブルー出身の先輩格オペレーターが、そう言ってけろりと笑う。
「そう言えば……これ、題材は自由なんですかね?」
「特に指定はなかったな……でも折角なら、こっちからすこし、提示しておくか。院長にも、その旨はすぐに伝えるから」
そんなこんなで。
『ヤマシナ学院の演芸鑑賞会』にて役者募集。
題材は、『リアルブルーのおとぎ話』。
さあ、我こそと思う方。
是非是非、参加をお待ちしております。
リプレイ本文
●
ヤマシナ学院はその日、ざわざわと賑わっていた。
講堂に集められた生徒達が、ひそひそと、楽しそうに話し合っている。そのさざ波が、少しずつ大きくなって、そして学院全体を覆うような錯覚に襲われるのだ。
熱気を孕んだその様子は、演者たるハンターたちにも伝わってくる。誰かが、こくりと生唾を飲み込んだ。
それでも時間はやってくる。
開演の時間が――
パ、と照らされるスポットライト。
その下には、演目が、丁寧な文字で書かれている。
名前は――『眠り姫』。
蒼の世界では馴染みの深い、呪いで百年の眠りについた若き王女のおとぎ話である。
●
数日前――
「蒼の世界のおとぎ話を、舞台に、ねぇ?」
そう言ってほう、と息をついたのはアリア・セリウス(ka6424)だ。
「私とて、カナタの見たことのある、別の世界の月も見てみたいし、物語にも触れてみたい……こういうときくらい、夢物語を歌うのも、いいでしょう」
そう言うと、まわりの参加者もこくこくと頷く。カナタ――東條 奏多(ka6425)は、リアルブルー出身で、アリアにとっては『同居人』だ。
「そうだな……それにしても懐かしいな、童話なんて。まさかハンターの仕事でこんなことまでする、というのも驚きだが、……まあ、出来る限りのことはやらせてもらおうか。それに、昔好きだった、俺の世界のおとぎ話をみんなにも知ってもらいたいしなぁ」
見た目はやや大人びていても、子どもっぽさの残る奏多である、そう言うと口もとににまっと笑みを浮かべた。その笑みは、どこか子どもらしさを垣間見せていた。
「眠り姫、なんてどうだろう」
「ねむりひめ?」
不思議そうに首をかしげたのは、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)。彼女はエルフであり、当然ながらリアルブルーについては疎い方だ。アリアも、同じように首をかしげている。
その様子を見たメイリン・クラウフェルト(ka6572)が、
「リアルブルーのおとぎ話で、別名を眠れる森の美女、というのですわ、アリア様」
そう微笑みながら簡単に粗筋を説明する。
メイリンにとって、アリアは大切な先輩だ。お淑やかながらも、年相応の汚点バップりも発揮するメイリンはまだまだ幼い。でもどこかうっとりした顔になっているのは一目瞭然だった。
「そうか、メイリンもリアルブルーの出身だったら判るな。そう、リアルブルーでは人気の高い、多くの人間の知っているであろう童話だ。それをいわゆる、序破急に分けて演じたらどうかと思って」
序破急とは、演劇に限らず物語を三部構成にするときに用いる言葉だ。あらすじに従ってそれを説明すると、アリアが嬉しそうにポン、と手を叩いた。
「なんだか素敵ね。それにしましょう」
そうやって、演目も、役も、じゅんじゅんに決まっていったのだった。
●序
『――さあ、はじまるのは眠りにて夢を見て、百年を焦がれたお姫様の物語』
朗々と、アリアの声が響く。
背景は、どこかの城の大広間のような書き割り。モブとして参加している学院の教師が、赤子らしきものを抱いているところからはじまる。
『昔あるところに、それはそれは美しいお姫様が生まれました』
彼らはすっと後ろに下がると、メイリンがあどけなさをいっぱいにした可愛らしいドレスと、やはり可愛らしい冠をつけて、登場する。
『姫は、健やかにあるようにと、たくさんの魔法使いの祝福を受けることとなりました』
本来なら、誕生の記念で行われるパーティの中の場面なのだが、人数や時間も相まって、そこは幾らかはしょっていく。
これもまた教師達が手伝って、その様子を再現してくれる。
あるものは、その美貌を。
あるものは、その才知を。
あるものは、その器量を。
それぞれ高らかにうたいあげていく。
しかし、最後の魔法使いが祝福をしようとする直前――
ばぁん!
