ゲスト
(ka0000)
押し寄せる極小槍衾
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/08 12:00
- 完成日
- 2014/10/16 10:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
鋭く頑丈な穂先が一列に並んでいる。
馬術に優れた騎士でも越えるのが難しい鋭鋒が、まるでひとつの生き物のように形を変える。
瞬く間に密集した方陣に。敵(地方貴族麾下の非覚醒者騎兵1隊6名)が衝突を嫌って速度を落とすのを見て斜線陣へ変形。
左翼に集中した穂先が敵隊長を落馬させ、そのまま突破、包囲、殲滅と進むように思われた。
隊長が見事な受け身から跳ね起きる。自らを見捨てて逃げた愛馬に愛憎混じった視線を向けてから、隊の弱気を振り払うため大声で指示を出す。
「退けっ」
とどめとばかりに突き出される槍の群れ。
隊長の皮鎧では防ぐことなどできないと思われた。
「屈辱だ」
ひょいと一歩下がる。
狙いも速度も見事な、けれど随分小さな槍が空を切る。
「こんな雑魚にっ」
ヴォイドの戦闘能力は基本的に大きさに比例する部分がある。この場にいる槍、というか槍兵人形型雑魔は隊長の腹程度の全高しか無い。つまり基本的な能力はとても低いはずなのだ。
「撤退する!」
隊長が後ろに向かって駆けだす。隊員も馬を鞭打ち隊長を追い抜いていく。
槍兵型小雑魔は素晴らしい動きで陣形を組み替え全速で人間を追う。その動きは精鋭の兵隊並だが絶望的に小柄で足が短く、徒歩で逃げる隊長にすら追いつけなかった。
●
ハンターギルド本部の依頼掲載場所にパルムが駆け込んできた。
依頼物色中のハンターの足下を駆け抜け跳躍、華麗な空中回転を決めてカウンターの上に着地する。
わきおこる歓声と拍手、調子に乗って手を振って応えるパルム。
数分後、場所を間違ったことにようやく気づき、パルムが気まずそうに神霊樹に向かっていった。
「うおっ」
ハンターに重なる形で3Dディスプレイが現れる。
「何しやが……」
怒り顔が深刻な表情に変わる。
「ヴォイドの侵攻部隊、にしては弱いが」
軍隊じみた動きの雑魔が10体。個々は弱くても放置すれば脅威になりかねない。
「俺の頭じゃ作戦思いつかねぇ」
ハンターは肩をすくめ、自分の技量に見合った依頼を探すため別のディスプレイへ向かっていった。
馬術に優れた騎士でも越えるのが難しい鋭鋒が、まるでひとつの生き物のように形を変える。
瞬く間に密集した方陣に。敵(地方貴族麾下の非覚醒者騎兵1隊6名)が衝突を嫌って速度を落とすのを見て斜線陣へ変形。
左翼に集中した穂先が敵隊長を落馬させ、そのまま突破、包囲、殲滅と進むように思われた。
隊長が見事な受け身から跳ね起きる。自らを見捨てて逃げた愛馬に愛憎混じった視線を向けてから、隊の弱気を振り払うため大声で指示を出す。
「退けっ」
とどめとばかりに突き出される槍の群れ。
隊長の皮鎧では防ぐことなどできないと思われた。
「屈辱だ」
ひょいと一歩下がる。
狙いも速度も見事な、けれど随分小さな槍が空を切る。
「こんな雑魚にっ」
ヴォイドの戦闘能力は基本的に大きさに比例する部分がある。この場にいる槍、というか槍兵人形型雑魔は隊長の腹程度の全高しか無い。つまり基本的な能力はとても低いはずなのだ。
「撤退する!」
隊長が後ろに向かって駆けだす。隊員も馬を鞭打ち隊長を追い抜いていく。
槍兵型小雑魔は素晴らしい動きで陣形を組み替え全速で人間を追う。その動きは精鋭の兵隊並だが絶望的に小柄で足が短く、徒歩で逃げる隊長にすら追いつけなかった。
●
ハンターギルド本部の依頼掲載場所にパルムが駆け込んできた。
依頼物色中のハンターの足下を駆け抜け跳躍、華麗な空中回転を決めてカウンターの上に着地する。
わきおこる歓声と拍手、調子に乗って手を振って応えるパルム。
