ゲスト
(ka0000)
【初心】墜ちた巨木が小鳥を侵す
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/11/28 22:00
- 完成日
- 2016/12/01 20:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
森の一部が不浄のマテリアルに侵された。
枯れ果てた枝が両隣の緑を押しのけ。
ねじくれた根が蜘蛛の足の如く蠢く。
「なんて大きさだ」
指揮官からうめきがもれる。
領主から街道守護を任される強者だからこそ、敵の異様さがはっきりと分かる。
歪虚に堕した大木が木こり小屋と接触。
金属部品で補強されているのにマッチより脆そうに砕けて散る。
「重装兵は街まで戻れ。猟師!」
返答は1発の銃声だった。
対大型獣用の弾が分厚い樹皮を貫き幹の中心に達する。
土気色の枝が震えて小さな何かが空へと飛んだ。
貴族私兵団から歓声があがる。
指揮官も安堵で笑み崩れそうになる。厳つい表情を保つのが辛い。
「相変わらずいい腕だ。よし、距離を保ちながら撃ち続けろ」
主に無理を言って高いライフルを買わせた甲斐があった。
複数の意味で安堵する指揮官の耳を、初めて聞く猟師の悲鳴が荒々しく撫でた。
「空っ、逃げろぉっ」
猟師が普通の木の枝から飛び降りる。
枝が上下に1往復した直後、小さな何かが枝の中程にぶつかり爆ぜた。
血と骨欠まみれの枝が折れて地面に落ちる。
歓声が悲鳴に変わる。
鉄鎧の兵士達が肩を押さえてうずくまっている。
その足下には、小鳥が衝撃で潰れたものが10以上も落ちていた。
「くっ」
空を見上げる。
小鳥に見える何かは3羽……今猟師が打ち落として2羽しかいない。
今なら逃げられる。
「街まで撤退する。猟師! 貴様は私の後ろで援護だ。殿をするぞ」
猟師は引き攣った表情で肩をすくめ指揮官の後ろにまわる。
指揮官が使い込まれた剣を抜いて大型歪虚に立ちふさがる。
そして、3Dディスプレイ上の動画が終了した。
「以上が昨日の出来事です」
オフィス職員が説明を始めた。
新たな動画が始まり、ベッドの上で療養中の指揮官と猟師が映し出される。
どちらも大量の打撲痕つきだ。
「大型歪虚……これですね。聞き取りによると大きさの割に戦闘力は低いようです」
画面が分割され半分に聞き取りの場面が、もう半分に遠方から撮られた大木歪虚が表示される。
切り傷だらけの枝はゆっくりと回復が進み、枯れた枝葉は不気味に蠢き空を飛ぶ鳥を誘う。
蔓にも見える枝が伸び、小鳥の首を折って負のマテリアルを込めた。
アンデッドバードと化した小鳥が、大木型歪虚の亀裂に潜り込む。
「この歪虚の戦闘能力は見て頂いた通りです。移動速度は低く、防御は拙く、装甲は厚いとはいえ大型白兵武器やライフル弾を防げるほどではありません」
敵が本体だけなら、ハンターは後退しながら攻撃するだけで無傷で勝てる。
問題は付属品である元小鳥だ。
分厚い盾と鎧があれば軽傷未満で防げる攻撃力しかないのだがとにかく数が多い。
特に薄い防具しか持たない者にとっては非常な脅威になりうる。
「はい、皆さんの想像通りこの小鳥が問題なのです。現地の戦力は半減しているため援軍はありません」
ハンター活動の少ない者向け依頼なので、監督役という名目で中堅クルセイダー1人がソサエティからの援軍として同行する。
しかしこの聖導士、ヒール以外は全て不得意であり武力としては期待できない。
分厚い全身金属鎧を装備させられているので放っておいても邪魔にはならないが。
「失礼します。……はい、ええ」
職員がカウンターから下がり、司書パルムから話を聞きはじめる。
どちらも顔色がよくない。
話が終わり職員が戻ってくる。
「先程今現地から連絡が届きました。歪虚が回復を終え侵攻を再開しました。直ちに現地に向かってください」
予想される戦場は街の北門の北700メートル。
街の存続は、ハンターの活躍にかかっている。
枯れ果てた枝が両隣の緑を押しのけ。
ねじくれた根が蜘蛛の足の如く蠢く。
「なんて大きさだ」
指揮官からうめきがもれる。
領主から街道守護を任される強者だからこそ、敵の異様さがはっきりと分かる。
歪虚に堕した大木が木こり小屋と接触。
金属部品で補強されているのにマッチより脆そうに砕けて散る。
「重装兵は街まで戻れ。猟師!」
返答は1発の銃声だった。
対大型獣用の弾が分厚い樹皮を貫き幹の中心に達する。
土気色の枝が震えて小さな何かが空へと飛んだ。
貴族私兵団から歓声があがる。
指揮官も安堵で笑み崩れそうになる。厳つい表情を保つのが辛い。
「相変わらずいい腕だ。よし、距離を保ちながら撃ち続けろ」
