ゲスト
(ka0000)
あったかお風呂に入るため
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/02/06 19:00
- 完成日
- 2017/02/12 23:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはジェオルジにあるこぢんまりした温泉郷。
郷にある宿は全て、温泉施設を備えている。湯の供給先は山中にある源泉。
その供給が昨日、ふっつり止まってしまった。
調べてみたらどの宿の設備にも問題はなかった。
しからば、山を通ってくるどこかでパイプが破損したに違いない。
そう見た温泉協会は、早速調査に赴いた。
そして源泉のパイプに、スライム型歪虚が詰まっているのを見つけた。これが湯をせき止めていたのだ。
勇敢な何人かが棒でつついて追い出そうとしたが、敵はかえって奥の方に入り込んでしまった。
それでもつついていたら今度は棒を搦め捕り、反撃してきた。
危うく捕まえられそうになった所ほうほうの態で逃げてきた一行は、至急ハンターオフィスに連絡した。
そして、ハンターが来た。
●
ハンターたちは、温泉郷の裏手にある山道を上っていた。
空は薄曇り。あたりには薄く雪が積もっており、空気が冷えている。
「素人が歪虚に手を出すなんて、危ないなあ」
「スライム程度ならなんとかなるんじゃないかって思っちゃうのも、分からないではないんですけどね」
山道の脇には、太いパイプが併設されている――というよりも、道がパイプに併設されているのだ。メンテナンスのために。
「そういえば源泉って、何度あるんでしたかね」
「確か摂氏70度とか言ってましたよ」
「へえー、温泉卵が作れそうだな」
「パンフレットによると……疲労回復、神経痛、リューマチ、腰痛、美肌効果に効果あり……」
「どこの温泉も似たような効能だな」
「そうでもないですよ。キャリアアップ、スキルアップ、金運アップ、恋愛運アップとかも書いてありますから」
「……そこまで来ると、どうにもうさん臭いな」
あれこれ話をしながらハンターたちは、源泉までたどり着いた。櫓が組まれた下に、もうもうと湯気が上がっている。
出口が詰まっているせいだろう、湯が地面の上に溢れだし、傾斜を伝って流れている。
それを避けながら近づき覗いてみれば、透明な湯の中に緑色の物体。
パイプの入り口を塞ぎ、ぶよぶよ揺れている。摂氏70度のただ中にいながら何のダメージも受けていないところを見ると、熱さに強く出来ているようだ。
●
温泉郷にある一宿。
『現在準備中』の札がかかる浴場の前。女エルフが番台に苦情申し立てている。
「ちょっと、いつになったら銭湯再開するのよ」
「あいすみませんお客様、ただ今ハンターが処理に向かいましたので、今しばらくお待ちくださいませ」
「そう、ならいいけど、とにかく早くしてよ」
彼女の名はマリー。
職業:ハンターオフィスジェオルジ支局職員。
ついぞ縁のない恋愛運を上昇させるため、この温泉郷にやってきた次第。
リプレイ本文
スライムは熱湯の中でぶよぶよ。
知性のあるタイプで無いと確認した獅子堂 灯(ka6710)は、幾らか緊張を解いた。なにしろこれが彼女にとって、ほとんど初の依頼。敵は与し易いに越したことは無い。
ヴァイス(ka0364)は地面に溢れ流れる湯を、大股でまたぎ越す。
「……しかし、何て言うか気持ちよさそうに塞いでいるな」
瀬陰(ka5599)はパイプ付近を見回っている美風(ka6309)、超級まりお(ka0824)、トリス・ラートリー(ka0813)に注意を促した。子を持つ父としての親心にかられて。
「女の子たちー、お湯で火傷しないよう気をつけるんだよー」
源泉の周辺は、木々が伐採されている。パイプのメンテナンスをする際、工作機械などが入りやすいようにするためだ。源泉に枯れ葉や小枝などが入ってこないようにするという意図も、あるかも知れないが。
だから、見通しはとてもいい。逆に言うと隠れる場所がない。
(どうやら、自分で遮蔽物を作るしか無さそうね)
