ゲスト
(ka0000)
ラブコールのかわりにシャンパンコール?
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/10 07:30
- 完成日
- 2017/02/16 19:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ダイヤお嬢さまは、このごろずいぶんと「よい子」でいらっしゃる。
……というのは、モンド邸の使用人たちの間ですっかり評判になっていた。
将来進む道について悩み続けているダイヤは、その悩みを自ら解決すべく、あらゆる分野について勉強をしているのだ。年明けの浮かれ気分もそこそこに、図書室に出入りしたり家庭教師を呼び寄せたりとそれはもう熱心であった。
その日も、ダイヤは食事の席にまで図鑑を持ち込んで広げていた。
「お嬢さま。熱心なのはよろしいですが、食事中はお控えください。お行儀が悪いです。それに、本も汚れます」
ダイヤ付きの使用人であるクロスが、パンの皿を重ねながらダイヤを睨んだ。
「ごめんなさい」
ダイヤは肩をすくめて図鑑をとじる。クロスが皿を片づけるために部屋を出て行くと、近くに控えていたメイドたちがやってきてひそひそと話をする。
「ねえねえ、お嬢さま。お忘れじゃないですよね?」
「へ? 何を?」
「バレンタインですよぅ!」
「えっ、もうそんな時期ー!?」
「まだもう少し先ですけれど、お嬢さまお得意の、ちょっと違うこと、をなさるなら、そろそろ準備を始めませんと」
うきうきと声を弾ませるメイドたちにつられて、ダイヤは久しぶりにわくわくした気持ちを胸に抱いた。
「そうねえ」
ぱあっと明るい顔になったダイヤに、メイドたちも嬉しそうだ。
「なんです、皆して」
クロスが戻ってきた。ダイヤの周りでわいわいしているメイドたちをたしなめつつ、運んできたデザートと紅茶をテーブルに置く。
「ねえねえ、クロス。今年のバレンタインはどうしようかしら」
うきうきを迸らせて前のめりになりつつ、ダイヤが言う。メイドたちはその瞬間「あっ訊いちゃうんだ!?」と思った。
「は? バレンタイン、ですか? どうする、もなにも、どうもしなくてよいのでは?」
「何言ってるのよー! せっかくのイベントなんだから楽しまなくちゃ。今年も節分に「金平糖まき」をしようと思ってたのにすっかり忘れちゃったし、バレンタインくらいは楽しみたいわ!」
ダイヤはデザートであるアップルパイに勢いよくフォークを突き刺しながら意気込む。ちなみに、「金平糖まき」とは、去年の節分にダイヤが考案した、豆まきのかわりのちょっとおかしな行事である。
「はあ。しかし、お嬢さま。バレンタインの意味をわかっておられますか? 自分が好意を持っている相手に、プレゼントする行事、ですよ? 一般的にはチョコレートが多いのでしたか」
「ええ、わかってるわよ。チョコレート、大好きだけどやっぱり一般的には、ってとこがねー」
「いえ、チョコレート云々の前にですね。お嬢さまには、プレゼントを差し上げる方、いらっしゃらないじゃないですか」
え。
これには、ダイヤも絶句した。メイドたちもそろって言葉を失う。
「はあ~~~~~~~~~~~~~~~!?」
「え? いらっしゃるんですか? お嬢さまがそんなにおモテになるとは存じ上げませんでした」
「ちょっと待って? クロス、本気で言ってるの?」
顔色ひとつ変えずしれっと言うクロスに、ダイヤは信じられないものを見たような目を向けた。
「あんた、去年、私からもらってるわよね、バレンタインのプレゼント?」
「ええ。まあ。……プレゼントと呼んで差し支えのないものだったかどうかはともかく」
「うっ」
ダイヤは去年のバレンタインを思い出して喉を詰まらせた。ダイヤが去年バレンタインに用意したのは、ビスケット味のキノコだ。
「いただいたからこそ、申し上げているのですよ、お嬢さま」
「どういう意味よ?」
「使用人にお義理で渡していただくのも結構ですが、お嬢さまも将来をお考えになるお歳ですし、きちんと、しかるべき相手に絞ってお渡しになった方がよろしいかと」
からかっていただけにみえたクロスの言葉が、急に真剣みを帯びて、ダイヤも真顔になる。しかし。
「……まあ、そんな相手がいればですが」
という一言が付け加えられたことによってぶち壊しになった。
「あんた、私を心配してんのかバカにしてんのかどっちなのよ!?」
そんなわけで。
「あったまきた~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
ダイヤは自室で絶叫した。
使用人である自分に思いをかけてはいけない、と言いたいのであろうクロスの気持ちも、わからなくはない。わからなくはないというところへ考えが及ぶくらいには、ダイヤも成長したのだ。だが。
「だからってあんな言い方ある!? 自分は受け取りませんしそもそも他に差し上げる方いないんですからバレンタインやめとけ、みたいなそんな言い方!?」
「まったくです!」
「失礼すぎますよ!」
メイドたちも同意して憤慨する。
「決めた!!! 今年はぜーったい、クロスにチョコあげないんだから!!! 泣いて頼んできたって絶対!!!」
「ええ、そうすべきですよ、お嬢さま! クロスさんが泣いて頼むことはまずありませんけど!」
「でも……、そうなると、今年はバレンタイン何もしないんですか?」
メイドのひとりが残念そうに眉を下げると、ダイヤも顔を曇らせた。
「うーん、それはちょっとつまらなさすぎるわよねー」
