百手、百足、ぞろりと

マスター:尾仲ヒエル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/06 19:00
完成日
2017/02/18 19:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「残念だわ。私、貴方のこと嫌いじゃなかったのに」
 黒衣の女が呟くのは、先日ハンターたちに倒された男、イリフネのことだ。
「人間1人にあれだけ執着できるなんて、とても人間らしいじゃない?」 
 濃いベールの下の表情は伺い知ることはできないが、その声には微かに羨望のような響きが混じっている。
 女――モルガナは、目の前に横たわった少年の黒髪を優しく整えると、そのまぶたにそっと触れた。
「依頼人はもういないけど、完成させるわ――目覚めなさい」
 ろうそくの灯りの下、長い睫毛が震え、花が開くように少年の瞳が開く。
 その色は、元の灰色ではなく、血のような赤。
「私の言葉が分かる?」
 最初から諦めたような口調でモルガナが尋ねる。
 モルガナが蘇らせてきた少年たちは、人形のように美しいだけで、教え込まないと簡単な会話すら難しい状態だった。
「……まぶしいよ。消して?」
 答えを待たずに部屋を出ようとしていたモルガナが、はっとしたように振り返る。
 今、この少年は自発的に発言したばかりか、彼女に「お願い」までしたのだ。
「まあ、まあ、まあ! 自我があるのね! ついに成功したわ!」
 感極まったように叫ぶと、モルガナはまぶしげに目をしばたたかせている少年の両手を握りしめた。
「新しい名前をつけなきゃいけないわね。……リュリュ。貴方の名前はリュリュよ」

●墓場のムカデ
 床に座った少年が落書きをしている。
「今日は歪虚の作り方をお勉強しましょう」
 優し気に言ったモルガナは、散乱した落書きの1つを拾い上げた。
「これ、いいわね。これをお手本に歪虚を作りましょうか」

 風が少年の短い黒髪を揺らす。
 少年とモルガナは、とある墓地に来ていた。
 モルガナが手を上げると、その動きに合わせて土が盛り上がる。
 そして土の間から現れた骨と死体がうごめき、次々につなぎ合わさる。
 やがて出来上がった歪虚は、細長い体の両脇に人間の腕や足を生やした、ムカデに似た姿をしていた。
 歪虚が動くたび、青白い手足がぞろりと波打つ。

 そこにちょうど都合よく――当人にとっては運悪く、小さな女の子が歩いてきた。
 墓に供えでもするのか、白い花を一輪手にした女の子は、目の前に現れた巨大な歪虚の姿に立ちすくむ。
「こらこら。あんまり先に……ひっ」
 その後ろから遅れてやってきた父親は、娘を守ろうと、とっさに足元から拾い上げた石を投げた。
 勢いよく飛んだ石は、歪虚の腹部に命中し、深いくぼみをつける。
 しかし、そのくぼみは、みるみるうちに周囲の肉で埋められ、しばらくすると何事もなかったかのように修復されてしまった。
 その様子を横目で見ながら、娘を抱きかかえるようにして父親が走り出す。
「あら。もうちょっと居てちょうだい?」
 首を傾げたモルガナが手を動かすと、メリメリ、と音を立てて、近くの林から、一本の木が親子に向かって倒れてきた。
 そこで計算違いが起こった。
 倒れかけた木の枝が隣の木にひっかかり、軌道とタイミングがずれたのだ。
 ドオン、と、音を立てて倒れた木が、親子ではなく、歪虚の頭部を押しつぶす。
「……あらあら」
 その間に、親子は全速力で逃げて行った。
「まあ、いいでしょう。ちょうどハンターが近くにいるみたいだし、頭はまだあるわ」
 モルガナの言葉通り、頭をつぶされた歪虚の体の一番前の部分が、ぼこぼこと形を変え、新しい頭を作り出していた。

リプレイ本文

「蟲の体に人間の手足か。なんとも悪趣味だな」
 渋面を作る咲月 春夜(ka6377)の近くで、顔色の悪いヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は、うごめくムカデの体から目を逸らしていた。
「……虫なんて大嫌いだ」
 背後に浮かぶ目玉の幻影までが一斉に視線を逸らしているあたり、本当に苦手なのだろう。
 ハンターたちが戦闘に備えようとした時、離れた場所で人影が動いた。
 黒衣の女。その傍らに立つ少年は、髪は短くなってはいるものの、何名かにとっては見知った顔だった。
「ササノハ」
 少年と一度会ったことのある春夜が声を掛ける。
 顔立ち自体は変わっていないが、子供らしい表情が失われた少年の顔は、随分と大人びて見える。

