ゲスト
(ka0000)
【神森】アンセルム
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/12/09 07:30
- 完成日
- 2016/12/21 08:04
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「――ジエルデ殿」
背後からの声に振り返ったジエルデが見たのは、自分を追いかけて来たユレイテル・エルフハイム(kz0085)の姿だった。
「森都からの正式な宣戦布告が行われました。今、森都へ戻るのは危険すぎます」
「知っています。私達も、いつの間にか裏切り者扱い……いえ、私の軽率な行動があなたを巻き込んでしまった。ごめんなさい、ユレイテル」
「責任の所在など栓無き事。ジエルデ殿がやらねば、きっと私がそうしていたでしょう」
俯き、自らの掌をじっと見つめる。
ユレイテルは森を変える為、その未来を良きものにするために森の外との交流を目指した。
浄化術の輸出。クリムゾンウェスト連合軍への参加。機導術を学び、錬金術師組合にその技術を還元した事……。
全ては未来を祈っての行動だった。だが結果として、ユレイテルやジエルデの行いは、ヨハネの掌の上だった。
「警戒はしていたのだ。私のような者を……維新派の若者を長老に推薦するなどと。だが、その好機を捨て置けなかった」
「あなたは間違っていないわ、ユレイテル。あなたのおかげで私も救われました。あなたはたくさんのヒトと、森を繋いでくれた……」
静かに歩み寄り、ジエルデはユレイテルの手を両手で包むように握り締める。
「ユレイテル……あなたがいてくれて、良かった」
「……ジエルデ殿」
いいかけて、ユレイテルは背を返した。どこへ、と呼びかけたジエルデにユレイテルはこたえる。助けなければならない者がいる、と。
「彼の名はアンセルム。維新派のエルフだ。ある場所で幽閉されている」
●
そこはエルフハイムの辺境。誰も知らない森の中だ。
その森のほぼ中央。大樹があった。
良く見ると大樹がくり抜かれていることがわかる。内部は牢になっていた。刃がたたぬ蔓が格子になって虜囚を閉じ込めているのだ。
そして、虜囚は独り。エルフの若者だ。牢の中で座している。
彼の名はアンセルムといった。
「――ジエルデ殿」
背後からの声に振り返ったジエルデが見たのは、自分を追いかけて来たユレイテル・エルフハイム(kz0085)の姿だった。
「森都からの正式な宣戦布告が行われました。今、森都へ戻るのは危険すぎます」
「知っています。私達も、いつの間にか裏切り者扱い……いえ、私の軽率な行動があなたを巻き込んでしまった。ごめんなさい、ユレイテル」
「責任の所在など栓無き事。ジエルデ殿がやらねば、きっと私がそうしていたでしょう」
俯き、自らの掌をじっと見つめる。
ユレイテルは森を変える為、その未来を良きものにするために森の外との交流を目指した。
浄化術の輸出。クリムゾンウェスト連合軍への参加。機導術を学び、錬金術師組合にその技術を還元した事……。
全ては未来を祈っての行動だった。だが結果として、ユレイテルやジエルデの行いは、ヨハネの掌の上だった。
「警戒はしていたのだ。私のような者を……維新派の若者を長老に推薦するなどと。だが、その好機を捨て置けなかった」
「あなたは間違っていないわ、ユレイテル。あなたのおかげで私も救われました。あなたはたくさんのヒトと、森を繋いでくれた……」
静かに歩み寄り、ジエルデはユレイテルの手を両手で包むように握り締める。
「ユレイテル……あなたがいてくれて、良かった」
「……ジエルデ殿」
いいかけて、ユレイテルは背を返した。どこへ、と呼びかけたジエルデにユレイテルはこたえる。助けなければならない者がいる、と。
「彼の名はアンセルム。維新派のエルフだ。ある場所で幽閉されている」
