ゲスト
(ka0000)
カフェに客をよびこもう!
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/12 12:00
- 完成日
- 2014/10/26 13:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
崖上都市『ピースホライズン』。
自由な雰囲気のこの都市では、年がら年中イベントだらけ。その中でも十月は、ひときわ町が騒がしくなる。
リアルブルーでもこの時期になれば浮き足立つ。……ハロウィンの季節なのだ。
●
そんな中、一軒のカフェがなにやら考えているようだった。
カフェの名前は『ギョーサンアン』、つい先日できたばかりの開店ほかほかである。
名前の由来は『ぎょうさん思いついて何ともしがたい』と思ったことからいっそのこと、とつけたあたりが少しテキトーじみてはいるが、逆に二つとないネーミングは結果として目を引くことになった。
店長は胸にネームプレートをつけている。そこには『佐藤(仮)』とあった。どうやら『(仮)』までが名前らしい。ちなみに見た目は凡庸な東洋系である。
「でも、ちょうどハロウィンどきにオープニングセールなんて、ナイスですね」
佐藤(仮)に話しかけているのは、たまたまピースホライズンに依頼の都合で訪れていた少女、トワ・トモエである。佐藤(仮)はかつてハンターで、トモエとは以前に依頼で遭遇したことのある関係だった。
「なんやおもろいことできへんかなぁておもたら、たまたまこの時期にぶつかってしもうただけなんやけどな。それにしても、確かに街はさながらどこぞのテーマパークみたいなことになっとるな」
佐藤(仮)は、少し訛りのきつい言葉遣いで、そんな風に言う。なるほど、そう思っても仕方がない。ピースホライズンという場所が、毎日が日曜日のような場所なのだから。そこがハロウィンと言うことでひときわ盛り上がっている訳なのだから――そりゃあ、盆と正月が一緒に来たくらいのものだ。
●
「でも、こんな時なら客も来るんじゃないんですか?」
トモエが問いかけると、「それがなぁ」と佐藤(仮)は小さく息をついた。
「逆やねんな。こういうときやから、ちょっとばかり宣伝してもぜーんぜん効果があらへん」
結果、まだ客入りはぽつぽつという程度。
「ふむ……ハロウィンでひと自体はこの街に集まってはいるけどねぇ」
トモエも考え込む。……が、そこでぱっと顔を輝かせた。
「そうだ。コスプレして宣伝したら、少し違うかも」
コスプレなら、トモエもリアルブルー時代に経験がないわけではない。そのときは漫画のキャラクターに似せるので精一杯だったけれど、こちらの世界では「リアルブルーの文化」が垣間見える服装こそがコスプレといえるかもしれない。それなら、トモエだっていろいろわかる。
「なるほど、客引きで目立とうってことやな。そういうことなら、正式に依頼としてソサエティに出してみよか?」
佐藤(仮)も、おもしろそうにうなずいた。
――佐藤(仮)は知るよしもなかった。
ハロウィン期間中、『ギョーサンアン』がメイド喫茶と化すという、依頼書にトモエの添えた追記のことを。
崖上都市『ピースホライズン』。
自由な雰囲気のこの都市では、年がら年中イベントだらけ。その中でも十月は、ひときわ町が騒がしくなる。
リアルブルーでもこの時期になれば浮き足立つ。……ハロウィンの季節なのだ。
●
そんな中、一軒のカフェがなにやら考えているようだった。
カフェの名前は『ギョーサンアン』、つい先日できたばかりの開店ほかほかである。
名前の由来は『ぎょうさん思いついて何ともしがたい』と思ったことからいっそのこと、とつけたあたりが少しテキトーじみてはいるが、逆に二つとないネーミングは結果として目を引くことになった。
店長は胸にネームプレートをつけている。そこには『佐藤(仮)』とあった。どうやら『(仮)』までが名前らしい。ちなみに見た目は凡庸な東洋系である。
「でも、ちょうどハロウィンどきにオープニングセールなんて、ナイスですね」
佐藤(仮)に話しかけているのは、たまたまピースホライズンに依頼の都合で訪れていた少女、トワ・トモエである。佐藤(仮)はかつてハンターで、トモエとは以前に依頼で遭遇したことのある関係だった。
「なんやおもろいことできへんかなぁておもたら、たまたまこの時期にぶつかってしもうただけなんやけどな。それにしても、確かに街はさながらどこぞのテーマパークみたいなことになっとるな」