 警戒するように見知らぬ2人を見るマリィア・バルデス(ka5848)は、いつでも対処できるよう銃の引き金に指をかけている。
 その足元では、2匹の犬が主人を守ろうとするように唸り声を上げていた。
 一方、眼球性愛(オキュロフィリア)であるヨルムガンドは、血のように赤い瞳に魅入られたように少年を見つめている。

「ササノハ」
 八原 篝(ka3104)が呼ぶ声は切実な響きを持っている。
 共に過ごした時間の記憶はあるのか。思い出す可能性はあるのか。確かめたい。確かめて、もし、ヴォイドとして誰かを傷つけてしまう可能性があるのならば――。

 「ササノハさん」
 金鹿(ka5959)の声は震えている。
 少年の変容を知った衝撃と、こうなってしまうことを防げなかった後悔が、普段の彼女の泰然とした態度を揺らがせる。
 己の未熟を痛感するように、金鹿は強く拳を握り締める。

 少年は答えない。
 見つめ合うハンターたちと少年をよそに、ぞろりぞろりと手足を動かしながら、ムカデが村の方角へ向かう。
「……悪趣味なムカデをブチのめすのが今回の仕事、で、合ってるよな。正面から順々にブッ潰せばいいんだろ? 分かりやすくていいじゃねえか」
 篝たちと同様、少年と縁の深い文挟 ニレ(ka5696)が、努めて明るい声で沈黙を破る。
 声を掛けることなく少年に背中を向けたニレの感情は、暗い瞳の奥深くに沈められ、窺い知ることはできない。

 金鹿は唇を強く噛んで少年から顔をそむけると、仲間に加護符を貼り始めた。
 その作業を終えると、不思議な絵柄の描かれたポストカードを手にして林の奥へ消える。
 戦闘が始まった。

「α、γ、囮のお手伝いをしてきてちょうだい。近付きすぎて怪我をしないよう気を付けるのよ。……行け!」
 指示を受けた2匹の犬が吠えたててムカデの注意を引く。
「こっちだ!」
 囮役を買って出た春夜が馬に乗ったままムカデを挑発する。
「今日はスキルの調子が悪いからな。せいぜい囮として活躍させてもらおう」
 仮面の下で微笑む春夜は自信に溢れている。

「さあ、こっちにもいるわよ。追いつける?」
 春夜の馬に並走するように、篝が林に向かってバイクを走らせる。
「シャア!」
 2人を追っていたムカデが急にアゴを開いたかと思うと、緑色の霧を噴き出した。
「うわ」
 帯のように広がる緑色は囮役には届かなかったが、周囲にツンと鼻を突くような異臭が広がる。
「直接浴びるとまずそうね」
 バイクはそのまま木立の中に入っていったが、ムカデは警戒したように林の手前で無数の足を止めた。
 林の入り口付近の木々は離れているが、奥に行くにつれ密集し、ムカデにとって動きにくい戦場になっている。
「気付いた……?」
 林の中から様子を窺っていたマリィアが眉をひそめる。

「止まっていてくださるのなら、それにこしたことはありませんわ」
 木々の間から金鹿が姿を現す。
 指の間に挟まれた符は、放たれるや無数の蝶へと変化し、光の弾となってムカデの頭に群がった。
「ギィ!」
 目がくらむほどの光に包まれたムカデの頭部が、蒸発するように消え失せる。
「まずは1つめ!」

 新たな頭を生やしたムカデは、怒りに我を忘れたように林に足を踏み入れた。
 ハンターたちの読み通り、長い体が木々に引っかかり、ムカデのスピードは落ちている。
 だんだんと木々が密集してくる林の中で、ハンターたちはトランシーバーで連絡と取り合いながらムカデを追う。
 一度春夜にムカデを任せた篝は、ムカデの通れないであろう場所を選んでバイクを降りた。
 その動きに気付いたのか、春夜を追っていたムカデが動きを変える。
 ぐりん。
 そのまま通るには狭すぎる木々の間を、ムカデは体を斜めにすることで押し通った。
「な!」
 予想外の動きに振り返った篝の脇腹を、ムカデの顎が捉えた。
 ガブリ、と、閉じられようとした顎は、金鹿の貼った加護符によってとどめられ、ムカデは浅い傷を残しただけで体を引く。

