ゲスト
(ka0000)
【万節】祝祭前夜の郷土料理?
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/15 09:00
- 完成日
- 2014/10/25 03:12
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある隊商の野営
その荷馬車は、例年通りピースホライズンの万霊節で使う大量の小麦粉を満載、ゾンネンシュトラール帝国を一路南西に向かう。
そして、明日はいよいよ帝国側のピースホライズンへの入り口であるフィステンタール・ブリュッケ州へと荷馬車が入る日の夕暮。
荷馬車はフィステンタール・ブリュッケ州と、メーアーシュレスヴィヒ州の州境付近で到着前の最後の野営を行っていた。
「そういえば……西の方に来るのは始めてかな」
護衛に着いていた、スチームパンク風のゴーグルとドレス姿のエルフの少女は野営を手伝いながらまだ見ぬピースホライズンに思いを馳せた。
彼女の名はエーブルグリューネ。またはエリネ。れっきとしたエルフハイム出身のエルフだ。
そして、エルフハイム……帝国側の呼び方ではエルヴィンバルトは、ピースホライズンへ繋がるフィステンタール・ブリュッケ州のすぐ隣の州である。
だが、エリネが故郷の西側に足を延ばすのはこれが最初であったのだ。
「そのホウトウ、というのが美味いそうだ」
と、黄昏時にもの思いに耽っていたエリネの耳に、商人たちの会話が聞こえて来た。
「まあ、俺もそのリアルブルーから来たハンターに聞いただけなんだが、まず小麦粉を太目の麺にするみたいだ。面倒だったらクネーデルのように丸めるだけでも良い。それを南瓜と一緒に煮込むんだ。南瓜の甘味が決め手らしい」
「つまりは、リアルブルー風のクネーデルズッペか」
クネーデルとは小麦粉や肉などを団子状にしたもの。そして、ズッペとはスープである。
「面白そうですね。今夜はそれにしてみます?」
何しろ、運んでいるのが小麦なので材料には困らない。
「でも、南瓜はどうしましょうか……? 私、林檎ならまだ一杯持っているんですけど……」
ここで、会話に参加したエリネは首を傾げて見せた。
だが、商人の一人が何か答えるより早く、周囲の安全確認に出ていたハンターの叫び声が聞こえた!
「南瓜だ! 南瓜の雑魔が出たぞー!」
野営地点の近くにあった林の奥。
かつては畑だったらしい空き地で蔦を蠢かせる雑魔とハンターたちが睨みあう。
「あの雑魔は……まだ歪虚になって間もないです! 今倒せば周囲のマテリアルを急速に吸収して美味しくなります! 私、エルフだから解るんですっ!」
目を輝かせて妙に力説するエリネであった。
その荷馬車は、例年通りピースホライズンの万霊節で使う大量の小麦粉を満載、ゾンネンシュトラール帝国を一路南西に向かう。
そして、明日はいよいよ帝国側のピースホライズンへの入り口であるフィステンタール・ブリュッケ州へと荷馬車が入る日の夕暮。
荷馬車はフィステンタール・ブリュッケ州と、メーアーシュレスヴィヒ州の州境付近で到着前の最後の野営を行っていた。
「そういえば……西の方に来るのは始めてかな」
護衛に着いていた、スチームパンク風のゴーグルとドレス姿のエルフの少女は野営を手伝いながらまだ見ぬピースホライズンに思いを馳せた。
彼女の名はエーブルグリューネ。またはエリネ。れっきとしたエルフハイム出身のエルフだ。
そして、エルフハイム……帝国側の呼び方ではエルヴィンバルトは、ピースホライズンへ繋がるフィステンタール・ブリュッケ州のすぐ隣の州である。
だが、エリネが故郷の西側に足を延ばすのはこれが最初であったのだ。
「そのホウトウ、というのが美味いそうだ」
と、黄昏時にもの思いに耽っていたエリネの耳に、商人たちの会話が聞こえて来た。
「まあ、俺もそのリアルブルーから来たハンターに聞いただけなんだが、まず小麦粉を太目の麺にするみたいだ。面倒だったらクネーデルのように丸めるだけでも良い。それを南瓜と一緒に煮込むんだ。南瓜の甘味が決め手らしい」
「つまりは、リアルブルー風のクネーデルズッペか」
クネーデルとは小麦粉や肉などを団子状にしたもの。そして、ズッペとはスープである。
「面白そうですね。今夜はそれにしてみます?」
何しろ、運んでいるのが小麦なので材料には困らない。
「でも、南瓜はどうしましょうか……? 私、林檎ならまだ一杯持っているんですけど……」
ここで、会話に参加したエリネは首を傾げて見せた。
だが、商人の一人が何か答えるより早く、周囲の安全確認に出ていたハンターの叫び声が聞こえた!