主に無理を言って高いライフルを買わせた甲斐があった。
複数の意味で安堵する指揮官の耳を、初めて聞く猟師の悲鳴が荒々しく撫でた。
「空っ、逃げろぉっ」
猟師が普通の木の枝から飛び降りる。
枝が上下に1往復した直後、小さな何かが枝の中程にぶつかり爆ぜた。
血と骨欠まみれの枝が折れて地面に落ちる。
歓声が悲鳴に変わる。
鉄鎧の兵士達が肩を押さえてうずくまっている。
その足下には、小鳥が衝撃で潰れたものが10以上も落ちていた。
「くっ」
空を見上げる。
小鳥に見える何かは3羽……今猟師が打ち落として2羽しかいない。
今なら逃げられる。
「街まで撤退する。猟師! 貴様は私の後ろで援護だ。殿をするぞ」
猟師は引き攣った表情で肩をすくめ指揮官の後ろにまわる。
指揮官が使い込まれた剣を抜いて大型歪虚に立ちふさがる。
そして、3Dディスプレイ上の動画が終了した。
「以上が昨日の出来事です」
オフィス職員が説明を始めた。
新たな動画が始まり、ベッドの上で療養中の指揮官と猟師が映し出される。
どちらも大量の打撲痕つきだ。
「大型歪虚……これですね。聞き取りによると大きさの割に戦闘力は低いようです」
画面が分割され半分に聞き取りの場面が、もう半分に遠方から撮られた大木歪虚が表示される。
切り傷だらけの枝はゆっくりと回復が進み、枯れた枝葉は不気味に蠢き空を飛ぶ鳥を誘う。
蔓にも見える枝が伸び、小鳥の首を折って負のマテリアルを込めた。
アンデッドバードと化した小鳥が、大木型歪虚の亀裂に潜り込む。
「この歪虚の戦闘能力は見て頂いた通りです。移動速度は低く、防御は拙く、装甲は厚いとはいえ大型白兵武器やライフル弾を防げるほどではありません」
敵が本体だけなら、ハンターは後退しながら攻撃するだけで無傷で勝てる。
問題は付属品である元小鳥だ。
分厚い盾と鎧があれば軽傷未満で防げる攻撃力しかないのだがとにかく数が多い。
特に薄い防具しか持たない者にとっては非常な脅威になりうる。
「はい、皆さんの想像通りこの小鳥が問題なのです。現地の戦力は半減しているため援軍はありません」
ハンター活動の少ない者向け依頼なので、監督役という名目で中堅クルセイダー1人がソサエティからの援軍として同行する。
しかしこの聖導士、ヒール以外は全て不得意であり武力としては期待できない。
分厚い全身金属鎧を装備させられているので放っておいても邪魔にはならないが。
「失礼します。……はい、ええ」
職員がカウンターから下がり、司書パルムから話を聞きはじめる。
どちらも顔色がよくない。
話が終わり職員が戻ってくる。
「先程今現地から連絡が届きました。歪虚が回復を終え侵攻を再開しました。直ちに現地に向かってください」
予想される戦場は街の北門の北700メートル。
街の存続は、ハンターの活躍にかかっている。
リプレイ本文
●巨木と鳥爆弾
歪虚が一歩前に踏み出した。
厚さ重数センチの石畳が沈み込み、無数のひび割れが街道に広がる。
「枯れた巨木と言うのもそれはそれで趣のあるものと思いますが」
ふう、と落ち着いた風情でラース・フュラー(ka6332)が息を吐く。
全身甲冑を着込んでいてもきびきびと機敏に動けている。
「ふうむ、大きな樹じゃのう」
彼女の横にいるのは東方出身、種族鬼の婆(ka6451)。
着物は戦闘用で各種装備で身を固めているので防護は厚く重量もかなりある。
なお、2人とも大木型歪虚に向かって全力疾走中だ。
全力で走っているのに呼吸は全く乱れていなかった
「なあに、山や森で暮らしとるとなア、足腰ばかり強うなるんもんじゃて」
目を細める。
温和な物腰とは対照的に、敵を見据える瞳は非常に冷静だ。
「婆はまだまだ乗り物にだって負けんでのう。とはいえ」
上半身がゆっくりと揺れる。
大木上部の枯れ枝が揺れる。
それとほぼ同時に小鳥型雑魔が突っ込んで来た。
着流しの裾が僅かに汚れ、風格のある肌にじわりと血が浮かんだ。
「早いの。婆の腕では待ち受けねば当てられぬわい」
屈託無く笑う。
偶然に肌の部位に当たっても被害はこの程度。敵の高空兵力は予想より弱そうだ。
歪虚の操り人形でしかない4羽が大きく旋回する。
婆の小さくも大きく感じられる背を狙おうとして、何故か隣の白銀色全身鎧に引きつけられ加速した。
「……重い」
ラースが片手で盾の位置を調整。速度を緩めず衝突に備える。
1羽は外れ、中程度の加速の2羽は盾に当たって進路をずらされ、残る1羽は常識外の加速の後、盾に正面からぶつかった。
音が街道を揺らす。
砲弾と分厚い装甲がぶつかり合うのにも似た轟音が発生する。
負のマテリアルで強化されているとはいえ小鳥は小鳥。
