俺たちのバレンタインはこれからだ!

マスター:黒木茨

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/24 22:00
完成日
2017/03/04 22:17

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オープニング

●バレンタインは終わらない
 ヴァリオスにあるとある街でのことである。バレンタイン商戦も落ち着き、チョコレートの甘く濃厚な香りも少々薄くなってきたころ、人々はホワイトデーに向けて準備を進めていた。
 柔らかく雪のように白いマシュマロや、口に入れればほろほろと軽やかに解けるクッキー……店はチョコレート一色から一転、様々な種類のお菓子を並べる。バレンタインに幸せな夢を見た人々も、お返しという現実に頭を悩ませた。
「ウホッウホッウホッ」
 そんな時だった!
「な、なんだあれは!?」
 街に突如現れたのは、ゴリラである!
「ウホッウホッ」
 ゴリラはその手にある物体を投げた! 悲鳴を上げ逃げ惑う人々の足元に、べちゃりと茶色の水溜りが広がり、カカオの香りが充満する。
「食べ物を粗末にするな!!」
 もっともな叫びが街中に響き渡る。しかし、脅威はゴリラだけではなかった!
「グワーッ!」
 ゴリラの投げた物体に当たり、男―先日貰ったチョコレートの数を自慢して回っていた―は悲鳴を上げ倒れる! 地に転がったのはラグビーボール状の固い何かだ。
「これは……カカオ!? どうしてこんなところに……」
「もう、何よ!」
 彼に手を貸した女性が蹴とばそうとすると、何かは鋭い牙を露出させその足を捉えた。今度は女性が悲鳴を上げる番となる。

「助けてくれ!」
 外の惨状に顔を青ざめている受付嬢の前に、避難民が押し寄せた――

リプレイ本文

●強襲のゴリラ
 街の石畳にはゴリラの投げたカカオが散乱していた。チョコバナナを売り出す屋台の店先には投げられたカカオがめり込んでいる。
「ウホッウホッウホッ」
「ひっ……!」
 チョコを食べ歩きしていた女性が振り向くと、眼前にはゴリラ。
 しかし!
 その時、ゴリラの脳内には女性が自分にチョコを渡そうとしている姿が広がっていたのだろう。
『ゴリラくん、私のチョコ欲しいの? しょうがないなぁ……はい、あーん』
 愛する女性を傷つけるなんてできない。ゴリラは動きを止めた。腰を抜かした女性のもとに、男性が駆け寄る。
「大丈夫かい? さあ、手を」
「ありがとう……」
 ゴリラの幻想は終わった。身体を男性への怒りで染めたゴリラは彼に向けてカカオを投げつける。それは野球選手も驚くほどの速度で彼の脚に当たった。
「ゴドゥィヴァッ!」
 謎の言葉を悲鳴に乗せ倒れこむ男性。女性はその事に気付かず石畳を駆け抜ける。ゴリラは満足したのか対象を別の男へと移した――
「へぇ、何あれ。チョコ貰えなかった怨念なの?」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559) は、男性を助け起こしながらにんまりと笑みを零した。鞍馬 真(ka5819)と共に避難誘導を行っていた彼女は、ゴリラの様子からある閃きを得た。
「店長ー、ちょっと奥借りるわ、着替えさせてね!」
 立ち寄った洋装店の店長を真へ引き渡した後、カーミンは店の奥へ行った。戻ってきたころには、その服装は清楚なものに変わっていた。白いブラウスと、腰部がコルセット状になった暗色のハイウエストスカートの組み合わせはまさに、今暴れているゴリラのような男性を誘惑することにかけては凄まじい効果を上げるといわれているスタイルだ。
「カーミンくん、それは……」
「どう? これで歪虚を殺してくるわね」
 真の言葉に、カーミンはウインクで返した。

●漢の戦い、乙女の下拵
「マロゾフッ!」
 避難は進められているが、それでも犠牲となるモテ男は尽きない。普通の男性をも巻き込んだゴリラの猛攻は、カカオの海となって現れた。
「ヒューッ! こいつはいい!」
 鋭い歯を覗かせ動き回るカカオにギャリー・ハッシュベルト(ka6749)は弾丸を打ち込んでいく。カカオの硬い外殻は二度、三度は持ちこたえたものの、四度目には耐えきれず砕け散る。空けられた穴からはカカオ特有の香ばしい匂いが漂った。
「仕事じゃなけりゃビールとヴルストで乾杯しながらじっくり眺めるんだがなあ」
 惜しい、実に惜しい。ギャリーは哄笑し、カカオを撃ち落としていく。その上をはらりとスカートと艶のあるロングヘアーを翻し、真が飛ぶ。戦乙女のような出で立ちをした真は、ギャリーの撃ち漏らしたカカオを弓で貫いていった。
「……これも、依頼成功の、ためだ……」
 その姿は、溜息と共にこのような言葉を吐きだしていたのが嘘のようである。

