• 剣機

【剣機】改造ゾンビ掃討戦と初陣のアイドル

マスター:旅硝子

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/10/04 19:00
完成日
2014/10/15 23:04

みんなの思い出

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オープニング

 帝都バルトアンデルスに剣機リンドヴルム型襲来。それは歴代剣機の動きから既に予期されており、作戦準備が迅速に進められている。
 帝国歌舞音曲部隊執務室で、グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)はクレーネウス部隊長を通じて出撃命令を受け取っていた。
「帝国歌舞音曲部隊の担当は、歌舞音曲によって作戦に参加する兵士達を鼓舞すると共に、第一師団・第十師団の兵士、イルリヒト機関、そしてハンターと協力しての『剣機リンドヴルム型以外の敵歪虚の掃討』。歌を戦場全体に届ける機械の製作は、既に錬金術師組合のリーゼロッテ女史に我が部隊の名で依頼してある」
「了解いたしました」
 緊張した面持ちで、グリューエリンは頷く。
 ふ、と1つ息を吐き、クレーネウスは改まった口調を普段の言葉遣いに戻して再び口を開く。
「作戦の詳細についてはまた説明するけど、グリューエリン、君自身も歪虚との戦闘を行う可能性が高い。覚醒者であるからには、君は他の大多数の帝国兵よりも強く、彼らを守り最前線で戦うべき存在だ」
「承知しておりますわ。……覚悟も、しております」
 はっきりと言ったグリューエリンだが、その表情は緊張を色濃く宿し、僅かに語尾が震える。
 戦闘経験はある。鍛錬は人並み以上に積んでいる。しかし、これだけの規模の戦いも、これだけ強力な敵との対峙も、初めてだ。
 あえてクレーネウスは、緊張を和らげる言葉をかけなかった下手な言葉で安心させて、それが油断を生むよりは、いっそ緊張していた方が生き延びられるというのが彼の経験則だ。
 だが、1つだけクレーネウスは、『事実』をグリューエリンに伝える。
「ハンターの皆には、敵の殲滅だけではなく、君のサポートをも依頼している。軍令に反しない限り、俺の判断よりもハンター達の判断に従って構わない。彼らは、プロだ」
「わかりました。――ハンターの皆様には、常日頃から助けて頂いております。心強く戦いに挑むことができますわ」
 グリューエリンの言葉から、震えが消える。緊張を宿したまま、けれど瞳に力が宿る。
 先の選挙にて、彼女はアイドルとしての力を、政治へと利用した。実際に利用したのは皇帝であっても、決断したのは彼女自身。
 そして今度は、彼女はアイドルとしての力を、軍事へと利用しようとしている。翠の炎の如く、瞳の奥に何かが燃え、揺らめいた。

 剣機の帝都襲来が感知されると同時に、防衛作戦が発動される。
 万全の準備を整えていた帝国軍は陣を展開し、APVを通じた要請に応えたハンター達は、軍との協力体制を取る。
 金の全身鎧に身を包んだ皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は、常と同じ足取りで歩み、常と同じ落ち着いた口ぶりで兵士達に声をかけていく。その途中で、皇帝はグリューエリンの隣へと立った。
「初陣だね」
「はい。陛下と同じ戦場で戦える初陣など、軍人として最高の名誉……それに、心強うございます」
「ならば良かった。共に、勝利しよう」
 表情は兜に隠されて全く見えないが、言葉と態度はやや改まってはいるが、いつものヴィルヘルミナだ。
「君の歌が戦場に響き、私達の元にも届くのを、楽しみにしていよう」
 その言葉にグリューエリンは、深く頷く。
「はい。私はアイドルであり、同時に軍人。微力ではあっても帝都を守るため戦い、勝利のために歌いますわ。全力で」
 兜の奥で、ヴィルヘルミナが笑んだように思えた。ぽんとグリューエリンの肩を叩いてから、再び歩き出すその姿を、グリューエリンはじっと見つめ、そっと一礼してから振り返った。1人でなんとか持ち運べる程度の大きさと重さの装置が5つ並び、歌舞音曲部隊員とハンター達が最後の打ち合わせを行っている。
 急な依頼にリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は寝食を忘れ突貫で戦場全体に歌声を届かせるための装置を作ってくれた。精密な機構と防御力を併せ持つが、この短時間で小型化や、音響性能の強化をこれ以上行うのは難しい。だから、リーゼロッテは同じ装置を5つ作ってくれたのだ。
 この音響装置を戦場の中でも比較的安全な場所に離して配置し、グリューエリンが鎧の上から纏うように身に着けた集音装置で拾った歌声を、5箇所から響かせることで戦場全体をカバーする。本来後方支援に向いた人材の多い歌舞音曲部隊員が、装置の運搬を担当してくれることが、非常にありがたいことだとグリューエリンの胸を熱くする。
 両手で装置を抱え、危険な戦場を移動する隊員達への心配はある。けれど、彼らを守ってくれるのは、そして初陣に挑む己をも支えてくれるのは、信頼できるハンター達だ。
 帝国兵、イルリヒト機関の生徒、歌舞音曲部隊員、そして――ハンター。彼らがグリューエリンに向ける感情は、好悪も興味の度合いも様々だ。
 けれど、共に敵を倒し、帝都を守る。目的を同じくして戦う全員が、彼女には仲間であり、先達と感じられるのであった。

