• 王臨

【王臨】討伐依頼:黒炎の番兵

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/18 19:00
完成日
2017/03/06 21:05

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 古の塔の探索開始前からヴィオラ・フルブライト(kz0007)は不機嫌だった。
周囲から見れば普段と大きな変化は無いのだが、彼女の仕事ぶりには顕著に現れていた。
 ヴィオラはアイリーンと聖堂戦士数名、ハンターを連れて古の塔に繋がるアークエルスに滞在していた。任務はアークエルスの研究者の護衛と古の塔探索の後方支援である。ヴィオラの苛立ちは任務開始後も収まらず、一週間経っても一向に変化がない。古の塔の探索より戻ったヴィオラをアイリーンは溜息交じりに迎えた。
「ヴィオラ、……もうそれぐらいにしたら?」
「何をですか?」
 知らぬ振りで戦利品であるゴーレムの核を並べていくヴィオラ。戦利品の横には今まで使っていた。盾と戦槌が並んでいる。古の塔ではヴィオラはチームの前衛として戦っていた。出現するゴーレムを思う存分殴りつけ、ストレス発散しているのだ。
 彼女が苛立つ理由は二つある。一つ目は「死亡した」前騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)の件。彼の不審な死の後、彼女はゲオルギウスと共に残された二つの組織、騎士団と聖堂戦士団を必死に盛り立てた。彼女に彼の死に嘆く暇は無い。来る災厄に備えなければ、彼の意志を無にしてしまうからだ。同時にその作業はどうしようもなく虚無であった。あの時彼女が信じた戦友は誰あろう、エリオット本人だからだ。
「……おや、今日も塔に潜っていたのかい? いやぁ、さすがヴィオラだ。精がでるね!」
 笑顔(どちらかと言えばニヤついたと評するのが正しい顔)で現れたのはヘクス・シャルシェレット(kz0015)卿。王国騎士団が号令を出した古の塔攻略ではあるが、それに際して第六商会も物資の支援や報酬品の都合と、陰に日向に働いており――ヘクスもアークエルスと王都を行ったり来たりの生活をしているようだ。
「仕事で忙しいのではなかったのですか?」
「あはは、うちは部下が優秀だからね。僕はどっちかというと、祭りを見に来たのが正しい、かな」
 ヘクスはちらり、とヴィオラを見やったあとで、オーランへと意味ありげな視線を送った。
「折よくオーランに話があった、というのもあるけど……君だって、忙しいんじゃないかい? 王都に書類の山を残して来てるんだろ?」
「要らぬ心配です。ゲオルギウス殿に全て任せてきました。……新しい騎士団長の就任に伴う混乱も収まりましたから、しばらく私が不在でも問題ありません」
 ヴィオラはその時のヘクスの表情の変化に気づけなかった。
 ――ヴィオラがエリーの今を“知らない”ってことは、当事者達を除けば……ゲオルギウス、セドリックくらいで話は止まってる、ってことかな。
 ヴィオラは識る由もないことだが、微かに黙考したヘクスは――敢えて苦笑を浮かべて、ヴィオラの肩に軽く、手を置いた。
「……気持ちは解る。でも、あんまり、根を詰めすぎない方がいいよ。エリー……エリオットのことは、残念だったと、僕も思うけど……」
 エリオットの件を持ち出されるとヴィオラは弱い。怒りが雲散霧消するわけではないが、矛先はどうしても鈍る。誤魔化すようにその手を払った
「その話はもう良いでしょう。それより、これで必要分は足りたのですか?」
 ヴィオラはヘクスを素気無く追い払い、依頼人に話を向けた。今回の依頼人はオーラン・クロス。『法術陣』の研究者である。以前から老け込んでいたとは言え、歳は三十代半ばのはずが四十も半ばを越えたようにも見えるのは――と、そこまで考えて、ヴィオラは思考を打ち切って、状況理解に向ける。
 詳細はヴィオラも知らされていないが、オーランは法術陣の解析と研究の為に古代図書館に籠っている、と聞いていた。ゴーレムを動かす刻令術は専門外の筈で、だからこそ、今回の要請は意外ではあった。その彼がゴーレムの核を求めるには、理由があった。
「……いやぁ、アダムからの追加の注文があって……」
 ヴィオラの無言の怒気を察知してか、オーランの言葉は尻すぼみになる。これが二つ目の理由、オーラン・クロスを経由して行われた、アダム・マンスフィールドの追加要請である。研究者2人が連絡を取り、互いの研究に協力し合うのは悪い話ではない。問題は誰が彼らを引き合わせたのかという話だ。
 アダムは随分と前から、ヘクスが商会主を務める第六商会でゴーレム開発に従事しているらしいが、オーランもまた、第六商会で研究に協力しているという。資料的提供をアークエルスの図書館に依存しているところを踏まえると、おそらく、金銭面での結びつきが主だとヴィオラは認識していたのだが――実態は、違うのかもしれない。
 普段は顔も見せないヘクスの影がちらついている。ヴィオラは自分の知らないところで物事が進んでいる事に不快感を覚えていた。研究であれば国益に叶うことではあるが、テスカ教の事件の件もあってヴィオラは過敏になっている。
「核そのものの質も、術式の内容にも個体差があるみたいでね。だから――確認されている中でも特に強力な個体の、“確実な確保”が、アダムの要請、でさ」
 ――そもそも、貴方が教会の要請どおりにアークエルスから退避してくれれば、この状況にはなっていなかったんですが……。
 もとはと言えば、オーランが研究に齧りついて都市からの撤退を拒んだ事が教会がこの騒乱に参戦する理由になっているのを、果たして自覚しているのだろうか。
「わかりました。では……」
「ヴィオラ、今度は私が行くわ。もう十分に暴れたでしょ?」
 明日の予定を口にしようとしたヴィオラをアイリーンが制する。
「人聞きの悪い。私はただ……」
 アイリーンに図星を指されたことでヴィオラは口をつぐむ。ばつが悪くなったのをごまかすように、口をへの字に曲げてそっぽを向いた。最近はこんな表情も身近な者には見せるようになった。
「良いでしょう。では任せます」
「はいはい」
 アイリーンはくすくすと笑いながら、荷物をまとめるヴィオラを見送った。
 あの事件以後、ヴィオラは他人を甘やかさなくなった。他人を頼るようになった。見せまいとしてきた感情も見せるようになった。
 ゆとりが出来たからではない。彼女への負担は日増しに増える一方だ。それを1人で背負わんと肩肘を張ることを止めたのだ。
「あの、アイリーンくん」
「何ですか?」
「 その……気をつけるんだよ 」
 良い年したおじさんが情けない顔だが、見ない振りをすることにした。
 仕方ない。ヴィオラの年齢相応の感情に暴力が伴えば恐ろしいだろう。誰もがシャルシェレット卿のようには振る舞えない。
 当のヘクスはと言えば素知らぬ振りで戦利品のゴーレムの核を眺めている。祭りを見に来ただけというのは、半分ぐらいは本当なのかもしれない。
 アイリーンは残ったハンターに声をかけると、仕事の準備に取り掛かった。

