ゲスト
(ka0000)
ここにスライムが詰まっているんだ
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/10/12 07:30
- 完成日
- 2014/10/20 16:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
集まったハンターたちを前に、同盟軍報道官メリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、挨拶もそこそこに説明を始めた。
「今回のお願いは、かなり急ぎの件になります」
同盟軍報道官と言えば聞こえはいいが、各方面に顔が知られているのを便利に使われ、その実態は使いっぱしり状態。下っ端の辛いところである。
事件が起こったのは、蒸気工場都市フマーレにある工場だった。
工場に水を送る配管が詰まり、ほとんど水が来なくなってしまったというのが最初の出来事。
工場長は生産が止まることで出る損失に眩暈がしたが、気を取り直して技師に内部の点検を命じた。
その技師が危うく命を落としそうになるに至り、騒ぎは大きくなる。
「どうしたんだ、何があった!!」
命は長らえたものの、被害に遭った技師は全身びしょぬれでガタガタ震えている。
「中に、スライムがいたんです……! 近付いたら水が、水が……!!」
そいつは配管の中に居座り、潜り込んできた技師に向かっていきなり激しい水流を浴びせて来たのだ。
手に負えないと悟った工場長は、同盟陸軍に連絡を入れる。駆けつけた陸軍の小隊長は、配管を破壊してスライムを退治することを決めた。
それに工場長が猛反発したのだ。
「冗談じゃない!! 配管を直すのにどれだけ工場を止めなきゃいけないんだ!?」
「だがそれ以外に退治する方法はないんです。このままではずっと工場は動きませんよ」
押し問答の挙句、陸軍の小隊長は同盟軍本部に伺いを立てる。
結局回り回ってメリンダが現場に送られた。
「なるべく早く雑魔を退治し、かつ、配管の損傷はなるべく抑えて、ですね……」
流石にこういう条件となると、内部に入り雑魔に接近する必要があるだろう。
そう判断したメリンダは、ハンターたちの力を借りることにしたのだった。
「今回のお願いは、かなり急ぎの件になります」
同盟軍報道官と言えば聞こえはいいが、各方面に顔が知られているのを便利に使われ、その実態は使いっぱしり状態。下っ端の辛いところである。
事件が起こったのは、蒸気工場都市フマーレにある工場だった。
工場に水を送る配管が詰まり、ほとんど水が来なくなってしまったというのが最初の出来事。
工場長は生産が止まることで出る損失に眩暈がしたが、気を取り直して技師に内部の点検を命じた。
その技師が危うく命を落としそうになるに至り、騒ぎは大きくなる。
「どうしたんだ、何があった!!」
命は長らえたものの、被害に遭った技師は全身びしょぬれでガタガタ震えている。
「中に、スライムがいたんです……! 近付いたら水が、水が……!!」
そいつは配管の中に居座り、潜り込んできた技師に向かっていきなり激しい水流を浴びせて来たのだ。
手に負えないと悟った工場長は、同盟陸軍に連絡を入れる。駆けつけた陸軍の小隊長は、配管を破壊してスライムを退治することを決めた。
それに工場長が猛反発したのだ。
「冗談じゃない!! 配管を直すのにどれだけ工場を止めなきゃいけないんだ!?」
「だがそれ以外に退治する方法はないんです。このままではずっと工場は動きませんよ」
押し問答の挙句、陸軍の小隊長は同盟軍本部に伺いを立てる。
結局回り回ってメリンダが現場に送られた。
「なるべく早く雑魔を退治し、かつ、配管の損傷はなるべく抑えて、ですね……」
流石にこういう条件となると、内部に入り雑魔に接近する必要があるだろう。
そう判断したメリンダは、ハンターたちの力を借りることにしたのだった。
リプレイ本文
●
説明を聞き終え、エハウィイ・スゥ(ka0006)が気だるげに呟いた。
「スライムってアレだろ? イケメンとか美少女の服溶かしてエロ展開にしてくれる優良生物だろ?」
「はい?」
メリンダ・ドナーティ(kz0041)は何か聞き間違えたかと思いつつ、営業スマイルを向けた。
「私知ってるぜ、リアルブルーのうすいほんから教わったぜ……スライムって最高だなっ」
「………」
リアルブルーは魔窟だぜぇ。
メリンダがそう思ったかどうかは知らないが、ひとまずは目の前の出来事に専念することに決めたのは確かだ。
「ともかく、ご協力できることはお申し付けください。陸軍の部隊もおりますので」
