【魔装】無形のピース

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/02 15:00
完成日
2017/03/05 20:03

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●???
 その少女は知った。
 話に聞いていた歪虚と呼ばれる存在が、思ったよりも、『豊か』だったと。
 七眷属という分類だけではない、個体差も大きいし、持っている能力も様々だ。
「ネル・ベル様は【強制】を使っていた……」
 過去を振り返りながら、少女は呟く。
 【強制】とは、傲慢――アイテルカイト――が扱う強力な能力だ。
 対象を意のままに操る事が出来る。例えば、自害、あるいは、仲間への攻撃。
「ズールは【懲罰】……そして、メフィストは『姿を偽る能力』……」
 【懲罰】も使い方によっては凶悪な能力だ。受けたダメージを対象へ与えるという力である。
 『姿を偽る能力』で、メフィストは天使の姿となっていた。
「情報が足りない……」
 手元の資料に頭から突っ伏す緑髪の少女。
 かつて主であった傲慢の歪虚と戦う際には、調べておかなければならない情報だからだ。
 しかし、積極的に情報を探し回る訳にもいかない。なぜなら、緑髪の少女は現在、“別の依頼”を受けている際中だからだ。
「やっぱり、牡丹様との関わりを隠れ蓑にして、情報を集めるしかないですね」
 諦めたように溜息をついた。
 できれば、牡丹から離れたく無かったが、早急に情報を集める必要があると予感がしたからだ。

●数日前
 紡伎 希(kz0174)が、商店街のチラシを確認しているような真剣な眼差しをみせた。
 一方、鳴月 牡丹(kz0180)はリアルブルーのアニメの主題歌を鼻歌で唄いながら、自転車を磨いている。
「……牡丹様、届いた荷物って、その自転車ですか?」
「そうだよ」
 彼女が本気を出せば、馬よりも早く走れるかもしれない――多分。
 だが、希は彼女が自転車に乗っている所を見たことは無かった。
「……牡丹様、乗れないのですか?」
「そうだよ」
 即答の牡丹の言葉に、沈黙が流れる。
 再び鼻歌を唄いだした牡丹。
「……牡丹様」
「そうだよ」
「まだ、何も言ってません。というか、乗れないのに、なぜ、自転車を磨いているのですか?」
 呆れながら訊ねる希。
 牡丹は手を休める事なく答える。
「知りたいからさ。この自転車という乗り物を、ね」
「台詞は格好良いのですが、乗れないのですよね?」
 僅かな沈黙。
「ヒドイナ、ノゾミクンハ、ボクダッテノレルヨ」
「分かりました。もう聞きませんから。ところで、牡丹様、先の亜人の事なのですが」
 気持ちを入れ替える希。
「亜人って、あんなに武器や防具を持っているものなのですか?」
「それは、こっちが聞きたいよ。王国の亜人は文化レベルが高いのかい?」
 レタニケ領を脅かしている亜人は武器や防具で武装していた。
 中には属性武器まで持っている亜人も居た。もちろん、亜人が作れる代物ではない。
「……奪われたという事でしょうか?」
「武器の入手先については調べる必要があると思うけど、今は目の前の事に追われているからね」
 近いうちに奪われた集落を取り戻す作戦が行われるだろうというのが牡丹の予想だった。
 牡丹は両腕を胸下で組んだ。豊かな二つの丸い丘が、より強調される。
「そうだね。ちょっと、情報が欲しいかな。結局、なんで武器を持っていたか分からなかったら、観戦報告が足らないし」
「分かりました。それでは、ハンターを使って、調べられる範囲で調べたいと思います」
 ササッとメモに牡丹の言葉を書き込んでいく希。
 その口元が微妙に笑っているのを、牡丹は見逃さなかった。だが、希が笑った理由が分からず、牡丹は再び自転車磨きに意識を戻すのだった。

●帰ってきた覚醒者
 『北の戦乙女』と呼ばれた凄腕のクルセイダーがいた。
 王国北部での茨小鬼の動乱の最中、リルエナ・ヒガヤは自らの体に宿っていた力を失った――いや、元々、彼女の持っていた力では無かったのだが。
 覚醒者としての力を失ったものの、一般人として日々を過ごす分には不便はなかった。
「リアルブルーに行ってみたいという夢が、こんな形で叶うなんて……エリカ姉さん、ありがとう」
 昨年末の事だった。ある時、リルエナは“覚醒”した。
 クラスはクルセイダーではなく、霊闘士(ベルセルク)。聖女エリカの英霊だとリルエナは思うようにしている。
 その英霊が、本物か幻かは、彼女にとってどちらでもいい事だ。
「新しくハンター登録も済ましたし、リゼリオに拠点を移すかな」
 異世界への転移が、一時的でも可能という話を聞いた。
 彼女にとって、リアルブルーに行ってみたいという事は、とても大切な事であった。
 暫くは王国に戻って来る事はないだろう。リゼリオで情報を集めながら、転移の機会を待つつもりだ。
「行って来ます」
 彼女の新しい旅が始まろうとしていた。