「南瓜だ! 南瓜の雑魔が出たぞー!」
野営地点の近くにあった林の奥。
かつては畑だったらしい空き地で蔦を蠢かせる雑魔とハンターたちが睨みあう。
「あの雑魔は……まだ歪虚になって間もないです! 今倒せば周囲のマテリアルを急速に吸収して美味しくなります! 私、エルフだから解るんですっ!」
目を輝かせて妙に力説するエリネであった。
リプレイ本文
「く……あう……」
街道沿いの林の中、かつては畑であったと思しき一画にアルフィ(ka3254)の苦悶の声が響いた。
「は……放してよっ!」
必死にもがくアルフィだが、暴れれば暴れるほど細いが強靭な緑色の蔦がその白い肌に食い込んで締め上げる。
いや、アルフィばかりではない。他の仲間たちもほとんどが緑色の南瓜の蔦に絡め取られてもがいていた。
何故このような事態になってしまったのか。
デーモン・キュルビス(悪魔の南瓜)の蔦は畑全域に広がっており、踏み込んだハンターたちは次々と捕えられてしまったのだ。
無論、剣で切り払おうとした者もいたが、触手の数は余りに多い。頭上から襲い掛かる触手を切り払う間に、足を絡め取られるなどされると回避は困難であった。
「や、やだ……くすぐったいよっ……え?」
衣装のせいで剥き出しのおなかを。蔦が這い回る感触に顔を顰めたアルフィであったが突如、眼前に突き出されたものにさあっと蒼褪める。
「な……なに……?」
それは、艶やかに輝き、いかにも固そうで反り返っていた……。
「アルフィさん、危ない!」
絶体絶命の危機が迫ったその時、鋭い叫びと共にカニリア・ログ(ka3340)が光り輝く魔法の弾丸を放った。
放たれた光球は見事それに着弾。オレンジ色の表皮を弾けさせ、白……に近い、薄い緑の中身と、まだ未成熟な種子を飛び散らせる。
「食べごろそうに見えたのですが、ちょっと残念ですね」
真田 天斗(ka0014)が呟く。
「僕も出来るだけ実は傷つけたくなかったのですが……アルフィさんを助けるためでしたから仕方が無いですね……随分太くて長い形でしたが、アレも南瓜だったんですか?」
「南瓜にはいろいろな種類がありますからね。ああいう長いものもありますよ」
料理が得意なせいか南瓜に着いて語る天斗。あなたたち、縛られているの、解っている?
