ゲスト
(ka0000)
ぴょこの新春たまご祭り
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/01/17 19:00
- 完成日
- 2017/01/23 23:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
年明けに みなぎる空気の すがしさよ(ぴょこ心の俳句)。
丘の向こうから日が昇る。鶴が鳴き鳴き飛んで行く。池の泥亀冬眠中。年の初めのめでたさよ。
今年もこの地の安寧と繁栄のために、わし、頑張るぞ! えいえいおー!
……というわけでわしに会うのが初めてな者もそうでない者も、明けましておめでとう。
わしこそはシャン郡ペリニョン村のアイドル、ぴょこたれうさぎのぴょこじゃ。
外見ファンシーな黒ロップイヤーの縫いぐるみ(人間大)じゃがそれは仮の姿。中の人はとっても強い正義の英霊なのだ。
ぴょこられぱんちが炸裂すれば歪虚なんぞ塵と化すのじゃ本当じゃぞ。
クレータも作れちゃうのじゃ本当じゃぞ。
疑うものはわしの祠に来て証拠写真を見るがよい。わしの祠は365日年中無休で開館しておるから、いつでも立ち寄り可能じゃ。入場料もなしじゃ。良心的じゃろ。
ま、それはそれとして今日はよくぞこのたまご祭りに来た。
熱烈歓迎してつかわす。
この祭りはわしの記憶にある限り、400年前には多分既に存在していたとおぼしき由緒正しき祭り。
寒い冬を皆で元気に乗り切ろうという趣旨から始まった伝統ある祭り。
人間の元気の源とは何か?
それはもちろん食料。そのうちで卵の持つポテンシャルは群を抜いておる。
茹でてよし煮てよし焼いてよし揚げてよし。どんな料理にも使えないということがないまさに万能食材。
今日はそんなたまごを愛でたまごを楽しむ日なのじゃ。皆遠慮なく食べていくがよい。この村だけでなく郡一円の有志たちが、腕を振るっておもてなしじゃ。
なんでもあるぞ。卵関係のものならなんでもな。
目玉焼き、ゆで卵、ハムエッグ、スコッチエッグ、ベーコンエッグ、カルボナーラ、オムレツ、キッシュ、だし巻き卵、エッグサンド、カスタードクリーム満載のシュークリーム&エクレア、エッグタルト、プリン、クッキー、たまごせんべい、などなど、などなど。
喉が渇いた?
安心せい、ほれ生卵(大ジョッキでドン)。
いくらでもあるぞ。お代わり自由じゃ。
ひと味欲しいと言うのならそこに、塩、ソース、醤油、タバスコ、マヨネーズ、マスタード、砂糖、蜂蜜、練乳等々調味料が並んでおる。
いくらでも飲め。どんどん飲め。遠慮せんでええ。今日はたまご祭りじゃからな。
おもてなしじゃ、おもてなしじゃ、与え殺すほどに与えて初めてO・MO・TE・NA・SIと呼べるのじゃ。
受くるより与うるは幸いなりと、リアルブルーの誰か偉い人も言ったそうではないか。
そうそう、向こうでゆで卵早食い大会やっておるぞ。
優勝者には商品が出る。
商品はもちろん卵じゃ。大籠にいっぱい進呈。それと、このわしのもこもこ極まる抱擁をプレゼント。一緒に記念写真もとれるそ。
どうした、顔色が悪いな。
もっと飲むがええ、生卵を(追加ジョッキをドン)。
それとも卵酒がいいか? ミルクセーキもあるぞよ。
リプレイ本文
●バイト模様
ペリニョン村新春たまご祭り救護班、のテントの中。
回復系の魔法が使えるということで当部署に配属されたものの迷子以外誰も来ず、一向にやることがないドゥアル(ka3746)が、欠伸している。
「……暇……」
うたた寝も飽きてきたので『こちらから救護を必要とする人を探しに行く』という口実を作り、テントから抜け出す。
そして屋台巡り。
まず食す。キッシュを食す。
次に食す。オムレツを食す。
さらに食す。エッグタルト、シュークリーム、エクレア、ハムエッグ、ベーコンエッグ……。
そこに妙なるソースの香り。
引かれてふらふら行ってみれば、着物姿の五行ヶ原 凛(ka6270)。
台上に畳。花入れに赤い椿の花一輪。
炉に茶釜、茶入れ、茶器、茶匙、水差し、建水、蓋置、茶筅、柄杓、茶巾――と型通りの東方茶道具一式を揃えている。