「篝!」
 ヨルムガンドが放った弾丸がムカデの胴体に命中する。
 途端、巨体の動きがにぶった。
「うねうねして気味が悪いんだよ! 少し大人しくしてろ!」
 弾に込められた冷気がムカデの動きを阻む。
「そうだ。的は大きく、動かないほうがいい」
 マシンガンを構えたマリィアが薄く微笑んだ。
 バララララッ、と、小気味良い音を響かせてマシンガンが弾を吐き出し、いくつもの穴を開けられたムカデの頭が霧散する。

 新しい頭を生み出したムカデは、胴体が短くなった分、先ほどよりも木々に引っかかることが減ってきた。
 スピードの上がったムカデは急旋回し、木々の後ろに身を潜めていたヨルムガンドに迫った。
「いっ」
 がしり、と、死体そのままの青白い腕に捕まれたヨルムガンドの表情が凍り付く。
「シャアア!」
 ムカデはそのままヨルムガンドを取り巻くようにとぐろを巻くと、大きく顎を広げた。
 大嫌いなムカデに抱きしめられた形になったヨルムガンドは、体を強張らせながら懐にあるナイフを探る。

「ヨルムガンド!」
 ニレが投げたカードが、青白い腕にグサリと突き刺さった。
「ギイ!」
 ひるんだムカデがぽろりとヨルムガンドを取り落とす。

「んあああ! ガサガサ! ガサガサしてた!」
 がっくりと地面に膝をついたヨルムガンドの背後で、目玉の幻影も目を白黒させている。
「背中に……感触が残ってる……!」
 怪我はないようだが、精神的ダメージはかなり深そうだ。

 ムカデのスピードはまた少し上がったようだ。
 交戦が続く中、金属音が響いた。
 ギィン!
 ムカデの攻撃を腕の防具で防ぎきったマリィアは、表情ひとつ変えず目の前の巨大な顎とギョロリとした目玉に告げる。
「お前は殲滅されるべきだ」
 その言葉に込められた感情は、恐怖でも憎しみでもない。信念だ。
 近くから犬たちが吠えたててムカデの注意をひくと、篝がオートマチックを向けた。
「この弾は一味違うわよ」
 威力を高められた重撃弾は、木々の間を縫うようにして飛び、ムカデの頭部を粉々に打ち砕いた。

「さあ、こっちだ」
 春夜が木々をうまく盾に使いながら、ムカデの前を誘うように走る。
 届くか届かないかの距離に苛立ったムカデが突然、毒霧を吐き出した。
 緑色の霧が春夜を包み込む。
 それは春夜が、地面に落ちていたカードのようなものを飛び越した瞬間だった。
「間に合っ……」
 崩れ落ちるように着地した春夜を篝が支える。
「入った!」
 そのまま2人に向かって突進しようとしたムカデは、何かに引っ張られたようにガクンと動きを止めた。
 地縛符。
 金鹿が戦闘前から用意していた不可視の結界が、ムカデの体を捕えていた。
 ねばっこい泥がムカデの動きを阻む。
 地面に置かれていたポストカードは、仲間に結界の位置を示す目印だ。

「やっと入ったな。手加減なんざ必要ねえだろ。派手に火葬してやるよ」
 自由になろうともがくムカデに、ニレが符を放つ。
 ただでさえ強力な炎を生み出す火炎符に、別の符を組み合わせることで威力を増した炎が、ムカデの頭部を、業、と包み込んだ。
 絶叫と共に4つ目の頭が消えた。

「そっちに行った! 速いぞ!」
「ニレ! 危ない!」
 林の中から交戦しているらしい音が聞こえてくる。
「うーん。見え辛くなっちゃったわね。ちょっと場所を変えましょうか」
 少年の手を取ったモルガナが、ハンターたちの戦っている近くの木の上に移動した。

