【初夢】【魔装】ニューゲーム+

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/01/08 09:00
完成日
2017/01/16 08:11

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●レタニケ領

 ピコピコ ピーピー ティレレー

 画面には“end”の文字が表示された。
 一つの戦いが無事に終わり、鳴月 牡丹(kz0180)が満足そうな表情で、天を仰ぎ見た。そして、手には――携帯ゲーム機。
 
「終わったー。長かったー」
 感無量とはこの事か。
 何かやり遂げた感じがする。
 宿泊している部屋に差し込んでくる陽の光がとても眩しかった。
「おはようございます、牡丹様」
 戸をノックする音と共に、紡伎 希(kz0174)の声が響いた。
 牡丹に携帯ゲーム機器を貸したのは希であった。なんでも、リアルブルーでの遊戯道具らしい。
「いいよー」
「失礼します……って、牡丹様、まさか、徹夜ですか?」
 部屋には飲み食い散らかした後が生々しく残る。
 おまけに片付けもできない人なので、酷い有り様だ。
「いやさ、このゲームが良い所まで行ったからね。寝てられなくて」
 言い訳するように言う牡丹。
 その手に持つゲーム機の画面を見て、近寄った希が機器を取り上げ、一瞥すると――。
「……牡丹様、まだ終わっていませんよ?」
「ほぇ?」
 間抜けな声を挙げて、手元に戻ってきた画面を見た。
 先程は、“end”と表示されていた画面に、一文加わっている。

 “強くてニューゲーム”

「なんだい、これ?」
「育ったキャラクターや武器やお金等のデータをそのままに、新しくゲームを始めるのです」
「へー。で?」
 意味が分からず首を傾げる牡丹。
 希が説明するような身振りで応えた。
「途中倒せなくてスルーした強敵や諦めたダンジョンなど、最初から挑戦できるようになれますね」
「それじゃ、序盤で倒せなかった中ボスを倒せるとか!?」
「もちろんです。中ボスを倒せば、1週目では主人公達を庇って死んだ兄が、2週目では仲間になったりします」
 ネタバレ的な発言だが、牡丹は目を輝かせた。
「なにそれ! 熱い展開! すぐに始めないと!」
「ダメです! 今晩は領主様との宴があるのですから。しっかり、お休み下さい」
 素早い動きでゲーム機器を奪い取る希。
 牡丹は頬を膨らませたが、希の言う事も確かなので、諦めたようにベットに転がった。
「それじゃー。寝るー」
「と言いながら、V字腹筋しないで下さい。変な音だと勘違いされます」
「こうして数を数えながら寝ると気持ちよく寝れるんだよ」
 呆れたような表情の希だったが、何を言っても無駄と思い、一礼すると退室した。
 スラリと伸ばし挙げた自身の足先をぼんやりと眺めながら腹筋運動を繰り返しながら、牡丹はある事に思い至った。
「……“強くてニューゲーム”か……。そんな事、実際に出来たらなぁ~」
 そしたら、故郷の里は憤怒の歪虚の襲撃から守れたのだろうか。
 里の人々、親族達、妹や弟、そして、両親――皆を失わずに済んだのだろうか。それとも、どんなに強くとも、間に合わなかったのだろうか。
「……」

●夢の中
「“乃那”から緊急の連絡! 憤怒歪虚の襲撃を受けており、大至急、救援を!」
 鳴月家の屋敷に火急の知らせを告げる侍が駆け込んできた。
 すぐに救援隊が招集される。
「牡丹、大丈夫か? もしかして、最悪、間に合わないかもしれん……」
「行くよ。僕の故郷だから」
 ギュっと硬く拳を握りながら牡丹は家長へ言葉を返した。
(あれ……僕……)
 そこで気になる。
 また、胸が大きくなった? いや、体中に感じるマテリアルが力強い?
 身体の動きもキレが良いし、習得できなかった技も、今なら存分に使える気がする。

 これなら――これなら、戦える。

「分かった。では、救援隊の隊長は牡丹。それと、強力な助っ人を呼んでおいた」
 家長の言葉に振り返ると、そこには、鳴月家の侍とは異なる装備で武装している数人の者達。
 ハンター達が居るなら、心強い。少なくとも、自分の足を引っ張る事はないだろう。

(……ハンター? まぁ、いいや)
 そんな疑問を抱いたが、今は故郷の危機だ。
 戦える人間がいる。それだけだ。

「手強い歪虚もいるかもしれない……けど、行こう。“乃那”の皆を守る為に」
 力強く牡丹は宣言したのだった。

リプレイ本文

●夢の始まり
 迫り来る憤怒の歪虚。迎え撃つハンター達や鳴月 牡丹(kz0180)と配下の侍達。
 その光景にデジャブ感があると、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は思った。そう、これは――。

(……もう過去に起きてた様な……夢だったのかな? 今度は、救わなくちゃ……今度?)