リプレイ本文

 ハンター達が依頼を受けた時点で古の塔の4層以下はほぼ攻略が終了していた。
アダムの要求するゴーレムはその先の地点で出現した個体で、ハンター達の探索を阻む壁でもあった。どの道倒さなくてはならない相手であり、ハンター達に異論はなかった。
「上等だ。楽勝で乗り越えてやんよ」
 ウィンス・デイランダール(ka0039)の答えは明瞭であり予想の範疇であった。彼が一番最初にそう返答する事も予測の通り。票には数えるが聞いていない、という体でハンター達は追加の仕事の賛否を取る。「レムさんに任せなさい! 強敵との戦いは腕が鳴ります」と、やる気の旺盛なレム・フィバート(ka6552)、「RPGの王道よね。楽しみだわ」と周囲に通じない理由で賛成票を投じる花厳 刹那(ka3984)など。大方は前向きな賛成の者ばかり。最終的にはカイン・マッコール(ka5336)が端的に「危険に見合う妥当な報酬が貰えるなら」と答えた事がハンター達の共通見解となったが、他にも1点考慮すべき点が残っていた。ここまでの戦闘で負傷したヴァイス(ka0364)の処遇である。
「邪魔だから留守番していろと言うならそうするが?」
「……好きにしてください。出来る事があると思うなら、仲間と相談の上で随伴してください。私の決めることではありません」
 先程のやりとりの事もあり、ヴィオラ・フルブライト(kz0007)は妙にふてくされた顔のままその場を去っていった。微笑ましいものを見る顔だったヴァイスだが、それを見咎めたアイリーンは割と容赦なく脛を蹴りあげる。
「!……なんだ?」
「自分の胸に聞いてみなさい」
「??」
 さて、女性の感情などは複雑怪奇。大事な仕事の場面で大きなけがをしてしまった事もあり、心当たりが無くもないがどうもそれだけとも思えない。
「役立たずはすっこんでろって言いたかったんじゃねーの?」
 ヴァイスは反抗期丸出しの男の言葉を聞き流した。それならそれで言葉を飾らず叱責するだろう。彼女達の不満はもっと根本的な物なのだと、今は心に留め置くだけにした。それが可愛らしい感情でないことだけは、彼にも理解できたからだ。


