ゲスト
(ka0000)
Pクレープ~鳴動する山
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/09 22:00
- 完成日
- 2017/02/23 00:28
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「初華さん、ワインの取引先でどうしてもって話があって」
ポルカ商会の太っちょ一人息子、ポルテ・ポルカが極彩色の街「ヴァリオス」の街角屋台「エル・クレープ」で働く南那初華(kz0135)にそう言った時だった。
「え~、また変な話ぃ~?」
初華、露骨に嫌な顔をした。
「ど、どうしたの?」
「だって……また私にお酒飲ませる話でしょう?」
いきなり決めつけているが許してやってほしい。正月に飲酒絡みの依頼でひどい目に遭ったばかりなのだ。
「違う違う。お酒の取り引きは順調で、あちらから『おたくがヴァリオスの街で出しているクレープ屋台の味を味わってみたい』って頼まれたんだよ」
ほら、結婚していたエルさんが復帰してここは「エル・クレープ」に戻って初華さんは移動屋台「Pクレープ」として独立したじゃない、とポルカ。ちなみに初華はこれでもハンターなので、ハンター仕事が手薄なときのみ臨時営業している。
「それだけ?」
初華、じっと問い詰める。
途端にポルテの目が泳ぐ。
「……他に何かあるのね?」
「ええと……よそに流れてなければ暴れん坊大熊が出る季節だから、もし出たら追い払ってほしいって……」
「暴れん坊大熊? 退治じゃなくて追い払うの?」
確認する初華。
「うん。村では伝説的な熊で、右肩の体毛だけが桜吹雪のようにピンク色が混じってるんだって。それで、餌のない時は村近くで暴れるけど、そうでない時は森で弱い歪虚を倒すところが何度も目撃されているから退治してしまうのも不安だからって」
「世の中複雑ね~」
「森の奥の方に突然小さな山ができたりと不安もあるんだって」
「クレープどころじゃないんじゃない?」
初華、意外と冷静。
「偵察にハンター雇うにも予算がいるでしょ? それを村で協議中。でも不安だからとにかくどんな用事でもいいからハンターに来て欲しい。そうだ、商売していいからPクレープさんに安く来てもらって、その間に状況に変化がないか様子を見てみよう、って」
「なんだかなぁ」
「まあ、ポルカ商会が頼られるのは商売上いいことなんだ。依頼金は安かったけど、クレープの売上があれば普通の金額になるはず。村は気になってたクレープを食べられるから来てもらいたくて仕方がないみたいだよ」
「分かった。クレープの出張販売しながら森の偵察をすればいいのね」
「そうそう。もしも何かあっても村人に犠牲者が出ないよう、安心してもらうのが第一だからね」
まあ楽しければいいか、とクレープ生地をかき混ぜる初華。ポルテはうんうん頷いている。
この時、まさか生地をかき混ぜるような大混乱に巻き込まれるとは夢にも思わず。
というわけで、初華とともにPクレープとして出動してくれる人、求ム。
ポルカ商会の太っちょ一人息子、ポルテ・ポルカが極彩色の街「ヴァリオス」の街角屋台「エル・クレープ」で働く南那初華(kz0135)にそう言った時だった。
「え~、また変な話ぃ~?」
初華、露骨に嫌な顔をした。
「ど、どうしたの?」
「だって……また私にお酒飲ませる話でしょう?」
いきなり決めつけているが許してやってほしい。正月に飲酒絡みの依頼でひどい目に遭ったばかりなのだ。
「違う違う。お酒の取り引きは順調で、あちらから『おたくがヴァリオスの街で出しているクレープ屋台の味を味わってみたい』って頼まれたんだよ」
ほら、結婚していたエルさんが復帰してここは「エル・クレープ」に戻って初華さんは移動屋台「Pクレープ」として独立したじゃない、とポルカ。ちなみに初華はこれでもハンターなので、ハンター仕事が手薄なときのみ臨時営業している。
「それだけ?」
初華、じっと問い詰める。
途端にポルテの目が泳ぐ。
「……他に何かあるのね?」
「ええと……よそに流れてなければ暴れん坊大熊が出る季節だから、もし出たら追い払ってほしいって……」
「暴れん坊大熊? 退治じゃなくて追い払うの?」
確認する初華。
「うん。村では伝説的な熊で、右肩の体毛だけが桜吹雪のようにピンク色が混じってるんだって。それで、餌のない時は村近くで暴れるけど、そうでない時は森で弱い歪虚を倒すところが何度も目撃されているから退治してしまうのも不安だからって」
「世の中複雑ね~」
「森の奥の方に突然小さな山ができたりと不安もあるんだって」
「クレープどころじゃないんじゃない?」
初華、意外と冷静。
「偵察にハンター雇うにも予算がいるでしょ? それを村で協議中。でも不安だからとにかくどんな用事でもいいからハンターに来て欲しい。そうだ、商売していいからPクレープさんに安く来てもらって、その間に状況に変化がないか様子を見てみよう、って」
「なんだかなぁ」
「まあ、ポルカ商会が頼られるのは商売上いいことなんだ。依頼金は安かったけど、クレープの売上があれば普通の金額になるはず。村は気になってたクレープを食べられるから来てもらいたくて仕方がないみたいだよ」
「分かった。クレープの出張販売しながら森の偵察をすればいいのね」
「そうそう。もしも何かあっても村人に犠牲者が出ないよう、安心してもらうのが第一だからね」
まあ楽しければいいか、とクレープ生地をかき混ぜる初華。ポルテはうんうん頷いている。
この時、まさか生地をかき混ぜるような大混乱に巻き込まれるとは夢にも思わず。
というわけで、初華とともにPクレープとして出動してくれる人、求ム。
リプレイ本文
●
「ひとまずここに停車するね」
南那初華(kz0135)が魔導トラック「ピークレープ」を村の中心と思しき広場に止めた。
「結構人も集まってますね」
