• 猫譚

【猫譚】【魔装】傲慢歪虚追撃

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/12/05 07:30
完成日
2016/12/08 18:12

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●追撃戦
 港街ガンナ・エントラータ郊外で行われた会戦。
 黒大公ベリアル率いる羊型の傲慢歪虚の軍勢と、大貴族ウェルズ・クリストフ・マーロウが指揮する貴族私兵や王国騎士団、ハンター達の連合軍は【黒祀】以来となる大規模な衝突となった。
 その結果は、ベリアルの敗走。人類側にも損害はあったが、快勝ともいえるだろう。
「今こそ、我らがフレッサ騎士団の力を見せつける時だぞ!」
 やや小太りの中年男性が、配下らに向かって宣言していた。
 王国西部、フレッサ領を治める小貴族である。大貴族マーロウの呼び掛けに応じ、傲慢歪虚の追撃戦に参加していた。
「武勲を挙げた者には、特別に褒美を取らせる! さぁ、行け!」
 大袈裟な身振りで腕を西の方角へと向けた。
 フレッサ騎士団の面々は掛け声を挙げて次々に駆けていく。
 弱小貴族の私兵集団――ではあるが、練度はともかく、装備は一流だ。この度の追撃戦の為に特別編成された騎馬隊であり、軍馬は全てゴースロン種。
 王国騎士団御用達のブランド「グラズヘイム・シュバリエ」の防具と魔導拳銃剣「エルス」で武装している。
「金は掛かったが、壮観だ」
 これも領地経営が軌道に乗っているからだろう。
 今回の追撃戦で功績を残せば、貴族派の中で存在感をよりアピールできるというものだ。

●???
 歪虚ネル・ベルは蔑んだ表情で、追撃戦の経過を丘の上から眺めていた。
「……くだらぬ」
 逃げる羊型の歪虚。
 ネル・ベルの主人であったフラベルの上司にあたるベリアルとその軍勢だ。
 人間らの執拗な追撃に追われている。
 召集を受けたネル・ベルが、王国南西部に到着した頃には、この有様だった。
「人間共を虚仮にし過ぎた結果だな」
 どうせ思い込みかなにかで王国に乗り込んだのだろう。
 結果は重大だ。傲慢――アイテルカイト――が人間如きに、これほどの大敗をするなぞ、許される訳がない。
「もはや、ベリアルの庇護を受けるまでもない。潮時か」
 思い返してみれば、主であったフラベルを討たれてから、一人で王国内に留まっていた。
 数多くのハンター達との出会いや、激戦などを経て、従者や部下を作り、策源地であるフレッサ領も確保した。ベリアルを見限るのには良い機会だろう。
「しかし、何もせずに引き下がる……という事もいかないな」
 人間共の追撃を防ぐために存分に戦ったという事が残ればいい。
「……オキナからの話によると、ハンター共も追撃に出ているという事だったな」
 ニヤリとネル・ベルは笑った。

●アルテミス小隊出撃
 刻令術式外輪船フライングシスティーナ号は護衛の軍船と共に王国南西部沖に浮かんでいた。
 逃げる傲慢歪虚の軍勢を追撃する為だ。沖合から王国南西部に上陸させ、側面から敵軍を突いている。
「制海権があるとないとで、こうも違うのですね」
 王国騎士であり、アルテミス艦隊の艦隊司令であるソルラ・クート(kz0096)が双眼鏡で陸地を見つめていた。
 追撃任務の依頼を請け負ったハンター達が上陸している頃だからだ。
「さすがに、これ以上はイスルダ島が近くなりますので、進めませんですが」
 そう言ったのは、騎士ノセヤだ。
 アルテミス艦隊の規模は大きいが、同時に貴重な海上戦力であるので、無茶は出来ない。
「私達の追撃戦もここまでという事ですね」
「そうですね……作戦通り、ハンターの皆さんが、敵軍に追いつければと思います」
 ハンター達は上陸地点から敵軍の側面を奇襲する為、強行軍を行う事になっている。
 馬やバイクで、道なき道を走破しなくてはならないのだ。
「折角、CAMや馬車などの運用が可能といっても、上陸艇に乗せられないのは痛いです」
 ノセヤが申し訳なさそうに言った。
 だが、仕方ない事でもある。フライングシスティーナ号は就航したばかりであり、CAM母艦としてのノウハウが皆無だった。
「今後の改善点……ね」
「早急に解決したいと思います」
 丁寧に頭を下げたノセヤに、ソルラは双眼鏡を下ろした。
 追撃戦の事で一つ、懸念事項を思い出したからだ。
「……追撃隊のいくつかを退けたという歪虚が気になるわ」
 報告では、二又の槍を持つ大型の羊歪虚だという。
 非常に強力な個体ではあるようだが、そこまで強ければ、名もあるだろうにと思う。しかし、特に名はない……らしい。
「彼らなら、なんとかなるでしょう」
 陸の方角に向かって頼もしそうな視線を向けたノセヤであった。