数分後、場所を間違ったことにようやく気づき、パルムが気まずそうに神霊樹に向かっていった。
「うおっ」
ハンターに重なる形で3Dディスプレイが現れる。
「何しやが……」
怒り顔が深刻な表情に変わる。
「ヴォイドの侵攻部隊、にしては弱いが」
軍隊じみた動きの雑魔が10体。個々は弱くても放置すれば脅威になりかねない。
「俺の頭じゃ作戦思いつかねぇ」
ハンターは肩をすくめ、自分の技量に見合った依頼を探すため別のディスプレイへ向かっていった。
リプレイ本文
●勝敗の決定は戦う前に
丘というにはささやかすぎる凸地形の上で、摩耶(ka0362)が軽く目を細めていた。
少なくとも1キロメートルは離れた平地に9……いや10体の雑魔が見えた。
真正面から工夫無く戦っても勝てる。それは思い込みではなく歴然とした事実だけれども、多数対多数の戦いでは1人に攻撃が集中して即死という展開もあり得る。
「なんか、こう、……かわいい大きさですけど、かわいくない、ですね」
摩耶より頭ひとつ分小柄なネージュ(ka0049) が、器用につま先立ちして雑魔を観察していた。
二本足の雑魔は隊列を組んで移動している。これでは個々が弱くても隊としての戦闘能力は高めかもしれない。
摩耶は魔導短伝話を使って情報伝達中。雑魔との距離が有りすぎるのでネージュはちょっとだけ手持ち無沙汰だ。
「ネージュ、足こっちに向けて」
天竜寺 舞(ka0377)が手招きする。
はいと素直に応えて舞の近くに腰を下ろす。
「過信はできないけど滑り止めにはなるでしょ」
適度な長さに切ったロープをネージュの靴に巻く。工夫としては簡単だが滑り止めの役目は果たせるはずだった。
「ありがとう。頑張るね」
ネージュは礼を言って立ち上がり、スコップを抱えて雑魔とは逆方向へ向かう。
そちらにあるのは荒れた土地と川の近くの湿った土地。落とし穴を含む罠を張るのに適した場所だった。
●30分後
鎧姿の子供に見えないこともない雑魔が10体、熟練兵並みの隊列を組んだまま小走りに移行する。加速して全力疾走をはじめても隊列がほとんどが崩れない。
「ファランクスもどきか。 雑魔にしては味な真似をするものだ」
見つめるアバルト・ジンツァー(ka0895)の瞳には侮りも恐れもない。
「だが、甘いな。機動戦力と合わせて活用してこその密集隊形戦術だ。その弱点を突かせて貰おう」
湿った土地を川に向かって走る。装備が重くて雑魔と同程度の速度しか出ていないが、この状況ではそれが最適だ。雑魔の隊列はわずかずつ崩れながら、ハンターを目指して真新しい土が散乱する川辺に向かっていた。
「はじめましょう」
宇都宮 祥子(ka1678)が瞳にマテリアルを集中する。
余裕を感じさせる走りで向かって来るアバルトとその数十メートルを駆ける雑魔が10体。雑魔はいつの間にか槍を構えていて、凄腕のハンターでも近づきすぎると危険な状態だった。
祥子は弓に没入する。
学生時代に身につけた射法を、クリムゾンウェストで身につけた身体能力で形にする。
射る直前、70メートル先の全身鎧型雑魔が手の届く距離に感じられた。
矢から手を離す。微かな弧を描いて矢が飛翔、アバルトの肩の上を通過し鎧の胸に突きたった。
アバルトと槍衾の距離が近づく。
祥子は次の矢を弓に添え、矢を中心にマテリアルを込め、放つ。
矢は約60メートル先の隊列に命中。2本の矢を生やした雑魔1体の動きが少しだけ遅くなり隊列に小さな乱れが生じた。
それを30メートの距離になるまで繰り返し、180度反転してダッシュ。70メートルまで離してから雑魔に向き直っては撃ちを繰り返す。
雑魔が幾ら馬鹿でも2、3体潰されれば行動を変えそうなものだが、祥子がわざと貫通力の低い矢を使っているため当たりはしても壊れない。
「祥子さん!」
20本目の矢を手にとった祥子にネージュが声をかける。
祥子は意識を雑魔と弓に集中したままうなずき、戦闘用の矢を弓に添えた。
