ゲスト
(ka0000)
【界冥】緑の光に手を伸ばす――開始
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/24 22:00
- 完成日
- 2017/03/03 17:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●アクセス失敗
警報が鳴り響く。
主電源が落ちた管制室に、焦りに満ちた声と足音が連続した。
「障壁突破されました!」
「防衛部隊との通信途絶っ」
大量の資材と人材を投じたセキュリティが次々に無力化されていく。
「対象へのラインを物理的に切断しろ。上空の爆撃機は待避だ。最悪の場合乗っ取られる」
「所長! 連合宙軍の許可が必」
「し、施設管理AIに異常発生です!!」
悲鳴があがる。
非常用電源すら止まって空気の流れが止まる。
「プランBを実行する」
所長が慌てず騒がず懐中電灯をつけた。
下から照らされる顔には壮絶な笑みが浮かんでいる。
「ケーブルを斧でぶった切れ。全員でだ」
恐ろしく切れ味が良さそうな斧を複数抱え上げ、部下達に投げ渡した。
「切断後生きていたらスパコン部屋へ逃げ込め。運が良ければ焼却される前に助けが来る。さあ、急げ!」
所長の剣幕と気合いに蹴飛ばされるように、全所員が斧を持って管制室から飛び出した。
●1日前
たった1つのトランシーバーが、多数のCAM部隊に守られ輸送されている。
頭上には重武装の戦闘機が舞い。
水平線近くには臨戦態勢の戦闘艦が多数。
VOIDで押し込まれた昨今では、信じられないほどの大戦力だ。
「軍隊は金持ちですなー」
ケッ、と僻み根性丸出しで嫌みを言うのは白衣の老人。
能力に反比例した人格を持つ彼は、輸送車両に乗ってから今までずっとこんな調子だった。
「いやいや、我々もやむをえず無理を重ねているわけでして」
いかにもエリート風の若手軍人が、必死に笑顔を浮かべてなだめようとしている。
今回の件は万が一にも失敗できない。
成功させるためならプライドも捨てるし、指紋が消えるまで揉み手だってしてみせる。
「本気で成功させるつもりなら異世界の連中も連れてこい」
本気で嫌そうな顔をして、併走する重装甲トラックをちらりと見る。
主力戦車を運べそうなトラックに乗せられているのはたった1つのトランク。
はっきり言ってしまえば、その中にある壊れたトランシーバーたった1つだ。
「いえいえ、先生のお力があれば敵か味方か分からない連中の手を借りなくても」
全力笑顔と揉み手でごまかしを計る。
しかし高い知性を感じさせる金壺眼に睨み付けられ、軍人の頬に汗が伝った。
「連合宙軍は余裕があるみたいだなエェ?」
VOIDベアトリクス。
宇宙でも地球でも連合宙軍に甚大な被害を与え続け、異世界の超人達も対抗は出来ても撃破の目処は立っていない深刻な脅威。
ただ、最近大きな成果が得られた。
異世界人が初めての交渉……らしきものに成功し、ベアトリクスの発した信号を手に入れたのだ。
連合宙軍だけで無く、地球の各機関が色めき立った。
ひょっとしたら打倒ベアトリクスのヒントが得られるかも知れない。
あるいは、ベアトリクスの力の秘密を解明し、己の立場を有利にできるかも知れない。
「VOIDに本丸まで攻め込まれている状況で、人間同士の足の引っ張り合いをしてるんだからなァ!」
「あー、今のは出来れば聞かなかったことに」
この老人は性格は最悪でも実力と能力は一流だ。
彼の一存では脅すことも消すこともできない。
「ふん。報酬分の仕事はしてやるわい。……こりゃ人類に対する最後のご奉公かもしれんな」
それっきり無愛想に黙り込み、目をつむって実験の手順を組み立て始めた。
●全施設焼却まで残り30分
「詳しいしいことは現地で聞」
ブリーフィング無しでの転移である。
術者や整備員の姿が消え、無機質な105ミリ砲が出迎えた。
魔導トラックに似たところがある何か(装甲車)。
魔導型デュミナスに似た人型兵器(R6M2bアップデート版)。
いずれもリアルブルーの兵器だった。
これは最初に1発食らってからの交戦かと思考したのだが、105ミリの狙いは甘く、発射するまで妙に時間がかかっている。
無意識に回避しながら観察してみる。
何故か搭乗口が開きっぱなしだ。パイロットらしい軍人が広々とした廊下で銃を構え、リアルブルー兵器に銃を向けている。
「異世界人か! 研究所内の兵器が全て乗っ取られた。すまないが排除に協……」
105ミリ弾が軍人の間近を通過。
鍛えられた体が吹き飛びアスファルトに強くぶつかる。
「……」
あなたは、VOIDに乗っ取られたらしい現代兵器を撃破してもよい。
研究所の奥へ向かって科学者達を助けてもよい。
ハンターが処理するはずだった、連合宙軍が奪って厄介ごと無限生成機にしてしまったトランシーバーを壊しても構わない。
ただし残り時間は30分だ。
それまでにVOIDを倒しておかないと、集結した各国軍に施設ごと吹き飛ばされることになる。
警報が鳴り響く。
主電源が落ちた管制室に、焦りに満ちた声と足音が連続した。
「障壁突破されました!」
「防衛部隊との通信途絶っ」
大量の資材と人材を投じたセキュリティが次々に無力化されていく。
「対象へのラインを物理的に切断しろ。上空の爆撃機は待避だ。最悪の場合乗っ取られる」
「所長! 連合宙軍の許可が必」
「し、施設管理AIに異常発生です!!」
悲鳴があがる。
非常用電源すら止まって空気の流れが止まる。
「プランBを実行する」
所長が慌てず騒がず懐中電灯をつけた。
下から照らされる顔には壮絶な笑みが浮かんでいる。
「ケーブルを斧でぶった切れ。全員でだ」
恐ろしく切れ味が良さそうな斧を複数抱え上げ、部下達に投げ渡した。
「切断後生きていたらスパコン部屋へ逃げ込め。運が良ければ焼却される前に助けが来る。さあ、急げ!」
所長の剣幕と気合いに蹴飛ばされるように、全所員が斧を持って管制室から飛び出した。
●1日前
たった1つのトランシーバーが、多数のCAM部隊に守られ輸送されている。
頭上には重武装の戦闘機が舞い。
水平線近くには臨戦態勢の戦闘艦が多数。
VOIDで押し込まれた昨今では、信じられないほどの大戦力だ。
「軍隊は金持ちですなー」
ケッ、と僻み根性丸出しで嫌みを言うのは白衣の老人。
能力に反比例した人格を持つ彼は、輸送車両に乗ってから今までずっとこんな調子だった。
「いやいや、我々もやむをえず無理を重ねているわけでして」
いかにもエリート風の若手軍人が、必死に笑顔を浮かべてなだめようとしている。
今回の件は万が一にも失敗できない。
成功させるためならプライドも捨てるし、指紋が消えるまで揉み手だってしてみせる。
「本気で成功させるつもりなら異世界の連中も連れてこい」
本気で嫌そうな顔をして、併走する重装甲トラックをちらりと見る。