 指定のゴーレムが居座る地点までは迷うことなく辿り着いた。ゴーレムは巨躯ではあったが、CAMや巨人あるいは怠惰王を見て来たハンターには大した差ではない。既に身長だけでは脅威足り得ない。
「あれがボスってところか? かわいいもんじゃねえか」
 歩夢(ka5975)の軽口はまさにハンター達の言葉を代弁していた。しかし彼もプロである。軽口を叩きながらも油断なく符を構えている。ハンター達は決めた手順通り事を進めるべく、まず囮となるカインと歩夢がゴーレムの前面に飛び出した。カインが前衛、 歩夢は後方で符を構える。 その斜め後方にアティ(ka2729)が回復魔法を準備しつつ待機。アーク・フォーサイス(ka6568) も室内には入るが彼は観察に専念し、残りのメンバーは通路で待機している。撃破して一時的に通過するだけなら可能だが、今回は核の回収の為にも防御機能と再生機能を止めることが先決だ。
 まずは攻撃を繰り返し、弱点を探る必要がある。最初に仕掛けたのはカインだ。
(正面戦闘は得意ではないけど……)
 カインは巨大な祢々切丸を構え、堂々と間合いに入っていく。ゴーレムはこの動きに即応。巨大な鉄球を頭上で振り回し、一歩一歩カインに迫ってくる。ソウルトーチの効果のおかげか、ゴーレムは移動を始めたウィンスに見向きしない。作戦の手順としては成功だったが、敵の強さの見積もりはやや甘かったとカインは感じていた。
(思ったよりも隙が無い)
 回転する鉄球がカイン目掛けて振り下ろされる。カウンターを狙ったカインだが、鉄球を受け止めるので精一杯であった。受け太刀は辛うじて間に合うが、カインはそのまま後方へと吹き飛ばされた。
「野郎っ!」
 カインへの追撃を防ぐために歩夢が胡蝶符を投げつける。動きを止めるために本気の攻撃だったが、固い装甲に阻まれ勢いは止まらなかった。再び鉄球を振り回し始めるゴーレムだが、続く攻撃を回り込んだウィンスの「重雪」が食い止める。まとわりつくマテリアルは長くはもたなかったが、カインが復帰するには十分な時間を稼いだ。
「呆けてんじゃねえぞ!」
「……油断はしてない」
 カインは態勢を立て直し、再び刀を構える。アティのフルリカバリーも間に合い、作戦の崩壊は防がれた。ゴーレムは鉄球を振り回す動きは変わらないものの作戦を変更。ウィンスに盾のある面を常に向け、それ以外を鉄球で威圧するという戦法に変化した。
「思ったより、手ごわい相手かもしれないな」
 ゴーレムを囲みながらもアークはそう溢した。この時のゴーレム戦に向けてハンターが想定していた作戦がいくつかあるが、ゴーレムの動きから幾つかを断念せざるを得なかった。部位狙いという作戦はまず最初に破棄した。鈍重に見えたゴーレムだが熟練した武術家のように動きに隙が無い。この上で関節は何枚にも折り重なる装甲で隠されており、狙うには難易度が高すぎる。武器を狙うのも同様だ。絡みつかせるぐらいならば可能だが、それでは純粋な腕力勝負になり勝ち目がない。残る方策は脚や腕を傷つけ一時的にでも戦力を奪う方法だが、これも初手では諦めざるを得なかった。
「今のでこちらの力量を見切ったというわけだな」
 通路から観察していたヴァイスは苦り切った顔でそう評価した。ゴーレムは自身の動きを一撃で封じる可能性のある人物に盾を向けている。ウィンスの槍である。本気を出せば盾を突き砕くこともできるが、自己再生を考慮するならば安易な突撃は命取りになる。それを理解してウィンスも大ぶりの動きでの牽制に徹している。牽制の効果は上がっているが、ウィンス自身もそれ以上に能動的な行動をとれていない。手加減すべし、という足枷のあるハンター一行は今回の依頼の難度を痛感することとなった。
 だがここからが本番である。ゴーレムは前衛であるウィンスとカイン、アークに攻撃を集中する傾向にはあったが、調査や魔術の詠唱・準備で動きが止まったハンターがいれば、即座に衝撃波を放って後衛であるアティや歩夢、カバーに入ったレムを狙った。その度に調査は中断され、あるいはカバーリングに入った前衛が傷ついた。的確にチームの弱点をついてくるゴーレムの戦い方に、じりじりと戦力を削られていく。
「おい、なんかわからねえのかよ!?」
 ウィンスがそう急かすのも無理からぬ話で、戦場では後列の息が乱れ始めている。回復の支援を受けている分だけ前衛はまだ動けるが、無事というわけでもない。
