ゲスト
(ka0000)
パイロットファッションショー
マスター:篠崎砂美
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
「ファッションショーを開きましょう」
セレーネ・リコお嬢様が、商店街案内所のデレトーレ支配人に切り出しました。
「ファッションショーなら、以前ヴァリオスでありましたが」
またですかという顔で、支配人が聞き返しました。まあ、第2回ということでもいいのでしょうけれど。イベントがあれば、商店街にも人が集まってくるでしょう。
「それに留まりませんわ。もっと儲けるのです!!」
お嬢様が力説します。
最近、御当地ラーメンのレシピを商品化して売り出した商店街ですが、単価は安いので儲けも微々たるものです。
それに対して、フマーレではユニット用のおたまやお鍋を商品化して儲けていると聞くではありませんか。物がでかいのに構造は簡単ですから、利益もたくさん出ていることでしょう。商人としては、これは悔しいです。商店街でも、もっと儲けるオリジナル商品を開発しなければなりません。
そこで、ファッションショーです。
テーマは、パイロットスーツ。
以前CAMCONでも展示されていましたが、既存の物や個人用の物では商品としてはパッとしません。コンテストを開いて、オリジナルブランドとして立ち上げればウハウハです。
もっとも、サルヴァトーレ・ロッソの制式パイロットスーツのように特殊素材による物は現在は量産できませんので、どちらかというとクリムゾンウェストの地上で着用する簡易的な物になるでしょう。
そうすると、戦闘用に色々と便利な機能を持った物と、お洒落的な物の両方が求められそうです。CAMと魔導アーマーと幻獣使いとでまた違ってくるのもありです。その上で、生産性やコストを考えて、ショップで販売できるような汎用性に富んだ物が理想となります。
「儲けますわよー!」
同盟の特産品としての大儲けを目指して、お嬢様が気勢をあげました。
セレーネ・リコお嬢様が、商店街案内所のデレトーレ支配人に切り出しました。
「ファッションショーなら、以前ヴァリオスでありましたが」
またですかという顔で、支配人が聞き返しました。まあ、第2回ということでもいいのでしょうけれど。イベントがあれば、商店街にも人が集まってくるでしょう。
「それに留まりませんわ。もっと儲けるのです!!」
お嬢様が力説します。
最近、御当地ラーメンのレシピを商品化して売り出した商店街ですが、単価は安いので儲けも微々たるものです。
それに対して、フマーレではユニット用のおたまやお鍋を商品化して儲けていると聞くではありませんか。物がでかいのに構造は簡単ですから、利益もたくさん出ていることでしょう。商人としては、これは悔しいです。商店街でも、もっと儲けるオリジナル商品を開発しなければなりません。
そこで、ファッションショーです。
テーマは、パイロットスーツ。
以前CAMCONでも展示されていましたが、既存の物や個人用の物では商品としてはパッとしません。コンテストを開いて、オリジナルブランドとして立ち上げればウハウハです。
もっとも、サルヴァトーレ・ロッソの制式パイロットスーツのように特殊素材による物は現在は量産できませんので、どちらかというとクリムゾンウェストの地上で着用する簡易的な物になるでしょう。
そうすると、戦闘用に色々と便利な機能を持った物と、お洒落的な物の両方が求められそうです。CAMと魔導アーマーと幻獣使いとでまた違ってくるのもありです。その上で、生産性やコストを考えて、ショップで販売できるような汎用性に富んだ物が理想となります。
「儲けますわよー!」
同盟の特産品としての大儲けを目指して、お嬢様が気勢をあげました。
リプレイ本文
●準備室にて
「うーん、なかなか数が集まらなかったようですわね」
コンテストの参加者数を見て、主催のセレーネ・リコお嬢様はちょっと渋い顔です。
「まあ、ユニット自体は、専用のパイロットスーツがなければ操縦できないという物ではありませんから」
その意味では、パイロットスーツは、CAMの操縦に必須の物ではないと、駐在さんのピロータ・アッフィラート少尉が説明しました。
「とはいえ、商品のアイディアは、数も大切な物ではありますが、質も大切な物ですよ。いくつもの積み重ねで誰にでも好かれる素晴らしい商品が生まれることもあれば、たった一つの閃きで素晴らしい商品が生まれることもあるのですから」
デレトーレ支配人が、お嬢様を励ましました。実際、特徴的な面白いパイロットスーツが集まっているようです。それも、CAMに限らず、魔導アーマーや幻獣使い用の物も集まっています。これは楽しみではありませんか。
「普段でも着られる、お洒落な物だといいんだけどなあ」
受付のフィネステラ嬢が、期待して言いました。いい物があれば、モデルとして着る気満々です。
「そろそろお時間ですが……」
そこへ、コンテストの司会をするセンサーレ・クリティコが、お嬢様を呼びに現れました。
「あら、急ぎませんと。さあ、コンテストの開始ですわ!」
椅子から立ちあがると、お嬢様たちは商店街の案内所から外へと出ていきました。
●開会
ヴァリオスにある商店街の中央広場、シンボルとなっているCAM像の前にステージが作られていました。CAM像の左右には大きな垂れ幕が張ってあり、その後ろが出演者の控える舞台裏となっています。ステージ前には観客席があり、その中央に審査員席がしつらえてありました。
すでに観客席を埋めている人々の間に笑みを振りまきながら、お嬢様が審査員席に移動しました。審査員席には、すでにヴァリオス新進気鋭のファッションデザイナーであるモード氏と、魔導学院資料館館員のセリオ・テカリオ女史がいました。優雅に会釈をして、お嬢様も席に着きます。
「みなさんお待たせいたしました。それでは、そろそろ始めましょう。パイロットスーツファッションショー、開幕です!」
パチパチパチパチ!!