佐藤(仮)は、少し訛りのきつい言葉遣いで、そんな風に言う。なるほど、そう思っても仕方がない。ピースホライズンという場所が、毎日が日曜日のような場所なのだから。そこがハロウィンと言うことでひときわ盛り上がっている訳なのだから――そりゃあ、盆と正月が一緒に来たくらいのものだ。
●
「でも、こんな時なら客も来るんじゃないんですか?」
トモエが問いかけると、「それがなぁ」と佐藤(仮)は小さく息をついた。
「逆やねんな。こういうときやから、ちょっとばかり宣伝してもぜーんぜん効果があらへん」
結果、まだ客入りはぽつぽつという程度。
「ふむ……ハロウィンでひと自体はこの街に集まってはいるけどねぇ」
トモエも考え込む。……が、そこでぱっと顔を輝かせた。
「そうだ。コスプレして宣伝したら、少し違うかも」
コスプレなら、トモエもリアルブルー時代に経験がないわけではない。そのときは漫画のキャラクターに似せるので精一杯だったけれど、こちらの世界では「リアルブルーの文化」が垣間見える服装こそがコスプレといえるかもしれない。それなら、トモエだっていろいろわかる。
「なるほど、客引きで目立とうってことやな。そういうことなら、正式に依頼としてソサエティに出してみよか?」
佐藤(仮)も、おもしろそうにうなずいた。
――佐藤(仮)は知るよしもなかった。
ハロウィン期間中、『ギョーサンアン』がメイド喫茶と化すという、依頼書にトモエの添えた追記のことを。
リプレイ本文
●
クリムゾンウェストに限ったことではないが、個性的な店舗というのは多く存在する。
たいていにおいてその個性というのは自分たちでそうしたいという意思の元に発生するものだが、このピースホライズンにある『ギョーサンアン』はそう言う意味ではどんな個性だったかというと、まだまだ出来たてで、これという特徴がなかった――いや、周囲に伝わってなかった。
と言うわけで(店主はあまり知らずに)『万節の時期限定メイド喫茶』なんて一計を案じたわけであるが。さて。
●
「おー、よぉきてくれたなぁ」
怪しげなアクセントでハンターたちに笑いかける店主、佐藤(仮)。そもそもこの人物が怪しげではあるのであるが、まあそんなことは気にしない。
「ところで、このギョーサンアン、ってのはリアルブルーの言葉なのか? ずいぶんと気の抜けた感じの響きなのだが」
そう首をひねるのは青い髪が美しいエルフの青年ヴィオレ・フロレスク(ka2245)、エルフの森を出てきたばかりの彼でもその異質な響きは微妙に感じるらしい。
「ああ、ギョーサンアンいうんは、リアルブルーの方言の一種をもじったもんやねん。名前が決まり切らんで、それならいっそ沢山案があるっちゅーのを名前にしてまえってなぁ」
あっけらかんと笑う店主に、思わずハンターたちも苦笑い。特にリアルブルー出身の岩波レイナ(ka3178)やクロード・オールドマン(ka0365)はその『方言』も理解できるせいか肩も震えている。
「それにしても、……ですか。依頼を受けたからにはがんばらないといけませんね。幸い、活用できそうなリアルブルーの知識も入手できましたし、うふふふ……」
妙なやる気を見せているのはエルバッハ・リオン(ka2434)。育ちのせいかなんなのか、妙に楽しそうだ。
「うん、今回はよろしくねみんな。ま、何とかなるっしょ」
そう笑ったのは依頼の提案者であるトワ・トモエ。リアルブルーの学生だった彼女からすると、メイド喫茶というものはそれほど珍しいものではないらしい。おそらくノリは学校のイベントで行われるそれとそう変わらないのだろう。……まあ、当たらずとも遠からずだが。
●
さて、カフェのアルバイトともなれば役割分担もいろいろと必要になる。
今回の場合ならば店舗の宣伝、そして店舗内での接客、更に厨房での手伝いなど。
ここでハンターたちがなにやら用意してきた服を取り出して着込む。しかしそれを見て、依頼書を任せきりにしていた佐藤(仮)は吹き出した。
そう、彼はここまで、本当にここまで、メイド喫茶というトモエの追記に気づいてなかったのだ。
なので、執事やメイドといった服装で揃えられたハンターたちにむしろあごを外した。そしてようやく依頼書を再確認してトモエを追いかけ――まあこれは別の話。
「……しかし、執事ってのはどういう話し方がいいんだろうかね。ギャップ狙いで訛りを混ぜてみるのもありか」