「いきます!」
ネージュが全身を使い、肩で背負うようにしてロープを引っ張る。
川辺の泥まみれの地面からロープが浮かび上がり、槍衾の進路を遮る形で固定される。
「痛っ」
迫力のある音を立ててロープが千切れる。
ネージュは衝撃をもろに受けた肩を庇う。雑魔の最前列はたたらを踏みながらもぎりぎりで耐えようとして、ネージュが多数開けた穴に思い切り踏み込んだ。
骨折の音に酷似した異音が複数響く。
矢が水平に飛ぶ。同属を穴から助けようとした雑魔の胸を貫通する。これまで複数の矢を受けていた全身鎧では耐えきることができず、胸元から内側に崩れてそのまま全身が消えていく。
これでハンター8人に対し雑魔7体。
数で見ればほぼ差はなくても、隊列が乱れた分雑魔の戦力は大きく減っていた。
斜め横からの銃撃。
崩れた隊列に銃弾が飛び込み1体の太ももに亀裂を入れる。
雑魔は即隊列を組み直そうとする。
が、川辺の湿地が邪魔をして、これまでの数割増しで時間ががかる。
「ハンターでなければ苦労したかもしれないが」
アバルトが足を止め反転し、てまごつく雑魔に銃口を向け、肩に銃床を当てて引き金を引く。
雑魔が穴から這い出そうとしたところで穴を崩され腰まで埋まる。
再度斜め横からの銃撃。
端の全身鎧が半壊した頭を巡らせても射手の姿を見つけられない。
同じ位置から、同じ音で銃弾が発射された時ようやく雑魔は気づけたが、摩耶に向かって一歩踏み出すこともできず崩壊していった。
「まだだ。隊列が崩壊するまで待て」
アバルトがハンター前衛に待機を指示しつつ威嚇射撃を続行。隊列の回復を徹底して遅らせる。
摩耶は雑魔に気づかれたと判断して凹みから身を乗り出す。仲間から数十メートル離れた場所で雑魔との距離も30メートル近い。確実に当てられる距離ではないが、この状況ではこの場所が最適なのだ。
雑魔の隊列が回復する。
銃弾と矢と罠でぼろぼろの雑魔がハンター主力に向かおうとするところに麻耶が斜め方向から射撃を行う。
1発1死の威力はなくても雑魔に複数方向への警戒を強いる効果がある。当然のように隊列が乱れ、アバルトの威嚇射撃が混乱を拡大し、本気の攻めを始めた祥子の矢で被害が急増していく。
「組織戦可能な雑魔か。ハンターでなければ苦労したかもしれないが」
アバルトが威嚇射撃を使い切りエイミングからの強弾に切り替える。
降り注ぐ銃弾が端の雑魔を削り切り崩壊させる。
この時点で雑魔は6。否、麻耶の弾が反対側の雑魔の頭部を射貫いて残り5。半減した槍衾は酷く見窄らしく、鎧型雑魔の不利を悟って退却を狙う動きを見せた。
「行け!」
あえて高い位置に弾をばらまくアバルト。逃げ出そうとする雑魔を摩耶の弾が邪魔をして、前衛ハンターがアバルトの支援を受けて突撃を開始した。
●激突
白兵戦が開始される数分前。神代 廼鴉(ka2504)は困惑に近い表情で弓を操っていた。
構えて、狙って、放ち、当てる。
言うは易しとなりがちなことを、射撃開始から今までずっと続けていた。
「アウトレンジで決めちまうのも、ありだよなぁ?」
へらへらとちんぴらじみた笑みを浮かべていても、瞳の奥には冷静さがある。己の実力を過小評価する気はない。9割当たることは当然でも命中率10割は単なる幸運だ。
赤い弓をひいて何度目になるかも分からない矢を放つ。緩い弧を描いて飛んで、雑魔の腹部装甲を抜いて地面に刺さる。
雑魔の形が崩れていく。廼鴉の矢を含む複数の矢が地面に転がり後続の雑魔に踏み砕かれる。
「共同撃破って奴か」
悪くはない。1人飛び抜けた活躍ができないと嫌だ! というほど幼くはないのだ。
が、爽快感がないのも事実だった。
「行け!」
「はい!」
ネージュが瞬脚で加速する。
廼鴉達の射撃邪魔しないよう考えられた進路で雑魔に近づいている。
が、遅い。装備の重さが邪魔をしているのだ。
たあ、と可憐なかけ声と共にネージュがショートソードを振り下ろす。