そう結論づけた雁久良 霧依(ka6565)は、閏(ka5673)に声をかけた。
「閏さん、ちょっといいかしら?」
急に話しかけられた閏は、別に悪いこともしていないのに焦る。気が弱いたちなので。
「あ、はい、何でしょうか……」
そのとき一陣の北風が吹いた。翻る霧依の白衣。下にはビキニアーマーのみ。
驚きのあまり閏は、瞬きも忘れる。
「さ、寒くないですか霧依さん?」
霧依はふふ、と笑って髪をかきあげた。
「大丈夫、群馬の女は強いから寒くないわ♪ ところで枯れ枝を集めるのを、手伝っていただけないかしら?」
「あ、は、はい」
グンマとはいかなる部族であろうと思う閏は、彼女とともに、適当な枝を拾い始める。
●
周辺調査をし話し合った結果、パーティーの行動方針が固まった。
スライムをエサで釣る→源泉から外に出す→狩る。以上。
パイプに損傷を与えない。源泉を極力汚さない。この両立が図れる最良の作戦である。
誘導する先は伐採空間のただ中。木などに絡み付けないようにするためだ。
まず最初にやるべきは、エサの準備だ。
「任せて、僕、とっときのいい肉を持って来てるんだ!」
まりおは手持ちの肉塊を並べ、影殺剣でざくざく切り始める。
釣竿の準備をしていた灯は、それを少し分けてくれるよう頼んだ。当初は持参してきたチーズを使うつもりでいたのだが、ここに来て『チーズって、もしかして熱に弱かったんじゃないか?』という気がして来たのだ。
まりおはその頼みを、快く受け入れた。
「うん、いいよ。ちょっと待って――はい」
と言って、ぶつ切り肉を一つ投げ渡す。
受け取り礼を言う灯。
「ありがとう。ところでこれ、何の肉?」
「肉は肉だよ? 肉以外の何でもないじゃんね?」
ヴァイスはスライム誘導の最終地点に、大量の餌を撒いた。
ツナ缶、バラエティーランチ、チョコレート、ケーキ。ミイラの手(イカ)もある。
「これだけあれば、どれかには引っ掛かるだろ」
閏はその周囲を取り囲むように、おにぎりを並べる。ちゃんと下に笹の葉を敷いて。
目的を考えればそこまで丁寧にしなくていいような気はするが、彼のおにぎりに対する姿勢は妥協を許さない。
「お米が汚れてしまっては美味しさが無くなってしまいますからね」
美風はキャンディー、クッキー、マカロンを源泉のほとりに配置。
まりおはそこから肉のぶつ切りを誘導場所まで、道しるべのように置いて行く。食べて行くうちに奥へ行くという寸法だ。
太い源泉パイプの後ろ側では、トリスと瀬陰が大きな笊の縁に縄を結わえ付けている。
スライムが外におびき出せたら、再び入ってこられないよう、これでパイプの蓋をする――熱湯に直接手を入れるわけにはいかないので、投げ入れ綱を引き被せるという手法を取るつもり。
スライムが通って行くだろう道の両側には、霧依の手によって、人工の茂みが作り上げられた。急ごしらえの簡単なものだが、身を潜める役には十分立つ。
「こちら、準備が出来たわよー」
用意万端整った。
ヴァイスは、手をポンとたたき合わせる。
「さて、それじゃあ魚……スライムを上手く釣るとするか」
ハンターたちは、打ち合わせ通り位置につく。
パイプの後ろ側にトリスと瀬陰。
源泉の縁にまりおと灯。
右側の茂みに霧依とヴァイス。
左側の茂みに閏と美風。
ミッション開始。
灯は自分の姿がスライムから見えないよう(視覚があるか定かでないが)、限界まで竿を延ばし、離れたところから釣り糸を垂らす。
餌は、湯の中に入れない。水面上をゆらゆら動かすに留める。
「さぁ、こっちだよスライム君」
スライムは、なかなかかかってこなかった。
隣で見ていたまりおが言う。
「湯に浸けないと気づかないんじゃないの? 撒き餌しようか?」
「……うーん……あんまり源泉を汚したくないんだよねー」
「大丈夫大丈夫。スライムが食べればカスなんて残らないよ。排泄もしないわけだしさ」
灯を説き伏せたまりおは、ぶつ切り肉を1つ投げ込んだ。
スライムは、すぐさま反応を示した。みにょんと肉を取り込んでしまう。
続いて投げ込まれた分も、すかさず捕まえる。