真田 天斗(ka0014)が早速助手席から降り、物珍しさに集まり遠巻きに見ている人たちに恭しく黙礼した。こういうのは最初が肝心だと言わんばかり。
「あ? 着いたのか?」
後部座席にごろんと寝ていたボルディア・コンフラムス(ka0796)がむくりと起き上がった。
「あは、もうちょっと寝てていいよ?」
「そういうわけにもいかんだろ。大熊倒すんだ。シャキッと起きて村人に安心してもらわねぇとなぁ」
気遣う初華にそう言うのは、ボルディア自身も魔導トラックで来ようと思っていたのに忘れてしまっていたのもある。これ以上だらけたところを見せられない。
そこに、別の魔導トラックが運転席側に横付けした。
「初華さ~ん、ここでいいの?」
助手席の窓からメルクーア(ka4005)が顔を出している。
「ううん。村長さんのおうちがどこだかわからないからまずはここに止めたの」
「まずまずの広さがあってクレープ販売には悪くないかもだよ」
説明する初華に、運転席の狐中・小鳥(ka5484)がハンドルに身を預けるようにして顔を覗かせた。小鳥は小柄で、彼女の魔導トラック(ka5484unit001) はごく普通の大きさ。艶やかな光沢の白いチャイナドレスを着た小鳥が対比でさらに小さく可愛らしく見える。
その小鳥の肩に、背後から優雅に飛び乗る猫が。
「あっ、トラオム。まだだめよ」
運転の邪魔になるから、と背後から両手を伸ばしたのは、夢路 まよい(ka1328)。小鳥の肩に飛び乗ってハンドル周りを興味津々で見ていたのは猫ではなく、まよいの連れて来たユグディラ、トラオム(ka1328unit001) だ。
トラオム、まよいに背後から抱かれてひょいと連れ去られる。残念もうちょっと運転席の操作を見たかったのに、と猫髭をへにょりとさせるトラオム。そんな様子に気付いてんもう、この子は、な感じのまよい。「あはは、別にいいんだよ」と乗っかられていた小鳥はむしろ楽しかった様子だったり。
そんな小鳥の運転席側のさらに横に、新たな魔導トラックが横付けした。
「よし。新車の慣らし運転も兼ねてだったが、いい感じだ」
運転するのはアルバ・ソル(ka4189)。魔導トラック(ka4189unit003)の調子の良さに気分も良好のようで。
その横から、ぴょんとウサギが飛び出した。後部座席からだ。
「シンジ、出るならこっちからなの」
同じく後部座席から札抜 シロ(ka6328)が両手を出す。飛び出してきたのは、彼女のユキウサギ、シンジ(ka6328unit001) 。
が、手品師助手を務めるだけあって、身のこなしは軽快。するりと主人の手をすり抜ける。シロ、どっしんとはいかないまでも座席に身を乗り出したままあわわとなる。「おっと」と手を添えるアルバのおかげで落ち着くが。
「シロさん、大丈夫ですか?」
助手席に座るリラ(ka5679)も身をひねって手を添えていた。
シンジはさらにリラの膝の上も通り過ぎ……。
「はわわ~、可愛い子がいっぱいだよ」
小鳥の歓声。
助手席の窓からひょいと顔を出していた。その横にはリラの連れて来たユグディラ、マーガレット(ka5679unit001) も一緒に顔を出している。小鳥がきゃっきゃと喜ぶ理由だ。
「でも……妖精さんなんだねー。ウサギはネコさん見るとぶるぶるふるえることもあるのに」
小鳥の疑問。あくまでユキウサギとユグディラである、ということである。
「さて、まずは挨拶するため村長さん探しよね?」
小鳥のトラックの助手席から、ぴょんとメルクーアが下りて初華に確認する。
「うん、そうだけどさすがにこの騒ぎだから村長さんの方から来るはずなんだけどね~」
行くって約束したし、とか初華も下りる。
「すいません。お約束していたPクレープの者ですが、村長様はいらっしゃいますか?」
「村長さんのお宅はもう少しあっちだけど、さすがにこの騒ぎだと飛んでくるでしょうねぇ」
向こうではすでに天斗が丁寧に村人に聞いていた。若い娘や年配の女性が集まってわいわいやっている。
後は待てばいいだけ感が漂い、皆がトラックから降りた時だった。
●
「うわあ、あれはなんだ?!」
突然、村の森側からそんな悲鳴が響いた。
「あら、暴れん坊大熊がもう出たのかしら?」
メルクーアがそちらを確認すると……。
――ぱうっ、どこーん……。
「……なんか、嫌な予感がするんだよ」
遠くで響く音に小鳥が汗たら~。
「明らかに大熊が暴れてるより酷い音がしてるの……」
シロ、背伸びして遠くを見ようとする。その足元で「僕も僕も~」という感じにシンジがぴょんぴょん。
「参ったな……」
アルバが双眼鏡で確認しようとしたが……。
覗くことなくすぐに双眼鏡を外して吠えたッ!
「奴か……! まさか、あの時の個体か?」
緊迫する瞳。
見詰める青空。
その先に……。
「うわっ。空飛ぶキノコが来たっ!」
逃げ惑う村人の声とともに、一気に空に浮かんだ大型のキノコの傘と、だらんと下がる軸二本を腕にした何かが飛んで来た!」
――たたたた、がしっ、ばこん、ぶおっ!
「うえええっ! ブラブロ!」
メルクーアがいま上空を過ぎ去った大型歪虚を見送って叫ぶ。振り向きこぼした「あの時倒しておけば!」の言葉の通り、以前アルバや初華たちと交戦したことのある歪虚だ。
名の付いた通り、茶色い噴射(ブラウン・ブロウ)をして、過ぎ去った彼方で方向転換をしている。
「オイオイオイオイ……話が違うぜこりゃぁ。平和な大熊退治じゃなかったのかよ?」
トラックから出たボルディアも一気に表が引き締まった。
「いや、熊退治も平和じゃないよぅ」
「はわわわ!? あれはどう見ても熊じゃないよね!? とりあえず村の人を逃さないとだよ! トラックに乗ってきてよかった」
初華の突っ込みに慌ててトラックに乗る小鳥。森の熊さんを退治に来たはずがどうしてこうなったんだろね、とドアを閉める。
その時、まよい。
箱入り娘は、見たッ!