密度の薄い槍衾では彼女と剣の接近を防ぐことができず、隊列中央の鎧雑魔に深い傷が刻まれた。
雑魔は倒れない。槍の短さを活かして左右から繰り出そうとして、槍の速度が上がる寸前白い煙に包まれる。
右側の2本が止まる。ネージュが右に跳んで槍衾を回避する。
「あっぶね」
白い煙は廼鴉のスリープクラウドだ。敵味方識別機能はないので使いどころが難しい。もっとも頭の回る廼鴉にとっては少し面倒なだけで難しくはない。
基点をずらして最後の眠りの雲を出す。ネージュを包囲しようとした雑魔2体が前のめりに倒れ、ネージュに背中から刺されて1体が崩れていく。
「威力が……」
古川 舞踊(ka1777)が使った攻性強化の効果だった。
最初は後ろにいた舞踊が前に出る。
左右にも上下にも揺れない美しい歩みで、眠りの雲で一時的に無力化された槍衾に近づく。
雑魔が目を覚ます。片膝をついて槍を突き出す。とうに隊列は崩れきっていても数は健在だ。左右に分かれて一気に舞踊を倒そうとしていた。
艶やかな踊りのように鉤爪が振るわれる。瞬間的で強烈な稲光がかぎ爪と雑魔の間を往復し、ほぼ無傷だった雑魔が何も出来ずにその場に転がる。
舞踊は倒れた鎧の脇を静かに進み包囲網を突破、嫋やかで容赦のない一撃を背後から叩き込む。
がらがらと音を立てて崩れる鎧。消えていく同属を踏み越え舞踊を目指す槍持ち雑魔。
「そっちは任せたぜ」
少し離れた場所に声をかけてから、廼鴉が拳銃を構える。
生き残りの雑魔は全てハンター前衛に接敵されている。もはや後方から矢弾を浴びせる段階ではなく、1匹も逃さず仕留めるため前に出る段階だ。
機械式拳銃に比べると玩具にも見える魔導拳銃から、ライフル級の威力の光が飛び出る。
舞踊に翻弄される全身鎧に光の槍が突き刺さる。
雑魔が慌てて廼鴉に向き直ろうとする動きは悲しいほど遅く、舞踊が勢いをつけたかぎ爪に頭部を三枚下ろしにされ崩壊を始めてしまう。
「たぁっ」
ネージュが別の雑魔の右足を切る。姿勢が崩れたところににペンタグラムの追撃。
戦闘開始前は機能美すら存在した装甲が罅まみれになり、そこへ容赦の一片すら存在しないかぎ爪が突き込まれた。
徹底的に抉ってから、引き抜く。
液体とも気体ともつかぬ黒々としたものがこぼれ、舞踊に触れることもできず光の中に消えていく。
ネージュが右から左に目を向け停止する。いつの間にか、戦闘の痕跡だけ残して雑魔の姿が消えていた。
●終焉と残ったもの
「行け!」
舞は返事のかわりに直進する。
雑魔槍衾の残骸、数的な主力から少し離れた場所にいる、一回り体格の良い全身鎧2体へ急接近した。
「舞は武に通ず、って言うからね。リアルブルーの実家で鍛えた足運び、ご披露しちゃうよ♪」
全身鎧型雑魔が音も立てずに槍を構え、舞の進路上に穂先を置く。
舞は軽い足音だけを残して回避。雑魔と雑魔の間をすり抜けて徹底的に混乱させていく。
「ヘイヘイッ」
舞の挑発。
「行くぜ!」
リック=ヴァレリー(ka0614)の怒声。彼は大回りして雑魔の背後から仕掛けた。
無防備な鎧の背にカッツバルゲルが触れ、めり込み、中身を砕いて反対側まで貫通する。
リックの手の平に精神を削る感触が伝わり、しかしリックは闘志をますます燃やして剣を引き抜いた。
雑魔の手が空振りする。カッツバルゲルをさらに押し込もうとしたら剣を奪われたかもしれない。
もう一体の雑魔が振り返り、足先から指先までの全ての力を使い槍を突き出す。
燃えさかる闘志を示すようにリックの体を金色の光が覆い、錬磨された動きで雑魔の突きをぎりぎりで避ける。
盾と槍が後擦れ合い耳障りな異音が響く。リックの力強い踏み込みと雑魔の踏ん張りが拮抗し、徐々にリックが押し、拮抗が崩れ雑魔が受け身もとれずに後頭部から地面にぶつかる。
