ゲスト
(ka0000)
最後の吸血鬼
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/11 12:00
- 完成日
- 2017/03/24 00:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「女」
と呼び止められ、その少女は振り向いた。そして息をひいた。
そこには輝くばかりの美少年が立っていた。が、その輝きは昏い。夜に属する美であった。
本能的な恐怖をおぼえ、少女は背を返した。吸血鬼の襲撃はつい先日のことだ。恐怖の記憶はいまだ生々しく少女の脳裏に刻まれていた。が――。
再び少女は息をひいた。眼前に美少年の姿があったからだ。
いつ眼前に回り込んだのか、わからない。それは瞬間移動したとしか思えぬ魔性の機動であった。
「美しい女。俺のものになれ」
美少年の目が赤光を放った。
その夜遅くのことであった。帰らぬ少女を心配した家人がようやく彼女を発見したのは。
少女は森の中に座っていた。衣服に乱れがないところからみて暴行を受けた様子はなさそうだった。
ただいくら呼びかけても少女は答えようとはしなかった。まるで夢遊病者のようにぼんやりと座り続けているだけである。
その時、家人は気づいた。少女の首にうじゃじゃけた傷が二つあることに。それは牙の跡であったのだ。
慌てふためいた家人はハンターソサエティへと走った。
●
「……そして誰もいなくなったか」
ククク、と美少年は笑った。
名はフォビオ。残る最後の吸血鬼であった。
彼には元々六人の仲間――フォビオ自身、他の者を仲間と思っていたかどうかは怪しいが――があった。が、全員ハンターに破れた。よって、今フォビオは一人であった。
だから彼は仲間と行っていたゲームをやめた。誰が一番人間を多く殺すかというゲームを。まあ、最初からフォビオはそのようなゲームに興味はなかったのだが。
獲物はやはりじっくと甚振り、味わい尽くさなければならない。それがフォビオの嗜好であった。
遠い昔、フォビオは貴族の子息であった。その時、彼は街で見初めた少女を家来に拉致させ、責め殺して楽しんでいた。フォビオは真性のサディストであったのだ。
「一度で殺しはしない。明日の夜あたり、もう一度遊んでやる」
フォビオは陰惨に笑った。
「女」
と呼び止められ、その少女は振り向いた。そして息をひいた。
そこには輝くばかりの美少年が立っていた。が、その輝きは昏い。夜に属する美であった。
本能的な恐怖をおぼえ、少女は背を返した。吸血鬼の襲撃はつい先日のことだ。恐怖の記憶はいまだ生々しく少女の脳裏に刻まれていた。が――。
再び少女は息をひいた。眼前に美少年の姿があったからだ。
いつ眼前に回り込んだのか、わからない。それは瞬間移動したとしか思えぬ魔性の機動であった。
「美しい女。俺のものになれ」
美少年の目が赤光を放った。
その夜遅くのことであった。帰らぬ少女を心配した家人がようやく彼女を発見したのは。
少女は森の中に座っていた。衣服に乱れがないところからみて暴行を受けた様子はなさそうだった。
ただいくら呼びかけても少女は答えようとはしなかった。まるで夢遊病者のようにぼんやりと座り続けているだけである。
その時、家人は気づいた。少女の首にうじゃじゃけた傷が二つあることに。それは牙の跡であったのだ。
慌てふためいた家人はハンターソサエティへと走った。
●
「……そして誰もいなくなったか」
ククク、と美少年は笑った。
名はフォビオ。残る最後の吸血鬼であった。
彼には元々六人の仲間――フォビオ自身、他の者を仲間と思っていたかどうかは怪しいが――があった。が、全員ハンターに破れた。よって、今フォビオは一人であった。
だから彼は仲間と行っていたゲームをやめた。誰が一番人間を多く殺すかというゲームを。まあ、最初からフォビオはそのようなゲームに興味はなかったのだが。