「じゃあお嬢さま、こんなのはいかがですか?」
一番年かさのメイドが、ぴっと人差し指を立てて提案した。
「イケメンをたーくさん集めて、ちやほやしてもらうんです」
「は? 何それ」
「まあ、いわゆる、ホストクラブです」
「はあー!? ホストクラブー!?」
ダイヤがぽっかりと口をあける。メイドたちは大盛り上がりだった。
「きゃーっ、いいアイディアです! 私、一度は体験してみたかったんですよねえ」
「こらこら、これはダイヤお嬢さまのために集まってもらうのよ」
「ねえ、どうせなら、ホストたちにたったひとつのお嬢さまからのチョコを争ってもらう、というのは?」
「いいわねえそれ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
さしものダイヤも困惑する案件が持ち上がってきた。メイドたちはすっかり乗り気だ。ダイヤの顔にぐ、と顔を近づけて問う。
「お嬢さま、イケメンにちやほやされたくないんですか?」
「え、されたいかされなくないかと訊かれれば、されたいけど……」
ダイヤはまだためらっている。
「大勢のイケメンから「ダイヤ様のチョコがほしい」と言わせたくありません!? そして、クロスさんを悔しがらせたくありません!?」
「クロスを……、悔しがらせる……」
それが、決め手になった。
「よーーーっし、やっちゃいましょ! ホストクラブ・ダイヤ、開店よっ!!!」
……というのは、モンド邸の使用人たちの間ですっかり評判になっていた。
将来進む道について悩み続けているダイヤは、その悩みを自ら解決すべく、あらゆる分野について勉強をしているのだ。年明けの浮かれ気分もそこそこに、図書室に出入りしたり家庭教師を呼び寄せたりとそれはもう熱心であった。
その日も、ダイヤは食事の席にまで図鑑を持ち込んで広げていた。
「お嬢さま。熱心なのはよろしいですが、食事中はお控えください。お行儀が悪いです。それに、本も汚れます」
ダイヤ付きの使用人であるクロスが、パンの皿を重ねながらダイヤを睨んだ。
「ごめんなさい」
ダイヤは肩をすくめて図鑑をとじる。クロスが皿を片づけるために部屋を出て行くと、近くに控えていたメイドたちがやってきてひそひそと話をする。
「ねえねえ、お嬢さま。お忘れじゃないですよね?」
「へ? 何を?」
「バレンタインですよぅ!」
「えっ、もうそんな時期ー!?」
「まだもう少し先ですけれど、お嬢さまお得意の、ちょっと違うこと、をなさるなら、そろそろ準備を始めませんと」
うきうきと声を弾ませるメイドたちにつられて、ダイヤは久しぶりにわくわくした気持ちを胸に抱いた。
「そうねえ」
ぱあっと明るい顔になったダイヤに、メイドたちも嬉しそうだ。
「なんです、皆して」
クロスが戻ってきた。ダイヤの周りでわいわいしているメイドたちをたしなめつつ、運んできたデザートと紅茶をテーブルに置く。
「ねえねえ、クロス。今年のバレンタインはどうしようかしら」
うきうきを迸らせて前のめりになりつつ、ダイヤが言う。メイドたちはその瞬間「あっ訊いちゃうんだ!?」と思った。
「は? バレンタイン、ですか? どうする、もなにも、どうもしなくてよいのでは?」
「何言ってるのよー! せっかくのイベントなんだから楽しまなくちゃ。今年も節分に「金平糖まき」をしようと思ってたのにすっかり忘れちゃったし、バレンタインくらいは楽しみたいわ!」
ダイヤはデザートであるアップルパイに勢いよくフォークを突き刺しながら意気込む。ちなみに、「金平糖まき」とは、去年の節分にダイヤが考案した、豆まきのかわりのちょっとおかしな行事である。
「はあ。しかし、お嬢さま。バレンタインの意味をわかっておられますか? 自分が好意を持っている相手に、プレゼントする行事、ですよ? 一般的にはチョコレートが多いのでしたか」
「ええ、わかってるわよ。チョコレート、大好きだけどやっぱり一般的には、ってとこがねー」
「いえ、チョコレート云々の前にですね。お嬢さまには、プレゼントを差し上げる方、いらっしゃらないじゃないですか」
え。
これには、ダイヤも絶句した。メイドたちもそろって言葉を失う。
「はあ~~~~~~~~~~~~~~~!?」
「え? いらっしゃるんですか? お嬢さまがそんなにおモテになるとは存じ上げませんでした」
「ちょっと待って? クロス、本気で言ってるの?」
顔色ひとつ変えずしれっと言うクロスに、ダイヤは信じられないものを見たような目を向けた。
「あんた、去年、私からもらってるわよね、バレンタインのプレゼント?」
「ええ。まあ。……プレゼントと呼んで差し支えのないものだったかどうかはともかく」
「うっ」
ダイヤは去年のバレンタインを思い出して喉を詰まらせた。ダイヤが去年バレンタインに用意したのは、ビスケット味のキノコだ。
「いただいたからこそ、申し上げているのですよ、お嬢さま」
「どういう意味よ?」
「使用人にお義理で渡していただくのも結構ですが、お嬢さまも将来をお考えになるお歳ですし、きちんと、しかるべき相手に絞ってお渡しになった方がよろしいかと」
からかっていただけにみえたクロスの言葉が、急に真剣みを帯びて、ダイヤも真顔になる。しかし。
「……まあ、そんな相手がいればですが」
という一言が付け加えられたことによってぶち壊しになった。
「あんた、私を心配してんのかバカにしてんのかどっちなのよ!?」
そんなわけで。
「あったまきた~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
ダイヤは自室で絶叫した。