リプレイ本文

●疾走
 ハンター達が敗走を続ける傲慢歪虚の軍団の側面を突く為に、強行していた。
「まさか、一度は王国を脅かした羊共も、今じゃあの有様か……」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が愛馬に跨りながら、歪虚の居るはずであろう方角を見つめる。
 黒大公ベリアルが配下と共に王国を攻め寄せたのは王国歴1014年の事。
 幾重の守りを抜いて王都を蹂躙した羊の軍勢だが、こうなったら、見る影もない。
「只の追撃戦……の筈が、どうも面倒になる気がするな」
 魔導バイクで疾走しながら言ったのはクリスティン・ガフ(ka1090)だった。
 追撃隊の幾つかを撃退している強力な歪虚が殿に居るという話しだ。
 その話しに米本 剛(ka0320)が険しい顔を浮かべる。
「タイミング的には、ネル・ベルさんが『何か』仕掛けてくるには絶好なのでしょうが……」
 2年前……イスルダ島へ向けて撤退を開始した歪虚の追撃戦を、剛は思い出していた。
 あの時も、ネル・ベルが現われた。今回出現するのであれば、如何なる理由なのか……剛は見当もつく気がしない。
「どの道、やるべき事はキッチリカッチリやらせて頂きましょうかね」
 追撃戦自体に興が乗らなくとも、ネル・ベルの動きが読めなくとも、課せられた任務はこなす。
 それが、ハンターというものだ。
「面白くなる、か」
 思わずニヤリと口元を歪めるクリスティンはスロットを全開に回した。
 魔導エンジンが唸る。
 一気に加速したクリスティンの背を追いかけるように、エヴァンスも愛馬に発破を掛けた。
「プライドの高い“あいつ”が、この追撃戦を邪魔してくるとは思えねぇが……万が一って事もある。油断の出来ねぇ状況ってこった」
 聞けばネル・ベルは強力な存在になっているというではないか。
 強敵との戦いが楽しみな戦士達の後ろを瀬織 怜皇(ka0684)が遅れないように手網を握る。
(追撃戦……ですか。俺が、出来ること全てやり尽すのみ、です!)
 静かに、しかし、力強く心の中で誓う。
 その為にも、まずは悪路を突破しなければならない。ゆっくり走っていれば追撃戦に間に合わなくなる可能性もあるので、強行自体が大変な事になるだろう。
 ラジェンドラ(ka6353)も馬を走らせるのに集中していた。
「王国か……。それに、今回の相手は確か傲慢だったな」
 ふと、頭の中に過ぎった記録に、唇を噛む。
 傲慢に属する歪虚との戦いは、もしかして、彼には宿命にも等しい事なの……かもしれない。
 やってみせると心の中で気合を入れた時だった、隣を走るアルスレーテ・フュラー(ka6148)の声が聞こえた。
「非常に強力だけど、特に個体名はない、二又の槍を持った大型羊……」
 注意する必要はあるだろうが、アルスレーテには別の事が浮かんでいた。
 二又の槍を実際に見ていないので確証はないが……可能性としては全くの零ではないという確信もあった。
「……私も、武器に変身したネル・ベルを使ったことはあるし……」
 それは、非常に強力な武器――ダイエット器具――だった。