ラースの圧倒的な防御は抜けず、無残な血の霧と化して盾の端を汚すことしかできなかった。
「思ったほど効果がありませんね」
再旋回する3羽に一瞬だけ視線を向ける。
ソウルトーチはまだ効いているはずだが、彼女以外を狙う小鳥がまだいるようだ。
激突時に比べると小さな音が1つだけ響く。
小鳥1羽が速度を失い街道脇に落下。そのまま数メートル転がって停止する。
「以前相対した武装した怠惰の巨人やら吸血鬼より幾何かはマシとはいえ、油断するつもりはない」
前衛2人の数十メートル後方で、ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)が髪の毛1本分にも満たない距離銃口をずらした。
小鳥、風、ライフル、そして自分自身の状況を認識する。
意識切り替えのため口に含んだ飴の形が、ミリ単位以下で正確に把握できた。
発砲。
右端の小鳥の右翼が弾けて無力化。
婆が振り返らず軽く手を振り賞賛してくるが、ヴィントは無言で軽くうなずくだけだ。
今のはスキルを3重に使わなければ外れていた。
地球にいた頃は今の距離など至近距離だった。既に慣れはしたものの、使い勝手の変化は驚くほど大きい。
「樹と、鳥……か」
数トンの歪虚が動く。そのたびに地域を支える基幹道路が崩れていく。
戦着流し婆と白銀のエルフが立ちふさがることで被害の範囲は限定されるが、撒き散らされる瘴気に似た気配は増すばかりだ。
「これも一つの因縁、なのかな」
気配が増すごとに小鳥の死骸が歪みを増していく。五感以外で感じるきしみは精霊の悲鳴だろうか。
「いや、今の僕はあんなのには負けないさ」
樹導 鈴蘭(ka2851)の体から余計な力が抜けた。
右足でアクセルと、左手でハンドルを操作。
バイクが大きく進路を変え、鈴蘭を三方向から襲うはずだった小鳥が何もない空間を貫通した。
「機械仕掛けの贋作よ」
高速かつ適量励起したマテリアルが鳳凰の翼の形をとる。左目に温度のない炎が生じ3つの円を描く。
「堕ちた真作を穿て!」
赤い羽根が散る。青い炎が左手の魔導機械を通じてエネルギーを獲得、生前より雑にしか飛べない小鳥たちを消し飛ばす。
「3分の2か。残念」
えい、とブレーキに蹴りを入れる。
急減速で桃色の髪が前へ揺れ、その髪の先をかすめるように生き残りの小鳥が通過した。
「いただき」
蝙蝠状の刃がさくりと小鳥の胴に。
直前のまでの速度が嘘のように失われ地面に落ちた。
「アンデッドバードに動く枯れ木……。向こうでは絶対にお目にかかれないなぁ」
呆れ半分驚き半分でつぶやきながら、柄永 和沙(ka6481)は自分自身と体格の良い馬を同時に使っている。
まるで指先から蹄の先まで神経が通っているよう。
馬の巨体を最低限の距離ずらすことで斜め上方からの自爆小鳥攻撃を回避。
真横水平方向からの自爆攻撃は、これは単なる運の問題でかわし損ねる。
が、最も当たり易く最も防護の厚い胴部の防弾ベストに当たった結果打ち身未満の傷で済む。
「辻ヒールはいらないよ」
和沙より10は年上の聖導士を制止。新たな蝙蝠状投擲用を構えたところで変化に気づく。
「いない?」
空から小鳥が消えていた。
直前まで聞こえていた足音が止まる。
急減速し速度を0にしたヴィントが、強力な分重いライフルを構え立射で引き金を引いた。
大木型歪虚の上部、大きく広がる枯れ木の枝に銃弾がめり込む。
冷え切ったマテリアルが枝内部へ広がり、飛び立つ直前だった小鳥の動きを鈍らせた。
「こりゃ確かに、骨が折れそうだ」
クラン・クィールス(ka6605)が乗用馬の尻を軽く蹴る。
馬は目を血走らせて斜め前へ。
飛び立つ鳥がそれぞれ別方向へ加速して、うち1羽がとてつもない速度でクランとクランの馬を狙い急降下する。
クランは守りの構えを使わない。
回避術も大剣を用いた受け防御も一切使わず、ただ速度をあげて小鳥との距離を開ける。
「自爆に付き合う趣味はない」
野生動物としての本能を失った鳥は判断力を失っている。自爆攻撃を仕掛けることも出来ずに無意味に宙を舞う。
一房黒く染まった前髪が揺れる。得物を持つ手がオーラで赤黒く見えた。
「行くぞ」
馬にも気合いが入る。
2メートルに達する諸刃剣を構え、墜ちた巨木目がけて突進した。
●墜ちた巨木
低く長い車体のバイクにリラックスした体勢で乗り、札抜 シロ(ka6328)はここが舞台であるかのように華やかに笑う。
無手のはずの左手に桜の木で出来たカードが現れ一呼吸で消える。
音もなく飛ぶカードが婆の髪を飾る形で花弁に変わり、自爆攻撃のため最終加速を行う小鳥に石畳との抱擁を強いた。
「ありがとうよ」
婆がパリィグローブで大重量の枝を受けている。
