ゲスト
(ka0000)
戦え酔っ払い
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/03/28 19:00
- 完成日
- 2017/04/04 02:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはとある牧場。
ブフッ、ブフォオッ。
荒々しい鼻息を吹くのは、全身鱗に覆われた豚型歪虚。
大きさはそう、ちょうど犀くらいであろうか。鼻先に一本の大きな角。肥大化した犬歯が口元からはみ出して見える。
くちゃくちゃガムでも噛むように顎を動かす様が、いかにも憎たらしい。
特に芸がある歪虚ではない。全身鱗である故防御力が高いにしても、突進→突き飛ばし→踏み付け→噛み付きといった、獣としてごく一般的な攻撃方法しか持っていないのだから。
しかし、ハンターたちは苦戦していた。
たかが豚ごときに翻弄されていた。
突き飛ばされ、踏まれ、攻撃も余裕でかわされる始末。
「くそっ……真っすぐ走れん!」
「手元が狂う~~」
「あれ? 豚どこ行った豚……ぎゃっ!」
それというのも、全員揃って酩酊状態だからである。
何故そうなっているのか。
それを知るために、時間を少し溯ってみよう。
●
辺境。
険しい山脈の麓に住むタホ族の郷では、成人式が行われていた。
鮮やかな幕で覆われ花で飾り付けられた集会場には、ぎゅうぎゅう人が詰め掛けている。
今年成人するのは男女併せて10名。皆着飾り、上座の席に座っている。
この部族において成人とは『ある一定年齢をへた者』ではない。『成人になるための儀式(獣の首取り)を完遂した者』となのだ。
だから成人として並んでいるものの年齢は、まちまち。そのうちで最も若いのが、カチャ。
皆狩ってきた獣の頭蓋を杯にして、飲んでいる。
「やあ、めでたいのう」
「これでお前達も立派な大人じゃて、飲め飲め」
タホ族の成人式には、酒が付き物。
まず成人となる本人達が飲まなくてはならない。
次いでその関係者が飲まなくてはならない。
単に成人式を見に来た者も飲まなくてはならない。
見に来なくても部族の者なら飲まなくてはならない。
部族でなくても、その日郷に立ち寄った者は飲まなくてはならない。
とにかく誰も彼もが飲んで飲んで飲みまくる。
飲みたかろうが飲みたくなかろうが関係ない。上戸も下戸も区別なし(もっともタホ族に下戸はいないが)昔からの決まりなのである。
かくして郷はこの日、酔っ払い天国となる。
「なんだてめえ、今なんつった?」
「なにもかにもお前が馬鹿だと言っただけだろうが」
「なにい、馬鹿だぁ? 生意気なこと言うんじゃねえよ」
笑うものがいれば怒るものもいる。絡む者がいれば泣く者もいる。
必然的にあちこちで乱痴気騒ぎと喧嘩騒ぎ、器物破損が勃発する。
それを熟知している近隣部族は、その日けしてタホ族の郷に近づこうとしない。
しかしハンターたちは、そういった事々をよく知らなかった。
自主的にせよ偶然にせよ郷に足を踏み入れてしまい、結果、べろんべろんになるまで飲む羽目になったのである。
悪いときに悪いことは重なるもの。そこへ、歪虚発生の報が知らされてきた。
発生の場所がいささか遠かったので、一同近隣にある教会の転移門を経由し、現場に急行した……。
●
……という経過を経て彼らは、今、豚と戦っている。
ブキキキキ。ブキキキキ。
ちなみにカチャはと言えば。
「水はどこだー!」
と豚そっちのけであさってに向け叫んでいる。
どうやら参加者の誰よりも、酔いが頭に回っているようだ。
リプレイ本文
春空の下、のどかな牧場の一角。近衛 惣助(ka0510)は呵々大笑。
「わっはっは! 俺達に掛かれば歪虚なんぞチョチョイのチョイよぉ! 数だけは多いようだがすぐに片付けて豚の丸焼きにしてやるぜ!」
酔っ払いの目には豚が分裂して見えた。ライフルを撃ちまくるも全て的から外すという体たらく。
「うっぷ、ちょこまかと動」
直進してきた巨体に吹き飛ばされる。落ちてきたところをどかどか踏まれる。
だがへべれけでもハンター。それしきの攻撃では死なない。