 着々とカカオを削るハンターであるが、この後ただゴリラを倒すだけではない。作戦を思いついたのは、イスタ・イルマティーニ(ka1764)だった。自らのプレイしていた恋愛ゲームに着想を得たのだ。イスタ自身もふわりとシトラスの香りを漂わせ、ジャージにスニーカーという出で立ちに変わる。その姿はまさしく『運動部のマネージャー』である。ショートパンツが程よく引き締まった美脚を強調させた。
 その裏では獅子堂 灯(ka6710)が既にメイクばっちりのロス・バーミリオン(ka4718)に化粧を施されている。セーラー服を着こんだ灯が選んだ設定は、『ボーイッシュな後輩』だ。本人がコンプレックスにしている小柄な体型が、今は最高の武器だ。
(お化粧するのなんて生まれて初めてだ)
 化粧の間、灯はそんなことを考えていた。ロスの自信満々な声が終わったことを告げる。出来栄えを確認した灯が見たのは、お姫様のような自分の姿だ。
「うん、これならばっちり……」
「私の最高傑作よ!! さぁ、行きなさい灯ちゃん! 貴方の後輩魂、見せつけてやりなさい!!」
 ロスに背中を押され、灯は歩き出す。街ではゴリラの悲痛な叫びとドラミングの鈍い音が轟いていた。男性陣の奮闘によりカカオの数は着々と減らされているものの、ゴリラの苦しみとその八つ当たり―それに巻き込まれる避難中の男性たち―はまだ終わっていないのだ。
 鮮やかにカカオを避け、先にゴリラの元へ待っていたカーミンと共に、女性陣は各々チョコレートを取り出した―

●私のチョコを受け取って!
 イスタの持ったチョコレートとその恰好に、ゴリラ二体の頭の中は以下の妄想でいっぱいになった。

 ゴリ太とゴリ男(仮名)はカカオラグビー部で頑張る男子高校生だ。今日もバレンタインだというのにストイックに練習し、高め合っている。
「おつかれさま! ドリンク用意したよ」
 二人の心の支えとなっているのは、マネージャーのイスタさんだった。いつものようにドリンクを出してくれると思っていた二人は、嬉しい悲鳴を上げる。彼女の大きなスポーツバッグから出てきたのは二人分のチョコであった。優しく手渡されるチョコレート。
「汗、すごい流れてる」
 しかも彼女は、また鞄からチョコレートを取り出しゴリ太とゴリ男の身体を拭いてくれた!
「ウホッウホッ!」
「ウホホホホッ!」
 喜ぶゴリラたちに、イスタは女神のように微笑んでは頬を染め、口を開いた。
「わたし、力強くボールを投げているあなたが好き」
 ボールとはすなわち、その力強い腕に抱えるカカオのことだ。ゴリ太もゴリ男もそれを理解した。ついでに、イスタさんが選ぶのは二人のうち片方しかないのだろう、そうでなければ、どちらも選ばないのだろうということも――ゴリ太とゴリ男はその瞬間高め合う仲間から敵同士になった!

 ゴリ太とゴリ男(仮名)がイスタの前でカカオ合戦をしている中、カーミンがあぶれたゴリラにさり気なくボディタッチをした。
「すごーい、大きな手ー。触ってもいい?」
 清楚な恰好とは裏腹に、小悪魔的な笑顔。魅了されたゴリラはなすすべもなくその手にカーミンの小さな手を乗せた。
「大丈夫よー、毒とか入っていないから」
 チョコレートを、カーミンは一口口に含む。一口分減ったそれを、今度はゴリラに向かって差し出した。
「はい、あーんして?」
「ウホーッ!!」
 そんなゴリラにとって幸せな時間は、やってきたカカオによって中断された。ゴリ太とゴリ男のカカオ合戦の流れ弾だ。カーミンはこのチャンスを逃さない。
「あーん、あれ邪魔よー。……ゴリラさん、あれ倒せる?」
「ウホッ」
 彼女は白熱した戦いを広げているゴリ太とゴリ男を指さして、ゴリラに目配せをした。
 カカオ合戦のプレイヤーがもう一ゴリラ増えることになる。

●殺意(きもち)をいっぱい込めました!
 次々とゴリラを無力化していく仲間を見て、灯とロスも負けてはいられない。
(皆に迷惑をかける先輩に後輩である僕が直々にお仕置きしてあげるっ!)
「カカオなんて捨てて私たちと楽しみましょ♪」
 チョコを持つ二人を目にして、ゴリラは幸せな妄想に浸った。

「ウッホホーイ! ウホホウホホッ!」
 バレンタインの朝もゴリ山は食パンを咥え今日も元気に登校していた、そこに……
「あらゴリちゃん、おはよう」
 笑顔で現れたのは、近所に住んでいる女医のロゼお姉さんであった。彼女の手にあるのはハート型のチョコレート。手作りであろうそれにゴリ山は注目した。
「準備してたのよ。だってゴリちゃん……かっこいいもの」
 ゴリ山は首を傾げた。
「その渋さがいいのよぉ」
 ゴリ山は歓喜の雄叫びを上げた。

 しかしそんな夢も、すぐに終わってしまう。
「悪い事してるゴリラちゃんにはチョコレートあげないわよぉ?」
 ハート型のチョコレートはロスの手によって懐に仕舞われた。その代わりに与えられたのは鞭の一撃。傷つけられた事実と喉から響く男性的な声にゴリ山は混乱し、ドラミングする。そうしていると視界に灯の姿が映り、妄想も脚色を加えられていく。

「先輩、ちょっと恥ずかしいけど……これ」
 無事辿り着いた学校での休み時間。後輩の灯に呼び出されたゴリ山は、チョコと共にはにかむ灯の姿を見た。
「……い、一応僕も女の子だし、喜んでくれるよね、先輩?」
 上目遣いでそう見詰められて、ゴリラは一瞬で幸福の絶頂へ向かった!