どうやら外に何かあるらしいと悟ったか、体の一部が水面に出てきた。
そこに灯が釣り糸を垂らし、誘導。
つられて源泉のほとりまで来たスライムは、お菓子の気配に感づいた。
うにょうにょ蠢き、それらを取り込んで行く。
続けて肉とチーズがあったので移動。消化したところ、少し離れたところにまた肉があったので、移動。
敵がパイプから完全に離れるのを見計らい、トリスと瀬陰は、吸い込み口の封鎖に取り掛かった。
笊をゆっくり沈め、綱を引く。しかし沸き続ける湯の中、なかなか思うように動かせない。
灯は釣竿をその場に置き、封鎖作業の手伝いに入った。誘導はもう必要ないと判断して。
「次はトリスさんのお手伝いだ」
スライムは移動し続ける。
食べるのに夢中で、茂みに潜んでいる人間の気配などには、注意がいっていないらしい。
食料にたどり着くやぶわりと体を広げ、缶詰、ケーキ、おにぎり等を次々巻き込み、もごもごやり始める。
「なんだかゲームキャラに似てるね♪」
と面白がる霧依。
手間取っていたパイプの封鎖が終わった。瀬陰は手を挙げ、その旨を仲間に知らせる。
「よし、一気に片をつけるぞ!」
ヴァイスは茂みから走り出た。
スライムの正面に立ち塞がり、魔導符剣で刺し貫く。
同時に閏がスライムの後方へ地縛符を投げ付けた。後戻りするのを防ぐため。
「温泉の為にも討伐させて頂きますっ!……あっ、でもおにぎりはしっかり食べて頂いてありがとうございました」
わざわざ礼を言うあたり、彼のおにぎりに対する愛は本物である。
刺されたスライムは色を変え、大きく膨れ上がり、パチンと弾ける。
弾けた内の小さな欠片はそのまま消滅して行くが、ある程度大きな欠片は続行して動き、あたふた散って行く。
まりおはそんな欠片の一つを、蒼機剣で一刀両断。
「またつまらぬものを斬ってしまった……」
と一人ごちる間に、足元を通り抜けて行くもう1塊。
その前に瀬陰が立ちはだかる。
「ごめんね、此処は通せんぼだよ」
言うが早いか振り下ろされる調合金刀。
地縛符に引っ掛かった欠片目がけ、無慈悲に機導砲をぶっ放す霧依。
「あらあら、弱いのねぇ。なんだか攻撃するのが可哀想になっちゃうわ♪」
トリスは源泉の前に陣取り、湯に戻ろうとするものを見つけては、駆除していく。
「戻っちゃ駄目ですよ!」
灯も同様。スライムの前に仁王立ち。
「通りたければ、僕の屍を越えて行くがいいっ!」
槍で刺す、灯は斬る。
分裂したスライムも、たちまち消滅してしまった。
これでもう安心……とは思うが念のため。全員で手分けしてもう他に残っていないか、よく探してみる。
いないようなので、一件落着。
パイプから笊を外し、回収。
こぼれ出していた湯がすみやかに引いていくのを確かめ、パイプも点検。
ヴァイスは、ようやく人心地ついた。
「うん、どこにも損傷は無さそうだな」
今度こそ本当に一件落着である。
●
旅館の大浴場。女湯。脱衣所。
まりおは脱いだ服を籠に入れながら、灯と会話している。
「あー、ボクはこのまま普通の宿泊客として4、5日滞在するんで」
「へえ、そうなの」
「最近疲れる事ばっかりだからたまにはさー、温泉でゆっくりとしたいんだよねー」
美風はタオルの腰巻きひとつで屈伸運動をしている。
これから競泳でもするのかという意気込み。その視線の先には、温泉の効能書き。
「浸かるだけで強くなれそうです! 凄いです!」
そこに、話し声が聞こえてきた。霧依とトリスである。
「え? そっちは男湯? あらあらあら♪ 分かれているんですね」
「そうよー。巷には混浴がない所もあるの。無粋よねぇ」
「そうなんですか、一つ勉強になりました」
ガラガラと戸を開け、トリスと霧依が入ってくる。
前者は浴衣姿だが、後者は全裸。
脱衣場とは脱衣する場所。脱衣して入ってくる場所ではない……という突っ込みは無駄そうである。
●
旅館のお座敷。
座卓の上には、大量のおにぎりが積まれた盆。
「皆さんの分もしっかり作ってきましたので、宜しければどうぞ召し上がって下さいね」
ヴァイスと瀬陰は閏の勧めに応じ、湯気を立てる塩むすびに手を伸ばした。
「ありがとさん」