使用人である自分に思いをかけてはいけない、と言いたいのであろうクロスの気持ちも、わからなくはない。わからなくはないというところへ考えが及ぶくらいには、ダイヤも成長したのだ。だが。
「だからってあんな言い方ある!? 自分は受け取りませんしそもそも他に差し上げる方いないんですからバレンタインやめとけ、みたいなそんな言い方!?」
「まったくです!」
「失礼すぎますよ!」
メイドたちも同意して憤慨する。
「決めた!!! 今年はぜーったい、クロスにチョコあげないんだから!!! 泣いて頼んできたって絶対!!!」
「ええ、そうすべきですよ、お嬢さま! クロスさんが泣いて頼むことはまずありませんけど!」
「でも……、そうなると、今年はバレンタイン何もしないんですか?」
メイドのひとりが残念そうに眉を下げると、ダイヤも顔を曇らせた。
「うーん、それはちょっとつまらなさすぎるわよねー」
「じゃあお嬢さま、こんなのはいかがですか?」
一番年かさのメイドが、ぴっと人差し指を立てて提案した。
「イケメンをたーくさん集めて、ちやほやしてもらうんです」
「は? 何それ」
「まあ、いわゆる、ホストクラブです」
「はあー!? ホストクラブー!?」
ダイヤがぽっかりと口をあける。メイドたちは大盛り上がりだった。
「きゃーっ、いいアイディアです! 私、一度は体験してみたかったんですよねえ」
「こらこら、これはダイヤお嬢さまのために集まってもらうのよ」
「ねえ、どうせなら、ホストたちにたったひとつのお嬢さまからのチョコを争ってもらう、というのは?」
「いいわねえそれ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
さしものダイヤも困惑する案件が持ち上がってきた。メイドたちはすっかり乗り気だ。ダイヤの顔にぐ、と顔を近づけて問う。
「お嬢さま、イケメンにちやほやされたくないんですか?」
「え、されたいかされなくないかと訊かれれば、されたいけど……」
ダイヤはまだためらっている。
「大勢のイケメンから「ダイヤ様のチョコがほしい」と言わせたくありません!? そして、クロスさんを悔しがらせたくありません!?」
「クロスを……、悔しがらせる……」
それが、決め手になった。
「よーーーっし、やっちゃいましょ! ホストクラブ・ダイヤ、開店よっ!!!」
リプレイ本文
その日、ダイヤは大広間への立ち入りを禁じられた。モンド邸のメイドたちによってである。
「えっ、えっ、どうしてよ!? ハンターの皆さん、もうすぐいらっしゃるんでしょ!?」
「ええ、いらっしゃいますよ。大丈夫です、私たちにお任せください。ホストクラブ・ダイヤ開店の準備が整いましたらすぐお呼びいたしますから。ほらほら、お部屋でお勉強でもなさっててくださいな」
そう言って自室へ押し込まれてしまった。が、それでおとなしく引き下がるダイヤではない。広間がダメならば、と、邸宅二階の廊下へ向かう。吹き抜けの玄関を見下ろせる位置だ。次々やってくるハンターたちの中には大伴 鈴太郎(ka6016)や小宮・千秋(ka6272)といった馴染みの顔もいくつかあり、ダイヤはホッとした。それと同時に、どうやら女性の参加者が多いらしいとわかって大きく安堵する。メイドたちの勢いに押されてホストクラブなんてものの開催を決めてしまったが、実のところまだ躊躇う気持ちがあったのである。ちょっと風変わりなバレンタインパーティだと思えばいい……、そんなふうに胸をなでおろしたダイヤであった。
一方。ハンターたちを出迎えたメイドたちは。
「皆さん、ダイヤお嬢さまのためにお集まりくださいましてありがとうございます! ナンバーワンホストに選ばれた方には、お嬢さまからチョコレートのプレゼントがございます! 頑張ってくださいませね!」
目を輝かせて張り切っていた。衣装の貸し出しを希望している面々を鏡の前に立たせ、こっちのスーツがいい、いやこっちだ、髪型はこうで、と実に楽しそうだ。
服装だけでなく、やはり体型も気にしなければならないとなると大変なのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。豊かな胸を押さえつけるため、サラシと呼ばれる白く長い布を身体に巻き付けてゆく。
「押さえつけるとなると、結構苦しいですね。ですが、男装する以上は仕方ありません」
エルが愚痴のように呟くのを聞いて、メイドも申し訳なさそうに眉を下げた。
「できるだけ呼吸がしやすいように巻いてございますので」
そんなエルの隣でメイドと少し揉めているのは、鈴太郎だ。
「だから、俺はトラチの介添えってことで……」
愛猫トラチを顔の前に高々と上げて首をすくめる。
「広間でどのようにされるかはご自由ですけれど、衣装は着ていただきたいんです」
メイドににこやかにそう言われ、鈴太郎は男装衣装を受け取った。着ること自体に抵抗があるわけではないらしい。
「うんうん、凛々しい感じになってきた」
骸香(ka6223)がメイドたちを手伝って獅子堂 灯(ka6710)のコーディネートをしていた。ネイビーを基調とした艶感のあるスーツがよく似合っている。長い髪はサイドに軽く編み込みを入れて後ろでひとつにまとめられた。
「そ、そうです、か……?」
灯は照れくさそうにしつつも嬉しそうだ。骸香はというと、自前の執事服を着崩して、すっかり接客に慣れたホスト然としている。
着替えを終え、ハンターたちは全員、ホストクラブ風に調度を整えられた広間に入った。
「これはいい! 存分にダイヤ君をおもてなしできそうだねっ」
イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が部屋をぐるりと見回し、うんうん、と頷く。実にいきいきしていた。そんなイルムとは対照的に、陰のある出で立ちなのがGacrux(ka2726)である。仮面で目元を隠し、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「タイプの違うホスト達が勢ぞろいですねぇ。見惚れてしまうわ~」
メイドのひとりがうっとりと呟く。
「さあ、そろそろダイヤお嬢さまをお迎えいたしますよ。皆さん、準備はよろしいですか?」
見惚れている若いメイドを小突いて、年かさのメイドが扉を開く。
「「「いらっしゃいませ、お嬢さま」」」
扉の向こうには、いつもより少しドレッシーなワンピースに身を包んだダイヤが、緊張の面持ちで立っていた。
そんなダイヤに、真っ先に近付いて行ったのはイルムだ。
「今日一日、ダイヤ君のお相手をさせていただくイルム=ローレ・エーレだ。親しみを込めてイルムと呼んでほしいなっ」
にこやかに挨拶し、何も持っていなかったはずの手にパッと薔薇を一輪出して見せる。その手品に、ダイヤはたちまち笑顔になり、薔薇を受け取った。
「ありがとう」
「さあ、お手をどうぞ。この特別な日を君と過ごしたいと皆が待っているよ」
イルムがずらりと立ち並んだハンターたち……いや、ホストたちに目を向けると、全員が示し合わせたようにお辞儀をした。エルは色っぽく、千秋は元気に、鈴太郎は……ぎこちなく。
イルムにエスコートされてダイヤがソファに腰を下ろすと、その隣に骸香がやってきた。
「ようこそ。オレ達に会いに来てくれて嬉しいよ」
しっとりとした口調に涼やかな目元で微笑まれて、ダイヤはどぎまぎと顔を赤くする。そのダイヤの顔を覗き込むようにイルムが尋ねた。
「まずは乾杯から。何が飲みたい?」
「あ、ええっと、アイスティー……。グラスはあそこに……」
皆にも飲み物を、とダイヤが腰を浮かしかけたのを、イルムは優しく制す。
「ノンノン。お客様は座ったまま。ボクが取ってきてあげよう」
「あ、はい……。そうか、お客様、か」
自宅の広間であるためか、自分がもてなされるということに違和感があるダイヤであった。そもそも、ダイヤはお嬢さまのくせにちやほやされ慣れていない。ひとえに、あの遠慮のない使用人の影響だ。
「ダイヤさん、どうぞ」
エルがアイスティーのグラスを差し出した。男装姿のエルは、女性の麗しさそのままに凛々しさが加わり、輝くばかりであった。ダイヤは礼を言ってグラスを受け取りつつ、エルの姿に見惚れる。
「とっても綺麗……」
「ありがとう。でも、ダイヤさんの方が可愛いですよ」
「そうですー。世界一可愛いダイヤさんのために、乾杯しましょー。かんぱーい」
千秋の音頭で乾杯が交わされ、グラスを打ち鳴らす音が華やかに響いた。
「あ、あの、皆さん、どうぞ座ってくださいね……」
自分のまわりを取り囲んでほとんどのホストたちが立ったままであることを気にしたダイヤがそう声をかけると、Gacruxがサッと跪いた。
「お気遣い、感謝します。さて。本日は、ホストのタイプはより取り見取り、お嬢様のお気に召す儘に楽しいひと時を過ごしましょう」
そのままダイヤの手を取り、甲に軽く口づける。上品な香りがふわりと立ち上って、ダイヤの顔がぱあっと紅潮した。恥ずかしい、けれど嬉しさもある、そんな表情で口をぱくぱくさせる。声は、むしろ出なくなってしまったようだ。
仮面に包帯、という怪人風の仮装にも見える出で立ちのGacruxは、愁いを帯びた微笑みで立ち上がると、一礼をして少し離れた席にもたれかかるようにして座った。実は彼は全身に重い傷を負っているのだが、突然の出来事に頭が沸騰してしまったダイヤは、少しも気が付かなかったとみえた。
「妬けてしまうな。ダイヤ嬢はおモテになられる」
すぐ隣で骸香が色っぽい流し目を作った。ええっと、ええっと、と動揺しきりのダイヤだったが、実は、ダイヤ以上に動揺している者がこの場にはいた。
「ええええええ何だ今のぉおおお!? あーゆーことしなきゃいけないのかよぉ!?」
鈴太郎である。
トラチをしっかと胸に抱きかかえ、全身をぶるぶる震わせ、耳が真っ赤だ。
「大丈夫ですか……?」
隣に立っていた灯が心配そうに鈴太郎の肩を支えた。実は灯も緊張していたのだが、自分以上の緊張や動揺を見せている鈴太郎を見て少し冷静になれたようだった。そしてその現象は、ダイヤにも起こっていた。落ち着きなくあわあわしていた動きを止めて、いつもの明るい笑い声をたて、鈴太郎を呼ぶ。
「やっだ、鈴さんてば! いつもの元気はどうしたの? こっちでお菓子食べましょ! トラチを私にも抱かせてよ!」
ダイヤに手招きされ、灯に付き添われた鈴太郎がふらふらとソファに腰を下ろした。トラチはすぐさま自分からダイヤの膝に移動し、にゃおん、とダイヤを見上げる。ダイヤが今日一番の歓声を上げてトラチを撫でた。
「ホストってなんだよダイヤ~! 事情は聞いたけどよぉ。あのクロスがマジでこんなンで悔しがンのかぁ……?」
「うん……、それに関しては、私もちょっと疑わしい所なんだけど……。でも! 今回は絶対、クロスから謝ってこない限り許さないんだから! 大体ねえ、もうちょっと思いやりを持つべきなのよ」
ダイヤはクロスのことを一度口に出してしまうと愚痴が止まらないらしく、どんどん喋り出した。それに「そうか、それは腹が立つだろうね」などと穏やかな相槌を打つのは灯だ。ときおりいいタイミングで飲み物やフルーツを勧める。お客様の鬱憤晴らしに付き合う、正しいホストの姿と言えた。
