紅葉を血に染めてはいけません

マスター:秋月雅哉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/10/11 19:00
完成日
2014/10/12 01:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●怪談の季節はとうに過ぎましたよ、お客さん(雑魔)
 紅葉の名所で観光を楽しんでいる地元民や観光客の体を切り裂いていく何かがいる、と情報がハンターオフィスに寄せられた。
 どうやら鎌鼬のような力を持つ雑魔が原因とのこと。一見無差別に襲っているように見えてこの雑魔、肌の綺麗な女性しか狙わないという。
 肌の綺麗な女性を狙うのならば傷をつけるのではなく手入れでもしてやったらどうなんだ、と思わなくもない所業だが雑魔は基本的に狩る存在だ。被害が出ているのならばなおのこと。
 動きが素早いため動体視力に優れた者と、囮として肌の綺麗な女性、あるいは女性に見える工夫をした男性がいない場合この依頼の難易度は跳ね上がる。
 現れた雑魔を捕える工夫も何かしらしなければすぐに逃げられてしまうだろうことが予測される。
「注意点はこのくらいかな。雑魔自体は覚醒したての覚醒者でも人数集まれば安全に倒せると思うんだけどね。おびき寄せて捕獲するのは一苦労かも。一度戦闘になれば逃げだしたりはしないみたいだよ。……その情報と引き換えに一人の一般人が血まみれの重傷で医療施設に担ぎ込まれたけどね。彼女を傷つけられてカッとなって手出ししたけど雑魔の方が素早いこともあって有利だったみたい。だから弱いからって言ってあんまり油断しすぎないように気を付けて。
 風のように動くから動体視力があまりよくない人は砂とかが不自然に舞わないか注意してみれば不意打ちを防ぐ助けにはなるかもね。砂や落ち葉が不自然に動くってことは自然じゃない風の流れがあるってことだし」
 まぁ詳しくは相談して決めるといいよ。現場の連携の方が大事だろうしね。そういった後青年はおもむろに緑色の煙が立つ、深皿に盛られた【何か】を差し出した。
「湯気の動きで感知するっていうならこれ提供するけど。多く作りすぎて食べるの飽きたんだよね」
 異臭を放ち、緑の煙を上げるそれはどう控えめに見ても食べ物ではないがもはやいつものこととなりつつある。
「退治が済んだら観光でもしてくれば? 曲がりなりにも紅葉の名所で、今は秋だしね。食べ物の屋台も出てるみたいだよ」

