• 初心

【初心】手向けの花の見る夢

マスター:紫月紫織

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/03/04 09:00
完成日
2017/03/11 13:40

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●夜の秘密は蜜の味
 夜もふけて、月夜の帳が降りた頃、少女は寝床で目を覚ました。
 もそ……と寝床から這い出して、周りを見回して両親が寝静まっているのを確かめてからそっと家を抜け出す。
 常習犯のような手慣れた動きだった。
「ふふふ、今日は何の花にしようっかなぁ~」
 月明かりのみに照らされる薄暗い夜道を歩く、そんな夜の世界と打って変わって少女の足取りは軽やかだ。
 それはこれからの楽しみと言わんばかりのことへと意識が向けられているというのも、大きな理由だろう。
 彼女の家の裏山をしばらく登ったところには、とてもきれいな花畑が広がっていた。
 雪が降り積もったかのように一面白で埋め尽くされたそこは、月の光を受けてほのかに輝いて見える。
 そんな花を一輪積んで、花弁をちぎり口にする。
 溜まった夜露に蜜がとけているのだ。
 ほのかな優しい甘みにごきげんな少女は、そう言えばと花畑の一角へ向かう。
 毎年白い花だったそこに、今年だけ色鮮やかな花を咲かす場所ができたのだ。

 もしかしたら、そこの密はとびきり甘いかもしれない。

 そう思って足を進め、そこが見えてきたところで少女はぴたりと足を止めた。

「なに──あれ……?」

 月夜に浮かぶ、うごめく巨大なシルエット。
 植物が巨大成長でもしたのか、さもなくば何かの間違いか夢なのか。
 しゅるり──と彼女の足に絡まった蔦が、これは現実だと伝えてくる。
 咄嗟に踵を返そうとする少女、蔓はそれは許さず、そして少女をたやすく宙吊りにする。

「じょ、冗談だよね……?」

 震えた喉から漏れる声は、夜の冷たさに溶けてゆく。
 獲物を入れる袋のような器官に、少女は為す術もなく放り込まれた。


 早朝、居なくなった少女に慌てた両親は、いつもの場所へと当たりをつけて山の上へと走った。
 そうして、花畑にそれを見つけたのである。

 巨大化した花の雑魔と、それの側に転がる少女の靴を。

●ハンターオフィスの朝は早い
 ハンターオフィスに中年女性が駆け込んできたのは早朝のことだった。
 ひどく焦っており何かを伝えようにもぜいぜいと息を切らしていてまともに喋ることも敵わない。
 エリクシアが慌てて水を差し出すとそれを一息に飲み干そうとして今度は咽る。
「む、むず……ゔぇっ、げふっ、げふぉっ」
「落ち着いてください。話は伝わらなければ意味がありません」
 背中を無でさすり言い聞かせるように言うと、ようやく中年女性は呼吸を整えることに専念したらしかった。
 そんな光景を見ながら、シルヴァは嫌なものを感じていた。
 ハンターオフィスに呼吸困難寸前になるほどの全速力で駆け込んでくる、そんなの火急案件以外にありえまい。
 めくったカードは戦車を示す、事は急ぐが吉らしい。



「娘が雑魔に喰われたんです!」

 手遅れじゃないか、と思ったエリクシアだが、素人の判断は危険である。
 それにどのみち倒さなくてはいけないのは変わらない。

「落ち着いて、状況と事の次第を教えてください」

 無事かもしれない、なんて事は口が裂けても言えないが、詳しく確認して早急に対処すれば助かる可能性がある例もある、そしてそんな可能性を拾い上げるのはオフィス職員であるエリクシアの、そしてハンターの仕事である。

「夜中にこっそり家を抜け出す癖のある娘だったんです。昨夜も抜け出したみたいで、探しに行ったら、裏山を少し入ったところに雑魔が居て……その直ぐ側に、娘の靴が……うぅっ」
「どのような雑魔です?」
「花の、ような……植物のような……なんかこんな襟巻みたいな入り口と蛇みたいな、デブな夫のお腹みたいに膨らんでて」

 なんか今変な暴言が混じった気がするがそっと聞き流す。
 そこに突っ込んだら多分重大なタイムロスが発生しそうだ。
 話をまとめると、植物系で花を持つ雑魔であり、なんか捕食器官(推定)らしきものがあると。
 なんとなく聞いたイメージを書き出すエリクシア、クリップボードにまとめてある紙に書き出されたのは、ウツボカズラにもにた感じの外見をした存在である。
 腹のように膨らんでいる、となればそこに獲物が入っているとしても不思議ではなかろう。