そんなことを考えているのはクロード。黒い執事服にぴっちりと身を包んでみると、鍛えられた体格もあって見栄えのよい感じになっている。
一方コスプレ喫茶、と言う単語がわかっていないものもいるわけで、その典型が天川 麗美(ka1355)である。
(リアルブルーにはいろんなお店があるのね……よくわかんないけど)
ゴシックドレスを身にまとい、トモエに服装がマッチしているかを確認してもらうと、フリルたっぷりの白いエプロンとやはり白いブリムを手渡された。これをつけるとメイド感アップと言うことらしい。メイド感ってどういうことかいまいち不明瞭だが。
「ああ、あとこんなのをメニューにしたらいいと思ったんです。ええと……わふー? 和風、だったかしら、そんなスイーツ」
スイーツ用の抹茶を見せて微笑むと、なるほどと頷くリアルブルー出身勢。
「メイド喫茶の手伝いって、私は今までしたことないが……看板とかを作るのはできるな」
そう手を動かしながら、ぶつぶつ呟くのはソレイル・ラ=ジャンティ(ka3083)に雇われているドワーフ少女ルゥルゥ・F=カマル(ka2994)。あり合わせの材料で手早く看板を作ってみせる。
「面白そうだよねぇ。ルゥちゃん、着色とかは任せて」
ソレイルは見た目は中性的だが礼儀正しいしっかりした少年。……ただ、ルゥルゥをつい(本人的にはやや不本意な)あだ名で呼んでしまうことがあるけれど。ついでにちょっといたずら好きで、
「ルゥちゃん呼ぶな。……で、そのメイド服を……着ろ? えっ、着なきゃだめ……か?」
ルゥルゥの服をわざと汚してあらかじめ用意していたメイド服に着替えさせようとしてみたり、妙に策士である。メイド服にわずかな抵抗を覚えるルゥルゥ、一方でソレイルはにこにこと楽しそう。ちなみに彼が着るのはしっかり執事服なあたりしっかりしているというかちゃっかりしているというか。
(うう……メイド服が似合わないとか言わないでよねっ! こ、これくらい着こなしてみせるんだからっ……でもそうね、ただのメイドじゃつまらないから、ねこみみとかあれば……)
一方、レイナは迷走していた。今回数少ない『リアルブルーのメイド喫茶』を理解できる人間なだけに、いっそう混乱しているのだろう。
結果、猫耳メイド、爆誕。
(……こ、この姿は流石にはずかし……くなんかないんだからっ)
そう思いつつも、すでにメイド服姿で闊歩しているトモエに質問する。
「メイド姿なら、ベタなメイド喫茶風がいいのかしら? 『お帰りなさいませ、ご主人様』みたいな……クリムゾンウェストの人、驚かない?」
「そうね……驚くかも知れないけど、リアルブルーの文化の一つだって銘打って宣伝すればいいんじゃないかな」
うん、確かにその通り。若干の誤解は招きかねないが、これはリアルブルーで言うところのポップカルチャー――やや誤解を招きそうな表現で言えばオタク文化なのだ。それを理解してもらおうという試みは、決して間違ったことではない――と思う。
実際、転移者の中には若者も多く、自然そういったイベントや文化にさとい人間も多いのだ。そう言う人たちがこの紅の世界でも布教したくなる気持ちは、痛いほどよくわかる。
地味なメイド服に身を包んでいるミネット・ベアール(ka3282)などはむしろ地方から奉公に来たという雰囲気たっぷりではあるが、メイド喫茶という異文化に胸を少し高鳴らせていたりもするのだ。……なぜか弓矢とナイフを携帯しているのが謎と言えば謎だが。
とにかく、見目という意味での仕度は調った。
さあ、これからが勝負なのだ。
●
「ギョーサンアンです。料理もおいしいですよ! よろしくお願いします!」
ミネットがそう言いながらビラ配りをする。その横で、ルゥルゥは先ほど作った看板を手に持ち、心なしか丈の短いメイド服でわずかに頬を染めつつ歩いている。
更にその横には――
エルバッハが、フレンチメイド姿で客引きをしていた。
フレンチメイド、というのは、メイド服の中でもずいぶんと露出度の高いものである。マイクロミニのスカートに、身体のラインがわかる生地。むろん人前であることは重々承知だが、それでもしょっ引かれないぎりぎりのラインであるあたり、ある意味「わかっている」と言うべきか。
そうやって町中を練り歩きながらビラ配りをし、手元からそれがなくなる頃には周囲もずいぶんと暗くなっていた。
その一方で。
ギョーサンアン店内で、接客や厨房を任されているメンバーたちはと言えば、開店前の最後の調整を行っていた。