「ササノハ」
 2人に気付いた春夜が、まだ麻痺の残る体を木にもたせかけながら声を掛ける。
「こいつらのことも覚えていないのか」
 心配そうに春夜の顔を覗き込んでいる妖精も、春夜の腕に巻き付く銀色のフェレットも、少年が触れあったことのある春夜のペットたちだ。
「篝やニレ、金鹿……彼女たちは……友だろう? 分からないのか?」
 自分よりもっと少年と関係の深かった仲間たちの心の内を思い、春夜の声が詰まる。
 首を傾げた少年は、そのままモルガナを振り返った。
 その仕草は、今の少年が頼る存在が誰かという事実を否応もなく示す。

「……っ」
 その近くでは、腕にダメージを負った金鹿が悲鳴をこらえていた。
 金鹿に迫るムカデの体が衝撃に跳ねた。
「マシンガンで解決できないことは少ないが、マシンガンが持ち込めない場所が多いことが問題だな」
 存分に弾丸を撒き散らしながら、マリィアが呟いた。
「さっきのお返しだ」
 なんとか気を取り直した様子のヨルムガンドが、砂色のオートマチックを発射した。
 過剰なダメージを受けた頭部が、はじけ飛ぶように霧散する。
「5つ目!」

「おたくも……いや、おたくらも、進んで歪虚になりたかったわけでもねえだろう。とっとと墓に入り直しな」
 ぐい、と、頭の傷から流れる血をぬぐったニレが、地面で唸り声を上げる最後の頭部に向かって符を投げる。
 死体を繋ぎ合わされて作られた歪虚は炎に燃やし尽くされ、跡形も残さず消え失せた。

「やられちゃったわね」
 見るべきものはもうないとばかりに、危なげもなく枝の上でモルガナが立ち上がる。
 立ち去ろうとする気配に篝が動いた。
「ここで終わらせる……ササノハ、さようなら……ッ」
 銃を向けられた少年が、不思議そうに首を傾げた。
 さらり、と、短くなった黒髪が揺れる。
 以前のササノハそのままの仕草に、引き金にかかった篝の指が凍りついたように止まった。
「だめ。撃てない……」
 ゆるゆると篝が銃を下ろす。
 と、乾いた銃声が響いた。
「まあ、いきなり撃つなんてひどいわね」
 ぽたぽたと木の上から赤いものが滴り落ちる。
 ちぎれているのは、モルガナが少年をかばって伸ばした触手だ。
「お前達は殲滅されるべきだ」
 黄金に輝く拳銃を構えたマリィアが冷静な視線を返す。

「美しいものは生み出されるべき、だと思わない? 貴方たちがササノハと呼んでいた人間は、怯えて苦しむサナギだった頃の彼。今の彼の名はリュリュ。自由な蝶に生まれ変わったの」
「おう、そこの黒女。こんな状態にしやがったのはてめえだな?」
 モルガナの口上を遮るように、少年――リュリュを示してニレが問う。
「貴方たちのことを忘れたこと? 私が忘れさせたわけじゃないわよ。何も覚えてないの。教団のことも、何もかも。辛い過去を思い出させる必要なんてあって?」
 その言葉と共に、無数の黒い蝶が煙のように2人の姿を覆う。
「少年! 君が誰であれ、疑問を持って悩み考えろ。自分が何者なのかは自分で決めるんだ!」
 最後に春夜が投げかけた言葉は少年に届いただろうか。
 蝶の群れが去った時、そこに2人の姿はなかった。

「ありがとうございました」
 村の外れで、父親が頭を下げる。
 昨年の夏に亡くなった少女の母親も墓地に埋葬されていたという。
 父親の言葉には、母親があんな姿にさせられていたことを少女が気付かずに済んだ感謝も込められている。
「ありがとう! ハンターってかっこいいね!」
 父親の腕の中で無邪気に微笑む少女に手を振って、ハンターたちは歪虚から守られた村を後にした。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士

  • ヨルムガンド(ka5168
    人間(紅)|22才|男性|猟撃士
  • 豪放なる慈鬼
    文挟 ニレ(ka5696
    鬼|23才|女性|符術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師

  • 咲月 春夜(ka6377
    人間(蒼)|19才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
咲月 春夜(ka6377
人間(リアルブルー)|19才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/02/04 23:13:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/04 13:44:01