「わ~、家みたいにでっかいキノコ!」
その言葉に発進をやめ窓から顔を出す小鳥。
「え? 確かに大きいけど家ほどは……」
小鳥と同時に振り向いたリラは。
「な、なんですか? あれ……」
おっとり少女も思わず息を飲む。胸に抱いていたマーガレットも飼い主と同じように目を見張り、猫髭ぴんっ。
――ずずずず……。
実際には音などしていないが、それだけの威圧感があった。
まるで大きな家のような、ブラブロよりさらに大きなキノコ型歪虚の巨体が近寄っていたのだ。
――こぉぉぉ、ぱうっ!
そして前方開口部より何かビーム状のものが出た!
どごぉぉ、と建物の倒壊する音と振動が響く。
「わっ、なんか撃ってきた! 危ないな~、もう」
まよい、ぷんすか。足元ではトラオムが右に左に跳ねまわりまよいにブンブンと両前脚を振っていたり。無邪気な飼い主に「逃げよう」と急かしているのか。
「歪虚と出会ってしまうとは……まったくついてない」
天斗も会話をやめて戻って来た。
「二匹目も熊じゃないのね」
「あれがそう見えるなら入院が必要です」
呟く初華に静かに言い放つ。
「まぁ…誰が相手だろうが、やるこたぁ変わらねぇけどな! トラック忘れたがメルクーア、あと頼む!」
天斗が「あんもう、ひどい」とか言ってる初華をいなしている隙にボルディアがデカい方へと走っていく。新手はブラブロより速度が遅い。後に判明するが、前方に小型のパルムがついているようなので「パルサラス」と名がついている。
「くそっ……。出会ったのが村じゃなければな」
「ここで戦うわけにはいきませんよね。村人の被害が酷いことになる」
呟くアルバに周りを見るリラ。
「さすがに村人助けて逃げるしかないでしょ?」
「こちらは熊用の装備ですし」
メルクーアの意見に天斗がバトラーグローブの手を見せながら同調。さすがに素手で空中のデカブツとはやり合えない。
「でも、どこに逃げるの?」
トラオムを抱き上げ首をひねるまよい。
どごっ、と反転して来たブラブロが村の入り口側の建物を壊しいまこの上を飛び去った。トラオム、早く逃げようと言わんばかりに胸に抱かれたままけっけっと後脚で空中を蹴っている。
「待って」
この時シロ、右腕を真横でくねらせた。セクシーサンタドレスという体に密着した服装で、真横の空中には何もないと思われたが、下から捻った手には一枚のトランプが握られていた。
「九時方面にダイヤ……水の流れがあるかもなの。一段低くなってるはずだし、いざとなれば潜れるの」
イッツショータイム。禹歩で吉方を占ったのだ。
「じゃ、村人を……」
「意外といませんね」
見回す小鳥に不審そうな天斗。
その時、さらに近寄ったパルサラスの一撃。
――どごっ、きゃ~っ!
「……どうして建物の中に?」
「とにかく急ごう。初華、このトランシーバーを使え」
不思議に思うリラ。アルバは予備の通信機器を初華に投げ渡した。
●
この時、ボルディア。
「野郎……、建物破壊を楽しんでやがんのか?」
ゆっくり近付くパルサラスを観察しつつ呟く。巨大胞子収束砲はいずれも建物を狙い、破壊している。どこに人がいるかとかは関係なさそうだ。
もちろん、敵の本当の狙いなど分からない。
分からないが……。
「分かるぜ、俺にゃあ……」
にやりと呟くボルディアの手に、宣花大斧――否。誰が呼んだか、『赫(アカ)』。
「壊すために壊してるってぇ面構えだ」
もちろん面などあってなきが如しだが、言わんとすることはそういうことだ。手にする宣花大斧の無骨な重さに通じるところが少しだけある。
――どごっ、きゃ~っ!
この時、新たな一撃。壊れた建物から多くの人が出て来た。
「何だと? 何でわざわざ建物の中に隠れてんだ?」
驚きつつ、命からがら逃げて来た村人に聞いた。
「く、熊が出たり何かが村を襲った時は建物の中に隠れるようにって通達が……」
「そういうことかッ!」
ボルディア、吠えた。
大熊被害が懸念された村だ。対策に建物に隠れることは正しい。
が、今回は同じ対策を取るとむしろ敵の的になってしまうのだ。
「すぐに皆に出ろと伝えろ。あいつらを村を壊す気だ。とにかく村から出ねぇと巻き添え食うぞ!」
「は、はいっ……でもどこに……」
「あっちに逃げて助けている者に聞けっ。……畜生、一発でも当てておきゃ時間稼ぎになるんだが」
ボルディア、悔しむ。
人を襲うため高度を下げれば武器も届くのだが、いまはそうでもない。避難を促すため各戸を回る。
「ええと……」
初華はトランシーバーを手にどこに行くか迷っていた。
「あ、初華さんは村の中央にいて、逃げてきた子供やお年寄りをトラックに誘導してほしいわ。んで、トラックが満員になる前に担当ドライバーを呼び戻してね」
メルクーアがそう言い残して走る。
「わたしも行ってくるんだよ」
小鳥も自分の魔導トラックを残して走った。初華を信頼したのだ。
「わ、私は……」
「それでは店長、行ってまいります」
それぞれ散る仲間に浮ついた初華だったが、天斗が静かに言ったことで落ち着いた。
「んもう。天斗さんまるで買い物にでも行くように……」
「買い物のコツも慌てないことです」
クールに言ってきびすを返す天斗だった。
たたたたん、とブラブロ通過とともにまき散らされる胞子砲。
「それでも建物の下敷きになるよりましなの」
シロが果敢に走っている。足元ではシンジーがぴょんこぴょんこと追走。
避難する村人を追い掛けているのだが、その人たちは集会所らしき建物に入って行った。割と大きく頑丈そうではあるが、パルサラスからの巨大胞子砲が炸裂。一気に半壊した。
「早く出て避難するの! 西の方向に行くといいの!」
屋根のない入り口からシロが叫ぶ。
「お、おう」
「でも……怖い」
逃げる者と怖がり動けない者がいる。
「この子が守ってあげるから西に走るの。……シンジ、ついて行っていざという時には守ってあげるの」
シロ、パシンとシンジに加護符を張りつけ座り込んだ女性たちの方に出す。
シンジ、わきゃもきゃとボディーランゲージをして走り出す。とにかく自分たちより小さな存在が懸命になっているのを見て勇気のわいた女性たちは意を決してシンジについて行く。
「あとは怪我をしている人……」
「私に任せてね。トラオム、お願い」
きょろ、とシロが見回したところへ、まよい到着。トラオムは主人から言われてぴょんぴょんけがでうずくまっている人の傍に行き、【げんきににゃ~れ!】の祈り。白い光で包み込み治療した。
「動転して立ち上がれない人は自分が」
天斗も来ている。
大きな体で片膝を付く姿に、すっかり弱気になり立ち上がれない人も手を差し出すことができた。
天斗、おぶって村の中央まで戻る。
こちら、アルバ。
「まずはここからだ」
魔導トラックのブレーキを踏み込みドリフトさせながら止めた。大きな瓦礫を回り込み壊された建物の正面に流れながらビタ止めする。
「行こう、マーちゃん!」
同乗していたリラがマーガレットを従え飛び出し半壊した建物に突っ込む。
「誰か! いませんか? 助けに来ました!」
歌で鍛えた腹式呼吸で腹の底からよく通る声で呼び掛ける。マーガレットもハンドベルを鳴らしながら周囲を駆け回る。
そのマーガレット、ふと鼻先を上げて巡らせた。すぐに駆け出す。
「マーちゃん、何?」
リラが追うと、瓦礫の下敷きになった男がいた。
「……俺はもういい。ここは危険だ。逃げろ」
「何を言ってるんですか!」
助けます、と瓦礫を押すリラ。剛力無双で動かす。下ではマーガレットはにゃんにゃん踊りつつ【げんきににゃ〜れ!】。
が、その瓦礫は別の瓦礫を支えていた。このまま撤去すると不味い。逆に支えるしかなくなった!