主力戦車を運べそうなトラックに乗せられているのはたった1つのトランク。
はっきり言ってしまえば、その中にある壊れたトランシーバーたった1つだ。
「いえいえ、先生のお力があれば敵か味方か分からない連中の手を借りなくても」
全力笑顔と揉み手でごまかしを計る。
しかし高い知性を感じさせる金壺眼に睨み付けられ、軍人の頬に汗が伝った。
「連合宙軍は余裕があるみたいだなエェ?」
VOIDベアトリクス。
宇宙でも地球でも連合宙軍に甚大な被害を与え続け、異世界の超人達も対抗は出来ても撃破の目処は立っていない深刻な脅威。
ただ、最近大きな成果が得られた。
異世界人が初めての交渉……らしきものに成功し、ベアトリクスの発した信号を手に入れたのだ。
連合宙軍だけで無く、地球の各機関が色めき立った。
ひょっとしたら打倒ベアトリクスのヒントが得られるかも知れない。
あるいは、ベアトリクスの力の秘密を解明し、己の立場を有利にできるかも知れない。
「VOIDに本丸まで攻め込まれている状況で、人間同士の足の引っ張り合いをしてるんだからなァ!」
「あー、今のは出来れば聞かなかったことに」
この老人は性格は最悪でも実力と能力は一流だ。
彼の一存では脅すことも消すこともできない。
「ふん。報酬分の仕事はしてやるわい。……こりゃ人類に対する最後のご奉公かもしれんな」
それっきり無愛想に黙り込み、目をつむって実験の手順を組み立て始めた。
●全施設焼却まで残り30分
「詳しいしいことは現地で聞」
ブリーフィング無しでの転移である。
術者や整備員の姿が消え、無機質な105ミリ砲が出迎えた。
魔導トラックに似たところがある何か(装甲車)。
魔導型デュミナスに似た人型兵器(R6M2bアップデート版)。
いずれもリアルブルーの兵器だった。
これは最初に1発食らってからの交戦かと思考したのだが、105ミリの狙いは甘く、発射するまで妙に時間がかかっている。
無意識に回避しながら観察してみる。
何故か搭乗口が開きっぱなしだ。パイロットらしい軍人が広々とした廊下で銃を構え、リアルブルー兵器に銃を向けている。
「異世界人か! 研究所内の兵器が全て乗っ取られた。すまないが排除に協……」
105ミリ弾が軍人の間近を通過。
鍛えられた体が吹き飛びアスファルトに強くぶつかる。
「……」
あなたは、VOIDに乗っ取られたらしい現代兵器を撃破してもよい。
研究所の奥へ向かって科学者達を助けてもよい。
ハンターが処理するはずだった、連合宙軍が奪って厄介ごと無限生成機にしてしまったトランシーバーを壊しても構わない。
ただし残り時間は30分だ。
それまでにVOIDを倒しておかないと、集結した各国軍に施設ごと吹き飛ばされることになる。
リプレイ本文
●巨大な石の城で
のっぺりとした巨大な壁に、幅8メートル高さ10メートルの穴がぽっかりと開いていた。
全て人の手による人工物だ。
平時ならリアルブルーの技術と生産力の誇示になったのだろうが、今はハンターにとってなじみ深い殺気で台無しになっている。
「世に平穏のあらんことを……ってね」
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が操縦桿を少しだけ前へ。
真紅の機体の魔導エンジンが蒼く輝く。
ブースターに巨大なエネルギーが供給され、全高8メートルの巨体を一気に加速させた。
ルナリリルのアホ毛が揺れる。
急接近する大質量を察知し、魔導型デュミナス【パピルサグX】が無数の警告を灯らせる。
通路の奥に7つの発砲炎を確認。
105ミリ弾は狙いを外して打ちっ放しのコンクリを削り、30ミリ弾のいくつかが【パピルサグX】直撃コースを飛んでいた。
真紅の装甲に当たる。30ミリ弾が潰れ、ころりと地面に落ちた。
「この程度の被弾を気にしていたら間に合わんしな」
反撃したい気持ちを抑えて着地前の姿勢制御、速度を可能な限り落とさずブースター再起動。
前方に待ち受ける、カタナとアサルトライフルのみを装備したデュミナスまで十数メートルに近づいた。
「ハイテクなんだかローテクなんだか。通信機が無理でも外部スピーカーくらい標準装備にして欲しいね」
CAMで最初に攻撃したハンターはルナリリルではなくアニス・テスタロッサ(ka0141)だった。
機体の足を止め、回避する様子も見せず、魔導型デュミナス【レラージュ】に立射の姿勢をとらせる。
「まあ、狙いようなんざいくらでもあるけどな」
全長8メートルのカノン砲で105ミリ弾を打ち出す。
敵の105ミリ弾とは狙いの正確さが根本的に異なり、開きっぱなしのデュミナスコクピットに一直線に向かう。
無人のデュミナスが教科書通りの動きを見せる。
受けに特化したカタナで受け止め、腕の関節部分へのダメージと引き替えに直撃を回避。
僚機が攻撃直後のデュミナス【レラージュ】へアサルトライフルを向け、決して悪くは無い狙いで発砲する。
もっともその動きは全て【レラージュ】のメインカメラで把握されていた。
アニスが人類の反応速度を嘲笑う速さで反応。
軽くスウェーして30ミリ弾3発を空振りさせ、今度は無傷な方のデュミナスに105ミリ弾を当ててみせた。
「……よし」
2つの殺気が己を向くのを体で確信し、アニスは作戦通り次の行動へ移る。
【パピルサグX】に比べると装甲の薄い【レラージュ】がブースターを点火。
逆に【パピルサグX】はブースターを止めカノン砲のアームを展開。至近のデュミナスを無視して通路の最奥目がけてぶっ放す。
バックブラストが一瞬通路を明るくする。
その輝きが消えるより速く、分厚い鉄が凹む音が遠くから響いた。
ルナリリルが瞬く。
奥にいる魔導トラックの外見がすごい。
何度瞬いても、助手席から車体中央にかけて大穴が開いて、ふらふらしながらこちらに向かって来る。
「脆いぞ」
黒いオーラが戸惑うように薄れてはまた濃くなる。
これほど巨大な建造物を造った文明と、通路奥の紙装甲兵器がどうにも結びつかない。
「VOID以前の兵器を無理矢理改装した奴か。連合宙軍も余裕がないみたいだな」
柊 恭也(ka0711)が操縦桿を元の位置へ戻す。
分厚い装甲を持つ魔導型ドミニオン【ギガント】が脚を止める。
右腕部追加装甲と分厚いシールドに30ミリ弾の流れ弾と105ミリ弾が当たり、火花と小さな凹みだけを残して堅い床に転がった。
「熱烈な歓迎だなぁオイ」
恭也の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。
関節部の消耗が0に近いのをHMD越しに確認。【パピルサグX】と【レラージュ】に作戦続行のハンドサインを送ると同時に斬機刀「新月」へエネルギーを送り込む。
ハンター以外の悲鳴と、鳥の羽音に似た何かが微かに聞こえた気がした。
デュミナス2体は一種にも満たない間迷い、最も動きの鈍そうな機体を最初に潰すことにした。