海軍に比して同盟の陸軍は軍隊としての錬度は低いと看做されており、メリンダもそれは承知している。だからこそ多少なりとも経験を積んでもらいたいとの思いもあるようだ。
「助かります。ではまず手始めに、最初にスライムに遭遇した方のお話を伺いたいのですけれど」
アイ・シャ(ka2762)が穏やかな微笑で提案する。どう振る舞えば相手に希望通りの印象を与えられるのかを良く知っているのだ。
「あーそうそう。怖くて思い出したくないならムリには聞かないけどね。スライムがどーゆー事してきたのかはできれば聞いておきたいな」
エハウィイが無造作にかきあげた金髪は、手入れしていればさぞ美しいだろう。
続けてクルト・ハイネス(ka1056)が声を上げた。
「じゃあその間にこっちで調べておきたいことがあるんで。配管の図面か何かもらえねェか」
「分かりました、どちらもすぐに手配しますね」
メリンダが表情を引き締める。
地図を手に、クルトが配管に耳を当てる。空気が鳴る音がくぐもった調子で響いている。
「ま、普通の配管かね。壊さずに戦えっつぅのはなかなかに難しいかもな」
難しいと言いつつ、口元には不敵な微笑が浮かんでいる。多少のハンデがある方がゲームは愉しいものだ。
藤田 武(ka3286)はやや緊張の面持ちで、神妙に頷いた。
「下手に壊してしまっては、後々の影響が大きいそうですから。慎重に任務を遂行しましょう」
とはいえ、自分以外のメンバーにはいかにも歴戦の勇者然としている者が多い。せめて足を引っ張らないでいようと武は思う。
戦闘補助で現場を見て、少しでも戦いに慣れて、いつかは自分も胸を張って依頼を受けられるようにと。
「それにしてもスライムはどこから侵入してきたんだろうな……」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は長く伸びる配管の先を目を細めて見遣った。
「まさか点検口の蓋を開けた訳でもあるまい。何処かに穴でも開けたか?」
「かもしれねェな」
技師はショックで震えながらも、どうにか覚えている限りのことを語ってくれた。
分岐前の本管の内部に、恐らく複数がみっしりと詰まっていた事。こちらが近づくまで特に反応はなかったが、咄嗟に突き立てた調査用の機材の足はぐにょりとした反応と共に押し戻され、その直後に猛烈な水を浴びて吹き飛ばされた事。
「ツラがねェってのは前後も分かんねェのかね?」
技師は首を振った。例えるなら、プリンかゼリーのような姿らしい。
「怪我はしてない? だいじょぶ?」
エハウィイが尋ねると技師は少しびっくりしたような顔をしたが、すぐにほっとしたように表情を緩めた。
「有難うございます、幸か不幸か、敵とも思われなかったようですね」
「そか、じゃあ良かった」
この会話、余り他人と関わることのないエハウィイにしてみれば、物凄く頑張ったものである。
(ふっ、コミュ症の私がここまでやったんだから。あとは皆で頑張って私に楽させてよね)
後はスライムに頑張って貰って(?)結果を楽しむことを決めこんだ。
●
「と、そう思っていた時期が私にもありました」
普段に似合わぬ真面目な表情で、エハウィイは思わずそう呟いた。
止水栓側から上がったのはエハウィイとクルト、武である。止水栓が締まっているにもかかわらず、膝辺りまで水に浸かっている状態だ。
カンテラに照らされて水面が光る。そしてその先には……透明な壁。
「まさかね、いきなり遭遇するとは思わなかったよね」
エハウィイがぶつくさ文句を言っている間に、クルトが魔導短伝話で反対側に居るはずの仲間に発見位置を伝える。
「感度良好、けど敵も準備万端、かね」
今のところ動く様子はない。相手の動きに注意を払いつつも一定の距離を取り、もう一方の準備が整うのを待つ。
武は一番後方で止水栓を背後に守るように位置を定めた。
「戦力としては役に立てないかもしれませんので、せめてここだけは」
寄せた眉に強い決意が現れていた。
分岐点より下流側。ヴァージルは魔導短伝話を使いクルトに尋ねる。
「敵の侵入口は見つからないか?」
現時点では見つからないとの返答に、一旦通信を終える。
ヴィルナ・モンロー(ka1955)とメリンダが他の2か所の点検口を確認して戻って来た。
「おっしゃった通りに全て閉鎖して、それぞれを見張るように手配してきました」
アイ・シャは満足そうな笑顔を向ける。
「有難うございます。下流に分散されると厄介ですから。ではヴァージルさま、参りましょうか」
返事を待たずひらりとアイ・シャは配管内に消えた。盾を手に、ヴァージルも後を追う。