 ――上空に点が浮かんだかと思えば、それは見る間に巨大な竜の姿を露わにする。ほぼ同時に近付いてきたのは――剣機リンドヴルム型と並走するかのように地を走る、改造ゾンビの巨大なる群れ――!
 帝国兵達は、さっと前後に分かれる。後ろに下がったのは、十門の大砲それに無数の弓と銃器と魔術による遠距離射撃を行う者達。そして前に出たのは、全身を丈夫な金属鎧に包み、大楯を手に隊列を作り敵を抑え込む盾兵隊だ。
「では、行きます!」
 歌舞音曲部隊の中でも5人の力持ちが、装置を必死に持ち上げる。ハンター達が隊員と装置を守り、5つの団となって駆け出す。
 他のハンターが担当するのはグリューエリンの支援と遊撃、それはイルリヒト生徒も同じ――そう指揮を出していたエルガーが、上空に目を向けて声を上げた。
「あれは、本当に剣機だよな?」
「剣機以外の何だって言うんだ」
 応えたハンターに向き直り、エルガーは困惑したように口を開く。
「俺達とハンターの皆が最初に遭遇した時、剣機は確かに『双頭』で『双尾』だったはずなんだ」
「……え?」
 その言葉に、ハンター達が、そして話を聞いていた帝国兵達が次々に空を見上げる。
 金属で覆われた機械仕掛けの頭。腋の下に持つ一丁のガトリングガン。長い1本の尾の先には、鋭い剣。
「確かに剣機だ。見覚えはある。だが――もう1つの頭と尾はどこに行った?」
「エルガー、考えてる暇はないぞ!」
 横から飛んできた声に、エルガーは悩みつつも頷き槍を握り直した。
 既に改造ゾンビは、最前列の帝国盾兵達とぶつかり合おうとしている。戸惑いが消え、戦意が満ちていく。
 張りつめていく戦場の空気を感じながら、グリューエリンは唇を引き締めた。
 音響装置の設置完了と同時に、彼女は歌いだすことになっている。初めての戦場に、そして今までで一番多い『観客』に、高まる緊張を感じながら。
 二振りの剣を抜く。戦うために――!

リプレイ本文

 リアルブルーより来た少年は、アイドルとして戦場に立つ少女の掌に手を重ねた。
「これ、お守りみたいなもの、あげるよ」
「綺麗……けれどよろしいのですか?」
 嬉しそうに、けれど遠慮がちに首を傾げたグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)に、贈り主たるキヅカ・リク(ka0038)は笑って頷いた。
「もちろん。それに、エリンちゃんは一人じゃない。自分を、仲間を信じれば必ず大丈夫」
「自分を……仲間を……」
 僅かに瞠目してから、グリューエリンは真摯な瞳をリクへと向ける。
「ありがとう存じます。皆様と共にあること、忘れず参りたいと思いますわ」
 ルーンペンダントを首に回し、留め金を止める。宝石が、首元できらりと揺れる。
 嬉しそうに頷いたリクは、イルリヒト生徒達との打ち合わせへと駆けて行く。そこでは、既にレム・K・モメンタム(ka0149)と米本 剛(ka0320)が、生徒達と話していた。
「久しぶりね、エルガー。アンタの実力、鈍っちゃいないでしょうね?」
 遠慮なく笑ったレムに、エルガーも笑いながら肩を竦めて。
「いくらイルリヒトではおっさんでも、まだ衰えるにゃ早いさ」
「……あの、そう言われてしまうとさらにおっさんである、私の立場がありませんね」
 冗談めかした様子で言った剛の言葉に、笑いが弾ける。
 一緒に笑ったレムは、剣の柄を軽く叩きエルガーの瞳を見上げる。
「奴らは私達と師団の皆で食い止める、だからアンタ達はアンタ達の仕事を頼んだわ!」
「おう、任せろ」
 にまりと笑みを浮かべたエルガーは、ちらと辺りの様子を伺った後、声を潜めて囁く。
「だが、帝国兵と楽に協力できるとは思わんようにな。彼らは彼らで、イルリヒトにもハンターにも負けてられないというプライドがある」
「……なるほどね。ありがと」
 真剣に頷いて、レムは身を翻し己の持ち場へと駆けて行く。
 それを見計らって、声をかけたのはリク。前線で戦況が厳しい場所に別方向から突撃を仕掛け、味方を援護するよう提案する。
「そのときは、僕が先陣を切って注意を引きつけるよ」
 だから、その隙に乗じて突貫してほしい。そう告げたリクに、値踏みするような視線を向けてから、エルガーが頷く。
「やるってんなら信じるぜ……皆も、いいか?」
 周りにいるイルリヒト生徒達にエルガーが声をかければ、構わないよ、という声や頷きが返ってくる。エルガーへの信頼が大きいだろうが、年頃の近いリクに興味や親近感があるのも確かなのだろう。
「じゃ、頼むぜ。戦いぶりを見るのを楽しみにしてるからな」
「ああ……そろそろ、って感じだけどね」
 剣機の羽ばたきが。
 群れ為すゾンビが立てる地響きが。
 近付く――!