司会者がステージに上がって言うと、観客たちから一斉に拍手が湧き起こりました。
いよいよ、パイロットスーツの流行を決めるファッションショーの開幕です。
「今回は、審査員として、斬新なデザインの衣装を次々とヴァリオスで発表なされている、ファッションデザイナーのモード氏をお迎えしております」
司会者が、審査員を紹介すると、モード氏が立ちあがって大きく両手を挙げて応えました。
「今日は、参加者の斬新なデザインに期待しています」
好奇心に満ちた目で、モード氏が挨拶しました。
「そして、日々数々の謎な品物を鑑定しておられる、魔導学院資料館所属のセリオ・テカリオさん」
紹介されて、セリオ女史が立ちあがって軽く会釈しました。
「資料館に飾れるような逸品を期待します」
「最後は、ここ商店街からセレーネ・リコ嬢!」
名を呼ばれて、お嬢様が優雅に立ちあがりました。
「今日は、ぜひ、商店街で販売できるような素敵な衣装が出てくることを期待しておりますわ」
さて、審査員の紹介も終わり、いよいよ作品が出てきます。
●エントリーナンバー1番、ミグ・ロマイヤー。
「それでは参りましょう。エントリーナンバー1番。ミグ・ロマイヤー(ka0665)さんです!」
司会者のミグ・ロマイヤーを紹介する声が会場に響き渡りました。
「出番じゃな」
すでに魔導型ドミニオン・ハリケーン・バウに搭乗していたミグ・ロマイヤーが、満を持してステージへと進みました。
「おおーっ」
思わず、観客たちから声があがります。
今まで商店街にCAMの等身大立像は飾られていましたが、実物の動くCAMがそれにならぶというのは、なかなかに壮観な眺めです。
まあ、裏方としては、市街地の中、それも商店街の中へとCAMを運び込むのにずいぶんと苦労したようですが。
色々と引っ掛けたりして壊さなかったのが幸いです。
昔だともっと苦労したでしょうが、今は魔導トラックがあるので運搬にはずいぶんと楽になっています。
ステージ脇にハリケーン・バウをしゃがませると、ミグ・ロマイヤーがコックピットを開きました。とたんに、コックピット内に満たされていた水が、勢いよく音をたてて外へと流れ出しました。
「なんだ、なんだ、漏水か?」
あまりに予想外の出来事に、観客たちがざわめきます。
ラジエーターの漏水でしょうか。それにしては水の量が多すぎます。コックピット内は完全に水没していて、これでは中にいたミグ・ロマイヤーは確実に水死です。
場内がざわめく中、コックピットからバシャバシャと水を撥ね飛ばして、何かが出てきました。
透明な球体の下に、ちんまりとした身体がついています。
「やあ、皆の衆。こんにちはなのじゃ」
透明な頭部を取り外すと、現れたミグ・ロマイヤーの顔が、ニッコリと微笑みました。
そのまま、全身から水をぼたぼたと滴り落としながら、ミグ・ロマイヤーがステージ中央へと進んでいきます。おかげで、せっかくのステージが水浸しです。よく見ると、なんだか普通の水ではなくて、少しどろどろしています。
「さあ、見てくだされ。これぞ、ミグ特製のパイロットスーツなのじゃ」
自分が着ているパイロットスーツを見せびらかすように、ミグ・ロマイヤーがボーズをとりました。
「正式名称は硬式水中用魔導アーマー型パイロットスーツじゃ」
ああ、どうりで、水中活動用の魔導鎧「スキューマ」にそっくりです。
全身を分厚く被うスーツは、間接部をのぞくと、固い鎧でできています。頭部は、完全なガラス製の球体で、視界を360度確保していました。
「じ、実に、ユニークなスーツでありますねえ。この発想は、どの辺から得られたのでしようか」
ちょっとひきつりながら、司会者がミグ・ロマイヤーにインタビューします。
「こほん。よし、説明してやろう」
一つ咳払いして、ミグ・ロマイヤーがかしこまりました。ちょっと彼女が動くたびに、とろりとした水滴が周囲に飛び散ります。一番前の方の席にいる観客が、そのたびに逃げ惑うという騒ぎです。
「もともと、CAMは戦闘用の機械じゃ。そのコックピットは、外部の攻撃から装甲板でパイロットを守るようにできておる。また、操作方法もシンプルなことから、内部で身体を激しく動かすということもない。そのため、コックピット内部は狭く、パイロットシートに身体を収めれば、ほとんど身動きできないというぐあいじゃ。ところが、ところが!!」
急に、ミグ・ロマイヤーが言葉に力を込めました。
「このコックピットのサイズの規格じゃが、なんと人間を基準で作られておるのじゃ。ああ、なんということじゃろう。ミグのような、ドワーフのことは考えておらなんだのか!」
これを手抜きと言わないで、なんと呼ぶのでしょう。今や、CAMや魔導アーマーは、リアルブルーの人間だけの物ではありません。ドワーフだって乗るのです。
「実際、戦闘のときには何が起こると言えるのじゃろうか。コックピットにジャストフィットしたサイズのパイロットの場合は、まあ問題ないと言えるじゃろう。だが、ミグのようなドワーフを始めとする体格の小さい者たちにとっては、このコックピットの大きさは大問題なのじゃ」
はて、パイロットスーツの話なのですが、どうやらコックピットがらみの話になってきています。そうすると、あの水浸しのコックピットの説明もこれからあるのでしょうか。
「実際、ドワーフにとって、コックピットは広い。そのため、右に傾けば右にヨロヨロ、左に傾けば、左にヨロヨロしてしまうのじゃ。そのたびに、コックピット内部の壁にぶつかってしまう。これでは、危険きわまりないではないか。そこで、ミグは考えた。ならば、パイロットスーツでこの隙間をかっちりと固めてしまおうではないか。この一回り大きなパイロットスーツのおかげで、ミグのようなドワーフであっても、コックピット内の空間にジャストフィットするのじゃあ!」
もう、ドヤ顔でミグ・ロマイヤーが説明しました。ミグ・ロマイヤー的には、これでコックピット内でシャッフルされる危険性はかなり減ります。
「さらに、さあらにぃ! コックピット内をミグ開発による特殊溶液で満たせば、被弾時のダメージも大幅軽減。そのためにも、この特殊パイロットスーツが大活躍なのじゃあ。完璧っ!」
自信満々でミグ・ロマイヤーが叫びました。
特殊溶液と言っても、要は小麦粉を溶かし入れて少し加熱した物です。そのおかげで少しとろみがついています。味は、ミクの出汁が出て……ということはありません。
どやっ! どやっ!
ちょっとぎこちない動きで、ミグ・ロマイヤーがハリケーン・バウのコックピット回りでポーズをとります。
「以上、ミグ・ロマイヤーさんでしたー」
司会者の言葉で、ミグ・ロマイヤーは再び金魚鉢のようなヘルメットを被ると、ハリケーン・バウに乗り込みました。ポッチャン! まるでお風呂に飛び込んだかのように、コックピットから飛沫が飛び散ります。
「よろしくなのじゃー!」
コックピットハッチをオープンにしたまま、ミグ・ロマイヤーは観客に手を振ってアピールしつつ、ステージ裏へと去っていきました。
「えー、ただいま、ステージ上を清掃しておりますので、皆様しばらくお待ちください」
びしょ濡れになったステージを回復させるために、司会者が説明しました。
「まったく、なんでこんなことするのよ!」
ステージの上では、モップを持ったフィネステラ嬢が、文句を言いつつ凄いスピードでいったりきたりしています。モクモクとモップを動かしている支配人とは対照的です。
●エントリーナンバー2番、ウーナ。
「それでは、ステージの方は回復したようですから、コンテストを再開いたしましょう」
元通りに乾いたステージを確認して、司会者が再開を宣言しました。
「続いては、エントリーナンバー2番。ウーナ(ka1439)さんです」
司会者が、ウーナの名を呼びます。
「あー、あたしの番だあ。それじゃあ、よろしくお願いしますー」
「うむ、任せておくのじゃ」
ウーナに言われて、ミグ・ロマイヤーの乗ったハリケーン・バウが、台車の上に載ったウーナのアゼル・デュミナス(魔導型)をよいしょとステージ横へと押し出していきます。
「おおーっ!」