攻撃直後のリックに健在な雑魔が槍を突き出す。舞のグラディウスが穂先を叩いて進路をねじ曲げる。狙いが甘くなった槍ではリックに当たる訳がない。軽く盾で押されただけで完全に狙いが外れ、舞の追撃を胸にくらって半歩後退する。
「見えるかな?」
グラディウスが微かに揺れた。
どこを攻めるつもりか、あるいは守りに徹するつもりか槍雑魔の頭では判断できない。
答えは、リックが決着をつけるまでの時間稼ぎだった。
地に倒れ泥まみれの雑魔が跳ね起きる。両手で握った槍が唸ってリックの喉元を狙う。
「なかなか厄介だな。だけど俺だって生まれた世界は違えど戦士だ! 絶対に負けねぇ!」
リックは盾を手の平1つ分横にずらすことで槍を受け止める。衝撃で腕が軋む。リックは文字通りの全力を腕に込め、両脚で踏ん張り、押し返す。
雑魔が押し負けてのけぞった。カッツバルゲルが雑魔の首に横からめり込み、首を粉砕し、兜状の頭部を宙に飛ばす。
決着の気配を感じて舞が動く。
フェイントで惑わせてからの斬撃。雑魔の右足が破損し大きく体勢が崩れる。体勢が崩れている割には正確な一閃が舞を狙う。
「ヘイヘイヘェイッ! いい合いの手だよっ」
そよ風に舞う綿毛を思わせる、実際には厳しい鍛錬と優れたセンスでようやくなしえる横移動で回避。ひとつながりの動きで槍持つ手のひらをグラディウスで裂く。
雑魔は倒れない。雑魔は槍を落としもしない。
残り1体になっても、わずかでも破壊と破滅を広げるため抗戦する。
「でもこれで」
終わり。
鎧の亀裂にグラディウスが差し込まれ、核と脊椎を砕いて抜かれた。
雑魔は槍を構えたまま薄れ、倒れる事もできずに消え去った。
「……なにこの臭い」
舞が眉をしかめる。風向きが変わり、どこからか何かの腐敗臭が漂ってきていた。
「雑魔が来た方向からね。多分……」
ハンター到着前に、野生動物が雑魔に殺された。祥子は沈痛な面持ちで説明し、伊達眼鏡を通して遠くを見つめ、亡骸がある場所の見当をつける。
「酷い話だな」
リックが重い息を吐いて臭いのもとへ向かう。
ハンター達は罠の片付けと埋葬を済ませ、静かに家路を辿るのであった。
丘というにはささやかすぎる凸地形の上で、摩耶(ka0362)が軽く目を細めていた。
少なくとも1キロメートルは離れた平地に9……いや10体の雑魔が見えた。
真正面から工夫無く戦っても勝てる。それは思い込みではなく歴然とした事実だけれども、多数対多数の戦いでは1人に攻撃が集中して即死という展開もあり得る。
「なんか、こう、……かわいい大きさですけど、かわいくない、ですね」
摩耶より頭ひとつ分小柄なネージュ(ka0049) が、器用につま先立ちして雑魔を観察していた。
二本足の雑魔は隊列を組んで移動している。これでは個々が弱くても隊としての戦闘能力は高めかもしれない。
摩耶は魔導短伝話を使って情報伝達中。雑魔との距離が有りすぎるのでネージュはちょっとだけ手持ち無沙汰だ。
「ネージュ、足こっちに向けて」
天竜寺 舞(ka0377)が手招きする。
はいと素直に応えて舞の近くに腰を下ろす。
「過信はできないけど滑り止めにはなるでしょ」
適度な長さに切ったロープをネージュの靴に巻く。工夫としては簡単だが滑り止めの役目は果たせるはずだった。
「ありがとう。頑張るね」
ネージュは礼を言って立ち上がり、スコップを抱えて雑魔とは逆方向へ向かう。
そちらにあるのは荒れた土地と川の近くの湿った土地。落とし穴を含む罠を張るのに適した場所だった。
●30分後
鎧姿の子供に見えないこともない雑魔が10体、熟練兵並みの隊列を組んだまま小走りに移行する。加速して全力疾走をはじめても隊列がほとんどが崩れない。
「ファランクスもどきか。 雑魔にしては味な真似をするものだ」
見つめるアバルト・ジンツァー(ka0895)の瞳には侮りも恐れもない。
「だが、甘いな。機動戦力と合わせて活用してこその密集隊形戦術だ。その弱点を突かせて貰おう」