「あっ、こんな感じです!」
「なるほど、了解しました」

 むんず、とエリクシアの手がシルヴァの服を掴んでいた。
 逃がす気はないという、オフィス職員の気迫がこもっている。

「所見をお願いします」

 ぐい、と書き上げたラフを見せられて少しの間考え込むシルヴァ。

「食虫植物っぽいなぁ……察するところにこの部分は消化器官じゃないかしらね。植物の消化速度はしらないけど、吸収速度を超える勢いで消化しても意味がないと考えれば遅い可能性はあるわね。この形状だと知恵のある獲物なら逃げられかねない、誘引系だとしたら匂いにも注意したほうがいいかもね。そして獲物を誘い出すタイプなら、自分が移動するタイプじゃないでしょうね」

 シルヴァの見立てを依頼表に素早く書きつけるエリクシア、そして叫んだ。

「緊急の依頼です! 受けられる方、話を聞かれる方は集まってください!」

 そんなエクリシアの姿を横目に、シルヴァはふむ、と考えを巡らせる。

「少女のことはもちろんだけど……少女が遊びに行くような場所になんで雑魔が発生したか、よね。……マテリアル汚染? だとしても一体何処が……?」

リプレイ本文

●支度は速やかに
「雑魔が出た場所て、しばらく植物が生えんくなってもいける場所やろか?」
 静玖(ka5980)に聞かれてエリクシアは暫し目を細めて脳内を検索する。
「……花畑としては綺麗な場所のはずですが、重要かと言われれば──」
 観光資源となっているわけでもないため、支障はないだろう。
 他の判断は現場(シルヴァ)に任せると彼女は丸投げした。
 塩の入った袋を貰い受けて荷物に詰め込む静玖を尻目に、ソティス=アストライア(ka6538)がポツリとつぶやく。
「巨大植物に蔓に捕虫器……案件か?」
 確かにそれで塩とくれば想像されるのはナメクジのような触手なのだが、さてどうだろうか。
「マテリアル汚染か……地面、かな」
 樹導 鈴蘭(ka2851)の口から考えが漏れた。
「可能性としては一番高いだろうな」
 同意するソティスに、だよねと相づちを返す鈴蘭。
「雑草って鬱陶しいし、引っこ抜けるのかなぁ」
「雑草……まあ、似たようなものか」
 雑魔を雑草扱いする鈴蘭に、苦笑しながら相槌をうつソティスだった。
 静玖がタオルなどを用意する傍らで、ソティスも少女のための着替えを見繕い、そして目についたチョコレートをポケットにしまい込んだ。
「ときに静玖、その塩はどうするつもりだ?」
「雑魔倒したあとに撒こ思いましてなぁ」
(雑魔の予防になるのかな?)
(それは良いのか?)
 二人の頭に浮かんだ疑問ではあるが、あえて口には出さずにおいた。
 その隣では雅・彩楓(ka6745)が不慣れな手つきで慌てるように支度をしている。
 初仕事である事も彼女を緊張させる原因となっていた。
 そんな彼女の荷物から魔導ワイヤーが転げ落ちる。
「あっ」
「おっと」
 ひょい、とそれを拾い上げたのはハンス・ラインフェルト(ka6750)だった。
 ぽん、と雅の手にそれを返す。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。それよりも、連携のお話を少しよろしいですか? 見たところ同じ舞刀士とお見受けしましたので」
「それなら僕もいいかな?」
 ひょい、とそこに入ったのは雹(ka5978)だった。
「僕は雹。よろしく。僕も前に出るタイプだから、打ち合わせておいたほうがいいだろう?」
「私はハンスです」
「わたしは雅だよ、よろしくっ!」
 話すうちに雅の緊張も解け、接近する三人で少女を救出する手順を確認する。
「映画で観たことはありませんか? Ninjaが城塞に忍び込む時に仲間の組んだ手から跳躍して壁を越える古典的な手法なんですが……」
「に、にんじゃ……って、なんですか?」
「跳躍なんかは慣れてるけど……状況を考えると刃物とワイヤーを持った雅に任せたほうが良さそうだね」
「任せてください、必ず少女を助けてみせますっ!」
 ぐっ、と決意の拳を固める雅。
「僕は蔦に邪魔をさせないように立ち回ろうと思う」
 そして雅と雹の視線がハンスに集中した。
「「で、映画って?」」
「そうか、クリムゾンウェストでは映画が普及していませんでしたね……」