8メートルの巨体が上段からカタナを振り下ろす。
達人の技をプログラムされ、数多の戦闘経験をもとに修正された実践的な一撃だった。
「CAMや通常兵器とやりあえる貴重な機会だ。全力でやらせて貰おうか」
恭也は操縦桿を指1本でわずかに押す。
生身時と比べれば遅い速度で、7メートルの体が十数度向きを変え一歩前へ出る。
そして、振り下ろされたカタナの片方が宙を切り、もう1本が分厚い盾に真正面から衝突して跳ね返された。
「角度を変えただけでボロが出る設定か」
先端に淡い光が灯る刃を、隙だらけのデュミナスの肩に突き立て、抉る。
反撃のカタナが盾に当たって浅い傷をつける。
【ギガント】はもう1歩下がることで、アサルトライフルに持ち替えようとしたデュミナスに真正面を塞いだ。
「そんじゃちょっと付き合って貰おうかっと」
刃で装甲を断つ。
傷ついたデュミナスが機敏に跳ぶ。
射撃戦闘では勝てない【パピルサグX】と【レラージュ】からは離れ、大型の火器を持たない【ギガント】目がけて30ミリ弾をばらまく。
「狂気でもないのか」
盾で受け、関節部で衝撃を柔らかく受け止めることが出来ている。
あの厄介な状態異常を影響下にあるなら受け損ねが1、2発あるはずなので、目の前のこれはおそらく単なる自動操縦機だ。
「調べるのは残骸にしてからだな」
まだ軍人の避難は終わっていない。
恭也は単純なプログラムなら隙と判断する動作を織り交ぜ、デュミナス2機を注意して引きつけつつ一方的な戦闘を続けた。
●機械の反抗
薄暗いため遠くが見辛く、連続する砲声で音も聞き取れない状況で、アニスは敵味方の状態を正確に把握していた。
「物理法則無視するようなのに変質してなきゃ、動きながら長物ぶっ放したって当たりゃしねぇよ」
105ミリ弾が肩部装甲の20センチ上を通過し、三叉路の天井にめり込んで止まった。
「だから、確実に当てるためには……まあ、足止めるよな」
装甲車が回避運動を停止。
車輪をロックした上で105ミリ砲の砲門を【レラージュ】に向ける。
つまり回避が0になる。
FCS装備機である【レラージュ】と【パピルサグX】の射撃が百発百中となり、速度がある分薄い装甲しか持たない車両が1機、2機と潰れて動かなくなる。
「的になり続けるか、こっち気にして好き放題ぶん殴られるか、好きなほう選べや。……ハッ」
敵の選択は正面突撃だ。
焼き切れても構わないつもりでエンジンを酷使。
ハンターにとっては豆鉄砲以下の玉を連射しながらこちらに向かってきた。
「砲戦機でやることじゃないが」
【パピルサグX】が数歩前進。
装甲車の加速は止まらない。
「伊達や酔狂でこの刀を握ってる訳でもなくてね……!」
カノン砲から長大なCAMブレードに持ち替える。
敵の進路上に置くつもりで構え、衝突の瞬間にほんの少しだけ揺らす。
すぱん。
半壊した前面からエンジンまで綺麗に断ち割られ、【ギガント】の刃で満身創痍にされたデュミナスにぶつかる止めを刺した。
「ちまちま削り合うのは性に合わねぇんでな。……とっと沈んで道開けやがれ!」
【ギガント】が串刺しにしたもう1機に弾を撃ち込みながら駆け寄り、衝突直前にブレードを伸ばして一太刀で切り捨てた。
このようにひとまず決着がつく数分前。
転移直後からひたすら地味な作戦が始まっていた。
「怪しい」
非常用電源も止まっているらしいのに監視カメラが動いている。
だから壊す。
VOIDに乗っ取られている確率が7割、連合宙軍が建物内部の人間に知らせず仕込んだ可能性が3割というところだ。
つまり壊して得はあっても損は無い。戦闘記録も残さなくて済むのも素晴らしい。
「何個あるのでしょう」
1つ1つ丁寧に壊す時間が惜しい。
水城もなか(ka3532)は結構重いはずのアサルトライフルを軽量の玩具のように軽々扱い、手当たり次第にカメラに向けては引き金を引いた。
さすがに戦場で使われるような頑丈な品ではなかたようだ。
2、3発の弾で再起不能なまで壊され、残骸が天井や壁から落ちてくる。
くえー!
驚き慌てた鳥類っぽい鳴き声、羽ばたき、そしてコンクリートを蹴る音が北から聞こえた。
「カナタばっかり狙いおって」
くえくえくえっ!
デュミナスの足下をリーリーが駆け回りながら幻獣砲を撃っている。
正直カナタ・ハテナ(ka2130)が範囲攻撃術を使った方が圧倒的に強い気もするが、同時には使えないし今以上に狙われると非常にまずい。
負傷者のもとまで巨大な敵を引っ張っていくわけにはいかないのだ。
「うわっ」
もなかが三叉路に顔を出してすぐに引っ込める。
くえぇっ!?
三叉路の一方から30ミリ弾が多数飛来。
うち1発がリーリーのお尻を掠めて堅い壁に穴を開けた。
「ブリーフィング無しの時点で嫌な予感はしていたがッ」
CAM乗りの面々が突入し来て少しは軽減されたが、食欲に限りなく近い視線が無人機から注がれている。
開きっぱなしの搭乗口はだらしない大口ののようで、そこから垂れ下がったベルトはよだれのようにも見える。
「必要な情報は渡しておけ。でないと治療もできぬわむぐッ」
リーリーが器用に翼を操り主と己の口を閉じ、味方機の蔭に隠れてこそこそ負傷者に近づいた。
「大変ですね。あ、こっちにも監視カメラ」
アサルトライフルの反動を手だけで押さえ込んで微笑む軍人風女性と、巨大な鳥に跨がる猫っぽい少女の組み合わせが、鍛え抜かれた軍人達に目眩に似た違和感を押しつける。
「君達は」
否、最も強い違和感は彼女達の力でも外見でも無くその行動だ。
全高8メートルの大重量物がすぐ近くで高速移動し30ミリ以上の弾も大量に飛び交っているのに、それらを正しく認識した上で恐れていない。
「クリムゾンウェストでは大きい歪虚……VOIDも珍しくないですから。慣れましたよ」
「人間サイズで戦車並みの化け物までいるからの。ほれ、重傷者は挙手、順番じゃ」
術発動の直後に重傷者が跳ね起きる。
複数臓器が恐ろしいほどの速さで癒やされ、余った古い血が口から激しく吐き出された。
「後は出来るだけ安全な場所に行け。本職なのじゃ。やれるじゃろ? 後、情報プリーズなのじゃ」
「ああ、治療に感謝する。名は……」
リーリーが器用に首を横に振る。
「すまない。後最大9人、そこの突き当たりの右側の扉に隠れている。他に生存者はいない」
軍人達は自軍内部のごたごたを一瞬自嘲した後、綺麗な敬礼を残してぎりぎりまで南に下がった。
●闇の奥へ
推進器からの伸びる炎が、R7エクスシアを背中側から明るく照らした。
「クソ避けにくいなぁオイ!」
紫月・海斗(ka0788)は機体に腰を捻らせ正面からの30ミリ弾幕を回避。
勢いがついて壁にぶつかりそうになったところで蹴りをかまして進路変更。
奥の三叉路目がけて全力で走らせる。
魔導エンジン無しのデュミナスが、巨大質量のコンクリから上半身を出して再度30ミリ弾をばらまいた。