湿った土地を川に向かって走る。装備が重くて雑魔と同程度の速度しか出ていないが、この状況ではそれが最適だ。雑魔の隊列はわずかずつ崩れながら、ハンターを目指して真新しい土が散乱する川辺に向かっていた。
「はじめましょう」
宇都宮 祥子(ka1678)が瞳にマテリアルを集中する。
余裕を感じさせる走りで向かって来るアバルトとその数十メートルを駆ける雑魔が10体。雑魔はいつの間にか槍を構えていて、凄腕のハンターでも近づきすぎると危険な状態だった。
祥子は弓に没入する。
学生時代に身につけた射法を、クリムゾンウェストで身につけた身体能力で形にする。
射る直前、70メートル先の全身鎧型雑魔が手の届く距離に感じられた。
矢から手を離す。微かな弧を描いて矢が飛翔、アバルトの肩の上を通過し鎧の胸に突きたった。
アバルトと槍衾の距離が近づく。
祥子は次の矢を弓に添え、矢を中心にマテリアルを込め、放つ。
矢は約60メートル先の隊列に命中。2本の矢を生やした雑魔1体の動きが少しだけ遅くなり隊列に小さな乱れが生じた。
それを30メートの距離になるまで繰り返し、180度反転してダッシュ。70メートルまで離してから雑魔に向き直っては撃ちを繰り返す。
雑魔が幾ら馬鹿でも2、3体潰されれば行動を変えそうなものだが、祥子がわざと貫通力の低い矢を使っているため当たりはしても壊れない。
「祥子さん!」
20本目の矢を手にとった祥子にネージュが声をかける。
祥子は意識を雑魔と弓に集中したままうなずき、戦闘用の矢を弓に添えた。
「いきます!」
ネージュが全身を使い、肩で背負うようにしてロープを引っ張る。
川辺の泥まみれの地面からロープが浮かび上がり、槍衾の進路を遮る形で固定される。
「痛っ」
迫力のある音を立ててロープが千切れる。
ネージュは衝撃をもろに受けた肩を庇う。雑魔の最前列はたたらを踏みながらもぎりぎりで耐えようとして、ネージュが多数開けた穴に思い切り踏み込んだ。
骨折の音に酷似した異音が複数響く。
矢が水平に飛ぶ。同属を穴から助けようとした雑魔の胸を貫通する。これまで複数の矢を受けていた全身鎧では耐えきることができず、胸元から内側に崩れてそのまま全身が消えていく。
これでハンター8人に対し雑魔7体。
数で見ればほぼ差はなくても、隊列が乱れた分雑魔の戦力は大きく減っていた。
斜め横からの銃撃。
崩れた隊列に銃弾が飛び込み1体の太ももに亀裂を入れる。
雑魔は即隊列を組み直そうとする。
が、川辺の湿地が邪魔をして、これまでの数割増しで時間ががかる。
「ハンターでなければ苦労したかもしれないが」
アバルトが足を止め反転し、てまごつく雑魔に銃口を向け、肩に銃床を当てて引き金を引く。
雑魔が穴から這い出そうとしたところで穴を崩され腰まで埋まる。
再度斜め横からの銃撃。
端の全身鎧が半壊した頭を巡らせても射手の姿を見つけられない。
同じ位置から、同じ音で銃弾が発射された時ようやく雑魔は気づけたが、摩耶に向かって一歩踏み出すこともできず崩壊していった。
「まだだ。隊列が崩壊するまで待て」
アバルトがハンター前衛に待機を指示しつつ威嚇射撃を続行。隊列の回復を徹底して遅らせる。
摩耶は雑魔に気づかれたと判断して凹みから身を乗り出す。仲間から数十メートル離れた場所で雑魔との距離も30メートル近い。確実に当てられる距離ではないが、この状況ではこの場所が最適なのだ。
雑魔の隊列が回復する。
銃弾と矢と罠でぼろぼろの雑魔がハンター主力に向かおうとするところに麻耶が斜め方向から射撃を行う。
1発1死の威力はなくても雑魔に複数方向への警戒を強いる効果がある。当然のように隊列が乱れ、アバルトの威嚇射撃が混乱を拡大し、本気の攻めを始めた祥子の矢で被害が急増していく。
「組織戦可能な雑魔か。ハンターでなければ苦労したかもしれないが」
アバルトが威嚇射撃を使い切りエイミングからの強弾に切り替える。
降り注ぐ銃弾が端の雑魔を削り切り崩壊させる。