技はあっても凄まじすぎる重量差は婆の体を痛めつけ、しかし婆は優しく礼を言ってのける。
「あたしが手出ししなくても防げた気がするけどね」
「ほっほっほ。もうすっかり歳でな。援護がなければ傷だらけよ」
戦闘開始直後に受けた擦り傷を目で示す。
どれほどの凄腕でもまぐれ当たりがあるした急所に当たることもある。
かつて膨大な戦いを積み重ねたからこそ、援護の重要性をよく理解していた。
「ふふー」
シロは楽しげにアクセルを踏む。
もっとも内心は正反対で冷たい怒りに満ちている。
「(鳥を出すのは手品師の専売特許のはずなの。でくのぼうの分際で手品師の専売特許を横取りしようだんて、そうはさせないの)」
腕を伸ばす。
細い指の間に新しいカードが現れる。
スキルではない。リアルブルー時代から磨いた技術だ。
「レッツ、ショータイムなの!」
カードが弾けて炎が渦を巻く。
何もない空間を進んで巨大な歪虚に巻き付いた。
乾ききった枝が熱を持ち発火。婆の顔が迫力満点に赤く照らされた。
「いかせはせぬよ」
焦げた大木が小さなマジシャンを狙い加速。
加速の最初期段階に婆が割り込み減速を強いる。
最初から十分距離をとっていたシロは、余裕をもって安全でしかも攻撃可能な場所へ移ることが出来た。
「ふぁいあ♪」
戦場という舞台に映える声。
炎は美しく、威力は見た目から想像できるよりずっと強烈で、頑丈さと力だけなら歪虚離れした大木を芯まで焦げさせる。
歪虚がもだえて炭の破片が無数にばらまかれ。
婆が気合いの声と共に至近距離に踏み込んだ。
気を練り上げ一巡させ拳に集中。衝突の際に表面から拳数個分奥へ、気と威力を集中させる。
表皮が内側に凹む。壊れながら突き出された枝が、待ち受けていた婆の腕で受け止められた。
「いくよー!」
炎と入れ替わりで婆が後ろへ跳ぶ。
薬に手が伸びるが途中で止める。これでは全く足りない。
監督役クルセイダーに視線をやってヒールを要請する。
「私が」
銀のレイピアが樹木の表面装甲に穴を開ける。
ラースの攻撃だけでも通常雑魔なら数匹、婆のをあわせると10体は滅ぼせる損害を与えている。
実際大穴多数が開いているのに大木の気配はほとんど衰えない。
盾で受ける。巨大重量を分厚い盾と装甲で受け流し、しかしわずかに流し損ねた威力が筋と骨に負荷をかける。
鋭く呼気を吐く。
刃をつばまで埋め込み半回転。細かな木の粉と臭気がしたたり落ちた。
「俺が時間を稼ぐ。回復しろ」
クランの声には確信があった。
だからラースは反論も疑問も口にせず、引き抜く動作で一気に後ろへ下がる。
敵は非常識な大きさだ。
基本的に歪虚はサイズと戦闘力が比例するので、ハンターとしては駆け出しのクランが単独で支えるのは不可能。
それを理解した上でクランは敵の脅威と限界を正確に認識していた。
大木が根の足で以て前進。
触れただけで潰れかねない大質量がラースに迫る。
ラースの防具は胴部と下半身を覆う防具のみ。当たり所によっては一撃で長期療養を強いられかねない。
「基本もできていない奴相手なら」
機先を制し力強く振る。
特大の剣が根っ子を巻き込み幹に半ばまで食い込む。
「っ」
最大の力を込めて引き抜く。馬が滑るように後方10メートルへ。
歪虚は自身の攻撃範囲からクランに逃げられ、次に攻撃し易そうな相手を探して誰もいないのに気づく。
「いくらでも持ちこたえるてやる」
最悪小鳥爆撃を食らっても構わないつもりで、遅く大きな木を待ち構えた。
●最終攻勢
「歪虚の頭が大きさに反比例する……なんて初めて知りました」
皮肉を言うフィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)の呼吸が不規則だ。
「……ん」
微かに震える手でワンドを掲げる。
たったそれだけの動作で気力と魔力とマテリアルが削られてはいるが、フィーナにとってはいつものことだ。
心の中で強固な形をイメージし魔力を形に注ぐ。
ワンドの先端に光が集まり、破壊の力を秘めた矢としてこの世に現れる。
「いって」
矢が消えた。
フィーナの目で追いきれない加速で最後の小鳥に迫る。
けれど小さな歪虚は数センチ横滑りして射程外に逃れる。
「私、する。残弾、おんぞん」
この飛行型歪虚は私が倒す。強力なスキルは温存して特大歪虚に使って欲しい。
そう言いたいが途切れ途切れ言うのが精一杯だ。戦力維持はなんとかなっても息が続かない。
小鳥型の爆弾が、あざ笑うかのように円を描いて飛んでいた。
「……」
フィーナは強化しても常人並みの目で空を見上げ、それまでと同じように術の詠唱を始める。
戦闘開始から今までハンターの射程外に居続けた小型歪虚が、今はマジックアローの射程外ぎりぎりにまで近づいている。
「10羽目」