とりあえず的に当たらないライフルは放棄。拳での直接攻撃に移る。
「うおおおおー! ミンチにしてやらぁ!」
そこへ水城もなか(ka3532)がゆらりと近づいてきた。共闘をする気なのかと思いきやさにあらず、惣助の顔面目がけ裏拳をたたき込むという暴挙に出る。
倒れた彼を乗り越え一目散に向かうは、豚の尻尾。
「おおっ! こんなところにヤツメウナギの燻製があるじゃないですかー」
と言いながら思い切り噛み付く。
予想外の攻撃を受けた豚は、後足で思い切りもなかを蹴飛ばした。
●
「ぅあ……こんな、ときにぃ……雑魔ですかぁ……」
頭をぐらぐらさせながらパイルバンカーを持とうとする葛音 水月(ka1895)。
「豚だと? 軽く仕留めて酒の肴に追加してくれるわ、ふはは!」
高笑いしながら豚へ接近しようとする霧島 キララ(ka2263)。
しかし双方、思うように体が動かぬ。パイルバンカーは持ち上がらないし、豚のいる方に進めない。
さすがにこれでは満足な戦いが出来ないと悟った彼らは、根本的解決を図る。
「豚狩りの前に軽く酔い覚ましせねば……」
「……えぇと……みず……みず……」
キララは所持品であるウイスキーの栓を抜き、頭から被った。水月は郷から持ち出してきた酒を、一息でぐいっとあおった。
酩酊状態の人間に酒と水の区別をつけろと言っても、土台無理な話である。
「おぉ? 豚が増えた!? ふははは、これでツマミには困らないな!」
「あ、れぇー……? おか、し……ですね……」
●
カチャは相変わらず、あらぬ方向に向かって叫んでいる。
「水、みずはどこらー!」
そんな彼女にリナリス・リーカノア(ka5126)が、大きな杯を渡した。
「ハイ♪ カチャ~お水だよぉ♪」
「おー、ありがとうございますー」
普段なら少しは警戒しただろうが今は完全に出来上がっている状態。カチャは何の疑問も抱かず、リナリスから渡されたものを飲んだ。
「な、なんらものすろくめがまわっれきたんれふけろ」
リナリスはカチャが戻してきた杯を受け取り、残りを一気に飲み干した。
「そうでしょそうでしょ。焼酎とヴォトカと自家製の秘蔵酒を調合したカクテルだから、これ♪」
「あー、そうなんれふかどおりれー」
更なる酩酊に陥ったカチャをリナリスが茂みに引きずり込み深い口づけとそれ以外の何かで失神寸前に追い込んでいる間、天竜寺 舞(ka0377)もまた失神寸前になりかけていた――酸素の大幅な欠乏により。
「あはは、ぶ、豚が暴れてるよ、うぷぷ」
何を隠そう彼女は笑い上戸。普通に見れば何にひとつ面白くない豚の顔にも動作にも、大爆笑が止まらない。
「ちょ、豚のしっぽはチョンボりちょろりって本当じゃん。あーはっはっ!」
ヒートソードを手にしているも使う事なく、転がり回る草の上。冷静にならねばと起き上がるも相手を再度見るや否や、顔が紫色になるほど息を詰まらせる。
そこまで笑われると歪虚と言えど、さすがに気分を害するらしい。豚は惣助を踏むのを止め、足音荒く舞に向かってきた。
「ひーひっひっ、豚、豚が怒ってるよw豚のしっぽはチョンボりちょろり~」
舞にはもう、笑いと歌以外の反応が出せなかった。とはいえ無意識に剣舞の構えを取り、攻撃をかわし切る。
日下 菜摘(ka0881)はホーリーパニッシャーをぐるぐる振り回し、舞の援護にかかろうとした。
「……ひょうひょう飲み過ぎてしまいましたは。とりはへず、めのまへのぶたたいひですはね」
どうかするとずり落ちてくるメガネを押し上げ、いざ尋常に勝負、勝負。
「えいやあああああああ~~~」
鎖の遠心力に振り回されこける菜摘。
拍子にメガネが天高く吹き飛んだ。クルクル回転しながら頭の上に再着地した。しかし菜摘本人はそれに気づかない。地に膝をつき草むらをかき分け、必死に探す。
「あああ! メガネ、メガネ、メガネはどこですかああ」
あらぬところに飛んでいった鉄球は豚でなく舞にクリーンヒット。思い切り彼女を吹っ飛ばす。豚は抜かりなくそこに駆けて行き、背と後頭部に足跡をつけた。
あいつの動きを何とか止めなければ。その一念で水月はパイルバンカーを放つ。発射の反動に負け後方に転げる。