「おいおい、大丈夫か? 余り離れないようにしてくれよ」
「お気をつけて。無理はなさらないでくださいね!」
顔をのぞかせるメリンダに、ヴァージルは余裕の笑みを返す。
油断している訳ではない。だが海千山千の手練れの者、力を入れるべき場とそうでない場は心得ている。
「気をつけるとしよう。だがもし怪我したときは、つきっきりで看病をお願いするよ」
軽く片目をつぶってみせると、メリンダは無言のままで目を見張った。
アイ・シャはヴァージルが追い付くのを待っていた。心なしか雰囲気が先程よりも冷たいのは、内部が暗い為だけでもあるまい。
「急ぎますよ」
「ああ、取り敢えず分岐点は押さえよう」
僅かにたまった水を跳ねあげ、2人は同時に駆け出す。
●
水路の天井は低く、長身のヴァージルは少し身を屈めなければならない程だった。
やがて目の前が突然開けた。LEDライトの光で辺りを確認する。
「分岐点だな」
その間にもアイ・シャは駆け抜けて行く。
「空気の流れが感じられます。どこか外に通じているかもしれません」
内部に入ってからずっと籠っていた空気が僅かに変化していた。技師達が敵と遭遇した辺りだ。
「ここか」
ヴァージルが壁に空いた直径1m程の穴を照らした。ちょうど陰になっており外からは見えにくい場所だ。
技師達も驚いたろうが、敵も驚いて移動したと見える。まだ姿は見当たらない。
ヴァージルは魔導短伝話でそれらを報告した。
「壁を溶かして侵入したようだ。気をつけてくれよ、水鉄砲以外にも何か仕掛けてくるかも知れん」
「了解しました」
アイ・シャが端的に答えると、『瞬脚』の勢いで突っ込む。
そこには半透明の壁があった。
「相手が動かないうちに、確実に……!」
暗い配管内にアイ・シャの背に現れた薄翅の紫光が軌跡を描く。その光と僅かに受けて、刃が煌めいた。
『スラッシュエッジ』の一閃は、確実にスライムを貫いた。……はずだった。
「な……?」
アイ・シャが違和感に眉をひそめる。半透明な身体に刃は埋もれるようにめり込むと、握った手ごとあらぬ方へと放り出される。
その直後、激しい水流がアイ・シャを襲った。
「わ、っぷ……!!」
咄嗟に足に力を籠め、流されまいとアイ・シャは抗う。
「大丈夫か!」
ヴァージルが盾を構えながら手を掴む。スライムにここを抜かせる訳にはいかないのだ。
「大したことは、ありません」
すぐにアイ・シャはヴァージルの手を払い、自分の足で立ち上がった。
水撃はこちらの動きを制限するが、実際のダメージは軽い打ち身程度で済むようだ。ならば、押して行くまで。
スライムを挟んで上流側。エハウィイが嘆いた。
「やだよもう、何でヒキニートがこんなとこに来なきゃいけないのさ、ちくしょー!」
クルトが苦笑いで肩を叩いた。
「まあそう言うなって。どうやら奴には俺の剣はロクに通じ無さそうだからな。頼りにしてるぜェ」
「あぁもう、しょうがないなー。さっさと依頼終わらせてお家かえろ」
エハウィイはぶつぶつ文句を言いながらも、前に進む。
技師の言った通り、柔らかいスライムの身体は物理攻撃をいなしてしまうようだ。
(どっちか効くと良いけどねー)
魔法攻撃の得意なエハウィイがロッドを手に念じる。『シャドウブリット』の黒い影が飛び出し、スライムの身体にめり込んだ。
「お?」
一瞬、透明な壁に隙間ができた。
「効いてるようだな。どんどん行ってくれ」
「よーし、どんどんいくよー!」
ちょっと面白くなってきたようだ。エハウィイは次撃を撃ち込む。
だがこの攻撃にスライムが反応した。
透明な壁が崩れる。と見えて、4分割されたそれぞれが個別に動き始めたのだ。
下部の2体が動いたとき、武は足元を掬われるような感覚を覚えた。
「危ない、アイ・シャ様、チェンバレン様……!!」
スライムで堰き止められていた水が、勢いよく下流へ流れ出した。
●
武の声と同時にスライムが別れ、その隙間から水が溢れだしてくる。
「こっちだ、掴まれ!」
ヴァージルはアイ・シャに叫ぶと盾を構える。だがアイ・シャはヴァージルの差し出した手を掴むことなく、身を低くして流れに耐えていた。
この流れに乗ってスライムが後方に通り過ぎて行くのは何としても阻止しなければならない。逃がして他の箇所でまたこのような騒ぎを起こさせる訳にはいかないのだ。
やがて水流が治まると、スライム達の姿が個別に、はっきり見えるようになった。
全身びしょぬれになりながらも、アイ・シャは1体に向かって突進。
「逃がしません」
鋭い剣先の閃き、おぼろに闇を照らすアイ・シャの紫光。
(例え物理攻撃に耐性が高くとも、多少なりともダメージが与えられるなら……!)