●
そこはエルフハイムの辺境。誰も知らない森の中だ。
その森のほぼ中央。大樹があった。
良く見ると大樹がくり抜かれていることがわかる。内部は牢になっていた。刃がたたぬ蔓が格子になって虜囚を閉じ込めているのだ。
そして、虜囚は独り。エルフの若者だ。牢の中で座している。
彼の名はアンセルムといった。
リプレイ本文
●
「エルフハイムに赴くのは、これがはじめてです」
物珍しそうに、その二十歳ほどの娘は辺りを見回した。
銀髪碧瞳、透けるように白い肌の美しい娘だ。淑女然とした物腰が印象的だ。名をノエル・ウォースパイト(ka6291)という。
そこはエルムハイムの中であった。神秘めいた静けさに覆われた森の中を彼女は進んでいる。
「普段は静かで穏やかなところと聞いていますが、そうですね。今くらい賑やかな方が個人的には好みでしょうか」
くすり、とノエルは笑った。
彼女がいう今とは、エルフハイムと帝国の戦争状態を指している。それを賑やかといい、好みといういうノエルの神経を何と形容してよいものか。何か人間として大事なものが欠落しているとしか思えなかった。
「ふむ、エルフか」
さびのある声でつぶやいたのは巨躯の男であった。がっしりした身体を重そうな鎧が覆っている。
ジャイアント・キリング。頭の先からつま先まで、全身を覆うプレートアーマーである。細部に流麗で細かな意匠が施されたグラズヘイム王国騎士団御用達のブランド『グラズヘイム・シュバリエ』の逸品で、『巨人殺し』の名を冠された代物だ。
男――ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は続けた。
「最近は何かと縁があるな」
それは先日のことだ。彼を含めた八人のハンターはエルフに誘拐された子供達を救った。それがエルフの恐るべき企みのひとつであることを知るのは、子供たちを救ってからのことだ。
「あの誘拐が、無差別大量虐殺のためとはな」
ため息まじりに男がごちた。
二十歳半ばほど。戦いなれた身ごなしの持ち主だ。
ソレル・ユークレース(ka1693)という名の男は吐き捨てるようにいった。
「本当にエルフも人間も消して、『浄化』するつもりかよ……。狂ってんな」
「愚かなのはヨハネ・エルフハイムだよ」
哀しそうに、リュンルース・アウイン(ka1694)という名の若者が目を伏せた。
人間ではない。人間にしては、その顔は美しすぎる。エルフであった。
「アンセルム達維新派は心に……信念に従ったのでしょう。それは間違いではないはず。裏切りというのなら、ヨハネ・エルフハイムこそ。エルフも人も、その生命は費やすものではなく、守り、育むもののはずだから」
「それにしても……」
理知的な顔立ちの若者がため息を零した。
銀髪に銀瞳。妖精めいたエルフの若者だ。名をシルヴェイラ(ka0726)という。
「まさか同族とこんな形で武器を交えることになるとはね……」
シルヴェイラは嘆声をもらした。
彼もエルフ。我もエルフ。できうることなら戦いたくなかった。
が、それはできないことである。何故なら彼らはターゲットであり、シルヴェイラはハンターであった。
「しかし」
二十歳ほどの娘が首を傾げた。端正といえなくもない顔立ち。ただし娘は人ではなかった。
額からは太い角が一本、ぞろりと生えている。鬼であった。名を骸香(ka6223)という。
「牢に突っ込んで処刑でもする気だったんすかねぇ?」
誰にともなく問うた。その声には隠しようもないほど深い嫌悪の響きがある。
昔のことだ。骸香は謂れのない罪で捕らえられたことがあった。結果として助かったのだが、捕らわれていた間、彼女は唾棄すべき行為を様々にされたのである。だからアンセルムのことも他人事とは思えなかった。
「さあな」
どこか飄然とした若者がこたえた。
その態度は軽薄そのものである。が、若者の身ごなしは只者のそれではなかった。