「さーて、盛り上がってきていることだし、ここでひとつゲームなどいかがかな?」
イルムがにこにこと提案した。
「王様ゲームならぬ王女様ゲームさっ。本来は王様役もくじ引きで決めるけれど、ダイヤ君は王女様で固定だからねっ。ホストだけが番号のくじを引こう」
どこに用意していたものだか、メイドたちがサッと棒の先に番号が振られた形のくじを差し出す。全員が一本ずつ引いて自分の番号を確かめた。
「さあ、ダイヤ君。番号は1から7までだよっ。お好きにご命令をどうぞ。ボクはダイヤ君の命令ならなんだってきいちゃうよっ」
「うーん、そうねえ……」
鈴太郎と灯相手に喋り倒して調子がついていたダイヤは、うきうき声を弾ませた。
「じゃあ、3番と5番の人、私を思いっきり褒めて頂戴!」
「3番はボクだねっ」
とイルム。
「5番はオレだ」
と骸香。
二人は意気揚揚とダイヤの両隣を陣取った。
「光にきらめく栗色の髪も素敵だね。お手入れは大変じゃないかい?」
「オレ達は皆可愛いダイヤ嬢に会いたくて此処に来たんですよ」
「その快活な笑顔はボクの心を掴んで離さない!」
「こんな可愛い人の隣にいられるなんて幸せだな」
「ああ! 君から特別なチョコレートを貰えたなら、それに勝る喜びなんてそうはないよ!」
「オレがあなたの一番になって、チョコレートをいただきたいな」
かわるがわる甘い褒め言葉をささやくふたりに、ダイヤはあっという間に降参した。これはダメだ。恥ずかしすぎる。
「きゃーっ、きゃーっ、ごめんなさい!」
褒められているというのになぜか謝るダイヤ。なんとかやめてもらうため、次の命令を出した。
「2番と6番で、ダンス!」
2番はエルで、6番は灯であった。エルは華やかに微笑んでびっくりしている灯の手を取った。
「ご指名、光栄ですわ」
「ええっ、ダンスなんてできるでしょうか……」
エルの優しいリードで、灯もぎこちなくではあるがステップを踏めていた。麗しく和やかな雰囲気になり、ダイヤもホッと一息つく。
「えーと、あとは1番と2番と7番よね。1番は犬の鳴きまね! 2番と7番は……、何かスペシャルな飲み物を用意して頂戴!」
ダイヤの命令の仕方も板についていきた。ホスト遊びにはまってしまわなければいいが、とエルが心中でこっそり心配する程度には、慣れてきている。
1番を引いていたGacruxは、座ったままでできる命令であったことに安堵しつつ、ひとつ微笑んでからクォーン、と実に上手く遠吠えを真似て見せた。ダイヤは、膝に乗せたままのトラチと共に目を丸くして拍手する。優雅にお辞儀をしてその拍手に応えるGacruxの振る舞いに、本気でドキリとさせられたりもしたようだ。
2番は鈴太郎、7番は千秋であった。
「スペシャルな飲み物ですかー。では、シャンパンはいかがでしょうかー。ホストにはシャンパンですよねー」
「でも、ダイヤは未成年だぞ?」
「ですから、アルコールの入っていないシャンパン風の飲み物ですよー。折角ですから、シャンパンタワーというやつをやってみましょー」
千秋がうきうき言うと、まるで打ち合わせでもしていたかのように、メイドたちがグラスをピラミッド状に積んだタワーを運んできた。
「やっぱりホストと言ったらこれですよお嬢さま!」
「……あんたたち、むちゃくちゃ楽しんでるわね?」
半眼になってメイドたちを睨むダイヤだったが、見事なグラスタワーには素直に感心した。
「よし、じゃ、注ぐぜ……。た、倒さねえようにしねえと……」
「ほいほーい、いきますよー」
鈴太郎と千秋がふたりで、シャンパン風のジュースをタワーの上から注いだ。一番上のグラスから溢れた金色の液体がグラスを伝ってどんどんタワー全体を満たしていく。グラスと液体が光に反射して、きらきらと眩しく輝いた。
「わぁっ、綺麗!」
ダイヤもシャンパンタワーに負けないくらい、両目を輝かせた。
「さて、お嬢さま。そろそろお開きのお時間ですが、どなたがナンバーワンホストかお決まりになりました? その方にチョコレートを差し上げて下さい」
メイドたちが本日のホストたちに頼み、一列に並んでもらっている。
「そういえば、そういうことになってたわね……。ねえ、どうしても一番をひとりだけ決めなくちゃいけないの?」
ダイヤは今日、全員に楽しませてもらったのだ。できれば誰かひとりだけを選ぶというようなことはしたくない。
「でも、折角チョコレートをご用意なさったじゃないですか」
「それもそうね……」
ダイヤは一列に並んだ七人の前に立つと、うーん、と思案顔になってから、よし、とひとつ頷いた。
「皆さん、今日は一日ありがとう。とっても楽しかったわ。今からひとりだけにチョコレートを渡すけど、全員の代表で受け取るのだと思っていただけると、とても嬉しいな」
ダイヤはそう言って、列の中央にいた骸香にチョコレートを手渡した。
「ありがとう、ダイヤ嬢」
最後まで色気たっぷりに微笑む骸香に、ダイヤはやはり顔を赤くしてしまうのだった。
チョコの贈呈も済み、「ホストクラブ・ダイヤ」は閉店となった。帰り際、エルがそっとダイヤに囁いた。
「お願いですから、こういったことは今回のようなお遊びの範疇に留めておいてくださいね」
「ええ」
ダイヤは笑って頷き、そしてエルにそっと囁き返した。
「とても楽しかったけど、やっぱり私、ちやほやされるのってちょっと居心地悪いわ」
エルとふたりで顔を見合わせ、くすくす笑いながら、ダイヤはどうも、何か忘れているような気がしていた。
そもそも、ホストクラブなんてやろうと思ったのは、なんでだっけ?