獲物はやはりじっくと甚振り、味わい尽くさなければならない。それがフォビオの嗜好であった。
遠い昔、フォビオは貴族の子息であった。その時、彼は街で見初めた少女を家来に拉致させ、責め殺して楽しんでいた。フォビオは真性のサディストであったのだ。
「一度で殺しはしない。明日の夜あたり、もう一度遊んでやる」
フォビオは陰惨に笑った。
リプレイ本文
●
案内され、八人の男女は玄関のドアをくぐった。寝室にむかう。
ベッドの上で一人の娘が横たわっていた。
名はアリス。吸血鬼に襲われた少女であった。た蒼白の顔色で、静かに眼を閉じている。
それがフォビオに襲われた者の特徴であった。彼の死の接吻をうけた者は死者の如く眠り、主の来訪をひたすら待つのである。
「彼女か?」
精悍な風貌と鍛え抜かれた肉体り持ち主である青年が少女を見やった。
彼の名はヴァイス(ka0364)。ハンターである。
ヴァイスはベッドに歩み寄り、アリスの首を確かめた。
肉がうじゃじゃけた傷が二つ。牙の痕だ。
「どうやらかなりの大物のようだな」
「どれ」
冷然たる美貌の女が顔をアリスの首に近づけた。傷跡を観察す。
「なるほどな。確かに手強そうだ」
女――不動シオン(ka5395)はうなずいた。
幼少期から戦士として育てられ、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた彼女にはわかる。敵が強大であることが。
「厄介な相手なのですか?」
問うたのは全身をプレートアーマーで覆った凛然たる娘だ。名をユナイテル・キングスコート(ka3458)という。
「ああ」
シオンはこたえた。
実のところ、彼女はこの街を襲った吸血鬼のことは知らない。噂で聞き及んだだけだ。
が、少女の首に残された傷跡を見て確信した。敵はかなりの強敵だ。
「だろうな」
落ち着いた物腰の若者がうなずいた。
名はロニ・カルディス(ka0551)というのだが、彼は先日、吸血鬼の一体と戦ったことがあったのだ。
血を矢と化して放つ吸血鬼。その吸血鬼は死に絶える寸前に彼らハンターにこう告げたのだ。彼はわたしたちの中で一番強いから、と。
「ふうむ」
少女の顔を覗き込み、飄然たる娘は唸った。発見されてからずっと少女は眠り続けているという。まるで眠り姫のように。
娘――フォークス(ka0570)は少女の目を指で開いた。瞳を覗き込む。
「様子がおかしい。もしかすると敵の能力は意識障害化かもしれないね」
フォークスはいった。少女が魅了されていることは、さすがにこの時点ではわからない。
「意識障害化?!」
驚いたように、その少女めいた可愛らしい外見の女は目を見開いた。名は十色 乃梛(ka5902)という。
「それは厄介だね」
乃梛の蒼瞳に沈鬱な色がよぎった。どのように相手の意識をなくすかわからないが、それが本当なら敵はハンターをも無力化できることになる。
「でも、やるしかないの」
決然たる口調で仲間を見回した者がいる。
細身で小柄。煌く銀髪といい、紅玉のような瞳といい、透けるほど白い肌といい、まるで妖精のような少女であった。
名をファリス(ka2853)というその少女は、怒りを込めて宣言した。
「吸血鬼との因縁はここでお終いとするの! その為にファリス、全力を尽くすの!」
「そうだな。頼むぞ」
ヴァイスは今の方に視線を投げた。
「家人の保護はどうなっている?」
「親戚の家にいってもらうことになったよ」
乃梛がこたえた。 するとロニは少女を見やり、聖歌が口ずさんだ。
ふっと。アリスの目が開いた。が、それも一瞬。すぐに少女は目を閉じた。
「やはりだめか」
ロニは背を返した。
「家の周辺を確認してくる」
「わたくしもいきます」
ユナイテルもまた背を返した。するとロニは足をとめた。
「おそらく襲撃は夜だ。篝火なども必要だろうな」
「それは任せてもらおう」
シオンがこたえた。地下組織の戦闘員であった彼女にとっては楽な仕事である。