リプレイ本文

●紅葉は紅葉の紅のままで
 紅葉舞い散る観光地。そこに出る鎌鼬のような雑魔が肌の綺麗な女性「だけ」を狙って凶行に及んでいるとハンターオフィスに連絡が届き、集まったのは男性三人、女性五人の覚醒者計八名だった。
 確実性を狙うなら数の多い女性の誰かに任せるのが無難なところだろう。が、何故か囮役を演じるのは無限 馨(ka0544)である。性別は紛うことなき男性。十九歳で体つきも長身で痩躯とはいえ男性のものとみるのが一般的。
 ではなぜ彼が女装して囮を引き受けることになったのか少し時間をさかのぼって辿ってみよう。
「女性に切りつけるとか許せないっすね! どうせ切るなら衣服にすればぽろ……げふんごふん。流石にそうなったら色々とまずいんで囮は俺がやるっすよ」
 目のやり場とか危険な目に合わせたこととか。義侠心と誰かが「平気だよ、自分がやるから」と止めてくれるだろう、という期待はあったかどうか。
 仲間たちの顔が面白そうな笑みに彩られていくのを見た瞬間、馨は全力で前言を撤回したくなったが後の祭りである。
(どうしてこうなったすか?)
 そう言いたいのは山々だが言いだしっぺは自分、責任感の強い馨は腹をくくってすね毛やらの処理を済ませ女性ものの衣服に身を包んだのだった。
「肌が綺麗じゃないと狙われないから」と好き勝手いう仲間が事前に手配したエステにまで連行されて体力はともかく精神的疲労というか精神的外傷はどんどん大きくなっていく。
「……っく、でもこれで女性の柔肌が狙われずに済むというなら! 犠牲になった甲斐もあるっす! 出てこい雑魔!」
 もう腹括ってやるっすよ!
 そう勢いよく宣言した後「……あ。現場は関係者以外立ち入り禁止でお願いしゃっす。色々と危険なんで!」と付け加えたのは周りに女性がいてそちらに流れたらという憂慮と、人目を減らしたいという羞恥心からの流れだろう。
 まとめている髪を解いてセーラー服を着用。セーラー服は水兵服。きっとそうに違いない。
 しかしここはどう頑張っても水兵が必要な海辺ではなく陸地であるという突っ込みはむごすぎるだろうか。
「狙いがピンポイント過ぎるわね……ほんと、悪意しか感じないわ」
 同伴者として馨と一緒に歩くエルティア・ホープナー(ka0727)はため息とともに言葉を吐き出した。
 馨を目立たせるために髪は三つ編み、露出は少なく。体のラインが隠れるように厚着気味。
 待機メンバーと一頻り馨の女装姿をからかって楽しんだ後にアルメイダ(ka2440)と三人で連れ立って歩く。
「あら、やるからにはしっかりしなくちゃ、ねぇ?」
「くすくす笑いながら言われてもからかわれてる感しかしないっす」
「からかってるのもあるけれど頑張って引きつけて貰わないと任務達成できないから頑張ってほしいのは本当よ?」
 楽しげなエルティアの言葉に馨ががっくりと肩を落とす。
 エルティアは精神的打撃を与えた後遊ぶように落ち葉を蹴りあげる。舞わせるようなその動作は風の動きを落ち葉の不自然な舞い上がり方から推測して鎌鼬の出現に備えたものだ。
「緋色の落ち葉……緋色の涙に変わらないことを願うわ」
「今回の雑魔の行動原理が良く分からんな……まあ雑魔自体が良く分からんが」
 アルメイダが持っているのは屋台で買った温かい飲み物。これもまた不自然な風の流れがないか確認するための物だ。
 エルティアとアルメイダは馨の護衛ということで彼の近くで紅葉を見るふりをしながらさりげなく周囲を警戒している。