彼の名はシェイス(ka5065)。本当の名ではなかった。シェイスは元々は隠密、暗殺を生業としていた人間で、シェイスというのは六番目を指すコードナンバーだったのだ。
「エルフどもの魂胆なんぞ、どうでもいいさ」
シェイスがニヤリとした。その一刹那だけ、彼の碧の瞳の奥に刃のものに似た光が閃いた。
「要はアンセルムを助けだしゃあいいんだ。静かに迅速に、そして後を濁さず……っと、うまくいきゃいいがな」
「いいか、じゃない」
ひどく落ち着いた声音で、八人めのハンターはこたえた。
声の主は男だ。二十代半ばほどであろう。それなりに整った顔立ちをしているのだが、眠そうにしているためか美形とは思えなかった。
若者――鞍馬 真(ka5819)は続けた。
「うまくいかせるんだ。どんな困難な状況であろうとな。それがハンターであり、俺たちはハンターなんだ」
「残念だなぁ」
つまらなそうに骸香は独語した。エルフを壊せないことをである。
敵は苦しめて殺す。それが苦しみの未知の果てに見つけた骸香の信条であった。
目を眇めると、真は辺りを見回した。
「侵入者を探知する結界がはられているはず。そろそろ来るぞ。派手にやろうか」
●
目印の岩があった。目的の大樹まではもう少しある。
「すでに結界の中ですよね」
シルヴェイラが小声でいった。ノエルがうなずく。
「牢があるのに看守不在という状況は考えづらいです。どこかへ潜んでいらっしゃるのでしょうね」
ノエルが素早く視線をはしらせた。あたりに異変はない。また殺気も感じ取れない。
「でも、いるよ」
リュンルースがいった。
気配は、ない。また姿も見えない。
が、同族であるリュンルースにはわかるのだ。いる。エルフは確実に近くにいる。気配を殺し、身を隠し、じっとこちらの様子を窺っているのだ。
「それだけに恐ろしい奴ら」
強ばった顔でソレルはいった。
彼らは並みの人間ではない。ハンターだ。そのハンターに気配を感得させないエルフとはどれほどの使い手なのだろう。
「なら、尚更さっさと奇襲していただきたいですね」
ノエルが嘲るように笑った。
刹那だ。きらっと光がはねた。
「お出ましの様だ」
ユルゲンスが叫んだ。が、遅い。四人のハンターの身に矢が突きたった。
その一人はユルゲンスである。彼の全身をおおった鎧の隙間を敵は狙ったのであった。ソレルの予測通り、敵は恐るべき手練であった。
反射的に真は銃をかまえた。
エルス。大型で無骨な雰囲気の魔導拳銃だ。側面に剣が組み込まれており、仕組みを操作する事で、直剣モードへと移行できる。
「ぬっ」
真は銃口を動かした。敵の姿を視認することはできない。
「よし。身を隠しつつ、ゆっくり後退するぞ。ターゲットから引き離すんだ」
木陰に身を隠したユルゲンスがいった。
「……始まったようだな」
六人のハンターたちからやや離れた木陰。潜んでいた男がいった。シェイスである。
すると傍らの女がうなずいた。骸香である。
「いこうか」
骸香がするりと木陰から滑り出た。まったく気配はない。驚くべきことに骸香はマテリアルにより一切の気配を断つことができるのだった。
同時にシェイスもまた動いた。疾風のように二人がはしる。通常人を超える機動力であった。
●
「エルフさん」
木陰に身を潜め、ノエルが呼びかけた。
「存分に殺りあいましょう。お互い、すぐに膝を屈してはつまらないというものです。……ああ、ご安心を」
くすりとノエルは微笑った。
「私の腕では、そう簡単にあなたを嬲ることは叶わないでしょうから。勿論その程度の期待は寄せていますよ。せっかくの闘争、愉しくなくては命を賭ける気など起きません。そう思いませんか?」
ひゅん。風が哭いた。
次の瞬間だ。ノエルの肩に矢が突き刺さった。
咄嗟にノエルは身を伏せた。その唇が笑みの形にゆがむ。
「……本当に強いのですね」