パイルバンカーは方向性を見失い、地面に大穴を開けた。
「うらああああああ! 死ねや豚あああああ!」
銃を乱射し豚に突撃して行くキララが、すとんとその中に落ちる。
その光景を間近にした菜摘は吹き出した。舞同様完全にツボに入ってしまい、笑いが止まらなくなる。
「んっぷ……あははははははははははははは……き、きららさんたらもお、そんなきれいにハマらなくてもあははははは」
●
重い武器は駄目だとまでは自覚出来た水月が、ワイヤーウイップを取り出す。
そこへ猛スピードで走り込んでくるリナリス。
「きゃははははあそこにもここにもカチャがいるぅ♪ ここは天国だぁーあはははは♪」
酩酊に酩酊を重ねた結果彼女は、森羅万象すべてがカチャに見えるという境地に至っていた。
当然水月についてもカチャに見えている。たわわな胸で顔を包み込む様に抱き着き、酔って赤面している水月を更に赤面させるような行為に及ぶ。
「カチャ~何時もみたいにちゅうちゅうしてぇ♪」
「ん、ぅあっ? なにを、してるのですかぁ……っ」
まさにそのとき、惣助が叫んだ。
「そうだ水、水を飲もう……誰か水持ってないか~?」
答える余裕のある人間は誰もいなかった。
しかし心配は無用。惣助はすぐ、自分が持っているものに気づけた。
「あったぞ! 水があった!」
渇を癒さんと豪快に一気飲み。
「酒だこれー!!」
●
仲間の惨状を遠目にするレーヴェ・W・マルバス(ka0276)は額に手を当て、首を振る。
「人間は酒に弱いのぅ……あ、私? 私はほれ、ドワーフじゃから」
誰に聞かせているのか分からない独り言を口にし、落ち着き払ってライフルを構える。
狙うは豚の足。
引き金が引かれた。弾が放たれた。目標を4メートルばかり逸れ惣助の背に命中した。
「んー外したか。惜しいのう」
レーヴェは慌てない。惣助は確か防弾ベストを着ていたはずだ。着ていなくてもハンターだから死にはしない。
でも一応呼びかけておく。事後だけど。
「ああ、言い忘れた。誤射に気を付けてな。こちらも気を付けるがー」
その上でもう一回撃つ。
今度は水月に当たった。
さらにもう一度撃つ。
また惣助に当たった。
「……いかんな。私も少し酔っているようじゃて」
渋々その点を認めたレーヴェはライフルを降ろす。
牧場の柵に腰掛け、オレンジジュースを片手にチョコレートを食べ始める。解説を交えて。
「アルコールを分解している時、身体は糖分を求めてくる。食べても食べても空腹に感じるのはこのせいじゃ。そしてオレンジジュース。柑橘類はアルコール濃度を下げる効果があるという。喉も乾くしな」
●
鉄球の強烈な一撃により多少冷静さを取り戻した舞は、はたと目を覚ました。
起き上がれば目と鼻の先に、アヒルの泳ぐ平和な池。
池――水――そうだ水を飲もうと彼女は、おぼつかない手で装備品をまさぐった。
そんな彼女にもなかが背後から、助走をつけた抱き着き攻撃。
「にゃはははは、舞さあん、頭なでなでさせてえ~」
穴から抜け出したキララが千鳥足で走ってくる。
「ふひゃひゃひゃ、そこにいたか豚あああ!」
そして衝突。3人こぞって池へドボン。
高飛沫を上げしばしもがく。生臭い水をいやと言うほど飲んで岸に上がる。
それで、酔いがすっきり醒めただろうか――いやいや、そんなことはなかった。舞は豚の顔を見るなり、また笑い出してしまう。
「ぶふっほおw全然効いてないしw」
といっても、少しは効果があったのだろう。剣舞の動きは先程より冴え、確実に豚の鱗をそぎ始めた。
もなかはそんな舞を追う豚の尻尾を追う。
「待てー、逃げるな燻製-!」
キララは豚の本体を追う。
「逃がさんぞ肩! ヒレバラもも! ロース外もも肩ロース!」
そこへ流星のごときスピードで割り込んできた者がいる――リナリスだ。
「カチャ~愛ちてるよぉ♪」
どうも、歪虚までカチャに見えてきたらしい。脳の発酵具合もここまで来ると、いよいよ最終段階だ。
豚は横並びしてきたリナリスを体当たりで弾き飛ばす。しかし彼女がその程度のことで正気に戻るはずもない。
「ん、もう。やんちゃだね♪ なら……」
