わたしの浄化術が一番なんだ!

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/01/01 19:00
完成日
2017/01/08 20:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 水面に不自然な波紋が生じた。

 それはスライムだ。

 愛嬌のある丸っこい姿ではなく半透明で不定形。
 人間が触れれば肉はもちろん骨まで溶かす凶悪な歪虚だ。

「投げろー!」

 雪玉が飛ぶ。
 数は10以上。
 射手は子供でも全員覚醒者。
 本気で握ったの実質氷玉だ。

 1つ1つがスライムほどに大きい。
 スライムが雪玉程度の大きさしかない。
 岩ほどに固められた雪に表面を削られ、削れられ、ひたすら削られてしまい。
 雑魔にすらなりきれなかった歪虚が削り切られ、この世から微量の負のマテリアルが消滅した。


●だれの浄化術が一番?
「それで終わればよかったんですけどねー」

 少女と呼ぶにはちょっとだけ育ちすぎた職員が、砕けた口調で説明している。

「別の歪虚が不規則に発生し続けて、一旦逃げるしかなかったようです」

 3Dディスプレイがオフィスの隅にふよふよ浮かんでいる。
 生徒対スライム雪合戦の情景が10分ほど続き、次々現れる微弱スライムに耐えきれずに生徒達が逃げ出した。
 逃げ出したとはいえ整然とした退却だ。
 誰も怪我ひとつしていない。

「で」

 胸元に抱えたパルムの頭を、まるでトラックボールか何かように操作する。
 ディスプレイが遠景に切り替わった。
 2列縦隊の生徒はすぐに画面の端から消え、生き残りの貧弱スライム数体と、その近くを流れる川が取り残される。
 川原にうっすらと積もった雪が美しくはある。
 もっとも、画面越しでも感じられる負のマテリアルによって台無しになっているが。

「依頼の話に移ります」

 薄曇りの空に拘束期間と報酬、その他細かい情報が挿入される。
 結構な金額だ。
 すごく弱いスライムを倒すための報酬にしては多すぎる。

「現地の浄化または浄化作業の護衛をお願いします」

 依頼の成功条件がはっきりしない、とハンターの一人が疑問を口にした。
 ですよねー、と相づちを打って職員がパルムをくすぐった。

「符術師と、機導師と、あと聖導士なら浄化術を使える可能性はありますよね」

 それぞれ浄龍樹陣、機導浄化術・白虹、ピュリフィケーションのことだ。
 どれも高度な術だ。3種の職なら必ず使える訳ではない。

「まあ使えなくても大丈夫です。地元のクルセイダー養成校には強力ではないですが浄化技術があるそうなので、皆さんが護衛すれば浄化自体は問題なく可能、らしいです」

 儀式という名目の雪合戦。
 場合によってはキャンプファイアーを行い大いに盛り上がることで陽気を導き負のマテリアルを抑制云々という話らしいが特に気にする必要は無い。
 歪虚を殴って滅ぼし浄化するか、スキルで浄化した上で生き残りの歪虚を殴って滅ぼすかだ。

「先方……依頼人である学校側は、できればクルセイダーに浄化して欲しいらしいです」

 わがままですよねー、と職員は一言で切り捨てる。

「ハンターズソサエティーが受け付けたのは浄化または浄化作業の護衛です。ですから、皆さんが依頼をうけた場合も他のことは必須ではありません」

 大事なのは依頼の達成だ。
 符術師や機導師の技を見せつけて生徒達の進路に影響を与えてもよいし、自身があるなら生徒を連れて行かなくてもよい。
 もちろん先方の期待に応えてピュリフィケーションを使っても問題ない。

「現地の聖堂教会系学校に、ハンターはすごいんだぞ、ってところを見せつけちゃってくさださいね!」

 オフィス職員は、素晴らしく良い笑顔でそう言い切った。


●川底
 撮影する者もなく、観察するパルムもいない濁った川の底。
 濃い負のマテリアルが徐々に寄り集まり、直径4メートル級の丸っこいスライムを形作ろうとしていた。