またも現れた新しいCAMに、観客から歓声があがります。
先ほどのドミニオンをベースとしたハリケーン・バウは、アーミーグリーン一色の機体カラーに統一され、大幅な追加装甲もあって重圧なシルエットでした。それとは対象的に、アゼル・デュミナスはその名の通りデュミナスをベースとしているため、スリムで丸みを帯びたシルエットとなっています。しかも、機体カラーはホワイトで、アクセントはピンクという派手な機体カラーです。
そんなCAMの機体に合わせたウーナのパイロットスーツは、女性らしいお洒落な物でした。
こちらは、リアルブルー出身者らしく、クリムゾンウエストの基準からすると奇抜なデザインとなっています。
基本は、身体のラインが顕わとなるぴっちりスーツです。クリムゾンウエストに転移してから、ウーナが自作した愛用のスーツでした。
白いレオタードデザインのアウターはホルターネック式で、肩が露出しています。大きなピンクのリボンタイと、同じ色のセーラーカラーがアクセントです。
下半身は、腰の両側が開いたピンクのタイツです。
白いレッグガードとアームガードはセパレートとなっています。そのため、両肩と腰の両側は肌が露出するようになっていました。クリムゾンウエストの気候に合わせて、通気性を重視したためです。
胸元のリボンとガードの手首足首部分には、青いダイヤ型のアクセサリが填め込まれていました。
両手には、甲の部分がピンク、指の部分が白い手袋を填めています。足許は、これまたピンクのローヒールブーツです。
「この動きやすいスーツなら、緊急出動がかかっても大丈夫。すぐにCAMに駆けつけることができるんだよ」
軽快にステージの上を走ってアゼル・デュミナスに駆け寄りながら、ウーナがアピールしました。
「それに、お洒落なこのスーツでなら、普段街中を歩いても大丈夫。それどころか、みんなの視線は釘付け。でも、ちょっと恥ずかしかったら、かっこいいロングジャケットなんか羽織れば、気分は海軍の提督さんだよ。それなら、男性だって大丈夫。色だって、青や緑に変えればぴったりだもん」
セーラーカラーもあってか、港町ヴァリオスの観客たちが、海軍っぽいと言う台詞に惹かれます。やはり、残念陸軍に比べると、制服も海軍の方が皆の憧れです。
「腰のホルスターは、オプションとして付け替えが可能で、お洒落なポーチなんかもつけられるんだよ」
腰の両脇についた、草摺状のガーターからベルトで吊り下げられたホルスターをポンポンと叩いて、ウーナが説明しました。
ウーナの言う通り、このスーツでの動きは実に軽快です。実際、体操やダンスのレオタードのような物ですから、動きやすさが重視されています。まあ、ちょっとセクシーすぎるところが難と言えば難でしょうか。
ひとしきり様々なポーズをとってアピールをした後、アゼル・デュミナスのコックピットに片足を預けてポーズをとったまま、ウーナが退場していきます。
裏では、ハリケーン・バウが、台車についたロープを一所懸命引っぱっていました。
●エントリーナンバー3番、レオーネ・インヴェトーレ。
「それでは、次の参加者を御紹介しましょう。エントリーナンバー3番、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)さんです!」
紹介されて、レオーネ・インヴェトーレが、プラヴァー重装改の持つシールドに腰かけるようにして登場しました。裏方では、今度はアゼル・デュミナスが、一所懸命台車を押しています。
「おおー」
またもや、まったく違ったタイプの魔導アーマーの登場に、観客たちが歓声をあげます。
魔導アーマー「ヘイムダル」をベースとしてはいますが、プラヴァー重装改は、ベースとはまったく違った対象的なほっそりとしたシルエットをしています。ヘイムダルが小熊のような丸みを帯びた姿なのとは違って、まるで鳥のようなデザインです。
装甲も紫がかった鮮やかな青に統一され、足許の突き出したトゥ部分と、頭部アンテナだけが金色にメッキされていました。
シルエット的には軽量に見えるプラヴァー重装改と比べて、レオーネ・インヴェトーレのスーツ姿は正に重装備でした。兜と一体型となっている比較的角張った上半身鎧と、同様の下半身鎧で全身をすっぽりとつつんでいます。これでは、スーツと言うよりは、完全にフルプレートアーマーというところです。
「一口にユニットと言っても、様々なタイプがあるんだ。例えば、幻獣を使う場合や、馬車なんかの場合、生身を晒すことになるだろう? やはり、安全性を考えると、防御はしっかりした方がいいと言うことになる。そこで、この重パイロットスーツだ」
ガシャコンガシャコンとゆっくりと歩きながら、レオーネ・インヴェトーレが説明を始めました。
「基本は後方支援になるだろうから、機動性はあまり必要じゃない。もし必要となったら……」
そう言うと、レオーネ・インヴェトーレがステージ上にいつの間にかおかれていた布の帳の裏に回り込みました。
「よいしょ、よいしょっと……」
影絵風に何かしているのかがおぼろげに見える中、レオーネ・インヴェトーレが、ごそごそとなにやらスーツを脱ぎ始めていました。
「お待たせした」
少ししてステージ中央に戻ってきたレオーネ・インヴェトーレは、下半身の装甲を外した姿でした。とはいえ、別に下半身下着姿と言うことではなく、ぴっちりとした黒い革製のズボンを穿いているように見えます。
「この中間形態は、主に上半身を晒すオープンコックピットタイプの魔導アーマー初期型に適したパイロットスーツだ。実際に、お見せしよう」
そう言うと、ステージ上に用意された魔導アーマー初期型のコックピットのモックにレオーネ・インヴェトーレが近づいていきました。コックピットの模型の中に入って立ちあがると、鎧の留め金が外れて、腹部分の装甲が前後に跳ね上がりました。そこに並行になるように腕を合わせると、腕部分の装甲が外れて腹部分と組み合わさります。それによって、両手が完全に自由になりました。そのままストンと腰をおろすと、広がった鎧が魔導アーマー初期型のコックピットの開口部分をすっぽりと被うカバーのようになりました。この状態ですと、コックピットの開口部に隙間がなくなります。
「このように、外部からの攻撃に対して、パイロットを守る一次装甲の役目をスーツアーマーの上部がはたすのだ。これによって、パイロットの生存率は、格段に跳ね上がるという仕組みになっている」
どうだ、凄いだろうという感じでレオーネ・インヴェトーレが説明しました。
技術者としては、このへんはある意味簡単な仕組みなのですが、端から見ると複雑なギミックに見えてしまいます。
とはいえ、パイロットと魔導アーマーとの人機一体という感じはよく出ています。
「さらに、完全な密閉型コックピットであれば、これらのアーマーも必要となくなり、より細かい作業に適した機動的なスーツとなることもできる」
そう言うと、レオーネ・インヴェトーレが、アーマーパーツを、まるでコックピットハッチででもあったかのようにパカッと開いて、その素顔を顕わにしました。アーマーの中で乱れていたポニーテールの位置をなおすと、レオーネ・インヴェトーレがコックピット模型の中から外へと出てきました。
すべてのアーマーを外したパイロットスーツは、上下が一体型の革のツナギです。
「ふう」
ちょっと暑かったとでも言いたげに大きく息を吐くと、レオーネ・インヴェトーレがライダースーツ型のパイロットスーツの前面にあるチャックを腹のあたりまで引き下ろしました。
ほこほこと少し湯気が立ち、革のスーツの下からレオタード状の紺のインナーが現れます。男の娘なので胸はぺったんこですが、それはそれで……。ちょっとアンバランスな野性味がツボです。
「インナーはスーツの湿度温度を適正に保ち、アウターはレザーアーマーなみの強靱さでパイロットを守る。これほど汎用性に富み、拡張性に富み、柔軟性に富んだパイロットスーツが、かつてあっただろうか。否!」
自信を持って、レオーネ・インヴェトーレがアピールをします。