すなわち、朗らかな挨拶である。
お店に人が来たときは『お帰りなさいませ』。
お店を立ち去る人がいた場合、『行ってらっしゃいませ』。
普通の店とは逆のこの呼び方は、メイド喫茶という空間が客にとっての憩いの場所であることを示す為の重要な言葉だ。だからこそ、間違えることのないように何度も何度も練習を繰り返す。
「じゃけんのう、こういうしゃべり方もギャップってやつじゃろ。わしゃぁ、このしゃべり方でいくけん」
そう言ったのはクロードである。生まれ故郷の訛り混じりのその言葉は、逆にどこかエキゾチックな雰囲気が漂った。
「それにしても……リアルブルーの衣装というのは、面白いな」
執事服に身を包んだヴィオレが眉間にわずかにしわを寄せながら呟く。見たことのないわけではないが、これを喫茶店のお仕着せにするというのは聞いたことがなかった。トモエによると、この服装も憩いの空間を演出する為に不可欠なのだという。よくわからないが、きっとそう言うものなのだろう。
さあ、翌日が開店である。
●
前日の宣伝効果が功を奏したのだろう。『メイド喫茶』という聞き慣れない店舗を一目見てみようという野次馬たちがやいのやいのとやってきた。
むろんいかがわしい店ではないという宣伝も添えてあるから、ここに来ているのは基本的には純粋なる好奇心の塊たちばかりだ。
「メイド喫茶って、メイドの格好をしてるってコトかな」
「女性はそうだろうが、男性はどうするんだ? 一人もいないというわけではあるまい」
「男もメイド姿なのかも知れないぜ」
そんな声がちらほらと聞こえてくる。と、そこを狙い澄ましたかのように、ソレイルが微笑みながら戸を開けた。中性的な容姿であるが、後ろで髪を緩く結び、清潔そうな執事服を綺麗に着こなしている。
「お帰りなさいませ、ご主人様。……ああ、言っときますけど、僕は男ですから」
爽やかな対応は堂に入ったものがある。経験はないのだろうが、かわいらしい笑顔というのは誰もを魅了するのだなとしみじみ実感させられた。
そして更に追い打ちをかけるように、
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
綺麗に頭を下げるハンターたち。野次馬たちは一瞬戸惑ったが、それでもその中の勇気ある男性がそのまま店内に入っていった。
「今はハロウィンの時期ですから、お菓子をいろいろ用意してみたんですよ。それこそリアルブルー風のものも」
麗美が自信を持って勧めるのは、抹茶をふんだんに使ったパンケーキなどのスイーツ。異国情緒漂う香りが、客の鼻をくすぐっていく。
「ご主人様、どうぞためらうことなくお入りください」
そう微笑むソレイルは、カウンターでコーヒーを用意している。これまた心地よい香りが鼻をくすぐって、気がつけば店内にはそれなりの人数が椅子に腰掛けていた。
「よおきたのう。席んほう、案内させてもらうわ」
そう言って笑うクロードの頼れる兄貴臭半端なく、結局皆カフェラテと抹茶入りパンケーキを頼んでいた。
ラテの方には、麗美ががんばって描いた動物――いわゆるラテアートが施されている。見よう見まねで行った為に出来はまだまだと言ったところだが、それでもかわいらしさあふれるイラストに、皆の心がどこかほっと温かくなった。
そしてまた、抹茶パンケーキのおいしいことと言ったら、今までに経験したことのない味と言って過言ではないであろう。抹茶というもの自体がこのクリムゾンウェストではそれほど知られていないものだし、更にそれをパンケーキに混ぜ込むことでほんのりと緑色をしたパンケーキができあがっているのだ。はじめこそふしぎな色合いと思えたが、食してみればなるほど、この色にふさわしい風味を備えたパンケーキなのだ。異境の味という物珍しさなどもあってか、人はそれからまもなくしてあっという間に増えていった。
また、ヴィオレは田舎風の素朴なスープを用意していた。季節柄、羽目を外したあげく暴飲暴食した客も少なくなかろうという発想ゆえである。料理も決して得意なわけではないが、なにぶん元々の性格の上にまだ故郷を出て間もないこともあって接客は更に苦手なのだ。まあ、この調子なれば無理に表に出ることもなかろう。
「あ、ルゥちゃんお疲れ様、さっきお菓子も作ってみたんだけど」
仕事もずっと続けているわけではない。ほどほどの休憩が必要だ。ルゥルゥにお茶とクッキーを差し入れてきたソレイルも、それは理解している。まあ、それがやや唐突な気がしなくはないのだが、好意はありがたく受け取ることにした。――が。