 通路で観察に徹するヴァイスはそれも理解しているが、とっかかりの少ない状況では何ともならない。
 通路での待機組は室内の内装に目を向けて観察を続けていた。内装自体は塔内の別室と大きな差異はなく、無機質な石(らしき材質)の壁が延々と続いている。変化が無いわけではない。ゴーレムが戦闘して消耗するたびに部屋全体が光る文様が浮かび上がっていた。光が部屋に満ちるたびにゴーレムの装甲は回復している為、仕掛けの半分は部屋に内包されているのだとわかる。問題はそれを破壊するのに必要な部位がどこかという問題だ。広く部屋を見渡せる位置にいるヴァイスだが、それを見つけることは出来なかった。
 ここで花厳の持ち込んだ双眼鏡が地味ながら威力を発揮した。距離が近すぎる為に動き続けるゴーレムを追いかけるのには向かなかったが、地面の文様の変化を追うには十分であった。
「仕掛けは床にあるみたいね」
 花厳はそう断言した。部屋全体に文様が光って浮かび上がる現象を調べる中で、床の一部の光が脈動し、ゴーレム本体へと向かっていることも花厳は突き止めた。
室内に入ったメンバーも見ればその変化に気づき得たかもしれないが、ゴーレムとの距離を保つ必要があるために情報収集に専念とはどうしてもいかなかった。
 床と言っても結構広い。これでは送信側を破壊するのは現実的ではないが、受信側なら可能性はある。問題は受信側であるゴーレムのどの部位がそれに相当するかが不明なことだ。
「それじゃあ次だ。みんな、一度距離をとってくれ!」
 歩夢の掛け声で前衛含めて全てのハンターが一気に2m以上の距離を取る。ゴーレムが戸惑いながらも周囲を窺うその隙に、歩夢は五色光符陣を放った。破壊の光がゴーレムを焼く。強固な装甲によりダメージ自体はそこまで大きくはないようだが、変化は燃え盛る黒炎の外套に現れた。
「! マントが途切れた!」
 カインがすかさず大きく剣を振りかぶってゴーレムの肩口へ振り下ろす。外見からの予測の通り外套の出力は低下しており、吹きあがった炎がカインを焼くことは無かった。ゴーレムは反撃しようと足を踏み出すが、深く踏み込んだウィンスの槍がそれを阻む。
「ここでダメ押しね!」
 2人を相手に動きの止まったゴーレム相手にレムが青竜翔咬波を放つ。放たれたマテリアルの波動はゴーレムの背中を直撃。こちらも効果があり外套の勢いを削いでいる。外套による防御能力も消えたらしく、ゴーレムは衝撃で動きを止めるほどであった。これらの効果は一時的なもので、即座にではないにせよものの十秒程度でまた復元していく。しかしこの短い時間に、背面に位置していたアークは重大な変化に気づいた。
「お手柄だぞ、レム!」
「へ? 何が?」
 外套が消えた背中の部分、床と同じ淡い緑の光を放つ文様が描かれている。床の文様からゴーレムに向かう光の波は、足から背中へと順に走っていき、文様から全身へと光が渡っていく。アークは直感でその文様を狙い、 「アリオト・光罰」の引き金を引いた。
「こいつでどうだ!?」
 銃弾による火力では貫通には至らないものの、外套に隠された文字を削るには十分だった。変化は顕著に表れた。ゴーレムの性能に関しては変化はなかったが、再生を繰り返し傷一つ無い装甲に小さな傷が残り始める。ゴーレムの鎧は再生しなくなった。
「正解だ」
 アークは会心の笑みを浮かべる。ここまで敵の攻撃に耐えて準備と観察に費やして来た時間が、この一撃によって結実したのだ。
 こうなればゴーレムは脆い。ウィンスとカインは両側面から盾を避けつつ腕と足に執拗に猛撃を加え続ける。距離を取る2人を避けて歩夢の五色光符陣とレムの青竜翔咬波が放たれ、炎の外套の守りをこそぎ落としていく。ゴーレムは怯まず反撃を繰り返すが、アティが残った回復魔法と防御魔法を余さず使って前衛を守る。
 流石に一撃では止まらないゴーレムではあったが、度重なる攻撃はダメージとして蓄積し、関節部分が砕けると一気に動きが鈍った。
腕と足を破壊したゴーレムの動きを止めるのは容易で、そこから核を剥ぎ取るのに時間はかからない。
 完全に置物と化したゴーレムの胸部装甲をレムが鎧通しで穴をあける横で、周囲を警戒しつつハンター達はようやく息をついていた。
「……刃がぼろぼろになりました」