この時点で雑魔は6。否、麻耶の弾が反対側の雑魔の頭部を射貫いて残り5。半減した槍衾は酷く見窄らしく、鎧型雑魔の不利を悟って退却を狙う動きを見せた。
「行け!」
あえて高い位置に弾をばらまくアバルト。逃げ出そうとする雑魔を摩耶の弾が邪魔をして、前衛ハンターがアバルトの支援を受けて突撃を開始した。
●激突
白兵戦が開始される数分前。神代 廼鴉(ka2504)は困惑に近い表情で弓を操っていた。
構えて、狙って、放ち、当てる。
言うは易しとなりがちなことを、射撃開始から今までずっと続けていた。
「アウトレンジで決めちまうのも、ありだよなぁ?」
へらへらとちんぴらじみた笑みを浮かべていても、瞳の奥には冷静さがある。己の実力を過小評価する気はない。9割当たることは当然でも命中率10割は単なる幸運だ。
赤い弓をひいて何度目になるかも分からない矢を放つ。緩い弧を描いて飛んで、雑魔の腹部装甲を抜いて地面に刺さる。
雑魔の形が崩れていく。廼鴉の矢を含む複数の矢が地面に転がり後続の雑魔に踏み砕かれる。
「共同撃破って奴か」
悪くはない。1人飛び抜けた活躍ができないと嫌だ! というほど幼くはないのだ。
が、爽快感がないのも事実だった。
「行け!」
「はい!」
ネージュが瞬脚で加速する。
廼鴉達の射撃邪魔しないよう考えられた進路で雑魔に近づいている。
が、遅い。装備の重さが邪魔をしているのだ。
たあ、と可憐なかけ声と共にネージュがショートソードを振り下ろす。
密度の薄い槍衾では彼女と剣の接近を防ぐことができず、隊列中央の鎧雑魔に深い傷が刻まれた。
雑魔は倒れない。槍の短さを活かして左右から繰り出そうとして、槍の速度が上がる寸前白い煙に包まれる。
右側の2本が止まる。ネージュが右に跳んで槍衾を回避する。
「あっぶね」
白い煙は廼鴉のスリープクラウドだ。敵味方識別機能はないので使いどころが難しい。もっとも頭の回る廼鴉にとっては少し面倒なだけで難しくはない。
基点をずらして最後の眠りの雲を出す。ネージュを包囲しようとした雑魔2体が前のめりに倒れ、ネージュに背中から刺されて1体が崩れていく。
「威力が……」
古川 舞踊(ka1777)が使った攻性強化の効果だった。
最初は後ろにいた舞踊が前に出る。
左右にも上下にも揺れない美しい歩みで、眠りの雲で一時的に無力化された槍衾に近づく。
雑魔が目を覚ます。片膝をついて槍を突き出す。とうに隊列は崩れきっていても数は健在だ。左右に分かれて一気に舞踊を倒そうとしていた。
艶やかな踊りのように鉤爪が振るわれる。瞬間的で強烈な稲光がかぎ爪と雑魔の間を往復し、ほぼ無傷だった雑魔が何も出来ずにその場に転がる。
舞踊は倒れた鎧の脇を静かに進み包囲網を突破、嫋やかで容赦のない一撃を背後から叩き込む。
がらがらと音を立てて崩れる鎧。消えていく同属を踏み越え舞踊を目指す槍持ち雑魔。
「そっちは任せたぜ」
少し離れた場所に声をかけてから、廼鴉が拳銃を構える。
生き残りの雑魔は全てハンター前衛に接敵されている。もはや後方から矢弾を浴びせる段階ではなく、1匹も逃さず仕留めるため前に出る段階だ。
機械式拳銃に比べると玩具にも見える魔導拳銃から、ライフル級の威力の光が飛び出る。
舞踊に翻弄される全身鎧に光の槍が突き刺さる。
雑魔が慌てて廼鴉に向き直ろうとする動きは悲しいほど遅く、舞踊が勢いをつけたかぎ爪に頭部を三枚下ろしにされ崩壊を始めてしまう。
「たぁっ」
ネージュが別の雑魔の右足を切る。姿勢が崩れたところににペンタグラムの追撃。
戦闘開始前は機能美すら存在した装甲が罅まみれになり、そこへ容赦の一片すら存在しないかぎ爪が突き込まれた。
徹底的に抉ってから、引き抜く。
液体とも気体ともつかぬ黒々としたものがこぼれ、舞踊に触れることもできず光の中に消えていく。
ネージュが右から左に目を向け停止する。いつの間にか、戦闘の痕跡だけ残して雑魔の姿が消えていた。
●終焉と残ったもの