 イルリヒト生徒達からハンターへの忠告と、ほぼ時を同じくして。
「我々は、我々の戦い方で戦う。軍を指揮した事もないハンターに何がわかるのかね」
 フラン・レンナルツ(ka0170)の提案は、軍の指揮官ににべもなく跳ね付けられていた。理由も言わず却下されたことに軽く眉を寄せながらも、フランはここで事を荒立てるまいと大人しく引き下がり愛馬にまたがる。
 皇帝のハンターを積極的に起用する姿勢に対し、帝国兵としてのプライドが傷つけられたと感じる者も多いのだろう。勝手に援護するしかあるまいと肩を竦めたフランに、ふと目が合ったエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が軽く頷いた。
 己も馬上の人となったエヴァは、ふっと振り返る。目に映るのは戦場に揺れる炎色の髪、翠の瞳は緊張からか、睨むように前を見つめていた。
(今回は絵を描けるほど近くにはいないけど、とびっきりの歌声、期待していいんでしょ?)
 彼女は、エヴァの視線に気付いてはいないだろう。けれど、エヴァは楽しげに笑んだ。
(この前寝ちゃって聴けなかったし、楽しみにしてる)
 そう頷いて、エヴァは敵に向かって馬首を巡らせた。

「援護に入るわ、攻め手は任せて!」
 やはり不信や、良くて好奇心に彩られた視線に臆せず声を掛けたレムは、大半の帝国兵が肩を竦めるか口元を皮肉げに吊り上げるのに、強気の笑みで応えてみせた。
「よろしくお願いします、共に、征きましょう!」
 丁寧に挨拶を述べた剛に対しても、帝国兵の態度は同じようなものだ。
 守原 有希弥(ka0562)が、その様子に苦笑いを浮かべる。けれど、いくら歓迎されていないとはいえ――全力を尽くさぬという選択肢は、有希弥にも共に戦うハンター達にも存在しない。
「ヴァルファーさんとは見知りではないですが噂は聞いています。歌にて士気高揚、ならば……」
「聞いて奮い立つ人がいなければ……!」
 剛と有希弥が軽く頷き合い、前を向けばレムがぐっと親指を立てる。
 そして、さらにその前方には――バルバロス(ka2119)が、佇んでいた。
「ふむ、戦場で歌……呪歌の類か?」
 帝国兵とハンター達のやり取りを遠巻きに眺めながら、興味を持ったようにふむと眉を動かす。
「確かに一般の兵から死地の恐怖を拭い去り、戦う意思を奮い立たせるには効果的だろうが。いかほどの腕前か楽しみだ」
 明らかに一般兵の範疇には納まらぬ巨体のドワーフの手で、2mを誇る巨大な両手剣が太陽の光にぎらりと輝く。
 ここは、敵に最も近き場所――最前線。
 やがて地鳴りのような足音と共に迫り来るゾンビの群れ。バルバロスは、奴らを迎え撃つべく巨剣を高く振り上げる――!