詠唱完了。
小鳥の顔が嘲笑に歪み、次の瞬間何が怒ったか分からないまま光の矢で砕け散る。
フィーナはにこりとすらしない。
射程が少し異なる術を使い分けて罠にかける程度、彼女にとっては朝飯前だ。
「次……」
小回りの効く小型歪虚は全滅した。
矢を防ぐものは何もなく、大きさだけが武器の歪虚に連続で命中する。
戦場が、ハンター有利一気に傾き始めた。
「街が」
和沙が初めて焦りを見せる。
大木の打撃は空振り続けているものの、後退しながらなので街に近づくのを止められない。
「フォローを頼むよ」
ワイヤーウィップを繰り出す。
地面と根っ子状の足を絶妙のタイミングで打ち据える。巨大な歪虚の動きが秒に満たない間止める。
「これで!」
鈴蘭は敵の隙を見逃さない。
詠唱も狙いも省いてファイアスローワーを発動。
炎の属性を持つエネルギーで根と幹の部分をこんがりと焼いた。
ラースの盾が火花を散らす。盾に乱れはないが本人の息は乱れている。歪虚の無傷の部分にもひびが入っている。
彼女だけでなく、ハンターも歪虚も消耗が激しい。
「どうだ、これで動けないだろ」
飛び散る木片を無視してワイヤーを操り、今度は太い根にワイヤを巻き付け歪虚の守りを崩す。
光の矢が、銃弾が、様々な刃が樹皮を壊して中の瘴気を削る。
「とっとと」
ワイヤーが剥き出しの切断面に巻き付く。
「くたばれ……!!」
和沙が力を振り絞ってワイヤーを引っ張ると、最初の時点でも鈍かった動きが木偶同然にまで落ちた。
樹皮のない木目に弾痕が刻まれる。
漏れる瘴気も既になく、穴の端からさらさと崩れて木くずが舞う。
「三鳳襲!」
紅蓮の翼が羽ばたき歪虚に3つの焼け跡がうまれ、木が大きくひび割れる音が強く響いた。
「まだ動いてる。……あぁ、枝とかそんなん狙った方がいいのかな」
ワイヤーから投擲武器へ持ち替え和沙が愚痴をこぼす。
スケルトン数十体分のダメージを与えて健在なのだ。愚痴で済んでいるのは十分凄い。
クランの刃が一閃。
それまでとは異なる、斧で薪を割るのに似た音が妙にはっきりと聞こえた。
太い幹が急速に劣化する。
巨体がみしみし音をたてて斜めに傾く。
道連れを求めて伸ばされた細い枝は鈴蘭の迎撃にあい、何も為せずに砕かれ削られた。
ヴィントは引き金を引いた後、幹を凝視する。
負のマテリアルの気配は消えた。ただ枯れ果てた、そして不安定な大重量物だけがあって崩壊しようとしている。
「巻き込まれるなよ」
離れているので彼は安全だ。
クールダウンする意味も兼ねて小さなあめ玉を1つ口に入れ、横倒しになる大木と前衛ハンターの全力ダッシュを静かに眺めた。
倒れ、揺れて、粉塵が上がって音が消える。
1分近く経ってようやく、息を潜めていた虫と小動物の音が復活した。
「早く帰ってお風呂入って寝たい……マジ疲れた……どんだけ動いたよあたし」
緊張が解けると疲労が襲ってくる。
和沙は疲れを隠さず体格の良い馬の背でぐったりとした。
「埋葬と掃除は私が」
監督役が申し訳なさ半分の表情で提案した。
今回監督役は数度しかスキルを使わず、守りの堅さを活かした囮役もしていない。
もう少し役に立たないと良心の呵責で大ダメージを受けそうだ。
「がんば♪」
「達者での」
ハンター達はそれぞれに別れを告げて転移装置のある街へ向かう。
討伐の成功に気づかれたようで、遠くから微かに歓声が聞こえてきていた。
歪虚が一歩前に踏み出した。
厚さ重数センチの石畳が沈み込み、無数のひび割れが街道に広がる。
「枯れた巨木と言うのもそれはそれで趣のあるものと思いますが」
ふう、と落ち着いた風情でラース・フュラー(ka6332)が息を吐く。
全身甲冑を着込んでいてもきびきびと機敏に動けている。
「ふうむ、大きな樹じゃのう」
彼女の横にいるのは東方出身、種族鬼の婆(ka6451)。
着物は戦闘用で各種装備で身を固めているので防護は厚く重量もかなりある。
なお、2人とも大木型歪虚に向かって全力疾走中だ。
全力で走っているのに呼吸は全く乱れていなかった
「なあに、山や森で暮らしとるとなア、足腰ばかり強うなるんもんじゃて」
目を細める。
温和な物腰とは対照的に、敵を見据える瞳は非常に冷静だ。
「婆はまだまだ乗り物にだって負けんでのう。とはいえ」
上半身がゆっくりと揺れる。
大木上部の枯れ枝が揺れる。
それとほぼ同時に小鳥型雑魔が突っ込んで来た。
着流しの裾が僅かに汚れ、風格のある肌にじわりと血が浮かんだ。
「早いの。婆の腕では待ち受けねば当てられぬわい」
屈託無く笑う。
偶然に肌の部位に当たっても被害はこの程度。敵の高空兵力は予想より弱そうだ。
歪虚の操り人形でしかない4羽が大きく旋回する。