効いているのかどうかすら疑わしくなるような、ぶよぶよの身体を剣で貫く。
「俺も負ける訳にはいかんな」
ヴァージルが僅かに肩をすくめ、すぐにアイ・シャに並ぶ。振り被った剣を思い切り突き立て、手前に引いた。スライムがその剣を引き離そうと僅かに移動し、その分だけ不定形の身体が伸びる。
「今だ、薄くなった部分を斬るんだ!」
「分かりました」
アイ・シャの細い身体が壁を蹴り、宙を舞うように降りて来る。剣の切っ先は正確に、スライムを切り裂いていた。
それまでつるつるしていたスライムの体表が見る見る萎びて行き、最後には霧のように消えて行く。
「やった……のですね」
「よし、続けて行こう」
息を整え、アイ・シャが力強く頷いた。
2体のスライムは、水を求めるように上流に移動する。立ち塞がる邪魔者には容赦なく水撃を浴びせて来た。
「ぶはっ!!」
僅かに後退りしながらも、エハウィイは受け止める。
本当は嫌だ。ものすごく嫌だ。でも失敗したらなんのためにここまで来たか判らない。依頼料を受け取るまでは帰れないのだ。
「一度下がってください!」
武がエハウィイを呼ぶ。一度回復させた方がいいように思えたからだ。
「エハウィイ、武の言うとおりだ。少しぐらいは稼いでおくぜ?」
クルトが力を籠めて踏込み、斬撃を叩き込む。
その間に武がエハウィイの傷を癒した。エハウィイ自身、癒しの術は使えるが、今は攻撃に専念する方が得策だと判断する。
「1対1では中々倒せない相手でも、多数対1を何度も繰り返せば、倒せるようになるはずですから! とにかく粘りましょう」
「あー、なるべく早く片付けたいけどねー。まぁそれしかなさそうだよね」
エハウィイは顔をしかめて、再び立ち上がる。戦っているクルトの背中に向かって声をかけた。
「タイミングを合わせて、ちょっと避けてもらえるかなー! いくよ、1、2の」
「「3」」
クルトが脇に避けるのと同時に、エハウィイのロッドから光弾が放たれた。スライムの身体が光に照らされ、ぶるっと震えるのが分かる。
充分届くはずの距離だが、スライムはその場から反撃してこなかった。
「もしかして弾切れか?」
クルトがそう察した通り、充分な水が無くなった時点で、水撃は尽きたのだ。
「それじゃ遠慮なく」
再び踏み込む一瞬、先刻のヴァージルの言葉が頭の隅を掠めた。だが迷うことなく刃を振るう。
「こっちも弾切れだよー、残念」
エハウィイはそう言うと、ロッドを振り被って思い切り敵を殴りつける。
その時だった。滑らかだったスライムの体表が僅かに歪み、小さな穴が開いたかと思うと、そこから僅かな量の液体が飛び出したのだ。
「わっ、何これ……!」
慌てて飛びのいたエハウィイの足元で、何かが焼けるような微かな音がする。
「酸、か」
クルトが呻く。
「下手をすれば壁を溶かして逃げるかもしれません」
武の言う通りだった。ますますのんびりはしていられない。
「1体に集中しよう。武、もう1体は暫く抑えてくれ」
「分かりました、やってみます」
正直なところ自信はない。だが武が避ければ背後の止水栓が危ないのだ。身体を張ってでも喰い止めようと心に誓う。
それはとても長い時間にも思えたし、あっという間だったような気もする。
スライムは物理攻撃に耐性があったが、全く効かない訳ではない。
常に複数で、途切れることなく攻撃を仕掛けて来るハンター達相手に、逃げるタイミングを失い、ついには4体全てが排水管の中で霧散していったのだった。
●
大きく息をついたアイ・シャが、すぐに顔を上げる。
「何も残さないよう点検してから出ましょう。すぐにでも依頼人は水を使いたいはずですから」