「お菓子食べたら……って、食べちゃったよね?」
きょとんとするルゥルゥに対し、にっこりと、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべるソレイル。彼はハロウィンのおきまりの台詞について説明する。
「だからね、」ソレイルは笑顔のまま言葉を続ける。……妙に、怖い。
「このお菓子食べたら、仮装してもらおうと思ってたんだけど、……食べちゃったんなら、やらなきゃねぇ?」
そう言いながら差し出したのは、悪魔と猫を掛け合わせたような、微妙にきわどい衣装。ハロウィン用なのだろう、黒とオレンジが可愛らしい。
「じょ、冗談だろう? いや……だってこれ、ほとんど布っきれじゃないか……」
しかしソレイルの顔は至極まじめで。結局、ルゥルゥは従わざるを得ない状況に陥ってしまったのだった。
「うん、よく似合ってる♪」
この言葉にうっかりだまされてしまったけれど。
レイナはねこみみメイドというニッチな方向性にぶっ飛んでしまっている。迷走したあげく、彼女は思わずこんなコトを口走った。
「そうだわ、佐藤(仮)も、コスプレしちゃえばいいのよ!」
ちなみにトモエはノリノリでコスプレしていたので、この言葉には不適切だったらしい。まあ、佐藤(仮)も結果としてノリノリで、なぜかリアルブルー風の聖職者の服装に身を包んでいたが。妙に似合っているのは、スキンヘッドのせいだろうか。
また、都会慣れをしていないミネットは客引きと称して出かけては小動物を捕まえてきて、厨房に持って行く。まるでかわいいペットを飼う前の少女といった風だが、実際はそれを食材として提供してしまうのだから、侮れない。
純粋な笑顔で
「おいしいですよっ」
と言われても、微妙な気分になってしまうわけだ。それを裁く厨房メンバーの顔も複雑ではあったけれど。
●
――なんてこともあったが、どうにかこうにか、依頼を完遂することはできたようで。
「お世話になりました」
ハンターたちも珍しい経験ができたことに感謝の礼を述べる。
「次は、客としてくる」
ヴィオレもこの空間を気に入ったらしい。ミネットも、貴重な都会の経験ができたと笑顔を振りまいた。……もっとも、ほかの仲間たちは野趣あふれるミネットの調達を思いだし、苦笑を浮かべるしかない。
当初心配していた売り上げも、目標額を達成することができた。これもひとえにハンターたちのおかげだと佐藤(仮)が笑う。
「うん、また来ぃや。次は普通の料理でぎょーさんもてなすさかい」
にっと笑う佐藤(仮)に、誰もが頷き、そして大声で笑い合った。
――『ギョーサンアン』は、みんなをいつでも歓迎しています。
クリムゾンウェストに限ったことではないが、個性的な店舗というのは多く存在する。
たいていにおいてその個性というのは自分たちでそうしたいという意思の元に発生するものだが、このピースホライズンにある『ギョーサンアン』はそう言う意味ではどんな個性だったかというと、まだまだ出来たてで、これという特徴がなかった――いや、周囲に伝わってなかった。
と言うわけで(店主はあまり知らずに)『万節の時期限定メイド喫茶』なんて一計を案じたわけであるが。さて。
●
「おー、よぉきてくれたなぁ」
怪しげなアクセントでハンターたちに笑いかける店主、佐藤(仮)。そもそもこの人物が怪しげではあるのであるが、まあそんなことは気にしない。
「ところで、このギョーサンアン、ってのはリアルブルーの言葉なのか? ずいぶんと気の抜けた感じの響きなのだが」
そう首をひねるのは青い髪が美しいエルフの青年ヴィオレ・フロレスク(ka2245)、エルフの森を出てきたばかりの彼でもその異質な響きは微妙に感じるらしい。
「ああ、ギョーサンアンいうんは、リアルブルーの方言の一種をもじったもんやねん。名前が決まり切らんで、それならいっそ沢山案があるっちゅーのを名前にしてまえってなぁ」
あっけらかんと笑う店主に、思わずハンターたちも苦笑い。特にリアルブルー出身の岩波レイナ(ka3178)やクロード・オールドマン(ka0365)はその『方言』も理解できるせいか肩も震えている。
「それにしても、……ですか。依頼を受けたからにはがんばらないといけませんね。幸い、活用できそうなリアルブルーの知識も入手できましたし、うふふふ……」