「リラ、そのまま動くな」
背後からの声にはっとするリラ。
直後、横にがしんと大きな体が突っ込んできた。
――がら……どしぃん。
第二の瓦礫、撤去。
「アルバ、ありがとう!」
リラ、自分の支えていた第一の瓦礫を安全に除去し感謝した。
「……家族はどうした?」
アルバ、頷くと微笑して下を向き、男を安心させる。
「先に逃した。頼む、妻や娘も無事に……」
「分かっている」
男を背負うアルバ。必ず皆救って見せる、との瞳の色は男に見せることもなかったが、支えた腕が、揺るがぬ背中が、そして立ち上がった力強さが男を安心させた。
●
その頃、メルクーア。
「あっ!」
ジェットブーツで西方面へと移動したところ、実際に小川があった。周辺より下がっているので、遠くから死角になる。
「シロさんの占い、さすがだわね~」
これなら空に少々浮いた位置から見ても発見できないはず、と引き返す。
「みんな、逃げるんなら西の川辺に逃げて~」
来るときは一直線だったが、戻るときは村の外にひとまず逃げた人に声を掛けつつ。
そして気付いた。
「馬があるじゃない。馬があるなら……」
目についた厩舎に寄り道する。
こちら、小鳥。
「動けない人はいないかな? 居たら私たちに教えてだよ。抱えて連れていってあげるから!」
各戸を回って声を掛けていた。
「こ、ここにいない方がいいの?」
「建物から壊されてるから、建物にはいないほうがいいって仲間から連絡が入ったんだよ」
怯える子供ににっこりと説明する。
「よ、よし、それじゃあ!」
「あっ、待ってだよ」
大人が腰を上げたところ、小鳥が制した。外の気配に気付いたのだ。
たたたた、と小型胞子砲の嵐が過ぎていく。ブラブロが通過したのだ。
「収まった!」
「行ってだよ!」
ここの家族と一緒に出る小鳥。
このころには、小鳥たちの声掛けを逃げる人が周りに伝えていた。建物から出る人が多い。
「皆、慌てず急いで逃げるんだよ! 走れない人達は村の中心に止めたトラックに。出来るだけ詰めて乗るんだよ。他の人が乗れるように」
そんな人たちに声を張る。
そこに、魔導トラックのクラクションが聞こえて来た。
「初華さんからの合図だね」
小鳥、戻る。
中央広場では、多くの人がトラックに集まっていた。すでに荷台にもすし詰め状態。
「小鳥さん。私のトラック、あまり乗せられなくてごめん」
初華がそれだけ言って出発した。
「ん、仕方ないんだよ。……皆乗ったかな? それじゃあ急いで行くからしっかり掴まってるんだよ! 大規模作戦の輸送任務で活躍したこの腕を活かす時だね♪」
小鳥もすぐさま乗り込んで追う。
「はいは~い。乗れなかった人はこっちですよん♪」
そこへ、メルクーアが馬車に乗って到着。
「馬があるなら馬車もあるでしょ。農村だし」
というわけで、村人有志が御者席に乗る馬車軍団を連れている。これで大量輸送ができる。
ところが。
「ハンターさん、でっかいのが来よるで!」
小鳥のトラックが村の外に出たところで、荷台に乗る人から注意報。
何と、ブラブロに気付かれたのだ。
「むぅ。大丈夫だと思うけど…あの攻撃を食らったらシャレにならないね。当たらないように煙幕発生なんだよー!」
スモーク展開。トラックの姿が隠れる。
その直前だった。
「あ、あれは撃ってくるで、でっかいの!」
「ん、それじゃあブーストもかけるよー! 乗ってる人は気をつけてね!」
ばすっ、とターボブースト。
直後に煙幕のあったところを収束胞子砲が薙ぎ払った。
これを後続のメルクーアが見ていた。
「危なかったわね~。あ、村の方に戻って行った」
こっちを狙われたらおしまいだわ、と緊張していたが、やはり第一目的は建物破壊だった様子。ブラブロ、深追いせずに村方面にターンしていた。
村は、すでにかなりの建物が壊されていた。
「ほかにいませんか!」
リラ、変わらず精力的に声を掛けて回っている。
「おかげでブラブロの位置が分かりやすいです……まよいさん、来ます!」
まよいに気付き、注意喚起。
その時、まよい。足元でトラオムがつんつん気を引いたことで状況に気付いていた。
「エクステンドレンジ……」
すぐにスタッフ「クレマーティオ」をかざし集中。背後に怪我した村人がいるぞ。
ブラブロ、来る!
「アースウォール!」
かなり手前に魔法の壁。
――たたたたん、どごっ!