 一方敵の出方を待って包囲をする予定の待機組はと言えば。
「全く、女性の柔肌を狙うなんて不埒な雑魔だなぁ。触って眺めて楽しむ程度にしておきなさい」
 触ったらそれはそれで別の問題が起きそうだがレイン・レーネリル(ka2887)にとっては大きな問題ではないらしい。
「それにしても、最後に男性にちょっかい出して退治されるなんてなかなか素敵な最期じゃない?」
 にんまり。その時彼女が浮かべた笑みはその表現が一番適切だっただろう。
 馨が女装仲間を増やそうとしたとき無駄にいい笑顔で「安心しろ、骨は拾ってやる」と馨に押し付けたジルボ(ka1732)は笑いをこらえるのに必死だ。
「うん。言いだしっぺだから仕方ないね。ん? お、俺はやんねーぞ!」
 自分の安全圏を確保しつつ敵が馨の正体に気づいた時の反応も込みで現状を楽しんでいる模様だった。
 ハンターオフィスで異臭を放っていた【何か】を青年の申し出を素直に受けて借りてきて風上から煙を炊いているのだが。
「ひでぇ匂いのせいで雑魔が出てこなかったらあの斡旋者のせいにしていいのかね?」
 外に置いて距離をある程度保っているのに周りには危険な匂いが立ち込めている。
「大体どうして食べ物から緑の煙が上がってるんですか。……食べてましたし、一応カテゴリ的には食べ物……なんですよね?」
 如月 鉄兵(ka1142)の胡乱げな疑問に答えられる人材は此処にはいない。食べたらお花畑が見えそうなシロモノを敢えて口にする勇者もいなかった。ほら、この後雑魔退治も待ってるし。
「……早く倒して屋台巡り、したい。……さっさと出てこない、かな。雑魔」
 姫凪 紫苑(ka0797)が潜伏しているのは紅葉の生い茂っている木の上。立体感覚で周囲の状況確認と警戒をしながら隠密で身を潜めている。
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)も少し離れた木の上で周囲を観察していた。
「女ばかり狙うたぁよっぽどヘンタイな雑魔だな。ちょちょいと捕まえてお仕置きと行くか。そのためにもまずはすばしっこい雑魔を見つけねぇことには始まらねぇな。
 囮役はサヤだったな。こんだけ女がいるってのにわざわざ女装するってんだから変な奴だぜ」
 ちなみに彼女は別れ際馨に向かって笑いを間に挟みながら「今のお前ならそこら辺の野郎共の十や二十はひっかけられるからよ!」と激励なのか追い打ちなのかわからない言葉をかけている。
「……しっかしあれだな。むしろ俺より可愛らしいんじゃねぇか?」
 それを素直に喜べる男子が何人いるか、となると果てしなく疑問ではあるがこれは褒め言葉、なのだろうか。
 そうして囮組と待機組が風の変化に目を凝らし続けてどれほどたっただろうか。
 ――風が、不自然に巻き上がった。
 地上待機組が囮組に駆け寄り、紫苑が背後を立つように樹上から舞い降りる。
 ボルディアは雑魔と思しき風の動きが十分近づいた瞬間を狙って上空から奇襲をかけた。
「オラ捕まえたぜこのヤロウ! 地上からの攻撃は避けられても意識の外の上空からの攻撃は、避けられねぇだろ?」
 首根っこを押さえるようにして組み伏せたのは確かに前肢が鎌状の鼬に似ているから「鎌鼬のような雑魔」なのだろう。
 鎌鼬を実際に見たことのある人間が何人いるかは疑問が残る点ではあるが鼬に鎌をつけたらこんな感じ、というイメージでつけられた名前なら認識としては間違ってはいない。
「……消えて。邪魔」
 マテリアルを使用することで通常より素早い動きで駆け寄った紫苑が奇襲を仕掛ける。
「…………そこ」
 敵の動きを点ではなく線で追いかけ、ランアウトと瞬脚を使用して常に死角から狙い撃つ。
 敵からの攻撃はマルチステップで回避し、カウンターを入れる余裕があるときは反撃も忘れない。
「……来ることがわかってるから。無駄」
 闘心昂揚で身体能力を向上させた後クラッシュブロウで祖霊の力を武器に込め、大きく振りぬくと鎌鼬もどきは甲高い悲鳴を上げた。
 素早い動きで攻撃に回ろうとする雑魔だが場所が紅葉の名所で、落ち葉が図らずしも目視できない動きを可視化してしまう。
 行動しようとするたびにジルボが撃つ威嚇射撃のせいもあり雑魔は思うように行動をとれずに苛立たしげな鳴き声が覚醒者たちの耳に届いた。
「当ててぇな~。でも嫌がらせも楽しいしな~」
 イイ性格、と言われそうなセリフを楽しげに口にしながら敵が狼狽する様子を見てウヒャヒャと笑うジルボ。どっちが悪役に見えるか、と聞かれたらジルボの方を差す人もいるかもしれない。
 まぁ、雑魔は害をなすものでありそれをできるだけ犠牲を払わずに倒すという目的にはジルボの行動はかなり貢献しているのだが。
 エルティアは戦闘が始まってからも暫く距離を置いて雑魔の行動の規則性と変則性を把握することに重点を置いていた。
 幾度目かの接近時に踏込と強打を使用して迎撃。それまで静観を保っていた相手からの攻撃のに雑魔が狼狽したところでアルメイダがエレクトリックショックを叩き込む。
 仲間を運動強化で支援しながらある程度場が整ったことを見定めたレインは行動を阻害されているうちに、と雑魔に機導砲を撃ちこんだ。
「無限さんの一世一代の変装を見せてもらったのにはお礼を言わないと駄目かもしれないけど、これ以上一般人に被害出されても困るしね。ここで、仕留めさせてもらうよ!」
「一世一代の変装とか言わないで! しかも間に笑い入ってるから面白がってるの丸分かりっすよ!」
 馨の悲鳴のような抗議の声もなんのその。ペースは完全に覚醒者たちが握っていた。
 ジルボの威嚇射撃とアルメイダのエレクトリックショックで行動妨害が綺麗にはまり、あとは袋叩き。
「女の子だと思った? 残念、サヤちゃん(♂)でした!」
 やけっぱちな響きのある宣言で太ももに固定してあったデリンジャーと短剣をスカートの中から取り出して雑魔に攻撃を仕掛ける馨。
 鎌鼬の目が恐怖というより驚愕で見開かれたのを見て何人かがこらえきれずに爆笑する。
「うへ~皆えぐいな」
 一番えぐいのは言った本人のジルボである気はしなくもないが雑魔は大した反撃をすることすらできずに息絶えたのだった。