妙なやる気を見せているのはエルバッハ・リオン(ka2434)。育ちのせいかなんなのか、妙に楽しそうだ。
「うん、今回はよろしくねみんな。ま、何とかなるっしょ」
そう笑ったのは依頼の提案者であるトワ・トモエ。リアルブルーの学生だった彼女からすると、メイド喫茶というものはそれほど珍しいものではないらしい。おそらくノリは学校のイベントで行われるそれとそう変わらないのだろう。……まあ、当たらずとも遠からずだが。
●
さて、カフェのアルバイトともなれば役割分担もいろいろと必要になる。
今回の場合ならば店舗の宣伝、そして店舗内での接客、更に厨房での手伝いなど。
ここでハンターたちがなにやら用意してきた服を取り出して着込む。しかしそれを見て、依頼書を任せきりにしていた佐藤(仮)は吹き出した。
そう、彼はここまで、本当にここまで、メイド喫茶というトモエの追記に気づいてなかったのだ。
なので、執事やメイドといった服装で揃えられたハンターたちにむしろあごを外した。そしてようやく依頼書を再確認してトモエを追いかけ――まあこれは別の話。
「……しかし、執事ってのはどういう話し方がいいんだろうかね。ギャップ狙いで訛りを混ぜてみるのもありか」
そんなことを考えているのはクロード。黒い執事服にぴっちりと身を包んでみると、鍛えられた体格もあって見栄えのよい感じになっている。
一方コスプレ喫茶、と言う単語がわかっていないものもいるわけで、その典型が天川 麗美(ka1355)である。
(リアルブルーにはいろんなお店があるのね……よくわかんないけど)
ゴシックドレスを身にまとい、トモエに服装がマッチしているかを確認してもらうと、フリルたっぷりの白いエプロンとやはり白いブリムを手渡された。これをつけるとメイド感アップと言うことらしい。メイド感ってどういうことかいまいち不明瞭だが。
「ああ、あとこんなのをメニューにしたらいいと思ったんです。ええと……わふー? 和風、だったかしら、そんなスイーツ」
スイーツ用の抹茶を見せて微笑むと、なるほどと頷くリアルブルー出身勢。
「メイド喫茶の手伝いって、私は今までしたことないが……看板とかを作るのはできるな」
そう手を動かしながら、ぶつぶつ呟くのはソレイル・ラ=ジャンティ(ka3083)に雇われているドワーフ少女ルゥルゥ・F=カマル(ka2994)。あり合わせの材料で手早く看板を作ってみせる。
「面白そうだよねぇ。ルゥちゃん、着色とかは任せて」
ソレイルは見た目は中性的だが礼儀正しいしっかりした少年。……ただ、ルゥルゥをつい(本人的にはやや不本意な)あだ名で呼んでしまうことがあるけれど。ついでにちょっといたずら好きで、
「ルゥちゃん呼ぶな。……で、そのメイド服を……着ろ? えっ、着なきゃだめ……か?」
ルゥルゥの服をわざと汚してあらかじめ用意していたメイド服に着替えさせようとしてみたり、妙に策士である。メイド服にわずかな抵抗を覚えるルゥルゥ、一方でソレイルはにこにこと楽しそう。ちなみに彼が着るのはしっかり執事服なあたりしっかりしているというかちゃっかりしているというか。
(うう……メイド服が似合わないとか言わないでよねっ! こ、これくらい着こなしてみせるんだからっ……でもそうね、ただのメイドじゃつまらないから、ねこみみとかあれば……)
一方、レイナは迷走していた。今回数少ない『リアルブルーのメイド喫茶』を理解できる人間なだけに、いっそう混乱しているのだろう。
結果、猫耳メイド、爆誕。
(……こ、この姿は流石にはずかし……くなんかないんだからっ)
そう思いつつも、すでにメイド服姿で闊歩しているトモエに質問する。
「メイド姿なら、ベタなメイド喫茶風がいいのかしら? 『お帰りなさいませ、ご主人様』みたいな……クリムゾンウェストの人、驚かない?」
「そうね……驚くかも知れないけど、リアルブルーの文化の一つだって銘打って宣伝すればいいんじゃないかな」
うん、確かにその通り。若干の誤解は招きかねないが、これはリアルブルーで言うところのポップカルチャー――やや誤解を招きそうな表現で言えばオタク文化なのだ。それを理解してもらおうという試みは、決して間違ったことではない――と思う。
実際、転移者の中には若者も多く、自然そういったイベントや文化にさとい人間も多いのだ。そう言う人たちがこの紅の世界でも布教したくなる気持ちは、痛いほどよくわかる。