婆の小さくも大きく感じられる背を狙おうとして、何故か隣の白銀色全身鎧に引きつけられ加速した。
「……重い」
ラースが片手で盾の位置を調整。速度を緩めず衝突に備える。
1羽は外れ、中程度の加速の2羽は盾に当たって進路をずらされ、残る1羽は常識外の加速の後、盾に正面からぶつかった。
音が街道を揺らす。
砲弾と分厚い装甲がぶつかり合うのにも似た轟音が発生する。
負のマテリアルで強化されているとはいえ小鳥は小鳥。
ラースの圧倒的な防御は抜けず、無残な血の霧と化して盾の端を汚すことしかできなかった。
「思ったほど効果がありませんね」
再旋回する3羽に一瞬だけ視線を向ける。
ソウルトーチはまだ効いているはずだが、彼女以外を狙う小鳥がまだいるようだ。
激突時に比べると小さな音が1つだけ響く。
小鳥1羽が速度を失い街道脇に落下。そのまま数メートル転がって停止する。
「以前相対した武装した怠惰の巨人やら吸血鬼より幾何かはマシとはいえ、油断するつもりはない」
前衛2人の数十メートル後方で、ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)が髪の毛1本分にも満たない距離銃口をずらした。
小鳥、風、ライフル、そして自分自身の状況を認識する。
意識切り替えのため口に含んだ飴の形が、ミリ単位以下で正確に把握できた。
発砲。
右端の小鳥の右翼が弾けて無力化。
婆が振り返らず軽く手を振り賞賛してくるが、ヴィントは無言で軽くうなずくだけだ。
今のはスキルを3重に使わなければ外れていた。
地球にいた頃は今の距離など至近距離だった。既に慣れはしたものの、使い勝手の変化は驚くほど大きい。
「樹と、鳥……か」
数トンの歪虚が動く。そのたびに地域を支える基幹道路が崩れていく。
戦着流し婆と白銀のエルフが立ちふさがることで被害の範囲は限定されるが、撒き散らされる瘴気に似た気配は増すばかりだ。
「これも一つの因縁、なのかな」
気配が増すごとに小鳥の死骸が歪みを増していく。五感以外で感じるきしみは精霊の悲鳴だろうか。
「いや、今の僕はあんなのには負けないさ」
樹導 鈴蘭(ka2851)の体から余計な力が抜けた。
右足でアクセルと、左手でハンドルを操作。
バイクが大きく進路を変え、鈴蘭を三方向から襲うはずだった小鳥が何もない空間を貫通した。
「機械仕掛けの贋作よ」
高速かつ適量励起したマテリアルが鳳凰の翼の形をとる。左目に温度のない炎が生じ3つの円を描く。
「堕ちた真作を穿て!」
赤い羽根が散る。青い炎が左手の魔導機械を通じてエネルギーを獲得、生前より雑にしか飛べない小鳥たちを消し飛ばす。
「3分の2か。残念」
えい、とブレーキに蹴りを入れる。
急減速で桃色の髪が前へ揺れ、その髪の先をかすめるように生き残りの小鳥が通過した。
「いただき」
蝙蝠状の刃がさくりと小鳥の胴に。
直前のまでの速度が嘘のように失われ地面に落ちた。
「アンデッドバードに動く枯れ木……。向こうでは絶対にお目にかかれないなぁ」
呆れ半分驚き半分でつぶやきながら、柄永 和沙(ka6481)は自分自身と体格の良い馬を同時に使っている。
まるで指先から蹄の先まで神経が通っているよう。
馬の巨体を最低限の距離ずらすことで斜め上方からの自爆小鳥攻撃を回避。
真横水平方向からの自爆攻撃は、これは単なる運の問題でかわし損ねる。
が、最も当たり易く最も防護の厚い胴部の防弾ベストに当たった結果打ち身未満の傷で済む。
「辻ヒールはいらないよ」
和沙より10は年上の聖導士を制止。新たな蝙蝠状投擲用を構えたところで変化に気づく。
「いない?」
空から小鳥が消えていた。
直前まで聞こえていた足音が止まる。
急減速し速度を0にしたヴィントが、強力な分重いライフルを構え立射で引き金を引いた。
大木型歪虚の上部、大きく広がる枯れ木の枝に銃弾がめり込む。
冷え切ったマテリアルが枝内部へ広がり、飛び立つ直前だった小鳥の動きを鈍らせた。
「こりゃ確かに、骨が折れそうだ」
クラン・クィールス(ka6605)が乗用馬の尻を軽く蹴る。
馬は目を血走らせて斜め前へ。
飛び立つ鳥がそれぞれ別方向へ加速して、うち1羽がとてつもない速度でクランとクランの馬を狙い急降下する。
クランは守りの構えを使わない。
回避術も大剣を用いた受け防御も一切使わず、ただ速度をあげて小鳥との距離を開ける。
「自爆に付き合う趣味はない」
野生動物としての本能を失った鳥は判断力を失っている。自爆攻撃を仕掛けることも出来ずに無意味に宙を舞う。
一房黒く染まった前髪が揺れる。得物を持つ手がオーラで赤黒く見えた。
「行くぞ」
馬にも気合いが入る。
2メートルに達する諸刃剣を構え、墜ちた巨木目がけて突進した。