●紅葉の紅は血に染まらないからこそ美しい
 体を張ってくれた囮班を労う意味で飯でもおごる、といったジルボにじゃあ折角だから全員で観光でも、という流れになり、屋台で好きなものを買って八人で紅葉狩りを楽しむ一同。
 屋台自体は少し離れた場所で営業していたし一般人は雑魔退治が終るまで立ち入り禁止、と事前に触れを出していたため今日は貸し切り状態だ。
 観光客もいつ終わるかわからない雑魔退治を待つよりほかの場所を回ることを優先したらしく辺りに人の姿はない。
「雑魔がいなくなったから安心して商売できるけど今日は商売あがったりだ」
 そう愚痴る屋台の店主たちからせめてもの詫びにとたくさん食料を買い込んで思い思いの時間を過ごす。
「あちこち歩いてるがココも中々だな。毎年同じ景色が見られるわけじゃあない。今を楽しまなきゃ損だぞ」
 毎年、どころか一日だってまるっきり同じ景色というものはない。一秒が過ぎればどこかの景色が変わる。
 そう考えるとめまぐるしく世界は動いているということなのかもしれない。
 鉄兵はその場で食べるもののほかに土産物の屋台も覗いたようで大量の収穫があったようだ。
「せっかくの紅葉が血でどす黒く染まるという悲劇はこれで避けられましたね。皆さんお疲れ様でした。……無限さんは、特に」
「ぷっくく……いや、ほんとうによく似合ってたぜ『サヤちゃん』! いっそそっちの道に進んだらどうよ?」
「全力でお断りっす!」
 物陰で着替えて今は普通に男性の格好をしている馨が律儀に反応したことでまた一頻り笑いが漏れる。
「まぁ囮で釣れてよかったわ。他の人にいかれてたら折角からだ張った無限も気の毒な思いをしたでしょうし」
「男だってネタばらしした時の雑魔の表情が見ものだったよな! 目ぇ見開いてて」
「皆からかいすぎっすよ! 女性の肌に一生残る傷でも残ったら大変だと思っての女装だったのに……!」
「……心意気は、皆わかってる。お疲れ様」
紫苑の慰めか、それとも事実をいった言葉か。それは馨に届いただろうか。
 からかわれてそのたびに律儀に反応して噛みつく馨と、そんな彼を見て笑うからかったメンバーのにぎやかな声。
 気づけばもう夕暮れ時で。暮れる日差しを受けて紅葉はさらに赤く染まる。
 その見事な景色に自然と場が静まった。
「……綺麗」
 呟いたのは、誰だったか。その場の全員の言葉をその一言が代弁していた。他に言葉は必要がなかった。
 綺麗なものはただそこにあるだけで綺麗なのだ。
 その景色を、それを見に来る人たちの安全を守れてよかった。
 そんな思いが胸に満ちる。
 はらはらと、紅葉が風に舞っていた。
「……燃えるような色合いだね。夕暮れ時の紅葉は見事なもんだ。ちと冷えるのが難点だけどさ」
 ジルボの言葉に誰もが頷き、暮れゆく太陽と紅葉を仰ぎ見て暫くその景色に見入ったのだった。
 花も緑も紅葉も、誰かのために咲き、誰かのために彩を添えるのではない。
 ただ生きるためにそこにあるのだ、と語っているような風景だった。
 明日からはまたここも賑やかな観光地として秋の楽しみを満喫する人で華やぐのだろう。
 誰かのために色づくのでなくても、それを愛でる人は確かにいるのだから。

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重体一覧

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 黒き殲滅者
    姫凪 紫苑(ka0797
    人間(蒼)|13才|女性|疾影士

  • 如月 鉄兵(ka1142
    人間(蒼)|25才|男性|霊闘士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 『機』に惹かれし森の民
    アルメイダ(ka2440
    エルフ|12才|女性|機導師
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レイン・ゼクシディア(ka2887
エルフ|16才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/10/11 17:05:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/07 17:48:43