軽装になったので、自由にポーズをつけてから、プラヴァー重装改を身軽に駆けのぼっていきます。コックピットハッチを開くと、するりとその中に飛び込みました。一連の動きにも、パイロットスーツは邪魔になるでもなく、動きを阻害するでもなく、実にスムーズです。
「オレの考えた、多層スーツをよろしく!」
そう叫ぶと、レオーネ・インヴェトーレはプラヴァー重装改で幕の中へと下がっていきました。
「レオーネ・インヴェトーレさんでした。ただいま、ステージの後片づけをしていますので、少々お待ちください」
司会者が言いました。
ステージ上には、レオーネ・インヴェトーレが脱ぎ捨てていった上部アーマーと下部アーマー、それに着替えに使ったスクリーンや、説明に使った魔導アーマー初期型コックピットのモックなどが残されたままです。
「だから、力仕事は、野郎どもの仕事でしょうが!」
「まあまあ」
ブーブー文句を言いながらスクリーンを引きずっていくフィネステラ嬢を、駐在さんが必死になだめます。
●エントリーナンバー4番、エルバッハ・リオン。
「それでは、ステージ上も無事に片づいたようなので、次の参加者をお迎えいたしましょう。早いもので、最後の参加者となってしまいました。エントリーナンバー4番。エルバッハ・リオン(ka2434)さんです!」
司会者に紹介されるやいなや、舞台裏から大きな犬型の幻獣が飛び出してきました。漆黒の体毛が、胸の所だけ燃えるような緋色をしています。イェジドのガルムです。
その背に、エルバッハ・リオンは乗っていました。
すたたたたたっと、ガルムがエルバッハ・リオンを乗せたまま、ステージの端から端までを素早く何度か往復します。
間近に見る幻獣に、観客たちはちょっとびっくりしているようです。その中で、「でっかい、わんこー♪」と叫ぶ子供の声だけが、いやに印象的でした。
やがて、中央にやってきたガルムから、エルバッハ・リオンがひらりと飛び降ります。動いている最中は早すぎてよく分からなかったエルバッハ・リオンのパイロットスーツが、やっと確認できました。
けれども、幻獣の主用の衣装であるため、パイロットスーツとはかなり趣が違います。
エルバッハ・リオンの衣装は、一言で言うとカウボーイスタイルでした。女性であるエルバッハ・リオンとしては、男装とでも言うべきでしょうか。本人は、男装の麗人とお呼びくださいとでも言いそうですが。
リーリーの鮮やかな大羽根をつけたキャトルマンを被り、豊かな銀髪は編み上げてその中にしまい込んでいます。そのため、目深に下げると顔はよく見えなくなりますが、代わりに後れ毛の残るうなじが顕わになります。
革のチョッキの胸元にも、小さな羽が差してあります。
上はポケットの多い厚手のシャツで、腕には色とりどりのフリンジがついています。
下は半ズボンの上に、腰から吊ったチャップスで脚の外側だけを被い、そこにナイフやら獣の牙などを差しています。そのため、すらりとのびた生足の、内股の方だけが顕わになっているという、なんともピンポイントで艶めかしい姿です。
エルバッハ・リオンの豊かな胸はサラシで押さえつけているようですが、衣装としては別段そんなことをしなくとも、男女ともに着用できそうでした。
「さあ、ガルム、みなさんにアピールですよ」
エルバッハ・リオンが、さっと右手を挙げてガルムに命じました。指なし手袋の甲の部分に仕込まれた隠し爪がキラリと光ります。
「わおおぉぉぉぉん♪」
エルバッハ・リオンに命令されたガルムが、後ろ足で立ちあがって前足をばたばたさせると、会場中、いえ、商店街中に響く声で遠吠えをあげました。さすがに、かなりの迫力です。
「よしよし、いいこいいこ」
そんな大迫力のガルムが、エルバッハ・リオンに呼ばれるとワンと可愛く鳴いて、尻尾を振りながら頭をこすりつけてきます。
これでは、牛を扱うカウボーイではなく、ガルムボーイといったところです。
「はいっ!」
かけ声と共にエルバッハ・リオンがステージを蹴って飛びあがると、ひらりとガルムに再びまたがりました。そのままステージをゆっくりと一周して、幻獣にまたがって一体となった主としての衣装を観客の目に刻ませます。
エルバッハ・リオンはそのままステージ裏へとかけ去っていきました。
「エルバッハ・リオンさんと、ガルムちゃんでした。さあ、これで、参加した方々の衣装が出そろいました。この後、審査員の方々は別室で審査を行います。結果が出るまで、しばらくお待ちください」
司会者がそう告げると、審査員たちが一礼して案内所の奥へと移動していきました。
●審査会議
「皆様、お疲れ様です」
会議用のテーブルを用意して、支配人が審査員たちを迎えました。それぞれの席には、フィネステラ嬢が、順次お茶とケーキを運んでいきます。
「いやあ、なかなかどの作品も奇抜なデザインで、面白い物でしたね」
モード氏が、ニコニコ顔で言いました。参加者たちの発想に、かなり楽しんだようです。
「デザインもさることながら、機能の方でも、色々と興味深い物がありましたね」
コンテストの最中にこまめにとったメモを見ながら、セリオ女史が言いました。
「一発芸なのもよろしいですが、商品として売れなければ、今回のコンテストを開いた甲斐がありませんわよ」
いかにも商人らしく、お嬢様が最初に釘を刺します。
もともと商店街を盛り上げるイベントとして開いたコンテストではありますが、裏には、オリジナルブランドのパイロットスーツを販売して大儲けという大人の事情があります。まあ、お嬢様一人の野望と言えばそれまでではありますが。
「あの潜水服は、パイロットスーツとしては、今までに類がない物ではないかな。特に、あの透明な頭部がいい」
モード氏が、目をキラキラさせながら力説しました。
「えー、でも、水振りまいて、掃除大変だったんだよ」
すっごい迷惑だったと、フィネステラ嬢がほっぺをふくらませました。
「ですけれど、ギミックとして、パイロットスーツのためにCAMの方を改造しなければならないというのは、本末転倒ではないのでしょうか……」
セリオ女史は、ちょっと渋い顔です。
「そんなに初期投資が別途かかる服なんて、買う人がいませんわあ!」
お嬢様が、セリオ女史に同調します。
「それに、水をコックピットに満たしても、衝撃は吸収できないのですが。可能だとすれば、衝撃を受けたときにどこからか排水できれば、力を逃せる……かもしれませんが。でも、一回限りですね」
なんだか、色々と技術的・金銭的に問題がありそうです。
それ以前に、既存の潜水服とほぼ同じデザインだというのは、権利的に問題が出そうです。さらに、さらに、ドワーフならばあのパイロットスーツを着てもコックピットに収まりますが、人間だとスーツの分コックピットに入れなくなります。つまりは、あのパイロットスーツはドワーフ専用です。ドワーフにしか売れません。
「商品としては、却下ですわ!」
「面白いのに……」
力強く言うお嬢様に、モード氏はまだちょっと不満そうです。
「すると、同様に、多層型パイロットスーツも、難しくなりますかしら。ギミックとしては、とても興味をそそられるのですが」
なんだか、ちょっと残念そうにセリオ女史が言いました。
「まあ、高価になるのは致し方ないでしょうな」
色々とオプションが多すぎると、モード氏がうなずきます。
「パーツが多すぎるのも、問題ですわね。種類を揃えるためには、たくさんの在庫を揃えないといけませんし。セット売りというのには、色々と手間がかかりますわねえ」
はたして、オプション販売によって儲かるのか、在庫や経費で赤字になるのか、判断しきれずにお嬢様が考え込みます。
「そうなると、幻獣使いタイプの衣装か、ぴっちりスーツが可能性が高いということになります?」
消去法で、セリオ女史が言いました。
「まあ、もともと優劣を決めるものではありませんから。ユニークという点では、先の二つの方が優秀でしょう」
要は、商品化が可能かと言うことです。可能であれば、企画書を作って商品化を模索することができますが、端から無理な物はもともと難しいと言うことになります。何しろ、デザインを問題ない物にリファインしてくれる人がいるかとか、生産ラインを用意してくれる業者がいるかとか、売ってくれるショップがあるかどうかなど、クリアしなければいけないハードルは多いのです。