「行け!」
舞は返事のかわりに直進する。
雑魔槍衾の残骸、数的な主力から少し離れた場所にいる、一回り体格の良い全身鎧2体へ急接近した。
「舞は武に通ず、って言うからね。リアルブルーの実家で鍛えた足運び、ご披露しちゃうよ♪」
全身鎧型雑魔が音も立てずに槍を構え、舞の進路上に穂先を置く。
舞は軽い足音だけを残して回避。雑魔と雑魔の間をすり抜けて徹底的に混乱させていく。
「ヘイヘイッ」
舞の挑発。
「行くぜ!」
リック=ヴァレリー(ka0614)の怒声。彼は大回りして雑魔の背後から仕掛けた。
無防備な鎧の背にカッツバルゲルが触れ、めり込み、中身を砕いて反対側まで貫通する。
リックの手の平に精神を削る感触が伝わり、しかしリックは闘志をますます燃やして剣を引き抜いた。
雑魔の手が空振りする。カッツバルゲルをさらに押し込もうとしたら剣を奪われたかもしれない。
もう一体の雑魔が振り返り、足先から指先までの全ての力を使い槍を突き出す。
燃えさかる闘志を示すようにリックの体を金色の光が覆い、錬磨された動きで雑魔の突きをぎりぎりで避ける。
盾と槍が後擦れ合い耳障りな異音が響く。リックの力強い踏み込みと雑魔の踏ん張りが拮抗し、徐々にリックが押し、拮抗が崩れ雑魔が受け身もとれずに後頭部から地面にぶつかる。
攻撃直後のリックに健在な雑魔が槍を突き出す。舞のグラディウスが穂先を叩いて進路をねじ曲げる。狙いが甘くなった槍ではリックに当たる訳がない。軽く盾で押されただけで完全に狙いが外れ、舞の追撃を胸にくらって半歩後退する。
「見えるかな?」
グラディウスが微かに揺れた。
どこを攻めるつもりか、あるいは守りに徹するつもりか槍雑魔の頭では判断できない。
答えは、リックが決着をつけるまでの時間稼ぎだった。
地に倒れ泥まみれの雑魔が跳ね起きる。両手で握った槍が唸ってリックの喉元を狙う。
「なかなか厄介だな。だけど俺だって生まれた世界は違えど戦士だ! 絶対に負けねぇ!」
リックは盾を手の平1つ分横にずらすことで槍を受け止める。衝撃で腕が軋む。リックは文字通りの全力を腕に込め、両脚で踏ん張り、押し返す。
雑魔が押し負けてのけぞった。カッツバルゲルが雑魔の首に横からめり込み、首を粉砕し、兜状の頭部を宙に飛ばす。
決着の気配を感じて舞が動く。
フェイントで惑わせてからの斬撃。雑魔の右足が破損し大きく体勢が崩れる。体勢が崩れている割には正確な一閃が舞を狙う。
「ヘイヘイヘェイッ! いい合いの手だよっ」
そよ風に舞う綿毛を思わせる、実際には厳しい鍛錬と優れたセンスでようやくなしえる横移動で回避。ひとつながりの動きで槍持つ手のひらをグラディウスで裂く。
雑魔は倒れない。雑魔は槍を落としもしない。
残り1体になっても、わずかでも破壊と破滅を広げるため抗戦する。
「でもこれで」
終わり。
鎧の亀裂にグラディウスが差し込まれ、核と脊椎を砕いて抜かれた。
雑魔は槍を構えたまま薄れ、倒れる事もできずに消え去った。
「……なにこの臭い」
舞が眉をしかめる。風向きが変わり、どこからか何かの腐敗臭が漂ってきていた。
「雑魔が来た方向からね。多分……」
ハンター到着前に、野生動物が雑魔に殺された。祥子は沈痛な面持ちで説明し、伊達眼鏡を通して遠くを見つめ、亡骸がある場所の見当をつける。
「酷い話だな」
リックが重い息を吐いて臭いのもとへ向かう。
ハンター達は罠の片付けと埋葬を済ませ、静かに家路を辿るのであった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 古川 舞踊(ka1777) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/08 02:11:34 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/05 15:04:23 |