突如立ち上がるアースウォール。そこに頭から突っ込む豚。
リナリスは丸い背にヒラリと、ロデオのごとく跨がる。
「悪い子だねカチャ……お仕置きだよっ♪」
禍炎剣の柄で思い切り豚の尻を叩いた。
豚が跳び上がって暴れまわるのも何のその、けして降り落とされない。
「カチャ、ここは苦手なんだよね……♪」
と言うや否や禍炎剣の柄をひと嘗めし、豚の尻穴に押し込んだ。
「ブキイイイイイ!?」
「あはははは、たっぷり虐めてあげる♪」
●
レーヴェは飲みきったジュースの缶を傍らにおき、のんびり深呼吸。
「よし、幾何かマシになったじゃろ」
再びライフルを構え地道に撃つ。豚の胴目がけて。
「うむ、さっきよりよく当たり出したの。おーいリナリス殿-、お楽しみの最中みたいじゃが、もちっと豚をこっちに寄せてくれんかのー!…………聞いとるかー!」
●
頭の上のメガネをかけ直した菜摘は、やっと重大なことを思い出した。
「……そふいえは、【キュア】をつかへは、いいのでひたは。わたひ、なんでわすれていたのでひょうか?」
急いで、自分にキュアをかける。
途端に激しい後悔が押し寄せてきた。
「……今回は醜態を曝しましたわ。今後このような事がないように自制しなくてはいけませんわね」
まずは茂みのところで倒れているカチャにキュア。
「……あれ? ここは……歪虚……」
頭を振って起き上がる彼女に続けて、舞にキュア。
笑い止んだ彼女は脇腹を押さえながら、ふうーっと息を吐く。
「あ~、腹筋痛い」
その後キララ。惣助。水月。もなか。
それから――色々絶好調なリナリス。
覚醒した彼女はすぐさま状況を察し、声高らかに叫んだ。
「焔剣具現!」
炎剣の刀身が具現化される――豚の尻の中で。
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーー!!
そのとき上がった豚の悲鳴は、3キロ四方にまで響き渡るほどのものであった。
レーヴェは射撃の手を止め、思わず呟く。
「えぐいのお」
他のハンターたちが、続けて一斉に豚へ襲い掛かる……。
●
戦いは即座に終わった。
単なる肉に戻った塊から食べられそうなところを切り取っていく舞。
物陰で内容物を逆流させている水月。
それらを横目にしつつ、惣助は言った。
「……さて、今日我々は普段通り戦い歪虚を殲滅した。いいね?」
やらかした諸々についてはこの際忘れたい。そんな思いが滲み出る言葉であった。
菜摘もその点、痛切に感じている。だもので、仲間にこう持ちかける。
「……今回の事はどうか内密に。お互いに恥を曝す事もありませんから」
即答したのはリナリスに頬ずりされているカチャ。
「そうですね。全くその通りです」
レーヴェは分別臭い顔で言う。
「こんなこともあるから最低限防衛や伝令に回せる素面の人員を残しておくべきだと、私は最初から言っておったに」
キララは遠い目をしていた。アルコール臭に引かれ集まってくる羽虫を退けながら。
やっちまった感を癒すにはどうしたらよいか――その答えは、惣助が分かりやすく提示した。
「ま、それはそれとして……宴会に戻って飲み直そうか」
いやなことは忘れよう。そしてあわよくば、全員の記憶を飛ばしてやろう。
そんな企みを胸に仲間へ呼びかけるキララ。
「だな。そうしよう。皆、郷に戻ろう!」
切り落とした肉を手にした舞は、乗り気な返答。
「いいね。ついでだから皆にこのミンチで、豚つくね作ってあげるよ」
もなかは事前に予防線を張っておく。
「皆さんが郷に戻るというならばお付き合いしますが、あたしはもう飲みませんからね!?」
やっと悪酔いが収まってきた水月は頭を振り振り、皆の後について行く。
「ぅぅ……頭がガンガンするぅ……今回は、酷い目にあいました……」
そして〇時間後。
「というわけでだな、俺たちははるばるリアルブルーに転送されたわけだ! 松前キャノンがズガガガガと雨あられのごとく降り注いだわけだ! 俺たちはシールドでドババババと跳ね返したわけだ! そこに目玉の群れがズギャーンと襲ってきたわけだ! それをCAMでドギャーンと迎撃してだな!」
酔いに任せて異世界談を熱弁する惣助。