「じゃあ準備にかかろうよ」
バベル13――スナイパーライフルを手にフォークスは立ち上がった。
●
ベッドの上でアリスが身動ぎした。
深夜。全てが静寂と闇に包まれている頃である。
はっとして、部屋に残ったロニとファリス、乃梛がアリスを見た。
吸血鬼犠牲者の目覚め。それは即ち主たる吸血鬼の来訪を意味するものではなかったか。
ファリスがが窓に駆け寄った。外を窺う。
家を取り巻く柵の外。闇に滲む人影があった。警戒など一切していないのか、堂々と敷地内に足を踏み入れる。
篝火に人影が浮かび上がった。金髪の少年だ。寒気のするほどの美貌の持ち主であった。
が、その美しさには禍々しきものがまとわりついている。金色の瞳には地獄の業火がちろちろと燃えているし、血をぬったかのような真紅の唇には満たされぬ飢えが滲んでいた。
吸血鬼である。名をフォビオといった。
「ふうん」
フォビオがニヤリとした。八人の戦士の気配を察知したのである。
その時だ。家屋の玄関先にすっくと人影が立ちはだかった。
鎧姿の凛然たる娘。ユナイテルだ。
「何者か!」
ユナイテルは誰何の声をあげた。するとフォビオはクククと可笑しそうに笑った。
「虫けらに教える名などない」
「敵です!」
ユナイテルが叫んだ。同時に盾をかまえる。
それはユナイテルの騎士としての戦闘における予備動作であった。いわばいつもの行為である。が、結果としてその行動がユナイテルを救った。
ものすごい衝撃がユナイテルを襲った。盾が軋み、支える彼女の腕が悲鳴をあげる。受け止めきれぬ衝撃にユナイテルの身は地を削りつつ後退した。
「くっ。迅い」
「へえ」
拳を叩きつけた姿勢のまま、フォビオは感嘆の声をもらした。
「虫けらにしちゃあ、良い反応するじゃないか」
「虫けらの力、みせてやるよ」
フォビオをポイント。フォークスはバベル13のトリガーをひいた。
さしもの吸血鬼も避けきれない。着弾の衝撃にフォビオはわずかに身をゆらした。
「やってくれたな」
フォビオの魔眼が動いた。視線をフォークスにむける。咄嗟にフォークスは視線をそらそうとしたが、なまじ狙っていただけに無理であった。
フォークスの身体を――いや、存在そのものを見えぬ手が掴んだ。吸血鬼の魅了だ。
フォークスは唇を噛み締めた。が、抵抗することは困難であった。魂そのものが砕け散りそうだ。もはや身体は動かなかった。
フォビオが疾った。魔性の速度でフォークスを襲う。
「春先だというのに蛙がうるさい。井の中の蛙と言う奴だ」
シオンがエヘールシト――リアルブルーで作られたオートマチック拳銃のトリガーをひいた。マズルフラッシュが閃き、熱弾が唸り飛ぶ。
が、フォビオは難なく弾丸を躱した。そして、一瞬にしてフォークスとの距離をつめた。
「ククク。虫けらが」
フォビオの手刀が疾った。鋼すら引き裂く超硬度の爪がフォークスの喉に突き刺さり――。
爪は首をえぐった。フォークスがわずかに身動ぎし、致命の一点をはずしてのけたのだ。呪縛下にありながら動きえたのはさすがといえた。
「へえ」
声をもらしたフォビオであるが、さすがに笑みはその美麗な顔にはなかった。あるのは苛立ちの翳である。止めを刺すべくフォビオは再び爪を振り下ろした。が――。
爪がフォークスの喉を貫く寸前、フォビオは飛び退った。槍の穂先が彼を薙いだためだ。
頬にういた血を指で拭いとり、フォビオは槍の主を見た。
「貴様‥‥この俺の顔に傷をつけるとは。何は何という?」
「ヴァイス。お前を滅する者だ」
「よくもほざく」
笑うフォビオの顔が消失した。
速い。目を伏せた状態では追いきれなかった。衝撃が彼の背に叩きつけられる。
「くはっ」
鮮血をぶちまけ、ヴァイスは倒れた。その時、すでにフォビオは家屋の玄関へと疾っている。
「待て」
シオンがフォビオの眼前に立ちはだかった。
●
「どけ、女」
目をすがめると、フォビオは命じた。
「どくと思うか」
シオンは冷たくこたえた。