茶釜に入れてあるのは水でなく山盛りの卵。炉にかけているのは鉄板と言う作法破り。それというのも、提供するのが茶ではなくお好み焼きであるがため。
もちろんドゥアルは、のそのそ席にお邪魔した。
「皆様、本日はようこそお越しくださいました」
居並ぶお客に一礼した凜が、茶巾で茶碗の内外を回し拭く。それから、卵をひとつ割り入れる。
殻は建水にそっと置き、手首を手前に回しながら泡立てる。ひたすら泡立てる。
それを前以て用意した種の中に注ぎ入れ、また泡立てる。
柄杓ですくい鉄板の上に落としこみ、ほどよく焼けたら裏返し。ソース、かつぶし、マヨネーズ、青海苔、ショウガをあしらって完成。
「お粗末様ですが」
「……これはどうも……」
うっかり食べこぼし出来ないような雰囲気の中ではあるが、味は抜群。空気をたっぷり含んだ生地は軽く、口の中でとろけるよう。
ドゥアルは食す。寝ながら食す。
「……けっこうな……お手前で……お代わり……」
宵待 サクラ(ka5561)は卵の山を前に満面の笑み。
この卵はただの卵ではない。ヒビが入っておらず水に沈んだ優良品をより抜き、ゴム手袋、ブラシ、手作り漂白剤、並びに新鮮な井戸水を使い洗浄。その後軽く拭き、風で乾かすという大層な手間をかけた――卵かけご飯専用生卵なのである。
「TKG用生卵できたどー! 後はご飯にかけて醤油を混ぜて各人好きに佃煮や海苔やカツブシや葱や一味かけて完成だ~!」
感無量の雄叫びを上げるサクラ。
井戸水汲み上げを手伝っていたぴょこは、たれ耳を揺らし、しきりに首をかしげている。
『そこまで洗わにゃいかんもんかのう。どれも新鮮じゃぞ。どんなに古いものでも、一週間はたっておらんに』
「うん、そこは分かってるけど、厳選したいんだよね。なにしろこれが当地において初のTKGでしょ。最高の品を出したいんだ。日本人のTKGに対する情熱を甘くみんな! 卵の至高な食べ方は卵かけゴハン一択だ~!」
『さよか。まあ一仕事終わったのだから、喉が渇いたじゃろ。飲むがよいぞよ。遠慮せずにさあさあさあさあ』
ぐいぐい押し付けられてくる生卵ジョッキにサクラは、ちょっと怯んだ。半熟卵料理や卵液を二時間以上放置すればサルモネラ菌大繁殖。というリアルブルーの豆知識が頭をよぎる。
そこにタイミングよく、白樺 伊織(ka6695)がやって来た。
「サクラさん、何かお手伝いすることはありますか?」
「あ、うん、あるよあるよ、もちろんあるよ! これからいっぱいご飯炊かなくちゃいけないの。手伝って! いやー忙しい忙しい!」
と言いながらそそくさ逃げるサクラ。
ぴょこは愛想よく、伊織にジョッキを差し出した。
『ではおぬし、飲むがよいぞよ』
「なるほど……この辺りでは卵はジョッキで飲むのですね」
伊織、素直に受け取って、素直に飲む。
セルゲン(ka6612)は地面に大きな杭を打ち込んでいた。
卵大箱を左右の肩に3段重ねした無雲(ka6677)が、近づいてきて口尖らせる。
「セルゲン、姿が見えないと思ったら、こんなところで何やってんの。運搬の仕事はー?」
「ああ、それはちょっと中止だ。こっちを優先してやってくれという仰せをぴょこ殿からいただいてな」
「……誰なの、ぴょこって」
「英霊だ」
「英霊? そんなものこの辺にいたの?」
「ああ。かなり変わったお姿をされているが……」
リナリス・リーカノア(ka5126)が、ネコ車を押しつつやってきた。
「もこふわ拳闘大会会場の設営、進んでるー?」
「ああ。後はロープを張るばかりだ」
「そ、よかった。こっちもこの通り、パワースーツが完成したからね」
と言ってリナリスはネコ車から、赤いまるごとうさぎと青いまるごとうさぎを降ろした。
前者はリナリスが持ってきたもの、後者は凜が持ってきたもの。両うさぎとも綿を詰め縫い直してあり、モコモコに膨張している。
これで一体何をする気なのかと訝しむ無雲。
そんな彼女を離れたところから呼ぶ声――卵焼き店を引き受けているエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「無雲さん、早く追加の卵を持ってきてください」