「南瓜……ほうとうかぁ、俺、食べた事無いんだよね。楽しみ! ……て、先ずは雑魔を倒して、美味しい南瓜手に入……安全を確保しないとね!」
唯一、蔦を切り払う事に集中していて、拘束を免れていた鈴木悠司(ka0176)はようやく周囲の蔦を斬り終えると、近くにいたカミーユ・鏑木(ka2479)に巻きついていた蔦を剣で切断。まずは鏑木を解放する。
鏑木はぱんぱんと服の埃を払いながら苦笑する。
「カッコ悪いとこ見せちゃったわね……アリガト、悠司ちゃん! さぁ雑魔ちゃん、覚悟は良いわね? ディナータイムよ! あたし達の胃袋へいらっしゃ━щ(゚д゚щ)━い!!」
「良くもやってくれたなっ! お返しだっ!」
アルフィも、カニリア同様ホーリーライトで雑魔を攻撃。
「美味しそうな南瓜で何てことをするんですかっ!」
エリネも猛然と矢を射かける。
だが、遠距離攻撃を受けた雑魔も黙ってはいなかった。お返しとばかりに蔦の先に実っていた堅そうな実を切り離すと、それを蔦で掴んで次々と投げ飛ばして来た。
「んもうっ、子供じゃないんだから木の実投げるなよー!」
慌てて盾で実を防ぐアルフィ。
「当たったら痛そうだね、でも!」
一方、悠司は飛んで来た南瓜を見事に剣で両断。
「何て勿体無いことを!」
憤慨しつつ、ロッドで投げつけられた南瓜を砕くカニリア。
だが、南瓜は間断無く投げ続けられる。三人は段々と疲弊し始め、反応し切れなくなって来た。
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
ここで鏑木が核に向かって前進を始めた。
雑魔も、鏑木が近付いて来るのを見ると、彼にだけ南瓜を投げ出した。
「わわわ! カミーユお兄さん、怪我しないでねっ!」
集中砲火を浴びる鏑木のダメージを少しでも減らそうと、鏑木をマテリアルで保護するアルフィ。
「ありがとー、アルフィちゃん……ぐふぅっ!?」
鏑木が笑顔でアルフィに手を振った瞬間、南瓜がその顔面に直撃、鏑木はそのまま上半身を仰け反らせる。
「鏑木さん、大丈夫!?」
悠司が心配そうに声をかけるが、返事はない。しかし、良く見ると鏑木はプルプルと体を震わせている。そして――。
「何人様の柔肌に傷つけてくれてるんじゃ、ごるぁぁぁぁーっ!」
突如激昂した鏑木は、最早南瓜など無視して一直線に核へと突っ込んだ!
これはヤバいと判断したのか、雑魔は畑中に伸ばしていた触手を自身の前に集めると、鏑木へと襲い掛からせる。
「邪魔くさいんじゃあああああああああ!」
それを次々とバルディッシュで切り払う鏑木。しかし、蔦の数は多く――
「! 捕まったぁ!?」
再び、蔦が鏑木の両手を捕える。雑魔は喜々として牙の生えた口を開いた。このまま鏑木を噛み殺そうというのだろう。
「これは、もし食べられるとしても食欲が湧きませんね」」
その時、突然南瓜の核の横から天斗の声が響いた。雑魔の核は慌ててそっちを向こうとするが、その前にマテリアルによって柔軟性を高めた天斗のしなやかな体が必殺のストレートを繰り出した。
なす術も無く、人間で言えば頬に当たる位置にパンチを受けた雑魔の核は無残に砕け体液を撒き散らす。
「やったね!」
大喜びする悠司。そう、雑魔の蔦がほとんど鏑木に集中して手薄になった隙に、悠司が天斗を蔦から解放したのである。
そして、雑魔が鏑木に気を取られている隙に、天斗が核に接近したのだ。
他の仲間も次々と歓声を上げる中、空き地中から黒い塵が立ち昇り雑魔は跡形も無く消滅していった。そして、後には良く熟れたオレンジ色の南瓜が、たわわに実っていた。
●
戦闘終了後、カニリアは以前聞いた話から「ほうとう」には欠かせないと言われる「味噌」がないか商人たちに尋ねていた。
「いや、確かにリゼリオに行けばその味噌とやらもあるだろう。だが、今回の荷物には入っていないなあ」
申し訳なさそうに答える商人の一人。
「そうですか……」
しょんぼりとするカニリア。
「塩と胡椒は大丈夫かなっ?」
心配になったのか、確認するアルフィ。
「それは流石にあるさ」
商人が笑顔で応じる。
「では、牛乳はどうでしょうか? それとバターも……」
続いて天斗が質問する。