「幻獣使いの衣装は、幻獣の羽根などを使って好みなのだが、そのままではリアルブルーのカウボーイという者たちの衣装にそっくりなので、単なるコスプレに思われてしまうかもしれないなあ」
モード氏が、既存の衣装と同じでなければなあと残念がります。美人コンテストのパフォーマンスとしてならば文句なしですが、そのままでは商品にはしにくいのが本音です。
「まあ、今日の衣装をベースと考えて、大幅にオリジナルデザインを盛り込めばというところですかしら」
普通に、カウボーイとかの衣装を売り出して、別途幻獣の羽をアクセサリとして売り出した方が儲かりそうかなあとお嬢様が悩みます。
「そうすると、一番パイロットスーツらしいのは、2番と言うことになります?」
セリオ女史が、他の審査員に訊ねました。
「その通りだが、やはり、女性用スーツのデザインではあるかな。男性用は、胸のリボンとタイを含めて、リファインしないといけないでしょうな」
「露出が多いのも、ちょっと……」
モード氏とセリオ女史が考え込みます。
CAMでしたら、コックピットは外から見えないから問題ないとも言えますが、魔導アーマー初期型や幻獣使いなど、そのままの姿で外を歩くとなるとぴっちりスーツは色々と刺激が強すぎます。
まあ、飛行パイロットのスーツやスペーススーツのインナーも、身体にぴっちりしていると言えばしているわけですが。やはり、リアルブルーではまだしも、クリムゾンウエストの人々には刺激が強すぎるかもしれません。
「でしたら、ロングコートやロングジャケットを合わせるという手もありますわね。セットではなく、コーディネートとして合わせられるデザインにすれば、両方単品でも売れそうですわ」
お嬢様がアイディアを絞り出します。単品で普通に着られる物であれば、同じブランド名を冠せばセットでも、単品でも売れそうです。それに、インナーがかなりセクシーでも、アウターを組み合わせれば問題がなくなります。
「そうすると、水兵的なセーラーカーラーなどを活かしたスーツと、海軍高官が着そうなハーフコートのような物をリファインするという方法もありますな」
モード氏が、なんとかまとめます。同盟では、海軍的な物は人気がありますから。あとは、総評として、観客に、それぞれのパイロットスーツの長所の解説をするだけです。
まあ、実際には、パイロットスーツなのですから、各国のユニット担当が気に入ってくれるかで商品化も違ってくるわけですが。なんとか企画書ぐらいは作れそうです。それによっては、どんでん返しもあるかもしれません。
「それにしても……」
話がまとまったところで、ボソリとお嬢様がつぶやきました。
「なぜ、誰も、自分のデザインにブランド名を作らなかったのかしら……」
「うーん、なかなか数が集まらなかったようですわね」
コンテストの参加者数を見て、主催のセレーネ・リコお嬢様はちょっと渋い顔です。
「まあ、ユニット自体は、専用のパイロットスーツがなければ操縦できないという物ではありませんから」
その意味では、パイロットスーツは、CAMの操縦に必須の物ではないと、駐在さんのピロータ・アッフィラート少尉が説明しました。
「とはいえ、商品のアイディアは、数も大切な物ではありますが、質も大切な物ですよ。いくつもの積み重ねで誰にでも好かれる素晴らしい商品が生まれることもあれば、たった一つの閃きで素晴らしい商品が生まれることもあるのですから」
デレトーレ支配人が、お嬢様を励ましました。実際、特徴的な面白いパイロットスーツが集まっているようです。それも、CAMに限らず、魔導アーマーや幻獣使い用の物も集まっています。これは楽しみではありませんか。
「普段でも着られる、お洒落な物だといいんだけどなあ」
受付のフィネステラ嬢が、期待して言いました。いい物があれば、モデルとして着る気満々です。
「そろそろお時間ですが……」
そこへ、コンテストの司会をするセンサーレ・クリティコが、お嬢様を呼びに現れました。
「あら、急ぎませんと。さあ、コンテストの開始ですわ!」
椅子から立ちあがると、お嬢様たちは商店街の案内所から外へと出ていきました。
●開会
ヴァリオスにある商店街の中央広場、シンボルとなっているCAM像の前にステージが作られていました。CAM像の左右には大きな垂れ幕が張ってあり、その後ろが出演者の控える舞台裏となっています。ステージ前には観客席があり、その中央に審査員席がしつらえてありました。
すでに観客席を埋めている人々の間に笑みを振りまきながら、お嬢様が審査員席に移動しました。審査員席には、すでにヴァリオス新進気鋭のファッションデザイナーであるモード氏と、魔導学院資料館館員のセリオ・テカリオ女史がいました。優雅に会釈をして、お嬢様も席に着きます。
「みなさんお待たせいたしました。それでは、そろそろ始めましょう。パイロットスーツファッションショー、開幕です!」
パチパチパチパチ!!
司会者がステージに上がって言うと、観客たちから一斉に拍手が湧き起こりました。
いよいよ、パイロットスーツの流行を決めるファッションショーの開幕です。
「今回は、審査員として、斬新なデザインの衣装を次々とヴァリオスで発表なされている、ファッションデザイナーのモード氏をお迎えしております」
司会者が、審査員を紹介すると、モード氏が立ちあがって大きく両手を挙げて応えました。
「今日は、参加者の斬新なデザインに期待しています」
好奇心に満ちた目で、モード氏が挨拶しました。
「そして、日々数々の謎な品物を鑑定しておられる、魔導学院資料館所属のセリオ・テカリオさん」
紹介されて、セリオ女史が立ちあがって軽く会釈しました。
「資料館に飾れるような逸品を期待します」
「最後は、ここ商店街からセレーネ・リコ嬢!」
名を呼ばれて、お嬢様が優雅に立ちあがりました。
「今日は、ぜひ、商店街で販売できるような素敵な衣装が出てくることを期待しておりますわ」
さて、審査員の紹介も終わり、いよいよ作品が出てきます。
●エントリーナンバー1番、ミグ・ロマイヤー。
「それでは参りましょう。エントリーナンバー1番。ミグ・ロマイヤー(ka0665)さんです!」
司会者のミグ・ロマイヤーを紹介する声が会場に響き渡りました。
「出番じゃな」
すでに魔導型ドミニオン・ハリケーン・バウに搭乗していたミグ・ロマイヤーが、満を持してステージへと進みました。
「おおーっ」
思わず、観客たちから声があがります。
今まで商店街にCAMの等身大立像は飾られていましたが、実物の動くCAMがそれにならぶというのは、なかなかに壮観な眺めです。
まあ、裏方としては、市街地の中、それも商店街の中へとCAMを運び込むのにずいぶんと苦労したようですが。
色々と引っ掛けたりして壊さなかったのが幸いです。
昔だともっと苦労したでしょうが、今は魔導トラックがあるので運搬にはずいぶんと楽になっています。
ステージ脇にハリケーン・バウをしゃがませると、ミグ・ロマイヤーがコックピットを開きました。とたんに、コックピット内に満たされていた水が、勢いよく音をたてて外へと流れ出しました。
「なんだ、なんだ、漏水か?」
あまりに予想外の出来事に、観客たちがざわめきます。
ラジエーターの漏水でしょうか。それにしては水の量が多すぎます。コックピット内は完全に水没していて、これでは中にいたミグ・ロマイヤーは確実に水死です。
場内がざわめく中、コックピットからバシャバシャと水を撥ね飛ばして、何かが出てきました。
透明な球体の下に、ちんまりとした身体がついています。
「やあ、皆の衆。こんにちはなのじゃ」
透明な頭部を取り外すと、現れたミグ・ロマイヤーの顔が、ニッコリと微笑みました。
そのまま、全身から水をぼたぼたと滴り落としながら、ミグ・ロマイヤーがステージ中央へと進んでいきます。おかげで、せっかくのステージが水浸しです。よく見ると、なんだか普通の水ではなくて、少しどろどろしています。