●従者
 王国北部、大峡谷にほど近い荒野でオフロードバイクを駆る老人が一人。
 “オキナ”と呼ばれている。かつて、『戦慄の機導師』という二つ名を持っていた元ハンターだ。
「ふむ、大体、こんな所かの」
 ゴブリン共を森へと追い立てた所で、オキナはバイクを止めた。
 彼からすれば、亜人など、それこそ星の数ほど倒してきた。亜人共のテリトリーから追い出す事ぐらい、造作でもない。
 森の中から犬の遠吠えが響いた。
 そこにも、オキナの仲間――と言っていいものか分からないが、そんな存在が居た。
「ふむ。ネオピアも慣れたもんじゃな」
 ネオピアは堕落者ならぬ堕落犬である。
 人間以外の動物が堕落者と化すケースをオキナは長い人生の中で聞いた事は無かった。
 すぐにでも歪虚に喰われるか、人間に倒されるかと思っていたが……。
「亜人ドモ、奥へ行ッタ」
 犬娘のような容姿で、ネオピアが森から姿を現した。
「では、次の群れへと向かうが、集合場所は何時もの合図だ」
「ワカッタ」
 短くそれだけ言うと、不機嫌な様子のまま森へと姿を消した。
 主であるネル・ベルの命令でオキナと一緒に、任務を行う事が不満のようだ。
「まぁ、あれでも、随分と話を聞くようになったもんじゃな」
 苦笑を浮かべ、オキナはバイクの魔導エンジンを始動させた。

●無形のピース
 レタニケ領では、牡丹とハンター達が領主の息子と亜人相手に戦いを繰り広げていた。
 その合間を縫って、ハンターオフィスに一つの依頼が出された。
『亜人調査(レタニケ領)』
 張り出された依頼書を希は満足そうに見つめていた。

リプレイ本文

●龍崎・カズマ(ka0178)
 人が行き交う様子をカズマは休憩がてらカフェで眺めていた。
 崖上都市ピースホライズンでの調査は、思った以上の成果が得られなかったというのもある。
(茨の時はゴブリンに変革を促す出来事があった。だが、今回はそうでも無いという事か?)
 手元には二種類の地図。茨小鬼が引き起こした北方動乱の前と後での様々な情報が記してあった。
 顕著なのは、北方動乱直前の被害が目立つ。
 この時期は茨小鬼の勢力拡大によってテリトリーを奪われた亜人が引き起こす事件が多かったからだ。
(奴らだって知恵も感情もある生き物だ。生きる為になんだってやるだろう……)
 そこまで想い、再び地図に目を落とす。
 レタニケ領は小さい領土なので必然的に経済規模も小さい。
 関わっている行商人等も少ないかもしれない。
 だとしても……亜人の行動に、それも、属性武具を持つ程の亜人の行動の情報が得られないというのは――
(――あんまり協力者ってのは考えたくはないがな)
 世間的に目立たせないように“協力者”が居る可能性もある。
 それに、武器工房や行商から多数の属性武具を亜人に奪われたという情報が思ったように得られなかったのは、逆を言えば、レタニケ領に現れた亜人が持っていた分に関して、“そもそも、奪われていない”という可能性もある。
 その時、カズマの視界の中で、子供達がお菓子を交換し合っていた。
 実に平和らしいほのぼのとした光景だ。和気あいあいと、お菓子について何か言いながら――きっと、珍しさとか美味しさとか――それに見合うようにお菓子を“交換”している。
 その光景に、カズマは見落としがあったのではないかと、ふと、感じた。
 亜人のテリトリーに変化が見えなかったのは、あくまで、人間から見てではなかったのか。人間が立ち入る事が基本的にはないはずの大峡谷深部では、別の動きがあったのではないか。
(……もし、多数の“属性武器”を交換するのなら、それは、それなりに価値があるものという事なのだろうな)