●悪路突破
 当初は足並み揃えての強行軍だったが、足場の悪い悪路に入ると、バラバラになる。
 騎乗の技だけではなく、地形をよく見たり、あるいは道具を使って工夫するも、徐々に戦列が伸びた。
「お前は、どんな戦場も駆け抜けてきた道悪の鬼 、セラフだ!」
 先頭を行くのは、エヴァンスだった。
 沼地での機転も効いたおかげでもあるかもしれない。
 そのすぐ後ろを走るのは、ラジェンドラとアルスレーテだ。
「道を開ければ、他の仲間への支援になる。戦う事だけが仕事じゃないか」
 機導術で障害物を粉砕してルートを確保するラジェンドラ。
 悪路で脚を痛める馬は居なかったのは幸いな事だ。
「ずっこけたりしないように気をつけて、全速力では移動しないように……ってつもりだったけど」
 急がば回れねと、思うアルスレーテ。
 地形の状況だけではなく馬の状態にも気を使っていた。
「馬が駄目になったら、結局そのあとの足が無くなるからな」
「ラジェンドラの後だと障害物がなくて面倒が一つ減るわ」
 そんな事を言う二人の後ろに、魔導バイクを駆るクリスティンが続いた。
 ワイヤーと斬魔刀を巧みに操り、先行する仲間の後を追いかける。
「十分に、ついていけているな」
 仲間達はゴースロン種の馬に騎乗している。
 グラズヘイム王国アークスタッド牧場産の名馬であるが、クリスティンの魔導バイクも劣ってはいない。
(……違和感か、いや、近視感か?)
 同じように追撃をかけている貴族の中に、ゴースロン種で統一された騎馬隊が居ると出発前に聞いた。
 フレッサ領を治める貴族の私兵というが……この感じ、ブルダズルダの街とも重なる……そんな気がする。
 最後尾は剛と怜皇が駆けていた。
 二人もゴースロン種に騎乗していたが、装備の重さの関係でやや遅れ気味だ。
「正直、自分が一番難所の突破に手間が掛かりそうですね」
「障害物があれば俺も機導術で破壊しますから」
 既に先行している仲間達が切り開いているが、それでも排除しきれなかった障害物は残る。
 それらに機導術を放って道を作り、剛が後に続く。
 森林、沼地、そして、岩場を切り抜け――丘を上がると、眼下に羊の群れが見えた。右往左往としていて動きがまとまっていない。
「いくぜぇ!」
 先頭を走るエヴァンスが刀を掲げ、突撃を開始した。

●羊歪虚追撃
 言葉にならない叫び声をあげた大型の羊型歪虚。
 手には二又の槍を持つ。槍からは特に禍々しい雰囲気を感じるものではないが。
「俺と同じタイプだな。槍に能力を依存しているのか」
 ラジェンドラが宙に機導術で三角形を作る。
 刹那、各頂点から光が迸り、その一つが大型へと向かった。大型は槍で受ける事もせず、俊敏な動きで避ける。
 残りの光は、奇襲に混乱し逃げ惑う小型の羊歪虚へと放たれていた。
「悪いが、お前らを逃がす気はない」
 立て続けにデルタレイを撃つラジェンドラに怜皇が少し遅れて到着した。
「さて、行きます、よ!」
 怜皇も戦場に到着すると、同じように機導術を放つ。
 伸びた光が羊を直撃し塵となって崩れていく。
 大型も巻き込めれば同時に狙う。
「なるべく、多く、倒したい所です」
 大型と戦う仲間達の姿を視界の中に入れながら言った怜皇の台詞に、ラジェンドラも頷いた。