「ありがたく御馳走になるよ」
彼ら男性陣は、女性陣が戻ってきてから、改めて風呂へ入りに行く。
その際は彼女らにもこのおにぎりを、ゆっくり食べてもらう所存。
「瀬陰さん、いつもあの人がお世話になっております。……あまり良い物ではありませんがお家で皆さんで召し上がって下さい」
「おお、嫁や娘たちによい手土産が出来たな♪」
●
「あー……あったまるうー……」
まりおは湯船の縁に寄りかかり、目を細める。
その隣でトリスは、思いきり手足を伸ばす。
「ふぅ♪ 良いお湯です、ね。毎日入りたいです♪」
彼女は長い髪が湯に浸らないよう、結い上げタオルを巻いている。体には巻いていない。女しかいないので当然だ。
皆生まれたままの姿である。
灯は、どうにも落ち着かない。
(うぅ、やっぱり肌をさらすのは苦手です……)
男として育てられてしまったが故の微妙な倒錯心理により、こんな場にいると、本当にどぎまぎしてしまうのだ。
とはいえ、それを表面には出さない。
「ふぅ、いい湯だね」
なんて、すまし顔をしている。
霧依は初対面のマリーと親しくなり、世間話。
「――あら、そうすると貴女も効能目当て?」
「そうよ、全然出会いがないのよ……全く、これだから田舎は嫌なのよ! 就職面接のとき、第一希望も第二希望も第三希望もリゼリオって言ってたのに!」
「まあまあ、いい出会いがないのなら 原石を磨くのがいいわよ♪ 完成品が向こうからやってくるのを待ってるだけじゃダメよ♪ 外見にしろ内面にしろ、こっちが磨き上げていい男にしてあげるのよ♪」
「例えばどんな?」
「若い子や、女性に縁のなさそうな人とか、そういう人から見込みのありそうなのを見つけるのよ♪ 私は……そうねぇ、小っちゃい子が好みよ♪ 中でも幼――」
会話が盛り上がっている真っ最中であるが、ごぼごぼ変な音が聞こえた。
話を中断し振り向いてみれば、一番先に湯船に入っていた美風が、沈んで行くところであった。
「あらあら、大変」
急いで霧依が引っ張り上げるも、美風はのぼせたあまり、完全に目を回している。
キリよく入浴を切り上げた一同は彼女に服を着せ、座敷まで担いでいった。
●
ウチワであおいでやっていた瀬陰は手を止めた。ようやくのぼせの取れた美風が、起き上がってきたので。
「大丈夫かい?」
「はい、お手数おかけしました。ありがとうございます」
そこで、ぐうとお腹の鳴る音がした。恥ずかしさで赤くなる美月に、閏がすかさずおにぎりを差し出す。
「よかったらどうぞ。皆さんの分も、準備していましたので」
「あ、ありがとうございます!」
美月は、おにぎりをぱくぱく食べていく。
「閏さんのおにぎり美味しいです! 私が作るとどうしても固くなりすぎるのでこういうふんわりとしたのつくれるってとってもすごい事だと思います!」
この分ならもう大丈夫だ。思って瀬陰は席を立つ。
「それじゃ僕たちも、今からひと風呂浴びてきますから」
続き、ヴァイス、閏も場から抜けていく。
灯はおにぎり片手に牛乳を飲んだ。マリーと世間話をしながら。
「へー、ジェオルジ支局って3人で回してるんですか?」
「2人と1匹よ! 全く、妙なコボルドと彼氏持ちの男しか近くにいないって、うちの職場は本当に腐ってるわ!」
そこに霧依が、コンロと鍋を持ち込んでくる。
まりおが尋ねた。
「何作るの?」
「折角長葱があるんだから、葱鍋をね。もらうだけじゃ悪いでしょ? ヴァイスさんたちが戻ってきたら、一緒にお食事しましょ♪」
家事の得意なトリスはそれを聞いて、協力を申し出た。
「ボク、お手伝いしますよ」
「あら、有り難う♪」
美風も身を乗り出してきた。
「私は、温泉卵と卵焼きを作ります!」
●
「いやー、ありがとうさん」
閏から背中を流してもらったヴァイスは、首を鳴らして振り向いた。
「じゃあ、今度は俺が流そうか」
「え、いやそんな、お気になさらず」
「いいっていいって。ついでだからよ。さあ座った座った」
恐縮する閏であったが、最終的にヴァイスのお返しを受け入れた。
瀬陰はひと足お先に湯船に浸かり、温もりに身を委ねている。
「湯が心地よく染み渡るようだね」
