• 血盟

【血盟】英雄と呼ばれた男たち

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/24 07:30
完成日
2017/04/03 23:26

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

――そんなに力が欲しいのなら歪虚になったらどう?
 甘く、魅力的な誘いだった。
 辺境部族に助けられた後、生存者は自分だけしか存在しないという事実を突きつけられ「やはり」と言う思いしか湧かなかった。きっとあの戦場で分かっていた事実なのだ。
 それでも、それでも自分は……。
「Princess、お呼びデスか~?」
 和風装束の奇抜な衣装をした人物が深淵の森の中に姿を現す。
 背に携えるのは身の丈を超える機械刀。そしてぽっかりと空いた首元から覗くのは元四十八家が1つ、宗野の家から譲り受けた刀の柄だ。
「呼んだけど、刀鬼ちゃん相変わらず可愛くないわね。その頭なんとかならないのかしら?」
 不満げに口を尖らすこの人物は不変の剣妃と人類が呼ぶモノ。紫電の刀鬼(kz0136)を本当の鬼へと変えた張本人であり恩人だ。
 彼女は頭と呼べるものがない刀鬼の顔を覗き込んで言う。
「帝国の方で人同士が争ってるようなの。ちょっと見てきてくれない?」
「……人間は懲りないデスネ……ま、OKデスよ~♪」
 表情を曇らせるように核を覆う炎が揺らめくが、直ぐに正常へ戻ると刀鬼は大仰な様子で礼をして飛び立った。

●ゾンネンシュトラール帝国
――辺境を、東方を見捨てた国。
 これが当時刀鬼が抱いていた帝国への印象だ。そしてその印象は間違いではなく、帝国は自らの保身の為に他国を守る事もせずただただ内に篭っていた。
「内乱が起きるのには充分な理由デスね……But、理想が高すぎマス……」
 帝国はこの時から国軍にあたる十師団を抱えており、内乱はその師団の師団長が起こした。
 たかが1師団の師団長が国を相手に闘うなど如何かしている。軍を抱える国と、どれだけの戦力差があると思うのか。
 けれど革命主は躍進した。次々と同志を増やし、自らが先陣に立って闘い続け、国と並び立つまでにその戦力を拡大していった。
 刀鬼はその様子をずっと見続けた。
 護る為に闘うと決めた男の生き様を、自身と何処か被る戦いぶりを。だが決定的に彼と刀鬼が違う部分があった。それは――
「お前さん、そんな所で見てて楽しいか?」
 ある日、刀鬼は革命軍のリーダーと名乗る男に声をかけられた。
 たぶん始めから見つかっていたのだろう。男は頭のない刀鬼を見ても表情一つ変えずに笑ってこう続けた。
「もし暇ならよ、オレらの所に来ねぇか?」
「What?!」
 宙に浮いたまま話を聞いていた刀鬼が転げるようにして身を起こす。
 服の中の炎が驚きを現すように大きく見えあがると、男は豪快に笑って手を差し伸べた。
「どうせ監視とかそんなんだろ? だったら見てるより参加した方が分かりやすいじゃねぇか! な、そう思うだろ、タングラム?」
「……姿を消すから何事かと思って付けてみれば……どっからどう見ても歪虚だろ! アホか、アホなんですねー? 歪虚が革命軍に参加するなんて聞いたことねえですよ!!」
「わたくしは……お父様がそうしたいと仰るのでしたら、別に……」
「おめー、ちょっとは頭動かせよ! 何でもかんでも許してやるのが愛情じゃねーぞ!!」
 いきなり賑やかになった。
 どうやら男を心配してつけて来たのだろう。仮面で耳を隠したエルフ2人が森の中から姿を現した。
「ちょっとくらい良いじゃねえか。戦力が増えて一石二鳥だぞ?」
「どの辺が二鳥なんですかねえ? 陣営に歪虚を加えるってだけで大問題だって何でわからねーですか??」
「こっちに手を出してこなきゃ問題ないだろ。な、お前さんも見てるよりは参加した方が人間の考えが分かるかもしれないぞ?」
 人間の考え。そんなものは教えられるまでもない。
 けれど……けれど、この男の考え方は何かが違う……破天荒、そう括るだけなら簡単だ。そう括るだけではない何かがある気がする。
「ン~、加わりたいのはヤマヤマデスが、ミーはこんな姿なので一般Peopleが怖がりマ~ス」
「そういう時はコレだ!」
 じゃじゃーん☆
 そんな効果音を響かせて取り出されたのは頭を覆えるヘルメットだ。
「これを、こうして……落とさないように気を付けろよ?」
 和風装束の上に乗せられたヘルメットに刀鬼の見えない目が瞬かれる。そして何かを探すようにキョロキョロすると、赤髪の少女が鏡を差し出してくれた。
「Wow! カッコイーデ~ス♪」
「そうだろ、そうだろ!」
 なんとも不思議な気分だった。
 人の体を失う代わりに力を得たと言うのに、人に似た形を得て感慨深さを覚えるなど。
「で、どうだ? オレの陣営に加わってみないか?」
 断られることを想定していない顔、とでも言うのだろうか。男は刀鬼が断る事など微塵も思っていないように確信めいた表情で見つめてくる。
「OK。まぁ、Youの言うように近くで見たほうが効率がいいデスし、それに面白そうデ~ス」
「よし、決まりな! オレはヒルデブラント。この国の英雄になる男だ!」