 音響装置設置班が行動を開始したのは、それより僅かに前のこと。
 装置設置のまとめ役を買って出た静架(ka0387)が、手早く配布される魔導短伝話の連絡先に己の伝話を登録する。最後方にある見張り台からならば、装置の設置場所は全て見通すことが出来るだろう。
「やれやれ、随分な数だね。敵さんも本腰を入れてきたのかな?」
 そう肩を竦めるフワ ハヤテ(ka0004)の表情は、事態の深刻さをものともせぬ飄々としたものであった。
「此処を破られたら、帝都の人達に被害が出る……そんな事は、絶対にさせない」
 そしてそんなフワとは逆に、誠堂 匠(ka2876)の表情はひどく硬い。歪虚によって大切な者を喪う、そのような思いをする人を、決して増やしたくないという思いゆえに。
「ま、強いのは他の方々に任せて、ボクらは、ボクらの仕事をしようじゃないか」
 くるりと抜いたワンドがフワの手の中に納まり、抜刀した匠が頷く。
「では、まずはここから左に。行きましょう!」
「了解!」
 音響装置を大切に抱える隊員に頷き、2人は彼を守りながら走り出す。
「アイドル文化研究交流会からこっち、アイドル隊員が誕生したのは何だか感慨深いね」
 こちらも担当の隊員との打ち合わせを終えて、天竜寺 舞(ka0377)はどこか懐かしげに笑みを浮かべた。愛馬に跨りながら頷くJyu=Bee(ka1681)も、あの研究交流会の参加者でもある。
「あの時見に来ていたグリューエリンが、アイドルになって、初ライブを成功させて、今度は初陣だなんてね」
 いつの間にか同じ方を向いていたことに気付いて、顔を合わせたJyu=Beeと舞がくすりと笑う。視線の先にいたのは、もちろん『アイドル』の少女。
「よし、行こうか!」
「ええ、歌を響かせに!」
 装置を持ち上げた隊員に舞が並走し、Jyu=Beeが僅かに先行し、戦場へと飛び込んでいく。
「歌で戦況を変える……か。随分と変わったやり方だけど、成程面白い」
 イスカ・ティフィニア(ka2222)が興味深げに装置を眺めてから、やや離れたところで緊張した顔を真っ直ぐ前に向ける少女に視線を向ける。
「今日の私は『センキョうさぎさん』ではなくて『センジョウうさぎさん』なんですよぉ」
 グリューエリンに向かって、天川 麗美(ka1355)が大きく胸を張る。当然身を包むのは、着ぐるみのまるごとうさぎだ。下手な鎧より高性能。
「ですから、グリューエリンさんは初陣がんばってぴょん。グリューエリンさんが緊張しすぎると素敵な歌声にならないかもしれないしぃ、リラックスして実力発揮してほしいなぁってカンジぃ?」
 麗美の微笑みに、グリューエリンは大きく深呼吸し、ぎこちないけれど笑顔を浮かべる。
「リラックス……伸びやかに声を響かせるためには必要ですものね。とても難しゅうございますが、頑張ってみますわ」
 初陣にして今までで最大の舞台に臨む彼女を、イスカはなるほどと見つめて。
「しかし事情があるにせよ、初陣の彼女にいきなり大舞台を任せるとは随分思い切ったことをするな……」
「だからこそ天才プロデューサーたる、このデスドクロ様の出番だ」
 隣で地図を睨みながら歌舞音曲部隊員と打ち合わせをしていたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が、顔を上げて唇をニィと吊り上げる。
「素人はこの音響の設置ってやつを簡単に考えがちだが、それは甘ぇってもんよ。ま、このデスドクロ様がその辺のPAエンジニア程度の働きはしてやるがな」
 デスドクロが機材の設置に心を砕くなら、イスカが担うのは装置を守っての戦いだ。
「よし、ここは少々派手に動いて勇気付けに一役買おうか」
「応!」
 装置を抱えた隊員を守り、デスドクロとイスカが走り出す。
「さあて、エルフハイムに手を出してくれたお礼参りでもするかね」
 もちろん護衛が最優先だが、とアルメイダ(ka2440)が負っていた銃を構える。
「うん、それじゃ、機器の護衛は修理スキルもあるから安心してぴょん!」
 ぱたぱたと手を振り、麗美が魔導銃とアルケミストデバイスにそれぞれの手を置く。グリューエリンが深く頭を下げるのに、2人で力強く頷いて。
「さぁ、どちらへ!?」
「こちらです、まずは右に!」
 問うたアルメイダに、隊員が装置を持ち上げて応え、三人は戦場の只中へと飛び込んでいく。
「例え危険であっても、兵と共にあって彼等を鼓舞する、本当にそうなりましたわね」
 出発するハンター達の背を見送るグリューエリンに、目を細めてベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)は微笑む。
「歌で兵を鼓舞するか、中々乙なことを考えるもんだ」
 興味深げに顎を撫でた 近衛 惣助(ka0510)に、クラーク・バレンスタイン(ka0111)が頷く。
「それにフルメンバーでないのは悔やまれますが、シャスール・ド・リスとして戦えるのはうれしいですね」
 シャスール・ド・リス――百合の猟兵隊。クラークが隊長を務める小隊は、今日は3人編成にて出撃だ。
 クラークの言葉に笑んだベアトリスは、再びグリューエリンに視線を向けて。
「周囲に支えられるのもグリューエリンさんの力なのでしょうね――むしろ心配も過ぎれば彼女への侮辱、互いに最善を尽くすことをわたくしなりの信としますわ」
「ならば成功させる為にも、俺達が踏ん張らないとな」
 ベアトリスがライフルを構え、惣助が猟銃を執る。アサルトライフルを手にしたクラークが、装置運搬を担当する隊員に挨拶してから、一つ大きく頷いた。
「近衛さん、アヴェーヌさん。行きましょうか。彼女の歌声を響かせに」
 シャスール・ド・リス――出撃。