体を洗い終わったヴァイスと閏も、湯船に入ってくる。
ヴァイスは湯で顔を洗い、大きく息を吐き出した。
「仕事の後の温泉は格別だな」
閏は角と角の間に、ちょこんと手ぬぐいを乗せた。
「そうですね……景色もいいですし」
遠目に見えるのは雪を被った山々。山間でふつふつ湯気を上げているのは、復旧した源泉だろうか。
「ああそうだ。閏君。今そこで温泉卵を作っているんだけど、出来たら貰ってくれるかい?」
「えっ、あ、はい。ありがたく戴きます、瀬陰さん」
●
ひと風呂すませた男衆が座敷に戻ってきたときには、すっかり宴会の準備が出来ていた。
ぐつぐつ煮えている葱鍋、ちょっと崩れ気味の卵焼き、そして温泉卵。
美月が瀬陰に言った。
「あれ、瀬陰さんも温泉卵ですか? 被っちゃいましたね-……」
「いや、これはお土産用に作っていた奴だから。美月殿のは、ここで食べる用の奴だよね? ちっとも被ってないから大丈夫だよ。じゃあ、皆で乾杯しようか。売店で地酒を買ってきたから」
瀬陰は人数分のコップを出し、酒を注いで行く――最年少の美風には、ごく少なめに。
8つ、いやマリー含め9つの声が重なった。
「「乾杯!」」
知性のあるタイプで無いと確認した獅子堂 灯(ka6710)は、幾らか緊張を解いた。なにしろこれが彼女にとって、ほとんど初の依頼。敵は与し易いに越したことは無い。
ヴァイス(ka0364)は地面に溢れ流れる湯を、大股でまたぎ越す。
「……しかし、何て言うか気持ちよさそうに塞いでいるな」
瀬陰(ka5599)はパイプ付近を見回っている美風(ka6309)、超級まりお(ka0824)、トリス・ラートリー(ka0813)に注意を促した。子を持つ父としての親心にかられて。
「女の子たちー、お湯で火傷しないよう気をつけるんだよー」
源泉の周辺は、木々が伐採されている。パイプのメンテナンスをする際、工作機械などが入りやすいようにするためだ。源泉に枯れ葉や小枝などが入ってこないようにするという意図も、あるかも知れないが。
だから、見通しはとてもいい。逆に言うと隠れる場所がない。
(どうやら、自分で遮蔽物を作るしか無さそうね)
そう結論づけた雁久良 霧依(ka6565)は、閏(ka5673)に声をかけた。
「閏さん、ちょっといいかしら?」
急に話しかけられた閏は、別に悪いこともしていないのに焦る。気が弱いたちなので。
「あ、はい、何でしょうか……」
そのとき一陣の北風が吹いた。翻る霧依の白衣。下にはビキニアーマーのみ。
驚きのあまり閏は、瞬きも忘れる。
「さ、寒くないですか霧依さん?」
霧依はふふ、と笑って髪をかきあげた。
「大丈夫、群馬の女は強いから寒くないわ♪ ところで枯れ枝を集めるのを、手伝っていただけないかしら?」
「あ、は、はい」
グンマとはいかなる部族であろうと思う閏は、彼女とともに、適当な枝を拾い始める。
●
周辺調査をし話し合った結果、パーティーの行動方針が固まった。
スライムをエサで釣る→源泉から外に出す→狩る。以上。
パイプに損傷を与えない。源泉を極力汚さない。この両立が図れる最良の作戦である。
誘導する先は伐採空間のただ中。木などに絡み付けないようにするためだ。
まず最初にやるべきは、エサの準備だ。
「任せて、僕、とっときのいい肉を持って来てるんだ!」
まりおは手持ちの肉塊を並べ、影殺剣でざくざく切り始める。
釣竿の準備をしていた灯は、それを少し分けてくれるよう頼んだ。当初は持参してきたチーズを使うつもりでいたのだが、ここに来て『チーズって、もしかして熱に弱かったんじゃないか?』という気がして来たのだ。
まりおはその頼みを、快く受け入れた。
「うん、いいよ。ちょっと待って――はい」
と言って、ぶつ切り肉を一つ投げ渡す。
受け取り礼を言う灯。
「ありがとう。ところでこれ、何の肉?」
「肉は肉だよ? 肉以外の何でもないじゃんね?」
ヴァイスはスライム誘導の最終地点に、大量の餌を撒いた。
ツナ缶、バラエティーランチ、チョコレート、ケーキ。ミイラの手(イカ)もある。
「これだけあれば、どれかには引っ掛かるだろ」