●2人の英雄
 英雄になる。ヒルデブラントはそう言って革命軍を率いて戦い続け、革命が成った後もその足を止める事はなかった。
 そして運命の日が訪れる――。
「刀鬼、そこを退け」
「Bossの命令でも……ヒルデブラント、Youだけでも逃げるデス!!」
 いつかの日に重なる光景だった。
 崩れ落ちた複数の兵と、その中に立つ戦士。
 違うのは彼にはまだ共に戦える仲間がいるという事だ。けれどそれも時間問題だろう。
 ヒルデブラントは人類の領土を取り戻そうと遠征を繰り返してついにこの人物に出会ってしまった。
「我が名はナイトハルト。刀鬼から聞いてはいたが……ふむ、良い目をしている」
 負のオーラを纏ったデュラハンはそう言って声を潜めると、立ち塞がるように眼前に在る刀鬼を見やった。
「退け」
「Noデス!!」
 ヒルデブラントはまだやる事がある。彼ならば本当の意味での英雄になれる。そう確信したのだ。
 だからもう少しだけ待って
「剣豪ナイトハルト。こいつはデカイのが来たな! タングラム、ゼナイド、行けるか?」
「まだ大丈夫ですよ」
「わたくしも問題ありませんわ」
 3人は他の兵を伴って前に出た。そしてすれ違いざまにヒルデブラントは刀鬼に囁いた。
「これであんたとの共闘は終いだな。楽しかったぜ」
 仲間の元に戻れ。そう告げて踏み出した彼に刀鬼の手が伸び、幕が下りた。