「無力な女子供ばかり狙っても面白くなどなかろう。より強い相手を挫きたいと思わんか? なら私が楽しませてやる。文句はあるまい?」
「俺を楽しませるだと。できるのか、貴様に」
フォビオが動いた。迅い。フォビオの襲撃速度は風に似ていた。
手刀の一閃。辛くもシオンは十字状の穂先を持つ槍――人間無骨で受け止めた。受け止めえたのはシオンならではだ。
次いでシオンはフォビオの手をはじきつつ、槍を繰り出した。が、それは威力を欠いている。フォビオの脇腹をえぐるにとどまった。
「ちっ」
シオンは跳び退った。手が痺れている。フォビオの攻撃を受け止めたからだ。それ故手元が狂ったのであった。
「やってくれたな、女」
フォビオが再び襲った。繰り出すシオンの槍の穂先を躱し、蹴りをシオンの腹にぶち込む。大型トラックにはねられたようにシオンの身が吹き飛んだ。
●
爆発したようにドアが吹き飛んだ。シオンの身が室内に転げ込む。
もうもうと立ち込める粉塵の中に立つ影がひとつあった。フォビオだ。
素早くフォビオは周囲を見回した。そして迷いなくアリスの部屋に足を運んだ。
「ふふん。ここにまでいるか」
薄く笑うと、フォビオの部屋のドアを開いた。
刹那だ。鞭が唸りを発して疾った。びしいっと音たてて、フォビオが鞭を受け止める。
「いきなりとは無礼だな、女。躾をしなければならないようだ」
「躾が必要なのはあなたよ」
鞭の主がニッと笑った。乃梛である。
「乙女の部屋に侵入するのは、ちょっと行儀悪いわね? 残念だよ。外観は素敵な人なんだけどね~……」
「虫けらにも美というものがわかるようだな」
フォビオがぐいと鞭をひいた。慌てて乃梛が手を放す。その眼前、フォビオの目が赤光を放った。
「くっ」
乃梛は唇を噛み締めた。身体が凍結している。指一本動かせない。
その瞬間である。ロニの身から太陽光にも似た白光が発せられた。
「ぬっ」
眩しさと激痛にフォビオの顔がゆがんだ。
一瞬できた隙。その隙をつくようにファリスは呪文を詠唱。彼女の眼前に展開された魔法陣からのおの矢が噴出した。
刹那である。フォビオの手が視認不可能な速度で動いた。
手をかざす。炎の矢はフォビオの掌を貫いてとまった。
「女、やるな。――アリス、やれ」
フォビオが命じた。するとアリスがむくりと身を起こした。そしてファリスに襲いかかった。
「あっ」
悲鳴をあげるファリスの首にアリスが噛み付いた。
「やめろ」
叫ぶロニの身が再び輝き――いや、その前にフォビオの手がロニの首をつかんだ。
「目障りな奴。首をへし折ってやるよ」
ロニの首がミキリッと異音を発した。
その瞬間、フォビオの手の動きがとまった。彼の背に光の杭が食い込んでいる。
「いったはずだよ。躾が必要なのは貴方だって」
乃梛が叫んだ。するとフォビオの目が再び赤光を放った。
「おとなしくしてろ。お前は後でたっぷりお仕置きしてやる」
「お仕置きされるのはお前の方だ」
凄絶な笑みを浮かべ、ロニはフォビオの胴に手を回した。そのまま一気に窓に激突する。ガラスをぶち破り、二人はもつれあいつつ外に転げ出た。
「虫けらが」
フォビオがじろりとロニを見下ろした。見上げるロニは血笑を返した。
「その虫けらの力、思い知ったか」
「ぬかせ」
フォビオが手を振り上げた。
満面を鮮血に染め、なおもアリスはファリスに噛み付こうとした。恐ろしい力だ。ファリスですらはねのけることは不可能であった。
アリスの口がくわっと開き――はじきとばされた。そのまま床に倒れる。
「私が抑えます。あなたは吸血鬼を」
アリスを盾で押さえ込みながら、ユナイテルが叫んだ。うなずくとファリスは破れた窓から飛び出した。
轟音。
着弾の衝撃にフォビオの手が震えた。そしてフォビオの顔がしかめられた。弾丸には激辛系香辛料を多量に盛り込んだ塗料が使用されていたのだ。
さらにフォークスはエヘールシトのトリガーをひいた。着弾の衝撃にフォビオが倒れる。
「くっ。おのれ」
フォビオは歯噛みした。この時に至り、ようやく彼は理解し始めていた。