閏はその周囲を取り囲むように、おにぎりを並べる。ちゃんと下に笹の葉を敷いて。
目的を考えればそこまで丁寧にしなくていいような気はするが、彼のおにぎりに対する姿勢は妥協を許さない。
「お米が汚れてしまっては美味しさが無くなってしまいますからね」
美風はキャンディー、クッキー、マカロンを源泉のほとりに配置。
まりおはそこから肉のぶつ切りを誘導場所まで、道しるべのように置いて行く。食べて行くうちに奥へ行くという寸法だ。
太い源泉パイプの後ろ側では、トリスと瀬陰が大きな笊の縁に縄を結わえ付けている。
スライムが外におびき出せたら、再び入ってこられないよう、これでパイプの蓋をする――熱湯に直接手を入れるわけにはいかないので、投げ入れ綱を引き被せるという手法を取るつもり。
スライムが通って行くだろう道の両側には、霧依の手によって、人工の茂みが作り上げられた。急ごしらえの簡単なものだが、身を潜める役には十分立つ。
「こちら、準備が出来たわよー」
用意万端整った。
ヴァイスは、手をポンとたたき合わせる。
「さて、それじゃあ魚……スライムを上手く釣るとするか」
ハンターたちは、打ち合わせ通り位置につく。
パイプの後ろ側にトリスと瀬陰。
源泉の縁にまりおと灯。
右側の茂みに霧依とヴァイス。
左側の茂みに閏と美風。
ミッション開始。
灯は自分の姿がスライムから見えないよう(視覚があるか定かでないが)、限界まで竿を延ばし、離れたところから釣り糸を垂らす。
餌は、湯の中に入れない。水面上をゆらゆら動かすに留める。
「さぁ、こっちだよスライム君」
スライムは、なかなかかかってこなかった。
隣で見ていたまりおが言う。
「湯に浸けないと気づかないんじゃないの? 撒き餌しようか?」
「……うーん……あんまり源泉を汚したくないんだよねー」
「大丈夫大丈夫。スライムが食べればカスなんて残らないよ。排泄もしないわけだしさ」
灯を説き伏せたまりおは、ぶつ切り肉を1つ投げ込んだ。
スライムは、すぐさま反応を示した。みにょんと肉を取り込んでしまう。
続いて投げ込まれた分も、すかさず捕まえる。
どうやら外に何かあるらしいと悟ったか、体の一部が水面に出てきた。
そこに灯が釣り糸を垂らし、誘導。
つられて源泉のほとりまで来たスライムは、お菓子の気配に感づいた。
うにょうにょ蠢き、それらを取り込んで行く。
続けて肉とチーズがあったので移動。消化したところ、少し離れたところにまた肉があったので、移動。
敵がパイプから完全に離れるのを見計らい、トリスと瀬陰は、吸い込み口の封鎖に取り掛かった。
笊をゆっくり沈め、綱を引く。しかし沸き続ける湯の中、なかなか思うように動かせない。
灯は釣竿をその場に置き、封鎖作業の手伝いに入った。誘導はもう必要ないと判断して。
「次はトリスさんのお手伝いだ」
スライムは移動し続ける。
食べるのに夢中で、茂みに潜んでいる人間の気配などには、注意がいっていないらしい。
食料にたどり着くやぶわりと体を広げ、缶詰、ケーキ、おにぎり等を次々巻き込み、もごもごやり始める。
「なんだかゲームキャラに似てるね♪」
と面白がる霧依。
手間取っていたパイプの封鎖が終わった。瀬陰は手を挙げ、その旨を仲間に知らせる。
「よし、一気に片をつけるぞ!」
ヴァイスは茂みから走り出た。
スライムの正面に立ち塞がり、魔導符剣で刺し貫く。
同時に閏がスライムの後方へ地縛符を投げ付けた。後戻りするのを防ぐため。
「温泉の為にも討伐させて頂きますっ!……あっ、でもおにぎりはしっかり食べて頂いてありがとうございました」
わざわざ礼を言うあたり、彼のおにぎりに対する愛は本物である。
刺されたスライムは色を変え、大きく膨れ上がり、パチンと弾ける。
弾けた内の小さな欠片はそのまま消滅して行くが、ある程度大きな欠片は続行して動き、あたふた散って行く。
まりおはそんな欠片の一つを、蒼機剣で一刀両断。
「またつまらぬものを斬ってしまった……」
と一人ごちる間に、足元を通り抜けて行くもう1塊。
その前に瀬陰が立ちはだかる。
「ごめんね、此処は通せんぼだよ」