リプレイ本文

●訂正する事の出来ない過去
 怒号が響く。
 目の前に広がる唐突な現実。それを受け止める前に声が届く。
「こいつを倒して帰るぞ! 皆、死ぬんじゃねえぞ!!」
 そう発した声の主は先陣を切って斬り込み、タングラムらしき人物とゼナイドらしき人物も駆けてゆく。
 そう、ここは――
「革命戦争……いや、もう少し後か?」
 ヒース・R・ウォーカー(ka0145)の声にユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はハッとする。
 彼らが戦いを挑むのは剣豪だ。つまり今声を上げた人物は前皇帝「ヒルデブラント」であり、記憶が確かならこの闘いは紫電の刀鬼が持つ記憶だ。しかも帝国にとってはかなり重要な真実の。
「あの時アイツが言っていた言葉に、その時の記憶に間違いが無ければ……」
 刀を抜き取ったユーリにアーサー・ホーガン(ka0471)が口角を上げて並び立つ。
「へっ。どんな記憶かはさておき、だ。これが英雄の姿ってわけか。ついて行きたがる奴が多いわけだな」
 身の内から湧き上がる疼き。それを抑えるでもなく、アーサーは踏み出した。
 目標はヒルデブラントが言った剣豪討伐だ。
「かははっ、一度戦ってみたかった相手だぜ!」
「あ!」
 我先に飛び出したアーサーに目配せしたのも一瞬、戦場の真っ只中に身を置いた仲間に手を伸ばして葛音 水月(ka1895)が苦笑する。
 先を行く諸先輩方――つまり、前皇帝やタングラム、そしてゼナイドをサポートするように動くのが自分たちの務めと感じた水月は、それを目で合図したのだが、アーサーが受け取ったかどうかは不明だ。
「仕方ありませんね。ですが、気持ちはわかります」
 目を伏せて吸い込んだ息。
 夢であろうと何と心躍る瞬間だろう。
「そうそうたる顔ぶれには驚きましたけど、並び戦えるというのは嬉しいですね」
「ゼナさん、あたしのことわからないかな?」
 脇目も振らずに剣豪へ挑む様子から可能性はないと考えて良い。
 そもそも彼女らがメイム(ka2290)たちと顔を合わせるのはここから十数年先の話になる。
「誰かの記憶だとしても戦うしかないってことだよね!」とは、ミィリア(ka2689)の声だ。
 彼女は既に戦闘態勢を整えて突入の準備を完了している。そしてその声にマリィア・バルデス(ka5848)が頷くと、彼女は武器への装填を終えて踏みした。
「いくら夢でも、どうせ呼ぶならバイクごと呼んでほしいわね」
 飛び出す最中に情報の共有を果たす。
 過去に得た仲間の記憶と現状の把握によって全員が得た知識は、ここが革命戦争後の世界だと言うこと。そしてこの戦いの先陣を切るのはヒルデブラント、先代皇帝であると言うこと。更にユーリの記憶が正しければ、この戦いで紫電の刀鬼はヒルデブラントを――
「私、基本的に歪虚は信じていないのよね!」
 射程距離に入ると同時に吹き鳴らしたマシンガン。それが前皇帝にのみ注意を払っていた剣豪の胴を掠める。しかし意に介した様子もなく、剣豪は前皇帝に向けて檄を飛ばした。
 凄まじい圧が大地を、空気を、森を揺らす。
 堪らず前皇帝や先に斬り込んだタングラムたちも飛び退くが、その表情は何処か楽し気だ。
「……英雄と言う概念を否定するつもりはないけど、ねぇ。英雄に縋ったり依存するのは好きじゃない」と、ヒースは剣豪の真後ろを取るべく動く。
 その途中にすれ違った前皇帝は突如飛び出してきた彼に、一瞬驚いた表情を見せる。
「お前が強いのは知っている、だけど剣豪の強さはそれ以上。各自が勝手に動くだけじゃ勝ち目ないのは理解できるかなぁ?」
 突然の助言に前皇帝の眉が上がった。
 そして直ぐに破顔すると大きな声を上げて笑い、ニッと前を見たのだ。
「兵の中にもまだお前さんの様な者がいたか!」
 兵――この言葉に「ああ」と納得の声が漏れる。
 記憶に招かれたハンター達は帝国兵の一部なのだ。そしてそれを理解すると同時にヒースの口から舌打ちが漏れる。
「……酷い話だ」
 何が。とは触れずに零した声。その声を自身の中に仕舞い込んで更に前に出る。
「お父様、このままでは兵が皆殺しにされてしまいますわ!」
「ゼナイド! 声上げてる暇があったら負傷者を後ろに下げるですよ!」
 剣豪の一撃は重い。それ故に、周囲で戦っていた兵士が次々と倒れている。正直無事なのはゼナイドとタングラム、そして前皇帝くらいだろう。
「酷い……」
 一瞬の戦闘でこれだけの犠牲が出るなんて。いや、被害はマリエル(ka0116)が目を開ける前から甚大だった。今はそれが拡大しただけ。それでも何故こんなにも。
「また……でも、負けない……!」
 零す彼女の周囲に光が集まる。幻影のキーボードを叩いて召喚するのは癒しを与える金色の林檎だ。彼らの運命が変わらないとしても、ここに来ることが出来た意味を残す為に。
「擬似接続開始。対象コードは『イドゥン』を選択。アクセス! イミテーション・ゴールデンアップル!」
 光が負傷者を包んで傷を癒し、マリエルの口から安堵の息が漏れる。だが、
「避けて!」
 ミィリアの声に死線が飛んだ。
 前皇帝へ向けられた剣豪の一撃がこちらに飛んできたのだ。
「コード、『ティール』!」
 咄嗟に光の盾を召喚する。しかし遅い!
「――!」
 地面を転がる感触に、口に広がった土の臭い。それを吐き出すようにして立ち上がった彼女の目に飛び込んで来たのは負のマテリアルを放出して翼を作り出した剣豪の姿。
 彼は自らの翼から精製した剣を前皇帝に振り下ろす。