「そういうのは、機導術による保冷が出来るならともかく、生の状態ではそんなに長持ちはしないからな……チーズなら、俺達の食料として持って来ているが」
これを聞いていたエリネは苦笑した。
「やっぱり、旅の途中で変わったものを作るとなると色々大変ですね。「ホウトウ」は難しいかなあ」
だが、天斗はエリネに向かってにっこりと微笑んで見せた。
「ご安心ください。ほうとう麺を使い野菜を煮ればそれはほうとうなんですよ。そう、限られた食材で最高の食事をお出ししてこその派遣執事。お任せを、エーブルグリューネ様」
「ひゃ……ひゃいっ? よ、よく解りませんけどすみませんでしたっ!」
突然、敬語で話しかけられたのに驚いたのか、慌ててしまうエルフ。
「しかし、牛乳がないとなると……」
と、ここで天斗は鏑木に目配せした。
「そうね。ビールはあるかしら? それと干し肉も」
すると、商人は満面の笑みを浮かべる。
「俺達は帝国人だぜ!? ビールなら勿論あるさ! それと保存用の塩漬け肉なら一樽ある」
「……これなら、何とかなりそうですね」
微笑して、ぐっと腕まくりする天斗であった。
●
先ずは麺の準備からである。
「ほうとう麺は元々小麦粉と水だけで作られるのです。ここでは原型に近い形で作ってみましょう」
と、天斗が指示。それに従って小麦粉が練られ、生地が出来た。
だが、問題はここからである。
カニリアとアルフィ、そしてエリネの三人が、麺作りをすることになったが、やはり慣れない作業で苦戦していた。
それでも、カニリアとエリネは何とか上手く麺を切り揃えられていたが、アルフィの麺は明らかに長さも厚さも不揃いだ。
「ごめんなさい……」
しょんぼりするアルフィをエリネが優しく慰める。
「全然大丈夫だよ、でも麺が難しいならクネーデルにしても……あれ、このオレンジ色の生地は何?」
ふと、アルフィの側に置いてあった生地に気付くエリネ。
「あ、それはね。南瓜を練り込んでみたら、オレンジと白で見た目も綺麗になって美味しそうだと思ったんだけど……」
と答えるアルフィ。
「そうだよねっ! きっと味も美味しいと思うよ! 頑張って作ろうっ!」
「う、うんっ! えへへ、ありがとう、エリネお姉さんっ!」
「お、お姉さん……? な、何だかエルフハイムにいる妹を思い出しちゃうなぁ、えへっ」
にへらっ、と笑うエリネ。一方、アルフィはびっくりする。
「エリネお姉さんはエルフハイム出身なの? わ、ボクと同じだね!」
こうして、二人が和気藹々としている頃、鏑木と悠司も準備を進めていた。
「それにしても、こんな所でダディ(日本人)の国の料理を耳にするとは思わなかったわ(∩´∀`)∩! ホウトウ、久しぶりだから、楽しみだわぁ……(^p^)」
「へぇ、これが帝国のビールか……うんっ! 凄く美味しい! これなら美味しく出来そうだねっ」
料理のついでとばかり、樽からビールをもらう悠司。
「そうだろうよ。よく他の国の商人どもは陰口を叩くが、ビールだけはそうそうひけは取らねえからな!」
自国の名物が褒められて、商人も悪い気はしない様だ。
「ちょと、悠司ちゃん! 料理に使うんだからそんなに飲まないのっ!」
ぷんぷんする鏑木。しかし、良く見るとその口元には……。
「……鏑木さん、その泡はなに?」
にっこり笑って聞き返す悠司。
「え……あ、あら、何かしらね~!」
惚けようとして無理矢理口笛を吹く鏑木。
「それに、僕だって飲んでばかりじゃないよ? 現場監督! というのは冗談で……ほらっ」
笑顔で目の前の野菜を指さす悠司。そこには、綺麗に皮を剥かれたじゃがいもや玉ねぎが積み上げられていた。
更に、南瓜も丁度良い大きさに丁寧に切り分けられている。
「あらっ、凄いじゃない! これなら美味しく食べられそうね~! さあ、野菜は用意出来たわ!」
鏑木は喜ぶと材料がそろった事を伝える。
「それでは、出汁を作りましょうか……あ、待って下さいっ」
天斗は、アルフィがいきなり鍋に材料を入れようとしていたのを見て、それを制止する。
「え? こうやって煮るんじゃないのっ?」
不思議そうな顔をするアルフィに、天斗は笑顔で首を振る。
「いきなり煮込んでも肉の旨味は引き出せません。こういう場合はですね……」