提案に頷き、全員がそれぞれライトで足元や壁を照らす。
配管に耳をつけて仲の様子を窺っていたメリンダは、それらの声にほっと息をついた。
「良かった、皆さん無事ですね!」
急いで点検口を開く。
「……きゃ……!?」
「念のために一度、ここの水は全部抜いた方がいいかもしれませんわね……あら、大丈夫ですか?」
アイ・シャが顔を出すと、メリンダが頭からずぶぬれになっていた。
「あ、お疲れ様、でした! 上手くいったようですね」
明るい日の下でよく見れば、皆がずぶぬれだった。ガタイの良いお兄さんも、ナイスバディのお姉さんも、儚げな美少女も……。
(スライム、グッジョブ)
エハウィイは気だるげな瞳のまま、その光景を密かに堪能した。
内部で何が起きていたか。武はその詳細を報告書にまとめてメリンダに送った。
この経験が自分の、そして誰かの役に立つように。丁寧な資料にはその願いが籠っていた。
<了>
説明を聞き終え、エハウィイ・スゥ(ka0006)が気だるげに呟いた。
「スライムってアレだろ? イケメンとか美少女の服溶かしてエロ展開にしてくれる優良生物だろ?」
「はい?」
メリンダ・ドナーティ(kz0041)は何か聞き間違えたかと思いつつ、営業スマイルを向けた。
「私知ってるぜ、リアルブルーのうすいほんから教わったぜ……スライムって最高だなっ」
「………」
リアルブルーは魔窟だぜぇ。
メリンダがそう思ったかどうかは知らないが、ひとまずは目の前の出来事に専念することに決めたのは確かだ。
「ともかく、ご協力できることはお申し付けください。陸軍の部隊もおりますので」
海軍に比して同盟の陸軍は軍隊としての錬度は低いと看做されており、メリンダもそれは承知している。だからこそ多少なりとも経験を積んでもらいたいとの思いもあるようだ。
「助かります。ではまず手始めに、最初にスライムに遭遇した方のお話を伺いたいのですけれど」
アイ・シャ(ka2762)が穏やかな微笑で提案する。どう振る舞えば相手に希望通りの印象を与えられるのかを良く知っているのだ。
「あーそうそう。怖くて思い出したくないならムリには聞かないけどね。スライムがどーゆー事してきたのかはできれば聞いておきたいな」
エハウィイが無造作にかきあげた金髪は、手入れしていればさぞ美しいだろう。
続けてクルト・ハイネス(ka1056)が声を上げた。
「じゃあその間にこっちで調べておきたいことがあるんで。配管の図面か何かもらえねェか」
「分かりました、どちらもすぐに手配しますね」
メリンダが表情を引き締める。
地図を手に、クルトが配管に耳を当てる。空気が鳴る音がくぐもった調子で響いている。
「ま、普通の配管かね。壊さずに戦えっつぅのはなかなかに難しいかもな」
難しいと言いつつ、口元には不敵な微笑が浮かんでいる。多少のハンデがある方がゲームは愉しいものだ。
藤田 武(ka3286)はやや緊張の面持ちで、神妙に頷いた。
「下手に壊してしまっては、後々の影響が大きいそうですから。慎重に任務を遂行しましょう」
とはいえ、自分以外のメンバーにはいかにも歴戦の勇者然としている者が多い。せめて足を引っ張らないでいようと武は思う。
戦闘補助で現場を見て、少しでも戦いに慣れて、いつかは自分も胸を張って依頼を受けられるようにと。
「それにしてもスライムはどこから侵入してきたんだろうな……」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は長く伸びる配管の先を目を細めて見遣った。
「まさか点検口の蓋を開けた訳でもあるまい。何処かに穴でも開けたか?」