リプレイ本文

●雪嵐の予感
「わふっ。生徒さんたち、よろしくですよー!」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)が手を振り挨拶する。
「はい、よろしくおねがいしま……す?」
 生徒たちは戸惑っている。
 アルマから強い力を感じる。
 装備も逸品ぞろいだ。ブーツから帽子に至るまで全て美しさと性能を兼ね備えている。
 なら当然、中身は百戦錬磨の武人や高貴な人格なのだろう……と考えていたところでこの陽気さである。
 良くも悪くも世間の狭い少年少女たちでは、アルマの背後にある歴史もアルマの内側も見抜くことができない。
「それじゃ、やりますねー」
 宝玉が嵌めこまれた杖を片手で掲げる。
 空気が変わった。
 アルマの前腕、二の腕、その他あらゆるパーツから光の線が天に伸びている。
「あっ」
 目の良い子供が変化に気づく。
 光で出来た機械のパーツが、アルマの背中に集まり巨大で重厚な翼を形作る。
 サイズからは考えられないほど軽やかに動く様は正に圧巻。
 素直に感動する少年少女の中に、小さな手で己の口を押さえている物が2、3名。
 感受性の鋭い彼等にはアルマが巨大な何かに操られる人形に見えてしまう。理解出来ない何かに恐怖する。
 アルマを中心に光が拡大。
 純白の歯車が散り雪原を貫き、地面に染みつく負のマテリアルを逃さず砕く。
 翼と糸が薄れて消える。
 そして、周囲から負の気配が完全に無くなっていた。
「高位機導師、アルマ殿に拍手を」
 ロニ・カルディス(ka0551) が促すことで、呆然とした子供たちの意識を現実に引き戻す。
 アルマが洒落っ気たっぷりに一礼。
 最初は小さく、すぐに熱烈で猛烈な拍手が雪原に鳴り響いた。
 ロニは拍手と興奮が収まるのをまって、生徒の視線が己に集まったのを確認した上で口を開く。
「見事な術である。だが術のみが見事な訳ではない」
 小柄な体を小さく感じさせない、力強く切れのある歩みで浄化済み範囲を抜ける。
 雪の平面の極一部が揺れていた。
 放置されて貯まりきった負のマテリアルがスライムとという形になり、さらに一部が雪を取り込み這い出して来る。
 それだけではない。
 気温よりも激しい寒さがロニにまとわりつき、中に染みこもうと肌の上を蠢いた。
「汚染に向き合い、恐れを認めながらも足を踏み入れる胆力が重要だ。それが無いなら力も技もかえって害になる」
 大型メイスをゆっくりと構える。
 ロニの心の熱に炙られマテリアルが沸き出る。
 不定形のスライムが怯え、ロニから離れてずるりと落ちた。
「この浄化術は自身の周囲を浄化するモノ。術以外にも何が必要か、常に考え続けることだ」
 十字を切り、聖句を唱え、エクラの印がついたメイスで地面を軽く打つ。
 マテリアルが信仰を通して形を変え地面に広がる。
 小さな、しかし正負のマテリアルがせめぎ合う音が多数連続してうまれて雪原を震わせる。
「浄化の術であり攻撃の技ではない。さあ動け、歪虚討伐だ」
 熱く燃える目でロニに見つめられ、子供たちが弾かれたように飛び出していった。
 雪合戦(戦闘)である。
 覚醒すれば幼くても一端の戦力だ。
 雪を固め、狙いを定め、気合を込めて全力で投げる。
 1人2人ではなく十数名だ。
 ロニから逃げていた小スライムを中心に弾着。
 雪原に10の穴が空き、雑魔にぶつかり弾けた雪玉数個分の雪が散らばる。
「ガキ共なにしてやがる。そんな雑魚一発で仕留めやがれ」
 直径が倍はある雪玉が地面と水平に飛んだ。
 散らばった雪から抜け出ようとしたスライムに直撃。
 どん、と重々しい音をたてて雪塊が雑魔の墓標として地面に停止。歪虚の気配が無くなった。
「すっげー!」
「すごーい」
 憧れで輝く瞳が妙に眩しい。
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は気圧されはせずににやりと笑い、雪を拾う動作で固めて雪玉をつくる。
「何油断してやがる」
 適度に力を抜いて投球。
 子供の革鎧の最も厚い部分に当てよろめかせた。
「やったなっ」
 生徒たちが左右に分かれて一部が雪玉作りに、残りがボルディアを牽制あるいは雪玉に対する盾になり雪玉作りを支援。
「どこ狙ってる!」
 ボルディアは対大物歪虚戦でも通用する回避術を手加減抜きで実行。
 前と左右から飛んできた雪玉を軽々と躱し、しかし死角から飛んできた小さな玉に赤い髪を冷やされた。
「やった!」
「投げたら退避わぷっ」
 大殊勲の年少組2人はあっさり返り討ちにされ顔が雪塗れになる。
「やるじゃねぇか。俺が投げるのはこんな拳大の雪玉なんかじゃねぇぜ」
 受け止めた雪玉を握りしめて粉砕。
 雪玉十字砲火を潜りつつ雪を盛大に集めて固めて抱え上げる。
 雪玉というより雪達磨の頭サイズの雪塊であった。
「おらぁっ」
「はっしゃー!」
 子供の一隊が雪達磨砲撃で真っ白に。
 ボルディアも雪煙までは避けきれずにかなり冷える。
「もっとデケェのにしてやる!」
「まけるかー!」
 両方とも一切負けるつもりはなく正々堂々全力を出し切す。
 心身の熱は正マテリアルを活性化させ周囲に広がる。
 アルマやロニの術とは比べものにならないほど浄化の効力が低いとはいえ、軽微な歪虚汚染には十分効果があった。