 そして――何度も深呼吸を繰り返すグリューエリンの周りには、彼女と親交のあるハンター達が集まっていた。
(……グリューエリンの初陣か。不安だ)
 じっと前を見つめる横顔を、心配そうに見つめるのは蘇芳 和馬(ka0462)。
 ――うちと和さんが同じ戦場なのは久しいですね、互いに武運を!
 そう言って、有希弥が和馬の肩を叩いて前線へと駆けて行ったのはついさっきであった。サルヴァトーレ・ロッソ時代からの戦友に頷いた、グリューエリンの武術指南を自任し、彼女も師と慕う彼は。
(功を焦り、暴走しなければ良いのだが)
 彼女の性格を知るゆえに、そう心配になる。
「ま、変に考えずにやればいいよ」
 グリューエリンの反対側の隣から、不意に飛んできた少女の声。地面に座り銃の最終確認をしていたレベッカ・アマデーオ(ka1963)が、そこから目を離さぬままあっさりと言い放つ。
「戦場慣れしてないのが変に考えると死ぬし」
 びくり、とグリューエリンの肩が揺れる。対してレベッカは普段通りの態度であった。
「……気負い過ぎだ」
 力の入ったままの肩を、そっと和馬が押さえる。
 そして、アイドルとしての彼女に授けた訓練の『意図』を、初めて口にした。
「これまで私が行った訓練は、全て武に応用出来るものだ」
 振り向いたグリューエリンの瞳が、ぱちりと瞬く。
「では、私は――」
 確かめるように、手が剣の柄を撫でる。銃の準備を終えたレベッカが、ふと顔を上げて。
「足が竦んだっていい。怖くて泣きそうになったっていい。戦ったことが無いなら当然の反応だよ」
 淡々と語る言葉は、けれど決して突き放してはいない。
「そうなった時にも、落ち着いて自分のすべきことが出来るようにする。そのためのあたし達さ」
 すっと立ち上がったレベッカは、軽く爪先を地面に叩きつけ、納得したように一つ頷いてから。
「だからさ、今の自分に出来ることだけ考えな。背伸びしたり焦ったっていいこと無いよ」
 真っ直ぐ前を見てそう言えば、金の髪がふわりと風に揺れた。
「……今の私に」
 呟きかけたグリューエリンの背を、Uisca Amhran(ka0754)がそっと抱き寄せて。
「歌は自身を映す鏡。貴方が不安なまま歌えば、それは軍全体に広がってしまいます」
 その言葉に、ぎゅっと引き締まったグリューエリンの唇に、Uiscaはそっと指を当てた。色を失いかけた唇を、解すように。
「大丈夫です、私達を、仲間のみんなを信じてください。そして、その信じる気持ちから生まれた勇気と希望を全面に……」
 1人で抱え込み緊張しすぎぬよう、Uiscaは仲間の存在を勇気と希望の拠り所と伝える。ここにいるのは、既にグリューエリンと信頼関係を築いているハンター達であり、グリューエリンがきっと自分よりも信じることのできるものだから。
 時音 ざくろ(ka1250)が純白の剣とホーリーシールドを手に、長い黒髪をなびかせて振り向く。
「どんな時だって人々に勇気と希望を与える、それがアイドルだもん! 一緒に、奏でよう!」
 ふわりと白い長髪が揺れて、こなゆき(ka0960)が落ち着いた様子で微笑む。
「大丈夫ですよ」
 優しく穏やかな笑顔は、信頼できる仲間が傍で支えてくれているのだと実感できる。
「訓練の成果を今! 感じるマテリアルのままに歌い、舞うが良いのじゃ♪」
 星輝 Amhran(ka0724)が妹のUiscaと共に、ぽんと軽く背中を叩く。
 そして両肩を、そっと和馬の手が押さえた。
「肩の力を抜け、結果は自ずと着いてくる」
 背後では、レベッカが立ち上がり、頷いた。
「1人で戦うと思う必要、全然ないしね」
 翠の瞳が全員を見回し、閉ざされ――開く。
「ありがとう存じます。……どうか、共に!」