ダイヤとクロスの関係のねじれが解消するのは、まだ少し先の話になりそうである。
「えっ、えっ、どうしてよ!? ハンターの皆さん、もうすぐいらっしゃるんでしょ!?」
「ええ、いらっしゃいますよ。大丈夫です、私たちにお任せください。ホストクラブ・ダイヤ開店の準備が整いましたらすぐお呼びいたしますから。ほらほら、お部屋でお勉強でもなさっててくださいな」
そう言って自室へ押し込まれてしまった。が、それでおとなしく引き下がるダイヤではない。広間がダメならば、と、邸宅二階の廊下へ向かう。吹き抜けの玄関を見下ろせる位置だ。次々やってくるハンターたちの中には大伴 鈴太郎(ka6016)や小宮・千秋(ka6272)といった馴染みの顔もいくつかあり、ダイヤはホッとした。それと同時に、どうやら女性の参加者が多いらしいとわかって大きく安堵する。メイドたちの勢いに押されてホストクラブなんてものの開催を決めてしまったが、実のところまだ躊躇う気持ちがあったのである。ちょっと風変わりなバレンタインパーティだと思えばいい……、そんなふうに胸をなでおろしたダイヤであった。
一方。ハンターたちを出迎えたメイドたちは。
「皆さん、ダイヤお嬢さまのためにお集まりくださいましてありがとうございます! ナンバーワンホストに選ばれた方には、お嬢さまからチョコレートのプレゼントがございます! 頑張ってくださいませね!」
目を輝かせて張り切っていた。衣装の貸し出しを希望している面々を鏡の前に立たせ、こっちのスーツがいい、いやこっちだ、髪型はこうで、と実に楽しそうだ。
服装だけでなく、やはり体型も気にしなければならないとなると大変なのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。豊かな胸を押さえつけるため、サラシと呼ばれる白く長い布を身体に巻き付けてゆく。
「押さえつけるとなると、結構苦しいですね。ですが、男装する以上は仕方ありません」
エルが愚痴のように呟くのを聞いて、メイドも申し訳なさそうに眉を下げた。
「できるだけ呼吸がしやすいように巻いてございますので」
そんなエルの隣でメイドと少し揉めているのは、鈴太郎だ。
「だから、俺はトラチの介添えってことで……」
愛猫トラチを顔の前に高々と上げて首をすくめる。
「広間でどのようにされるかはご自由ですけれど、衣装は着ていただきたいんです」
メイドににこやかにそう言われ、鈴太郎は男装衣装を受け取った。着ること自体に抵抗があるわけではないらしい。
「うんうん、凛々しい感じになってきた」
骸香(ka6223)がメイドたちを手伝って獅子堂 灯(ka6710)のコーディネートをしていた。ネイビーを基調とした艶感のあるスーツがよく似合っている。長い髪はサイドに軽く編み込みを入れて後ろでひとつにまとめられた。
「そ、そうです、か……?」
灯は照れくさそうにしつつも嬉しそうだ。骸香はというと、自前の執事服を着崩して、すっかり接客に慣れたホスト然としている。
着替えを終え、ハンターたちは全員、ホストクラブ風に調度を整えられた広間に入った。
「これはいい! 存分にダイヤ君をおもてなしできそうだねっ」
イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が部屋をぐるりと見回し、うんうん、と頷く。実にいきいきしていた。そんなイルムとは対照的に、陰のある出で立ちなのがGacrux(ka2726)である。仮面で目元を隠し、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「タイプの違うホスト達が勢ぞろいですねぇ。見惚れてしまうわ~」
メイドのひとりがうっとりと呟く。
「さあ、そろそろダイヤお嬢さまをお迎えいたしますよ。皆さん、準備はよろしいですか?」
見惚れている若いメイドを小突いて、年かさのメイドが扉を開く。
「「「いらっしゃいませ、お嬢さま」」」
扉の向こうには、いつもより少しドレッシーなワンピースに身を包んだダイヤが、緊張の面持ちで立っていた。
そんなダイヤに、真っ先に近付いて行ったのはイルムだ。
「今日一日、ダイヤ君のお相手をさせていただくイルム=ローレ・エーレだ。親しみを込めてイルムと呼んでほしいなっ」
にこやかに挨拶し、何も持っていなかったはずの手にパッと薔薇を一輪出して見せる。その手品に、ダイヤはたちまち笑顔になり、薔薇を受け取った。
「ありがとう」
「さあ、お手をどうぞ。この特別な日を君と過ごしたいと皆が待っているよ」
イルムがずらりと立ち並んだハンターたち……いや、ホストたちに目を向けると、全員が示し合わせたようにお辞儀をした。エルは色っぽく、千秋は元気に、鈴太郎は……ぎこちなく。
イルムにエスコートされてダイヤがソファに腰を下ろすと、その隣に骸香がやってきた。
「ようこそ。オレ達に会いに来てくれて嬉しいよ」