●米本 剛(ka0320)
 トンビコートに眼鏡を掛けた剛が港街ガンナ・エントラータを歩いていた。
 それだけで、圧迫感があり十分目立つ……かもしれない。
(戦闘みたいに単純には進まないでしょうが、兎も角動いてみましょうかね)
 と苦手意識を押しやり、ひたすら足で情報を探す。
 その内容は、主に、『取り扱い注意の品』だったり、『秘密厳守の仕事』『王国北部へ行くだけの仕事』等だ。
 それらに、自分も一枚噛みたいという雰囲気も付け加えるのを忘れなかった。
 船乗り相手の酒場を何件か周り、たどり着いた一つの古びた酒場へと剛は入る。
「景気の良い話はないか? 少し稼ぐ必要があってな」
「見ての通り、この店にそんな話はねぇ。だが……」
 店主の目の動きに剛は“お気持ち”をカウンターに置いた。サッと受け取り、変わりに出てきたのは、激薄の粗悪な酒。
「……今も募集しているか分からねぇが、少し前に中古の武器を相場よりも上で買い取ってた爺が居たな」
「なんの為に?」
「安く修理できる目処があるからと言っていたが、結局、修理された品は、この街で出てこず。馬車で北へと向かう姿を見たって奴もいるらしいが……」
 差し出されたメモには、その取引場所が描かれていた。
「また、顔を出す可能性もある。持って行きな」
「風貌は分かるか?」
「白髪と白いちょび髭が特徴的だったな」
「これは頂いていく」
 酒を一気に飲み干し、剛はメモを大事そうに懐へとしまった。
 この情報が求めている情報と繋がるか分からないが、剛はメモに書かれていた取引場所へとやって来た。
 スラム街の路地深く、やや開けた場所には台座のような物があるだけだ。台座にはいたずら書きか『恨晴石』と書かれていた。
「まさかとは思いますが……」
 爺の風貌は在り来たりかもしれない。しかし、ブルダズルダの街で会った事があるような無いような……。
「確か、オキナと呼ばれていましたか……」
 遠い記憶を呼び戻すように口にしながら、剛は一つの情報を得たような、そんな気もしていた。

●アルマ・A・エインズワース(ka4901)
 偶然とは恐ろしいもので、大峡谷付近を魔導バイクで走っていたアルマは一人の爺と遭遇した。
「わふ? こんにちはー」
「こんな所で人と出会うとはな、珍しい」
 爺は驚いたような顔をしながらも、その眼光は疑いの目を向けていた――もっとも、それに気が付くアルマでは無かったようだが。
「初めましてですー。僕、アルマっていいます。ハンターですー」
 全くもって表裏感のない彼の言葉と身振りに爺はホッとしたようだった。
「元気がいいのう。儂は“オキナ”じゃ。昔は『戦慄の機導師』とも呼ばれておったぞ」
「オキナさん、機導師なんですね! 僕もなんです」
 目を輝かせたアルマに対し、わざとらしく大袈裟にオキナが言う。
「アルマ君はハンターか。何かの依頼かの?」
「そうなのです!」
 飛び掛るような勢いでアルマが――依頼の内容を正直にオキナへと応えた。
 きっと、飼い主が居たら「この馬鹿犬がぁ!」と怒られそうな勢いだが、残念ながら、ここに飼い主は居ない。
「……っていう事なんですけど、亜人さんとか見なかったです?」
「“この辺”では見かけないのう。儂は知人から、亜人に“奪われた馬車”の行方を追っている訳じゃが」
「亜人さん達に、何か変わった所なかったですかー?」
 続けて質問するアルマにオキナは首を振った。
「追い詰めた亜人が森の中に“逃げて”いく事は“いつも通り”じゃしのー」
「そうなのですかー」
 折角の何か情報が得られるかと思ったが、思いの外、得られなかった事にアルマはションボリとした。
「あ! その奪われた馬車の積荷ってなんですか?」
「中古の武器と聞いてはおるがの……アルマ君の言う、レタニケ領から、それほど遠くない。関係があるかもしれんの」
「これは、大きい情報! オキナさん、ありがとうございます~!」
 正直なアルマの言葉にオキナはウンウンと何度も頷いた。
「それじゃあの、アルマ君よ」
「そうだ。オキナさん、先輩、とおじいちゃん、どっちがいいです?」
「オキナ、で良いぞ」
 ニカっと笑ったオキナはバイクで去っていったのだった。