透けるほど薄いドレスを着た彼女の周囲には、若年女性に目がない種類の男性客が集まり、控え目なあるいはぶしつけな視線を投げかけている。
リオンはその光景に怯むどころか、内心面白がっていた。さながら池の鯉にパン屑を撒いてやっている気分で。
そこに動くぬいぐるみが、ジョッキを山盛りに持ちやってくる。
『皆の衆楽しそうで何よりじゃな! ぴょこが来りておもてなしじゃ! 飲むがよい、天然由来生み立て100パーセントの卵を、魂消えるほど飲むがよい!』
逃げようとする大きなお兄さんたちを捕まえ生卵強制摂取。もてな死に勤しむ。
その姿に無雲の目は釘付け。
「……ぴょこ……何アレ……可愛い!!」
そこで、会場アナウンス。
『ゆで卵早食い大会が、まもなく始まります……参加を希望される方は……会場中央までお越しください…… 商品は大籠にいっぱいの卵……そしてぴょこのもこもこ抱擁……記念写真もとれます……』
●早食い大会
『それでは、春のたまご祭り、ゆで卵早食い大会を開催します。制限時間は10分。その間に可能な限り多く食べた人の勝ちです……』
開始のホイッスルが鳴らされた。
サクラ、リオン、ドゥアル、無雲、伊織は、その他多数の参加者と共に、山と積まれた剥きたて卵を掴む。
「……珍しい卵とかは……無いのでしょう……か……ドラゴンとか……」
ドゥアルはミネラルウォーターを片手に、高速吸い込み食い。
「昔の両親の訓練に比べれば、ゆで卵の早食いというのは楽ですね。しかし、ゲテモノ料理の早食い訓練は、遭難して食料が尽きた状況でも想定していたのでしょうか?」
リオンもネラルウォーターを片手に、次々卵を口に運ぶ。
「んぐっ……あー、危ない危ない」
一気に飲み込もうとし詰まらせた卵を、ぐいぐいどぶろくで流し込む無雲。
それらを前にサクラは、やや苦戦中。
「TKG一気なら負けないのにっ」
伊織は卵をちびちび齧りながら、そんな皆を気遣う。
「あまり急ぐと喉に詰めますよ? 大丈夫ですか?」
彼女はメンバーの中で唯一、『早食い大会』の趣旨が分かっていなかった。
●拳闘大会よっといで
『もこふわ拳闘大会』の前座として行われているボクササイズ『ぴょこられパンチ教室』。
受講者は主に女性と子供。講師は大会企画をしたリナリス。そしてぴょこ。音楽に併せて踊る踊る。
『よいかの、顎は重用じゃ。うまく入れば一発で沈められるでな』
「どんな大きな相手でも、急所は一緒だからね。打つべし! 打つべし!」
合間合間に等身大ワラ人形をパンチしている。単に運動だけでなく、護身術の要素もあるようだ。
それが行われている間にセルゲンは、観客のための椅子を並べ終えた。
(そういえば早食い競争はどうなってるんだろうな。無雲の奴張り切ってたが……)
ちょっと見に行ってみようかとしたところ、凜がやってきた。茶室一式荷車に乗せて――観客が集まる会場付近に設営し直し、もっとたくさんの人にお好み焼きを味わってもらうつもりなのだ。
「お一つどうぞ。ずっと設営準備してて、屋台回ってないよね?」
差し出されたお好み焼きをセルゲンは、感謝して受け取った。ちょうど腹も減っていたので。
「おお、ありがとうな」
草の上に腰掛け軽食を取り始めたところ、影が。
はっと振り仰げば、ぴょこ。
『食べるときには飲み物も要り用じゃろ。ほれ、遠慮なく飲むがええ』
生卵が縁まで溢れそうなジョッキに激しい胸焼けを喚起されるセルゲン。
背後に新たな気配。
振り向けば両手に生卵ジョッキを持った、猛烈に酒臭い無雲。
「無雲、お前なんでここに。早食い大会はどうした」
「それならもうすんだよ。優勝者はボク♪ 表彰式のために、ぴょこを呼びに来たんだ。それよりセルゲン、飲みなよ」
「飲み物なら持参した……と言うかそれは飲み物じゃない!」
「大丈夫大丈夫。飲めば強くなれるよ、セルゲン!」
『そうじゃ、飲むがええ。いくらでもおかわりはあるでな』
あれは最終的に飲まざるを得なくなるだろう。
思いながらサクラは、屋台を引いて脇を通り過ぎる。ご飯が尽きたのでTKGは打ち切り。これからホットエッグノットを広めにかかる所存。