「撃て――!」
 後方に布陣した狙撃兵が、合図と共に一斉に引き金を引く。さらに術士達が炎や機導の輝きを灯せば、エヴァが彼らと息を合わせて敵の群れに炎の彩りを添える。
 突撃兵とゾンビ達がぶつかり合う前に、敵の群れに飲み込まれた男がいた。
 巨体ゆえに頭一つ以上抜き出ているが、それより下はもはや見えぬ。けれどそれでも、マテリアルを行き渡らせて盛り上がりを増した筋肉が躍動し、ツヴァイハンダーを振り回すのが良く見える。
「ぶるあああぁぁぁぁああ!!」
 咆哮と共に飛び散る腐肉。それと同じくらい跳ね続ける彼自身の鮮血。
 その間にも、大量のゾンビ達が迫り――金属機構を持つ武器と大楯が、轟音を立ててぶつかり合う。突撃兵を支援すべく待ち構えていた剛も、盾を越えて兵士の頭を割りかけていたチェーンソーを、その刀でがっしりと受け止めていた。
「……ありがたい」
「お互い様ですよ」
 幾分ぶっきらぼうながら感謝を込めた言葉に、剛は力強い笑みと共に頷く。
「援護に入るわ、攻め手は任せて!」
「此方は任せて下さい!」
 突撃兵達のやや後方から踏み込んだレムが、クレイモアを突き込む。見事に喉笛を貫かれたゾンビが、さらに第二の砲撃を受けて倒れていく。
 さらにそこに開いた隙間に、有希弥が身を躍らせる。銃撃から体勢を立て直せないままの敵を続けざまに屠り、敵の戦線に穴を空ける。
 そしてそこから、幾分離れた場所で。
「歌より火薬の轟音だな」
 巨大な音に思わず呟きながら、フランは敵集団の側面まで馬を回し、強力なマテリアルを込めながらアサルトライフルの引き金を引く。額の中心を貫かれたゾンビの身体が大きくのけぞり、そこから再び体勢を立て直して向かって来る間に、フランは後ずさりながら追撃を加える。
(『火葬』が良く効くって聞いたわ――)
 轟音にいななく馬の首を叩いてなだめ、エヴァがハート型の魔術具を掲げて――、
(灰になるまで焼いてあげる)
 魔法による攻撃を繰り広げる錬魔兵達と共に、矢の形を取った炎を解き放つ。けれど数多の同類を喪いながらも、ゾンビの群れは迫りくる。
 けれど敵の接近は、一種の好機をも生んだ。
「それじゃ行くわよ! 試作型の新必殺技、名付けて『後先知らずの制御不能閃撃(ネバーダウン・ジャガーノート・ストライク)』ッ!」
 防御を捨てた構えからの、強く大きな踏み込みと頭上に振り上げた大剣の強烈な斬り下ろし。華麗でいて激流のような動き、そして威力を極限まで高めた一撃を可能にするのは、鍛え上げられた技術と身体。
 僅かな傷しか受けていなかったはずのゾンビが、頭蓋から腹まで一気に割られて倒れ、消滅していく。おお、と感心したような声が、帝国兵達の間から上がる。
 けれど、身体をいっぱいに使う超高速の動きだけに、負担も大きい。
「……あー、連発は出来ないわね、コレ。本当にここぞというときの為のだわ」
 乱れかけた息を整えながら、レムが剣を引き元の位置まで下がる。
「……規格外ね」
 最前線へと目を向け、思わず呟く。そこではレムのものよりさらに巨大な剣を振り回してから、傷だらけの身体をマテリアルを輝かせ癒すバルバロスの姿があった。
 ――ハンター達の活躍で優勢な戦線もあれば、徐々に押されつつある戦場もある。特に強力なゾンビが偶然にせよ集まってしまえば、覚醒者ならぬ兵士達が抑えるのは難しい。エヴァが押されつつある兵士達に集中的に武器への炎の加護を送り、魔法を撃ち込みと錬魔兵や銃衛兵と協力して支援を繰り広げるが、それでも――苦しい。
「八百万の神よ……癒しの力を!」
 剛が次々に回復を飛ばし、自ら攻撃を受け止める。さらに有希弥が飛び道具を持つ敵を減らしながら一撃離脱の高機動戦を繰り広げる。帝国兵達と協力して戦線の立て直しに尽力する中――進行方向を変えたゾンビの一団に、思わず振り向いた兵士達には、敵の群れに弾丸を叩き込み、注意を惹いた敵と共に遠ざかろうとするフランの姿が見えた。
 さらにマテリアルを巡らせ防護を整えたリクを先頭に、イルリヒトの生徒達が兵士達とは別方向から戦場に飛び込んで、次々に敵を打ち倒していく。強敵と見ればリクが電流を流し込み、その間に実力に合わせゾンビ達と向かい合うイルリヒト生徒達は、全員が覚醒者だけあって人数以上の切り札だ。
 機に乗じて戦線を押し戻すように刀を振るいながら、剛が大きく叫ぶ。
「我らには『歌姫』が居ます。勝機は彼女と共に――!」

 その『歌姫』の声を響かせるため、戦場に散ったハンター達も、激戦を繰り広げていた。
「そっちにいきました、注意してください」
 見張り台に昇り目を凝らしながら、静架が適宜各班に連絡を送る。
 近くまで敵が迫れば、魔導短伝話の代わりに弓を取っての迎撃だ。
「何処からきて、何のために動いているのか……」
 自然発生などとは思える訳もないゾンビの群れに、静架は思わず呟く。
「ですが、とりあえず撃滅するのが先決ですね」
 ふっと息を吸い、弓を引く。足か、頭か……どちらを射抜けば効率がいいのか、と、思案し、両方試せばいいとすぐに次を番えて。

「っとぉ!?」
 後ろから這うように襲ってきたゾンビに、素っ頓狂な声を上げて装置を抱えたまま跳びすざる隊員を守るべくアルメイダが躍り出る。
 近くの敵を牽制しながら弱そうな敵を銃で狙うアルメイダに、麗美が機導砲を合わせる。弱い敵を次々に倒していくことで敵の集団に穴を空け――、
「よし、走るぞ」
「了解!」
 進行方向を牽制するように発砲して言ったアルメイダに、麗美と隊員の声が重なり、一気に包囲を抜ける。何度も訪れる戦いを、アルメイダと麗美は丁寧に捌き、目的の場所に向かって駆け抜ける。
「っ!」
 何度目かの戦いで両腕をガトリングに改造されたゾンビに狙われ、装置を体で庇った隊員をさらに麗美の防御障壁が守る。アルメイダがすぐさま銃を向けるが――存外にしぶとく攻撃を受け止めながら、なおも弾丸を降り注がせる。
 がぁん、と金属の重い衝撃音。悔しげに呻く隊員が守り切れなかった一か所に、弾痕が出来ていた。
「これ以上はやらせないぴょん!」
 麗美が叫ぶと同時に撃った機導の光が、ようやくゾンビを討ち倒す。さらに寄ってきたいくばくかのゾンビをアルメイダが機導剣で叩き斬りながら、再び走り出す。
「壊れる前に修理してしまえばいいさ。機導師舐めんな」
 駆けながら言い放つアルメイダの隣で、麗美は頷き可愛らしくウィンクしてみせた。