言うが早いか振り下ろされる調合金刀。
地縛符に引っ掛かった欠片目がけ、無慈悲に機導砲をぶっ放す霧依。
「あらあら、弱いのねぇ。なんだか攻撃するのが可哀想になっちゃうわ♪」
トリスは源泉の前に陣取り、湯に戻ろうとするものを見つけては、駆除していく。
「戻っちゃ駄目ですよ!」
灯も同様。スライムの前に仁王立ち。
「通りたければ、僕の屍を越えて行くがいいっ!」
槍で刺す、灯は斬る。
分裂したスライムも、たちまち消滅してしまった。
これでもう安心……とは思うが念のため。全員で手分けしてもう他に残っていないか、よく探してみる。
いないようなので、一件落着。
パイプから笊を外し、回収。
こぼれ出していた湯がすみやかに引いていくのを確かめ、パイプも点検。
ヴァイスは、ようやく人心地ついた。
「うん、どこにも損傷は無さそうだな」
今度こそ本当に一件落着である。
●
旅館の大浴場。女湯。脱衣所。
まりおは脱いだ服を籠に入れながら、灯と会話している。
「あー、ボクはこのまま普通の宿泊客として4、5日滞在するんで」
「へえ、そうなの」
「最近疲れる事ばっかりだからたまにはさー、温泉でゆっくりとしたいんだよねー」
美風はタオルの腰巻きひとつで屈伸運動をしている。
これから競泳でもするのかという意気込み。その視線の先には、温泉の効能書き。
「浸かるだけで強くなれそうです! 凄いです!」
そこに、話し声が聞こえてきた。霧依とトリスである。
「え? そっちは男湯? あらあらあら♪ 分かれているんですね」
「そうよー。巷には混浴がない所もあるの。無粋よねぇ」
「そうなんですか、一つ勉強になりました」
ガラガラと戸を開け、トリスと霧依が入ってくる。
前者は浴衣姿だが、後者は全裸。
脱衣場とは脱衣する場所。脱衣して入ってくる場所ではない……という突っ込みは無駄そうである。
●
旅館のお座敷。
座卓の上には、大量のおにぎりが積まれた盆。
「皆さんの分もしっかり作ってきましたので、宜しければどうぞ召し上がって下さいね」
ヴァイスと瀬陰は閏の勧めに応じ、湯気を立てる塩むすびに手を伸ばした。
「ありがとさん」
「ありがたく御馳走になるよ」
彼ら男性陣は、女性陣が戻ってきてから、改めて風呂へ入りに行く。
その際は彼女らにもこのおにぎりを、ゆっくり食べてもらう所存。
「瀬陰さん、いつもあの人がお世話になっております。……あまり良い物ではありませんがお家で皆さんで召し上がって下さい」
「おお、嫁や娘たちによい手土産が出来たな♪」
●
「あー……あったまるうー……」
まりおは湯船の縁に寄りかかり、目を細める。
その隣でトリスは、思いきり手足を伸ばす。
「ふぅ♪ 良いお湯です、ね。毎日入りたいです♪」
彼女は長い髪が湯に浸らないよう、結い上げタオルを巻いている。体には巻いていない。女しかいないので当然だ。
皆生まれたままの姿である。
灯は、どうにも落ち着かない。
(うぅ、やっぱり肌をさらすのは苦手です……)
男として育てられてしまったが故の微妙な倒錯心理により、こんな場にいると、本当にどぎまぎしてしまうのだ。
とはいえ、それを表面には出さない。
「ふぅ、いい湯だね」
なんて、すまし顔をしている。
霧依は初対面のマリーと親しくなり、世間話。
「――あら、そうすると貴女も効能目当て?」
「そうよ、全然出会いがないのよ……全く、これだから田舎は嫌なのよ! 就職面接のとき、第一希望も第二希望も第三希望もリゼリオって言ってたのに!」
「まあまあ、いい出会いがないのなら 原石を磨くのがいいわよ♪ 完成品が向こうからやってくるのを待ってるだけじゃダメよ♪ 外見にしろ内面にしろ、こっちが磨き上げていい男にしてあげるのよ♪」
「例えばどんな?」
「若い子や、女性に縁のなさそうな人とか、そういう人から見込みのありそうなのを見つけるのよ♪ 私は……そうねぇ、小っちゃい子が好みよ♪ 中でも幼――」
会話が盛り上がっている真っ最中であるが、ごぼごぼ変な音が聞こえた。
話を中断し振り向いてみれば、一番先に湯船に入っていた美風が、沈んで行くところであった。
「あらあら、大変」