続いてリオンも、卵焼きの屋台を引いてやってくる。
セルゲンにジョッキを渡し終えたぴょこが、凜のお座敷に飛び乗った。
『おぬしも卵ジョッキ、飲むがええ。無礼講じゃ』
「あ、ありがとうございます。いただきます」
躊躇なく生卵を飲む凜。
リナリスが脇から口を挟んだ。
「あ、ぴょこ、凜はミルクセーキも好きだから。キンキンに冷えたのが♪」
ちなみに早食い競争の順位は、1位無雲、2位リオン、3位ドゥアル、4位サクラ。マイペースな伊織は、トップ10にも入らなかった。
●拳闘大会始まるよ
早食い競争から戻ってきた伊織は、工作教室のお手伝い。
参加しているのは、主に村の子供たち。大人たちが催しに手を取られているので、無聊を慰めるため来ているのだ。
「ああー、割れちゃった……」
「上手に出来なくても、失敗しても大丈夫です。卵はたくさんありますから。もう一度最初から、一緒にやってみましょうね」
卵の上に小さな穴を開け、下にそれより少し大きな穴を開け中身を吹き出す。そうやって出来た殻の用途は様々だ。
溶かしたロウソクを流し込んでキャンドルにしたり、透かし彫りをしてロウソク立てにしたり、ビーズを張り付けて小さな宝石箱を作ってみたり。
今はただの遊びかもしれない。しかしこの試みががゆくゆく村の工芸品みたいになれば、と彼女は期待する。
失敗作品の山は砕いて、肥料に再利用するつもりだが……。
(……畑に撒くにはちょっと足りないですね。もう少し集めてきましょうか)
教室を年長の子供に任せ、各屋台から出る殻の回収に出掛ける伊織。
『もこふわ拳闘大会』の近くを通りがかったところで、サクラが呼び止めてくる。
「伊織さんも、ホットエッグノックどう?」
「あ、いただきます……いいお味ですね」
ほめられたサクラは、自慢げに解説する。
「うちは1人分卵1個に牛乳200cc、後は砂糖大匙2とバニラエッセンスとシナモンパウダーかなぁ。かっこつけたい時は、牛乳400にして卵黄身2白身1で残りの白身をメレンゲにするけど……面倒くさいし今日はいいよね?」
ブランデーの隠し味は後を引く。もう少し飲みたくなってきた。
見れば酒類はあるようだし、ちょっと作らせてもらおうか。スノーボールと、バタフタイ。
リング脇の席で、ぴょことリナリス実況中継。
『むむむ、ラビットパンチの応酬じゃの!』
『行けーボディだチンだ!』
リングの上ではうさぎの着ぐるみが殴り合っている……のだが、お互い10に10は空振りだ。自分の動きに足を取られきりきり舞いしたあげく、もつれあって一緒にリングから転げ落ちる。
青うさぎの中の人がうさぎの頭を外し、息を切らせて言った。
「なんだこれ、全然前が見えねーぞ!」
『顔の部分にも綿詰めちゃったからねえ。でもまあそこも面白さの一つと思って頑張って♪ 商品の卵&あたしとぴょこの熱烈ハグのために♪』
『今のは先に青が地面についたでな、青の負けじゃ。敗北と参加賞を抱きしめて立ち去るがよい。次の参加者、おらんかのー』
ぴょこの呼びかけに観客席から手を挙げるのは、無雲。
「はーい! それじゃ次はボクが行くよ!」
生卵ゆで卵どぶろく、凜の作ったお好み焼き、リオンの作った卵焼き、サクラの作ったホットエッグノック、等々あますことなく納めた腹を叩き、敗者から青うさぐるみを受け取る。
「あ、結構汗臭い」
などと言いながら完全装着。
「さあ、いっくぞー!」
勘で攻撃しまくりコーナーポストをへし折る。リングの床を踏み抜く。最終的に赤うさぎをむんずと捕まえ、場外に投げ飛ばし。
ナイスファイトに興奮したぴょこは実況役を返上し、急遽リングに殴り込み。
『最後はこのわしが相手じゃ! ゆくぞ、ぴょこ地獄車ー!』
青うさぎの四肢を自分の四肢で掴み、高速回転するぴょこ。
無雲の悲鳴が聞こえる。
「う゛お゛、ま゛っ、逆流す゛っ」
ホットエッグノックをすするセルゲンは、壮絶なリングの光景から目をそらした。
その先に、簡易茶室。自分でお好みを焼くドゥアル。
「あれ、凜はどこに行ったんだ?」
「……さあ……花摘みとか……言ってましたが……青黒い顔色で……」