「兵器が乗っ取られたとかまた狂気系かよー。つか何処に潜んでたんだか、ここかなりセキュリティがちがちだぜ」
建物と進路表示を見るだけでだいたい分かる。
軍の精鋭部隊や政府の防諜機関が面子にかけて守り抜くはずの、最上級のセキュリティが構築されていたはずだ。
しかし今現実にあるのは狂った兵器と辛うじて生き延びたリアルブルー人のみ。
強固なはずのセキュリティは残骸しか残っていない。
『避けろ』
「簡単に言ってくれるねぇ」
口が動くより早く操縦桿を動かす。
両膝から絶妙に力を抜いて姿勢を制御。
寸前まで肩があった場所を床と水平に105ミリ弾が貫通。そのまま奥のデュミナスにぶつかり8メートルの巨体をよろめかせた。
「ハッハァ! 全然効いてねぇっ」
デュミナスは健在だ。
アバルト・ジンツァー(ka0895)が狙撃にしくじった訳では無い。
単純に、CAMがしぶとすぎるのだ。
「やべぇやべぇ。当たるぜこりゃぁ」
飛んで屈んで弾幕を潜り抜け、最初は200メートル近くあった距離を数十メートルまで縮める。
「おっと」
追加スラスターをフル活用しても避けられない進路で30ミリが接近。
海斗機は機銃から刃を伸ばし、そこに展開した防護障壁で大きな弾を受け止めてみせる。
三叉路の壁が迫る。
数メートル手前で飛び上がって壁に脚部から着地。
そのまま壁を強く蹴って跳躍、3機のデュミナスが織りなす防衛線を強引に突破した。
「後は任せたぜぇ」
機体にひらひらと手を振らせながら、今度は105ミリ弾の歓迎を躱しつつ海斗が前に飛び出した。
「……詳しい事は分からないが、ともかく目の前の敵を排除する必要がありそうだな」
9割方雑音しか流さなくなったトランシーバーに一瞥をくれて、アバルトはゆっくりと操縦桿を倒した。
魔導型デュミナス【Falke】が前進を開始。
途中で105mmスナイパーライフルの狙いを僅かにずらし、海斗機を背後から襲おうとした暴走デュミナスの側面に命中させる。
開きっぱなしの搭乗口を中心に、惨たらしい傷口が大きく開いた。
「正直不快だな。デュミナスにしても装甲車にしても頼れる相棒のはずなのに、な」
VOIDに対する不快と同レベルで、連合宙軍の不甲斐なさを情けなく感じてしまう。
これまで散々狂気のVOIDと戦ってきたのだ。状態異常に対する備えは、正直もう少し頑張って欲しかった。
何者かに操られたデュミナスが【Falke】に意識を向ける。
アサルトライフル2射6発の弾丸が、限定された空間にほぼ等間隔に広がり【Falke】を襲う。
アバルトは避けるための操作を一切しない。
マント状シールドがゆらりと揺れて、速度を吸い取られた30ミリ弾がごろりと床へと落ちた。
「まだまだ改造半ばとは言え、こちらは射撃特化に仕上げている。避けられない状況でも、へろへろな弾で被害は受けぬ」
自機を失った軍人に被害を出す気は無い。
脚を止め、カノン砲の引き金を引き、発射の反動をものともせず前進を再開。
複数弾を浴びたデュミナスは、激しく火花を散らしながらまだ立っていた。
「俺が足を止める。処理の順番は任せた」
須磨井 礼二(ka4575)がスティックの片方を限界まで前に倒す。
R7エクスシアが盾を構えたまま前傾姿勢をとり、どう見ても正面衝突コースでデュミナス2機に突っ込んだ。
「妙だな」
多少改造されているだけのデュミナスを正面から見つめる。
クリムゾンウェストでは燃料食いの欠陥機扱いされることさえある機体なのに、何故か奇妙な親しみを感じる。
この機体に関わる、何か暖かい記憶が以前はあった気がするのだが……。
軽い衝撃を感じて意識を集中させる。
ほんの少しぼんやりしているときも機体とマテリアルの操作は問題なく行えていたようで、シールドを機導術で動かし、自身あるいは扉に当たる可能性があった弾丸全てを受け止めていた。
「敵機に大規模改装の形跡無し。武装はASにカタナ」
魔導エンジンの出力を背部エンハンサーで増幅。
機体に最低限必要なものを除いて刃のないマテリアルソードへ注ぐ。
ただの棒にも見えるソードから非実体の光刃が伸び、R7エクスシアは重さを感じさせない速度でデュミナスへ突き入れた。
腹と胸に開いた大穴から黒煙と不規則な火花が発生。
下半身の制御に失敗して何もない場所で蹴躓いた。
「腐ってもデュミナスか」
直撃の瞬間にマテリアルによる電撃を打ち込んだのだが、本当に全く手応えが無かった。
運悪く抵抗されたわけでは無く、抵抗を抜く確率が0だった感触だ。
起き上がろうとする半壊デュミナスに蹴りを入れて非装甲部分の位置を調整。
非実体の光刃を再生成して上から奥まで突き立てた。
センサー部分の光が消えて機体が沈黙する。
無事な1体が逆にセンサーを光らせ、立射で30ミリ弾を連射する。
R7エクスシアの腕部装甲がわずかに欠けたが被害はそれだけだ。
棒立ちのデュミナスを固く重い壁に押しつけ、容赦なく、何度も刃を突き刺した。
「派手にやってるな、っと危ねぇ」
ハンターが駆るCAMに比べるとあまりにも拙い銃撃を、数度程度の進路変更で危なげ無く躱す。
「撃ち合っても勝てるがよ」
着地とタイミングをあわせて脚部ローラーを起動。
狙い澄ましたはずの105ミリ弾をこれまで以上の速度で置き去りにする。
「やることは山ほどあるんだ。とっと済ませて」
エンハンサーが熱を帯び、R7エクスシアが後光に似た光を纏う。
「先にいかせてもらうぜ」
3つの光の線が3両の装甲車をそれぞれ射貫く。
運転席に人がいれば即死だったろうが、空なのでまだ動く。
「おっ……と」
近接用小火器の豆鉄砲を回避しつつデルタレイ再発動。
呆れてしまうほどあっさりと、3両とも重要部位を破壊された完全に停止した。
「強いのか弱いのか分からねぇ連中だな。さて、恭也の方は大丈夫かねぇ?」
止めに使うはずだったハルバードから非実体に刃を消し、海斗機はのんびりと振り返った。
「後1機か」
一見何の工夫も無い立射の姿勢で【Falke】が引き金を引く。
曳光弾が形作る光の線が、礼二機の猛攻に必死に耐えるデュミナスに突き刺さる。
胴の装甲が凹み、手足の装甲が割れ、焼け焦げた臭いと動力が空転する音が聞こえだしてもまだ動く。
ぼろぼろの腕部が大型のライフルを握り、負のマテリアルを漂わせる弾丸を【Falke】に向け放とうとした。
30ミリ弾は止まらない。
装甲を深く凹ませ、内部の機構にダメージを積み重ね、継戦能力を確実に削る。
焦った反撃は、虚しく天井に当たって砕けて散った。
「……狙撃とはこう行うんだ。冥土の土産に存分に味わうんだな」
遠距離からの精密射撃も、特殊弾の使用も、全て手段であって目的ではない。
当てて倒せばいいのだ。
政治的なパフォーマンスが必要なら話は別だが、敵味方以外いない場所なら確実に当てて確実に滅ぼせる手段で必要十分だ。
弾倉が空になった時点で、既に人型ですら無くなったデュミナスが四肢を脱落させコンクリートへ転がった。
●浄化。そして帰還
クエ!