「かもしれねェな」
技師はショックで震えながらも、どうにか覚えている限りのことを語ってくれた。
分岐前の本管の内部に、恐らく複数がみっしりと詰まっていた事。こちらが近づくまで特に反応はなかったが、咄嗟に突き立てた調査用の機材の足はぐにょりとした反応と共に押し戻され、その直後に猛烈な水を浴びて吹き飛ばされた事。
「ツラがねェってのは前後も分かんねェのかね?」
技師は首を振った。例えるなら、プリンかゼリーのような姿らしい。
「怪我はしてない? だいじょぶ?」
エハウィイが尋ねると技師は少しびっくりしたような顔をしたが、すぐにほっとしたように表情を緩めた。
「有難うございます、幸か不幸か、敵とも思われなかったようですね」
「そか、じゃあ良かった」
この会話、余り他人と関わることのないエハウィイにしてみれば、物凄く頑張ったものである。
(ふっ、コミュ症の私がここまでやったんだから。あとは皆で頑張って私に楽させてよね)
後はスライムに頑張って貰って(?)結果を楽しむことを決めこんだ。
●
「と、そう思っていた時期が私にもありました」
普段に似合わぬ真面目な表情で、エハウィイは思わずそう呟いた。
止水栓側から上がったのはエハウィイとクルト、武である。止水栓が締まっているにもかかわらず、膝辺りまで水に浸かっている状態だ。
カンテラに照らされて水面が光る。そしてその先には……透明な壁。
「まさかね、いきなり遭遇するとは思わなかったよね」
エハウィイがぶつくさ文句を言っている間に、クルトが魔導短伝話で反対側に居るはずの仲間に発見位置を伝える。
「感度良好、けど敵も準備万端、かね」
今のところ動く様子はない。相手の動きに注意を払いつつも一定の距離を取り、もう一方の準備が整うのを待つ。
武は一番後方で止水栓を背後に守るように位置を定めた。
「戦力としては役に立てないかもしれませんので、せめてここだけは」
寄せた眉に強い決意が現れていた。
分岐点より下流側。ヴァージルは魔導短伝話を使いクルトに尋ねる。
「敵の侵入口は見つからないか?」
現時点では見つからないとの返答に、一旦通信を終える。
ヴィルナ・モンロー(ka1955)とメリンダが他の2か所の点検口を確認して戻って来た。
「おっしゃった通りに全て閉鎖して、それぞれを見張るように手配してきました」
アイ・シャは満足そうな笑顔を向ける。
「有難うございます。下流に分散されると厄介ですから。ではヴァージルさま、参りましょうか」
返事を待たずひらりとアイ・シャは配管内に消えた。盾を手に、ヴァージルも後を追う。
「おいおい、大丈夫か? 余り離れないようにしてくれよ」
「お気をつけて。無理はなさらないでくださいね!」
顔をのぞかせるメリンダに、ヴァージルは余裕の笑みを返す。
油断している訳ではない。だが海千山千の手練れの者、力を入れるべき場とそうでない場は心得ている。
「気をつけるとしよう。だがもし怪我したときは、つきっきりで看病をお願いするよ」
軽く片目をつぶってみせると、メリンダは無言のままで目を見張った。
アイ・シャはヴァージルが追い付くのを待っていた。心なしか雰囲気が先程よりも冷たいのは、内部が暗い為だけでもあるまい。
「急ぎますよ」
「ああ、取り敢えず分岐点は押さえよう」
僅かにたまった水を跳ねあげ、2人は同時に駆け出す。
●
水路の天井は低く、長身のヴァージルは少し身を屈めなければならない程だった。
やがて目の前が突然開けた。LEDライトの光で辺りを確認する。
「分岐点だな」
その間にもアイ・シャは駆け抜けて行く。