●ハンター急便
 森の中を抜けた先、この時期に咲き誇る白い花畑の奥にそれは居た。
 徐々に色とりどりに変わる花畑の中央にそびえ立つその異形。
 四つの長い蔓を蠢かせ、得物が来たとばかりに歓喜に打ち震えているようだ。
「静玖。気をつけるんだよ」
「雹兄ぃも」
 兄妹の短いやり取り、そこには互いへの信頼が見え隠れする。
「援護は任せておけ」
 にやりと笑うソティスにヒドゥンハンドを構える鈴蘭と符を構える静玖が並ぶ。
 前に出る雹、雅、ハンス。
 距離を取る鈴蘭、ソティス、静玖。
 陣形をが整う間に符が舞った。
「向かって左手の捕虫器、他に反応はないわ!」
 シルヴァの生命感知の知らせを受けて、救出班の三人が目標目掛けて駆け出す。
「行きますっ!」
「そこに、いるんだね」
「先手必勝、行きますよっ!」
 先頭を走る雅、隣に続くように駆ける雹、並走するハンス目掛けて蔓が鎌首をもたげる。
 足元に茂った細い蔓を払いながら駆ける雅を襲う太い蔓、それを身を翻して避けながら、けれどその足は決して止まることをしない。
 身を反らし、体を捻り、時折蔓が体を掠めるがそれをこなし続け距離を整える。
 捕虫器はやや高い位置にある、それを見上げて見据えた。
 隣を走るハンスが前へ出る、事前に打ち合わせたとおりの動きで距離を詰める雅にあわせ高さを確認した。
「位置は上々、雅さん!」
「うんっ!」
 位置を合わせ構えたハンス目掛けて飛ぶ、その瞬間を狙いすましたかのように蔓がハンス目掛けて閃いた。
 その数、四。
 雑魔の生存本能が狙いを定めたか。
 だが、その攻撃がそうたやすく許されることなど無い。
 彼らの背後には三人の術士が控えているのだ。
「させまへん!」
 勢い良く引き抜かれた静玖の符が稲妻と化し大気を切り裂く。
「……狩りの時間だ、今夜の獲物はまた巨大植物か!」
 ソティスの前に展開された魔法陣から現れた狼、吐き出した火球が空気を焼き焦がす。
「まとめていくよ!」
 鈴蘭の手元から生み出された火球が鳳凰となり空を駆ける。
 空中で交錯した三人の攻撃は示し合わせたかのように別の目標へと着弾する。
 その衝撃はネペンテス自身が大きく揺らぐほどだった。
 蔓の一本は吹き飛び、他の二本も小さくない傷を負い動きが鈍る。
「雹兄ぃ!」
 そんな中ハンスへと走った無事だった最後の蔓──それは雹によって受け止められた。
 直撃を受けた雹であるが、その身は微動だにしない。
 静玖の瑞鳥符に寄る援護と金剛により強化された彼の肉体、それは蔓の一撃を見事に止めていた。
 そしてその瞬間に息を合わせた二人の動作が重なり、雅の姿が空高く舞った。