●墜ちた巨木
低く長い車体のバイクにリラックスした体勢で乗り、札抜 シロ(ka6328)はここが舞台であるかのように華やかに笑う。
無手のはずの左手に桜の木で出来たカードが現れ一呼吸で消える。
音もなく飛ぶカードが婆の髪を飾る形で花弁に変わり、自爆攻撃のため最終加速を行う小鳥に石畳との抱擁を強いた。
「ありがとうよ」
婆がパリィグローブで大重量の枝を受けている。
技はあっても凄まじすぎる重量差は婆の体を痛めつけ、しかし婆は優しく礼を言ってのける。
「あたしが手出ししなくても防げた気がするけどね」
「ほっほっほ。もうすっかり歳でな。援護がなければ傷だらけよ」
戦闘開始直後に受けた擦り傷を目で示す。
どれほどの凄腕でもまぐれ当たりがあるした急所に当たることもある。
かつて膨大な戦いを積み重ねたからこそ、援護の重要性をよく理解していた。
「ふふー」
シロは楽しげにアクセルを踏む。
もっとも内心は正反対で冷たい怒りに満ちている。
「(鳥を出すのは手品師の専売特許のはずなの。でくのぼうの分際で手品師の専売特許を横取りしようだんて、そうはさせないの)」
腕を伸ばす。
細い指の間に新しいカードが現れる。
スキルではない。リアルブルー時代から磨いた技術だ。
「レッツ、ショータイムなの!」
カードが弾けて炎が渦を巻く。
何もない空間を進んで巨大な歪虚に巻き付いた。
乾ききった枝が熱を持ち発火。婆の顔が迫力満点に赤く照らされた。
「いかせはせぬよ」
焦げた大木が小さなマジシャンを狙い加速。
加速の最初期段階に婆が割り込み減速を強いる。
最初から十分距離をとっていたシロは、余裕をもって安全でしかも攻撃可能な場所へ移ることが出来た。
「ふぁいあ♪」
戦場という舞台に映える声。
炎は美しく、威力は見た目から想像できるよりずっと強烈で、頑丈さと力だけなら歪虚離れした大木を芯まで焦げさせる。
歪虚がもだえて炭の破片が無数にばらまかれ。
婆が気合いの声と共に至近距離に踏み込んだ。
気を練り上げ一巡させ拳に集中。衝突の際に表面から拳数個分奥へ、気と威力を集中させる。
表皮が内側に凹む。壊れながら突き出された枝が、待ち受けていた婆の腕で受け止められた。
「いくよー!」
炎と入れ替わりで婆が後ろへ跳ぶ。
薬に手が伸びるが途中で止める。これでは全く足りない。
監督役クルセイダーに視線をやってヒールを要請する。
「私が」
銀のレイピアが樹木の表面装甲に穴を開ける。
ラースの攻撃だけでも通常雑魔なら数匹、婆のをあわせると10体は滅ぼせる損害を与えている。
実際大穴多数が開いているのに大木の気配はほとんど衰えない。
盾で受ける。巨大重量を分厚い盾と装甲で受け流し、しかしわずかに流し損ねた威力が筋と骨に負荷をかける。
鋭く呼気を吐く。
刃をつばまで埋め込み半回転。細かな木の粉と臭気がしたたり落ちた。
「俺が時間を稼ぐ。回復しろ」
クランの声には確信があった。
だからラースは反論も疑問も口にせず、引き抜く動作で一気に後ろへ下がる。
敵は非常識な大きさだ。
基本的に歪虚はサイズと戦闘力が比例するので、ハンターとしては駆け出しのクランが単独で支えるのは不可能。
それを理解した上でクランは敵の脅威と限界を正確に認識していた。
大木が根の足で以て前進。
触れただけで潰れかねない大質量がラースに迫る。
ラースの防具は胴部と下半身を覆う防具のみ。当たり所によっては一撃で長期療養を強いられかねない。
「基本もできていない奴相手なら」
機先を制し力強く振る。
特大の剣が根っ子を巻き込み幹に半ばまで食い込む。
「っ」
最大の力を込めて引き抜く。馬が滑るように後方10メートルへ。
歪虚は自身の攻撃範囲からクランに逃げられ、次に攻撃し易そうな相手を探して誰もいないのに気づく。
「いくらでも持ちこたえるてやる」
最悪小鳥爆撃を食らっても構わないつもりで、遅く大きな木を待ち構えた。
●最終攻勢
「歪虚の頭が大きさに反比例する……なんて初めて知りました」
皮肉を言うフィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)の呼吸が不規則だ。
「……ん」
微かに震える手でワンドを掲げる。
たったそれだけの動作で気力と魔力とマテリアルが削られてはいるが、フィーナにとってはいつものことだ。
心の中で強固な形をイメージし魔力を形に注ぐ。
ワンドの先端に光が集まり、破壊の力を秘めた矢としてこの世に現れる。
「いって」
矢が消えた。
フィーナの目で追いきれない加速で最後の小鳥に迫る。
けれど小さな歪虚は数センチ横滑りして射程外に逃れる。
「私、する。残弾、おんぞん」