ノエルは悟った。エルフは無音で移動していたのだ。隠形のみならず、単純な戦闘技能においてもエルフの方が上のようだ。
「それなら」
ノエルは身を起こした。瞳から光を流しながら、疾る。矢の軌道からおおよその位置は確認してあった。が――。
違う位置でエルフの姿が動いた。弓をかまえている。
その時だ。呪が空に流れた。
リュンルースだ。その眼前には明滅する花弁――魔法陣が展開している。
「疾っ」
リュンルースの瞳が七色の光を放った。すると魔法陣から炎の矢が噴出し、弓をかまえたエルフを射抜いた。
刹那だ。ノエルが襲った。淡い桜色の刀身をもつ日本刀を抜刀。花びらのような光が舞い散らせ、逆袈裟にエルフを斬る。地を擦った刃の切っ先が摩擦熱のために赤熱化。炎の尾をひいて流れた。
血飛沫をばらまき、エルフが跳び退った。その背後、ソレルが迫る。
ソレルが踏み込んだ。衝撃に地が陥没。ソレルは渾身の一撃をエルフの背に放った。
「ぐふっ」
さすがにたまらずエルフが吹き飛んだ。動かない。
その時、矢が疾った。ソレルの足を射抜く。
「くっ」
ソレルは膝を折った。すぐには動けない。再び矢が疾った。
キンッ。
硬い音が響いて矢がはじかれた。ソレルの前で大きな背が立ちはだかっている。ユルゲンスだ。
●
「さすがはエルフの一流。たいしたものだ。血沸き肉躍るというものよ。が、そのやりようだけは認めるわけにはいかぬ。子供だけでは足らずに同胞まで攫うか、全く見上げたものよなエルフとは!」
盾をかまえてユルゲンスは走った。が、射撃位置にはすでにエルフの姿はない。
「素早い。やるな」
ユルゲンスが呻いた。
その時だ。二つの矢が疾った。その一つをユルゲンスは盾ではじいた。が、一本は鎧の隙間に突きたった。
その時である。闇を裂いて光が流れた。
「あっ」
「ううっ」
二つの呻き。それはエルフのものであり、光を放ったのはシルヴェイラであった。
デルタレイ。敵を灼く光線を放つ魔法である。シルヴェイラの眼前で光る三角形が消えた。
「あっ」
シルヴェイラが身をよじった。その背に矢が突き立っている。魔法を発動した一瞬の隙をついてエルフが矢を放ったのだ。
続いて動いたのは二人である。一人はユルゲンスだ。虎のように突撃、信念を込めた渾身の一撃をエルフに叩き込む。
なんでたまろう。頭蓋を割られ、エルフは昏倒した。
そして、もう一人。真だ。
瞬く間に彼我の間を走破。瞳を金色に煌めかせ、斬撃を叩き込む。
彼の得物はオートMURAMASA。柄に特殊モーターを搭載した日本刀で、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増さしめるという代物だ。
斬られつつ、エルフは跳び退った。空にあるうちにエルフは弓をかまえ、射る。
矢が真の頬をえぐった。が、かまわず真は追撃。ここで退くわけにはいかなかった。
彼が手練のエルフであるなら、こちらはハンターだ。負けはしない。
逆袈裟。空に光の亀裂を刻み、真はエルフを斬りあげた。
「他のエルフは?」
リュンルースが呪文詠唱。展開した魔法陣から氷の矢を撃ち出す。
矢は遠くなりつつあるエルフの背に突きたった。その動きが一瞬とまる。
「逃がすかよ」
ソレルが馳せた。足の矢傷は薬によって幾分か回復している。
気づいたエルフが振り向いた。矢を放つ。流れるような動きはさすがであった。
矢はソレルの肩に突き刺さった。が、ソレルはとまらない。肉薄すると疾走の勢いを利用し、ソレルは剣をたばしらせた。
胴斬り。
エルフは崩折れた。
●
「……あれだな」
木陰からシェイスが顔を覗かせた。
広場のように円形に開けた場所。中央にとてつもない太さの大樹がある。根元辺りに洞があり、中に人影が見えた。洞は格子状の蔓によって塞がれている。
そばにエルフが一人、佇んでいた。手に弓をさげている。
「どうやら一人のようだね」
「ああ」