急いで霧依が引っ張り上げるも、美風はのぼせたあまり、完全に目を回している。
キリよく入浴を切り上げた一同は彼女に服を着せ、座敷まで担いでいった。
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ウチワであおいでやっていた瀬陰は手を止めた。ようやくのぼせの取れた美風が、起き上がってきたので。
「大丈夫かい?」
「はい、お手数おかけしました。ありがとうございます」
そこで、ぐうとお腹の鳴る音がした。恥ずかしさで赤くなる美月に、閏がすかさずおにぎりを差し出す。
「よかったらどうぞ。皆さんの分も、準備していましたので」
「あ、ありがとうございます!」
美月は、おにぎりをぱくぱく食べていく。
「閏さんのおにぎり美味しいです! 私が作るとどうしても固くなりすぎるのでこういうふんわりとしたのつくれるってとってもすごい事だと思います!」
この分ならもう大丈夫だ。思って瀬陰は席を立つ。
「それじゃ僕たちも、今からひと風呂浴びてきますから」
続き、ヴァイス、閏も場から抜けていく。
灯はおにぎり片手に牛乳を飲んだ。マリーと世間話をしながら。
「へー、ジェオルジ支局って3人で回してるんですか?」
「2人と1匹よ! 全く、妙なコボルドと彼氏持ちの男しか近くにいないって、うちの職場は本当に腐ってるわ!」
そこに霧依が、コンロと鍋を持ち込んでくる。
まりおが尋ねた。
「何作るの?」
「折角長葱があるんだから、葱鍋をね。もらうだけじゃ悪いでしょ? ヴァイスさんたちが戻ってきたら、一緒にお食事しましょ♪」
家事の得意なトリスはそれを聞いて、協力を申し出た。
「ボク、お手伝いしますよ」
「あら、有り難う♪」
美風も身を乗り出してきた。
「私は、温泉卵と卵焼きを作ります!」
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「いやー、ありがとうさん」
閏から背中を流してもらったヴァイスは、首を鳴らして振り向いた。
「じゃあ、今度は俺が流そうか」
「え、いやそんな、お気になさらず」
「いいっていいって。ついでだからよ。さあ座った座った」
恐縮する閏であったが、最終的にヴァイスのお返しを受け入れた。
瀬陰はひと足お先に湯船に浸かり、温もりに身を委ねている。
「湯が心地よく染み渡るようだね」
体を洗い終わったヴァイスと閏も、湯船に入ってくる。
ヴァイスは湯で顔を洗い、大きく息を吐き出した。
「仕事の後の温泉は格別だな」
閏は角と角の間に、ちょこんと手ぬぐいを乗せた。
「そうですね……景色もいいですし」
遠目に見えるのは雪を被った山々。山間でふつふつ湯気を上げているのは、復旧した源泉だろうか。
「ああそうだ。閏君。今そこで温泉卵を作っているんだけど、出来たら貰ってくれるかい?」
「えっ、あ、はい。ありがたく戴きます、瀬陰さん」
●
ひと風呂すませた男衆が座敷に戻ってきたときには、すっかり宴会の準備が出来ていた。
ぐつぐつ煮えている葱鍋、ちょっと崩れ気味の卵焼き、そして温泉卵。
美月が瀬陰に言った。
「あれ、瀬陰さんも温泉卵ですか? 被っちゃいましたね-……」
「いや、これはお土産用に作っていた奴だから。美月殿のは、ここで食べる用の奴だよね? ちっとも被ってないから大丈夫だよ。じゃあ、皆で乾杯しようか。売店で地酒を買ってきたから」
瀬陰は人数分のコップを出し、酒を注いで行く――最年少の美風には、ごく少なめに。
8つ、いやマリー含め9つの声が重なった。
「「乾杯!」」
依頼結果
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相談卓 獅子堂 灯(ka6710) 人間(リアルブルー)|16才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/02/06 18:41:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/05 14:51:51 |