 ドンッ!

 鈍い音が響いてミィリアが吹き飛ぶ。
 飛び出す際に構えていた盾が凹み、背を木に打ち付けて苦痛に歪んだ表情で剣豪を見る。
「っ、ぅぐぐ……勝手にお邪魔しちゃって申し訳なさはあるけども……剣豪さん、今日はどんなご用事? ミィリア達ともお相手願えると嬉しいのだけれど?」
 へへっと笑って口元を拭う。いつもならこの声に反応して面妖そう不可解そうな声を返すのだが、今の剣豪は邪魔をされた不愉快さに負のマテリアルを増大させ圧を放ってきた。
「っ、化け物……!」
 喝1つで吹き飛ぶのはミィリアだけではない。マリィアや他の面々も同様に距離を取らざる終えなくなっている。
 その姿にメイムが呟く。
「問答無用で一騎打ち希望なのかな? でも条件が釣り合わないならそんなのない。戦いは数と統率だよ――奔れロニ!」
 擦り切れた服をそのままに、メイムは相棒とシンクロして駆け出す。
 如何あってもこちらを見ないというなら、見るまで闘いを挑むのみ。そしてこちらを見た時こそ好機だ。
「合わせます」
 水月はメイムの動きに合わせて重量オーバースレスレのパイルバンカーを腕に駆け出す。そして間合いに踏み込んだ時、剣豪の腕がメイムを、剣が水月の攻撃を受け止めた。
「今だ!」「今です!」
 双方の声に前皇帝が踏み込――否、剣を引いた。
「双方退け!」
 何。そう思考するより前に2人の体を光が貫く。
「ゼナイド!」
「わかってますわ!」
 剣豪から放たれた光はメイムや水月だけでなく他のメンバーにも迫る。
 それを回避しながら2人を回収したゼナイドとタングラムはほぼ同時に舌打ちを零すと、未だ剣豪へ挑む仲間に目を飛ばした。
「おいおい、無茶苦茶だな! だがそれでこそ噂の相手だ!」
 アーサーは振り下ろされる剣の動きを読んで側面へ飛ぶ。その上で大地を蹴り直すと、相手の懐目掛けて飛び込んだ。
「次から次へと……弱き者が強き者の戦いに口を挟むなど――なに?」
「やっぱり、こっちでも効くんだねぇ?」
 胴を掠めたヒースの一打に剣豪の顔が動く。
 僅かに見えた翼状のオーラはどの戦場でも見た事がない。
「ヒルデブラント以外にもいるというのか……成程。刀鬼の報告も嘘ではないらしい」
 だが! これ以上の攻撃は許さない。そう言外に発し、アーサーの渾身の一撃が弾かれる。
 目の前を過る刃。それが完全に眼前から消えると、彼の体に重い一撃が降り注いだ。
 正に背骨をへし曲げる程の重みを持った蹴りは、彼の息と立つ力を奪う。その上で「次」と細く呟きヒースを捉えた。
「おいおい、お前さんの相手はこっちだろ。まさかナイトハルトともあろう者が雑兵相手に熱くなってんのか?」
 恥ずかしいねぇ。そう囁きながら、剣豪の顔面に剣が叩き付けられる。
 圧倒的な力を見せられても臆さない姿は現皇帝とも重なる姿だ。
「親子、か……成程ねぇ」
 ヒースは前皇帝に意識が向いたのを確認して再び地を蹴る。
 剣豪はハンターの介入を快く思っていない。それは現段階において彼の敵は前皇帝でしかないからだ。そして彼がいなくなった後――それこそ十数年と経った後に、彼は新たな討伐対象としてハンターを見付ける。