「さあ、見てくだされ。これぞ、ミグ特製のパイロットスーツなのじゃ」
自分が着ているパイロットスーツを見せびらかすように、ミグ・ロマイヤーがボーズをとりました。
「正式名称は硬式水中用魔導アーマー型パイロットスーツじゃ」
ああ、どうりで、水中活動用の魔導鎧「スキューマ」にそっくりです。
全身を分厚く被うスーツは、間接部をのぞくと、固い鎧でできています。頭部は、完全なガラス製の球体で、視界を360度確保していました。
「じ、実に、ユニークなスーツでありますねえ。この発想は、どの辺から得られたのでしようか」
ちょっとひきつりながら、司会者がミグ・ロマイヤーにインタビューします。
「こほん。よし、説明してやろう」
一つ咳払いして、ミグ・ロマイヤーがかしこまりました。ちょっと彼女が動くたびに、とろりとした水滴が周囲に飛び散ります。一番前の方の席にいる観客が、そのたびに逃げ惑うという騒ぎです。
「もともと、CAMは戦闘用の機械じゃ。そのコックピットは、外部の攻撃から装甲板でパイロットを守るようにできておる。また、操作方法もシンプルなことから、内部で身体を激しく動かすということもない。そのため、コックピット内部は狭く、パイロットシートに身体を収めれば、ほとんど身動きできないというぐあいじゃ。ところが、ところが!!」
急に、ミグ・ロマイヤーが言葉に力を込めました。
「このコックピットのサイズの規格じゃが、なんと人間を基準で作られておるのじゃ。ああ、なんということじゃろう。ミグのような、ドワーフのことは考えておらなんだのか!」
これを手抜きと言わないで、なんと呼ぶのでしょう。今や、CAMや魔導アーマーは、リアルブルーの人間だけの物ではありません。ドワーフだって乗るのです。
「実際、戦闘のときには何が起こると言えるのじゃろうか。コックピットにジャストフィットしたサイズのパイロットの場合は、まあ問題ないと言えるじゃろう。だが、ミグのようなドワーフを始めとする体格の小さい者たちにとっては、このコックピットの大きさは大問題なのじゃ」
はて、パイロットスーツの話なのですが、どうやらコックピットがらみの話になってきています。そうすると、あの水浸しのコックピットの説明もこれからあるのでしょうか。
「実際、ドワーフにとって、コックピットは広い。そのため、右に傾けば右にヨロヨロ、左に傾けば、左にヨロヨロしてしまうのじゃ。そのたびに、コックピット内部の壁にぶつかってしまう。これでは、危険きわまりないではないか。そこで、ミグは考えた。ならば、パイロットスーツでこの隙間をかっちりと固めてしまおうではないか。この一回り大きなパイロットスーツのおかげで、ミグのようなドワーフであっても、コックピット内の空間にジャストフィットするのじゃあ!」
もう、ドヤ顔でミグ・ロマイヤーが説明しました。ミグ・ロマイヤー的には、これでコックピット内でシャッフルされる危険性はかなり減ります。
「さらに、さあらにぃ! コックピット内をミグ開発による特殊溶液で満たせば、被弾時のダメージも大幅軽減。そのためにも、この特殊パイロットスーツが大活躍なのじゃあ。完璧っ!」
自信満々でミグ・ロマイヤーが叫びました。
特殊溶液と言っても、要は小麦粉を溶かし入れて少し加熱した物です。そのおかげで少しとろみがついています。味は、ミクの出汁が出て……ということはありません。
どやっ! どやっ!
ちょっとぎこちない動きで、ミグ・ロマイヤーがハリケーン・バウのコックピット回りでポーズをとります。
「以上、ミグ・ロマイヤーさんでしたー」
司会者の言葉で、ミグ・ロマイヤーは再び金魚鉢のようなヘルメットを被ると、ハリケーン・バウに乗り込みました。ポッチャン! まるでお風呂に飛び込んだかのように、コックピットから飛沫が飛び散ります。
「よろしくなのじゃー!」
コックピットハッチをオープンにしたまま、ミグ・ロマイヤーは観客に手を振ってアピールしつつ、ステージ裏へと去っていきました。
「えー、ただいま、ステージ上を清掃しておりますので、皆様しばらくお待ちください」
びしょ濡れになったステージを回復させるために、司会者が説明しました。
「まったく、なんでこんなことするのよ!」
ステージの上では、モップを持ったフィネステラ嬢が、文句を言いつつ凄いスピードでいったりきたりしています。モクモクとモップを動かしている支配人とは対照的です。
●エントリーナンバー2番、ウーナ。
「それでは、ステージの方は回復したようですから、コンテストを再開いたしましょう」
元通りに乾いたステージを確認して、司会者が再開を宣言しました。
「続いては、エントリーナンバー2番。ウーナ(ka1439)さんです」
司会者が、ウーナの名を呼びます。
「あー、あたしの番だあ。それじゃあ、よろしくお願いしますー」
「うむ、任せておくのじゃ」
ウーナに言われて、ミグ・ロマイヤーの乗ったハリケーン・バウが、台車の上に載ったウーナのアゼル・デュミナス(魔導型)をよいしょとステージ横へと押し出していきます。
「おおーっ!」
またも現れた新しいCAMに、観客から歓声があがります。
先ほどのドミニオンをベースとしたハリケーン・バウは、アーミーグリーン一色の機体カラーに統一され、大幅な追加装甲もあって重圧なシルエットでした。それとは対象的に、アゼル・デュミナスはその名の通りデュミナスをベースとしているため、スリムで丸みを帯びたシルエットとなっています。しかも、機体カラーはホワイトで、アクセントはピンクという派手な機体カラーです。
そんなCAMの機体に合わせたウーナのパイロットスーツは、女性らしいお洒落な物でした。
こちらは、リアルブルー出身者らしく、クリムゾンウエストの基準からすると奇抜なデザインとなっています。
基本は、身体のラインが顕わとなるぴっちりスーツです。クリムゾンウエストに転移してから、ウーナが自作した愛用のスーツでした。
白いレオタードデザインのアウターはホルターネック式で、肩が露出しています。大きなピンクのリボンタイと、同じ色のセーラーカラーがアクセントです。
下半身は、腰の両側が開いたピンクのタイツです。
白いレッグガードとアームガードはセパレートとなっています。そのため、両肩と腰の両側は肌が露出するようになっていました。クリムゾンウエストの気候に合わせて、通気性を重視したためです。
胸元のリボンとガードの手首足首部分には、青いダイヤ型のアクセサリが填め込まれていました。
両手には、甲の部分がピンク、指の部分が白い手袋を填めています。足許は、これまたピンクのローヒールブーツです。
「この動きやすいスーツなら、緊急出動がかかっても大丈夫。すぐにCAMに駆けつけることができるんだよ」
軽快にステージの上を走ってアゼル・デュミナスに駆け寄りながら、ウーナがアピールしました。
「それに、お洒落なこのスーツでなら、普段街中を歩いても大丈夫。それどころか、みんなの視線は釘付け。でも、ちょっと恥ずかしかったら、かっこいいロングジャケットなんか羽織れば、気分は海軍の提督さんだよ。それなら、男性だって大丈夫。色だって、青や緑に変えればぴったりだもん」
セーラーカラーもあってか、港町ヴァリオスの観客たちが、海軍っぽいと言う台詞に惹かれます。やはり、残念陸軍に比べると、制服も海軍の方が皆の憧れです。
「腰のホルスターは、オプションとして付け替えが可能で、お洒落なポーチなんかもつけられるんだよ」
腰の両脇についた、草摺状のガーターからベルトで吊り下げられたホルスターをポンポンと叩いて、ウーナが説明しました。
ウーナの言う通り、このスーツでの動きは実に軽快です。実際、体操やダンスのレオタードのような物ですから、動きやすさが重視されています。まあ、ちょっとセクシーすぎるところが難と言えば難でしょうか。
ひとしきり様々なポーズをとってアピールをした後、アゼル・デュミナスのコックピットに片足を預けてポーズをとったまま、ウーナが退場していきます。
裏では、ハリケーン・バウが、台車についたロープを一所懸命引っぱっていました。
●エントリーナンバー3番、レオーネ・インヴェトーレ。