 符を取り出しながら曖昧な記憶が巡る。侍達をルンルン忍法で援護する為だ。
 3週目? 4週目?
 燃え盛る里、あるいは、泣き崩れる牡丹、もしくは、全滅した光景――ルンルンは生唾を飲み込んだ。
「今度の世界線では、成功させちゃいます!」
 ルンルンの言葉に疑問符を浮かべながら、十色 エニア(ka0370)は大鎌を振るう。
 いつもの痛い発言かと思ったのだが、どこか違和感も感じていたからだ。
(激戦をくぐり抜けた侍達なのに……?)
 盾組、弓組に分かれて編成された侍達の動きは洗練されている様子にも見える。
 光景だけみれば、東方で繰り広げられていた激戦を思わせた。
「うむ、うむ、この空気。この砂塵。この殺気。やはり戦場はええもんじゃて。のう」
 婆(ka6451)が鉄甲で雑魔を殴る。
 生死を掛けた戦場独特の雰囲気に思わず、力が入る。
「しかして、東方の武人と共に戦う夢とは……」
 新鮮な気分じゃと呟いた。
「命を守ることに、躊躇はない」
 刀を擦り上げるように斬りつけたアーク・フォーサイス(ka6568)が雑魔の1体を倒した。
 目指す牡丹の故郷は歪虚の襲撃を受けているという。
 ここで、足止めされている場合ではないだ。里の人々を救えるのなら、力の限りを尽くすのみだ。
「前に出過ぎず、足並みを揃えよう!」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が仲間達に呼び掛けた。
 牡丹だけではなく、実力のあるハンター達も居る。戦線が伸びてしまえば、覚醒者ではない侍達が危険だからだ。
 女将軍はアルトの呼び掛けに頷く。
「カズマ君! 次、来るよ!」
 牡丹がいつもと装いが違う龍崎・カズマ(ka0178)に声を掛けた。
 隠したつもりはないのに、どういう訳か自分だと認識されている……とも思う。

(これが……『あの時』の話か……)

 人は時を超えられない。なら、これはきっと、夢なのだろう――。
 牡丹の記憶と精霊の記録が混線し、夢となったのか?
 しかし、そんな考察すらも許さぬように、雑魔が次から次へと襲いかかって来た。
 Uisca Amhran(ka0754)が、光の波動で雑魔を幾体かを消滅させる。
「歪虚討伐し、里を救いましょう」
 その為にもここは踏ん張り所だ。同時に牡丹の動きにも注意を払う。今の牡丹は危なっかしいからだ。
(今、の……?)
 女将軍の動きは洗練され、危険な所はまるで無かった。
 一人でも突破出来るのではないかという安心感がある。
 その時、雑魔らの動きが鈍くなった。
 イレーヌ(ka1372)がレクイエムの魔法で援護しているからだ。
「全力で支援させてもらうことに、変わりはないがな」
 盾を構えて侍達を守りながらもイレーヌはこれが夢だと直感的に感じた。
 誰かの夢に紛れているのか、自分が夢を見ているのか分からないが、夢であろうと、出来る事は変わらないはずだ。

●激戦
 戦闘は優位……とは言い難いものの、その様に経過していた。
 だが、疲労も激しい。誰もが無傷という訳にはいかなかった。特に魔法を扱ってくる雑魔が厄介だ。
「雑魚を全滅させると、次が出現する仕組みか?」
 鬼歪虚の攻撃を避けながら、アルトの問いにルンルンがたゆんたゆんと揺らしながら、頷く。
「ルンルン忍法の観察眼なのです!」
 そういう事で、雑魚を1体残し、負のマテリアルを空間に放ち続ける4つ腕の鬼歪虚を、牡丹と共にハンター達は囲んでいた。
「行ける! これなら!」
「牡丹、無茶はするな」
 カズマが忠告する。牡丹が強いと言っても、鬼歪虚も異常な程強い。
 魔術師による援護、聖導士による支援。それらがあっても、一気に勝負はつかない。油断すれば、首一つ簡単に胴体と離れる事になるだろう。
 そんな鬼歪虚の猛攻を牡丹は正面に立って捌いていた。