天斗はそう言うと、まず商人たちが持っていた食用の油を鍋にひく。続いて、積荷の中にあった香味野菜の類を炒め始めた。
最初は怪訝そうに眺めていただけのアルフィも、飴色に染まった香味野菜が香ばしい香りを放つにつれ、笑顔になった。
「凄いなあ! ボク、料理はおばあさまの手伝いでやったことあるけど一人で本格的なのはあんまりだから……あ、でも、おばあ様もこういう事やっていたの、見たことあるかも」
「では、そろそろ肉を入れて……最後にビールを入れれば後は材料を煮えにくい物から順番に入れていくだけです」
●
やがて、星に照らされる野営地から実に旨そうな匂いが立ち昇り始めた。
大鍋で煮立っているそれは、どうみても南瓜を大量にいれたポトフに水団や麺が出鱈目に煮込まれているようにしか見えなかった。
しかし、その味わいは……
「ああ……ビールと肉によって生み出されたコクのあるスープが、もちもちとした小麦粉の麺に良く絡み、それが南瓜の甘みと混ざって、旅と戦闘と料理で疲れ切った体を元気にしてくれます……」
口一杯に頬張りながら恍惚となるカニリア。
「う~ん、やっぱりビールが美味しいから、コクがあるわっ! 南瓜も新鮮で甘味が違うわよね~!」
と鏑木。
「凄く美味しいです! でも、ほうとう……面白い名前ですね」
と、エリネ。
「あ、それボクも気になってたの! 放蕩息子が由来……とか?」
アルフィも首を傾げる。
「皆様、お代わりはいかがですか?」
天斗がそう尋ねた瞬間、次々と器が突き出された。既にかなり大量に作った筈が半分以上減っている。
やがて、更に鍋の中身が減る頃、悠司が食べ易い大きさに切ったエリネの林檎を皆の前に並べた。
「わ、凄い! 可愛い! これ、何ですかっ!?」
悠司の用意した、うさぎの形に切った林檎を見たエリネが歓声を上げる。
「俺、皮剥くの得意なんだ。可愛いでしょ? デザートにどうかと思って!」
早速、一口食べたカニリアは満面の笑顔で叫んだ。
「う~ん! 濃厚なホウトウと、爽やかな林檎のハーモニー……素晴らしいですっ!」
アルフィも笑顔で林檎を頬張る。
「えへへ、雑魔をやっつけて、ご飯をお腹いっぱい食べられて、幸せっ! 万霊節、盛り上がりますよーに!」
こうして、ハンターたちは期せずして万霊節の前夜祭を楽しむことが出来たのだった。
街道沿いの林の中、かつては畑であったと思しき一画にアルフィ(ka3254)の苦悶の声が響いた。
「は……放してよっ!」
必死にもがくアルフィだが、暴れれば暴れるほど細いが強靭な緑色の蔦がその白い肌に食い込んで締め上げる。
いや、アルフィばかりではない。他の仲間たちもほとんどが緑色の南瓜の蔦に絡め取られてもがいていた。
何故このような事態になってしまったのか。
デーモン・キュルビス(悪魔の南瓜)の蔦は畑全域に広がっており、踏み込んだハンターたちは次々と捕えられてしまったのだ。
無論、剣で切り払おうとした者もいたが、触手の数は余りに多い。頭上から襲い掛かる触手を切り払う間に、足を絡め取られるなどされると回避は困難であった。
「や、やだ……くすぐったいよっ……え?」
衣装のせいで剥き出しのおなかを。蔦が這い回る感触に顔を顰めたアルフィであったが突如、眼前に突き出されたものにさあっと蒼褪める。
「な……なに……?」
それは、艶やかに輝き、いかにも固そうで反り返っていた……。
「アルフィさん、危ない!」
絶体絶命の危機が迫ったその時、鋭い叫びと共にカニリア・ログ(ka3340)が光り輝く魔法の弾丸を放った。
放たれた光球は見事それに着弾。オレンジ色の表皮を弾けさせ、白……に近い、薄い緑の中身と、まだ未成熟な種子を飛び散らせる。
「食べごろそうに見えたのですが、ちょっと残念ですね」
真田 天斗(ka0014)が呟く。
「僕も出来るだけ実は傷つけたくなかったのですが……アルフィさんを助けるためでしたから仕方が無いですね……随分太くて長い形でしたが、アレも南瓜だったんですか?」
「南瓜にはいろいろな種類がありますからね。ああいう長いものもありますよ」
料理が得意なせいか南瓜に着いて語る天斗。あなたたち、縛られているの、解っている?