 だから、灯が隠し持った武器を取り出して構えることにも気づかない。
「えいっ」
 チョコを持って呆けた顔をしているゴリラに、きつい電撃が走った。
「ウホホッ!? ウホホッホホ!?」
「代わりに腸引きずり出してやろうか!? あぁ!?」
 ロスの鞭も加わり、ゴリラに苦痛を与える。反撃に出ようとするものの、先程の電撃で残った痺れのせいで動けない。
「ゴリラ先輩……さようなら」
 ゴリラに向けられた灯の蒼機杖から、光が花開いた。チョコレートごと真っ二つになる、ゴリラ。その後にはただ割れたチョコレートが残った――
 ゴリ山、成敗!!

●馬に蹴られろ
 女性を巡ったカカオ合戦にも飽きてきたゴリラは、ようやく本来の目的を思い出した。お互いをモテない同志であることを再認識し、本来の敵へとカカオを投げつけようとその腕を上げた。
「イケメンとおじ様のお顔に傷が付いたらどう落とし前付けてくれんのよ!!」
 合流したギャリーに向けて投げられるそれにロゼが怒りを露わにした。スパッスパッと鮮やかにカカオが分割されていく。さらに真が店舗の屋根からふわりと舞い降りる。その容姿から性別を認識できず、混乱するゴリラ。
「ウホ……」
 無言のままマテリアルを込めた魔導符剣で、真はゴリラの肉体を切り刻んだ。
「ウホホッ」
 四人の女性からチョコレートを貰ったことによる満足からか、ゴリラの死に顔は穏やかであった……。それでもまだ、ゴリラは何人か残っている。ゴリ太とゴリ男(仮名)は次々とカカオを投げるが、ギャリーによって穴を開けられていく。残ったカカオは鋭い牙をハンターに向ける。
「ッ……!!」
 真の脚がその餌食になった。痛みにしゃがみ込むが、直ぐにギャリーによって治療された。
「年に一度の恋の日を邪魔するおバカさんにはこれがお似合いよ!」
 ロスの紅蓮斬によって消滅したゴリラ仲間の反撃を行おうとした最後のゴリラであったが、もうカカオを投げつくしてしまっている。頼れるのは己の拳のみだ。ドラミングで獲物を威嚇して殴りかかった。しかし――
 その巨体に、炎を纏った矢が無数に刺さる。
「ホワイトデーのお返しは結構でしてよ? だって、もう消えてしまうのですから……」
 消えゆくゴリラに、イスタは背を向けた――

●バレンタインは終わらない
 ゴリラとカカオが消えた後は、ただ静けさが残った。避難が完了していたこともあり、先程までの騒ぎが嘘のようだ。場に残されたハンターたちは支部からの迎えがくるまでの間、出来る限りの片付けを行うことにした。
「結局……なんだったんだろう。あの歪虚」
「さあなぁ……」
 灯の疑問が沈黙を打ち消した。それは悲痛な叫びを上げていた、哀れなゴリラについてだ。ギャリーは言葉を濁すが、それに対しカーミンはあっさりと返す。
「モテない男の僻みでしょ」

「そろそろホワイトデーよね」
 不意打ちのようなロスの言葉に、真は慌てて下を向いた。そうだ、彼女はどうしているだろう――
「今度は、お返しに悩む想いが形になった歪虚が出るかも」
「あり得ないこともないな」
 カーミンの冗談が真を助ける。
「まさかぁ」
「またゴリラかぁ?」
 ロスとギャリーもその冗談に加わった。灯ももくもくと想像する。
「何を投げるのかな……マシュマロ?」
「比較的無害そうね」
「わからないですわよ?」
 歪虚の話からまた話が移り、話題も尽きてきたころにギャリーがこう言って話を締めた。
「よし、もう帰るか」
 そろそろ、迎えが来る頃だ。ハンターたちは手を止め、陽光に向かって歩きだす。
 そう、たとえ春になったとしても――モテない男たちのバレンタインはこれからだ!

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士

  • イスタ・イルマティーニ(ka1764
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • Lady Rose
    ロス・バーミリオン(ka4718
    人間(蒼)|32才|男性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 時に清楚な夜のお嬢
    獅子堂 灯(ka6710
    人間(蒼)|16才|女性|機導師

  • ギャリー・ハッシュベルト(ka6749
    人間(蒼)|48才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/21 23:56:15
アイコン 可哀想なゴリちゃんに愛の手を?
ロス・バーミリオン(ka4718
人間(リアルブルー)|32才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/02/23 23:27:55