傍らでがぱがぱ飲んでいたもなかは、手にした熊の髑髏杯で彼の頭を殴った。
「もっとお酒を~……んひひひ~♪ AHAHAHAHAHA♪」
菜摘はその光景に、強い既視感を覚えた。
(……この光景、依頼に行く前にも見ましたね……)
誰にも悟られぬよう宴席から退場しかけたまさにその時、キララに肩をわし掴まれる。
「もなかさん、どうかな、一杯?」
「いえ、私はちょっと、ほら、片付けのお手伝いとかしようかなと思いまして」
「何言ってんだ、宴会はまだまだ終わらないぞ? 遠慮せずにさあさあさあ」
そこに豚つくねの串焼きを持った舞が、笑いながら近づいてくる。
「うふははは見て見て、これ、あの豚だよ? あの豚がうぷぷ、こんなになっちゃってさあ、あーっははははあいひひひひ! これは明日一日腹筋筋肉痛だなあっはっは!」
水月は宴席を避け、木の上に避難していた。
空を眺めれば春霞のかかったお月様が、ぽっかり浮かんでいる。
「桜があればよかったんじゃがのう」
声がする方を見れば、隣の梢。おちょこでちびちびやっているレーヴェ。
「おぬしもどうじゃ、一杯」
水月は、慌てて首を左右にする。
「いえ、僕は遠慮しておきます。まだお腹の具合がおかしくて」
「そうかの」
あっさりおちょこを引っ込めるレーヴェ。一安心する水月。
「……そういえば、リナリスさんとカチャさんの姿が見えないようですが……」
「あー、あの二人なら中座してどっかに行ってしもうたぞい。まー、あれじゃ……」
台詞を途中で切り、レーヴェは、また一献。
「……色々あるのじゃろ。色々とな。うん」
翌朝。ハンターたちは郷から二日酔いと焼酎をお土産に貰い、無事自宅へと帰還した。
「わっはっは! 俺達に掛かれば歪虚なんぞチョチョイのチョイよぉ! 数だけは多いようだがすぐに片付けて豚の丸焼きにしてやるぜ!」
酔っ払いの目には豚が分裂して見えた。ライフルを撃ちまくるも全て的から外すという体たらく。
「うっぷ、ちょこまかと動」
直進してきた巨体に吹き飛ばされる。落ちてきたところをどかどか踏まれる。
だがへべれけでもハンター。それしきの攻撃では死なない。
とりあえず的に当たらないライフルは放棄。拳での直接攻撃に移る。
「うおおおおー! ミンチにしてやらぁ!」
そこへ水城もなか(ka3532)がゆらりと近づいてきた。共闘をする気なのかと思いきやさにあらず、惣助の顔面目がけ裏拳をたたき込むという暴挙に出る。
倒れた彼を乗り越え一目散に向かうは、豚の尻尾。
「おおっ! こんなところにヤツメウナギの燻製があるじゃないですかー」
と言いながら思い切り噛み付く。
予想外の攻撃を受けた豚は、後足で思い切りもなかを蹴飛ばした。
●
「ぅあ……こんな、ときにぃ……雑魔ですかぁ……」
頭をぐらぐらさせながらパイルバンカーを持とうとする葛音 水月(ka1895)。
「豚だと? 軽く仕留めて酒の肴に追加してくれるわ、ふはは!」
高笑いしながら豚へ接近しようとする霧島 キララ(ka2263)。
しかし双方、思うように体が動かぬ。パイルバンカーは持ち上がらないし、豚のいる方に進めない。
さすがにこれでは満足な戦いが出来ないと悟った彼らは、根本的解決を図る。
「豚狩りの前に軽く酔い覚ましせねば……」
「……えぇと……みず……みず……」
キララは所持品であるウイスキーの栓を抜き、頭から被った。水月は郷から持ち出してきた酒を、一息でぐいっとあおった。
酩酊状態の人間に酒と水の区別をつけろと言っても、土台無理な話である。
「おぉ? 豚が増えた!? ふははは、これでツマミには困らないな!」
「あ、れぇー……? おか、し……ですね……」
●
カチャは相変わらず、あらぬ方向に向かって叫んでいる。
「水、みずはどこらー!」
そんな彼女にリナリス・リーカノア(ka5126)が、大きな杯を渡した。
「ハイ♪ カチャ~お水だよぉ♪」
「おー、ありがとうございますー」
普段なら少しは警戒しただろうが今は完全に出来上がっている状態。カチャは何の疑問も抱かず、リナリスから渡されたものを飲んだ。
「な、なんらものすろくめがまわっれきたんれふけろ」