しっとりとした口調に涼やかな目元で微笑まれて、ダイヤはどぎまぎと顔を赤くする。そのダイヤの顔を覗き込むようにイルムが尋ねた。
「まずは乾杯から。何が飲みたい?」
「あ、ええっと、アイスティー……。グラスはあそこに……」
皆にも飲み物を、とダイヤが腰を浮かしかけたのを、イルムは優しく制す。
「ノンノン。お客様は座ったまま。ボクが取ってきてあげよう」
「あ、はい……。そうか、お客様、か」
自宅の広間であるためか、自分がもてなされるということに違和感があるダイヤであった。そもそも、ダイヤはお嬢さまのくせにちやほやされ慣れていない。ひとえに、あの遠慮のない使用人の影響だ。
「ダイヤさん、どうぞ」
エルがアイスティーのグラスを差し出した。男装姿のエルは、女性の麗しさそのままに凛々しさが加わり、輝くばかりであった。ダイヤは礼を言ってグラスを受け取りつつ、エルの姿に見惚れる。
「とっても綺麗……」
「ありがとう。でも、ダイヤさんの方が可愛いですよ」
「そうですー。世界一可愛いダイヤさんのために、乾杯しましょー。かんぱーい」
千秋の音頭で乾杯が交わされ、グラスを打ち鳴らす音が華やかに響いた。
「あ、あの、皆さん、どうぞ座ってくださいね……」
自分のまわりを取り囲んでほとんどのホストたちが立ったままであることを気にしたダイヤがそう声をかけると、Gacruxがサッと跪いた。
「お気遣い、感謝します。さて。本日は、ホストのタイプはより取り見取り、お嬢様のお気に召す儘に楽しいひと時を過ごしましょう」
そのままダイヤの手を取り、甲に軽く口づける。上品な香りがふわりと立ち上って、ダイヤの顔がぱあっと紅潮した。恥ずかしい、けれど嬉しさもある、そんな表情で口をぱくぱくさせる。声は、むしろ出なくなってしまったようだ。
仮面に包帯、という怪人風の仮装にも見える出で立ちのGacruxは、愁いを帯びた微笑みで立ち上がると、一礼をして少し離れた席にもたれかかるようにして座った。実は彼は全身に重い傷を負っているのだが、突然の出来事に頭が沸騰してしまったダイヤは、少しも気が付かなかったとみえた。
「妬けてしまうな。ダイヤ嬢はおモテになられる」
すぐ隣で骸香が色っぽい流し目を作った。ええっと、ええっと、と動揺しきりのダイヤだったが、実は、ダイヤ以上に動揺している者がこの場にはいた。
「ええええええ何だ今のぉおおお!? あーゆーことしなきゃいけないのかよぉ!?」
鈴太郎である。
トラチをしっかと胸に抱きかかえ、全身をぶるぶる震わせ、耳が真っ赤だ。
「大丈夫ですか……?」
隣に立っていた灯が心配そうに鈴太郎の肩を支えた。実は灯も緊張していたのだが、自分以上の緊張や動揺を見せている鈴太郎を見て少し冷静になれたようだった。そしてその現象は、ダイヤにも起こっていた。落ち着きなくあわあわしていた動きを止めて、いつもの明るい笑い声をたて、鈴太郎を呼ぶ。
「やっだ、鈴さんてば! いつもの元気はどうしたの? こっちでお菓子食べましょ! トラチを私にも抱かせてよ!」
ダイヤに手招きされ、灯に付き添われた鈴太郎がふらふらとソファに腰を下ろした。トラチはすぐさま自分からダイヤの膝に移動し、にゃおん、とダイヤを見上げる。ダイヤが今日一番の歓声を上げてトラチを撫でた。
「ホストってなんだよダイヤ~! 事情は聞いたけどよぉ。あのクロスがマジでこんなンで悔しがンのかぁ……?」
「うん……、それに関しては、私もちょっと疑わしい所なんだけど……。でも! 今回は絶対、クロスから謝ってこない限り許さないんだから! 大体ねえ、もうちょっと思いやりを持つべきなのよ」
ダイヤはクロスのことを一度口に出してしまうと愚痴が止まらないらしく、どんどん喋り出した。それに「そうか、それは腹が立つだろうね」などと穏やかな相槌を打つのは灯だ。ときおりいいタイミングで飲み物やフルーツを勧める。お客様の鬱憤晴らしに付き合う、正しいホストの姿と言えた。
「さーて、盛り上がってきていることだし、ここでひとつゲームなどいかがかな?」
イルムがにこにこと提案した。
「王様ゲームならぬ王女様ゲームさっ。本来は王様役もくじ引きで決めるけれど、ダイヤ君は王女様で固定だからねっ。ホストだけが番号のくじを引こう」
どこに用意していたものだか、メイドたちがサッと棒の先に番号が振られた形のくじを差し出す。全員が一本ずつ引いて自分の番号を確かめた。
「さあ、ダイヤ君。番号は1から7までだよっ。お好きにご命令をどうぞ。ボクはダイヤ君の命令ならなんだってきいちゃうよっ」
「うーん、そうねえ……」
鈴太郎と灯相手に喋り倒して調子がついていたダイヤは、うきうき声を弾ませた。
「じゃあ、3番と5番の人、私を思いっきり褒めて頂戴!」
「3番はボクだねっ」
とイルム。
「5番はオレだ」
と骸香。
二人は意気揚揚とダイヤの両隣を陣取った。
「光にきらめく栗色の髪も素敵だね。お手入れは大変じゃないかい?」
「オレ達は皆可愛いダイヤ嬢に会いたくて此処に来たんですよ」
「その快活な笑顔はボクの心を掴んで離さない!」