 “あの時”とは違う。今なら、時間を掛けずに、しかも、倒す事ができる――。

 その違和感に何も疑問を抱かない牡丹を、カズマが援護していた。
 必要なら鬼歪虚への背後にも回って、鬼歪虚の意識を反らせる。
 鬼歪虚の一撃が仲間に届く前に魔法で援護したUiscaは、嫌な予感を感じていた。
(牡丹さんの動きに問題は無さそうですが……)
 つい先日との動きとはまるで違う。
 大胆不敵な動きだが、見ていて安定感がまるで違う。むしろ、怖いのは『この状況』そのもだった。

 なぜ、雑魚が1体残れば、敵が出現しないのか。
 “そういう仕組み”だとして、それは自分達のみが感じる事なのか……。

 鬼歪虚に動きがあったのは、まさに、その時だった。
 ハンターに向けられたと思った銃口から負のマテリアルの銃弾が放たれた。それは、ハンター達誰にも当たらなかった。
「味方を!?」
 アークが驚きの声を上げる。
 鬼歪虚の動向は注意していた。だが、よもや、残った雑魚1体を狙ってくるとは。
 銃弾の一撃は雑魚を直撃し、押さえつけの為に組み合っていた婆をも貫いた。
「なん、じゃと!」
「マズイ」
 膝が地についた婆を回復させながら、イレーヌが暗く呟いた。
 新しい符を構えてルンルンが叫ぶ。
「追加、来ちゃいます!」
 雑魔が全滅した事で、新たな敵が出現したのだ。
 対して、ハンター達の半数は鬼歪虚へと対峙している。
「このままで!」
「そうじゃ、はよう、その4つ腕の鬼を倒すのじゃ」
 アークと婆がそれぞれ武器を構えて覚悟を決める。
 戦力が二分されているが、戻している余裕はない。ならば、鬼歪虚が倒されるまで耐え切るしかない。
「だけど、これじゃ! 数に押されて全滅するよ!」
 牡丹の焦った声に対し、イレーヌが盾を構えて返した。
「……かもしれない。けど、仲間を信じて戦うことも大切だ」
 ここで牡丹が戻った所で敵の数の優位は動かないだろうし、鬼歪虚との戦いがどうなるか読めなくなる。
 牡丹が抜けた事で鬼歪虚が倒せなかったらり、戦いが長引くのもよくないはずだ。
「ルンルン忍法五星花&三雷神の術! 煌めいて、星の花弁からの~。レッツゴー、メガネ、ウクレレ、おいーっす!」
 派手な動きと共に、ルンルンが忍術(符術)を行使する。
 光の結界が雑魔の動きを鈍くした所で、ルンルンが実ったそれを揺らしながら、侍達に振り返る。
「さぁ、皆さん今です、止めを……成敗です!」
 放たれた幾つもの矢が雑魔に突き刺さる。
 覚醒者でなくとも、戦い方によっては十二分に戦える。
 特に今回は盾役と弓役と分けたのが効果的だったようだ。
 その代わり、前衛を支えるハンターは負担が大きいが。
「そっちはいかせんぞ」
 婆が後方へと抜けようとする雑魔を強引に引っつかんだ。
 それを力任せに投げ飛ばし、別の雑魔へとぶつける。
「アークさんや、孤立するんは余りよくないからのう」
「はい」
 呼吸を整え、刀を構え直すアーク。
 敵の数が多い。後方へと抜けられないように気を配りつつ、技を放っていく。
「私も前に出ようか」
 盾を構えてイレーヌがアークの横に並んだ。
 歪虚の動きを阻害する魔法の効果範囲は、前に出た方がより多くの雑魔を狙えるからだ。
 雑魔から侍へと向けて放たれた魔法を盾で庇うイレーヌ。
「慌てるな。標的を集中させるんだ」
 侍達へ声を掛けた。辛い戦いが続くだろうが――鬼歪虚が倒されるまでの辛抱だ。