●ビッグ雪スライム参上!
 移動中の生徒をソナ(ka1352)が呼び止めた。
 優しく髪に触れて雪を払ってあげる。
 すると、思春期の入り口らしい反発が半分、子供らしい素直さが半分混じった微妙な顔になってソナを見上げた。
「皆さんだけで汚染地域の浄化とは、とても頑張りましたね」
 喜びに溢れた表情でうなずく。
 雪がついたままの生徒を払ってあげると、あまり雪がついていない子供もお構って貰いたそうにソナのまわりに集まって来た。
「……まぶしー」
 フィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)が自分の目を手で覆っている。
 彼女は生徒たちとだいたい同年齢だ。
 細いフィーナと、良質な訓練と食事で分厚い筋骨を得た生徒たち。
 歩くのも重労働に見えるフィーナと、全身運動を続けても顔が赤くなる程度で息も乱れぬ生徒たち。
 覚醒者としての格は彼女の方がずっと高いとはいえ、なんとなく気後れっぽい感じになっていた。
「……それに」
 子供らしく在れる彼らが、羨ましい。
 同年齢の仲間と切磋琢磨することも、はしゃいで一緒に叱られることも、全てフィーナには縁が無かった。
 言葉を続ける気にはなれず、フィーナは軽く息を吐き杖をついて前へ進む。
 水量豊かな川の周囲にも雪が積もっている。
 純白の美しい光景の中に、フィーナは奇妙な違和感を覚えた。
「止まって!」
 明王院 穂香(ka5647)が言い終える前にペットのうさぎが後方へ全力ダッシュ。
 正マテリアルが穂香の近くに集まりもっこもこの兎精霊の形をとって、穂香に重なり合い覚醒化を完了させる。
 なお、兎耳と兎尻尾は重なりあわずに穂香の頭と腰を飾っていた。
「大が1つに小が4、いえ6!」
 穂香が言い終える前に、ボルディアとアルマが濃い気配に突っ込んだ。
 ぼよんと雪を割って特大雪スライムが登場。
「あなたの相手は僕ですー」
 異様な頑丈さで高位ハンター2人の猛攻に耐えいた。
「大重量スライムが動いたら離れるの。いいわね?」
 穂香の癒しの力が彼女と周囲の生徒を照らす。
 回復量は控えめだが、非常の弱い雑魔を相手にするならこれで十分だ。
 強い光が雪原を青白く染める。
 勘の良い生徒が恐怖で体を震わせる。
「大きな相手にはたくさん巻き込めるのがいいですー」
 蒼の炎が4メートル級スライムを覆い尽くしていた。
 熱はない。純粋な破壊の力がスライムの存在する力を焼いて透き通らせる。
「……よそ見、しない」
 炎の矢が雪原と水平に飛んだ。
 蒼に見せられた子供の至近に着弾。
 雪の層を貫き、顔を出そうとした弱スライムを撃ち抜き消滅させる。
 ソナが鞘から聖剣を抜く。
 澄んだマテリアルが注がれ刀身が光る。
 大きな光の我が水平に広がり、活動中の小スライムも隠れ潜む小スライムも区別せず、じゅ、と軽い音を立てて蒸発させた。
 その数秒後に巨大なスライムが弾けて広がり消えていく。
「やったー!」
 生徒たちが喜びの感情を爆発させる。
 今だけは、覚醒者でもなんでもない、普通の少年少女に見える。
 フィーナが背後から見守っている。
 巨大スライムにつられて数体新手が出てくるが、圧倒的な弾数を誇る術を準備してきているので全く問題は無い。
「……あなたたちは」
 そのままでいい。
 あまりに己と異なる者達を、憧れに似た不思議な瞳でみつめていた。