隣の屋台で卵焼きを作るリオンが、こそっとセルゲンに教えた。
「アイスミルクセーキの飲み過ぎですよ。生卵も相当効いてたようですけど……」
そこに凜が戻ってきた。リナリスに肩を抱かれながら。
……いなくなる前と着物の柄が変わっている。
「うう……すいません……お手数おかけして……」
「もー、気にすることないない、ちょっとしたお漏らしなんて、誰にでもあることなんだから♪」
「……優しいんですねリナリスさん……」
「そうだよー。あたしすごく優しいんだー♪ 今晩うちに泊まってく?」
「はい、喜んで♪」
……なんだろう。雰囲気がおかしいような気がするが……。
そういえばリナリスは、いつから解説役の席を放擲していたのか。
そこがセルゲンにはどうしても思い出せなかった。
●お祭り終わって
ぴょこは祠の壁に、額入りの記念写真を飾る。早食い大会優勝者、無雲に贈呈されたのと一緒のものを。
それからリナリスに贈られた赤うさぎ、凜に贈られた青うさぎも飾る。
伊織が作ったたまごのキャンドルライトも置いてみる。
『むふ。どんどん記念品が増えるのう』
満足げに言って、ぴょこ、小躍り。ウサギのダンス。
『来年はもっと盛り上げてみせようぞー♪』
●蛇足
リナリスの家に泊まりに行った凜は,、翌朝すごいことをされたそうだ。
詳しくは言えないがすごいことをされたそうだ。
ペリニョン村新春たまご祭り救護班、のテントの中。
回復系の魔法が使えるということで当部署に配属されたものの迷子以外誰も来ず、一向にやることがないドゥアル(ka3746)が、欠伸している。
「……暇……」
うたた寝も飽きてきたので『こちらから救護を必要とする人を探しに行く』という口実を作り、テントから抜け出す。
そして屋台巡り。
まず食す。キッシュを食す。
次に食す。オムレツを食す。
さらに食す。エッグタルト、シュークリーム、エクレア、ハムエッグ、ベーコンエッグ……。
そこに妙なるソースの香り。
引かれてふらふら行ってみれば、着物姿の五行ヶ原 凛(ka6270)。
台上に畳。花入れに赤い椿の花一輪。
炉に茶釜、茶入れ、茶器、茶匙、水差し、建水、蓋置、茶筅、柄杓、茶巾――と型通りの東方茶道具一式を揃えている。
茶釜に入れてあるのは水でなく山盛りの卵。炉にかけているのは鉄板と言う作法破り。それというのも、提供するのが茶ではなくお好み焼きであるがため。
もちろんドゥアルは、のそのそ席にお邪魔した。
「皆様、本日はようこそお越しくださいました」
居並ぶお客に一礼した凜が、茶巾で茶碗の内外を回し拭く。それから、卵をひとつ割り入れる。
殻は建水にそっと置き、手首を手前に回しながら泡立てる。ひたすら泡立てる。
それを前以て用意した種の中に注ぎ入れ、また泡立てる。
柄杓ですくい鉄板の上に落としこみ、ほどよく焼けたら裏返し。ソース、かつぶし、マヨネーズ、青海苔、ショウガをあしらって完成。
「お粗末様ですが」
「……これはどうも……」
うっかり食べこぼし出来ないような雰囲気の中ではあるが、味は抜群。空気をたっぷり含んだ生地は軽く、口の中でとろけるよう。
ドゥアルは食す。寝ながら食す。
「……けっこうな……お手前で……お代わり……」
宵待 サクラ(ka5561)は卵の山を前に満面の笑み。
この卵はただの卵ではない。ヒビが入っておらず水に沈んだ優良品をより抜き、ゴム手袋、ブラシ、手作り漂白剤、並びに新鮮な井戸水を使い洗浄。その後軽く拭き、風で乾かすという大層な手間をかけた――卵かけご飯専用生卵なのである。
「TKG用生卵できたどー! 後はご飯にかけて醤油を混ぜて各人好きに佃煮や海苔やカツブシや葱や一味かけて完成だ~!」
感無量の雄叫びを上げるサクラ。
井戸水汲み上げを手伝っていたぴょこは、たれ耳を揺らし、しきりに首をかしげている。
『そこまで洗わにゃいかんもんかのう。どれも新鮮じゃぞ。どんなに古いものでも、一週間はたっておらんに』
「うん、そこは分かってるけど、厳選したいんだよね。なにしろこれが当地において初のTKGでしょ。最高の品を出したいんだ。日本人のTKGに対する情熱を甘くみんな! 卵の至高な食べ方は卵かけゴハン一択だ~!」