地味なメイド服に身を包んでいるミネット・ベアール(ka3282)などはむしろ地方から奉公に来たという雰囲気たっぷりではあるが、メイド喫茶という異文化に胸を少し高鳴らせていたりもするのだ。……なぜか弓矢とナイフを携帯しているのが謎と言えば謎だが。
とにかく、見目という意味での仕度は調った。
さあ、これからが勝負なのだ。
●
「ギョーサンアンです。料理もおいしいですよ! よろしくお願いします!」
ミネットがそう言いながらビラ配りをする。その横で、ルゥルゥは先ほど作った看板を手に持ち、心なしか丈の短いメイド服でわずかに頬を染めつつ歩いている。
更にその横には――
エルバッハが、フレンチメイド姿で客引きをしていた。
フレンチメイド、というのは、メイド服の中でもずいぶんと露出度の高いものである。マイクロミニのスカートに、身体のラインがわかる生地。むろん人前であることは重々承知だが、それでもしょっ引かれないぎりぎりのラインであるあたり、ある意味「わかっている」と言うべきか。
そうやって町中を練り歩きながらビラ配りをし、手元からそれがなくなる頃には周囲もずいぶんと暗くなっていた。
その一方で。
ギョーサンアン店内で、接客や厨房を任されているメンバーたちはと言えば、開店前の最後の調整を行っていた。
すなわち、朗らかな挨拶である。
お店に人が来たときは『お帰りなさいませ』。
お店を立ち去る人がいた場合、『行ってらっしゃいませ』。
普通の店とは逆のこの呼び方は、メイド喫茶という空間が客にとっての憩いの場所であることを示す為の重要な言葉だ。だからこそ、間違えることのないように何度も何度も練習を繰り返す。
「じゃけんのう、こういうしゃべり方もギャップってやつじゃろ。わしゃぁ、このしゃべり方でいくけん」
そう言ったのはクロードである。生まれ故郷の訛り混じりのその言葉は、逆にどこかエキゾチックな雰囲気が漂った。
「それにしても……リアルブルーの衣装というのは、面白いな」
執事服に身を包んだヴィオレが眉間にわずかにしわを寄せながら呟く。見たことのないわけではないが、これを喫茶店のお仕着せにするというのは聞いたことがなかった。トモエによると、この服装も憩いの空間を演出する為に不可欠なのだという。よくわからないが、きっとそう言うものなのだろう。
さあ、翌日が開店である。
●
前日の宣伝効果が功を奏したのだろう。『メイド喫茶』という聞き慣れない店舗を一目見てみようという野次馬たちがやいのやいのとやってきた。
むろんいかがわしい店ではないという宣伝も添えてあるから、ここに来ているのは基本的には純粋なる好奇心の塊たちばかりだ。
「メイド喫茶って、メイドの格好をしてるってコトかな」
「女性はそうだろうが、男性はどうするんだ? 一人もいないというわけではあるまい」
「男もメイド姿なのかも知れないぜ」
そんな声がちらほらと聞こえてくる。と、そこを狙い澄ましたかのように、ソレイルが微笑みながら戸を開けた。中性的な容姿であるが、後ろで髪を緩く結び、清潔そうな執事服を綺麗に着こなしている。
「お帰りなさいませ、ご主人様。……ああ、言っときますけど、僕は男ですから」
爽やかな対応は堂に入ったものがある。経験はないのだろうが、かわいらしい笑顔というのは誰もを魅了するのだなとしみじみ実感させられた。
そして更に追い打ちをかけるように、
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
綺麗に頭を下げるハンターたち。野次馬たちは一瞬戸惑ったが、それでもその中の勇気ある男性がそのまま店内に入っていった。
「今はハロウィンの時期ですから、お菓子をいろいろ用意してみたんですよ。それこそリアルブルー風のものも」
麗美が自信を持って勧めるのは、抹茶をふんだんに使ったパンケーキなどのスイーツ。異国情緒漂う香りが、客の鼻をくすぐっていく。
「ご主人様、どうぞためらうことなくお入りください」
そう微笑むソレイルは、カウンターでコーヒーを用意している。これまた心地よい香りが鼻をくすぐって、気がつけば店内にはそれなりの人数が椅子に腰掛けていた。
「よおきたのう。席んほう、案内させてもらうわ」
そう言って笑うクロードの頼れる兄貴臭半端なく、結局皆カフェラテと抹茶入りパンケーキを頼んでいた。
ラテの方には、麗美ががんばって描いた動物――いわゆるラテアートが施されている。見よう見まねで行った為に出来はまだまだと言ったところだが、それでもかわいらしさあふれるイラストに、皆の心がどこかほっと温かくなった。