●雪上に咲く華
 別方向に向かったハンターの半数と生徒の半数は、実に平和に浄化の儀式を続けていた。
 つまり雪合戦(浄化)だ。
 本心から盛り上がる必要があるのでとにかくはしゃぐ。
 盛り上がりすぎて周囲への警戒がおろそかになるほどだ。
 咳払いがひとつ。
「警戒を怠らないように。皆さんはお客ではありません。俺達に守られてばかりだといつまでたっても卒業できませんよ」
 クローディア(ka6666)の穏やか叱咤に、生徒たちの表情がひきつった。
 慌ててソナを囲む形で散開。進行方向を中心に全方位に対する警戒を始めた。
「素直に育っていますね」
 クローディアが小声でつぶやいた。
 生徒たちはとにかく真っ直ぐだ。
 元気で、油断せず、気合も十分で、優れた教育者に大事に育てられているのが見ているだけで分かる。
「わっ」
 驚き慌て、近くに強敵がいるのにメイスではなく雪に手を伸ばす子供が複数。
「浄化術も大切ですが、それを使用するひとが倒れないように、というのも大切ですからね」
 クローディアが盾と刃を手に斜め横へ移動。
 生徒を小型雑魔から構う位置に陣取り近づくスライムを1匹ずつ切り捨てる。
「前衛は俺の左右を固めて。後衛はヒールの準備をして警戒を続行!」
「はいっ」
 雪を踏みならして年長組が全身。
 クローディアを含む横列をつくって小スライムを防ぐ壁になる。
「クルセイダーの基本を忘れてはいけません。壁を持っての前衛と、ヒールの支援、他にも」
 20メートル離れた場所で大輪の炎が生まれ、負の気配がいくつも消える。
 エルバッハ・リオン(ka2434)のファイアーボールだ。
「遠距離の援護もある。それらをまとめて、命を害する歪虚の牙をこそ浄化して消すのが、力ですよ」
 前へ跳べば1人で蹂躙も可能だったろうが、クローディアは生徒の護衛という仕事を忘れず、その場に留まり敵を防いだ。
「俺も……教えるものに、なりたいですからね」
 クローディアの背中には、いくつもの憧れの視線が集中していた。
 そんな青春の一場面から数十メートル離れた場所で、雪を割って白いスライムが飛び出した。
 まるで仲間を探すかのように左右へ意識を向ける。
 ここにいた弱スライムはとっくにエルバッハに処理されているので、ここには大型スライムとエルバッハしかいない。
「私も養成校には関わっていますから、ここは彼らに成果を上げさせてあげたいところですが」
 ワンドで空に印を描く。
 遙か北の彼方を思わせる冷気が、直径6メートルの、馬鹿馬鹿しいほど大きなスライムを覆い凍らせる。
「相性が悪いです」
 滑らかな氷がひび割れた。
 ずり、ずりと巨体が移動を初めて生徒の反対側に2メートル向かってから逆側に3メートル。
 そこで第2の炎の花が咲いた。
「足止めができないですし」
 威力面では問題がない。問題はバッドステータスの強度の不足だ。
 凍らせて一方的に生徒に攻撃させるというのは、手持ちの札では無理そうだ。
 形は白い餅に似た特大スライムが、斜め上に体を伸ばしてエルバッハの上半身を狙う。
 足下の雪がずれた。
 エルバッハの回避が間に合わない。
「邪魔ですよ」
 高さ1メートルの盾を慣れた手つきで扱い、彼女は大重量スライムを片手で支えていた。
 雪交じりのスライム液が垂れるが、頑丈な兜が一切の被害と浸食を拒む。
 第3、第4の華が咲く。
 歪虚の表面は威力の大部分を吸収してしまうが大きな炎は大きなスライムの全体を焼く。
 第5で凹み、第6で随分縮んで直径が4メートル割る。
 実にあっさりと、二度目の吹雪で特大スライムが吹き消された。