『さよか。まあ一仕事終わったのだから、喉が渇いたじゃろ。飲むがよいぞよ。遠慮せずにさあさあさあさあ』
ぐいぐい押し付けられてくる生卵ジョッキにサクラは、ちょっと怯んだ。半熟卵料理や卵液を二時間以上放置すればサルモネラ菌大繁殖。というリアルブルーの豆知識が頭をよぎる。
そこにタイミングよく、白樺 伊織(ka6695)がやって来た。
「サクラさん、何かお手伝いすることはありますか?」
「あ、うん、あるよあるよ、もちろんあるよ! これからいっぱいご飯炊かなくちゃいけないの。手伝って! いやー忙しい忙しい!」
と言いながらそそくさ逃げるサクラ。
ぴょこは愛想よく、伊織にジョッキを差し出した。
『ではおぬし、飲むがよいぞよ』
「なるほど……この辺りでは卵はジョッキで飲むのですね」
伊織、素直に受け取って、素直に飲む。
セルゲン(ka6612)は地面に大きな杭を打ち込んでいた。
卵大箱を左右の肩に3段重ねした無雲(ka6677)が、近づいてきて口尖らせる。
「セルゲン、姿が見えないと思ったら、こんなところで何やってんの。運搬の仕事はー?」
「ああ、それはちょっと中止だ。こっちを優先してやってくれという仰せをぴょこ殿からいただいてな」
「……誰なの、ぴょこって」
「英霊だ」
「英霊? そんなものこの辺にいたの?」
「ああ。かなり変わったお姿をされているが……」
リナリス・リーカノア(ka5126)が、ネコ車を押しつつやってきた。
「もこふわ拳闘大会会場の設営、進んでるー?」
「ああ。後はロープを張るばかりだ」
「そ、よかった。こっちもこの通り、パワースーツが完成したからね」
と言ってリナリスはネコ車から、赤いまるごとうさぎと青いまるごとうさぎを降ろした。
前者はリナリスが持ってきたもの、後者は凜が持ってきたもの。両うさぎとも綿を詰め縫い直してあり、モコモコに膨張している。
これで一体何をする気なのかと訝しむ無雲。
そんな彼女を離れたところから呼ぶ声――卵焼き店を引き受けているエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「無雲さん、早く追加の卵を持ってきてください」
透けるほど薄いドレスを着た彼女の周囲には、若年女性に目がない種類の男性客が集まり、控え目なあるいはぶしつけな視線を投げかけている。
リオンはその光景に怯むどころか、内心面白がっていた。さながら池の鯉にパン屑を撒いてやっている気分で。
そこに動くぬいぐるみが、ジョッキを山盛りに持ちやってくる。
『皆の衆楽しそうで何よりじゃな! ぴょこが来りておもてなしじゃ! 飲むがよい、天然由来生み立て100パーセントの卵を、魂消えるほど飲むがよい!』
逃げようとする大きなお兄さんたちを捕まえ生卵強制摂取。もてな死に勤しむ。
その姿に無雲の目は釘付け。
「……ぴょこ……何アレ……可愛い!!」
そこで、会場アナウンス。
『ゆで卵早食い大会が、まもなく始まります……参加を希望される方は……会場中央までお越しください…… 商品は大籠にいっぱいの卵……そしてぴょこのもこもこ抱擁……記念写真もとれます……』
●早食い大会
『それでは、春のたまご祭り、ゆで卵早食い大会を開催します。制限時間は10分。その間に可能な限り多く食べた人の勝ちです……』
開始のホイッスルが鳴らされた。
サクラ、リオン、ドゥアル、無雲、伊織は、その他多数の参加者と共に、山と積まれた剥きたて卵を掴む。
「……珍しい卵とかは……無いのでしょう……か……ドラゴンとか……」
ドゥアルはミネラルウォーターを片手に、高速吸い込み食い。
「昔の両親の訓練に比べれば、ゆで卵の早食いというのは楽ですね。しかし、ゲテモノ料理の早食い訓練は、遭難して食料が尽きた状況でも想定していたのでしょうか?」
リオンもネラルウォーターを片手に、次々卵を口に運ぶ。
「んぐっ……あー、危ない危ない」
一気に飲み込もうとし詰まらせた卵を、ぐいぐいどぶろくで流し込む無雲。
それらを前にサクラは、やや苦戦中。