「南瓜……ほうとうかぁ、俺、食べた事無いんだよね。楽しみ! ……て、先ずは雑魔を倒して、美味しい南瓜手に入……安全を確保しないとね!」
唯一、蔦を切り払う事に集中していて、拘束を免れていた鈴木悠司(ka0176)はようやく周囲の蔦を斬り終えると、近くにいたカミーユ・鏑木(ka2479)に巻きついていた蔦を剣で切断。まずは鏑木を解放する。
鏑木はぱんぱんと服の埃を払いながら苦笑する。
「カッコ悪いとこ見せちゃったわね……アリガト、悠司ちゃん! さぁ雑魔ちゃん、覚悟は良いわね? ディナータイムよ! あたし達の胃袋へいらっしゃ━щ(゚д゚щ)━い!!」
「良くもやってくれたなっ! お返しだっ!」
アルフィも、カニリア同様ホーリーライトで雑魔を攻撃。
「美味しそうな南瓜で何てことをするんですかっ!」
エリネも猛然と矢を射かける。
だが、遠距離攻撃を受けた雑魔も黙ってはいなかった。お返しとばかりに蔦の先に実っていた堅そうな実を切り離すと、それを蔦で掴んで次々と投げ飛ばして来た。
「んもうっ、子供じゃないんだから木の実投げるなよー!」
慌てて盾で実を防ぐアルフィ。
「当たったら痛そうだね、でも!」
一方、悠司は飛んで来た南瓜を見事に剣で両断。
「何て勿体無いことを!」
憤慨しつつ、ロッドで投げつけられた南瓜を砕くカニリア。
だが、南瓜は間断無く投げ続けられる。三人は段々と疲弊し始め、反応し切れなくなって来た。
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
ここで鏑木が核に向かって前進を始めた。
雑魔も、鏑木が近付いて来るのを見ると、彼にだけ南瓜を投げ出した。
「わわわ! カミーユお兄さん、怪我しないでねっ!」
集中砲火を浴びる鏑木のダメージを少しでも減らそうと、鏑木をマテリアルで保護するアルフィ。
「ありがとー、アルフィちゃん……ぐふぅっ!?」
鏑木が笑顔でアルフィに手を振った瞬間、南瓜がその顔面に直撃、鏑木はそのまま上半身を仰け反らせる。
「鏑木さん、大丈夫!?」
悠司が心配そうに声をかけるが、返事はない。しかし、良く見ると鏑木はプルプルと体を震わせている。そして――。
「何人様の柔肌に傷つけてくれてるんじゃ、ごるぁぁぁぁーっ!」
突如激昂した鏑木は、最早南瓜など無視して一直線に核へと突っ込んだ!