●浄化のあとで
 兎耳の聖導士が七支刀を横に振るう。
 優雅で、滑らかで、怖いほど美しい動きだ。
 正のマテリアルが周囲を舞い、舞い刃と舞手を祝福しているようだった。
 鋭く息を吐く。
 踏み込んで宙を切る。
 目には見えない薄い汚れが、刃から逃げる形で大きく切り裂かれた。
 十数秒の残心を終え緊張を解く。
 穂香の全身に汗が浮かんで外気で冷やされていく。
「これが根性式浄化術です」
 生徒達に向き直る。
 精霊由来の兎耳が、へんにょりと力を無くしている。
「気力と体力の消耗が激しい割に効果が穏やかなので、劇的な効果は期待出来ませんが……。誰にでも出来るので多くの人が交代で行えば相応の効果につなげられるんですよ」
 朗らかに笑う。
 少年だけでなく少女もはっと赤面するほど魅力的だ。
 はくちゅ。
 穂香が可愛らしいくしゃみをして清潔なハンカチで口と鼻を覆った。
「消耗が激しいから使うタイミングには注意してね」
 はーい、と元気な返事が返ってくる。
「ん……」
 予想以上に消耗が激しい。
 おそらくだが、以前使ったときは聖堂教会が何らかの形で援護し消耗を弱めていたのだ。
 今なら弱スライムともいい勝負になってしまうかもしれない。
「みなさん、休憩の時間ですよ」
 ソナが全員に呼びかける。
 彼女の背後には、強いのにどこか優しい炎が燃えさかっていた。
 キャンプファイアーである。
 負の気配が祓われた河原に、ソナが持ち込んだ薪が櫓に組まれて燃えている。
「この温度でいいでしょうか?」
 カップを渡す。
 穂香が受け取り一気に飲むと、人肌の甘さが口から全身に広がり疲れた心身に力を与える。
「おいしそー」
「あたたかいっ」
「さむいよここ」
 子供たちが騒ぎ出す。
 繰り返された雪合戦で体力を使い尽くした者もいるようで、年少組を中心にうつらうつらとしている。
「あ……」
「……任せる」
 フィーナが予備の薪のもとへ向かう。
 少量だが油もある。どれもソナが準備……正確には子供たちの保護者に交渉して供出させた物資だ。
 リトルファイア。着火。大炎上。
 最初のキャンプファイアーにあぶれた子供が集まってきて火にあたる。
 柔らかな甘い香りが子供たちの鼻をくすぐった。
 ソナが串を炎の近くに刺している。
 白いマシュマロがゆっくりと溶けて匂いが増す。
「1人1本ですからね」
 一見優しい笑顔、そして反論を許さない気合いがこもった姉あるいは母の顔だ。
 生徒たちは神妙な顔でうなずいて、美味そうに溶けたマシュマロ串に手を伸ばした。

 ハンターは生徒を伴い学校に戻り、おねむな子を寮に運んだ後帰路についた。
 今回浄化が完了した土地では、年内に開墾が始まるらしい。

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重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 浄化の兎
    明王院 穂香(ka5647
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師
  • 明日輝くための旋律
    クローディア(ka6666
    人間(紅)|18才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/01/01 14:40:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/01 10:26:57