「こんな可愛い人の隣にいられるなんて幸せだな」
「ああ! 君から特別なチョコレートを貰えたなら、それに勝る喜びなんてそうはないよ!」
「オレがあなたの一番になって、チョコレートをいただきたいな」
かわるがわる甘い褒め言葉をささやくふたりに、ダイヤはあっという間に降参した。これはダメだ。恥ずかしすぎる。
「きゃーっ、きゃーっ、ごめんなさい!」
褒められているというのになぜか謝るダイヤ。なんとかやめてもらうため、次の命令を出した。
「2番と6番で、ダンス!」
2番はエルで、6番は灯であった。エルは華やかに微笑んでびっくりしている灯の手を取った。
「ご指名、光栄ですわ」
「ええっ、ダンスなんてできるでしょうか……」
エルの優しいリードで、灯もぎこちなくではあるがステップを踏めていた。麗しく和やかな雰囲気になり、ダイヤもホッと一息つく。
「えーと、あとは1番と2番と7番よね。1番は犬の鳴きまね! 2番と7番は……、何かスペシャルな飲み物を用意して頂戴!」
ダイヤの命令の仕方も板についていきた。ホスト遊びにはまってしまわなければいいが、とエルが心中でこっそり心配する程度には、慣れてきている。
1番を引いていたGacruxは、座ったままでできる命令であったことに安堵しつつ、ひとつ微笑んでからクォーン、と実に上手く遠吠えを真似て見せた。ダイヤは、膝に乗せたままのトラチと共に目を丸くして拍手する。優雅にお辞儀をしてその拍手に応えるGacruxの振る舞いに、本気でドキリとさせられたりもしたようだ。
2番は鈴太郎、7番は千秋であった。
「スペシャルな飲み物ですかー。では、シャンパンはいかがでしょうかー。ホストにはシャンパンですよねー」
「でも、ダイヤは未成年だぞ?」
「ですから、アルコールの入っていないシャンパン風の飲み物ですよー。折角ですから、シャンパンタワーというやつをやってみましょー」
千秋がうきうき言うと、まるで打ち合わせでもしていたかのように、メイドたちがグラスをピラミッド状に積んだタワーを運んできた。
「やっぱりホストと言ったらこれですよお嬢さま!」
「……あんたたち、むちゃくちゃ楽しんでるわね?」
半眼になってメイドたちを睨むダイヤだったが、見事なグラスタワーには素直に感心した。
「よし、じゃ、注ぐぜ……。た、倒さねえようにしねえと……」
「ほいほーい、いきますよー」
鈴太郎と千秋がふたりで、シャンパン風のジュースをタワーの上から注いだ。一番上のグラスから溢れた金色の液体がグラスを伝ってどんどんタワー全体を満たしていく。グラスと液体が光に反射して、きらきらと眩しく輝いた。
「わぁっ、綺麗!」
ダイヤもシャンパンタワーに負けないくらい、両目を輝かせた。
「さて、お嬢さま。そろそろお開きのお時間ですが、どなたがナンバーワンホストかお決まりになりました? その方にチョコレートを差し上げて下さい」
メイドたちが本日のホストたちに頼み、一列に並んでもらっている。
「そういえば、そういうことになってたわね……。ねえ、どうしても一番をひとりだけ決めなくちゃいけないの?」
ダイヤは今日、全員に楽しませてもらったのだ。できれば誰かひとりだけを選ぶというようなことはしたくない。
「でも、折角チョコレートをご用意なさったじゃないですか」
「それもそうね……」
ダイヤは一列に並んだ七人の前に立つと、うーん、と思案顔になってから、よし、とひとつ頷いた。
「皆さん、今日は一日ありがとう。とっても楽しかったわ。今からひとりだけにチョコレートを渡すけど、全員の代表で受け取るのだと思っていただけると、とても嬉しいな」
ダイヤはそう言って、列の中央にいた骸香にチョコレートを手渡した。
「ありがとう、ダイヤ嬢」
最後まで色気たっぷりに微笑む骸香に、ダイヤはやはり顔を赤くしてしまうのだった。
チョコの贈呈も済み、「ホストクラブ・ダイヤ」は閉店となった。帰り際、エルがそっとダイヤに囁いた。
「お願いですから、こういったことは今回のようなお遊びの範疇に留めておいてくださいね」
「ええ」
ダイヤは笑って頷き、そしてエルにそっと囁き返した。
「とても楽しかったけど、やっぱり私、ちやほやされるのってちょっと居心地悪いわ」
エルとふたりで顔を見合わせ、くすくす笑いながら、ダイヤはどうも、何か忘れているような気がしていた。
そもそも、ホストクラブなんてやろうと思ったのは、なんでだっけ?
ダイヤとクロスの関係のねじれが解消するのは、まだ少し先の話になりそうである。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/10 00:44:09 |
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ホストクラブ・ダイヤ イルム=ローレ・エーレ(ka5113) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/02/10 05:02:43 |