「先に行っているよ!」
「了解……数が多いね。軽く弾除けしとこうか」
 刀の鞘を払い駆け出した匠に、敵の数を確かめたフワは敵の刃や弾を逸らす風を匠の周りに呼ぶ。軽く横にずれた匠の隙間から、さらに放つのは炎の矢。
「……このぉっ!」
 マテリアルを行き渡らせた匠の一撃が、ゾンビの膝の関節を割る。さらに返す刀で隣のゾンビを一閃、腕が変じた猟銃から体にかけてを切り裂く。
 進行方向のゾンビを倒せば、それ以上の増援が向かって来る前に走り出す。そろそろ魔術の行使に限界が来そうだと、フワは走る間に拳銃を取り出す。
 そしてやや後ろから聞こえた銃声に匠は足を速め、フワの射撃にクロスボウの狙いを乱したゾンビを、一刀の元に斬り捨てた。

「それを傷つけるような事はさせないから、ドーンと安心していて良いわよ!」
 装置近くでの守りを舞に任せ、Jyu=Beeはやや騎馬にて先行し、敵の中心へと飛び込みながら守りの構えを取る。射撃武器付与を中心に改造されたゾンビ達の攻撃は、装置に向く前に惹きつける必要があった。
 さらに鉤爪を持つ敵の襲来に、舞がマテリアルを集中させた脚を速め、抜いたと思えば既にゾンビには傷が刻まれている。さらにマテリアルを込めてもう1撃で屠り、次の敵の膝頭へと肉厚の刃を叩き付ける。
 その間にJyu=Beeは、器用に馬を操り攻撃をかわしながら、軽やかに距離を取り反撃の銃弾を放つ。近付く戦線に舞が加わり敵の無力化を終えれば、また一気に駆け抜けて。
「ここでいいのよね?」
「はい! ありがとうございます!」
 目的の場所を隊員に確かめ、Jyu=Beeが周りの敵を射撃で潰していく。近付く敵の攻撃を、舞が己と剣を盾代わりに受け止めて。
「守り抜くよ。あたしも歌声を聞きたいからね」
 設営は、着々と進んでいく――。

「ただ音が出てりゃいいってワケじゃねぇ、グリりんの歌を聴かせなきゃならねーんだ」
 敵に見つからない場所に隠せば音は篭る。周囲の地形次第では響きが死んでしまう。
「グリューエリンの歌声をいち早く響かせることこそが、戦況を有利にする最上の手段だろうからね」
 装置の設置にかかるデスドクロと隊員、そして装置自体を守るべく、イスカがゾンビ達の前に立ちはだかる。盾と体で攻撃を受け、武器を叩き斬るか出来るならば容赦なく斬り捨てる。
「……よし。完璧だ」
 やがて胸を張るデスドクロに、隊員が頷く。
「では、連絡を……」
「んじゃ、俺様は歌を聴くまでもうひと頑張りだ」
 工具に代えて武器を握ったデスドクロがニィと笑い、イスカと息を合わせて防衛戦を繰り広げる!

「敵はタフだ、可能な限り武器を潰すんだ」
 惣助の言葉に、ベアトリスとクラークが了解を返す。シャスール・ド・リスの戦い方は、敵が離れているうちに射撃による火力集中で撃破。
 迫って来た敵にはクラークが威嚇射撃で足を止めさせ、ベアトリスがドリルナックルを纏った手に電流を纏わせそのまま殴りつける。2人の間から惣助は、敵が迫る前にと改造された腕の付け根や武器、さらに近づいてくる敵には膝関節を狙撃する。
「目的地はこの近くです! ここから左斜め45度の方向に!」
 隊員の言葉通りに駆け抜け、どの班よりも遠い目的地に装置を置く。クラークが魔導短伝話で連絡を入れる間に、ベアトリスと惣助は周囲の敵を倒しある程度の安全を確保する。
「……完了しました!」
 隊員の声と共に、再びの連絡。既に他の班も目的地に着いているとは聞く、が。
 装置から、まだ声は響かない。敵に気を配りながら、シャスール・ド・リスは時を待つ――。