この飛行型歪虚は私が倒す。強力なスキルは温存して特大歪虚に使って欲しい。
そう言いたいが途切れ途切れ言うのが精一杯だ。戦力維持はなんとかなっても息が続かない。
小鳥型の爆弾が、あざ笑うかのように円を描いて飛んでいた。
「……」
フィーナは強化しても常人並みの目で空を見上げ、それまでと同じように術の詠唱を始める。
戦闘開始から今までハンターの射程外に居続けた小型歪虚が、今はマジックアローの射程外ぎりぎりにまで近づいている。
「10羽目」
詠唱完了。
小鳥の顔が嘲笑に歪み、次の瞬間何が怒ったか分からないまま光の矢で砕け散る。
フィーナはにこりとすらしない。
射程が少し異なる術を使い分けて罠にかける程度、彼女にとっては朝飯前だ。
「次……」
小回りの効く小型歪虚は全滅した。
矢を防ぐものは何もなく、大きさだけが武器の歪虚に連続で命中する。
戦場が、ハンター有利一気に傾き始めた。
「街が」
和沙が初めて焦りを見せる。
大木の打撃は空振り続けているものの、後退しながらなので街に近づくのを止められない。
「フォローを頼むよ」
ワイヤーウィップを繰り出す。
地面と根っ子状の足を絶妙のタイミングで打ち据える。巨大な歪虚の動きが秒に満たない間止める。
「これで!」
鈴蘭は敵の隙を見逃さない。
詠唱も狙いも省いてファイアスローワーを発動。
炎の属性を持つエネルギーで根と幹の部分をこんがりと焼いた。
ラースの盾が火花を散らす。盾に乱れはないが本人の息は乱れている。歪虚の無傷の部分にもひびが入っている。
彼女だけでなく、ハンターも歪虚も消耗が激しい。
「どうだ、これで動けないだろ」
飛び散る木片を無視してワイヤーを操り、今度は太い根にワイヤを巻き付け歪虚の守りを崩す。
光の矢が、銃弾が、様々な刃が樹皮を壊して中の瘴気を削る。
「とっとと」
ワイヤーが剥き出しの切断面に巻き付く。
「くたばれ……!!」
和沙が力を振り絞ってワイヤーを引っ張ると、最初の時点でも鈍かった動きが木偶同然にまで落ちた。
樹皮のない木目に弾痕が刻まれる。
漏れる瘴気も既になく、穴の端からさらさと崩れて木くずが舞う。
「三鳳襲!」
紅蓮の翼が羽ばたき歪虚に3つの焼け跡がうまれ、木が大きくひび割れる音が強く響いた。
「まだ動いてる。……あぁ、枝とかそんなん狙った方がいいのかな」
ワイヤーから投擲武器へ持ち替え和沙が愚痴をこぼす。
スケルトン数十体分のダメージを与えて健在なのだ。愚痴で済んでいるのは十分凄い。
クランの刃が一閃。
それまでとは異なる、斧で薪を割るのに似た音が妙にはっきりと聞こえた。
太い幹が急速に劣化する。
巨体がみしみし音をたてて斜めに傾く。
道連れを求めて伸ばされた細い枝は鈴蘭の迎撃にあい、何も為せずに砕かれ削られた。
ヴィントは引き金を引いた後、幹を凝視する。
負のマテリアルの気配は消えた。ただ枯れ果てた、そして不安定な大重量物だけがあって崩壊しようとしている。
「巻き込まれるなよ」
離れているので彼は安全だ。
クールダウンする意味も兼ねて小さなあめ玉を1つ口に入れ、横倒しになる大木と前衛ハンターの全力ダッシュを静かに眺めた。
倒れ、揺れて、粉塵が上がって音が消える。
1分近く経ってようやく、息を潜めていた虫と小動物の音が復活した。
「早く帰ってお風呂入って寝たい……マジ疲れた……どんだけ動いたよあたし」
緊張が解けると疲労が襲ってくる。
和沙は疲れを隠さず体格の良い馬の背でぐったりとした。
「埋葬と掃除は私が」
監督役が申し訳なさ半分の表情で提案した。
今回監督役は数度しかスキルを使わず、守りの堅さを活かした囮役もしていない。
もう少し役に立たないと良心の呵責で大ダメージを受けそうだ。
「がんば♪」
「達者での」
ハンター達はそれぞれに別れを告げて転移装置のある街へ向かう。
討伐の成功に気づかれたようで、遠くから微かに歓声が聞こえてきていた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 7人 |
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MVP一覧
- 内助の功
ラース・フュラー(ka6332)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ラース・フュラー(ka6332) エルフ|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/11/28 19:52:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/24 21:14:10 |