「なるほど。手前に作って破片なんかを食らわないようにしたんですね」
傍に寄り感心するリラ。
そこに、コール。
「いま行くんだよ!」
小鳥である。
「トラオム。また攻撃が来たら知らせてね」
まよい自身はいつでもウィンがストを使える用意をしておく。
「大丈夫です。必ず皆助かりますから!」
リラは怪我人を励ます。リラの明るさとトラックが来る喜びが伝わり、怪我人も笑顔を返した。
「シンジ、待ってたの!」
シロも村の中に残っていた。シンジの帰りを村人数人と待っていたのである。
早速白い結界を張る。
「シロさ~ん」
ここで初華の魔導トラック、到着。
「発進はこの後なの」
村人を乗り込ませ、シンジに紅の結界を張らせる。
――たたたん。
ブラブロ、通過。射線を防ぎ胞子砲の乱射を確実に遮った。
「ん。初華さん、いいの!」
最後に乗り込む。初華、アクセル・オン。
●
「なかなか酔狂ですね」
天斗は瓦礫の中、すらりとこともなげに立っていた。初華の無事を確認し、改めて背後に聞く。
「おそらく最後に出番があるからな」
そこにはボルディアが立っていた。
背中合わせで歪虚を監視し、何かあれば駆けつける予定。
が、すでに村人の大半は避難完了。なぜそうしている?
「すでに建物はほぼ壊滅。農場も荒れています」
「脱出時に狙われるかもしれんってこった」
――ききっ。
「これで最後だ」
アルバである。自身の魔導トラックに数人の村人を乗せていた。
「でかい方の気は俺が引いとく」
「離脱したらすぐ引いてください」
天斗。それだけ言い残しアルバのトラックに乗った。
「上等」
ボルディア、ゆっくりと反転しているパルサラスに向かっていく。
「機動性が低く砲撃の威力が高すぎで狙いが雑なら何ももんだいねぇ!」
近付き、瓦礫を利用しジャンプ。
――どすっ。
長く巨大な斧を背後にぶち込んで、あとは逃げた。
「さすがに追ってきますね」
アルバのトラックの荷台では、天斗がチャクラムを回しつつ上空をうかがっていた。
ブラブロが気付いて接近しているのだ。何かあれば天斗、対応するつもり。
が、収束粒子砲を遠距離から撃たれては手の出しようがない。
――ぱうっ……どかっ!
砲撃に命中したのはトラックの荷台ではなく、ストーンウォール。
「次は、倒す」
わざと直進していたアルバ、砲撃と同時にストーンウォールで身を隠し右にハンドルを切っていた。
ブラブロ、速度が速いのでそのまま通過する。
アルバの言葉は、バックミラー越しである。
こうして、初動対応はやや遅れたが多くの村人を助けることができた。
村は、物理的に壊滅した。
「ひとまずここに停車するね」
南那初華(kz0135)が魔導トラック「ピークレープ」を村の中心と思しき広場に止めた。
「結構人も集まってますね」
真田 天斗(ka0014)が早速助手席から降り、物珍しさに集まり遠巻きに見ている人たちに恭しく黙礼した。こういうのは最初が肝心だと言わんばかり。
「あ? 着いたのか?」
後部座席にごろんと寝ていたボルディア・コンフラムス(ka0796)がむくりと起き上がった。
「あは、もうちょっと寝てていいよ?」
「そういうわけにもいかんだろ。大熊倒すんだ。シャキッと起きて村人に安心してもらわねぇとなぁ」
気遣う初華にそう言うのは、ボルディア自身も魔導トラックで来ようと思っていたのに忘れてしまっていたのもある。これ以上だらけたところを見せられない。
そこに、別の魔導トラックが運転席側に横付けした。
「初華さ~ん、ここでいいの?」
助手席の窓からメルクーア(ka4005)が顔を出している。
「ううん。村長さんのおうちがどこだかわからないからまずはここに止めたの」
「まずまずの広さがあってクレープ販売には悪くないかもだよ」
説明する初華に、運転席の狐中・小鳥(ka5484)がハンドルに身を預けるようにして顔を覗かせた。小鳥は小柄で、彼女の魔導トラック(ka5484unit001) はごく普通の大きさ。艶やかな光沢の白いチャイナドレスを着た小鳥が対比でさらに小さく可愛らしく見える。
その小鳥の肩に、背後から優雅に飛び乗る猫が。
「あっ、トラオム。まだだめよ」
運転の邪魔になるから、と背後から両手を伸ばしたのは、夢路 まよい(ka1328)。小鳥の肩に飛び乗ってハンドル周りを興味津々で見ていたのは猫ではなく、まよいの連れて来たユグディラ、トラオム(ka1328unit001) だ。
トラオム、まよいに背後から抱かれてひょいと連れ去られる。残念もうちょっと運転席の操作を見たかったのに、と猫髭をへにょりとさせるトラオム。そんな様子に気付いてんもう、この子は、な感じのまよい。「あはは、別にいいんだよ」と乗っかられていた小鳥はむしろ楽しかった様子だったり。
そんな小鳥の運転席側のさらに横に、新たな魔導トラックが横付けした。
「よし。新車の慣らし運転も兼ねてだったが、いい感じだ」
運転するのはアルバ・ソル(ka4189)。魔導トラック(ka4189unit003)の調子の良さに気分も良好のようで。
その横から、ぴょんとウサギが飛び出した。後部座席からだ。
「シンジ、出るならこっちからなの」
同じく後部座席から札抜 シロ(ka6328)が両手を出す。飛び出してきたのは、彼女のユキウサギ、シンジ(ka6328unit001) 。
が、手品師助手を務めるだけあって、身のこなしは軽快。するりと主人の手をすり抜ける。シロ、どっしんとはいかないまでも座席に身を乗り出したままあわわとなる。「おっと」と手を添えるアルバのおかげで落ち着くが。
「シロさん、大丈夫ですか?」
助手席に座るリラ(ka5679)も身をひねって手を添えていた。
シンジはさらにリラの膝の上も通り過ぎ……。
「はわわ~、可愛い子がいっぱいだよ」
小鳥の歓声。
助手席の窓からひょいと顔を出していた。その横にはリラの連れて来たユグディラ、マーガレット(ka5679unit001) も一緒に顔を出している。小鳥がきゃっきゃと喜ぶ理由だ。
「でも……妖精さんなんだねー。ウサギはネコさん見るとぶるぶるふるえることもあるのに」
小鳥の疑問。あくまでユキウサギとユグディラである、ということである。
「さて、まずは挨拶するため村長さん探しよね?」
小鳥のトラックの助手席から、ぴょんとメルクーアが下りて初華に確認する。
「うん、そうだけどさすがにこの騒ぎだから村長さんの方から来るはずなんだけどね~」
行くって約束したし、とか初華も下りる。
「すいません。お約束していたPクレープの者ですが、村長様はいらっしゃいますか?」
「村長さんのお宅はもう少しあっちだけど、さすがにこの騒ぎだと飛んでくるでしょうねぇ」
向こうではすでに天斗が丁寧に村人に聞いていた。若い娘や年配の女性が集まってわいわいやっている。
後は待てばいいだけ感が漂い、皆がトラックから降りた時だった。
●
「うわあ、あれはなんだ?!」
突然、村の森側からそんな悲鳴が響いた。
「あら、暴れん坊大熊がもう出たのかしら?」
メルクーアがそちらを確認すると……。
――ぱうっ、どこーん……。
「……なんか、嫌な予感がするんだよ」
遠くで響く音に小鳥が汗たら~。
「明らかに大熊が暴れてるより酷い音がしてるの……」
シロ、背伸びして遠くを見ようとする。その足元で「僕も僕も~」という感じにシンジがぴょんぴょん。
「参ったな……」
アルバが双眼鏡で確認しようとしたが……。
覗くことなくすぐに双眼鏡を外して吠えたッ!