突如乱入してきたのは、奏多演じる悪い魔法使いだ。
(この手の物語には必須の悪役だからこそ、逆に丁寧に役割をこなさないと)
そう胸に思いながら、奏多は大見得を切った口上を述べる。
「お前達は何故私を呼ばなかった! 私がそれほどに憎いか! 一人取り残される寂しい思いを、お前達は感じることが出来るのか!」
そう言って、周囲を見渡す。いかにも悪者である、という風な黒い衣装を身につけ、大声でまくし立てる様子は、間違いもなく悪役に相応しい。
「そう、私は……迫害され、孤独になって、そんな苦しみを味わうことがないように、そう、死の安息をお姫様に与えよう!!」
それは祝福ではない。呪いと呼ぶに相応しい、悪しき思い。その様子を見た眠り姫――メイリンは、ぎゅっと胸を掴んで、そして苦しそうに泣き叫ぶ。なにをされたのか、幼くて判らないままに、ただ苦しむ少女。可哀想なお姫様。
しかしそこでいいえ、と最後の魔法使い――アリアが、前に出てくる。
「いいえ、いいえ――お姫様は、死ぬことはありません。百年、あなたは眠るだけ。そののち、貴方を目覚めさせる、そんな存在がきっと現れるのですから」
歌うように、祈るように、その声は講堂に響いていく。
するとメイリンは、ふるりとまつげを震わせて、そしてゆっくりと瞼を閉じていく。苦悶の表情も抜け落ち、幼子が眠るその表情になって――穏やかな眠りの海に、落ちていった。
●破
『――それから何年がたったことでしょう。姫の住んでいた城はいばらに取り囲まれ、いまは誰も入ることの叶わぬ場所となってしまいました。しかし、そんな中で――一人の若き王子が、眠り姫の城へ向かうのでした』
颯爽と現れたのは、蒼白い雷のオーラを纏った、覚醒した状態のユーリだった。頭からつま先まで、全身を金属鎧に身を包み、美しい剣を腰に下げたその姿は、王子と言うよりも若き騎士、という風情ではある。しかし、その美貌に、だれもがうっとりと眺めていた。
「……あの噂の姫の所へ行きたいのだが……茨のつるが、そこかしこに広がって、まともに動くことも難しいな。斬り開いていくほか、ないか」
敢えて男性口調を心がけながら、ユーリは剣をぶんぶんと振るう。王子にとって見せ場だ、大きな得物を相手にしていると言うこともあってなるべく派手に、身体を動かす。すると、城へ向かう障害は少しずつ消えていった。途中、茨のつるに絡め取られそうになることもあり、子どもたちは固唾をのんでそれを見守っていたが、それもみごとな立ち回りで回避し、逆にその道の困難さを表せるようにもなっている。
そして気が付けば、王子の前には一本の道ができあがっていた。城へと繋がる、一本の道。
「いざ、ゆかん」
王子はそう言い、城へを歩みをすすめる。
城のなかでは、先ほどよりも幾分大人びた姿のメイリン――眠り姫が、静かに目を閉じて眠っていた。
「な、どうやってここに!」
そう狼狽えるのは、奏多演ずる悪い魔法使い。
「百年の時を経て、お姫様も目覚めの時を迎えたの。だって、お姫様だって百年、孤独だったのよ? 一人ガ寂しい、孤独が嫌だという気持ち、貴方ならばわかるでしょう?」
武器を楽器に見立てて澄んだ音を鳴らし、歌うように奏多を説得するのは、アリア。
「ああ……そうだ。独りは寂しい。この先もずっと独りであるならせめて、誰かにこの気持ちを判って欲しくて、」
血を吐くように、そう呟く奏多。アリアは優しく微笑みを浮かべた。
「……そろそろ意地を張らずに、あの王子さまの勇気と優しさを、見届けましょう? 貴方にだって、こうして百年、付き合ってあげた魔女がいるじゃない……それじゃあ、ご不満かしら?」
アリアは、そう言って奏多に軽くウィンク。
そう、もう奏多――悪い魔女は孤独でもひとりでもなかった。この百年の間、アリア――良き魔法使いが、奏多の側にいたのだから。
それは、まるで紅の世界と蒼の世界が、違えた世界なのに背中合せであるのによく似ていて。表裏一体とは、よく言ったものだ。
「……そうだな、嫌いだったはずのお前が、最後まで残って。そして私は救われていた……」
呆然とそう口に出し、そして思う。
(優しさってきっと、そう言うものなんだろうな)
いっぽう、メイリンはいつもよりもやや大人びた服装で、眠りについたまま。そこにやってきたユーリは、開口一番、
「姫!」
そう叫んで、メイリンを抱き起こす。兜を脱ぎ、素顔を晒して。さらりと、長い白銀の髪がこぼれ落ちる。もっとも、その髪は後ろでリボン留めされているのだけれども。やさしくやさしく抱きかかえ、そっと姫――メイリンに、声をかける。