分厚い扉を蹴散らし胸を張るリーリー。
その頭をカナタがこつんとつつく。
再起動を目論んでいた自働兵器とまとめて潰したのはカナタの術であってリーリーの足ではない。
「軍が何かしでかさないかと心配だったのじゃが、やはりこうなったの」
異様に物々しい部屋の中央に、見慣れたトランシーバーの残骸が安置されている。
「調べたい気持ちも分かるのじゃが設備の整ったこの研究所でさえこの有り様じゃ。覚醒者が触れる事で何が起こるか判らんのじゃし、これ以上のリスクは避けるべきじゃ」
なんとなく記録装置がありそうな場所をちらりと見てから、愛用の魔導盾に体内のマテリアルを導いた。
盾でもある虎猫人形が目を見開き、そこから清らかな光がビームっぽくトランシーバーに降り注ぐ。
10秒、20秒、30秒と照射が続いた後、微かな手応えがあって残骸からVOIDの残滓が消滅した。
『こちらの安全は確認した。そっちのブツはぶっ壊したろうな?』
「今物理的にも壊すのじゃ」
猫から放たれた光の波が、トランシーバーの残骸と、汚染の可能性のある高価な……本当に高価な機材を微塵に砕いて消滅させた。
「我々はクリムゾンウェスト・ハンターソサエティーから派遣された部隊です」
研究所から借りた拡声器を手に、もなかは交渉という戦いに挑んでいた。
連合宙軍所属らしき車両が次々現れて出口のすぐ側を固め、その後ろには現地の警察が背を向け野次馬を食い止めようとしている。
「繰り返します。VOIDは倒しました。浄化も20分もすれば完了します」
今のところ敵意は感じない。
まあ、命令があれば荒っぽいこともできるのが軍隊だ。いつまでこの状態を保てるのかは全く分からない。
『対応を代わろうか』
「いえ、ルナリリルさんだと必要以上に刺激してしまう可能性がありますので」
もなかは営業スマイルを浮かべたまま、軍人時代の所属やIDまで伝えて説得力を増す努力を続ける。
野次馬の間に本格的なカメラが見える。
地球レベルの見世物になっている気がするが、連合宙軍と揉めて無駄な血を流すよりましと考えぐっと我慢する。
「そうか。撤収作業は進めておく」
ルナリリルは通信を終了して部屋の中央を見た。
浄化を終えたカナタが額の汗をぬぐい、老若男女に肌のバリエーションも豊富な科学者達が歓声をあげてコンソールにとりついている。
「これがリアルブルー――地球の超大型コンピュータ、スパコンとやらか。流石に現物を見るのは初めてだが、作業補助くらいはできる、はず」
魔導機械とはかなり印象が異なる割に、操作方法はかけ離れてはいないようだ。
代表の許可を得て、誰もとりついていないコンソールに触れてみた。
「少なくないか?」
巨大な施設で大がかりに調査した割に、例のトランシーバー経由で得られた情報は非常に少なう。
小さなメモリ1枚に入りきる程度だ。
計算式を入力して試しに実行。凄まじい処理速度にちょっと感動してアホ毛が自然に揺れたりしつつ、条件を変えながら何度か繰り返してみた。
「無意味な信号であってもおかしくないな」
「儂等の商売はいつもそんなものだ。後は言語や暗号の連中の担当だな」
老人がディスプレイから目を離さずにしんみりつぶやいた。
『デュミナスと装甲車をざっと調べた。機体に歪虚化の痕跡は無し。メモリの中身までは探れてないからそっちでやってくれ』
復旧した館内回線を通じて恭也が報告を入れてくる。
「所長さんよ、ここまでやられるなんて何したんだ?」
礼二が室内を見回す。
複数のケーブルが乱暴に切断され、最新機種のはずのスパコンが妙に古びているというか酷使でくすんでいる。
「記録された信号をコピーした」
「それは本当に信号か?」
「それも調べている。カ……名称不明の協力者のおかげでこれの不調も直った。結果は今月中に出る」
礼二は肩をすくめてコンソールに手を伸ばそうとして、外部から通信が届いているのに気づいてトランシーバーの電源を切った。
データの送信だけで研究所全体が狂ったのだ。
迂闊に外と回線をつなげると碌でもない事態になりかえねない。
「あのとき攻撃も妙にぬるかったし、何か伝えたいのかもな」
強欲王も邪神が歪虚に変えたと聞いた覚えがある。
ベアトリクスの同じ目にあっている可能性は低くは無い。
なら、ベアトリクスは変えられる前に何だったのか?
「直接聞ければ話は早いんだが、直にコミュとると認識狂うからな」
「空軍と海軍はどうなった」
「はい、今撤退すると連絡が入りました」
研究所の復旧とその後の処理は問題なく進んでいる。
軽く息を吐いて礼二が手伝いをしようとして、いきなり視界が切り替わった。
「帰ったか」
礼二が持っていたケーブルが床に落ち、ルナリリルのプログラムが組みかけで放置されている。
「……恥ずかしい仕事はできんな」
気合いを入れ、ベアトリクスの手がかりを得るための下準備を続行する。
彼にはハンターに匹敵する知覚力は無かった。
スパコンの奥。LEDも無いのにいつの間にか淡い光が生じていたことに、最期まで気づけなかった。
のっぺりとした巨大な壁に、幅8メートル高さ10メートルの穴がぽっかりと開いていた。
全て人の手による人工物だ。
平時ならリアルブルーの技術と生産力の誇示になったのだろうが、今はハンターにとってなじみ深い殺気で台無しになっている。
「世に平穏のあらんことを……ってね」
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が操縦桿を少しだけ前へ。
真紅の機体の魔導エンジンが蒼く輝く。
ブースターに巨大なエネルギーが供給され、全高8メートルの巨体を一気に加速させた。
ルナリリルのアホ毛が揺れる。
急接近する大質量を察知し、魔導型デュミナス【パピルサグX】が無数の警告を灯らせる。
通路の奥に7つの発砲炎を確認。
105ミリ弾は狙いを外して打ちっ放しのコンクリを削り、30ミリ弾のいくつかが【パピルサグX】直撃コースを飛んでいた。
真紅の装甲に当たる。30ミリ弾が潰れ、ころりと地面に落ちた。
「この程度の被弾を気にしていたら間に合わんしな」
反撃したい気持ちを抑えて着地前の姿勢制御、速度を可能な限り落とさずブースター再起動。
前方に待ち受ける、カタナとアサルトライフルのみを装備したデュミナスまで十数メートルに近づいた。
「ハイテクなんだかローテクなんだか。通信機が無理でも外部スピーカーくらい標準装備にして欲しいね」
CAMで最初に攻撃したハンターはルナリリルではなくアニス・テスタロッサ(ka0141)だった。
機体の足を止め、回避する様子も見せず、魔導型デュミナス【レラージュ】に立射の姿勢をとらせる。
「まあ、狙いようなんざいくらでもあるけどな」
全長8メートルのカノン砲で105ミリ弾を打ち出す。
敵の105ミリ弾とは狙いの正確さが根本的に異なり、開きっぱなしのデュミナスコクピットに一直線に向かう。