「TKG一気なら負けないのにっ」
伊織は卵をちびちび齧りながら、そんな皆を気遣う。
「あまり急ぐと喉に詰めますよ? 大丈夫ですか?」
彼女はメンバーの中で唯一、『早食い大会』の趣旨が分かっていなかった。
●拳闘大会よっといで
『もこふわ拳闘大会』の前座として行われているボクササイズ『ぴょこられパンチ教室』。
受講者は主に女性と子供。講師は大会企画をしたリナリス。そしてぴょこ。音楽に併せて踊る踊る。
『よいかの、顎は重用じゃ。うまく入れば一発で沈められるでな』
「どんな大きな相手でも、急所は一緒だからね。打つべし! 打つべし!」
合間合間に等身大ワラ人形をパンチしている。単に運動だけでなく、護身術の要素もあるようだ。
それが行われている間にセルゲンは、観客のための椅子を並べ終えた。
(そういえば早食い競争はどうなってるんだろうな。無雲の奴張り切ってたが……)
ちょっと見に行ってみようかとしたところ、凜がやってきた。茶室一式荷車に乗せて――観客が集まる会場付近に設営し直し、もっとたくさんの人にお好み焼きを味わってもらうつもりなのだ。
「お一つどうぞ。ずっと設営準備してて、屋台回ってないよね?」
差し出されたお好み焼きをセルゲンは、感謝して受け取った。ちょうど腹も減っていたので。
「おお、ありがとうな」
草の上に腰掛け軽食を取り始めたところ、影が。
はっと振り仰げば、ぴょこ。
『食べるときには飲み物も要り用じゃろ。ほれ、遠慮なく飲むがええ』
生卵が縁まで溢れそうなジョッキに激しい胸焼けを喚起されるセルゲン。
背後に新たな気配。
振り向けば両手に生卵ジョッキを持った、猛烈に酒臭い無雲。
「無雲、お前なんでここに。早食い大会はどうした」
「それならもうすんだよ。優勝者はボク♪ 表彰式のために、ぴょこを呼びに来たんだ。それよりセルゲン、飲みなよ」
「飲み物なら持参した……と言うかそれは飲み物じゃない!」
「大丈夫大丈夫。飲めば強くなれるよ、セルゲン!」
『そうじゃ、飲むがええ。いくらでもおかわりはあるでな』
あれは最終的に飲まざるを得なくなるだろう。
思いながらサクラは、屋台を引いて脇を通り過ぎる。ご飯が尽きたのでTKGは打ち切り。これからホットエッグノットを広めにかかる所存。
続いてリオンも、卵焼きの屋台を引いてやってくる。
セルゲンにジョッキを渡し終えたぴょこが、凜のお座敷に飛び乗った。
『おぬしも卵ジョッキ、飲むがええ。無礼講じゃ』
「あ、ありがとうございます。いただきます」
躊躇なく生卵を飲む凜。
リナリスが脇から口を挟んだ。
「あ、ぴょこ、凜はミルクセーキも好きだから。キンキンに冷えたのが♪」
ちなみに早食い競争の順位は、1位無雲、2位リオン、3位ドゥアル、4位サクラ。マイペースな伊織は、トップ10にも入らなかった。
●拳闘大会始まるよ
早食い競争から戻ってきた伊織は、工作教室のお手伝い。
参加しているのは、主に村の子供たち。大人たちが催しに手を取られているので、無聊を慰めるため来ているのだ。
「ああー、割れちゃった……」
「上手に出来なくても、失敗しても大丈夫です。卵はたくさんありますから。もう一度最初から、一緒にやってみましょうね」
卵の上に小さな穴を開け、下にそれより少し大きな穴を開け中身を吹き出す。そうやって出来た殻の用途は様々だ。
溶かしたロウソクを流し込んでキャンドルにしたり、透かし彫りをしてロウソク立てにしたり、ビーズを張り付けて小さな宝石箱を作ってみたり。
今はただの遊びかもしれない。しかしこの試みががゆくゆく村の工芸品みたいになれば、と彼女は期待する。
失敗作品の山は砕いて、肥料に再利用するつもりだが……。
(……畑に撒くにはちょっと足りないですね。もう少し集めてきましょうか)
教室を年長の子供に任せ、各屋台から出る殻の回収に出掛ける伊織。
『もこふわ拳闘大会』の近くを通りがかったところで、サクラが呼び止めてくる。
「伊織さんも、ホットエッグノックどう?」
「あ、いただきます……いいお味ですね」
ほめられたサクラは、自慢げに解説する。