「空気の流れが感じられます。どこか外に通じているかもしれません」
内部に入ってからずっと籠っていた空気が僅かに変化していた。技師達が敵と遭遇した辺りだ。
「ここか」
ヴァージルが壁に空いた直径1m程の穴を照らした。ちょうど陰になっており外からは見えにくい場所だ。
技師達も驚いたろうが、敵も驚いて移動したと見える。まだ姿は見当たらない。
ヴァージルは魔導短伝話でそれらを報告した。
「壁を溶かして侵入したようだ。気をつけてくれよ、水鉄砲以外にも何か仕掛けてくるかも知れん」
「了解しました」
アイ・シャが端的に答えると、『瞬脚』の勢いで突っ込む。
そこには半透明の壁があった。
「相手が動かないうちに、確実に……!」
暗い配管内にアイ・シャの背に現れた薄翅の紫光が軌跡を描く。その光と僅かに受けて、刃が煌めいた。
『スラッシュエッジ』の一閃は、確実にスライムを貫いた。……はずだった。
「な……?」
アイ・シャが違和感に眉をひそめる。半透明な身体に刃は埋もれるようにめり込むと、握った手ごとあらぬ方へと放り出される。
その直後、激しい水流がアイ・シャを襲った。
「わ、っぷ……!!」
咄嗟に足に力を籠め、流されまいとアイ・シャは抗う。
「大丈夫か!」
ヴァージルが盾を構えながら手を掴む。スライムにここを抜かせる訳にはいかないのだ。
「大したことは、ありません」
すぐにアイ・シャはヴァージルの手を払い、自分の足で立ち上がった。
水撃はこちらの動きを制限するが、実際のダメージは軽い打ち身程度で済むようだ。ならば、押して行くまで。
スライムを挟んで上流側。エハウィイが嘆いた。
「やだよもう、何でヒキニートがこんなとこに来なきゃいけないのさ、ちくしょー!」
クルトが苦笑いで肩を叩いた。
「まあそう言うなって。どうやら奴には俺の剣はロクに通じ無さそうだからな。頼りにしてるぜェ」
「あぁもう、しょうがないなー。さっさと依頼終わらせてお家かえろ」
エハウィイはぶつぶつ文句を言いながらも、前に進む。
技師の言った通り、柔らかいスライムの身体は物理攻撃をいなしてしまうようだ。
(どっちか効くと良いけどねー)
魔法攻撃の得意なエハウィイがロッドを手に念じる。『シャドウブリット』の黒い影が飛び出し、スライムの身体にめり込んだ。
「お?」
一瞬、透明な壁に隙間ができた。
「効いてるようだな。どんどん行ってくれ」
「よーし、どんどんいくよー!」
ちょっと面白くなってきたようだ。エハウィイは次撃を撃ち込む。
だがこの攻撃にスライムが反応した。
透明な壁が崩れる。と見えて、4分割されたそれぞれが個別に動き始めたのだ。
下部の2体が動いたとき、武は足元を掬われるような感覚を覚えた。
「危ない、アイ・シャ様、チェンバレン様……!!」
スライムで堰き止められていた水が、勢いよく下流へ流れ出した。
●
武の声と同時にスライムが別れ、その隙間から水が溢れだしてくる。
「こっちだ、掴まれ!」
ヴァージルはアイ・シャに叫ぶと盾を構える。だがアイ・シャはヴァージルの差し出した手を掴むことなく、身を低くして流れに耐えていた。
この流れに乗ってスライムが後方に通り過ぎて行くのは何としても阻止しなければならない。逃がして他の箇所でまたこのような騒ぎを起こさせる訳にはいかないのだ。
やがて水流が治まると、スライム達の姿が個別に、はっきり見えるようになった。
全身びしょぬれになりながらも、アイ・シャは1体に向かって突進。
「逃がしません」
鋭い剣先の閃き、おぼろに闇を照らすアイ・シャの紫光。
(例え物理攻撃に耐性が高くとも、多少なりともダメージが与えられるなら……!)