●夜桜 奏音(ka5754)
「さて、何かこの聞き込みで有益な情報を手に入れられるといいのですが」
 冒険都市リゼリオ――ハンターオフィスで奏音はレタニケ領での亜人関連の情報を求めていた。
 率直に言うと、そもそも、レタニケ領自体、どこだか知らない人の方が多かった。
 王国北西部の小さい領地だ。特別有名でもなければ、依頼が多く出ている訳でもない。
「レタニケ領での依頼なら……東方の武将の護衛という依頼以外はないみたいです」
 受付嬢もそんな風に答えた。
 仕方なく、今度は街に繰り出す。このままでは何の情報も得ないまま終わってしまう。
「最近のレタニケ領の依頼や噂で気になることってないですか」
 荒くれ共が集まる酒場で聞きまわる中、数多く聞き回った事が良かったのだろうか、一人の商人に話が聞けた。
 なんでも、王国軍に物資を卸している商人だという。
「レタニケ領って、王国北西部らへんの小さい領地の事だろう」
「そうです。それと、レタニケ領近辺以外で似たような噂って聞いた事ありますか」
「詳しくは知らないが、王国北部の亜人について詳しく知っている人物なら心当たりがあるよ」
 商人の言葉を一言も聞き漏らさないように奏音はしっかりとメモを取る。
「どなたでしょうか?」
「北方動乱の際、世話になった騎士で、確か、ノセヤといったか」
 その名前をメモに書き、どこかで聞いた事あるようなと奏音は思った。
 記憶を辿る――パッと浮かんだ騎士は、アルテミス小隊長のソルラ。今はフライングシスティーナ号に居るはずだ。
 フライングシスティーナ号に奏音は一度乗った事がある。その船の刻令術担当の騎士の名も――ノセヤ。
 商人の話は続いていた。
「騎士ノセヤはウィーダの街で亜人らと交渉していたらしいからな。動向も詳しいはずだ」
「灯台もと暗しとはこの事でしょうか……」
 ノセヤなる人物が何らかの事を知っている可能性はあるだろう。
 しかし、今から転移門を使ってフライングシスティーナ号に行くには依頼の制限時間が間に合わない。
 奏音は商人にお礼を述べてから酒場を出ると、青空を見上げた。
(目処がついただけでもよしとしますか)

●刹那(ka6584)
 王都イルダーナで情報を求める刹那は楽士として酒場を転々としていた。
 細く儚げな雰囲気の少女の見た目に釣られ、酔っ払いが絡んでくるのを、これ幸いにと話を聞き出す。
「亜人よりも歪虚ですか……」
 歪虚の話の方が多い気がした。
 無理もない。王都はベリアルとメフィストという歪虚に襲われたのだ。いつまた、歪虚が侵攻してくるか。市民にとって王国北部は田舎の出来事なのかもしれない。
「まぁ、それは素晴らしいです。貴族の方とも面識があるのですね」
 微笑を浮かべながら刹那は、理容師だと自称する男の話を聞いていた。
 なんでも、王国北西部のある貴族お抱えで、今は道具の手入れの為に王都に訪れているらしい。
「そのレタニケ領の周りにもいくつか中小の大きさの領地があって、そのうちの一つ、フレッサ領はそりゃ、凄いって噂さ」
「あら、どの様に凄いのでしょうか?」
「自領へと入った茨小鬼を追い払う、テスカ教団の狂信者も追い払う、最近では港町近郊でのベリアル軍追撃戦でも戦功を挙げたのさ」
 戦功を挙げ続けるというのは難しい事である。
 特に戦関係となると、私兵を維持するだけではなく、訓練や武具の調達も大金が必要だからだ。
「ただ、良い噂ばかりでもねぇさ」
 急にトーンを下げる理容師。
 顔がくっつきそうな程、男に寄る刹那。
「領地経営の影に歪虚の姿があるってのが専らな噂さ。隣接しているブルダズルダの領地での歪虚騒ぎでも一枚噛んでるという話もある」
「それは……噂ですよね」
「あぁ。だが、火の無い所にはなんたらって言うだろう」
 レタニケ領における亜人騒ぎは、亜人の襲撃の影に陰謀が渦巻いているかもしれない。
 確かめる術はない。だが、ブルダズルダの街で起こった歪虚の事件の時は、フレッサの私兵が街に現れたらしい。自領に現れた歪虚を追っていたとの事だが……。
「レタニケ領には近づかない方が良い。何か起こるかもしれねぇ」
「わたくし、怖いです」
 刹那はワザとらしく言いながら、体を理容師に預けたのだった。