周囲を見回し、シェイスはうなずいた。辺りに気配はない。
ニヤリとすると、骸香はわざとエルフの正面に飛び出した。
「貴様は――」
驚愕しつつ、しかしエルフの身体は確実に動いていた。弓をかまえ、撃つ。
「くっ」
矢に射抜かれ、骸香が足をとめた。その時、すでにエルフは第二矢を弓に番えている。
その時だ。背後から迫る影があった。シェイスだ。
シェイスは缶ビールを放った。慌ててエルフが矢を放つ。
刹那、骸香が襲った。迅雷の蹴りを放つ。
びきっ。
骨の砕ける異音を響かせ、エルフの手から弓がとんだ。
「くそっ」
エルフが跳び退った。ダガーを投擲する。流星のように流れたそれはシェイスの身に吸い込まれた。
「痛――」
反射的にシェイスはカードを放った。ただのカードではない。四辺を鋭く尖らせた投擲武器であった。
エルフの首から鮮血がしぶいた。さすがにたまらず、エルフは背を返す。追おうとした骸香を、しかしシェイスはとめた。
「アンセルムの救出が先だぜ。戦うばかりがハンターでもねぇ、迅速に仕事をこなすが俺の生き方、ってな?」
「わかったよ」
骸香が洞に走り寄った。その両目は朱く瞳孔が開き、髪は血の様な赤黒い色に変わっている。右手の甲に凶、左手の甲には戯という文字が浮かび上がっていた。
「アンセルムだね」
骸香が問うた。
「そうだ」
中から低く声がこたえた。弱っているのか、細い声だ。するとシェイスは洞のそばに貼られた紙片を見やった。幾何学的な紋様が描かれている。
「こいつを剥がせばいいんだな」
シェイスが紙片を引き剥がした。すると格子状にのびていた蔓がするすると引いた。
「出ろ、アンセルム。助けにきたぜ」
「ありがたい」
洞の中で座していた人影が立ち上が」た。端正な顔立ちのエルフだ。かなりやつれている。
「真」
トランシーバーにむかって骸香が口を開いた。
「アンセルムを救出した。脱出するよ」
「エルフハイムに赴くのは、これがはじめてです」
物珍しそうに、その二十歳ほどの娘は辺りを見回した。
銀髪碧瞳、透けるように白い肌の美しい娘だ。淑女然とした物腰が印象的だ。名をノエル・ウォースパイト(ka6291)という。
そこはエルムハイムの中であった。神秘めいた静けさに覆われた森の中を彼女は進んでいる。
「普段は静かで穏やかなところと聞いていますが、そうですね。今くらい賑やかな方が個人的には好みでしょうか」
くすり、とノエルは笑った。
彼女がいう今とは、エルフハイムと帝国の戦争状態を指している。それを賑やかといい、好みといういうノエルの神経を何と形容してよいものか。何か人間として大事なものが欠落しているとしか思えなかった。
「ふむ、エルフか」
さびのある声でつぶやいたのは巨躯の男であった。がっしりした身体を重そうな鎧が覆っている。
ジャイアント・キリング。頭の先からつま先まで、全身を覆うプレートアーマーである。細部に流麗で細かな意匠が施されたグラズヘイム王国騎士団御用達のブランド『グラズヘイム・シュバリエ』の逸品で、『巨人殺し』の名を冠された代物だ。
男――ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は続けた。
「最近は何かと縁があるな」
それは先日のことだ。彼を含めた八人のハンターはエルフに誘拐された子供達を救った。それがエルフの恐るべき企みのひとつであることを知るのは、子供たちを救ってからのことだ。
「あの誘拐が、無差別大量虐殺のためとはな」
ため息まじりに男がごちた。
二十歳半ばほど。戦いなれた身ごなしの持ち主だ。
ソレル・ユークレース(ka1693)という名の男は吐き捨てるようにいった。
「本当にエルフも人間も消して、『浄化』するつもりかよ……。狂ってんな」
「愚かなのはヨハネ・エルフハイムだよ」
哀しそうに、リュンルース・アウイン(ka1694)という名の若者が目を伏せた。