●討伐
「ほぉ、強そうな羊じゃねぇの?」
 エヴァンスの目の前で、大型の羊歪虚が力の限り槍を振り回す。
 ごうぅっと唸るような音を立てる二又の槍。
「だが、それでも、お前の持ってるその槍は、身の丈に合わなそうだがな!」
 槍の使い方というものがなっていない。力の限り振り回している――そんな気がしないでもない。
 一方、真っ先に羊歪虚に挑むエヴァンスの後ろで、アルスレーテは呆れた様子だ。
「……分かりやすいわ」
 二又の槍と聞いていたが、片方の先端は欠けていた。
 ネル・ベルの幾何学模様の角も、片方が同様であった。つまり――
「強力なのは、羊というよりも、槍の方なんでしょうね。ねえ、ネル・ベル?」
 しかし、槍からは返事が無かった。
 これがただの槍なら、とんだ恥ずかしい事だが……。
「確かに怪しいな……なら、これでどうだ!」
 エヴァンスが全身のマテリアルを刀へと注ぎ込むと刀身に赤い文字が浮かび出た。
 だん!っと強く踏み込みながら空間そのものを切り裂くように刀を薙ぎ払う。
 見え見えの軌道だが、羊歪虚は槍で受け止めようという動作はしなかった。
「……そうかよ。じゃ、まずは、そのデカブツからだな」
「ふふ、ダイエットに役立ちそうな槍だこと」
 直線上にマテリアルを撃ち放ち、アルスレーテも距離を詰める。
 僅かな攻防の後、クリスティンが魔導バイクで疾走しながら突貫してきた。
「とろいな」
 斬りながらワイヤーで羊歪虚の動きを止めようとするも、さすがに動きまでは止めるには至らない。
 逆にクリスティンが引っ張られるが、それを予想していたのか、華麗な動きで魔導バイクからジャンプすると、大型の肩の上へと飛び乗った。
「もらった!」
 不安定な足場の上だが、くるりと長大な刀を振り回すと首元へと叩きつけようとした。
 だが、突如として爆発――。
 槍から発生した炎が辺りを包み込んだ。接近していたエヴァンスとアルスレーテの二人が攻撃を中断しなければならない程の爆発だ。
「……ッ!」
 全身からブスブスと煙を立てているクリスティン。
 紙一重で無事だったのは、爆発の瞬間、彼女を包んだ光の障壁のおかげだった。
「間に……合いましたね」
 剛が行使した魔法であった。
 彼は魔導ガントレットを構える。数だけで言えば、4対1だ。
 圧倒的に有利なはずなのに、不気味な雰囲気を感じずにはいられない。
「早急に倒して追撃戦の再開と思いましたが、これは……」
 負のマテリアルが強大に感じるという訳ではない。
 ハンター達はお互いに頷き合うと一斉に獲物を向けた。

 羊歪虚は、ハンター達の攻撃に対し、槍を振り回す。
 だが、強力であっても、きっちりと受け止められれば、剛の回復で問題はない。
 優勢に戦いを進めていたその時だった。突如として“声”が響いた。
「なかなか、やるな。強者共」
 歪虚ネル・ベル(kz0082)の声――それは、二又の槍から発せられていた。
 警戒して攻撃の手が止まるが、一瞬の事。すぐさま攻撃を再開したハンター達よりも先に羊歪虚が動いた。
 いや、正確に言うと、槍が動いた。
「畜生は、強者に従うものだ。畜生らしく、野生の如く、暴れろ!」
 傲慢の歪虚特有の能力【強制】だ。
 もちろん、その備えをハンター達は怠った訳ではない。場合によっては一撃必殺にもなり得る【強制】の準備をしてこなかった訳ではない――自身には。
「あぁ! 黒風!」
「セラフ!」
「落ち着かないと、解体するわよ」
 剛、エヴァンス、アルスレーテの3人の馬が暴れ、不意を突かれたのもあり落馬してしまう。
 もちろん、それを見逃す程、歪虚は甘くない。
 羊歪虚の強力な蹴りがエヴァンスに直撃し、同時に炎の爆発。
「トドメだ」
 槍の穂先がエヴァンスを貫く。
「……ほう。これだけの猛攻を加えても生きているとは、な」
「これっぽちだぜぇ!」
 鮮血を飛ばしながら、エヴァンスはカウンターを槍に叩き込んだ。
「実に頼もしい、ツいてる男だ」
 攻撃を合わせるようにクリスティンが羊歪虚へと強烈な一撃を叩き込む。
 ここまで傷を負わせていた部位を抉るような一撃は、羊歪虚を打ち倒すには充分であった。

●【魔装】
 それは、奇妙な光景であった。
 片方の先端が欠けている二又の槍が、地面に立っていたが、姿が徐々にぼやけ、変わりに一人の歪虚へと変わる。
「ネル・ベル! ラジェンドラさん、一度合流しましょう!」
 怜皇が呼びかける。
 仲間達が大型羊歪虚と戦っている間に、かなりの数の敵を倒した。戦果としては充分だろう。
「あいつがか………名前だけは聞いた事があったが」
 ラジェンドラも槍を構え直す。
(希の嬢ちゃんが決着をつける相手……か)