「奴か……! まさか、あの時の個体か?」
緊迫する瞳。
見詰める青空。
その先に……。
「うわっ。空飛ぶキノコが来たっ!」
逃げ惑う村人の声とともに、一気に空に浮かんだ大型のキノコの傘と、だらんと下がる軸二本を腕にした何かが飛んで来た!」
――たたたた、がしっ、ばこん、ぶおっ!
「うえええっ! ブラブロ!」
メルクーアがいま上空を過ぎ去った大型歪虚を見送って叫ぶ。振り向きこぼした「あの時倒しておけば!」の言葉の通り、以前アルバや初華たちと交戦したことのある歪虚だ。
名の付いた通り、茶色い噴射(ブラウン・ブロウ)をして、過ぎ去った彼方で方向転換をしている。
「オイオイオイオイ……話が違うぜこりゃぁ。平和な大熊退治じゃなかったのかよ?」
トラックから出たボルディアも一気に表が引き締まった。
「いや、熊退治も平和じゃないよぅ」
「はわわわ!? あれはどう見ても熊じゃないよね!? とりあえず村の人を逃さないとだよ! トラックに乗ってきてよかった」
初華の突っ込みに慌ててトラックに乗る小鳥。森の熊さんを退治に来たはずがどうしてこうなったんだろね、とドアを閉める。
その時、まよい。
箱入り娘は、見たッ!
「わ~、家みたいにでっかいキノコ!」
その言葉に発進をやめ窓から顔を出す小鳥。
「え? 確かに大きいけど家ほどは……」
小鳥と同時に振り向いたリラは。
「な、なんですか? あれ……」
おっとり少女も思わず息を飲む。胸に抱いていたマーガレットも飼い主と同じように目を見張り、猫髭ぴんっ。
――ずずずず……。
実際には音などしていないが、それだけの威圧感があった。
まるで大きな家のような、ブラブロよりさらに大きなキノコ型歪虚の巨体が近寄っていたのだ。
――こぉぉぉ、ぱうっ!
そして前方開口部より何かビーム状のものが出た!
どごぉぉ、と建物の倒壊する音と振動が響く。
「わっ、なんか撃ってきた! 危ないな~、もう」
まよい、ぷんすか。足元ではトラオムが右に左に跳ねまわりまよいにブンブンと両前脚を振っていたり。無邪気な飼い主に「逃げよう」と急かしているのか。
「歪虚と出会ってしまうとは……まったくついてない」
天斗も会話をやめて戻って来た。
「二匹目も熊じゃないのね」
「あれがそう見えるなら入院が必要です」
呟く初華に静かに言い放つ。
「まぁ…誰が相手だろうが、やるこたぁ変わらねぇけどな! トラック忘れたがメルクーア、あと頼む!」
天斗が「あんもう、ひどい」とか言ってる初華をいなしている隙にボルディアがデカい方へと走っていく。新手はブラブロより速度が遅い。後に判明するが、前方に小型のパルムがついているようなので「パルサラス」と名がついている。
「くそっ……。出会ったのが村じゃなければな」
「ここで戦うわけにはいきませんよね。村人の被害が酷いことになる」
呟くアルバに周りを見るリラ。
「さすがに村人助けて逃げるしかないでしょ?」
「こちらは熊用の装備ですし」
メルクーアの意見に天斗がバトラーグローブの手を見せながら同調。さすがに素手で空中のデカブツとはやり合えない。
「でも、どこに逃げるの?」
トラオムを抱き上げ首をひねるまよい。
どごっ、と反転して来たブラブロが村の入り口側の建物を壊しいまこの上を飛び去った。トラオム、早く逃げようと言わんばかりに胸に抱かれたままけっけっと後脚で空中を蹴っている。
「待って」
この時シロ、右腕を真横でくねらせた。セクシーサンタドレスという体に密着した服装で、真横の空中には何もないと思われたが、下から捻った手には一枚のトランプが握られていた。
「九時方面にダイヤ……水の流れがあるかもなの。一段低くなってるはずだし、いざとなれば潜れるの」
イッツショータイム。禹歩で吉方を占ったのだ。
「じゃ、村人を……」
「意外といませんね」
見回す小鳥に不審そうな天斗。
その時、さらに近寄ったパルサラスの一撃。
――どごっ、きゃ~っ!