「いよいよ、正念場、か……」
 愛刀を上段に構えたアルトが呟く。
 ここで慌てるようでは鬼歪虚は倒せない。確実に打ち倒すのが正解なのだ。
「エニアさんの魔法攻撃に合わせましょう」
「機会を逃すなよ。俺は背後に回る」
 Uiscaが側面に、カズマが背後に回り、牡丹も囲みに加わった。
 それでも、四方からの攻撃に的確に対処しつつ、鋭い反撃を放ってくる鬼歪虚。やはり、この強さは並大抵ではない。
 名のある鬼だったかもしれないが、今は確認している時でもない。
 この攻防の中、エニアの詠唱が歌うように流れる。
「……有形無形の理よ、天地流転の調べよ、我が意、我が声を奏で、響かせ、過ぎろ!」
 エニアの周囲に妖精達が舞い、集ったマテリアルが水色に輝く。
 魔力によって集められた無数の水球が、長い詠唱の結びと共に、鬼歪虚を直撃した。
「今だ! 合わせるぞ!」
「これで、終わりです」
 黄金に輝く髪を技の勢いで揺らしながらカズマがマテリアルの粒子剣を繰り出し、Uiscaの魔法が放たれる。
 鬼歪虚がエニアの魔法に耐えながら、二人の攻撃を刀と楯で防ぐと、必殺の一撃を入れてこようとする牡丹に対し銃口を向けた。
「させないよ!」
 アルトが魔導ワイヤーで鬼歪虚を絡めた。
 絶好のチャンスを牡丹が見逃す訳がない。強烈な拳が鬼歪虚に叩き込まれ……鬼歪虚が塵となって崩れていく。
「やっ――」
 牡丹の声が上がるよりも先に、雑魔と闘うハンター達の叫び声が響いた。

「戦場で果てるは鬼の本懐! 掛かって来るじゃ!」
「ここは任せて、先に里へ!」
 見れば、前衛に立っていた婆とアークが傷だらけの状態だった。
「私達を信じ、早く!」
 回復の魔法を使っていたイレーヌも人の背丈はある盾を構え、雑魔の攻撃に耐えながら言った。
 里への救援隊を指揮している牡丹の立場を見れば、侍やハンター達を残していけないだろう。だが、そこに拘っている場合ではないはずだ。
 それに、雑魔を全滅させても次が出現してくるのであれば、いつまで経っても里へ辿り着けない。
「行って下さい……今度は、今度は」
 ルンルンが符を展開しながら指先を里の方角へと向ける。
 “今度は”行って貰わないといけない。そんな、気がするから。
「わたしが援護に残る」
 大鎌をクルクルと回しながらエニアが告げる。マテリアルを高める為に意識を集中させた。
 牡丹はどうしたものかと一瞬、動きが止まる。
「行こう。間に合うはずだよ」
「悩んでいる暇はないはずだ、牡丹」
 アルトとカズマの台詞に続き、Uiscaが背を押す。
「ここは、仲間達を信じ、私達は里を救いにいきましょう」
 牡丹は意を決し、全員を見渡した。
「……皆、よろしく頼む」
 そして、里へと向けて走り出した。

●死神が運ぶ夢
 鬼歪虚が居なくなったとはいえ、雑魔の脅威が無くなる訳ではない。やがて、ハンター達にも限界点が来る。
 枯渇したマテリアルを振り絞り、アークが刀先を雑魔へと叩きつけた時だった。
「婆!」
 視界の中で、婆が雑魔と壮絶な相打ちとなっていた。
 雑魔の図太い腕が婆の脇腹を抉り取っていた。婆の鉄甲も雑魔の体にめり込まれている。
 一目で婆が致命傷だと分かった。イレーヌの回復魔法も尽き、ポーションも使い果たした今、助かる手段は無い。
「1匹でも多く……一撃でも多く……。それが、それが! 鬼というものよぉ」
 組み合ったまま渾身の頭突きを叩き込み、それで、婆は動きを止めた。
 雑魔は塵となって消え崩れ、地に倒れる婆。
 本懐を遂げた顔は、どこか、笑っているようにも見えた。
「守りきれなかった……」
 唇を噛み締めるイレーヌ。他の雑魔らは同時に霧散した。
 戦いは終わったという事なのだろう。
「……牡丹達は間に合ったのだろうか」
 犠牲者を出してしまったと思いながらアークは里の方角を見つめる。
 これで、里が救えなかったら……婆の死の意味がない。
「婆さーん!」
 ルンルンが婆の骸を揺さぶっている。
 全滅よりかは良い。里が救えなかった結末ではないと思いたい。それでも、犠牲者が出た事が許せない。
「夢でも……か……」
 例えこれが夢でも、この終わり方は辛いものがある。イレーヌはそんな思いと呟いた。
 もし、自分が倒れる方だったら――仲間達が全員無事なら、そこは誇りに思えるのだろうか。