リナリスはカチャが戻してきた杯を受け取り、残りを一気に飲み干した。
「そうでしょそうでしょ。焼酎とヴォトカと自家製の秘蔵酒を調合したカクテルだから、これ♪」
「あー、そうなんれふかどおりれー」
更なる酩酊に陥ったカチャをリナリスが茂みに引きずり込み深い口づけとそれ以外の何かで失神寸前に追い込んでいる間、天竜寺 舞(ka0377)もまた失神寸前になりかけていた――酸素の大幅な欠乏により。
「あはは、ぶ、豚が暴れてるよ、うぷぷ」
何を隠そう彼女は笑い上戸。普通に見れば何にひとつ面白くない豚の顔にも動作にも、大爆笑が止まらない。
「ちょ、豚のしっぽはチョンボりちょろりって本当じゃん。あーはっはっ!」
ヒートソードを手にしているも使う事なく、転がり回る草の上。冷静にならねばと起き上がるも相手を再度見るや否や、顔が紫色になるほど息を詰まらせる。
そこまで笑われると歪虚と言えど、さすがに気分を害するらしい。豚は惣助を踏むのを止め、足音荒く舞に向かってきた。
「ひーひっひっ、豚、豚が怒ってるよw豚のしっぽはチョンボりちょろり~」
舞にはもう、笑いと歌以外の反応が出せなかった。とはいえ無意識に剣舞の構えを取り、攻撃をかわし切る。
日下 菜摘(ka0881)はホーリーパニッシャーをぐるぐる振り回し、舞の援護にかかろうとした。
「……ひょうひょう飲み過ぎてしまいましたは。とりはへず、めのまへのぶたたいひですはね」
どうかするとずり落ちてくるメガネを押し上げ、いざ尋常に勝負、勝負。
「えいやあああああああ~~~」
鎖の遠心力に振り回されこける菜摘。
拍子にメガネが天高く吹き飛んだ。クルクル回転しながら頭の上に再着地した。しかし菜摘本人はそれに気づかない。地に膝をつき草むらをかき分け、必死に探す。
「あああ! メガネ、メガネ、メガネはどこですかああ」
あらぬところに飛んでいった鉄球は豚でなく舞にクリーンヒット。思い切り彼女を吹っ飛ばす。豚は抜かりなくそこに駆けて行き、背と後頭部に足跡をつけた。
あいつの動きを何とか止めなければ。その一念で水月はパイルバンカーを放つ。発射の反動に負け後方に転げる。
パイルバンカーは方向性を見失い、地面に大穴を開けた。
「うらああああああ! 死ねや豚あああああ!」
銃を乱射し豚に突撃して行くキララが、すとんとその中に落ちる。
その光景を間近にした菜摘は吹き出した。舞同様完全にツボに入ってしまい、笑いが止まらなくなる。
「んっぷ……あははははははははははははは……き、きららさんたらもお、そんなきれいにハマらなくてもあははははは」
●
重い武器は駄目だとまでは自覚出来た水月が、ワイヤーウイップを取り出す。
そこへ猛スピードで走り込んでくるリナリス。
「きゃははははあそこにもここにもカチャがいるぅ♪ ここは天国だぁーあはははは♪」
酩酊に酩酊を重ねた結果彼女は、森羅万象すべてがカチャに見えるという境地に至っていた。
当然水月についてもカチャに見えている。たわわな胸で顔を包み込む様に抱き着き、酔って赤面している水月を更に赤面させるような行為に及ぶ。
「カチャ~何時もみたいにちゅうちゅうしてぇ♪」
「ん、ぅあっ? なにを、してるのですかぁ……っ」
まさにそのとき、惣助が叫んだ。
「そうだ水、水を飲もう……誰か水持ってないか~?」
答える余裕のある人間は誰もいなかった。
しかし心配は無用。惣助はすぐ、自分が持っているものに気づけた。
「あったぞ! 水があった!」
渇を癒さんと豪快に一気飲み。
「酒だこれー!!」
●
仲間の惨状を遠目にするレーヴェ・W・マルバス(ka0276)は額に手を当て、首を振る。
「人間は酒に弱いのぅ……あ、私? 私はほれ、ドワーフじゃから」
誰に聞かせているのか分からない独り言を口にし、落ち着き払ってライフルを構える。
狙うは豚の足。
引き金が引かれた。弾が放たれた。目標を4メートルばかり逸れ惣助の背に命中した。
「んー外したか。惜しいのう」
レーヴェは慌てない。惣助は確か防弾ベストを着ていたはずだ。着ていなくてもハンターだから死にはしない。