「……どうして建物の中に?」
「とにかく急ごう。初華、このトランシーバーを使え」
不思議に思うリラ。アルバは予備の通信機器を初華に投げ渡した。
●
この時、ボルディア。
「野郎……、建物破壊を楽しんでやがんのか?」
ゆっくり近付くパルサラスを観察しつつ呟く。巨大胞子収束砲はいずれも建物を狙い、破壊している。どこに人がいるかとかは関係なさそうだ。
もちろん、敵の本当の狙いなど分からない。
分からないが……。
「分かるぜ、俺にゃあ……」
にやりと呟くボルディアの手に、宣花大斧――否。誰が呼んだか、『赫(アカ)』。
「壊すために壊してるってぇ面構えだ」
もちろん面などあってなきが如しだが、言わんとすることはそういうことだ。手にする宣花大斧の無骨な重さに通じるところが少しだけある。
――どごっ、きゃ~っ!
この時、新たな一撃。壊れた建物から多くの人が出て来た。
「何だと? 何でわざわざ建物の中に隠れてんだ?」
驚きつつ、命からがら逃げて来た村人に聞いた。
「く、熊が出たり何かが村を襲った時は建物の中に隠れるようにって通達が……」
「そういうことかッ!」
ボルディア、吠えた。
大熊被害が懸念された村だ。対策に建物に隠れることは正しい。
が、今回は同じ対策を取るとむしろ敵の的になってしまうのだ。
「すぐに皆に出ろと伝えろ。あいつらを村を壊す気だ。とにかく村から出ねぇと巻き添え食うぞ!」
「は、はいっ……でもどこに……」
「あっちに逃げて助けている者に聞けっ。……畜生、一発でも当てておきゃ時間稼ぎになるんだが」
ボルディア、悔しむ。
人を襲うため高度を下げれば武器も届くのだが、いまはそうでもない。避難を促すため各戸を回る。
「ええと……」
初華はトランシーバーを手にどこに行くか迷っていた。
「あ、初華さんは村の中央にいて、逃げてきた子供やお年寄りをトラックに誘導してほしいわ。んで、トラックが満員になる前に担当ドライバーを呼び戻してね」
メルクーアがそう言い残して走る。
「わたしも行ってくるんだよ」
小鳥も自分の魔導トラックを残して走った。初華を信頼したのだ。
「わ、私は……」
「それでは店長、行ってまいります」
それぞれ散る仲間に浮ついた初華だったが、天斗が静かに言ったことで落ち着いた。
「んもう。天斗さんまるで買い物にでも行くように……」
「買い物のコツも慌てないことです」
クールに言ってきびすを返す天斗だった。
たたたたん、とブラブロ通過とともにまき散らされる胞子砲。
「それでも建物の下敷きになるよりましなの」
シロが果敢に走っている。足元ではシンジーがぴょんこぴょんこと追走。
避難する村人を追い掛けているのだが、その人たちは集会所らしき建物に入って行った。割と大きく頑丈そうではあるが、パルサラスからの巨大胞子砲が炸裂。一気に半壊した。
「早く出て避難するの! 西の方向に行くといいの!」
屋根のない入り口からシロが叫ぶ。
「お、おう」
「でも……怖い」
逃げる者と怖がり動けない者がいる。
「この子が守ってあげるから西に走るの。……シンジ、ついて行っていざという時には守ってあげるの」
シロ、パシンとシンジに加護符を張りつけ座り込んだ女性たちの方に出す。
シンジ、わきゃもきゃとボディーランゲージをして走り出す。とにかく自分たちより小さな存在が懸命になっているのを見て勇気のわいた女性たちは意を決してシンジについて行く。
「あとは怪我をしている人……」
「私に任せてね。トラオム、お願い」
きょろ、とシロが見回したところへ、まよい到着。トラオムは主人から言われてぴょんぴょんけがでうずくまっている人の傍に行き、【げんきににゃ~れ!】の祈り。白い光で包み込み治療した。
「動転して立ち上がれない人は自分が」
天斗も来ている。
大きな体で片膝を付く姿に、すっかり弱気になり立ち上がれない人も手を差し出すことができた。
天斗、おぶって村の中央まで戻る。
こちら、アルバ。
「まずはここからだ」
魔導トラックのブレーキを踏み込みドリフトさせながら止めた。大きな瓦礫を回り込み壊された建物の正面に流れながらビタ止めする。
「行こう、マーちゃん!」
同乗していたリラがマーガレットを従え飛び出し半壊した建物に突っ込む。
「誰か! いませんか? 助けに来ました!」
歌で鍛えた腹式呼吸で腹の底からよく通る声で呼び掛ける。マーガレットもハンドベルを鳴らしながら周囲を駆け回る。
そのマーガレット、ふと鼻先を上げて巡らせた。すぐに駆け出す。
「マーちゃん、何?」
リラが追うと、瓦礫の下敷きになった男がいた。
「……俺はもういい。ここは危険だ。逃げろ」
「何を言ってるんですか!」
助けます、と瓦礫を押すリラ。剛力無双で動かす。下ではマーガレットはにゃんにゃん踊りつつ【げんきににゃ〜れ!】。
が、その瓦礫は別の瓦礫を支えていた。このまま撤去すると不味い。逆に支えるしかなくなった!