●檜ケ谷 樹(ka5040)
 大峡谷のある場所に樹とリルエナはやって来た。
 ゴラグオやエネミンとの接触を図っての事だ。ちゃんと手土産も持ってくる辺り、サラリーマン樹と言うべき所だろうか。
「居ない……だと……」
 干し肉を落とす樹。
 苦労して大峡谷奥地までやって来たというのに、これだ。
「テリトリーが動いた可能性がある」
 そう言ったのはリルエナだ。左手の薬指の『虹の花』と呼ばれる特別な花を加工して作った指輪が鮮やかに見えた。
 落ちた肉を拾う為、前かがみになった彼女の胸元に見える、偉大な頂きに樹は思わず食い入る。
「最近、大峡谷で大きな騒ぎがあったから、移動した可能性は高い。ゴラグオならそうするだろうな」
「な、なるほど」
 無防備というか無自覚というか、こんな彼女だからという訳ではないが、必ず護ってみせると樹は心に誓う。
 ちなみに、最近の騒ぎとは【蒼乱】の事を指している。大峡谷で古代遺跡が見つかり、大きな戦いとなったのだ。
「もっと奥に行ったとして、そうなると、そこも、別の亜人が居そうだけど」
 干し肉を受け取りながら樹は言った。
 限られた土地を奪い合っているようなものだ。
「ゴラグオなら他の亜人と戦っても勝てるだろうからな」
「負けた亜人はどうなる?」
 樹の質問にリルエナは遠く西の方角を見つめたまま告げた。
「亜人の群れにもよるが、奴隷みたいな扱いをされる場合もある」
「交戦した亜人は人間を恐れない、との旨の報告があったか……」
「その場合なら、従属関係がしっかりした群れかもしれない。命令を聞けなければ殺されるとすれば、必死にもなるだろう」
 少なくとも、ゴラグオの群れではそういう事はしないとリルエナは続けた。
「実際、亜人のテリトリーが動いた可能性はあると現地で確認できただけでも良いか」
「もう、帰るのか?」
 踵を返した樹は婚約者のその言葉に振り返る。
「どうしたんだい、リルエナ?」
「その……姉さんの洞窟に寄っていきたいのだが……」
 ここからそう遠くない。静かに頷く樹にリルエナは笑顔を浮かべ、彼の腕を取った。


 おしまい


●アルラウネ(ka4841)
 古都アークエルスの図書館で一般開放区域より先に入ろうというのは難しい。
 原則、事前の申請と審査が無ければ入れないからだ。色々と手を打ってみたものの空振りとなった。これなら領主に直談判した方が早かったかもしれない。
 その為、アルラウネと紡伎 希(kz0174)は一般開放区域で必要な情報が記された書籍を探す。
「歴史は繰り返すって言うしね。異常な事程、過去にあればはっきりと残ってるハズ……」
 属性武具を扱ったケースは見られなかった。
 あるいは、ここの区域ではそういった情報は無かったかもしれない。
「今回の件、放っておくと危ない気がするのよね」
「なんででしょうか?」
 呟いた言葉に希が反応した。
 レタニケ領での亜人騒ぎは事件といえば事件だ。だが、王国にとって亜人との諍いは昔から繰り広げられていた事でもある。
「女の勘ね」
 なので、アルラウネはそう応えるしか無かった。
 何かよくない事があのレタニケ領にあるに違いない。大体、あの温泉での出来事も怪しい事この上ないのだ(アルラ視点)。
(あの時はノゾミちゃんに変な所を見せちゃったけど、ここではしっかりしなきゃ)
 お姉さんらしい所を見せつけてやろうと思って胸を張ったのと、希が何か用があって手を伸ばしたのが同時だった。
「ひゃう!」
「あ、ごめんなさい」
 こいつもラキスケかと思いながら胸を抑えつつ冷静を装うアルラウネ。
「どうしたの、ノゾミちゃん」
「傲慢歪虚に関する本を見ていたのですが、この部分、どう思いますか?」
 開かれたページの一文には【強制】【懲罰】【変容】と記されてあった。
 どうやら、傲慢歪虚の能力についての話らしいが、詳細はそれ以上分からない。
「【強制】は従わせる能力。【懲罰】は同じ傷を与えるって聞いた気がするけど……。【変容】は変身したりするのかしら」
 そういえば、テスカ教団事件で現れたメフィストは最初、天使の姿に変身していた。
 その事を指しているというのだろうか。
「……ネル・ベル様も使えたり」
 希が小さな声で言った呟きがアルラウネの耳に辛うじて聞こえたのだった。

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MVP一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹ka5040

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • エージェント
    刹那(ka6584
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/01 08:28:42
アイコン 【確認事項】質問用
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/03/02 00:57:10
アイコン 相談用
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/03/01 21:51:42