人間ではない。人間にしては、その顔は美しすぎる。エルフであった。
「アンセルム達維新派は心に……信念に従ったのでしょう。それは間違いではないはず。裏切りというのなら、ヨハネ・エルフハイムこそ。エルフも人も、その生命は費やすものではなく、守り、育むもののはずだから」
「それにしても……」
理知的な顔立ちの若者がため息を零した。
銀髪に銀瞳。妖精めいたエルフの若者だ。名をシルヴェイラ(ka0726)という。
「まさか同族とこんな形で武器を交えることになるとはね……」
シルヴェイラは嘆声をもらした。
彼もエルフ。我もエルフ。できうることなら戦いたくなかった。
が、それはできないことである。何故なら彼らはターゲットであり、シルヴェイラはハンターであった。
「しかし」
二十歳ほどの娘が首を傾げた。端正といえなくもない顔立ち。ただし娘は人ではなかった。
額からは太い角が一本、ぞろりと生えている。鬼であった。名を骸香(ka6223)という。
「牢に突っ込んで処刑でもする気だったんすかねぇ?」
誰にともなく問うた。その声には隠しようもないほど深い嫌悪の響きがある。
昔のことだ。骸香は謂れのない罪で捕らえられたことがあった。結果として助かったのだが、捕らわれていた間、彼女は唾棄すべき行為を様々にされたのである。だからアンセルムのことも他人事とは思えなかった。
「さあな」
どこか飄然とした若者がこたえた。
その態度は軽薄そのものである。が、若者の身ごなしは只者のそれではなかった。
彼の名はシェイス(ka5065)。本当の名ではなかった。シェイスは元々は隠密、暗殺を生業としていた人間で、シェイスというのは六番目を指すコードナンバーだったのだ。
「エルフどもの魂胆なんぞ、どうでもいいさ」
シェイスがニヤリとした。その一刹那だけ、彼の碧の瞳の奥に刃のものに似た光が閃いた。
「要はアンセルムを助けだしゃあいいんだ。静かに迅速に、そして後を濁さず……っと、うまくいきゃいいがな」
「いいか、じゃない」
ひどく落ち着いた声音で、八人めのハンターはこたえた。
声の主は男だ。二十代半ばほどであろう。それなりに整った顔立ちをしているのだが、眠そうにしているためか美形とは思えなかった。
若者――鞍馬 真(ka5819)は続けた。
「うまくいかせるんだ。どんな困難な状況であろうとな。それがハンターであり、俺たちはハンターなんだ」
「残念だなぁ」
つまらなそうに骸香は独語した。エルフを壊せないことをである。
敵は苦しめて殺す。それが苦しみの未知の果てに見つけた骸香の信条であった。
目を眇めると、真は辺りを見回した。
「侵入者を探知する結界がはられているはず。そろそろ来るぞ。派手にやろうか」
●
目印の岩があった。目的の大樹まではもう少しある。
「すでに結界の中ですよね」
シルヴェイラが小声でいった。ノエルがうなずく。
「牢があるのに看守不在という状況は考えづらいです。どこかへ潜んでいらっしゃるのでしょうね」
ノエルが素早く視線をはしらせた。あたりに異変はない。また殺気も感じ取れない。
「でも、いるよ」
リュンルースがいった。
気配は、ない。また姿も見えない。
が、同族であるリュンルースにはわかるのだ。いる。エルフは確実に近くにいる。気配を殺し、身を隠し、じっとこちらの様子を窺っているのだ。
「それだけに恐ろしい奴ら」
強ばった顔でソレルはいった。
彼らは並みの人間ではない。ハンターだ。そのハンターに気配を感得させないエルフとはどれほどの使い手なのだろう。
「なら、尚更さっさと奇襲していただきたいですね」
ノエルが嘲るように笑った。
刹那だ。きらっと光がはねた。
「お出ましの様だ」
ユルゲンスが叫んだ。が、遅い。四人のハンターの身に矢が突きたった。
その一人はユルゲンスである。彼の全身をおおった鎧の隙間を敵は狙ったのであった。ソレルの予測通り、敵は恐るべき手練であった。