 だから今は視界になくても良い。
「いると思うかい?」
「ええ、何処かにいるはずよ。だから今は全力でいく!」
 ヒースの声に応えてユーリが、ミィリアが飛び出す。その姿を見ていたマリィアだけが釈然としない様子でマシンガンを構えていた。
「歪虚が積極的に上位者に逆らえるわけないでしょ……何を、何を企んでるの!」
 三方向から飛び込んだ仲間に合わせて銃弾の雨を見舞う。これに剣豪の足が飛んだ。
 一蹴しただけにも拘わらず、彼の存在はマリィアの眼前に降り立つ。そして驚く彼女目掛けて金色の刃を振り下ろした。
「――ッ!!」
 引き裂かれるような痛みに声なき悲鳴が上がる。
 けれど意識だけは残っていた。
 ミィリアと駆け付けたマリエルが攻撃を受け止めてくれたのだ。刃は彼女達の目の前に。けれど剣圧が彼女達を引き裂いた。
「……傷の、手当てを……頼むでござる……」
 ゆらりと倒れたミィリアにマリィアの手が伸びる。その手を見ながらミィリアはいつぞやの話を思い出していた。
(ヒルデブラントさん……前に、剣豪さんが倒したのを刀鬼さんが見たとか見ないとか……そんなこと、言ってた……け)
「ミィリアさん……今、助けます……!」
 マリエルの足は動かない程に深い傷を負っている。それでも紡ぎだした金色の林檎は自身を含めた周囲へと癒しの光を広げてゆく。
「私は……私は、抗う事を諦めたりしない!」
 例えこれが定められた運命だとしても。逃れようのない事実であろうと。
 そう叫ぶ声に誘われる様にメイムが立ち上がる。
「身体痛いなぁ……」
 メイムは砂を集めて棍を作り出すと、会得した奥義を発動して、駆け出した。
 剣豪はヒースとユーリ、そしてゼナイドやタングラム、前皇帝と未だに戦闘を繰り広げている。その勢いは収まる様子を見せず、どちらかと言うと彼の力は当初よりも拡大しているかのように見える。
「これなら、どう!」
 蒼白い雷光を纏うユーリの刃が剣豪の腕を払う。その一撃は彼の強固な鎧を傷つけ、弾き上げた。そこにヒースが踏み込み、胴の薙ぎ払いを狙う。
 しかし――「くは、ッ!?」
 剣豪の翼が腕のように動いてヒースの体を弾き飛ばした。しかもその翼がユーリまでも狙う。
 背を追い掛け、腕を攫い、胸を貫き、彼女の体が高く飛んだ。
「騎士さん、ううん、皇帝! お願い!」
 獣のように駆け込んだメイムが片足を軸に反転。剣豪の正面に立つと身を低くして突っ込んだ。
 狙うのは腕だ。握り締めた武器に力を込めて狙いを定める。
「当たれー!」
 一か八かの攻撃。それが当たった瞬間、飛沫のようにマテリアルが舞い上がった。
 そして剣豪の目がメイムを捉える。
「ほう」
 次の瞬間、押さえつけられたかのように彼女の体が地面に叩き付けられた。
 何十倍の重力を感じているかのような錯覚。徐々に大地にめり込む体から悲鳴が上がる。そして何処かの骨が折れる音がして、彼女の意識は遠退いていった。