そしてまた、抹茶パンケーキのおいしいことと言ったら、今までに経験したことのない味と言って過言ではないであろう。抹茶というもの自体がこのクリムゾンウェストではそれほど知られていないものだし、更にそれをパンケーキに混ぜ込むことでほんのりと緑色をしたパンケーキができあがっているのだ。はじめこそふしぎな色合いと思えたが、食してみればなるほど、この色にふさわしい風味を備えたパンケーキなのだ。異境の味という物珍しさなどもあってか、人はそれからまもなくしてあっという間に増えていった。
また、ヴィオレは田舎風の素朴なスープを用意していた。季節柄、羽目を外したあげく暴飲暴食した客も少なくなかろうという発想ゆえである。料理も決して得意なわけではないが、なにぶん元々の性格の上にまだ故郷を出て間もないこともあって接客は更に苦手なのだ。まあ、この調子なれば無理に表に出ることもなかろう。
「あ、ルゥちゃんお疲れ様、さっきお菓子も作ってみたんだけど」
仕事もずっと続けているわけではない。ほどほどの休憩が必要だ。ルゥルゥにお茶とクッキーを差し入れてきたソレイルも、それは理解している。まあ、それがやや唐突な気がしなくはないのだが、好意はありがたく受け取ることにした。――が。
「お菓子食べたら……って、食べちゃったよね?」
きょとんとするルゥルゥに対し、にっこりと、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべるソレイル。彼はハロウィンのおきまりの台詞について説明する。
「だからね、」ソレイルは笑顔のまま言葉を続ける。……妙に、怖い。
「このお菓子食べたら、仮装してもらおうと思ってたんだけど、……食べちゃったんなら、やらなきゃねぇ?」
そう言いながら差し出したのは、悪魔と猫を掛け合わせたような、微妙にきわどい衣装。ハロウィン用なのだろう、黒とオレンジが可愛らしい。
「じょ、冗談だろう? いや……だってこれ、ほとんど布っきれじゃないか……」
しかしソレイルの顔は至極まじめで。結局、ルゥルゥは従わざるを得ない状況に陥ってしまったのだった。
「うん、よく似合ってる♪」
この言葉にうっかりだまされてしまったけれど。
レイナはねこみみメイドというニッチな方向性にぶっ飛んでしまっている。迷走したあげく、彼女は思わずこんなコトを口走った。
「そうだわ、佐藤(仮)も、コスプレしちゃえばいいのよ!」
ちなみにトモエはノリノリでコスプレしていたので、この言葉には不適切だったらしい。まあ、佐藤(仮)も結果としてノリノリで、なぜかリアルブルー風の聖職者の服装に身を包んでいたが。妙に似合っているのは、スキンヘッドのせいだろうか。
また、都会慣れをしていないミネットは客引きと称して出かけては小動物を捕まえてきて、厨房に持って行く。まるでかわいいペットを飼う前の少女といった風だが、実際はそれを食材として提供してしまうのだから、侮れない。
純粋な笑顔で
「おいしいですよっ」
と言われても、微妙な気分になってしまうわけだ。それを裁く厨房メンバーの顔も複雑ではあったけれど。
●
――なんてこともあったが、どうにかこうにか、依頼を完遂することはできたようで。
「お世話になりました」
ハンターたちも珍しい経験ができたことに感謝の礼を述べる。
「次は、客としてくる」
ヴィオレもこの空間を気に入ったらしい。ミネットも、貴重な都会の経験ができたと笑顔を振りまいた。……もっとも、ほかの仲間たちは野趣あふれるミネットの調達を思いだし、苦笑を浮かべるしかない。
当初心配していた売り上げも、目標額を達成することができた。これもひとえにハンターたちのおかげだと佐藤(仮)が笑う。
「うん、また来ぃや。次は普通の料理でぎょーさんもてなすさかい」
にっと笑う佐藤(仮)に、誰もが頷き、そして大声で笑い合った。
――『ギョーサンアン』は、みんなをいつでも歓迎しています。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
カフェ控室(相談卓) 天川 麗美(ka1355) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/11 19:00:48 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/11 18:53:18 |