「それでは、次の参加者を御紹介しましょう。エントリーナンバー3番、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)さんです!」
紹介されて、レオーネ・インヴェトーレが、プラヴァー重装改の持つシールドに腰かけるようにして登場しました。裏方では、今度はアゼル・デュミナスが、一所懸命台車を押しています。
「おおー」
またもや、まったく違ったタイプの魔導アーマーの登場に、観客たちが歓声をあげます。
魔導アーマー「ヘイムダル」をベースとしてはいますが、プラヴァー重装改は、ベースとはまったく違った対象的なほっそりとしたシルエットをしています。ヘイムダルが小熊のような丸みを帯びた姿なのとは違って、まるで鳥のようなデザインです。
装甲も紫がかった鮮やかな青に統一され、足許の突き出したトゥ部分と、頭部アンテナだけが金色にメッキされていました。
シルエット的には軽量に見えるプラヴァー重装改と比べて、レオーネ・インヴェトーレのスーツ姿は正に重装備でした。兜と一体型となっている比較的角張った上半身鎧と、同様の下半身鎧で全身をすっぽりとつつんでいます。これでは、スーツと言うよりは、完全にフルプレートアーマーというところです。
「一口にユニットと言っても、様々なタイプがあるんだ。例えば、幻獣を使う場合や、馬車なんかの場合、生身を晒すことになるだろう? やはり、安全性を考えると、防御はしっかりした方がいいと言うことになる。そこで、この重パイロットスーツだ」
ガシャコンガシャコンとゆっくりと歩きながら、レオーネ・インヴェトーレが説明を始めました。
「基本は後方支援になるだろうから、機動性はあまり必要じゃない。もし必要となったら……」
そう言うと、レオーネ・インヴェトーレがステージ上にいつの間にかおかれていた布の帳の裏に回り込みました。
「よいしょ、よいしょっと……」
影絵風に何かしているのかがおぼろげに見える中、レオーネ・インヴェトーレが、ごそごそとなにやらスーツを脱ぎ始めていました。
「お待たせした」
少ししてステージ中央に戻ってきたレオーネ・インヴェトーレは、下半身の装甲を外した姿でした。とはいえ、別に下半身下着姿と言うことではなく、ぴっちりとした黒い革製のズボンを穿いているように見えます。
「この中間形態は、主に上半身を晒すオープンコックピットタイプの魔導アーマー初期型に適したパイロットスーツだ。実際に、お見せしよう」
そう言うと、ステージ上に用意された魔導アーマー初期型のコックピットのモックにレオーネ・インヴェトーレが近づいていきました。コックピットの模型の中に入って立ちあがると、鎧の留め金が外れて、腹部分の装甲が前後に跳ね上がりました。そこに並行になるように腕を合わせると、腕部分の装甲が外れて腹部分と組み合わさります。それによって、両手が完全に自由になりました。そのままストンと腰をおろすと、広がった鎧が魔導アーマー初期型のコックピットの開口部分をすっぽりと被うカバーのようになりました。この状態ですと、コックピットの開口部に隙間がなくなります。
「このように、外部からの攻撃に対して、パイロットを守る一次装甲の役目をスーツアーマーの上部がはたすのだ。これによって、パイロットの生存率は、格段に跳ね上がるという仕組みになっている」
どうだ、凄いだろうという感じでレオーネ・インヴェトーレが説明しました。
技術者としては、このへんはある意味簡単な仕組みなのですが、端から見ると複雑なギミックに見えてしまいます。
とはいえ、パイロットと魔導アーマーとの人機一体という感じはよく出ています。
「さらに、完全な密閉型コックピットであれば、これらのアーマーも必要となくなり、より細かい作業に適した機動的なスーツとなることもできる」
そう言うと、レオーネ・インヴェトーレが、アーマーパーツを、まるでコックピットハッチででもあったかのようにパカッと開いて、その素顔を顕わにしました。アーマーの中で乱れていたポニーテールの位置をなおすと、レオーネ・インヴェトーレがコックピット模型の中から外へと出てきました。
すべてのアーマーを外したパイロットスーツは、上下が一体型の革のツナギです。
「ふう」
ちょっと暑かったとでも言いたげに大きく息を吐くと、レオーネ・インヴェトーレがライダースーツ型のパイロットスーツの前面にあるチャックを腹のあたりまで引き下ろしました。
ほこほこと少し湯気が立ち、革のスーツの下からレオタード状の紺のインナーが現れます。男の娘なので胸はぺったんこですが、それはそれで……。ちょっとアンバランスな野性味がツボです。
「インナーはスーツの湿度温度を適正に保ち、アウターはレザーアーマーなみの強靱さでパイロットを守る。これほど汎用性に富み、拡張性に富み、柔軟性に富んだパイロットスーツが、かつてあっただろうか。否!」
自信を持って、レオーネ・インヴェトーレがアピールをします。
軽装になったので、自由にポーズをつけてから、プラヴァー重装改を身軽に駆けのぼっていきます。コックピットハッチを開くと、するりとその中に飛び込みました。一連の動きにも、パイロットスーツは邪魔になるでもなく、動きを阻害するでもなく、実にスムーズです。
「オレの考えた、多層スーツをよろしく!」
そう叫ぶと、レオーネ・インヴェトーレはプラヴァー重装改で幕の中へと下がっていきました。
「レオーネ・インヴェトーレさんでした。ただいま、ステージの後片づけをしていますので、少々お待ちください」
司会者が言いました。
ステージ上には、レオーネ・インヴェトーレが脱ぎ捨てていった上部アーマーと下部アーマー、それに着替えに使ったスクリーンや、説明に使った魔導アーマー初期型コックピットのモックなどが残されたままです。
「だから、力仕事は、野郎どもの仕事でしょうが!」
「まあまあ」
ブーブー文句を言いながらスクリーンを引きずっていくフィネステラ嬢を、駐在さんが必死になだめます。
●エントリーナンバー4番、エルバッハ・リオン。
「それでは、ステージ上も無事に片づいたようなので、次の参加者をお迎えいたしましょう。早いもので、最後の参加者となってしまいました。エントリーナンバー4番。エルバッハ・リオン(ka2434)さんです!」
司会者に紹介されるやいなや、舞台裏から大きな犬型の幻獣が飛び出してきました。漆黒の体毛が、胸の所だけ燃えるような緋色をしています。イェジドのガルムです。
その背に、エルバッハ・リオンは乗っていました。
すたたたたたっと、ガルムがエルバッハ・リオンを乗せたまま、ステージの端から端までを素早く何度か往復します。
間近に見る幻獣に、観客たちはちょっとびっくりしているようです。その中で、「でっかい、わんこー♪」と叫ぶ子供の声だけが、いやに印象的でした。
やがて、中央にやってきたガルムから、エルバッハ・リオンがひらりと飛び降ります。動いている最中は早すぎてよく分からなかったエルバッハ・リオンのパイロットスーツが、やっと確認できました。
けれども、幻獣の主用の衣装であるため、パイロットスーツとはかなり趣が違います。
エルバッハ・リオンの衣装は、一言で言うとカウボーイスタイルでした。女性であるエルバッハ・リオンとしては、男装とでも言うべきでしょうか。本人は、男装の麗人とお呼びくださいとでも言いそうですが。
リーリーの鮮やかな大羽根をつけたキャトルマンを被り、豊かな銀髪は編み上げてその中にしまい込んでいます。そのため、目深に下げると顔はよく見えなくなりますが、代わりに後れ毛の残るうなじが顕わになります。
革のチョッキの胸元にも、小さな羽が差してあります。
上はポケットの多い厚手のシャツで、腕には色とりどりのフリンジがついています。
下は半ズボンの上に、腰から吊ったチャップスで脚の外側だけを被い、そこにナイフやら獣の牙などを差しています。そのため、すらりとのびた生足の、内股の方だけが顕わになっているという、なんともピンポイントで艶めかしい姿です。