 怜皇とラジェンドラの二人が向かっている事を確認しながら、歪虚ネル・ベルは勝ち誇ったような表情で、対峙するハンターらを見渡す。
「見知った顔もいるようだが」
「……」
 剛は返事をせずに胸を張って仁王立ちで返す。
 まるで、企みなぞ、『全部お見通しですよ?』と言わんばかりだ。
「今度は、お前が相手か?」
 エヴァンスが刀先を歪虚に向けたが、歪虚は気にした様子もないようだった。
 刀先を向けたのは、クリスティンも同様だった。
「どうもネル=ベルサン。クリスティン=ガフです。直接は初めましてだな」
「奇妙な挨拶の仕方だな」
 ニヤっと笑い、視線をアルスレーテへと向けた。
「いつぞや、大峡谷ぶりか」
「とっ捕まえて、私のダイエットのお手伝いの為に連れて帰りたいけど……」
 言ってて無理だなと思う。
 そもそも、捕まえられるような状況でも無いようだからだ。
 一触即発の状態。誰かが切りかかれば戦端が開かれるだろう――その結果がどうなるか。
 そこへ、怜皇とラジェンドラも到着した。
「貴様はあの巫女姉妹と一緒に居たな」
「決着をつけるなら、二人には悪いけれど、ここで、俺が相手になる」
 怜皇の言葉に、歪虚は軽く鼻で笑った。
 視線を一瞬だけ、ラジェンドラに移し――次に、東の方角へと向けた。
 土煙が上がっている。あれは、追撃隊である貴族の私兵達だろう。
「計画通りには進まないものだが、まぁ、こんな所だろうな」
 歪虚には戦う気はないようだ。
 踵を返してゆっくりと歩き出す。無防備な背中は狙いたい放題だろうが、放出される負のマテリアルの多さに罠を警戒するハンター達。
「さらばだ」
 振り向きもせず、短くそれだけ言うと、歪虚は消え去った。

 緊張が解れ、誰かがため息を付いた。
「気になりますね」
 剛が目が細めて歪虚が消え去った空間をみつめる。
 なぜ、ハンター達の追撃の邪魔をしにきたのか。
「自分より格下の奴に使われるっていうのは、傲慢としてどうなんだ?」
 顎に手をやり、ラジェンドラも考えるように呟いた。
 戦闘能力だけで言えば、ネル・ベル自身が戦った方が強いだろう。だが、そうはしなかった。
 それにしても、なぜ、槍だったのか……いや、そもそも、“槍”の姿だったのか。
 アルスレーテの話しによると、大峡谷に現われた際は“拳甲”になったという。種類は関係ないのだろうか。
「フレッサ領の私兵団みたいですね」
 追撃隊を確認して怜皇が言う。
 殿が居なくなった事で、敗走を続ける歪虚軍勢は更に大きなダメージを受ける事だろう。
「よし、俺らもいくぜ!」
「あぁ。どうも、不完全燃焼だ」
 エヴァンスとクリスティンの二人は獲物を構える。
 大型の羊歪虚が1体程では満足できなかった……かもしれない。
 駆け出した二人の戦士を見送りながら、アルスレーテは【強制】から解放された自身の馬を探しに歩き出す。
「……ああ勿体無い、素晴らしきダイエット用品……」
 そんな事を呟きながら。


 ハンター達の強行軍からの奇襲による追撃戦は、追撃隊を退けていた大型の歪虚を倒した。また、多くの羊型歪虚も倒した。
 直後に戦場へと到着したフレッサ領の私兵達も高機動力を活かした追撃戦を継続し、多大な戦果を上げたという。


 おしまい。


●追撃隊本陣にて
「幾つかの追撃隊の中でも、大戦果をあげた隊の一つだ!」
 フレッサ領主が部下からの報告に大喜びしていた。
 一時は強力な歪虚が出現し、追撃隊を退けていたという話しがあったので、心配していたのだが……。
「あれだけ金を掛けているのだから、その歪虚も倒せたかもしれないが……まぁいい」
 満足気な表情を浮かべたフレッサ領主。
 これで意気揚々と凱旋できるというものだ。
 小太りなフレッサ領主の高笑い声が、陣地に響いていったのだった。

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  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇ka0684
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラka6353

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇(ka0684
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/30 19:32:48
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/12/04 22:24:11