反射的に真は銃をかまえた。
エルス。大型で無骨な雰囲気の魔導拳銃だ。側面に剣が組み込まれており、仕組みを操作する事で、直剣モードへと移行できる。
「ぬっ」
真は銃口を動かした。敵の姿を視認することはできない。
「よし。身を隠しつつ、ゆっくり後退するぞ。ターゲットから引き離すんだ」
木陰に身を隠したユルゲンスがいった。
「……始まったようだな」
六人のハンターたちからやや離れた木陰。潜んでいた男がいった。シェイスである。
すると傍らの女がうなずいた。骸香である。
「いこうか」
骸香がするりと木陰から滑り出た。まったく気配はない。驚くべきことに骸香はマテリアルにより一切の気配を断つことができるのだった。
同時にシェイスもまた動いた。疾風のように二人がはしる。通常人を超える機動力であった。
●
「エルフさん」
木陰に身を潜め、ノエルが呼びかけた。
「存分に殺りあいましょう。お互い、すぐに膝を屈してはつまらないというものです。……ああ、ご安心を」
くすりとノエルは微笑った。
「私の腕では、そう簡単にあなたを嬲ることは叶わないでしょうから。勿論その程度の期待は寄せていますよ。せっかくの闘争、愉しくなくては命を賭ける気など起きません。そう思いませんか?」
ひゅん。風が哭いた。
次の瞬間だ。ノエルの肩に矢が突き刺さった。
咄嗟にノエルは身を伏せた。その唇が笑みの形にゆがむ。
「……本当に強いのですね」
ノエルは悟った。エルフは無音で移動していたのだ。隠形のみならず、単純な戦闘技能においてもエルフの方が上のようだ。
「それなら」
ノエルは身を起こした。瞳から光を流しながら、疾る。矢の軌道からおおよその位置は確認してあった。が――。
違う位置でエルフの姿が動いた。弓をかまえている。
その時だ。呪が空に流れた。
リュンルースだ。その眼前には明滅する花弁――魔法陣が展開している。
「疾っ」
リュンルースの瞳が七色の光を放った。すると魔法陣から炎の矢が噴出し、弓をかまえたエルフを射抜いた。
刹那だ。ノエルが襲った。淡い桜色の刀身をもつ日本刀を抜刀。花びらのような光が舞い散らせ、逆袈裟にエルフを斬る。地を擦った刃の切っ先が摩擦熱のために赤熱化。炎の尾をひいて流れた。
血飛沫をばらまき、エルフが跳び退った。その背後、ソレルが迫る。
ソレルが踏み込んだ。衝撃に地が陥没。ソレルは渾身の一撃をエルフの背に放った。
「ぐふっ」
さすがにたまらずエルフが吹き飛んだ。動かない。
その時、矢が疾った。ソレルの足を射抜く。
「くっ」
ソレルは膝を折った。すぐには動けない。再び矢が疾った。
キンッ。
硬い音が響いて矢がはじかれた。ソレルの前で大きな背が立ちはだかっている。ユルゲンスだ。
●
「さすがはエルフの一流。たいしたものだ。血沸き肉躍るというものよ。が、そのやりようだけは認めるわけにはいかぬ。子供だけでは足らずに同胞まで攫うか、全く見上げたものよなエルフとは!」
盾をかまえてユルゲンスは走った。が、射撃位置にはすでにエルフの姿はない。
「素早い。やるな」
ユルゲンスが呻いた。
その時だ。二つの矢が疾った。その一つをユルゲンスは盾ではじいた。が、一本は鎧の隙間に突きたった。
その時である。闇を裂いて光が流れた。
「あっ」
「ううっ」
二つの呻き。それはエルフのものであり、光を放ったのはシルヴェイラであった。
デルタレイ。敵を灼く光線を放つ魔法である。シルヴェイラの眼前で光る三角形が消えた。
「あっ」
シルヴェイラが身をよじった。その背に矢が突き立っている。魔法を発動した一瞬の隙をついてエルフが矢を放ったのだ。
続いて動いたのは二人である。一人はユルゲンスだ。虎のように突撃、信念を込めた渾身の一撃をエルフに叩き込む。
なんでたまろう。頭蓋を割られ、エルフは昏倒した。
そして、もう一人。真だ。
瞬く間に彼我の間を走破。瞳を金色に煌めかせ、斬撃を叩き込む。