「うちは1人分卵1個に牛乳200cc、後は砂糖大匙2とバニラエッセンスとシナモンパウダーかなぁ。かっこつけたい時は、牛乳400にして卵黄身2白身1で残りの白身をメレンゲにするけど……面倒くさいし今日はいいよね?」
ブランデーの隠し味は後を引く。もう少し飲みたくなってきた。
見れば酒類はあるようだし、ちょっと作らせてもらおうか。スノーボールと、バタフタイ。
リング脇の席で、ぴょことリナリス実況中継。
『むむむ、ラビットパンチの応酬じゃの!』
『行けーボディだチンだ!』
リングの上ではうさぎの着ぐるみが殴り合っている……のだが、お互い10に10は空振りだ。自分の動きに足を取られきりきり舞いしたあげく、もつれあって一緒にリングから転げ落ちる。
青うさぎの中の人がうさぎの頭を外し、息を切らせて言った。
「なんだこれ、全然前が見えねーぞ!」
『顔の部分にも綿詰めちゃったからねえ。でもまあそこも面白さの一つと思って頑張って♪ 商品の卵&あたしとぴょこの熱烈ハグのために♪』
『今のは先に青が地面についたでな、青の負けじゃ。敗北と参加賞を抱きしめて立ち去るがよい。次の参加者、おらんかのー』
ぴょこの呼びかけに観客席から手を挙げるのは、無雲。
「はーい! それじゃ次はボクが行くよ!」
生卵ゆで卵どぶろく、凜の作ったお好み焼き、リオンの作った卵焼き、サクラの作ったホットエッグノック、等々あますことなく納めた腹を叩き、敗者から青うさぐるみを受け取る。
「あ、結構汗臭い」
などと言いながら完全装着。
「さあ、いっくぞー!」
勘で攻撃しまくりコーナーポストをへし折る。リングの床を踏み抜く。最終的に赤うさぎをむんずと捕まえ、場外に投げ飛ばし。
ナイスファイトに興奮したぴょこは実況役を返上し、急遽リングに殴り込み。
『最後はこのわしが相手じゃ! ゆくぞ、ぴょこ地獄車ー!』
青うさぎの四肢を自分の四肢で掴み、高速回転するぴょこ。
無雲の悲鳴が聞こえる。
「う゛お゛、ま゛っ、逆流す゛っ」
ホットエッグノックをすするセルゲンは、壮絶なリングの光景から目をそらした。
その先に、簡易茶室。自分でお好みを焼くドゥアル。
「あれ、凜はどこに行ったんだ?」
「……さあ……花摘みとか……言ってましたが……青黒い顔色で……」
隣の屋台で卵焼きを作るリオンが、こそっとセルゲンに教えた。
「アイスミルクセーキの飲み過ぎですよ。生卵も相当効いてたようですけど……」
そこに凜が戻ってきた。リナリスに肩を抱かれながら。
……いなくなる前と着物の柄が変わっている。
「うう……すいません……お手数おかけして……」
「もー、気にすることないない、ちょっとしたお漏らしなんて、誰にでもあることなんだから♪」
「……優しいんですねリナリスさん……」
「そうだよー。あたしすごく優しいんだー♪ 今晩うちに泊まってく?」
「はい、喜んで♪」
……なんだろう。雰囲気がおかしいような気がするが……。
そういえばリナリスは、いつから解説役の席を放擲していたのか。
そこがセルゲンにはどうしても思い出せなかった。
●お祭り終わって
ぴょこは祠の壁に、額入りの記念写真を飾る。早食い大会優勝者、無雲に贈呈されたのと一緒のものを。
それからリナリスに贈られた赤うさぎ、凜に贈られた青うさぎも飾る。
伊織が作ったたまごのキャンドルライトも置いてみる。
『むふ。どんどん記念品が増えるのう』
満足げに言って、ぴょこ、小躍り。ウサギのダンス。
『来年はもっと盛り上げてみせようぞー♪』
●蛇足
リナリスの家に泊まりに行った凜は,、翌朝すごいことをされたそうだ。
詳しくは言えないがすごいことをされたそうだ。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/15 20:03:34 |
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たまご料理食べ放題 無雲(ka6677) 鬼|18才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/01/16 23:20:29 |