効いているのかどうかすら疑わしくなるような、ぶよぶよの身体を剣で貫く。
「俺も負ける訳にはいかんな」
ヴァージルが僅かに肩をすくめ、すぐにアイ・シャに並ぶ。振り被った剣を思い切り突き立て、手前に引いた。スライムがその剣を引き離そうと僅かに移動し、その分だけ不定形の身体が伸びる。
「今だ、薄くなった部分を斬るんだ!」
「分かりました」
アイ・シャの細い身体が壁を蹴り、宙を舞うように降りて来る。剣の切っ先は正確に、スライムを切り裂いていた。
それまでつるつるしていたスライムの体表が見る見る萎びて行き、最後には霧のように消えて行く。
「やった……のですね」
「よし、続けて行こう」
息を整え、アイ・シャが力強く頷いた。
2体のスライムは、水を求めるように上流に移動する。立ち塞がる邪魔者には容赦なく水撃を浴びせて来た。
「ぶはっ!!」
僅かに後退りしながらも、エハウィイは受け止める。
本当は嫌だ。ものすごく嫌だ。でも失敗したらなんのためにここまで来たか判らない。依頼料を受け取るまでは帰れないのだ。
「一度下がってください!」
武がエハウィイを呼ぶ。一度回復させた方がいいように思えたからだ。
「エハウィイ、武の言うとおりだ。少しぐらいは稼いでおくぜ?」
クルトが力を籠めて踏込み、斬撃を叩き込む。
その間に武がエハウィイの傷を癒した。エハウィイ自身、癒しの術は使えるが、今は攻撃に専念する方が得策だと判断する。
「1対1では中々倒せない相手でも、多数対1を何度も繰り返せば、倒せるようになるはずですから! とにかく粘りましょう」
「あー、なるべく早く片付けたいけどねー。まぁそれしかなさそうだよね」
エハウィイは顔をしかめて、再び立ち上がる。戦っているクルトの背中に向かって声をかけた。
「タイミングを合わせて、ちょっと避けてもらえるかなー! いくよ、1、2の」
「「3」」
クルトが脇に避けるのと同時に、エハウィイのロッドから光弾が放たれた。スライムの身体が光に照らされ、ぶるっと震えるのが分かる。
充分届くはずの距離だが、スライムはその場から反撃してこなかった。
「もしかして弾切れか?」
クルトがそう察した通り、充分な水が無くなった時点で、水撃は尽きたのだ。
「それじゃ遠慮なく」
再び踏み込む一瞬、先刻のヴァージルの言葉が頭の隅を掠めた。だが迷うことなく刃を振るう。
「こっちも弾切れだよー、残念」
エハウィイはそう言うと、ロッドを振り被って思い切り敵を殴りつける。
その時だった。滑らかだったスライムの体表が僅かに歪み、小さな穴が開いたかと思うと、そこから僅かな量の液体が飛び出したのだ。
「わっ、何これ……!」
慌てて飛びのいたエハウィイの足元で、何かが焼けるような微かな音がする。
「酸、か」
クルトが呻く。
「下手をすれば壁を溶かして逃げるかもしれません」
武の言う通りだった。ますますのんびりはしていられない。
「1体に集中しよう。武、もう1体は暫く抑えてくれ」
「分かりました、やってみます」
正直なところ自信はない。だが武が避ければ背後の止水栓が危ないのだ。身体を張ってでも喰い止めようと心に誓う。
それはとても長い時間にも思えたし、あっという間だったような気もする。
スライムは物理攻撃に耐性があったが、全く効かない訳ではない。
常に複数で、途切れることなく攻撃を仕掛けて来るハンター達相手に、逃げるタイミングを失い、ついには4体全てが排水管の中で霧散していったのだった。
●
大きく息をついたアイ・シャが、すぐに顔を上げる。
「何も残さないよう点検してから出ましょう。すぐにでも依頼人は水を使いたいはずですから」
提案に頷き、全員がそれぞれライトで足元や壁を照らす。
配管に耳をつけて仲の様子を窺っていたメリンダは、それらの声にほっと息をついた。
「良かった、皆さん無事ですね!」
急いで点検口を開く。
「……きゃ……!?」
「念のために一度、ここの水は全部抜いた方がいいかもしれませんわね……あら、大丈夫ですか?」
アイ・シャが顔を出すと、メリンダが頭からずぶぬれになっていた。
「あ、お疲れ様、でした! 上手くいったようですね」
明るい日の下でよく見れば、皆がずぶぬれだった。ガタイの良いお兄さんも、ナイスバディのお姉さんも、儚げな美少女も……。
(スライム、グッジョブ)
エハウィイは気だるげな瞳のまま、その光景を密かに堪能した。
内部で何が起きていたか。武はその詳細を報告書にまとめてメリンダに送った。
この経験が自分の、そして誰かの役に立つように。丁寧な資料にはその願いが籠っていた。
<了>
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/09 12:25:58 |
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相談所(締切12日朝7時半) アイ・シャ(ka2762) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/10/12 07:04:29 |