無人のデュミナスが教科書通りの動きを見せる。
受けに特化したカタナで受け止め、腕の関節部分へのダメージと引き替えに直撃を回避。
僚機が攻撃直後のデュミナス【レラージュ】へアサルトライフルを向け、決して悪くは無い狙いで発砲する。
もっともその動きは全て【レラージュ】のメインカメラで把握されていた。
アニスが人類の反応速度を嘲笑う速さで反応。
軽くスウェーして30ミリ弾3発を空振りさせ、今度は無傷な方のデュミナスに105ミリ弾を当ててみせた。
「……よし」
2つの殺気が己を向くのを体で確信し、アニスは作戦通り次の行動へ移る。
【パピルサグX】に比べると装甲の薄い【レラージュ】がブースターを点火。
逆に【パピルサグX】はブースターを止めカノン砲のアームを展開。至近のデュミナスを無視して通路の最奥目がけてぶっ放す。
バックブラストが一瞬通路を明るくする。
その輝きが消えるより速く、分厚い鉄が凹む音が遠くから響いた。
ルナリリルが瞬く。
奥にいる魔導トラックの外見がすごい。
何度瞬いても、助手席から車体中央にかけて大穴が開いて、ふらふらしながらこちらに向かって来る。
「脆いぞ」
黒いオーラが戸惑うように薄れてはまた濃くなる。
これほど巨大な建造物を造った文明と、通路奥の紙装甲兵器がどうにも結びつかない。
「VOID以前の兵器を無理矢理改装した奴か。連合宙軍も余裕がないみたいだな」
柊 恭也(ka0711)が操縦桿を元の位置へ戻す。
分厚い装甲を持つ魔導型ドミニオン【ギガント】が脚を止める。
右腕部追加装甲と分厚いシールドに30ミリ弾の流れ弾と105ミリ弾が当たり、火花と小さな凹みだけを残して堅い床に転がった。
「熱烈な歓迎だなぁオイ」
恭也の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。
関節部の消耗が0に近いのをHMD越しに確認。【パピルサグX】と【レラージュ】に作戦続行のハンドサインを送ると同時に斬機刀「新月」へエネルギーを送り込む。
ハンター以外の悲鳴と、鳥の羽音に似た何かが微かに聞こえた気がした。
デュミナス2体は一種にも満たない間迷い、最も動きの鈍そうな機体を最初に潰すことにした。
8メートルの巨体が上段からカタナを振り下ろす。
達人の技をプログラムされ、数多の戦闘経験をもとに修正された実践的な一撃だった。
「CAMや通常兵器とやりあえる貴重な機会だ。全力でやらせて貰おうか」
恭也は操縦桿を指1本でわずかに押す。
生身時と比べれば遅い速度で、7メートルの体が十数度向きを変え一歩前へ出る。
そして、振り下ろされたカタナの片方が宙を切り、もう1本が分厚い盾に真正面から衝突して跳ね返された。
「角度を変えただけでボロが出る設定か」
先端に淡い光が灯る刃を、隙だらけのデュミナスの肩に突き立て、抉る。
反撃のカタナが盾に当たって浅い傷をつける。
【ギガント】はもう1歩下がることで、アサルトライフルに持ち替えようとしたデュミナスに真正面を塞いだ。
「そんじゃちょっと付き合って貰おうかっと」
刃で装甲を断つ。
傷ついたデュミナスが機敏に跳ぶ。
射撃戦闘では勝てない【パピルサグX】と【レラージュ】からは離れ、大型の火器を持たない【ギガント】目がけて30ミリ弾をばらまく。
「狂気でもないのか」
盾で受け、関節部で衝撃を柔らかく受け止めることが出来ている。
あの厄介な状態異常を影響下にあるなら受け損ねが1、2発あるはずなので、目の前のこれはおそらく単なる自動操縦機だ。
「調べるのは残骸にしてからだな」
まだ軍人の避難は終わっていない。
恭也は単純なプログラムなら隙と判断する動作を織り交ぜ、デュミナス2機を注意して引きつけつつ一方的な戦闘を続けた。
●機械の反抗
薄暗いため遠くが見辛く、連続する砲声で音も聞き取れない状況で、アニスは敵味方の状態を正確に把握していた。
「物理法則無視するようなのに変質してなきゃ、動きながら長物ぶっ放したって当たりゃしねぇよ」
105ミリ弾が肩部装甲の20センチ上を通過し、三叉路の天井にめり込んで止まった。
「だから、確実に当てるためには……まあ、足止めるよな」
装甲車が回避運動を停止。
車輪をロックした上で105ミリ砲の砲門を【レラージュ】に向ける。
つまり回避が0になる。
FCS装備機である【レラージュ】と【パピルサグX】の射撃が百発百中となり、速度がある分薄い装甲しか持たない車両が1機、2機と潰れて動かなくなる。
「的になり続けるか、こっち気にして好き放題ぶん殴られるか、好きなほう選べや。……ハッ」
敵の選択は正面突撃だ。
焼き切れても構わないつもりでエンジンを酷使。
ハンターにとっては豆鉄砲以下の玉を連射しながらこちらに向かってきた。
「砲戦機でやることじゃないが」
【パピルサグX】が数歩前進。
装甲車の加速は止まらない。
「伊達や酔狂でこの刀を握ってる訳でもなくてね……!」
カノン砲から長大なCAMブレードに持ち替える。
敵の進路上に置くつもりで構え、衝突の瞬間にほんの少しだけ揺らす。
すぱん。
半壊した前面からエンジンまで綺麗に断ち割られ、【ギガント】の刃で満身創痍にされたデュミナスにぶつかる止めを刺した。
「ちまちま削り合うのは性に合わねぇんでな。……とっと沈んで道開けやがれ!」
【ギガント】が串刺しにしたもう1機に弾を撃ち込みながら駆け寄り、衝突直前にブレードを伸ばして一太刀で切り捨てた。
このようにひとまず決着がつく数分前。
転移直後からひたすら地味な作戦が始まっていた。
「怪しい」
非常用電源も止まっているらしいのに監視カメラが動いている。
だから壊す。
VOIDに乗っ取られている確率が7割、連合宙軍が建物内部の人間に知らせず仕込んだ可能性が3割というところだ。
つまり壊して得はあっても損は無い。戦闘記録も残さなくて済むのも素晴らしい。
「何個あるのでしょう」
1つ1つ丁寧に壊す時間が惜しい。
水城もなか(ka3532)は結構重いはずのアサルトライフルを軽量の玩具のように軽々扱い、手当たり次第にカメラに向けては引き金を引いた。
さすがに戦場で使われるような頑丈な品ではなかたようだ。
2、3発の弾で再起不能なまで壊され、残骸が天井や壁から落ちてくる。
くえー!
驚き慌てた鳥類っぽい鳴き声、羽ばたき、そしてコンクリートを蹴る音が北から聞こえた。
「カナタばっかり狙いおって」
くえくえくえっ!
デュミナスの足下をリーリーが駆け回りながら幻獣砲を撃っている。
正直カナタ・ハテナ(ka2130)が範囲攻撃術を使った方が圧倒的に強い気もするが、同時には使えないし今以上に狙われると非常にまずい。
負傷者のもとまで巨大な敵を引っ張っていくわけにはいかないのだ。
「うわっ」
もなかが三叉路に顔を出してすぐに引っ込める。
くえぇっ!?