これはヤバいと判断したのか、雑魔は畑中に伸ばしていた触手を自身の前に集めると、鏑木へと襲い掛からせる。
「邪魔くさいんじゃあああああああああ!」
それを次々とバルディッシュで切り払う鏑木。しかし、蔦の数は多く――
「! 捕まったぁ!?」
再び、蔦が鏑木の両手を捕える。雑魔は喜々として牙の生えた口を開いた。このまま鏑木を噛み殺そうというのだろう。
「これは、もし食べられるとしても食欲が湧きませんね」」
その時、突然南瓜の核の横から天斗の声が響いた。雑魔の核は慌ててそっちを向こうとするが、その前にマテリアルによって柔軟性を高めた天斗のしなやかな体が必殺のストレートを繰り出した。
なす術も無く、人間で言えば頬に当たる位置にパンチを受けた雑魔の核は無残に砕け体液を撒き散らす。
「やったね!」
大喜びする悠司。そう、雑魔の蔦がほとんど鏑木に集中して手薄になった隙に、悠司が天斗を蔦から解放したのである。
そして、雑魔が鏑木に気を取られている隙に、天斗が核に接近したのだ。
他の仲間も次々と歓声を上げる中、空き地中から黒い塵が立ち昇り雑魔は跡形も無く消滅していった。そして、後には良く熟れたオレンジ色の南瓜が、たわわに実っていた。
●
戦闘終了後、カニリアは以前聞いた話から「ほうとう」には欠かせないと言われる「味噌」がないか商人たちに尋ねていた。
「いや、確かにリゼリオに行けばその味噌とやらもあるだろう。だが、今回の荷物には入っていないなあ」
申し訳なさそうに答える商人の一人。
「そうですか……」
しょんぼりとするカニリア。
「塩と胡椒は大丈夫かなっ?」
心配になったのか、確認するアルフィ。
「それは流石にあるさ」
商人が笑顔で応じる。
「では、牛乳はどうでしょうか? それとバターも……」
続いて天斗が質問する。
「そういうのは、機導術による保冷が出来るならともかく、生の状態ではそんなに長持ちはしないからな……チーズなら、俺達の食料として持って来ているが」
これを聞いていたエリネは苦笑した。
「やっぱり、旅の途中で変わったものを作るとなると色々大変ですね。「ホウトウ」は難しいかなあ」
だが、天斗はエリネに向かってにっこりと微笑んで見せた。
「ご安心ください。ほうとう麺を使い野菜を煮ればそれはほうとうなんですよ。そう、限られた食材で最高の食事をお出ししてこその派遣執事。お任せを、エーブルグリューネ様」
「ひゃ……ひゃいっ? よ、よく解りませんけどすみませんでしたっ!」
突然、敬語で話しかけられたのに驚いたのか、慌ててしまうエルフ。
「しかし、牛乳がないとなると……」
と、ここで天斗は鏑木に目配せした。
「そうね。ビールはあるかしら? それと干し肉も」
すると、商人は満面の笑みを浮かべる。
「俺達は帝国人だぜ!? ビールなら勿論あるさ! それと保存用の塩漬け肉なら一樽ある」
「……これなら、何とかなりそうですね」
微笑して、ぐっと腕まくりする天斗であった。
●
先ずは麺の準備からである。
「ほうとう麺は元々小麦粉と水だけで作られるのです。ここでは原型に近い形で作ってみましょう」
と、天斗が指示。それに従って小麦粉が練られ、生地が出来た。
だが、問題はここからである。
カニリアとアルフィ、そしてエリネの三人が、麺作りをすることになったが、やはり慣れない作業で苦戦していた。
それでも、カニリアとエリネは何とか上手く麺を切り揃えられていたが、アルフィの麺は明らかに長さも厚さも不揃いだ。
「ごめんなさい……」
しょんぼりするアルフィをエリネが優しく慰める。
「全然大丈夫だよ、でも麺が難しいならクネーデルにしても……あれ、このオレンジ色の生地は何?」
ふと、アルフィの側に置いてあった生地に気付くエリネ。
「あ、それはね。南瓜を練り込んでみたら、オレンジと白で見た目も綺麗になって美味しそうだと思ったんだけど……」
と答えるアルフィ。
「そうだよねっ! きっと味も美味しいと思うよ! 頑張って作ろうっ!」
「う、うんっ! えへへ、ありがとう、エリネお姉さんっ!」
「お、お姉さん……? な、何だかエルフハイムにいる妹を思い出しちゃうなぁ、えへっ」
にへらっ、と笑うエリネ。一方、アルフィはびっくりする。
「エリネお姉さんはエルフハイム出身なの? わ、ボクと同じだね!」
こうして、二人が和気藹々としている頃、鏑木と悠司も準備を進めていた。
「それにしても、こんな所でダディ(日本人)の国の料理を耳にするとは思わなかったわ(∩´∀`)∩! ホウトウ、久しぶりだから、楽しみだわぁ……(^p^)」