●我が心のままに
 何処か遠い場所で話している声が聞こえる。
「刀鬼! 貴様、如何いうつもりだ!!」
 剣豪の怒号が空へ放たれる。それと同時に上がった光の衝撃を、刀鬼は自らの雷撃で防ぐと大柄の男を抱えて叫んだ。
「もう決着はついてマース! Bossは死体を切り刻む趣味があるデスか!」
「否、否、否!!」
 普段であれば、空に浮かぶ刀鬼を追う事は可能だ。けれど剣豪にそこまでの力は残されていないのだろう。彼は空に向かって叫び続け、怒りを炸裂させて周囲の木々を薙ぎ倒してゆく。
 タングラムやゼナイド、そして多くの兵が命や意識を失った後、剣豪は自らの力を開放してヒルデブラントと戦った。それは剣豪にとって夢の様な時間だった。
 全力を発揮しても死なない男。そんな人物は未だかつて存在しなかったのだから。
「刀鬼ーーーーッ!!!!」
 刀鬼は怒りに交じる悲痛な声をわかっていながら前皇帝を抱えてこの場を脱した。
 向かうのは辺境の地。そこに住まう民族にでも託して去ってしまおう。そう考えての事だ。
 けれど「お前さん……なにやってんだ」不意に聞こえた声で我に返る。
 自分は歪虚だ。歪虚が人間を助けるなんてのは前代未聞。
 ましてやボスと仰ぐ歪虚を裏切ってまで何を、
「……いや、これで良いデス」
 なんだそれ。そんな声が聞こえた。
 そしてそれを境に声は聞こえなくなり、肩に背負う男が息をしているかもわからなくなる。
 その後、前皇帝は辺境の部族にすぐ発見される。これは刀鬼が手を回して早期発見できるようしたのが原因だという。
 彼は仲間の元へ戻った後も、偵察に向かった帰りなどマメに様子を見に行っていたという記録も発見された。

●無意識の英雄に魅せられて
「刀鬼。お前が世界に望むのは、一体なんなんだぁ?」
 記憶を見終えたヒースの呟きにユーリの同意するような声が聞こえる。
「何でヒルデブラントを助けたの? 刀鬼にとって『英雄』とはどんなものなの?」
 本来であれば答える相手がいない以上、答えの返ってくることのない問い。けれども神霊樹は、過去の中で同じ問いをした男の言葉を示した。
『お前さんの目的はなんだ? 歪虚になる前は人間だったんだろう。だったらやりたいことがあるんじゃねえのか?』
 男はあろうことか歪虚に酒を勧めながら問いかけて来た。
『ミーは強くなりたいデース。全てを守る……いや、壊す……っ、あー……力、が全てデ……いや……』
『おいおい、大丈夫か? たぶん顔色悪いぞ!』
『Haha……、大丈夫デス……あー……ミーは、救世主のなりそこないデス。ミーはユーが羨ましいデス……ユーは、ミーの……もう1人の自分。可能性……成り得た自分』
『へぇ。お前さん救世主だったのか。そりゃすげぇ! よし! 俺がお前さんの分まで働いてやろう! 何、今回の戦いが終わったら次はお前さんの国を助けりゃ良いだけだ。簡単だろ?』
 男の言葉に歪虚は目を瞬き、そして酒を受け取った。

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重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アーサー・ホーガン(ka0471
人間(リアルブルー)|27才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/03/23 18:56:27
アイコン 【質問卓】
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/03/23 22:11:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/21 08:45:05