でも一応呼びかけておく。事後だけど。
「ああ、言い忘れた。誤射に気を付けてな。こちらも気を付けるがー」
その上でもう一回撃つ。
今度は水月に当たった。
さらにもう一度撃つ。
また惣助に当たった。
「……いかんな。私も少し酔っているようじゃて」
渋々その点を認めたレーヴェはライフルを降ろす。
牧場の柵に腰掛け、オレンジジュースを片手にチョコレートを食べ始める。解説を交えて。
「アルコールを分解している時、身体は糖分を求めてくる。食べても食べても空腹に感じるのはこのせいじゃ。そしてオレンジジュース。柑橘類はアルコール濃度を下げる効果があるという。喉も乾くしな」
●
鉄球の強烈な一撃により多少冷静さを取り戻した舞は、はたと目を覚ました。
起き上がれば目と鼻の先に、アヒルの泳ぐ平和な池。
池――水――そうだ水を飲もうと彼女は、おぼつかない手で装備品をまさぐった。
そんな彼女にもなかが背後から、助走をつけた抱き着き攻撃。
「にゃはははは、舞さあん、頭なでなでさせてえ~」
穴から抜け出したキララが千鳥足で走ってくる。
「ふひゃひゃひゃ、そこにいたか豚あああ!」
そして衝突。3人こぞって池へドボン。
高飛沫を上げしばしもがく。生臭い水をいやと言うほど飲んで岸に上がる。
それで、酔いがすっきり醒めただろうか――いやいや、そんなことはなかった。舞は豚の顔を見るなり、また笑い出してしまう。
「ぶふっほおw全然効いてないしw」
といっても、少しは効果があったのだろう。剣舞の動きは先程より冴え、確実に豚の鱗をそぎ始めた。
もなかはそんな舞を追う豚の尻尾を追う。
「待てー、逃げるな燻製-!」
キララは豚の本体を追う。
「逃がさんぞ肩! ヒレバラもも! ロース外もも肩ロース!」
そこへ流星のごときスピードで割り込んできた者がいる――リナリスだ。
「カチャ~愛ちてるよぉ♪」
どうも、歪虚までカチャに見えてきたらしい。脳の発酵具合もここまで来ると、いよいよ最終段階だ。
豚は横並びしてきたリナリスを体当たりで弾き飛ばす。しかし彼女がその程度のことで正気に戻るはずもない。
「ん、もう。やんちゃだね♪ なら……」
突如立ち上がるアースウォール。そこに頭から突っ込む豚。
リナリスは丸い背にヒラリと、ロデオのごとく跨がる。
「悪い子だねカチャ……お仕置きだよっ♪」
禍炎剣の柄で思い切り豚の尻を叩いた。
豚が跳び上がって暴れまわるのも何のその、けして降り落とされない。
「カチャ、ここは苦手なんだよね……♪」
と言うや否や禍炎剣の柄をひと嘗めし、豚の尻穴に押し込んだ。
「ブキイイイイイ!?」
「あはははは、たっぷり虐めてあげる♪」
●
レーヴェは飲みきったジュースの缶を傍らにおき、のんびり深呼吸。
「よし、幾何かマシになったじゃろ」
再びライフルを構え地道に撃つ。豚の胴目がけて。
「うむ、さっきよりよく当たり出したの。おーいリナリス殿-、お楽しみの最中みたいじゃが、もちっと豚をこっちに寄せてくれんかのー!…………聞いとるかー!」
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頭の上のメガネをかけ直した菜摘は、やっと重大なことを思い出した。
「……そふいえは、【キュア】をつかへは、いいのでひたは。わたひ、なんでわすれていたのでひょうか?」
急いで、自分にキュアをかける。
途端に激しい後悔が押し寄せてきた。
「……今回は醜態を曝しましたわ。今後このような事がないように自制しなくてはいけませんわね」
まずは茂みのところで倒れているカチャにキュア。
「……あれ? ここは……歪虚……」
頭を振って起き上がる彼女に続けて、舞にキュア。
笑い止んだ彼女は脇腹を押さえながら、ふうーっと息を吐く。
「あ~、腹筋痛い」
その後キララ。惣助。水月。もなか。
それから――色々絶好調なリナリス。
覚醒した彼女はすぐさま状況を察し、声高らかに叫んだ。
「焔剣具現!」
炎剣の刀身が具現化される――豚の尻の中で。
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーー!!