何故、他の吸血鬼たちがハンターに破れたのか。理由はひとつだ。奴らは強い。手練において、精神において。諦めぬ者など手に負えぬ者はなかった。
今宵はまずい。フォビオの心に恐怖が滲んだ。
その恐怖を読み取ったか、シオンが襲いかかった。渾身の一撃をフォビオにぶち込む。
「脆弱者が。その程度では私の征服欲は満たせんな。所詮は弱者をいたぶるしか能がない腰抜けか? 私を愉しませるほどの気骨のない奴は死あるのみだ」
「ほざけ」
フォビオはわずかに身動ぎして槍を躱した。いや、初めて感じた恐怖に硬直した彼には躱しきれなかった。槍の穂先は彼の胸を貫いている。
「ぎいぃぃぃ」
獣の雄叫びにも似た絶叫をあげ、フォビオが地を蹴った。化鳥のように軽々と空を舞う。
「逃がさないよ」
叫ぶファリスの眼前、魔力発現機関たる魔法陣が明滅し、氷の矢が噴出した
闇すら震撼させる悲鳴が轟き渡った。フォビオの足を氷の矢が貫いている。
のたうつディオのバランスが崩れた。人形のように落下する。
「ぐっ」
フォビオの口からくぐもった声がもれた。その眼は槍をかまえたヴァイスの姿をとらえている。
「終わりだ」
ヴァイスが繰り出した槍が閃いた。貫く意思を込めた刺突は雷閃のごとく。穂先は深々とフォビオの心臓を貫いている。
「死ぬのか、俺は。虫けらにやられて……馬鹿な」
フォビオは悔しげにぎりぎりと歯噛みした。が、それもすぐにとまった。
●
「終わったようですね」
声がした。ユナイテルのものだ。ファリスが不安そうに問うた。
「アリスさんは?」
「心配ありません」
ユナイテルが微笑んだ。フォビオが絶命すると、アリスは嘘のようにおとなしくなった。魅了が解けたのであろう。今は安らかに眠っていた。
「ようやく終わったな」
ロニがほっと息をもらした。
最後の吸血鬼を斃した今、ようやく街の呪いは解かれたのである。ハンターの手により、悪夢は終わったのだった。
案内され、八人の男女は玄関のドアをくぐった。寝室にむかう。
ベッドの上で一人の娘が横たわっていた。
名はアリス。吸血鬼に襲われた少女であった。た蒼白の顔色で、静かに眼を閉じている。
それがフォビオに襲われた者の特徴であった。彼の死の接吻をうけた者は死者の如く眠り、主の来訪をひたすら待つのである。
「彼女か?」
精悍な風貌と鍛え抜かれた肉体り持ち主である青年が少女を見やった。
彼の名はヴァイス(ka0364)。ハンターである。
ヴァイスはベッドに歩み寄り、アリスの首を確かめた。
肉がうじゃじゃけた傷が二つ。牙の痕だ。
「どうやらかなりの大物のようだな」
「どれ」
冷然たる美貌の女が顔をアリスの首に近づけた。傷跡を観察す。
「なるほどな。確かに手強そうだ」
女――不動シオン(ka5395)はうなずいた。
幼少期から戦士として育てられ、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた彼女にはわかる。敵が強大であることが。
「厄介な相手なのですか?」
問うたのは全身をプレートアーマーで覆った凛然たる娘だ。名をユナイテル・キングスコート(ka3458)という。
「ああ」
シオンはこたえた。
実のところ、彼女はこの街を襲った吸血鬼のことは知らない。噂で聞き及んだだけだ。
が、少女の首に残された傷跡を見て確信した。敵はかなりの強敵だ。
「だろうな」
落ち着いた物腰の若者がうなずいた。
名はロニ・カルディス(ka0551)というのだが、彼は先日、吸血鬼の一体と戦ったことがあったのだ。
血を矢と化して放つ吸血鬼。その吸血鬼は死に絶える寸前に彼らハンターにこう告げたのだ。彼はわたしたちの中で一番強いから、と。
「ふうむ」
少女の顔を覗き込み、飄然たる娘は唸った。発見されてからずっと少女は眠り続けているという。まるで眠り姫のように。
娘――フォークス(ka0570)は少女の目を指で開いた。瞳を覗き込む。