 動物霊の力を身体に、瞳にと宿しながら、こなゆきはグリューエリンの様子を見つつ、彼女の死角から近づく敵を屠っていた。
(守られるだけのお飾り、という印象を持たれぬように気を付けなければ……)
 やや不安げなこなゆきの視線の先には、ゾンビに連撃を与えて打ち倒しながらも、軽く唇を噛む少女の姿がある。
 準備完了の連絡は、4つの班からは届いていた。最後の一報を待つばかり、けれど。
「前任せた! その分背中はあたしが守る!」
 レベッカが弾を絶やすことなく引き金を引き、ゾンビに傷を与えていく。さらに和馬が敵を減らし、グリューエリンに向かうまでにある程度の手傷を与えているから――既にグリューエリンの剣は歪虚の血に塗れ、少なくない敵に滅びをもたらしていた。
(……私なりの祝いだ)
 和馬はその思いで、グリューエリンに武勲を立てさせようとしている。事実、戦場に身を晒し、敵を打ち倒したという事実は、いくらあっても足りないほどだ。
「ヌルいのぅ♪」
 さらにグリューエリンが敵を討ち漏らせば、舞うように星輝が攻撃を逸らし、流していく。Uiscaからは守りの加護が切れればすぐに授けられ、グリューエリンの身に傷が刻まれることは、ほとんどない。
 けれど――。
 ざくろの盾が華麗にチェーンソーを受け止め、剣が心臓を貫きゾンビを滅ぼす。己1人の力で。
 己の剣が敵を倒せば倒すほど、焦りが募っていく。ここにいてくれる誰にも、自分は、守られていて、弱い。
 真に己が皆の役に立つのは、歌があるから。けれど、歌えない。まだ、歌えない――!
 声にならぬ叫びをあげ、グリューエリンが地を蹴り剣をかざす。振り向いた和馬が表情を変え、マテリアルの限りを尽くして駆け抜け、グリューエリンを羽交い絞めにする。
「征かせてくださいませ!」
「……落ち着け、一時の激情に駆られるな!」
 振るった刃は空を切る。和馬の腕に止められたグリューエリンの身体は、震えていた。
 すぐにこなゆきと星輝、ざくろが追いつき、2人を守るよう構えて攻撃を受け止める。レベッカが隙と見て近づいてくる敵に、すぐに銃口を向ける。
「貴女には確固たる目標があるのだろう!」
「戦で傷つくのは戦兵の仕事じゃ。お主は兵士でありながら今はアイドルじゃろ?」
 2人の言葉に、グリューエリンは唇を噛んだ。
「……お役に立ちたいのです。1人で、皆様が傷つくのを見つめて、ただ1人で綺麗な舞台に立っている……何の役にも立てないどころか、足手まといに……っ!」
「そりゃあ、ざくろだって怖いよ」
 そう口を開いたざくろを、翠の瞳が震えながら見つめる。
「でももうすぐここに歌声を響かせられて、みんなに勇気と希望を与えられるのは『アイドル』だけなんだ」
「……アイドル、だけ……」
「大丈夫キミは強い、それにざくろが、そしてみんなが側に居る……」
「グリューエリンさんが皆様の役に立ちたいくらい、皆も貴方の役に立ちたいのですよ」
 こなゆきが、そう言葉を添える。グリューエリンの身体に篭っていた力が、ふっと抜けたその瞬間、だった。

 弾を丁寧に取り出した麗美に、アルメイダが頷く。
「……ここの回路が途切れただけだ、つなぎ直せば……」
 素早く手持ちの工具で途切れた回路を繋ぎ合わせ、スイッチを押した瞬間に走る緊張。沈黙。そして――稼働音!
「連絡するぴょん!」
 麗美が魔導短伝話に向かって、明るい声を上げた。

「装置の設置と起動が完了した!」
 部隊長クレーネウスの声に、はっとグリューエリンが目を見開く。
「では……」
 ハンター達を見渡したグリューエリンに、全員が一斉に頷く。
「行こう、この歌声を届けに!」
 頷いたグリューエリンの歌声は、拡大され戦場を覆う――!

 その勇ましき戦歌に、兵士達ははっと疲れた顔を上げた。
 エヴァが歌に合わせるように荒ぶる鷹の如く馬から飛び降り、ぽんと兵士達の背を叩いて歌へと注意を向ける。
 ベアトリスが口ずさめば、別の場所ではJyu=Beeが歌いながら兵士達にも声を合わせてほしいと促す。
 グリューエリンの周りでは、ハンター達のハーモニーが重なる。
 ――剣機撃破の報は、高らかな歌声の中でもたらされた。

 戦いが終わり、1人の少年がリアルブルーでの祝い方と言って、軽く掲げた手をグリューエリンと打ち合わせる――ハイタッチ。
 周りに集まったハンター達の中、グリューエリンが疲れ果てた笑顔でその場に座り込む。
 助かった、と不器用にハンター達に伝える共に戦った兵士達の視線は、幾分は柔らかい。
 そして。
 全ての兵士達に、そして守られた帝都に、グリューエリンの歌が聞こえていたことは――きっとまた、何かに繋がる。

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MVP一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホールka0013
  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • Adviser
    クラーク・バレンスタインka0111
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320
  • 蘇芳神影流師範代
    蘇芳 和馬ka0462
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250
  • 心の友(山猫団認定)
    天川 麗美ka1355
  • Beeの一族
    Jyu=Beeka1681
  • 狂戦士
    バルバロスka2119

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • Adviser
    クラーク・バレンスタイン(ka0111
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 運命の反逆者
    レム・K・モメンタム(ka0149
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

  • フラン・レンナルツ(ka0170
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 薔薇色の演奏者
    ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458
    人間(蒼)|19才|女性|機導師
  • 蘇芳神影流師範代
    蘇芳 和馬(ka0462
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 渾身一撃
    守原 有希弥(ka0562
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • アイドルの優しき導き手
    こなゆき(ka0960
    人間(紅)|24才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 心の友(山猫団認定)
    天川 麗美(ka1355
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 命の重さを語る者
    イスカ・ティフィニア(ka2222
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 『機』に惹かれし森の民
    アルメイダ(ka2440
    エルフ|12才|女性|機導師
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/10/04 17:58:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/04 06:28:48