「姫、姫。貴方の目覚めに、やってきました」
そして、そっとその頬のあたりに、唇を掠める――ふりをする。きゃあっと、固唾をのんでいたらしい少女達が叫んだ。
そしてそれを合図にゆっくりと目を開けた少女は、自分のことをまっすぐ見つめる優しい眼差しに、何度か瞬きしながら、
「あら、ここはどこかしら……? なんだか、とてもとても、長い夢を見ていたような気がします」
いつもよりも幾分大人びた口調で、ユーリにそう話しかける。
「姫、貴方を助けに来たのです」
「え。……王子さま、今ここにいるあなたは、夢ではないのですよね?」
まるで夢心地、というふうに、メイリンはユーリに、姫が王子に問いかける。
「ええ。夢などではありません」
わずかにぽっと頬を染めるメイリン。
「……あなたが、助けて下さったのですね」
柔らかく微笑むと、ふと周囲を見渡す。奏多演ずる悪い魔法使いの存在に一瞬驚いた様子を見せるも、改心している様子にほっと胸をなで下ろし、そしてふたりに心からの言葉を述べた。
「ありがとうございます。貴方方が見せてくれた夢の世界はとても綺麗でふしぎで、楽しいところでしたよ」
それは暗にリアルブルーをさしているのだろうか。
少女の笑みはどこか懐かしげにも見えたのだった。
●急
『さあ、そして姫と王子さまはこれから幸せになるのでしょう。踊りましょう、歌いましょう、未来に願いを込めて』
そんな口上ののち、軽快な音楽が鳴り響く。それに合わせるように、四人の演者達が、楽しそうに踊り始めた。
そう、ちょうどミュージカルのように。まだまだ幼い子どもたちの祝福と希望を、歌と踊りに込めて。
踊りなんて得意というわけではないけれど、というものも混じっているが、そこはそれ、周囲の人々の助けを借りながら、なんとかこなしていく。
メイリンとユーリは、中央で優雅にダンスを踊る。姫と王子の、これからの幸せが目に見えるような、華やかさで。
――この物語が、少年少女の胸にどれだけ響いただろう。
それは、鳴り響く拍手で、一目瞭然だった。
子どもたちはハンターの演技に感動し、誰からともなくスタンディングオベーションとなっている。
きっと、子どもたちは忘れない。この、ささやかでも大切な時間を。
リアルブルーの物語を。
ヤマシナ学院はその日、ざわざわと賑わっていた。
講堂に集められた生徒達が、ひそひそと、楽しそうに話し合っている。そのさざ波が、少しずつ大きくなって、そして学院全体を覆うような錯覚に襲われるのだ。
熱気を孕んだその様子は、演者たるハンターたちにも伝わってくる。誰かが、こくりと生唾を飲み込んだ。
それでも時間はやってくる。
開演の時間が――
パ、と照らされるスポットライト。
その下には、演目が、丁寧な文字で書かれている。
名前は――『眠り姫』。
蒼の世界では馴染みの深い、呪いで百年の眠りについた若き王女のおとぎ話である。
●
数日前――
「蒼の世界のおとぎ話を、舞台に、ねぇ?」
そう言ってほう、と息をついたのはアリア・セリウス(ka6424)だ。
「私とて、カナタの見たことのある、別の世界の月も見てみたいし、物語にも触れてみたい……こういうときくらい、夢物語を歌うのも、いいでしょう」
そう言うと、まわりの参加者もこくこくと頷く。カナタ――東條 奏多(ka6425)は、リアルブルー出身で、アリアにとっては『同居人』だ。
「そうだな……それにしても懐かしいな、童話なんて。まさかハンターの仕事でこんなことまでする、というのも驚きだが、……まあ、出来る限りのことはやらせてもらおうか。それに、昔好きだった、俺の世界のおとぎ話をみんなにも知ってもらいたいしなぁ」
見た目はやや大人びていても、子どもっぽさの残る奏多である、そう言うと口もとににまっと笑みを浮かべた。その笑みは、どこか子どもらしさを垣間見せていた。
「眠り姫、なんてどうだろう」
「ねむりひめ?」
不思議そうに首をかしげたのは、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)。彼女はエルフであり、当然ながらリアルブルーについては疎い方だ。アリアも、同じように首をかしげている。
その様子を見たメイリン・クラウフェルト(ka6572)が、
「リアルブルーのおとぎ話で、別名を眠れる森の美女、というのですわ、アリア様」
そう微笑みながら簡単に粗筋を説明する。