「様子がおかしい。もしかすると敵の能力は意識障害化かもしれないね」
フォークスはいった。少女が魅了されていることは、さすがにこの時点ではわからない。
「意識障害化?!」
驚いたように、その少女めいた可愛らしい外見の女は目を見開いた。名は十色 乃梛(ka5902)という。
「それは厄介だね」
乃梛の蒼瞳に沈鬱な色がよぎった。どのように相手の意識をなくすかわからないが、それが本当なら敵はハンターをも無力化できることになる。
「でも、やるしかないの」
決然たる口調で仲間を見回した者がいる。
細身で小柄。煌く銀髪といい、紅玉のような瞳といい、透けるほど白い肌といい、まるで妖精のような少女であった。
名をファリス(ka2853)というその少女は、怒りを込めて宣言した。
「吸血鬼との因縁はここでお終いとするの! その為にファリス、全力を尽くすの!」
「そうだな。頼むぞ」
ヴァイスは今の方に視線を投げた。
「家人の保護はどうなっている?」
「親戚の家にいってもらうことになったよ」
乃梛がこたえた。 するとロニは少女を見やり、聖歌が口ずさんだ。
ふっと。アリスの目が開いた。が、それも一瞬。すぐに少女は目を閉じた。
「やはりだめか」
ロニは背を返した。
「家の周辺を確認してくる」
「わたくしもいきます」
ユナイテルもまた背を返した。するとロニは足をとめた。
「おそらく襲撃は夜だ。篝火なども必要だろうな」
「それは任せてもらおう」
シオンがこたえた。地下組織の戦闘員であった彼女にとっては楽な仕事である。
「じゃあ準備にかかろうよ」
バベル13――スナイパーライフルを手にフォークスは立ち上がった。
●
ベッドの上でアリスが身動ぎした。
深夜。全てが静寂と闇に包まれている頃である。
はっとして、部屋に残ったロニとファリス、乃梛がアリスを見た。
吸血鬼犠牲者の目覚め。それは即ち主たる吸血鬼の来訪を意味するものではなかったか。
ファリスがが窓に駆け寄った。外を窺う。
家を取り巻く柵の外。闇に滲む人影があった。警戒など一切していないのか、堂々と敷地内に足を踏み入れる。
篝火に人影が浮かび上がった。金髪の少年だ。寒気のするほどの美貌の持ち主であった。
が、その美しさには禍々しきものがまとわりついている。金色の瞳には地獄の業火がちろちろと燃えているし、血をぬったかのような真紅の唇には満たされぬ飢えが滲んでいた。
吸血鬼である。名をフォビオといった。
「ふうん」
フォビオがニヤリとした。八人の戦士の気配を察知したのである。
その時だ。家屋の玄関先にすっくと人影が立ちはだかった。
鎧姿の凛然たる娘。ユナイテルだ。
「何者か!」
ユナイテルは誰何の声をあげた。するとフォビオはクククと可笑しそうに笑った。
「虫けらに教える名などない」
「敵です!」
ユナイテルが叫んだ。同時に盾をかまえる。
それはユナイテルの騎士としての戦闘における予備動作であった。いわばいつもの行為である。が、結果としてその行動がユナイテルを救った。
ものすごい衝撃がユナイテルを襲った。盾が軋み、支える彼女の腕が悲鳴をあげる。受け止めきれぬ衝撃にユナイテルの身は地を削りつつ後退した。
「くっ。迅い」
「へえ」
拳を叩きつけた姿勢のまま、フォビオは感嘆の声をもらした。
「虫けらにしちゃあ、良い反応するじゃないか」
「虫けらの力、みせてやるよ」
フォビオをポイント。フォークスはバベル13のトリガーをひいた。
さしもの吸血鬼も避けきれない。着弾の衝撃にフォビオはわずかに身をゆらした。
「やってくれたな」
フォビオの魔眼が動いた。視線をフォークスにむける。咄嗟にフォークスは視線をそらそうとしたが、なまじ狙っていただけに無理であった。
フォークスの身体を――いや、存在そのものを見えぬ手が掴んだ。吸血鬼の魅了だ。
フォークスは唇を噛み締めた。が、抵抗することは困難であった。魂そのものが砕け散りそうだ。もはや身体は動かなかった。
フォビオが疾った。魔性の速度でフォークスを襲う。