エルバッハ・リオンの豊かな胸はサラシで押さえつけているようですが、衣装としては別段そんなことをしなくとも、男女ともに着用できそうでした。
「さあ、ガルム、みなさんにアピールですよ」
エルバッハ・リオンが、さっと右手を挙げてガルムに命じました。指なし手袋の甲の部分に仕込まれた隠し爪がキラリと光ります。
「わおおぉぉぉぉん♪」
エルバッハ・リオンに命令されたガルムが、後ろ足で立ちあがって前足をばたばたさせると、会場中、いえ、商店街中に響く声で遠吠えをあげました。さすがに、かなりの迫力です。
「よしよし、いいこいいこ」
そんな大迫力のガルムが、エルバッハ・リオンに呼ばれるとワンと可愛く鳴いて、尻尾を振りながら頭をこすりつけてきます。
これでは、牛を扱うカウボーイではなく、ガルムボーイといったところです。
「はいっ!」
かけ声と共にエルバッハ・リオンがステージを蹴って飛びあがると、ひらりとガルムに再びまたがりました。そのままステージをゆっくりと一周して、幻獣にまたがって一体となった主としての衣装を観客の目に刻ませます。
エルバッハ・リオンはそのままステージ裏へとかけ去っていきました。
「エルバッハ・リオンさんと、ガルムちゃんでした。さあ、これで、参加した方々の衣装が出そろいました。この後、審査員の方々は別室で審査を行います。結果が出るまで、しばらくお待ちください」
司会者がそう告げると、審査員たちが一礼して案内所の奥へと移動していきました。
●審査会議
「皆様、お疲れ様です」
会議用のテーブルを用意して、支配人が審査員たちを迎えました。それぞれの席には、フィネステラ嬢が、順次お茶とケーキを運んでいきます。
「いやあ、なかなかどの作品も奇抜なデザインで、面白い物でしたね」
モード氏が、ニコニコ顔で言いました。参加者たちの発想に、かなり楽しんだようです。
「デザインもさることながら、機能の方でも、色々と興味深い物がありましたね」
コンテストの最中にこまめにとったメモを見ながら、セリオ女史が言いました。
「一発芸なのもよろしいですが、商品として売れなければ、今回のコンテストを開いた甲斐がありませんわよ」
いかにも商人らしく、お嬢様が最初に釘を刺します。
もともと商店街を盛り上げるイベントとして開いたコンテストではありますが、裏には、オリジナルブランドのパイロットスーツを販売して大儲けという大人の事情があります。まあ、お嬢様一人の野望と言えばそれまでではありますが。
「あの潜水服は、パイロットスーツとしては、今までに類がない物ではないかな。特に、あの透明な頭部がいい」
モード氏が、目をキラキラさせながら力説しました。
「えー、でも、水振りまいて、掃除大変だったんだよ」
すっごい迷惑だったと、フィネステラ嬢がほっぺをふくらませました。
「ですけれど、ギミックとして、パイロットスーツのためにCAMの方を改造しなければならないというのは、本末転倒ではないのでしょうか……」
セリオ女史は、ちょっと渋い顔です。
「そんなに初期投資が別途かかる服なんて、買う人がいませんわあ!」
お嬢様が、セリオ女史に同調します。
「それに、水をコックピットに満たしても、衝撃は吸収できないのですが。可能だとすれば、衝撃を受けたときにどこからか排水できれば、力を逃せる……かもしれませんが。でも、一回限りですね」
なんだか、色々と技術的・金銭的に問題がありそうです。
それ以前に、既存の潜水服とほぼ同じデザインだというのは、権利的に問題が出そうです。さらに、さらに、ドワーフならばあのパイロットスーツを着てもコックピットに収まりますが、人間だとスーツの分コックピットに入れなくなります。つまりは、あのパイロットスーツはドワーフ専用です。ドワーフにしか売れません。
「商品としては、却下ですわ!」
「面白いのに……」
力強く言うお嬢様に、モード氏はまだちょっと不満そうです。
「すると、同様に、多層型パイロットスーツも、難しくなりますかしら。ギミックとしては、とても興味をそそられるのですが」
なんだか、ちょっと残念そうにセリオ女史が言いました。
「まあ、高価になるのは致し方ないでしょうな」
色々とオプションが多すぎると、モード氏がうなずきます。
「パーツが多すぎるのも、問題ですわね。種類を揃えるためには、たくさんの在庫を揃えないといけませんし。セット売りというのには、色々と手間がかかりますわねえ」
はたして、オプション販売によって儲かるのか、在庫や経費で赤字になるのか、判断しきれずにお嬢様が考え込みます。
「そうなると、幻獣使いタイプの衣装か、ぴっちりスーツが可能性が高いということになります?」
消去法で、セリオ女史が言いました。
「まあ、もともと優劣を決めるものではありませんから。ユニークという点では、先の二つの方が優秀でしょう」
要は、商品化が可能かと言うことです。可能であれば、企画書を作って商品化を模索することができますが、端から無理な物はもともと難しいと言うことになります。何しろ、デザインを問題ない物にリファインしてくれる人がいるかとか、生産ラインを用意してくれる業者がいるかとか、売ってくれるショップがあるかどうかなど、クリアしなければいけないハードルは多いのです。
「幻獣使いの衣装は、幻獣の羽根などを使って好みなのだが、そのままではリアルブルーのカウボーイという者たちの衣装にそっくりなので、単なるコスプレに思われてしまうかもしれないなあ」
モード氏が、既存の衣装と同じでなければなあと残念がります。美人コンテストのパフォーマンスとしてならば文句なしですが、そのままでは商品にはしにくいのが本音です。
「まあ、今日の衣装をベースと考えて、大幅にオリジナルデザインを盛り込めばというところですかしら」
普通に、カウボーイとかの衣装を売り出して、別途幻獣の羽をアクセサリとして売り出した方が儲かりそうかなあとお嬢様が悩みます。
「そうすると、一番パイロットスーツらしいのは、2番と言うことになります?」
セリオ女史が、他の審査員に訊ねました。
「その通りだが、やはり、女性用スーツのデザインではあるかな。男性用は、胸のリボンとタイを含めて、リファインしないといけないでしょうな」
「露出が多いのも、ちょっと……」
モード氏とセリオ女史が考え込みます。
CAMでしたら、コックピットは外から見えないから問題ないとも言えますが、魔導アーマー初期型や幻獣使いなど、そのままの姿で外を歩くとなるとぴっちりスーツは色々と刺激が強すぎます。
まあ、飛行パイロットのスーツやスペーススーツのインナーも、身体にぴっちりしていると言えばしているわけですが。やはり、リアルブルーではまだしも、クリムゾンウエストの人々には刺激が強すぎるかもしれません。
「でしたら、ロングコートやロングジャケットを合わせるという手もありますわね。セットではなく、コーディネートとして合わせられるデザインにすれば、両方単品でも売れそうですわ」
お嬢様がアイディアを絞り出します。単品で普通に着られる物であれば、同じブランド名を冠せばセットでも、単品でも売れそうです。それに、インナーがかなりセクシーでも、アウターを組み合わせれば問題がなくなります。
「そうすると、水兵的なセーラーカーラーなどを活かしたスーツと、海軍高官が着そうなハーフコートのような物をリファインするという方法もありますな」
モード氏が、なんとかまとめます。同盟では、海軍的な物は人気がありますから。あとは、総評として、観客に、それぞれのパイロットスーツの長所の解説をするだけです。
まあ、実際には、パイロットスーツなのですから、各国のユニット担当が気に入ってくれるかで商品化も違ってくるわけですが。なんとか企画書ぐらいは作れそうです。それによっては、どんでん返しもあるかもしれません。
「それにしても……」
話がまとまったところで、ボソリとお嬢様がつぶやきました。
「なぜ、誰も、自分のデザインにブランド名を作らなかったのかしら……」
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最終発言 2016/12/13 19:31:25 |