メイリンにとって、アリアは大切な先輩だ。お淑やかながらも、年相応の汚点バップりも発揮するメイリンはまだまだ幼い。でもどこかうっとりした顔になっているのは一目瞭然だった。
「そうか、メイリンもリアルブルーの出身だったら判るな。そう、リアルブルーでは人気の高い、多くの人間の知っているであろう童話だ。それをいわゆる、序破急に分けて演じたらどうかと思って」
序破急とは、演劇に限らず物語を三部構成にするときに用いる言葉だ。あらすじに従ってそれを説明すると、アリアが嬉しそうにポン、と手を叩いた。
「なんだか素敵ね。それにしましょう」
そうやって、演目も、役も、じゅんじゅんに決まっていったのだった。
●序
『――さあ、はじまるのは眠りにて夢を見て、百年を焦がれたお姫様の物語』
朗々と、アリアの声が響く。
背景は、どこかの城の大広間のような書き割り。モブとして参加している学院の教師が、赤子らしきものを抱いているところからはじまる。
『昔あるところに、それはそれは美しいお姫様が生まれました』
彼らはすっと後ろに下がると、メイリンがあどけなさをいっぱいにした可愛らしいドレスと、やはり可愛らしい冠をつけて、登場する。
『姫は、健やかにあるようにと、たくさんの魔法使いの祝福を受けることとなりました』
本来なら、誕生の記念で行われるパーティの中の場面なのだが、人数や時間も相まって、そこは幾らかはしょっていく。
これもまた教師達が手伝って、その様子を再現してくれる。
あるものは、その美貌を。
あるものは、その才知を。
あるものは、その器量を。
それぞれ高らかにうたいあげていく。
しかし、最後の魔法使いが祝福をしようとする直前――
ばぁん!
突如乱入してきたのは、奏多演じる悪い魔法使いだ。
(この手の物語には必須の悪役だからこそ、逆に丁寧に役割をこなさないと)
そう胸に思いながら、奏多は大見得を切った口上を述べる。
「お前達は何故私を呼ばなかった! 私がそれほどに憎いか! 一人取り残される寂しい思いを、お前達は感じることが出来るのか!」
そう言って、周囲を見渡す。いかにも悪者である、という風な黒い衣装を身につけ、大声でまくし立てる様子は、間違いもなく悪役に相応しい。
「そう、私は……迫害され、孤独になって、そんな苦しみを味わうことがないように、そう、死の安息をお姫様に与えよう!!」
それは祝福ではない。呪いと呼ぶに相応しい、悪しき思い。その様子を見た眠り姫――メイリンは、ぎゅっと胸を掴んで、そして苦しそうに泣き叫ぶ。なにをされたのか、幼くて判らないままに、ただ苦しむ少女。可哀想なお姫様。
しかしそこでいいえ、と最後の魔法使い――アリアが、前に出てくる。
「いいえ、いいえ――お姫様は、死ぬことはありません。百年、あなたは眠るだけ。そののち、貴方を目覚めさせる、そんな存在がきっと現れるのですから」
歌うように、祈るように、その声は講堂に響いていく。
するとメイリンは、ふるりとまつげを震わせて、そしてゆっくりと瞼を閉じていく。苦悶の表情も抜け落ち、幼子が眠るその表情になって――穏やかな眠りの海に、落ちていった。
●破
『――それから何年がたったことでしょう。姫の住んでいた城はいばらに取り囲まれ、いまは誰も入ることの叶わぬ場所となってしまいました。しかし、そんな中で――一人の若き王子が、眠り姫の城へ向かうのでした』
颯爽と現れたのは、蒼白い雷のオーラを纏った、覚醒した状態のユーリだった。頭からつま先まで、全身を金属鎧に身を包み、美しい剣を腰に下げたその姿は、王子と言うよりも若き騎士、という風情ではある。しかし、その美貌に、だれもがうっとりと眺めていた。
「……あの噂の姫の所へ行きたいのだが……茨のつるが、そこかしこに広がって、まともに動くことも難しいな。斬り開いていくほか、ないか」
敢えて男性口調を心がけながら、ユーリは剣をぶんぶんと振るう。王子にとって見せ場だ、大きな得物を相手にしていると言うこともあってなるべく派手に、身体を動かす。すると、城へ向かう障害は少しずつ消えていった。途中、茨のつるに絡め取られそうになることもあり、子どもたちは固唾をのんでそれを見守っていたが、それもみごとな立ち回りで回避し、逆にその道の困難さを表せるようにもなっている。
そして気が付けば、王子の前には一本の道ができあがっていた。城へと繋がる、一本の道。
「いざ、ゆかん」
王子はそう言い、城へを歩みをすすめる。
城のなかでは、先ほどよりも幾分大人びた姿のメイリン――眠り姫が、静かに目を閉じて眠っていた。