 エニアがゆっくりとした足取りで婆へと近寄る。
 鎌を振っていないにも関わらず空を斬る音が響いた。
「私は人形。私は死神。私は不安定……」
 この死は必然だったのか、あるいは、運命だったのか。
 救えなかったのか、誰かは倒れなければならないという仕組みだったのか。
 倒れる仕組みは必要だったのか……本当は、ここで倒れたのは誰なのか……。
「私は追憶。私は幻……」
 知る由はない。
 それでも、今、目の前の事は決して目を逸らしたくない。
「……私は……エニア」
 この結末に『納得』して行くしかない。この魂を運ぶのは自分の役目だから。
 エニアが大鎌を掲げ――眩い光が辺りを包み――彼ら彼女らは夢から覚める。

●力を求めて
 結果的に言うと、里を救う事は出来た。
 家族との無事な再会に喜ぶ牡丹。そこへ、Uiscaが声を掛ける。
「これは夢です。今日、里を救う事ができました」
「ゆめ?」
「そろそろ、この夢の呪縛から解き放たれる時がきたのではないです?」
 救えなかった故郷。強くなりたいという願い。
 里を救えたのは、牡丹一人の力では成し遂げられなかった。それは、牡丹も感じる所だろう。
「今日の夢は、牡丹さんの力だけで為した結果でないです」
「本当だね。皆の力が凄くてさ。びっくりだよ」
 牡丹の台詞はアルトへと向けられていた。
「貴女が求める強さとは何だ?」
「それは……」
 アルトの質問に、ハッとなる牡丹。
 これが“夢”だと認識したのかもしれない。アルトの言葉は続く。
「私にとって、強さとは、手の届く人を増やし守るための手段。貴女にも、強さの先に求めたものがあったはずだ」
「……そうだよ、あったよ。僕にも、強さを求める理由が」
 急に辺りが真っ暗となった。
 次の瞬間、救えたはずの里は、無残な廃墟と変わった。それらが――風と共に崩れ去っていき――残るのは草すらも生えない歪虚汚染された大地のみ。
「……強かったら、力があったら、一人じゃなかったら、救えたんだ! こうなる事も無かったんだ!」
 その牡丹の叫びは苦しみにも似て。
 同時に確信に満ちた瞳の輝きは、つい最近、見られなかったものだった。
「もっと、強さが、力があれば!」
「牡丹さん、それは――」
 Uiscaが言い掛けた時、夢は――終わった。


●褶曲の先へ

『なぁ、牡丹、傍で支えたいと、並び立ちたいと思うのは、君にとって迷惑だろうか?』
『迷惑? 足を引っ張らなければ、ね』

 ―――

 ――

 ―

「夢……か?」
 カズマが目を覚ました。
 左肩に重みを感じる――牡丹が寄りかかって酔い潰れていた。
「おい、牡丹、起きろ。悔しいのも判るが、酒も程々にな」
「……カズマ君……あぁ、なんだ、また、夢か……」
「寝るな。これは現実だ」
 再び寝る体勢に入った牡丹をカズマは起こした。
「大丈夫だよ。眠いだけだから。もう、悔しくないから……」
 牡丹の素直な台詞と共に安らかな寝息が聞こえてきた。


 おしまい

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  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌka1372
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 婆の拳
    婆(ka6451
    鬼|73才|女性|格闘士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/03 23:23:57
アイコン 夢の中での戦い(相談卓)
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/01/07 23:44:38
アイコン 牡丹さんに聞いてみよう
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/01/07 16:47:12