 のたうつ蔦が、鳳凰に焼かれて焦げる、それを見やりながら鈴蘭は剣を片手に距離を近づけながら細かい蔦を払っていた。
 今や捕虫器の上に乗っている雅への攻撃が万が一にも当たれば救助が難航するどころか最悪の事になりかねない。
 再び放つ鳳凰に、蔦の注意が向いたような気がして、視界の中に納めていた雅を見送り蔦へと意識を集中させた。
 そんな捕虫器の上に登った雅は蓋となっていた刃を切り落とし中を確認していた。
(これは……中に入ったら上がるのは難しいな)
 救助対象と思われる少女はどうやら意識を失っているようで、微かに甘い匂いが鼻につく。
 引き上げるには少々深い。
 中に少女が一人、更に上に乗っても軽くたわんだ程度とあっては、下に引き下ろすのも難しいだろう。
 眼下では雹とハンスが蔓相手に時間を稼いでくれていた。
 迫る蔓を相手取り、幾重にも切り結ぶハンス。
 この段階に至って攻撃力もなさそうなまだ貧弱な蔓がもそりと動き出していた。
 蔓の攻撃を二度三度と受け止める雹、その体の軸は決して揺らがない。
 静玖の的確な援護と息の合った受けが十全の効果を発揮していた。
 その連携、まさに不壊。
 受け止めた蔓をナックルで殴り返し、貧弱な群がる蔓を蹴り払う。
「全く、次から次へと……厄介ですね」
「細かい蔦が絡んで鬱陶しい! 楓のほうに行ってないのが救いか」
 そんな二人の周囲の蔦を薙ぎ払うように三羽の鳳凰が舞い蔦を焼き払う。
 舞い上がった蔦が灰になって散る、その灰すらも焦がすほどの火球が更に追撃するように着弾する。
「ふふん、脆弱な蔦だな。まとめて焼き払ってくれよう!」
「雹兄ぃに手は出させまへん!」
 静玖の火炎符が更に周囲の矮小な蔓を焼き払い見通しを良くする、互いの援護が上手く絡み合っていた。
「雹さん! ハンスさん!」
 意を決した雅が二人めがけてワイヤーを放つ、それを受け取ったのは雹だった。
「そっち側をお願いします!」
「任された!」
 ぐっと力を込めるが、上から引っ張る力に体が浮く。
 咄嗟にハンスがその腕を掴んだ。
「お手伝い致します!」
 二人がワイヤーを受け取ったのを確認して、中へと飛び込む雅。
 外で雹とハンスがワイヤーの分銅を引く。
 中で少女を抱えた雅がワイヤーを引けば、細いワイヤーにかかる荷重は四人分。
 植物が耐えられる強度ではなく側面がぐぱっと切り開かれた。
 中にあった消化液、そして少女とともに落下する雅をハンスが受け止めた。
「……お、おおぅ」
 べしょべしょである。
 そしてどういうことか、少女自体は無事であるにも関わらず服だけがほとんど溶かされていた。
 咄嗟に少女に持っていた外套をかける雹。
「雅殿、走って!」
 少女を抱えて走り出す雅の後ろに付き迫る蔦をいなすハンスと受け止める雹。
 皆の援護もあって少女は無事にネペンテスから救出された。
 それを確認してすかさず蔓の射程から離れる鈴蘭。
 もがき苦しむようにしていた蔦はやがて自らを覆うように、編むように絡み始める。
 苦肉の策なのか、盾にしようとしているようだ。
「さて……救助も終わったしもはや躊躇する理由もないな」
「ほんまどす、心置きなく焼き払えますえ」
「それじゃあ、一気にやっちゃおう」
 三者三様に武器を構える。
 哀れかな、身を守ることしかできないネペンテスはまたたくまに焼き尽くされたのであった。

●収穫? 完了
 助け出された少女は昏睡したままで、起きる様子もない。
 シルヴァの見立てでは命に別状は無いだろうとのことで、今は女性陣によって手当ときせかえが行われていた。
「怖かったやろなぁ」
 水を含ませたタオルでネペンテスの消化液を拭き清め、髪をすすぐ。
 静玖が持ってきた量でなんとか事足りたようで、一通り拭い去ることができたのは僥倖と言うものだろう。
「大丈夫かな?」
「外傷は無いようだし大丈夫だろう、とりあえずこれを。いつまでも涼しげな格好をさせておくわけにもいくまい」
 ソティスの持ってきたローブも着せて、すっかり綺麗になった少女は、まだ目覚める様子がない。
 服を着せた段階になってようやく男性陣も戻ってきた所である。
「まだ目を覚まさないの?」
「少々心配ですね……外傷がないのに目を覚まさないと言うのは……」
「ふむ、ちょっといいかい?」
 少女の前に膝をついた状態で座り、マテリアルを練る。
 ふわりとした温かいマテリアルが溢れ少女をゆっくり包み込んでいく。
 雹のチャクラヒールをうけて、少女は程なく目を覚ました。
「ん……あ、れ?」
「あ、よかった……目を覚ましたんだね」
「さすが雹兄ぃどすえ」
 鈴蘭がその様子を見て顔を綻ばせる。
 その場に居た全員の緊張が一気に安堵へと変わった瞬間だった。
「いくら通い慣れた場所でも、好きなことがあったのだとしても。夜の一人歩きは、なるべく控えた方がいいと思いますよ?」
「ハンスさん、多分まだ自分の状況をよく理解できてないとおもいます」
 真夜中にいきなり雑魔に捕まり、気がつけばハンター七人に囲まれている状況。
 すぐさま理解しろというには、まだいくらか幼いだろうと鈴蘭がブレーキをかける。
「む、性急過ぎましたか」
「こういうときはこれだな」
 ポケットから取り出したチョコレートを少女へと渡す。
 そんなソティスはそれだけで、特に少女には何も言わなかった。
 自分からは言うことはない、とでも言うかのように。
 おどおどしながらそれに口を付けた少女は、その甘味でようやく落ち着きを取り戻し、何があったかを思い出して泣き始め、それをあやすのにまたハンター達はひと慌てするのだった。
 雹が頭を撫でて落ち着かせ、ようやく泣き止んだ頃。
「もう夜に出歩いちゃ駄目だからね?」
 と、軽いお小言が一つ。
「助かってくれて、本当に良かった。お散歩は早朝くらいにまけて貰えませんか、ね?」
 そう言ってウインクするハンスに、少女に笑顔が戻ったのだった。