「春先だというのに蛙がうるさい。井の中の蛙と言う奴だ」
シオンがエヘールシト――リアルブルーで作られたオートマチック拳銃のトリガーをひいた。マズルフラッシュが閃き、熱弾が唸り飛ぶ。
が、フォビオは難なく弾丸を躱した。そして、一瞬にしてフォークスとの距離をつめた。
「ククク。虫けらが」
フォビオの手刀が疾った。鋼すら引き裂く超硬度の爪がフォークスの喉に突き刺さり――。
爪は首をえぐった。フォークスがわずかに身動ぎし、致命の一点をはずしてのけたのだ。呪縛下にありながら動きえたのはさすがといえた。
「へえ」
声をもらしたフォビオであるが、さすがに笑みはその美麗な顔にはなかった。あるのは苛立ちの翳である。止めを刺すべくフォビオは再び爪を振り下ろした。が――。
爪がフォークスの喉を貫く寸前、フォビオは飛び退った。槍の穂先が彼を薙いだためだ。
頬にういた血を指で拭いとり、フォビオは槍の主を見た。
「貴様‥‥この俺の顔に傷をつけるとは。何は何という?」
「ヴァイス。お前を滅する者だ」
「よくもほざく」
笑うフォビオの顔が消失した。
速い。目を伏せた状態では追いきれなかった。衝撃が彼の背に叩きつけられる。
「くはっ」
鮮血をぶちまけ、ヴァイスは倒れた。その時、すでにフォビオは家屋の玄関へと疾っている。
「待て」
シオンがフォビオの眼前に立ちはだかった。
●
「どけ、女」
目をすがめると、フォビオは命じた。
「どくと思うか」
シオンは冷たくこたえた。
「無力な女子供ばかり狙っても面白くなどなかろう。より強い相手を挫きたいと思わんか? なら私が楽しませてやる。文句はあるまい?」
「俺を楽しませるだと。できるのか、貴様に」
フォビオが動いた。迅い。フォビオの襲撃速度は風に似ていた。
手刀の一閃。辛くもシオンは十字状の穂先を持つ槍――人間無骨で受け止めた。受け止めえたのはシオンならではだ。
次いでシオンはフォビオの手をはじきつつ、槍を繰り出した。が、それは威力を欠いている。フォビオの脇腹をえぐるにとどまった。
「ちっ」
シオンは跳び退った。手が痺れている。フォビオの攻撃を受け止めたからだ。それ故手元が狂ったのであった。
「やってくれたな、女」
フォビオが再び襲った。繰り出すシオンの槍の穂先を躱し、蹴りをシオンの腹にぶち込む。大型トラックにはねられたようにシオンの身が吹き飛んだ。
●
爆発したようにドアが吹き飛んだ。シオンの身が室内に転げ込む。
もうもうと立ち込める粉塵の中に立つ影がひとつあった。フォビオだ。
素早くフォビオは周囲を見回した。そして迷いなくアリスの部屋に足を運んだ。
「ふふん。ここにまでいるか」
薄く笑うと、フォビオの部屋のドアを開いた。
刹那だ。鞭が唸りを発して疾った。びしいっと音たてて、フォビオが鞭を受け止める。
「いきなりとは無礼だな、女。躾をしなければならないようだ」
「躾が必要なのはあなたよ」
鞭の主がニッと笑った。乃梛である。
「乙女の部屋に侵入するのは、ちょっと行儀悪いわね? 残念だよ。外観は素敵な人なんだけどね~……」
「虫けらにも美というものがわかるようだな」
フォビオがぐいと鞭をひいた。慌てて乃梛が手を放す。その眼前、フォビオの目が赤光を放った。
「くっ」
乃梛は唇を噛み締めた。身体が凍結している。指一本動かせない。
その瞬間である。ロニの身から太陽光にも似た白光が発せられた。
「ぬっ」
眩しさと激痛にフォビオの顔がゆがんだ。
一瞬できた隙。その隙をつくようにファリスは呪文を詠唱。彼女の眼前に展開された魔法陣からのおの矢が噴出した。
刹那である。フォビオの手が視認不可能な速度で動いた。
手をかざす。炎の矢はフォビオの掌を貫いてとまった。
「女、やるな。――アリス、やれ」
フォビオが命じた。するとアリスがむくりと身を起こした。そしてファリスに襲いかかった。
「あっ」
悲鳴をあげるファリスの首にアリスが噛み付いた。
「やめろ」