「な、どうやってここに!」
そう狼狽えるのは、奏多演ずる悪い魔法使い。
「百年の時を経て、お姫様も目覚めの時を迎えたの。だって、お姫様だって百年、孤独だったのよ? 一人ガ寂しい、孤独が嫌だという気持ち、貴方ならばわかるでしょう?」
武器を楽器に見立てて澄んだ音を鳴らし、歌うように奏多を説得するのは、アリア。
「ああ……そうだ。独りは寂しい。この先もずっと独りであるならせめて、誰かにこの気持ちを判って欲しくて、」
血を吐くように、そう呟く奏多。アリアは優しく微笑みを浮かべた。
「……そろそろ意地を張らずに、あの王子さまの勇気と優しさを、見届けましょう? 貴方にだって、こうして百年、付き合ってあげた魔女がいるじゃない……それじゃあ、ご不満かしら?」
アリアは、そう言って奏多に軽くウィンク。
そう、もう奏多――悪い魔女は孤独でもひとりでもなかった。この百年の間、アリア――良き魔法使いが、奏多の側にいたのだから。
それは、まるで紅の世界と蒼の世界が、違えた世界なのに背中合せであるのによく似ていて。表裏一体とは、よく言ったものだ。
「……そうだな、嫌いだったはずのお前が、最後まで残って。そして私は救われていた……」
呆然とそう口に出し、そして思う。
(優しさってきっと、そう言うものなんだろうな)
いっぽう、メイリンはいつもよりもやや大人びた服装で、眠りについたまま。そこにやってきたユーリは、開口一番、
「姫!」
そう叫んで、メイリンを抱き起こす。兜を脱ぎ、素顔を晒して。さらりと、長い白銀の髪がこぼれ落ちる。もっとも、その髪は後ろでリボン留めされているのだけれども。やさしくやさしく抱きかかえ、そっと姫――メイリンに、声をかける。
「姫、姫。貴方の目覚めに、やってきました」
そして、そっとその頬のあたりに、唇を掠める――ふりをする。きゃあっと、固唾をのんでいたらしい少女達が叫んだ。
そしてそれを合図にゆっくりと目を開けた少女は、自分のことをまっすぐ見つめる優しい眼差しに、何度か瞬きしながら、
「あら、ここはどこかしら……? なんだか、とてもとても、長い夢を見ていたような気がします」
いつもよりも幾分大人びた口調で、ユーリにそう話しかける。
「姫、貴方を助けに来たのです」
「え。……王子さま、今ここにいるあなたは、夢ではないのですよね?」
まるで夢心地、というふうに、メイリンはユーリに、姫が王子に問いかける。
「ええ。夢などではありません」
わずかにぽっと頬を染めるメイリン。
「……あなたが、助けて下さったのですね」
柔らかく微笑むと、ふと周囲を見渡す。奏多演ずる悪い魔法使いの存在に一瞬驚いた様子を見せるも、改心している様子にほっと胸をなで下ろし、そしてふたりに心からの言葉を述べた。
「ありがとうございます。貴方方が見せてくれた夢の世界はとても綺麗でふしぎで、楽しいところでしたよ」
それは暗にリアルブルーをさしているのだろうか。
少女の笑みはどこか懐かしげにも見えたのだった。
●急
『さあ、そして姫と王子さまはこれから幸せになるのでしょう。踊りましょう、歌いましょう、未来に願いを込めて』
そんな口上ののち、軽快な音楽が鳴り響く。それに合わせるように、四人の演者達が、楽しそうに踊り始めた。
そう、ちょうどミュージカルのように。まだまだ幼い子どもたちの祝福と希望を、歌と踊りに込めて。
踊りなんて得意というわけではないけれど、というものも混じっているが、そこはそれ、周囲の人々の助けを借りながら、なんとかこなしていく。
メイリンとユーリは、中央で優雅にダンスを踊る。姫と王子の、これからの幸せが目に見えるような、華やかさで。
――この物語が、少年少女の胸にどれだけ響いただろう。
それは、鳴り響く拍手で、一目瞭然だった。
子どもたちはハンターの演技に感動し、誰からともなくスタンディングオベーションとなっている。
きっと、子どもたちは忘れない。この、ささやかでも大切な時間を。
リアルブルーの物語を。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
劇の相談 アリア・セリウス(ka6424) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/11/24 03:27:48 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/24 03:04:46 |