「へぇ、これが帝国のビールか……うんっ! 凄く美味しい! これなら美味しく出来そうだねっ」
料理のついでとばかり、樽からビールをもらう悠司。
「そうだろうよ。よく他の国の商人どもは陰口を叩くが、ビールだけはそうそうひけは取らねえからな!」
自国の名物が褒められて、商人も悪い気はしない様だ。
「ちょと、悠司ちゃん! 料理に使うんだからそんなに飲まないのっ!」
ぷんぷんする鏑木。しかし、良く見るとその口元には……。
「……鏑木さん、その泡はなに?」
にっこり笑って聞き返す悠司。
「え……あ、あら、何かしらね~!」
惚けようとして無理矢理口笛を吹く鏑木。
「それに、僕だって飲んでばかりじゃないよ? 現場監督! というのは冗談で……ほらっ」
笑顔で目の前の野菜を指さす悠司。そこには、綺麗に皮を剥かれたじゃがいもや玉ねぎが積み上げられていた。
更に、南瓜も丁度良い大きさに丁寧に切り分けられている。
「あらっ、凄いじゃない! これなら美味しく食べられそうね~! さあ、野菜は用意出来たわ!」
鏑木は喜ぶと材料がそろった事を伝える。
「それでは、出汁を作りましょうか……あ、待って下さいっ」
天斗は、アルフィがいきなり鍋に材料を入れようとしていたのを見て、それを制止する。
「え? こうやって煮るんじゃないのっ?」
不思議そうな顔をするアルフィに、天斗は笑顔で首を振る。
「いきなり煮込んでも肉の旨味は引き出せません。こういう場合はですね……」
天斗はそう言うと、まず商人たちが持っていた食用の油を鍋にひく。続いて、積荷の中にあった香味野菜の類を炒め始めた。
最初は怪訝そうに眺めていただけのアルフィも、飴色に染まった香味野菜が香ばしい香りを放つにつれ、笑顔になった。
「凄いなあ! ボク、料理はおばあさまの手伝いでやったことあるけど一人で本格的なのはあんまりだから……あ、でも、おばあ様もこういう事やっていたの、見たことあるかも」
「では、そろそろ肉を入れて……最後にビールを入れれば後は材料を煮えにくい物から順番に入れていくだけです」
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やがて、星に照らされる野営地から実に旨そうな匂いが立ち昇り始めた。
大鍋で煮立っているそれは、どうみても南瓜を大量にいれたポトフに水団や麺が出鱈目に煮込まれているようにしか見えなかった。
しかし、その味わいは……
「ああ……ビールと肉によって生み出されたコクのあるスープが、もちもちとした小麦粉の麺に良く絡み、それが南瓜の甘みと混ざって、旅と戦闘と料理で疲れ切った体を元気にしてくれます……」
口一杯に頬張りながら恍惚となるカニリア。
「う~ん、やっぱりビールが美味しいから、コクがあるわっ! 南瓜も新鮮で甘味が違うわよね~!」
と鏑木。
「凄く美味しいです! でも、ほうとう……面白い名前ですね」
と、エリネ。
「あ、それボクも気になってたの! 放蕩息子が由来……とか?」
アルフィも首を傾げる。
「皆様、お代わりはいかがですか?」
天斗がそう尋ねた瞬間、次々と器が突き出された。既にかなり大量に作った筈が半分以上減っている。
やがて、更に鍋の中身が減る頃、悠司が食べ易い大きさに切ったエリネの林檎を皆の前に並べた。
「わ、凄い! 可愛い! これ、何ですかっ!?」
悠司の用意した、うさぎの形に切った林檎を見たエリネが歓声を上げる。
「俺、皮剥くの得意なんだ。可愛いでしょ? デザートにどうかと思って!」
早速、一口食べたカニリアは満面の笑顔で叫んだ。
「う~ん! 濃厚なホウトウと、爽やかな林檎のハーモニー……素晴らしいですっ!」
アルフィも笑顔で林檎を頬張る。
「えへへ、雑魔をやっつけて、ご飯をお腹いっぱい食べられて、幸せっ! 万霊節、盛り上がりますよーに!」
こうして、ハンターたちは期せずして万霊節の前夜祭を楽しむことが出来たのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/10 12:14:56 |
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相談卓 カニリア・ログ(ka3340) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/10/14 11:46:12 |