叫ぶロニの身が再び輝き――いや、その前にフォビオの手がロニの首をつかんだ。
「目障りな奴。首をへし折ってやるよ」
ロニの首がミキリッと異音を発した。
その瞬間、フォビオの手の動きがとまった。彼の背に光の杭が食い込んでいる。
「いったはずだよ。躾が必要なのは貴方だって」
乃梛が叫んだ。するとフォビオの目が再び赤光を放った。
「おとなしくしてろ。お前は後でたっぷりお仕置きしてやる」
「お仕置きされるのはお前の方だ」
凄絶な笑みを浮かべ、ロニはフォビオの胴に手を回した。そのまま一気に窓に激突する。ガラスをぶち破り、二人はもつれあいつつ外に転げ出た。
「虫けらが」
フォビオがじろりとロニを見下ろした。見上げるロニは血笑を返した。
「その虫けらの力、思い知ったか」
「ぬかせ」
フォビオが手を振り上げた。
満面を鮮血に染め、なおもアリスはファリスに噛み付こうとした。恐ろしい力だ。ファリスですらはねのけることは不可能であった。
アリスの口がくわっと開き――はじきとばされた。そのまま床に倒れる。
「私が抑えます。あなたは吸血鬼を」
アリスを盾で押さえ込みながら、ユナイテルが叫んだ。うなずくとファリスは破れた窓から飛び出した。
轟音。
着弾の衝撃にフォビオの手が震えた。そしてフォビオの顔がしかめられた。弾丸には激辛系香辛料を多量に盛り込んだ塗料が使用されていたのだ。
さらにフォークスはエヘールシトのトリガーをひいた。着弾の衝撃にフォビオが倒れる。
「くっ。おのれ」
フォビオは歯噛みした。この時に至り、ようやく彼は理解し始めていた。
何故、他の吸血鬼たちがハンターに破れたのか。理由はひとつだ。奴らは強い。手練において、精神において。諦めぬ者など手に負えぬ者はなかった。
今宵はまずい。フォビオの心に恐怖が滲んだ。
その恐怖を読み取ったか、シオンが襲いかかった。渾身の一撃をフォビオにぶち込む。
「脆弱者が。その程度では私の征服欲は満たせんな。所詮は弱者をいたぶるしか能がない腰抜けか? 私を愉しませるほどの気骨のない奴は死あるのみだ」
「ほざけ」
フォビオはわずかに身動ぎして槍を躱した。いや、初めて感じた恐怖に硬直した彼には躱しきれなかった。槍の穂先は彼の胸を貫いている。
「ぎいぃぃぃ」
獣の雄叫びにも似た絶叫をあげ、フォビオが地を蹴った。化鳥のように軽々と空を舞う。
「逃がさないよ」
叫ぶファリスの眼前、魔力発現機関たる魔法陣が明滅し、氷の矢が噴出した
闇すら震撼させる悲鳴が轟き渡った。フォビオの足を氷の矢が貫いている。
のたうつディオのバランスが崩れた。人形のように落下する。
「ぐっ」
フォビオの口からくぐもった声がもれた。その眼は槍をかまえたヴァイスの姿をとらえている。
「終わりだ」
ヴァイスが繰り出した槍が閃いた。貫く意思を込めた刺突は雷閃のごとく。穂先は深々とフォビオの心臓を貫いている。
「死ぬのか、俺は。虫けらにやられて……馬鹿な」
フォビオは悔しげにぎりぎりと歯噛みした。が、それもすぐにとまった。
●
「終わったようですね」
声がした。ユナイテルのものだ。ファリスが不安そうに問うた。
「アリスさんは?」
「心配ありません」
ユナイテルが微笑んだ。フォビオが絶命すると、アリスは嘘のようにおとなしくなった。魅了が解けたのであろう。今は安らかに眠っていた。
「ようやく終わったな」
ロニがほっと息をもらした。
最後の吸血鬼を斃した今、ようやく街の呪いは解かれたのである。ハンターの手により、悪夢は終わったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ファリス(ka2853) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/03/11 06:15:54 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/10 00:27:58 |