三叉路の一方から30ミリ弾が多数飛来。
うち1発がリーリーのお尻を掠めて堅い壁に穴を開けた。
「ブリーフィング無しの時点で嫌な予感はしていたがッ」
CAM乗りの面々が突入し来て少しは軽減されたが、食欲に限りなく近い視線が無人機から注がれている。
開きっぱなしの搭乗口はだらしない大口ののようで、そこから垂れ下がったベルトはよだれのようにも見える。
「必要な情報は渡しておけ。でないと治療もできぬわむぐッ」
リーリーが器用に翼を操り主と己の口を閉じ、味方機の蔭に隠れてこそこそ負傷者に近づいた。
「大変ですね。あ、こっちにも監視カメラ」
アサルトライフルの反動を手だけで押さえ込んで微笑む軍人風女性と、巨大な鳥に跨がる猫っぽい少女の組み合わせが、鍛え抜かれた軍人達に目眩に似た違和感を押しつける。
「君達は」
否、最も強い違和感は彼女達の力でも外見でも無くその行動だ。
全高8メートルの大重量物がすぐ近くで高速移動し30ミリ以上の弾も大量に飛び交っているのに、それらを正しく認識した上で恐れていない。
「クリムゾンウェストでは大きい歪虚……VOIDも珍しくないですから。慣れましたよ」
「人間サイズで戦車並みの化け物までいるからの。ほれ、重傷者は挙手、順番じゃ」
術発動の直後に重傷者が跳ね起きる。
複数臓器が恐ろしいほどの速さで癒やされ、余った古い血が口から激しく吐き出された。
「後は出来るだけ安全な場所に行け。本職なのじゃ。やれるじゃろ? 後、情報プリーズなのじゃ」
「ああ、治療に感謝する。名は……」
リーリーが器用に首を横に振る。
「すまない。後最大9人、そこの突き当たりの右側の扉に隠れている。他に生存者はいない」
軍人達は自軍内部のごたごたを一瞬自嘲した後、綺麗な敬礼を残してぎりぎりまで南に下がった。
●闇の奥へ
推進器からの伸びる炎が、R7エクスシアを背中側から明るく照らした。
「クソ避けにくいなぁオイ!」
紫月・海斗(ka0788)は機体に腰を捻らせ正面からの30ミリ弾幕を回避。
勢いがついて壁にぶつかりそうになったところで蹴りをかまして進路変更。
奥の三叉路目がけて全力で走らせる。
魔導エンジン無しのデュミナスが、巨大質量のコンクリから上半身を出して再度30ミリ弾をばらまいた。
「兵器が乗っ取られたとかまた狂気系かよー。つか何処に潜んでたんだか、ここかなりセキュリティがちがちだぜ」
建物と進路表示を見るだけでだいたい分かる。
軍の精鋭部隊や政府の防諜機関が面子にかけて守り抜くはずの、最上級のセキュリティが構築されていたはずだ。
しかし今現実にあるのは狂った兵器と辛うじて生き延びたリアルブルー人のみ。
強固なはずのセキュリティは残骸しか残っていない。
『避けろ』
「簡単に言ってくれるねぇ」
口が動くより早く操縦桿を動かす。
両膝から絶妙に力を抜いて姿勢を制御。
寸前まで肩があった場所を床と水平に105ミリ弾が貫通。そのまま奥のデュミナスにぶつかり8メートルの巨体をよろめかせた。
「ハッハァ! 全然効いてねぇっ」
デュミナスは健在だ。
アバルト・ジンツァー(ka0895)が狙撃にしくじった訳では無い。
単純に、CAMがしぶとすぎるのだ。
「やべぇやべぇ。当たるぜこりゃぁ」
飛んで屈んで弾幕を潜り抜け、最初は200メートル近くあった距離を数十メートルまで縮める。
「おっと」
追加スラスターをフル活用しても避けられない進路で30ミリが接近。
海斗機は機銃から刃を伸ばし、そこに展開した防護障壁で大きな弾を受け止めてみせる。
三叉路の壁が迫る。
数メートル手前で飛び上がって壁に脚部から着地。
そのまま壁を強く蹴って跳躍、3機のデュミナスが織りなす防衛線を強引に突破した。
「後は任せたぜぇ」
機体にひらひらと手を振らせながら、今度は105ミリ弾の歓迎を躱しつつ海斗が前に飛び出した。
「……詳しい事は分からないが、ともかく目の前の敵を排除する必要がありそうだな」
9割方雑音しか流さなくなったトランシーバーに一瞥をくれて、アバルトはゆっくりと操縦桿を倒した。
魔導型デュミナス【Falke】が前進を開始。
途中で105mmスナイパーライフルの狙いを僅かにずらし、海斗機を背後から襲おうとした暴走デュミナスの側面に命中させる。
開きっぱなしの搭乗口を中心に、惨たらしい傷口が大きく開いた。
「正直不快だな。デュミナスにしても装甲車にしても頼れる相棒のはずなのに、な」
VOIDに対する不快と同レベルで、連合宙軍の不甲斐なさを情けなく感じてしまう。
これまで散々狂気のVOIDと戦ってきたのだ。状態異常に対する備えは、正直もう少し頑張って欲しかった。
何者かに操られたデュミナスが【Falke】に意識を向ける。
アサルトライフル2射6発の弾丸が、限定された空間にほぼ等間隔に広がり【Falke】を襲う。
アバルトは避けるための操作を一切しない。
マント状シールドがゆらりと揺れて、速度を吸い取られた30ミリ弾がごろりと床へと落ちた。
「まだまだ改造半ばとは言え、こちらは射撃特化に仕上げている。避けられない状況でも、へろへろな弾で被害は受けぬ」
自機を失った軍人に被害を出す気は無い。
脚を止め、カノン砲の引き金を引き、発射の反動をものともせず前進を再開。
複数弾を浴びたデュミナスは、激しく火花を散らしながらまだ立っていた。
「俺が足を止める。処理の順番は任せた」
須磨井 礼二(ka4575)がスティックの片方を限界まで前に倒す。
R7エクスシアが盾を構えたまま前傾姿勢をとり、どう見ても正面衝突コースでデュミナス2機に突っ込んだ。
「妙だな」
多少改造されているだけのデュミナスを正面から見つめる。
クリムゾンウェストでは燃料食いの欠陥機扱いされることさえある機体なのに、何故か奇妙な親しみを感じる。
この機体に関わる、何か暖かい記憶が以前はあった気がするのだが……。
軽い衝撃を感じて意識を集中させる。
ほんの少しぼんやりしているときも機体とマテリアルの操作は問題なく行えていたようで、シールドを機導術で動かし、自身あるいは扉に当たる可能性があった弾丸全てを受け止めていた。
「敵機に大規模改装の形跡無し。武装はASにカタナ」
魔導エンジンの出力を背部エンハンサーで増幅。
機体に最低限必要なものを除いて刃のないマテリアルソードへ注ぐ。
ただの棒にも見えるソードから非実体の光刃が伸び、R7エクスシアは重さを感じさせない速度でデュミナスへ突き入れた。
腹と胸に開いた大穴から黒煙と不規則な火花が発生。
下半身の制御に失敗して何もない場所で蹴躓いた。
「腐ってもデュミナスか」
直撃の瞬間にマテリアルによる電撃を打ち込んだのだが、本当に全く手応えが無かった。
運悪く抵抗されたわけでは無く、抵抗を抜く確率が0だった感触だ。
起き上がろうとする半壊デュミナスに蹴りを入れて非装甲部分の位置を調整。
非実体の光刃を再生成して上から奥まで突き立てた。
センサー部分の光が消えて機体が沈黙する。
無事な1体が逆にセンサーを光らせ、立射で30ミリ弾を連射する。
R7エクスシアの腕部装甲がわずかに欠けたが被害はそれだけだ。
棒立ちのデュミナスを固く重い壁に押しつけ、容赦なく、何度も刃を突き刺した。
「派手にやってるな、っと危ねぇ」
ハンターが駆るCAMに比べるとあまりにも拙い銃撃を、数度程度の進路変更で危なげ無く躱す。
「撃ち合っても勝てるがよ」
着地とタイミングをあわせて脚部ローラーを起動。
狙い澄ましたはずの105ミリ弾をこれまで以上の速度で置き去りにする。
「やることは山ほどあるんだ。とっと済ませて」
エンハンサーが熱を帯び、R7エクスシアが後光に似た光を纏う。
「先にいかせてもらうぜ」
3つの光の線が3両の装甲車をそれぞれ射貫く。
運転席に人がいれば即死だったろうが、空なのでまだ動く。
「おっ……と」
近接用小火器の豆鉄砲を回避しつつデルタレイ再発動。
呆れてしまうほどあっさりと、3両とも重要部位を破壊された完全に停止した。
「強いのか弱いのか分からねぇ連中だな。さて、恭也の方は大丈夫かねぇ?」
止めに使うはずだったハルバードから非実体に刃を消し、海斗機はのんびりと振り返った。
「後1機か」
一見何の工夫も無い立射の姿勢で【Falke】が引き金を引く。
曳光弾が形作る光の線が、礼二機の猛攻に必死に耐えるデュミナスに突き刺さる。
胴の装甲が凹み、手足の装甲が割れ、焼け焦げた臭いと動力が空転する音が聞こえだしてもまだ動く。
ぼろぼろの腕部が大型のライフルを握り、負のマテリアルを漂わせる弾丸を【Falke】に向け放とうとした。
30ミリ弾は止まらない。
装甲を深く凹ませ、内部の機構にダメージを積み重ね、継戦能力を確実に削る。
焦った反撃は、虚しく天井に当たって砕けて散った。
「……狙撃とはこう行うんだ。冥土の土産に存分に味わうんだな」
遠距離からの精密射撃も、特殊弾の使用も、全て手段であって目的ではない。
当てて倒せばいいのだ。
政治的なパフォーマンスが必要なら話は別だが、敵味方以外いない場所なら確実に当てて確実に滅ぼせる手段で必要十分だ。
弾倉が空になった時点で、既に人型ですら無くなったデュミナスが四肢を脱落させコンクリートへ転がった。
●浄化。そして帰還
クエ!