 カインは刀の刃を見て溜息をつく。ゴーレムの装甲に何度も打ち付けたために刃こぼれが酷いのだ。慣れない巨大武器を敵に合わせて用意したのは彼らしい柔軟さではあったが、ここまで武器がぼろぼろになれば気持ちも暗澹となる。アークは苦笑して落ち込むカインの肩を叩いた。
「仕方ないよ。あれだけ正面で戦ったらさ」
「それは理解してる」
 カインは武器だけでなく鎧もボロボロだ。傷は魔法で蘇生出来ても鎧はそうはいかない。同時にそれは、彼が戦線を支えた証でもある。彼が守った物の中には、アークの親しい友人もいる。アークはなんとなく、落ち込む彼を無碍に扱えなかった。
 カインのこの悩みは仕事に成功したからこその悩みだ。方向性としては悪い方向ではない。
一方でウィンスも同様に不満そうな顔ではあったが、彼の刺々しさはまた別の方向に向かっている。
(ちっ。仕事とはいえ小賢しい真似しちまったぜ)
 彼の頭に思い浮かぶのはにやけ顔の某人物。今回の仕事でも彼は関わっているという話だ。ウィンスは自分の性格が「少々」曲がっている自覚はあった。それでも手段も目的も真っすぐだという自負はあった。だというのに今回の戦闘では、もてる技量のほとんどを絡め手に費やした。それが誰にとっても正しい事だと理解しているが、それを選んでしまったことがなんとなく癪だった。これは全体に必要な事を実行したに過ぎないという事実のせいで、余計にこの鬱屈した気持ちを晴らすことが出来ず、ウィンスは終始不機嫌なままであった。
 そして悩みの渦中と言えばもう一人。
「そういえば、何で俺は彼女に蹴られたんだ?」
 怪我ゆえに全体に貢献できなかった分だけ、ヴァイスも目の前の悩みにとらわれていた。
「知るかよ荷物持ち。自分で考えろ」
「自分で考えるが、荷物持ちって言わないでくれ」
 不機嫌なウィンスに聞こえる場所で発言した自分の迂闊を呪いつつ、ヴァイスはウィンスを無視しつつ怪我の手当てにまわるアティに視線を移した。
「なあ、あんたはどう思う?」
「私ですか?」
 アティは首をかしげ、しばし考え込む。同じ女性ということでわかることもあるが……。
「私にもわかりかねますが…………嫉妬、とか?」
 それはそれで答えから遠ざかった気がするが、恋人持ちとして軽率だったかもしれないという疑念が芽生えてしまった。
遠いとは思いつつも、自分の手で出来る事には限りがある、というのは事実だ。
怪我しているのだから他人の心配をしている場合かと、そういう意味だったのかもしれない。
どちらにせよ前回の言葉を履行できなかった。これは間違いなく失点の部類だろう。複雑に絡んだ女性の心情ではあったが、その手の批判と捉えれば理解しやすいように思えた。
「これでラスト!」
 それぞれの物思いを断ち切るように、レムの気合の入った声が響き渡る。最後の装甲板が砕かれ、胸部より手を抜いたレムの手にはゴーレムの核が握られていた。
「やったね! 大勝利!」
「お疲れ様、依頼品ゲットね! こういう時はファンファーレとか欲しいわよね」
 喜びをわかちあいハイタッチするレムと花厳。盛り上がったところでふと我に返り、レムは花厳の言葉の意味がよく理解できないことに気づいた。
「…………ファンファーレってなんのこと?」
「……なんでも無いわ」
 顔を赤くして花厳が話をごまかしていたが、彼女の言葉の意味を正確に理解できる者はいなかった。



 回収された核はオーランにより検品され、すぐさま依頼人のアダムの元に送られた。
塔の制圧自体はあくまで過程に過ぎなかったが、この時集められたゴーレムの核は、
以後の刻令術研究で大いに役立つ事となった。

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MVP一覧

  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那ka3984
  • 真実を照らし出す光
    歩夢ka5975
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバートka6552

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/02/18 15:41:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/16 13:28:27