彼の得物はオートMURAMASA。柄に特殊モーターを搭載した日本刀で、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増さしめるという代物だ。
斬られつつ、エルフは跳び退った。空にあるうちにエルフは弓をかまえ、射る。
矢が真の頬をえぐった。が、かまわず真は追撃。ここで退くわけにはいかなかった。
彼が手練のエルフであるなら、こちらはハンターだ。負けはしない。
逆袈裟。空に光の亀裂を刻み、真はエルフを斬りあげた。
「他のエルフは?」
リュンルースが呪文詠唱。展開した魔法陣から氷の矢を撃ち出す。
矢は遠くなりつつあるエルフの背に突きたった。その動きが一瞬とまる。
「逃がすかよ」
ソレルが馳せた。足の矢傷は薬によって幾分か回復している。
気づいたエルフが振り向いた。矢を放つ。流れるような動きはさすがであった。
矢はソレルの肩に突き刺さった。が、ソレルはとまらない。肉薄すると疾走の勢いを利用し、ソレルは剣をたばしらせた。
胴斬り。
エルフは崩折れた。
●
「……あれだな」
木陰からシェイスが顔を覗かせた。
広場のように円形に開けた場所。中央にとてつもない太さの大樹がある。根元辺りに洞があり、中に人影が見えた。洞は格子状の蔓によって塞がれている。
そばにエルフが一人、佇んでいた。手に弓をさげている。
「どうやら一人のようだね」
「ああ」
周囲を見回し、シェイスはうなずいた。辺りに気配はない。
ニヤリとすると、骸香はわざとエルフの正面に飛び出した。
「貴様は――」
驚愕しつつ、しかしエルフの身体は確実に動いていた。弓をかまえ、撃つ。
「くっ」
矢に射抜かれ、骸香が足をとめた。その時、すでにエルフは第二矢を弓に番えている。
その時だ。背後から迫る影があった。シェイスだ。
シェイスは缶ビールを放った。慌ててエルフが矢を放つ。
刹那、骸香が襲った。迅雷の蹴りを放つ。
びきっ。
骨の砕ける異音を響かせ、エルフの手から弓がとんだ。
「くそっ」
エルフが跳び退った。ダガーを投擲する。流星のように流れたそれはシェイスの身に吸い込まれた。
「痛――」
反射的にシェイスはカードを放った。ただのカードではない。四辺を鋭く尖らせた投擲武器であった。
エルフの首から鮮血がしぶいた。さすがにたまらず、エルフは背を返す。追おうとした骸香を、しかしシェイスはとめた。
「アンセルムの救出が先だぜ。戦うばかりがハンターでもねぇ、迅速に仕事をこなすが俺の生き方、ってな?」
「わかったよ」
骸香が洞に走り寄った。その両目は朱く瞳孔が開き、髪は血の様な赤黒い色に変わっている。右手の甲に凶、左手の甲には戯という文字が浮かび上がっていた。
「アンセルムだね」
骸香が問うた。
「そうだ」
中から低く声がこたえた。弱っているのか、細い声だ。するとシェイスは洞のそばに貼られた紙片を見やった。幾何学的な紋様が描かれている。
「こいつを剥がせばいいんだな」
シェイスが紙片を引き剥がした。すると格子状にのびていた蔓がするすると引いた。
「出ろ、アンセルム。助けにきたぜ」
「ありがたい」
洞の中で座していた人影が立ち上が」た。端正な顔立ちのエルフだ。かなりやつれている。
「真」
トランシーバーにむかって骸香が口を開いた。
「アンセルムを救出した。脱出するよ」
依頼結果
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相談卓 リュンルース・アウイン(ka1694) エルフ|21才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/12/08 23:39:39 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/05 05:08:59 |