分厚い扉を蹴散らし胸を張るリーリー。
その頭をカナタがこつんとつつく。
再起動を目論んでいた自働兵器とまとめて潰したのはカナタの術であってリーリーの足ではない。
「軍が何かしでかさないかと心配だったのじゃが、やはりこうなったの」
異様に物々しい部屋の中央に、見慣れたトランシーバーの残骸が安置されている。
「調べたい気持ちも分かるのじゃが設備の整ったこの研究所でさえこの有り様じゃ。覚醒者が触れる事で何が起こるか判らんのじゃし、これ以上のリスクは避けるべきじゃ」
なんとなく記録装置がありそうな場所をちらりと見てから、愛用の魔導盾に体内のマテリアルを導いた。
盾でもある虎猫人形が目を見開き、そこから清らかな光がビームっぽくトランシーバーに降り注ぐ。
10秒、20秒、30秒と照射が続いた後、微かな手応えがあって残骸からVOIDの残滓が消滅した。
『こちらの安全は確認した。そっちのブツはぶっ壊したろうな?』
「今物理的にも壊すのじゃ」
猫から放たれた光の波が、トランシーバーの残骸と、汚染の可能性のある高価な……本当に高価な機材を微塵に砕いて消滅させた。
「我々はクリムゾンウェスト・ハンターソサエティーから派遣された部隊です」
研究所から借りた拡声器を手に、もなかは交渉という戦いに挑んでいた。
連合宙軍所属らしき車両が次々現れて出口のすぐ側を固め、その後ろには現地の警察が背を向け野次馬を食い止めようとしている。
「繰り返します。VOIDは倒しました。浄化も20分もすれば完了します」
今のところ敵意は感じない。
まあ、命令があれば荒っぽいこともできるのが軍隊だ。いつまでこの状態を保てるのかは全く分からない。
『対応を代わろうか』
「いえ、ルナリリルさんだと必要以上に刺激してしまう可能性がありますので」
もなかは営業スマイルを浮かべたまま、軍人時代の所属やIDまで伝えて説得力を増す努力を続ける。
野次馬の間に本格的なカメラが見える。
地球レベルの見世物になっている気がするが、連合宙軍と揉めて無駄な血を流すよりましと考えぐっと我慢する。
「そうか。撤収作業は進めておく」
ルナリリルは通信を終了して部屋の中央を見た。
浄化を終えたカナタが額の汗をぬぐい、老若男女に肌のバリエーションも豊富な科学者達が歓声をあげてコンソールにとりついている。
「これがリアルブルー――地球の超大型コンピュータ、スパコンとやらか。流石に現物を見るのは初めてだが、作業補助くらいはできる、はず」
魔導機械とはかなり印象が異なる割に、操作方法はかけ離れてはいないようだ。
代表の許可を得て、誰もとりついていないコンソールに触れてみた。
「少なくないか?」
巨大な施設で大がかりに調査した割に、例のトランシーバー経由で得られた情報は非常に少なう。
小さなメモリ1枚に入りきる程度だ。
計算式を入力して試しに実行。凄まじい処理速度にちょっと感動してアホ毛が自然に揺れたりしつつ、条件を変えながら何度か繰り返してみた。
「無意味な信号であってもおかしくないな」
「儂等の商売はいつもそんなものだ。後は言語や暗号の連中の担当だな」
老人がディスプレイから目を離さずにしんみりつぶやいた。
『デュミナスと装甲車をざっと調べた。機体に歪虚化の痕跡は無し。メモリの中身までは探れてないからそっちでやってくれ』
復旧した館内回線を通じて恭也が報告を入れてくる。
「所長さんよ、ここまでやられるなんて何したんだ?」
礼二が室内を見回す。
複数のケーブルが乱暴に切断され、最新機種のはずのスパコンが妙に古びているというか酷使でくすんでいる。
「記録された信号をコピーした」
「それは本当に信号か?」
「それも調べている。カ……名称不明の協力者のおかげでこれの不調も直った。結果は今月中に出る」
礼二は肩をすくめてコンソールに手を伸ばそうとして、外部から通信が届いているのに気づいてトランシーバーの電源を切った。
データの送信だけで研究所全体が狂ったのだ。
迂闊に外と回線をつなげると碌でもない事態になりかえねない。
「あのとき攻撃も妙にぬるかったし、何か伝えたいのかもな」
強欲王も邪神が歪虚に変えたと聞いた覚えがある。
ベアトリクスの同じ目にあっている可能性は低くは無い。
なら、ベアトリクスは変えられる前に何だったのか?
「直接聞ければ話は早いんだが、直にコミュとると認識狂うからな」
「空軍と海軍はどうなった」
「はい、今撤退すると連絡が入りました」
研究所の復旧とその後の処理は問題なく進んでいる。
軽く息を吐いて礼二が手伝いをしようとして、いきなり視界が切り替わった。
「帰ったか」
礼二が持っていたケーブルが床に落ち、ルナリリルのプログラムが組みかけで放置されている。
「……恥ずかしい仕事はできんな」
気合いを入れ、ベアトリクスの手がかりを得るための下準備を続行する。
彼にはハンターに匹敵する知覚力は無かった。
スパコンの奥。LEDも無いのにいつの間にか淡い光が生じていたことに、最期まで気づけなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/20 14:26:41 |
|
![]() |
相談――開始 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/02/24 22:15:06 |