そのとき上がった豚の悲鳴は、3キロ四方にまで響き渡るほどのものであった。
レーヴェは射撃の手を止め、思わず呟く。
「えぐいのお」
他のハンターたちが、続けて一斉に豚へ襲い掛かる……。
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戦いは即座に終わった。
単なる肉に戻った塊から食べられそうなところを切り取っていく舞。
物陰で内容物を逆流させている水月。
それらを横目にしつつ、惣助は言った。
「……さて、今日我々は普段通り戦い歪虚を殲滅した。いいね?」
やらかした諸々についてはこの際忘れたい。そんな思いが滲み出る言葉であった。
菜摘もその点、痛切に感じている。だもので、仲間にこう持ちかける。
「……今回の事はどうか内密に。お互いに恥を曝す事もありませんから」
即答したのはリナリスに頬ずりされているカチャ。
「そうですね。全くその通りです」
レーヴェは分別臭い顔で言う。
「こんなこともあるから最低限防衛や伝令に回せる素面の人員を残しておくべきだと、私は最初から言っておったに」
キララは遠い目をしていた。アルコール臭に引かれ集まってくる羽虫を退けながら。
やっちまった感を癒すにはどうしたらよいか――その答えは、惣助が分かりやすく提示した。
「ま、それはそれとして……宴会に戻って飲み直そうか」
いやなことは忘れよう。そしてあわよくば、全員の記憶を飛ばしてやろう。
そんな企みを胸に仲間へ呼びかけるキララ。
「だな。そうしよう。皆、郷に戻ろう!」
切り落とした肉を手にした舞は、乗り気な返答。
「いいね。ついでだから皆にこのミンチで、豚つくね作ってあげるよ」
もなかは事前に予防線を張っておく。
「皆さんが郷に戻るというならばお付き合いしますが、あたしはもう飲みませんからね!?」
やっと悪酔いが収まってきた水月は頭を振り振り、皆の後について行く。
「ぅぅ……頭がガンガンするぅ……今回は、酷い目にあいました……」
そして〇時間後。
「というわけでだな、俺たちははるばるリアルブルーに転送されたわけだ! 松前キャノンがズガガガガと雨あられのごとく降り注いだわけだ! 俺たちはシールドでドババババと跳ね返したわけだ! そこに目玉の群れがズギャーンと襲ってきたわけだ! それをCAMでドギャーンと迎撃してだな!」
酔いに任せて異世界談を熱弁する惣助。
傍らでがぱがぱ飲んでいたもなかは、手にした熊の髑髏杯で彼の頭を殴った。
「もっとお酒を~……んひひひ~♪ AHAHAHAHAHA♪」
菜摘はその光景に、強い既視感を覚えた。
(……この光景、依頼に行く前にも見ましたね……)
誰にも悟られぬよう宴席から退場しかけたまさにその時、キララに肩をわし掴まれる。
「もなかさん、どうかな、一杯?」
「いえ、私はちょっと、ほら、片付けのお手伝いとかしようかなと思いまして」
「何言ってんだ、宴会はまだまだ終わらないぞ? 遠慮せずにさあさあさあ」
そこに豚つくねの串焼きを持った舞が、笑いながら近づいてくる。
「うふははは見て見て、これ、あの豚だよ? あの豚がうぷぷ、こんなになっちゃってさあ、あーっははははあいひひひひ! これは明日一日腹筋筋肉痛だなあっはっは!」
水月は宴席を避け、木の上に避難していた。
空を眺めれば春霞のかかったお月様が、ぽっかり浮かんでいる。
「桜があればよかったんじゃがのう」
声がする方を見れば、隣の梢。おちょこでちびちびやっているレーヴェ。
「おぬしもどうじゃ、一杯」
水月は、慌てて首を左右にする。
「いえ、僕は遠慮しておきます。まだお腹の具合がおかしくて」
「そうかの」
あっさりおちょこを引っ込めるレーヴェ。一安心する水月。
「……そういえば、リナリスさんとカチャさんの姿が見えないようですが……」
「あー、あの二人なら中座してどっかに行ってしもうたぞい。まー、あれじゃ……」
台詞を途中で切り、レーヴェは、また一献。
「……色々あるのじゃろ。色々とな。うん」
翌朝。ハンターたちは郷から二日酔いと焼酎をお土産に貰い、無事自宅へと帰還した。
依頼結果
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酔っ払いの集い 近衛 惣助(ka0510) 人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/03/28 06:52:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/26 21:36:49 |