●後始末
 その巨体はどこへやらと、溶けるように消えてしまったネペンテス。
 張っていた根が消えたのか土が幾分柔らかくなっていた。
 鈴蘭はそこに剣を差し込んでは手応えを確認している。
 意外と深くまでざくりとささるあたり、掘り返すのも容易そうである。
「大体この花の色の違う部分が怪しいと思うけど……」
「掘り返す道具の一つも持ってくるべきだったか」
 雹の言葉にソティスが掘り返す道具がないことを悔やむ。
 少女へのケアを優先した結果ではあるから仕方のないことかもしれない。
「手で掘り返すしかないかな? 場所の目処が付けばいいんだけど」
「負のマテリアルの濃さでいうと……多分このあたりじゃないかとおもうんだ。鈴蘭、手伝ってくれる?」
「うん、まかせて」
 すっかり柔らかくなった土を掘り返す二人、やがて雹の手が何か硬いものを掴んだ。
「何かあった、手を貸して」
 二人が協力して引っ張り出したそれは、土に汚れてなお白い顔をみせ、かくんとその口を広げてみせた。
 腐敗し骨の露出した死体である。
「うわぁっ!?」
「うわっ!」
 鈴蘭と雹の叫びが重なり、その声にソティスや静玖、ハンスに雅もよってくる。
「雹兄ぃ大丈夫!?」
「し、死体……?」
「これがマテリアル汚染の原因……か」
 掘り出されたことによって腐臭があたりに立ち込め、思わず鼻を押さえる面々。
 身元のわかるものがないか探る雹の手が何かを見つけた。
 どうやら手帳らしい。
「えっと……アクティア・メッカー、かな?」
 雹が手帳の名前を読み上げる。
「そう言えば、ソサエティの掲示板に張り出されてた尋ね人の張り紙の名前がそんなだったかも」
 名前に心当たりがあったのか、鈴蘭が思い出したように言う。
「もしかしたら、見つけてほしかったんかもしれへん」
 子供が遊びに来る花畑に密かに埋められた遺体、弔いなどされていようはずもない。
 痛ましく思う静玖の言葉に、どこか納得したようにハンスが同意した。
「そうかもしれませんね……」
「うん。だとしたらこれで解決、かな」
「ちょっと、悲しいですけど……」
 雹の言葉通り、たしかに事は解決したのだろうが、その結末に雅は寂しさを感じていた。
「あ、あれ? 花が……」
 鈴蘭の言葉に周りを見れば、色とりどりだった花が急にその盛りを終えたようにしなびていく。
 まるで、目的は果たしたと言わんばかりに。
 ごう、と強く吹いた風が、散った花びらを舞い上げる。
「まるで、見つけてくれてありがとうって、ゆうとるみたいどすなぁ」
 花吹雪を見上げながら静玖が漏らした言葉に、そうだねと雹が同意した。
 冬の寒空に降る色とりどりの雪のように、舞い散ってゆく。
「……手向けの花の色にはふさわしくないかもしれんが、安らかに眠るがいい」
 ソティスの小さな祈りの言葉が、小さく空に溶けていった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 陽と月の舞
    ka5978
  • 白狼は焔と戯る
    ソティス=アストライアka6538

重体一覧

参加者一覧

  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭(ka2851
    人間(紅)|14才|男性|機導師
  • 陽と月の舞
    雹(ka5978
    鬼|16才|男性|格闘士
  • 機知の藍花
    静玖(ka5980
    鬼|11才|女性|符術師
  • 白狼は焔と戯る
    ソティス=アストライア(ka6538
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

  • 雅・彩楓(ka6745
    人間(紅)|13才|女性|舞刀士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ソティス=アストライア(ka6538
人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/03/04 01:15:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/01 08:36:15