「リラ、そのまま動くな」
背後からの声にはっとするリラ。
直後、横にがしんと大きな体が突っ込んできた。
――がら……どしぃん。
第二の瓦礫、撤去。
「アルバ、ありがとう!」
リラ、自分の支えていた第一の瓦礫を安全に除去し感謝した。
「……家族はどうした?」
アルバ、頷くと微笑して下を向き、男を安心させる。
「先に逃した。頼む、妻や娘も無事に……」
「分かっている」
男を背負うアルバ。必ず皆救って見せる、との瞳の色は男に見せることもなかったが、支えた腕が、揺るがぬ背中が、そして立ち上がった力強さが男を安心させた。
●
その頃、メルクーア。
「あっ!」
ジェットブーツで西方面へと移動したところ、実際に小川があった。周辺より下がっているので、遠くから死角になる。
「シロさんの占い、さすがだわね~」
これなら空に少々浮いた位置から見ても発見できないはず、と引き返す。
「みんな、逃げるんなら西の川辺に逃げて~」
来るときは一直線だったが、戻るときは村の外にひとまず逃げた人に声を掛けつつ。
そして気付いた。
「馬があるじゃない。馬があるなら……」
目についた厩舎に寄り道する。
こちら、小鳥。
「動けない人はいないかな? 居たら私たちに教えてだよ。抱えて連れていってあげるから!」
各戸を回って声を掛けていた。
「こ、ここにいない方がいいの?」
「建物から壊されてるから、建物にはいないほうがいいって仲間から連絡が入ったんだよ」
怯える子供ににっこりと説明する。
「よ、よし、それじゃあ!」
「あっ、待ってだよ」
大人が腰を上げたところ、小鳥が制した。外の気配に気付いたのだ。
たたたた、と小型胞子砲の嵐が過ぎていく。ブラブロが通過したのだ。
「収まった!」
「行ってだよ!」
ここの家族と一緒に出る小鳥。
このころには、小鳥たちの声掛けを逃げる人が周りに伝えていた。建物から出る人が多い。
「皆、慌てず急いで逃げるんだよ! 走れない人達は村の中心に止めたトラックに。出来るだけ詰めて乗るんだよ。他の人が乗れるように」
そんな人たちに声を張る。
そこに、魔導トラックのクラクションが聞こえて来た。
「初華さんからの合図だね」
小鳥、戻る。
中央広場では、多くの人がトラックに集まっていた。すでに荷台にもすし詰め状態。
「小鳥さん。私のトラック、あまり乗せられなくてごめん」
初華がそれだけ言って出発した。
「ん、仕方ないんだよ。……皆乗ったかな? それじゃあ急いで行くからしっかり掴まってるんだよ! 大規模作戦の輸送任務で活躍したこの腕を活かす時だね♪」
小鳥もすぐさま乗り込んで追う。
「はいは~い。乗れなかった人はこっちですよん♪」
そこへ、メルクーアが馬車に乗って到着。
「馬があるなら馬車もあるでしょ。農村だし」
というわけで、村人有志が御者席に乗る馬車軍団を連れている。これで大量輸送ができる。
ところが。
「ハンターさん、でっかいのが来よるで!」
小鳥のトラックが村の外に出たところで、荷台に乗る人から注意報。
何と、ブラブロに気付かれたのだ。
「むぅ。大丈夫だと思うけど…あの攻撃を食らったらシャレにならないね。当たらないように煙幕発生なんだよー!」
スモーク展開。トラックの姿が隠れる。
その直前だった。
「あ、あれは撃ってくるで、でっかいの!」
「ん、それじゃあブーストもかけるよー! 乗ってる人は気をつけてね!」
ばすっ、とターボブースト。
直後に煙幕のあったところを収束胞子砲が薙ぎ払った。
これを後続のメルクーアが見ていた。
「危なかったわね~。あ、村の方に戻って行った」
こっちを狙われたらおしまいだわ、と緊張していたが、やはり第一目的は建物破壊だった様子。ブラブロ、深追いせずに村方面にターンしていた。
村は、すでにかなりの建物が壊されていた。
「ほかにいませんか!」
リラ、変わらず精力的に声を掛けて回っている。
「おかげでブラブロの位置が分かりやすいです……まよいさん、来ます!」
まよいに気付き、注意喚起。
その時、まよい。足元でトラオムがつんつん気を引いたことで状況に気付いていた。
「エクステンドレンジ……」
すぐにスタッフ「クレマーティオ」をかざし集中。背後に怪我した村人がいるぞ。
ブラブロ、来る!
「アースウォール!」
かなり手前に魔法の壁。
――たたたたん、どごっ!
「なるほど。手前に作って破片なんかを食らわないようにしたんですね」
傍に寄り感心するリラ。
そこに、コール。
「いま行くんだよ!」
小鳥である。
「トラオム。また攻撃が来たら知らせてね」
まよい自身はいつでもウィンがストを使える用意をしておく。
「大丈夫です。必ず皆助かりますから!」
リラは怪我人を励ます。リラの明るさとトラックが来る喜びが伝わり、怪我人も笑顔を返した。
「シンジ、待ってたの!」
シロも村の中に残っていた。シンジの帰りを村人数人と待っていたのである。
早速白い結界を張る。
「シロさ~ん」
ここで初華の魔導トラック、到着。
「発進はこの後なの」
村人を乗り込ませ、シンジに紅の結界を張らせる。
――たたたん。
ブラブロ、通過。射線を防ぎ胞子砲の乱射を確実に遮った。
「ん。初華さん、いいの!」
最後に乗り込む。初華、アクセル・オン。
●
「なかなか酔狂ですね」
天斗は瓦礫の中、すらりとこともなげに立っていた。初華の無事を確認し、改めて背後に聞く。
「おそらく最後に出番があるからな」
そこにはボルディアが立っていた。
背中合わせで歪虚を監視し、何かあれば駆けつける予定。
が、すでに村人の大半は避難完了。なぜそうしている?
「すでに建物はほぼ壊滅。農場も荒れています」
「脱出時に狙われるかもしれんってこった」
――ききっ。
「これで最後だ」
アルバである。自身の魔導トラックに数人の村人を乗せていた。
「でかい方の気は俺が引いとく」
「離脱したらすぐ引いてください」
天斗。それだけ言い残しアルバのトラックに乗った。
「上等」
ボルディア、ゆっくりと反転しているパルサラスに向かっていく。
「機動性が低く砲撃の威力が高すぎで狙いが雑なら何ももんだいねぇ!」
近付き、瓦礫を利用しジャンプ。
――どすっ。
長く巨大な斧を背後にぶち込んで、あとは逃げた。
「さすがに追ってきますね」
アルバのトラックの荷台では、天斗がチャクラムを回しつつ上空をうかがっていた。
ブラブロが気付いて接近しているのだ。何かあれば天斗、対応するつもり。
が、収束粒子砲を遠距離から撃たれては手の出しようがない。
――ぱうっ……どかっ!
砲撃に命中したのはトラックの荷台ではなく、ストーンウォール。
「次は、倒す」
わざと直進していたアルバ、砲撃と同時にストーンウォールで身を隠し右にハンドルを切っていた。
ブラブロ、速度が速いのでそのまま通過する。
アルバの言葉は、バックミラー越しである。
こうして、初動対応はやや遅れたが多くの村人を助けることができた。
村は、物理的に壊滅した。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/02/05 09:51:16 |
|
![]() |
相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/02/09 16:15:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/07 16:34:42 |